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LC-MS/MSを用いた食品中のヒスタミン分析法の検討 誌名 誌名 食品衛生学雑誌 ISSN ISSN 00156426 巻/号 巻/号 552 掲載ページ 掲載ページ p. 103-109 発行年月 発行年月 2014年4月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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LC-MS/MSを用いた食品中のヒスタミン分析法の検討

誌名誌名 食品衛生学雑誌

ISSNISSN 00156426

巻/号巻/号 552

掲載ページ掲載ページ p. 103-109

発行年月発行年月 2014年4月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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April 2014

ノート

LC圃 MS瓜日を用いた食品中のヒスタミン分析法の検討

(平成25年8月6日受理)

大坪祥人1,* 黒岡裕之1 多国久恵1 翼鍋 昇2

Method for Determination of Histamine in Food by LC-MSIMS

Yoshito OHTSUB01, *, Hiroyuki KUROOKAI, Hisae TADA1 and Noboru M凶 ABE

2

1 Osaka Analytical Center, Japan Ecotech CO., Lt吋dι.:345 Oyamada Kawachinagano-喝shi,Osaka 586-0094, Japan;

2 Research Center for Food Safety, The University of Tokyo: 1-1-1 Yayoi Bunkyo-ku Tokyo 113-8657, Japan;

* Corresponding author

In Japan, a criterion value of histamine residue in food is not clearly defined and there is no of-

ficial test method. We examined histamine in fish and fish products according to the food sanitation test guideline (宜uorescencederivatization of histamine with dansyl chloride and quantification by LC-FL: the LC-FL method). Positive samples were confirmed by determining dansylated histamine using our developed LC-MS瓜ilSprocedure (the LC-MS瓜ilSmethod) when histamine was detected. Validation was earried out according to the validation test guideline using fresh fish. Recovery tests of histamine from fresh fish spiked at the level of 20 ppm were carried out. The limit of quantifica-tion was 5 ppm. The results confirmed that our LC-MS瓜ilSmethod is applicable for the inspection of fish and fish products. This LC-MSIMS method has a lower false-positive ratio and a higher selec-tivity than the LC-FL method.

(Received August 6,2013)

Key words:ヒスタミンhistamine;液体クロマトグラフタンデム質量分析計LC-MS瓜四;ダンシルク

ロライドdansylchloride; 分析法analyticalmethod

103

緒百

アミノ酸である遊離ヒスチジンを多く含む魚等にモルガ

ン菌などのヒスチジン脱炭酸酵素を産生する菌が増殖した

場合,大量のヒスタミンが産生され食中毒の原因となる.

1,000ppm以上のヒスタミンを含む食品をヒトが摂取する

と数分から 60分で顔面紅潮,悪心. p匝吐,下痢,発熱,

腹痛などの中毒症状を示すことが知られている 1),2) ヒス

タミンによる化学性食中毒の発生は件数としては多くない

ものの,毎年魚介類およびその加工食品などで10件程度

発生しているのが現状である 2) 食品中のヒスタミン濃度

を測定することは食中毒防止の観点で重要である.しか

しわが国においては食品に含まれるヒスタミンの基準値

は示されておらず,残留農薬のような公定分析法は現在ま

で示されていない 食品中のヒスタミン分析法としては,

食品衛生検査指針3)に示されている不揮発性腐敗アミン

*連絡先 0油ht臼8ub加o.y刊r巾08油】hi託to@ec∞ot旬ech】h.c∞0仏吋.j1 日本エコテツク株式会社 大阪分析セン夕一:干5開86←一0∞09倒4大阪府i河可内長野市小山回町3鈍45

2東京大学大学院農学生命科学研究所食の安全センター:

