医療の質保証のためのISO9001QMSの調査 - METI(3)実地評価の実施...

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平成14年度情報経済基盤整備(保健医療福祉分野の標準化に向けたシステムの設計・実証研究) 医療の質保証のための ISO9001QMSの調査 平成15年3月 日本ものづくり・人づくり質革新機構

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平成14年度情報経済基盤整備(保健医療福祉分野の標準化に向けたシステムの設計・実証研究)

医療の質保証のための ISO9001QMS の調査

平成15年3月

日本ものづくり・人づくり質革新機構

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梗 概

1.背景と目的 1

1.1 背景 1

1.2 目的 1

2.期待できる効果および将来への展望

2.1 期待できる効果 1

2.2 将来への展望 2

3.本事業の概要 2

4.本事業の実施体制 4

5.実施スケジュール 5

6.調査の成果 7

6.1 品質マネジメントシステムに関する調査

6.1.1 医療機関における「品質」および「品質保証システム」の調査 7

6.1.2 類似製品(サービス)の情報収集 30

6.1.3 医療機関における ISO9001 システム適用上の

問題点抽出と対応策の検討 46

6.1.4 医療版 ISO9001 適用指針の適用の可能性評価 48

6.2 医療機関における ISO9001 適用指針等の作成 50

6.2.1 ISO9001 規格の医療機関への読み替え版の概要書・解説書

の開発 50

6.2.2 医療機関 ISO9001 適用指針の開発 56

6.2.3 医療版品質保証体系図の開発 61

6.2.4 医療機関 ISO9001 の教育用テキストの開発 73

6.3 実地評価 76

6.3.1 東京衛生病院におけるQMS導入経過 76 6.3.2 医療版 ISO9001 適用指針等の適用性評価 79 6.3.3 医療機関 ISO9001 教育用テキストの教育効果の評価 82 6.3.4 改善点の整理 84

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7.本事業実施により判明した課題 86

7.1本事業の実施結果 86

7.2実施結果より判明した課題 89

8.今後の実施計画案 90

8.1本年度実施結果より判明した課題への対応 90

8.2ISO9001 から TQM9000 へのファーストステップモデルの提案 90

8.3実証作業のさらなる実施 90

資料集

(1) 医療機関 ISO9001 の教育用テキスト(本文)

(2)ISO9001 の本質(医療版)

参考資料

(1)ISO9001 規格の医療機関への読み替え版(本文)

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梗 概

医療事故の続発を契機として医療安全に対する国民的関心が高まるなか、医療の質、

および医療の質を確保するために医療機関が有すべきマネジメントシステムに対する

関心も高まりつつある

本調査研究は、こうした医療界の現状を背景に、産業界の品質マネジメント専門家

や ISO 規格の専門家、医師、看護師、薬剤師、病院事務などの病院経営者・管理者お

よび看護学・公衆衛生学の専門家等の多彩な知見に基づいて、医療機関における医療

の質マネジメントシステムのモデルを検討することを目的として始められた。

本調査研究では、先ず、品質マネジメントシステムに関する調査を行い、医療分野に

おける「品質」および「品質保証システム」という概念等を整理し、医療分野への適

用上の問題点を検討した。

次に、この調査結果を踏まえて、「ISO9001 規格の医療機関への読替え版(医療版

ISO9001)」を基に、適合したシステムモデルを検討し、実在の医療機関に適用するた

めの「医療版 ISO9001 適用指針」等を作成した。

さらに、作成した指針を実在病院に適用するに当たっての導入教育テキスト等も作成

し、マネジメントシステムを構築しようとしている医療機関ならびに、既に ISO9001

QMS(Quality Management System)の認証取得を終えている医療機関等に適用し、

それらの適用性評価および改善点を抽出した。

以上の調査研究の結果、次のような文書類および将来への展望をまとめることが出

来た。

(1)医療機関における ISO9001 適用指針等の作成

(ⅰ)ISO9001 規格の医療機関への読み替え版の概要書・解説書

(ⅱ)医療版 ISO9001 の適用指針

(ⅲ)医療版品質保証体系図(含むプロセスチャート)

(ⅳ)医療版 ISO9001 の教育用テキスト

(2)実地評価の実施

(ⅰ)医療版 ISO9001 の適用指針等の適用性評価

(ⅱ)医療版 ISO9001 教育用テキストの教育効果評価

(ⅲ)改善点の整理

(ⅰ)、(ⅱ)の評価結果に基づき、より高度な医療の質保証のためのマネジメント

システムモデルを提案するための改善点の抽出とその結果を整理することが出来た。

(3)将来への展望

(1)、(2)の評価結果および(3)の改善点を踏まえて、医療機関が目指すべき

質マネジメントシステムとして「医療版 ISO9001」を超えることが出来る「医療の質保

証のためのマネジメントシステムモデル」を新たに提示し、実在の病院に導入し、実

地評価をすることが期待される。

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1.背景と目的

1.1 背 景

医療事故の続発を契機として医療安全に対する国民的関心が高まるなか、事故発生

に至るメカニズムの複雑さ、深刻さ、さらには広範な構造的対策の必要性が広く認識

されつつある。医療安全は医療の質の基本であることから、医療の質、および医療の

質を確保するために医療機関が有すべきマネジメントシステムに対する関心も高まり

つつある。しかしながら、医療機関においては、いかなる質マネジメントシステムを

構築すべきかについて、確たる方向性を見出し得ないでいる。

これらの背景を踏まて、医療機関において構築すべき医療の質マネジメントシステ

ムのモデルを検討し、システム構築のための研究を行うことは大変意義深いことと考

えられる。

1.2 目 的

本調査研究は、産業界の品質マネジメント専門家や ISO 規格の専門家、医師、看護師、

薬剤師、病院事務などの病院経営者・管理者および看護学・公衆衛生学の専門家等の

多彩な知見に基づいて、医療機関における医療の質マネジメントシステムのモデルを

検討することを目的とする。

2.期待できる効果および将来への展望

2.1 期待できる効果

(1)品質マネジメントに関する調査

医療の質マネジメントシステム構築へのアプローチには、さまざまな方法が考え

られるが、ここでは、品質マネジメントシステムの国際標準規格である ISO9000 シ

リーズ(特に ISO9001)を題材とし、医療分野における「品質」および「品質保証シ

ステム」という概念等に係る調査・検討の結果が得られる。

(2)医療機関における ISO9001 適用指針等の作成

前項の調査・検討結果を踏まえ、ISO9001 規格要求事項の医療分野への適用のため

の読み替え、ISO9001 システム構築・運営のための適用方法および教育方法について

の検討を行い、下記の文書類を作成することが出来る。

(ⅰ)ISO9001 規格の医療機関への読み替え版の概要書・解説書

(ⅱ)医療版 ISO9001 の適用指針

(ⅲ)医療版品質保証体系図(含むプロセスチャート)

(ⅳ)医療版 ISO9001 の教育用テキスト

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(3)実地評価の実施

前項で作成した医療版 ISO9001 適用指針等を実際の医療機関に適用することに

よって、その適用性の評価を行うとともに、より高度な医療の質保証のためのマ

ネジメントシステムモデルとするための改善点を抽出することが出来る。

(ⅰ)医療版 ISO9001 の適用指針等の適用性評価

医療現場に適用する際の問題点・改善点を整理した情報に基づき、下記の各

文書類が医療分野において効果的であるかどうかを評価することが出来る。

①ISO9001 規格の医療機関への読み替え版の概要書・解説書

②医療版 ISO9001 の適用指針

③医療版品質保証体系図(含むプロセスチャート)

(ⅱ)医療版 ISO9001 教育用テキストの教育効果評価

開発した教育テキストが医療分野において効果的であるかどうかを評価する

ことが出来る。

(ⅲ)改善点の整理

(ⅰ)、(ⅱ)の評価結果に基づき、より高度な医療の質保証のためのマネジメ

ントシステムモデルを提案するための改善点の抽出とその結果を整理すること

が出来る。

2.2 将来への展望

2.1の(ⅰ)、(ⅱ)の評価結果および(ⅲ)の改善点を踏まえて、医療機関が目

指すべき質マネジメントシステムとしての到達点ではないとの認識もある「医療版

ISO9001」を超えることが出来る「医療の質保証のためのマネジメントシステムモデル」

の新たな提示が期待される。

3.本事業の概要

本調査研究では、まず、品質マネジメントシステムに関する調査を行い、医療分野に

おける「品質」および「品質保証システム」という概念等を整理した上で、医療分野

への適用上の問題点を検討する。この調査結果をもとに、医療機関に適合したシステ

ムモデルを検討し、実際の医療機関に適用するための「医療版 ISO9001 適用指針」等

を作成する。次に、作成した指針および教育テキスト等を、これから ISO9001QMSを

参照してマネジメントシステムを構築しようとしている医療機関ならびに、既に

ISO9001QMSの認証取得を終えている医療機関に適用することによって、それらの適

用性評価および改善点の抽出を行うこととする。

そしてこれらの改善点を踏まえて医療機関で構築すべき「医療の質保証のためのマ

ネジメントシステム」を提案して行こうとするものである。

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本事業全体の概要を図3―1に示している。

図3―1 本事業の概要の概念図

(1)品質マネジメントに関する調査

医療分野における「品質」および「品質保証システム」という概念等に係る調

査・検討の結果が得られる。

医療におけるマネジメント・システム

モデルの構築

医療分野における「質とは何か」

本事業の概要

ISO 9001医療への読み替え

 ”適用指針”

”医療版ISO 9001”

   適用指針

”医療版ISO 9001”から”TQMへの

ファーストステップモデル”

社会への情報発信

医療分野におけるISO9001適用への第1ステップ検討

ISO9001の適用を通じて医療分野における品質マネージメント・モデルの検討

医療分野における評価基準の調査研究

社会への提言規模別病院での実証

規模別病院での実証

教育テキストの作成

本事業の概要の概念図医療のTQM

(2)医療機関における ISO9001 適用指針等の作成

ISO9001 規格要求事項の医療分野への適用のための読み替え、適用方法および教

育方法についての検討を行う。

(3)実地評価の実施

適用指針等を実際の医療機関に適用することによって、その適用性の評価を行

うとともに、より高度な医療の質保証のためのマネジメントシステムモデルとす

るための改善点を抽出する。

(4)将来への展望

前項(3)を踏まえて、医療機関が目指すべき質マネジメントシステムとして

の到達点ではないとの認識もある「医療版 ISO9001」を超えることが出来る「医療

の質保証のためのマネジメントシステムモデル」(医療版 ISO9001 から TQM へのフ

ァーストステップモデル)の新たな提示が期待される。

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4.本事業の実施体制

(1)実施責任者および実施メンバー

JOQI(Japan Organization for Quality Innovation)第8部会部会長:飯塚 悦功

(東京大学 教授)が実施責任者となり、以下に示す部会メンバーが実施に当たる。

また、必要に応じて ISO9000 を専門とする外部機関を活用する。

・JOQI第8部会メンバー(◎:部会長,○:副部会長,※:部会事務局)

◎ 飯塚 悦功 東京大学大学院 工学系研究科化学システム工学専攻 教授

○ 棟近 雅彦 早稲田大学理工学部 経営システム工学科 教授

○ 阿部 俊子 東京医科歯科大学大学院 保健衛生学研究科

総合保健看護学専攻 助教授

○ 黒田 幸清 日本規格協会 審査登録事業部 審査計画センター 所長

※ 石井 成 早稲田大学理工学部 経営システム工学科 助手

飯田 修平 練馬総合病院 院長

石川 茂 日本科学技術連盟 ISO 審査登録センター 所長代理

上原 鳴夫 東北大学大学院 医学系研究科国際保健学分野 教授

大谷 道輝 東京逓信病院 薬剤部 副部長

北島 政徳 PL 病院 事務長

小柳津正彦 日本規格協会 審査登録事業部 非常勤嘱託

冨田 信也 河北総合病院 事務部長

長谷川友紀 東邦大学医学部 公衆衛生学教室 助教授

丸山 昇 アイソマネジメント研究所(ISO 9000,TQM)

三宅 祥三 武蔵野赤十字病院 院長

村上 美好 済生会横浜市南部病院 前看護部長

山口 幸郎 日本品質保証機構管理センターシステム技術部 参与

(2)調査研究遂行のための委員会

(ⅰ) 顧 問:飯塚 悦功(JOQI 第 8 部会 部会長)

(ⅱ)委員長:棟近 雅彦(JOQI 第 8 部会 副部会長)

(ⅲ)事務局:丸山 昇、石井 成(JOQI 第 8 部会 部会事務局)

(ⅳ)委 員:JOQI第8部会 部会員、JOQI事務局

(ⅴ)オブザーバー:

・経済産業省 商務情報政策局 サービス産業課:

小林 和昭(課長補佐)

塩入 劉子(課長補佐)

安達 昌孝(課長補佐)

斉藤 智哉

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・医療情報システム開発センター:

喜多 紘一(審議役)

相澤 直行(普及調査部普及調査第二課長)

・三菱総合研究所:

唯野 安志(ビジネスソリューション事業本部 副事業部長)

上野 信吾(安全科学研究本部 安全政策部 主任研究員)

大橋 毅夫(安全科学研究本部 安全政策部 研究員)

・東京衛生病院:衣川 輝夫(事務部長)

・水戸総合病院:永井 庸次(院長)

・JOQI(第8部会):塩飽 哲生(東京大学大学院)、平岡 佳恵(東京大学大学院)、

大表 歩(東京医科歯科大学大学院)

5.実施スケジュール

当事業の平成 14 年度作業は、平成14年12月10日から平成15年3月10日の

期間に実施した。

なお、表5.1-1は実施した工程を示している。

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表 5.1-1 調査研究実施スケジュー

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6. 調査の成果

6.1 品質マネジメントシステムに関する調査

6.1.1 医療機関における「品質」および「品質保証システム」

の調査

(1)医療の質および医療機関における顧客満足に関する文献調査 「医療の質」および「医療機関における顧客満足」に関しては、これまでもいろ

いろと研究され、さまざまな考え方があるが、これを以下のように整理した。 (ⅰ)医療の質とは

a.患者の転帰 E.Codman 病院にとって、その製品とは患者に対する治療の成果であり、治療を受けた

患者がどの程度「益」を受けたかが、医療の質を規定するという考え方である。 ①技術的要素、人間関係的要素、アメニティ A.Donabedian

医療の質には多くの要素が含まれるが、もっとも単純化した場合、「技術的

要素」「人間関係的要素」「アメニティ」の3つの要素がある。また、これら

が各々医療の質を規定するだけでなく、相互作用的である。 ②Benefit, utility and risk A.Donabedian

医療には利益と不利益があり、そのバランスが考慮されなければならない

という考え方は重要である。医療行為には多かれ少なかれ危険( risk)を伴う。 ③ 満足度

我々が何かを生み出すとき、最終的な質を判断する対象は、生み出した

Output である。企業においては、Output である製品・サービスを顧客に提

供し、それに対価を得て組織が存続する為、その Output を評価するのは、そ

の購入・利用者である顧客となる。つまり、「品質(質)」とは「顧客満足度」

「使用適合性」 を意味している。提供する側の価値観ではなく、それを受け

る側の評価で決まると考えられる。言い換えると“顧客が感じ取る、その製

品・サービスの特性・性質”である。 b.医療の質の特徴 ①適切性-Adequacy

望まれる目的を達成するのに質、量、時間ともに十分な尺度、技術、資源

の妥当性で示される。 ②継続性-Continuity

患者へのケア /介入が医療者と組織の間で調整された程度を表すパフォーマ

ンスの範囲、もしくは時間外労働(over time)である。 ③効能-Efficacy

ヘルスケアの介入、手順、療法やサービスが、ランダム化比較臨床試験

(randomized controlled clinical trials)のように厳しくコントロールされモニ

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タリングされている状況で、有益な結果を生み出す程度である。 ④有効性-Effectiveness

通常のケア条件で望まれるアウトカムを達成するために、ヘルスケアの介

入が正しい方法かつ現在の知識レベルで、提供される程度を評価するパフォ

ーマンスの範囲である。通常のケアをコントロール試験 (controlled trials)と区別する状況は、合併症な状況である患者を含んでいる。このような患者は

医療介入に対して様々な効果を生じる。このことはアウトカム (ケア /介入の結

果 )とケア /介入を行うのに使用した資源との関係を表している。 c.質評価の対象 ①Structure, Process, outcome

医療サービスを構造 (structure)、過程 (Process)、結果 (Outcome)として捉

え、評価する方法である。 ・構造 (structure) 評価基準が作りやすく、評価が容易である。施設基準、人員配置などの医療

監視は構造評価である。 ・過程 (Process)

評価が最も難しいといわれる。専門的技術の質として、治療計画内容、内視

鏡などの処置、手術の技術などが挙げられる。接遇の質には、有形性、信頼性、

迅速性、確実性、共感性などの要素がある。医療の中間結果に注目した臨床指

標 (Clinical Indicator)もプロセスの品質として重要である。これは、数値目標

を定め改善をしていこうというものである。 ・結果 (Outcome)

古くから行われてきた評価の方法であるが、評価に時間がかかる、評価内容

が直接改善に結びつきにくいことがある、といった欠点がある。 ②患者満足度評価

Donabedian は「患者の健康と満足を達成しているかどうか」が医療の究極

の指標であるとし、医療の質における患者満足の重要性を強調している。も

ちろん、満足感だけを強調するのは危険であり、生物医学的な効果もあがっ

てこそ、はじめて良質な医療としている。 ③医療技術上の結果の評価

がんの分類と治癒率、延命率 (外科関係 )、手術成功率 (医師レベル )、予後不

良率、再手術率、再入院率。診療録が評価の重要な情報源となる。同僚評価

(Peer Review)が行われることもある。 患者の立場からは、医学効能の結果は疾病のコントロールおよび症状の改

善である。生命予後は大きな結果期待であり、その他に、体型、傷などの個

別的改善具合、機能的変化も患者の個別的な質の評価対象となる。 ④医療機関のサービスの質の評価

インフォームドコンセントが、患者へのニーズアセスメント調査で最も求

められていた。自己報告、診療録の検討、同僚評価で医学的な質を評価し、

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患者満足度調査で顧客に評価させ、会計データを検討し経済的な評価を行う。 ⑤患者の生活の質 (QOL)の評価

医療技術の信頼性と安全性、医療サービスの快適性が含まれる。受療中と

受療後の QOL(Quality of Life)がそのまま医療の質の評価対象となる。患

者に対する評価は、ニーズアセスメントと顧客満足度調査にてなされる。 ⑥医療経済の質評価

医療経済の分野では、費用便益分析や費用効果分析などにより、医療費と

医療資源を効率的に使用する分析が行われている。 ⑦社会的レベルでみた医療の質評価

個々の医療サービス評価と経済評価は社会が求める医療分野の質につなが

り、医療政策は個人が受ける医療の質に大きな影響を及ぼす。医療行為の効

能 (efficacy)、効果 (effectiveness)、利用度 (availability)の評価を行い、医療

行為が有効であると確認されるとその後に、医療の効率性 (efficiency)の評価

が行われる。 d.評価者 ①自己評価

評価基準として公的な外的基準がある場合は、他院との比較が可能である。

また、TQM(Total Quality Management)における QC サークル活動も常に自

らの問題点を探し出しそれを解決するという点で、自己評価に含まれる。 ②患者評価

患者は重要な医療の評価者である。患者の満足度は患者の意識と期待度、

時期により異なり、流動的なものである。 ③第三者評価

より客観的な評価を専門的知識によって行うために、第三者によって評価

が行われるものである。第三者評価には、全米品質保証委員会 (National Committee for Quality Assurance: NCQA)による保健計画雇用者データ情報

セット HEDIS(Health Employer Data Information Set)や JCAHO、日本に

おける医療機能評価機構などがある。 e.質評価の具体例 ①質評価の方法

質の評価方法は多くの公的・私的グループが開発し、使用している。評価

方法は、健康計画、医師、病院、その他のヘルスケア提供者の質を検討し改

善するのに使用される。顧客の評価とパフォーマンスの測定の 2 つは、質の

評価方法の主要なタイプである。 顧客評価は、ヘルスケアについて人々がどう考えているのかを問う。健康

保険の顧客評価は、ヘルスケア保険の顧客評価 (Consumer Assessment of Health Plans CAHPSR)と呼ばれる調査から始まった。この調査は、 the Agency for Healthcare Research and Quality により開発された。CAHPSR

の質問は、人々の健康保険におけるケアの質についてである。その答えによ

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り、人々はこの保険のうちのひとつに入りたいかを決めることができる。 臨床パフォーマンス測定 (「技術的質」測定とも呼ばれる )は、いかに良く、

健 康 保 険 や 病 院 が で き る だ け 早 期 に 疾 患 を 治 療 す る か を 調 べ る 。

HEDIS(Health Plan Employer Data and Information Set)は、HMOs(Health Maintenance Organization)とその他のマネジドケアプランの質を評価する

手法である。HEDIS 測定のひとつの例として、保険においてヘルスケア提供

者が、喫煙者に喫煙を止めるようアドバイスするかどうかということが挙げ

られる。 CAHPSR も HEDIS も、患者にとってよりよい結果になるようなヘルスケア

の種類についての研究に基づいている。 ②質評価の指標 a)HCUP QIs(Healthcare Cost and Utilization Project Quality Indicators) ・最初の特質 (回避できるかもしれない病院のアウトカム )は、股関節置換術のよ

