JPEC 世界製油所関連最新情報 2020年3月号(3)...

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1 2020 年 3 月 27 日(金) JPEC 世界製油所関連最新情報 2020 年 3 月号 一般財団法人 石油エネルギー技術センター調査情報部 目 次 概 況 1. 北 米 6 ページ (1) Chevron が El Segundo 製油所の FCC でバイオ燃料用原料の処理を計画 (2) 米国エネルギー情報局の「Energy Outlook 2020」にみる天然ガス情報 1) 米国、メキシコ、カナダの天然ガス消費状況 2) LNG の輸出を取り巻く海外事情 (3) 米国農務省の農業振興策と再生可能燃料の販売促進策 1) 農業振興計画(AIA)に含まれる再生可能燃料について 2) 高配合率バイオ燃料用インフラ促進プログラム(HBIIP)について 3) USDA の Sonny Perdue 長官の指示メモについて 2. 欧 州 11 ページ (1) 英国運輸省が E10 ガソリンに対するパブリックオピニオンの受付を開始 (2) Net Zero Teesside プロジェクトの発足情報 (3) IEA Bioenergy が取りまとめた先進バイオ燃料のコスト削減情報 3. ロシア・NIS 諸国 17 ページ (1) 原油・天然ガス生産への依存を強めるロシア経済の現状 (2) ロシアの石油・天然ガス分野部門の M&A 状況を伝える情報 4. 中 東 23 ページ (1) アブダビ ADNOC 関連のニュース 1) ADNOC Distribution の業績 2) 天然ガス開発プロジェクト 3) 船舶用バイオ燃料 4) CCSU プロジェクト (2) サウジアラビアに Schlumberger と McDermott が生産拠点

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2020年 3月 27日(金)

JPEC 世界製油所関連最新情報

2020 年 3 月号 一般財団法人 石油エネルギー技術センター調査情報部

目 次

概 況

1. 北 米 6ページ

(1) Chevronが El Segundo製油所の FCCでバイオ燃料用原料の処理を計画

(2) 米国エネルギー情報局の「Energy Outlook 2020」にみる天然ガス情報

1) 米国、メキシコ、カナダの天然ガス消費状況

2) LNGの輸出を取り巻く海外事情

(3) 米国農務省の農業振興策と再生可能燃料の販売促進策

1) 農業振興計画(AIA)に含まれる再生可能燃料について

2) 高配合率バイオ燃料用インフラ促進プログラム(HBIIP)について

3) USDA の Sonny Perdue長官の指示メモについて

2. 欧 州 11ページ

(1) 英国運輸省が E10ガソリンに対するパブリックオピニオンの受付を開始

(2) Net Zero Teessideプロジェクトの発足情報

(3) IEA Bioenergyが取りまとめた先進バイオ燃料のコスト削減情報

3. ロシア・NIS諸国 17ページ

(1) 原油・天然ガス生産への依存を強めるロシア経済の現状

(2) ロシアの石油・天然ガス分野部門の M&A状況を伝える情報

4. 中 東 23ページ

(1) アブダビ ADNOC関連のニュース

1) ADNOC Distributionの業績

2) 天然ガス開発プロジェクト

3) 船舶用バイオ燃料

4) CCSUプロジェクト

(2) サウジアラビアに Schlumbergerと McDermottが生産拠点

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5. アフリカ 27ページ

(1) エジプトの Damietta LNG輸出ターミナルが再稼働へ

(2) ナイジェリアの大規模天然ガス発電プロジェクトを米国 USTDAが支援

6. 中 南 米 29ページ

(1) ブラジル Petrobrasの業績

(2) メキシコ Braskem Idessaが米国からエタンを輸入

(3) コロンビア Ecopetrolが、フレア排出量の削減を目指す方針

7. 東南アジア 34ページ

(1) インドが米国からの原油・天然ガスの輸入を拡大

(2) インドの製油所が BS-VI規格のガソリン・ディーゼル供給体制を確立

1) BS-VI基準施行に向けた石油・天然ガス省の見解

2) IOCの Mathura製油所の取り組み

3) HPCLの対応状況

8. 東アジア 38ページ

(1) 中国 Sinopecのシェールガス、シェールオイル生産状況

1) 新疆ウイグル自治区のシェールオイルの実証生産プロジェクト

2) Sinopec、涪陵区のシェールガスが増産

(2) CNPC、タリム盆地で原油・天然ガスを増産

(3) China-Russia East天然ガスパイプラインの稼働状況

9. オセアニア 40ページ

(1) オーストラリアの Viva Energyと Caltex Australiaの業績とトピックス

1) Viva Energy、Geelong製油所の大規模補修計画と業績予想

2) Caltex Australiaの業績

(2) ニュージーランド初の水素ステーション網の計画

「世界製油所関連最新情報」は、原則として 2020年 2月以降直近に至るインターネット情報をまとめたものです。JPECのウェブサイトから改訂最新版をダウンロードできます。 http://www.pecj.or.jp/japanese/overseas/refinery/refinery_pdf.html 下記 URLから記事を検索できます。(登録者限定) http://info.pecj.or.jp/qssearch/#/

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概 況 1. 北米

Chevronが、カリフォルニア州の El Segundo製油所の FCCプラントで石油系原

料とバイオ系原料を同時処理(co-processing)する計画を明らかにした。Chevron

は、カリフォルニア州の炭素排出制度への対応を図っている。

米国エネルギー情報局(EIA)は、エネルギー長期見通し AEO2020で、2050年まで

の天然ガス需給見通しを公表している。天然ガスの大口輸出先は、隣国のメキシ

コとカナダであるが、メキシコで天然ガスが増産し、カナダでは脱化石燃料化が

進むと予測されていることから、長期的には、両国への輸出量は減少すると予測

している。

米国からアジア、欧州への LNG輸出量は、今後も増加が続く見通しで、LNG輸出

ターミナルの建設が進むと予測している。

米国農務省(USDA)は、バイオ燃料原料向けの農産物の増産を計画している。USDA

は、バイオ燃料の配合率の高い E15ガソリンや B20ディーゼルの普及を促進する

ために必要なインフラ整備を支援する Higher Blends Infrastructure Incentive

Program(HBIIP)発表した。

USDAの Perdue長官は、USDAが新たに購入する車両をバイオ燃料配合率の高い燃

料に適合した仕様とすることを指示した。

2. 欧州

英国政府は、2021年から E5に代わり、E10ガソリンを導入することを発表し、

パブリックオピニオンの受付を開始した。EV化までの過渡的段階の GHG排出量

削減効果を見込んでいる。

欧州の大手石油会社 BP、Eni、Equinor、Total、Shellのコンソーシアムが、イ

ングランド北部の CO2 回収・有効利用・貯留(CCUS)プロジェクト“Net Zero

Teesside”に取り組むことが発表された。

国際エネルギー機関(IEA)は、先進バイオ燃料のコスト削減を検討した報告書

“Advanced Biofuels-Potential for Cost Reduction”を公表した。既存技術を

利用する大規模な生産インフラの必要性などを論じている。

3. ロシア・NIS

ポーランドのシンクタンク Warsaw Institute Foundationが、ロシアの経済を分

析した報告書によると、ロシアは石油・天然ガスの輸出で大きな収益を上げてい

るが、他産業への投資は十分でなく、経済の原油・天然ガス依存度は高止まりし

ていると指摘している。

西側諸国による対ロシア経済制裁にもかかわらず、ロシアの石油・天然ガス事業

に対する外国企業からの投資が増えている。

2020年以降は、ロシアの北極圏の資源開発プロジェクトが国外からの投資を惹

き付けると見られている。ロシア政府は大規模な税制優遇策などを準備している。

4. 中東

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アブダビ国営 ADNOC燃料販売子会社 ADNOC Distributionの 2019年の業績は、売

上高は減少したものの、営業利益、純利益とも 2018年に比べて増加した。

ADNOCは、Dalma天然ガスプロジェクトの EPC業務を Petrofacと Sapura Energy

の JVに発注した。プロジェクトでは、天然ガス生産量 3.4億 cf/日を計画して

いる。

ADNOCは、Ghasha天然ガスプロジェクトの建設プロジェクトマネジメント業務を

KBRに発注した。プロジェクトは、アブダビの天然ガス自給率アップへの寄与が

期待されている。

ADNOCの物流事業子会社 ADNOC Logistic & Servicesは、石油系燃料の消費量削

減を目的に船舶用のバイオ燃料を試験評価することを発表した。

サウジアラビア国営 Saudi Aramcoの国産化促進プログラムに沿った外国企業の

生産拠点設立関連の報道が続いている。Schlumbergerは、King Salman Energy

Parkに建設していた掘削関連機器の製造センターを開所した。McDermottは、Ras

Al-Khair港で、プラットフォームなどの大型設備を建造する施設の建設を開始

した。

5. アフリカ

エジプトでは、国内の天然ガスの増産やイスラエルからの天然ガス輸入開始を受

けて、停止していた Damietta LNG輸出プラントが再稼働する見通しである。

米国貿易開発庁と国営 NNPCは、ナイジェリアの首都アブジャ地区への電力供給

を目指す天然ガス火力発電プロジェクトを支援することで合意した。

6. 中南米

ブラジル国営 Petrobrasの 2019年の業績は、2018年に比べて増益となった。原

油・天然ガスは増産が続き、2019年第 4四半期には 303万 BPDと 300万 BPDを上

回った。

Petrobrasの 2019年の精製量は、前年比で 6.4%減少した。処理原油に占める国

産原油の割合は、前年の 90%から 92%に上昇した。

船舶燃料の硫黄濃度規制 IMO2020の施行前に Petrobrasは、2019年に低硫黄船

舶燃料の輸出で高収益を上げた。

コロンビアの Ecopetrolが、2030年までにフレア排出ゼロを目指す世界銀行主

導の“Zero Routine Flaring by 2030”への参加を発表した。

4. 東南アジア

インドは、原油の輸入拡大と輸入先の多様化を進めているが、原油輸出を解禁し

た米国からの原油輸入量が増えている。

インドでは、積極的に発電向けとクリーン燃料向けに天然ガスの供給を増やして

いる。原油同様に米国からの LNG輸入量が増えている。

2020年 4月 1日からの BS-VI(硫黄分:10ppm以下など)ガソリン・ディーゼル規格

施行を控えて、インドの精製会社が供給体制を整えている。

インド国営 IOCの Mathura製油所は、BS-VI燃料を首都圏などに先行して供給す

るなどの、BS-VI燃料生産への取り組みを振り返りプレスリリースしている。

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インド国営 HPCLは、2019年第 4四半期に製油所の設備を BS-VI対応とする工事

を実施した。また、IMO2020対応の船舶燃料供給への設備対応を完了した。

8. 東アジア

中国・新疆ウイグル自治区の Xinjiang Oilfield Companyのシェールオイル実証

生産プロジェクトで、2020年初から 2月 12日までの原油生産量が 25,000トン

に達した。

中国のシェールガス開発を主導してきた重慶市涪陵区における 2020年年初から

2月 25日までのシェールガス生産量は前年同期並みの 9.12億 m3を記録した。涪

陵区のシェールガス累計生産量は 280億 m3に達した。

2019年 12月に稼働した、China-Russia East天然ガスパイプラインの中国国内

第 1期分の天然ガス輸送量が累計 8.4億 m3に達した。

9. オセアニア

オーストラリアの精製・販売企業で、Geelong製油所を操業する Viva Energyが、

2019年の業績見通しを公表した。増販、減益となる見通しである。

Viva Energyは、2020年に Geelong製油所に 1億 AUDをかけて大規模な補修工事

“Cracker Turnaround”を計画している。

オーストラリアの精製会社 Caltex Australiaの 2019年の業績は、2018年に比

べて 38%の減益、Lytton製油所は減産となった。Caltex Australiaでは、売却

に向けたプロセスが進められている。

ニュージーランドのエネルギー・燃料会社 Waitomo Groupと水素企業 Haringa

Energyが、同国初の水素ステーション網を建設するプロジェクトを発表した。

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1.北米

(1)Chevronが El Segundo製油所の FCCでバイオ燃料用原料の処理を計画

Chevron Corporationは、カリフォルニア州の El Segundo製油所(26.9万 BPD)