〒113-8657東京都文京区弥生1-1-1

(ヒスタミンなど)をダンシルクロライドで蛍光誘導体化

して蛍光検出器付液体クロマトグラフで測定する LC-FL

法がある.このほかにも液体クロマトグラブタンデム質量

分析計 (LC・MSIMS)で直接ヒスタミンを測定する方法

(LC-MS爪日直接法)4), 5) キャピラリー電気泳動を利用し

た方法6) やヒスタミンデヒドロゲナーゼを用いた測定

キット型の簡易法7) も知られている.われわれは,これま

で食品衛生検査指針に示されている LC・FL法を参考に試

験を行ってきた. しかしながら,ヒスタミン検出時におい

ては,その確認分析法が必要と考え,ヒスタミンのダンシ

ル化体(ダンシル化ヒスタミン)をLC-MSIMSで測定し

て検出の有無を判定することを考案し. LC-MS瓜日法と

して実際に適用している.ここで,ヒスタミンをLC-MS/

MSで直接測定せず,あえてダンシル化体を測定したのは

次の理由からである.ヒスタミンは水溶性で比較的分子量

の小さい化合物であり,ヒスタミンをダンシル化すること

で分子量や疎水性の増大という物理化学的性質の変化が起

こる.これにより,逆相系LCカラムでの保持が良好とな

り,爽雑成分との分離・精製および質量分析が容易になる

などの効果が期待できる.これらの効果は分析における選

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択性や真度(回収率)の向上に寄与するものと推察され,

従来のLC-FL法での試験溶液を希釈して共有できる点も

検査の立場では有用と思われた.現に,実試料でのヒスタ

ミン検出事例の中には, LC-FL法でヒスタミンの検出が

疑われ,LC-MS瓜,fS法で不検出となる例が散見された

そこで, LC-MS瓜,fS法がより選択性に優れ, LC-FL法の

試験溶液を希釈して使用できるため実用場面でのメ リット

は大きいものと考えた本報では,ヒスタミンの分析法と

してLC-MS爪日法を用いた場合の妥当性と鮮魚およびそ

の加工食品での試験結果を LC-FL法と比較検討して示し,

その有用性について報告する.

実 験 方 法

1.試料

市販および検査に提供された鮮魚およびその加工食品を

用いた.鮮魚としては,サパ,サワラ,イ ワシ,カツオ,

マグロ,ハマチ,サンマおよびブリを使用した 加工食品

としては,魚類の丸干しみりん干し フライ,へしこ,

西京漬け,鰹節および鰹 ・鰯混合削り節などを使用した.

試料は分析までは冷凍保存 (-200

C) し,分析時に摩砕

均一化して分析に供した

2 試 薬

ヒスタミンは和光純薬工業(株)製,ダンシルクロライド

は東京化成工業(株)製, トリクロロ酢酸は和光純薬工業

H.・色・~'"・,_o.CLH・8加 m'"・'_ 0・CL(e... 叶@ア (1.1ア町 Crn(.,3:70)

,∞

Precursorion scan

3<0・79 3<‘朗自S

340~2・

HI.t・m'"・'_0・CL(c:・叶・O(τ 咽"'2)Cm(・2噌咽 3)句

Production scan

食街誌 Vol. 55, NO.2

(株)製のものを使用したその他の試薬はHPLCあるい

はLC-MS用または試薬特級に相当するものを使用した.

3. ダンシル化ヒスタミン標準溶液の調製

ダンシル化反応の直線性はヒスタミン 400flg相当まで

良好であっ たため,ヒ スタミンと して400同相当(水溶

液と して1mL)を無水炭酸ナト リウム 0.2g存在下,1%

ダンシルク ロライ ド・ アセ トン溶液1mLを加えて450

Cで

1時間反応させた この反応液に 10%プロリン溶液

0.5mLを加えて 10分間室温に静置した. これに トルエン

5mLを加えて分配 ・転溶し トルエン層 1mL (ヒスタミ

ン80μg相当)を分取して40t以下で濃縮 ・乾固 した.こ

の残誼をアセトニトリ ル蒸留水 (1: 1)混液8mLに溶

解してヒスタミン として 10μg/mLの標準溶液を調製した

これをアセ トニ トリルー蒸留水 (1: 1)混液で順次希釈し

て検量線作成用標準溶液を調製した

Histamine

九~Nf+

MW:111.14

D副首,yJchloride DansyJated hist忍mme

H3C、WCH3

r、司y " "

'-.-?ヘヂ

S02C1

MW:269.75

ォ 00… 11

Fig. 1. Derivatization of histamine with dansyl chloride

四回

Precursor ion / 凶Iz345)

可 k 劇団・

752・7

5. Da.ught_ 0' 34BES・'.'・3・7

2"',---ペコ

Fig. 2. MS spectra of dansylated histamine (LC-MSIMS)

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105 LC-MS瓜ilSを用いた食品中のヒスタ ミン分析法の検討April 2014

