東北 現状と課題、取組の方向性22年比 103.8 90.7 92.2 54.2 86.7 81.8 20 40 60 80 100...

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地域政策コンサルティンググループ  研究顧問 石田 照雄 東北 観光 第1回 現状と課題、取組の方向性 観光後進地からの脱却をめざして 2 ■はじめに 2011(平成23)年3月11日の東日本大震災発生から 5年が経過した。観光面については、震災の発生によ り大きな被害を受けた太平洋沿岸エリアのみならず、 東北全体の観光は大きく落ち込んだ。このような中、 多くの方々の支援と、復旧・復興の歩みに合わせた被 災地の方々や関係者の努力により、東北の観光も回復 の歩みをたどりつつある一方、風評被害や外国の方々 への認知度不足の課題も残っている。東北地方創生の 礎となる観光産業の活性化をさらに進め、交流人口を 拡大、東北経済の活力増進に寄与する取組を加速化し ていくことが重要と考える。 ■東北観光の現状と 課題 観光庁「宿泊旅行統計調 査」によれば、2015(平成 27)年の東北6県の総延べ 宿泊者数は、約4,224万人と 前年比2%、震災前の2010 (平成22)年比で約10%増加 した。しかし、復興事業に かかわる方などの商用系の 宿泊が多く、観光系の延べ 宿泊者数は、約1,750万人と、 震災前に比して約16%減少 (秋田県46%減、福島県18% 減、山形県13%減)してい る。今後は、国内外東北観 光客の滞在化を促進し、観 光系延べ宿泊者数を震災以 前に戻すことが重要な課題 である。 [図表1、2] 東北は全国1位の温泉数をはじめ、豊富な観光資源 を有しており、国内旅行の市場としては、北陸信越地 方と同等の一定の地位を築いている。このように、観 光地として高い潜在能力を有しているにもかかわらず、 2015(平成27)年の東北6県の外国人延べ宿泊者数は 約59万人と前年比約47%増であったが、震災前の2010 (平成22)年比では2.5%増に留まり、全国の2010(平 成22)年比141%には遠く及ばない。 その結果、東北の全国に占めるシェアは、震災前の 2.1%から0.9%に低下し、国内他地域に比べ大幅な遅れ を取っている。インバウンド後進地から脱却し、交流人口 図表1 総延べ宿泊者数の推移 資料:観光庁「宿泊旅行統計調査」より作成 資料:観光庁「宿泊旅行統計調査」より作成 図表2 東北各県における観光系延べ宿泊者数の推移 北海道 東北 関東 北陸 信越 中部 近畿 中国 四国 九州 沖縄 平成 22 27,057 38,264 114,653 36,052 48,372 58,324 21,977 11,423 42,667 14,261 平成 27 32,171 42,241 138,917 42,634 60,057 76,678 25,058 12,946 53,864 20,888 22 年比 118.9 110.4 121.2 118.3 124.2 131.5 114 113.3 126.2 146.5 60 80 100 120 140 160 0 40,000 80,000 120,000 160,000 (%) (千人泊) 9.3 8.4 6.6 6.4 27.8 27.5 11.7 11.9 8.7 8.4 14.1 15.2 5.3 5.0 2.8 2.6 10.3 10.7 3.5 4.1 ※( )内は全体に占める構成比の変化 青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県 平成 22 1,561 2,888 4,292 2,616 3,383 6,360 平成 27 1,621 2,620 3,957 1,417 2,934 5,204 22 年比 103.8 90.7 92.2 54.2 86.7 81.8 20 40 60 80 100 120 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 (%) (千人泊) ※観光目的の宿泊者が 50 %以上の施設 3 を増やしていくことが最大の課題と言える。 [図表3、4] 次に、東北6県は国内教育旅行地域別旅行先として は、全国に占めるシェア2%と、下位に位置している。 [図表5] また、訪日教育旅行の訪問先としても約7%(受け 入れ件数:全国185件のうち東北12件)と下位に位置し ている。東日本大震災の教訓と被災からの復興を学ぶ 場として大きな可能性を秘めており、東北あげての取 組が求められる。 [図表6] ■東北観光課題に対する取組の方向性 1 )国内外旅行客の滞在化促進 ①魅力ある広域観光周遊ルートの確立 平成27年6月、観光庁より「日本奥の院・東北探訪 ルート」をはじめとする全国7つの広域観光周遊ルー ト形成計画が認定された。これを踏まえ、実施主体の 東北観光推進機構ではその具現化を目指し、本年4月 に太平洋三陸沿岸、日本海沿岸、そして内陸の観光資 源を結びつけた東北の魅力を満喫できる、具体的な滞 在型観光周遊のための3つのモデルコースを策定し、 今後国内・国外に向けて強力に発信することとしてい る。 [図表7] 観光庁「旅行・観光消費動向調査」によれば、2015 (平成27)年の日本人の国内旅行経験率は、国内宿泊旅 行全体で62.7%(前年比1.5ポイント減)、平均回数は 2.34回/人(同7.1%減)、そのうち観光・レクリエーショ ンに限れば53.2%(同2.9ポイント減)、平均回数が1.26 回/人(同9.4%減)である。人口減少・少子高齢化の 影響で、国内旅行は漸減傾向にあり、回復は容易でな い。 [図表8] また、日本交通公社の「旅行年報」によれば、平均 宿泊数も全国で1.86泊と滞在化が進展しているとはい い難いのが実情で、東北地方は青森県の2.02泊を除い て全国平均以下の1.5~1.7泊と、まだまだ工夫次第で伸 びる余地がある。国内旅行延べ宿泊者数を増やすには、 資料:観光庁「宿泊旅行統計調査」より作成 図表3 外国人延べ宿泊者数の地域別構成比 資料:観光庁「宿泊旅行統計調査」より作成 図表4 東北各県における外国人延べ宿泊者数の推移 資料:公益財団法人日本修学旅行協会「データブック2015 教育旅行年報」 より作成 図表5 国内教育旅行地域別旅行先(平成26 年度) 図表6 海外・訪日教育旅行の地域別状況 (平成26 年度) 資料:公益財団法人日本修学旅行協会「データブック2015 教育旅行年報」 より作成 48.1 20.1 7.7 7.2 7.7 1.8 2.8 2.0 2.1 0.5 38.4 24.9 8.3 8.3 8.1 5.9 2.9 1.7 0.9 0.7 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 関東 近畿 北海道 九州 中部 沖縄 北陸信越 中国 東北 四国 (%) 平成 22 平成 27 <全国> 平成 22 2,750 万人 平成 27 6,637 万人 64⦆ 89⦆ 189⦆ 81⦆ 58⦆ 96⦆ 116⦆ 105⦆ 190⦆ 53⦆ 75⦆ 52⦆ 182.5⦆ 118.4⦆ 100.4⦆ 65.4⦆ 129.0⦆ 54.6⦆ 0.0 40.0 80.0 120.0 160.0 200.0 0 50 100 150 200 青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県 (%) (千人泊) 平成 22 平成 27 22 年比 全国 22 年比 241.3 東北 22 年比 102.5 0.2 0.2 0.3 0.1 0.1 0.1 0.2 0.2 0.3 0.7 0.4 0.3 853 492 204 89 61 71 32 54 7 546 395 245 259 93 80 108 17 15 1399 887 449 348 154 151 140 71 22 0 300 600 900 1,200 1,500 近畿 関東 九州 沖縄 中部 中国 北海道 東北 四国 (件) 中学校 高等学校 2.0 0.6 3.9 4.2 4.3 9.6 12.4 24.5 38.6 ※( )内は全体に占める構成比 20 20 61 64 80 42 51 11 12 37 44 58 7 16 0 25 50 75 100 北海道 東北 関東 中部 近畿 中国・四国 九州・沖縄 (件) 訪問件数(計 338 件) 受け入れ件数(計 185 件)

