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Primers of Nephrology -10
透析導入と主要合併症
原 茂子虎の門病院腎センター内科
はじめに
腎疾患における病態の解明と治療に関し,精力的に研究が行われているが,いまなお慢性腎不全
は増加の一途をたどり,透析療法,腎移植などによる腎臓代行治療を余儀なくされている現況であ
る。わが国で慢性腎不全に対して透析療法が行われるようになり,30数年を経過している。その間,
慢性腎不全からの透析導入例の増加は著しい。透析導入の原疾患としては従来慢性腎炎が第1位で
あったが,1998年以来糖尿病性腎症が第1位を占めている。透析の機器関連でも,透析液組成の推
移(バッファーとして acetateからbicarbonateに),ダイアライザー透析効率の向上(low-flux膜から
high-flux膜),素材の改善(セルロース膜から生体適合性の良好な膜として合成膜,ポリスルフォン
膜などに)など進歩がみられ,透析療法例の生命予後は向上し,長期透析が可能になるとともに特異
な合併症がみられるに至っている。多くは未解決合併症であり,対策など今後の大きな課題である。
本稿では,第30回日本腎臓学会東部学術大会(川口良人会長)におけるPrimers of Nephrologyの講
演内容を中心に,透析療法の現況,導入時管理,長期透析の主要な合併症について概説する。
1.透析療法の現況
2001年末の全国調査 1)では,透析患者は約21万人で,新規透析導入例は約3.2万人である。1990
年末調査のそれぞれ約2倍である。新規導入例を原疾患別にみると(表1),従来は慢性腎炎が第1位
を占めていたが,1998年以来糖尿病性腎症が第1位となり2001年末の全国調査では糖尿病性腎症は
総新規導入例の38.1%である。平成10年度旧厚生省の調査成績では糖尿病が強く疑われる人は690
表1 新規透析導入例および総透析例の原疾患の推移
1990年 1995年 2001年
新規透析導入例(人) 16,543 25,858 32,017
慢性腎炎 7,261(46.1%) 10,195 (39.4%) 10,364 (32.4%)
糖尿病性腎症 4,326 (26.2%) 8,236 (31.9%) 12,186 (38.1%)
腎硬化症 900 ( 5.4%) 1,630 ( 6.3%) 2,426 ( 7.6%)
総透析例の原疾患(人) 95,834 152,373 209,036
慢性腎炎 61,430 (64.1%) 86,242 (56.6%) 102,313 (49.6%)
糖尿病性腎症 14,273 (14.9%) 31,080 (20.4%) 56,051 (27.2%)
腎硬化症 2,508 ( 2.6%) 5,740 ( 3.8%) 10,214 ( 5.0%)
万人とされており,今後,原疾患が糖尿病性腎症の導入例がますます増加するであろう。頻度は多
くはないが腎硬化症例の増加もみられ,それは高齢化によるものであり,95歳以上の導入例が29人
である。導入時の透析方法ではHD(血液透析)91.6%,CAPD(持続携行式腹膜透析)4.3%である。15
年以上の長期透析例は全透析例の12.6%で,最長は35年10カ月である。
2.透析導入の適応と透析方法の選択
腎移植の普及が不十分であるわが国では,慢性腎不全の保存的管理が困難になると,透析療法に
よる治療が主体となる。導入の適応に関しては,検査所見のみならず臨床症状を含めて総合的に判
断する。導入時の臨床症状は多彩で全身に及び,体液貯留による全身浮腫・肺浮腫が最も高頻度で
ある。近年,糖尿病性腎症での透析導入の増加が著しいが,糖尿病性腎症例での心不全・肺浮腫に
は,溢水のみでなく虚血性心疾患によるものが多い。そのほかには体液異常(電解質異常),神経症
状,消化器症状,エリスロポエチン不反応性貧血を含めた血液異常などがあり,これら臨床症状に
加えて,腎機能障害,日常生活,年齢などを点数化し60点以上が導入の適応とされている(表2)。