Parameters of the method validation for fresh fish (LC-MSIMS method)

Table 2. Parameters of the method validation for fresh fish (LC-FL method)

Table 1

Reproducibility (%)

vd

ふし叶

UL

川、ー一dro

M

9

0しUnY

OU

R

bnb

ρu n

Jrk

e

O/

uft、

ーT

%

一2

f

・、一n

vd一

r一

e一

V

刀一

1

由一

n

R一

Run No

Reproducibility (%)

Re氾overy(%) Trueness Repeatability

n1 n2 (%) (%)

Run No

11.9 3.7 105

92

104

114

95

118

82

107

117

101

118

1

2

3

4

5

12.7 5.9 100

79

109

94

98

105

77

118

108

106

108

1

4

n

L

q

O

A“ZHb

LU 仏)28

2.

24

/JF

22

20

18

16

"

28

"

20

,.

22

LU (B)

18

"

iE22zv

1M.

1・

2.

22

20

"

,.

LU (C)

18

,.

LC-FL chromatograms of 0.2 ng standard solution (A, 5 ppm equivalent ), blank (B) and 20 ppm spiked sample (C)

in adult yellowtail

立A15

"

Fig. 3

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106

4. 装置および測定条件

1) 装置

蛍光検出器付液体クロマトグラフ (LC司 FL) は, Agi・

lent Technologies社製1200シリーズを用いた液体クロ

マトグラフタンデム質量分析計 (LC-MSIMS) は, Wa-

ters社製LC部:ACQUITY, MS瓜tlS部 QuattroPremier

XEを用いたホモジナイザーは, HSIANGTAl社製HG-

200を用いた.

仏) Histamine_~?sCL -MRM of 2 channels.ES+

344.970> 159.900 3.710e+004 100τ.

同 8.14 n~ 0..,..,..,..,..,・・・.,.,-A町~・ー・,.., min

MRMof2chan間隔,ES+344.970> 154.200

1f9.S21e+063

羽 7.788.~4 ~...--ヲ.bd・・ 1 ・・6bb'・・ 1・・・5.bran

Histamine DsCL (B) 2401制_2. MRM of 2 channels,ES+

344.9刊>169.900 10司?・737e÷1003

%司 7.35 8.15.8.23 +. 11

c =tTi"行;::;::;=;::ででイ?????汁γtmin

240184_2 MRM of 2 channels,ES+ 344.970> 154.200

100", 7,05 7.~8 p.857~+002 %是正:..A IUOAIIA ̂ J・一 -""_i'!ム以内

tbb・1 ・4bd・n-r・ 6bFinHistamine DsCL

(C) 240184_2R MRM of 2 channelS,ES+ 344.970 > 169.900

1.383e+005 100.ョ.~

71)"~ 8.14 1.¥ 0.,......".., ・E ・f"""1・・7・・・・ Imin

240184_2R MRM of 2 chan間 Is,ES+344.9干ひ>154.200

1nn2.990e+004

哲 4mf附7.00 8.00 9.00

Fig. 4. LC-MS瓜ilSchromatograms of 0.005 ng standard solution (A, 5 ppm equivalent), blank (B) and 20 ppm spiked sample (C) in adult yellowtail

Upper: Measured ion monitoring Lower: Qualita-tive ion monitoring

2) 測定条件

①LC-FL

食衛誌 Vol.55, No.2

カラム:Inertsil ODS-SP (内径3.0mm,長さ 150mm,

粒子径3ドm,ジ}エルサイエンス社製),カラム温度:

450

C,注入量:10ドL,移動相A:アセトニトリル,移動相

B:蒸留水,流速:0.7 mLJmin,グラジェント条件:O~

22分 (A:B = 50: 50)→24~33分 (A:B=95:5)→34分

(A : B = 50 : 50),蛍光検出波長:励起波長325nm,蛍光

波長:525 nm.

②LC-MSIMS

(LC部〉

カラム:Acquity-BEH RP・18(内径2.1mm, 長さ

150mm,粒子径1.7ドm,Waters社製),カラム温度:

500

C,注入量:5ドL,移動相A:0.05%ギ酸/蒸留水,移

動相B:0.05%ギ酸/アセトニトリル,流速:0.3 mLJmin,

グラジエント条件: 0~2.02分 (A: B=95: 5) →2.35~

3.19分 (A:B=60: 40)→4.02分 (A:B=50: 50)→4.69

分 (A:B=45: 55) →1 1.0~12.0分 (A: B=5: 95)→12.8

分 (A:B = 95 : 5).

