MY Dream Bridge the Gap - 世界に目を向ける生徒 …...

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世界に目を向ける生徒が育つ交流及び協働学習の試み MY DREAM 」と連携して行った「アフリカ州」の学習を通して 今治市立菊間中学校 教諭 津吉優樹 1 研究の概要 アフリカ州に対するイメージとして、報道等により「貧困・紛争・かわいそう」 というネガティブなイメージを抱いている生徒が多い。事前アンケートでも、アフ リカ州への関心はかなり低い。また、アフリカ州の位置が日本から遠いため、アフ リカ州の様子や課題に対し、自分ごととして捉えにくい傾向がある。 そこで本研究では、アフリカのガーナを支援している NGO 団体「MY DREAM」と 連携を図って、①生徒に対してアフリカ州の様々な情報を計画的・継続的に提供し た。そして、②生徒とアフリカ州に住んでいる人とで ICT を通じて対話体験をさせ た。また、③「持続可能な開発目標(SDGs)」の観点から「MY DREAM」の役割に ついて考えさせる学習活動を行った。 その結果、①産業や人々の生活などを関連付けて捉えることによってアフリカ州 について関心が高まり、②世界の多様な生活文化を尊重する姿勢を身に付けること ができた。また、③アフリカ州の課題を自分ごととして捉え、「持続可能な社会」 に向けて、自分のできることを考えることができた。 2 実践内容 (1) 主題設定の理由 社会科では、1年生の地理的分野においてアフリカ州について学習する。アフ リカ州は、広大なサハラ砂漠をはじめ乾燥地域が広く分布し、人々の生活や産業 に多大な影響を与えている地域である。また、特定の農産物や地下資源などの一 次産品の輸出に頼る不安定なモノカルチャー経済から抜け出せないことから、各 地で紛争が絶えず、貧困から抜け出せない地域が多く存在している。その背景と して、アフリカ州が長い間ヨーロッパ諸国の植民地にされ、物的資源や人的資源 を奪われてきたことが挙げられる。 アフリカ州は、こうした「人間と自然環境の相互依存関係( 注1 )」や「空間的 相互依存作用( 注2 )」などの「地理的な見方や考え方」において重視している視 点を学ぶことのできる好単元と言える。しかし、地域的課題も多いことから、生 徒は学習していく過程で「アフリカ州」に対して暗いイメージを抱きやすい傾向 にある。 そもそも、アフリカ州についての学習に入る以前から、マスメディアの報道等 により「貧困・紛争・かわいそう」というネガティブなイメージを抱いている生 徒が多い。事前アンケートでも、「アフリカ州に行ってみたいか」という質問に 対して、「行きたくない」と答えた生徒が約半数いるなど、アフリカ州への関心