近年,保存的管理が集学的に行われるようになり,心機能が良好で,食事療法が遵守されている
症例では透析導入を遅延しうる。一方,糖尿病性腎症では虚血性心疾患や水分管理が困難で,基準
より早期導入を要することが多い。透析方法としてのHD・HF,CAPDにはそれぞれに特徴があり
(表3),ブラッドアクセス困難例,高度心機能低下で体外循環困難例,ブリットルタイプのような
血糖管理が極めて困難な症例,社会復帰にはCAPDがより良い適応である。
表2 慢性透析療法の透析導入の適応
I.臨床症状 A) 体液異常 (管理不能の電解質,酸塩基平衡障害) B) 神経症状 (中枢・末梢神経障害,精神症状) C) 消化器症状 (悪心,嘔吐,食思不振,下痢など) D) 血液異常 (貧血*,出血傾向) E) 循環器症状 (重篤な高血圧,心不全,心包炎) F) 体液貯留 (全身浮腫,肺浮腫) G) 視力障害 II. 腎機能障害 Scr 8mg/dl 以上 Ccr 10ml /分 以下 III. 日常生活能の障害 ・小児、高齢者、糖尿病性腎症例、悪性高血圧、血管炎による腎不全例では 上記基準にこだわらない。 *近年ではrhEPO不反応性となった貧血 (長期透析療法適応基準案より)
慢性腎不全末期患者が,保存療法では腎不全症状の改善が望めないとき透析療法に導入される。 導入の基準は下記のI, II, III項のうち2項以上が存在するとき
3.透析患者の予後と死因
2001年末の全国調査結果では1983年以降の導入例の5年生存率は,慢性腎炎69.1%,糖尿病性腎
症49.8%である。剖検所見で確認された死因では2001年末全国調査成績で心不全15.6%,心筋症/心
筋梗塞8.3%,その他の心疾患と心血管死は25.1%を占め,次いで感染症22.6%,脳血管障害17.0%,
悪性腫瘍15.5%である。一方,導入期患者の死因は心不全26.0%,心筋梗塞5.2%で,心血管死が第1
位,次いで感染症19.4%,悪性腫瘍9.3%である。近年増加している糖尿病性腎症では,虚血性心疾
患の有無の積極的検索と冠動脈再建術により,当院では5年生存率は71.9%となっている2)。
4.透析主要合併症
透析療法に伴う合併症は,透析治療中にみられる一過性の症状から透析療法の長期化などでみら
れるようになった合併症まで多岐にわたっている(表4)。本稿ではそのなかでも主要な合併症に関
して述べる。
1)血管系合併症(心血管系,脳血管系)(表5)
高血圧の機序は体液依存型で透析液における高血圧の約85%を占め,そのほかにはレニン依存型,
rhEPOの関与もある。高血圧の管理としては第一に体液量の是正(適正なdry weight設定),次いで降
HD・HDF CAPD 特徴
アクセス シャント 腹膜 生体適合性に差異,アクセス困難例 治療形式 間欠的治療 持続的治療 腎不全病態の差異(変動あり) 抗凝固剤 要 不要 出血傾向への対策 体外循環 あり なし 血管系への負荷 糖・脂質代謝 糖負荷なし 糖負荷あり 糖・脂質代謝障害 動脈硬化 進展あり? 進展あり 感染症 シャント感染 腹膜炎 易感染症 トンネル感染 栄養障害 やや有利? 低蛋白血症 透析不足 透析アミロイド 進展あり 進展遅延? 透析液エンドトキシン 生体膜適合性に差異 副甲状腺機能 hypo- hyper hypo Ca, P代謝 通 院 頻回通院 在宅療法 社会復帰,QOL
表3 透析方法とその病態における特徴
表4 透析主要合併症
・血管系合併症 ・腎性貧血 心血管系,脳血管系 ・感染症 ・高血圧・低血圧 ・動脈硬化 ・腎性骨異栄養症 ・栄養障害 Ca , P 代謝異常 副甲状腺関連合併症 透析アミロイドーシス
圧剤による管理である。一方,透析中の血圧低下は過剰除水によるものが頻度として多い。一方,
心機能低下例では除水が軽度であるにもかかわらず血圧低下がみられる。体重の適正な設定,透析
間の体重増加の抑制,透析中の昇圧剤の使用で対応する。
持続性の低血圧は,自律神経障害による血管反応性の低下や心筋症によるものである。心筋症例