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地域政策コンサルティンググループ  研究顧問 石田 照雄

東北の観光 第1回回 現状と課題、取組の方向性

―観光後進地からの脱却をめざして

2

■はじめに

 2011(平成23)年3月11日の東日本大震災発生から

5年が経過した。観光面については、震災の発生によ

り大きな被害を受けた太平洋沿岸エリアのみならず、

東北全体の観光は大きく落ち込んだ。このような中、

多くの方々の支援と、復旧・復興の歩みに合わせた被

災地の方々や関係者の努力により、東北の観光も回復

の歩みをたどりつつある一方、風評被害や外国の方々

への認知度不足の課題も残っている。東北地方創生の

礎となる観光産業の活性化をさらに進め、交流人口を

拡大、東北経済の活力増進に寄与する取組を加速化し

ていくことが重要と考える。

■東北観光の現状と課題

 観光庁「宿泊旅行統計調

査」によれば、2015(平成

27)年の東北6県の総延べ

宿泊者数は、約4,224万人と

前年比2%、震災前の2010

(平成22)年比で約10%増加

した。しかし、復興事業に

かかわる方などの商用系の

宿泊が多く、観光系の延べ

宿泊者数は、約1,750万人と、

震災前に比して約16%減少

(秋田県46%減、福島県18%

減、山形県13%減)してい

る。今後は、国内外東北観

光客の滞在化を促進し、観

光系延べ宿泊者数を震災以

前に戻すことが重要な課題

である。[図表1、2]

 東北は全国1位の温泉数をはじめ、豊富な観光資源

を有しており、国内旅行の市場としては、北陸信越地

方と同等の一定の地位を築いている。このように、観

光地として高い潜在能力を有しているにもかかわらず、

2015(平成27)年の東北6県の外国人延べ宿泊者数は

約59万人と前年比約47%増であったが、震災前の2010

(平成22)年比では2.5%増に留まり、全国の2010(平

成22)年比141%には遠く及ばない。

 その結果、東北の全国に占めるシェアは、震災前の

2.1%から0.9%に低下し、国内他地域に比べ大幅な遅れ

を取っている。インバウンド後進地から脱却し、交流人口

図表1 総延べ宿泊者数の推移

     資料:観光庁「宿泊旅行統計調査」より作成

資料:観光庁「宿泊旅行統計調査」より作成

図表2 東北各県における観光系延べ宿泊者数の推移

北海道 東北 関東北陸信越

中部 近畿 中国 四国 九州 沖縄

平成22年 27,057 38,264 114,653 36,052 48,372 58,324 21,977 11,423 42,667 14,261

平成27年 32,171 42,241 138,917 42,634 60,057 76,678 25,058 12,946 53,864 20,888

22年比 118.9 110.4 121.2 118.3 124.2 131.5 114 113.3 126.2 146.5

60

80

100

120

140

160

0

40,000

80,000

120,000

160,000

(%)(千人泊)

(9.3→8.4)(6.6→6.4)

(27.8→27.5)

(11.7→11.9)(8.7→8.4)

(14.1→15.2)

(5.3→5.0)(2.8→2.6)

(10.3→10.7)

(3.5→4.1)

※( )内は全体に占める構成比の変化

青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県

平成22年 1,561 2,888 4,292 2,616 3,383 6,360

平成27年 1,621 2,620 3,957 1,417 2,934 5,204

22年比 103.8 90.7 92.2 54.2 86.7 81.8

20

40

60

80

100

120

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

(%)(千人泊)

※観光目的の宿泊者が50%以上の施設

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を増やしていくことが最大の課題と言える。[図表3、4]

 次に、東北6県は国内教育旅行地域別旅行先として

は、全国に占めるシェア2%と、下位に位置している。

[図表5]

 また、訪日教育旅行の訪問先としても約7%(受け

入れ件数:全国185件のうち東北12件)と下位に位置し

ている。東日本大震災の教訓と被災からの復興を学ぶ

場として大きな可能性を秘めており、東北あげての取

組が求められる。[図表6]

