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まえがき

社会の高度化が進むにともない電気エネルギーの利用も高度化しており,電気エネルギーの供給信頼度の向上がますます要求されてきている。電気エネルギーは発電所で発生した後,送電線・変圧器・配電線などの電力機器を経路として,電力需要家に送電されるが,あらゆる事故に即応した制御・保護装置により守られ,供給信頼度の向上が図られている。その中で重要な役割を担っているのが保護継電器で構成される保護継電装置(盤)である。この資料は,電力需要家において電気エネルギーを電力会社より受電し,需要家構内の各電気設備に供給している自家用受電設備における保護継電技術について解説した。なお,高圧受電設備を中心とした保護継電器,周辺機器,保護方式について記述しているので,本文でふれていない事項については他の解説書を参照願いたい。

1. 保護継電器の基礎知識

1.1 保護継電器の役目電力線(送電線・配電線)や電力機器(発電機・変圧器など)等に発生した異常状態に応動し,できるだけ被害を減らし,他に影響を及ぼさないようにすることを目的とする継電器を保護継電器と称す。即ち,正常状態と異常状態とを電気量または物理量の変化により判別するものである。例えば過電流継電器では,前もって定められた整定値より大きな電流が流れると動作し,その原因となった事故点を電力系統から切り離して,事故の影響を最小限に食い止めるように遮断器を動作させる信号を出力する。即ち,保護継電器は,その接点によって遮断器の引外しコイルを励磁して,遮断器を開放(トリップ)させるものである。

1.2 保護継電器の規格

保護継電器の標準規格は,下記の団体が活動し,用途に応じて各々の規格が制定されているので,継電器の選定にあたっては適用規格にも十分注意を払うことが大切である。

● JIS(日本工業規格):日本工業標準調査会

・JIS C 4601 - 1993 高圧受電用地絡継電装置・JIS C 4602 - 1986 高圧受電用過電流継電器・JIS C 4609 - 1990 高圧受電用地絡方向継電装置

● JEC(電気学会 電気規格調査会標準規格):電気学会電気規格調査会

・JEC- 2500 - 2010 電力用保護継電器 (旧 JEC- 174)・JEC- 2501 - 2010 保護継電器の電磁両立性試験・JEC- 2510 - 1989 過電流継電器 (旧 JEC- 174A)・JEC- 2511 - 1995 電圧継電器 (旧 JEC- 174B)・JEC- 2512 - 2002 高抵抗接地系用地絡方向継電器(旧 JEC- 174C)・JEC- 2515 - 2005 比率差動継電器 (旧 JEC- 174F)

●電力用規格:全国各電力会社及び電源開発会社

・B401(平成元年 6月 改定) アナログ形保護継電器及び保護継電装置・B402(平成 9年 10 月 制定) ディジタル形保護継電器及び保護継電装置

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1.3 用語の説明

保護継電器の用語には,多くの専門用語があり,ここでは特によく用いられる用語について,JEC- 2500 電力用保護継電器(旧 JEC- 174)規格より抜粋し,下表に示す。表 1.1 保護継電器の用語

用   語 意           味

定格(値) 継電器の特性及び性能の保証基準を表わす数値を言う。例えば定格電流・定格周波数などの数値。ただし,電流回路では連続通電に耐え得る値を定格電流と言う。

負担(消費VA) 継電器の入力回路において消費される皮相電力(VA)・電力(W)等を言う。 表し方として,定格値負担と動作値負担がある。  【備考】皮相電力:VA,電力:W,インピーダンス:Ω,のいずれかで示す。a. 定格値負担定格入力を印加したときの負担を言う。この表し方は正常時に定格入力が印加されるものに一般に使用される。特に条件の明示が無い場合は,最大となる条件における値を示す。b. 動作値負担継電器を動作させるのに必要な動作入力を印加したときの負担を言う。