に設置された FCCプラント(7.38万 BPD)で、従来の原料とバイオ系原料を組み合わ

た精製処理(co-processing biofeed)を計画している。

Chevronとしては、バイオ系原料との同時処理により、カリフォルニア州が定めて

いる輸送用燃料の炭素強度を規制する低炭素燃料基準(Low Carbon Fuel Standard:

LCFS)を遵守し易い環境を整える狙いがある。

同社のダウンストリーム・化学品部門の責任者である Mark Nelson氏は、「今年の

後半には、FCCでバイオ系原料の処理を開始する予定で、このような処理を行うのは、

米国では Chevronが最初になる。」と述べている。

Chevron は、バイオ原料の、原料種、処理量などを明らかにしていない。しかし、

既に規制当局と打合せを進めており、処理原料についても大豆を含む多くの原材料

が検討されている模様である。

なお、El Segundo 製油所には、バイオ原料やその他の原料を取り扱うインフラが

備わっていることや、ロサンゼルス地域で Chevron 独自の流通・販売ルートが整備

されていることから、今回のプロジェクトを受け入れる環境が整っている。

<参考資料>

https://www.hellenicshippingnews.com/refinery-news-chevron-to-co-process-biofeed-at-el

-segundos-fcc/

https://chevroncorp.gcs-web.com/static-files/54f72269-368e-4c42-9288-0090536abd78

https://chevroncorp.gcs-web.com/static-files/8470d82b-4df3-4a3a-b2ae-344ada723d66

https://chevroncorp.gcs-web.com/static-files/92447bf9-d69d-4450-a723-386cea7a892d

(2)米国エネルギー情報局の「Energy Outlook 2020」にみる天然ガス情報

1)米国内、メキシコ、カナダの天然ガス消費状況

米国のエネルギー情報局(EIA)が、「Annual Energy Outlook 2020」を発行した。

同資料によると、米国産天然ガスは海外需要が堅調で、主として輸出向けに、2050

年まで増産が続くと予測している。

米国は世界一の燃料消費国であるが、2017 年以降は、天然ガスの純輸出国になっ

た。米国の天然ガス生産量は、2015 年には 1 日当たり 741.0 億 cf/日であったが、

2020年は 941.6 億 cf/日に達すると EIAは予測している。

2020年の天然ガス国内消費量は、867.3億 cf/日と見積もっているが、今後、再生

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可能エネルギーの普及が進み、エネルギー効率も向上すると想定されることから、

2021 年には 857.0 億 cf/日に減少すると予測している。その一方で、天然ガスの輸

出量に関しては、2030年まで増加すると予想している。

パイプラインによる天然ガス輸出は、メキシコが最大の市場になっている。メキ

シコ向け輸出量は 2025年までは緩やかに増加するが、その後、伸びは鈍化し、下降

に転じると予測している。EIA は、2030 年までにメキシコが、輸入天然ガスを国内

産天然ガスに置き換え始めるとみている。

メキシコに次いで天然ガス輸出量の多いカナダでは、2020 年代半ばまでに、発電

用エネルギーを再生可能エネルギーに移行する計画に取り組んでいることから、天

然ガスを含めて化石燃料の需要増加は見込めないと予測している。

パイプライン経由の天然ガス輸出先で 1 位と 2 位のメキシコとカナダの天然ガス

消費量の伸びが鈍化し、減少に転じるなかでも、米国の天然ガス生産量は増加する

と見られている。

この様な状況下で、過剰に生産された天然ガスは、国内向け供給量が増えるとと

もに LNG輸出に振り向けられることになる。LNG輸出を増やすためには、LNG輸出タ

ーミナルの増設が必要になる。

2)LNGの輸出を取り巻く国際事情

トランプ政権は貿易交渉で、積極的に LNG をテーブルに乗せ、中国、インド、ウ

クライナなどの国々とエネルギー供給協定の締結を進めている。

例えば、インドとは 2020年 2月末のトランプ大統領のインド初訪問時に、インド

の LNG輸入量のほぼ 5分の 1に相当する 500万トン/年の輸出入に係る交渉が行われ

た。交渉は、最終合意に至らなかったものの、今後も協議が続けられることになっ

ている。

貿易紛争が続いている中国とは、2020年1月15日に署名した通商協議「第1段階」

の貿易合意で、中国は原油や LNGなどのエネルギーを、今後 2年間で総額 524億 USD

輸入することを約束している。しかしながら、中国が LNG に税率 25%の関税を課し

ていることから、カタール、ロシア、オーストラリアなどの LNG 価格を大幅に上回

り、米国からの大量の LNG輸入は疑問視されている。

欧州に目を移すと、ベラルーシとウクライナは、ロシアから輸入している天然ガ

スを、米国産の LNG に置き換える検討を真剣に進めている。2020 年に入ってから、

ロシアの政治的意図も加わって、ベラルーシへの原油・天然ガスの供給を削減した

ため、ベラルーシはノルウェーからの LNG輸入を始めている。

ロシアは、ウクライナを迂回して、ヨーロッパに天然ガスを供給するバルト海経

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由の Nord Stream 2 天然ガスパイプラインと黒海経由の Turk Stream 天然ガスパイ

プラインの建設を急いでいる。2本のパイプラインが完成すると、ウクライナは、ハ

イプラインで年間約 28億 USD(GDPの約 3%に相当)の収入を失い、天然ガス供給ハ

ブとしての役割も低下することになる。

図 1. ロシアと欧州市場を結ぶ天然ガスパイプライン

(出典:Feb 27, 2020の Forbes記事)

このように米国産 LNGの輸出に絡む国際事情は複雑である。米国産 LNGとパイプ

ライン輸送されるロシア産天然ガスの欧州における価格を比較すると、ロシア産が

2.00~3.00USD/MMBtuで、米国から輸入する LNGは約 2倍の 5.00~6.00USD/MMBtuと

見られている。

<参考資料>

https://www.eia.gov/outlooks/aeo/

https://www.forbes.com/sites/arielcohen/2020/02/27/the-eias-2020-energy-outlook-predic

ts-rising-us-lng-exports/#608ff2714e89

https://www.eia.gov/outlooks/aeo/pdf/AEO2020%20Full%20Report.pdf

https://www.gazprom.com/projects/nord-stream2/

https://www.gazprom.com/projects/turk-stream/

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(3)米国農務省の農業振興策と再生可能燃料の販売促進策

米国農務省(United States Department of Agriculture:USDA)の Sonny Perdue

長官は、バージニア州 Arlingtonで開催された USDAの「2020年農業展望フォーラム

(2020 Agricultural Outlook Forum)」で、農業イノベーション計画(Agriculture

Innovation Agenda:AIA)を公表した。

また、トランプ大統領が 2019年 10月に「全国的に、E15の年間を通じた利用がで

きるようにすると共に、バイオ燃料の配合率が高い燃料(以下、高配合率バイオ燃

料と記す)の利用を促進する。」と発言したことを受けて、2020 年に、USDA は新し

く発足させる「高配合率バイオ燃料用インフラ促進プログラム(Higher Blends

Infrastructure Incentive Program:HBIIP)」に 1億 USDを助成することを発表した。

農業振興計画並びに HBIIP には、エタノール、バイオディーゼル、バイオマスな

どの再生可能燃料の拡販に向けたサポート事項が含まれているので、これらに関係

する部分を摘出して以下に紹介する。また、USDAが保有している車両に関する Perdue

長官の指示の内容についても紹介する。

1)農業振興計画(AIA)に含まれる再生可能燃料について

AIA では、米国の農業部門の環境負荷を、2050 年までに 50%削減しながら、農業

生産を 40%増加させることを定めている。再生可能燃料に関しては、バイオ燃料原

料の増産、生産効率の改善、競争力の強化を進めることと、AIAは密接な関係がある

として、エタノール、バイオディーゼル、バイオマスなどの再生可能燃料の普及を

サポートすることを表明している。

農業部門の環境負荷要因を50%削減するとしたUSDAの持続可能性への取り組みを

達成するには、輸送用燃料中のバイオ燃料の配合比率を高めることが、最も簡便な

方策の 1 つであることから、2030 年までにガソリン中のエタノールの配合比率を

15%(E15)、2050年までに 30%(E30)に引き上げることを目指している。

エタノール業界は、これまで、USDA がトウモロコシベースの燃料の増産を要求し

ていたが、E15の障壁になったのは環境保護庁(EPA)であったとして、今回の USDA

の発表に対する EPAの反応を見守っている。

また、再生可能燃料協会(Renewable Fuels Association:RFA)の Geoff Cooper

会長は、「エタノールは、ガソリンと比較して温室効果ガス(GHG)排出量を 35〜50%

削減できているが、新技術を開発することで、数年以内に削減率をさらに高めるこ

とができると USDAは表明している。農業部門の革新を刺激し、エタノールやその他

の再生可能燃料を増やす大胆な新しいイニシアチブを歓迎する。」と述べている。

2)高配合率バイオ燃料用インフラ促進プログラム(HBIIP)について

HBIIPは、E15ガソリンや B20ディーゼルなど、高配合率バイオ燃料の販売促進策

の一つとして企画されたものである。具体的には、燃料貯蔵設備、給油ポンプ、関

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連機器やインフラストラクチャーの設置、改造またはアップグレードをする場合の

支援策として、助成金を提供するものである。

2011年に連邦政府が E15を承認し、2019年に EPAが E15の年間を通じた使用を承

認したことを契機に、米国では E15 の消費量が増加している。USDA としては、更な

る普及を目指して HBIIP を設立し、高配合率バイオ燃料の拡販をバックアップする

計画である。

HBIIPを遂行することで、EPAが再生可能燃料基準(RFS)で定めた 2020年のエタ

ノール消費義務量の 150億ガロン/年、セルロース系バイオ燃料やバイオマス系バイ

オディーゼルなど先進バイオ燃料使用義務量の 200.9億ガロン/年の達成を支援する

こととなる。

なお、USDAは、HBIIPに最大 1億 USDの助成金を準備し、今年 5月中に、HBIIPの

助成金申請のための各種手続きや、プログラム情報を正式に公開する予定である。

3)USDA Sonny Perdue長官の指示メモについて

Sonny Perdue長官は、USDAが使用している在来型燃料車を更新する際には、代替

燃料車(Alternative Fueled Vehicles:AFV)にするように指示するメモを出して

いる。

USDAは、現在、連邦政府内でも最多の約 37,000台の車両を所有しており、毎年約

3,000 台を交換している自動車を所有/操車している組織の一つである。エタノール

を 85%配合した E85ガソリンやバイオディーゼルを使用する車を増やし、USDAが所

有する車両でバイオ燃料の消費を増やす効果を狙っている。。

今回の措置で、USDAの E15の年間消費量は最大 900万ガロン(約 3.4万 kl)、E85

は 1000万ガロン(約 3.8万 kl)、バイオディーゼルと再生可能なディーゼルブレン

ドは最大 300万ガロン(約 1.1万 kl)増加すると試算されている。

<参考資料>

https://www.usda.gov/media/press-releases/2020/02/20/secretary-perdue-announces-new-in

novation-initiative-usda

https://www.usda.gov/sites/default/files/documents/agriculture-innovation-agenda-visio

n-statement.pdf

https://prezi.com/view/SUHMzGD5R1d7UctSy4Vl/

https://www.rd.usda.gov/hbiip

https://www.rd.usda.gov/sites/default/files/fact-sheet/RD_HBIIP_FactSheet_022820.pdf