うな選択肢が共通であるリスクの低い患者における 9 つの入院患者の死亡率と、

主要な手術に続発する尿路感染のような、入院期間における7つの合併症率を

調査する。 ・ 2 番目の特質 (不適当であるかもしれない病院の手順の利用 )は、 cesarean section deliveries のような濫用や不十分な活用に関係する、9 つの利用率を表

している。 ・3 番目の特質 (回避できるかもしれない入院 )は、間接的に、高齢者における肺

炎とインフルエンザの予防注射のような入院を促進させる 9 つの状態を同定す

ることにより、プライマリケアへのアクセスとプライマリケアの適切さを評価

する。すなわち、この状態とは、社会における十分なプライマリケアをもって

すれば避けることができると考えられるものである。 b)AHRQ Quality Indicator

AHRQ QIs は、三つの単位で構成された、質指標のセットである。その単位

のそれぞれが、外来または入院において生じるケアのプロセスと関連する質を

評価する。 1)予防 Qis、2)入院患者の質指標、3)患者安全指標

AHRQ QIs は、HCUP のような 1990 年代初頭に発展した質指標を洗練させ

さらに発展させたものである。初期の HCUP QIs は、文献とヘルスケア組織に

よる利用で報告されている指標を同定し、文献レビューと経験上の方法を使用

して HCUP QIs と他の指標の両方を評価し、そしてリスクの調整を組み入れる

ことによって AHRQ QIs へと発展した。 The Agency for Healthcare Research and Quality(AHRQ)は、ルティーンの

病院の管理データにある情報とともに利用されるよう質測定の手法を開発した。

ルティーンの病院の管理データには、患者の年齢、性別、入院の原因、退院の

状態といった情報とともに診断と手順がある。

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AHRQ は 、 入 院 患 者 の デ ー タ 収 集 シ ス テ ム と と も に State-level data organization と病院連盟からの援助の要請に応えて、質評価法を作成した。こ

れらの州は HCUP の一部であった。HCUP は進行中の管理上の病院に基づくデ

ータから不変のデータベースを築くための、連邦の民営部門の協働である。 AHRQ は、容易に入手できるデータ源 (病院の請求に基づく管理上のデータ )

と他で報告された質評価法を利用するために、HCUP Quality Indicators と呼

ばれる評価法を開発した。33 の HCUP QIs には以下の避けられる有害なアウト

カムの測定法が含まれている。 ・病院における死亡と複雑な手順 ・濫用、不活用、誤用と考えられる、特定の入院患者への手順の使用 ・一時的にケアに敏感な状態

*HCUP Quality Indicators と新しい AHRQ Quality Indicators の違い ・初期の QIs は、厳正さやリスクの調整を含まなかった。 ・初期の QIs における分母は、地域の人口よりもむしろ、病院の退院に基づく

ものであった。人口に基づく分母は、避けることができたかもしれない入院の

ような確実な指標と利用の確実な評価に関してより適切である。 ・初期の QIs は、主に外科的な評価に限られており、慢性疾患や小児科疾患の

ような状態を説明していなかった。 ・低い頻度の評価は、年によって変動が大きかったり不安定であった。

(ⅱ)患者満足度

a.サービス業としての医療 医療はいくつかの特性をもつ特殊なサービス業である (表6.1-1 )1)。

表6.1-1 サービス業の特性(文献 1)より引用作成)

1.サービスはそれ自体を所有することができない 2.顧客によってニーズが異なるため異質性がゴールとなる 3.生産と消費が同時に起こるため在庫ができない 4.顧客はサービスを創造する共同制作者となるためプロセスにも関心を抱く 5.顧客が抱いていた期待値と実際の経験とを比較して、顧客自身が品質評価を行う 6.サービスの提供プロセスに失敗が生じた時、それを排除することができない

また、医療をサービス業と考えると同時に、医療のもつ特殊性を考慮するこ

とが重要である。医療行為の特性は次の 8 つに集約される (表6.1―2 )1)。 表6.1―2 医療行為の特性(文献 1)より引用) 1.生命への直接的関与 5.不確実性 2.技術集約性 6.公共性 3.労働集約性 7.個別性 4.情報の非対称性 8.継続性

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「情報の非対称性」とは、医療行為の専門性のために、医療従事者と患者と

の間で情報量に多大な差が生じることである 1)。医療とはもともと「不確実性」

を持つものであるというのが現状であるが、患者の医療に対する過剰な期待と

の間で認識のギャップが生じたときに患者の不満が生じる 1)。

b.患者満足度の概念 2) 提供されるサービスに対する患者満足度はケアの質の重要かつ有効な指標で

ある (JCAHO 1991)。医療における患者満足度を評価する最初の試みは、看護の

領域において米国で 1956 年に始まった。財政上の制限と消費者運動の精神

(Spirit of consumerism)により、患者満足度に対する関心が大きくなった。 患者満足度の測定は、主に提供されたサービスの質を測定するのに有効であ

り(OTA 1988)、この測定結果は以下の事項に利用される。 ①提供されたサービスの質の評価 ②コンサルテーションの介入 (consultation intervention)の評価と、そこから

健康と疾病の習慣と結びつけること ③管理 (経営 )上の決定 ④系統立ったケアにおける変化の効果の評価 ⑤スタッフ管理 ⑥患者 -顧客マーケティング (patient-client marketing) ⑦職業上倫理の形成 Herzberg は労働者の仕事に対する態度には 2 つの要因が影響を与えるとした

(表6.1-3 )が、Bond & Thomas(1992)、La Monica and associates(1986)は、この Herzberg の理論を医療サービスにおける患者満足度に当てはめて分析

した。また、Juran(1989)の定義も Herzberg と一致していることが明らかになっ

た (表6.1-4 )。

表6.1-3 労働者の仕事に対する態度に影響を与える要因 (Herzberg 1959) ・外的要因 (不満足要因 ):労働条件、安全性、組織の方針、給料 ・内的要因 (満足要因 ):認識、成長、責任を負うこと

表6.1-4 Juran の定義

・不満足要因:失敗もしくはエラーがないという質に関すること ・満足要因:患者のニードに応えること

12

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専門家達は、Patient satisfaction を以下のように定義している (表6.1-5 )。

表6.1-5 Patient satisfaction の定義 Donabedian(1980):患者満足度はケアの質の評価であり、主に患者の期待と評

価に関連する、特別の質に関する要素がある。満足度は、本質的に個人的な質

の定義であり、絶対的 (技術的 )かつ社会的な定義とは矛盾するものである。 Pascoe(1983):患者満足度は、ヘルスサービスに関する患者の経験の構造、プ

ロセス、アウトカムの重要な範囲で得られる、医療を受ける人の一般的な反応

である。 Guzman ら (1988):患者満足度は、医療との相互作用の結果である。医療は、

治療へのコンプライアンスへの影響はもちろん、患者が将来ヘルスサービスを

選択する際にも、ある程度影響する。 Petersen(1988):満足度は、患者がケアの結果や適切さを考慮せずに提供され

るケアの方法に対し、患者が抱く一般的な概念である。 Smith(1992):患者満足度は、医療における知覚できるニーズ、期待、経験の結

合である。 Risser(1975):看護ケアにおける看護満足度は、患者の抱いている理想的なケ

アへの期待と、患者が実際に受けているケアの認知との間の一致の程度である。

看護ケアにおける患者満足度の測定方法に関する文献レビューを行った。患者満

足度調査の項目について比較を行った (表6.1-6 )。

表6.1-6 看護サービスにおける患者満足度測定手法の比較 手法・研究者 時期 項目 Abdellah-Levine

Instrument 1957-

1964

7 カテゴリー 50 項目

ケアの満足を示す出来事 (3 項目 )/休息とリラクゼーション

に関するケアの欠落 (8 項目 )/食事のニーズ (6 項目 )/排泄 (4

項目 )/身体の清潔と支持的ケア (10 項目 )/治療への反応 (8

項目 )/ナースとのふれあい (11 項目 ) Risser Patient

Satisfaction

Instrument(RSI)

1975-

現在

看護婦の行動と態度を表す 25 項目

技術-専門性/対人関係-教育/対人関係-信頼

La Monica-Oberst

Patient Satisfaction

Scale(LOPSS)

1986 Risser スケールの改訂版

新たに加わった項目:不満/対人関係の援助/良い印象

Leio-Kilpi &

Vuorenheimo

(フィンランド )

1996 スタッフの特徴/技術的行動/対人関係/必須条件/環境/

入退院の手順/エンパワーメント戦略

13

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Vuori(1987)は、患者満足度について (a)ケアの質の特性であり認識されかつ望

まれるアウトカム (b)ケアの質に関する患者の見解を表すケアの質の指標 (c)医療

の質の前提条件かつ必要条件であると言及している。 患者がケアの質を適切に評価できるのかという問題に関しては、様々な議論

がある。Donabedian(1980)は、満足度は質の評価を行うのに重要な要素である

と考えているが、患者がケアの技術的側面を評価できるかどうかに関しては断

定 を 差 し 控 え て い る 。 the Office of Technical Assessment of the USA Congress(1988)は、患者がケアの技術的側面を評価するのにはさらに他の情報

源が必要であるがケアの人間関係的な側面の評価に関しては患者を適格な評価

者である、とした。患者はケアの技術的側面を評価することができると考える

研究者もいる (Meterko ら、1990)。 しかし患者満足度がケアの質を評価するのに妥当な指標であるという見地に

疑問を抱く研究者もいる。Vuori(1987)はその理由として以下のようなものを挙

げている。 (a)患者はケアの質を評価するのに科学的・技術的知識をもっていな

い (b)患者は客観的な意見を表現することができない身体的・心理的状態である

(c)介入、診断の検査、評価を迅速に行うことで患者は今何が起こっているのか

ということを完全にかつ客観的に理解することができなくなってしまう (d) 専門職と患者の目標が異なることもある (e)質に関する見解は、文化的習慣に依存

しており国によってさまざまである。また、年齢、教育的背景、社会的階級、

健康状態といった患者の特徴にも影響される。 患者の意見が妥当であろうがなかろうが、満足度は患者の見解に基づく主観

的な概念であり、専門職はそれを現実として直面しなければならない。たとえ

スタッフの見解が患者の見解と異なっていても、患者がどのように感じている

かということが重要なのであり (Petersen 1988)、患者満足度の測定は看護サー

ビスを改善するのに活用することができる (Bond & Thomas 1992)。

14

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c.患者満足度の概念 ①患者満足度に影響する要因

医療における患者満足度には、前記の表6.1-1 および表6.1-2 で述

べた要素が影響すると考えられる。患者の満足度は患者の期待と強い相関が

ある 2)。また、高柳は Walter J Schraml の 7 つの患者の心理状態について紹

介している (表6.1-7 )3)。

表6.1-7 患者の心理(文献 3)より引用作成) 1)退行:退行を受容している場合と、反発している場合では満足度が異なる 2)自己中心性:どんな小さいことでも顕著に不満として表れる 3)意識野の狭窄性:周囲への関心が弱まり病気や看護に関する全てに感覚が敏

感になる 4)社会性:年齢やそれまでの生活習慣により異なる 5)不安と恐怖:恐怖は納得できれば理性的に対処できるが、不安は生理学的・

心理学的に合目的性を欠くもの 6)連想 7)魔術的思考

患者満足度に影響を与える要因を図6.1-1にまとめた。

患者の期待・ 受診理由

(リハビリ、注射、検査 )

実際の診療行為

退行、自己中心性 意識野の狭窄性 社会性、不安と恐怖 連想、魔術的思考

心理・精神状態

患者満足度に影響

図6.1-1 患者満足と医療の質の関係(文献 3)より作成

15

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②調査目的の明確化 患者満足度調査を業務改善にうまく生かすためには、まず調査目的を明確に

することが重要である。 ・業務改善の糸口として、改善項目や業務改善の優先順位を知りたい⇒現状

調査 ・一定の業務改善の予定がある (業務改革の資源として患者の声を取り入れる )

⇒それに特化した質問項目を設ける(具体的な質問項目) ③今後の課題

患者満足度調査では自由記載欄を設けるがここでも患者が言葉で表現しな

いことがらもある。ひとつは痛みに関することであり、もうひとつは諸情報

の提供要求である 3)。この諸情報には、医師の力量・手術成績や金銭的なこと

が含まれる 3)。 また、業務改善の一つとして患者教育がある。医療の質、患者満足度を向

上させるためにはインフォームドコンセントを含めた医療システムに関する

情報提供を行う必要がある。

16

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d.患者満足度調査の現状(参考文献5)の研究結果より)

①研究目的 ・「患者満足度調査」「患者意見調査」といった医療・医療サービスに対す

る患者(顧客・消費者)の意見・評価を積極的に得ようとする試みが、我

が国の病院においてどの程度行われているのかその実態を把握すること。 ・このような「医療の質」「医療サービスの質」に対する患者評価を得る試

みに対する、医療提供者としての態度(意見・信念)を測定すること。 ②調査方法・調査対象

自記式質問紙法により、1998 年 4~5 月に郵送による配布・回収を行っ

た。調査対象は、1998 年 4 月時点における日本病院会会員名簿(登録件数

2,650 病院)から単純無作為抽出した 540 病院である。回収数は 139 票(回

収率 25.7%)であった。 ③結果 結果をまとめると以下の表 6.1-8及び表 6.1-9 の通りとなる。

表6.1-8 「医療の質」「医療サービスの質」の維持・向上に対する

各病院の取り組み内容

取り組み内容 件数 % 11.外来患者用投書箱

10.入院患者用投書箱

6.入院患者に対するアンケート調査

8.外来患者に対するアンケート調査

1.院内委員会を組織

5.外部の非専門家による評価

4.外部の専門家による評価

2.病院機能評価を受審(受審準備中)

7.入院患者に対する面接・聞き取り調

9.外来患者に対する面接・聞き取り調

12.その他

3. ISO 認証取得(取得準備中)

117

105

76

72

68

40

30

26

19

17

6

2

84.2%

75.5%

54.7%

51.8%

48.9%

28.8%

21.6%

18.7%

13.7%

12.2%

4.3%

1.4%

17

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表6.1-9「患者意見調査」「患者満足度調査」の実施主体、結果報告の院内での利用状況

9-2 最近行った「外部調査」の実施主体

実施主体 件数 %

1.外部の大学等の研究室・研究

機関

6.その他

2.外部の研究機関(教育機関以

外)

7.不明

4.医師会・病院会・看護協会等

の団体

5.組合などの団体

3.病院付設の大学や研究機関

13

7

6

4

3

1

0

38.2%

20.6%

17.6%

11.8%

8.8%

2.9%

0.0%

合計 34 100.0%

9-4 最近行った「内部調査」の実施主体

実施主体 件

1.複数の職種にまたがる公的な

委員会・チーム

5.看護婦を中心とした公的な委

員会・チーム

9.事務職を中心とした公的な委

員会・チーム

12.その他

7. (医師や看護婦を除く )医療技

術 者 を 中 心 と し た 公 的 な 委 員

会・チーム

10.事務職を中心とした私的な団

体・個人

8. (医師や看護婦を除く )医療技

術者を中心とした私的な団体・個

6.看護婦を中心とした私的な団

体・個人

2.複数の職種にまたがる私的な

団体

4. 医 師 を 中 心 と し た 私 的 な 団

体・個人

41

12

9

8

4

4

3

2

1

1

1

0

0

47.7%

14.0%

10.5%

9.3%

4.7%

4.7%

3.5%

2.3%

1.2%

1.2%

1.2%

0.0%

0.0%

9-1 過去 2 年間における

「患者意見調査」「患者満足度調査」の実施回数

実施回数 件数 %

1. 2~ 3 回

2. 4 回以上

3.なし

4. 1 回

5.無回答

6.不明

66

27

25

16

4

1

47.5%

19.4%

18.0%

11.5%

2.9%

0.7%

合計 139 100.0%

9-3 外部調査結果の報告状況、院内での利用状況

報告状況・利用状況 件数 %

1.報告は行われており、院内での

検討資料に利用

2.報告は行われているが、院内で

使用することはない

3.報告は行われていない

4.その他

32

3

3

2

80.0%

7.5%

7.5%

5.0%

合計 40 5.0%

9-5 内部調査結果の報告状況、院内での利用状況

報告状況・利用状況 件数 %

1.報告は行われており、院内での検討資

料に利用

2.報告は行われているが、院内で使用す

ることはない

4.その他

5.不明

3.報告は行われていない

92

4

2

2

1

91.1%

4.0%

2.0%

2.0%

1.0%

合計 101 100.0%

18

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【参考文献】 1) 和田ちひろ:第 3 章 患者の医療経験、和田ちひろ、平原憲道、武藤正樹、みんなの「こ

んな病院あったらいいな」が実現する本、日総研出版、2001、p81-118. 2) A.MERKOURIS RN, MSc, PhD, J. IFSNTOPOULOS, V. LANARA RN, PhD and C.

LEMONIDOU RN, MSc, PhD: Patient satisfaction: a key concept for evaluating and improving nursing service, Journal of Nursing Management, 1999. 7, p19-28

3) 高柳和江:医療の質・患者満足度調査、日総研出版、1996. 4) 高柳和江:患者満足度調査を業務改善にフィードバックする視点、看護、52(10)、2000.

P54-57、 5) 水野智、楊舒、徐知行、他:患者満足度は医療の質の評価指標になりうるのか-日本病院

会会員病院に置ける患者満足度調査の実施実態、および患者満足度調査に対する態度-、

病院管理、36(4)、1999.P337-346

19

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(2)医療機関における品質保証システムの現状調査

・・・(株)日立製作所 水戸総合病院の事例・・・

医療機関における品質保証システムの現状調査の事例として、水戸総合病院が ISO9001

の認証取得に際して構築した品質マネジメントシステムを以下に示すこととする。

(ⅰ)ISO9001認証取得の動機

各部門の役割分担を明確にするツールとして、「(財)日本医療機能評価機構」の評

価を受審することを検討した。医療をストラクチャー、プロセス、アウトカムに分け

ると、機構の評価は、基本的にストラクチャーを中心とした審議であり、築42年を

経過する水戸総合病院では、認定は心もとないと判断したようである。そこでプロセ

スを重視する ISO9001 の認証取得を考えた。これは同病院が日立製作所企業立病院で

あり、事務職員にとっては,ISOは聞きなれない言葉ではなかったことが影響してい

る。

また、同病院では「目標管理」による職員管理が行われていたが、院長の目標に沿

った各部門目標しか存在せず、目標を達成し満足しても、それが病院全体や患者さま

に満足のいくものであったかどうかの判定は、各部門にとり難しかった。そこで各部

門間の連携を重視し、それを患者さまの立場に立って管理するシステムとして、

ISO9001 の導入を決意したのが、ISO9001 認証取得の動機である。

(ⅱ)品質マネジメントシステムの概要 a.品質方針と品質目標

院長の品質方針の枠に、院長品質目標を設定している。これを展開する形で各部

門が活動方針、品質目標を設定することになっている。職員1人1人が自分の目標

「この病院にとって私の仕事の意味は何?」という問いかけを考える契機となり、

表6.1-10 品質方針

私は、院長として、「患者さまの納得される医療」を遂行するため、水戸総合病院の品質方針を

下のごとく定める。 「地域の皆さまの信頼と満足が私たちの生きがいです」のもとに、

・ 急性期医療に重点を置いた地域完結型医療の実施 ・ 最新の医療技術の確立 ・ 説明責任を実施することによる最良のサービスの遂行 を実践する。

上記品質方針達成のため、全職員に対して、品質方針・品質目標の理解とともに、医療に関する

制・法的要求事項を満たすことを周知徹底し、患者さまの満足度の測定・分析や経営資源の適切

提供を行う。さらに、期毎の4月、10月に品質方針に則った品質目標を設定し、品質マネジメ

トシステムを確立・文書化・実行し、定期的な見直しによりその有効性の継続的改善を図る。ま

、品質方針は、必要に応じて改訂する。 なお、品質マネジメントシステムに関する最終責任は全面的に院長が負うものとする。

2001年3月12日 日立製作所水戸総合病院 院長 永井 庸次

20

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一体感の形成に非常に有意義なルールとなっている。表6.1-10は品質方針で

ある。なお、品質目標は定量可能で達成度を把握でき、患者さま本位でなければな

らないとしている。

b.キープロセス

同病院では7つのキープロセスを設定し、プロセスアプローチを実施した。各プ

ロセスにおいては、プロセスオーナー、品質目標、管理指標、責任者、関連文書を

規定した。各職種とも各キープロセスに関与しており、品質目標、管理指標の達成

に必然的にチーム医療が必要となった。 品質目標は、キープロセスの管理指標のうち代表的なものであり、期毎に目標値

を定めこれを徐々に上げていき、PDCAを回して、継続的な改善を実践している。 7つのキープロセスとは、

①資源の運営管理プロセス

②患者さま関連プロセス

③新規医療サービスプロセス

④診療(外来、入院)プロセス

⑤人間ドックプロセス

⑥購買プロセス

⑦継続的改善プロセス

c.リスクマネジメント

インシデントが発生したらインシデントシートを作成する。重症度・発生頻度か

ら予め定めたスコアからランク付けをする。このランクにより

①ランクの低いものはセーフティマネジャー部会で対応する。

②ランクの高いものはインシデント報告書を作成し、医療事故予防対策委員会で

対応し、病院全体でフォローアップする。 絶えずPDCAサイクルを回すということは、チェック、アクトという概念が各

部門、各医療プロセス全てにおいて実行されることを意味し、今まではリスクが生

じた時にしか危機意識が生じなかったことが、期せずして全ての行動にチェック機

構が作動し、単に患者さまの診療面で生じた不具合に対応するだけでなく、病院全

体の活動に対するリスク認識が徹底してきた。 d.顧客重視への取組み

サービス向上委員会活動として、“ご意見箱”を設置し、お客様の声を聴くこと

にて対応した。これは対策の実施にあたる。具体的には、病棟・外来の患者さまに

お願いして、「患者さまアンケート」を実施して、満足度調査を実施した。

そして、“患者さま何でも相談室”を設置して、患者さまの各種相談に対応した。

e.QMSの基準書

2次文書として、共通基準55件、委員会規約類24件、3次文書として、各部

門(16部門)毎に作成した。

表6.1-11はQMSの構築に当たって定義を統一した用語を示している。

また、図6.1-2に品質マネジメントシステムの文書体系を示した。

21

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表6.1-11 用語の定義 NO 用語 (※1 ) 定義

