在宅での気管切開の トラブル事例 - 地方独立行政法人 神奈川...
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在宅での気管切開のトラブル事例
小児の在宅人口呼吸器の管理方法と留意点
総合診療科 田上幸治
20200131 KCMC 1
気管切開(開窓)の適応は
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1気道狭窄喉頭軟化症気管軟化症抜管困難症(気管粘膜肉芽)
2 長期人工換気の必要性小児 数か月成人 2-3週間
気管切開術の部位と注意点
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乳幼児期には、甲状腺頬部を裁って気管切開小児期には、甲状腺下部に気管切開
喉頭蓋の機能不全があれば、気切後に唾液・食物の流れ込み→ 気道分泌物が増加→ 誤嚥性肺炎の危険性
さらに「腕頭動脈」がすぐ近くにあることに注意!
気管切開に伴う“デメリット”
1. 喉頭・声帯機能の低下(廃用性萎縮)
→誤嚥の増加 発声が困難
2. 気道抵抗の消失=生理的PEEPの消失
→気管の虚脱→人工呼吸器依存
3. 「イキむ」ことができない
→便秘しやすい 誤嚥しやすい
4. 唾液が気道内に常に流れ込む
→ 誤嚥性肺炎の増加 頻回の吸引
5. 気管カニュレの固定が必須
→ 頚周りが常に締め付けられる
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【症例】水頭症、気管軟化症で在宅人口呼吸管理している11歳女児。【現病歴】
5:00 最終確認(経管栄養を接続した際)7:06 自宅で就寝中の母親が呼吸器、SpO2 モニタアラームにて異変に気付き、救急要請。バギング、胸骨圧迫するが、改善なし。
7:15 救急隊到着。心電図はフラット。7:36 救急車で前医到着前医到着時も心電図はフラット。換気できずカニューレが抜けているのを確認、入れ替え実施。気道確保後顔色紅潮し前医到着後15分で心拍再開を確認(ボスミン3A、メイロン20ml使用)。
気切カニュレの「リスク管理」(1)
1.思いがけず「カニュレが抜ける・詰まる」
ことを前提に
2.呼吸状態が悪化した際は、ただちに
気切ガーゼをはがしカニュレ先端部
が外にでていないか確認
3.予備のカニュレ(1-2サイズ小)を必ず常備
4.気管切開=気道確保が保証される訳ではない。
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唾液の多い児では、気切ガーゼが何枚も重なり、何かのきっかけでカニュレが気管から抜け、ガーゼと皮下の間にはいる。外からは解らない。
気切カニュレに関するここ最近の主な「医療事故」
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・気管切開部から出血を繰り返していた肉芽を、硝酸銀棒で焼灼していたところ、硝酸銀片が誤って、気管内に落ち込んだ。→2週間後に患者(19歳)死亡 <2002年 A大学病院>
・患者 (85)に気管カニュレを使用する際に、男性医師(27歳)が誤って気管 を破るなどしたため、患者が窒息死した。
<2008年 C市民病院>
・気管カニュレを挿入した際に女性内科医(27歳)がスタイレットを抜き忘れ患者は窒息死した。 < 2010年 D総合病院 >
・喉頭気管分離術を行った入院患者に対し看護師が気管切開孔を傷口と誤ってドレシングテープで覆い窒息死させた。
< 2011年 E県立中央病院 >
・抜管困難症の改善のため気管切開術を受けた生後9か月の患者が術後5日目にカニュレの気管からの逸脱によると思われる換気不全を起こし死亡。
< 2012年 F中央病院>
・
医療安全調査機構からの警告
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気管カニュレ交換 (1)
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1.速乾式手指消毒剤後手袋装着
(マスク・ゴーグル・エプロンは必要時に)
2.酸素 SPO2モニター Ambu bag
同型カニュレ(型式確認)
(予備にサイズダウンを1個)
3.仰向け肩枕で、頸部を進展
物品を確認。すぐに手の届く位置に
気管カニュレ交換 (2)
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4.挿入中のカニュレを湾曲にそわせて、そっと抜く。
5.気切孔の確認。肉芽があれば、
気切孔周辺にステロイド軟こう等を塗布
6.新しいカニュレにゼリーを塗布
7. 円弧を描くように挿入。
* 気管内に入るとその刺激で、通常は、咳反射が誘発される
気管カニュレ交換 (3)
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8.スタイレット(内筒)の抜去
ほとんどの場合挿入時に、内筒を必要としない。
内筒を抜いたカニュレを挿入
しても良い。
ただし前かがみで操作するので、
内筒(-)だと、挿入直後の咳反射で、痰の飛散を術者の顔面に受ける恐れがある。
。
気管カニュレ交換 (4)
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9.助手は気管カニュレを固定し
術者は、聴診で呼吸音確認し、
かつ胸郭の呼吸運動を確認。
10.気管内に間違いなく挿入
されていることを確認でき
たら、ヒモ・固定バンドで
頸部に固定する
(指1本が入る程度のゆとり)
緊張(痙性マヒ)の強い小児では気切口が攣縮することも・・