https://www.usda.gov/sites/default/files/documents/fleet-biofuels-memo.pdf

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2. 欧州

(1)英国運輸省が E10ガソリンに対するパブリックオピニオンの受付を開始

英国では、現在、ガソリン中のエタノール含有量は 5%(E5)になっている。政府

は、E5からエタノールが 10%配合された E10を、低炭素燃料として、2021年から導

入することを計画し、運輸省(Department for Transport:DfT)は、2019 年 10 月

に運輸分野で初となる脱炭素化計画(transport decarbonisation plan)を発表し

ている。

この流れの中で DfTは、2021年から E10を導入することを検討し、2020年 3月 4

日に公表し、本件についてのパブリックオピニオンの受付を、4 月 19 日期限で開始

した。

今回の提案では、E10 を 2021 年からガソリンの標準グレードにすることを定めて

いる。現在、英国で輸送部門の GHG 排出量は、全体の約 28%を占めていると説明さ

れており、今回の E10 への移行案は、政府の「2050 年までに、GHG 排出量をネット

ゼロに」という目標を実現させるための第一歩であると説明されている。

提案書によると、E10の導入は、インフラストラクチャーの大規模な変更や新技術

開発の投資も無く、バイオ燃料の混合割合を増加させるだけの簡便な方法であると

説明している。、メリットとしては E10 の導入に伴い、最大 35 万台分の GHG 排出量

の削減(約 2%)が期待できること、などが説明されている。なお、英国の規則では

既に E10の販売が許可されているが、E10ガソリンは、国内で入手できないのが実態

である。

DfTは、英国のガソリン車の 89%が E10と完全な互換性があるとしており、E10導

入後も SSでは、E5ブレンドとしての「スーパー」グレードの高オクタン価ガソリン

の販売は継続する。95 オクタン価の「プレミアム」グレードとして E10 ガソリンを

導入することになると説明している。

また、提案書では、再生可能燃料の導入義務制度(Renewable Transport Fuels

Obligation:RTFO)の目標を引き上げるなどの自動車燃料規制の改正を行うことや、

レギュラー(オクタン価 95)ガソリンへの配合率の規定などの変更を提案している。

DfT の Grant Shapps 長官は、「英国では低炭素燃料の E10 が、2021 年からガソリ

ンの標準グレードになる計画である。輸送部門の GHG ゼロエミッション達成には、

今後 15 年間が非常に重要な時期になる。電気自動車が普及する前に、E10 へ切り替

えることで、GHG排出量削減に活かして行きたい。」と述べている。

<参考資料>

https://www.gov.uk/government/news/new-era-of-green-fuel-set-to-clean-up-britains-road

s

Page 12: JPEC 世界製油所関連最新情報 2020年3月号(3) コロンビアEcopetrolが、フレア排出量の削減を目指す方針 7. 東南アジア 34ページ (1) インドが米国からの原油・天然ガスの輸入を拡大

12

https://www.gov.uk/government/consultations/e10-petrol-consumer-protection-and-fuel-pu

mp-labelling#history

https://www.gov.uk/government/consultations/introducing-e10-petrol

https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_

data/file/869814/introducing-e10-petrol-consultation.pdf

https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_

data/file/870089/impact-assessment-measures-for-introduction-of-e10-fuel-stream.pdf

(2)Net Zero Teessideプロジェクトの発足情報

BP、Eni、Equinor、Shell、Total社は、コンソーシアムを組んで、CO2回収、利用

および貯蔵(Carbon Capture, Utilization and Storage:CCUS)技術を導入し、英

国初の脱炭素化産業クラスターの実現を目指す「Net Zero Teesside プロジェクト」

を創設した。

Net Zero Teessideプロジェクトは、パリ協定をサポートする石油・ガス気候変動

イニシアチブ(Oil and Gas Climate Initiative:OGCI)」が、「Clean Gas Project」

として展開していた業務を、Net Zero Teessideプロジェクトへ移管するものである。

なお、OGCIは、BP、Chevron、CNPC、Eni、Equinor、ExxonMobil、Occidental Petroleum、

Pemex、Petrobras、Repsol、Saudi Aramco、Shellおよび Totalの 13社で構成され

ているが、欧州に拠点を置き北海の油田・天然ガス田開発に経験を持つ OGCI加盟企

業が、Net Zero Teessideに参加した形になっている。

Net Zero Teesside プロジェクトは、イングランド北東部の都市 Teesside に拠点

を置き、英国政府や地元産業と連携すると共に政府から支援を受け、2020 年代の半

ばに操業を開始し、Teesside産業クラスターの炭素集約型産業を、2030年まで完全

に脱炭素化することを目指している。

プロジェクトは、最大 200 万世帯の年間エネルギー使用量に相当する、年間 600

万トンの二酸化炭素(CO2)の回収を計画しているが、回収した CO2 は、北海の油ガ

ス田へ圧入して貯留する他、CO2の有効利用も検討することになる。

さらに、再生可能エネルギーを燃料とするコンバインドサイクルガスタービン

(CCGT)設備に炭素回収装置を併設し、地域社会に低炭素電力を提供する構想を持

ち、インフラへの投資を促す計画である。

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図 2. Net Zero Teessideプロジェクトにおける CCUSのイメージ

(出典:Net Zero Teessideのウェブサイト)

低炭素化プロジェクトに、Teesside が選定されたキーポイントを列記すると下記

のようになる。

① プロジェクトの総利益は最高 4.5 億ポンド/年、最大 5,500 人の直接雇用が見込

まれる。

② Teessideは、北海の Ekofisk油田とパイプラインで繋がっているなど、1ギガト

ン以上の CO2貯蔵能力を持つとされる北海南部のサイトへのアクセスに適してい

る。Teesside 地域の企業が排出する CO2は約 310 万トン/年で、英国の全排出量

の 5.6%を占めている。

国際エネルギー機関(IEA)が分析・作成した持続可能な開発シナリオ(Sustainable

Development Scenario)によると、CCUS による CO2回収量は、2040 年までに世界的

に必要とされる累積排出削減量の 7%と、かなりの割合を占めている。

英国政府は、2050 年までにネットゼロエミッションを達成することを公約してお

り、CCUSは重要な位置付けになっている。CCUSの具体的展開を図るビジネス・エネ

ルギー・産業戦略省(Department for Business, Energy & Industrial Strategy:

BEIS)は、国家プロジェクト(Grand Challenges)の一つのテーマである「クリー

ン成長(clean growth)」を主導・展開するにあたり、「2040 年までに世界初のネッ

トゼロの脱炭素化産業クラスターを誕生させ、かつ 2030年までに少なくとも 1つの

低炭素化産業クラスターを構築する。」ことを目指している。

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図 3. 英国の地域別 GHG排出量

(出典:BEISウェブサイト)

英国政府は、GHG排出量全体の約 4分の 1を占める産業部門の費用対効果の高い脱

炭素化を、産業戦略チャレンジ基金で支援し、主要 6 地域に設置した産業クラスタ

ーを、世界をリードする低炭素製造ハブに変え、新規ビジネス、雇用の機会を増や

すことを目指している。

<参考資料>

https://www.netzeroteesside.co.uk/news/bp-eni-equinor-shell-and-total-form-consortium-

to-develop-the-net-zero-teesside/

https://www.netzeroteesside.co.uk/project/

https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_

data/file/803086/industrial-clusters-mission-infographic-2019.pdf

https://www.gov.uk/government/publications/industrial-strategy-the-grand-challenges/mi

ssions#industrial-clusters

(3)IEA Bioenergyが取りまとめた先進バイオ燃料のコスト削減情報

国際エネルギー機関(IEA)の多国間技術連携プログラム( Technology

Collaboration Programme:TCP)の IEA Bioenergyは、Task 41 注)(Systems analysis)

に基づいて実施している先進バイオ燃料のコスト削減の可能性を検討し、「Advanced

Biofuels –Potential for Cost Reduction」と題する報告書にまとめて公表した。

報告書は、業界等の情報源から収集した情報をもとに作成された。

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IEA Bioenergyは、報告書の中で、先進バイオ燃料コストと在来型燃料コストの間

にギャップがあるとしている。中期的には、プラントの設計、建設、運転、資金借

入に伴うコストの削減、さらには技術の習得を通じてギャップを縮小することは可

能であるが、政策面での支援が引き続き必要であるとの結論を導き出している。

バイオエネルギーは、既に各産業分野で重要な役割を果たしており、特に輸送部

門で排出される温室効果ガス(GHG)削減に重要な役割が期待されているほか、その

使用拡大は、将来の低炭素シナリオにおいて欠かせない重要な素材になっている。

注)IEA Bioenergyが実施する作業は、多くの Taskで構成されている。各 Taskは幾つかの Project

を持ち個別の目標、予算、実施スケジュールで展開されている。各 Taskの作業は、実行委員会

(Executive Committee)の指示に基づき、Taskの遂行に参加している構成国の中の 1国が

運営機関(Operating Agent)として作業を調整・主導している。現在、10件の Taskが

個別テーマの下で稼働しているが、Task 41は、3件の Special Projectsを持ち作業を

進めている。

バイオ燃料の生産技術は数多く開発され、商業化されている。しかし、現状では、

生産設備の規模が小さく、低炭素化の効果も限定的である。輸送部門の低炭素化に

は、既に確立されている技術を大規模に展開する必要がある。

例えば、IEAの報告書「Technology Roadmap - Delivering Sustainable Bioenergy」

(下掲の参考資料参照)では、輸送部門の低炭素化シナリオのもとで、2060 年まで

に必要となるバイオ燃料 35EJ(1 EJ(Exajoule)=1018 Joule)のを供給するには、

世界中で大規模プラントは、約 4,000基(200MW級)必要になると提言されている。

現在、先進バイオ燃料のコストは、化石燃料や従来型のバイオエタノール、バイ

オディーゼルに比較すると高価である。先進バイオ燃料の生産コストを削減するに

は、どのような要件を揃えなくてはならないのか、どこまで製造コストを低下させ

たら良いのか、などについて検討することが重要である。

欧州委員会(EC)の Sustainable Transport Forum(STF)の下部組織の「Sub-Group

on Advanced Biofuels(SGAB)」は、先進バイオ燃料のコストに関する調査作業を進

め、その結果を 2017 年に「Final Report - Building Up the Future」と題した報

告書に公表している。

今回、IEA Bioenergyが公表した報告書は、2017年の SGAB報告書の形にまとめた

調査を出発点として、新たに先進バイオ燃料業界や個別企業からの広範囲に亘る情

報聴取や現状のコスト関連データについて入手した結果を加味して、レビューした

内容になっている。

このプロジェクト遂行に当り重視したポイントは以下の通りである。

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A) 過去に実施された SGAB の検証結果を、レビューした上で更新を行い、先進

バイオ燃料の現在の推定コストを見積もる。

B) 先進バイオ燃料のコスト削減を可能にする要素とコスト削減の範囲を特定

する。

C) 必要に応じて、コスト削減プログラムを開発する。

D) 先進バイオ燃料コストに対する、相応の化石燃料コストおよび在来型バイオ

燃料コストの比較検討。

E) 炭素排出量への価格付け(カーボンプライシングの観点)を含めた、先進バイ

オ燃料の価格的競争力に関する政策措置の影響調査。

IEA Bioenergyの調査結果の結論と提言のいくつかをピックアップすると以下の通

りになる。調査結果の詳細は、参考資料をお読みください。

① 先進バイオ燃料の製造コストを検討した結果、原料がバイオマスの場合は、

62~158EUR/MWh(17~44EUR/GJ)、廃棄物ベースの場合は 48~104EUR/MWh(13

~29EUR/GJ)であった。一方、これらの先進バイオ燃料コスト検討時の対応

する化石燃料のコスト範囲は、30〜50EUR/MWh(8〜14EUR/GJ)である。

② 化石燃料のコスト範囲に近い値を出している廃棄物を原料とする先進バイオ

燃料の生産ケースでは、先進バイオ燃料製造プラントと既存のバイオ燃料製

造プラントの統合を積極的に進めることにより、初期市場機会があると考え

られる。しかし、それでも生産量など必要なレベルには到達せず、初期市場

機会も比較的限定的にならざるを得ないため、期待に応えるには不十分であ

る。

③ 既存の実証プラントや商業プラントで得られる情報および運転経験から、コ

ストを削減できる可能性があり、今後、多数の商業プラントが建設されれば、

投入資本や運転コストが大幅に削減されるとみられるが、原料コスト削減の

範囲は、限定的であると判断される。しかし、全体的な製造コストは、現状

の見積りから 5〜27%の削減が可能である。

また、運転経験を積むことで、より有利な条件で設備に資金を投入できる

ようになるため、コストを更に削減できる余地がある。例えば、融資率を 10%

から 8%に引き下げ、融資期間を 15 年から 20年に延長すると、コストを更

に 5~16%削減できる。

以上の対策を統合すると、バイオマスを原料とする先進バイオ燃料の生産

コストの範囲は、42~119 EUR/MWh(12~33EUR/GJ)になり、廃棄物原料ベ

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ースでは 29~79EUR/MWh(8~22EUR/GJ)に削減することができる。