■東北観光課題に対する取組の方向性

(1)国内外旅行客の滞在化促進

①魅力ある広域観光周遊ルートの確立

 平成27年6月、観光庁より「日本奥の院・東北探訪

ルート」をはじめとする全国7つの広域観光周遊ルー

ト形成計画が認定された。これを踏まえ、実施主体の

東北観光推進機構ではその具現化を目指し、本年4月

に太平洋三陸沿岸、日本海沿岸、そして内陸の観光資

源を結びつけた東北の魅力を満喫できる、具体的な滞

在型観光周遊のための3つのモデルコースを策定し、

今後国内・国外に向けて強力に発信することとしてい

る。[図表7]

 観光庁「旅行・観光消費動向調査」によれば、2015

(平成27)年の日本人の国内旅行経験率は、国内宿泊旅

行全体で62.7%(前年比1.5ポイント減)、平均回数は

2.34回/人(同7.1%減)、そのうち観光・レクリエーショ

ンに限れば53.2%(同2.9ポイント減)、平均回数が1.26

回/人(同9.4%減)である。人口減少・少子高齢化の

影響で、国内旅行は漸減傾向にあり、回復は容易でな

い。[図表8]

 また、日本交通公社の「旅行年報」によれば、平均

宿泊数も全国で1.86泊と滞在化が進展しているとはい

い難いのが実情で、東北地方は青森県の2.02泊を除い

て全国平均以下の1.5~1.7泊と、まだまだ工夫次第で伸

びる余地がある。国内旅行延べ宿泊者数を増やすには、

    資料:観光庁「宿泊旅行統計調査」より作成

図表3 外国人延べ宿泊者数の地域別構成比

  資料:観光庁「宿泊旅行統計調査」より作成

図表4 東北各県における外国人延べ宿泊者数の推移

資料:公益財団法人日本修学旅行協会「データブック2015 教育旅行年報」より作成

図表5 国内教育旅行地域別旅行先(平成26年度)

図表6 海外・訪日教育旅行の地域別状況 (平成26年度)

資料:公益財団法人日本修学旅行協会「データブック2015 教育旅行年報」より作成

48.1

20.1

7.7

7.2

7.7

1.8

2.8

2.0

2.1

0.5

38.4

24.9

8.3

8.3

8.1

5.9

2.9

1.7

0.9

0.7

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0

関東

近畿

北海道

九州

中部

沖縄

北陸信越

中国

東北

四国

(%)

平成22年

平成27年

<全国>平成22年 2,750万人平成27年 6,637万人

64⦆

89⦆

189⦆

81⦆

58⦆

96⦆116⦆

105⦆

190⦆

53⦆

75⦆

52⦆

182.5⦆

118.4⦆100.4⦆

65.4⦆

129.0⦆

54.6⦆

0.0

40.0

80.0

120.0

160.0

200.0

0

50

100

150

200

青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県

(%)(千人泊)

平成22年 平成27年 22年比

全国22年比 241.3東北22年比 102.5

(0.2)(0.2)

(0.3)

(0.1)

(0.1)

(0.1)(0.2)

(0.2)

(0.3)

(0.7)

(0.4)(0.3)

853

492

204

89

61

71

32

54

7

546

395

245

259

93

80

108

17

15

1399

887

449

348

154

151

140

71

22

0 300 600 900 1,200 1,500

近畿

関東

九州

沖縄

中部

中国

北海道

東北

四国

(件)

中学校 高等学校(2.0)

(0.6)

(3.9)

(4.2)

(4.3)

(9.6)

(12.4)

(24.5)

(38.6)

※( )内は全体に占める構成比

20 20

61 64

80

4251

11 12

3744

58

716

0

25

50

75

100

北海道 東北 関東 中部 近畿 中国・四国 九州・沖縄

(件)

訪問件数(計338件) 受け入れ件数(計185件)

