Long SFA-CTOにおける3 Fr シース裏パンシステム …Long SFA-CTOにおける3 Fr...

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JAPAN LIFELINE PERIPHERAL MARKETING REPORT 中村 明浩 先生  (岩手県立中央病院 循環器センター) Long SFA-CTO における 3 Fr シース裏パンシステムと 0.018 inch ATHLETE Paddler ATHLETE GLAIVE の有用性 Vol.04 Long SFA-CTO の治療戦略 3Fr シース裏パンシステム (3Fr シースシステムで可能なこと、不可能なこと) Long SFA-CTO に対する手技成功率を高めるためには両 方向性アプローチが有用である。膝窩動脈あるいは浅大腿 動脈末梢への穿刺には膝の裏から(裏パン)、表から(表 パン)、横から(横パン)の 3 つの方法があり、それぞれ 一長一短がある。膝裏穿刺(裏パン)ではシースを挿入す ることによって多様な手技が可能となるのが利点である。 一方、シース径が大きいと止血に時間を要し下肢末梢の阻 血時間が長くなるため、シースの down sizing slender 化) が必要である。現在、我々は 3Fr シースを使用しているが、 細小化をはかれば使用可能なデバイスに制限を受ける。本 稿では現在我々が行っている 3Fr シース裏パンシステムを 紹介し、このシステムにおいてサポート力があり、かつト ルク性能に優れた 0.018 inch ATHLETE Paddler HS ATHLETE GLAIVE HS が有用と考えられ、症例を交えて 紹介したいと思う。 Fig. 1 に我々が行っている 3Fr シース裏パンシステムを紹 介する。我々は Medikit 社製の 3Fr 30cm シースを使用し ているが、この 3Fr シースシステムを用いた際には以下 のようなデバイスの制限をうける。 子カテ:我々は 3.3Fr フック 30° type N 80cm seiha カテーテル(Medikit)を用いている。これが現在このシー ス内に挿入可能な最大径の子カテである。その中に 0.032 inch までのワイヤーが挿入可能であり、0.035 inch のワ イヤーは使用できない。通常の 3Fr の子カテの場合には 0.025 inch のワイヤーまでしか挿入できない。ナックル ワイヤーテクニックを用いる際には 3.3Fr フック 30° type N 80cm seiha カテーテルと 0.032 inch stiff ワイヤーの 組み合わせが可能となる。 Fig. 1 逆行性 3.3Fr フック 30° type N 80cm seiha カテーテル 0.018 inch ATHLETE Paddler HS 0.018inch Astato ワイヤーに変更 Reverse CART 逆行性に子カテを進め、 0.014inch ロングワイヤー (300cm)に交換 病変通過後、 0.014inch ロングワイヤー (300cm)に交換 マイクロカテーテル に変更 0.014inch ロングワイヤー (300cm)に交換 順行性にバルーン、ステント 病変通過 逆行性に子カテを進める 0.018 inch ATHLETE GLAIVE HS に変更 6 × 100mmPTA バルーンにのせた 0.018inch ATHLETE Paddler HT (−) (−) (+) (+) 3.3Fr フック 30° type N 80cm seiha カテーテルに 0.032 inch ワイヤーを挿入し、 逆行性のナックルテクニック (−) (+) ワイヤー通過 ワイヤー通過 順行性 バルーン:3Fr シースの中には、0.018 inch 対応の末 梢用バルーンは挿入できない。したがって、バルーンを使 用する際には 0.014 inch のワイヤーに変更する必要があり、 しかも 0.014 inch monorail バルーンの一部のもの(冠動脈 用バルーンを末梢用に転用したもの)しか挿入できない。 IVUS0.014 inch 対応の IVUS は使用可能であるが、 0.018 inch 対応の IVUS は使用できない。

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JAPAN LIFELINE PERIPHERAL MARKETING REPORT

中村 明浩 先生 (岩手県立中央病院 循環器センター)

Long SFA-CTO における 3 Fr シース裏パンシステムと0.018 inch ATHLETE Paddler ATHLETE GLAIVE の有用性

Vol.04

Long SFA-CTO の治療戦略

3Fr シース裏パンシステム(3Fr シースシステムで可能なこと、不可能なこと)

Long SFA-CTOに対する手技成功率を高めるためには両

方向性アプローチが有用である。膝窩動脈あるいは浅大腿

動脈末梢への穿刺には膝の裏から(裏パン)、表から(表

パン)、横から(横パン)の 3つの方法があり、それぞれ

一長一短がある。膝裏穿刺(裏パン)ではシースを挿入す

ることによって多様な手技が可能となるのが利点である。

一方、シース径が大きいと止血に時間を要し下肢末梢の阻

血時間が長くなるため、シースの down sizing(slender化)