④ 現状では、先進バイオ燃料製造コストと化石燃料の製造コストの差は大きく、

政策的な支援が必要になっている。その支援策として、炭素価格の概念を導

入し、化石燃料の価格に上乗せすることも一つの方策である。

<参考資料>

https://www.ieabioenergy.com/publications/press-release-iea-bioenergy-publishes-a-new-

report-on-the-potential-for-advanced-biofuels-cost-reduction/

https://www.ieabioenergy.com/wp-content/uploads/2020/02/T41_CostReductionBiofuels-11_0

2_19-final.pdf

https://www.ieabioenergy.com/wp-content/uploads/2017/11/Technology_Roadmap_Delivering_

Sustainable_Bioenergy.pdf

http://artfuelsforum.eu/wp-content/uploads/2018/06/Building-up-the-Future_SGAB.pdf

3.ロシア・NIS編

(1)原油・天然ガス生産への依存を強めるロシア経済の現状

ポーランドのシンクタンク Warsaw Institute Foundation が、ロシア経済の現状

を解析し、インターネット情報として公表している。

Warsaw Institute Foundationによると、ロシアは、石油開発ブームに乗り、原油・

天然ガスの輸出から莫大な収益をあげている。しかしながら、その収益を原油・天

然ガス資源開発以外の産業部門の多様化・強化へ使用するなど、経済構造改革の展

開に充分生かすことができていないと評価している。そればかりでなく、2010 年か

ら 2018年の間に、ロシア経済は、従来に増して原油・天然ガスなどの炭化水素に依

存するようになったと評価している。

ロシア連邦国家統計局(Russian Federal State Statistics Service:Rosstat)

は、2018年を基準年とした工業生産指数(Industrial production index)を公表し

ているが、2010年と 2018年の間で、原油・天然ガス生産の指数は上昇しており、経

済活動全体に占める比率は、34.3%から 38.9%に増加している。一方、原油・天然

ガス生産以外の製造業が占める比率は、53.2%から 50.7%に低下している。

Rosstat は、2020 年のロシアの経済活動に占める原油・天然ガス生産の比率は、

2019年に比べて 1.1%増加すると予測している。

2020 年 1 月単月度の原油生産は、対前年同月比で 0.8%減少している。天然ガス

とガスコンデンセートは、前年同月比 4.3%増加した。Yamal LNGプラントの第 2系

列と第 3系列の生産ラインが立ち上った結果、36.3%増産したことが寄与した。

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これまで、ロシア政府は、経済の多様化を促進させる方針を表明してきたが、

Rosstatのデータからは、方針とは反対に、過去 8年間で原油・天然ガスへの依存度

が増していることを示している。

なお、2020年 1月から 2月中旬までの 6週間に、ロシアから中国への輸出量は約

1/3分減少した。新型コロナウイルス(COVID-19)の流行の影響を、大きく受けた結

果になっている。

ロシアの原油・天然ガスは、経済規模で世界第 2 位の中国への輸出量が多いが、

今後 COVID-19の流行が拡大し、原油価格が下落すると、ロシア経済にとっては相当

な痛手になる。

Warsaw Institute Foundationは、ロシア政府が、原油・天然ガス資源開発で得ら

れた収益を、経済の多様化に振り向けることので、経済の構造改革を加速させ、

COVID-19 のような突発的事象に対して、強い社会体制を構築する必要性を指摘して

いる。

<参考資料>

https://warsawinstitute.org/russias-economy-becoming-heavily-dependent-

hydrocarbons/

(2)ロシアの石油・天然ガス部門の M&A状況を伝える情報

ロシアのコンサルタント会社 KPMG が、ロシアの 2019 年における企業の合併や買

収(M&A)の状況を伝える報告書「Russian M&A Review 2019」を発表した。2019 年

は、西欧諸国による対ロシア経済制裁が続いていたにもかかわらず、ロシア国内で

は、M&Aに絡む投資活動が、「取引件数」、「平均取引額」、「外国企業による取引件数」

からみて、活発に行われていた。

この資料には、ロシアの M&A の最近の主要な傾向や、今後の動向についての考察

が記されている。その中の、石油・天然ガス分野の M&Aを以下に紹介する。

・2019年の概況と 2020年に影響を及ぼす要因

2019 年の M&A 活動を 2018 年と比較してみると、取引件数は 3%増に過ぎないが、

取引額は 21.5%増加し、約 630 億 USDに達している。国内投資も活発な動きが見ら

れ、投資額は対前年比 19%増加している。特に、海外からのインバウンド投資は、

約 50%増加しており、海外の投資家にとって、ロシア経済が魅力的に映っている実

態を窺うことができる。

2020年のM&A動向を判断する点の要因として、以下の事項を挙げることができる。

① 経済回復の有益な手段としての国家プロジェクトプログラムが積極的に実

施されるか。

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② 原油価格が高水準を維持し、ロシア経済を後押しするか。

③ 米国の新 DASKA法案注)またはその他の制裁が、施行されるか。

④ ビジネス環境に有意義な改善が出てくるか。

⑤ プーチン大統領が年初に設定した目標を、政府がどの程度達成できるか。

注)DASKA:2018年に米国に導入された対露制裁包括法案(Defending American Security from

Kremlin Aggression Act:DASKA)で、米国安全保障をロシアの攻撃から防御する法案。

現在、改訂版が米国議会で審議中。

・2019年の M&A状況について

① 石油および天然ガス部門へのインバウンド投資

2019年は、ロシアの石油・天然ガス産業への投資家の関心が高かった年であった。

特に海外投資家の関心は高いレベルに維持されていた。海外投資家にとって、ロシ

アの天然資源は、魅力あるものとして捉えられている。

ロシアの石油・天然ガス産業は、2014 年以降、海外投資家にとって魅力的な事業

となり、2016年にはインバウンド投資額が 170億 USDのピークに達している。また、

2018年と 2019年には、ロシアの M&A取引総額に占める石油及び天然ガス事業の取引

額、海外からの投資金額の割合が、2年連続で増加した。

ロシアの政治体制は安定しており、政府と大企業の双方が外国企業と提携に向か

う意欲が強い。また、インフラが整備されており、新油田・ガス田開発を妨げる手

続きや規制上の障壁が低いなどの理由で、石油・天然ガス資源国中の中では、ロシ

アは投資対象国として最も魅力的な国の一つである。

ロシアの原油の生産コストは、2.8USD/バレルと他の資源国と比べて低い事や、資

源開発に関する政府の手厚い支援が背景にある。経済制裁はあるものの、外国企業

が参入し易い環境になっている。

2014 年後半に始まったロシア貨幣ルーブルの急激な切り下げの結果、ロシアが金

融危機に見舞われた際、多くの投資家はロシアで所有していた資産を売却している

が、当時、原油価格は変動していたにも拘らず、ロシアの埋蔵量のコストは安定し

ていることが判明し、結果的には、ロシアの石油・天然ガス分野への投資が、魅力

的なものであることが証明された事例がある。

Page 20: JPEC 世界製油所関連最新情報 2020年3月号(3) コロンビアEcopetrolが、フレア排出量の削減を目指す方針 7. 東南アジア 34ページ (1) インドが米国からの原油・天然ガスの輸入を拡大

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図 4. ロシアの石油・天然ガス分野の M&A推移(取引金額ベース)

(出典:KPMG資料「Russian M&A Review 2019」)

原油価格が 2014 年から 2015 年に下落した直後、ほぼ全ての石油会社が石油開発

投資額を削減した結果、2016年から 2018年にかけて世界の石油・天然ガスの埋蔵量

更新は、過去 70年間で最悪の数値を示した。その一方で、2016年には石油価格が上

昇し始め、世界の大手石油会社は、自社の資源の資産基盤をより強固にすべく、

石油・天然ガスの埋蔵量が多い地域に関心を寄せるようになり始めた時期であった。

2014 年のロシアのクリミア併合に対する西欧諸国の対ロシア経済制裁は、外国企

業がロシアの石油・天然ガス部門へ投資を行う場合には、1つの重要なハードルと考

えられていた。実際には、一部の外国企業が資源開発プロジェクトから撤退したも

のの、殆どの大手企業はロシアのオフィスを維持しており、既存のプロジェクトを

継続すると共に、新プロジェクトへの参入の機会を模索している状況が続いている。

・LNGプロジェクトに対するインバウンド投資

2019年の特徴として、外国企業によるLNGプロジェクトへの投資ブームが起こり、

2P埋蔵量を急増させる効果があったことを挙げることができる。なかでも、2018年

から 2019年にかけての NOVATEKによる「Arctic LNG 2プロジェクト」の株式売却は、

先駆け的な事案で、ロシアの 2019年の石油・天然ガス分野における M&A取引額のト

ップ 10に入った。

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多くの外国企業がこの Arctic LNG 2プロジェクトに関心を示し、2018年には Total、

2019年には中国国営会社の CNPCと CNOOC、更には日本の石油天然ガス・金属鉱物資

源機構(JOGMEC)と三井物産への株式売却が行われた。

サウジアラビアの Saudi Aramco、タイ国営石油会社 PTT傘下の上流事業会社 PTTEP

(PTT Exploration and Production Public Company Limited)、韓国ガス公社(Korea

Gas Corporation:KOGAS)などの企業も、NOVATEKのプロジェクトの権益売却に関心

を持っているものと思われる。

Arctic LNG 2 プロジェクトの取引以外で、2019 年の M&A 取引金額でトップ 10 に

入る取引には、大手石油会社 LUKOILの株式買い戻し、国営ガス会社 Gazpromの株式

指定買い取りの事案がある。

表 1. 2019年のロシア石油・天然ガス分野における大型 M&A

(出典:KPMG資料「Russian M&A Review 2019」より)

また、Gazpromが株式の 49%、Gazpromの子会社で銀行業務を担当する Gazprombank

が 51%を保有している建設サービスプロバイダーの Gazstroyprom が、2019 年 9 月

に掘削企業の Gazprom Bureniye、2019 年 11 月に石油およびガスのインフラ建設会

プロジェクト資産 買収企業 ベンダー 買収比率

(%)

金額

(百万 USD)

1 LUKOIL LUKOIL Minority

shareholders 5.1% 3,000

2 Gazprom Single undisclosed buyer Gazprom 3.6% 2,941

Gazprom Single undisclosed buyer Gazprom 2.9% 2,202

3 Arctic LNG 2

China National Offshore

Oil Corp (subsidiary of

CNOOC Ltd.)

NOVATEK 10% 2,612

4 Arctic LNG 2 石油天然ガス・金属鉱物資

源機構;三井物産 NOVATEK 10% 2,612

5 Arctic LNG 2

CNODC Ltd (subsidiary of

China National Petroleum

Corp.)

NOVATEK 10% 2,612

6 Stroygazmontazh Gazstroyprom Arkady Rotenberg –

private investor 100% 1,177

7

Project to develop

sections 4A and 5A of

Achimov deposits of

Urengoy gas field

OMV Gazprom 25% 1,025

8 Gazprom Drilling Gazstroyprom

Igor Rotenberg –

private investor;

Managing Company

Evocorp; Alexander

Zamyatin – private

investor

100% 910

9

New Age (African

Global Energy) Ltd,

license for Marine XII

LUKOIL Upstream Congo SAU

New Age (African

Global Energy)

Limited

25% 800

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22

社 Stroygazmontazhを買収した事案がトップ 10に入っている。

燃料販売事業に関しては、2019年には 2018年無かった 200万 USD以上の単一の取

引が 2件あった。1件は、St. Petersburg地域で主にガソリンの精製、貯蔵、輸送、

小売りに特化した独立系燃料会社 St. Petersburg Fuel Company(PFC)を、国営石

油の Rosneftが 2019年 7月に買収した事案である。

他の 1 件は、2019 年 9 月に、フィンランドのエネルギー会社 Neste Corporation

がロシアに保有する燃料小売り事業をロシア・タタールスタン共和国の Tatneft が

買収した事案である。なお、PFC は St. Petersburg に 141 ヶ所の給油所、125 台の

ガソリンローリー、2 ヶ所の油槽所を所有し、Neste は 75 ヶ所の給油所および St.