1 供給者 物品の購入先、委託業者(下請負契約者)

2 顧客 患者さま(健診受診者を含む)。患者さまには、患者さまの代理人(家族・

保護者等)も含む。

3 製品 当病院の医療サービス

4 医療サービス 当病院が提供する診療(外来、入院)、総合健診(人間ドック)業務

5 サービス 患者さまに対する医療サービス

6 資源 医療技術、職員、財源、施設、設備、資機材,情報など

7 品質記録 ISO9001:2000による記録

8 外部文書 当病院外から入手した文書で、医療関係法規、保健所からの通達文書を含

む品質マネジメントシステム適用文書

9 契約又は注文の

受諾

患者さまに医師が診療内容を説明し診療を受ける旨の同意を得ること

10 購買品 医薬品、医療機器、看護・介護用品、衛生材料、委託業務など

11 顧客所有物 患者さまからの要望で当病院が受入れて、保管・保存等の責任が発生す

る現金、医薬品、診療データなど

12 新規医療サービ

スの開発

(設計・開発)

診療科の新設、クリティカルパスの作成・改訂等、新しい医療サービスの

構築

13 クリティカルパ

(品質計画書)

一定の疾患を持つ患者さまに対して、入院指導、入院時オリエンテーショ

ン、検査、食事指導、服薬指導、安静度、退院指導などを標準化してスケ

ジュール表にまとめたもの。入院から退院まで、本表に沿って治療が行な

われ、本表にその結果が記録される。

14 カンファレンス

(プロセスの妥

当性確認)

個々の患者さまについての医療サービス上の問題点をチーム全体でみて、

患者さまのニーズに沿った医療サービスを実践するための計画や行った

医療サービスの評価の場

15 アクシデント 間違った処置、行動などにより患者さまに何らかの影響を与えた可能性が

ある場合から、障害や死因となるような事故の場合、あるいは著しい物損

事故

16 インシデント 間違ったことが発生したが未然に防止され、患者さまに実施されず、患者

さまその他に実害が全くなく、日常医療の現場で“ヒヤリ”としたり“ハ

ッ”とした状況

17 看護記録 看護の計画・結果を記録する用紙で、看護計画Ⅰ、看護記録Ⅰ・Ⅱ、体

温表、

クリティカルパスから成る

18 不適合製品 規定要求事項を満たさない医療サービス

備考:当病院における上記以外の特有の用語については,関連文書の中で定義し,運用する。

※1:( )内は、ISOの用語または該当要求事項

22

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品 質 ISO9001:2000 の要求事項に則り制定した文書

マニュアル

(1次文書)

共通基準 具体的活動の手順を記述した文書のうち、

(2次文書) 2部門以上に関係する手順書

部門内基準 具体的活動の手順を記述した文書のうち、

1部門のみで使用する手順書

外部品質文書 法律書・機器添付取扱い説明書など、

(3次文書) 外部から入手した文書(保健所からの通達等)

業務実施結果の記録文書

品質記録 診療録、機器校正記録など

図6.1-2 品質マネジメントシステムの文書体系

図6.1-3に品質マネジメントシステム・プロセス関連図、図6.1-4に同プロ

セスフロー、そして図6.1-5および図6.1-6に代表的なキープロセスを示した。

(ⅲ)QMS構築の活動の概要

同病院では活動のサイクルを期単位(6ヶ月)で行っている。

まず前期末に院長が院長品質目標を設定し、これにより各部門が自部門の品質目標を

設定する。各キープロセス、各部門は目標達成に向けて活動を展開する。

各キープロセス、各部門は月毎に実績をまとめ、ISO推進委員会では2ヶ月毎に

これをフォローアップする。期後半にキープロセス単位で内部監査を実施し、ISO

に沿って活動しているか確認する。期末には、マネジメントレビューを実施し、期の

達成度をまとめる。この結果に基づき来期の院長品質目標の設定を行う。審査機関に

よる定期審査は期毎に受けている。

(ⅳ)適用効果

QMSを適用して、次のような効果があった。 ①各部署に分散している手順書・記録類を顕在化し、現行システムの見直しを行い、

再構築し、チーム医療の確保を図った。 ②患者さまの立場に立った医療の質の向上が図られた。

③院長の方針・目標を各部門にブレークダウンすることにより、各人の役割意識が

高揚した。

④患者さま等の院外に対して、医療の品質保証のアピールが出来た。

⑤定期審査による品質システムの定着化と継続改善の推進などがなされた。

23

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共通事項 ・文書管理 ・品質記録管理

継続的改善の計画

一般改善活動 予防処置 是正処置

データの分析

プロセスの監視

・測定の管理 医療サービスの

監視・測定の管理

内部監査 患者さま満足

監視・測定の管理

継続的改善のプロセス

監視測定機器 の管理

診療プロセス 人間ドックプロセス

医療サービスプロセス

購買プロセス 新規医療サービス開発 プロセス

患者さま関連プロセス(要求事項の明確化)

医療サービス実現のプロセス

施設、設備、支援業人的資源 資源の運営管理プロセス

責任・権限・コミュニケーション

品質マネジメントシステムの計画

品質方針、品質目標設定と展開

患者さま志向(患者さまのニーズ、期待の把握)

品質マネジメントプロセス

マ ネ ジ メ ン ト ビ ュレマネジメントレビュー

図6.1-3 品質マネジメントシステム・プロセス関連図

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プロセスオーナー 院長

品質目標 各部門品質目標達成

測定時期 毎月

制定 2001. 5. 14 改訂 品質マネジメント プロセスフロー

プロセス インプット/アウトプット 管理指標 責任者 関連文書

地域別外来・入院患者調査 平日・休日救急者来院数の 動向調査 高度、新規医療需要予測 病診連携実態調査 地域調剤薬局実態調査 患者さまアンケート調査 患者さまご意見 人間ドック受診者動向調査 規制・法的要求事項の調査

予算計画書 各部門品質方針・ 品質目標 品質計画書 品質マニュアル 共通基準、各部門基準 組織図 患者さま満足 プロセス、医療サービス

の適合予防 是正処置内容 内部監査の結果 QMS、プロセス、

医療サービスの改善事項 資源の必要性

患者さま満足度 各部門品質目標 患者さま満足度 患者さまご意見

対応率 品質目標達成度 改善実施件数

院長 院長 各部門長 院長 院長 院長 院長 院長 院長 院長 院長

品質方針実施基準

スタート

組織の品質目標設定

品質目標の展開

QMSの計画

組織、責任・権限の割り当て

管理責任者の任命

マネジメントレビュー

改善の指示

品質マネジメント評価

資源の提供

エンド

患者さまニーズ・期待 の把握

改善

品質方針の設定

図6.1-4 品質マネジメント プロセスフロー

25

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キープロセ

治療(手

監視・

測改

病室

食事提

入院・透析

ス:診療(外来、入院)プロセスフロー

プロセスオーナー 医局長

品質目標 クリティカルパス適用率向上

測定時期 毎月

制定 2001.5.14 改訂1 2002. 5.17 プロセス インプット/アウトプット 管理指標 責任者 関連文書

保険証、診察券 申込み書、紹介状 問診表 検査申込書 検査結果記録 入院診療計画書 外来診療録 入院診療録 看護計画書 看護記録 処方箋 約束食事箋 リハビリ処方箋 リハビリ診療記録 訪問診療録 外来診療録 入院診療録 医療監視

内部・外部精度管理

実施状況 不適合画像件数 クリティカルパス適用率 入院診 療計 画書 不

備件数 病床稼動状況 処方箋問合せ件数 配膳不備件数 患 者 さ ま 苦 情件数

医師 検査技術科長 放射線技術科長 医師 看護科長 医師 医師 看護科長 医師 看護科長 薬局長 栄養室長 医師 医師 医師 医師

外来診療基準 検査管理業務基準 検体管理基準 入院診療計画 確認基準 手術室業務基準 人工透析管理基準 輸血管理基準 義肢装具管理基準 看護業務基準 患者さまの預かり品の管理基準 医療サービスの測定 および監視基準 医療サービスの識別およびトレーサビリティ実施基準 測定および監視装置の管理基準 医薬品管理基準 薬剤管理指導業務基準 食事管理業務基準 栄養指導業務基準 リハビリ診療管理基準 看護業務基準 ( 訪 問 看 護 室 業務) 最終測定および

監視実施基準

スタート

診(初診時)

診察

検査

療方法の計画

・処置の実施 術、透析含む)

測定

剤処方・提供

食事指導

定、分析、 善プロセス

準備

エンド

診療受付

リハビリ

アフターケア

供(入院、透析)

最終診断

図6.1-5 診療(外来、入院)プロセスフロー

26

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キープロセス:継続的改善プロセスフロー

プロセス インプット/アウトプット 管理指標 責任者 関連文書

患者さまご意見苦情 監査計画書 監査報告書 クリティカルパス カンファレンス クリティカルパス カンファレンス 各基準 アクシデント報告書 インシデント報告書

患者さま満足度 苦情件数 不適合改善件数 不適合製品処置

件数 「アクシデント対策フォローアップ依頼書兼報告書」件数 「改善フォローアップ報告書」件数

サービス向上委員長 事務長 管理責任者 当該部門長 当該部門長 各部門長 各部門長 医 療 事 故予 防 対 策委員長 各部門長 院長 事務長

内部監査実施基準 医療サービスの測定および監視基準 リ ス ク マ ネ ジ メント基準 リ ス ク マ ネ ジ メント基準

プ ロセスオー ナー 院長

品質目標 患者さまご意見対応率の向上

測定時期 期1回(8月、2月)

制定 2001.5.14 改訂

スタート

顧客満足の 監視

内部監査

医療サー ヒ ズの監視、測定

データの分析

継続的改善の計画

是正処置

マネジメントレビュー

一般改善

品質マネジ メントシステム計画

プロセスの 測定、監視

不適合製品 管理

製品実現化の計画

測定、分析及び改善の計画

予防処置

図6.1-6 継続的改善 プロセスフロー

27

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(3)まとめ

る図

の質

と程

図6

日I

同臨I

1) 2) 3)

4) 5)阿

6.1.1より、医療における質については、これまでさまざまな提案がなされてい。しかし、医療の業務を整理し、医療の質の比較的理解しやすい考え方として、 6.1-7に示すように、 ①技術的要素 ②人間的要素 ③アメニティ 3つの要素で整理している。こうした考え方を基本として、医療業務を見直し、その保証のためのマネージメント・システムを構築できれば、顧客満足への近道である。また、医療の質を評価する場合の対象として、医療サービスを、 ①構 造(structure) ②過 程(process) ③結 果(outcome) して捉える方法が一般的である。図6.1-8には、医療の質を考える際の構造、過、結果に層別して捉えた場合の関連事項が記述されている。

.1-7および図6.1-8の参考文献:

モイラ・スチュワート著:患者中心の医療、診断と治療社、2002.

岩崎榮編:医を測る-医療サービスの品質管理とは何か-、厚生科学研究所、1998.

ルース・K・ホンダ、翻訳阿部俊子、千葉由美、山本有紀:ケアの質の査定と向上、看護、

vol.53 No.12、p34-38、2001.

阿部俊子:医療ケアの質、vol.42 No.1、p10-11、2000.

部俊子:患者の意思尊重する「医療ケアのアウトカム評価」へ-短期的でネガティブな指標だ

でなく長期的でポジティブなものも重要に-、ばんぶう、2003.3、p66-68.2000

治療計画内容 処置・手術技術

医療者

医療技術の認知 結果の認知

患者 医療の質

技術的要素

人間関係的 要素

アメニティ

医療者の接遇、 信頼性、共感性、 迅速性

設 備 待ち時間、部屋、 設備、食事、気温、

騒音など 本医療機能評価機能 SO9000

僚評価(Peer Review) 床 指 標 (Clinical

ndicator)

図6.1-7 医療の質の要素

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インプット プロセス アウトプット 価値 効能 効果 妥当性 効果の認知←感性品質 価値 構造(Structure)

人々

病院サービス 何を、どのように

健康 アウトカム

患者の認知

患者中心の

臨床技法

疾患と病い体験の両方を探る 全人的に理解する 共通基盤を見出す

身体診察、病歴、検査 疾患 問題 患者の暗示 目標 病い

考え、期待、感じ方 役割 機能への影響

文脈

疾患 病い

患者・医師関係を強化する 予防と健康増進を組み込む 現実的になる

日本医療機能評価機構 ISO9000 人事考課

過程(Process) 結果(Outcome)

視点 医療者 技術上の義務

技術上の質(何を) 技術的側面

Clinical Indicator Peer Review 治療計画内容 処置・手術技術

個人の健康アウトカム

設備、職員

アメニティ

機能上の質(どのように) 確実性、信頼性、保証、迅速性、共感性

人間関係的側面

個人の健康アウトカム ケアの技術の認知 症状の改善、生命予後、

QOL に対する影響

患者/ 個人

患者満足度調査 保険者 妥当性:入院前の証明

有効性:コスト/ユニットサービス 現時点のレビューとレトロスペクティ

ブなレビュー 統合した統計上のアウトカムへ

の指摘、患者満足指標の評価 社会 変動コストではない、総コスト “良いケア”に対する特定の基準 総死亡率の測定

Stephen J. O’Connor and Joyce A. Lanning: The new health care quality: value, outcomes, and continuous improvement - An overview of the current perspectives, clinical laboratory management review, July/August 1991, 221-234, 1991.

資源

図6.1-8 医療の質の構造・過程・結果の関連事項

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6.1.2 類似製品(サービス)の情報収集

前項 6.1.1(3)に、患者・医療者の立場からの「医療の質」とその評価の方法に

ついて示した。それによれば、医療の質は、技術的側面、人間関係的側面およびアメニテ

ィの3つの側面に分けて考えることができる。言うまでもなく患者の満足度を高めるには、

それぞれの側面での要因を分析し、それらの質を定義し、それぞれを向上させることが求

められる。

本項6.1.2では、3つの側面の内、主として人間関係的側面とアメニティに関して、

医療分野以外での情報を収集した。

先ず、6.1.2(1)では、サービス業を対象として、航空業界における顧客満足へ

の取り組みの事例と鉄道利用者の顧客満足度に関する調査および東京ディズニーランドに

おける顧客満足の考え方に関する調査を行った。

日本の各地で建設された日本型テーマパークが経営不振で苦慮している中にあって、東

京ディズニーランドは創業以来年々来園者数が増加し、好調な経営状態にある。お客様を

大切にし、常に顧客満足をどのように確保するかに腐心していることが、成功の要因であ

り、再来園者、即ちリピーター率97%を得ている魅力の原点であることが判明した。

さらに、6.1.2(3)では、病院設計におけるアメニティの大切さを早くから意識

し、設計段階から医療関係者の満足度調査を行い、設計に反映させた事例を調査した。

以下に各調査の方法および利用した出典を示す。

a.航空業界・鉄道利用者における満足度調査

①スカジナビア航空の社長であったヤン・カールソンの考え

②某航空会社の CS(Customer Satisfaction)の視点に立ったヒューマンサービス面で

の標準的な行動を明示した接客サービス行動標準集における顧客満足の考え方

③パシフィックコンサルタンツ(株)における鉄道利用者に対する満足度調査

b.東京ディズニーランドにおける顧客満足の考え方に関する調査 (株)オリエンタルランドによる東京ディズニーランドにおける顧客満足活動は、外

部に発表されることは極めて稀である。ここに示した内容は、2002年7月30日

に JOQI 第8部会にて開催された、オリエンタルランド 人財開発部 コミュニケーショ

ン・マネジャー 栄 幸信氏と同社 広報部 茂木 伸太郎氏の講演内容を東京医科歯科

大学 阿部研究室がまとめ、栄氏の検収を受けた内容をまとめたものである。

c.建設業における顧客満足に関する事例調査 「顧客満足度(CSI:Customer Satisfaction Index)調査を用いた病院設計」

建設会社(株)竹中工務店が設計を担当した病院に関して、患者さんの総合満足度

の構造を把握し、施設計画に患者さんの声を活かすべく、アンケート調査により

満足度に影響する要素(医療サービス、施設・生活環境等)を明らかにし、特に

施設・環境面での分析・評価を行った事例である。2002年12月20日の第

1回委員会における本社企画室 部長 井上 正哉氏の講演内容をまとめたもので

ある。

30

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(1)航空業界・鉄道利用者における満足度調査

(ⅰ)航空業界における満足度調査 航空業界は、国内・海外を問わず低価格とサービス向上を目指して、顧客獲得に熾

烈な競争を繰り広げている。その結果として顧客満足がどのように向上しているかは、

経営トップの最大の関心事である。顧客満足の向上のためにいろいろな業務改善を行

っている。

a.顧客と従業員との接点

顧客満足を得るためには、従業員と顧客との接点の瞬間が極めて重要であることか

ら、各社の経営トップは顧客に接する従業員への啓蒙・教育を重要視している。

スカンジナビア航空(株)の社長であったヤン・カールソン氏の著書に次ぎような「真

実の瞬間」と呼ぶ話が掲載されている。(参考文献1)から引用)

当時、1000 万人の旅客のそれぞれが、ほぼ 5 人のスカンジナビア航空の従業員に接

しており、1 回応接時間は平均 15 秒だった。つまり、1 回 15 秒、累計 1 年間に 5000 万

回、顧客の脳裏に同社の印象が刻みつけられたことになる。つまり、顧客と従業員の

相互作用における一瞬の出来事が、顧客満足に決定的な影響を及ぼし、最前線にいる

従業員の最初の 15 秒間における接客態度が、スカンジナビア航空(株)全体の印象を決

めてしまうこともあるのである。したがって、サービス提供のプロセスは「真実の瞬

間」の連鎖であり、この連鎖の巾で顧客の満足は形づくられていくのである。

ヤン・カールソン氏が同じ著書の中で、組織構造のあり方を提唱している。これも、

組織と顧客の接点を重要視する表れである。

トップを頂点とする従来の伝統的な企業組織構造を逆さまにして、顧客を頂点とす

る組織に変革し、マネージャーは第一線の従業員を支援する構造が顧客本位の企業構

造である。この方法により組織は分権的になり、それまではピラミッドの底辺に位置

付けられていた従業員に責任と権限が委ねられた。これは、サービスの質と、サービ

スを担当する最前線の従業員こそが成功の鍵だと考えたからである。

b.従業員への行動標準の徹底

顧客と接する瞬間が顧客満足を向上する鍵であれば、接客行動の悪い方のばらつき

を少なくする標準を定めることは有効である。某航空会社では、サービス向上のため

の施策の一環として、接客サービス行動標準集を作成し、乗務員に徹底を図っている。 この標準集には、お客さまへの心遣いが以下のような内容で示されている。一部抜粋を

掲載する。 “サービス標準を基本として、みなさんの個性を加味し、よりお客様に親しまれ、選ん

でいただける良質な接客サービスの提供を心から期待しています。”と 述べられている。

個性豊かで、お客様に親しまれる接客行動が望まれるところである。

①全社のサービスの目標:大いなる安心をお客様へ ②総論では、サービスに関する以下の内容が述べられている。

・サービス業は「ふれあい業」である。

31

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・サービスの善し悪しを決定するのは常にお客様である。 ・お客様が支払った代価を上回る「満足」を届けることが最大の目的である。

ここで、代価を上回る満足とは、心と形の調和が取れたヒューマン・サービスで

あるなどである。 ③総論には、以下のような内容が示されている。

・企業のイメージ・・・期待値は120% ・情 熱・・・・・・・自ら生み出すもの

・第一印象・・・・・・一度きり、やり直しはきかない ・安心の笑顔・・・・・心が微笑んでいること

・柔らかな目線・・・・最も有効なコミュニケーション・ツール ・暖かな言葉掛け・・・言葉遣いは、心遣い ・立居振舞・・・・・・人への思いやりから ・受容の心・・・・・・肯定的自己対話が必要 ・ゆったりサービス・・落ち着きと安心感を演出 ・仲間への信頼・・・・「おもてなしは」チームワークで支えるもの 【参考文献】 1)ヤン・カールソン著、堤 猶二訳 「真実の瞬間」

