Japan asd lang_shorter日本語版 yumiko edit
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自閉症スペクトラム障害と特異的言語障害の併存~診断における課題~
ロンドン大学ロイヤルホロウェイ校
コートニー・フレイザー・ノーベリ―教授
1
どうして自閉症スペクトラム障害(ASD)の言語スキルは多様なのか?
2
アウトライン
• ASDの言語プロフィールの概観
• 自閉症が言語障害を引き起こしているのか?
• 言語障害は併発症状か?
• 複数の要因がASDにおける言語発達の多様性をもたらしている
3
言語
音韻
言語の音
統語/形態素
文の形や単語の末尾(複数形、時制)を統制する規則
意味
個々の単語や文脈の中での単語の意味
語用
文脈や社会的交流における、言語の社会的使用
4
自閉症
スペクトラム障害(ASD)
社会-情動的相互交渉
非言語的なコミュニケーション行動
関係性の発展と維持
常同的行動
習慣性、儀式性、固執性
過度に限局、執着した興味
感覚的興味の異常
社会的コミュニケーションおよび社会的相互交渉
限局された興味と行動
DSM-5におけるASDの診断基準5
これらの障害があわさって言語獲得を阻害している
6
‘正常’域
= 言語の使用と表出の包括テスト(文法)
= 受容的・表出的語彙発達(意味)
= 発音・音韻
= 無意味語の反復(記憶と音韻)
ASDの言語レベルはさまざまである(Tager-Flusberg & Joseph, 2003)
7
特異的言語発達障害
「語用面」のスキルは個人差が大きい!語彙や文法などの言語スキルの障害は普遍的
文法形態素や文法の障害
語彙の乏しさ
聴覚的短期記憶とワーキングメモリの弱さ(無意味語の復唱困難)
8
ASDとSLIにはどのような関係があるか?
9
• 言語障害をともなう自閉症(ALI)は自閉性(特有の認知)による
– 社会相互交渉の乏しさが言語学習の機会を阻害している
– 中枢性統合が弱いことが文脈の中で言語を学ぶことを阻害している
• しかし、言語障害のない自閉症(ALN)のプロフィールを持つ子どもがいるのは何故か、説明が必要
SLI Autism
ALI
A B
10
言語・非言語的コミュニケーション
社会的相互交渉
限局的・反復的行動
core cognitive
deficit
実行機能社会的理解
中枢性統合
ASD
11
自閉症状
言語障害(語彙と文生成の標準テスト)
自閉症: 言語は ‘正常’ (ALN)
自閉症: 言語は ‘障害あり’ (ALI)
定型発達(TD)
‘特異的’ 言語発達障害 (LI)
12
自閉症状
言語障害(語彙と文生成の標準テスト)
自閉症: 言語は ‘正常’ (ALN)
自閉症: 言語は ‘障害あり’ (ALI)
定型発達(TD)
‘特異的’ 言語発達障害 (LI)
13
言語の問題の有無や症状の比較を行えば…
• ASDに「普遍的」や「固有的」な特徴を特定できる
• (発達障害に共通の)言語障害を引き起こすリスクを特定できる
• ASDがあっても言語獲得を促す要因が分かる
14
言語・非言語的コミュニケーション
相互的社会交流
限局的・反復的行動
core cognitive
deficit
実行機能社会的理解
中枢性統合
ASD
15
• 未来の目標に向けて柔軟に行動するために必要な一連の機能
– ワーキングメモリ
– 抑制機能
– 注意の柔軟性
– プランニング
• 実行機能の弱さは言語学習を妨げる可能性がある
– 共同注意の困難
– 文脈には無関係な情報を抑制することの困難
– 規則性の学習が困難
– 表出言語における困難
実行機能
(EF)
16
EFから示唆されること
• 言語能力と実行機能の間には強い結びつきがあるはずだ
– しかし、実行機能と言語能力評価の相関に関する結果には食い違いがある
• 相関あり (Pellicano 2007; Liss et al. 2001)
• 相関なし: (B&N 2005; Landa & Goldberg 2005; Joseph et al. 2005)
• 結果が異なるのは、使った評価が異なるため
• 実行機能の弱さは言語障害と関連があったが、ASDでは関連しないとする研究もある (e.g. Bishop & Norbury 2005; Liss et al. 2001)。
17
Kelly, Walker & Norbury (2013) Developmental Science
• ASDと言語障害との関連を検討するために、眼球運動統制が必要な課題を実施して、つぎの4グループの成績を比較した。
ALI=自閉症+言語障害
ALN=言語が正常域の自閉症
SLI =特異的言語発達障害
TD =定型発達
18
X
19
X
20
21
今後の課題• 原因と結果の関係の方向性は全く不明:
– 規則を内化するのに重要な言語は実行機能課題の達成に必要であるというもの (Russell et al. 1999, Zelazo 2004)
– 実行機能と言語能力は本質的には関連していないが、ASDは自己調整のために言語を用いることが難しいという説明(Joseph et al. 2005)
• 実行機能と言語の関係はASD以外にもみられる。 (e.g. SLI; Henry et al. 2012)
• 実行機能と言語の発達的関係を検証した研究は(特にASDにおいては)乏しい
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言語・非言語的コミュニケーション
相互的社会交流
限局的・反復的行動
core cognitive
deficit
実行機能社会的理解
中枢性統合
ASD
23
• 大域的で全体的な意味よりも、個別の局所的要素に着目する傾向
• CCの弱さはASDが視空間課題を解く際に用いるスキルを説明する
• 文脈の中で異なる情報の断片を結合するためには、CCが必要となるため、言語障害の原因にもなりうる– 共同注意
– 文脈から学ぶ
中枢性統合の弱さ
24
弱いCCから示唆されること
• ASDは、年齢や能力にかかわらず、文脈に依存した意味を導き出すことが難しい (Happe 1999)
– e.g. 同音異義語のタスク (Happe 1997)
• Lucy was cutting onions. In her eye there was a tear. (涙)
• Lucy was climbing fences. In her dress there was a tear.(水滴)
–推論、曖昧表現や比喩表現の理解が苦手
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今後の課題
• 言語的結合性の問題はASDのみに特有のものではない
–言語障害をともなう他の障害にもみられる
