JICA 事業におけるジェンダー主流化のための手引き...

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平成 272015)年 2 1 JICA 事業におけるジェンダー主流化のための手引き 【防災/災害復旧・復興】 1.手引きの目的・使用方法 (1) 目的 本手引きは、JICA 関係者が、防災/災害復旧・復興分野に関するジェンダー視点を理解し、事業の形 成、実施、モニタリング・評価の各段階において、ジェンダー視点に立った取り組みを行うことで、 JICA の防災/災害復旧・復興分野の事業におけるジェンダー主流化を促進することを目的としている。なお、 本手引きは、2014 6 月に作成されたポジションペーパー「防災の主流化に向けて」で提示されている 5 つの開発戦略目標におけるジェンダー視点とその業務への反映について説明している。 (2) ジェンダー主流化とは ジェンダー主流化とは、すべての開発政策、施策、事業の計画、実施、モニタリング、評価のあらゆ る段階で、ジェンダー視点に立って開発課題やニーズ、インパクトを明確にしていくプロセスのことで ある。ジェンダー主流化は、ジェンダー平等を達成するために必要な手段であると認識されている。な お、ジェンダー平等とは、男性と女性が同じになることを目指すものではなく、人生や生活において、 さまざまな機会が性別にかかわらず平等に与えられ、女性と男性が同様に自己実現の機会を得られるよ うな社会の実現を目指すものである。また、ジェンダー(平等の)視点とは、男女の固定的役割分担や 力関係が社会的に作られたものであることを意識していこうとする視点のことである。JICAの事業にお いては、例えば、計画・実施されている活動が、男性と女性の社会的な役割の違いや力関係によって生 じる課題やニーズの改善・充足に役立つものであるかどうか、新たにジェンダーによる格差を生じさせ ていないかどうか、意思決定に女性が参加することを促進しているかどうか、と言った視点から事業を 捉え直してみることなどを含む 1 1 本「ジェンダー主流化のための手引き」は、ジェンダー平等及び女性のエンパワメントに関する専門性を必ずしも 有していない JICA 関係者が使用することを前提に、事業の計画・立案、実施、モニタリング、評価段階で取り組み が可能と思われる活動に焦点を当てて記載している。 目次 1. 手引きの目的・使用方法......................................................................................................................................................1 2. 防災/災害復旧・復興分野におけるジェンダー主流化の必要性.................................................................................3 3. ジェンダー主流化のための視点と業務への反映 .............................................................................................................6 3.1 案件形成段階におけるジェンダー視点の取り入れ ................................................................................................6 3.1.1 案件形成段階におけるジェンダー視点の取り入れ(応急対応を除く戦略目標①~④共通)............6 3.1.2 復旧・復興ニーズアセスメント調査へのジェンダー視点の取り入れ(戦略目標⑤)........................6 3.2 事前段階における調査へのジェンダー視点の取り入れ ........................................................................................7 3.2.1 事前段階における調査へのジェンダー視点の取り入れ(応急対応を除く戦略目標①~④共通)....7 3.2.2 復旧・復興事業の事前段階における調査へのジェンダー視点の取り入れ(戦略目標⑤)................9 3.3 事業実施段階におけるジェンダー視点の取り入れ .............................................................................................. 11 3.3.1 開発戦略目標 ①:防災体制の確立と強化................................................................................................. 11 3.3.2 開発戦略目標 ②:自然災害リスクの的確な把握と共通理解の促進 ....................................................13 3.3.3 開発戦略目標 ③:持続的開発のためのリスク削減対策の実施 ............................................................16 3.3.4 開発戦略目標 ④:迅速かつ効果的な備えとレスポンス(応急対応) ................................................17 3.3.5 開発戦略目標 ⑤:より災害に強い社会へのシームレスな復旧と復興 ................................................19 3.4 事業進捗促進(モニタリング・評価)及び事後評価(応急対応以外の全戦略目標共通)..........................22 3.4.1 ジェンダー視点を取り入れた事業進捗促進:モニタリング・評価.......................................................22 3.4.2 ジェンダー視点を取り入れた事後評価 .......................................................................................................22 4. 主要参考文献........................................................................................................................................................................23 別添 ジェンダー主流化団員業務実施契約(単独型)公示例..........................................................................................24

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平成 27(2015)年 2 月

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JICA 事業におけるジェンダー主流化のための手引き 【防災/災害復旧・復興】

1.手引きの目的・使用方法

(1) 目的 本手引きは、JICA 関係者が、防災/災害復旧・復興分野に関するジェンダー視点を理解し、事業の形

成、実施、モニタリング・評価の各段階において、ジェンダー視点に立った取り組みを行うことで、JICA

の防災/災害復旧・復興分野の事業におけるジェンダー主流化を促進することを目的としている。なお、

本手引きは、2014 年 6 月に作成されたポジションペーパー「防災の主流化に向けて」で提示されている

5 つの開発戦略目標におけるジェンダー視点とその業務への反映について説明している。

(2) ジェンダー主流化とは

ジェンダー主流化とは、すべての開発政策、施策、事業の計画、実施、モニタリング、評価のあらゆ

る段階で、ジェンダー視点に立って開発課題やニーズ、インパクトを明確にしていくプロセスのことで

ある。ジェンダー主流化は、ジェンダー平等を達成するために必要な手段であると認識されている。な

お、ジェンダー平等とは、男性と女性が同じになることを目指すものではなく、人生や生活において、

さまざまな機会が性別にかかわらず平等に与えられ、女性と男性が同様に自己実現の機会を得られるよ

うな社会の実現を目指すものである。また、ジェンダー(平等の)視点とは、男女の固定的役割分担や

力関係が社会的に作られたものであることを意識していこうとする視点のことである。JICAの事業にお

いては、例えば、計画・実施されている活動が、男性と女性の社会的な役割の違いや力関係によって生

じる課題やニーズの改善・充足に役立つものであるかどうか、新たにジェンダーによる格差を生じさせ

ていないかどうか、意思決定に女性が参加することを促進しているかどうか、と言った視点から事業を

捉え直してみることなどを含む 1。

1 本「ジェンダー主流化のための手引き」は、ジェンダー平等及び女性のエンパワメントに関する専門性を必ずしも

有していない JICA 関係者が使用することを前提に、事業の計画・立案、実施、モニタリング、評価段階で取り組み

が可能と思われる活動に焦点を当てて記載している。

目次

1. 手引きの目的・使用方法 ...................................................................................................................................................... 12. 防災/災害復旧・復興分野におけるジェンダー主流化の必要性 ................................................................................. 33. ジェンダー主流化のための視点と業務への反映 ............................................................................................................. 6

3.1 案件形成段階におけるジェンダー視点の取り入れ ................................................................................................ 6 3.1.1 案件形成段階におけるジェンダー視点の取り入れ(応急対応を除く戦略目標①~④共通) ............ 6 3.1.2 復旧・復興ニーズアセスメント調査へのジェンダー視点の取り入れ(戦略目標⑤) ........................ 6

3.2 事前段階における調査へのジェンダー視点の取り入れ ........................................................................................ 7 3.2.1 事前段階における調査へのジェンダー視点の取り入れ(応急対応を除く戦略目標①~④共通) .... 7 3.2.2 復旧・復興事業の事前段階における調査へのジェンダー視点の取り入れ(戦略目標⑤) ................ 9

3.3 事業実施段階におけるジェンダー視点の取り入れ .............................................................................................. 11 3.3.1 開発戦略目標 ①:防災体制の確立と強化 ................................................................................................. 11 3.3.2 開発戦略目標 ②:自然災害リスクの的確な把握と共通理解の促進 ....................................................13 3.3.3 開発戦略目標 ③:持続的開発のためのリスク削減対策の実施 ............................................................16 3.3.4 開発戦略目標 ④:迅速かつ効果的な備えとレスポンス(応急対応) ................................................17 3.3.5 開発戦略目標 ⑤:より災害に強い社会へのシームレスな復旧と復興 ................................................19

3.4 事業進捗促進(モニタリング・評価)及び事後評価(応急対応以外の全戦略目標共通) ..........................22 3.4.1 ジェンダー視点を取り入れた事業進捗促進:モニタリング・評価 .......................................................22 3.4.2 ジェンダー視点を取り入れた事後評価 .......................................................................................................22

4. 主要参考文献 ........................................................................................................................................................................23別添 ジェンダー主流化団員業務実施契約(単独型)公示例 ..........................................................................................24

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防災/災害復旧・復興 ジェンダー主流化のための手引き

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(3) 使用方法 本手引きを使用する際は、まず、「2. 防災/災害復旧・復興分野におけるジェンダー主流化の必要性」

にて防災/災害復旧・復興分野に関するジェンダー視点を理解した上で、下表【手引きの参照先】を参

照し、各開発戦略目標及びプロジェクトサイクルの各段階において、それぞれの事業が該当する項を参

照されたい。また、より詳細な情報を確認する場合は、「4. 主要参考文献」を参照していただきたい。

なお、本手引きの使用に関する特に重要な留意事項を以下に記しているので、併せてご確認願いたい。

【手引きの参照先】

開発戦略目標① 開発戦略目標② 開発戦略目標③ 開発戦略目標④ 開発戦略目標⑤

防災体制の確立と強化

自然災害リスクの的確な把握と共通

理解の促進

持続的開発のためのリスク削減

対策の実施

迅速かつ効果的な備えとレスポンス

(応急対応)

より災害に強い社会へのシームレスな復旧と復興

3.1.2 復旧・復興

ニーズアセスメント調査へのジェン

ダー視点の取り入れ

(戦略目標⑤)(→p.6)

3.3.1(→p.11 )

3.3.2(→p.13 )

3.3.3(→p.16 )

3.3.4(→p.17 )

3.3.5(→p.19 )

案件発掘

事前段階

(案件形成段階

事前評価

ジェンダー室の関与

円借款

2.防災・災害復興におけるジェンダー主流化の必要性(→p.2 )

3.1.1 案件形成段階におけるジェンダー視点の取り入れ

(応急対応を除く戦略目標①~④共通))(→p.6)

手引きの参照先

要望調査時点で「協議対象外」以外の分類となった案件について、実施計画、案件計画調書等の事前協議時にコメントし、ジェンダー分類の設定を行う

事後段階

事後評価

無償資金協力

3.4 事業進捗促進(モニタリング・評価)及び事後評価(応急対応以外の全戦略目標共通)

(→p.22 )

3.2.1 (応急対応を除く戦略目標①~④共通)(→p.7 ) 「3.2.2

(戦略目標⑤)」(→p.9 )

3.2 事前段階における調査へのジェンダー視点の取り入れ(→p.7 )

3.3 事業実施段階へのジェンダー視点の取り入れ(→p.5 )