・・・「顧客本位」の企業に作り変える

(ⅱ)鉄道利用者における満足度調査 a.利用者の満足度調査

航空業界の熾烈な競争と同様に、鉄道に関しても鉄道関連企業間の競争に加えて、航

空業界やバス輸送との競争もますます増大する。21 世紀の後半にはますます少子・高齢

化が進み、人口の減少が予想されることは、利用者へのサービス向上により、如何に顧

客満足を確保するかが重要となってくる。特に、関東地区では、鉄道網が発達し、同じ

地域でも複数の交通機関の利用が可能であり、利用者のニーズに余程的確に応えられな

いと、安定して顧客を確保することは困難となる。 サービス業にとっては、顧客の利用状況を把握し対策を明確にすることが、ビジネス

の基本であるが、関東地区のような交通機関の発達した地域では、特に利用者のニーズ

を的確に捉えることが肝要である。そのためには、利用状況調査と共に利用者の満足度

調査が必要である。 b.満足度調査結果の評価

鉄道の輸送サービスのみでなく、駅施設、駅へのアクセス、周辺の施設など総合的な

サービスにより鉄道利用の満足度は変わる。図―6.1-9は、顧客満足は、鉄道郵送

サービスによる効果のみではなく、付加価値的サービスの水準が影響することを示して

いる。 また、図―6.1-10は、鉄道サービスに関する顧客満足度には、運行サービス以

外諸々のことが関連することを示している。 したがって、それらの要因間の影響は時間、季節による変動も予想され、利用状況を計

32

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測した後は、複数の要因間の因果関係を明確にする必要がある。そのためには多変量解

析や分散分析などの解析手法を利用することも必要である。

「利用してよかったよ、今度も

使ってみよう」、「やはり不便です

ね、今度、使うのをやめよう」等 々

アクセスのしやすさ、運賃の妥当さ、 運行頻度の多さ、定時性、乗り継ぎ のしやすさ、等 々

満足度評価

利用者側制約

次回以降利用

利用結果

効 用

付加価値的サービス水準 鉄道輸送サービス

図6.1-9 鉄道利用者の顧客満足度の把握(パシフィックコンサルタンツ(株) 営業用パンフレットより転載)

駅周辺施設

駅 施 設 その他サービス

車 両

運行サービス

鉄道サービスに関す

る顧客満足度

図6.1-10 顧客満足度の評価(パシフィックコンサルタンツ(株)営業用パンフレット

より転載)

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(2)東京ディズニーランドにおける顧客満足の考え方

(ⅰ)東京ディズニーランドのショーとホスピタリティ 1983年に東京ディズニーランドが誕生してから19年が経過した。その間、年

に何回も足を運ぶ人にも飽きられず、初めて足を運んだ人にもまた訪れようと思わせ

る魅了をどのようにして、築いてきたのか、お客さま満足を確保する施策を(株)オリエ

ンタルランドの人財開発部のマネージャー 栄 幸信氏からお聞きすることができた。 東京ディズニーランドにおけるリピーター率(1度以上来ているゲストが再来する

率)は、実に97.5%であり、年間1,700万人の入場者がある。入場された方

の平均滞留時間は約8時間である。 このようにお客様を引き付ける魅了、即ち売り物は、東京ディズニーランドの各種の

ショーとホスピタリティである。栄氏は、ホスピタリティを支える“4つの鍵 (four operational keys)”として、

①Safety(安全) ②Courtesy(礼儀正しさ) ③Show(ショー) ④Efficiency(効率)

を挙げられた。 また、お客様をもてなす売り物として、以下のことを示された。

①人と人とのふれあいを通じて楽しんでもらい、思い出を作ってもらう ②そこにあるのは、サービスとホスピタリティ(お客様 :ゲスト⇔従業員:キャスト)

③役に立つこととホスピタリティ: 双方向のコミュニケーション(キャストも感動を得る)

④サービスを通じて心を通じ合わせる ⑤ファミリーエンターテイメント(家族で楽しめる)という考え方が基盤

この“ファミリーエンターテイメント”とは、ウオルト・ディズニーが自分の子供

を公園で遊ばせながら発想した理念で、大人も子供も楽しめるアミューズメント・

パークは何かを考えるところから始まったとのエピソードを披露された。

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(ⅱ)東京ディズニーランドが提供している商品は何か 前項にてお客様をもてなす売り物を示したが、一言でいえば“ハピネス(幸せな気

持ち)”が商品である。その“ハピネス”を提供するには、図6.1―11に示す要因

が関連する。 アトラクション 施設

植栽 エンターテイメント ハピネス 商品 レストラン キャストメンバー

図6.1―11 ハピネスを提供するには

①施設:雰囲気、別の空間を作り出す ②アトラクション:エキサイティングな楽しみ ③エンターテイメント(パレード):夢の世界の再現ドリームライツで投資額 30 億円 ④レストラン:雰囲気にひたって食事、そのためには BGM は大事である ⑤商品:ぬいぐるみ、お菓子など、思い出を家に持って帰るための商品 ⑥植栽:花、樹木 こうした施設、アトラクション、レストランなどは、“ハピネス”を作り出すために

大切なものであるが、一番大切なものは、お客様をもてなす“キャストメンバー”で

ある。いくら上等なハード、ソフトウェアがあっても、キャストメンバーの応対によ

り、お客様(ゲスト)の印象がまったく異なってしまう。キャストメンバーの応対が

如何に大切であるかということを教育するのが重要である。 こうしたキャストメンバーの応対の大切さに関する次のようなエピソードがある。

それは、“100 回目のトイレ”と教育現場では言われている、次のような話である。

掃除をするキャストにとっては「トイレはどこですか?」と聞かれるのは、朝から 100

回目の質問であるかもしれない。でもゲストにとって、はじめてのことかもしれない。

その日が、ゲストの何かの記念日で訪れたとすると、キャストメンバーの不用意な応

対によって、大切な記念日が不愉快な日になってしまう恐れがある。キャストメンバ

ーは何時でも応対が如何に大切かを肝に銘じておく必要がある。

(ⅲ)ヒューマンウェアーの大切さ 前項で説明した“4つの鍵”、Safety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショ

ー)、Efficiency(効率)のこの順番が大切である。

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社員 2,500 人、パートアルバイト 18,000 人をこの理念によって教育している。 ハピネスは瞬間に生まれて、瞬間に消えるものであるが、大量生産ができない、貯蓄

ができない。しかしゲストの心の中に残るものであることを常に考えて教育を行って

いる。 a.Safety(安全性) 危ないものを見たら危ないと感じ、そして危ないと感じたらアクションをとる。

b.Courtesy(礼儀正しさ) 礼儀正しさを求めている。 ① 親しみのある(friendly)笑顔:ディズニースマイル

②親しみのある振る舞い ③親しみのある言葉遣い

・目と目が合えば挨拶「こんにちは」をしよう! ・呼び止められたら「はい」と返事をしよう。 (お気をつけてお帰りください、おはようございます、+ごゆっくりお楽しみ

ください等、その場に合わせた挨拶が求められる。) ・依頼をするときにはお願いをする。それが、例えルールであってもお願いする。 ・すべてのゲストは VIP である。子供も国家元首も同じである。 ・毎日が初演である。パークは9時に開園するが、それは今日という新しいショ

ーの始まりであることを常に意識することを教えている。 c.Show(ショー)

Good show は、ゲストが気持ちよくなるような応対(言葉とジェスチャーの両方

で表現する。例えば、手のひらで差し出す。)であり、Bad show は その反対であ

る。 d.Efficiency(効率)

効率を優先事項にはしない。S(安全)、C(礼儀正しさ)、S(ショー)をきちん

とやることで、ゲストの協力が得られ、E(効率)も良くなるということもある。

ゲスト

キャスト リード

SV ASV MGR

ゲストとキャストのか

かわりが評判に影響す

る。 ここが触れ合う機会が

(注) SV:スーパーバイザー ASV:エリア・

スーパーバイザー

MGR:マネージャー

一番多いところで、影響

図6.1―12 ゲストとキャストのかかわり:逆ピラミッドの考え方

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ゲストとキャストのかかわりに関して、図6.1―12に示す「逆ピラミッドの考

え方」があり、次のようなお話が紹介された。 レジ打ちが早く、仕事の早いベテランキャストがいた。一人のゲストの応対途中

に、次のゲストの計算を始めていた。このように作業を早くやることが、早い仕事

ではない。ハピネスを提供することが重要な仕事であり、レジを早く打つことが仕

事ではない。1対1の対応をきちんとする。それがゲストの満足感につながる。即

ち、1対1の transaction が大切である。 (ⅳ)キャストメンバーの教育

a.最初の1週間の新人教育 最初の1週間に次のような新人教育を行う。 ①ディズニーユニバーシティ:1日だけ集合教育と部門のオリエンテーション ②ディビジョンオリエンテーション:OFF JT にて 1 日から 1.5 日行う。 ③各ロケーションにおける OJT この1週間の教育後、キャストデビューをする。1週間~10日の間、OJT トレ

ーナー(ピンバッチをつけた多数の同じパートアルバイト)がつく。そして、トレ

ーナーが何時も新人キャストを見ている。新人キャストは模範を見て、それを見習

って覚えていく。 b.モチベーションプラン 経験年数の長い人で、いい従業員を見つけて、具体的に褒めてやる。

c.キャストのターンオーバー ①契約期間は2・3ヶ月以上である。50から60%が1年間に入れ替わる。 ②バイトの中で、OJT トレーナーは 1,000 から 2,000 時間の勤務、ユニバーシテ

ィでトレーナーの訓練をうけている。2~3人/10人の部署程度である。 スーパーバイザー(SV)、ユニットマネージャーなどがいる。

d.教育マニュアル ①かなり多くのマニュアルがある。SV などには、短期間にいろいろなことが共有

できるようになっている。(情報の共有が短い時間でできる) ②最初のマニュアルは、海外のものをそっくり訳していたが、今は(株)オリエンタ

ルランドでいろいろと変えている。基本的な概念は海外のものを使用するが、実

践は日本らしさを加えている。 e.サービスの評価方法 ①自助努力・自己評価(ミーティング、委員会などによる部署ごとの評価) ②企業文化の統一性と独立性

f.キャストの採用・質の維持 ①いかに配役するか。人とキャストのマッチングが重要である。スマイルや見た

目で割り振りをすることは重要である。 ②ロケーションチェンジをする。職種を変えて対応させ、OJT チェックリスト、

商品部75項目 80%以上で、オンステージに出られるが、だめな人はもう一度

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やり、本人にわからせる。 ③改善意欲を掻き立てる場

QC サークルなどはないが、キャストがゲストの声から改善事項を拾い上げ、ミ

ーティングのログノートに書いておく。 ④ロケーションでのことなら、マネージャーの采配でできる。 ⑤準社員、嘱託社員、就業規則は細かく厳しく書いている。 ⑥マネージャーが花束と時計を与えてキャストを表彰する。一定の勤務時間に達

したらマネージャーが慰労し、キャスト同士で手紙の交換、パーティーを行って

祝福する。よくやっている人には職場ごとに表彰している。

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(3)建設業における顧客満足に関する事例調査

-顧客満足度(CSI)調査を用いた病院設計-

(ⅰ)病院建設における顧客満足活動の現状

医療を取り巻く環境が急激に変化している中で「いかに患者さんから選ばれる病院

になるか」が病院経営の重要な課題であり、サービス業としての自助努力が重要にな

ってきている。高度先進医療の推進、情報システムの活用、インフォームド・コンセ

ントの確立等々が急務となっており、建築計画においてもアメニティの向上、プライ

バシーの確保、ユニヴァーサルデザインの推進等の改善がなされている。

「患者さんから選ばれる病院」を目指すとき、「医療サービスの質」の向上が最も大

きなテーマとなるが、施設・生活環境の面においても総合的な患者満足度の把握が重

要である。サービス供給者の論理によるのではなく、受益者(=患者さん)の立場に

立った施設計画が求められている。

患者さんの総合満足度の構造を把握し、施設計画に患者さんの声を活かすべく、ア

ンケート調査により満足度に影響する要素(医療サービス、施設・生活環境等)を明

らかにし、特に施設・環境面での分析・評価を行った事例を紹介する。

(ⅱ)満足度調査と分析方法

入院患者および外来患者の医療サービスや施設に対する評価を聴取し、これらの評価か

ら、患者満足を構成するファクターを因子分析という手法を使って抽出した。評価は回答

の中心化をさける為、非常に満足、まあ満足、やや不満である、不満であるの4段階とし、

都市圏の中核4病院において調査を実施した。

質問票は入院用と外来用に分け、入院用については、診療科、選択動機、患者プロ

フィール、病棟、病室、ディルーム、ナースステーション、食事、入浴、便所、売店、

サイン、施設外観、敷地、緑、医師の説明、スタッフの対応等の細目約110問とし、

外来用については、診療科、選択動機、患者プロフィール、待ち時間、待合、診察室、

検査・処置室、会計、薬局、トイレ、売店、食堂、サイン、施設外観、敷地、緑、駐

車場、医師の説明、スタッフの対応等の細目約70問とした。 以下に調査結果の分析・評価について紹介する。

(ⅲ)病院の選択理由

先ず病院の選択理由に付いて聴取した。入院患者の病院選択理由は、図6.1-1

3のように、「よい医師がいる」「大きい病院」が最も多くあげられている。年齢別で

は、若年層が「大きい病院」「家の近く」といった利便性や規模で選んでいる一方、

高齢者層ほど「よい医師がいる」「最新の医療設備が揃っていそう」「看護師が親切」

といった中味で選んでいる傾向がみられる。

39

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単位:%

40 35 30 25 20 15 10 5 0

33

34

34

15

16

22

22

24

27

29

よい医師がいる

大きい病院

家の近く

最新の医療設備が整っている

他の医者からの紹介

施設・医療設備の充実した病院

看護師が親切

便利な場所にある

評判のよい病院

有名な病院

図6.1-13 入院患者の病院選択理由 外来患者の病院選択理由は図6.1-14のとおりであった。「家の近く」が最も多

くあげられている。年齢別では、若年層が「大きい病院」「人に紹介された」といっ

た漠然とした理由で選んでいる一方、高齢者層ほど「よい医師がいる」「最新の設備

が揃っていそう」「看護師が親切」といった中味で選んでいる傾向がみられる。この

傾向は入院患者についても同様にみられたが、年齢層の高くなるほど病院に関する情

報を豊富に持っていることが推測される。

単位:%

0 5 10 15 20 25 30 35 40

13

14

15

18

18

19

22

23

29

37 家の近く

大きい病院

最新の医療設備が整っている

よい医師がいる

便利な場所にある

他の医者からの紹介

看護師が親切

施設・医療設備の充実した病院

有名な病院

評判のよい病院

図6.1-14 外来患者の病院選択理由

(ⅳ)満足度の構造

患者さんの満足度は様々なファクターの集まりにより構成されていると考えられ

る。入院患者から聴取した病院の各施設や人の対応などに対する評価項目を因子分析

という統計学的手法でグループにまとめると「接遇サービス」「医師の説明」「入院生

活環境」「施設・外観」「動線」5 つのグループとなった。図6.1-15は、入院患者

40

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の総合満足度に影響するファクターを全体が 100%となる円グラフで表したものであ

る。これらファクターの総合満足度への影響度をみると、看護師や事務員の対応や病

院の雰囲気などで構成される「接遇サービス」のウエイトが最も大きく、38%を占め

ている。

次いで、医師の症状や薬・治療法についての説明で構成される「医師の説明」が 22%

を占め、施設・設備面については、病室、談話室、トイレなどで構成される「入院生

活環境」が 18%、病院の外観や植栽、敷地で構成される「施設・外観」が 18%、エ

レベータ、エスカレーターや階段の利用のしやすさや玄関の場所のわかりやすさなど

で構成される「動線」が 4%となっている。

エレベーター・階段等

病室

ナースステーション

薬・治療法についての説明

敷地の緑

病院の外観

4%動線

看護師の対応

事務員の対応

22%

医師の説明

18%

施設外観

18%

入院生活

環境

38%

接遇サービス

図6.1-15 入院患者の満足度の構造

図6.1-16は外来患者の総合満足度に影響するファクターの構造を、全体を 100%

となる円グラフで表したものである。外来患者から聴取した病院の評価項目は、因子

分析の結果、「施設の快適性」「診察・治療対応」「待ち時間」「サービス施設」の 4 つ

のファクターとなっている。

これらファクターの総合満足度への影響度をみると、病院の雰囲気や外観、トイレ

や待合ロビーなどの施設、案内表示や階段、エレベータ等の使いやすさといった、施

設・設備全般にかかわる「施設の快適性」のウエイトが最も大きく、43%を占めてい

る。

次いで、医師の症状などについての説明や診療・治療、看護師、受付の対応などで

構成される「診察・治療対応」が 27%、会計などの待ち時間で構成される「待ち時

間」が 24%、売店、レストランで構成される「サービス施設」が 6%を占めている。

施設・設備面のウエイトは、「施設の快適性」、「サービス施設」をあわせ 49%とほ

ぼ半数を占めている。「施設の快適性」については、入院に準じて「外観」「動線」「施

設環境」に分け、因子分析によりそれぞれのウエイトを算出した。

その結果、「動線」が 17%と、入院患者満足度の「動線」のウェイト 4%と比べて

も大きな値を示し、「施設のわかりやすさ」の外来患者満足度への影響度の大きさが

41

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うかがえる。また、「施設環境」「外観」の影響度はそれぞれ 13%を占めていた。

売店

レストラン等

薬・治療法についての説明

動線

施設環境

外観 27%

診療・

治療対応

6%サービス施設

24%

待ち時間

43%

施設の快適性

図6.1-16 外来患者の満足度の構造

(ⅴ)CSI による施設の評価

CSI(Customer Satisfaction Index)とはアンケートにより抽出された各ファクターを

得点化し、全調査者の平均が 100 となるように指数化したものである。したがって CSI が

100 を超えれば満足、下回れば不満という評価になる。表6.1-12、13は入院・外来

患者への最後の設問=「こちらの病院に、あなたはどのくらい満足していただけましたか」

に対する回答(非常に満足~不満である)と各ファクター別の CSI の関係を見たもので、

総合 CSI はファクター別の CSI の単純平均となっている。入院・外来ともに最後の設問に

「非常に満足」と答えた患者の「接遇サービス」の CSI が大変高いことが分かる。

表6.1-12 入院患者総合満足度と CSI の関係

n= 総 合 CSI接 遇

サービス 医 師 の説

明 入 院 生 活

環 境 施 設 外 観 動 線

非 常 に満 足 (63) 126 156 122 131 119 100

まあ満 足 (174) 94 79 95 108 88 98

不 満 である (不 満 +やや)

(21) 54 -10 20 53 79 98

表6.1-13 外来患者総合満足度と CSI の関係

n= 総 合 CSI接 遇

サービス 医 師 の説

明 入 院 生 活

環 境 施 設 外 観

非 常 に満 足 (135) 135 178 134 128 103

まあ満 足 (990) 101 101 101 102 100

不 満 である (不 満 +やや)

(187) 69 36 70 73 97

病室の各部分への患者の評価と CSI の関係を図6.1-17に示している。CSI を

高める要素にはこのようなものがあり、よい評価を得た場合の総合 CSI は 101~121

となっている。図6.1-18は4床室の内部状況を示している。

42

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90 100 110 120 130

117

119

110

113

114

115

115

115

124 棚の位置・大きさがとても使いやすい

床や壁の色がとてもよい

ナースコールの位置がとても使いやすい

まくら元の電灯がとても使いやすい

病室内の洗面がとても使いやすい

窓の数や位置がとてもよい

広さが十分にひろい

部屋のにおいが全く気にならない

掃除が行き届いている

図6.1-17 病室の各部分への患者の評価と CSI の関係

図6.1-18 4床室の内部状況

トイレについての評価と CSI の関係を見ると、“十分な数”、“広い個室”、“掃除の行き届

き”が CSI に大きく影響し、特に分散トイレは、“数(十分)”“場所(とても便利)”と高

い評価を得ていることがわかった。

ナースステーションの評価については、図6.1-19に示すように複廊下型プラ

ンで病棟中央に位置するプランが最も CSI が高く、評価されている。図6.1-21

の写真のようなオープンカウンターのナースステーションは最も高い CSI を得た。

しかし、“看護婦さんを呼ぶとすぐ来る”という回答が最も少なく、「近いのにすぐ

来てくれない」という期待度と満足度の相反がうかがえる。

図6.1-20は中央待合ロビーの評価と CSI の関係を見たもので、待合ロビーに

ついて最も評価の高かった病院をみると、特に広さや雰囲気と椅子の数・形の評価が

高く、椅子の形について、とても座りやすいという評価であれば、CSI は 118 と非常

に高いレベルとなり、待合ロビーの満足度に、雰囲気や居心地、広さと並んで大きな

43

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影響をもつものであることがわかった。図6.1-22は中央待合ロビーの写真であ

る。

A病院 B病院

C病院

C病院 D病院

図6.1-1

雰囲気・居心地が

椅子の形がとても

椅子

広さが

掃除が行き

室温がち

じゃまな

照明がち

つまづきやす

図6.1

6.1-21 ナースス

9 ナースステーションの位置(病棟プラン)

90 100 110 120 130

101

101

101

101

109

116

116

118

126 とてもよい

座りやすい

の数が十分

十分に広い

届いている

ょうどよい

ものがない

ょうどよい

い所がない

-20 中央待合ロビーの評価と CSI の関係

テーションの外観

図6.1-22 中央待合ロビーの外観

44

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外来待合と診察室の評価と CSI の関係を見ると、ともに“掃除の行き届き”が総合