公称値 製造者により表示された継電器の特性の基準値。一般に応動を表わす用語と組合せて使用する。  【備考】公称動作値,公称復帰値,公称動作時間

整定 公称値を表示した装置(タップ,レバー,スイッチなど)により,動作値・動作時間などの応動の基準値を選定すること。

主要素 継電器の本来の責務を遂行する主要部を言う。

補助要素 継電器の責務遂行のため主要素に補助的に付けられた装置を言う。例えば補助接触器や動作表示器などがある。

電気機械形〈式〉 電気信号を入力する継電器で,継電器の応動が入力回路に流れる電流の作用で引き起こされる機械的な動きによって得られるもの。例えば誘導形(円板・円筒),可動鉄心形

静止形 静止回路を主体に構成されたもの。動作・不動作の判定までを静止回路により,この判定にしたがって接点を開閉するものも含む。

熱動形 熱効果(熱膨張・熱変形など)により可動部が駆動されるもの。

保持コイル 動作状態にある継電器を保持るすための入力が印加されるコイル

始動(フローティング)

継電器を動作させる方向に入力が変化した場合,原状態からあるしきい値を超えて変化し始め,原状態における機能に変化を生じること。

動作 継電器がその所定の責務を遂行すること。

復帰 継電器が原状態における機能に戻ること。(a)自己復帰  入力が復帰値となれば自動的に復帰すること。(b)手動復帰  継電器を手動で復帰させること。(c)電気復帰  復帰を目的とする外部からの電気入力の変化により継電器を復帰させること。

クリーピング 二つの入力の積により駆動力を生ずる継電器において,そのいずれか一方のみの入力により可動部に駆動力を生ずる現象を言う。

反転 継電器に作用する入力が急減した場合,可動部が急減前の入力による駆動力と逆方向に過渡的に動く現象を言う。

反跳 接点の閉路あるいは開路の際に接点が不必要に開閉を反覆する現象を言う。その原因が主として局部的な接触部の振動に起因し,比較的短い周期で接点が開閉を反覆する現象をチャタリングと言い,全般的な可動部の振動に起因して,比較的長い周期で接点が開閉を反覆する現象をバウンシングと言う。

慣性動及び慣性動作

動作行程の途中において入力が不動作となるべき値に急変しても,可動部が慣性により暫時運動を続ける現象を慣性動と言い,慣性動により動作することを慣性動作と言う。過電流継電器等では,この慣性により動作しない(接点が閉じない)限界を慣性特性として示している。

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1.4 保護継電器の種類と特性

1.4.1 過電流継電器(OCR)過電流継電器は,入力電流が前もって定められた整定値を越えたときに動作するようにつくられた継電器であり,送配電線の短絡・地絡保護や電気機器の過負荷保護用として広く使われている。ここでは,一般に多く使用されている高圧受電用過電流継電器について,電気機械形(誘導円板形)及びディジタル形を例にして説明する。上記の過電流継電器は,短絡保護用の瞬時要素と,過負荷保護用の限時要素を内蔵しており,そのタップ範囲は,一般に瞬時要素が 10 ~ 60A,限時要素が 3A~ 6Aとなっている。次に,誘導円板形(MOC-2 形)・ディジタル形(MOC-A1 形)の各継電器の構造・動作について説明する。【誘導円板形(MOC-2 形)】図 1.1 に外観図,図 1.2 に内部回路図を示す。図 1.1 に於いて,正面より見て中央部に誘導円板の軸の上部に可動接点があり,更に上部に接点間隔を変えることにより動作時間を調整するダイヤルがあり,電流コイル要素はフレームの後部に取り付いている。一方,正面下部には,左側に瞬時要素動作表示器(IIE)と電流整定タップあり,右側に限時要素電流整定タップと動作表示接触器(ICEまたは IAE)がある。図 1.2 により動作を説明する。過負荷事故が発生し過電流が流れると主要素接点が閉路し動作表示接触器が励磁されターゲットが落下し動作表示すると同時に,主接点をチャタリングより保護するために閉路し主接点と並列に接続されたこの接点が,自己保持をする回路構成となっている。一方,短絡事故時には大電流により瞬時要素が高速度に動作しターゲットが落下し動作表示すると同時に接点が閉路し,動作表示接触器が励磁されターゲットが落下し動作表示すると同時に自己保持回路を構成する。即ち過負荷事故時には『動作』のみ表示し,短絡事故時には『瞬時』と『動作』を表示させて事故の種類が判別できるようにしている。なお,動作表示器の復帰操作は継電器正面の復帰レバーを押し上げることでできる。