(MS瓜tlS部〉

イオン化法:ESI-positive,イオン化温度:1500

C

(Source), 5000

C (Desolvation),イオン化電圧:3.5kV

(Capillary), 60 V (Cone),窒素ガス流量:1,200 L/hr

(Desolvation), 50 L/hr (Cone),コリジョンエネル

ギー:20 eV,測定モード:SRM,測定イオン :m/z 345

>170 (定量), m/z 345>154 (定性)•

測定イオンの設定は,ダンシル化ヒスタミンのプリカー

サーイオンスキャンおよびプロダクトイオンスキャンによ

り行った.

5. 試験溶液の調製

1) 抽出

摩砕均一化した試料5gを量り採り, 20%トリクロロ酢

酸水溶液10mLと蒸留水50mLを加えて 1分間ホモジナ

イズを行った後, 30分間静置したその後,蒸留水で洗

浄しながらろ過しろ液を蒸留水で100mLに定容して抽

出液とした.

2) ダンシル化

抽出液1mL (試料0.05g相当)を分取し無水炭酸ナ

トリウム 0.2g存在下, 1%ダンシルクロライド・アセトン

溶液lmLを加えて450

Cで1時間反応させた.この反応液

に10%プロリン溶液0.5mLを加えて 10分間室温に静置

Table 3. Stability oftest solution for fresh fish and fish products at 50

C measured by LC.FL

Spiked histamine Concentration (ppm) Stability (%) Sample

concentration (ppm) Initial Day7

Mackerel 20 21.0 17.7 84 Dried bonito flakes 20 26.4 23.6 89 Dried bonito and sardine mixed flakes 20 24.3 26.1 107

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April 2014 LC-M8瓜118を用いた食品中のヒスタミン分析法の検討 107

ωI LU

,.

" 24

" 20

"

"

" 12.~ 1.5 け S

Histamine DsCL (B) 241487_2 MRM of2 channers,ES+

344.970 > 169.900 7.54 5.446e+004 100~ ,.~

%~ 11 I 0-;・ I • I 行Ii' (J, i 'T~" i I mln

241487_2 MRM of 2 channels, ES+ 344.970> 154.200

7.54 1 .82ge+004 100っ a

%~11 I 0"1 " i Iド., II・1 E ,;, t ・・1mln 7.00 8.00 9.00

Fig. 5. Chromatograms of the same smoked marlin measured by the LC-FL method (A) and LC-M8瓜118method (B)

Histamine concentration measured by th巴LC-FLmethod was 9 ppm Histamine concentration measured by the LC-M81M8 method was ND (< 5 ppm)

した

3) 精製

2) の反応液にトルエン 5mLを加えて分配・転溶し

トルエン層 1mL (試料0.01g相当)を分取 して40t以下

で濃縮 ・乾回した.この残誼をアセトニトリルー蒸留水

(1 : 1)混液2.5mLに溶解してLC-FL法の試験溶液とし

たさらに. LC-FL法の試験溶液を 0.5mL (試料0.002g

相当)分取し,アセトニトリルー蒸留水 (1: 1)混液で

10mLに定容してLC-MSIMS法の試験溶液とした

4) 検量線

ヒスタミンとして 10μg/mLのダンシル化ヒスタミン標

準溶液をアセトニトリルー蒸留水 (1: 1)混液で希釈して

下記の検量線作成用標準溶液を調製した

LC-FL用・0.02,0.05,0.1および0.2μg/mL.

LC-MSIMS用 0.001,0.002, 0目005,0.01および0.02μg/

mL.

これらの溶液10ドLをLC-FLおよび5ドLをLC-MS爪ilS

に注入しおのおののヒス タミン重量(横軸)に対して得

られたピーク面積値(縦軸)から最小2乗法により一次回

帰直線を作成し,検量線とした検量線の直線性はいずれ

の方法も相関係数0.99以上と良好であった LC-FL法お

よびび、LC

算しし,それぞぞ、れ定量限界としたた.その試料中濃度はともに

5ppmに相当する.

