NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India...

30
2014年内部監査全世界実態調査 より強固なパフォーマンスをデザインする: 革新のための青写真 PwCの年次調査結果によ ると、利害関係者の期待 と方向性を一致させ、こ の期待に必要なスキルと 能力を培うことで、内部 監査部門は、組織に提供 する価値を強化できる。

Transcript of NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India...

Page 1: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

2014年内部監査全世界実態調査より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真

PwCの年次調査結果によると、利害関係者の期待と方向性を一致させ、この期待に必要なスキルと能力を培うことで、内部監査部門は、組織に提供する価値を強化できる。

Page 2: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

B 2014年内部監査全世界実態調査B 2014年内部監査全世界実態調査

Page 3: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

問題の核心 2内部監査の革新をデザインする 2

詳細分析 5利害関係者と同じ方向を目指し、価値向上に寄与する内部監査部門の青写真を描く 5 革新すべき時期であるか?革新のためのビジネスケース 6 価値創出のための土台を築く:期待を拡大させる 10 青写真を描く:期待の方向性を一致させる 12 建造の準備をする:期待に応えられる能力を開発する 17 青写真を共有する:内部監査部門のコミュニケーション戦略 20

ビジネスへの提言 22取るべき行動 22

参考資料A:本調査の概要 24参考資料B:重大なリスク 25

Page 4: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

2 2014年内部監査全世界実態調査2 2014年内部監査全世界実態調査

問題の核心

内部監査の革新をデザインする

最新式の建物は建築主、建設業者、テナント、工事監督者を含む利害関係者間の合意の下で作成された詳細な設計図に基づいて建造される。建設業者は、その設計図に基づき高品質の建物を建造するために、適切なスキルと能力を手配する。利害関係者間の調整、緻密に策定された設計図、適切な能力、統制のとれた工事によってこそ、利害関係者に高く評価され、他から見本にされるような建物が完成する。どんな建物を期待するかについて全ての利害関係者が合意し、期待したとおりの建物が出来上がった場合には、より伝統的あるいは機能的な建物も利害関係者に高く評価され得る。

効果的に利益をあげており、経営がうまくいっている企業は、上記のような建物と同レベルの詳細な計画、実行と利害関係者間の調整を基に事業を運営している。これら企業のリーダーは計画的かつ体系的に期待値を定義し、パフォーマンスの測定基準を策定し、常により高いレベルのパフォーマンスを要求している。ビジネス上の期待に応えるために必要な能力を開発するための明確な措置が取られ、パフォーマンスは継続的に評価される。利害関係者と熟慮の結果合意した義務を果たすために、必要な能力が組織の中にない場合は、その能力を外部から獲得するか、外部アドバイザーを活用する。第10回年次内部監査全世界実態調査は、現状の内部監査部門が組織により高い価値を提供するために、これらの原則をどのように適用し得るかを深く考察している。

今回の調査は最高監査責任者(CAE)、内部監査部門マネージャー、マネジメント、役員会メンバー1,900名以上の見解を反映している。彼らは、適切なリソースと機会がありさえすれば、内部監査には価値とビジネスへの貢献を増大させる機会があると考えている。しかし、マネジメントの半数以上(55%)が、内部監査部門は彼らの組織に重要な価値を提供しているとは考えていない。役員会メンバーのほぼ30%は、内部監査はあまり重要な価値を提供していないと考えている。平均して、マネジメントのわずか49%と役員会メンバーの64%が、内部監査部門は期待に見合ったパフォーマンスをあげていると考えている。多くの回答者が内部監査部門は過去一年間で進歩したと答えたものの、前年の調査で取り上げられたパフォーマンスに関する課題は未改善であり、利害関係者は、内部監査部門の進歩は変化するビジネス環境に対応するのに十分ではないと指摘している。今回の調査は、より複雑化し多くのリスクにさらされている現在のビジネス環境において、多くの内部監査部門が、その価値を認められることに苦労していることを再確認している。さらに、適切な能力を開発し利害関係者の期待に応えるという点については、内部監査部門はいまだ厳しい評価を受けている。

今回の調査結果は、これらの継続的な傾向の要因に焦点を当てている。組織に最大価値を提供するのに適切な能力を開発するため、内部監査部門はまず価値を定義し、その定義と期待の方向性を一致させなければならない。

「内部監査のサービスは、アシュアランス提供と規制へのコンプライアンス確保に限定されないが、これらの業務は内部監査への期待の主要な要素であり続けている。しかし、内部監査は利害関係者の期待と足並みをそろえるために、他の多様な能力を増強している。ビジネスへのより深い洞察を提供するためにアシュアランス業務とアドバイザリー業務との割合を変更することもその一つである。内部監査は以前よりもっと共同的になっている。『あなた』『私』という対立関係や責任のなすりつけ合いはもはや存在しない。内部監査は、ビジネスに対するコーチの役割を担い、パフォーマンス改善へのイニシアチブをとり、内部統制ギャップの解消に努めている。」

—NageshPinge,CAE,TATAMotorsLimited,India

Page 5: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

3より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真

従って、パフォーマンスと価値の分析は、常に、内部監査への期待の方向性が一致しているかの評価から始まる。明確な期待値が設定されないままでは、存在する価値の意味さえ明確に定義できない。今回の調査は、多くの内部監査部門が、一致した方向性の期待に応えるために自部門の機能を計画して目的のある行動を取ることより、利害関係者のさまざまな要求に対応していることを示している。内部監査部門は、達成すべき重要な目標がある一方で、組織が直面している重大なリスクとこれらのリスクに関する内部監査への期待の両方に対する利害関係者の期待に方向性を合わせなければならない。このような基礎段階なくしては、内部監査部門は戦略的に適切な能力を開発し、パフォーマンスを向上し、価値を提供することができない。

また、PwCが3年前に利害関係者の視点から内部監査を調査し始めて以来観察している内部監査のパフォーマンスのレベルも看過できない問題である。本報告書において以後説明するとおり、八つのコア項目を実践する適切な能力を備えていない限り、この挑戦は続くだろう(図1)。利害関係者は、適切な能力を持つ人材の獲得、高度なデータ分析を含むテクノロジーの活用、費用対効果の高いサービスの提供などの多様な領域でパフォーマンスのレベルが低いと考えている。今回の調査は、期待の方向性の一致と

パフォーマンスという課題に関して深く分析することで、課題を明らかにすることを試みるとともに、高いパフォーマンスをあげている組織の内部監査部門と利

「監査委員会は内部監査部門における変革について理解しているのだろうか。内部監査に対する期待は明確に設定される必要があり、この期待に向けて利害関係者間-取締役会、執行役員、ライン部門長―の方向性が一致すべきである。」

—ChiefComplianceOfficer,Fortune50consumerproductscompany

害関係者の特徴を明らかにすることを試みている。PwCの2014年調査によると、利害関係者が内部監査により多く期待し、内部監査部門が “信頼されるアドバイザー” 水準のサービス(例:ビジネスに

内部監査

ビジネスを守る

測定

可能な価値を提

供する

ビジネスとの方向性の一致

リスクフォーカス

人材最適化モデル

利害関係者管理

費用対効果

テクノロジー

サービス文化

品質と革新

対し継続的に付加価値のあるサービスと主体的な戦略的アドバイスを提供することを通じ、より幅広く利害関係者の期待に応えること)を提供できる場合、次のようなメリットがもたらされる。

図1:内部監査における八つのコア項目

Page 6: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

4 2014年内部監査全世界実態調査4 2014年内部監査全世界実態調査

• “信頼されるアドバイザー” である内部監査部門では、“アシュアランスプロバイダー” 水準のサービスを提供する内部監査部門よりも、八つのコア項目のパフォーマンスレベルが、大幅に高い(“アシュアランスプロバイダー” とは、一般に伝統的な監査計画の効果的かつ効率的な実施に焦点を当てた限定的な期待に応えるもの、と定義される)。

• “信頼されるアドバイザー” である内部監査部門のパフォーマンスは、“アシュアランスプロバイダー” の2倍以上、利害関係者から高く評価されている。

• “信頼されるアドバイザー” である内部監査部門が提供する効果がその費用を上回るという利害関係者の回答比率は、“アシュアランスプロバイダー” より40%以上高い。

今回の調査結果によると、さまざまな利害関係者の内部監査に対する期待の方向性が一致していると、期待されるサービス水準(“信頼されるアドバイザー”、“アシュアランスプロバイダー”、またはその間のどこか)に関係なく、内部監査部門はパフォーマンスが良く、また、重要な価値を提供すると評価されている。“アシュアランスプロバイダー” 水準の内部監査部門は、自らに対する期待値に沿った価値を提供し、その水準内で最も高品質のパフォーマンスを実施するように努力しなければならない。さらに、内部監

査部門は、どの水準においても、新たな領域(例えば、データ分析)で能力を向上し、より広範な専門分野の知見を活用し、コンプライアンス、ITセキュリティ、地理的拡大または製品分野拡大、新規買収などの新規リスク分野に取り組むことで、付加価値を創出することに常に努力すべきである。

増加する利害関係者の期待および増大するリスクユニバースに応えるグローバル水準の内部監査部門を構築するためには、緻密な計画と調整が必要である。最適な価値を提供し、マネジメントがより優れたビジネス判断をするのに役立つ内部監査部門を設置したいと考える組織は、次の重要な論点を検討すべきである。

• より高い価値を創出するための第一段階は、利害関係者の期待と方向性を一致させることである:全ての主要な利害関係者の期待と方向性が一致しているか?

• より多くを期待されることで、内部監査にとってより高い価値を創出する機会を得る:内部監査に十分に期待しているか?過去のパフォーマンスに基づき、内部監査部門はより多くを期待されるような立ち位置に置かれているか?

• より高い期待を満たすには、能力の向上が必要となる:自組織には適切な能力が備わっているか?