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世界に目を向ける生徒が育つ交流及び協働学習の試み

―「MY DREAM」と連携して行った「アフリカ州」の学習を通して―

今治市立菊間中学校 教 諭 津 吉 優 樹

1 研究の概要

アフリカ州に対するイメージとして、報道等により「貧困・紛争・かわいそう」

というネガティブなイメージを抱いている生徒が多い。事前アンケートでも、アフ

リカ州への関心はかなり低い。また、アフリカ州の位置が日本から遠いため、アフ

リカ州の様子や課題に対し、自分ごととして捉えにくい傾向がある。

そこで本研究では、アフリカのガーナを支援している NGO 団体「MY DREAM」と

連携を図って、①生徒に対してアフリカ州の様々な情報を計画的・継続的に提供し

た。そして、②生徒とアフリカ州に住んでいる人とで ICT を通じて対話体験をさせ

た。また、③「持続可能な開発目標(SDGs)」の観点から「MY DREAM」の役割に

ついて考えさせる学習活動を行った。

その結果、①産業や人々の生活などを関連付けて捉えることによってアフリカ州

について関心が高まり、②世界の多様な生活文化を尊重する姿勢を身に付けること

ができた。また、③アフリカ州の課題を自分ごととして捉え、「持続可能な社会」

に向けて、自分のできることを考えることができた。

2 実践内容

(1) 主題設定の理由 社会科では、1年生の地理的分野においてアフリカ州について学習する。アフ

リカ州は、広大なサハラ砂漠をはじめ乾燥地域が広く分布し、人々の生活や産業

に多大な影響を与えている地域である。また、特定の農産物や地下資源などの一

次産品の輸出に頼る不安定なモノカルチャー経済から抜け出せないことから、各

地で紛争が絶えず、貧困から抜け出せない地域が多く存在している。その背景と

して、アフリカ州が長い間ヨーロッパ諸国の植民地にされ、物的資源や人的資源

を奪われてきたことが挙げられる。 アフリカ州は、こうした「人間と自然環境の相互依存関係(注 1)」や「空間的

相互依存作用(注 2)」などの「地理的な見方や考え方」において重視している視

点を学ぶことのできる好単元と言える。しかし、地域的課題も多いことから、生

徒は学習していく過程で「アフリカ州」に対して暗いイメージを抱きやすい傾向

にある。 そもそも、アフリカ州についての学習に入る以前から、マスメディアの報道等

により「貧困・紛争・かわいそう」というネガティブなイメージを抱いている生

徒が多い。事前アンケートでも、「アフリカ州に行ってみたいか」という質問に

対して、「行きたくない」と答えた生徒が約半数いるなど、アフリカ州への関心

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は高くない(資料1)。「アフリカ州でイメージするものは何か」という質問に

対して、「砂漠が多い」「野生動物が多い」と答える自然環境や動物に関する内

容が約半分あった。「足が速い」「身長が高い」「黒人が多い」といった身体的

特徴を含む人種・民族・宗教に関する内容の答えが、全体の約4分の1を占める

など、アフリカ州に関する情報が偏っていたり、不足していたりする傾向にある

と考えられる(資料1)。

また、アフリカ州の位置が日本からかなり遠いため、アフリカ州の様子や課題

に対し、自分ごととして捉えにくい傾向がある。こうした諸条件は、生徒の意欲

を後退させ、主体的に学習しにくい壁の一因となっていると考えられる。

本研究の目標は、アフリカ州に対して生徒が抱くネガティブな先入観を打破さ

せるとともに、現地に住んでいる人と直接コミュニケーションを取る経験をさせ

ることによって、心理的距離間感を縮めさせたい。この活動は、新学習指導要領

が求める「主体的・対話的で深い学び」の実現に深く関わってくる。そして、グ

ローバルな課題に対して世界の人々が目指している課題について深く考えさせる

ことにより、世界に目を向ける生徒が育つであろうと考え、本主題を設定した。 本研究は、学校教育法における義務教育の目標の中に示された「進んで外国の

文化の理解を通じて、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養

うこと」という内容や、中央教育審議会答申の中で示された「持続可能な社会づ

くりの観点から地球規模の諸課題や地域課題を解決しようとする態度など、国家

及び社会の形成者として必要な資質・能力を育んでいくこと」につながるものと

考えている(注 3 )。

資料1 アフリカに行ってみたいですか

資料2 アフリカ州でイメージをするものは何か ※ 資料1・2ともに「アフリカ州」の単元を学習する前に、平成 29 年度1年生 32 人、平成 30 年度2年生

26 人を対象に調査。小数第2位を四捨五入して算出。資料2は、その他の項目は記載していない。

H29(合計166個) 個数 割合

自然環境(動物) 86 51.8%

人種・民族・宗教 43 25.9%

生活(衣食住) 20 12.0%

産業 3 1.8%

人柄 3 1.8%

H30(合計137個) 個数 割合

自然環境(動物) 62 45.3%

人種・民族・宗教 30 21.9%

生活(衣食住) 12 8.8%

産業 8 5.8%

人柄 4 2.9%

H29(生徒32人) 人数 割合

ぜひ行きたい 2 6.3%

行きたい 6 18.8%

どちらでもない 7 21.9%

あまり行きたくない 11 34.4%

行きたくない 6 18.8%

H30(生徒26人) 人数 割合

ぜひ行きたい 2 7.7%

行きたい 5 19.2%

どちらでもない 7 26.9%

あまり行きたくない 7 26.9%

行きたくない 5 19.2%

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(2) 研究の目的及び仮設 アフリカ州の学習において、アフリカ州の情報を計画的・継続的に情報を提供