図 1.1 MOC-21-R 形誘導円板形過電流継電器外観図   図 1.2 MOC-21-R 形誘導円板形過電流継電器内部回路図

【ディジタル形(MOC-A1 形)】図 1.3 に外観図,図 1.4 に内部回路図を示す。図 1.3 に於いて,正面より見て中央部左側より,限時電流・ダイヤル・瞬時電流の各整定用スイッチがある。その上部に緑色の LED(RUN:制御電源の電圧確立及び S/Wプログラムチェックを常時実施し正常にて点灯)があり左側には,数値表示 LEDと,この表示を選択する表示選択スイッチがある。下部右側には,事故の様相(相・種類)を判別するための動作表示器(R相・T相・瞬時)がある。図 1.4 により動作を説明する。この継電器は,CT二次電流入力から制御電圧を導出する定電圧回路を内蔵しているので,特別な制御電源を必要としない。(一般の静止形継電器はDCまたはAC電源が必要)電流入力は,内蔵の補助 CTにより電子回路レベルの信号に変換し,A/Dコンバータ内蔵のマイクロコンピュータにデータとして入力する。

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マイクロコンピュータは,直流信号データと各整定値データにより,プログラムにしたがって動作判定演算をする。レベル判定演算は,各入力相毎に行い各種事故(過負荷・二相短絡・三相短絡)に対応した動作表示をすると同時に接点出力(引外し用,警報用共に)を出す。なお,動作表示器の復帰操作は継電器正面の復帰レバーを押し上げることでできる。

 図 1.3 MOC-A1 形ディジタル形継電器外観図(例)       図 1.4 MOC-A1 形ディジタル形継電器内部回路図【動作時間特性】代表的な動作時間特性をつぎに示すが,用途に合わせて選択し使用することが必要である。a. 瞬時 : 一定値以上の入力で高速度で動作するもの JIS C 4602(高圧受電用過電流継電器) … 50ms 以下:at.200%入力 JEC 2510(過電流継電器) ……………… 40ms 以下:at.200%入力

  b. 反限時 : 入力電流が増加するにしたがって,動作時間が早くなる特性をいい,その傾きによりつぎのような種類がある。

 ●(普通)反限時 :同一地点の事故で電流が大幅に変動するような場合,つまり送電線の短絡保護に適する。 ●長反限時 : 動作時間が長いので機器の始動電流で不要動作しない,つまり誘導電動機の保護に適する。 ●強反限時 : 電気機器の過負荷耐量特性にあっているため,配電線の保護や,変圧器の保護に適している。

   ●超反限時 : 電流の 2乗に反比例した時限特性であるため,発熱(ジュール熱)特性にあっており,電気機器の過負荷保護に適している。また熱動形のNFB,ヒューズなどの保護機器の特性ともよくあっているので,これらの機器との保護協調がとり易い。

c. 定限時 : 入力電流が一定値以上になると,電流の大きさに関係無く一定時間で動作する特性

         図 1.5 継電器動作時間特性

限時要素

瞬時要素

限時要素

瞬時要素

常時監視

電源回路

電源回路監視

C1R

C1T

C2T

C2R

IR

IT

R相動作表示

T相動作表示

RUN表示警報用トリップ用 警報用

瞬時動作表示

X0 a1

T1

T2

E

a2X0

トリップ用

表 1.2 動作時間特性(JEC 2510)

区  分 T3/T5 T10/T5ⅠⅡⅢⅣ

1.0 以上~ 1.2 未満1.2 以上~ 1.8 未満1.8 以上~ 2.6 未満2.6 以上~ 4.0 未満

1.0 以下~ 0.8 以上0.9 以下~ 0.6 以上0.7 以下~ 0.4 以上0.5 以下~ 0.2 以上

(注) T3,T5,T10 それぞれは公称動作値の 300%,500%, 1000%の電流を通過したときの公称動作時間を示す。電流(整定値に対する倍数)