67%

の信頼されるアドバイザーは重要な価値を提供している。これに比べて、

のアシュアランスプロバイダーは重要な価値を提供している。

33%

Page 7: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

5より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 5より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真

利害関係者と同じ方向を目指し、価値向上に寄与する内部監査部門の青写真を描く

リスクを識別し管理する際のビジネスの重要な機能として、内部監査は利害関係者と組織の主要課題に効果的に貢献しなければならない。PwCがCAEと主要利害関係者を対象にした調査を毎年行っているのはそのためである。24業種・37カ国から約1,400名のCAE(内部監査ディレクターを含む)と520名以上の利害関係者に、PwCの2014年内部監査全世界実態調査にご参加いただいた。この豊富なデータに基づき、本調査は、内部監査部門の活動状況や個別の内部監査部門がおのおのの組織への貢献度を向上するために取っている手段について分析している。また、調査結果についてより深く洞察するために、北米、欧州、豪州、アジアで125名以上の利害関係者やCAEに対して、一

対一の個別インタビューも実施した。さらに、内部監査に対する規制当局の期待をよく理解するために、全世界にわたり主要な規制当局にインタビューを実施した。

PwCの調査と経験を通じて、内部監査部門は、“アシュアランスプロバイダー” から “信頼されるアドバイザー” まで、多様な提供アプローチを通じて価値を提供できることがわかっている(図2)。PwCの調査とインタビューから、重要な価値を提供できている内部監査部門は、広範な活動領域のどこに自らを位置づけるかを慎重に判断し、それに沿った方向で能力を備えようとしている。しかし、他の多くの内部監査部門は、よく考え抜かれた計画ではなく初期の既定値に基づいて運営されている。

内部監査部門が貢献度を最大化するための行程は、建設業者が世界一流の建物を建造する過程と異なるものではない。

監査計画の効果的かつ効率的な実施にとどまらない付加価値のあるサービスと主体的な戦略的助言を提供する。

意義のある改善の提案とリスクへのアシュアランスの提供において、主体的な役割を果たす。

監査の発見事項で特定された問題の根本原因の分析と見解を提供し、事業部門が是正措置を講じることができるようにする。

組織の内部統制の有効性に関する客観的なアシュアランスを提供する。

アシュアランスプロバイダー

アシュアランスプロバイダー

アシュアランスプロバイダー

アシュアランスプロバイダー

問題解決者 問題解決者 問題解決者

洞察の提供者 洞察の提供者

信頼されるアドバイザー

未実現の価値期待に一致

能力開発

品質提供

価値増大

新規建造物の建設に寄与する要因には以下のようなものがある。将来のニーズに適合するように設計するには、その建物の短期的用途と長期的用途の両方を考慮する必要がある。建物のスタイルについても決定する必要がある。例えば、シンプルで低価格、実用性を重んじる建物なのか、それとも、先進的な環境基準に準拠して最新テクノロジーが装備された革新的な建物なのか?また、建物は、各スペース、その利用予定や要求される柔軟性について詳しく計画された設計図に基づいてデザインされなければならない。これらの判断は、建物の建設と利用にかかわる全ての利害関係者からのインプットに基づき行われる。いったん決定をしたら、建設開始前に、全ての関係者が設計図について合意するよう、広くコミュニケーションする必要がある。工事着手の前に、建設業者は、必要に応じ熟練した人材と設備が現場に供給可能かを確認する。

詳細分析

図2:内部監査における未実現の価値を攻略する過程

Page 8: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

6 2014年内部監査全世界実態調査6 2014年内部監査全世界実態調査

内部監査がどのように世界一流の構造を構築し、潜在的価値を全て実現し、ビジネスへの貢献度を最大化できるかに関して、役員会メンバー、マネジメント、CAEが理解を深められるよう、以下の五章構成で調査結果を取りまとめた。

1.革新すべき時期であるか?革新のためのビジネスケース

2.価値創出のための土台を築く:期待を拡大させる

3.青写真を描く:期待の方向性を一致させる

4.建造の準備をする:期待に応えられる能力を開発する

5.青写真を共有する:内部監査部門のコミュニケーション戦略

「企業に影響を与える事件、リスク、または規制に対応するため、企業の中での内部監査の役割は変化し続けている。内部監査を、外部事象への反応型から企業の戦略的ニーズに沿った方向へと転換するために、もっと時間を投資する必要がある。内部監査に対する期待の範囲が合意された時、企業は内部監査部門から最善のパフォーマンスを引き出すための第一歩を踏み出すのである。」

—JohnTantillo,Partner,PwC

革新すべき時期であるか?革新のためのビジネスケース

PwCの2013年内部監査全世界実態調査によると、多くの内部監査部門は、貢献度を最大化するために苦労し、それゆえに、組織内の他のリスクやコンプライアンス関連部門にとっての意義を失う危機にさらされていた。12カ月後、先進的な内部監査部門は高い水準でパフォーマンスを提供しているという結果が出たものの、調査回答者の大半はほとんど進歩していないと表明している。2014年調査結果では、多くの利害関係者が内部監査部門は彼らの期待を満たしていないと考えていることが示されている。内部監査は重要な付加価値をもたらしていると考えているのは、マネジメントの半数以下(45%)である。役員会メンバーはこれよりも楽観的であり、70%が内部監査は重要な付加価値をもたらしていると回答しているものの、この比率は2013年より10ポイント下回り、この肯定的な評価結果の値打ちを下げている。

比率低下の理由は、内部監査が常に変化する複雑なリスク環境に後れを取っていることが理由であるか、もしくは、役員会メンバーの高まる期待に見合うリソースを内部監査が有していないという状況に影響されたためであると考えられる。

Page 9: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

7より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 7より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真

2013 2014

79% 68% 44% 45%

20%

40%

60%

80%

64% 49% 65%

内部監査が「重要な価値」を提供すると評価している利害関係者の比率

2014年調査において内部監査の「パフォーマンスが良い」と評価している回答者の比率1

役員会メンバー

役員会メンバー

マネジメント マネジメント CAE

1「パフォーマンスが良い」と評価している平均値を表す。

さらに、八つのコア項目の実現に関し内部監査のパフォーマンスが良いと回答したのは、平均してマネジメントのわずか49%、役員会メンバーの64%であった。CAEでさえ、内部監査部門のパフォーマンスが良いと評価したのは平均してわずか65%であり、内部監査部門のパフォーマンスに対して批判的である(図3)。

先進的な内部監査部門に対する期待とパフォーマンスをより包括的に理解するために、PwCは今日の先進的な内部監査部門がどのようなタイプの責任を果たしているかを調査するため、内部監査の八つのコア項目に対する評価範囲を拡大した。

調査結果によると、内部監査への期待について、役員会メンバー、マネジメント、CAEの中で異なる見解が見られる。

図4と図5において、コア項目の中から4項目(リスクフォーカス、ビジネスへの方向性の一致、利害関係者管理、サービス文化)のより詳細な分析結果を示している。

図3:内部監査の価値とパフォーマンスに対する満足度

Page 10: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

8 2014年内部監査全世界実態調査

60%

70%

80%

90%

100%

60%

70%

80%

90%

100%

期待:内部監査に対し該当項目を期待する回答者の比率(ベース = 調査の全回答者)

パフォーマンス:該当項目において内部監査のパフォーマンスが良いと評価している回答者の比率(ベース = 内部監査が該当項目を実施することを期待する回答者のみの比率)

CAEの期待

マネジメントの期待

役員会メンバーの期待

パフォーマンス

企業が直面している重要度の高いリスクと問題点を集中的に扱う

利害関係者の期待値に監査範囲と監査計画の方向性を一致させる

企業の内部監査の有効性を評価する

リスクフォーカスとビジネスへの方向性の一致

今回の調査により、リスクフォーカスとビジネスとの方向性の一致に関する内部監査への期待については、役員会メンバー、マネジメント、CAEの間で多様な見解があることが分かった(図4)。例えば、企業が直面している重要度の高いリスクと問題点を集中的に扱うことは、内部監査のコア項目の一つであり、ほとんどの利害関係者の期待である。マネジメント(85%)、役員会メンバー(90%)、CAE(96%)は、内部監査は企業が直面している重要度の高いリスクと問題点を集中的に扱うべきだという期待については方向性の一致が見られる。しかし、内部監査がこの期待に対してどのくらいパフォーマンスが良いかについては議論の余地がある。この項目を内部監査に期待しているCAEの81%が、内部監査のパフォーマンスが良いと回答した一方で、それに同意したマネジメントはわずか63%であった。おそらく、このギャップが意味するのは、内部監査は組織が直面している最も重大なリスクに真に焦点を当てておらず、すなわちこれらのリスクに関して利害関係者と方向性が一致していないということであろう。あるいは、内部監査は適切なリスクに焦点を当てているものの、これらのリスクに対して効果的に対応できる能力を十分に持ち合わせていないのかもしれない。本調査のインタビューの過程では、この二つのシナリオの両方について議論された。

内部監査が内部統制の有効性を評価するという期待についても、三者の期待は一致している。この領域においては、多くの内部監査部門が良いパフォーマンスをあげている。およそマネジメントの80%、CAEの90%、役員会メンバーの90%が、内部監査部門は内部統制の有効性評価に関し期待に沿っていると考えている。これは好ましい結果であり、内部監査部門が、財務、業務、コンプライアンスの統制テストといった基本的な“アシュアランスプロバイダー” への期待に基づいて能力を向上させて高いパフォーマンスをあげ、次に、“信頼されるアドバイザー” に向けての行程を意図的に設計できるということを示唆している。

利害関係者の期待値に対し内部監査が監査範囲や監査計画の方向性を一致させるという期待については、CAEと利害関係者は完全に同意しているわけではない。CAEのうち94%が、この点が内部監査部門の責務に含まれると考えている一方で、同じ考えのマネジメントはわずか85%、役員会メンバーは80%であった。さらに、この期待に対するパフォーマンスに関しては、見解が分かれており、方向性の一致を期待しているCAEの85%、マネジメントの68%、役員会メンバーの76%が、内部監査のパフォーマンスが良いと評価した。

図4:リスクフォーカスとビジネスとの方向性の一致に対する 期待とパフォーマンス

Page 11: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

9より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 9より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真

品質の改善と革新の促進が内部監査に対する期待項目であるかについては、利害関係者の見解にばらつきがみられた。これを期待項目とみなしているのは役員会メンバーの69%およびCAEの77%であるのに対し、この期待に同意しているマネジメントは56%であった。また、これを期待項目とみなしている役員会メンバーのうち、内部監査のパフォーマンスが良いと評価しているのはわずか64%であった。

今回の調査によると、いくつかのステップを経て、内部監査はより優れた部門となり得る。利害関係者の期待が非常にばらついている場合、CAEは内部監査が利害関係者の期待にどう応え、超えるか知り得るだろうか?内部監査部門が、高い品質を提供するために必要な能力およびスキルを計画的に識別するためには、まず、利害関係者の方向性を一致させ、包括的かつターゲットを絞ったゴールを設定しなければならない。

利害関係者管理とサービス文化

利害関係者管理とクライアントサービス文化に基づく品質提供の領域において、内部監査に対する利害関係者の期待の方向性はうまく一致していない。さらに、この項目に対するパフォーマンスはかなり低いことが理解できる(図5)。例えば、CAEの89%が現在の問題あるいは新興の問題についてマネジメントに適時に主体的な助言を提供することを期待している。また、マネジメントの81%がこれに同意している。一方、この項目で内部監査のパフォーマンスが良いと評価した回答者の比率に関して、マネジメントとCAEの回答比率に20ポイントのギャップがあった(マネジメント:41%、CAE:61%)。

