二輪単気筒エンジンFI制御用小型電子ユニット...-46-...

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- 46 - 二輪単気筒エンジン FI 制御用小型電子ユニット 1.はじめに 近年,二輪車の燃費向上と排気ガス浄化率 向上への要求が厳しくなり,スクーター,ビジ ネス,スポーツなど様々な車種で二輪車世界 市場の 90% を占める小型二輪車用の小排気量 単気筒エンジンへも電子制御燃料噴射システ ムが広く使われるようになった.電子制御燃 料噴射システムの主要部品の一つにエンジン 制御ユニット(ECU)がある.小型二輪車用の ECU は様々なエンジンや車種に対応できな ければならないので入出力の冗長性や小型軽 量な構造が必要であり,また何より安価なこ とが要求される.我々はシステム・イン・パッ ケージ(SiP)と呼ばれる超小型 LSI を使用す ることにより,従来の製品との互換性を保ち ながらさらに小型且つ安価な ECU を実現し たのでここで紹介する. 2.システム諸元とECU 諸元 図1に今回紹介する ECU と実車での搭載 箇所,図2に二輪車の燃料噴射システムの構 成を示す.図2のシステムを基本とし,セン サーと補器類の組合せと排気ガス規制が強化 されたときに要求される追加機能とを考慮し て ECU の機能を決定した. 製品技術紹介 阿 相 竜 治 *1 結 城 太 一 *1 清 原 啓 自 *1 Ryuji ASOU Taichi YUUKI Keiji KIYOHARA 飯土井 貴 洋 *2 神 山 和 哉 *3 淺 沼 和 人 *4 Takahiro IIDOI Kazuya KAMIYAMA Kazuto ASANUMA 図1 ECU とその搭載位置 Throttle body module Throttle body Throttle angle sensor Boost pressure sensor Air temp. sensor Fuel Injector Fuel pump module Pressure regulator ECU FI control Ignition control Tilt angle sensor Engine speed sensor Engine oil temp. sensor Fuel pump 図2 二輪車の燃料噴射システム構成 3.SiP の開発 ベースとなる従来機種からのコストダウン と小型化による商品性向上を目指し次の2点 を考慮して SiP 開発を決定した. (1)マイコンと従来からあるカスタム IC (ASIC)を統合し基板面積を減らす. (2)SiP の外部からのノイズへの耐性を向上さ せて LSI の保護に使用する部品を減らす. *1 開発本部 第五開発部  *2 購買本部 第二購買部  *3 生産本部 品質技術部  *4 生産本部 生産技術五部 ※ 2012 年 8 月 28 日受付

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二輪単気筒エンジンFI 制御用小型電子ユニット

二輪単気筒エンジンFI 制御用小型電子ユニット※

1.はじめに

近年,二輪車の燃費向上と排気ガス浄化率向上への要求が厳しくなり,スクーター,ビジネス,スポーツなど様々な車種で二輪車世界市場の 90% を占める小型二輪車用の小排気量単気筒エンジンへも電子制御燃料噴射システムが広く使われるようになった.電子制御燃料噴射システムの主要部品の一つにエンジン制御ユニット(ECU)がある.小型二輪車用のECU は様々なエンジンや車種に対応できなければならないので入出力の冗長性や小型軽量な構造が必要であり,また何より安価なことが要求される.我々はシステム・イン・パッケージ(SiP)と呼ばれる超小型LSI を使用することにより,従来の製品との互換性を保ちながらさらに小型且つ安価な ECU を実現したのでここで紹介する.

2.システム諸元とECU諸元

図1に今回紹介する ECU と実車での搭載箇所,図2に二輪車の燃料噴射システムの構成を示す.図2のシステムを基本とし,センサーと補器類の組合せと排気ガス規制が強化されたときに要求される追加機能とを考慮してECUの機能を決定した.