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1.4.2 過電圧継電器(OVR)電圧が整定値より上がったとき動作する継電器で,発電機の制御系の故障による異常電圧の上昇保護や,コンデンサーの過負荷保護などに使用する。整定範囲は一般に 120 ~ 150V である。従来より一般的に使用されている誘導円板形継電器は反限時特性であるが,最近の静止形継電器は定限特性が一般的である。図 1.6,図 1.7 に誘導円板形(MVR-2 形)の外観図,内部回路図を示す。また,図 1.8,図 1.9 にディジタル形(MOV-A1形)の外観図,内部回路図を示す。誘導円板形,ディジタル形共に過電流継電器の構造・動作に類似したものである。

 図 1.6 MVR-2-R 形誘導円板形継電器外観図       図 1.7 MVR-2-R 形誘導円板形継電器内部回路図

  図 1.8 MOV-A1 形ディジタル形継電器外観図       図 1.9 MOV-A1 形ディジタル形継電器内部回路図

1.4.3 不足電圧継電器(UVR)過電圧継電器と反対で電圧が整定値より下がったときに動作する継電器で,停電または短絡などの事故を検出するのに使用する。整定範囲は一般に 60 ~ 100V である。外観構造・内部回路及び時限特性は過電圧継電器と類似している。ただし,相違点は出力接点が不足電圧にて閉となる点である。

電源回路監視

動作表示レベル判定

電源回路

常時監視

出力接点

出力接点

出力接点

RUN表示

E

X0

P1

P2a11

a12

a21

a22

X1出力接点

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1.4.4 地絡継電器(GR)電力系統の中性点接地方式により各種の地絡保護継電器が用いられるが,ここでいう地絡継電器は高圧受電設備で用いられる高圧受電用地絡継電装置(JIS C 4601)である。この装置は地絡過電流継電器と零相変流器(専用である為他メーカとの互換性はない)の組合せからなっている。動作整定値は JIS で 0.2-0.4-0.6A(ZCTの一次側電流値)が定められており,一般にこれらの値を含んで近傍の値を備えている。動作時間特性は,電力会社の配電用変電所の地絡継電器との動作時間協調を考慮し,整定値の 130%入力時:0.1 ~ 0.3 秒,400%入力時:0.1 ~ 0.2 秒となっている。この継電器は,電流の大きさのみで動作する地絡過電流継電器であり,使用する場合には,ZCT設置点以下の対地静電容量の大きさを十分検討し,他回線での地絡事故時に,自回線の充電電流で不要動作しない動作値に整定する必要がある。

図 1.10 にMGR-A1 形高圧受電用地絡継電器の内部回路図を示す。図において,高圧需要家内で地絡事故が発生すると事故電流(零相電流-充電電流)は大地を経て配電線や機器の対地静電容量を通じて流れ,その事故電流は零相変流器により検出され地絡継電器に入力される。事故電流は継電器の増幅回路で増幅され,整定電流値以上で規定の時間以上継続すれば内蔵の補助リレー(Ⅹ)が動作し,その動作状態を自己保持する。これによって,遮断器を動作させ事故を除去するとともに動作表示器の表示が反転表示する。尚,動作表示器のターゲットを手動で(カバー付の状態で可能)復帰させれば自己保持もとける。

1.4.5 地絡方向継電器(DGR)地絡方向継電器は,特高送電線(非接地系統・高抵抗接地系統・直接接地系統)や配電線(非接地系統)の地絡主保護または後備保護に使用する。また,主回路の接地方式により,零相電流,零相電圧の検出方式が異なり零相電流の大きさも異なる為,接地方式に対応した継電器を使用する必要がある。なお,接地方式は系統電圧により概略次のようになっている。① 20 ~ 30kV 系の送電線:100 ~ 200A接地系② 60 ~ 70kV 系の送電線及び配電線:100 ~ 1000A(前後)接地系③ 20 ~ 30kV 系の配電線:20 ~ 30A接地系④ 3 ~ 6kV系の配電線:非接地系ここでは,高圧配電線用及び高圧受電用の地絡方向継電器について述べる。

図 1.10 MGR-A1 形地絡継電器の内部回路図