するとともに、 ICT を活用した対話的な学習を導入し、世界が目指すべき方向に

ついて考えることにより、世界に目を向け主体的に学ぶ生徒が育つであろう。 (3) 研究の実際 ア アフリカ州に関する資料の情報提供 現在、ガーナのボナイリ村を支援している NGO 団体「MY DREAM」と連

携し、資料の情報提供を計画的・継続的に行うようにした。「MY DREAM」

代表の原ゆかりさんは、今治市出身の方で外務省に勤務していた経歴をもつ。

現在もアフリカに進出する企業や団体に対して、事業開発の支援や市場調査等

を行う企業を経営している。アフリカに行くことも頻繁で、今のアフリカの情

報には精通されている。 単元計画の中に、「MY DREAM」と連携しながらどのような情報を与えて

いくかを加えた「連携計画表」を作成した(資料3)。その計画表に従いなが

ら「MY DREAM」と打ち合わせをし、生徒たちに計画的・継続的にアフリカ

の今を伝える情報を提供した。

資料3 「MY DREAM」との連携計画表

※この連携計画表をもとに平成29・30年と取り組んだが、 SDGsの観点で MY DREAM を評価する内容に

ついては、平成30年度のみの取り組みである。

学 習 内 容 ねらい MY DREAMとの連携MY DREAMから提供する

情報の内容や伝達携帯

事前 事前アンケートの実施 ・指導案等を持ち寄っての打ち合わせ

(Skypeを用いて)

1校時

1 アフリカ州の自然環境

① アフリカの大観② アフリカの自然環境③ ボナイリ村シミュレーション

・アフリカ州の地形と気候の特色を理

解させる。

・原さんの動画を活用

(原さんからの挨拶動画)

・ボナイリ村シミュレーションの活用

(MY DREAMから送付)

・ボナイリ村の子どもたちの

笑顔や村人の生活がわかる写

「MY DREAM」→「教師」→「生徒」

2校時

2 アフリカの文化と歴史

① 課題設定② アフリカの歴史

・アフリカ州の文化と歴史の特色を理

解させる。

※Skypeを試験的につないで、

原さんと交流(10分)

・アフリカ州に関する簡単な

情報

・アフリカ州のモバイル事情

「MY DREAM」⇔「生徒」

3校時

3 アフリカの産業と経済を支える輸出品

① アフリカの産業② モノカルチャー経済について

・アフリカ州の産業の特色を捉え、輸出

品から現在のアフリカがかかえる問題

を考えさせる。

・パワーポイント資料の活用

(MY DREAMから送付)

・カカオの栽培と栽培地域

・ボナイリ村の産業

「MY DREAM」→「教師」→「生徒」

4校時

4 自立をめざすアフリカの国々(1)

① 青年海外協力隊の活動② NGO「MY DREAM」の活動(1)

・アフリカ諸国がかかえる問題を解決

するための、アフリカ諸国と先進国の取

り組みを考えさせる。

・MY DREAMを取り上げた新聞記事

(毎日新聞)

・NHK「ひめぽん」の録画映像

(MY DREAMの特集)

・MY DREAM を設立した経緯

や国内での活動について

「教師」→「生徒」

5校時

4 自立をめざすアフリカの国々(2)

① NGO「MY DREAM」の活動(2)② 質問する内容を考えよう

・MY DREAMの活動に関心をもたせ、質

問内容を考えさせる。

・「MY DREAM」の紹介動画(YouTube)

事前質問の内容を送付・打ち合わせ

・MY DREAMの国外(ボナイリ

村)での活動について

「教師」→「生徒⇔生徒」

6校時

(研究

授業)