技術協力

事業実施

事業実施段階

モニタリン

グ・評価

案件発掘

協力準備調査/

事業事前評価

案件審査

閣議決定、交換公文

贈与契約(G/A)

案件の実施監理

案件の事後監理

(事後評価・

フォローアップ)

プロジェクト準備

要請

検討/

審査・事業事前評価

交換公文(E/N)

借款契約(L/A)

プロジェクトの実施

完成/事後評価・

フォローアップ

案件発掘・形成

要請~採択

プロジェクトの実施

詳細計画策定調査/

事前評価

事業進捗促進

(モニタリング、中間

レビュー、終了時評価)

フォローアップ/

事後評価

事業進捗監理

(モニタリング)事業進捗監理

(モニタリング、

中間レビュー)

合意文書(R/D)

【本手引きの使用に関する留意事項】

① 本手引きに記載されている取り組み例が、全ての事業対象地域において社会・文化的に許容され

ることではない可能性やプロジェクトの実施上妥当でない可能性もあるため、全ての取り組み例

を一律に案件に適用する必要はなく、同時に、本手引きにジェンダー視点に立った取り組みの全

てが網羅されている訳ではないため、必要に応じて項目を選択・追加して使用されたい。

② すべての活動において、ジェンダー視点と同様に、災害に対して脆弱なグループ・多様なニーズ

を持つ人々(子ども、高齢者、障害者、貧困層、社会的に周縁化されたグループ等)が主流化さ

れるような視点を持つことが重要である。ジェンダー主流化に焦点を当てた本手引きが、防災/

災害復旧・復興における多様性の理解の一助となり、他の社会的に不利な状況に置かれた人々の

主流化につながることが期待される。

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ジェンダー主流化のための手引き 防災/災害復旧・復興

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2. 防災/災害復旧・復興分野におけるジェンダー主流化の必要性

(1) 自然災害はすべての人に平等に影響を与えるわけではない。 自然災害による被害の度合いが男女で異なることは過去の災害事例からも明らかであり、災害とジ

ェンダーには密接なつながりがあると言える。最も顕著な例として自然災害における死者数を性別に

見ると、先進国・途上国を問わず、多くの場合、死者数に占める女性の割合は男性よりも高い。

(2) 性別により自然災害の被害の度合いが異なる背景には、様々な構造的要因がある。

自然災害による被害の度合いが性別により異なる背景には、男女の体格・体力差や妊娠による女性

の移動の困難さなどの身体的な要因に加え、災害前から当該社会に存在する以下のような構造的な要

因がある。 男女が置かれた社会的状況:日頃から女性の社会的地位が低く、知識や情報へのアクセスが限ら

れているために、避難経路や避難施設、災害についての知識や情報が入手できずに、災害が起こ

った際に適切な避難ができないことがある。また、普段から意思決定権が男性にあり、とっさの

判断ができず女性が逃げ遅れる場合もある。 社会規範:例えば、スリランカでは、泳ぎや木登りは男児にしか教えられないため、多くの女性

や女児が身を守れず、地震による津波の犠牲となった。また、女性の服装が動きにくいものであ

ったり、夫や親族の男性の同伴なしには避難所へ移動できないこともある。 性別による役割の相違:一般に女性は男性よりも家にいる時間が長く、また、子どもや高齢者、

家財道具を守ることが役割とされているため、それらを守ろうとして逃げ遅れることがある。

141 カ国で発生した災害を対象にした研究 2によると、女性の社会経済的地位が低い社会ほど、災

害時および災害後の影響により、男性よりも女性の犠牲者が多くなる(もしくは若い年齢で死亡する)

という結果が出ている。また、子ども、高齢者、障害者等の自然災害に対して脆弱なグループは、被

害の度合いが大きくなりがちである。さらに、貧困層や社会的に周縁化されたグループは、もともと

災害の影響を受けやすい土地に住んでいることが多く、家屋も災害に耐えられるようには造られてい

ないなど、災害の影響を強く受けることにも留意が必要である。

(3) 災害後の影響も男女で異なる。 災害による直接的な被害にとどまらず、災害後の影響も男

性と女性とでは異なる。例えば、避難所での生活や救援物資

についてのニーズは男性と女性で異なるが、被災者を支援す

る側に女性が圧倒的に少ないことや、もともと防災計画を策

定する際に女性の意見が反映されていなかったりするため

に、女性のニーズに即した支援がなされないケースが多い。

また、平時より医療をはじめとする社会サービスへの女性の

アクセスが制限されている地域においては、災害による医療

施設や道路等の損壊により、そのアクセスがさらに厳しくな

2 Neumayer, Eric and Plümper, Thomas (2007), “The gendered nature of natural disasters: the impact of catastrophic events on the gender gap in life expectancy”, http://eprints.lse.ac.uk/3040/1/Gendered_nature_of_natural_disasters_%28LSERO%29.pdf

自然災害の男性への影響 男性も、社会・文化規範や性別による

役割の相違により、自然災害の負の影

響を受けることがある。例えば、強さ

が男性の象徴である社会で、災害時に

家族を守るために必要以上に危険な

行動を取り命を落としたり、男性は、

家族を経済的に支えるのは自分の役

割であるとの意識が強いため、災害の

影響でその役割が果たせなくなるこ

とにより、大きなストレスを抱えたり

することが知られている。

自然災害における死者数に占める女性の割合

2008 年にミャンマーを襲ったサイクロン・ナルギスでは、死者の 61%が女性で、被害の大きかった村では、

18~60 歳の女性の死者数は男性の 2 倍以上になる。【出典:Government of Myanmar, ASEAN, UN (2008), “Post-Nargis Joint Assessment”】

2004 年のスマトラ沖大地震・インド洋津波におけるスリランカの死者・行方不明者の 65%が女性で、特に

19~29 歳で女性の割合が 79%と高い。【出典:UN (2010), “The World’s Women 2010”】

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防災/災害復旧・復興 ジェンダー主流化のための手引き

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り、早産等の妊婦への対応が難しくなるなどの影響が生じる。さらに、災害後は、夫が仕事を探して

出稼ぎに行った結果女性世帯主世帯が増加したり、従来からの家事や子育てに加え、食料や水、燃料

などを確保するために、女性の労働負担が増加することが知られている。災害時の環境ではストレス

が高まること、警察・司法機能が低下することから、女性に対する家庭内暴力や性的暴力が増加した

り、災害で親を亡くした子どもをターゲットとした人身取引が発生するなどの事例も多数報告されて

いる。災害後に家事を手伝ったり、教育にかかる費用を抑えるために、女児が学校を退学させられる

ことも多い。女性には、貯蓄や貸付、土地などの経済資源へのアクセスがない、もしくはそれらの資

源に対する決定権や相続権が制限されているために、災害により女性世帯主世帯になった途端に困窮

状態に陥ったり、女性が災害で仕事を失うと、新たに雇用されるのが男性よりも難しいことも報告さ

れている。

(4) 女性は、コミュニティ防災の主体的な担い手である。

これまで、コミュニティレベルにおいては、防災は「男性の仕事」と考えられており、また、行政

レベルにおいてもコミュニティレベルにおいても、女性の意思決定過程への参加が限られていたため

に、防災関連の政策や計画に女性の意見やニーズが反映される機会が少なかった。しかし、女性は災

害の被害者である一方、家族の世話やコミュニティ活動への参加を通して地域における人間関係を構

築し、その人的ネットワークを通じて災害情報を伝達したり、住民の組織化を図ることもできる存在

でもある。また、女性は、日々の生産活動や家事等を通じて地域の環境や自然資源などについて男性

とは異なる知識を有しており、また、男性に比べ家にいることの多い女性は、地域の環境や自然資源

の変化に気づきやすく、災害の前兆をモニタリングする役割を担うこともある(例えば、スリランカ

では、昼間家にいることの多い女性のほうが、雨季の土砂崩れや落石の兆候に気づきやすいため、女

性が中心となり見張りのためのグループを結成した、という事例がある)。そのような知識や経験を

持つ女性をコミュニティ防災の主体的な担い手と位置づけ、女性の持つ知識や経験を地域の防災/災

害復旧・復興に活かすことが重要である。

(5) 防災/災害復旧・復興とジェンダー主流化に関する国際的な議論と日本政府の方針

2005 年の第 2 回国連防災世界会議で採択された「兵庫行動枠組 2005‐2015」は、「ジェンダー視点

と文化的多様性」を分野横断的課題の一つと位置づけ、「リスク評価、早期警報、情報管理、教育・

トレーニングなどを含むあらゆる災害リスク管理政策や計画、意思決定過程にジェンダー視点を取り

入れることが必要である」と述べている。しかし、兵庫行動枠組に基づいた各国の取り組みの中で、

防災にジェンダー視点を統合する取り組みは最も進捗の遅い課題であると指摘されており、更なる取

り組みが必要である。日本政府は、上述の国連防災世界会議において、防災協力イニシアティブを発

表し、基本方針の一つに「ジェンダーの視点」を掲げ、「防災協力のすべての側面においてジェンダ

ーの視点に立った支援を行う」としている。さらに、2012 年の第 56 回国連女性の地位委員会及び 2014

年の第 58 回同委員会において、日本政府は、防災、災害救援、復旧復興の全ての段階における女性

の参画や女性のニーズへの配慮を求めること等を内容とする「自然災害とジェンダー」決議案を提案

するなど、ジェンダー視点に立った防災/災害復旧・復興の取り組みを促進している。

(6) 自然災害への対応を通して、女性のコミュニティの意思決定の場への参加が促進される可能性がある。

自然災害への対応において女性たちが自らコミュニティでの活動を組織したり、援助機関の活動へ

参加することにより、自信とリーダーシップを獲得したという事例も多く報告されており、自然災害

が社会変化のきっかけとなり、女性のコミュニティの意思決定の場への参加など、より平等なジェン

ダー関係が促進される可能性もある。復旧・復興およびその後の開発過程においても、男女のニーズ

の違いや男女間の不平等な関係を考慮し活動に反映させなければ、再び災害が起こったときに同じよ

うな被害が生じることになりかねない。従って、地域防災の重要な担い手でもある女性の意見を、災

害マネジメントサイクルのあらゆる段階において政策や計画、意思決定過程に反映させることが必要

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ジェンダー主流化のための手引き 防災/災害復旧・復興

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とされている。また、近年中心的な議論となっている防災の主流化を進めるにあたっては、「ジェン