では心筋の線維化がみられ,透析心とも呼称されているが原因は不明である。治療としてıブロッ
カーの使用で心機能の改善,心胸比の縮小が得られる。透析例での心血管系合併症として,心不全
は死因の第1位で,その原因としては体液過剰による溢水が主体であるが,糖尿病例や長期透析例
では虚血性心疾患がその原因としてあげられる。血管石灰化を高度に認める特異な動脈硬化は長期
透析例の合併症であるが,後述する。
脳血管系合併症は,10年前に比し脳出血の頻度の増加がみられている。その対策としては高血圧
管理が重要である。透析例ではCT所見で脳萎縮が見られ,腎不全,脳循環の変動などがその原因と
してあげられているがその機序は不明である。透析による不均衡や急激な血圧変動などが関与する
ことが推測されており,脳循環の変動,髄液と血液間の浸透圧変動を少なくする緩徐な透析が望ま
しい。
2)腎性骨異栄養症
①二次性副甲状腺機能亢進症(表6)
腎性骨異栄養症は慢性腎不全に伴う骨代謝障害の総称である。腎近位尿細管におけるビタミン
D(VD)の活性化障害と腎からのP排泄障害により高P血症となり,さらには低Ca血症,次いで二次
性副甲状腺機能亢進症を呈する。その他の機序としてはVD受容体の異常,Ca sensing receptorの異
常なども関与している。二次性副甲状腺機能亢進症の治療としてはP吸着剤および活性型VD製剤を
使用する。従来,治療目標の血清Ca値は透析前値9~10mg/dl, P値は透析前値6.5mg/dl以下,Ca*P
値は70mg/dl未満,iPTHは正常の2~4倍で100~200pg/mlが目標値とされている。心血管死には冠
1.心不全・心筋梗塞は透析例における死因の第1位 2.心不全の成因 体液過剰による溢水が主体 糖尿病例,長期透析例では虚血性心疾患 心筋症 (透析心 ?) 対策:dry weightの適正な設定と体液量の管理 高血圧管理 心機能障害の原因の把握 3.動脈の異所性石灰化 (メンケベルグ型, 複雑病変) 冠動脈の高度な石灰化 虚血性心疾患,心臓弁膜の石灰化 原因:二次性副甲状腺機能亢進 Ca, P代謝異常 対策:Ca, Pの適切な管理 Ca×P値 < 70(mg/dl)2
4.虚血性心疾患 糖尿病例では無痛性心筋梗塞が少なくない 早期発見と冠動脈再建術が予後を改善
表5 血管系合併症ー心血管系ー
動脈石灰化や弁膜石灰化がかかわり,Ca*P値,Pなどがその危険因子で高P血症が最大の危険因子
である。Pの管理は2.5~5.5mg/dl,Ca*P値では55(mg/dl)2が最も望ましい。Pが6.4mg/dl以上では
心血管死の危険率は1.18と有意であり,Ca*P値73~132mg/dlでは1.34であり,Pの管理が重要であ
る 3),一方,P吸着剤は,現在本邦で使用されているのは沈降炭酸Caであるため高Ca血症を合併し
やすい現状である。Ca上昇をきたすことなくPをコントロールする新しいP吸着剤としてselevalamer
hydrochloride 4)が期待されている。欧米では長期使用でbicarbonateの低下,Ca*P値の上昇の報告が
みられている。本邦で使用が可能となったとき,さらに検討が必要である。
副甲状腺ホルモン値が高値を示し,さらに進展すると,二次性副甲状腺機能亢進症となり,骨代
謝はhigh turnover boneで骨組織所見では線維性骨炎を示す。骨痛,高Ca血症,貧血の進展,rhEPO
の不反応性貧血などが副甲状腺摘出術やPEITの適応となる。二次性副甲状腺機能亢進症の治療薬剤
としては,表6に示すような薬剤が用いられる。高Ca血症をきたすことなく副甲状腺ホルモンを抑
制する薬剤が望ましい。市販されているものとしてVD製剤の静脈注射があり,消化管を介するこ
とがないために高Ca血症をきたすことが少ないことが報告されている。
一方,近年副甲状腺ホルモンが低値を示す症例がみられ,adynamic boneとして把握されている。
VD過剰投与,高齢者,糖尿病性腎症例でみられ,従来,骨折の危険性が指摘されているが,その病
的意義は不明である。