利害関係者との関係を構築し管理することに関しては、CAEの77%が内部監査に対する期待項目と考えているが、この項目を内部監査に対する重要な期待と捉えているのは、マネジメントの55%、役員会メンバーのわずか36%であった。この項目を内部監査に期待しているマネジメントの55%のうち、内部監査のパフォーマンスが良いと評価しているのはわずか54%であった。

組織が直面している主要な問題の特定についても、重大な見解の相違が明らかになった。CAEの79%が内部監査にはこの項目が期待されていると答えた一方で、これに同意しているのはマネジメントのわずか63%、役員会メンバーの65%であった。主要な問題の特定を内部監査に対して期待するマネジメントのうち、内部監査のパフォーマンスが良いと評価しているのはわずか39%であった。

30%

50%

70%

30%

50%

70%

90%

30%

50%

70%

90%

90%

CAEの期待 マネジメントの期待

役員会メンバーの期待 パフォーマンス

期待:内部監査に該当項目を期待する回答者の比率 (ベース = 調査の全回答者)

パフォーマンス:該当項目で内部監査のパフォーマンスが良いと評価している回答者の比率(ベース = 内部監査が該当項目を実施することを期待する回答者のみの比率)

現在および将来の問題についてマネジメントに適時に主体的な助言を提供する

利害関係者との関係を構築し管理する

組織が直面している主要な問題を特定する

品質の改善と革新を促進する

マネジメントが識別された発見事項を理解し対処するのに役立つために、問題の根本原因を特定し報告する

サービス志向のチームでサービスを提供する(例:期待に基づき利害 関係者の満足度を測定 する)

図5:利害関係者管理とサービス文化に対する 期待とパフォーマンス

Page 12: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

10 2014年内部監査全世界実態調査10 2014年内部監査全世界実態調査

価値創出のための土台を築く:期待を拡大させる

CAEが利害関係者と方向性の一致を図る際、価値の定義は個々の利害関係者によって異なるため、価値の土台が現在と将来どのようなものであるかについて対話をする必要がある。

期待の方向性を一致させ、適切な能力を備えることで、内部監査部門は、“アシュアランスプロバイダー” であろうと “信頼されるアドバイザー” であろうと、組織に重要な価値を提供できる。今回の調査結果によると、期待されている役割が幅広である内部監査部門(信頼されるアドバイザー)は、重大な付加価値をもたらしているとみなされていることが多いことが理解できる。これは、内部監査部門がより幅広いスキルと能力を組織に提供することができるからだと考えられる。しかし、限定的な期待(伝統的な監査計画を実行するという、“アシュアランスプロバイダー” の役割に関する期待であることが多い)に対し良いパフォーマンスをあげ、利害関係者から高く評価されることは難しいが可能であることが調査結果により示された。いかなる期待(“アシュアランスプロバイダー” か、“信頼されるアドバイザー” か)を寄せられているかにかかわらず、内部監査部門は、能力とスキルを向上させて、組織により高い価値を提供できる機会を有している。

内部監査への期待の幅が狭いが、それらの期待についてCAEがコンセンサスを得てそれらの期待を満たすために内部監査部門の能力の方向性を一致させているケースにおいては、内部監査部門は価値を提供していると回答している利害関係者もいる。これはいわば、入居者の限定的な目的を満たすような、非常に効率的に設計された建物を建てる建設業者に類

似している。パフォーマンス評価によると、期待されている幅が限定的(すなわち “アシュアランスプロバイダー”)な内部監査部門のうち、最も基本的な期待についてのパフォーマンスが良く、重要な価値を提供しているのは26%にとどまった。一方、55%が、パフォーマンスが悪く、ほんの少しの価値しか提供しないと見られている。

これに対し、組織が内部監査に広範な期待を持ち、内部監査が利害関係者の期待に合う適切な能力に投資している場合は、利害関係者の満足度およびパフォーマンスはより高くなり、内部監査は “信頼されるアドバイザー” と見なされる。内部監査部門が “信頼されるアドバイザー” と見なされている場合において、利害関係者の67%が内部監査部門は重要な価値を提供していると答えた。これは内部監査への期待が“アシュアランスプロバイダー”としての期待に限定されている時(33%)の2倍である。さらに、内部監査が “信頼されるアドバイザー”として見なされる時、2倍以上の利害関係者が内部監査部門の便益がコストをはるかに上回ると評価している(図6)。

SPXのCFOJeremySmeltser氏は「内部監査が、ビジネスの変革の領域に関与し、監査計画に新興のリスク領域を統合し、ビジネス戦略の背後にあるリスクの統制と完全性を監査することに期待している。」と述べている。Smeltser氏はまた、「内部監査は組織上重要な立場にあるので、主体的に業務を行うことができる。内部監査は全ビジネスレベルの意見を聴取できるという利点を持っているので、

新規の課題が生じた時、常に関与するよう求められ、その見解を組織全体と共有することができる。マネジメントは内部監査部門の関与を期待している。」とも述べている。SPXにおいては、“信頼されるアドバイザー” であることが、企業に対し価値の保護を提供するという内部監査の主要責任を損なうものではなく、まして内部監査部門の独立性を妨げるものでもない。内部監査部門に対する期待が広範でかつ利害関係者から支持されている場合には、その広い期待を満たすために能力の方向性を一致させ、組織の重大なリスクに関し適切かつ考え抜かれた視点を提供できる。利害関係者に対し高品質の視点を提供し続ける能力があることで、内部監査部門は組織の重要課題の検討に参加することができる。そして、よりビジネスに直結する視点を提供し、組織にとって最も重要な課題に関し提供する価値を高めることができる。

今回の調査の結果から、利害関係者が期待を拡大し、内部監査がそれに応えて能力を向上させる場合には、内部監査は企業により高い価値を提供できることが明らかになった。多目的利用のために建築され設備が備わった建物がより多くの入居者のニーズに応え、高い入居率を達成するのと同様に、よりビジネスに関連性のある内部監査部門は、増大する利害関係者の満足を満たし、“信頼されるアドバイザー” としての地位を得る。内部監査を “信頼されるアドバイザー” として受け入れている企業の間では、56%の企業が、内部監査は重要な価値をもたらしパフォーマンスが良いと評価された。より

「CAEは、仕事を完了させるために『最良』のリソースを選択することが期待されている。これには、監査チームの知識を向上させ、問題に対する異なる視点を得るために、アウトソーシングの活用や内部監査で先駆的な立ち位置にある者の協力を得ることも含まれている。私たちは内部監査における多様な手法を学ぶために、コソーシングを活用している。」

—MelvinFlowers,CorporateVicePresidentofInternalAudit,Microsoft,USA

Page 13: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

11より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 11より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真

67% 33% 64% 26%

20%

40%

60%

信頼されるアドバイザー

アシュアランスプロバイダー

内部監査が重要な価値を提供すると評価している利害関係者の比率

内部監査のもたらすメリットが費用をはるかに上回ると評価している利害関係者の比率

13%

17% 56%

17%41%

16%

26%

14%

“信頼されるアドバイザー”の期待を持つ内部監査部門に対する利害関係者の視点

“アシュアランスプロバイダー”の期待を持つ内部監査部門に対する利害関係者の視点

内部監査は重要な価値をもたらし、パフォーマンスは良い

内部監査はある程度の価値をもたらし、パフォーマンスは良い

内部監査は価値をもたらすが、パフォーマンスは良くない

内部監査はほぼ価値をもたらさない、または、よくわからない

0%

64%83%

53%84%

44%79%

29%73%

45%68%

29%51%

75%51%

52%78%

企業が直面している重要度の高いリスクと問題点を集中的に扱う

利害関係者の期待値に監査範囲と監査計画の方向性を一致させる

費用対効果の高いサービスを提供する

利害関係者との関係を構築し管理する

サービス志向のチームでサービスを提供する

品質の改善と革新を促進する

監査に必要とされる適切なレベルの人材を獲得、教育、または調達する

監査サービスの実施においてテクノロジーを効果的に活用する

20% 40% 60% 80%アシュアランスプロバイダー

信頼されるアドバイザー内部監査のパフォーマンスが良いと評価している回答者の比率

20%

40%

60%

80%

100%

アシュアランスプロバイダー信頼されるアドバイザー

基本的なスキル 高度なスキル

財務管理 IT全般 不正と倫理 コンプライアンスおよび規制関連

(特定の規制を含む)

特定のITプラットホーム

IT・サイバーセキュリティ

事業継続 データ分析 データプライバシー

内部監査のパフォーマンスが良いと評価している回答者の比率

“信頼されるアドバイザー”はより高レベルのパフォーマンスを行う。

“信頼されるアドバイザー”は多くの場合、高度なスキルを持っている。

“信頼されるアドバイザー”は“アシュアランスプロバイダー”よりはるかに優れたパフォーマンスと価値を兼ね備える。

“信頼されるアドバイザー”は利害関係者からより評価される。

図6:信頼されるアドバイザー像

Page 14: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

12 2014年内部監査全世界実態調査12 2014年内部監査全世界実態調査

高い期待はより強固な能力を要求し、これが、より高いパフォーマンスを引き出す。さらに、期待の幅の広がりは、内部監査がカバーするリスク領域が広がっていることを暗示している。広範なリスク領域をカバーすることで、内部監査がスキルセットを向上させてビジネスへの関連性を強めることができる。

青写真を描く:期待の方向性を一致させる

大きな建物であれ小さな建物であれ、詳細な設計図を利用して建てられるのと同じく、効果的に利益を生み出し、良好に運営されている企業は、初期の既定値ではなく、計画に基づいて経営される。他部門に対する期待と同様に内部監査に対する期待は、目前の必要性に対応するためにつぎはぎで形成されるべきではなく、慎重に作り上げられるべきである。組織が内部監査の役割を再考し、複数の利害関係者の期待に内部監査の方向性を一致させた時に初めて、内部監査部門はパフォーマンスを向上し、組織に付加価値を提供することができる。

今回のインタビューで、自社の内部監査が利害関係者の期待に対し高いパフォーマンスをあげており、組織から高く評価されていると考えるCAEは、期待を良く理解し、広くコミュニケ―ションをとることが成功の基盤であると考えている。内部監査は、その利害関係者の期待と組織が直面している重大なリスクに方向性を一致させなければならない。これは、内部監査部門が戦略的に適切な能力を開発し、パフォーマンスと価値を向上するために欠かせない基本的な段階である。

役員会メンバー、マネジメント、CAE、さらには外部利害関係者(例えば、規制当局や外部監査人)も含めた関係者との対話や連携がなくしては、達成すべき期待に沿うことはかなり難しくなるだろう。CAEが利害関係者との関係を構築し管理すべきか否かに関して、意見に大きな相違があることについて、再検討してみよう。