ダー視点を取り入れた防災の主流化」が推進されることが望まれる。

東日本大震災の経験からのジェンダー視点に立った教訓 2005年以降、日本は、国の防災基本計画を修正するなど、防災政策にジェンダー視点を取り入れる試みを重

ねてきたが、東日本大震災では、次のような、ジェンダーに関わる様々な課題が明らかになった。①国や地域

の防災・復興政策の決定過程に留まらず、災害への対応や避難所の運営など様々なレベルの意思決定過程にお

いて女性の参画が十分ではなく、女性の意見が反映されない、②男女のニーズの違いや子育て家庭等のニーズ

が十分配慮されず、必要な物資や支援が提供されない、③女性や子どもに対する暴力が増加している、④平常

時における固定的な性別役割分担意識を反映して、災害後に増大した家事、子育て、介護等の家庭的責任の負

担が女性に集中し、ストレスや心身の不調を抱えやすい一方、家族を経済的に支え、守るのは自分の役割であ

るとの意識が強い男性は、その責任を抱え込み追い詰められやすい、⑤男性に比べ、女性の雇用情勢はより厳

しい、などである。これらは、平常時のジェンダー課題が災害時に顕著に現れたものである。

内閣府男女共同参画局(平成25年)は、「地域における生活者の多様な視点を反映した防災対策の実施によ

り地域の防災力向上を図り、力強く復興を進めていくためには、男女共同参画の視点を取り入れた防災・復興

体制を確立する必要がある」ことを強調しており、「平常時からの男女共同参画社会の実現が、防災・復興を

円滑に進めていくための基盤となる」としている。そして、そのためには、①「主体的な担い手」として女性

を位置づける、②災害から受ける影響の男女の違いなどに配慮する、③男女の人権を尊重して、安全、安心を

確保する、④住民やNGO等の民間と行政の協働により男女共同参画を推進する、⑤男女共同参画センターや男

女共同参画担当部局の役割を位置づける、⑥災害時要援護者への対応との連携に留意する、ことを提言してい

る。

【参考文献】 内閣府男女共同参画局(平成 25 年)「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」

http://www.gender.go.jp/policy/saigai/shishin/pdf/shishin.pdf Gender Equity Bureau, Cabinet Office, Government of Japan (2014), “Learning from Adversity”

http://www.gender.go.jp/english_contents/mge/drr/pdf/learning_from_adversity.pdf

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防災/災害復旧・復興 ジェンダー主流化のための手引き

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3. ジェンダー主流化のための視点と業務への反映

上述したような背景において、災害による人的被害を減らし、防災をより効果的なものにするために

は、災害マネジメントサイクルの各段階にジェンダー視点を取り入れることが重要である。以下に、ジ

ェンダー主流化のための視点と業務への反映について例示する。

3.1 案件形成段階におけるジェンダー視点の取り入れ

3.1.1 案件形成段階におけるジェンダー視点の取り入れ(応急対応を除く戦略目標①~④共通)

(1) 案件形成のために収集する情報・データに、以下のようなジェンダー情報を含める。

対象国における女性をとりまく現状と課題(社会・経済的概況)

防災分野におけるジェンダー課題(過去の自然災害における被害や影響の男女差など)

防災分野におけるジェンダーに関する政策・制度、組織(防災関連法・政策や計画においてジ

ェンダー課題が取り上げられているか、担当省にジェンダーを担当する部署やフォーカルポイ

ントは存在するか、等)

その他必要と思われる情報・データ

【参考となる資料】国別ジェンダー情報整備調査報告書(JICA)、他ドナーの国別ジェンダー関連報告書、 ジェンダーに関する項目を含む対象国の過去の災害関連報告書など

(2) 上記(1)で収集した情報・データを基に男女別のニーズを分析し、可能な限り要望調査票、業務指示

書等へジェンダー視点を反映させる(男女別の裨益対象者の把握、男女別のデータ収集、等)。

3.1.2 復旧・復興ニーズアセスメント調査へのジェンダー視点の取り入れ(戦略目標⑤)

一般的に、これまで国際機関を中心に実施された多くの復旧・復興ニーズアセスメントは、主に、人

的被害、家屋やライフライン、インフラの被害状況をより詳細に調査することを目的としていたため、

それぞれの分野における男女が果たしている役割や資源へのアクセス状況について十分に調査されてお

らず、女性のニーズが復旧・復興事業に反映される機会が限られていた。そこで、復旧・復興ニーズア

セスメントおよび案件形成にジェンダー視点を取り入れるために、以下のような取り組みを検討する。

(1) 復旧・復興ニーズ把握のために収集する情報・データに、以下のようなジェンダー情報を含める。

対象国における女性をとりまく現状と課題(社会・経済的概況)

各分野におけるジェンダー課題(各分野における男女のニーズに違いがあるか、社会インフラ

やサービスへのアクセスに男女格差があるか、等)

各分野におけるジェンダーに関する政策・制度、組織(各分野の政策等においてジェンダー課

題が取り上げられているか、担当省にジェンダーを担当する部署やフォーカルポイントは存在

するか、等)

各分野の被害の中で、ジェンダーが関連していると想定される状況はあるか

その他必要と思われる情報・データ 【参考となる資料】国別ジェンダー情報整備調査報告書 (JICA)、他ドナーの国別ジェンダー関連報告書、

ジェンダーに関する項目を含む対象国の過去の災害関連報告書など

情報収集に際しては、JICA 現地事務所にナショナルスタッフを含むジェンダー担当職員がいる場

合は、同職員の参団を検討してもよい。さらに、当該国のジェンダー状況をよく理解しているナシ

ョナル・マシーナリー(女性省や女性課題省など、男女共同参画をめざす組織)や女性団体等から

の聞き取りなどを実施することができれば、より現地の状況に合ったジェンダー視点に立った復

旧・復興ニーズアセスメントになると考えられる。

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ジェンダー主流化のための手引き 防災/災害復旧・復興

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(2) 上記(1)で収集した情報・データを基に男女別のニーズを分析し、可能な限り要望調査票、業務指示

書等へジェンダー視点を反映させる(男女別の裨益対象者・ニーズの把握、男女別のデータ収集、

等)。

3.2 事前段階における調査へのジェンダー視点の取り入れ

まず、事前段階における調査に共通する調査実施上の留意点を確認しておく。

① データ・情報は可能な限り男女別、女性・男性世帯主世帯別、災害に対して脆弱なグループ別(子ど

も、高齢者、障害者、貧困層、社会的に周縁化されたグループ等及びそのグループ内の男女別)に収

集する。

② インタビューやヒアリングを実施する際は、男女双方の意見を聴く機会を設ける。必要に応じ、男女

別々の場所及びそれぞれが参加しやすい時間帯を設定する。ファシリテーターや通訳の性別にも配慮

する。

3.2.1 事前段階における調査へのジェンダー視点の取り入れ(応急対応を除く戦略目標①~④共通)

事前段階における調査(協力準備調査、詳細計画策定調査、事前評価調査等)へジェンダー視点を取

り入れるため、以下のような方策を検討する。

(1) ジェンダー主流化団員の調査団への参団の検討

① ジェンダー主流化団員を配置する場合(案件にジェンダー課題が深く関係している場合) 事前段階において調査を実施する際に、派遣調査団にジェンダー主流化を担当する団員を配置

する。同調査の TOR に記載されるべきジェンダー主流化担当団員の担当事項(案)は以下のと

おりである。

対象国における女性の概況及びジェンダーに関する政策・制度について情報収集し、結果を整理・分析する。

防災分野における対象国のジェンダー視点から見た現状と課題について情報収集し、結果を整理・分析する。

対象国で実施された、もしくは実施中の JICA・他援助機関・NGO 等の防災分野の事業におけるジェンダー

主流化状況を分析し、教訓を抽出する。

調査結果に基づき、事業に取り入れるべきジェンダー視点について取りまとめる。

事業の計画内容や PDM(案)へ取りまとめたジェンダー視点が取り入れられるよう提言する。

なお、ジェンダー主流化団員を業務実施契約(単独型)で公示する場合についての公示例を別

添として添付した。

② ジェンダー主流化団員が配置されない場合

ジェンダー主流化団員が配置されない場合は、以下のような方策を検討することにより、より

現地の状況に合ったジェンダー視点に立った取り組みを計画することができると考えられる。

なお、具体的な調査内容については、以下(2)を参照願いたい。

【事例 ①:ジェンダー視点に立ったニーズアセスメント】 2010 年のパキスタン洪水被害ニーズアセスメントにおいて実施されたジェンダーに関するニーズアセスメ

ントの事例 Government of Pakistan, ADB, World Bank (2010), “Pakistan Floods 2010: Preliminary Damage and Needs

Assessment”, http://siteresources.worldbank.org/PAKISTANEXTN/Resources/293051-1264873659180/6750579-1291656195263/PakistanFloodsDNA_December2010.pdf

ADB (2011), “Story within a Story: ADB Helps Women during Pakistan’s Post-Flood Reconstruction”, http://www.adb.org/sites/default/files/publication/28992/story-pakistan-postflood-reconstruction.pdf

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防災/災害復旧・復興 ジェンダー主流化のための手引き

8

他の事項を担当する団員(社会調査団員等)の M/M を増やし、ジェンダー主流化を兼務(⇒

担当事項(案)は上記①と同様)

JICA 現地事務所に、ナショナルスタッフを含むジェンダー担当職員がいる場合は、同職員

の参団

当該国のジェンダー状況をよく理解しているナショナル・マシーナリー(女性省や女性課

題省など、男女共同参画をめざす組織)や NGO との連携・協力依頼

現地のコンサルタントや NGO へのジェンダー関連事項の調査の再委託、など

(2) ジェンダー視点を取り入れた調査の実施

防災分野における事業にジェンダー視点を取り入れるために、事前段階で実施される調査に以下の

ような項目を含め、事業の計画や PDM(案)等へ反映させる。特に、調査結果に基づき、以下の(3)