Page 2: 東北 現状と課題、取組の方向性22年比 103.8 90.7 92.2 54.2 86.7 81.8 20 40 60 80 100 120 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 (千人泊) (%) ※観光目的の宿泊者が50%以上の施設

4

滞在化の促進が必須である。[図表9]

 一方、観光庁「宿泊旅行統計調査」によれば、外国

人観光旅行者の平均宿泊数は5.9泊。欧州・米州・オー

ストラリアからの観光旅行者は10~15泊であるが、訪

日客の約7割を占めるアジアからの観光旅行者の平均

宿泊数は5~7泊前後で推移している。従って、外国

人延べ宿泊者数を増やすには、まずアジアからの旅行

者の長期滞在化促進が求められる。[図表10]

 そのためには、「東北奥の院・東北探訪ルート」内

のそれぞれの広域観光拠点および周辺観光地域が、国

内・国外に向けて、市場目線での着地型・滞在型商品

開発・販売、情報受発信を強力に推進する「観光地域

づくり」を再構築することが求められる。すなわち、

国内外旅行客の誘客および滞在化に資する魅力ある

「東北奥の院・探訪ルート」にブラッシュアップする

ことが必要である。

図表7 日本奥の院・東北探訪ルート概要

モデルコース全体コンセプト広域観光周遊ルート名

広域観光拠点地区コンセプトコース名

角館・田沢湖平泉仙台・松島蔵王・山寺会津・喜多方・磐梯・大内宿酒田・鶴岡・出羽三山白神山地鳴子

東北の四季が織りなす風土と、自然と共存する人々の歴史・文化・食など、東北の人々が生み育てた宝と呼べる様々な地域を訪れる出会いの旅。

①四季が織りなす東北の宝コース

色彩あざやかな四季を奏で、多くの文人を魅了してきた美しい自然と風土が育んだ歴史文化と食を探訪する旅

日本の奥の院・東北探訪ルート

平泉仙台・松島釜石・遠野気仙沼

日の出と共に活気づく漁港や、世界三大漁場の一つである三陸沿岸の海に生きる人々の日常と文化にふれるとともに、三陸ならではの海産物などの食を楽しみながら震災からの復興を感じる旅。

②三陸の恵みと復興コース

弘前八甲田・十和田・奥入瀬酒田・鶴岡・出羽三山男鹿村上

日本海側特有の文化、海岸美を巡る。青い海、激しい渓流、沈む夕日など、刻々と変化する自然美と海に近い町に生きる人々の暮らしと伝統に出会う旅。

③日本海の美と伝統コース

資料:観光庁ホームページ

③日本海の美と伝統コース②三陸の恵みと復興コース①四季が織りなす東北の宝コース

5

②観光地域づくりを担う組織の高度化

 観光地域づくりに当たっては、訪日外国人・国内シ

ニア世代の地方への呼び込み、訪日外国人が一人歩き

できる受け入れ環境の整備、訪日外国人の観光による

消費の活性化等に加え、農林漁業や文化産業遺産など

地域独自の観光資源の磨き上げを通じた魅力ある滞在

型観光地域づくりが求められる。

 これまでの国内の観光組織においては、誘客プロ

モーション活動が取組の中心であり、観光戦略の策定

は行政主導で行ってきた。しかし、行政においても市

場調査やブランド戦略取組の支出は多いとはいえず、

科学的なアプローチによる観光地域づくりが十分に行

われているとはいい難いのが実情だ。観光組織の法人

化をはじめとする民間手法の導入や、観光協会やまち

づくり組織の統合、他産業との連携といった組織の高

度化が求められる。

 これらの問題を解決し、観光先進国、観光先進県

あるいは先進市町村となるための手段として注目さ

れているのが日本版 DMO の取組である。DMO とは

「Destination Marketing/Management Organization」

の略称であり、国や広域圏、地域の観光についての振

興策を各種データの分析に基づいて企画・立案実行す

る組織である。観光庁は「日本版DMO」を「地域の稼

ぐ力を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成す

る観光地経営の視点に立った観光地域づくりの舵取り

役として、多様な関係者と共同しながら、明確なコン

セプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦

略を策定するとともに、それを着実に実施するための

調整機能を備えた法人」としている。

 国は、日本版DMOの形成に向けて、新型交付金等の

活用も含めて総合的な支援措置を講ずるとしている。

[図表11]