役員会メンバーとマネジメントは、利害関係者との関係構築は内部監査の独立性と相いれないと考えるかもしれない。マネジメントは、そのような関係によってもたらされる価値を理解できていない可能性がある。この期待について、最も高く評価される内部監査部門は、利害関係者との関係の管理に焦点を当てていることが、今回の調査で明らかになっている。これは、CAEが利害関係者から示された期待にただ従うべきだということではない。インタビューにおいて、期待との方向性の一致を目指す過程はCAEが主導すべきだが、多様な内部・外部利害関係者と連携し、彼らの期待のバランスを取る必要があるということがわかった。CAEが方向性一致に向けてプロセスを管理する一方、利害関係者は、内部監査から提供される価値を高めたいなら、このプロセスの設計に貢献できるよう心構えをしておく必要がある。

これを達成するためには、内部監査と利害関係者は、現在と将来のニーズ、そして規制当局と第二のディフェンスライン、事業部門、リスク/コンプライアンス部門からの増大する期待とを主体的に考慮しつつ、八つのコア項目に合わせて期待値を設定しなければならない。

「組織の目標やリスクと内部監査部門の責務との方向性を一致させることは、現状、主として内部監査部門長のスキルと監査役員会がどれだけ強力かに大きく依存している。」

—VeronicaDuPreez,auditcommitteemember(variousorganiza-tions)andformerCEO,InstituteofInternalAuditors,SouthAfrica

青写真の構成要素:期待に含まれる項目

PwCが利害関係者やCAEと実施した議論と今回の調査の回答によると、効果的な内部監査部門を構成するための八つのコア項目の方向性を一致させることが重要である(図7)。さらに、CAEはこの8項目に関しどのように価値を提供するかという特定の期待についての方向性を模索し、一致させる必要がある。CAEは、より具体的な期待値を設定するため、利害関係者と十分に対話する必要がある。その対話を通じて、CAEの役割と責任を明確にし、サービスの範囲に関する利害関係者の期待と彼らが組織への付加価値をどう定義しているかが、より深く理解できるようになる。“信頼されるアドバイザー”水準でのサービスが提供されるならば利害関係者から見た価値が増大するということが、明らかに証明されたので、CAEの議論は、利害関係者が実際に内部監査に必要な能力を開発してほしいか否かという点に、焦点を当てるべきである。もし、利害関係者が内部監査をこのように合目的的に設計されることを望む場合には、それに応えられるスキルを開発するタイムスケジュールに関しても議論する必要がある。

もちろん、内部監査に対する期待と内部監査部門が八つのコア項目を提供するためにどう組織を構築するかについて全ての主要な利害関係者が合意しているわけではない。したがって、CAEは、多様な見解を集めるだけではなく、内部監査が提供できる期待値の共通のベースを設定するために、これらの見解を調整する必要がある。

Page 15: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

13より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 13より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真

内部監査

ビジネスを守る

測定

可能な価値を提

する

ビジネスとの方向性の一致

リスクフォーカス

人材最適化モデル

利害関係者管理

費用対効果

テクノロジー

サービス文化

品質と革新

図7:内部監査における八つのコア項目

費用対効果

人材配置モデルは、監査活動を効率的に完了するために、スタッフレベルや地理的な場所を変えながら、内部と外部リソースを効果的に活用する。

生産性は、最も費用対効果の高いサービスを提供するために、積極的に測定され、管理される。

監査方法論とプロセスは費用対効果のために、標準化・簡略化される。

監査のインフラへの投資は、練り上げられたROIアプローチに基づいて実施される。

品質と革新

品質標準が定義され、内部監査部門の全活動をカバーしている。

改善の機会を発見するために、公式な品質評価が定期的に行われている。

革新が内部監査の文化に組み込まれており、継続的に発展し、報いられている。

サービス文化

利害関係者の期待に基づいてクライアント満足度を測定している。

全てのサービスは目的と価値のバランスを取って提供される。

テクノロジー

データ分析が行われているため、事業領域と方向性を一致させることが可能となり、また、自動化を通じて効率よくテストを行うことが可能となる。

データは、ビジネス上の課題と所見、改善提案において深くかつ説得力ある情報を提供するために、利用される。

継続的な監査技法は、リスク兆候を初期に警告するためおよび監査範囲を拡大するために活用される。

関連する活動は、ガバナンス、リスク、コンプライアンス(GRC)ツールの活用を通じて、効果的にコーディネートされる。

ビジネスとの方向性の一致

期待は明確に表現され、伝達されている。

内部監査は自らの目標および価値を定義し、明示している。

公表された目標とビジョンへ向けての進捗を測定するために、測定基準が開発されている。

リスクフォーカス

監査計画は、トップダウンの戦略的なアプローチとビジネスリスクを識別するためのボトムアップアプローチとの両方に基づいている。

監査計画は企業と外部ビジネス環境の変化に対応するために、常に更新されている。

新興リスクや全社リスクを含めて、企業の主要リスクを評価するのに適切な時間と努力が費やされている。

利害関係者管理

利害関係者は、内部監査が業務的に卓越しており、必要に応じ戦略的なサポートを提供していると認識している。

期待、コミュニケーション戦略、タイムラインを含んだ、内部監査の戦略的な計画が存在する。

内部監査は、一対一インタビューと調査票方式との両方を通じて、定期的に自部門に関するフィードバックを求めている。

内部監査部門は、期待を定義し、監査の範囲を共有するために、事業部門と調整している。

人材最適化モデル

要求される期待に合わせるため、核となる内部監査と特定事項の専門家(ビジネス感覚を十分に有する者を含む)の適切な組み合わせが存在している。

コンフリクト管理とクリティカルシンキングに加え、ビジネスや関連するリスクについての内部監査の知識を向上させるための、継続的な学習と能力開発モデルが存在する。

スタッフへのパフォーマンスフィードバックは、部門のみならず、スタッフ自身の成長と能力開発を促進するために行われる。

Page 16: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

14 2014年内部監査全世界実態調査14 2014年内部監査全世界実態調査

多くのCAEは、自部門が “信頼されるアドバイザー” 水準に達するような幅広い期待を合目的的に計画するために、このようなステップを踏んでいる。その過程は容易ではないものの、CAEは、自らの成功の要因は方向性を一致させることと利害関係者からの支援を得ることであると一貫して考えている。小売業のNordstromの内部監査副部長DominiqueVincenti氏は、内部監査に対する期待は非常に幅広いと述べる。彼女いわく、内部監査部門には、戦略、業務、財務、またはコンプライアンスに関連するどのリスクであろうと、組織全体にわたるリスクと統制に関する見解を提供することが期待されている。さらに、監査計画と2014年のリスク評価のテーマの大半が、新規テクノロジー、新しい戦略イニシアチブの実行、他の新興領域に関するものである、と述べる。Nordstromの経営陣がこれらの新領域について内部監査部門に常にアプローチしてくるというわけではないが、同社には経営陣と内部監査部門の方向性を一致させるためのプロセスが存在し、これにより重要なテーマが監査計画で集中的に扱われている。

Vincenti氏は、“信頼されるアドバイザー”になることが容易ではないことを認めている。同社のマネジメントは、内部監査がより多くの領域に関与することを要望したため、これらの新領域も期待に含まれた。Vincenti氏は、役員会メンバーとは完全に方向性が一致しているものの、「マネジメントは何について自分たちが同意しているか、はっきり理解していなかった。」と指摘している。内部監査が監査範囲を拡大し、以前に監査をしていない領域での監査を始めた際、当初は不快感を表明した者もおり、マネジメントとの適切なパートナーシップの形成となぜ内部

監査が当該分野に関与したかというマネジメントからの質問に答えるのに余分な努力を費やす必要があった。

しかし、Vincenti氏は、過去12カ月間を通じて、内部監査部門は「押し出されるのではなく、引き入れられる」ようになったと指摘している。内部監査部門が知識と専門性を蓄積し、いくつかの非常に重要なプロジェクトでその価値を証明することで、その傾向は高まった。同社の事例は、“信頼されるアドバイザー” の立場になることはいわば旅路であり、内部監査部門は、期待に応えられる適切な能力開発と期待の幅の拡大を同時に実施すべきであることを示している。これにより旅路はより長くなるかもしれないが、現在と将来の利害関係者の期待を一致させることで、CAEは組織の重大なリスクにフォーカスし、内部監査部門の価値とビジネスとの関連性を高めるために必要な能力を識別し始めることができる。

内部監査に対する期待の幅について内部監査部門と利害関係者が明確に合意した後は、内部監査部門はその範囲に合わせてしっかりと業務を実施することが重要である。期待の方向性が一致した状態からスタートすることで抵抗が減少するはずである。しかし、利害衝突が起こる場合もあるだろう。例えば、ある種の期待に関してビジネス側は価値を見いださなくても、役員会や規制当局は価値を見いだすかもしれない。さらに、内部監査部門は利害関係者より優れた事例を理解しているため、内部監査部門が提供する価値に対して、より十分な情報に基づく見解を提供できるかもしれない。CAEがグローバルスタンダードで、またはそれに向けて内部監査を実施しており、期待を定義しその方向性の明確な一致を目指

している限りは、利害関係者は、折に触れてCAEに耳を傾け、信頼するべきだろう。期待が明確かつ協調的に定義されているならば、内部監査はこれらの期待が満たされるよう、リソースと活動を管理するための権限が与えられるべきである。

将来のニーズを主体的に考慮し、変化に対応する期待を設定する

今後18カ月にわたり、マネジメントは、組織に重大な影響を与える市場の変革が続くと想定している。PwCの「2014年RiskinReview」は、ビジネスに影響を与える三つの大きな領域として、テクノロジーの変化とそれに関連するITリスク、規制のさらなる複雑化、急速に変化する顧客のニーズと行動を挙げている。これらの変化に対応するために、企業は戦略を調整し続け、時には、根本的なビジネス変革を実施する。本調査回答者の4分の3は、彼らの組織は既に変革に取り組んだ、現在取り組んでいる、または将来取り組む予定であると答えている。市場変化とそれに対応するビジネス変化の組み合わせによりリスクは増加しており、マネジメントの75%がリスクは増加し続けていると答えている。最大の価値を提供する内部監査部門は、現状のリスク環境のみならず新興のリスクに対しても、彼らの役割の方向性を一致させている。リスクと変化のペースの相互関係が深まるにつれて、内部監査に対する期待を常に調整し、継続的に方向性を一致させることは、重要な価値を最も重要なタイミングで獲得するためには欠かせない。

内部監査人協会の会長兼CEOであるRichardChambers氏は、「内部監査は当座のリスクに反射的に対応する傾向がある。」と述べる。その場しのぎのアプロー

Page 17: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

15より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 15より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真