5 持続可能な社会について考えよう(1)

① Skypeによるインタビュー② SDGsの観点でMY DREAMを評価しよう

・MY DREAMに関する質問を能動的に行

わせ、その活動がSDGsの観点で捉えた

ときに、どの項目が関係しているかを考

えさせる。

現地に住む方にSkypeでインタビュー

○ H29は原さん

○ H30はholyさん(ガーナ人)

・子どもたちが知りたいアフ

リカ事情や MY DREAM の活動

について

「MY DREAM」⇔「生徒」

7校時

5 持続可能な社会について考えよう(2)

① 自分のできることを考えよう② 事後アンケートの実施

・MY DREAMの活動を学び、今の自分に

は何ができるかを考えさせる。また、学

んだことや考えたことを踏まえ、原さん

へお礼の手紙を書かせる。

授業の感想、子どもたちのお礼の手紙

を作成して原さんに送付

・自分ができること

「教師」⇔「生徒」

・授業の感想や原さんへのお

手紙

「生徒」→「MY DREAM」

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アフリカ州に関する情報の中 には、「後進国」がほとんどと いうイメージを打破するような 情報がたくさんあった。「MY DREAM」から送られたヨハネ スブルク(南アフリカ共和国) の夜景やアクラのマンション (ガーナ)、ナイロビのビル街 (ケニア)など、多くの資料を 生徒に提供した。アフリカ州は モバイルマネーが進んでいる地 域も多く、民族衣装を着た人が スマートフォンを使いこなす 資料4 エネルギッシュなアフリカ 人々の姿も見せた。 提供:MY DREAM 他にも、ガーナ・ボナイリ村の人々の様子や「MY DREAM」の活動がわか

る写真や映像、新聞やパンフレットを見せ、現地の人の明るい表情や元気な会

話、明るい将来の夢をもって生活している力強い姿が伝わるような情報提供を

心がけた。 イ ICT(テレビ電話)を活用した対話的な学習活動の導入

「主体的・対話的な学び」の過程で、 ICT を活用することは効果的である(注

4 )。そこで、テレビ電話(Skype 注 5)を活用し、アフリカ州に住んでいる方

と交流して「主体的・対話的な学び」を進めるとともに、日本から離れたアフ

リカ州との心理的距離間感を縮めさせることを目指した。 まず、アフリカ州について学習してきて疑問に思ったことや、ガーナやボナ

イリ村、「MY DREAM」の活動について知りたいことなどを、班の仲間と話

し合い、質問したい内容を整理させた。そして、質問内容をクラス全体で共有

し、どの班が質問するかという役割分担させることにより、「主体的・対話的

で深い学び」への深化を進めようと試みた。 平成29年度の授業では、ヨハネスブルク(南アフリカ共和国)に住んでい

る原さんと交流をした(資料5・6)。授業の中では、生徒は資料7のような

質問を行った。問答法で授業を進め、ある程度生徒の思考回路に従いながら学

習を進めることができた。 しかし、課題も浮き彫りになった。直接質問する人が班の代表者だけと限定

的であった点や、新たな疑問を抱いた生徒は勇気を出して質問しにくい状況が

あった。 そこで、平成30年度の授業では、各班にテレビ電話を移動させ、挨拶を交

わしながら自由な雰囲気で対話を進めることができるように改善した。さらに

原さんの提案で、直接ガーナの方と対話して国際交流が深められるように、原

さんが生徒の質問をその場で通訳しながら授業を進めることにした(資料8・

9・10)。テレビ電話で対話する相手は、「MY DREAM」のボランティア

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スタッフであり、ガーナのクマシ市に住んでいる Holy さんが担当してくださ