②血管石灰化による動脈硬化と虚血性心疾患
透析例では,二次性副甲状腺機能亢進症によるCa・P代謝異常,副甲状腺機能亢進症が血管壁の
石灰化を促進し動脈硬化を進展させる。さらに高ホモシステイン血症,高サイトカイン血症なども
1.原因 1. Pの貯留・低Ca血症 2. VDの活性化障害 3. VD 受容体の異常 4. Ca sensing receptorの異常 5. 骨のPTHに対する反応性の低下 2.病態 副甲状腺組織:diffuse hyperplasia,nodular hyperplasia 骨代謝・骨組織:high turnover bone,線維性骨炎 3.症状 骨関節痛,異所性石灰化,心筋症 貧血(rhEPO不反応性),体重減少,高血圧,皮膚�痒症など 4.診断 PTH高値,画像診断(頸部エコー),骨生検 5.対策と治療 1) 薬物療法 P値の管理 活性型VD剤の投与 (パルス療法も含む) 活性型VD剤アナログの投与 22-oxacalcitriol (OCT) 1.25 (OH)2D2 治療ゴール: Ca×P値 < 70mg/dl 2) 経皮的副甲状腺摘出 (PEIT) (アルコール注入,活性型VD剤注入) 3) 副甲状腺摘出術 内科的治療に抵抗性 iPTH≧500pg/ml 高Ca血症 骨型Al-Pの上昇,osteocalcinの高値 Jensen分類 3 以上 体重減少,EPO不反応性貧血,高血圧など,その他の臨床症状
表6 二次性副甲状腺機能亢進症ー原因・病態・診断・治療ー
動脈硬化の進展にかかわっていることが予測されている(図1)。高血圧や糖尿病に伴う粥状硬化と
して一般的に定義されている動脈硬化とは病態を異にしている。Ca・P代謝異常,副甲状腺機能亢
進症により,長期透析例では血管の石灰化が高頻度にみられる。病理組織学的には石灰沈着は中膜
から,さらに内膜にまで拡がりを示す。図2に長期透析例の大動脈および剖検例での冠動脈を示す。
冠動脈の硬化病変は中膜を中心に内膜まで石灰化が進展している。
高度の石灰化のために狭心症を示す長期透析例での冠動脈再建術において,バルーンによる拡張
術施行は困難であり,また再狭窄も高頻度である。しかしながら現状では,糖尿病透析例,長期透
析例ともに虚血性心疾患への冠動脈血行再建術はその生存率を改善している。その機序には高サイ
トカイン血症,高ホモシステイン血症,高感度CRPも関与する5)ことが推察されている(図3)。冠動
図1 透析例における動脈硬化の進展機序
動脈硬化の進展
rhEPO高血圧 左室肥大
血管壁の石灰化 脂質代謝障害
Ca・ P代謝異常 副甲状腺機能亢進症
高ホモシステイン血症 高サイトカイン血症
平滑筋細胞の増進
図2 大動脈腹部X線写真および同一例の剖検時大動脈の肉眼所見と冠動脈の組織所見症例NE 透析歴30年
腹部X線写真で大動脈の高度の石灰化像が見られる。大動脈の肉眼的所見では,大動脈は蛇行,および内膜表面は石
灰化し,腎動脈など血管は高度に閉塞。冠動脈では中膜の石灰化は著明であり,一部は内膜にも及んでいる。
脈や末梢血管の石灰化から虚血性心疾患,下肢の血流障害の合併がみられている。P管理が重要で
あるが,現在のP吸着剤は沈降炭酸Caに限られているため,高Ca血症,高P血症によるCa*P値の
増加がみられ,動脈石灰化の助長をきたす。
3)透析アミロイドーシス
10年以上の長期透析例に高頻度にみられる。ı2ミクログロブリンから構成されるアミロイドが,
椎間板や滑膜などに沈着し骨関節の破壊をきたす 6)。手根管症候群,破壊性脊椎症(図4)や脊椎関連
疾患(脊柱管狭窄症,脊椎すべり症など),大腿骨や上腕骨などに骨嚢胞が見られる(図5)。その頻度
は透析年数の長期化とともに高くなる(表7)。その機序としては,沈着したアミロイドがAGE化し,
その周囲に単球やマクロファージが浸潤し,これらの細胞から誘導されたサイトカンにより骨破壊
が進展し,骨嚢胞を形成する 7)。アミロイド形成にはダイアライザーの生体適合性,透析液のエン
ドトキシンも関与することが明らかとなっている。さらに,遺伝因子(Apo E, EC-SODなど)の関与