(2)インバウンド後進地域からの脱却

①ターゲットの明確化と商品造成

 東北のインバウンドは全国的な急成長の流れから大

きく遅れてはいるものの、震災前より多くの旅行者が

東北を訪れるようになった国・地域もある。短期的に

は、堅調に実績を伸ばしている台湾、中国、タイ、

資料:観光庁「旅行・観光消費動向調査」より作成

図表8 日本人の旅行経験率・旅行平均回数

資料:公益財団法人日本交通公社「旅行年報2015調査」より作成

図表9 日本人の旅行先別宿泊数    

   [上位10位+東北](平成27年)

図表10 訪日外国人の国籍・地域別平均宿泊数(平成27年)

55.3⦆

53.7⦆54.5⦆

56.1⦆

53.2⦆

1.34⦆1.30⦆

1.35⦆1.39⦆

1.26⦆

1.00

1.10

1.20

1.30

1.40

1.50

50.0

52.0

54.0

56.0

58.0

60.0

H22 H23 H24 H25 H26

(回/人)(%)

旅行経験率 旅行平均回数

※観光・レクリエーション

1.862.88

2.422.162.15

2.021.90

1.791.781.771.771.681.681.591.521.51

0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00

全体

沖縄県北海道宮崎県

鹿児島県青森県東京都

愛媛県富山県

長野県徳島県秋田県

山形県岩手県福島県

宮城県

(泊)

資料:観光庁「宿泊旅行統計調査」より作成

5.9

3.3

5.0

5.5

5.9

6.1

7.9

6.6

7.1

9.6

6.7

12.1

11.5

14.1

13.8

12.0

12.6

12.0

9.5

11.8

12.3

12.1

0.0 5.0 10.0 15.0

全体

韓国

台湾

香港

中国

タイ

シンガポール

マレーシア

インドネシア

フィリピン

ベトナム

インド

英国

ドイツ

フランス

イタリア

スペイン

ロシア

米国

カナダ

オーストラリア

その他

(泊)

Page 3: 東北 現状と課題、取組の方向性22年比 103.8 90.7 92.2 54.2 86.7 81.8 20 40 60 80 100 120 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 (千人泊) (%) ※観光目的の宿泊者が50%以上の施設

6

オーストラリア、米国を中心

に誘客を促進して、当面の需

要を拡大するとともに、中長

期的には、現時点では風評被

害の残る韓国、香港、シンガ

ポール、そして個人での長期

滞在につながりやすい欧州等

からの誘客に向けた戦略を構

築すべきである。 [図表12、13]

 広域観光周遊ルートに示さ

れた東北のブランドイメージ

やプロモーションの戦略に

沿った旅行商品を、行政区分

にとらわれずに必要に応じて

広域で連携し、商品のテーマ

やストーリーを意識した旅行

商品を造成することが肝要だ。

そして外国人旅行者が全国

シェア1%未満の東北に、ま

ずは来訪してもらい体験して

もらうことを目的とした支援

措置の検討も緊急課題である。

②交通インフラ・ネットワー

ク機能の拡充・強化

 東北(新潟含む)への国際

線は、仙台(台北・北京・上

海・ソウル便)、青森(ソウ

図表11 東北地域における日本版DMO候補法人登録一覧(平成28年5月31日現在)

地域DMO地域連携DMO広域連携DMO登録件数

3839481全国64010うち東北

・(一財) ブナの里白神公社――青森県

東北における日本版DMO候補法人

―・(公財) さんりく基金―岩手県――宮城県

・トラベルデザイン㈱・(一社) 秋田犬ツーリズム [設立予定]―秋田県

・(一社) 寒河江市観光物産協会・㈱DMCやまがた[設立予定]―山形県・(一社) 福島市観光コンベンション協会・(特非) 土湯温泉観光まちづくり協議会・(一財) 会津若松観光ビューロー