• 視覚的な統合の強さと言語的結合性の弱さは必ずしも連携していない
• 中枢性統合の弱さは ASDの症状とは独立し、
言語能力の弱さとかかわっていると多くの研究が示唆している(Norbury 2004, 2005, Brock et al. 2008)
26
言語が弱い 中枢性統合が弱い?
• Snowling & Frith (1986)
– ASD群も発達遅滞群も
同音異義語の理解は、ASDと発達遅滞の両グ
ループで言語能力に依存する
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
SLI ALI ALN TD
Group
Fa
cilia
tati
on
dif
fere
nc
e s
co
re
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言語・非言語的コミュニケーション
相互的社会交流
限局的・反復的行動
core cognitive
deficit
実行機能社会的理解
中枢性統合
ASD
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• 発達早期から社会的刺激に向かわない
– 顔や目を注視することが少ない
– 育児語や母親の声を好んで聴くことがない
• 社会的交渉への参加が乏しい
• 共同注意の乏しさ
– 視線の追従が乏しい
中核的な社会性の障害
社会的意図の理解・心の理論 言語学習・語用の障害
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示唆されること
• すべてのASD者は広範な言語障害をかかえ
るはずだ(社会的な文脈に頼る語彙発達においては特に)
• 「社会性」の評価と言語能力の評価に強い相関があるはずだ
• ASDは発達早期から社会的刺激の処理に異常が見られるはずだ
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検討すべき点
• すべてのASDは広範な言語障害をかかえる
はずだ(社会的合図の使用に頼る語彙発達においては特に)
–多くは当てはまる、しかし認知レベルが高いASDの25 - 43% は標準化された課題で「正常な」言語スキルを示す (Kjelgaard & Tager-Flusberg, 2001; Loucas et al. 2008)
– ASDでは語彙は比較的良好と認知されている(Mottron 2004)
31
検討すべき点
• 「社会性」の評価と言語能力の評価に強い相関があるはずだ
– Kuhl et al. (2005): ASDの乳幼児は、育児語よりも非言語スピーチを聴くことを好む
• 意味に違いをもたらす音素の違いへの感度が低い
• 表出言語の評価での点数が低い
32
Norbury et al. (2009)
• 言語障害があるASD、ないASD(青年)の重症度と社会適応を計測した
– Social Communication Questionnaire (SCQ)
– Autism Diagnostic Observation Schedule (ADOS-Module 4)
– Vineland Adaptive Behavior Scales (Socialisation)
• SLI(青年)のスコアと比較した
33
LI ALI ALN
group
2
4
6
8
10
12
14
16
AD
OS
LI ALI ALN
group
5
10
15
20
25
30
35
So
cia
l C
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mu
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Qu
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tio
nn
air
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re
)
34
Vineland Adaptive Behavior Scales: Socialisation
16th centile
10th centile
3rd centile
LI ALI ALN
60
70
80
90
35
青年期の定型発達
青年期の自閉症
社会性が最も高い結果
Klin et al. (2002)
社会的刺激の注視
(非常に高機能)
Norbury (2009) は、注視パタンは言語レベルに一致することを示した (cf. Rice et al. 2012) 36
社会的場面の言語描写
• ASDはより背景を見やすいだろう
• ASDは背景により言及しやすいだろう
• 言語に障害のある子ども(ALI/LI)は、関連のあ
る文をあまり表出しないだろう
37
.0000
.0500
.1000
.1500
.2000
.2500
.3000
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.4000
.4500
pre-speech post-speech
pro
po
rtio
n f
ixat
ion
定型発達(TD)
agent
patient
core
background
.0000
.0500
.1000
.1500
.2000
.2500
.3000
.3500
.4000
.4500
pre-speech post-speech
pro
po
rtio
n f
ixat
ion
言語が正常な自閉症(ALN)
agent
patient
core
background
これらグラフは、話者が発話する前と後でスクリーンの異なるエリアを注視した割合を示している発話前は動作主、発話開始後は被動作主をより長くみるように転換すると予測した 38
.0000
.0500
.1000
.1500
.2000
.2500
.3000
.3500
.4000
pre-speech post-speech
pro
po
rtio
n f
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ion
自閉症ない言語障害(LI)
agent
patient
core
background
.0000
.0500
.1000
.1500
.2000
.2500
.3000
.3500
.4000
.4500
pre-speech post-speechp
rop
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ion
fix
atio
n
言語障害のある自閉症(ALI)
agent
patient
core
background
ALIは場面の見方が異なっていた
–ALIは決して動作主を優先して見ない!