Petersburgにターミナルを所有していた。

・2020年の M&A動向予測

2020 年もロシアの石油・天然ガス資源開発事業は、海外投資家からは高い関心の

的になり、特に探査、開発初期段階にあるプロジェクトに、関心が集まると見られ

ている。

北極圏で進められているプロジェクトは魅力的で、中でも、Vankor 油田の開発な

どが含まれる Rosneft の Vostok Oilプロジェクトは、投資家の関心の高いプロジェ

クトである。また、Neftegazholding が開発を進めている Payakskoye 油田と同様に

注目されている。

Vostok Oil プロジェクトは、ロシアで最後の未開発地域である北極圏の沿岸地域

に位置し、370億バレル相当の原油埋蔵量が見込まれている。また、政府から前例の

ない規模の税制上の優遇措置を受けることが出来ることが注目されている。Rosneft

は、Vostok Oil プロジェクトを実施するために、外国のパートナーを探し始めてい

る。

ロシアが受けている経済制裁や、今後新たに課せられる可能性がある経済制裁は、

西欧の投資家にとっては、懸念事項ではある。しかし制裁の対象とならないアジア

や中東の投資家にとっては、石油探査及び生産関連資産の買収、石油化学と天然ガ

ス化学の資産買収への関心は旺盛であると推測されている。

また、ロシア国内では、バリューチェーン全体の資産統合が起こるのではないか

と予測されている。Rosneftは、原油開発支援及び石油製品販売や流通チャネルの増

強に熱心に取り組んでいる。加えて、油田施設に関連するサービス市場の構造的変

革は、石油会社と探査掘削事業会社の両方の立場から、長年に亘り必要とされてき

た分野で、この分野で統合が進むものと考えられている。

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23

<参考資料>

https://home.kpmg/ru/en/home/insights/2020/02/russian-2019-ma-overview.html

https://home.kpmg/ru/en/home/media/press-releases/2019/02/ma-survey-2018.html

https://assets.kpmg/content/dam/kpmg/ru/pdf/2020/02/ru-en-ma-survey-2019.pdf

4. 中 東

(1) アブダビ ADNOC関連のニュース

アブダビ国営 ADNOCは、企業情報をウェブサイトを通じて、積極的にプレスリリ

ースしているが、2020年 2月にも多方面のニュースを発表しているので紹介する。

1) ADNOC Distributionの業績

ADNOCの燃料販売子会社 ADNOC Distributionの業績が公表されている。表 2に業

績基本データを示すように、2019年第 4四半期、2019年通年とも前年同期を上回る

好調な業績となった。

表 2. ADNOC Distributionの業績

億 AED

2018 4Q 2019 4Q 2018 2019

売り上げ 59.72 54.26 -9.1% 228.93 213.37 -6.8%

EBITDA 6.17 6.58 6.5% 27.74 28.39 2.3%

営業利益 4.65 5.09 9.6% 22.42 23.01 2.6%

純利益 4.46 4.96 11.3% 21.28 22.18 4.2%

2019年第 4四半期の業績は、純益 4.96億 AEDで、前年同期比で 11.3%増加した。

燃料販売量は前年同期比で 2.0%増加したが、売上高は、9.1%減少した。燃料事業

以外の業績も好調で、粗利益は、前年同期比で 10.4%増加した。主に、コンビニエ

ンスストア事業が寄与した。

2019年通年の業績は、純利益 22.2億 AEDで、前年比 4.2%増加した。2019年の燃

料販売量は 2018年に比べて 0.7%増加した。

なお、ADNOC Distributionは、2019年第 4四半期に、次世代給油所“ADNOC On the

Go”に新規顧客サービス“ADNOC Rewards”を導入し、顧客サービスの向上を図って

いる。具体的な取り組みとして、デジタル化の推進、スマート決済サービスの提供

が挙げられている。また、コンビニエンスストア事業部門では、新規ストア“Oasis”

を展開することを発表した。

<参考資料>

https://www.adnocdistribution.ae/en/media/press-releases/2020/adnoc-distribution-net-p

rofit-increases-by-42-to-aed-222-billion-in-2019/

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2) 天然ガス開発プロジェクト

① Dalma天然ガス開発プロジェクト

ADNOCは、Dalma天然ガス開発プロジェクト関連で、2件の海洋施設の建設契約を

締結したことを 2月の中旬に発表した。

Dalma天然ガス開発プロジェクトは、アブダビシティーの沖合 190kmの Dalma天然

ガス田で天然ガスの生産を目指すもので、天然ガス自給能力の拡大に寄与すること

が期待されている。

今回締結された契約は、Petrofac Emirates LLCと Petrofacと Sapura Energy

Berhadの JVが受注した設備の設計調達・建設業務(EPC)の 2件で、総額 16.5億 AED

と発表されている。

2件の EPCとも 2022年に完了予定で、天然ガス生産量 3.4億 scf/日を目標に置い

ている。プロジェクトは、ADNOCの内製化方針に基づいて、投資額の 70%は、アブ

ダビ国内に向けられることになる。

<参考資料>

https://www.adnoc.ae/en/news-and-media/press-releases/2020/adnoc-awards-usd1point65-bi

llion-contracts

② Ghasha天然ガス開発プロジェクト

ADNOCは、大規模な Ghasha天然ガス開発プロジェクト関連で重要な業務を発注し

た。

2月の上旬に KBRは、Dalma Gas Development Projectのパッケージ A/Bおよび、

Hail & Ghasha Development Project、Hail & Ghasha Islands Project、the Deep Gas

Projectのパッケージ 1-5の設計・調達・建設(EPC)に対するプロジェクトマネジメン

トコンサルタント業務(PMC)を受注した。契約期間は、4年間で、2年間の延長オプ

ションが付与されている。

Ghasha天然ガス開発プロジェクトは、今世紀後半に UAEの天然ガス需要量の 20%

を賄う役割が期待されている。さらに、原油・コンデンセートを 12万 BPD生産する

ことを計画している。

<参考資料>

https://www.kbr.com/en/insights-events/press-release/kbr-awarded-major-pmc-services-co

ntract-adnoc-ghasha-concession

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3) 船舶用バイオ燃料

ADNOCのバイオ燃料への取り組みを、ドバイの公式メディア Dubai Media

Incorporated(DMI)が報道している。

ADNOCの物流事業子会社 ADNOC Logistics & Servicesは、船舶向けのバイオ燃料

を試験することを 2月の上旬に発表した。ADNOCは、石油系の低硫黄船舶燃料以外の

選択肢として、LNG、LPG、バイオ燃料を製造することで、石油系燃料の消費量の削

減を計画している。

なお、ADNOCは、2019年 11月までに全輸送船(28船)に対して、2020年 1月発効

の船舶燃料の硫黄濃度規制 IMO 2020対応を終えていた。

<参考資料>

https://www.emirates247.com/business/energy/adnoc-logistics-testing-biofuel-to-reduce-

fuel-consumption-2020-02-06-1.692143

4) CCSUプロジェクト

本報の 2020年 1月号中東編第 2項で、アブダビ国営 ADNOCの環境改善への取り組

みの概要を紹介したが、2月下旬に GHG排出量削減への取り組みを強化する計画が公

表されている。

ADNOCの Dr. Sultan Ahmed Al Jaber CEOは、サウジアラビアで開催された CO2回

収・有効利用・貯留(CCUS)会議で、世界の石油・天然ガス生産会社の中で、GHG排出量

が最も少ない企業としての地位を確立するために、CCSUプロジェクトを増強する方

針を表明した。

ADNOCは、CCSUで天然ガスプラントから CO2を回収する能力を、現在の 80万トン

CO2/年から、2030年までに 500万トン CO2/年(森林 500万エーカーが吸収する CO2量

に相当する)に引き上げる。回収量の内訳は、Shah天然ガスプラントが 240万トン

CO2/年、Habshan、Bab天然ガスプラントは、200万トン CO2/年を計画している。

Al Jaber CEOは、CCSUプロジェクトは、2030年までに GHG排出量を 25%削減す

るという ADNOCが掲げる目標の達成に重要な役割を担うことになると述べている。

<参考資料>

https://www.adnoc.ae/en/news-and-media/press-releases/2020/adnoc-to-build-on-its-posit

ion-as-one-of-the-least-carbon-intensive-oil-and-gas-producers

https://www.adnoc.ae/en/news-and-media/press-releases/2020/adnoc-awards-usd1point65-bi

llion-contracts

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(2) サウジアラビアに Schlumbergerと McDermottの生産拠点

・ Schlumbergerのファクトリーが開所

サウジアラビア政府の長期政策 Vision2030の重要政策である、自国の産業の育成

方針を受けた国営Saudi Aramcoは、技術の育成や生産インフラの国内誘致In Kingdom

Total Value Add(IKTVA)プログラムを展開している(2019年5月号中東編第3項参照)。

Saudi Aramcoは、石油・天然ガス資源開発で関係の深い Schlumbergerと設備機器

の生産拠点をサウジアラビア国内に設置することに合意していた(2018年 1月号第 1

項参照)。

Schlumbergerは、2020年 2月下旬にサウジアラビア東部州の Dammamと Al-Ahsa

の間にある King Salman Energy Park(SPARK)に建設していた製造センターの開設を

発表した。完成を祝う式典には、Saudi Aramcoと Schlumbergerなどの幹部が出席し

た。製造センターでは、石油・天然ガス生産設備に必要な機器類を製造することにな

る。

今回開所した施設は第 1期分で、用地面積 105,000m2の敷地に建設された。製造セ

ンターでは、今後数年間で 200名を新規に雇用する予定で、技術者やサプライチェ

ーン全体に関わる要員の育成も手掛けることになる。

製造センターで製造される製品は、バルブ類(ライジングステムボールバルブなど

の GROVETM、ORBITTMブランド製品)、リニアハンガー(liner hangers)、パッカー

(packers)などで、これらの製品には、サウジアラビアおよび周辺国の石油・天然ガ

ス生産効率の向上に寄与することが期待されている。

<参考資料>

https://www.slb.com/newsroom/press-release/2020/pr-2020-0224-aramco-spark

・ McDermottの設備工場を着工

前項の Schlumbergerによるプレスリリースの翌日、米国の McDermottは、サウジ

アラビアの機器製造拠点の建設を開始したことを伝える情報を公表している。

McDermottは、東部沿岸で開発中の Ras Al-Khair港湾・造船都市 King Salman

International Complex for Maritime Industries and Servicesで、製造拠点“SAFIRA”

の建設を開始した。

McDermottは、海洋プラットフォームやモジュールの大規模組み立て施設、さらに

付帯する設備仮組用施設、ブラストマシン施設、塗装施設、オフィスを建設する計

画で、総面積は 1,200,000m2に及ぶと発表されている。

さらにオートメション工場として使用する 80,000m2の屋根付き施設の建設や、船

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舶の接岸岸壁では、土木工事も予定されている。

Saudi Aramcoは、McDermott Arabia Company, Ltd.と SAFIRA向けの用地リースで

合意し、さらに、Saudi Aramcoは、McDermottに従業員居住施設、医療施設、レク

リエーションエリアなどの関連施設を提供することになっていた。

<参考資料>

http://www.mcdermott-investors.com/news/press-release-details/2020/McDermott-Breaks-Gr

ound-at-Fabrication-Facility-Under-Development-within-King-Salman-International-Comple

x-for-Maritime-Industries--Services-in-Saudi-Arabia/default.aspx

5. アフリカ

(1) エジプトの Damietta LNG輸出ターミナルが再稼働へ

エジプトは、2010年代初頭の内政混乱期以降、天然ガスは減産に向かった。その

結果、天然ガス輸出余力が失われ、中東地域へのパイプライン輸出、欧州などへの

LNG輸出が不可能な状態に陥っていた(2014年 11月号アフリカ編第 1項など参照)。

さらに国内需要を賄うために、エジプト政府は、浮体式 LNG輸入ターミナルなどの

手当てを進めていた(2015年 9月号第 2項、2018年 7月号第項など参照)。

エジプトが天然ガスを輸出していた時期には、長距離パイプライン Arab Gas

Pipeline(AGP)で、イスラエル、ヨルダン、シリア、レバノンに天然ガスを供給して

いた。また、ナイル川デルタ地中海沿岸ディムヤート県 Damiettaと同じく地中海沿

岸のブハイラ県 Idkuに LNG輸出ターミナルを操業していた。

米国エネルギー情報局(EIA)のカントリーレポート(EIA,Country Analysis)に示さ

れているエジプトの天然ガス輸出量の推移を表 3に示す。EIAは 2017年以降のデー

タを更新していないが、エジプトが 2010年半ばに天然ガス輸出国から、輸入国に転

じた様子がわかる。

表 3. エジプトの天然ガス輸出入データ

単位:億 cf

2012 2013 2014 2015 2016

輸出量 2,670 1,750 250 0 16

パイプライン 320 420 110 0 0

LNG 2,350 1,330 150 0 -

輸入量 0 0 0 1,270 2,940

(米国エネルギー情報局(EIA)の Country Analysis,Egypt参照)

