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基礎医学研究者を志す学生のための MD 研究者育成プログラム 東京大学医学部

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基礎医学研究者を志す学生のための

     MD研究者育成プログラム

東京大学医学部

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 現在、医学研究の各分野における研究は著しいスピードで進展しています。世界の研究最前線では、多くの日本人研究者が各々の分野で輝かしい研究成果を挙げ、主導的な役割を果たしています。しかしその優位がいつまでも保証されているわけではありません。最先端の研究成果を追い越し、新たな地平を拓く、優秀な若い研究者の輩出が切望されています。  東京大学は我が国を代表する基幹大学であり、世界レベルで指導的な役割を果たす人材の養成が求められています。この社会的要請は医学部においても全く変わることはなく、「優秀な医師を養成して社会に送り出す」ことはもちろんのこと、「生命原理の解明」、「難治疾患の病因解明」、「先端医療の開発」などを通じて、明日の医学・医療を創出することが求められています。しかし後者を担う医学研究者を志す人材は減少傾向にあり、次代の基礎医学研究者を発掘し積極的に育成する公的なカリキュラムの必要性が認識されるようになってきました。  従来のカリキュラムでは 6年間の学部教育を修了してから研究生活(大学院)に入るのが通常のコースでしたが、今日では、それがスタートの遅れとなり、その後の研究の進展に影響を及ぼしていると懸念されています。

 基礎医学研究者としてのキャリアを視野に入れている学生には、当プログラムなどを通じて、いち早く学部生の時から最先端の研究現場に身を置き、テーマの設定方法、学術情報収集・文献検索の方法、実験の組み立て方や実際の手技、データの解釈やまとめ方、発表方法などに触れて、研究者の考え方を身につけることで、自分自身の可能性を大きく伸ばすことができます。このような研究者として必要な「作法」を学部生の時期から積極的に習得する機会を設けることを目的として、平成 20年度から「MD研究者育成プログラム」が運営されています。  具体的には、M1の時期から基礎研究室の一員として研究に参加し、実験方法や研究姿勢を習得すると同時に英語での論文作成やディスカッション・スキルの訓練などを通して、基礎医学研究者としての姿勢を体得することを目標とします。  このプログラムは通常の医学教育カリキュラムに代わるものではなく、通常の6年間の医学教育と並行して進められます。従ってこのプログラムを履修する学生にとっては負担が増えることになります。しかし、否、だからこそ、基礎研究に情熱を傾けたいと考えている学生の参加を求めています。教授・先輩研究者たちもその期待に応えるべく親身になって指導を行う決意を固めています。双方の協力によって若い才能が開花することを願っています。

プログラムの目的1

東京大学医学部卒前教育の理念と目標

東京大学医学部の目的は生命科学・医学・医療の分野の発展に寄与し、国際的指導者になる人材を育成することにある。すなわち、これらの分野における問題の的確な把握と解決のために創造的研究を遂行し、その成果に基づいた全人的医療を実践しうる能力の涵養を目指す。 (2000年 4月)  

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プログラムの概略

従来のカリキュラムとの違い:これまでは、1) 6 年間の医学科カリキュラムおよび医師国家試験を修了してから臨床研修または博士課程大学院を選択する「医学科コース」と、2) 医学科カリキュラムを一時中断して博士課程に進み博士号取得後に医師国家試験に臨む「PhD/MDコース」の 2本立てで運営されてきました。3) MD研究者育成プログラムは、通常の医学科カリキュラム(6年間)と並行し、正課(講義・実習)とは別の時間、例えば夕方以降やフリークオーター期間などを利用して、いち早く基礎医学研究の実際に触れる機会を用意するものです。平成20年度から開始されました。

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プログラムの骨格:所属する研究室での研究活動(5章 A)、MD研究者育成プログラム室が主催する少人数ゼミや研究発表会(5章 B)、研究活動支援(5章 C)の三本立てで構成されます。

プログラムの特徴:①研究室での実験を通じた実験技術の習得と、②論理的思考、観察能力、創造性、プレゼンテーションやディスカッションなど、研究コミュニケーション能力を開発する機会が得られます。また交流会を通じて、基礎研究指向のある上級生や下級生とのネットワーク形成も期待できます。

履修期間:M1からM4までを履修期間とします。教養学部やM0においても関連カリキュラム(Medical Biology 入門、Molecular Biology of the Cell 輪読ゼミ、第 3章参照)を用意していますので、それらに参加してMD研究者育成プログラムの目指すものを感じ取ってください。

参加人数:とくに規定はありません。現在、各学年 15-20 名が履修しています。

参加施設:医学部基礎系教室と疾患生命工学センターを中心とします。対象となる教室については 9ページを参照してください。(その他の教室を希望する場合は相談してください)

学部卒業後の進路:医学科を卒業し、医師免許を取得して直ぐに大学院(博士課程)に進学することを勧めています。大学院進学に際して、修了論文合格者は直後の東京大学大学院医学系研究科博士課程の入試において筆記試験が免除されます。

大学院卒業後の進路:学位取得後は、希望により、そのまま研究を続行することも、初期臨床研修に進むことも可能です。臨床研修の後も、基礎医学研究に戻る道もあれば、臨床医学へ進む道も考えられます。

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■1 Medical Biology 入門 教養学部において、文科系理科系を問わず希望者全員を対象に、医学部におけ

る研究を紹介する週1回のオムニバス形式での講義シリーズです。医学界において今日までに明らかになってきた生命のメカニズムは驚くほど精緻で洗練されており、単に生命科学にとどまらず、すべての自然現象あるいは社会現象の解明にさえも多くのヒントを与えています。このような、医学を研究するもののみが知る生命の魅力を語っていきたいと考えています。 授業は、90分を前半後半にわけて二部構成で行い、間に質疑応答をはさむス

タイルで行います。各回授業では、教授クラスの授業(その研究分野の基礎知識と研究室での研究内容)、若手教員(実験をして筆頭著者として論文を書いている人)によるプレゼンテーション、大学院生など(新たに研究を始めた人)によるプレゼンテーションなどがあります。その領域の権威から、みなさんに年齢も近く実際の活動を担っている人たちの経験までを共有してほしいと思います。初歩的な質問でもよいので、活発に質問を出して交流してください。講義後には、演者と直接話せる時間を設けます。このゼミナールでは知識を問う形の試験は行いません。毎回の講義に出席し、活発に質問をし、研究者と交流することによって「医学研究の最先端に接する」ことが目的の講義ですので、そのような体験を通しての感想、意見を適宜アンケートの形で回収し、成績評価の参考とします。

教養学部生(C1,C2)対象 共通カリキュラム3

■2 Molecular Biology of the Cell 輪読ゼミ  主に教養学部2年生を対象とし(1年生も参加可能)、生命科学において最も広く親しまれている教科書「Molecular Biology of the Cell」を英語で読むことで、生命科学を英語で学ぶ習慣を身につけ、さらにその基礎となっている原著論文を読む事が出来るようになる事を目標とする少人数ゼミです。  担当教員とM1,M2年生のアドバイスのもと、各回数名の担当者が各章の解説を行い、それに対する議論を中心に進めます。また、後半は教科書に書かれたことの元になっている英語論文を実際に読んで、実験的にはそれがどのように示されたのかを勉強します。このゼミでは積極的に質問し議論に参加してください。それによって原著論文を読む際に必要な批判検討能力が養われ、自分の研究に対しても適切な検討を行うことができるようになります。第一回のガイダンスのみ駒場キャンパスで行い、実際のゼミは本郷キャンパスで行っています。

■ 医学に接する  希望者(医学部医学科進学希望者には履修を強く要望)に対し、短期間集中で、少人数のグループに分かれて、各グループが医学系の複数の講座を見学する授業です。全学体験ゼミナールとして開講されます。(詳しくは教養学部科目紹介の内容やガイダンスの説明を参考にしてください。)

● 教養学部の期間にも研究室に来てみたくなったら?  教養学部で開講されている授業の間にも医学研究活動に魅力を感じ、研究室に来てみたくなったら、その先生に直接、あるいは、MD研究者育成プログラム室(Email:[email protected])までご連絡ください。プログラム室ではコーディネートを行ってこのような学生をサポートしたいと考えています。