6. 試験溶液の安定性

鮮魚と してサバ, 加工食品として鰹節および鰹 ・鰯混合

削り節に添加濃度が約20ppmとなる ように ヒスタミンを

添加し, 試験法に従って操作したそれぞれの試験溶液を

直ちにLC-FL法で分析した別に,この試験溶液の一部

を密封して冷蔵保存 (5t) し. 7日後にLC-FL法で新た

に調製した標準溶液を用いて分析して初期値に対する割合

(%)を試験溶液の安定性として調べた

7. 妥当性評価

鮮魚を試料として,分析者1名.2併行. 5日間の枝分

かれ試験によるヒスタミン試験法の妥当性評価を行った

ヒスタミンの添加濃度は,基準値がないため本検討におい

ては定量限界の4倍に相当する 20ppmに設定した ブラ

ンク試料は試験ごとに 1例組み入れて行った試験結果の

評価は厚生労働省から通知された「食品中に残留する農薬

等に関する試験法の妥当性評価ガイドラインJ8}に従い

行った.

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108 食街誌 Vol. 55, No. 2

Table 4. Relationship of histamine concentrations measured by the LC-FL method and LC-MSIMS

method in twenty nine positive and false-positive samples

Concentration (ppm) Sample

LC-FL LC-MSIMS

Atka mackerel dried with mirin 20 19 Atka mackerel dried with mirin 8 11

Dried bonito and sardine mixed flakes 48 41 Dried bonito flakes 195 215 Dried bonito flakes 18 17 Dried bonito flakes 5 6 Dried bonito flakes 22 14 Dried bonito powder 11 6 Ginger mackerel 21 23 Grilled horse mackerel 54 46 Horse mackerel dried with mir‘ln 43 38 Horse mackerel dried with mirin 10 15 Mackeres dried with mirin 784 680 Mackerel dried with mirin 22 21 Mackerel pickled in rice-bran paste 157 150 Mackerel pickled in rice-bran paste 380 372 Mackerel pickled in rice-bran paste 431 306 Mackerel pickled in rice-bran paste 553 445 Mackerels pickled in rice-bran paste 161 167 Spanish mackerel pickled in sweet Kyoto-style miso 6 5 Froz巴nyellowtail

Cooked yellowtail

Diced tuna

Mackerel dried with mirin

Salted and dried saury pike, whole Fried white自sh

Fried white fish

Fried white fish

Smoked marlin

Table 5. Recoveries of histamin巴spikedin fish products by LC-MS爪I[Smethod in concurrent recovery tests

Sample

Horse mackerel dried with mirin

Mackerel dried with mirin Saury dried with mirin

Salted and dried saury pike, whole

Dried bonito flakes

Dried bonito and sardine mixed flakes

Salted and dried flatfishes

Saury simmered in miso

8. 実試料における検出事例と回収率

Recovery (96)

106 106

78

73

106

100

84

110

LC-FL法でヒスタミンが検出された魚類の加工食品合

計29検体についてLC-MS爪日法での分析を実施し定量

値を比較した また,爽雑成分が多く LC-FL法では回収

率の評価が困難であった魚類の丸干しゃみりん干し等8検

体に関し, LC-MS瓜日法にて検査と併行して添加回収試

験(添加濃度20ppm) を実施した

262 258

1590 1510

5 <5 6 <5 17 <5

770 <5 710 <5 10 <5 9 <5

結果および考察

1. 夕、ンシル化ヒスタミンのマススベクトル

調製したダンシル化ヒ スタミンについて, LC-MS瓜t1S

を用いてプリカーサーイオンスキャンおよびプロダクトイ

オンスキャンによりマススペクトルを測定しその構造を

確認するとともに測定イオンの選択を行った.ヒスタミン

のダンシル化反応は,Fig. 1に示すとおり進むと考えられ

る. Fig.2に示すESI-positiveモードにおけるプリカー

サーイオンスキャンでのマススペクトルからダンシル化に

起因する分子イオン m/z345が確認されたこれをプリ

カーサーイオンとしてプロダクトイオンスキャンを行い,

定量イオンとして m/z170, 定性イオンとして m/z154を

設定した

2. 分析法の妥当性確認

試験法と して,LC-FL法と LC-MSIMS法をそれぞれ用

いた場合の妥当性評価を鮮魚、を用いて行った添加濃度

20ppmで行った添加回収試験結果を Table1および2に

まとめて示す ヒスタミンについてはその妥当性を評価す

る基準はないが各種パラメータを見ると,真度(回収率)