しかし、2015年にイタリアの Eniがエジプト沖の地中海で大規模な Zohr天然ガス

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田を発見するなどで、一転して天然ガス開発が進み、国内供給を満たす上に、輸出

余力も回復した(2018年 11月号第 3項参照)。さらに、イスラエル沖の Leviathan天

然ガス田、Tamar天然ガス田で生産が始まり、イスラエルからエジプトへ天然ガスが

輸出されるようになり、エジプトの天然ガス供給能力が増している(2020年 2月号中

東編第 1項、2018年 10月号アフリカ編第 3項参照)。

こうした環境変化を背景に、エジプト政府は、中東・アフリカ・欧州とのアクセス

の良さを背景に、エネルギーハブ化を目指す方針を明らかにしている。その具体的

な動きとして、LNG輸出再開に向けた情報が 2月末に伝えられている。

イタリアの Eniは、エジプト政府、国営石油会社 Egyptian General Petroleum

Corporation(EGPC)、国営天然ガス会社 Egyptian Natural Gas Holding Company(EGAS)、

スペインの天然ガス・電力会社 Naturgyと、Damietta LNG液化ターミナルの再稼働に

向けて合意したことを発表した。

今回、Damietta LNGの天然ガス液化能力は、75.6億 cf/年(214万トン/年)で、2012

年 11月以降稼働を停止していた。

今回の合意に至るまでは、プラントの停止をめぐる Union Fenosa Gas/SEGASとエ

ジプト政府と EGAS間の意見の相違や、Union Fenosa Gasの出資会社 Eniと Natugy

の間の問題が生じていた。因みに、Damietta LNG液化プラントのオーナーは SEGAS

で、Eniは、Naturgyとの均等出資 JV Union Fenosa Gasを通じて SEGASの権益 40%

を保有していた。

この度、Damiettaプラントに Union Fenosa Gasが保有していた権益 80%は、50%

が Eniに、30%が EGASに移管されることになった。その結果、SEGASの権益配分は

Eniが 50%、EGAS 40%、EGPC 10%となり、Eniは、支配力を高めたことになる。な

お、Eniの権益分(LNG生産権)は、37.8億 cf/年となる。

先に述べたように、エジプトが天然ガス輸出を再開できる背景には、Eniによる

Zohr天然ガス田などのエジプトの天然ガス増産があり、Eniは、エジプトの LNG輸

出事業についても主導権を握ることになった。

<参考資料>

https://www.eni.com/en-IT/media/press-release/2020/02/eni-reaches-agreement-with-partn

ers-to-amicably-resolve-the-disputes-affecting-union-fenosa-gas.html

(2) ナイジェリアの大規模天然ガス発電プロジェクトを米国 USTDAが支援

ナイジェリアでは、電力需要の増大に応えるために、天然ガス火力発電プラント

と天然ガスパイプラインの整備を進めているが、大規模な発電プロジェクトの進展

が報じられた。

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NNPC傘下の NNPC Gas and Power Investment Company LTD(GPIC)は、連邦首都地

区(Federal Capital Territory:FCT)で急増している電力需要を賄う目的で、首都ア

ブジャに天然ガスコンバインドサイクル発電プラントの建設を計画している。発電

能力は、1,350MWで、燃料にはナイジェリア産の天然ガスを使用する。

GPICは、プロジェクトの検討に米国の Continuum Associates LLCを起用し、GE

International Operations(Nigeria)の支援も受けることが決まっていた。

米国貿易開発庁(United States Trade and Development Agency: USTDA)は、2月

中旬に、GPICの天然ガス火力発電プロジェクトを支援することを発表した。2月中

旬に、USTDAは、GPICの天然ガス火力発電プロジェクトへの支援を発表した。USTDA

は、プロジェクトの技術検討、経済性検討、資金計画立案を実行するための必要な

資金を補助することになる。

アブジャで開催された Nigeria International Petroleum Summitの期間中に、

USTDAの Thomas R. Hardy代表(Acting Director)により、米国の Mary Beth Leonard

駐ナイジェリア大使の隣席の下で、合意文書に調印された。

Hardy代表は、USTDAが、ナイジェリアの天然ガス事業発展に貢献する意義を強調

した。Leonard大使は、米国-ナイジェリアの関係強化にとって重要な出来事と評価

している。これに対して、NNPCの Kyari社長は、プロジェクトにとって、最適な時

期に USTDAによる支援が決まったことで、アブジャ地区への電力供給の実現に向け

て大きく前進したと歓迎の意を表した。さらに、GE Gas Power, Nigeria and

Anglophone West Africaの Mohammed Mijindadi社長や Continuum Associatesの

Sandeep Baidwan CEOもプロジェクトの進展がナイジェリアの電力供給量不足の解消

につながると述べている。

因みに、1992年以降に USTDAは、にナイジェリアで 65件の事業に関与し、財政支

援額は総額 130億 USDに上っている。

<参考資料>

https://ustda.gov/news/press-releases/2020/ustda-supports-1350-mw-gas-power-plant-abuj

a

6.中南米

(1) ブラジル Petrobrasの業績

本報の 2月号(2020年 2月号中南米編第 2項参照)では、2019年のブラジルの原油・

天然ガス生産量が、過去最高を記録したことを国家石油・天然ガス・バイオ燃料監督

庁(ANP)の情報として紹介した。本号では、国営石油・天然ガス会社 Petrobrasの業

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績レポートの内容を報告する。

・利益データ

2019年通年の業績(金額ベース)の特記事項は、

Adjusted EBITDA(修正後利息、税金、償却前利益)は、2018年比で 3.8%増の

327億 USD。

純利益は前年比 41%増の 102億 USDを記録したが、資産売却の寄与が大きい。

修正純負債額/ Adjusted EBITDA(直近 12ヶ月の)比は、2.41で、2018年の 2.20

から上昇した。

2019年第 4四半期の事業活動の特記事項は、

Adjusted EBITDA(修正後利息・課税・償却前利益)は、前年同期比で 8.1%増の

89億 USD。生産コスト削減、Brent原油価格、製品価格の動きが寄与した。事業

分野別では、探査・開発部門は 88億 USD(2018年第 4四半期 81億 USD)、精製部

門が 16億 USD(同 9億 USD)、天然ガス・電力部門は 2億 USD(同 5億ドル)と

なった。

純利益は前年同期の 23億 USDから 20億 USDに減少した。資産減損処理を

行った影響が大きい。

修正純負債額/Adjusted EBITDA(直近 12ヶ月)比は、第 3四半期の 2.40と

同等の 2.41。

・投資額

2019年の設備投資額は、入札分を含めると 274億 USDで、前年の 134億 USDから

倍増した。入札分を除くと 2019年は 107億 USD、2018年は 126億 USDで、2020年は

120億 USDを予定している。

・生産量、輸出入量

2019年の原油・天然ガス生産量は、2018年の 263万 BOED(原油換算)に比べて、5%

増の 277BOEDとなった。生産量は、表 4に示すように 2019年に入ってからは、四半

期毎に上昇し、第 4四半期には 300万 BOEDを上回る 303万 BOEDで、前同期比で 14%

増産した。

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表 4. 原油・天然ガス生産量の推移

万 BOED

2018.4Q 2019.1Q 2019.2Q 2019.3Q 2019.4Q

原油+天然ガス 266 254 263 288 303

原油 212 202 210 232 245

天然ガス 55 52 53 56 58

原油・石油製品の販売量、輸出入量のデータを表 5に示す。

表 5. 原油、石油製品の輸出入量の推移

万 BPD

2018.4Q 2019.3Q 2019.4Q

輸出量 原油 46.8 58.3 64.7

石油製品 15.8 21.8 21.9

輸入量 原油 14.7 15.3 15.4

石油製品 27.7 17.9 20.3

純輸出量 原油 32.1 43.0 49.3

石油製品 -11.9 3.9 1.6

・精製

第 4四半期に Petrobrasの製油所が処理した原油は、172.9万 BPDで、前年同期比

で 6.4%減少した 2019年第 4四半期の処理原油中の国産原油の割合は、92%で、前

年同期の 90%から僅かに増加した。製油所稼働率は、2019年第 4四半期は 96%で、

前年同期の 94%から若干向上した。

・IMO2020の影響

船舶燃料に対する IMO2020硫黄濃度規制の施行を 2020年 1月に控えて、Petrobras

は、低硫黄船舶燃料(硫黄濃度0.5%以下)を輸出した。Petrobrasの製油所の設備は、

低硫黄重油の生産に適していること、アジア、ヨーロッパ、米国への輸出で、地理

的に恵まれていることが背景にある(Petrobrasの製油所の設備の特徴については

2014年 9月号中南米編第 2項参照)。低硫黄船舶燃料の主な輸出先は、シンガポール

である。なお、2019年下半期に低硫黄船舶燃料の価格が上昇し、2012月 12月には、

アジア市場で、低硫黄船舶燃料の価格は、ディーゼルの価格に接近していた。

Petrobrasが 2019年第 4四半期に生産した重油は、24.9万 BPDで、前年同期比で

54%増、対前四半期で 26%増加した。Petrobrasは、重油の輸出で 2019年に 1.5億

USDを売り上げたと Petrobrasは明らかにしている。

<参考資料>

https://petrobras.com.br/en/news/we-posted-a-net-income-of-us-10-2-billion-in-2019-the

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32

-first-year-of-the-implementation-of-a-new-strategy.htm

https://www.investidorpetrobras.com.br/enu/16580/000156459020005450/pbr-6k_20200220.ht

m

https://petrobras.com.br/en/news/highlights-on-production-and-sales-in-4q19.htm

(2) メキシコ Braskem Idessaが、米国からエタンを輸入

メキシコで米国からの石油・天然ガスの輸入が増大している様子は、本報で紹介し

てきたが(2019年 5月号中南米編第 2項など参照)、メキシコの石油化学会社が、米

国からエタンの輸入を開始したことが 2月上旬に発表されている。

米大陸全体で ExxonMobil、Dow Chemical Companyに次ぐ事業規模の BRASKEM S.A.