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医学部紹介パンフレットはこちら

http://www.m.u-tokyo.ac.jp/information/pamphlet/

細胞生物学

生体構造学

神経細胞生物学

分子生物学

細胞情報学

代謝生理化学

統合生理学

細胞分子生理学

神経生理学

細胞分子薬理学

システムズ薬理学

人体病理学

分子病理学

微生物学

免疫学

システム生理学

生体情報学

生体機能制御学

神経病理学

神経生化学

神経生物学

認知・言語神経科学

分子予防医学

公衆衛生学

分子病態医科学部門

構造生理学部門

医療材料・機器工学

臨床医工学部門

動物資源学部門

放射線分子医学部門

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■1 基礎系研究室紹介  基礎医学、社会医学、疾患生命工学センターの研究室代表者が一堂に会して、その研究内容の概要紹介を行う説明会です。基礎医学系各研究室が今進めているホットな研究内容が紹介されます。毎年10月末頃にM0、M1を対象として開かれています。  既に研究室生活を経験している上級生との質疑応答も企画していますので、基礎系各研究室での実際の研究活動の実態を知ることができます。基礎医学研究に興味を惹かれた場合は、気軽に各教室の担当の先生方に連絡を取ってみてください。また、3月に予定されているフリークオーター(内容は下記参照)に参加して、実際に研究室の雰囲気を確かめてください。 ■2 フリークオーター(FQ)  もともと医学部では「医師を養成する」という点から、全てが必修科目で全員が同じ講義・実習を受ける、というシステムになっています。一方、個人個人は異なった目的をもって医学を学んでいると思います。各自の興味・関心に基づいて自発的に学ぶ機会として、1年のうち一定期間を自由な時間として確保しています。これをフリークオーター(FQ)といい、例えば、研究室で実験する、一般病院で臨床や救急の現場を勉強する、海外の病院で諸外国の医療の実態を見聞する、ということができるように学部でサポートするシステムが以前から作られています。  このフリークオーターは基礎系研究室との絶好の「入門・お見合い」機会となりますので、存分に活用してください。MD研究者育成プログラムでは、フリークオーター期間にとどまらない、基礎系研究室での長期的な研究活動が重要な柱のひとつになっています。研究室にはそれぞれに個性がありますので、当プログラムの履修を考えている方は、M0のフリークオーター期間から所属してみたいと思う候補の研究室に行って、自分と合致するところをよく探してほしいと思います(次頁を参照)。

 現在、東京大学医学部の基礎医学は、下記のような多彩な分野で構成されています。分野名でおおよその輪郭は分かるかもしれませんが、是非医学部紹介パンフレット(http://www.m.u-tokyo.ac.jp/information/pamphlet/)をご覧ください。その上で、研究室紹介などの機会を利用して、より詳しく理解されることを望みます。直接、問い合わせても結構です。

医学科進学者対象・共通カリキュラム4

基礎医学研究室

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M0~M1/秋冬学期

M0~M2/1~3月

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 MD研究者育成プログラムの履修を希望する方は、M0やM1のフリークオーターの期間などを通じて、今後自分が長期に所属を希望する研究室をいくつか実地で回り、所属希望研究室(前頁のリストにある講座より選択)を決定してください。  MD研究者育成プログラムの履修者には、通常の医学部カリキュラムに加えて、M1からM4の期間に、以下に説明する履修生向けカリキュラムが用意されています。 ■A 所属する研究室での研究活動 ■1 プログラム履修届けおよび研究室配属  M1の4月下旬に本プログラムの説明会を実施し、履修希望者は履修届けを提出して頂きます。そして、遅くともM1後期修了時までに、本郷地区の基礎医学講座を配属研究室として決定し、その後研究に取り組む体制を各自で確立します。現時点では履修者の選抜は実施しておりません。  M2以上で履修を希望する場合は、スタッフまでご連絡ください。

■2 研究室での研究実践  フリークオーター期間、夏の長期休暇、正課時間外(平日の早朝や夕方、土日)等を利用し、配属研究室にて指導教員のアドバイスを受けながら実際の研究を進めます。あくまで講義・実習と並行して行うものであり、研究の手法や論理的思考能力を身に着けることを主眼とします。

■3 論文作成  論文の構成、表現方法など基礎的な訓練から指導を受けることによって論文作成能力が向上します。卒業時に修了論文を提出しますが、大きな結果が出ることよりも、研究の思考法が身についたかどうかを重点的な評価項目とします。

本プログラムの特別カリキュラム5

■B MD研究者育成プログラム室が主催する   少人数ゼミや研究報告会 ■4 基礎医学ゼミ 開催日:木曜日 17時頃から約 1時間半 参加者:M1とM2のプログラム履修学生(2学年合同)および担当教員 ポイント:色々な分野について自ら論文を調査し発表、議論することで、講義で聞くだけよりも詳しくなれる、しかもディスカッション能力も付く、というのがこのゼミの特色です。そのためには、ほかの人の発表の時は、議論に積極的に参加するのがお勧めです。少人数によるゼミですので、講義や教科書や関連の文献を読んで、なんとなくわかったつもりになっていた事柄が、その分野の専門家を含めたディスカッションを生で聞き、インタラクティブな討論を通して、格段に理解が深まるという経験が得られると思います。憶せず質問をすることが、理解への最善の方法といえます。 ゼミの実施要領 ● M1履修学生から発表希望者を募り、英語原著論文を読み込んで 1時間程度にまとめて発表します。一年で一人あたり 2-4回担当します。

● 1 回目は、履修上級生(M2以上:チューター)が発表分野を決定し、その分野に合わせて各研究室へ協力をお願いしてアドバイザー教員を選定します。アドバイザー教員には発表時も同席をお願いし、専門的見地から指導・コメントをもらっています。発表分野は偏りがないように、プログラム室教員が調整します。また、所属研究室が決まっていないM1の履修生にとって、研究室選定のヒントになるように、アドバイザー教員には論文発表の後に研究室紹介もお願いしています。

● 2 回目の発表以降は、所属研究室の担当教員の指導のもと、学生自身の裁量で発表をしてもらいます。15分程度に要点を掻い摘んで発表するなどの工夫をする事で、プレゼンテーション能力を鍛えます。

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■5 Medical Research Communications  外国人講師を招いて、英語で発表や質疑応答を行う練習をします。一班4-6名程度の少人数グループで積極的に発言することで、英語による科学コミュニケーションに習熟します。

■6 研究報告会  年に1回程度、履修生による研究活動を発表する会を開いています。所属研究室や短期留学での研究進捗を発表していただきます。発表言語は英語を推奨しており、プレゼンテーションの準備では、Medical Research Communications 講師の先生からアドバイスを受けるなどの連携も始めました。 ● その他、履修生や卒業生による自主ゼミや交流会等 本プログラムは学生の自主的な企画を支援します。これまで、履修生あるいは卒業生が主体となり、様々なゼミや交流会が開催されました。2013年4月には、M4学生が中心となり、医学部に着任したばかりの4人の教授を一人ずつ招いての講義と交流会が開催されました。また毎年夏には、本プログラムOB/OGによる卒後の研究や研修の報告会と交流会が開かれ、多くの現役履修生が参加します。

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■C 研究活動支援 ■7 上級学年履修生による下級生のリード  下級学年の基礎医学ゼミ、研究発表会では、チューターやマネージャーを務めてもらうことで、自分の知識の確認はもちろん、コーディネート能力も養ってください。今後の医学研究で必要性が増えていくと思われる、多分野連携をリードしていくには、コーディネート能力が欠かせませんが、医学部の通常カリキュラムでは、その能力を磨く機会がほとんどありません。  この活動に対しては東京大学ジュニアTA(Teaching Assistant)として公的な支援を受けられます。

■8 学会発表、研究留学の経済的支援  研究成果の学会発表(国内外)を積極的に推進、援助します。また海外を含む短期研究留学も推進します。これらにかかる費用に関しては、学生に余分な金銭的な負担がかからないように、文部科学省のプロジェクト型予算を活用して支援を行っています。学会や短期留学を経験した学生には、報告会で発表をお願いし、履修生間で体験を共有する事を目指します。