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1. 気切孔下部の皮膚を引き下げ、気切口をしっかりと確認し、2. 児の呼気にタイミングを合わせ、呼気で気切孔が拡がった時にカニュレを挿入すれば容易に気管内へ進んでいく。(気切孔は、吸気時に狭くなり呼気で拡がる)
緊張亢進時(深吸気時)気切孔は固く、狭く
安静呼吸時には気切孔は緩み広く開口
まとめ2 カニュレ交換
・カニュレ交換は極めて安全な例が大半だが、危険度の高い症例もあり、常に細心の注意で
・カニュレ交換のリスク判定を行っておく・低リスク群は、自宅で家人でも安全にできる。・中リスク群は医療スタッフが実施すべき・高リスク症例は、必ず緊急時に備え実施すべき。
・カニュレ交換の頻度は個人差・体調によって、一様ではなく、カニュレ内腔が痰で詰まらない程度に実施 2週~2か月まで様々。
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気管肉芽
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・ 気切孔はもともと「傷」であるため、そこを塞ごうと肉芽が増殖。・ カニュレや吸引カテーテルが始終当たる、気管壁や気切孔周囲は
その刺激のため、肉芽が出来る。・ 肉芽には血管が豊富に分布。 刺激で鮮紅色の出血をする。・ 気切孔の肉芽は、カニュレの再挿入を難しくする・ 気管内の肉芽は気管内出血や気道閉塞の原因となる
・ 現在は、おもにステロイド軟こうを塗布硝酸銀棒→液(20%)で焼灼し治癒を促す
・ 気管壁の肉芽は、アドレナリン・デカドロンの吸入や刺激が加わらないように工夫する
気切孔にできた肉芽
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気切カニュレ挿入にともなう刺激で、しばらくは気切孔に何らかの肉芽ができます。気切カニュレの材質・サイズが不適だと悪化しやすいです
肉芽なし 肉芽 軽~中等度 肉芽 重度
気管全周性にビラン肉芽ヒダ状の肉芽で気道閉塞
気切カニュレ先端部粘膜の肉芽
•気管粘膜に生じた肉芽は、換気を悪化させ
•緊急対応が必要となることもあります
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気切カニュレの「リスク管理」(2)
1.事故(自己)抜去はいつでも起こりうる
*カニュレが抜け気切ガーゼの下にあると気づかない!
2.喀痰でのカニュレ完全閉塞も起こりうる
3.カニュレが抜けると急変する児がいる
①気切口周辺の皮膚・粘膜が、吸気時に引込まれ開口部が狭窄!
②気管軟化症では、急激な気管狭窄を来す
③自発呼吸が無い児では、即 呼吸不全に
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気切カニュレが抜けた!どうする
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抜けた時の緊急対応方法の確認・取決め個々の必要性やリスクに応じて確認し、決めておく
例)自宅・学校・通所施設でカニュレが抜けた!
1. 母親が,(看護師が)すぐに再挿入する同じカニュレ、一回り細い(カフ無)カニュレ
*看護師が医師からの研修を受けておく必要あり
2.その場では再挿入せずに
医療機関(主治医or近医)駆け込み再挿入
気管カニュレに関する事故は少なくありません・・・
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写真は一見「正常」ですしかし、実際はカニュレが気切ガーゼ下にあります。
つまり、カニュレは気管から逸脱しています。
気切孔が開存しているのですぐに悪化はしませんが・・
表に出ているところだけを見ると、カニュレが挿入されているように見えます。
重症仮死蘇生後
唾液・痰が多く気切ガーゼを重ねた…SPO2の低下で来院カニュレ逸脱に気付かず
カニュレの確実な固定
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筋緊張の強い児、アテトーゼ型マヒの児では、頸が後屈したり、思わぬ動きで、不意にカニュレが外れ、医療事故につながります。
肩から脇の下へ、「たすき掛け固定」をしましょう。
気切カニュレの閉塞
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1. 粘稠痰によるカニュレ閉塞
肉芽はカニュレや吸引カテーテルの物理的刺激で気管粘膜に生じる。出血・気管閉塞をきたします
痰でカニュレが閉塞しても、吸引カテーテルは挿入でき、閉塞の発見が遅れます。
2. 気管肉芽によるカニュレ閉塞
気管切開合併症:気管腕頭動脈瘻
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< ある日の救急外来・・>・ 気管切開・在宅人工呼吸中の児から連絡「口と気管から血が出ている・・」すぐに受診したい!・救急隊により、気管内吸引されつつ搬送されてきた。・口周りと、気切開口部周辺は血まみれ。
気管切開合併症:気管腕頭動脈瘻
•・気切孔周辺から。呼吸器回路内に血液
•・すぐ気管支ファイバー
• 気管内は血の海で出血源不明
• ⇒ 循環ショック
• ⇒ 大量輸血
• ⇒ 緊急手術
• * 救命困難
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気管腕頭動脈瘻からの出血(喀血)
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気管と腕頭動脈は、狭い上縦隔で近接しており、気管肉芽の炎症が腕頭動脈にまでおよび、瘻孔形成に至る。急激かつ大量出血のため対処は極めて困難。
腕頭動脈腕頭動脈
御清聴ありがとうございました
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