ることになった。その結果、生徒は英語で挨拶を交わし、国際交流を図りなが

ら自由な雰囲気で学習に取り組めた。

資料5 平成29年度の授業の様子①

資料6 平成29年度の授業の様子② 資料7 平成29年度の主な質問

資料8 平成30年度の授業の様子①

資料9 平成30年度の授業の様子② 資料10 平成30年度の主な質問

① 南アフリカ共和国は、今何時ですか。

② どのようなスポーツが流行っていますか。

③ 南アフリカ共和国での有名な観光地はどこですか。

④ マクドナルドのハンバーガーは、日本円でどれぐらいですか。

⑤ボナイリ村ではカカオを栽培していますか。

また、チョコレートは日常の中で食べていますか。

⑥ ボナイリ村の人々は、どのような生活をしていますか。 

⑦ 子どもはどんな夢をもっていますか。

⑧ 「MY DREAM」を設立しようとしたきっかけは何ですか。

⑨ 「MY DREAM」のスタッフは何人ですか。

⑩ 「MY DREAM」のどのような支援をしていますか。

⑪ 「MY DREAM」が設立した幼稚園は何人ぐらいいますか。

⑫ 「MY DREAM」の活動により、村の人々はどう変わりましたか。

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ウ SDGs(持続可能な開発目標)を取り入れた学習活動の展開 「持続可能な社会づくりに向かう社会参画意識の涵養やよりよい社会の実現

を視野に課題を主体的に解決しようとする態度の育成」は、新学習指導要領で

はより求められている(注 6 )。

そこで、「持続可能な開発目標(SDGs)」の観点から「MY DREAM」の役割

について考えさせる学習活動を行った。

「SDGs」とは、2030 年までの「持続可能

な社会づくり」を目指す上での国際社会共

通の目標である(注 7)。 授業ではテレビ電話を使って Holy さんと

交流しながら「MY DREAM」の活動内容 資料11 SDGsについて考える を学習した後、「MY DREAM の活動は、持続可能な開発目標(SDGs)の

どの内容に関係しているだろうか」と生徒に問いかけて班活動で話し合わせ

た。また、特に関係していると考えられる目標については、黒板へロゴを貼っ

て示してクラス全体で話し合った(資料11)。 特に多かった目標については、「MY DREAM」の具体的な活動と結びつけ

ながら確認した。最後は「17目標のために協力すること」の目標を掲げ、

日々の生活の中で仲間と協力することや海外に関心を持ち続けることが、国境

を越えてのパートナーシップづくりにつながることを生徒に伝えた。 (4) 世界に目を向けるためのその他の実践 ア ウィーン日本人学校(オーストリア)の先生との交流 ウィーン日本人学校に勤め、生徒たちが小学校の時に学級担任でお世話にな

った白石宏之先生(現:菊間小学校)とテレビ電話で交流をした。お互い懐か

しい話をして、和やかな雰囲気でオーストリアの文化について学習することが

できた(資料12)。また、質問で答えきれなかった内容は、後日メールで丁

寧に解説したプリントを送っていただいたので、生徒に提供した。 イ マドリード(スペイン)・ニューヨーク(アメリカ)に住む日本人との交流 海外に住んでいるかつての教え子と連絡を取り合い、マドリードとニューヨ

ークとをつないで交流をした。マドリードとの交流では、EU の利点や問題点

について話をしてくれた。また、気候と産業とのつながりから、地域の特産品

に生産されていることを理解させた。ニューヨークとの交流では、日本文化の

広がりや多文化社会について理解させた(資料13)。

資料12 ウィーンとの交流 資料13 ニューヨークとの交流

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ウ スィーパトゥム大学(タイ)の大学生との交流 学級活動を利用し、タイのスィーパトゥム大学で日本語を学ぶタイ人学生 20