CSI に大きく影響していることがわかったが、“照明”、“室温”といった室内環境の点

では CSI との明確な相関が見られなかった。これについては、室内環境の比較だけで

なく、備品の設置状態や、混み具合、プライバシーへの配慮、診察システム等の考察

もあわせて行う必要があると考えられる。

(ⅵ)患者さんの声を活かした病院づくり

患者さんの総合満足度(CSI)と施設の各部分の評価の関係を紹介したが、従来の

施設計画の指針には示されていなかった様々な要素が、一連の調査から抽出された。

これらの要素の総合満足度への影響力は、絶対的な優劣がつけがたく、病院の立地、

規模、特性、診療体制、施設構成、環境等々と患者さんの期待度に大きく関係し、病

院毎に異なることがわかった。患者さんに選ばれる病院になるためには、病院毎に木

目細かく患者さんの声を聞き、生きた声を施設計画・サービスに反映させることが求

められている。

【参考文献】

1)竹中工務店開発改善課題:「顧客満足度(CSI)調査による病院設計指針の作成」報告書 2)平成11年度 日本建築学会近畿支部研究発表会(6月19日)論文: 杢谷保夫(竹中工務店)著「患者満足度調査による病院建築計画に関する研究」

45

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6.1.3 医療機関におけるISO9001システム適用上の

問題点抽出と対応策の検討

(1)ISO9001の本質 ISO9001は、「審査登録制度」の側面と「ISO9001 モデル」としての側面から考

察すると、以下のような本質を本来的に持っている。(詳細は別紙資料参照) (ⅰ)「審査登録制度」の側面から考察される本質

①評価の対象が「管理システム」である。「管理」では所詮「技術」を超えることは

できない。これは逆説的に言うと、高い技術力を持っている組織ほど ISO9001 の有

効性が発揮できる余地がある。 ②民間の第3者機関が評価する。そのため組織の固有事情を十分に配慮することが

できなく、皮相的・形式的な評価となりがちである。 ③「適合性」の評価である。結果を評価していないために、この面については当該

の組織の努力で補う必要がある。 ④「任意」の制度である。しかしながら実態としては「強制」に近い状況に置かれ

ている組織の場合もある。周りの雰囲気に流されず、挑戦理由を明確にする必要が

ある。

(ⅱ)「ISO9001モデル」の側面から考察される本質

①「品質保証+α」である。基本的には「品質保証」のためのシステムである。こ

れは、2000年版になり「顧客満足」「継続的改善」が追加されたが本質的に変わ

らない。 ②「計画通りの実施」に力点をおく。計画通りにやればよい結果がでる、というこ

とを前提としている。これは、計画が未熟である場合は効果が発揮しにくいという

ことが一面ではあるが、正しい計画が立てられる分野、あるいは計画通りに実施し

ないと重大な結果を生じるという分野では効果が発揮できる。特に基本動作を徹底

させるには効果的である。 ③「欧米流の管理スタイル」をベースとしている。「計画」「実行」「検証」という3

つの機能を分離させ、特に「計画」は正しいということを前提とした管理スタイル

である。その為に必要となるのが、「責任権限の明確化」と「文書によるコミュニケ

ーション」である。日本人にはなかなかなじみにくいこのスタイルではあるが、活

用の余地は大いにありそうである。 ④「プロセスアプローチ」を推奨している。単独な個々の業務としてではなく、業

務をその順序や相互関係を意識した取り組みとしてとらえることを推奨している。

これは“全体の最適”を考慮・検討するのに都合がよい。

46

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(2)ISO9001の本質の医療への適用 (ⅰ)適用上のメリット

これらの本質を医療の場に適用してみると、以下の適用上のメリットが考えられる。 ①高度な技術が存在し、これを十分に発揮するための ISO9001 のような管理システ

ムの整備による効果が期待できる。 ②正しい業務を行わないと重大な結果を及ぼす可能性をもつ医療業務の中で、

ISO9001 により「基本動作の徹底」ができる ③適切な「責任権限の明確化」と「文書によるコミュニケーション」により、業務

の質向上の余地がある ④病院の業務を「プロセスアプローチ」で整理する作業を通じて、新たな視点から

業務の内容を認識し、そこから改善のきっかけをつかむこともできる。

(ⅱ)適用上の留意点 ただし、良いことばかりではない。以下のような留意しなければならない点もある。 ①ISO9001 の要求事項はよい結果を生み出すために必要かつ十分ではないことを十

分理解し、形だけのシステムではなく、良い結果を生むためのシステムを十分に吟

味して構築する。 ②周囲の雰囲気に流されずに確固たる挑戦理由をもつことが大事である。 ③「結果」の評価は期待できないので、自らの努力でこれを補う必要がある。 ④技術的に明確になっている分野と、明確になっていない分野の業務を画一的に考

えてはならない。 ⑤「責任権限の明確化」「文書化」においては、過度にならぬように適切なレベルと

方法になるように十分に注意が必要である。

47

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6.1.4 医療版 ISO9001 適用指針の適用の可能性評価

6.1.1~6.1.3までの調査により得られた知見を以下に示す。

(1)医療の質の考え方 医療における質についてはこれまでもさまざまな人々がさまざまな側面からこれを定

義してきたが、その中でも比較的理解しやすい考え方は、これを技術的要素、人間的要

素、アメニティという3つの要素から考える方法であろう。そして、この医療の質を評

価する最も代表的な方法が「患者満足度」を調査する方法であり、最近はこれを評価す

る医療機関も増えて来ている。 また、医療の質の評価対象として、医療サービスを、

① 構造(structure) ② 過程(process) ③ 結果(outcome) として捉える方法が一般的であり、これらについての評価もすでに試みられてきてい

る。①による方法は比較的評価が容易であり、②の評価はなかなか難しいが重要である、

③は古くから行われてきた方法であるが時間がかかるなど、それぞれの特徴がある。な

お、現在行われている、「医療機能評価制度」は、このうちの①をベースとしたもので、

ISO9001 の評価は②を中心とした評価と言えよう。 水戸総合病院では、医療の質をより向上するためのきっかけとして、この①及び②の

評価を受けることを決意した。当院の特質上、②の評価すなわち ISO9001 のマネジメン

トシステムを構築し運営することを優先させ、これに成功する、という事例を見ること

ができた。それによると、分散化して部署に埋没して存在した手順書や記録類を顕在化

して、これを再構築することによりチーム医療の質確保に貢献させたり、院長の方針の

元に各人が目標を持った取り組みをする体制を築き、よりいっそう患者さんの立場に立

った医療の質向上を図ることができた、などの好結果を得ることができた。

(2)顧客満足の追求方法

医療以外の「サービス」における「顧客満足」を目指した活動は多様であるが、“真の

顧客を知り、その立場に立って満足を追求するための活動を徹底する”という点で共通

している。航空業界におけるお客様の満足を得るための徹底したマニュアル化とその教

育の実施、東京ディズニーランドにおけるお客様へ売るものは「ハピネス」でありそれ

を実現するための徹底した教育と仕掛けの存在など、いずれも顧客の満足を得るために

は、その背後にある「教育」とそれを支える「システム(仕掛け)」の存在の重要性を教

えてくれた。建設業における病院の建設に当たっての顧客満足度調査の事例は、病院で

はそのアメニティも大きな満足の要素であることを、改めて認識させてくれた。

48

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49

(3)ISO9001 の本質 6.1.3では、ISO9001 の本来的に持つ本質に迫り、それを医療の場に置き換えて

考えてみた。これによると ISO9001 は、6.1.1~6.1.2までの主要なテーマと

なった「顧客満足」を目的としたものであること、構造 (structure)とか結果 (outcome)よりもむしろ過程(process)を重視した評価であることが確認された。また、ISO9001の持っている本質と医療機関の抱えている実態とを鑑みて、これを導入することにより、

管理システムの整備による医療技術の十分な発揮、医療過誤防止のための「基本動作の

徹底」「コミュニケーションの徹底」、プロセスアプローチによるチーム医療業務の質向

上など、医療の質向上のために効果が期待できることがわかった。 (4)医療版 ISO9001 適用指針の適用可能性

6.1.1~6.1.3までの調査結果により、当事業では、ISO9001 は医療の場に

適用することは有効である、と結論するに至った。 しかしながら、ISO9001 の単なる形だけの皮相的な導入は、この効果を与えずに、む

しろ有害化することにもなりかねず注意を要する、ということも同時に認識された。医

療の場にこれを有効に導入するためには適切なガイダンスが必要である。そこで、本調

査では、このための方法として以下のものを開発することとした。 ①医療機関 ISO9001 適用指針 ②医療版品質保証体系図と関連するプロセスチャート ③医療機関 ISO9001 の教育用テキスト

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6.2 医療機関における ISO9001 適用指針等の作成 6.2.1 ISO9001 規格の医療機関への読み替え版の概要書・

解説書の開発

現在、当調査事業とは別に(財)日本規格協会を中心としたグループで「 ISO9001規格の医療機関への読み替え版」の開発が進められており、当調査事業のメンバーも

一部これに参加している。今回、現段階におけるこの「 ISO9001 規格の医療機関への

読み替え版」の概要・解説をまとめた。

これのねらいとするものは、医療関係者に ISO9001 を通して品質マネジメントシス

テムとは何かを考えさせる指針となるものであり、 ISO9001 要求事項の ISO および

QC 専門家としての解釈(一般的な説明(用語の意味するところ)・意図・必要性(規

格要求事項の背景))をベースに、ISO の知識の少ない医療関係者に対して、わかりや

すい解説をすることである。 ISO9001 規格では、「定義」を次のようにしている。これを医療分野に読み替えてみ

ると以下のようになる。

(1

(2

その

ルの

定義 この規格には、JIS Q 9000 に規定されている用語及び定義を適用する。 この規格では、製品の取引における当事者の名称を次のように変更した。 供給者 → 組織 → 顧客 これまで使われていた“供給者”は“組織”に置き換えられる。“組織”とは、 この規格が摘要される単位を示す。 同様に、“下請契約者”は“供給者”に置き換えられる。 この規格の全体にわたって、“製品”という用語が使われた場合には、“サービス”

のことも合わせて意味する。

)規格の解説 ①この規格では JIS Q 9000 に規定されている用語及び定義を適用するが、この

規格特有の使い方をする用語“供給者”、“組織”及び“製品”について記述され

ている。 ②“製品”は JIS Q 9000 3.4.2 に“プロセスの結果”と定義されており、最終製

品だけでなく、中間製品を含むことに注意すること。

)ISO9001 の医療分野への読み替え 規格を医療に読み替えるに際して明確にしておくべき諸概念を下記に定義した。

他の医療に特有な事項や個々の医療機関に固有の事項については、品質マニュア

中で定義するとよい。

50

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(ⅰ)医療にとって“製品”とは ISO 規格は“顧客要求事項を満たす事によって顧客満足を向上させる為に、品

質マネジメントシステムを構築し、実施し、その品質マネジメントシステムの有

効性を改善する”ことを目的としており、業種や組織の形態を限っているわけで

はない。しかし、もともと製造業が提供する“製品”を主な対象として構築され

た為に、これを適用するにあたっては、病院医療において“製品”に相当するも

のが何であるかを明確にしておくと全体の構造が利用しやすい。 ISO9000:2000 は、“製品 (products)”として“サービス、ソフトウエア、ハー

ドウエア、素材”の 4 つのカテゴリーを挙げている。医療は一般に“サービス”

のカテゴリーに属すると考えられているが、医療が提供するものは、“対人サービ

ス”だけでなく、診断という情報や、切迫する死の脅威からの解放や、人工肛門

や技師という目に見えるものまで、多彩なものを含んでいる。 病院医療において、“製品(プロダクツ)とは何か?”という問いかけをはじめ

て行ったのはE .コッドマン医師で、前世紀初頭の事である。同医師は、(論文や医

師・看護師の養成など数あるアウトプットの中で )病院の製品とは“患者さんの転帰

(End Result)”であるべきと主張した。その上で、“診療の結果(患者さんの転

帰)”が思わしくない場合は、その原因を追求してしかるべき改善を行い、常によ

りよい製品を提供できるよう努力すべきことを説いた。 医療の質について理論的集大成を行ったドナベディアン教授は、医療は、“対人

ケア”と“臨床ケア”の二つから成り立っているとし、医療の質を計る指標を、“ア

ウトカム”、“プロセス”、“ストラクチュア“そして“患者・医療者の満足度”とい

う 4 つのレベルで整理した。 “プロセス”が質の指標になるのは、それが期待する“アウトカム”を保証で

きる程度においてであり、“ストラクチュア”は必要な“プロセス”を可能ならし

める条件という意味においてであるから、いずれも質を規定するものは“アウト

カム”である。医療の質をめぐる議論の近年の傾向は、“これまで質を保証すると

考えられていたプロセスがかならずしも望ましい結果(アウトカム)を保証して

いない”というものであり、ここから、“EBM(Evidence-based Medicine)”と

いう考え方が生まれてきた。 そういう観点からは、“病院医療における製品”=“企図されたアウトカム”と

いう考え方が自然であり、患者さんの実感に近いと思われる。研究者等は、まず

この考え方に基づいて ISO 規格の読み替えを試みた。しかし、この考え方に従え

ば、<7.5.5 製品の保存>、<8.3 不適合製品の管理>の点で矛盾が生じる。また、

“アウトカム”は“もたらされた結果”であり、医療の場合は“プロセス”で制

御できないが、“アウトカム”に影響を与える要因が多々ある。 また、たとえば企図する“アウトカム”が“3 年生存”であったとすると、<8.2.4

製品の監視及び測定>は 3 年経たなければ判定できないことになり、規格として

の実用性を失ってしまう。 “病院医療の製品”のもうひとつの考え方は、“治療を目的として行う行為の総体”

51

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が“製品”というものである。これは、“医療はサービスである”という命題から

発想する考え方で、“他のサービス ”、たとえばホテルの接客サービスや貨物を運搬

する運送サービス、車の修理や加工というサービスと同様、医療においてもある

目的のために行われる行為(製造業の場合のプロセスに相当する行為)自体が提

供される財であるという考え方である。(現在の健康保険制度が“出来高払い=Fee for service”であることもこの考え方を指示しやすい。)

考えてみれば、医療従事者や病院という組織が提供するのは行為であって、意

図されたアウトカムは製品の“目的”に相当し、製品というよりも(よい、悪い

と形容される)品質にかかわるものといえよう。しかし、この考え方では、<8.2.3プロセスの監視及び測定>の規格が意味を持たなくなる。製造業ではプロセスは

製品を作る過程であり、製品の質を保証する上で最も重要な管理対象であるが、

プロセスに相当する行為自体が製品となると質を作りこむ場としてのプロセスが

なくなってしまい、質は設計で作りこむしかないことになる。 これらの考察を踏まえて、研究者等は“病院医療の製品”を次のように定義す

るのが合理的と判断した。

①製品規定という観点からは、それが可能な場合には、“診断”と“治療”を区

分すべきである。救急医療や急性期医療のように“診断”と“治療”が平行して

行われる場合を例外として、“診断”は医療が提供できるひとつの製品、“治療”

はまた別の製品である。これらの製品の質は別途に評価する事が可能である。 ②“診断”における“製品”は、診断に必要な諸検査の結果を専門的な知識で処

理した“診断結果”という情報である。その品質は診断の“正しさ”や“精度”

によって測定される。

③“治療”における“製品”とは、顧客の要求を満たすために何がなされるべき

かを、専門的な知識を駆使して判断し、設計し、種々のプロセスを通じて意図的

に実現された“アウトプット”の集合である。集合という意味は、通常アウトプ

ットは単一ではなく、直腸切断術、人工肛門、ストマ・リハビリテーションや食

事指導、など複数のアウトプットがなされることではじめて目的(企図するアウ

トカム)の達成が期待できるからである。品質は“治療目的の達成度で測定され

る。 参考: ISO 規格では、“品質”は“本来備わっている特性の集まりが要求事項

を満たす程度”とされている。 ところで、病院は Clinical outcome に関わることだけではなく、いわゆる

“対人サービス”及び“その他のサービス”も提供しており、患者が品質を評

価する対象となっている。たとえば、“迅速な対応、わかりやすい説明、痛みの

少ない処置、あたたかい食事、プライバシーの保護”などである。

ISO 規格では、製品としての“サービス”を“供給者及び顧客との間のイン

52

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ターフェースで実行される、少なくとも一つの活動の結果”と定義するが、こ

れはどちらかといえば“対人サービス”を想定した定義である。それとは別に、

車の修理や運送サービスなどにも共通する要素は“有形の財を提供することな

く(所有権の移転を伴わずに)、購買者あるいは購買者に属する財に価値のある

変化を与える(あるいは価値を付加する)行為”である。

“clinical outcome”に関わる“医療”は、必ずしも“対人サービス”だけで

ない。“提供するべきアウトプット”を生み出すための“プロセス”として患者

さんに見えないところでさまざまな業務活動が行われている。ホテルの場合も、

顧客との相互作用を伴いつつ随時行われる“対人サービス”と、(安らかな眠り

の確保やリフレッシュできる朝食の提供など)ホテルが達成すべき目標に向け

て“何がなされねばならないか“を予め設計し、“プロセス”を管理することで

安定した質を保証することが可能な“その他のサービス”を提供している。 (ⅱ)医療プロセスの“アウトプット”とは

アウトプットとは、意図して作り出したものを言う。 “アウトカム”と違って“アウトプット”は設計でき、“プロセス”で“アウト

プット”によって期待通りの“アウトカム”が現出したかどうかは、“製品”では

なく“製品の質”に関わることである。患者の要求(品質仕様)に合致した“ア

ウトカム”をもたらすにはどんな“アウトプット”を作り出す必要があるか、と

いう判断こそがまさに専門家に求められることである。

病院は多彩な製品を売る百貨店である。風邪引きの患者さんに対する診療と、

乳がんの患者さん、心筋梗塞、糖尿病の患者さんとでは、顧客要求事項とその優

先度が異なり、したがって提供すべき“アウトプット(製品)” が異なる。病院

は、自院の製品(=扱える患者(群))が何かということと、製品仕様あるいは標

準的な製品設計(=診療方針;たとえば 2cmいかの乳がんに対する治療法など)を

予め“商品リスト”(ショッピングリスト)に明示するべきである。

(ⅲ)“アウトカム”とは

アウトカムとは、起こったことを言う。

医療者と患者の合意の上で意図された健康に関わる患者の状態の変化結果とし

て患者はどうなったかという診察の結果を示すもので治癒率や死亡率などである。

アウトプットが意図したものの結果であるのに対して、アウトカムは意図しなか

った他の要素が入ってくる可能性がある。

(ⅳ)“品質”とは

品質とは、治療前後における患者の状態の“変化”に関する、医療サービスの

受取手の要望・期待がどの程度満たされたかを表現する特性の全体を言う。 患者の状態変化が患者の関係者に与えた利益または損害を含む。

医療では“質”と読み替えると理解しやすい。“診療の質”と“診療と直接関係し

53

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ないその他のサービスの質”を区別して論じることが必要である。 ①「診療の質」:診療は、健康のアウトカムを第一義的な目的とする。

・ 看護ケアの質 ・ 診療方針・計画の質:検査の迅速化 ・ その実施プロセスのほかに関連する診療行為の質

②診療と直接関係しないその他のサービスの質:医療サービスのアウトカムに

は患者への対応、待ち時間、プライバシーの尊重など医療が提供するサービス

の全体を含む。 (ⅴ)“顧客”とは

顧客とは、第一義は患者本人及びその患者の意思を代弁する者である。例えば

家族、弁護士である。 患者から植物状態、末期等で意識を失った時の代行者指名の確認が大切である。

(durative power of atony (living will))第二義的には地域社会(正確に

は地域社会、地域住民:当該医療機関の潜在顧客(患者)。) 更には利害関係者(steak holder)として、従業員、保険団体、社会全体、シス

テムほど利害関係者を広く考えなくてよい。“顧客”という言葉が使われる場面毎

に、どの範囲を顧客として考えればよいか検討する。たとえばインフラストラク

チャーなどは従業員を含めて考えたほうがよい。その他は必要に応じて特記する。

(3)読み替えの例示 「 ISO9001 規格の医療機関への読み替え版」の一部を図6.2-1に例示する。

また、ここで紹介している品質保証体系図の例を、図6.2-2に示す。 なお、「 ISO9001 規格の医療機関への読み替え版」の全文を参考資料としている。

5. 7. 1 製品実現の計画 7. 3 設計・開発 7. 5 製造及びサービス提供 の関係 1)7. 1 製品実現の計画は次の 2 つからなる

製品実現の計画は次の 2 つからなる

①特定製品の品質目標の設定

②品質目標達成のための計画の策定(設計+製造+監視・測定の方法)

そして、②の計画に従って 7.3 で実際の設計・開発を行い、7.5 で実際の製造及びサービ

ス提供を行い、 8. 2. 3 及び 8. 2. 4 で監視・測定を行う事になる。

医療で考えると、“特定の疾病群”ごとの診療(診断+治療)戦略を策定する行為で、医療サ

ービス提供の事前準備(標準化)とも呼ぶべき行為である。ユニットプロセスとして開発され

ているものであり、予め定められていることが重要。クリニカルパス(診察指針 protocol,

guideline)は入院期間の短縮化を目的に作成されたものであるが、全診療プロセス、実施計

図6.2-1 製品実現の計画に関する読み替え(例)

54

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問診

N

Y

測定・分析・改善

診断・治療

臨床疫学・統計(転帰調査等)

不適合の管理

(再診)

識別・トレーサビリティ

内部監査

退院手続・会計

看護計画作成

治療終了

他施設でのフォローアップ

事前準備

是正処置

同意 今後の指導

治療終了/他施設でのフォロー

会計

栄養指導:処方

不適合の管理

リハビリ:処方

治療結果の検証/評価

マネジメントレビュー

QCサークル活動/業務改善活

継続的改善

検査分析

予防処置

インシデント・アクシデント情報

処置:処方 処置

栄養指導

注射・輸血:処方

会議体

(入院治療)