の平均値は, LC-FL法およびLC-MS瓜t1S法で 100%およ

び105%であった.また,併行精度は, LC句 FL法および

LC-MS瓜日法で5.9%および3.7%,室 内再現精度は,

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April 2014 LC-MS瓜ifSを用いた食品中のヒスタミン分析法の検討 109

LC-FL法およびLC-MS爪日法で 12.7%および11.9%で

あった. Fig.3および4にはLC-FL法およびLC司MS瓜rIS

法でのブリ切り身を分析したときの各種クロマトグラムを

示す.いずれの試験法においてもブランク試料にダンシル

化ヒスタミンを妨害するピークは認められず,選択性は問

題なかった.また,これ以外の鮮魚試料についても同様で

あった.本結果は,鮮魚においてはLC-FL法およびLC-

MS瓜日法いずれにおいても,分析法として適用可能な妥

当性を有していると考えられた.また,試験溶液中のダン

シル化ヒスタミンの安定性について,冷蔵保存 (50

C)で

7日後まで調べた.その結果, Tab1e 3に示すとおり,鮮

魚(サパ)および加工食品(鰹節および鰹・鰯混合削り

節)において 84~107% とダンシル化ヒスタミンの安定性

はそれほど大きな問題とはならず, 7日後までは再注入に

よる定量分析が可能と考えられた

3. 実試料における検出事例と回収率

魚類加工食品中のヒスタミン濃度を LC-FL法と LC-MS/

MS法で分析した.その結果, Fig.5に示すとおり,カジ

キ爆製において, LC-FL法では 9ppm検出されたのに対

して, LC-MSIMS法では不検出となった. LC-FL法で検

出されたピークは爽雑成分であり,偽陽性と判断した.そ

こで, LC-FLi法より検出と判断された29検体(すべて魚

類の加工食品)について分析結果をまとめてみたその結

果, Tab1e 4に示すとおり,マグロダイス,サパみりん干

しサンマ丸干し白身魚フライ (3検体),カジキ爆製

の7検体について,前述の例と同様にLC-FL法では検出,

LC司MS爪日法では不検出という結果となった.これら 7

検体はいずれも LC-FL法にて爽雑成分が多数認められた

検体であった報告されている LC司MSIMS直接法5)では,

魚類の丸干しゃみりん干しにおいて回収率が十分でないこ

とが示され,精製法の改良が必要とされている.この場

合,国相抽出法を用いて精製することで直接測定でも回収

率の改善が期待できるが, ミニカラム(場合によっては2

種類)を使用するため精製効率の面でミニカラムを使用し

ない本LC-MS瓜日法が有用である.本法での精製にはト

ルエン分配を採用しているが,誘導体化することでこれが

可能となり,精製効率およびスループットの高い方法が実

現できたものと考えている.われわれはアジやサパのみり

ん干しなど, LC-FL法では爽雑成分が多数認められる加

工食品における添加回収試験も検査と併行して行ってい

る.このとき, LC-FL法では爽雑成分の影響で回収率の

評価が困難な場合があったが,本LC・MS瓜rIS法ではTa-

b1e 5 に示すとおり,回収率70~120%の範囲で分析可能

であった以上,本LC-MS瓜rIS法は,魚類の加工食品等

分析の困難な試料においても LC-FL法やLC-MSIMS直接

法より選択性に優れ,真度(回収率)の高い試験法と考え

られる.

文 献

1) Kikuchi, H., Tsutsumi, T., Matsuda, R. Performance

evaluation of a fluorescamine-HLPC method for deter-

mination of histamine in fish and fish products.

Shokuhin Eiseigaku Zasshi (Food Hyg. Saf. Sci.) , 53,

121-127 (2012).

2) Toda, M., Yamamoto, M., Uneyama, C., Morikawa, K

Histamine food poisonings in Japan and other countries

Bull. Natl. Inst. Health Sci., 127, 31-38 (2009).

3) 厚生労働省監修.食品衛生検査指針理化学編2005. 東京,

日本食品衛生協会, 2005,p.621-630.