が必要である。現在、我々は 3Fr シースを使用しているが、

細小化をはかれば使用可能なデバイスに制限を受ける。本

稿では現在我々が行っている 3Fr シース裏パンシステムを

紹介し、このシステムにおいてサポート力があり、かつト

ルク性能に優れた 0.018 inch の ATHLETE Paddler HSや

ATHLETE GLAIVE HSが有用と考えられ、症例を交えて

紹介したいと思う。

Fig. 1に我々が行っている 3Fr シース裏パンシステムを紹

介する。我々はMedikit社製の 3Fr 30cmシースを使用し

ているが、この 3Fr シースシステムを用いた際には以下

のようなデバイスの制限をうける。

● 子カテ:我々は 3.3Fr フック 30°type N 80cm seiha

カテーテル(Medikit)を用いている。これが現在このシー

ス内に挿入可能な最大径の子カテである。その中に 0.032

inchまでのワイヤーが挿入可能であり、0.035 inchのワ

イヤーは使用できない。通常の 3Frの子カテの場合には

0.025 inchのワイヤーまでしか挿入できない。 ナックル

ワイヤーテクニックを用いる際には 3.3Fr フック 30°type

N 80cm seihaカテーテルと 0.032 inch stiff ワイヤーの

組み合わせが可能となる。

Fig. 1

逆行性

3.3Fr フック 30° type N 80cm seiha カテーテル+

0.018 inch ATHLETE Paddler HS

0.018inch Astato ワイヤーに変更

Reverse CART

逆行性に子カテを進め、0.014inch ロングワイヤー

(300cm)に交換

病変通過後、0.014inch ロングワイヤー

(300cm)に交換

マイクロカテーテルに変更

0.014inchロングワイヤー

(300cm)に交換

順行性にバルーン、ステント

病変通過

逆行性に子カテを進める

0.018 inch ATHLETE GLAIVE HSに変更

6 × 100mmPTA バルーンにのせた0.018inch ATHLETE Paddler HT

(− )

( − ) ( + )

( + )

3.3Fr フック 30° type N 80cm seiha カテーテルに

0.032 inch ワイヤーを挿入し、逆行性のナックルテクニック

( − ) ( + )

ワイヤー通過

ワイヤー通過

順行性

● バルーン:3Fr シースの中には、0.018 inch対応の末

梢用バルーンは挿入できない。したがって、バルーンを使

用する際には0.014 inchのワイヤーに変更する必要があり、

しかも 0.014 inch monorailバルーンの一部のもの(冠動脈

用バルーンを末梢用に転用したもの)しか挿入できない。

● IVUS:0.014 inch対応の IVUSは使用可能であるが、

0.018 inch対応の IVUSは使用できない。

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JAPAN LIFELINE PERIPHERAL MARKETING REPORT

当院の治療戦略

通常、対側大腿動脈穿刺山越えの順行性アプローチと同

側膝窩動脈穿刺の逆行性アプローチを併用した両方向

性アプローチを行っている。対側大腿動脈には通常 6Fr

45cm Destination(TERUMO)を、膝窩動脈には 3Fr

30cmシースを挿入している。最初に対側大腿動脈から 6

× 100mm PTAバルーンをのせた 0.018 inch ATHLETE

Paddler HT(Japan Lifeline)を挿入し、順行性に可能な

限り真腔内を進めておく。偽腔内に進入しそうになったら

無理をせずに、その部位に同ワイヤーを留置しておき、逆

行性のアプローチを開始する。3.3Fr フック 30°type N

80cm seihaカテーテルに 0.018 inch ATHLETE Paddler

HS(Japan Lifeline)を挿入し、体表面エコー下にて逆行

性にこのワイヤーを進める。ワイヤーが通過できない場合

には 0.018 inch ATHLETE GLAIVE HS(Japan Lifeline)

に変更する。0.018 inch ATHELETE Paddler HSまたは

ATHLETE GLAIVE HSが通過後は、子カテを進め 0.014

inchロングワイヤー(300cm)に交換し、順行性のシー

ス内に pull-throughさせる。膝窩動脈に挿入された 3Fr

シースから 4× 20 mm PTAバルーンを挿入し末梢塞栓

予防を行った後、順行性にバルーン、ステントを持ち込む。

逆行性のワイヤーが進んでも子カテが通過できない場合に

はサポート力のあるマイクロカテーテルに変更する。マイ

クロカテーテルも通過困難なケースでは順行性にエンスネ

アを持ち込み、ワイヤーを捕捉しワイヤーのサポート力を

高めることでマイクロカテーテルの通過を試みる。ワイ

ヤー自体が通過困難なケースでは、3.3Fr フック 30°type

N 80cm seihaカテーテルに 0.032 inch ワイヤーを挿入

し、逆行性のナックルテクニックが可能である。

EVT 手技

本症例は、腸骨動脈の屈曲蛇行の強い(Fig.2)閉塞長の長い浅大腿動

脈の完全閉塞病変である(Fig.3)。順行性のワイヤー操作に難渋する

可能性が高く、両方向性アプローチを選択した。右大腿動脈には 6 Fr

45cm Destinationシース、左膝窩動脈に 3 Fr 30cmシース(Medikit)