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  ● 2011年の夏休み、MD研究者育成プログラムの支援のもと、University of California, San Diego(UCSD)のTerunaga Nakagawa Labに6週間ほどお世話になった。小規模の研究室で、とても丁寧に指導していただいた。 実験にあたって必要な英語のレベルは高いものではなく、一週間もあれば慣れたが、学問的な議論や日常会話となると自らのスキル不足を実感することとなった。そして英語のスキルが未熟なものであったという事実と同時に、自らの思考や知識の浅さを痛感した。文化が異なり、共有する前提があまりない人と話すことで、自分はどういう人間なのか、どういう考えを持っているのか、どういう研究をしたいのか、それらをある程度言語化することが要求され、また言葉にしない範囲においても、自分と向き合い、考える機会を得た。 また、大学・研究機関というのは東大だけではなく、研究は世界中で行われているという至極当然のことを意識するようになった。これまで、東大の先生に教わり、東大の研究室に通い、東大の学生に囲まれていたせいか、研究内容・キャリア・施設・制度・思考パターン等について、(少なくとも私は)限られた考えしか持っていなかったように思えた。留学により、それらについての視野が広がったように思える。実際に行ったことで、海外が身近に感じられ、不必要な抵抗感が取り除かれたとも思う。

(M2 T.S)

●海外短期留学体験記 ● 2011年の春、夏、冬に延べ12週間、University of Pennsylvania (UPenn) のJones Labに短期留学を行った。新たな脈管系転写因子の役割を主題とし、UPennにお邪魔するたびに継続して研究を行った結果、in vitro, in vivo 両面から意味のありそうな結果を出せた。同時に、日本で学んでいなかった手法、日本では学べない手法をいろいろ経験させていただいた。特に病院から送られてきた新鮮なヒトの肺から細胞をより分けたり、屠殺場から運んできたブタの肺から肺動脈を切り取って実験をしたりもさせていただいた。実験は総じてスケジュールがタイトなものであったが(特に帰国直前)、合間があれば興味のある分野のセミナーを聴講しに行き、短期でありながらも有効的に、有意義に過ごすことができたと思っている。これらの実験、現地の生活に関して、指導教員であるIhida先生には非常にお世話になった。Ihida先生が研究でコラボされていたUPenn内のHospitalのDoctorを紹介していただき、臨床の現場も見学することができた。また、ラボ内には、学業と研究を両立している学部生が数人おり、共同で実験をしたり、会話をしたりする中で、アメリカの同世代の学生たちがどのようなことを知っていて、どのようなことを考えているのか、非常に参考になった。これらのことすべてが今後の糧ともなりうるものであると思う。最後に、この機会を与えてくださったMD研究者育成プログラム室、大坪先生、宮園先生をはじめ分子病理学教室の皆様には深く感謝しております。

(M2 T.I)

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■9 他大学との交流  我が国の医学研究及び医学教育の牽引車となる人材を育成するため、基礎医学研究者育成プロジェクトが、東京大学、大阪大学、京都大学、名古屋大学で運営されています。また、関東圏の東京大学、群馬大学、千葉大学、山梨大学でも研究医養成コンソーシアムが運営されています。毎年これらの大学間で学生同士の研究交流会が行われており、基礎研究医を志す医学生のネットワークが形成されています。ここで培われる人脈は、研究分野を超えて将来きっと役立つことでしょう。 ●関東四大学合同リトリート感想記 8月19日と20日の2日間、山梨の石和温泉を会場に第4回関東四大学研究医養

成コンソーシアム・夏のリトリート(通称「関東リトリート」)が開かれました。東大からは私を含めて9名の学生が参加しました。例年の参加校はコンソーシアム構成校である東京大学・千葉大学・群馬大学・山梨大学の4校でしたが、今年は「拡大版リトリート」と称し、さらに大阪大学・名古屋大学・慶応大学・東北大学・金沢大学・横浜市立大学も参加校に加わりました。その結果、今年の関東リトリートは参加者総数が50名を超える過去最大規模での開催となりました。 関東リトリートの趣旨は、基礎研究を志す学生が大学の枠を超えて集まり、お

互いに良い刺激を与え合おうというものです。会期中は日頃の成果の発表が行われた他、先輩MD研究者の講演や先生方も交えての懇親会などがありました。学生同士でお互いの研究についてのディスカッションを交わすことができただけでなく、将来目指す理想の研究者像やキャリアプランなどについて夜遅くまで熱く語り合ったりもしました。 私は去年に引き続き2回目の参加だったのですが、毎回、全国の学生の志が高

いことに驚いています。リトリート終了後の参加者アンケートでも、「研究に打ち込む学生がこんなにいるとは思わなかった」という意見が多数寄せられました。どの学生も、話を聞いてみると忙しい正課カリキュラムや部活動の合間を縫って実験・研究に励んでおり、とても自分だけ忙しさを言い訳にはしていられないと感じました。

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口頭発表とポスター発表の両方で審査が行われ、東大からはM3の佐藤千尋さんが最優秀口頭演題賞を、私が最優秀ポスター演題賞を頂くことができました。 どの大学でも、研究に打ち込む学部生はマイノリティーなのが実情のようで

す。そんな中、年に1回志を同じくする仲間と集れる関東リトリートは、モチベーションを維持する上で非常に貴重で大切なものだと感じています。このような機会を設けてくださった研究医養成コンソーシアム及びMD研究者育成プログラムの教職員の方々、そして主幹を務めた山梨大学の学生委員のみなさんに心より御礼申し上げます。 来年の関東リトリートは東京大学が主幹校になります。これまでの4年間で先

輩方が培ってくださった土壌を後輩へと引き継げるよう、MD研究者育成プログラムの他の学生共々頑張っていきたいと考えています。

(第四回関東四大学合同リトリート 東京大学代表 松田和樹)

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スのワシントン大学医学部榮川健氏(M.D., Ph.D.)のキャリア講演と学生のサークル活動についての発表もあり進路選択や学生生活で何をするかについて参考になった。リトリート実施にあたっては、プログラム策定、しおりづくり、開催場所選定、雑品用意など、目的を果たすため予定・実施すべきことがやたらにたくさんある。代表の中條淳博さん(阪大医学科4年)を中心に十分に計画され、立派に運営された。先見の明と当日の臨機応変な対応とを必要とし学会運営は骨が折れる。

全国合同リトリートに参加すること リトリートに参加して、発表をする機会ができて締切り効果や発表のためにま

とめることで研究がはかどった。一泊をともにし、他者の多様な価値観や卓越性に触れることで、気持ちを一新した。国立国際美術館に東京で見損ねた「貴婦人と一角獣」という六連作のタペストリーが特別展示されていて、運営にあたった人ら10人で閉会後17日の夕に見に行った。 第四回全国合同リトリートは来年度名古屋大学主幹で開催される。 ※

(第三回全国四大学合同リトリート 東京大学代表 中野雄太) ※2014年8月22日~23日 愛知県犬山市において無事開催されました。

●全国四大学合同リトリート感想記 第一回東京・第二回京都に続き第三回全国合同リトリートが大阪大学の主幹

で、大阪ガーデンパレスにおいて8月16日13時から17日12時まで執り行われた。全国11大学の医学部から学生80名と教官20名が参加した。東大から学生はM3清田正紘・濱崎真夏・広瀬玲、M2松田和樹、M1井上秀太郎・植松真章・浮田純平・中野雄太(代表)・塙孝哉(副代表)、教員は吉川雅英教授、仁田亮特任講師、本田郁子助教が参加した。 人間の合理的な意思決定・行動にかかわる要因を、理学的な事実と経済的・技

術的な制約と価値・効用との三つにわけるとわかりやすい。何かをする費用が得られる利益より小さかったなら、やらないほうがよい。新しいことも古くからのことも、改善を目指し、時には大幅な変化を図ったりすべきだ。合同リトリートにより、MD研究者育成プログラム参加者が発表する機会が得られ、親交を結ぶ機会ができ、学会を運営する体験ができる。リトリートにかかる費用より多くが生産されていると願いたい。