は、メキシコの Idessaとの JV Braskem Idesaが米国からエタンを輸入したことを

発表した。

メキシコは、米国からパイプライン経由で天然ガスを大量に輸入しているが、

Braskem Idesaは、石油化学コンプレックス向けにエタンを輸入し、ポリエチレン等

の石油化学製品を生産することを計画していた。同社は、米国産エタンを最大

12,800BPD輸入する目的で、設備対応などに 400万 USDを投資していた。これにより

Braskem Idesaは、エタンの必要量の 19%を賄うことが可能になる。

米国ではシェールガス・オイルの増産で副産物のエタンが大幅に増産した。ナフサ

に比べて安価なクラッカー原料として、北米の石油化学プラントで歓迎されている。

北米では、石油化学プラントの増設が進んでいるが、それでもなお増産したエタン

の全量を吸収することは不可能である。その結果、欧州、インド、中国への輸出プ

ロジェクトが伝えられていた(2017年 5月号東南アジア編第 1項参照、2008年 6月

号東アジア編第 3項参照)。今回の Braskem Idesaによるエタンの輸入開始で、米国

がエタンの販路拡大を続けている様子を窺うことができる。

<参考資料>

http://www.braskem-ri.com.br/detail-notices-and-material-facts/braskem-idesa-starts-et

hane-import

(3) コロンビア Ecopetrolが、フレア排出量の削減を目指す方針

本報では、イラクやナイジェリアなどの大産油国の天然ガスフレア問題と対策に

ついて報告してきた(2013年 6月号中東編第 2項参照、2017年 11月号アフリカ編第

2項参照)。

GHG排出量を削減する上でグローバルな課題である天然ガスフレア排出量削減に

ついて、世界銀行は、政府、企業、開発機関に対して、定常操業時の天然ガスフレ

ア排出量を遅くとも 2030年までゼロとするイニシアチブ“Zero Routine Flaring by

2030”への支持を求めている。Zero Routine Flaring by 2030は、気候変動に対す

るパリ協定や国連の持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals)と歩調

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33

を揃えている。

Zero Routine Flaringでは、新規油田開発時の定常的なフレア排出(routine

flaring)を止めることのみならず、既存の油田からのフレア排出をできるだけ早く

停止することを求めている。また、実効性を確保するために、企業は年間のフレア

排出量を「Global Gas Flaring Reduction Partnership」に対して報告することに

なっている。

世界銀行のウェブサイトをみると、Zero Routine Flaring by 2030には、表 6に

示すように 32政府(カリフォルニア州、西オーストラリア州を含む)、石油会社 39

社が調印している。中南米では、メキシコ、エクアドル、ペルー、フランス領ギア

ナ政府が、企業では、ブラジルの Petrobras、エクアドルの Petroamazonas EPが参

加していた。

表 6. Zero Routine Flaring by 2030への賛同国、企業

政府 企業

北米 カナダ、米国、

カリフォルニア州 Occidental

中南米 メキシコ、エクアドル、

ペルー Petrobras、Petroamazonas EP 、Ecopetrol、

欧州

ノルウェー、デンマーク、

ドイツ、オランダ、

フランス、カザフスタン、

アゼルバイジャン、

トルクメニスタン、

ウズベキスタン、

Equinor、Shell、BP、Total、Eni、Repsol、

Galp Energia、OMV Group、MOL Group、

KazMunayGas、KazPetrol Group、SOCAR、

Uzbekneftegaz Wintershall Dea

ロシア ロシア Gazprom Neft、LUKOIL

中東 サウジアラビア、イラク、

オマーン、バーレーン

Saudi Aramco(サウジアラビア)、Kuwait Oil

Company、Petroleum Development Oman

アジア インドネシア Oil India Limited

オセアニア ニュージーランド、

西オーストラリア州 Woodside

アフリカ

ナイジェリア、アンゴラ、

エジプト、カメルーン、

ニジェール、南スーダン

モロッコ、ガボン、

コンゴ共和国

Sonatrach、Sonangol、

Nigerian National Petroleum Corporation、

Niger Delta Petroleum Resources Ltd.、

Frontier Oil Limited、Seven Energy、

Oando Energy Resources、

Pan Ocean Oil Corporation、

Seplat Petroleum Development Company Plc

Enterprise Tunisienne d’Activités

Pétrolières、Nile Petroleum Corporation Ltd.、

Societé Nationale des Hydrocarbures

Societé Nationale des Petroles du Congo

Page 34: JPEC 世界製油所関連最新情報 2020年3月号(3) コロンビアEcopetrolが、フレア排出量の削減を目指す方針 7. 東南アジア 34ページ (1) インドが米国からの原油・天然ガスの輸入を拡大

34

政府、企業とは別に、World Bank Groupを含む世界各地域の開発銀行 15行(AfDB、

AFD、ADB、AIIB、CAF、EADB、EBID、EBRD、EIB、IDB、IsDB、OFID、SE4All、BOAD、

World Bank Group)も、Zero Routine Flaring by 2030を支持している。

コロンビアの国営 Ecopetrolは、1月末に Zero Routine Flaring by 2030へ調印

した。調印に際して、EcopetrolのFelipe Bayón社長は、コロンビアの GHG排出量

削減に一歩踏み出したと述べるとともに、Ecopetrolがソーラーや風力などの再生可

能エネルギーの増産を図ることを明らかにしている。

<参考資料>

https://www.ecopetrol.com.co/wps/portal/web_es/ecopetrol-web/our-company/Press-Room/Pr

ess-Release/2015/2015/Ecopetrol+endorses+the+worldwide+initiative+to+eliminate+routine

+gas+flaring+in+the+oil+and+gas+fields

https://www.worldbank.org/en/programs/zero-routine-flaring-by-2030.print#1

http://pubdocs.worldbank.org/en/342291581024597588/ZRF-initiative.pdf

7. 東南アジア

(1) インドが米国からの原油・天然ガスの輸入を拡大

2020年 2月下旬にインドを初めて訪問した米国のトランプ大統領とインドのモデ

ィ(Modi)首相の首脳会談に合わせて開催された“India-US Business Story:

Opportunity, Innovation, Entrepreneurship”で、Pradhan石油・天然ガス相が、政

府公式サイトにインド-米国間のエネルギー貿易の現状と今後の方針を表明してい

る。

インドと米国間の炭化水素貿易は、過去 3年間で急増し、両国間の貿易総額の 11%

に相当する 77億ドルに達した。なかでも、米国からインドへの原油輸出量は、米国

の国別輸出量で第 4位につけている。

天然ガスについては、2018年に India-US Gas Task Forceが発足し、インド政府

が目指している天然ガス経済の確立に向けて検討作業が進められている。具体的な

成果として、米国 ExxonMobilがインドの LNG市場へ進出することで、国営インド国

営 Indian Oil Corporation(IOC)と合意に至ったことが挙げられている。

さらに Pradhan石油相は、インドが重要視しているインドのエネルギー市場の拡

大にも、米国からの技術導入が欠かせないとの見方を示した。

米国からインドへの原油と天然ガス(LNG)の輸出量の推移を、米国エネルギー情報

局(EIA)のデータベースで見たものが表 7、8、図 5、6になる。

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35

表 7. 米国からインドへの原油輸出量の推移(月別)

図 5. 米国からインドへの原油輸出量の推移

(EIAのデータベースより)

万バレル

Dec100

Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec100 55.6 725.9 52.4 471.9 1,044.1 316.6 607.3 505.6 676.6 351.7 604.5

Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec667 457.5 1275.9 1176.8 787.5 871.3 431.4 671.4 744.3 741.9 657.1 851.7

2019

2018

2017

0

200

400

600

800

1000

1200

1400万バレル

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表 8. 米国からインドへの天然ガス(LNG)輸出量の推移(月別)

図 6. 米国からインドへの天然ガス(LNG)輸出量の推移(月別)

<参考資料>

https://www.eia.gov/dnav/pet/hist/LeafHandler.ashx?n=PET&s=MCREX_NUS-NIN_1&f=M

https://pib.gov.in/PressReleseDetail.aspx?PRID=1604374

(2) インドの製油所が BS-VI規格のガソリン・ディーゼル供給体制を確立

インドでは、2020年 4月 1日から、ガソリン・ディーゼルに対して BS-VI規格(硫

黄分:10ppm等)が全国に適用されるが、それを間近に控えた石油・天然ガス省や石油

会社の動向を紹介する。

億cf

JAN FEB MAR APR MAY JUN JUL AUG SEP OCT NOV DEC

0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

JAN FEB MAR APR MAY JUN JUL AUG SEP OCT NOV DEC

0.0 0.0 28.4 0.0 0.0 36.2 0.0 37.0 36.4 0.0 31.2 0.0

JAN FEB MAR APR MAY JUN JUL AUG SEP OCT NOV DEC

36.2 34.0 0.0 0.0 0.0 34.1 0.0 0.0 0.0 0.0 70.6 34.3

JAN FEB MAR APR MAY JUN JUL AUG SEP OCT NOV DEC

36.0 0.0 108.3 32.5 71.2 67.2 59.2 0.0 59.1 71.3 0.0 71.6

JAN FEB MAR APR MAY JUN JUL AUG SEP OCT NOV DEC

70.3 69.9 74.5 67.4 139.4 32.2 34.9 72.9 143.6 69.6 69.3 70.9

2015

2016.0

2017.0

2018.0

2019.0

0

20

40

60

80

100

120

140

160

億cf

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1) BS-VI基準施行に向けた石油・天然ガス省の見解

インドの Shri Dharmendra Pradhan石油・天然ガス相は、2月中旬に石油省や国営

会社(public sector undertakeings:PSU)の幹部と、BS-VI規格燃料の供給準備状況

についての会合をを持った。Pradhan氏は、BS-IV規格から BS-VI規格への転換は、

モディ政権の重要な環境政策に位置付けられていると強調した。また、BS-VI規格の

ガソリン・ディーゼルは、圧縮天然ガス(CNG)に匹敵するクリーンな燃料で、大気環

境の改善に寄与することになるとインドの精製会社の取り組みを評価している。

2) IOCの Mathura製油所の取り組み

国営 Indian Oil Corp(IOC)は、Mathura製油所(800万トン/年、16万 BPD)のガソ

リン・ディーゼルの品質改善への取り組みを振り返ったプレスリリースを 2月上旬に

発表している。

インドでは、2010年 10月に BS-Ⅲ(硫黄濃度規格、ガソリン 150ppm以下、ディー

ゼル 350ppm以下)が、2017年 4月からは BS-IV規格(硫黄濃度 50ppm以下)規格が運

用されてきた。その後、インド政府は 2016年 11月に、BS-IV規格の次の規格を、BS-V

をスキップして2020年1月からBS-VI規格を全国に導入することを決めた。さらに、

BS-VI規格をデリー首都直轄地域(National Capital Territory:NCT)では、2018年 4

月から、デリー首都圏(National Capital Region:NCP)では、2019年 4月に、BS-VI

規格を先行導入することが決められていた。

インドの全ての製油所で BS-IV規格の燃料を生産していた時期に、Mathura製油所

は、既設の精製設備で BS-VI燃料を生産し、NCTへ供給するプロジェクトに取り組ん

でいた。その結果、Mathura製油所は 2018年 1月に、NCT/NCRsに対して BS-VI燃料

の出荷を開始した。

その後、Mathura製油所は、ガソリン・ディーゼルの全量を BS-VI規格準拠品とす

るために Quality Improvement Project(QIP)プロジェクトをスタートさせた。QIP

プロジェクトでは、ディーゼル水素化脱硫設備(DHDS)やガソリン選択脱硫プロセス

Prime-Gなどの導入を進め、2020年 1月から、ガソリン・ディーゼルを全て BS-VI規

格とするための設備が整った。

3) HPCLの対応状況

国営 Hindustan Petroleum Corporation Ltd(HPCL)の BS-VIへの取り組み状況を、

最近公表された 2019年第 3四半期(2019年 10-12月期、インドの会計年度は 4-3月

制)の業績報告から調べてみる。

HPCLは、2019年第 3四半期に Mumbai製油所、Visakh製油所で BS-VIガソリン・

ディーゼルの生産対応やその他の改造工事を目的に、製油所を停止し、設備工事を

実施した。その影響もあって、HPCLの精製マージンは、前年同期の 5.17USD/バレル

から 1.85USD/バレルに低下した。

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HPCLは、BS-VI対応を計画通りに済ませることができた。また、2020年 1月 1日

発効の船舶燃料硫黄濃度規制 IMO2020に対応した低硫黄船舶燃料の供給体制の整備

も、2019年第 3四半期に完了している。

<参考資料>

https://pib.gov.in/PressReleseDetail.aspx?PRID=1603492

https://www.iocl.com/AboutUs/NewsDetail.aspx?NewsID=54895&tID=8

https://www.iocl.com/AboutUs/MathuraRefinery.aspx

https://www.hindustanpetroleum.com/pressreleasedetails?EnDocID=312

8. 東アジア

(1) 中国 Sinopecのシェールガス、シェールオイル生産状況

1) 新疆ウイグル自治区のシェールオイルの実証生産プロジェクト

本報では、2013年頃から中国のシェール資源の探査開発状況に注目してきた(2013

年東アジア編 1月号第 2項)が、2020年 2月半ばに、シェールオイルの開発状況を国

有 Sinopecが公表している。

新疆ウイグル自治区の Xinjiang Oilfield Company(新疆油田公司)は、シェールオ

イル生産実証プロジェクトで、2020年年初から 2月 12日までのシェールオイル生産

量が 25,000トンに達したと発表した。原油類の日量生産量として、590トン/日を検

証している。

Xinjiang Oilfield Companyは、シェールオイル生産量を 2021年までに 100万ト

ン/年、2025年までに 200万トン/年に引き上げ、その後 8年間に亘って安定生産を

続けることを計画している。

Xinjiang Oilfield Company が操業している Xinjiang Jimusar National

Terrestrial Shale Oil Demonstration Zone(新疆吉木萨尔国家级陆相页岩油示范区)