・(公財) 福島県観光物産交流協会―福島県

資料:観光庁ホームページ

図表12 東北地域の市場別外国人延べ宿泊者数の推移

 資料:観光庁「宿泊旅行統計調査」

   資料:観光庁「宿泊旅行統計調査」

図表13 主な市場別の震災前 (H22年) とH27年との比較

125⦆

38⦆ 29⦆ 44⦆ 37⦆ 58⦆

44⦆

20⦆ 30⦆ 28⦆ 31⦆54⦆

65⦆

15⦆ 14⦆ 13⦆ 16⦆

20⦆

135⦆

39⦆ 61⦆95⦆ 127⦆

177⦆

38⦆

23⦆35⦆

29⦆36⦆

56⦆

8⦆

3⦆5⦆

11⦆

16⦆

22⦆

67⦆

32⦆

49⦆

55⦆

71⦆

95⦆

505⦆

184⦆

233⦆

289⦆

354⦆

510⦆

0

100

200

300

400

500

600

H22 H23 H24 H25 H26 H27

(千人/泊)

その他

オーストラリア

タイ

シンガポール

アメリカ

台湾

香港

中国

韓国

-53.6

22.9

-70.0

31.249.8

-26.3

181.4 177.1

-100.0

-50.0

0.0

50.0

100.0

150.0

200.0

(%)

オーストラリア

タイ

シンガポール

アメリカ

台湾

香港

中国

韓国

7

ル便)、新潟(上海・ハルピン・ソウル便)の3空港

しか定期就航はない(秋田ソウル便運休中)。また主

要国内空港からの国内線航路の乗り入れ状況も、他地

域に比べて貧弱である。

 新幹線を中心とした一次交通網が整備されているに

もかかわらず、具体的なアクセス情報が十分に提供さ

れていないことにより、「遠い」というイメージを持

たれており、インバウンド後進地域とならざるを得な

いのが実情である。国際線着陸料の軽減措置や仙台空

港の民営化を契機に、国際線や国内の主要空港からの

路線を拡充し、LCC拠点化の推進を含め、仙台空港の

東北のゲートウエイ機能を強化することが急務である。

加えて、羽田・成田国内線割引航空券を提供する航空

会社と連携するなど、羽田・成田等からの東北乗り継

ぎ客の誘客強化が必須だ。東北への大動脈である新幹

線から沿線への乗り換え、観光地間を結ぶ高速道路網・

二次交通アクセス環境の整備、10万総トン級以上のク

ルーズ客船が寄港できる体制の早期整備等とあわせ、

インバウンド先進地域と有機的に結合し、相乗効果を

発揮できる陸・空・海一体となったネットワークの構

築が求められる。[図表14]

(3)教育旅行誘致のための魅力向上

 東北特有の農林漁業等のなりわいの体験、アウトド

ア系のアクティビティ等、教育旅行でニーズの高いコ

ンテンツの充実とともに、学生を対象としたスタディ

ツアー等を活性化させることで「学びの場」としての

価値を高めるなど、教育旅行の需要拡大につなげる工

夫が必要だ。また、訪日教育旅行の件数が、海外教育

旅行の約半分の件数である現状より、双方向での学校

間交流につなげる工夫をすることなど、東北6県あげ

ての取組が求められる。

■おわりに

 以上、東北における日本人旅行、外国人旅行、教育

旅行の現状と課題解決に対する大まかな取組の方向性

について考察したが、なによりも東北地方は人口減少、

少子高齢化、都会への人材流出が加速しており、地方

を支える観光をはじめとするサービス産業への人材の

確保が大きな課題であることを付言して、東北の観光

「第1回」とする。

図表14 東北における直行便の状況と乗り継ぎ客の誘客強化

資料:日本政府観光局 東北観光アドバイザー会議 資料