NPO法人 atamista(アタミスタ) · 2015. 6. 8. · 住民が共に育てる...

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住民が共に育てる 観光まちづくり 事例 20 静岡県 熱海市 NPO 法人 atamista(アタミスタ) 100 年後も豊かな熱海をつくるために 昭和 50 年代から減少している熱海市の人口は、現在約 4 万人、高齢 化率は約 38%。ピーク時約 540 万人以上あった宿泊客数は現在約 280 万人、経済低迷に伴いコミュニティも衰退。我が国の 10 年以上先の課 題を抱えた地域とも言えるこの熱海に生まれ育った市来氏が、都会の 企業人生活をやめて U ターンし、ゼロからまちづくりに挑戦し続ける 背景には、大学卒業後に単身、世界各国を旅した経験が大きく影響し ている。「熱海にはもっと可能性があるはず」「あの頃訪れたあの国の ように、もっとギラギラとした躍動感をこの町に蘇らせたい」との思 いが根底にあると彼は言う。「100 年後も豊かな熱海をつくる」という 理念のもとに、『熱海温泉玉手箱(オンたま)』などの取り組みを通し、 地元住民や移住者・別荘族などの様々な潜在ニーズを発掘し、プログ ラムづくりに関する参画者の自発的取り組みを促進するほか、新たに 遊休不動産を活用したプロジェクトも開始しようとしている。彼の動 向と熱海のまちづくりは、いま多くの関係者の注目を集めている。 取組主体 NPO 法人 atamista(アタミスタ) (http://atamista.com/) 設 立 年 平成 22 年(2010 年)12 月 2 日 所 熱海市昭和町 5-2 竹春ビル 101 電話 0557-52-4345 FAX 0557-52-4531 市来 広一郎氏 (いちきこういちろう) 昭和 54 年熱海生まれ熱海育ち。 東京都立大学大学院修了。IBM ビジネスコンサルティングサービス に勤務後、平成 19 年に U ターン。 同年、遊休農地の再生を目指し 農家と共に「チーム里庭」を立上 げ。平成 21 年から「熱海温泉玉手 箱(オンたま)」を熱海市観光協 会、熱海市などと協働で実施。平 成 22 年 NPO 法人 atamista(アタミ スタ)を設立、代表理事に就任

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住民が共に育てる観光まちづくり

事例

20 静岡県 熱海市

NPO 法人 atamista(アタミスタ)

100 年後も豊かな熱海をつくるために 昭和 50 年代から減少している熱海市の人口は、現在約 4万人、高齢

化率は約 38%。ピーク時約 540 万人以上あった宿泊客数は現在約 280

万人、経済低迷に伴いコミュニティも衰退。我が国の 10 年以上先の課

題を抱えた地域とも言えるこの熱海に生まれ育った市来氏が、都会の

企業人生活をやめて U ターンし、ゼロからまちづくりに挑戦し続ける

背景には、大学卒業後に単身、世界各国を旅した経験が大きく影響し

ている。「熱海にはもっと可能性があるはず」「あの頃訪れたあの国の

ように、もっとギラギラとした躍動感をこの町に蘇らせたい」との思

いが根底にあると彼は言う。「100 年後も豊かな熱海をつくる」という

理念のもとに、『熱海温泉玉手箱(オンたま)』などの取り組みを通し、

地元住民や移住者・別荘族などの様々な潜在ニーズを発掘し、プログ

ラムづくりに関する参画者の自発的取り組みを促進するほか、新たに

遊休不動産を活用したプロジェクトも開始しようとしている。彼の動

向と熱海のまちづくりは、いま多くの関係者の注目を集めている。

取組主体 NPO 法人 atamista(アタミスタ) (http://atamista.com/)

設 立 年 平成 22 年(2010 年)12 月 2 日

住 所 熱海市昭和町 5-2 竹春ビル 101 電話 0557-52-4345 FAX 0557-52-4531

市来 広一郎氏

(いちきこういちろう)

昭和 54 年熱海生まれ熱海育ち。

東京都立大学大学院修了。IBM

ビジネスコンサルティングサービス

に勤務後、平成 19 年に Uターン。

同年、遊休農地の再生を目指し

農家と共に「チーム里庭」を立上

げ。平成 21 年から「熱海温泉玉手

箱(オンたま)」を熱海市観光協

会、熱海市などと協働で実施。平

成 22 年 NPO 法人 atamista(アタミ

スタ)を設立、代表理事に就任

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国全体の 10 年先を行く高齢化率、ピーク時

から半減した観光客数

→ この地を訪れる、この地で過ごす新たな“動機”を

『熱海温泉玉手箱(オンたま)』で創出する

このまちに求められているニーズや可能性を

知るための仕組みがない

→ 「オンたま」をマーケティングツールとして活用

し、地域に求められているニーズや可能性を探る

(地域の特徴)

人口 4 万人に対して別荘所有者 1 万世帯 熱海市の大きな特徴の一つが、別荘族の存在である。人口 4 万人に

対して別荘所有者は約 1万世帯。市来氏がその活動の初期からメイン

ターゲットとしていたのがこの別荘族、あるいは移住者である。長年

別荘を所有していても、あるいは移住して数年経っていても、地域に

とけ込む機会を持たず、地元知識もほとんど有していないというケー

スは多い。一方で彼ら「外の視点を持っている人」の楽しみ方は、地

元住民では気付かない、新たな熱海の可能性を発見するきっかけにな

ることもある。両者をつなぐネットワークによって、新たな価値が見

いだせるのではないかという視点が、この地にはある。

(取り組み概要)