チでは、内部監査が組織にとって適切な関連性を持つことは難しく、まして、組織がどのように最も重大なリスクを低減するかを評価するスキルを主体的に備えることは望めない。今回のインタビューにおいて、利害関係者は、企業のリスクと方向性が一致している時、内部監査はより高い価値を提供するという見解を強調した。SprintのCFOJoeEuteneuer氏は、内部監査部門の権限に関して、次のように述べる。「内部監査の役割は、私たちがリスクを想定、評価、管理できるように主体的に関与することにある。日常業務の実施を通じビジネスと提携すること、そしてリスクと統制に対する洞察を提供する『アイデアの倉庫』となり企業の全体的なメリットをもたらすことを期待している。」方向性がきちんと一致している内部監査部門は、企業にとって最も重要な領域のリスク管理に客観的な視点をもたらす能力を通じ、価値を提供している。

他のディフェンスラインや第三者と方向性を一致させる

建物の建設には、入居予定者から安全点検者、土地区画規制委員会にいたるまで、直接のプロジェクトチーム以外にも多数の関係者間の調整が必要である。役員会メンバーやマネジメントに加えて、第二ディフェンスラインも内部監査の主要な利害関係者である。第二ディフェンスラインには、会社のリスク管理に対する監視機能が含まれるため、内部監査が第二ディフェンスラインと方向性を一致させることは非常に重要である。他のディフェンスラインとの相互作用に関し “アシュアランスプロバイダー” と “信頼されるアドバイザー” がどのように異なるかをより詳しく理解するために、両者が利用する戦術を評価した(図8)。

「内部監査部門はビジネスに関する会話に参加し、ビジネス上の目的を理解していることを示す必要がある。内部監査部門がビジネスを理解しておらず、マネジメントからの信頼を得られない場合、彼らはビジネスに関する会話に参加できない。内部監査チームは変革し、既制概念にとらわれない人材を採用する必要がある。現在求められるスキルは以前とは全く異なる。従来は、最も優れた会計士を採用していた。現在は、優れた専門知識に加えて、コミュニケーションや人の話を聞くのにたけた人材が求められる。内部監査部門が自分たちの仕事はまず貸借対照表から始まると考えていたら、間違った方向へ行ってしまうであろう。内部監査の仕事は、ビジネス目標と会社の方向性を理解するところから始まる。ビジネス目的にフォーカスすることで、内部監査は組織の重大なリスクに方向性を一致させられる。」

—MelvinFlowers,CorporateVicePresidentofInternalAudit,Microsoft,USA

0%

44%72%

33%52%

23%38%

21%37%

18%34%

42%20%

27%44%

新規リスクの発見または、組織のリスクプロファイル変更に伴い、内部監査計画を変更する。

上位リスクについての見解を合わせるため、内部監査部門とリスク管理部門間で定期的なミーティングを開催する。

組織のリスクプロファイルに基づき、リソースを適切に配置する。

組織全体にわたる総合的なリスクへの見解と十分なリスクカバレッジを構築する。

内部監査部門とリスク管理グループ間で、それぞれの責任について具体的に合意する。

各ディフェンスラインによって実施されたテスト結果を相互に活用する。

企業リスクについて協議して管理するため、第二および第三のディフェンスライン間の継続的な相互関係を構築する。

10% 30% 50% 70%各戦術を日常的に使っているとした回答者の比率 アシュアランスプロバイダー 信頼されるアドバイザー

図8:内部監査が他のディフェンスラインと方向性を一致させるために利用する戦術

Page 18: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

16 2014年内部監査全世界実態調査16 2014年内部監査全世界実態調査

「大局的な見地から、規制当局は、規制監督においてリスク・ベース・アプローチを採用している。組織のリスクプロファイルの評価には、リスク管理と統制環境の有効性評価が含まれている。内部監査は重要な第三のディフェンスラインであり、従って、内部監査の有効性は、組織のリスクプロファイルと効果的なリスクガバナンスに対するマネジメントと役員会の責任に関する私たちの見方に直接の影響を与えている。」

—CarlodiFlorio,ExecutiveStrategy,FINRA,USA

利害関係者に最適の価値を提供するリーダーとして、“アシュアランスプロバイダー” と比べ、“信頼されるアドバイザー” が一定の戦術を日常的に利用している割合がはるかに高い。事実、今回調査したほとんど全ての領域で、“信頼されるアドバイザー”による戦術の利用度は“アシュアランスプロバイダー” の2倍である。「RiskinReview」の調査を通じ、全社的リスク管理の監視機能が次第に成熟してきていることが確認された。これらの機能の成熟に伴い、全ての内部監査部門は、第二ディフェンスラインとより協調的に相互に影響を及ぼすため、“信頼されるアドバイザー” に倣って、これらの戦術を活用する計画を立てることが可能になるだろう。

企業の全社的リスク管理機能の成熟度にかかわらずとることのできる単純な手段としては、全社的リスクの共通定義の利用、第三ディフェンスラインとしての内部監査部門の役割・責任と第二ディフェンスラインの役割・責任に関する期待の明確化、持続的な協働プランの設計が含まれる。

内部監査部門に対する第三者の期待も同様に考慮しなければならない。今回の調査の一環として実施した利害関係者とCAEとのインタビューに加えて、規制当局の期待が内部監査に与える影響について「外部」の見解を得るために、特定の規制当局の高官とのインタビューも行った。一般的には、伝統的な規制業種(例えば、金融、医療)を対象とするか複数の業種を対象とするかにかかわらず、規制当局は、図7で説明された八つのコア項目を内部監査が実施するべきであるという点で合意している。

PwCの考察によると、規制当局は、内部監査が新興リスクと他の変革領域に関与することの必要性を強調しており、内部監査により高い信頼を置くつもりであることが明らかである。規制当局はまた、内部監査チームがより専門性が高い人材をチームに含め、企業全体の重要な構成員とより効果的なコミュニケーションラインを設けることの必要性を強調している。最後に、規制当局は、内部監査が独立性を維持しつつも、ビジネスと部門をまたいでマクロ的、全社的な視点を持ち、重要な取り組みに関与するという独特なポジションを生かす重要性を強調した。

今回のインタビューとPwCのこれまでの経験から、規制当局が内部監査により

多くのものを期待していることは明らかである。しかし、本年度の調査によると、この期待は内部監査が注視する領域に重要な影響を与えるまでに至っていない。規制当局の期待がどの程度内部監査に影響を与えるかと問われた際、ほとんどの回答者はその影響は大きくはないと考えていた。しかし、役員会メンバーは、内部監査に対する規制当局の影響を、CAEよりもはるかに大きくとらえている。規制当局の影響に関するこのような見解の不一致は、関係する規制当局の期待についてさらなる考察が必要であることを示している。

多くの回答者が規制当局の影響を大きくないと考えているものの、今回の調査データとインタビューから、内部監査部門が規制当局の期待に応えるために多様なアプローチを採用していることが確認された。全調査回答者の29%が、規制当局の期待に合わせるために増員を行い、40%が必要なスキルを得るために第三者の利用を増やしたとしている。

増大する規制当局の期待に応えるためにNordstromが採用した初期のアプローチは、スキルが確立した後に「適切な規模」のリソースを保つ目的で、早急に人員を増やすことであった。

その強化の一部として、Nordstromは規制コンプライアンス対応すべく、業務監査人のスキルから、必要とされるスキルの種類について見直しをしている。例えば、Nordstromは、内部監査部門に弁護士を採用し、監査人としての研修を行っている。内部監査担当VicePresidentであるDominiqueVincenti氏は次のように述べる。「彼らはうまく適応し、規制当局の

Page 19: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

17より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 17より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真

「内部監査が効果的であるためには、ビジネスから尊重される必要がある。尊重されるには、内部監査は正しい態度を取る必要がある。私たちはビジネス側および組織の外部から優れた人材を内部監査部門に配置するローテーション計画を立てた。これは内部監査部門内で幅広いビジネス知識を蓄積することに役立つし、ビジネスサイドが統制スキルおよび企業価値を拡大し続けるのにも資する。私たちは、内部監査リソースを補充するためにコソーシングも利用する。コソーシングは、ローテーションプログラムを補完し、特定の状況で必要となる、私たちが有していない人員や専門的なスキルをカバーしてくれる。」

—JeremySmeltser,CFO,SPX,USA

裁定が理解でき、弁護士を雇用するというこのプランは本当にうまくいった。専門家の水準で法律を文言とその含意の両方を理解する者がいるということは、マネジメントや規制当局の検査官からの信頼につながっている。」

フォーチュン50のある会社のコンプライアンス担当執行役員によると、組織が直面する広範で複雑でグローバルなコンプライアンスリスクをより主体的に管理するために、コンプライアンス部門は、コンプライアンス監査プログラムに関し内部監査の支援を求めた。同様に、内部監査部門は、コソーシングのプロバイダーから監査対象事項に関する専門家を調達し、コンプライアンス監査チームを組成した。このチームは、コンプライアンス担当執行役員のコンプライアンス・モニタリング・プログラムを支援するために、コンプライアンス監査を実施してグローバル・コンプライアンス・ポリシーへの遵守を評価することが唯一の使命となっている。

どの産業にも固有の規制の影響はあるが、役員会メンバー、マネジメント、CAEは自社に対する規制当局の具体的な期待を理解し、必要に応じて、その期待に合わせて自分たちの期待をデザインする必要がある。変革と複雑性を効果的に管理し、組織のコンプライアンスを確保するため、CAEは自社に適用がある規制要件を定期的に再評価しなければならない。

建造の準備をする:期待に応えられる能力を開発する

幅広い期待と重大なリスクに方向性を一致させることは、内部監査部門がビジネスへの関連性と価値を向上するための重要な一歩である。しかし、このように新たに方向性を一致させた期待に対し継続的に測定可能で強力なパフォーマンスをあげることは、結局は内部監査の価値を向上させ、内部監査が期待値を拡大するための機会を提供する。これは、革新的な解決案と能力の向上を通じてのみ成し遂げられることである。

適切な建築資材を選択する

多くの内部監査チームにとって、期待に対し高品質のパフォーマンスをあげるには、新しく革新的な解決案へ継続的に投資をしなければならない。GoogleのCAE、LisaLee氏は次のように述べる。「テクノロジー企業として、私たちは革新し続け、変化する環境に適応する必要がある。このため、私たちは変動するリスクを検討するため、コンサルティング型の内部監査または自社ビジネスの最前線を支援するアドバザリーサービスにより多くの時間を割くようになった。これらの監査はマネジメントと密な協力の下で提供しており、最終成果物が定義される前のプロセスを通じて彼らが統制とリスクについて検討するのに寄与している。私

たちは、マネジメントが内部監査において最も価値を見いだしている将来志向の監査に多くの時間を割き続けているので、伝統的な取引に対するアシュアランス監査もしくは過去志向の監査もより多く実施するためには、バランスの調整が必要である。私たちは、将来志向の監査により十分な時間を割くために、過去志向の監査を補完するデータ分析を活用することに関心を持ち始めた。」

過去数年にわたり、BankoftheWestの内部監査部門は、検出事項そのものよりも統制ギャップと根本原因により焦点を当てるために、レポートのフォーマットを大きく変えている。