全国合同リトリートを計画・運営すること 今回のリトリートの主要な目的として設定されたのは、参加者の交流と学生の

研究発表で、口頭発表・ポスター発表・議題自由のディスカッション・夕食・懇親会・宿泊部屋での雑談などで目的がはたされたと思う。阪大出身のセントルイ

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修了論文 審査会6 6年間の活動の概要7

 M4の9月初旬頃、それまでの研究成果をまとめて、修了論文(英文)を提出します。修了論文は、4年生学部出身者の修士過程修了論文に準ずるレベルを目指します。そして、9月末から10月初旬に行う修了論文審査会にて、修了論文の内容を10分程度に要約して発表してもらいます。審査員は医学部長(または副医学部長)および医学部の教官(教授または准教授)が担当します。修了論文審査では、革新的な結果が出ることよりも、研究の思考法や発表の仕方が身についたかどうかを最重要事項として合否の評価を行います。合格と判定された場合は修了認定を受けて修了証が発行されます。修了認定者は、直後の東京大学大学院医学系研究科博士課程の筆記試験の免除の対象となります。修了認定者のうち、特に優秀な論文に対しては学部長賞を授与します。  当プログラム発足以来、以下の修了認定者、学部長受賞者を輩出しています。

2019年度 修了認定者 2名(うち学部長賞1名) 2018年度 修了認定者 7名(うち学部長賞1名) 2017年度 修了認定者 5名(うち学部長賞2名) 2016年度 修了認定者 8名(うち学部長賞2名) 2015年度 修了認定者 5名(うち学部長賞2名) 2014年度 修了認定者 7名(うち学部長賞2名) 2013年度 修了認定者 9名(うち学部長賞2名) 2012年度 修了認定者 3名(うち学部長賞1名) 2011年度 修了認定者 5名(うち学部長賞2名)

 毎年3月末には、M4の修了認定者による修了論文発表会を開催しており、MD研究者育成プログラムの現役履修生も聴講します。現役履修生にとっては身近なロールモデルとの有意義な討論の場となっています。プログラム履修前の学生(M0など)も参加可能ですので、ご興味がある方はMD研究者育成プログラム室までご連絡ください。

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医学部主要行事 MD研究者育成プログラムの活動

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4月~7月 全学ゼミMedical Biology入門

4月~7月 全学ゼミMedical Biology入門

9月~1月 全学ゼミMolecular Biology of the Cell輪読ゼミフリークォーターの準備M0

3月 MD研究者育成プログラム研究発表会

10月上旬 修了論文審査会

3月 MD研究者育成プログラム研究発表会

3月 MD研究者育成プログラム研究発表会

3月 MD研究者育成プログラム研究発表会

3月 MD研究者育成プログラム研究発表会

4月~7月 エレクティブクラークシップ7月下旬 大学院入試願書締め切り

7月~8月 基礎・臨床フリークォーター

1月~3月 フリークォーター(3ヶ月)

2月 医師国家試験

10月中旬 大学院入試12月中旬 卒業試験

エレクティブクラークシップの準備

11月 ノバルティスインターンシップ募集11月 CBT本試験12月 OSCE

4月 MD研究者育成プログラム説明会

2月~3月 フリークオーター(3週間)

11月 基礎系研究室説明会(M1と合同)

11月 基礎系研究室説明会(M0と合同)

夏休みを利用して研究に集中

夏休みを利用して研究に集中・短期留学で研究を発展

夏休みを利用して研究に集中

エレクティブクラークシップとして短期留学

6月~8月 ノバルティスインターンシップ

フリークォーターの準備

4月 入学式、理3説明会

3月 卒業式

1月~3月 クリニカルクラークシップ     (臨床実習)

全期間 

教室見学も可

クリニカルクラークシップ(臨床実習)全期間

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■1 医師免許の取得  医師国家試験は受験し、医師免許を取得してください。

■2 大学院(博士課程)への進学  卒業後直ちに博士課程大学院に進学することを勧めています。修了論文合格者に対しては、直後の東京大学大学院医学系研究科博士課程の筆記試験が免除されます。 *大学院進学後の経済的支援に関しては、以下のオプションがあります。 詳細は、MD研究者育成プログラム室にお問い合わせください。 1. 武田科学振興財団 医学部博士課程奨学助成:M4時に選考、原則として本学から2名まで選抜。2年間から最大4年間まで支給。

2. リサーチアシスタント(RA)として採用する。 3. 日本学術振興会の特別研究員(DC1またはDC2)への採用。DC1、DC2はそれぞれ、博士課程1年次、2年次に応募する。

4. 基礎系大学院直接進学者に対する奨学金:医学部医学科卒業後に直接、基礎系大学院に進学する者に対する東京大学大学院医学系研究科からの給付型奨学金で、原則として年額100万円の給付。

卒後の進路と博士課程大学院への連携8 2 3

1

■3 大学院修了後の進路  学位取得後は、希望により、そのまま研究を続行することも、初期臨床研修に進むことも可能です。臨床研修の後も、基礎医学研究に戻る道もあれば、臨床医学へ進む道も考えられます。

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MD研究者育成プログラムの活動では、最先端の医学研究を紹介するMedical biology 入門、生命科学を英語で学ぶ姿勢を身につけるMolecular Biology of the Cell 輪読ゼミ、論文抄読を通じて発表能力や批判検討能力を高める基礎医学ゼミに加えて、医学研究に必要な英語力を高めるMedical Research Communications、卒業生との交流会、他の履修生や卒業生と自身の研究内容について議論する東大リトリートなどを行っています。また、プログラムの経済的支援により国内の学会参加や海外の研究室に短期留学する学生も多く、自身の研究に関する視野を広げる良い機会となっています。他大学とは合同で合宿形式の研究発表会を行う東日本研究医養成コンソーシアムリトリート、全国 4大学リトリートを開催しており、他大学の学生と学年を超えたつながりを形成し、リトリート後も他大学から東大に短期留学するなど研究に関する交流が続いています。M4の学生は自身の研究の成果をまとめた修了論文を提出し審査会において研究発表をします。一般の研究者からみてもレベルの高い研究が多く、審査担当教員から高い評価を得ています。特に評価が高い研究に対しては学部長賞が授与されます。

■Medical Research Communications 2019年度 M1:28回(2クラス分)

M2~M4合同:44回(2クラス分) 2018年度 M1~M4合同:44回(2クラス分) 2017年度 M1~M4合同:36回(2クラス分) 2016年度 M0・M1:6回(1クラス分)

M2~M4合同:22回(1クラス分) 2015年度 M0・M1:6回(1クラス分)

M2~M4合同:44回(2クラス分) 2014年度 M1:10回(2クラス分)

M2~M4合同:58回(3クラス分) 2013年度 M1:10回(2クラス分)

M2~M4合同:59回(3クラス分) 2012年度 M1:5回

M2:42回(2クラス分) M3, M4:42回(2クラス分)

2011年度 M1:11回(2クラス分) M2:37回(2クラス分) M3, M4:21回

2010年度 全34回 2009年度 全5回

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■ Medical biology 入門 2019~2011年度 全13回 2010~2009年度 全12回 2008年度 全24回 ■ Molecular Biology of the Cell 輪読ゼミ 2019~2018年度 全12回 2017~2016年度 全11回 2015年度 全13回 2014年度 全12回 2013~2012年度 全13回

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■ 基礎医学ゼミ 2018年度 全2回 2017年度 全4回 2016年度 全7回 2015年度 全9回 2014年度 全12回 2012年度 全14回 2011年度 全12回 2010年度 全15回 2009年度 全14回 2008年度 全17回

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プログラムの活動実績

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■ 学内研究発表会 2016年度より東大リトリートにて開催 2015~2010年度 各学年1回ずつ計3回 2009年度 計2回 2008年度 計4回 ■ 東大リトリート 2018年度 参加卒業生 23名/参加学生 44名 2017年度 参加卒業生 8名/参加学生 32名 2016年度 参加卒業生 4名/参加学生 36名 ■ 東日本研究医養成コンソーシアムリトリート 2019年度 参加学生 20名 2018年度 参加学生 4名 2017年度 参加学生 8名 2016年度 参加学生 7名 2015年度 参加学生 6名 2014年度 参加学生 10名 2013年度 参加学生 8名 2012年度 参加学生 6名 2011年度 参加学生 7名 ■ 全国 4大学リトリート 2019年度 参加学生 3名 2017年度 参加学生 8名 2015年度 参加学生 14名 2014年度 参加学生 8名 2013年度 参加学生 9名 2012年度 参加学生 19名 2011年度 参加学生 19名