4) Kakigi, Y., Yamashita, A., Miyamoto, Y., Icho, T., Mo-

chizuki, N. Quantification of non-volatile amines in

beer using hydrophilic interaction liquid chromato-

graph-tandem mass spectrometer. BUNSEKI KAGAKU,

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5) Otsuki, F., Koeduka, K., Hayashi, T., Yamamoto, J.

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amines by LCIMSIMS. Okayamaken Kankyo Hoken

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Institute for Environmental Science and Public Health),

34, 99-103 (2010).

6) Nakashima, M., Sugiyama, A. Rapid analysis of hista-

mine in fish using capillary electrophoresis. Shokuhin

Eiseigaku Zasshi (J. Food Hyg. Soc. Japan), 40, 285-

290 (1999).

7) Sato, T. Development of simple and rapid determina-

tion of histamine in seafood. Nippon Suisan Gakkaishi,

73,831-834 (2007).

8) 厚生労働省医薬食品局食品安全性部長通知「食品中に残留す

る農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドラインの一部改

正についてj平成22年12月24日,食安発1224第2号.

Page 9: LC-MS/MSを用いた食品中のヒスタミン分析法の検討LC-MS/MSを用いた食品中のヒスタミン分析法の検討 誌名 食品衛生学雑誌 ISSN 00156426 巻/号

野菜に残留する殺菌剤ク口口タロニルを測定するための直接競合 ELISAの開発(報文,英文)

岡崎史子平川由紀山口(村上)友貴絵原田亜矢子渡辺栄喜岩佐精二成田宏史三宅司郎*

食衛誌 55(2), 65~72 (2014) 野菜中に残留するクロロタロニルを迅速・簡便に測定す

る直接競合 ELISAの開発を試みた.まず,ベンタクロロフェノールのカルボン酸誘導体を用いて,モノクローナル抗体 (MoAb)を作製した.その中でも MoAbTPN9Aは,クロロタロニルの測定に適していた.野菜中のクロロタロニルは,磨砕均一化後に作物由来の酵素によって速やかに分解することが知られている.その防止には,一般的にリン酸が添加(野菜-10%リン酸 (2:1, w/v)) される.直接競合 ELISAでは,このリン酸の添加が測定に影響を与えるが,競合反応に用いるリン酸緩衝液のイオン強度を100 mmol/Lにすることでその影響を解消できた.至適化した直接競合 ELISA の測定範囲は 0.10~6.0 ng/mL, キュウリとナスへ添加したクロロタロニルは 97.1~125%と100%を超える傾向を認めつつ良好に回収できたまた, HPLCとも高い相関性を認めた.開発した ELISAは,メタノール抽出とその希釈のみで,迅速・簡便にクロロタロニルを測定できた.キ京都高度技術研究所

焼肉調理における腸管出血性大腸菌の生残の解析(報文)

大塚佐代子小林直樹森田幸雄宮坂次郎

和栗敦楠原ー工藤由起子*

食衛誌 55(2), 79~87 (2014)

日本における焼肉調理過程を想定し午内臓肉を含む牛

肉での腸管出血性大腸菌の挙動を明らかにすることを目的

に,各過程での本菌の生残性を検討したその結果,牛肉

の低温保存および焼肉調味料への漬け込みにおいて,菌数

の増減はほとんど認められなかった.また,ホットプレー

トおよび直火ガスコンロでの焼肉調理において十分に加熱

した場合,菌数の著しい減少 (111,100から 1/37,000)が

認められた.しかし牛肉の種類による菌数の減少程度の

違いや,加熱むらがあることに注意が必要であると考えら

れた.また,同ーの調理器具を焼成前の汚染午肉および焼

成後の牛肉に共通して使用することによって, 11500から

1/300,000の菌数の二次汚染が起こることが示された

*国立医薬品食品衛生研究所

超高速液体クロマトグラフィーによる健康食品中のスタチンの一斉分析(報文)