「オンたま」は、熱海に求められていること、熱海の可能性を

知るためのツールである 食、産業、自然、人といった熱海の地域資源を、地元住民の深い視

線で掘り起こすのが体験交流プログラム「熱海温泉玉手箱(オンたま)」

である。「オンたま」は経済産業省事業でモデル化された「オンパク(別

府八湯温泉泊覧会/大分県別府温泉)」の手法を取り入れたものである。

「オンたま」は、熱海市、熱海市観光協会との共催で開催され、平

成23年秋に第6回を実施、約1ヶ月間に73プログラムが実施された。

最近は、別荘所有者や移住者の息子家族、娘家族、あるいはその友人

という参加者が目立つと言う。「オンたま」の各種体験プログラム参加

が、来訪者を熱海ファンへと変化させる可能性は十分に期待できる。

これらプログラムを企画・実施するのは「パートナー」と呼ばれる

地域住民である。地域住民は、「オンたま」にパートナーとして参画す

ることによって「今何が求められているのか」「熱海にはどんな可能性

が秘められているのか」を知ることができる。「オンたま」は単なるイ

ベントプログラムとしてではなく、マーケティングツールとして活用

してこそ、地域にとって真に活きる仕組みとなる。

地域の課題 ソリューション

熱海に別荘を有するということは間違いなくステータス。しかし真に熱海を楽しめていない方々も多いのではないかと市来氏は考える

オンたまのプログラムを単に集客イベントや旅行商品として見ることもできる。しかし、マーケティングツールとして活用した時にこそ、その真価を発揮する

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新たな取り組みや事業の企画・実施につなが

るコミュニティをもっと定着させたい

→ 新規設立した法人による、空き店舗活用型のコミュ

ニティ拠点づくり

若い世代を定着させる仕組みをつくりたい → デザイナーやクリエイターが集う「atamic café」を「オ

ンたま」プログラムが下支え

(地域資源の発掘と活用術①)

「小さくとも、地域に根付いたネットワーク形成をめざして」

株式会社 machimori によるまちなかのコミュニティ拠点づくり NPO 法人 atamista(アタミスタ)は、平成 24 年 5 月にあらたな事

業に取り組む。平成 24 年 1 月に新規設立した「株式会社 machimori」

により、熱海のまちなか「銀座通り」の空き店舗を活用して整備する

“カフェ”だ。ここは、ターゲットとする全ての人々————NPO 会員、「オ

ンたま」サポーター、地域住民、別荘族、一般観光客らが気軽に、あ

るいは情報収集や交流を目的に参集するコミュニティ拠点である。

「オンたまを運営してきたこの数年間、最も有益で、最も楽しい経

験をしたのは、実は我々(中核スタッフ)なのかもしれません」「様々

な住民のいろいろな思いが交差する、この“ザワザワ感”を、もっと

多くの方に体感して欲しいのです」と市来氏は言う。

期間限定開催型の「オンたま」に対して、新たに整備する“カフェ”

は恒常的な仕掛けとなる。このコミュニティ拠点で様々な企画提案、

マッチングが行われ、新たなソリューションが生まれることだろう。

(地域資源の発掘と活用術②)

空き店舗ならぬ“空き時間”を活用した「ノマドカフェ」 もう一つの注目されるのが、市内のカフェなどにおける“ノマド”

コミュニティである。ノマドとは元来「遊牧民」を指す英語であり、

カフェや居酒屋など場所を選ばず仕事をできる人たちを指す。熱海で

は、既存店舗の平日昼間など、比較的一般利用者の少ない“空き時間”

を中心に彼らのコミュニティが拡大しつつあり、「オンたま」プログラ

ムがこれを下支えしている状況である。デザイナーやクリエイターに

とって、熱海がより“心地良い場所”になり、ごく小さな、しかし極

めて力強い輪が大きなうねりを創りあげていく、そういったムーブメ

ントがいま、起きつつある。若い世代がこの地を選ぶ。このことは、

まちづくりにとって極めて重要な展開と言えるだろう。

地域の課題 ソリューション

実験的に開催されたカフェの模様。平成 24 年春にいよいよ本格稼働予定である。この場が様々な人々のマッチング拠点となることが期待される

「オンたま」プログラムやブログなどでその輪を徐々に広げつつあるデザイナーやクリエイターのコミュニティ。熱海に新風を吹き込む

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地元住

民50%

別荘族20%

観光客30%

「面白い人は、面白い人に聞く」

NPO 法人 atamista 代表理事の市来氏は、年々拡大する「チャレンジパートナー」の拡がりについて、

こう表現する。初めは市来氏の地元の友人など、ごく“内輪”のネットワークだったが、その輪は

徐々に増加、平成 23 年秋の第 5 回には計 64 名のパートナーがプログラム企画・実施に従事した。

近年のデザイナー・クリエイターのコミュニティ「ノマドカフェ」のように、今後はよりコアなコ

ミュニティの形成、それらによる新たな事業企画の創出などが大いに期待されよう。

(統計データ)

数字でみる「オンたま」 オンたま利用者の 7 割は「地元住民」と「別荘族」、つまり“地元”

である。いわゆる一般観光客は 3割である。

また、プログラム数をはじめ、パートナー数、サポーター数、参加

者及びファンクラブ数は、共に増加傾向。確実にステークホルダーが

拡大している傾向にある。

オンたまプログラム提供者「チャレンジパートナー」の拡がり

「オンたま」利用者内訳