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■ 海外短期留学 2018年度 2名 2017年度 5名 2016年度 3名 2015年度 9名 2014年度 4名 2013年度 8名 2012年度 13名 2011年度 9名 2010~2008年度 3名 ■ 学会参加 2018年度 6名 2017年度 8名 2016年度 7名 2015年度 9名 2014年度 5名 2013年度 8名 2012年度 10名 2011年度 8名 2010年度 6名 2009, 2008年度 3名 ■ 学会等での受賞 2016年度 4名 2015年度 3名 2014年度 2名 2013年度 1名 2012年度 0名 2011年度 1名 2008~2010年度 0名

■ 修了認定者 2019年度 2名(うち学部長賞1名) 2018年度 7名(うち学部長賞1名) 2017年度 5名(うち学部長賞2名) 2016年度 8名(うち学部長賞2名) 2015年度 5名(うち学部長賞2名) 2014年度 7名(うち学部長賞2名) 2013年度 9名(うち学部長賞2名) 2012年度 3名(うち学部長賞1名) 2011年度 5名(うち学部長賞2名) ■ 同期会 2019年度 卒業生20名 在校生9名 2018年度 卒業生16名 在校生11名 2017年度 卒業生13名 在校生12名 2016年度 卒業生15名 在校生7名 2015年度 卒業生15名 在校生7名 2014年度 卒業生12名 在校生6名

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活動実績詳細・体験記は MD研究者育成プログラム サイトでご覧になれます

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③最先端の研究のスキルが身につく。  スキルといっても実験のテクニックに限りません。論文の読み方、ポスターの作り方、データベースからの情報抽出の方法、実験の組み方、考察の仕方、と多岐にわたります。これらを学部生時代に身に着けておくことは、非常に有意義です。また、自らも最先端の研究の一翼を担っているのだという誇りやそこに生まれる楽しさは、何にも代えがたいものだと思います。 ④医学研究への強い志を持った仲間との交流が生まれる。  医学研究への熱い思いをお互いに語り合える友人が得られるのはとても幸せなことです。正課と両立してやる研究は、やはりなかなかうまくいかず苦しいことが多いですが、その時に相談できる仲間がいるというのは、心の支えになります。また、自分と同様の道を歩んだ先輩方の話を聞くことで、自分が今後どうしていくのがよいのかを考えるよい機会が得られます。最近では、関東四大学リトリート・全国四大学リトリートなど、他の大学の医学研究を志す学生との交流も始まっており、その仲間の輪が日本中に広がろうとしています。 医学研究に少しでも興味のある人は、ぜひMD研究者育成プログラムに参加してみてください! (M2 R.K)

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■ MD研究者育成プログラムは簡潔に言えば、「M1春から研究室に通い始め、放課後や休日・長期休暇を利用して実験を行い、実験結果をもとに英語で修了論文を書き、卒後大学院に進学する(希望すれば進学せずに臨床医に進むことも可)」というプログラムです。他のプログラムとの大きな違いは、並行して正課の医学部の授業も受講し、普通の学生と同じタイミングで医師免許を取得できる点にあります。わかりやすく言えば、大学生活内の「サークル」の代わりに「研究室での実験」を入れる、というイメージです。 本プログラムへの参加は、正課と研究の両立という大きな苦労を伴いますが、それを上回って多大な魅力があると、すでに参加して二年たつ今、ひしひしと感じています。その魅力を、四点に絞って簡単に述べたいと思います。 ①学部生のうちに自分の研究への適性を見極められる。  医学部ではカリキュラム上、他の学部と異なり研究室配属がありません。そのため普通に学部の授業を受けている限りにおいて、研究室に通えるのは最大でも数か月しかなく、そのような短い期間では、研究とはどういう営みなのかを知ったり自分が研究に向いているのかどうかを見極めたりするのは不可能といえます。学部生の間に、空いている時間を研究につぎ込み、それをもとに自分の将来を考えられるというのは、非常に有意義なものだと思います。 ②医学部の暗記偏重の授業の中で、発想力・思考力を失わずに済む。  医学部の授業は、覚えることがものすごく重視されます。その傾向は臨床医学において特に顕著で、多くのことを覚えている学生ほど偉い、といった風潮さえあります。もちろんそれは一面的には正しいですが、研究、すなわち新しいものを生み出す世界においては必ずしも成り立ちません。研究の世界で求められるのは、すでに発見された数少ない事実をもとに、可能性の高い、それでいて他の人が思いつかないような優れた仮説を立て、それを自らの手で証明していくという力です。これは実際に研究の世界に飛び込んで試行錯誤していかない限り身につかないものです。医学部の授業を受け、ひたすら暗記をしていると、その力はどんどん弱まってしまうように思います。

履修生の声10

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■ 東京大学医学部医学科に進学することの大きな魅力の一つは、最先端の医学研究に触れられることだといえます。世界的に有名な教員が、講義でご自身の研究について紹介してくださることも多く、医学科進学後は座学中心なこととあいまって、「研究とはどういうものなのか、自分で体験してみたい」と考える方も少なくないと思います。しかし、そうはいっても、「どこに行けばいいのか」、「どういう手順を踏んで、研究室を訪れればいいのか」など多くの疑問が生じ、次の一歩が踏み出せない方も多いのではないかと思います。本プログラムの一つ目の目的は、そういう方のために「研究室へ通い始めることの敷居を下げること」にあります。 二つ目の目的は、プログラム履修開始後に行われる論文抄読会を通じた、「研究に対する批判的な思考を養う」ことです。課題論文に関する発表を通じ、また他人の発表を聴き適切な質疑応答を行うことを通して、研究者マインドとでもいうべきものを涵養することを目指します。さらに、年次が上がり、履修生それぞれの研究室での実験が進み始めると、成果発表会などの催し物があり、お互いの実験結果に関する議論を通じて「研究に対する目」を磨きます。 プログラムの三つ目の目的は、「プログラムの様々な活動を通じ、基礎研究を志す者同士のネットワーク作り」であると考えています。これは、一見すると様々なイベントを催した結果の副次的産物なのですが、多くの履修生が最も大事な目的と考えているといっても過言ではありません。履修生同士、先輩・同輩・後輩を問わず、研究に限らず様々なことを議論する機会が多く存在するのは、学年間のつながりが薄い医学部では大変貴重なものです。また、多くの学生好きな先生方と、一個人として、お話しさせていただく機会を豊富に頂けるのも、プログラムの魅力の一つだと思っています。こうして作られる、教員や先輩、同級生や後輩とのつながりの価値は、在籍している今でも相当貴重なものであると考えていますが、これから先、きっとその大切さに改めて気付かされることと思います。(M3 H.T)

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 とはいっても、東大医学部でどんな研究が行われているかわからない人の方が多いでしょう。また、「いいことばかり並べてるけど、本当の生活はメチャクチャ厳しいんじゃないの」、「ホントに自分が参加できるのかな」、「自分がやりたいことは実現できるのかな」と思った人もいるでしょう。このプログラムは発展途上です。あなた自身がプログラムをつくっていく一員になれます!  まずは、駒場で開講されている医学ゼミナールを受講したり、MD研究者育成プログラム室にメールを出してみたりして、親身な先生や先輩から実際に話を聞いてみませんか! (平成24年卒 H.T)