吹語友秀* 長谷川貴志 高橋和長西僚雅明浜名正徳

食衛誌 55(2), 94~102 (2014) 超高速液体クロマトグラフイー (UPLC)による健康食

品中のスタチン 12成分の一斉分析法を構築した.抽出は抽出溶媒として 50%(v/v)メタノールを用い,超音波抽出法で行った.精製は OasisMAXミニカラムを使用し溶出溶媒としてメタノ}ルおよび0.2%(v/v)リン酸含有メタノールを用いた. UPLC分析のカラムは ACQUITYUPLC BEH C18を用い, 0.2% (v/v)リン酸水溶液ーアセトニトリルのグラジエントで分析を行った添加回収試験の結果,回収率は 89.2~100.9%,併行精度と室内再現性は7%以下であり良好な結果を示した本法を市販の健康食品 24製品に適用した結果,ロパスタチンが最大 4.85mg/包,ロパスタチン酸が最大 1.28mf!./カプセル検出された;他の成分は検出されなかった. 1製品について,製品表示どおりに摂取するとロパスタチンの 1日摂取量が6.74 mgとなった当該製品はロパスタチンの 1日最小薬用量 10mgの 112を超えて摂取することになることから,当該製品を摂取することによる健康への影響が懸念される.*千葉県衛生研究所

コレウス・フォルスコリエキスは invivoにおいて肝シト

クロム P450を介した機序でトルブタミドの血糖降下作用

を減弱させる(報文,英文)

横谷馨倫千葉剛佐藤陽子梅垣敬 三*

食衛誌 55(2), 73~78 (2014)

コレウス・フォルスコリエキス (CFE)と血糖降下薬ト

ルブタミドとの相互作用をラットの ~n vwo実験で検討し

た. CFEは1% (w/w)までその投与量に依存して肝総シ

トクロム P450(Cyp)の含量とサブタイプ活性を上昇さ

せ,特に CYP2B,2C, 3A活性ではタンパク質発現も増加

した血中トルブタミド濃度は CFEの投与量依存的に低

下し同時にトルブタミドの血糖降下作用も減弱した.ま

た, トルブタミドの代謝酵素 CYP2Cの活性と血中トルブ

タミド濃度,血糖降下作用には負の相関関係が認められ

た.以上より, CFEはラット肝 CYP2Cを誘導しそれ

を介した機序によりトルブタミドの血糖降下作用を減弱さ

せることが明らかになった.

*独立行政法人 国立健康・栄養研究所情報センター

イムノクロマト法による食品中の魚類タンパク質の検出

(報文)

柴原裕亮*猪井俊敬 1王俊

山田彰一塩見一雄

食衛誌 55(2), 88~93 (2014)

魚類の主要アレルゲンは筋形質タンパク質のパルブアル

ブミンである.食品中の魚類タンパク質を検知するため

に,マサパパルプ?アルブミンを免疫原として作製したポリ

クローナル抗体を用いたイムノクロマト法を開発した.本

法は,各種魚類のパルブアルブミンと高い交差性を示した

が,ウシガエルパルブアルブミンとの交差性は非常に低

かった検出限界は魚類タンパク質濃度で 2.0阿倍であっ

たことから, 日本のアレルギー食品表示に求められる性能

を十分満たしていたさらに,測定結果へ食品由来成分が

影響しないこと,加熱により変性を受けたパルプFアルブミ

ンも測定可能なことを確認した. したがって,本法は魚類

由来パルブアルブミンに対して特異的であり,加工食品に

おける魚類タンパク質の簡便かつ迅速な検知法として有用

であると考えられた.

*日水製薬株式会社研究部

LC-MSIMSを用いた食晶中のヒスタミン分析法の検討

(ノート)

大坪祥人*黒岡裕之多国久恵虞鏑昇

食衛誌 55(2), 103~109 (2014) わが国においては食品に含まれるヒスタミンの基準値は

示されておらず,残留農薬のような公定分析法は現在まで

示されていない.われわれは,食品衛生検査指針に示され

た方法(ダンシル化体を蛍光検出器付液体クロマトグラフ

(LC司FL)で測定)を参考に検査を行うなか,ヒスタミン

検出時の確認分析法としてダンシル化体を液体クロマトグ

ラフタンデム質量分析計 (LC-MSIMS)で測定してきた

今回,定量限界を 5ppmに設定して,試料として鮮魚を

用いて LC-FL法およびLC-MS瓜日法で添加回収試験を

実施し選択性,真度(回収率)および精度を評価した

また,実試料にて両分析法で分析した結果を比較検討し

た.その結果,ダンシル化ヒスタミンを LC-MS爪日で測

定する本LC-M町MS法は,特に爽雑成分が多い魚類の加

工食品の分析においても選択性に優れ,誤検出のリスクを

回避できる有用な試験法であることが示された

*日本エコテック株式会社 大阪分析センター