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20 Medical Network 68 3 生物学的製剤の説明は 看護師が中心となって担う 2010年、川崎医科大学にリウマチ ・膠原病科が開設された。2012年に は、守田吉孝先生が同科教授に就任 し、すぐに皮膚・運動器センターに 加わることとなった。 腎臓内科でリウマチを診察してい た時代から、守田先生と強力なタッ グを組んできた日本リウマチ財団登 録リウマチケア看護師で看護副師長 の西村瑞穂氏が、皮膚・運動器セン ターでのリウマチ診療の質の高さに ついて話してくれた。 「 診察室が隣り合わせに配置されて いるので、リウマチの患者さんの諸 症状に関して整形外科や皮膚科の先 生方に気軽に相談できます。 まるで『リウマチセンター』のた めに診療体制を構築してもらったか のようなすばらしい環境です」(西 村氏 ) 外来看護師は、センター体制にお いては診療科ではなく、センターに 所属する。よってセンター内の診療 科すべてを担当できることが求めら れる。同院のチーム医療に関する特 徴的な理念が表れている部分だ。 「 皮膚・運動器センターの看護師で あれば、リウマチ・膠原病科、整形 外科、形成外科・美容外科、皮膚科 のすべての外来診療にかかわること になります。仕事に重責を感じてい ますが、こうした環境を経験すると 看護師は飛躍的に成長します」(西 村氏 ) リウマチ・膠原病科では、患者に 対する生物学的製剤の説明や疑問に ついては、看護師が中心となり丁寧 に対応している。そして、患者の勤 務形態や家庭環境、経済状況などを 把握した結果、看護師が別の生物学 的製剤の使用を医師に相談するケー スもあるという。 「 守田先生は、チーム医療をいかに 充実させるかに常に腐心されている 方で、メディカルスタッフへの仕事 の任せ方もとても上手です。 先生の考えで、医師と看護師が同 じフィールドでスムーズに連携でき 川崎医科大学附属病院 医師と看護師が同じフィールドで 活躍できるリウマチ医療チームを構築。 川崎医科大学附属病院は「 患者本位の医療 」推進のため、2010年に診療体制を9つの臓器・機能別センター制に一新した。 同体制では、多職種、特に看護師が科別の縦割りに縛られることなく、センター内のすべての科で横断的に機能する。 中でもリウマチ・膠原病科は、皮膚・運動器センターに属しつつ整形外科、皮膚科、さらには通院治療センターと 有機的な協働を果たし、理想的なチーム医療のかたちを示している。 外来看護副師長 西村 瑞穂通院治療センター/外来看護主任 笹本 奈美

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生物学的製剤の説明は看護師が中心となって担う 2010年、川崎医科大学にリウマチ・膠原病科が開設された。2012年には、守田吉孝先生が同科教授に就任し、すぐに皮膚・運動器センターに加わることとなった。 腎臓内科でリウマチを診察していた時代から、守田先生と強力なタッグを組んできた日本リウマチ財団登録リウマチケア看護師で看護副師長の西村瑞穂氏が、皮膚・運動器センターでのリウマチ診療の質の高さについて話してくれた。「診察室が隣り合わせに配置されているので、リウマチの患者さんの諸

症状に関して整形外科や皮膚科の先生方に気軽に相談できます。 まるで『リウマチセンター』のために診療体制を構築してもらったかのようなすばらしい環境です」(西村氏) 外来看護師は、センター体制においては診療科ではなく、センターに所属する。よってセンター内の診療科すべてを担当できることが求められる。同院のチーム医療に関する特徴的な理念が表れている部分だ。「皮膚・運動器センターの看護師であれば、リウマチ・膠原病科、整形外科、形成外科・美容外科、皮膚科のすべての外来診療にかかわることになります。仕事に重責を感じてい

ますが、こうした環境を経験すると看護師は飛躍的に成長します」(西村氏) リウマチ・膠原病科では、患者に対する生物学的製剤の説明や疑問については、看護師が中心となり丁寧に対応している。そして、患者の勤務形態や家庭環境、経済状況などを把握した結果、看護師が別の生物学的製剤の使用を医師に相談するケースもあるという。「守田先生は、チーム医療をいかに充実させるかに常に腐心されている方で、メディカルスタッフへの仕事の任せ方もとても上手です。 先生の考えで、医師と看護師が同じフィールドでスムーズに連携でき