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 MD研究者育成プログラムには「履修することで○○を学ぶ」というような明確なシラバスが残念ながらありません。しかし、医学部のカリキュラムをこなしながら「自分はこんなこともしてみたい」という意欲を持った学生のサポートという点では、これ以上のプログラムはないと思います。  みなさん、多かれ少なかれ研究に興味があると思いますが、東大医学部の通常カリキュラムだけでは、長期間研究室に配属される機会がないため、主体的に研究をすすめるほどにはならないのが実情だと思います。ですが、このプログラムに参加することで、研究室で実際に手を動かして世界初の発見ができるチャンスも、研究志向の学生同士がつながるチャンスも格段に増やすことができます。  たしかに、部活などでも上下のつながりはありますが、アカデミックな面での上下のつながり、しかも研究室の垣根を超え、興味の対象すら違う人々との多様性ある交流ができる場所はほとんどないと思います。このプログラムでは、何かに迷ったら先輩からサポートしてもらえますし、通常カリキュラムとの兼ね合いなどについての質問をすることもできます。もちろん、後輩には自分の経験をもとにアドバイスすることになりますが、教えることで新たな学びを得ることもしばしばです。(後輩にカッコ悪いところを見せたくないので、むしろ必死に勉強するという機会にもなります!)  「このプログラムにサポートしてもらわなくても、バリバリ実験できるぜ」という人にも所属するメリットはあります。研究成果を出したら魅力的な発表をして世の中の人に知ってもらいたいですよね。自分の研究内容を知らない人たちに定期的に発表することで、プレゼンの練習にもなりますし、ラボ内では気づかなかったフィードバックがもらえるかもしれません。さらに、やる気と勇気があれば、奨学金を得て海外に短期留学する機会もあるかもしれませんし、研究の進展状況によっては、全国の研究志向の医学生が集まる合宿で自分の研究成果をプレゼンしてディスカッションすることもできるかもしれません。様々な可能性を秘めているのです。  もし、残念ながら学生の間の研究が国際学会誌への掲載にいたらなくても、MD研究者育成プログラム内で修了報告をすることで、一区切りつけて卒業することもできます。

修了生の声11

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MD研究者とは、医師(MD)の資格を持った研究者のことを指します。基礎系の研究者も臨床系の研究者もいます。東大医学部の卒業生は、どの分野に進むにしろ多くの方が研究に携わっていくことになります。最近、全国の多くの基礎系講座においてMD研究者が不足していることが大きな課題となっています。特に若手研究医の数が減少しているのです。医学部の基礎系科目は、解剖学、生理学、生化学、薬理学、病理学、法医学などですが、それぞれの切り口からこころとからだの仕組みを知り、病気のメカニズムを解明しそれを克服することが目的となっています。そのような学問を発展させるために、医学を学んだ者、臨床の現場でリサーチクエスチョンを得た者が研究者になることには、大きな意味があるのです。実際、基礎系の教授の多くは、かつて臨床教室に所属した方も多くいます。 医学教育の改革により参加型の実習が重視されるようになりました。また医師免許取得後も2年間の初期臨床研修が必要です。そのため、医師になるのに時間がかかるようになりました。現役入学生の年齢で考えると、医学部の場合は大学を卒業して初期研修を開始するのが25歳、初期研修を終了してそこからから研究を始めようとすると27歳くらいになっています。他学部の学生さんを考えると、大学3年生(20歳頃)で研究を始め、修士2年、博士3年と研究を続け若いうちに研究力をつけています。特に東大医学部の場合には、基礎研究者になりたいという初心を持つ学生さん達も多くいますので、そのような方々のモチベーションを育み、医学部の学生のうちから基礎研究に触れる機会を提供することが重要視されようになりました。私自身は臨床の研究者ですが、かつて基礎の研究室でもお世話になりました。当時はおおらかな時代でしたので、医学部に進学したばかりの猛者達が自主的に研究室に出入りして研究をしていました。今では多くの方々が第一線の研究者として活躍されています。そのような活動を公的にしたものが、MD研究者育成プログラムなのです

このMD研究者育成プログラムは平成20年に設置されました。学部課程の途中で大学院コースを開始するPhD-MDコースとも連携しています。MD研究者育成プログラムでは、医学部生が早いうちから最先端の基礎研究に触れて研究者としての姿勢を体得することを目標としてカリキュラムを作っています。教養学部からの医学部進学希望者を対象に自由参加の基礎医学入門ゼミを開講しています。医学部進学後はプログラム履修希望者に登録申請してもらい、基礎医学ゼミ、英語ゼミ、各種セミナーを受講します。研究室配属で実際の研究にも触れ、卒前研究を行い、終了後英文修了論文として提出することを目指します。論文は修了論文審査会で評価され、優秀者には医学部長賞が授与されます。また、短期海外留学支援や学会発表支援も行っています。さらに、複数大学の連携によるコンソーシアム形成しており、東京大学、京都大学、大阪大学、名古屋大学4大学の連携と、東日本コンソーシアムがあります。東日本コンソーシアムでは医学部生の合同リトリートを毎年実施しています。 このプログラムを遂行するためにMD研究者育成プログラム室が設置されており、教職員が皆さんの活動をきめ細かくサポートします。皆さんの学生生活が充実したものになるように、また輝かしい将来のために、多くの学生さんたちの参加を期待しています。

2019年10月

MD研究者育成プログラムとは12

齊藤 延人 東京大学

医学系研究科長・医学部長

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同じ道を進もうとしている君への、先輩からの応援メッセージ。

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研究のおもしろさを!・後輩の諸君へ

1. Two distinct functions of the carboxyl-terminal tail domain of NF-M upon neurofila-ment assembly: cross-bridge formation and longitudinal elongation of filaments. Nakagawa T, Chen J, Zhang Z, Kanai Y, Hirokawa N. J Cell Biol. 1995 Apr;129(2):411-29.

2. Identification and classification of 16 new kinesin superfamily (KIF) proteins in mouse genome. Nakagawa T, Tanaka Y, Matsuoka E, Kondo S, Okada Y, Noda Y, Kanai Y, Hirokawa N. Proc Natl Acad Sci U S A. 1997 Sep 2;94(18):9654-9.

3. A novel motor, KIF13A, transports mannose-6-phosphate receptor to plasma mem-brane through direct interaction with AP-1 complex. Nakagawa T, Setou M, Seog D, Ogasawara K, Dohmae N, Takio K, Hirokawa N. Cell. 2000 Nov 10;103(4):569-81.

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最近の研究で得られた分子構造を簡単に紹介します。 1) AMPA receptor の2量体(緑)と4量体(青)の単粒子電顕構造。4量体電顕構造とN末端ドメイン結晶構造のドッキング像(Nakagawa et al, Nature 2005, Shanks et al, J. Neurosci. 2010、Nakagawa, Mol. Neurobiol. 2010)

2) NMDA receptor のN末端ドメインの2量体のX-線結晶構造。(Farina et al, J. Neurosci. 2011) 3) シナプス小包の開放放出を阻害するボツリヌス毒素の単粒子電顕構造。(Fischer et al, 2007, J. Biol. Chem.)

4) Autismの原因遺伝子の一つであるalpha-neurexinの細胞外ドメインの単粒子電顕構造(Comoletti et al, Structure 2010)

■ 応援のことば 中川 輝良 先生 Department of Molecular Physiology and Biophysics, Center for Structural Biology, Vanderbilt University, School of Medicine

私は基礎研究を始めたのは、医学部の 1年生の時でした。最新の技術を使い独創的な研究をする機会が学生にあるという理由で当時の第一解剖学講座、廣川信隆先生のところで研究を始めました。はじめは分からぬことだらけでしたが、医学部の勉強、所属していた運動会柔道部の稽古に加え、ほとんど毎日夜遅くまで 5~12時間位研究室で実験をする事で、自然と手技も身に付き、データも出るようになりました。この結果は、M4のときに Journal of Cell Biologyという当時の細胞生物学のトップジャーナルに first authorの論文を掲載することができました 1。その過程で学んだ電顕手法は、その後、私の研究において非常に重要な位置を占めています。当時、医学部の教授たちは非常に基礎研究を志す学生に協力的で、しばしば臨床実習を欠席して国内外の学会に自分のデータを発表したりすることも可能でした。ちなみに、学生のとき国際学会で知り合った研究者とは今でも交流があります。 医学部を卒業した後は、 同じ廣川研にて新しいキネシンモーター蛋白の同定と機能