BankoftheWestの監査ディレクター、DavidFong氏によると、「内部監査でずっとキャリアを積んできた監査人が監査と監査テストにおいて異なる視点を持つよう訓練するのは簡単ではなかった。」この課題に対応するため、同社の内部監査部門は、各機能領域で挑戦し、適切なスキルを開発できる経験豊かなディレクターを増員した。フォン氏は次のように述べる。「組織で確実な地位を確立するためには、そのための努力をすべきである。それは、統制ギャップと根本原因に関して新たな視点をもたらす監査の実施に適した人材を配置することで可能になるだろう。」

Page 20: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

18 2014年内部監査全世界実態調査18 2014年内部監査全世界実態調査

「私たちは新しい市場に対して上海、サンパウロに地域の監査事務室を設置している。これにより、全世界の各内部監査チームが一貫性のある監査アプローチを維持しながら、内部監査が地域の事業部門により近づき、地域の状況に関する知識を獲得し、地域人材を開発することが可能になった。アプローチの一貫性を確保しつつも、エンゲージメントの人員配置はグローバルであるべきである。」

—ValerieMoumdjian,CAE,Solvay,Belgium

主導的な組織は、内部監査部門がシックスシグマ(SixSigma)のような継続的な改善手法を用いることで、パフォーマンスを次のレベルに引き上げ続け得ることを証明している。ProgressiveCorporationは、内部監査パフォーマンスを改善するという特定の目的で、シックスシグマの訓練を受けた人材を監査マネージャーとして最近採用した。彼らは、自社の環境に適切な概念を適用して、シックスシグマの内部監査に関連する側面のみを利用している。初めは懐疑的であったが、監査チームはその便益を見つけている。現在は、監査人はプロセスをより理解し、プロセス改善と根本原因の分析に絶えず焦点を当てている。さらに、彼らはデータと統計分析で発見事項を裏付けている。シックスシグマ手法の導入によって、内部監査部門はプロセスがどのように統制されるかについて理解が向上し、発見事項と改善提案が改善に向けてうまく受け入れられることで、監査人と被監査対象部門との協力関係を改善することもできるようになった。

最も重要な建築資材:スキルセット

内部監査部門は、高品質のパフォーマンスを通じて価値を創造している。これを可能にするには、組織が現在どこにいるかを理解し、将来進むべき場所に誘導する適切な能力を持つことである。利害関係者と十分に方向性が一致した強固な期待を設定することにより、内部監査部門が現状の能力を評価して、ギャップを識別できるフレームワークを提供する。

ほとんど全ての内部監査部門が必要な人員数を毎年評定しているが、利害関係者の期待に方向性を一致するような特定のスキルセットに関して必要な現在と将来のリソースについては必ずしも評定できていない。このようなギャップ評価は、内部監査部門が従来から適用してきたものとは全く異なる人材モデルかもしれない。いったんこのスキルセット評価が完了したら、適切なスキルセットを得るために十分検討の上で設計された計画を実行に移せるだろう。

“信頼されるアドバイザー” である内部監査部門の利害関係者は、内部監査部門が財務統制、不正・倫理、IT全般といった分野にとどまらず、サイバーセキュリティ、事業の継続性、個人情報保護、特定のITプラットホームといった重要なビジネスリスク分野にも彼らのスキルを拡大すべきだと考えている。例えば、“アシュアランスプロバイダー” の利害関係者の48%に比べ、“信頼されるアドバイザー”の利害関係者の70%(22%の相違)が、内部監査部門は、特定のITプラットホーム(例:SAP、オラクル、PeopleSoft)に関するスキルを持っていると考えている。個人情報保護や事業の継続性に関するスキル分野でも同様の相違が見られる。“信頼されるアドバイザー” の利害関係者の80%以上が内部監査部門は当該スキルを持っていると答えた一方で、“アシュアランスプロバイダー” の利害関係者のわずか56%が同様の回答をした。“信頼されるアドバイザー” は最初からそのようなスキルを獲得していたのではなく、むしろ、

企業内部で異なるスキルを持つ人材を募るか、あるいはコソーシングを活用するかによって、組織から最大限に価値を評価されるスキルセットを得るための計画を意図的に設計した結果である(図6)。

今回の調査とインタビューで、CAEは転職率の増加と特定事項の専門的スキルの欠如を問題として指摘したが、彼らは、組織のリスクに応えられるスキルを持つ人材は、効果的な機能を果たすための基本的要素であることも指摘している。この点についてより詳しく見ると、上述したCAEの大多数は、今後12カ月の間、リソースを増やすつもりではなく、その代りに既存のリソースをより活用する予定であると回答した。調査結果によると、このアプローチは利害関係者にも認識されている。マネジメントの半分以下(49%)が内部監査部門は利害関係者のニーズに合う適切なレベルの人材と適切な専門家を獲得、教育、調達していると考えている。適切な人材モデルが期待を実現するのに不可欠であるため、内部監査部門のスキルセット開発に関する利害関係者の見解と全体的なパフォーマンスに関する彼らの見解に相互関係があることはもっともであろう。CAEはその機能を設計する責任があるため、利害関係者と必要なスキルセットに関して正面から議論すべきである。利害関係者としては、内部監査部門との会話にオープンに向き合い、必要とされる潜在的な投資や変化に関して支援しなければならない。

Page 21: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

19より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 19より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真

「私たちは、最新の規制当局の要請に基づいたグッドプラクティスと機会領域に内部監査がハイライトすることを期待している。私たちは、内部監査部門に対して、想定される規制の変化、これらの変化が私たちの業務に与える影響、さらにこれらの変化に対する私たちの準備に関して、彼らの見解と洞察を提供するよう要請している。」

—RamanSK,COOandboardmember(FinanceHead),KemwellBiopharma,India

定義された期待設定に対してリソースとスキルを絶えず評価している内部監査部門は、それに応じた投資に関して利害関係者から支援が得られ、彼らの組織に関連する高品質のサービスが提供できるようになる。どの企業も拡大、変革しているので、あらゆるビジネス領域のリーダーたちは、これらの変革に歩調を合わせるために、主体的に対処している。基本的な期待か、より戦略的な期待であるかにかかわらず、内部監査部門もこのような主体的なアプローチを取るべきである。

多くの内部監査部門は、短期間でスキルセットのギャップを補うために特定事項の専門家を活用することで、期待を実現することができると認識している。これは、どのように人材を調達しリソースを開発するかについて新たな発想が多くの組織で必要であるとする戦略である。インタビューした数名のCAEは、内部監査部門にはない必要なスキルを導入するために、コソーシングの利用に目を向けていることを表明した。EducationalTestingServiceはスキルセットや人材配置アプローチに取り組んでいる企業である。CFOのJackHayon氏は、そのアプローチについて、次のようにうまくまとめている。「今日では、小規模で変化がない内部監査部門は、企業が直面している複雑なリスクを管理するために必要なスキルを持っておらず、FCPA、ITセキュリティ、データ、PII、国際リスクなどについて理解していない。そのようなグループは、彼らが慣れ親しんだ監査だけをする傾向がある。彼らが伝統的な領域以外の監査に進む場合、必要なスキルやアプローチを持ち合わせていないことに気づくことがあ

る。限られたスキルしかない小規模内部監査部門は、企業にとって、むしろ有害な存在であろう。」Hayon氏は、コソーシングを活用することで、内部監査部門は、必要な時に適切なスキルを調達することで、より幅広い期待設定に対して価値をもたらすことを実証することが可能になったと述べている。Hayon氏によると、内部監査部門は、日常的に価値を提供しており、今では、問題が生じた際には、マネジメントは内部監査部門の関与を求めている。

期待に応えるために、多くのCAEは、適切な人材モデルをどう開発するかについて、利害関係者からより明確な回答を求めている。今回の調査では、引き続き以下のような回答があった。公式なローテーションとゲスト監査プログラム、伝統的な財務会計や外部監査経験に限らないで採用活動を拡大すること、より優れた監査手法とスキルを獲得するためのコソーシングや正当な理由があれば監査機能のフルアウトソーシング。CaterpillarのCAEAmyCampbell氏は、「コソーシングによって、私たちが必要な分野で必要な時に、特定事項の監査専門家の手当をしている。特定事項の監査専門家と社内のビジネスの専門家とを組み合わせることは、利害関係者の期待を実現するために必要な能力にとって不可欠である。」と述べている。

Page 22: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

20 2014年内部監査全世界実態調査20 2014年内部監査全世界実態調査

「チームのデータ分析領域での改革は、AustraliaPostでの私たちのアプローチに大きな目に見える変化をもたらした。提供する価値が著しく改善し、チームが主要なプロセスを定期的かつ効率的に監査することができるようになった。いくつかの事例で、私たちは事業部がリアルタイムでリスクを管理することを支援するために、彼らにテスト業務を移管した。データ分析のおかげで、私たちはより多くの監査を実施し、大きな保証を提供している。」

―GregEvans,GeneralManager,InternalAudit,AustraliaPost,Australia

るアプローチは、内部監査の権限と組織内の役割や提供することが必要な期待について、CAE、マネジメント、監査委員会議長とその他の利害関係者の間で全員を含めて議論することである。このような議論には、ビジネス環境の中で組織の変化するニーズと変革を考慮して、内部監査に対する期待に方向性を一致し続けられるように少なくとも年1回は開催される会議も含まれる(図9)。

インタビュー参加者は、期待とパフォーマンスについてコミュニケーションをするのに常に役立つ独自のアプローチを提示していた。例えば、利害関係者と一緒に統合されたワーキンググループに定期的に参加したり、事業部のマネジメントと四半期でミーティングをしたり、ビジネス経験が豊富な者を内部監査部門で活用したり、業務担当役員と一対一の議論をすることである。

青写真を共有する:内部監査のコミュニケーション戦略

包括的なコミュニケーションプランは、内部監査が定義された期待値の設定に方向性を一致し続けるために重大な要素である。主導的な内部監査部門は、期待に関する合意と期待に応えるために必要な能力を獲得し、保持するために、全ての利害関係者にわたるコミュニケーション戦略を策定している。

組織にとって“信頼されるアドバイザー”と見なされるCAEは、コミュニケーション戦略に多角的な戦術を採用している。これらのCAEの間で、最も重要と考えられ

20%

30%

40%

50%

60%

70%

内部監査の権限について監査委員会議長や取締役会と意見交換を行う

少なくとも年1回、内部監査部門の役割が期待に

見合っていることを確認するために、主要な利害関係者と意見交換を行う

内部監査の権限と組織内の役割について合意するために、内部監査部門のマネジメントと監査委員会議長が会合を開く

内部監査の権限と組織内の役割について事業部門の会合で

トップダウンの意見交換を行う

内部監査の権限について

内部監査部門内で意見交換を行う

内部監査のパフォーマンスと利害関係者の期待に応えているかについて利害関係者に定期的に調査を行う

内部監査の権限について話し合うために、規制当局や外部監査人と会合を開く

内部監査部門の憲章・規定を会社の

イントラネットに掲載する

図9:主導的な内部監査部門によって利用されるコミュニケーション戦術(戦術が重要もしくは非常に重要と回答した“信頼されるアドバイザー”たるCAEの比率)