は、2019年 10月 15日に中国初のシェールオイル開発の実証現場として設定されて

いた。

なお、Xinjiang Oilfield Companyは、新疆北部のジュンガリア(Junggar)盆地と

Mahu(為瑪湖)で、原油 20億トンの埋蔵を発見していた。同社は、2020年にシェール

鉱区で 48井を掘削することを計画している。

2) Sinopec、涪陵区のシェールガスが増産

中国の重慶市涪陵区(Fuling District、Chongqing Municipality)は、中国のシェ

ールガス開発を先導してきたが (2014年 4月号東アジア編第 2項参照)、2020年 2

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月時点の生産量が公表されている。

涪陵区のシェールガス開発オペレーターの国有 Sinopecは、2020年 1月 1日から

2月 25日までのシェールガス生産量が、前年同期と同水準の 9.12億 m3に達したと

発表した。シェールガスの販売量は、8.75億 m3で、前年同期並みであった。涪陵区

のシェールガスの累計生産量は、280億 m3に達している。

中国は、シェールガス探査で、埋蔵量を拡大させ、掘削技術の向上も実現してい

る。なお、中国自然資源部の“China Mineral Resources、2018”によると、中国に

は、2018年 4月時点でシェールガスが 1兆 m3埋蔵している。

<参考資料>

http://www.sinopecnews.com.cn/news/content/2020-02/14/content_1791164.htm

http://www.sinopecnews.com.cn/news/content/2020-01/22/content_1790277.htm

http://www.xinhuanet.com/english/2020-02/26/c_138820414.htm

https://www.gov.cn/xinwen/2018-10/22/5333589/files/01d0517b9d6c430bbb927ea5e48641b4.pd

f

(2) CNPC、タリム盆地で原油・天然ガスを増産

中国では、2019年に原油生産量が増加したが、CNPCが新疆ウイグル自治区にある

陸上生産拠点の一つであるタリム盆地の原油・天然ガスの生産状況を、2月末に発表

している。

CNPCによると、2020年の年初から2月23日までのタリム盆地の原油生産量は 96.2

万トンに達した。天然ガスの生産量は、46.9億 m3(原油換算 422万トン)で、原油・

天然ガス生産量は、518万トン(原油換算)になる。CNPCは、タリム盆地から中国東

部、西部へ天然ガスを 36.23億 m3供給し、2019年の同期間に比べて 2.33億 m3増加

した。

CNPCは、新疆ウイグル自治区で石油・天然ガスを年間 5,000万トン生産することを

目指しているが、タリム盆地では探査・評価井の掘削や生産井の建設を急ぎ、原油・

天然ガスの目標生産量である年間 3,000万トン(原油換算)/年に向けて、順調な生産

が続いている。

<参考資料>

http://news.cnpc.com.cn/system/2020/02/27/001764392.shtml

(3) China-Russia East天然ガスパイプラインの稼働状況

2019年 12月に中国の北部で運用を開始した China-Russia East天然ガスパイプラ

イン(中俄東線天然氣管)の操業状況を CNPCが伝えている(2020年 1月号東アジア編

第 3項参照)。

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中国北東部のロシアとアムール河を挟んでロシアと接する黒竜江省黒河市の税関

によると、China-Russia East天然ガスパイプラインは 2019年 12月 2日の運転開始

から順調に操業している。2020年 2月 25日までの、中国国内で最初の黒河市にある

中継基地を通過した天然ガスの累計輸送量は 8.4億 m3に達した。

パイプラインの天然ガス輸送能力は、最終的には 380億 m3/年であるが、2020年の

輸送量は 50億 m3と伝えられていることから、運転開始後 3ヶ月弱としては順調に稼

働していると見ることができる。

税関は、中継基地を毎日係員で点検し、天然ガスをサンプリングし、照合試験を

実施している。コロナウイルス問題の発生以降、税関は、感染防止対策に万全を期

していると CNPCのプレスリリースは報じている。

China-Russia Eastern天然ガスパイプラインは、黒河市から 9つの省を経由し、

上海市を結ぶ計画で、全長 5,111kmうち、北部の 1,067km分が完成している。

<参考資料>

http://news.cnpc.com.cn/system/2020/03/02/001764776.shtml

9. オセアニア

(1) オーストラリアの Viva Energyと Caltex Australiaの業績とトピックス

1) オーストラリア Viva Energyの Geelong製油所の大規模補修計画と業績予想

オーストラリアの精製会社 Viva Energy Australiaは、Geelong製油所の大規模な

メンテナンス工事を発表した。Viva Energy Australiaは、オーストリア Vitol傘下

のオーストラリアの精製会社で、2014年に Shellから Geelong製油所(12万 BPD)を

含むオーストラリアのダウンストリーム事業の大部分を買収していた。

Viva Energyは 2020年に、同社唯一の Geelong製油所で大規模なメンテナンス工

事“Cracker Turnaround”を計画している。Cracker Turnaroundでは、製油所の主

要設備を 2ヶ月間シャットダウンする予定で、投資額は 1億 AUD(6,500万 USD)を計

画している。主要な設備をオーバーホールし、製油所の寿命を延ばすことを目的と

している。

ビクトリア州の沿岸都市 Corioにある Geelong製油所は、66年前の 1954年に操業

を開始した。処理原油の 30%はオーストラリア産で、ビクトリア州の燃料需要の半

分を賄い、ビクトリア州のエネルギー保障、雇用維持に寄与している。

Viva Energyの Wyatt CEOは、エネルギーコスト上昇と精製マージンの低迷で

Geelong製油所の収益力が悪化しているものの、オーストラリアの石油精製事業の将

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来性に期待していると述べている。

2019年に Geelong製油所の操業は、生産量が過去最高水準を記録したと同時に、

高い安全成績、環境対応を達成することができた。Viva Energyは、スペインの電力

会社 Accionaと再生可能エネルギー発電事業に合意し、電力コストの節減を達成し

ている。

Viva Energyは、2019年 2月に Accionaとの間で、電力売買契約(Power Purchase

Agreement:PPA)に調印している。契約では、ジェリブランド山(Mt Gellibrand)の

Accionaの風力発電プラント(132MW)から電力を Geelong製油所に供給し、必要量の

1/3を賄うことを計画していた。

参考までに、Viva Energyの 2019年の業績予想報告書から特記事項を以下に示す。

・2019年の予想販売量は、1,460万 KL~1,470万 KLで、2018年に比べて 4.3%の

増加が見込まれている。

・2019年の EBITDAは、6.25億 AUD~6.55億 AUDで、2018年の 7.7億 AUDから、

約 17%減少する。小売り事業部門の EBITDAは、5.48億 AUD~5.58億 AUD、

その他販売事業部門の EBITDAは、2.92億 AUD~2.97億 AUD、精製部門は、

1.2億 AUD~1.3億 AUDと見積もられている。

・2019年の純利益(NPAT)は、1.35億 AUD~1.65億 AUDの見込みで、2018年の

2.29億 AUDから 35%の減益と予測されている。

精製事業部門では、

・2019年上半期の生産量は、過去最高を記録した(速報には数量の記載なし)。

精製マージンは低迷したが、原油油種の最適化と製品バランスの最適化を図った。

・2019年下半期は、国際市場で製品供給量が一時的に減少したことや海外の製油所

の計画補修工事の動向が Viva Energyにとってプラスに働き、精製マージンは、改

善に向かった。しかしながら、原油価格が上昇したことで、一部は相殺された。

・2019年 1月から 11月の精製マージン(GRM)は、5.8USD/バレルで、原油処理量は、

3,820万バレ万バレル(11.4万 BPD)。

・2019年 10-11月の原油処理量は 720万バレル(12万 BPD)で、精製マージンは、

8.5USD/バレルであった。

<参考資料>

https://www.vivaenergy.com.au/about-us/media-centre/news/2020/investing-in-geelong-for

Page 42: JPEC 世界製油所関連最新情報 2020年3月号(3) コロンビアEcopetrolが、フレア排出量の削減を目指す方針 7. 東南アジア 34ページ (1) インドが米国からの原油・天然ガスの輸入を拡大

42

-the-future

https://www.acciona.com/pressroom/news/2019/february/acciona-signs-corporate-ppa-viva-

energy-australia/

https://investor.vivaenergy.com.au/DownloadFile.axd?file=/Report/ComNews/20191209/0218

3265.pdf

2) Caltex Australiaの業績

精製事業会社 Caltex Australiaの 2019年の業績が発表されている。表 9に示す

ように、事業部門別 EBIT、純利益とも 2019年の業績は、2018年を下回った。

表 9. Caltex Australiaの業績

億 AUD

2018 2019

EBIT 燃料・インフラ(製油所除き) 4.09 3.80 -7%

EBIT 燃料・インフラ(Lytton製油所) 1.61 0.70 -57%

EBIT コンビニエンスストア事業 3.07 2.01 -35%

純利益 5.58 3.44 -38%

2019年の Lytton製油所の生産量は、580万 KL(10万 BPD)で、2018年の 620万 KL

に比べて 6%減少した。2019年の精製マージンは、8.08USD/バレルで、2018年の

9.99USD/バレルから 19%縮小した。

業績報告書では、IMO2020船舶燃料硫黄濃度規制による「LSFOとディーゼルの USD/

バレルの変動」、「低硫黄原油のプレミアムの拡大(リビアの原油減産も影響)」、など

の影響を想定している。

さらに、コロナウイルス(COVID19)問題の影響として、

・中国の燃料需要量減少、製油所稼働率の低下、

・原油の値下がり、

・ジェット燃料需要の低下、

などの影響があるとの見方を示している。

なお、業績が低迷している Caltex Australiaは、事業を売却する方針で、売却先

を探しているところである。英国の EG Groupが買収に名乗りを上げているが、Caltex

と EGの間で買収額に隔たりがあり、3月上旬時点では、合意には至っていない模様

である。

<参考資料>

https://wcsecure.weblink.com.au/pdf/CTX/02206184.pdf

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43

https://www.accc.gov.au/public-registers/mergers-registers/public-informal-merger-revi

ews/eg-group-potential-acquisition-of-caltex-australia-limited

https://www.accc.gov.au/system/files/public-registers/documents/EG%20Caltex%20-%20Mark

et%20Inquiry%20letter%20-%206%20March%202020.pdf

(2) ニュージーランド初の水素ステーション網の計画

ニュージーランドのエネルギー会社 Waitomo Groupと Hiringa Energyは、同国初

の水素ステーション網を全国展開する計画を発表した。

北島のタラナキ地方に拠点を置く Hiringa Energyは、ニュージーランド初のグリ

ーン水素企業で、工業分野、公共分野、輸送部門への水素供給事業を担っている。

同じく北島ワイカト地方の Waitomo Groupは、独立系の燃料小売会社で、事業を急

速に拡張している。

両社は、水素ステーションの詳細設計とロケーションを検討することになる。

Waitomoの既設給油所にも水素ステーションを設置する見通しである。既に、第 1期

分のステーション設置場所の選定は完了している。第 2期分以降に、水素ステーシ

ョン 20ヶ所を北島、南島に設置することが計画されている。

Hiringa Energy の Andrew Clennett CEOは、計画を伝えるプレスリリースで、「重

量級車両の台数は、全体の 4%に過ぎないが、廃棄物量は全体の 25%を占めている。

重量級車両に水素燃料を供給することは、環境対策として重要な事業である。」と述

べている。

Hiringaのグリーン水素プロジェクトは、再生可能エネルギーで発電した電力で水

を電気分解して発生させるプロセスで、これは世界中で計画されている一般的なプ

ロセスである。ニュージーランドは、再生可能エネルギーによる電力が豊富である

ことから、グリーン水素プロジェクトの今後の動向が注目される。

<参考資料>

https://www.hiringa.co.nz/post/hiringa-and-waitomo-fuelling-future-kiwi-generations-fu

el-needs

**************************************************************************

編集責任:調査情報部 ([email protected] )

本調査は経済産業省の「令和元年度燃料安定供給対策に関する調査事業」として JPEC

が実施しています。