を参考に、PDM(案)にジェンダー視点に立った指標が設定できないか検討する。また、より詳細

な調査が必要な場合は、「3.3 事業実施段階におけるジェンダー視点の取り入れ」の開発戦略目標

①~④(3.3.1~3.3.4)に記載しているベースライン調査および活動実施の項目を参照し、調査項目

を設定していただきたい。

ジェンダー視点・課題 調査項目例 ジェンダー視点を取り入れるこ

とにより期待される 効果・インパクト

防災関連法・政策や防災計画へのジェンダー視点の取り入れ 国や地域の防災・災害復興関連

法・政策の決定過程にとどまらず、

災害への対応や避難所の運営な

ど、さまざまなレベルの意思決定

過程において、女性の参加が十分

に確保されておらず、政策や計画

が女性のニーズを反映していな

い。

対象国・地域の防災関連法・政策や防

災計画等にジェンダー視点に立った

項目はあるか。なければ、今後策定(改

訂)される予定はあるか。 上記政策や計画の策定時に、ナショナ

ル・マシーナリーや女性団体等の参加

はあったか。 その他

対象国・地域の防災関連法・政策

や計画にすでにジェンダー視点

が取り入れられていれば、それに

沿って事業を計画できる。ジェン

ダー視点が取り入れられていな

ければ、ジェンダー視点に立った

事業を実施し、教訓をフィードバ

ックすることによって、政策や計

画の改訂につなげることが可能

となる。 災害による被害や影響の違い 自然災害による被害の度合いは男

女で異なっている。一般的に、災

害による死亡者は女性のほうが多

い。 【⇒ p.3、2.(1)(2)】

過去の災害において、被害に男女差は

なかったか。あれば、その男女差の原

因は何か。 その他に、特に災害に対して脆弱なグ

ループはなかったか。 その他

男女別・グループ別の被害実態を

把握することにより、より正確な

被害レベルの想定ができ、有効な

予防策を講じることが可能とな

る。

災害後の影響は男女で異なってい

る。【⇒ p.3、2.(3)】 過去の災害において、災害後の影響に

男女差はなかったか。あれば、その男

女差の原因は何か。 その他に、特に災害後の影響の大きか

ったグループはなかったか。 その他

男女別・グループ別の災害の影響

を把握することにより、より正確

な負の影響のレベルの想定がで

き、有効な予防策を講じることが

可能となる。

地域によっては人口分布に性別に

よる偏りがみられることがある

(夫の出稼ぎ等で女性人口が多数

を占める地域など)。

男女別の人口分布状況 災害に対して脆弱なグループの人口

分布状況 その他

地域の実情に応じた予防策を講

じることが可能となる。

防災に関する女性の知識や経験 女性は災害の被害者である一方、

地域における人的ネットワークを

持つとともに、地域の環境や自然

資源などについて男性とは違う知

識を有している。【⇒ p.4、2.(4)】

過去の災害において、女性が地域の応

急対応や復旧・復興において果たした

役割はどのようなものか。また、その

役割は行政やコミュニティにどのよ

うに認識されているか。 その他

女性が有している防災に関する

知識や経験を、コミュニティの災

害対応力の向上に活かすことが

可能となる。

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ジェンダー主流化のための手引き 防災/災害復旧・復興

9

(3) ジェンダー視点に立った評価指標の設定 ジェンダー視点に立った指標を設定することにより、ジェンダー視点に立った評価の実施が可能と

なる。ジェンダー視点に立った指標には以下のようなものが含まれる。

成果の記述例 一般的な指標例 ジェンダー視点に立った指標例

パイロット事業対象コ

ミュニティの住民の災

害対応能力が強化され

る。

防災啓発ワークショップに参加した

対象地域の住民の割合

避難訓練に参加した対象地域の住民

の割合

防災啓発ワークショップに参加した

対象地域の住民男女の割合

避難訓練に参加した対象地域の住民

男女の割合

防災教育にかかる教員

の研修実施能力が向上

される。

*人以上の教員が防災教育の研修を

受講し、指導者として防災教育研修

を実施できるようになる。

*人以上の教員が防災教育の研修を

受講し、指導者として防災教育研修

を実施できるようになる。

⇒男女別の受講者数の把握、女性の

参加に一定の割合を設ける、など

コミュニティ防災強化

(開発計画調査型技術

協力のパイロット事業)

ワークショップ実施後の参加者の理

解度調査

ワークショップ実施後の参加者の理

解度調査(男女別)

3.2.2 復旧・復興事業の事前段階における調査へのジェンダー視点の取り入れ(戦略目標⑤)

事前段階における調査(協力準備調査、詳細計画策定調査、事前評価調査等)へジェンダー視点を取

り入れるため、以下のような方策を検討する。

(1) ジェンダー主流化団員の調査団への参団の検討

① ジェンダー主流化団員を配置する場合(案件にジェンダー課題が深く関係している場合)

事前段階において調査を実施する際に、派遣調査団にジェンダー主流化を担当する団員を配置

する。同調査の TOR に記載されるべきジェンダー主流化担当団員の担当事項(案)は以下のと

おりである。

対象国における女性の概況及びジェンダーに関する政策・制度について情報収集し、結果を整理・分析する。

災害による被害状況についてジェンダー視点から情報・データを収集し、結果を整理・分析する。

防災/災害復旧・復興分野における対象国のジェンダー視点から見た現状と課題について情報収集し、結果

を整理・分析する。

対象国で実施された、もしくは実施中の JICA・他援助機関・NGO 等の防災/災害復旧・復興分野の事業にお

けるジェンダー主流化状況を分析し、教訓を抽出する。

調査結果に基づき、事業に取り入れるべきジェンダー視点について取りまとめる。

事業の計画内容や PDM(案)へ取りまとめたジェンダー視点が取り入れられるよう提言する。

なお、ジェンダー主流化団員を業務実施契約(単独型)で公示する場合についての公示例を別

添として添付した。

② ジェンダー主流化団員が配置されない場合

ジェンダー主流化団員が配置されない場合は、以下のような方策を検討することにより、より

現地の状況に合ったジェンダー視点に立った取り組みを計画することができると考えられる。

なお、具体的な調査内容については、以下(2)を参照願いたい。

他の事項を担当する団員(社会調査団員等)の M/M を増やし、ジェンダー主流化を兼務(⇒

担当事項(案)は上記①と同様)

JICA 現地事務所に、ナショナルスタッフを含むジェンダー担当職員がいる場合は、同職員

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防災/災害復旧・復興 ジェンダー主流化のための手引き

10

の参団

当該国のジェンダー状況をよく理解しているナショナル・マシーナリー(女性省や女性課

題省など、男女共同参画をめざす組織)や NGO との連携・協力依頼

現地のコンサルタントや NGO へのジェンダー関連事項の調査の再委託、など

(2) ジェンダー視点を取り入れた調査の実施 復旧・復興事業がより男女のニーズを反映し、また、既存の男女間格差を拡大しないものとなるよ

うに、事前段階で実施される調査に以下のような項目を含め、事業の計画や PDM(案)等へ反映さ

せる。また、より詳細な調査が必要な場合は、「3.3 事業実施段階におけるジェンダー視点の取り

入れ」の開発戦略目標⑤(3.3.5)に記載しているベースライン調査および活動実施の項目を参照し、

調査項目を設定していただきたい。

ジェンダー視点・課題 調査項目例 ジェンダー視点を取り入れるこ

とにより期待される 効果・インパクト

災害の影響や復旧・復興事業による男女間の格差 女性は、農作業や小規模所得創

出活動などにより家計に貢献し

ているにもかかわらず、通常そ

れらの活動は家庭内やインフォ

ーマルセクターで行われている

ため、災害による被害が見えに

くい。 災害後、男性は復旧・復興事業

に雇用されたりする一方、女性

の雇用はなかなか回復しない傾

向にある。

生産活動において男女が異なる役割

を担っている場合、男女のどちらかが

より大きな影響を受けていないか(例

えば、夫と妻が別々の生産活動に従事

している場合や、農業や漁業など同じ

生産活動に従事しているが担当する

作業に違いがある場合において、男女

で影響の違いはないか)。 復旧・復興事業における雇用の機会に

男女差はないか。あれば何が原因か。 その他

男女それぞれが家計に果たして

いる役割を認識し、そのどちらの

生計手段もが回復されるような

活動を計画することが可能とな

る。

災害後は、女性への暴力や、女性

の心身の不調が増加する。 女性への暴力や女性の心的ストレス

は増加していないか。 女性以外にも、特に心のケアが必要な

グループはいないか。 その他

女性への暴力や女性の心的スト

レスが増加しているのであれば、

早期の対応が可能となる。

妊婦、子ども、高齢者、障害者等、

災害に対して脆弱なグループが存

在する。

特に災害および災害後の影響の大き

かったグループはなかったか(子ど

も、高齢者、障害者、女性・男性世帯

主世帯、社会階層の下位層等及びその

グループ内の男女差の有無等) その他

災害に対して脆弱なグループも

裨益するような復旧・復興事業を

計画することが可能となる。

女性の意思決定の場への参加 女性は、被災地の再建に関する意

思決定の場への参加が限られてい

る。

女性はコミュニティの意思決定に参

加できているか。 コミュニティ内に既存の女性グルー

プ等は存在するか。 そのグループは、活動の窓口となれる

か。課題はあるか。 その他

自然災害が社会変化のきっかけ

となり、女性のコミュニティの意

思決定の場への参加など、より平

等なジェンダー関係が促進され

る可能性もある。

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ジェンダー主流化のための手引き 防災/災害復旧・復興

11

3.3 事業実施段階におけるジェンダー視点の取り入れ

まず、以下で検討するすべての取り組みに共通する事業実施上の留意点を確認しておく。 【事業実施上の留意点】 ① 必要であれば、活動への女性・災害に対して脆弱なグループの参加について、男性・他のコミュニ

ティメンバーの理解を得られるような活動を組み込む。 ② インタビューやヒアリングを実施する際は、男女双方の意見を聴く機会を設ける。必要に応じ、男

女別々の場所及びそれぞれが参加しやすい時間帯を設定する。通訳の性別にも配慮する。 ③ 活動実績は可能な限り男女別、女性・男性世帯主世帯別、災害に対して脆弱なグループ別(その中

での男女別)に収集する。

また、以下に記載するジェンダー視点に立った取り組みの実施においては、案件にジェンダー課題が

深く関係している場合はジェンダー主流化担当者を配置することが望ましいが、ジェンダー主流化担当

者を配置せず、他の事項を担当する担当者がジェンダー主流化を兼務する場合は、JICA 現地事務所のナ

ショナルスタッフを含むジェンダー担当職員や当該国のジェンダー状況をよく理解している女性省・女

性団体等の協力を得たり、現地のコンサルタントや NGO への事業の再委託を実施することができれば、

より現地の状況に合ったジェンダー視点に立った取り組みを実施することができると考えられる。

3.3.1 開発戦略目標 ①:防災体制の確立と強化 具体的取り組み:防災に関する基本法・全体枠組の整備、防災計画・建築基準等の策定、中央と地方の防災行政機

能の強化、関係機関間の連携体制の構築、災害関連情報の共有、防災関連の研究の促進、防災人材育成、技術者の

養成など

「防災体制の確立と強化」事業の実施段階において検討すべきジェンダー視点・課題及びジェンダー

視点に立った取り組み例は以下のとおりである。

ジェンダー視点・課題 ジェンダー視点に立った取り組みの例 事

ジェンダー視点を 取り入れることに より期待される 効果・インパクト

防災基本法・全体枠組、地域防災計画等の整備

ベースライン調査

(活動実施の項参照) 対象国・地域の防災基本法や全体枠組、防災計

画等に関する調査に以下のような項目を含め、

結果を分析し、事業の実施や指標の改訂に活用

する。 防災関連法や計画がすでに存在する場合、

女性の意見やニーズが反映された内容にな

っているか。 防災関連法や計画がすでに存在する場合、

委員会等の意思決定の場に、女性省(ナシ

ョナル・マシーナリー)や女性団体等の参

加はあるか。 その他

ジェンダー視点に立

ったモニタリング・

評価が実施される。

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防災/災害復旧・復興 ジェンダー主流化のための手引き

12

ジェンダー視点・課題 ジェンダー視点に立った取り組みの例 事

ジェンダー視点を 取り入れることに より期待される 効果・インパクト

活動実施

国の防災基本法・計画や地方

の地域防災計画に女性の意

見・ニーズが反映されていな

い。

対象国・地域の防災計画等にジェンダー視

点に立った項目を取り入れるよう提言す

る。 上記計画にジェンダー視点を取り入れるよ

う、女性省(ナショナル・マシーナリー)