を挿入した。Destinationシースを総腸骨動脈分岐部を経てクロスオー

バーさせ左総大腿動脈まで挿入させた(Fig.4)。同シース内に 0.018

inch ATHLETE Paddler HTを挿入し、順行性にワイヤーを進めるも入

口部の硬い病変に進入を阻まれた (Fig. 5)。そこで、3.3Fr フック 30°

type N 80cm seihaカテーテル内に挿入された 0.018 inch ATHLETE

Paddler HSを左膝窩動脈から体表面エコー下にて逆行性に進めた(Fig.

6)。この可視下状態でサポート性のある ATHLETE Paddler HSは順調

に真腔を進んだが、途中の石灰化病変でいったん通過が困難となった。

そこで、0.018 inch Paddler HSから 0.018 inch ATHLETE GLAIVE

HSに変更することで病変部の通過に成功した。石灰化病変通過後、ふ

たたび 0.018 inch ATHLETE Paddler HSに戻しワイヤーを進めた。

患者:80 歳代の男性

主訴:左下肢の間欠性跛行(Rutherford 分類:3 Fontaine 分類 : Ⅱ)

既往歴:70 歳代時に心筋梗塞

危険因子:喫煙(20 本 / 日× 30 年)、高血圧、糖尿病、脂質異常症

現病歴:数年前から約 50 m程度の歩行で左下腿の疼痛を自覚していた。2013 年 2 月初旬

に当科を受診。CT で左浅大腿動脈の完全閉塞を認めた。PAD の診断で、左浅大腿動脈の完

全閉塞に対する EVT 目的で当科に入院した。

入院時 ABI:右 0.90/ 左 0.61

Fig. 2

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0.018 inch ATHLETE Paddler HSは順調に浅大腿動脈近位部まで進み、順行性

の0.018 inch ATHLETE Paddler HTとのwire rendez-vousに成功した(Fig. 7)。

逆行性の 0.018 inch ATHLETE Paddler HSを Destinationシース内まで進めた

後に 3.3 Fr カテーテルを同シース内まで進め、0.014 Spindle XS 300cm ワイ

ヤー(St. Jude Medical)に変更して右大腿動脈へ pull throughした(Fig. 8)。

Fig. 4

Fig. 5 Fig. 6

Fig. 7

Fig. 3

Fig. 8

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2013-11-07-01

JAPAN LIFELINE PERIPHERAL MARKETING REPORT

術者紹介

岩手県立中央病院 循環器センター長、循環器科長

中村 明浩  先生

1988年 岩手医科大学卒業

1988年 岩手県立中央病院初期研修医

1990年 岩手県立中央病院 循環器科医師

1991年 東北大学第一内科(現 循環病態学講座)入局

1998年 医学博士

1998年 米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校

(UCSF)(ウイリアム・グロスマンに師事)

2000年 雄勝中央病院 第二内科長

2001年 岩手県立宮古病院 循環器科長 

2008年 岩手県立中央病院 循環器科長 

2011年 東北大学医学部臨床准教授

2012年 岩手県立中央病院 循環器センター長

2013年 岩手県立中央病院 循環器センター長兼災害医療部次長

まとめ

直線的な SFA病変をエコーガイド下に可視的に操作するワイヤーとして、サポート

性とトルク性のいずれも優れている ATHLETE Paddler HSワイヤーや ATHLETE

GLAIVE HSワイヤーがきわめて有用であり、我々は膝裏から 3Fr シースを挿入した

際には、逆行性アプローチ用のファーストワイヤーとしてこれらのワイヤーを使用し

ている。さらに、石灰化病変、複雑病変などでのワイヤーの進路変更や偽腔に進入し

かけたワイヤーの方向転換など繊細な操作が必要な際には ATHLETE Paddler HTや

ATHLETE GLAIVE ワイヤーの HTタイプが有用である。

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ATHLETE Paddler 構造図

右大腿動脈より Ultraverese 5× 100mmバルーン(MEDICON)を挿入し、浅大腿

動脈の病変部を拡張した後に遠位部より順に SMART 6 × 150mm、6 × 150mm

(J&J)を留置した。Sterling 6 × 100mmバルーン(Boston)で後拡張した後の造影

を(Fig. 9)に示す。良好な拡張と末梢塞栓などを認めず手技を終了した。翌日の ABI

は 0.89と良好で、半年後の ABIも低下なく良好で現在も無症状で経過している。

資格等:

日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本循

環器学会専門医、日本心血管インターベンショ

ン治療学会専門医、日本脈管学会専門医、日本

血管外科学会血管内治療認定医

Fig. 9

ATHLETE GLAIVE 構造図