Page 23: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

21より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 21より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真

「企業に対する私たち独特の視点により、内部監査は変革推進者になれるとてつもない機会を持っている。月次や四半期の会議を通じて、私たちは、全社と業界で起きていることの状況を把握しており、主要なイニシアチブ、決定、プロセスに関してリアルタイムに所見や改善提案を提供している。」

―MichaelJenkins,VicePresidentInternalAudit,TheGap,USA

SprintのCAEKarenBegelfer氏によると、内部監査の権限について話し合うことは、継続的なプロセスである。彼女は、内部監査の役割に方向性を一致させることは、全社にわたる内部監査の強力な情報共有プロセスによるものである、と述べており、チームが「出歩いてできるだけ多くの人と会って話すことによって仕事を探している。」と認めている。Begelfer氏は、四半期に1回、イニシアチブ、リスク、トレンドについて議論をするために、CEO直属の部下と会っている。内部監査のマネージャーは、同様に四半期に1回、同クラスの利害関係者たちと会っている。

利害関係者と期待や責任について定期的に話し合うことにより、CAEは土台を設定することができる。青写真に基づいて建設を遂行し、利害関係者に進捗報告することに建築者が責任を持つように、内部監査は利害関係者の期待に対するパフォーマンスや価値をモニタリング、追跡、報告すべきである。パフォーマンスと価値をモニタリング、追跡することによって、利害関係者は、内部監査が何を

うまく実行しているかを確認することができ、価値を見いだせるところはどこか、パフォーマンスギャップが存在するのはどこかを内部監査にフィードバックすることができる。パフォーマンスギャップに取り組んでいる内部監査部門にとって、パフォーマンスの改善計画が策定され、当該計画への密接で頻繁なモニタリングが行われ、パフォーマンスを改善するためのマイルストーンも設定されなければならない。

今回の調査では、“アシュアランスプロバイダー” のレベルの働きをしている内部監査部門は、監査計画や監査範囲を無事完了させたという伝統的な価値尺度をしばしば利害関係者に報告している事が理解できた。これに対し、“信頼されるアドバイザー” は、提供する改善提案や新たに起こる問題への関与を通じて、組織にもたらす価値を伝えることに注力している。私たちのインタビューでは、組織を改善するために統制環境を変革することの影響について追跡し、伝えている内部監査部門がいくつかあることも認識している(図10)。

図10:内部監査がその価値を伝達している方法

• 主要なイニシアチブや新興リスク(新システム、買収、売却、新製品、新規制などを含む)に関与し価値を提供する

• 組織に対する主要な問題と重大なリスク領域について、内部監査部門がマクロな見解を提供する能力

• 内部監査部門が、継続的に統制環境全般の改善に影響力を発揮することで、組織の「変革推進者」となる能力

• 毎年実施する「顧客の声」調査

• 内部監査部門が役員会やマネジメントからの質問に回答する能力

• 提供する改善提案の価値

• 内部監査部門の改善提案や発見事項に基づく、費用削減や収益増大

Page 24: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

22 2014年内部監査全世界実態調査22 2014年内部監査全世界実態調査

取るべき行動

実体があって価値のあるものを築く時、世界的な超高層ビルであれ世界一流の監査組織であれ、建築者は他からのインプットを必要とする。ビジョンを設定する経営者、ニーズを表現するクライアント、ニーズに合った能力あるいは期待を超える能力を持つ労働者、そして、完成に至るさまざまな場面を通じて品質と安全への助言をする検査官。責任の所在は最終的には建築者に残るものの、構築プロセスはグループとしての努力である。期待への方向性の一致、提供する能力への投資、よく設計されたコミュニケーションプランがなくては、内部監査は、最適なパフォーマンスと現実的で測定可能で有益な価値の提供を実現できない。

今回の調査では、より戦略的な期待に対して提供すべき機会とリソースを与えられたCAEは、その組織と密接に連携しており、一方で利害関係者は内部監査から大きな価値を受け取ると報告している。CAEの圧倒的多数は価値を提供する機能を構築するためにできることを実施しているものの、一方で利害関係者の期待と方向性が一致しないようなリソースとプロセスで機能を構築しようとしているCAEも多数見受けられた。意図的な行動を通じて、“信頼されるアドバイザー” は彼らの期待と得られた結果を広く対話することで、利害関係者の期待を実現するようリソースの合致に注力している。

CAEは、協働を主導し、利害関係者の期待に関して合意を得ることによって、意図的に自社の内部監査機能を設計しなければならない。しかしながら、ほとんどの組織が直面する複雑で変化の絶えないリスク環境の中で、マネジメントと役員会メンバーは、内部監査機能の設計に対して積極的な意見を持つことも必要である。また、スキルセットに対する投資への潜在的な要求を支援し、内部監査が組織への価値提供に焦点を当てるよう奨励することも必要である。

これを遂行するために、私たちは具体的な行動を提案する。

CAE:デザインおよびコミュニケーションプランを主導する

• 内部監査に対する利害関係者の期待は何か、どのようにしてその期待を満たすかについて見解を明らかにすることによって主導する。期待設定の詳細レベルは、内部監査規程に含まれる項目よりきめ細かいものであるべきである。私たちの調査では、利害関係者にとって最も大切なことに焦点を当てるよう合目的的に設計された機能が、より価値を提供していることを示し続けている。

• 現有能力に対して必要とされるスキルセットを評価して、能力ギャップに対処するためのマイルストーンや指標を含む行動計画を策定するため、期待値設定の方向性を一致させ、主導する。必要とされるリソースへの投資をするために、利害関係者からの支援を受ける、もしくは現有能力で実現可能な期待値に修正する。

ビジネスへの提言

• 示唆された期待値の集合体に対して合目的的に方向性を一致させるためのコミュニケーションプランを作成することで主導する。私たちは、内部監査に対する目的や期待が利害関係者によって異なるであろうことを認識している。完全な方向性の一致は実現できないかもしれないが、内部監査が実行しようとしていることの青写真が全ての利害関係者に対して明確に伝達されるべきである。

• 利害関係者の期待に方向性を一致し続けるために、内部監査機能の設計やアプローチを定期的に再評価する努力で主導する。これは、期待に対するパフォーマンスに対して、また提供している価値を利害関係者に確認するためのコミュニケーションプランの遂行を定期的にモニタリングすることで実行されることが多い。

役員会メンバー:主体的に情報を提供し、計画を承認する

• もし能力の範囲内の期待がより戦略的な性質を持ち、組織の最も重要なリスクと方向性がうまく一致するとしたら、内部監査が提供でき得る価値や先進的な実務を理解した上で、役員会の期待に関する情報を主体的に提供する。

• 内部監査に対する役員会の期待をマネジメントに情報提供して、彼らがCAEに対してガイダンスを提供し、期待に方向性が一致するよう促す。

• 内部監査が短期と長期の戦略的計画を達成するためにどのように考えているかについて、情報を提供する。当該計

Page 25: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

23より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 23より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真

画には、役員会の期待に応えるため、スキルセットやプロセスに対する投資の必要性を含んでいる。

• いつどのようにCAEは役員会とコミュニケーションをとるべきかについて情報を提供する。多くの組織では、CAEは役員会に対して直接報告をするが、CAEが別途特定の役員に対して説明責任を負う場合もある。この仕組みが実現する健全なガバナンスを認識した上で、CAEが定期的に(四半期より高い頻度で)役員会とコミュニケーションをとるよう促し、また、障壁を取り除くことでこの対話を実りのあるものとするよう支援する。

• 期待に対する進捗を内部監査に対していつどのように報告してほしいか、CAEに情報を提供する。「時間どおり、予算どおり」のタイプの報告で満足してはいけない。役員会はより多くを期待し、内部監査はより多くを提供すべきである。

• 合意したデザインについて監査委員会からの承認を与える。

マネジメント:デザインを支援する

• 全てのマネジメントの期待が最終的な青写真に取り入れられるものではないことを認識して、期待を明確に伝え、期待値の設定に方向性を一致させるために連携して業務を行うことによって、デザインを支援する。

• 伝統的ではない領域に内部監査を関与させるというアイデアを支援し、内部機能がもたらす新しい見解やフィード

バックを尊重する。内部監査の能力が進化しているとの考えを受容する。また、適切に方向性が一致し、リソースの手当ができれば、より広範で戦略的なイニシアチブを実現して、重要な価値を創造することができるという意見を容認する。私たちはこの努力が困難を伴い時には満足できるものではないであろうことを認識しているが、今回の調査では、内部監査が “信頼されるアドバイザー” の立場に向かう場合に、利害関係者が大きな価値を得られるということを明確に示している。

• スキルセットの方向性を、ビジネスリスクや方向性が一致した期待値の設定と一致させるような取り組みを支援する。私たちは費用削減への圧力が存在していることを理解していて、全ての新規投資がそのまま完全に承認されることを支持するものではない。私たちは、役員会がフルタイムに相当する人員のような伝統的領域に限った議論をするよりは、スキルセットのギャップや期待値に方向性を一致させることについて対話を始めるよう提案する。

• 継続的なコミュニケーションのニーズを支援し、役員会メンバーやマネジメントのさまざまなメンバーと定期的な対話を持つようCAEに提案する。

• 期待に沿っているかを測定する基準を内部監査が開発する努力を支援し、統制に関する定型的な報告以上のものを期待する。“信頼されるアドバイザー”機能は監視する想定基準の中で進行している。内部監査部門がスコアカードの改善ができるか、その説明責任をもてるかどうかを考慮する。

今日のビジネス環境において、変革の速度はとても早く、同じアプローチや同じリソースではより多くのことを試みたり実行したりすることはできない。私たちの調査と経験によれば、内部監査の期待に方向性を一致させること、もたらされる価値を巡って忌憚のない議論を行い、そうあってほしいというニーズのある能力について率直に話すことによって、内部監査部門が組織で高い評価を得る結果につながるだろう。

事業部門は、毎年営業グループの売上目標を調整する。製造業では、歩留まりと生産力改善へ向けて年度目標を設定する。他の機能が世界一流になるべく努力するように、ビジネスとともに発展し続ける利害関係者の期待値の方向性が一致するよう、意図的な戦略を通じて、内部監査も組織を発展させ続けなくてはならない。変化の後で対応するのではなく、これらの変化する期待値に対して継続的に能力を発展させ拡充することを通じて、期待に応えることにより、内部監査は、たとえビジネスがどのような戦略や方向性を追及しようとも、よりビジネスと関連性を持つようになり、また持ち続けることを可能にするだろう。

デザインによって高いパフォーマンスを発揮しているか?