や女性団体等を意思決定機関(防災委員会

等)の構成員に加える、もしくは協議の場

を設ける。 パイロット事業で実施される避難訓練等か

らのフィードバックに、ジェンダーに関する

情報も含める。 その他

② 国の防災基本計画や

地方の地域防災計画

に女性の意見・ニー

ズが反映される。

防災人材育成

ベースライン調査

(活動実施の項参照) 対象機関の組織能力に関する調査に以下のよ

うな項目を含め、結果を分析し、事業の実施や

指標の改訂に活用する。 組織内、特に意思決定権を有する職員レベル

におけるジェンダー主流化に関する理解の

有無 階層別の女性職員の割合 その他

ジェンダー視点に立

ったモニタリング・

評価が実施される。

活動実施

防災におけるジェンダー視点

の必要性が防災関係者に十分

理解されておらず、取り組み

も十分でない。

防災関係者を対象に、ジェンダーに関する啓

発活動を実施する(研修に「防災とジェンダ

ー」に関する項目を入れる、等)。 男女別の統計データ収集を促進する。 パイロット事業で実施される避難訓練等か

らのフィードバックにジェンダー情報を入

れる。 その他

防災関係者の防災に

おけるジェンダー視

点への理解が深まる

ことにより、よりジ

ェンダー視点に立っ

た防災関連政策や計

画が策定される。

防災関係機関に女性が少な

い。

女性を積極的に登用する(女性省/ナショ

ナル・マシーナリーや女性団体等を防災委

員会等の意思決定機関の構成員に加える

等)。 女性がリーダーシップを発揮できるよう、技

術的及びリーダーシップに関する研修や先

進地域との交流等を実施する。 その他

② 防災関連の意思決定

への女性の参加が促

進される。

日本国内で実施される防災関連の課題別研修に「防災とジェンダー」に関する講義を導入し、途上国の

中枢防災機関の意思決定権を持つ職員を招聘することも、組織全体のジェンダー主流化の促進に有効であ

ると思われる。

【事例 ②:ジェンダー視点に立った災害リスク削減・管理法】

フィリピン政府により制定された、ジェンダー視点に立った気候変動および災害リスク削減・管理法。気候変動

および災害リスク削減に関する対策にジェンダー視点を取り入れることを明記。また、同法により、フィリピン

のナショナル・マシーナリーであるフィリピン女性役割国家委員会を、国家災害リスク削減・管理委員会の一構

成機関として位置づけている。 Climate Change Act of 2009, http://www.gov.ph/2009/10/23/republic-act-no-9729/ Philippine Disaster Risk Reduction and Management Act of 2010, http://www.gov.ph/2010/05/27/republic-act-no-10121/

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ジェンダー主流化のための手引き 防災/災害復旧・復興

13

3.3.2 開発戦略目標 ②:自然災害リスクの的確な把握と共通理解の促進

具体的取り組み:政策・施策立案プロセスにおいては、災害リスクのより正確な把握を目的としたリスク評価・分

析、ハザード・リスクマップの作成、防災投資の経済分析、気候変動影響の評価。社会の災害リスク理解の向上へ

の取り組みとして、コミュニティ防災活動能力強化、防災教育活動等。

「自然災害リスクの的確な把握と共通理解の促進」事業の実施段階において検討すべきジェンダー視

点・課題及びジェンダー視点に立った取り組み例は以下のとおりである。

ジェンダー視点・課題 ジェンダー視点に立った取り組みの例 事

期待される 効果・インパクト

リスク評価・分析

ベースライン調査

(活動実施の項参照) 対象国・地域のリスク評価・分析に関する

現状調査に以下のような項目を含め、結果

を分析し、事業の実施や指標の改訂に活用

する。 リスク評価・分析は男女別に実施され

ているか。 リスク評価・分析結果(統計資料等)