製品技術紹介

阿 相 竜 治*1 結 城 太 一*1 清 原 啓 自*1

Ryuji ASOU Taichi YUUKI Keiji KIYOHARA

飯土井 貴 洋*2 神 山 和 哉*3 淺 沼 和 人*4

Takahiro IIDOI Kazuya KAMIYAMA Kazuto ASANUMA

図1 ECU とその搭載位置

Throttle body module

Throttle body

Throttle angle sensorBoost pressure sensorAir temp. sensor

Fuel Injector

Fuel pump modulePressure regulator

ECU

FI control Ignition control

Tilt angle sensor

Engine speed sensor

Engine oil temp. sensor

Fuel pump

図2 二輪車の燃料噴射システム構成

3.SiP の開発

ベースとなる従来機種からのコストダウンと小型化による商品性向上を目指し次の2点を考慮してSiP 開発を決定した.(1)マイコンと従来からあるカスタム IC

(ASIC)を統合し基板面積を減らす.(2)SiPの外部からのノイズへの耐性を向上さ

せてLSIの保護に使用する部品を減らす.

*1開発本部第五開発部  *2購買本部第二購買部  *3生産本部品質技術部  *4生産本部生産技術五部

※2012 年 8 月 28 日受付

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ケーヒン技報 Vol.1 (2012)

この手法を利用した結果,従来,基板上に実装せざるを得なかった誤動作防止用部品を大幅に削減することができ,電子部品の実装スペースが縮小され,基板の長さを短くすることができた(図4).ECU は基板と電子部品,ケース,封止樹脂よりなるが,基板面積を小さくできたことによるコストダウン,電子部品削減によるコストダウンに加え,さらにケースの小型化,封止樹脂の削減なども実現でき,コストダウン額に積み上げることができた.

4.まとめ

SiP の開発により ECU の高機能化と汎用化に対応しながら電子部品総数の 20% 削減,ECU サイズの 8% 小型化,重量の 17%削減,コストの 30% 削減を達成できた.その結果小型二輪車単気筒エンジン用 ECU の商品性を大幅に向上させることができた.

ASIC には燃料噴射制御システムの基本機能,アイドリング制御回路,電源回路及びマイコンのモニター/リセット回路を組み込むこととした.マイコンは動作クロックとROM容量を増やし,将来の機能拡張に備えた.この二つのLSI を図3(a) のように二段重ねとし,その消費電力の増加にも対応できる高放熱パッケージに封止した.また,従来の ASIC での回路相互干渉を防

ぐ素子分離手法(図3(b))は,意図しないところに電流が流れる可能性を完全になくすことはできなかった.この可能性により,我々のASICのような複雑な構成のLSIでは素子分離保証が難しく,これがノイズ耐性を低下させる一因となっていた.今回のSiP用ASICでは相互干渉を根本的に防ぐことができるシリコン・オン・インシュレータ(SOI)と素子分離用トレンチを組み合わせ,絶縁物(シリコン酸化物)で素子を完全に囲うこととした(図3(c)).

-5.0

mm

(a) (b)

図4 従来の ECU(a) と SiP を用いた ECU(b)

図3 SiP 内部の構造(Courtesy ofRenesasElectronicsCorp.)

(a)

従来ASICの問題点 SiP用ASICのSOI構造

(b) (c)

ASICMicrocontroller Chip

Heat Spreader 著 者

阿 相 竜 治

近年,環境問題がクローズアップされ,二輪車においてもFI置換が急務な状況であります.置換にあたり,キャブ並みコストを実現で

きる FI_ECU の開発がMUST になり,本プロジェクトにおいてコスト,性能を両立したSIPカスタムICを搭載し,上市に至りました.これからも更なるコスト,性能を両立した製

品開発を行い社会及び会社へ貢献したいです.最後に本プロジェクトに関わった方,皆さ

んに感謝の気持ちを伝えたいと思います.「皆様の協力で良い製品開発が出来ました.ありがとうございました.」(阿相)