人とテレビ電話で交流をした。生徒は、タイの大学生から「こんにちは」「あ

りがとう」に当たるタイ語のあいさつや、自己紹介の仕方を教わり実践した。

また、学校生活や好きなアニメについて質問をし合い、盛り上がった(資料1

4)。

資料14 タイの大学生との交流 愛媛新聞「タイ感!ほほえみの国」 2018(平成30)年 2 月 10 日付の一部

3 研究の成果・課題

(1) 成果 〇 「MY DREAM」と連携し、アフリカ州の様々な情報を計画的・継続的に提供

し続けたことの効果は高かったといえる。

事前・事後のアンケート結果と比較すると、「アフリカに行っていたい」と答

えた生徒が、平成29・30年度とも急激に増加した(資料15)。急激に増加

した理由の一つに、生徒が認識するアフリカ州の情報がアンバランスであった

が、是正されたことが挙げられる。「アフリカ州でイメージするものは何か」

という問いに対し、事前アンケートでは「自然環境(動物)」や「人種・民

族・宗教」に関する情報に集中していたのに対し、事後では多岐に渡っている

(資料16)。特に、「産業」や「人々の生活」、「人柄」に関する項目が増

えた。生徒の目線に立った際、机上で地域的特色や課題を理解するだけでは関

心はなかなか高まらない。先入観を打破するような情報に出会ったり、その地

域の方の表情や人々の営みに触れる経験したりすることにより、関心がより高

まったと考えられる。

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《平成29年度》 《平成30年度》

資料15 アフリカに行ってみたいですか(事前・事後の比較)

資料16 アフリカ州でイメージをするものは何か(事前・事後の比較)

※ 平成 29 年度1年生 32 人、平成 30 年度2年生 26 人を対象に調査。小数第2位を四捨五入して算出。

資料16は、その他の項目は記載していない。

〇 「主体的・対話的な学び」の過程で、 ICT を活用することは効果的であった

ということが実証できた。挨拶を交わすことにより、相互コミュニケーション

が取りやすい雰囲気となり、テレビ電話の効果を発揮することができた。 〇 「持続可能な開発目標(SDGs)」の観点から「MY DREAM」の役割について

考えさせる学習活動を取り入れることによって、生徒は「MY DREAM」の活動

内容やその役割について深く考えることができた。また、持続可能な社会を目

指すために、資金提供に頼るのではなく、現地の人々の手で継続できる息の長

い支援が必要であるということを生徒は理解することができた(資料17)。

資料17 生徒の手紙の内容の一部

H29年度 事前 事後

自然環境(動物) 51.8% 10.8%

人種・民族・宗教 25.9% 10.0%

生活(衣食住) 12.0% 15.8%

産業 1.8% 17.1%

人柄 1.8% 21.3%

H30年度 事前 事後

自然環境(動物) 45.3% 12.5%

人種・民族・宗教 21.9% 6.3%

生活(衣食住) 8.8% 13.8%

産業 5.8% 10.6%

人柄 2.9% 16.9%

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(2) 課題 ● アフリカ州の課題を自分ごととして捉え、「持続可能な社会」について考え

ることはできたが、自分のできることを考える場面では、生徒は意見を上手く

引き出すことができなかった。より効果的な方法を考える必要がある。

● 今治市は ICT 環境があまり整っていない。 ICT の活用を、一教師の ICT 技

術や資産に頼っているのが現状である。そのため、 ICT 活用の広がりに限界が

ある。特にテレビ電話の活用は、近年進んでいる英会話の充実を進めることが

できるだけでなく、免許外指導や小・中連携、小規模校との交流をより一層進

めることもできると思う。今治市の ICT 環境が整うよう、働きかけたい。

【引用・注】 (注1)「人間と自然環境の相互依存関係」とは、人間と自然環境の関係を表す言

葉。人間は、自然環境を多様に利用する一方、自然環境の影響を強く受けるこ

とを表す言葉である。中学校学習指導要領(平成29年告示)解説「社会編」

P33参考。 (注2)人や資源、財、情報などあらゆるものは、地球上に不均等に分布しているた

め、全ての場所は交通や通信等によって他の場所や地域と結び付いている。そ

うした結びつきのことを「空間的相互依存作用」という。中学校学習指導要領

(平成29年告示)解説「社会編」P34参考。 (注3)中学校学習指導要領(平成29年告示)解説「社会編」P17から引用。 (注4)同上 P15から引用。 (注5)Skype とは、Microsoft 社が提供するパソコンやスマートフォン上で音声通