は男女別に入手可能か。 その他

ジェンダー視点に立

ったモニタリング・

評価が実施される。

活動実施

災害による被害・影響は男女で

異なっている。 【⇒ p.3、2.(1)(2)(3)】

地域によっては人口分布に性別

による偏りがみられることがあ

る(夫の出稼ぎ等で女性人口が

多数を占める地域など)。

リスク評価・分析に以下のようなジェンダ

ー視点を取り入れる。 想定される災害被害において男女差は

生じうるか。その原因は何か。 男女別の人口分布状況の把握 その他

男女別の被害実態を

把握することによ

り、より正確な被害

レベルの想定がで

き、有効な予防策を

講じることが可能と

なる。 ハザード・リスクマップの作成

ベースライン調査

(活動実施の項参照) 対象国のハザード・リスクマップの作成に

関する現状調査に以下のような項目を含

め、結果を分析し、事業の実施や指標の改

訂に活用する。 ハザード・リスクマップを作成する部

署や委員会等に女性はどのくらい参加

しているか。 その他

ジェンダー視点に立

ったモニタリング・

評価が実施される。

活動実施

ハザード・リスクマップの作成

の場への女性の参加が限られて

いる/ハザード・リスクマップ

の作成に女性の意見が反映され

ない。

ハザード・リスクマップの作成に女性の参

加を促進する。例えば: 意思決定の場に参加する男女の割合を

事前に設定する(50%ずつが最も望まし

い) その他

③ 男女のニーズに即し

たハザード・リスク

マップが策定され

る。

コミュニティ防災活動能力強化

ベースライン調査

(活動実施の項参照) 対象地域のコミュニティ防災活動能力に

関する現状調査に以下のような項目を含

め、結果を分析し、事業の実施や指標の改

訂に活用する。 コミュニティの意思決定の場への女性

の参加度合い。特に、自主防災組織等へ

の女性の参加度合い。 過去の災害において、女性が地域の応急

対応や復旧・復興において果たした役割

はどのようなものか。また、その役割は

行政やコミュニティにどのように認識

されているか。 その他

ジェンダー視点に立

ったモニタリング・

評価が実施される。

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防災/災害復旧・復興 ジェンダー主流化のための手引き

14

ジェンダー視点・課題 ジェンダー視点に立った取り組みの例 事

期待される 効果・インパクト

活動実施

【防災啓発活動】 自主防災組織の設立・強化:自

主防災組織への女性の参加が十

分でない。

自主防災組織への男女の参加を促進す

る(事前に委員の男女比を設定するな

ど)。 その他

災害時の女性の

被害及び災害後

の負の影響が軽

減されることに

より、コミュニテ

ィ全体の防災活

動能力が向上す

る。 女性が有してい

る防災に関する

知識や経験を、コ

ミュニティの災

害対応力の向上

に活かすことが

可能となる。

国家レベルの政策や計画にジェ

ンダー視点が取り入れられてい

たとしても、コミュニティレベ

ルで実践されていない場合もあ

る。

コミュニティ防災において女性が果た

している役割について、コミュニティ内

で共通理解が得られるよう、啓発活動を

実施する。 ジェンダー視点に立った政策や計画の

コンセプトをコミュニティで実践でき

るよう、コミュニティでの防災活動能力

強化のための活動に取り入れる。

その他

【避難体制の整備、避難訓練の実施】 コミュニティ内の情報伝達シス

テムの整備:災害の情報が女性

へ届かない(情報が男性から男

性へ伝えられる、女性はラジオ

やテレビを持っていない/見聞

きする時間がない、家事に忙し

く情報が聞こえない等) 予警報を聞いてもどのように対

処すればいいかわからない女性

がいる。

女性にとって理解しやすい情報が確実

に伝わる伝達手段を確立する。 その他

災害の情報が女性へ

伝わることにより、

女性の被害が軽減さ

れる。

避難施設・避難路の整備:女性

がシェルターへ行くことに躊躇

すればその分避難が遅れる。ま

た、男性が女性をシェルターへ

一人で行かせることに不安を覚

えても避難は進まない。

⇒シェルター(シェルターを兼

ねた公共施設)を建設・運営す

る際には、女性も安心して避難

できるように準備する必要があ

る。

シェルター建設に関する話し合いの場

に男女が参加し、それぞれの意見が建設

に反映されるようにする。 男女が参加し、シェルター運営ガイドラ

インを作成する(男女別の部屋・衛生設

備の設置、太陽光などの明かりがあるこ

と、など)。 その他

③ 女性が安心してシェ

ルターを使用できる

ことにより、女性の

被害が軽減される。

【避難訓練の実施】 災害時に介助が必要な人を含

め、あらゆる年代の男女が参加

することが重要である。

避難訓練の計画策定への女性の参加を

確保する。 災害時に介助が必要な人を含め、あらゆ

る年代の男女の参加を確保する。

その他

③ 災害時、女性や介助

が必要な住民の被害

が軽減される。

【住民主体によるリスクアセスメント(雨量、水位モニタリング体制整備、ハザード・リスクマップ作成)】 地域の意思決定の場に女性が参

加できない。 ハザード・リスクマップに女性

の意見が反映されない。 男女は地域の環境や自然資源な

どについて異なる知識・経験を

有している(男性が気づかない

環境の変化に女性が気づく可能

性がある)。【⇒ p.4、2.(4)】

雨量等のモニタリングやハザード・リスク

マップの作成に女性の参加を促進する。 意思決定の場に参加する男女の割合を

事前に設定する(50%ずつが最も望まし

い)。 必要に応じ、女性だけで話し合う場を設

ける。 その他

③ 男女のニーズに即し

たハザード・リスク

マップが策定され

る。

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ジェンダー主流化のための手引き 防災/災害復旧・復興

15

ジェンダー視点・課題 ジェンダー視点に立った取り組みの例 事

期待される 効果・インパクト

防災教育活動

ベースライン調査

(活動実施の項参照) 対象地域の防災教育活動に関する現状調

査に以下のような項目を含め、結果を分析

し、事業の実施や指標の改訂に活用する。 既存のコミュニティの防災教育活動へ

の女性の参加度合い 既存のコミュニティの防災教育活動に

対する女性の認識・意見・改善案(情報

がどれほど届いているか、届いていない

とすればそれは何が原因か、どのように

改善すればよいか、等) その他

ジェンダー視点に立

ったモニタリング・

評価が実施される。

活動実施

情報伝達手段や非識字率等の原

因により、防災に関する情報が

女性に届いていない。 社会・文化規範等が女性の被害

を大きくしている。【⇒ p.3、2.(2)(3)】

コミュニティの防災教育活動の計画策

定への女性の参加を確保する。 女性に伝わる方法を採用する。 防災教育への女性の参加を確保する。 啓発活動に、男女のニーズの違いや、そ

の違いを地域の防災活動に反映させる

必要性についての情報を加える。

学校における防災教育活動の実施にお

いては、女性教員が研修へ参加できるよ

う奨励する(男女隔離の慣習がある地域

では、女性教員だけの研修を実施する

等)。 その他

③ 防災情報が女性へ伝

わることにより、女

性の被害が軽減され

る。また、男性に女

性のニーズが伝わる

ことにより、防災活

動にジェンダー視点

が取り入れられる。

【事例 ③:フィジー及びソロモン国大洋州地域コミュニティ防災能力強化プロジェクト(技術協力)】

本プロジェクトは、対象地域において、国家災害管理局及び関係機関の能力強化を通じて洪水時に住民が適切に

避難できる体制が構築されることを目的として、2010 年 10 月から 2013 年 10 月まで、中央の行政機関の防災能力強

化を支援するとともに、パイロット事業として、対象コミュニティの住民(男女)が洪水時に適切に避難できる体

制づくりへの支援を実施した。 パイロット事業の実施においては、避難訓練やハザードマップ作成のためのワークショップ等への女性の参加を

促進し、活動に女性の意見を反映させるとともに、パイロット事業を実施する県の女性局と連携し、コミュニティ

の女性グループ代表者を対象とした防災の基礎知識に関する研修を実施した。女性を対象とした研修が実施された

背景には、女性は災害時に様々な役割を担っているにもかかわらず、このような研修には男性が先に参加するため、

女性にはなかなか研修の機会がない、という事情があった。その後、同研修を受講した女性グループの代表者がフ

ァシリテーターとなり、コミュニティにおいて主に女性を対象にした防災啓発のためのワークショップが開催され

た。ワークショップの結果、女性たちから「災害時には女性が主体となって防災活動を行う事が重要だ」といった

積極的な意見が表明された。さらに、コミュニティの高齢者や障害を持った住民を青年グループが避難時に支援す

る体制をつくり、避難訓練に取り入れた。

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防災/災害復旧・復興 ジェンダー主流化のための手引き

16

3.3.3 開発戦略目標 ③:持続的開発のためのリスク削減対策の実施

具体的取り組み:構造物対策と非構造物対策を組み合わせた被害の抑止・軽減策、各セクターにおける災害リスク

軽減策、災害弱者・貧困層等に配慮した施策、自助・共助・公助のすべてによる防災文化の醸成、行政と民間の協力・

連携メカニズムの構築等

「持続的開発のためのリスク削減対策の実施」事業の実施段階において検討すべきジェンダー視点・課

題及びジェンダー視点に立った取り組み例は以下のとおりである。

ジェンダー視点・課題 ジェンダー視点に立った取り組みの例 事

期待される 効果・インパクト

構造物対策と非構造物対策を組み合わせた被害の抑止・軽減策等

ベースライン調査

(活動実施の項参照) 対象国・地域のリスク削減対策に関する調

査に以下のような項目を含め、結果を分析

し、事業の実施や指標の改訂に活用する。 建設を予定している構造物が男女に異

なる影響を与える可能性 既存のシェルター(シェルターを兼ねた

公共施設)に対する女性の認識・意見・

改善案(使いやすさや問題点等)

ジェンダー視点に立

ったモニタリング・

評価が実施される。

活動実施

構造物の建設および維持管理へ

のニーズが男女で異なる可能性

がある。 構造物の建設および維持管理の

意思決定過程に女性の意見が反

映されない。

コミュニティと共同で構造物を建設・維

持管理する場合、建設・維持管理の話し

合いの場に女性が参加し、女性の意見が

取り入れられるようにする。 その他

男女が参加すること

により、建設・維持

管理される建造物が

コミュニティの共有

財産であるとの意識

が醸成される。 避難施設の整備:女性がシェル

ターへ行くことに躊躇すればそ

の分避難が遅れる。また、男性

が女性をシェルターへ一人で行

かせることに不安を覚えても避

難は進まない。

⇒シェルター/シェルターを兼

ねた公共施設を建設・運営する

際には、女性も安心して避難で

きるよう準備する必要がある。

シェルター建設に関する話し合いの場

に男女が参加し、それぞれの意見が建設

に反映されるようにする。 男女が参加し、シェルター運営ガイドラ

インを作成する(男女別の部屋・衛生設

備の設置、太陽光などの明かりがあるこ

と、など)。 その他

女性が安心してシェ

ルターを利用できる

ことにより、女性の

被害が軽減される。

非構造物対策、災害弱者・貧困層等に配慮した施策、自助・共助・公助のすべてによる防災文化の醸成

については、開発戦略目標①、②、④(3.3.1、3.3.2、3.3.4)のジェンダー視点を参照していただきたい。

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ジェンダー主流化のための手引き 防災/災害復旧・復興

17

3.3.4 開発戦略目標 ④:迅速かつ効果的な備えとレスポンス(応急対応)

具体的取り組み:技術官庁の予警報能力向上のための支援、情報伝達能力や災害リスクに対する認識向上のための支

援、防災訓練などの警戒避難体制や応急対応体制の支援、国際緊急援助隊による緊急支援

「迅速かつ効果的な備えとレスポンス(応急対応)」事業の実施段階において検討すべきジェンダー視点・

課題及びジェンダー視点に立った取り組み例は以下のとおりである。

(1) 迅速かつ効果的な備え

ジェンダー視点・課題 ジェンダー視点に立った取り組みの例 事

期待される 効果・インパクト

情報伝達能力や災害リスクに対する認識向上のための支援

ベースライン調査

(活動実施の項参照) 対象国の予警報システムや情報伝達能力

に関する調査に以下のような項目を含め、

結果を分析し、事業の実施や指標の改訂に

活用する。 既存の予警報システムや情報伝達手段

に対する女性の認識・意見・改善案(情

報がどれほど届いているか、届いていな

いとすればそれは何が原因か、どのよう

に改善すればよいか、等) その他

ジェンダー視点に立

ったモニタリング・

評価が実施される。

活動実施

災害の情報が女性へ届かない

(情報が男性から男性へ伝えら

れる、女性はラジオやテレビを

持っていない/見聞きする時間

がない、家事に忙しく情報が聞

こえない等) 予警報を聞いてもどのように対

処すればいいかわからない女性

がいる。

女性にとって理解しやすい情報が確実

に伝わる伝達手段を確立する。 その他

災害の情報が女性へ

伝わることにより、

女性の被害が軽減さ

れる。

防災訓練などの警戒避難体制や応急対応体制の支援

ベースライン調

(活動実施の項参照) 警戒避難体制や応急対応体制に関する調

査に以下のような項目を含め、結果を分析

し、事業の実施や指標の改訂に活用する。 既存の警戒避難体制や応急対応体制が

ある場合、それらへの女性の参加の度合

いやジェンダー視点から見た課題

その他

ジェンダー視点に立

ったモニタリング・

評価が実施される。

活動実施

避難施設・避難路の整備:女性が

シェルターへ行くことに躊躇すれ

ばその分避難が遅れる。また、男

性が女性をシェルターへ1 人で行

かせることに不安を覚えても避難

は進まない。

⇒シェルター(シェルターを兼ね

た公共施設)を建設・運営する際

には、女性も安心して避難できる

ように準備する必要がある。

シェルター建設に関する話し合いの場

に男女が参加し、それぞれの意見が建設

に反映されるようにする。 男女が参加し、シェルター運営ガイドラ

インを作成する(男女別の部屋・衛生設

備の設置、太陽光などの明かりがあるこ

と、など)。 その他

④ 女性が、災害時にど

のように行動したら

よいかを事前に把握

できることにより、

女性の被害が軽減さ

れる。

避難訓練の実施:災害時に介助が

必要な人を含め、あらゆる年代の

男女が参加することが重要であ

る。

避難訓練の計画策定への女性の参加を

確保する。 災害時に介助が必要な人を含め、あらゆ

る年代の男女の参加を確保する。

その他 自主防災組織:自主防災組織への

女性の参加が十分でない。

自主防災組織への男女の参加を促進す

る(事前に委員の男女比を設定するな

ど)。 その他

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防災/災害復旧・復興 ジェンダー主流化のための手引き

18

(2) 応急対応:国際緊急援助隊・医療チームの派遣におけるジェンダー視点とその活動への反映 医療行為は文化によって多様であり、疾病に対する考え方や治療法の選択などは、それぞれの地域

社会の価値観の影響を強く受けている。そのため、被災地で医療活動を行う医療チームは、被災地で

必要とされる医療を提供するために、まずは被災地の社会・文化的背景を理解することが求められる。

また、その地域の社会・文化的背景を理解していないために、災害弱者を見逃すこともある。一般的

に、子どもや老人、妊婦をはじめとする女性は災害弱者と見なされており、彼らの医療へのアクセス

を確保するために、派遣決定後早急に、被災集団に関する情報を入手し、災害に対して脆弱なグルー

プを特定する必要がある。

女性や特定のグループの医療へのアクセスが制限されている社会においては、男女別の診療体制の

整備や巡回診療等を実施する必要がある。国際緊急援助隊の医療チームの派遣においては、すでに、

ジェンダー視点を取り入れた導入研修の実施や女性医師・助産師・看護師の派遣、男女別の診療や巡

回診療、女性の非識字率の高い地域では、字が読めない女性にも理解できるような説明方法の採用等、

女性が利用しやすい医療サービスの提供などが実践されており、引き続きジェンダー視点を取り入れ

た医療活動が実践されることが望まれる。

【事例 ④:パキスタン・ムザファラバード復旧・復興計画調査】

2005 年10 月に発生したカシミール大地震により、震源に程近いムザファラバード市は、官庁を含む多くの建物 やインフラ施設に甚大な被害を受け、行政機能の執行が困難な状況に陥り、現地政府による復旧・復興に向けた総

合計画の策定に支障が生じる事態となった。また、被災住民が置かれている状況からも、短期で復旧・復興計画 を策定し、その早急な実施が必要とされていたことから、「復旧・復興マスタープラン」の策定および震災復旧に