治療計画への要望

入院診療計画の説明

供給者(購買先)

入院手続

患者ニーズ

受診受付

患者(家族)/地域社会

支援部門

方針~目標展開

管理部門診療部門

法令規制

品質目標の設定

インフラ・人的資源・作業環境・情報・財務資源・標準類(クリニカルパス・SOP・診療指針)

看護部門

改善委員会

注射・血液製剤

調理/素材

設備・計測機器管理

滅菌・清掃・洗濯滅菌・清掃・洗

注射・血液製剤

設備・計測機器管理

治療

(外来治療)

食事

処方監査、調剤

入院

投薬治療

注射・輸血

手術

投薬治療:処方服薬

治療方針への要望

治療方針決定

診察・診断

手術の同意

医局会議

退院

リハビリテーション

確認

(外来治療)

退院指導

医療廃棄物処理

調査苦情・満足度

検査

検査

購買管理

バリアンス監視

医療廃棄物処理

薬剤

受診結果・治療計画の説明

経営者

理念・方針の設定

治療

検査分析

侵襲的検査の同意

質マネジメントシステム(診療体制)の確立(資源の運用管理)

地域医療ニーズ(住民/診療所/

他病院)

症例カンファレンス

診察・診断

図6.2-2 品質保証体系図(JIS Q9001:2000 医療への読み替え)

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6.2.2 医療機関ISO9001適用指針の開発

(1)病院へのISO9001導入の課題 医療分野においては、長いこと、診療の質は医師の個人的能力に負うところが大

きいと信じられてきた。専門家としての個々の医師が、それぞれの診断能力、診療

計画立案能力、経過判断能力、診療技能などを磨くことによって、診療の質という

ものは上がるものと信じられてきた。ハイテク医療機器、診断機器、診断法、続々

と開発される新薬など医療技術の進歩により、個人がすべてを“仕切る”ことは不

可能である。 だが、マネジメントスタイルは容易には変化しない。チーム医療が状態化しても、

ときには個人の経験に基づく旧態依然たる治療方針が頭をもたげ、医師が医療チー

ムの技術・管理のあらゆる面で頂点に立つという構造が、医療プロセス・システム

としての特段の支援なしに続いている。 医師個人の能力に依存するということは、プロセス志向になりにくいという点で

ある。結果が個人の能力に帰せられると、その能力はブラックボックス化しやすい。

優れた医師なら、経験を一般化して、プロセス(条件、状況、治療)とアウトカム

(診療結果)の関係を把握し、どのような病態でどのような診療があり得るか、ど

れが優れているかを考察する。自分の経験だけでなく、当該分野の治療に関しての

“法則”を使う。EBM(Evidence Based Medicine:有効であると実証されている治療

の選択 )も同じである。そうでない普通の人は、要因と結果の関係の理解に基づく行

動がなかなかできない。プロセス志向というのは、単なるマニュアル主義を推奨し

ているのではなく、実は物事の生起・因果にかかわる高度な抽象化能力を要求して

いるのである。知識のコミュニケーションが少ない状況では、プロセス志向という

行動様式が生まれにくい。 もう一つ、組織的・計画的な運営が難しくなるという点である。個人が頂点に立

つということは、管理対象すべてについて事象発生ベースで個別対応していくとい

うマネジメントスタイルになりやすい。多くの成員が同時並行的にある目的を達成

するために行動するときには、それぞれの役割・責任・機能を明確にしておくばか

りでなく、いつ誰が何をするかという計画を、必要に応じて作成する。一言でいえ

ば「システム志向」ということになるのであろうか、全体目的の理解、個々の要素

の位置づけ、要素間の関係、重要要素の理解などが必要であり、したがってこうし

たことを意識した行動様式が生まれる。医療分野は、そうではない。

上記の状況から、次の点で病院にとって ISO 9001 の導入は有効と考えられる。 その一つが、基本動作の徹底である。 ISO 9001 でいう品質保証は、目標と目標達成

の方法を決める、定めた計画通り実施する、実施された計画を確認する、計画との

差異があったら適切な処置をとることである。中でも手順の確立が強く要求されて

いる。これには、実施の段階に問題があることが多く、確実に実施することが品質

保証において重要である、という考え方が根底にある。病院において今求められて

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いるのは、管理すべきことを組織として決めることと決められたことの確実な実施

である。 もう一つの点は、システム指向、仕組み指向の導入である。よいシステム、よい

仕組みがよい結果を生む、という考え方が希薄なために様々な問題を引き起こして

いる。 ISO 9001 に取り組むことによって、この考え方が導入され、また構築された

システムが改善のためのベースとなることによって改善が進むことも期待できる。 審査登録制度は、管理システムを評価するものである。管理システムの評価が有

効となるのは、核となる技術、すなわち製品の設計や製造に関する固有の技術が十

分なときである。それがないときに、皮相的な管理システムを作っても効果はない。

病院においては、核となる技術は医療技術であり、これについてはおそらく、かな

りしっかりしたものが存在していると考えられる。むしろ医療技術の開発に重点を

かけすぎたために、今日の様々な問題が生じたのかもしれない。この状況下に、管

理システムを導入するのは効果的である。 その他 ISO 9001 の効用とされるいくつかの点、例えば内部監査は診療科単位の閉

鎖的な状況を改善しうるであろうし、文書化によって実施内容を可視化する効用も

大きい。トップマネジメントの参画、顧客志向、人員の教育などの要求事項も、こ

れまでの病院の弱点をついている。以上の点から、病院の質改善の基盤整備にとっ

て、 ISO 9001 はかなり有用であると考えられる。 しかし、ISO9001 を病院に適用するに当たっての課題は、規格の条文が医療に馴染ま

ないことにある。 ISO 9001 は、すべての業種、業態に適用可能であることを標榜して

いるが、実際には製造業向けの記述である。医療に適用するためには、読み替えが必要

である。 まず、問題となるのは、医療における製品、顧客、(品 )質とは何かである。以下で

述べる問題も、これらの解釈と大きく関わる。 医療行為は、診断と治療が繰り返される、いわば試行錯誤的なプロセスである。ISO

9001 では、計画を立て、計画通り実施することが要求される。どこまでそれが可能

となるのであろうか。具体的な要求事項では、実現プロセスの計画、品質計画など

の計画行為が問題となる。設計・開発とは医療においてどのような行為と捉えれば

よいか、という疑問も試行錯誤的なプロセスであるが故に生ずる。 診断が確定すれば、治療はある程度決められた計画に従って実施される。ある治

療法を選択することを設計・開発と呼び、それを実施する段階を生産と呼べばよい

だろう。では、診断を確定するまでに行う検査、問診などはどのように扱うか。最

も試行錯誤が行われるプロセスではあるが、どのような検査、問診を行うかは医師

が設計すべき重要な工程であろう。要求事項をどう読み替えるか、設計・開発をど

のように定義するかは、 ISO 9001 を適用することでどのような効用を求めるかによ

って決めるべきである。ある程度の標準プロセスを定め、それを着実に実行するこ

とを目的とするならば、検査、問診は設計・開発に含めてシステム作りを行った方

が質の向上が望める。 もう一つの問題は、顧客要求事項、顧客満足、不適合などに関わるものである。

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顧客の要求とは何か、いつ誰がどのように定めるのか、不適合とは何で、どのよう

になれば顧客満足が達成されるのか。いずれも根は同じで、顧客の要求が明確に定

まれば解決するのだが、これがなかなか難しい。顧客がすべて要求を決めてしまえ

ば話は簡単であるが、それができないところに難しさがある。とりあえず顧客は患

者本人とすると、当然病気を治してもらうことが要求である。 しかし、不治の病であるならば、なるべく痛みを緩和することにせざるを得ない

場合もある。診断が進んだ段階で、現在の医療技術で可能なもののうち、できるだ

け最良の治療方法を選択することになる。この選択は,患者当人だけでは決まらな

い場合が多い。最良の状態というのを、患者の家族が判断する場合もある。 また、医療の場合は現在の最高の技術でどの程度のことができるのかが、顧客に

判らないケースが多い。もちろん、わざと隠しているわけではなく、インフォーム

ドコンセントなども行われ、確実に伝える努力は行われているが、すべてを理解す

ることは難しい。 このような点から規格の要求事項を医療の関係者が読んで、規格の意図を理解す

るための読み替えは、是非早急に整備されることが望まれる。 しかし、読み替え版が出来なければ、病院への ISO9001 の導入が進まないとは限

らない。規格は元より一般的な解釈をするものではなく、当該の病院の実態に則し

て解釈すべきものである。また、ISO9001 はあくまで“病院の質管理体制整備”のた

めの道具である。

(2)病院における ISO9001 の導入手順

病院に ISO9001 を導入するに際して留意すべきは、病院は、上述した通り、一般的に質

管理の基本であり、ISO9001 の要求事項の背景にある「プロセス指向」「PDCA」に慣

れていないことである。 ISO9001 を活用した「質管理体制の整備」の全体構想を下図に示す。

まず、「プロセス指向」、「PDCA」を業務実態の整理の中で自覚してもらうことが肝要で

ある。次のようなステップで進めるのが良い。

(ⅰ)単位業務のプロセスフロー図の作成

まず、業務実態の「プロセス図」の作成、即ち、現状の業務の進め方をプロセスフロ

ーチャートに書いてみることからスタートする。 毎日実施している業務も、いざ紙に書いてみると意外に曖昧なところが多いこと

に気付く。又、本来、同じ手順で実施されているはずの業務が病棟によって、ある

いは人によって違うことに気付くことになる。 書いたものを関係者で検討し、少なくとも現状で最も適切な手順を確認する。部門

間に跨る業務のインターフェイスは特に重要である。プロセス図を作ることによって、

手順が可視化され、関係者での議論が可能となり、手順の共通化が図れる。 自らプロセス図を書くことによって、プロセスを整理・可視化することの必要性を自

覚することになる。

58

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(ⅱ)病院システムの全体像の整理

「品質保証体系図」の病院版を作成することによって、病院システムの全体像を整理す

る。「品質保証体系図」を整理することによって、病院業務を構成するシステムの

全体が把握できると共にそれを構成する主要プロセスの相互関係を確認すること、

更にそのプロセスを構成するサブプロセス((ⅰ)のプロセス図)の位置付けが明

確になる。

・文書/記録の管理のプロセス整備

病院業務を構成する主要プ

ロセスの相互関係の確認

(ⅲ )インシデント/アクシ

デント事例の解析

(ⅴ )プロセス/システムの課題の抽出、 ・改善検討 ・必要プロセスの標準化

ISO9001 規格要求事項と

の対比・確認

システムの運営管理

(ⅳ )病院運営に関わる質方

針・目標の設定・実施

ブプ

整理

(ⅲ

「単

があ

・内部監査プロセスの整備

・マネジメントレビューの プロセス

是正/予防処置のプロセス整備

・目標展開のプロセス整備

図6.2-3 ISO9001

成した「品質保証体系図」を検

ロセス”の抽出を行う。このサ

を進める。

インシデント・アクシデント

業務手順(プロセス図)への反

位業務のプロセス図」 「

る程度進んだら、現実に発生し

(ⅰ )現状業務実態の整理 単位業務のプロセス図の作

を活

討し

イク

レポ

映 品質

てい

(ⅱ )病院システムの全体像の整理

病院運営の基本理念との対比 患者満足・患者の視点での

医療体制の確認

用した質管

、更に、手

ルを回すこ

ートの解析

保証体系図

る事象を起

59

品 質 マ ニ ュ ア ル の 整

理体

順と

とに

」に

点に

審査登録

制の整備の全体構想

責任を明確にしておくべき“サ

よって、組織全体の業務実態の

よって病院システムの現状整理

現状の業務の進め方(プロセス図

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に整理した)を見直し改善を図る。 ISO9001 への取組みは仕事の進め方を標準化し、必要な文書化をすることだが、それ

は、仕事の進め方を改善する基点を整理することで、仕事の進め方を固定するものでは

ないことを理解させることが必要である。 現実のインシデント・アクシデントの原因究明、是正処置からプロセスの改善に繋げ

ることによって、PDCA、プロセス指向を理解する。

(ⅳ)品質方針・目標の設定とシステム自体のPDCA

「品質保証体系図」の整理を通じてシステムの全体像を明確にし、インシデント・

アクシデントの解析を通じてシステム運営の実態を把握する段階を経て、経営と

しての改善目標を定める。経営者の品質目標を各部門に展開し、具体的な改善計画

を立て、実行管理し結果をシステム(「品質保証体系図」)に反映していくPDC

Aのサイクルを検討する。

この(ⅰ)~(ⅳ)を通じて、実務を中心としたシステムの概要が整理される。

(ⅴ)病院システムの全体像と規格要求事項の対比確認

この段階までは ISO9001 の規格を意識する必要はない。システム整備の当初から

ISO9001 の規格の要求事項を確認し、この要求事項に則してシステムを整備していくこ

とは、決して望ましくない。ISO9001 の規格は元々規格に則した画一的なシステムの構

築を要求しているものではない。規格はあくまで、業務実態を実情に合わせて整理した

システムの客観的な視点からの抜け落ち防止のチェックリストとして使う。 (ⅰ)~(ⅳ)で整理されたシステムを規格と対比し、必要な整備課題を抽出し

て、整理を進める。 以後のシステム整備は(品質マニュアルの作成,内部監査の実施・・・)は特

に他の産業と違いはないと思われる。

但し、審査機関の選定に際しては、医療の質管理システムを評価できる体制を

整えた審査機関を慎重に選定する必要がある。

60

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6.2.3 医療版品質保証体系図の開発 (1)目的

医療の現場の実態を見ると、そこでは医師、看護師、薬剤師、検査技師、その他

多くの専門分野の人たちの連携の中で業務が日常的に行われている。医療の質を確

保するためには、この各部門のインターフェースの質を確保することが重要な要素

のひとつである。現在、医療の現場では、このインターフェースを可視化したもの

が少なく、そこでこれを可視化する方法・ツールとして提供する。 医療の質向上の基本は、まずは業務の実情を正しく把握することが出発点である。

自らの組織が、どのような業務の実態を保持し、そこでどのように医療の質を維持

しているのか、ということをコンパクトにまとめたものを作ることにより、外部の

人々にその信頼感を与えることはもとより、自らそれを意識することも重要である。 ISO9001 規格に基づくシステムを構築するためには、ISO9001 規格で述べられて

いる内容を正しく理解することが重要である。しかしながら、ここに書かれている

表現は、ややもすると抽象的であり難解であることは否めない。そこでこれを正し

く早く理解するためのツールとして利用もできる。 以上のような目的を達成するためのツールとして、医療版の品質保証体系図と関

連するプロセスチャートの開発をした。 (2)医療版品質保証体系図の構造 これは、複数のプロセスチャートによって構成されており、それぞれのチャートは、

縦軸に時間(When)、横軸に部門もしくは責任者(Where or Who)が配置され、そこ

に実施される業務(What)をその順序が矢印でわかるように配して記述し、右端欄には

ポイントとなる方法(How)を補記していくという方法で統一されている。(図6.2

-4参照

顧客 A部門 B部門 C部門 ・・・・・・ 関連資料

○○○○

○○○○時間

61

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図6.2-4 プロセスチャートの構造 構成されるチャートは、メインとなる「品質保証体系図」と呼ばれるメイン・プロセ

ス・チャートと、その内容をいくつかのサブプロセスに分けた複数の「サブ・プロセス・

チャート」である。(図6.2-5参照)

B プロセスチャート C プロセスチャート

A プロセスチャート

B プロセス

A プロセス

サブ・プロセスの特定 品質保証体系図

(メイン・プロセス・

チャート)

(3)医

以上

なお、

要を表

クロー

ム構築

ことを

(4)使

この

・シス

・可

れを

・シ

ャー

正し

(5)具

医療機

を作成し

図 6.2-6~ 7

図6.2-5 医療版品質保

療版品質保証体系図(メ

チャート(サブ・プロセ

の結果として開発されたア

ここで品質保証体系図はA

現したものであり、Bはこ

ズアップしたものであり、

の初期段階ではBを使用し

前提としている。

用方法 チャートの使用方法として

テム構築の初期段階でこれ

視化された状態で整理され

検討し、業務の質向上の改

ステム構築の中間段階で、

ト上で表現されたプロセス

い理解を促進する。

体的作成方法 関が、その初期段階で、こ

ようとしたときのガイドを

図 6.2-8

証体系図と関連プロセスチ

イン・プロセス・チャート

ス・チャート) ウトプットは、図6.2-6

とBがある。Aはマネジメ

のうちの「医療サービス」

一般に言う品質保証体系図

、システムの構築の進行に

以下のようなものがある。

を参考にしながら、病院業

た業務の実態を目の当たり

善点を見つけ出す。 ISO9001 規格で記述された

の対応を取ることにより、

の医療版品質保証体系図と関

作成してある。表6.2-1

62

図 6.2-9

ャートの構成

)及び関連のプロセ

~9を参照されたい。

ントシステム全体の概

を実現するプロセスを

の体裁である。システ

応じて、Aも併用する

務の実態を整理する。 にしながら関係者でこ

各プロセスと、このチ

ISO9001 規格の内容の

連のプロセスチャート

を参照されたい。

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表6.2-1 品質保証体系図と関連のプロセスチャート作成のガイド

病院全体の業務をプロセ

1.プロセスチャートの作り方

・タイトルを明確にする

・範囲(スタートとエンド)を明確にする

・当該のプロセスの目的を明確にする

・横軸に部門を書く(Where,Who)

・右端には、帳票、文書、会議体、手順、備考な

・実施事項を端的に表現する(What)

・できるだけ「主語+述語(何をなにする)」で

・実施事項を上から時間の流れ順に書く(Why

・順序関係がわかるように矢印でつないでいく

・判断を伴うものは◇で囲み、結果に従って分岐

・流れは途中でとぎらせない

・最初におおまかに書いてみてその後に線が複雑

・できるだけ 1 行に実施事項はひとつにして横に

2.当病院の全体業務プロセスチャートの作り方

(1)メインプロセスチャートの作成

①横軸の部門を自病院の実態に合わせて修正する

・名前を変える

・足りないものは追加し、余計なものは削除する

②実施事項を、自病院の実態に合ったものに変え

③まずは、これをチャートにはめ込んでみる(な

みる)

④大事だと判断するもので足らないものは追加し

⑤ワープロに清書する

(2)サブプロセスチャートの作成

①メインプロセスチャートを適当な大きさのサブ

②サブプロセスに名前をつける

③サブプロセスごとにメインプロセスチャートと

方も参照する

63

スチャートで整理してみる

ど目的に応じて欄を設ける

表現する

させる

にならないように横軸の部門を入れ替えてみる

(時間軸に)重ならないようにする

るべく余裕を持って余白が多くなるように書いて

ていく(手書きでよい)

プロセスに分ける

同じように作る(1.のプロセスチャートの作り

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図1(1) 品質保証体系図A

方針・準備

方針・目標の設定

マネジメントシステムの確立

インフラストラクチャーの準備・提供

再診外来

診察・診断・検査

診療終了

レー

ビリ

客所

物の

管理

保存

管理

外部

調

達品

の管

医療サー

ビス提供

(「品質保証体系図B

」参照

新規外来

診察・診断・検査外来診療

入院

治療方針決定

手術実施

術後処置・リハビリ

診察・診断・検査治療方針の

見直し

手術

手術なし

退院

改善

内部品質監査

データの分析

継続的改善

是正処置 予防処置

データの収集苦情

顧客

満足

報収

ネジ

ント

ュー

図6.2―6 品質保証体系図 A

64

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図1(2) 品質保証体系図B顧客 受付 診療部門 看護部門 支援部門 管理部門 経営者 検査部門 供給者 備考

症例カンファレンス

Peerレビュー

新規外来受診

外来 受付 問診 検査

分析

診察・診断

受診結果報告・治療方針検討

入院手続き・受け入れ

診察・診断

検査

分析

治療方針決定 看護計画作成

症例カンファレンス

治療計画の策定

手術準備

了承

手術の実施

検査

診察・診断 看護

バリアンス監視

検証治療方針の見直し要

退院可

入院治療

必要医療物品類の

発注

受入検査

不適合品の管理・識別管理・

トレーサビリティ(関連全部門)

物品類の納入

退院手続き・退院 * 外来再診へ

* 外来再診へ

入院通院

手術あり手術

なし

問診

退院指導

Peerレビュー

図6.2―7 (1) 品質保証体系図 B

65

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Peerレビュー

外来 受付

検査

必要物品類の発注

受入検査

不適合品の管理・識別管理・トレーサビリティ・保存管理・顧客所有物管理(外来再診だけでなくすべての段階で共通)

物品類の納入

外来再診治療

診療終了

診察・診断

治療

検証

分析

Peerレビュー

看護

終了OK

図6.2―7(2) 品質保証体系図 B

66

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図2 プロセス特定チャート顧客 受付 診療部門 看護部門 支援部門 管理部門 経営者 検査部門 供給者 会議体