解析を行い、PNASと Cell誌に発表しました 2,3。この結果で学位を取得しました。また、Human Frontier Science Programの Fellowshipをいただき、2000年より米国ボストンのマサチューセッツ総合病院、Harvard Medical School、HHMIのMorgan Shengの研究室で分子細胞神経科学の分野でのポスドクを行いました。2001年には所属研究室がまるごとマサチューセッツ工科大学(MIT)の Picower Center for Learning and Memoryに移転し、そこで 2005年までポスドクをしました。その間、当時、Centerの所長をしていた利根川進先生にはラットの lentiviral transgenesisのプロジェクトを支援して頂きました。さらに、学生のときに習った電顕を再び用い、Harvard Medical Schoolの Thomas Walzと共同研究で、今度は構造生物学のプロジェクトを行いました。2005年に Nature誌に発表したグルタミン酸受容体の電顕構造の業績により、同年 7月カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)で独立した研究室を持ち現在に至っています。 最近の研究の詳細については http://nakagawalab.ucsd.edu/ をご覧ください。 いろいろなところを転々として研究を続けてきましたが、今でも東大医学部の学生お

よび大学院時代のトレーニングは非常に重要な基礎となっていると思います。その原点はもちろん学部学生のときに研究を始める機会があり、それにかなりの情熱を注いだところにあります。MD研究者育成プログラムに所属している諸君には『本番の研究人生がすでに始まっている』と意識して頑張ってほしいです。

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をつないでくれるサイエンスのすばらしさを実感しました。メンターにも少しだけ恩返しできたかなと思っています。最近、本当に使える応用研究と本当に重要な基礎研究は同じ所に収束することに気づき、学生の時からの悩みも少しずつ解け始めています。しかし、まだまだ道のりは遠く、生き物の奥深さに悪戦苦闘の日々です。 MD研究者育成プログラムは、臨床と研究の間で揺れる学生さんの事を良く考えてあり、短期間に多くの経験を積みやすくなっていると思います。私が学生だったら参加したいと思ったことでしょう。もっとも、参加したからといって、悩むことなく自然に立派な医学研究者になれた、ということもなかったでしょうが。(ユートピアはどこにもないという意味ですよ。誤解のなきよう。)学生の皆さんは、何も成し遂げていない分、あらゆる可能性があります。恵まれた環境を最大限活かして、人生を切り開いてください。 蛍光タンパク質を用いて、生きた精巣中で初めて可視化された未分化型精原細胞。この細胞群のライブイメージングによって幹細胞の実体を少しずつ明らかにしている。詳しくは:http://www.nibb.ac.jp/germcell/

【略歴】 1991年東京大学医学部医学科卒、 1995年医科学研究所にて博士課程修了(新井賢一先生)。国立精神・神経センター研究員、大阪大学細胞生体工学センター助手、京都大学医学研究科助教(鍋島陽一先生)を経て、2008年より自然科学研究機構基礎生物学研究所教授。

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■ 学生の皆さんへ 吉田 松生 先生 基礎生物学研究所 生殖細胞研究部門

私は、小さい頃から昆虫が好きで生き物に興味を持っていました。M3の時には萩原一フェローとしてカリフォルニアの研究所で一夏を過ごし、研究の楽しさを知りました。卒業する時には、臨床と研究の間で迷いました。臨床は、今まで人類が蓄積して来た知識と技術を、目の前の患者さんに的確に提供する仕事です。一方、生物学研究は、人類が知らない生き物の姿を自身の興味に従って明らかにする営みです。私にとって、この 2つを両立するのは難しく、どちらかを諦めると先に決めて、研究を選びました。皆さんの多くが持っている「治せない病気を治すために研究しよう」という使命感が希薄だっただけのことですが、お恥ずかしい事にそういう学生でした。 私は基礎生物学の世界に身を置いています。一番大切なのは、「何を問うか?」です。これは、自分で決めなければなりません。ある時、子供に遺伝情報が正しく伝わる秘密を知りたいと思い、マウスの精子幹細胞研究を始めました。既成の手法はピンと来なかったので、自分の思うように研究しようと思いました。それまで何も成し遂げていませんでしたが、やせ我慢を理解してもらえたメンターに感謝しています。7年かかって、幹細胞(と言われている細胞)の動く姿を初めて目にした時は、とても嬉しかったです。一気に世界中の研究者と友達になりました。人と人

研究のおもしろさを!・後輩の諸君へ14

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本プログラムの意義 MD研究者育成プログラムは、本学医学部生による基礎研究活動を奨励する目的で、平成20年度より立ち上がっております。歴代の医学部長による絶えざるサポートと、初代室長の岡部繁男先生、前室長の吉川雅英先生の渾身のご尽力の結果、現在、多数の医学部生が最先端の基礎研究を自ら実践する場が実現しております。医学部の「正規の課外活動」として、医学系研究科の基礎系研究室にて主体的な研究を行うプログラムの意義は大きく、文部科学省にも現在支援していただいています。 近年の医学研究は極めて学際的で、specific disease mechanismの解明に

は、実は幅広いcuriosity-drivenな基礎研究の背景と経験がないと、歯が立たないことも明らかになってきました。その結果、世界各国では競って医学部内に、生命科学と基礎医学の融合的研究拠点を設置・充実させています。これを基盤に、医学部学生が患者のみならず基礎研究にもexposeされる医学研究者育成プログラムが立ち上がっています。日本の今日的医学部教育の枠組みの中で、医学部生の自主性を最大限に重んじつつ、基礎研究への主体的取り組みを組織的に支援するのが、東大のMD研究者育成プログラムの意義であるといえます。このような活動を通じ、「未来医学と未来医療の夢がぶつかる場を創る」のが当プログラムの意義だと考えています。 発見の喜びから価値創造へ 本プログラム発足に先立ち、東大医学部では、1970年代より永きにわたり自

主的に運営されてきたフリークオーター(医学部のカリキュラムに飽き足らない学生に、実践的な基礎研究を、教員の裁量に基づき体験させる制度)が、知的好奇心旺盛な10代後半~20代前半の若人の探究心を満たす役割を果たしていました。私自身も20才の夏より、医学部3号館の栄養学教室に入り浸り、脊山洋右先生・清水孝雄先生のご指導の受け、タンパク精製・酵素学・脂質分析・シグナル伝達など、生化学の基本を学びました。講義実習・鉄門サークル活動などの合間に、研究活動に没頭しましたが、疲れた頭をリフレッシュしたい時には、しばしば、医科研の上代淑人先生、新井賢一先生にも議論を挑みに行きました。研究が進展すると、自身で単離精製した酵素タンパクを吹田の国立循環器病センターに持ち込み、アミノ酸配列を決定したり、学会に忍び込み、他大学や海外の演者と

のやりとりを楽しむようにもなりました。こうして「小さい発見」が、「個人の喜び」からじわじわと「新たな価値創造」に転換していく研究の醍醐味を、医学部在学中から味わう機会を得ました。このような経験をしたことが転換点となり、その後の私の研究人生を大きく決定づけたことはいうまでもありません。 老若男女にかかわらず、丁寧に実験を行い、オリジナルのデータを発表すれば、世界中の研究者に認めてもらえる、というオープンルールが研究の基本です。医学部のミッションは、目の前の患者とその病から謙虚に学び、そこで得た着想を発端に研究を進め、医学・医療の向上に貢献することですが、この大義故に各自がプレッシャーを感じてしまうことも希ではありません。道のりは決して平坦でなくても、「学び」から「貢献」までのプロセスに「喜び」が少なからずあり、世界の研究者との交流も豊富であることを医学部生として実感しておくと、その後いかなる医学研究に取り組む場合でも、きっと大きな自信になると思います。 第1歩を踏み出そう! 本プログラムは、医学部生が自主的に研究の第1歩を踏み出し、これが順調に発展するよう、学生の皆さんをきめ細かくサポートし、タイムリーに支援することを基本としています。幅広い学年にわたり、多感な医学部生を相手に、結果がすぐに見えない研究に対するexposureを推進することは容易ではありません。幸い当プログラム室は、有能なスタッフに恵まれております。室員一同、一致団結して、本プログラムがますます医学部生の皆さんの発展に役立てるよう微力ながら貢献していきたいと考えております。基礎研究に興味がある医学部生の皆さん、是非気軽にMD研究者育成プログラムまでご相談ください。