向けた緊急リハビリ事業の実施を目的とした本調査が実施された。その内、緊急リハビリ事業として、①がれき撤

去によるコミュニティエンパワメント事業、②地震地滑りの監視・警戒・避難体制整備支援事業、③セティバーグ

女子高等学校建設事業、④防災教育普及事業、⑤西岸バイパス道路予備設計調査が実施された。

ジェンダー視点に立った活動として、「地震地すべりの監視・警戒・避難体制整備支援事業」において結成され

たコミュニティ防災組織の1つで、女性が代表者に選出された事例があった。また、地域住民の防災セミナーの出

席者選出において、女性が選出されるよう配慮した。

出典:JICA (2013), 「大規模災害からの復興に係る情報収集・確認調査-復興プロセスに対応した JICA 支援のあ

り方検討-最終報告書」、http://www.jica.go.jp/activities/issues/urban/ku57pq000019fbsv-att/reconstruction_report.pdf

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ジェンダー主流化のための手引き 防災/災害復旧・復興

19

3.3.5 開発戦略目標 ⑤:より災害に強い社会へのシームレスな復旧と復興

具体的取り組み:災害後の復旧・復興の段階で防災の視点も踏まえる(より災害に強い社会への復旧・復興)

「より災害に強い社会へのシームレスな復旧と復興」事業の実施段階において検討すべきジェンダー視

点・課題及びジェンダー視点に立った取り組み例は以下のとおりである。また、防災の視点については、

必要に応じ、開発戦略目標①~④(3.3.1~3.3.4)も参照されたい。

ジェンダー視点・課題 ジェンダー視点に立った取り組みの例

例 期待される

効果・インパクト 復旧・復興計画の策定

ベースライン調査

(活動実施の項参照) 対象地域の復旧・復興計画策定に関する調

査に以下のような項目を含め、結果を分析

し、事業の実施や指標の改訂に活用する。 復旧・復興計画の策定への男女の参加の

度合い(行政や委員会における女性の割

合、住民との協議会等における女性の参

加度合い等) その他

ジェンダー視点に立

ったモニタリング・

評価が実施される。

活動

実施

復旧・復興計画の策定に女性の

意見・ニーズが反映されない。 復旧・復興計画の策定に住民男女が参画

できるような制度を構築する。 その他

女性のニーズが反映

された復旧・復興計

画が策定される。 生計の回復 クイック・インパクト事業、緊急リハビリ事業

ベースライン調査

(活動実施の項参照) 対象地域の生計の回復に関する調査に以

下のような項目を含め、結果を分析し、事

業の実施や指標の改訂に活用する。 今回の災害において、生計への被害や

災害後の影響に男女差はなかったか。

あれば、その男女差の原因は何か。 生計の回復に対する住民男女のニーズ その他

ジェンダー視点に立

ったモニタリング・

評価が実施される。

活動実施

女性は、農作業や小規模所得創

出活動などにより家計に貢献し

ているにもかかわらず、一家の

大黒柱は男性であると認識され

ることが多いため、生計回復の

ための支援が男性を優先しがち

である(例えば、津波後の支援

において、漁船などの資産の回

復へ支援が集中し、女性が担っ

ている加工やマーケティングな

どへの支援が少なかった、な

ど)。 災害後、男性は復旧・復興事業

に雇用されたり、職を求めて都

市部へ出稼ぎに出たりする一

方、女性の雇用はなかなか回復

しない傾向にある。

男女それぞれが家計に果たしている役

割を調査し、双方の生計手段が回復され

るような活動を実施する。 女性、特に災害により女性世帯主世帯と

なった女性の生計手段の回復・創出を支

援するために、社会文化的に許容される

のであれば、それまで男性の仕事と思わ

れていたような職業(大工や左官など)

に女性が参加できるよう、研修の機会を

提供する。例えば、復興需要を見込んだ

ブロックやタイル製造技術訓練等を実

施する、など。 女性の移動が制限されている場合は、家

庭内で行える所得創出活動の導入を検

討する。 女性世帯主世帯の女性や、一夫多妻が社

会的に認められている社会で希望する

すべての女性が活動へアクセスできる

ように工夫する(例えば男性ではなく女

性の名前で登録するなど)。 その他

⑤ ⑥

男女がともに生計回

復のための支援へア

クセスできることに

より、地域社会全体

の早期のくらしむき

の回復が可能とな

る。

女性には、貯蓄や貸付、土地な

どの経済資源へのアクセスがな

い、もしくはそれらの資源に対

する家庭内での決定権がないた

めに、生存や生計手段回復のた

めの資金が用意できない。

貸付などへのアクセス向上のための支

援等を実施する。 災害後に区画整理が必要になった場合

など、土地や家屋が夫婦の共同名義や女

性の名前でも登録できるよう支援する。 その他

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防災/災害復旧・復興 ジェンダー主流化のための手引き

20

ジェンダー視点・課題 ジェンダー視点に立った取り組みの例

例 期待される

効果・インパクト

活動実施

生産活動における女性の公的支援

(農業普及活動など)へのアクセ

スが限られている。

プロジェクトが終了した後も女性が

技術的な支援を受けられるように、政

府の関係機関と女性をつなぐような

活動を実施する。

男女がともに生計回

復のための支援へア

クセスできることに

より、地域社会全体

の早期のくらしむき

の回復が可能とな

る。

災害後に増加する労働負担や教育

レベル、社会文化的な制約、移動

の制限などのために、女性が生計

回復のためのトレーニング等に参

加することができない。

女性の参加を促進するために、保育施

設の整備など、災害後に増加する女性

の労働負担を軽減する方策を事業に

組み込む。

被災者の中長期的な心のケア対策の実施

ベースライン

調査

(活動実施の項参照) 心のケアに関する調査に以下のような

項目を含め、結果を分析し、事業の実施

や指標の改訂に活用する。 特にこころのケアが必要となるよう

なリスクを抱えたグループの有無 その他

ジェンダー視点に立

ったモニタリング・

評価が実施される。

活動実施

特にこころのケアが必要となるよ

うなリスクを抱えたグループが存

在する。例:子ども、障害を持っ

た人、女性(妊婦、女性世帯主世

帯の女性など)、男性(生計手段を

失った男性など)、高齢者、大切な

ものを失った人、など。 女性は、子どもや高齢者、怪我人

などの世話に追われ、自分の不調

を後回しにしがちである。 災害後に女性が直面するストレス

要因として、早産などのリプロダ

クティブヘルスに関係すること、

避難所等でプライバシーがないこ

と、女性への暴力が増加すること、

労働負担が増加すること、などが

あり、それらの要因によって女性

の精神的苦痛が増加する。

関係機関・団体と連携し、こころのケ

アが必要な人々のカウンセリングお

よび診療体制を整える。 女性が集まって、情報や悩みを共有し

たり、新しい技術を習得したりできる

場を再建・設置する。

⑥ 災害後に男女が直面

する心的ストレスが

軽減される。

ライフラインや公共施設の復旧・復興

ベースライン

調査

(活動実施の項参照) 対象国・地域の復旧・復興に関する調査

に以下のような項目を含め、結果を分析

し、事業の実施や指標の改訂に活用す

る。 ライフラインや公共施設に関する男

女別のニーズ 復旧・復興事業への男女別参加度合い その他

ジェンダー視点に立

ったモニタリング・

評価が実施される。

活動実施

男女で、ライフラインや公共施設

の復旧・復興に関するニーズが異

なる可能性がある。

ライフラインや公共施設の復旧・復興

に関する協議の場への女性の参加を

促進する。 その他

男性同様女性も、復

旧・復興事業からの

恩恵を受けられる。

特に、災害により女

性世帯主世帯となっ

た女性の雇用の確保

が期待される。

復旧・復興事業に必要とされる大

工や左官、電気工などの職業は

元々男性が圧倒的に多く、結果と

して、復旧・復興事業に男性が多

く雇用される。

社会文化的に許容されるのであれば、

それまで男性の仕事と思われていた

ような職業(大工や左官など)に女性

が参加できるよう、研修の機会を提供

する。その際、女性の参加を促進する

ために、保育施設の整備など、災害後

に増加する女性の労働負担を軽減す

る方策を事業に組み込む。 その他

同じ仕事をしても、女性の賃金は

男性よりも低く設定されがちであ

る。

同一労働同一賃金を徹底する。

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ジェンダー主流化のための手引き 防災/災害復旧・復興

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ジェンダー視点・課題 ジェンダー視点に立った取り組みの例

例 期待される

効果・インパクト コミュニティの参加による被災地の再建

ベースライン調査

(活動実施の項参照) 対象コミュニティのベースライン調査

に以下のような項目を含め、結果を分析

し、事業の実施や指標の改訂に活用す

る。 コミュニティにおける意思決定の場

およびそこへの女性の参加度合い 女性がコミュニティの再建活動に参

加するにあたっての阻害要因 その他

ジェンダー視点に立

ったモニタリング・

評価が実施される。

活動実施

女性の、被災地の再建事業や再建

に関する意思決定の場への参加が

限られている。 女性が持っている地域資源などに

関する知識や経験が、被災地の復

旧・復興計画等に反映されない。

女性・女性団体がコミュニティの再建

にリーダーシップを発揮できるよう、

意思決定の場への参加の機会を提供

する。必要に応じ、技術的及びリーダ

ーシップに関する研修や先進地域と

の交流等を実施する。 その他

災害時の意思決定過

程への参加がきっか

けとなり、コミュニ

ティ内で、より平等

なジェンダー関係の

構築が促進される可

能性がある。 災害後は、家事や育児に加え、コ

ミュニティ活動の増加により、女

性の労働負担が増加する(無償の

労働は女性に集中しがちである)。

女性の参加を促進するために、保育施

設の整備など、災害後に増加する女性

の労働負担を軽減する方策を事業に

組み込む。 男性の家事やコミュニティ活動への

参加を促進する。 その他

女性の労働負担を軽

減することにより、

女性の心身のストレ

スが軽減される。ま

た、男性が女性の労

働負担を見直すきっ

かけとなる。

【事例 ⑤:フィリピン国台風ヨランダ災害緊急復旧復興支援プロジェクト(開発計画調査型技術協力)】 台風 30 号「ヨランダ」により被災した地域の復旧・復興プロセスを包括的に支援するために、2014 年 1 月に「台

風ヨランダ災害緊急復旧復興支援プロジェクト」が開始された。同プロジェクトでは、復旧復興計画策定支援とと

もに、復興始動時にある対象地域の復興に向けたプロセスを促進するために、経済活動の再建や生計再建及び行政

機関の災害対策支援体制の強化を目的としてクイック・インパクト事業が実施された。 クイック・インパクト事業の実施にあたっては、被災前から女性グループを支援していた現地自治体の女性職員