も報告されている。対策としては,高性能膜でı2ミクログロブリンの除去を促進する,生体適合性
の良好なダイアライザーを使用する,透析液の清浄化を図る,などである。透析液の清浄化は,透
析医学会の指針では10EU/L以下とされているが,より一層の清浄化を図ることは重要であり,エン
ドトキシンカットフィルターの使用が必須である。治療法としては,アミロイドの構成成分がı2ミ
クログロブリンであることから,積極的にı2ミクログロブリンを除去するために,ı2ミクログロブ
リンの吸着療法が行われる。血中のı2ミクログロブリン濃度と病勢には相関はないが,疼痛の軽減
には有効である(表8)。
4)腎性貧血
rhEPO使用により腎性貧血の改善にはめざましいものがある。それとともに透析例における貧血
の病態に変遷がみられる。rhEPOの長期使用に伴い相対的鉄欠乏がみられ鉄剤の補充を要する。鉄
腎不全例における心疾患,低アルブミン血症,低栄養の相互作用
Fluid overloadhypertension
Congestiveheart failure
Athero-sclerosis
Cytokines
InfectionInflammation
High CRP
High fibrinogen
High Lp(a)
Low albumin
Malnutrition
Uremia
Death
Acutephase
response
(Bergstrom J, et al. Am J Kid Disease 1999; 32(5)より引用) 図3
図5 肩関節X線写真および同一部の剖検時肉眼所見症例NE 透析歴30年
上腕骨頭では肩峰部に骨嚢胞像が認められる。剖検所見では,肩関節ではアミロイド組織が高
度で腫瘤状に見られ,X線写真に一致した嚢胞部では骨組織が消失している。色調が変化して
いる部分はアミロイド組織によるものである。
図4 頸椎X線写真(頸椎C5/C6/C7間で破壊像)および同一例の剖検時頸椎の肉眼所見
症例AI 透析歴17年
椎間板が消失し,脊椎が茶褐色調を呈しアミロイド組織が浸潤している。
欠乏性病態のほかに血液像で大球性貧血を示す症例が25%にみられる。相対的な葉酸,VB12欠乏の
病態を呈する。
維持透析例での目標ヘマトクリット値は30~36%であり,相対的鉄不足に対する鉄剤使用の適応
はフェリチン300mg/dlまでである。rhEPO不反応性貧血では,消化管出血,悪性腫瘍の合併などが,
原因の検索が必須である。
表7 透析アミロイドーシス臨床像ー透析期間別にみたその頻度ー
透析期間 10~14年 15~20年 20~24年 25年以上 例数 n = 20 n = 35 n = 14 n = 7
手根管症候群による開放術施行 10% 17.1% 35.7% 42.9% 破壊性脊椎症 25 40 28 57 骨嚢胞 大腿骨 30 51.4 64.3 71.4 上腕骨 35 51.4 71.4 51.4 手指骨 16 48.5 42.5 42.9 脊柱管狭窄症 0 0 0 71.4 (虎の門病院,1999)
1.成因 ・β2ミクログロブリンから構成されるアミロイドが,椎間板,滑膜などに沈着し骨関節の破壊性病変をきたす。 ・沈着したアミロイドはAGE化し,単球やマクロファージが浸潤し,サイトカインの誘導により骨関節破壊へと 病変が進展する。 ・高性能膜,生体適合性の良い膜,清浄な透析液使用例では発症が抑制される。 ・発症に遺伝因子 (Apo E)が関与する。 ・高齢者では早期に出現する。 2.臨床像 ・10~15年以上の長期透析例では高頻度 ・手根管症候群,破壊性脊椎症およびその他の脊椎関連疾患 (脊柱管狭搾症,脊椎すべり症など),骨嚢胞(大腿 骨,上腕骨,手指骨) で関節症状が主体 ・消化管,心臓などにもみられるが低頻度 3.対策と治療 対策 β2ミクログロブリンの除去 high-flux膜による透析 HDF(血液濾過透析) β2ミクログロブリン産生の抑制 生体適合性の良好なダイアライザー 透析液の清浄化 (エンドトキシンフリー) アシドーシスの是正 治療 内科的治療 β2ミクログロブリン吸着カラムの併用透析,非ステロイド消炎鎮痛剤,少量のステロイド剤 外科治療 手根管開放術,前方固定術・椎弓切除術