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医師と看護師が同じフィールドで活躍できるリウマチ医療チームを構築。川崎医科大学附属病院は「患者本位の医療」推進のため、2010年に診療体制を9つの臓器・機能別センター制に一新した。同体制では、多職種、特に看護師が科別の縦割りに縛られることなく、センター内のすべての科で横断的に機能する。中でもリウマチ・膠原病科は、皮膚・運動器センターに属しつつ整形外科、皮膚科、さらには通院治療センターと有機的な協働を果たし、理想的なチーム医療のかたちを示している。

外来看護副師長

西村 瑞穂氏

通院治療センター/外来看護主任

笹本 奈美氏

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る組織を形成していますので、皆が学び、学んだことを実践する。守田先生が展開するリウマチチーム医療には、そんな生き生きとした空気が満ちています。 先生に出会えて良かったと思います」(西村氏)

生物学的製剤の投与も通院治療センターで 同科のリウマチ医療の質を高めているもうひとつの要因が、通院治療センターの存在だ。生物学的製剤の投与に際して点滴静注製剤はおろか皮下注製剤までも、いまだに入院を要する医療機関が存在する中、同院では初回治療から投与のほとんどを通院治療センターで実施している。通院治療センターでは、抗がん剤治療患者が多数を占めるが、生物学的製剤投与患者も全体の約2割に上るという。 同センター所属で外来看護主任の

笹本奈美氏は、長く生物学的製剤投与の中心的役割を担ってきた。「通院治療センターは、2007年に開設しました。それ以前から外来処置室で生物学的製剤の治療を実施する患者さんに私は多くかかわってきました」(笹本氏)

 投与時には、薬剤や治療に関するオリエンテーションを積極的に実施している。 また、初めて通院治療センターを利用する患者には、センター内の設備や特徴を丁寧に説明し患者の不安を和らげるよう努めている。

医師、看護師の同志が集う木曜オリハルコン同好会 守田先生、西村氏、笹本氏の3名は、自然とチーム医療とリウマチ医療に関する理念、理想を共有するようになった。 このような協働関係の集大成のひとつと言えるのが3名がコアメンバーとなって立ち上げた『木曜オリハルコン同好会』だ。医師、看護師、薬剤師が集い、(1)リウマチケア看護師の育成、(2)チーム医療の推進、(3)外来看護の質の向上を目的としたリウマチケアカンファレンスを行う。

西村看護副師長(後列左)と通院治療センター看護スタッフの皆さん

皮膚・運動器センター看護スタッフの皆さん

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 「勉強会」、「教室」といった名称は使わず、あえて、「同好会」とした。「やるからには、尻すぼみで霧散してしまうような活動にはしたくないとの思いから、名称は練りに練りました。オリハルコンは私の尊敬するアーティストの曲名で、開催曜日を印象づけるため名称に木曜を入れました。 また、同好会とするアイデアは、笹本さんの発案です」(西村氏)

「参加者をサークル活動的に取り込むには、『同好会』がふさわしいと思いました」(笹本氏) 2012年11月にスタートした同会は2013年11月の段階で通算6回目を数えた。現在では、参加者50名を超えるまでになっているという。

ディスカッションがあってでき上がるチーム医療 「信頼の絆で結ばれたチーム」。西村氏は、同科のチーム医療をそう

表現する。「守田先生と私たち看護師は、気になることがあったときに、いつでも相談し合える関係です。チーム内のコラボレーションはそうした絆を介して育っていますし、他科とのコラボレーションにも波及しています。リウマチ医療チームが、院内のチーム医療全体を牽引していく。私たちには、そんな使命もあると考えています。 医療者同志が信頼していれば、仕事を楽しむことができます。医療者が楽しさを感じなければ、患者さんにとって良い医療は提供できない。私は、そう思っています」(西村氏) 同院のリウマチ医療で発展を続けるチーム医療の本質について、笹本氏が話を結んでくれた。「チーム医療の秘訣について聞かれることがありますが、チーム医療は意識してつくり上げるものではないと思います。お互いを信頼し、納得いくまでディスカッションし、その輪が広がり、いつの間にか自然にチームができる。これが理想的と思います。 当院のリウマチ医療チームは、まさにその理想どおりのチームであると確信しています」(笹本氏)

DATA

川崎医科大学附属病院所在地:〒701-0192    岡山県倉敷市松島577TEL:086-462-1111(代表)URL: http://www.kawasaki-m.ac.jp/

hospital/病床数: 1,182床( 一般1,154床、精神28

床)*同院ホームページより転載

守田先生(前列中央)とリウマチ・膠原病科の医師の皆さん

木曜オリハルコン同好会の様子