たちが被災後もいち早く女性グループと連絡を取っていたことから、プロジェクトでは、このような女性たちのネ

ットワークを通じた情報により被災の状況や支援を必要としている団体を迅速に知ることができ、以下の支援につ

なげることができた。 ①被災女性グループによる農水産加工を通じた生計手段の復興:台風ヨランダの被害により深刻な被害を受けた女

性の食品加工グループに対し、施設の再建と女性グループへの加工技術や運営に関する研修を実施し、女性グルー

プの活動再開を支援。 ②被災者の生計向上を図るための販売促進:地域で被災住民男女によって生産・加工された特産物の販売促進拠点を

整備し、展示・販売することで、販路拡大を目指す。食品加工者及び販売者として働く女性グループへの加工品調理

技術訓練も実施。 ③デイケアセンターの再建:フィリピンのデイケアセンターは、子どもの健康管理や虐待からの避難所、出産前後

の妊婦支援、働く母親への支援などのため、各行政村に設置が義務付けられているが、台風ヨランダにより全壊し

た建物も少なくない。そこで、プロジェクトでは、保育所の機能を持つデイケアセンターを再建し、女性の働く環

境を整備するとともに、センターを拠点として住民の交流が活性化することを支援している。

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防災/災害復旧・復興 ジェンダー主流化のための手引き

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3.4 事業進捗促進(モニタリング・評価)及び事後評価(応急対応以外の全戦略目標共通) 3.4.1 ジェンダー視点を取り入れた事業進捗促進:モニタリング・評価

(1) ジェンダー視点を取り入れたモニタリング 上記「3.3 事業実施段階におけるジェンダー視点の取り入れ」で提案したジェンダー視点に立った取

り組みに対し、プロジェクト実施中のモニタリングでは、以下のような取り組みを実施する。

男女別・災害に対して脆弱なグループ別のデータ収集の実施

男女双方のプロジェクト活動への参加状況の確認

男女双方のプロジェクト活動に対する満足度の確認

ジェンダー視点に立った活動の記録(プロジェクト活動により、対象地域の男女にどのような便

益があったか。どのような変化があったか。)、など

(2) ジェンダー視点を取り入れた評価 ジェンダー視点に立った評価指標が設定されている場合は、同指標に基づいて評価を実施する。

ジェンダー視点に立った評価指標が設定されていない場合は、上記(1)のモニタリングの結果を

用いて、ジェンダー視点を取り入れた評価を実施する。

3.4.2 ジェンダー視点を取り入れた事後評価

事業の事後評価に、以下のようなジェンダー視点を取り入れる。

プロジェクトが導入した防災関連の活動は、対象地域の男女により継続されているか。

プロジェクトの便益は男女双方が享受しているか(災害が起こった際の被害・影響が、男女ともに軽

減されたか、等)。

プロジェクト終了後に、女性が地域の意思決定の場へ参加し、決定に影響を与えているか。それは、

実施したプロジェクトと関連があるか。

【事例 ⑥:トルコ国日本トルコ仮設村支援事業(専門家・シニア海外ボランティア派遣)】 日本政府は、1999 年8 月に発生したトルコ北西部地震の被害者に対する緊急支援の一環として、兵庫県より寄

贈された阪神・淡路大震災後に使用された仮設住宅をトルコに供与し、アダパザルで1,114 戸、デュズジェで720 戸が建設された。その後、仮設村において、コミュニティ運営管理や住民の自立支援といった支援ニーズがあると想

定されたことから、2000 年4 月に現地詳細ニーズ把握と今後の協力の方向性を検討するため調査団が派遣され、

2000 年6 月、本邦 NGO「被災地NGO 恊働センター」の協力を得て、専門家派遣を実施した(2002 年8 月まで。

併せて2002年4月から2年間はシニア海外ボランティアを派遣)。同専門家は、アダパザルの日本村において「女性

支援」「子供支援」等の活動をトルコ側機関と行った。 「女性支援」活動として、トルコのNGOで、元々、女性や子供の支援を行っていたCYDD(アダパザル支部)と

連携して、トラウマケアを目的とするワークショップ、茶話会・映画鑑賞会、手芸・キリム教室(職業訓練)、識

字教室が実施された。また、子供のストレス緩和は母親に対しても効果があることから子供支援も実施。 上記活動については、地元の女性の状況をよく理解している現地NGOが実施したことにより、より女性のニーズ

に合った支援が可能となった。特に、手芸教室の参加者に対しては、販路開拓・製品開発といったマーケティング

研修や融資等の就業支援を実施したことにより、参加女性たちが、アダバザル市内に製作と販売を兼ねた店を開く

までになった。

出典:JICA (2013), 「大規模災害からの復興に係る情報収集・確認調査-復興プロセスに対応した JICA 支援のあ

り方検討-最終報告書」、http://www.jica.go.jp/activities/issues/urban/ku57pq000019fbsv-att/reconstruction_report.pdf

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ジェンダー主流化のための手引き 防災/災害復旧・復興

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4. 主要参考文献

【参考文献:災害マネジメントサイクル全般】 災害マネジメントサイクルにおけるジェンダー視点の取り入れ方と事例集

International Federation of Red Cross and Red Crescent Societies (IFRC)(2010), “A practical guide to Gender-sensitiveApproaches for Disaster Management”,http://www.ifrc.org/PageFiles/96532/A%20Guide%20for%20Gender-sensitive%20approach%20to%20DM.pdf

【参考文献:予防(被害防止・被害軽減】

ジェンダー視点に立った災害リスク削減政策、リスク評価、早期警報システム、指標など

UNISDR, UNDP and IUCN (2009), “Making Disaster Risk Reduction Gender-Sensitive” http://www.unisdr.org/files/9922_MakingDisasterRiskReductionGenderSe.pdf

【参考文献:応急対応】

人道支援におけるジェンダーハンドブック

Inter-Agency Standing Committee (IASC) (2006), “Women, Girls, Boys and Men: Different Needs – Equal Opportunities” http://www.humanitarianinfo.org/iasc/pageloader.aspx?page=content-products-products&productcatid=3

【参考文献:復旧・復興】

復旧・復興におけるジェンダー視点に立ったニーズアセスメントや経済的復旧・復興

International Recovery Platform and UNDP (u.d.), “Guidance Note on Recovery: Gender”http://www.recoveryplatform.org/assets/Guidance_Notes/Recovery%20and%20Gender.pdf

東日本大震災および JICA が実施した復旧・復興プロジェクトから得られた教訓等。ジェンダー視点に立った教訓

も多数記載されている。

JICA (2013), 「大規模災害からの復興に係る情報収集・確認調査-復興プロセスに対応した JICA 支援のあり方検

討-最終報告書」 http://www.jica.go.jp/activities/issues/urban/ku57pq000019fbsv-att/reconstruction_report.pdf

【追加資料が必要な場合】

資料の紹介などを多数含む、ジェンダーと災害に関するネットワーク

http://www.gdnonline.org/resources.php

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防災/災害復旧・復興 ジェンダー主流化のための手引き

24

別添

ジェンダー主流化団員業務実施契約(単独型)

公示例

7.業務の内容

本業務の業務従事者は、【案件名】におけるジェンダー主流化推進支援のため、同案件をとりまくジェン

ダー主流化の現状を把握の上、調査団にジェンダー主流化団員として参団[(あるいは個別に出張)]し、

案件担当のJICA職員等と協議・調整しつつ、具体的なジェンダー主流化推進のために必要な以下の調査を

行う。また、本業務従事者は、現地調査の結果等を踏まえ、本分野課題を担当業務とするJICA職員等に対

し、勉強会等を通じジェンダー主流化に向けた助言を行う。

具体的担当事項は次のとおりとする。

(1)国内準備期間(20XX年X~X月)

①【分野課題】の実施案件を把握(要請書・関連報告書等の資料・情報の収集・分析)の上、ジェンダー

主流化のための執務参考資料等を参考に、具体的な案件へのジェンダー視点の取り入れ方について

検討を行う。

②【担当事業部】と相談の上、調査対象案件について、現地調査で収集すべき情報を検討の上、質問

票(案)(英文)を作成する。

③ジェンダー主流化のための方策につき、プロジェクト関連資料(PDM(Project Design Matrix) 案、

PO(Plan of Operations)案等)に基づいて検討を行う。

④対処方針会議、勉強会等に参加する。

(2)現地派遣期間(20XX年X月X旬)

①当機構事務所等との打合せに参加する。

②先方政府側関係機関との協議及び現地調査に参加する。

③担当分野に係る情報・資料を収集し、現状を把握する。具体的には以下のとおり。

ア)関連各組織におけるジェンダー主流化の現状を分析する。

(a)現地で関連文献を収集し情報収集する。

(b)関連部署・機関へのヒアリングを行う(質問票の配布・回収も含む)。

(c)文献及びヒアリング結果等に基づき、ジェンダー主流化の現状および今後の主流化の可

能性について分析する。

イ)先行案件、(実施中案件の場合には)実施中案件におけるジェンダー主流化のための取り組み

について把握する。

ウ)他ドナーの実施する関連案件における取り組み状況を把握する。

エ)女性省等ナショナルマシーナリー(女性の地位向上を取り扱う当該国の機関)へのヒアリング

を行う。

④対象案件で考慮すべきジェンダー視点および対応策案を整理する。具体的には以下のとおり。

ア)対象案件におけるジェンダー視点および対応策案について、当機構の調査団員・ジェンダー平

等・貧困削減推進室等とも協議し、実施機関の体制・能力に配慮した現状に即したジェンダー

主流化案を作成する。

イ)想定する各活動の実施に必要な先方の実施体制(関連する組織、分野別能力・人数)の案を作

成する。

⑤プロジェクト関連書類(PDM案、PO案、事業事前評価表(案)等)のジェンダー主流化に関する部

分につき協力する。

⑥担当分野に係る現地調査結果を当機構事務所等に報告する。

(3)国内作業期間(20XX年X月X旬)

①現地調査を行った案件について、ジェンダー主流化関連部分について報告書(案)、関連資料(PDM

Page 25: JICA 事業におけるジェンダー主流化のための手引き 【防災/災害復旧・復興】€¦ · の防災/災害復旧・復興分野の事業におけるジェンダー主流化を促進することを目的としている。なお、

ジェンダー主流化のための手引き 防災/災害復旧・復興

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案、PO案、R/D(Record of Discussions)案及びM/M(Minutes of Meetings))等作成に協力する。

②帰国報告会、国内打合せに出席し、担当分野に係る調査結果を報告する。

(3)整理期間(20XX年X月X旬)

①文献・現地調査等の結果に基づき、【分野課題】分野におけるジェンダー主流化のための調査事項、

案件へのジェンダー視点取り入れのための方策についてとりまとめ、業務完了報告書を作成する。

②【担当事業部】と相談の上、職員等を対象にしたセミナー(1時間半程度)を開催し、担当分野に

係る調査結果を報告する。

8.成果品等

本契約における成果品は以下のとおり。

(1)業務完了報告書(和文)

現地調査結果を含む業務完了報告書を作成し、電子データをもって提出することとする。 対象案件

を超えて当該分野におけるジェンダー主流化のための具体的方策等についても報告に含むこととする。