表8 透析アミロイドーシス 成因・臨床像と対策・治療
5)感染症
感染症は透析患者の死因の第2位で22.6%を占めている。
1)腎不全に伴う免疫機能の低下
2)透析に伴うサイトカイン産生,補体活性化に伴う抗体産生の抑制
3)栄養障害
などの因子が関与している。近年,HFM (high-flux膜)の使用に伴い,透析中に逆濾過現象がみられ,
透析液の生体内への移入が認められることなどから,透析液の清浄化が必須である。全国調査によ
る剖検症例における感染症死では肺炎が高頻度で14%である。感染症のなかで,結核では,肺外結
核でツ反は陰性であることが一般的であり,診断が困難である。一般抗生物質で管理できない場合
には,INH単剤を用いて改善が得られるか否かの治療的診断にて明らかにできる場合が少なくない。
6)栄養障害
栄養障害は腎不全の保存期からみられる。透析例の30~50%では,BMI (body mass index)は低値
を示し長期化に伴い明らかである。その要因は,
1)腎不全に伴う尿毒症性物質の蓄積,腎性貧血,アシドーシスなど,
2)透析関連因子である透析不足,生体適合性不良,蛋白,アミノ酸の喪失
などである。その対策は,十分な透析と経口摂取を図ることである。rhGH(成長ホルモン)の使用に
よりアルブミンの上昇,上腕筋周囲の筋肉量の増加などが報告されているが,本邦では透析例への
使用は現在認められていない。
7)CAPD例の合併症
透析療法としてのCAPDは,わが国で用いられるようになってから約20年である。合併症として
腹膜炎,トンネル・出口部感染がみられるが,未解決合併症としては腹膜硬化症および被嚢性腹膜
硬化症がある。長期継続に伴い,除水能,溶質除去能の低下がみられる。腹膜の組織所見では中皮
細胞の�離と線維化がみられる。腹膜機能の低下を予防するためには,高濃度浸透圧液を頻回に使
用しないように,塩分・水分制限で水分貯留を防ぐことが必須である。被嚢性腹膜硬化症は,腸間
膜の癒着からイレウスを合併し,ときに死に至る。10年以上例で発症を認めない症例もあり個体差
がみられ,Apo E遺伝子などの関与も報告されている。CAPD 7年以上例では血液透析への移行,血
液透析併用による腹膜休息や,長期CAPD施行例では血液透析へ移行時にカテーテルを抜去するの
ではなくCAPD液による腹腔洗浄で腸管の癒着を予防するなどの対策が行われている。CAPD液の
Lactate液から中性液への変更,bicarbonate液など新しいCAPD液が使用されている。除水能低下予
防としては透析液の浸透圧物質としてポリマーブドウ糖液も開発されており,本邦でも治験が行わ
れ,CAPDによる糖代謝・脂質代謝障害,除水不良は改善されている。一方,長期使用による腹膜
への傷害の有無は,今後の検討が必要である。
おわりに
透析合併症として解決すべき課題が残されている。透析療法の進歩に伴い尿毒症性末梢神経障害
をみることは稀となっている一方,今後新たな合併症の発症がみられるであろう。家庭血液透析に
よる短時間連日透析,透析液組成や透析方法に関しても検討すべき時期となっている。毎回の透析
での溢水管理,血圧管理とともに,10年,20年の経過をたどるなかでの透析合併症への管理など,
多角的に透析療法を把握し,その管理を行うことが重要である。
本稿では透析療法の現況,透析導入時の管理および透析合併症に関して述べた。透析医療に携わ
る際の一助となれば幸いである。
稿を終えるに際し,剖検資料作成にご協力いただきました当院病理部 原茂雄医員および,日常診療で終始ご援助,
ご努力いただいております腎センター医師,血液浄化療法室ナース,臨床工学技士の諸兄姉に深謝いたします。
文 献
1.わが国の透析慢性透析療法の現況. 2001年末,日本透析医学会.
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