室長から、ひとこと

尾藤 晴彦 MD研究者育成プログラム室長

平成27年4月1日~

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Q 研究には興味があるのですが、自分に素質があるか分からず、一生の仕事として選択するには迷いがあります。

A  若い方にとって当然の疑問だと思います。このプログラムの最大のメリットは、一流の基礎研究室で研究の現場を体験することで、自身の研究者としての適性を通常の修業年限(6年)の間に確認できることでしょう。時間を有効に利用して、自分自身のキャリアパスを真剣に検討する機会であり、これにより卒業時の進路選択を確実に行える一助となります。

Q 基礎の研究室に行かなくても、卒業後に臨床科に所属しながらでも研究は

できると聞きました。研究者にはなりたいのですが、わざわざこのプログラムに入る必要があるのでしょうか。

A プログラムの特徴は大きく分けて 3点あると考えています。一つ目は、定期的な少人数ゼミに参加することで、プレゼンテーションやディスカッション・スキルといった研究コミュニケーション能力を磨く機会が豊富にあることです。ここにはMedical Research Communicationsも含まれており、このような教育が体系的に行われるのは、医学部では今のところこのカリキュラムだけです。

  二点目は若くて可塑性が高いうちに研究の方法論を学ぶことで自身の研究能力を飛躍的に向上させる契機となることです。研究とは未知への挑戦であり、斬新で革新的なアイデアが求められているため、若くて柔軟性が高い時に科学的思考のトレーニングを開始することが非常に重要です。そのため、このプログラムでは学部段階から積極的に基礎研究室で実験を行い、研究活動を専門として取り組んでいる人々から早期に研究教育を受けることを推進しています。このプログラムを履修することで得られる研究的経験は、将来臨床教室で研究する場合でも、必ずプラスになると思います。臨床科に所属している若手研究者にとってしばしば問題となるのは、自分が興

味を持っている研究対象があってもそれを具体化するための方法論を学ぶ指導者を見つけることが出来ず、ある程度の研究結果が出てもその解釈や次の段階への発展の道筋を独力で見つけるための教育を受けていない、という点です。本プログラムに参加することで、基礎医学系の研究室での「本格的な研究ストラテジー」を身につけることが出来れば、将来臨床科に所属する研究者にとっても非常に大きな武器になると思います。

  三点目は、研究を志す仲間とのネットワーク形成やサポートが得られることです。プログラムで企画される種々のゼミや交流会を通じて、同級生はもとより、上級・下級生や他研究室のスタッフ、さらに他大学の、「同志」ともいえる研究仲間と人脈を構築することができます。研究は最終的には極めて個人的な知的作業ではありますが、研究が高度化・複雑化した現在、一人で完結する研究は稀となっており、お互いを補完しあうようなコラボレーションがますます重要となってきています。プログラム参加で培われたネットワークは将来の研究に必ず活きてくるでしょう。また長い研究者人生が右肩上がりの一本調子で経過するということは実際には少なく、そのような時にキャリアについて参考にできる先輩や精神的な支えになる仲間とのつながりは大きな助けになりえます。また折々にプログラム室スタッフに相談でき、必要なサポートが得られることも大きな利点と思います。

Q 経済的な面が心配です。学費は通常の授業料以外にいくらかかるのでしょ

うか、また海外留学や遠隔地での学会参加の費用は自分で負担するのでしょうか。

A  プログラム履修のための特別な費用はかかりません。学会参加の費用は、プログラムもしくは研究室からのサポートが受けられ、学生の余分な負担は最小限にしています。海外短期留学や長期研究留学については、当プログラムスタッフ間による審査の上で認められた場合、プログラムから経済的サポートを受けられます。詳細はプログラム室スタッフにご相談ください。

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ではないので、残念ながら一概には言えません。本来、学生の間は課外活動やアルバイトを通じて人生経験を積むよい機会でもありますので、可能な限り並行してやっていただければと考えています。

Q カリキュラムを作る段階でも参加したいと思いますがどうでしょうか。

A  当プログラムは、研究者として必要な自主性をはぐくむために、参加学生の自主性を尊重した運営を行っています。履修する方々は与えられるものを待つのではなく、自ら積極的に意見を出し行動して、自分にとって有意義なものを作り上げていく努力が不可欠です。それを通じて、このプログラムを一緒に育て、自分が所属することを誇りにできるようにしていきましょう。

Q 下級生に教えるなんて、大丈夫でしょうか。

A 「人に教えること」は、実は最上の学習方法です。教えてみて初めて、自分のわかっていないことが明確になっていくものです。必要なときにはどんどん教員のサポートを頼みながら、各種のゼミや発表会では、自分の出来ることからでよいので、積極的に下級生をリードしコーディネート・マネジメント能力を磨いてください。

Q 国家試験合格後、博士課程進学前に臨床研修を行うことは可能でしょうか。

A  当プログラムでは、医学科卒業後すぐに大学院に進学することを推奨しています。指導する側としては、生半可な気持ちで参加して欲しくないからです。できれば学生のうちに、大学内外で臨床の現場をよく見て欲しいと思います。しかし、よく相談した上で、熱心に履修したが研究に適性を感じなかった、などの事情があれば、卒後すぐ臨床研修に進む可能性は、否定しません。

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Q 臨床の授業や実習を受けて、臨床医学により興味を持った場合、MD研究者育成プログラムの履修を途中でやめることは可能でしょうか。また、逆に、授業と並行してではなく、研究にすべての時間を使いたくなった場合、PhD/MDコースへの変更は可能でしょうか。

A  MD研究者育成プログラムは、臨床医学も含めた通常の医学科コースの内容をすべて履修した上で、課外活動として履修していただく仕組みになっていますので、通常の授業や実習の妨げにならない範囲で活動していただければよいと考えています。それでもプログラムの継続が難しいと思われる時は、プログラム室スタッフにご相談ください。良く事情を伺い、またそれまでお世話になった所属研究室のスタッフとも相談した上で、履修中止の判断をしたいと思います。また、研究に集中したいというご要望に対しては、M2またはM3終了時点での PhD/MDコースへの変更が可能です。

Q M2の時期には試験の連続になると聞きました。それとこのコースは両立

できるでしょうか。

A  授業を受けるばかりの日々が続くと、学んでいる意義が自分の中で薄れてきて勉強するモチベーションが下がることがよくあります。一方、このコースを履修すると、研究に関連する内容やディスカッションで聞いた内容について「なぜ?実際は?」というより深い疑問がわくようになり、かえって授業も研究も効率的かつ意欲的に取り組める、という可能性は高いのではないでしょうか。両立は時間的には大変でも、物事の真理を探りたい性向の人には精神的に得るところは多いと思います。

Q 当コースでは週あたり何時間程度研究に費やすことを想定しているのですか。

A  これは所属先の研究室や指導してくれる人によっても異なると思います。また、研究というのは同じ時間をかけたからといって同じ結果が出るわけ

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「MD研究者育成プログラム室」スタッフが特別カリキュラムの立案と遂行を行うとともに、学生の相談相手となり、きめ細かな対応を目指していきます。 スタッフ: 尾藤 晴彦 教授 菅谷 佑樹 助教 高橋 恵生 助教 重松 有紀 事務補佐 圓尾 恵子 事務補佐

連絡先 E-mail: [email protected] Website: http://www.ut-mdres.umin.jp

MD研究者育成プログラム室

東京大学医学部 http://www.m.u-tokyo.ac.jp/

2019年11月発行

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パンフレットで紹介しきれなかった様々な情報や、当プログラムの 最新スケジュールなどをホームページでご案内します。

サイトの紹介17

MD研究者育成プログラム http://www.ut-mdres.umin.jp

基礎医学の先人を紹介

数多の先達のなかから、今回は薬理学分野、病理学分野からの紹介。

Ca2+イオンの細胞内 メッセンジャーとしての 役割の発見 江橋 節郎(1922-2006)

世界で初めて 癌の人工的生成に成功 山極 勝三郎(1863-1930)

掲載コンテンツ例

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http://www.ut-mdres.umin.jp