新規外来受診

外来 受付 問診 検査

分析

診察・診断

受診結果報告・治療方針検討

入院手続き・受け入れ

診察・診断

検査

分析

治療方針決定 看護計画作成

症例カンファレンス

治療計画の策定

手術準備

了承

手術の実施

検査

診察・診断 看護

バリアンス監視

検証治療方針の見直し要

退院可

入院治療

必要医療物品類の

発注

受入検査

物品類の納入

退院手続き・退院 * 外来再診へ

* 外来再診へ

入院通院

手術あり

手術

なし

問診

退院指導

Peerレビュー

A

AB

B

B

E

F

G

図6.2―8(1) プロセス特定チャート

67

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外来 受付

検査

必要物品類の発注

受入検査

不適合品の管理・識別管理・トレーサビリティ・保存管理顧客所有物管理(外来再診だけでなくすべての段階で共通)

物品類の納入

外来再診治療

診療終了

診察・診断

治療

検証

分析

Peerレビュー

看護

A

B

G

H

図6.2―8(2) プロセス特定チャート

68

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図3 プロセスチャート(1)A.顧客関連プロセス

顧客 受付 診療部門 看護部門 診療技術部門 関連資料ホームページ

看板

受付票カルテ

問診票

カルテレントゲン類

病院情報の入手

来院 受付

要求事項、症状の説明

問診医療サービス要求事項の確認

診察・診断

治療方針検討ピアレビュー

検査結果

診察介助フィジカル・アセスメント

顧客とのコミュニケーション

治療方針決定

informedconsent

図3 プロセスチャート(2)B.検査・査定プロセス

顧客 診療部門 看護部門 診療技術部門 関連資料パンフレット

検査依頼票

カルテ等

検査結果票

カルテ

検査実施決定・説明

承諾 検査依頼 指示受け 依頼票受付

検査実施

検体提出分析

検査説明・検査前準備

(必要時)

検査前準

検査介助(必要時)

診断 判定

図6.2-9(1)顧客関連プロセスチャート

図6.2-9(2)検査・査定プロセスチャート

69

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図 3 プ ロセ ス チ ャー ト(3)C .治 療 計 画 策 定 プ ロ セ ス (入 院 )

顧 客 受 付 診 療 部 門 看 護 部 門 診 療 技 術 部 門 関 連 資 料

アナ ム ネ 用 紙

カル テ看 護 計 画 用 紙治 療 承 諾 書

入 院(外 来 )

入 院 手 続き

問 診フ ィジカル ・ア セ スメン ト

診 察 ・診 断

検 査 結 果

治 療 計 画検 討

看 護 計 画立 案

症 例 カン フ ァレンスピア レビ ュー

治 療 計 画決 定

informedconsent

図3 プロセスチャート(4)図6.2-9(3) 治療計画策定プロセスチャート

D.手術プロセス

顧客 診療部門 看護部門 診療技術部門 関連資料

カルテ指示書

治療承諾書パンフレット

検査結果票

チェックリスト

情報収集用紙

手術記録用紙

                    手術

手術の説明

承諾

術前オリエンテーション術前準備Ⅰ

(呼吸練習、物品)

指示(術前後点滴、検査等)

術前検査

術前準備Ⅱ(前日)術前処置(剃毛・臍処置、腸の清浄化等)

物品確認

検査データの確認

物品再確認術前点滴開始患者状態確認

(バイタル)

術前準備Ⅲ(当日)

手術室看護師訪問(情報収集)

手術室入室

麻酔

手術開始

手術終了

検査

術後診断

手術前の設備準備・点検監視・測定機器の準備・点検

モニタリング(監視・測定)

介助

図6.2-9(4) 手術プロセスチャート 70

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図3 プロセスチャート(5)E.治療プロセス

顧客 診療部門 看護部門 診療技術部門 関連資料カルテ

検査結果票レントゲン類

指示書クリニカルパスプロトコールガイドライン

看護計画用紙看護記録用紙

診断・検査結果その他の患者情報

治療内容検討・説明

承諾

看護ケア・点滴、処置・日常生活援助・観察(監視・測定)

治療・処置

バリアンス監視カンファレンス・ピアレビュー

検査

■薬物療法・指導■食事療法・指導■理学療法・指導

etc.

「治療計画の策定」へ

設備の準備・点検監視機器・測定機器の準備・点検

治療終了

図6.2-9(5)治療プロセスチャート

図3 プロセスチャート(6)F.退院プロセス

顧客 受付 診療部門 看護部門 診療技術部門 管理部門 関連資料

指示書

退院療養計画書退院看護要約書

診療報告書(他院へ)パンフレット

カルテ

請求書

退院指示

退院日決定

退院指導

退院療養計画書

退院看護要約

退院指導を受ける

リハビリ

栄養指導

薬剤指導

カルテを医事課へ送る

医療費計算会計支払い

退院

退院日

図6.2-9(6)退院プロセスチャート

71

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図3 プロセスチャート(7)G.医療物品購買管理プロセス

診療部門 看護部門 支援部門 管理部門 供給者 関連資料

購入要求書

注文書

納品書

物品在庫調査

必要医療物品類の発注

査定

物品類の納入

新規医療物品購入要望

受入検査

OKNG

在庫もしくは使用

*不合格品の処置

図6.2-9(7)医療購買管理プロセスチャート

図3 プロセスチャート(8)H.外来再診治療プロセス

顧客 受付 診療部門 看護部門 診療技術部門 関連資料

受付票

カルテ

外来再診 受付 検査

診察・診断

治療 診療介助

検証

検査

診療終了

治療方針決定・見直し

治療

図6.2-9(8)外来再診療プロセスチャート

72

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6.2.4 医療機関 ISO9001 の教育用テキストの開発 (1)テキスト開発の狙い:

日本で ISO9001 に基づく審査登録を受けた適合組織は現在、29,000 を超えている。

しかし、その内、「医療及び社会事業」の産業分類に該当するのはわずか 140 件、しか

もその大部分は老人介護施設や検診センターでいわゆる病院はまだ 20~30 件にす

ぎない。もともと産業界で発展してきたこの制度の存在そのものが、まだ医療界に

認知されていないことがこの数に表れていると思われるが、一方で、毎日、新聞、雑

誌に関連記事が出、ホテルやレストラン、スポーツクラブにまで広がりつつあるこ

の 制度が、業務の質改善に社会的要求の強い医療界になぜ広がらないの

であろうか。 ISO9001 規格の条文は確かに医療に携わる人には判りにくい。全ての業種に適用可

能であることを標榜しているものの、実際は製造業向けの記述で、そのままでは医療

の分野への適用は難しく、適切な読み替えが必要である。

しかし、そのこと自体は基本的に他のサービス業への適用についても同じ悩みが付

きまとう。それよりもまず、医療の分野では ISO9001 の意図する“システム規格”

の概念になじみがないことが基本にあるように思われる。 医療の固有技術ではなく、確立された技術を適切に提供するための“マネジメント

の技術”についての認識の問題である。 昨年ある病院に ISO9001 を適用するお手伝いをした時に、ISO9001 の規格の意図

について、出来るだけ丁寧に説明し、規格の解釈について話し合ったが、はじめの数

ヶ月は“異質な文化”を押しつけている様で、全く手応えが無かった。 その中で、ある時、医師や看護師、検査技師が集まった会議で、“後工程はお客様”

(自分の業務のアウトプットを受け取って、次の工程を担当してくれる人を自分の

製品を買ってくれるお客様と見立てて、その人の業務がやり易い仕事をして行こう

というTQMの基本の考え方の一つ)について話したときに、話す側が驚くほど、新

鮮に受け止めてもらえた。 このそれほど特別なことではない“後工程はお客様”と言う考え方を、新鮮に受け

取めること自体が医療分野の一つの特質を表している。即ち、病院の中で実施され

ている多くの業務は、職種間をまたがるユニットプロセスの連鎖から構成されてい

るが、一方で病院は高度に専門化された職種の集まりで、職種間に横断的なプロセ

スアプローチの考え方が希薄である様に思える。

そこで,本テキストを編集するに際して次のことをポイントに置いた。 ①出来る限り病院関係者にとって身近な医療の事例で説明すること。 ②インシデント・アクシデント等の医療の抱える課題が“プロセスを管理すること”

に直結していることが理解できるものであること。 ③ ISO9000 への取組みは「医療サービスを構成するプロセスを整理し,それを管

理する体制を整備すること」であることが読み取れること。

73

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“プロセス指向”、“PDCA”の必要性が ISO9001 への取組みの中で理解出来る

こと。 ④ ISO9000 への取組みは病院の質管理体制の整備を組織的に進めるための道具で

あって、「審査登録」が目的では無いことを明確にすること。 (2)「医療機関 ISO9001 の教育用テキスト」の構成内容

表6.2-2は「医療機関 ISO9001 の教育用テキスト」の目次構成を示す。

表6.2-2(1)「医療機関 ISO9001 の教育用テキスト」の目次

医療の質改善

・・・病院における ISO9000 の有効活用・・・

Ⅰ・医療サービスの質とそのマネジメント

1、人・組織・プロセス・システム

2.ISO9000

Ⅱ.質改善を進めるには

1.質改善のための基本の考え方

2.基本な考え方の実践

2-1 ある病院での事故事例分析の経緯

2-2 プロセス図と事故報告書

3.事故事例の分析

3-1インシデントとは

3-2事例分析のための準備

3-3プロセスに着目した分析方法

3-4分析のための組織

3-5SHEL モデルの活用

4.標準化とその意義

4-1標準とは

4-2標準によるマネジメント(改善)の基本

4-3ISO9000 の活用

4-4標準としてのクリニカルパス

5.人は誰でも間違える

5-1人的ミスに対する組織的対処

5-2エラープルーフ

Ⅲ.ISO9000及び審査登録制度の概要

1.ISO9000 とは

1-1ISO9000 ファミリー規格の構成

1-2ISO9001 の要求事項の内容

2.審査登録制度とは

2-1審査登録制度の枠組み

2-2審査の方法

74

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表6.2-2(2)「医療機関 ISO9001 の教育用テキスト」の目次

Ⅳ.ISO9000 を取込んだシステム整備の進め方

1.導入宣言

2.推進体制の構築

3.マスタープランの作成

4.教育訓練及び広報

5.審査登録機関の選定

6.医療サービスを構成するプロセスの整理

6-1現状の業務実態の整理

6-2病院システムの全体像の整理

6-3インシデント・アクシデントレポートの解析とプロセス図への反映

6-4質方針・目標の設定とシステム自体のPDCA

6-5質管理体制整備の全体図

7.ISO9001 の規格要求事項との対比によるシステム整備課題の抽出

8.品質マニュアル作成

9.内部監査

9-1内部監査とは

9-2内部監査員の養成

9-3内部監査の実施手順

10.予備審査

75

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6.3 実地評価

6.3.1 東京衛生病院におけるQMS導入経過

(1)東京衛生病院の概要

東京衛生病院の概要は以下のとおりである。

・昭和4年5月1日開院(宗教法人セブンスデーアドベンチスト教団)

・診療科:内科、外科、産婦人科、小児科、眼科、歯科、リハビリテーション科

緩和ケア(ホスピス)病棟、人間ドック、訪問看護ステーション併設

188床

・職員数:約400名

・2002年10月21日 財団法人日本医療機能評価機構の機能評価認定取得

・所在地 東京都杉並区天沼3-17-3

・URL http://tokyoeisei.com

東京衛生病院では、2003 年 12 月の審査登録を一つの目標にして ISO9000 を活用した

質管理体制の整備に取り組んだ。2003 年 1 月のキックオフ以降約 2 ヶ月を経過し、業務

実態の整理が順調に進みつつある。当面の予定は、 ISO9001 の規格要求事項には一切触

れず、病院業務を構成するプロセスの整理を通じて、「プロセス指向」「PDCA」の必

要性を自覚してもらうことに重点を置きながら進める。6 月頃までに現状の実務プロセ

スの整理を終え、以後、規格要求事項と対比してシステムの補強を進めていく予定であ

る。

(2)QMS導入経過-指導会実施記録

現状までの実施内容を以下に示す。

第 1 回 2002年12月17日 17:30~19:30 狙い:ISO9000についての概略の理解 実施内容:ISO9000 と審査登録制度について講演、質疑 資料:パワーポイント「ISO9001 と審査登録制度」-国際規格に則した質管理システムの整備-

院長,副院長他約 50 名参加

第 2 回 2003年 1月15日 17:30~20:00

狙い:システム整備の進め方について説明及び品質マネジメントシステムの必要性、

標準化の必要性についての自覚を促す為の課題の提示

資料:テキスト原稿Ⅳ章(案)

推進計画策定のモデル

プロセス図の書き方と事例

実施内容:

①推進体制の確認 事務部長を委員長に医局長、看護部長他 7 名(注記:その後必

76

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要を感じ 12 名(他に事務局 2 名、いずれも兼任)に増員)からなるプロジェクト委

員会が発足した。

②マスタープランの作成 資料に事例を参考に、まず概略のスケジュールをさだめ、

随時、具体的な実行計画を付記し実行管理することを提案した。

③教育/広報の体制 全員参加の状況にしていくために、簡単な“院内報”の作成

を提案した。

④プロセス図の作成 投薬のプロセスについて、東京衛生病院の実態を聴取しなが

ら白板にプロセス図を作成することにより、プロセス図の書き方の習得を図った。

⇒医局長、看護部長他から活発に発言があり、病棟によって微妙にプロセスが異な

ることなどが認識され、プロセス図を書くことの意図について理解が進んだ。

次回までに、代表的なプロセス 与薬プロセス(服薬、注射薬)、CT検査、等に

ついてプロセス図を作成することとした。

⑤インシデント、アクシデントのレポートの確認 投薬の量の間違えの事例を確認

し、上記のプロセス図のさまざまなステップでの問題の連鎖で事故に繋がっている

事が認識された。

第 3 回 2003年 1月29日 18:00~20:30

狙い:単位業務のプロセス図の作成とプロセスを整理し,可視化することの意義の

自覚

資料:別紙「ISO9001 を活用した質管理体制の整備の全体構想」

テキスト第 2 章「質改善を進めるには」の一部

実施内容:

①病院の各部署の作成したプロセス図について討議・検討

看護部:内服薬投与、注射

医事科:カルテ管理

放射線科:CT検査,一般撮影業務

ハウスキーピング課:感染症発生時の清掃

上記のプロセス図が提示された。

日ごろ実施している業務でも、書いてみると曖昧なところ、疑問なやり方が見える

ことを体験できた。プロセス図を書いてみることが意外に大変であることをあらため

て認識できたようであった。 ②「ISO9001 を活用した質管理体制の整備の全体構想」に基づき今後のシステム整

備をどのように進めるかを説明した。単位業務のプロセス図の作成からスタート

したシステム整備の進め方について理解された。

③テキストの内容説明、質改善の重要な考え方:「PDCA」、「重点指向」、「事

実による管理」、「プロセス指向」についてテキストを読み、説明した。

第 4 回 2003年 2月10日 18:00~20:00

狙い:1)単位業務のプロセス図の作成とプロセスを整理し、可視化することの意義

77

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の自覚

2)病院システムの全体像の整理→「品質保証体系図」の理解

3)インシデント・アクシデントの発生と「プロセス図」の関係の理解

配布資料:品質保証体系図及びサブプロセス図のモデル

内服薬のプロセス図に対する問題点,疑問点の提示

テキスト第 2 章続き・・・事故事例の分析、インシデントとは、

プロセスに着目した分析方法,SHEL モデルの活用

実施内容:

①前回提示された内服薬のプロセス図に対する不明確事項の提示と討議

多くの部門から自部門の業務について「プロセス図」が提示されたが、未だ、業務

の流れを的確に表現したものになっていない。

内服薬の与薬手順を例に明確にすべき事項を提示して質疑を行った。

②品質保証体系図の説明・・・東京衛生病院版の検討依頼

③テキスト第 2 章の読み合わせと解説

「PDCA」、「重点指向」、「事実による管理」、「プロセス指向」についておさら

いとインシデント・アクシデントの解析の事例を通して「プロセス図」との関係の

解説などを行った。

第 5 回 2003年 2月25日 18:00~20:00

狙い:1)東京衛生病院版の「品質保証体系図」の検討・・・病院システムの全体

像の把握

2)単位業務の「プロセス図」の作り方の習得

3)標準化の意義についての理解

資料:「品質保証体系図」の検討のためのたたき台

「感染症発生時の処置手順」「超音波検査実施手順」の「プロセス図」の問題

点、疑問点

テキスト第 2 章の続き ・・・標準化について

実施内容:

①“東京衛生病院版“品質保証体系図の検討・・・講師側から提示したモデルとほ

ぼ同じで,病院の特長が見えない。もう少し肉付けをし、又、個々のステップで引

用される規定類を明記して見ることを提案した・・・病院システムの全体像が整理

されるには、未だ数回の検討が必要である。

②前回提示された「プロセス図」について資料により検討。・・・「プロセス図」の

作り方、及び作ることの意義について大略理解された。

プロジェクト委員長より各部門で更に担当業務の「プロセス図」を書いてみるこ

とが指示された。

③標準化の意義についてテキストに基づき説明。

・テキスト読み

78

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6.3.2 医療版ISO9001適用指針等の適用性評価

(1)ISO9001 規格の医療機関への読み替え版の概要書・解説書

ISO9001 規格の医療機関への読み替え版の概要書に関して、水戸総合病院の ISO9001

認証取得時にQMSの構築に当たった経営トップおよび推進チームのリーダーの意

見・感想を調査した。意見・感想を調査した経営トップおよび推進担当者は、ISO9001

に基づくQMSの維持管理に当たるとともに、ISO9001QMS を超えて更なる発展に挑戦し

ている。こうした段階で以下のような意見・感想を得た。

病院のあるべき姿として大変有意義であり、今後のQMSの維持管理およびQMSの

改善に大変有効であるとの評価を得たが、次の点の指摘もあった。

①ISO9001 のレベルとTQMのレベルがやや混在しているような感がする。

②したがって、医療機関への読み替え版の内容を、ISO9001 のレベルとその先(TQM9000

のレベルと考えられる内容)とを区別することによって、QMSの改善に有効に活用

することができる。

(2)医療版ISO9001の適用指針

(ⅰ)適用指針評価の方法

東京衛生病院へのQMS導入は、適用指針および教育テキストを使用して、5回の

セミナーを開催して行われた。セミナーは、6.2.1項(医療機関ISO9001

適用指針の開発)の導入手順に沿って行われた。5回のセミナーでは、単位業務のプ

ロセスフロー図の作成と病院システムの全体像の整理に主眼がおかれた。

受講された方および推進チームのメンバーにとってどのような効果があったのか、

講師の狙いが達成されたのかを以下の評価項目に関して調査した。

a.単位業務の「プロセス図」の作成について

①目的、意義の理解

②記述方法,内容の理解

b.病院システムの全体像「品質保証体系図」の作成について

①目的、意義の理解

②記述方法,内容の理解:

c.質管理体制整備の全体の進め方について

調査は、各職場のリーダー(事務部長、総務課長、牧師部長、放射線科長、ハウスキ

ーピング課長、検査科長、栄養科長、看護部長、医事課長、企画広報課長 )と院長およ

び推進チームリーダーの12名の会合にて、意見・感想を伺うことにより実施した。

(ⅱ)調査結果

12名の意見・感想を前項の項目に従って、表―6.3-1に整理した。

79

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改善点の提案は出されたが、特に悪い点の指摘は出されなかった。

表―6.3-1 評価項目に対する意見・感想(良かった点)

評価の項目 良かった点

① 1)自分の業務の質とは何かを考えるのに非常に役立った。

2)これまで文章では書いたことがあったが、フロー図にすることによって

課題・問題が見えてきた。

3)フロー図・体系図を作成することによって、質とは (効率、安全、患者さん

の元気など)何かが分かって来た。

a.

② 1)どの程度まで(細かく)記述すれば良いかが分からなかったが、大きく

捉えることの大切さも分かった。

① 1)部門ごとの業務フローが作成されると、部門間の関係が見えて来る。

2)部門および部門間相互にやるべき業務が見えて来る。

予約業務の重複、目標を持ち業務を分析すること等

b.