Page 26: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

24 2014年内部監査全世界実態調査24 2014年内部監査全世界実態調査

2014年内部監査全世界実態調査は、質量を兼ね備えた調査である。オンライン調査を2013年秋に実施し、1,920名の経営者から回答を得た。回答者の大多数はCAEと直属の部下であり、残りは、監査委員会議長や役員会メンバー、CEO、CFO、リスク担当役員、コンプライアンス担当役員、法務担当役員が含まれている。24業種・37カ国に及ぶさまざまな規模・業種の企業を代表して調査にご参加いただいた。

さまざまな観点やリーディングプラクティスに関する定性的なデータを収集するために、PwCは、北米、欧州、豪州、

アジアにおいて、125名以上の利害関係者やCAEと一対一のインタビューを実施した。より定性的な観点を展開するために、さまざまな事業規模、業種、地域における多数のクライアントへの内部監査サービス提供の経験を活用している。本年度の調査にご協力いただいた全ての回答者の皆さま方にお礼申し上げる。皆さまの観点は大変貴重なものであり、心より感謝申し上げる。

本報告書において、“信頼されるアドバイザー” とした回答者の部分集合にも言及している。このグループは、調査サンプルの24%を構成し、業種、地域、事業

規模をバランスよく表している。当グループは、内部監査から受け取る価値に最も適合するものとして以下の定義を回答している。―「内部監査は、単に監査計画を効果的かつ効率的に遂行するだけでなく、付加価値のあるサービスや主体的で戦略的なアドバイスをビジネスに対して提供する。」同様に、私たちの調査で “アシュアランスプロバイダー” として言及されたグループ(回答者の13%を占める)は、内部監査から受け取る価値に最も適合するものとして「監査計画を効果的かつ効率的に遂行し、その結果としての発見事項を伝達する。」という定義を選択している。

参考資料A:本調査の概要

27% 22%15% 10%

6%

10%

73%

1%

21%

51%

7%2% 4%

14%

50%

14%

38%

11%

8%

8%

8%業種分類 年間総売上(USD) 本社所在地 回答者の組織内での役割

金融サービス(FS)

消費・製造・サービス(CIPS)

テクノロジー・情報・通信・エンターテインメント(TICE)

ヘルスケア(HC)

政府関連・公的機関

その他

小規模:5億米ドル未満

中規模:5億米ドル‐10億米ドル未満

大規模:10億米ドル‐200億米ドル未満

超大規模:200億米ドル以上

アジア太平洋

欧州

北米

中東・アフリカ

中南米

その他

役員会メンバーとマネジメント

リスク担当役員とコンプライアンス担当役員

経理財務

内部監査

その他

図11:回答者の属性分布

Page 27: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

25より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 25より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真

全般的にリスクが増加している。この傾向は回答者の4分の3(75%)によって認知され、昨年度の調査でも81%が同じ回答をしており、それが続いている。ニュースで景気回復に焦点を当て、世界の多くの地域で緊縮財政に移行する一方で、経営トップの関心はシフトしている。今後18カ月間で変化の主要な要因として世界的な経済変化と経済不安を上位にしているのは、回答者のわずか42%であった。それに代わって、今後18カ月間で組織に対する最も影響力のある変化の要因として、テクノロジーの変化とITリスクが回答された(58%)。(図12)

これに加えて他の強力な市場変化に対処すべく、全産業セクターで組織は劇的なビジネス変革に着手している。実際、今後18カ月の変化の最大の内部要因を質問すると、調査回答者の71%はビジネス変革を挙げている(図12)。それに続く回答としては、テクノロジーやITシステムへの依存の高まり、商品、サービス、ビジネスモデルに関する革新、そして人材、スタッフ配置、リソース面での変化が挙げられる。

組織がこれらの変化に関する能力ギャップを識別しているので、内部監査は組織が直面する重大なリスクやそのリスクに関連する機能への期待値に方向性を一致させなければならない。今回の内部監査全世界実態調査では、内部監査が信頼できるアドバイザーであってほしいと期待する組織は、内部監査に重要なリスクに関与してほしいという結果が出ている。

例えば、回答者の80%は、“信頼されるアドバイザー” が今後12カ月間で、ビッグデータと経営分析への依存度の増大

以下に挙げる変化の外部要因のうち、今後18カ月間で貴社に対して最も大きな影響を与えることが予想されるものはどれですか?

テクノロジーの変化とITリスク 58%規制の複雑性の高まりと監視の強化 56%顧客ニーズと行動の変化 50%政府の政策の変化(財政および金融政策など) 42%世界的な経済変化と経済不安 42%

以下に挙げる変化の内部要因のうち、今後18カ月間で貴社に対して最も大きな影響を与えることが予想されるものはどれですか?

ビジネス変革・経営戦略の変更 71%テクノロジーやITシステムへの依存の高まり 59%商品・サービス・ビジネスモデルに関する革新 52%人材・スタッフ配置・リソースに関する変化 38%合併、買収、分割 32%

に、より関与することを期待している(図13)。全てのリスク領域において、“信頼されるアドバイザー” は “アシュアランスプロバイダー” よりもっと関与している。

最後に、今回の調査結果は、内部監査部門が “信頼されるアドバイザー” として機能している企業は、より高い成熟したリスクマネジメント能力を持つ傾向にある。これらの成熟したリスクマネジメント能力を持つ企業は、リスクマネジメント能力の初期段階にいる企業(36%)と比べて、より頻繁に(96%)リスクをうまく管理している(図14)。従って、組織のリスクマネジメントの成熟度および深度ならびにリスク管理を支援する内部監査部門は、組織が複雑性の増大したグローバルなリスク環境に取り組む際には、両方とも最重要である。

参考資料B:重大なリスク

図12:今後18カ月間における変化の最大要因

重要なリスクと課題を集中的に扱うことは、内部監査の基本的な本質である。期待値設定の原案を策定する際に、内部監査は、利害関係者と重大なリスクに対処する内部監査の役割に関する期待についてはっきりと議論をすべきである。利害関係者は、重大なリスクに対して内部監査が提供できる価値を理解すべきであり、また、最も必要とされるところで価値を提供するための能力に関する内部監査による投資を支援すべきである。結局、三つのディフェンスラインについて明確に役割を定義して強く連携することにより、ダイナミックに進化するさまざまなリスクに対して組織が最も防御力を発揮できるのである。

Page 28: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

26 2014年内部監査全世界実態調査26 2014年内部監査全世界実態調査

0%

100%

80%

38%

66%

55%69%

75%

54%

54%

23%

30%

38%

29%

20%

20%

44%

25%50%

62%

65%

66%

67%

59%

45%

45%

47%

46%

46%

35%

72%61%

10% 30% 50% 70%アシュアランスプロバイダー

信頼されるアドバイザー

内部監査が今後12カ月間でもっと関与すべきであると回答した比率

ビッグデータと経営分析への依存度の増大

オフショアリング、リショアリングと関連する組織変更

ビジネス変革・変更管理

ビジネス環境の変化のスピード

新興リスクと予測不能なインパクトのある事象の増加

サプライチェーンの複雑化

内部変化の急速化

合併、買収、分割

利害関係者の増加(サプライヤー、パートナー、顧客、従業員など)

国際貿易と支払における変化

商品、サービス、ビジネスモデルに関する革新

気候変動と環境問題

人材、スタッフ配置、リソースに関する変化

顧客ニーズ(行動)の変化

金融市場と商品市場における変化(商品コスト、資本へのアクセス、為替レートの ボラティリティなど)

53% 33%

43% 3%

20%

40%

60%

20%

40%

60%

うまく管理している

非常にうまく管理している

成熟したリスクマネジメント

初期段階のリスクマネジメント

組織がどのようにリスクを上手く管理しているか?(成熟段階対初期段階のリスクマネジメント能力)

「私たちの三つのディフェンスラインは、組織を通じて明確に関連付けされ、理解しあっている。それゆえ誰もが内部監査の役割に疑問を持たず、理解している。私たちは完全に期待値に関する方向性が一致していると本当に信じているが、それは、三つのディフェンスラインが明確に定義されているからである。」

―JanetChapman,GeneralAuditor,UnionBank,USA

図13:回答者が今後12カ月間に内部監査の関与度合いを高めてほしい領域

図14:成熟したリスクマネジメント 能力を持っている者はより リスクをうまく管理する

Page 29: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

お問い合わせ先:あらた監査法人

出口 眞也パートナー、製造・流通・サービス部門内部監査サービス責任者+81(0)[email protected]

頼廣 圭祐パートナー、金融機関部門内部監査サービス責任者+81(0)[email protected]

久禮 由敬ディレクター、製造・流通・サービス部門+81(0)[email protected]

ShaunWillcocksディレクター、製造・流通・サービス部門、金融機関部門+81(0)[email protected]

駒井 昌宏ディレクター、金融機関部門、公共部門、製造・流通・サービス部門+81(0)[email protected]

志目 健二シニアマネージャー、製造・流通・サービス部門+81(0)[email protected]

和泉 義夫シニアマネージャー、製造・流通・サービス部門+81(0)[email protected]

Page 30: NY-13-0427 SOTP v2...—Nagesh Pinge, CAE, TATA Motors Limited, India より強固なパフォーマンスをデザインする:革新のための青写真 3 従って、パフォーマンスと価値の分析

www.pwc.com/jpPwCは、世界157カ国 に及ぶグローバルネットワークに184,000人以上のスタッフを有し、高品質な監査、税務、アドバイザリーサービスの提供を通じて、企業・団体や個人の 価値創造を支援しています。詳細は www.pwc.com/jp をご覧ください。

PwC Japanは、あらた監査法人、京都監査法人、プライスウォーターハウスクーパース株式会社、税理士法人プライスウォーターハウスクーパースおよびそれらの関連会社の 総称です。各法人はPwCグローバルネットワークの日本におけるメンバーファーム、またはその指定子会社であり、それぞれ独立した別法人として業務を行っています。

本報告書は、PwC メンバーファームが2014年3月に発行した『2014 State of the Internal Audit Profession Study』を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

電子版はこちらからダウンロードできます。 www.pwc.com/jp/ja/japan-knowledge/report.jhtmlオリジナル(英語版)はこちらからダウンロードできます。 www.pwc.com/us/en/risk-assurance-services/publications/pwc-2014-state-of-profession.jhtml

日本語版発刊月:2014年7月   管理番号: I201404-1

©2014 PwC. All rights reserved.PwC refers to the PwC Network and/or one or more of its member firms, each of which is a separate legal entity. Please see www.pwc.com/structure for further details.This content is for general information purposes only, and should not be used as a substitute for consultation with professional advisors.