話ができるソフト(アプリ)。Skype ユーザー同士なら、国内だけでなく、海

外との通話も無料でできる。もともとエストニアで開発されたインターネット

電話サービスで、音声通話はもちろん、映像で利用したビデオ通話、複数利用

者によるコミュニケーション、テキストチャットなどさまざまな機能が用意さ

れている。 (注6)中学校学習指導要領(平成29年告示)解説「社会編」P10から引用。 (注7)SDGs とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の

略称である。2015 年 9 月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のため

の 2030 年アジェンダ」は、国際社会全体が様々な活動に伴い引き起こされる

諸問題を喫緊の課題として認識し、協働して解決に向けて取り組んでいく決意

を表明した。17のゴール、169の

ターゲット及び指標で構成されてい

る。 NGO 団体『セーブ・ザ・チルドレ

ン』の HP では、SDGs の17の目標

をわかりやすく右のようにまとめてい

る。

1 貧困をなくすこと 10 不平等を減らすこと

2 飢餓をなくすこと 11 持続可能なまちと地域社会

3 健康であること 12 責任をもって消費すること

4 質の高い教育 13 気候変動への対策

5 ジェンダーの平等 14 海のいのちを守ること

6 清潔な水と衛生 15 陸のいのちを守ること

7 再生可能エネルギー 16 平等で公正な社会

8 適切なよい仕事を経済成長 17 目標のために協力すること

9 新しい技術とインフラ

SDGsの目標

出典:『世界の新しい目標「SDGs」』

セーブ・ザ・チルドレン(2015)

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<参考文献> (1) ESD・SDGs に関する文献や資料

〇 国立教育政策研究所 教育課程研究センター 『学校における持続可能な発展のための教育(ESD)に関する研究最終報告

書』2012(平成 24)年 〇 国立教育政策研究所 教育課程研究センター 『ESD の学習指導過程を構想し展開するための必要な枠組み』(リーフレッ

ト)2012(平成 24)年 〇 田中治彦・三宅隆史・湯本浩之編著『SDGsと開発教育』学文社 2016(平

成 28)年 〇 一般社団法人 Think the Earth『未来を変える目標 SDGs アイディアブッ

ク』紀伊國屋書店 2018(平成 30)年 〇 公共財団法人 日本ユニセフ協会『私たちがつくる持続可能な世界~SDGs

をナビして~』2018(平成 30)年 (2) 主体的で対話的な学びに関する文献 〇 工藤文三編(鴛原進・ほか執筆)『平成 29 年改訂 中学校教育課程実践講座

社会』ぎょうせい 2018(平成 30)年 〇 原田智仁編(鴛原進・ほか執筆)『平成 29 年版 新学習指導要領の展開 社

会』明治図書 2017(平成 29)年 〇 北村明裕編著『子ども熱中!中学社会「アクティブ・ラーニング」授業モデ

ル』明治図書 2015(平成 27)年 <参考新聞記事>

〇 毎日新聞「支え育むガーナの夢」2017(平成29)年 9 月 27 日付 〇 毎日新聞「つながって理解深めて」2017(平成29)年 11 月 18 日付 〇 毎日新聞「今できること考えて」2018(平成30)年 10 月 13 日付 〇 愛媛新聞「タイ感!ほほえみの国」2018(平成30)年 2 月 10 日付

<参考 web サイト> 〇 『2030 年アジェンダ』国連広報センター

http://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainab

le_development/2030agenda/

〇 『MY DREAM story(字幕)』

https://www.youtube.com/watch?v=lPZsGOVDIhw&feature=youtu.be&fbclid=Iw

AR1kJ_nT740DLkjd4Xdl5iceAh9B0hEauuAFLed4S45e3K8kKKUwPn24DRM&app=desktop

〇 『世界の新しい目標「SDGs」』セーブ・ザ・チルドレン(リーフレットのダ

ウンロードができる)

http://www.savechildren.or.jp/lp/sdgs/