② a.の②と同様

c. 1)一般的な「品質保証体系」を持ち込むのではなく、この病院の理念・独

自の特徴を出し、狙いとする質を実現するにはどのように、具体的に進

めていけば良いかをあらためて考える機会を得た。

2)患者さんから見て、質保証がなされていることが見える体系にする必要のあ

ることを実感した。

3)外部コンサルタントのセミナーであれば、品質方針の作成から始めることに

なっただろうが、今回、業務を見直し、フロー図を作成するところから入り、

全体像を把握することから始めたのは非常に良かった。

(ⅲ)評価結果

ISO9001 の病院への導入に際して留意すべきは、「プロセス指向」および「PDCA

(P:Plan、D:Do、C:Check、A:Action)」の考え方を業務の中で実践すること

の大切さを自覚して貰うことである。こうした考えから、病院の各部署が取り組んで

いる業務の実態を自分で整理して、それを目に見える形にするために業務フローを作

成するところから導入教育は始められた。

前項の調査結果から判断して、6.2.2(2)項で示した適用指針の導入手順:

①単位業務のプロセスフロー図の作成

②病院システムの全体像の整理

③インシデント・アクシデントレポートの解析と業務手順(プロセス図)への反映

④品質方針・目標の設定とシステム自体のPDCA

⑤病院システムの全体像と規格要求事項の対比確認

の5ステップの内、①および②の実証を開始してみたところ、予想した通り病院では、

PDCA、或いはプロセス指向のような考え方になじみが無いことがわかった。 したがって、先ず、自らが毎日実施している身近な業務の手順を可視化してみるこ

と、その手順に基づいて業務を実施してみて、手順そのものを修正すること等を指導

80

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し、体験をしてもらった。このことは、病院関係者にプロセス指向の考え方を持って

もらうという ISO9001 適用において重要な点を達成する上で、意味のあることであっ

た。こうした一連の活動は、ISO9001 を使って、有効な QMS を構築する場合の不可

欠な基盤になる。こうした意味から、ここで提案した適用指針の妥当性はこの段階で

も検証され、導入教育のねらい・進め方について適用性が確認できたと言える。

しかしながら本当の成果は、感想・意見の中にもあったように、お客様である患者・

その家族が病院の質保証に満足したときであり、そのためには、審査登録後、或いは

その後の数年の中で,整理・構築されたシステムの運用による顧客 (患者 )満足の変化

を見なければならない。

今後もこの適用指針のステップに沿って、業務に密着したQMS構築の活動を続け

る必要がある。

(3)医療版品質保証体系図(含むプロセスチャート)

(ⅰ)評価方法

a.東京衛生病院の導入教育での評価

東京衛生病院のセミナーで使用した“教育テキスト”の中に、品質保証体系図お

よびプロセス図を紹介した。セミナーにおいて、単位業務のプロセスフロー図の作

成と病院システムの全体像の整理を行う段階では、先ずこの品質保証体系図および

プロセス図を参照して、担当する部門の業務フローを作成する作業を始めた。

受講された方および推進チームのメンバーの意見・感想を聞き、その中から品質

保証体系およびプロセスフローに関する評価をまとめた。

b.水戸総合病院における評価

水戸総合病院の ISO9001 認証取得時にQMSの構築にあたった経営トップおよび

推進チームのリーダーの意見・感想を聴取した。

(ⅱ)品質保証体系およびプロセスフローに関する意見

a.東京衛生病院の意見

病院の各部門の業務を見直し、病院全体の中での自部門の役割および他部門との

関連を把握するためには、品質保証体系図および単位業務のフロー図作成への挑戦

は、大変有効であった。その際、提示された品質保証体系図およびフロー図は、作

業のきっかけとして、QMSの構築に有効に適用できるが、以下の意見を得た。

①一般的な「品質保証体系図」を持ち込むのではなく、この病院の理念・独自の

特徴を出し、品質保証体系図およびフロー図を作成する必要がある。

②患者さんから見て、質保証がなされていることが見える体系にする必要のある

ことを実感した。

b.水戸総合病院の意見

①このようなチャート(品質保証体系図およびプロセスフローなど)を作成した

かったが、当時作成することが出来なかった。作成する知識がなかった。

②業務の流れを整理するには有効である。

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③肝心の“治療のプロセスの詳細さ”が不十分である。

④今後のQMSの維持管理およびQMSの改繕に大変有効である。

以上の意見から、ここで紹介した品質保証体系図及びプロセスフロー図は、適切

な指導の下に紹介することによってQMSに馴染みのない病院関係者にとっても、

業務の流れを可視化し体系的に把握する上で有効なツールとなりうることがわかっ

た。

6.3.3 医療機関ISO9001教育用テキストの教育効果の評価

(1)教育効果の評価方法

東京衛生病院へのQMS導入は、教育テキストを使用して、5 回のセミナーを開催し

て行われた。セミナーは、6.2.4項(医療機関 ISO9001 の教育用テキストの開発)

に示した「教育用テキスト」を使用して行われた。

5 回のセミナーでは、テキストの2章に示した“質改善を進めるには”を中心に、

①改善のための重要な考え方

②事故事例の解析(インシデント・アクシデントの解析)

③標準化

に関する講義を行った。

受講された方および推進チームのメンバーにとって、教育テキストは適切な内容であ

ったか、講義の進め方は良かったどうか等の効果に関して、以下のように調査した。

調査は、適用指針と同様に、各職場のリーダー(事務部長、総務課長、牧師部長、放射

線科長、ハウスキーピング課長、検査科長、栄養科長、看護部長、医事課長、企画広報

課長)と院長および推進チームリーダーの12名の会合にて、意見・感想を伺うことに

より実施した。

(2)調査結果

(ⅰ)テキストの内容について

a.良かった点

①部の目標に「インシデント解析」を取り上げようと考えるようになった。

②作業標準の作り方に関しても、作る側(自分達)と供に、受ける側(訪問者)

のことを考えることの重要さを知った。

③病院内の広報誌に、テキストの内容紹介を継続的行う題材として活用したい。

b.今後改善を期待する点

①文章が多いので理解に時間がかかる。もう少し図やフローチャートで説明して、

見たときに概要が理解できるようにして欲しい。

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(ⅱ)講義の進め方について

a.良かった点

①テキストを使ってQCの基本をわかり易く講義された。

b.今後改善を期待する点

①テキストを講義の前に貰いたい

②講義の最後にテキストを朗読したが、最初に朗読して貰った方が良かった。

③朗読のみでなく解説および質問の時間が欲しかった。

④全体的なスケジュール(今後することになること、マイルストーン)を示して

貰うと良い。

(3)評価結果

ISO9001の病院への導入に際して留意すべきは、「プロセス指向」および「P

DCA」の考え方を業務の中で実践することの大切さを自覚して貰うことである。こ

うした考えから、セミナーに使用する教科書(6.2.4項(医療機関ISO900

1の教育用テキストの開発))には、 病院の中で実施されている業務の事例を取り上

げた。担当者の説明に出てくる多くの業務は、職種間をまたがるユニットプロセスの連

鎖から構成されていて、高度に専門化された職種の集まりであるにもかかわらず、職

種間に跨る横断的なプロセスアプローチの考え方が、希薄であるように思われ、テキ

ストの構成、導入教育の進め方に関して、以下の3点に留意した。

①出来る限り病院関係者にとって身近な医療の事例で説明すること。

②インシデント・アクシデント等の医療の抱える課題が“プロセスを管理すること”

に直結していることが理解できるものであること。

③ISO9000 への取り組みは、医療サービスを構成するプロセスを整理し、それを管

理する体制を整備すること

実際の講義では、改善のための重要な考え方としての“管理とは”、“プロセス指向

とは”、“重点指向とは”および“事実に基づく管理とは”の 4 点について、医療の事

例で説明した。その結果、このような改善のための考え方が、実際のインシデントの

解析・再発防止を実施する中で重要であることの理解が進んだ。

このことが、適用指針の最初のステップとして、単位業務のプロセス図を作成する

ことの狙いおよび意義の理解にも繋がり、導入のステップが順調に進んだ。以上のこ

とから、本調査研究で試作した教育用テキストの ISO9001 適用上の教育効果は達せら

れたと言える。 しかしながら、テキスト内容が理解しにくいこと、講義では、テキストの内容の朗

読のみでなく、解説と質問の時間が必要であること、教育全体のスケジュール(今後

の実施内容およびマイルストーン)を事前に示して欲しいなどの指摘も出された。 次年度以降これらの評価・指摘事項を取り入れ、医療現場の問題に取り組みながら

テキストの内容の成熟度を高めること、講義の進め方を改善することが課題である。

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6.3.4 改善点の整理

(1)ISO9001 適用指針に関連する改善点

「ISO9001 適用指針」は、大きくは前半の「病院への ISO9001 導入の課題」と、後半

の「病院における ISO9001 の導入手順」の2つのテーマから構成されている。前半部

分は、主に考え方に関するものであり、特に大きな改善点は指摘されなかった。

後半は、本論である「導入手順」を次の5つのステップをガイドしている。

ステップ1:単位業務のプロセスフロー図の作成

ステップ2:病院システムの全体像の整理

ステップ3:インシデント・アクシデントレポートの解析と業務手順への反映

ステップ4:品質方針・目標の設定とシステム自体のPDCA

ステップ5:病院システムの全体像と規格要求事項の対比確認

現在はこのうちのステップ1~2の段階が終了し、3の段階に入ったところであり、

ここまでのところでは、病院側からは特に改善点についての意見は上がっていない。

この内容そのものについては特に修正の必要はないものと判断している。しかし、追

加する改善点として以下の事項が考えられる。

(ⅰ)この5つのステップはシステム構築・運営の前半段階で実施すべき内容である

が、システム構築・運営の全体の計画が見えるようになっていて、その中でどの位

置にあるのかがわかるようにしておいたほうがよいであろう

(ⅱ)ステップ5の段階、およびこの後の品質マニュアル整備などの段階で必要とな

ってくる、病院業務と規格要求事項との対応のさせ方を、例示などでガイドをする

とわかり易い。

(2)テキストについて

テキストについては、おおむねよい評価であったが、以下のような改善要望意見もで

ている。

・文章が多いので、図表やフローチャートなどを活用してわかりやすくしてほしい

・テキストを事前にもらいたい

・解説および質問の時間がほしかった

・講義の早い時間帯にテキストを学習したほうがよい

これらの評価結果およびこれを使用して講義していく中で気がついた改善点は以下

のとおりである。

(ⅰ)よりビジュアルなものにして、直感的に理解をしやすくする工夫をこらす

(ⅱ)テキストの章(場合により節・項)により、どの時期にどんな人たちに講義すれ

ばよいのかをガイドしておく

(ⅲ)標準的な「カリキュラム」や「講義進行表」を作成しておいて、院内において

自分たちでも教育ができるようにしておく

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(3)品質保証体系図と関連プロセスチャートについて

これに関する改善点は以下のとおりである。

(ⅰ)「品質保証」という観点からすると、特に重要なポイントとなる「治療」プロセ

スのもう一歩踏み込んだ記述が必要である

(ⅱ)病院のタイプに応じたいくつかの種類の「品質保証体系図」を準備しておくと、

適用させやすい

(ⅲ)病院側の ISO9001 の理解度に応じて、ISO9001 の要求事項との関連がわかるよ

うにしていく(理解度に応じた段階的な保証体系図が必要かもしれない)

(ⅳ)(ⅲ)に関連して、どの時点で、どんなことを目的に、どのように使用するかの

ガイドもつけておいたほうがよい

いずれにしても、これらについてはまだ開発されたばかりで日が浅く、今後さら

にいくつかの病院に適用させていくことで、内容を充実させていく必要がある。

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7.本事業実施により判明した課題

7.1 本事業の実施成果 (1)品質マネジメントシステムに関する調査の成果

(ⅰ)医療機関における質と顧客満足度およびそれを実現した マネジメントシステムの例 a.医療における質に関する比較的理解しやすい考え方として、これを技術的要素、

人間的要素、アメニティという3つの要素から考える方法である。そして、この医

療の質を評価する最も代表的な方法が「患者満足度」を調査する方法であり、最近

はこれを評価する医療機関も増えて来ている。 b.医療の質の評価対象として、医療サービスを、①構造 (structure)、②過程

(process)、③結果(outcome)として捉える方法が一般的であり、これらについての

評価もすでに試みられてきている。現在行われている、「医療機能評価制度」は、

このうちの①をベースとしたもので、ISO9001 の評価は②を中心とした評価と言え

よう。 c.水戸総合病院では、この①及び②の評価を受け、ISO9001 のマネジメントシス

テムを構築し運営することを優先させ、これに成功事例を見ることができた。 d.手順書や記録類を再構築することによりチーム医療の質確保に貢献させたこと、

院長の方針の元に各人が目標を持った取り組みをする体制を築き、より一層の患 者さまの立場に立った医療の質向上を図ることができた、などの好結果を得ること

ができた。

(ⅱ)航空・鉄道、東京ディズニーランドおよび病院建築における顧客満足 a.航空業界におけるお客様満足のために徹底したマニュアル化と教育の実施、東

京ディズニーランドの売りものは「ハピネス」であり、その実現ための徹底した教

育と仕掛けの存在など、顧客満足の確保の背後にある「教育」とその「システム(仕

掛け)」の存在の重要性を教えてくれた。 b.病院建設の顧客満足度調査の事例では、患者満足の大きな要素として病院のア

メニティが重要な役割を果たすことが病院の満足度調査によって改めて認識した。 c.サービス業および病院建設における顧客満足の追求のし方は、それぞれの業種

や顧客の特徴によって異なるが、顧客を知ることおよび提供すべきサービスを知る

ことが何より重要であることが明らかとなった。

(ⅲ)ISO9001 適用上の問題点と医療版 ISO9001 適用指針

a.ISO9001 は、前項(ⅰ)、(ⅱ)で述べた「顧客満足」を目的としたものであり、

過程(process)を重視した評価である。また、ISO9001 の本質と医療機関の実態か

ら判断して、ISO9001 の導入により、管理システムの整備による「医療技術の十分

な発揮」、医療過誤防止のための「基本動作の徹底」と「コミュニケーションの徹

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底」、プロセスアプローチによるチーム医療業務の質向上など、医療の質向上のた

めに効果が十分期待できることがわかった。 したがって、本事業のめざす ISO9001 の医療の現場への適用の有効性はあるもの

と判断される。

b.医療の場に ISO9001QMS を効果的に導入するには、次のようなガイダンスが有

効である。そこで、本事業では、以下に示す導入のガイダンスを開発することとし

た。 ①医療版 ISO9001 適用指針 ②医療版品質保証体系図と関連するプロセスチャート ③医療版 ISO9001 の教育用テキスト

(2)医療版 ISO9001 適用指針等の作成と評価結果

他の機関において既に開発された ISO9001 規格の医療機関への読み替え版(同概要版

および解説:6.2.1項に記述)を参照し、適用指針、医療版品質保証体系図および

教育テキストのそれぞれを開発した。各開発成果は、6.2節に記述されている。 この開発成果を活用して、東京衛生病院への ISO9001 導入教育セミナーを行い、合わ

せて開発成果に対する評価をセミナー参加者および推進チームから受けた。導入教育セ

ミナーの実施経過は、6.3.1項に記述されている。 また、水戸総合病院へは、読み替え版および品質保証体系図に対する意見・感想を求

め、ISO9001QMS の認証取得後の品質向上への方策を討議した。以下に、両病院から

受けた評価の結果を要約した。

(ⅰ)医療版 ISO9001 適用指針

病院の各部署が取り組んでいる業務の実態を自分で整理して、それを目に見える形

にするために業務フローを作成するところから導入教育は始められた。

6.2.1で示した適用指針の導入手順:

a.単位業務のプロセスフロー図の作成

b.病院システムの全体像の整理

c.インシデント・アクシデントレポートの解析と業務手順(プロセス図)への反映

d.品質方針・目標の設定とシステム自体のPDCA e.病院システムの全体像と規格要求事項の対比確認

の5ステップの主としてa.およびb.が実施された段階ではあるが、プロセス指向

およびPDCAの考え方を業務の中で実践し、業務の実態を整理して目に見える形に

するなど、QMS構築に向かって、この適用指針の有効性が並びに導入教育のねらい・

進め方の妥当性が評価されたと考えられる。

(ⅱ)医療版品質保証体系図と関連するプロセスチャート

a.東京衛生病院の意見

品質保証体系図および単位業務のフロー図の作成への挑戦は大変有効であった。

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その際、提示された品質保証体系図およびフロー図は、作業のきっかけとして有益

ではあったことが、意見聴取にて明らかにすることが出来た。

b.水戸総合病院の意見

業務の流れを整理するには有効であるので、このようなチャート(品質保証体系

図およびプロセスフローなど)を作成したかったが、ISOの認証取得時には作成

することが出来なかった。しかしながら、今後QMSの維持管理および改善には、

こうしたガイダンスは大変有効である。

(ⅲ)医療機関 ISO9001 の教育用テキスト

ISO9001 の病院への導入に際して留意すべきは、「プロセス指向」および「PDCA」

の考え方を業務の中で実践することの大切さを自覚して貰うことである。 こうした観点から下記の方針にてテキストを作成したことは効果的であった。

a.出来る限り病院関係者にとって身近な医療の事例で説明する。 b.インシデント・アクシデント等の医療の抱える課題が理解できるものである。 c.ISO9000 を医療の場への導入するためには適切なガイダンスが必要である。

(3)実地評価の成果

受講された方および推進チームのメンバーにとってどのような効果があったのか、

講師の狙いが達成されたのかについての評価の結果、以下のような成果を得た。

(ⅰ)ISO9001 の病院への導入に際して留意すべきは、「プロセス指向」および「P

DCA(P:Plan、D:Do、C:Check、A:Action)」の考え方を業務の中で実践

することの大切さを自覚して貰うことが出来た。

(ⅱ)病院の各部署が取り組んでいる業務の実態を自分で整理して、それを目に見え

る形にするために業務フローを作成することによって、業務の実態や部門間の役割、

品質とは何かが分かるようになった。

(ⅲ)ISO9001 QMS をより有効に活用し、病院独自のQMSを構築する基礎が出来た。

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7.2 実施結果より判明した課題 (1)ISO9001適用指針に関連する課題

「病院における ISO9001 の導入手順」の5つのステップのうち、ステップ1~2の段階

が終了し、ステップ3の段階に入ったところであり、ここまでのところでは、実地評価

の段階では、特に改善点は明確に提示されていないが、以下の追加の事項が考えられる。 (ⅰ)この5つのステップはシステム構築・運営の前半段階で実施すべき内容であるが、

システム構築・運営の全体計画が見えるように、その位置付けがわかるようにする。 (ⅱ)病院業務と規格要求事項との対応および例示などが、ステップ5の段階およびこ

の後の品質マニュアル整備において必要となってくる。 (2)導入教育テキストのレベルアップの課題 導入教育テキストについては、おおむねよい評価であったが、以下の要望意見があり、

内容・表現のレベルアップを図る。 (ⅰ)図表やフローチャートを活用して、一見して分かるテキストとする。 (ⅱ)セミナーに使用するテキスト類の事前配布など、セミナーの実施内容を改善する。 (ⅲ)標準的な「カリキュラム」や「講義進行表」を作成し、受講者の自己学習を可能

にする。 (3)医療版品質保証体系図と関連プロセスチャートの作成とレベルアップの課題

(ⅰ)「品質保証」という観点から、特に重要な医療プロセスに関してプロセスチャート

を作成する。 (ⅱ)病院のタイプに応じた「品質保証体系図」を準備する。

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8.今後の実施計画案

8.1 本年度実施結果より判明した課題への対応 (1)ISO9001 適用指針の成熟度の向上

「病院における ISO9001 の導入手順」の5つのステップのうち、ステップ1~2の段

階が終了しており、ステップ3より段階に応じて、以下の事項を実施する。 (ⅰ)システム構築・運営の全体計画が見えるように、その位置付けを明確にする。 (ⅱ)病院業務と規格要求事項との対応および例示を作成する。

(2)導入教育テキストのレベルアップ 図表やフローチャートを活用して、一見して分かるテキストに改良すると共に、 標準

的な「カリキュラム」や「講義進行表」を作成し、受講者の自己学習を可能にする。 (3)医療版品質保証体系図と関連プロセスチャートの作成とレベルアップ

(ⅰ)「品質保証」という観点から、特に重要な医療プロセスに関してプロセスチャート

を作成する。 (ⅱ)病院のタイプに応じた「品質保証体系図」を準備する。

8.2 ISO9001から

TQM9000へのファーストステップモデルの提案

今回の実証作業を通じて得られた成果をベースとして、医療版 ISO9001QMS の構築およ

び ISO9001 認証取得後の QMS の維持管理にも活用することが出来る。

しかしながら、6.1.3(1)(ISO9001 の本質)において述べたように、ISO9001QMS

は、「品質保証+α」であり、「品質保証」のためのシステムである。

また、ISO9001QMS では、「結果の評価」は期待できないので、自らの努力でこれを補

う必要があることを6.1.3(2)(ISO9001 の本質の医療への適用)で述べたように、

真の顧客満足を達成し、組織・企業の社会的使命を果たすためには、品質の領域を拡大

し、品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)の維持・改善の方法を工夫する

必要がある。

このような「医療の質保証のためのマネジメントシステムモデル」への要求には、

ISO9001QMS を超えた「ポスト ISO9001 マネジメントシステムモデル」である、総合的品

質管理(TQM)の基本を取り入れた品質マネジメントシステム、即ち「TQM9000QMS モデ

ル」が有効である。

こうした ISO9001 から TQM9000 のファーストステップモデルを新たに提示し、病院で

の実証研究を実施する。実証研究のスキームの例を図8.2―1に示している。今後実

証対象の病院関係者との十分なる討議を行い、医療の質保証のための新しいQMSの構

築方法を調査し、実証する。

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8.3 実証作業のさらなる実施 本年度事業では、これから ISO9001QMS 構築に挑戦する東京衛生病院と、ISO9001 の認証

後、新たなQMSへの改善に取り組む水戸総合病院の2病院であった。これらの2病院に

おいては、本年度の課題の継続並びに前節で示した新たな課題の実施を次年度も継続して

行う計画である。

さらに、次年度は、実証作業をより確実にするため、(財)日本医療機能評価機構の評価

を既に受け、新たなQMSの構築を志向しているトヨタ記念病院を加えて、3病院にて実

証作業を行う計画である。

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自己評価結果

TRQ0006評価基準

医療機能評価基準

医療機能評価基準への対応

ISO-水戸院対応

当調査

図8.2-1

水戸総合病院

QMSへの期待に対する構築後の

ギャップ分析

効果と問題点の抽出

QMS改善の方向とテーマ抽出

ISO9000本質/TQM9000解説

医療版ISO9000導入テキスト

(TQM部分のみ)

QMS改善活動

医療読替え版(作成中)

医療読替指針

医療版TQM9000発展表

TQM9000・実施ポイント・ステップフロー図

(?)

医療版TQM9000開発

検       証

総合病表

医療版品質保証体系図プロセスチャート

水戸総合病院における ISO9001 を超える質向上のためのスキーム

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