39
ここまでのまとめ
• 言語発達障害はASDと因果関係はないし、ASDの言語症状の多様性を説明しない
• ASDの症状の重症度は言語能力の多様性を必ずしも説明するものではない
• ASDの認知仮説のどれも言語症状の多様性を説明しない
• 言語障害は多分自閉症によって引き起こされるわけではない?
40
ではなぜ自閉症スペクトラム内で言語スキルに多様性があるのか
41
• ALIはSLIとASDが併発することを示す–異なる因果体系がお互いに関連し合っている・ALIは、SLIの原因が自閉症を引き起こす因子と関連することによっておこる
–同一因子が異なる疾患を引き起こす(多面発現性)・自閉症とSLIは同じ遺伝子をから生じるが、異なる症状を示す(Bishop, 2003)・両方向で重複するはずである
SLI AutismALI
A B
SLI ALI
A B C
Autism
42
注記: 部分的に重複する障害
ASDはSLIには見られない障害を含む(e.g. 限局された興味・行動;退行)
すなわち、課題が両群どちらにも困難だったとしても、言語行動のパターンが同一であるとか、非常に似た発達軌跡を示すとい
うことではない
43
今後の研究方法
• 真に発達的なアプローチ
–子どもたちを長い時間かけて評価していくリスク研究
• 障害間、異文化間比較
• 言語の評価と言語障害の特性解明をともに進めるアプローチ
• 同集団における行動、認知、神経生物学的エビデンスを組み合わせる
• 因果関係を検証する指導効果研究44
www.pc.rhul.ac.uk/sites/lilac 45
Kuhl (2007) model of language
社会性音声処理
知覚
音韻スキル
計算能力
???????
他にも沢山ある中で!
46
言語スキルが高い人々は非社会的処理に頼っている
非社会的処理における個人差が言語スキルの多様性を説明できるだろうか
47
4つの新規語の学習(それぞれ6回呈示)
• 3つの学習の評価:
– 認識
– 命名 (音韻)
– 定義(意味)
• 2つの時間枠:
– 学習直後
– 4週間後
「ケローを見せて」
48
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
Time 1 Time 2 Time 1 Time 2
Semantic Phonological
pro
po
rtio
n o
f fe
atu
res/p
ho
nem
es
co
rrectl
y r
ecall
ed
ASD
TD
49
本研究からの結論
• ALNは音韻処理を学習したり保持するのが得意
– ALIはさらに音韻的障害がある可能性
– 文字の扱いが容易であることを説明するかもしれない(語彙学習における非社会的な道筋がある?)
• ALNは学んだ情報を統合するのが苦手であることが強く示唆される (see also Henderson, Gaskell, Powell & Norbury, 2014)
– ASDにおける質的な違いは、新しい情報を既存の知識と統合させる事の難しさを反映している
– 意味的・語用論的側面における困難の根底にある?
50
ASD (n =13) TD (n = 13) t-value p-value Cohen's d
Age (months) 86.46 85.00 1.02 0.32 0.40
Receptive
Vocabulary
理解語彙(素点)
73.54 73.85 0.08 0.93 0.03
Receptive
Vocabulary
理解語彙 (SS)
100.54 102.31 0.50 0.62 0.20
WASI Matrix
Reasoning
行列推理
51.31 51.77 0.11 0.91 0.05
WASI
Definitions
定義
40.00 51.23 3.05 0.006 1.73
社会性に制約があるにもかかわらず膨大な単語を獲得できる
単語の知識に関する明らかな質的差
51
summary
• 単一障害モデルは、ASDを特徴づける言語能力の多様性を説明できない
• 言語障害の危険因子は、多くの神経発達障害にわたって共通しやすい
• 障害固有の危険因子もまた存在し、これが結果的に、複雑に絡み合ったものとして行動に表れる。
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Inhibition抑制
Perception知覚
phonological memory音韻記憶
consolidation processes統合処理
social engagement社会的相互作用
attention control
注意の統制
motor skills
運動技能
implicitLearning潜在学習
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Inhibition抑制
Perception知覚
phonological memory音韻記憶
consolidation processes統合処理
social engagement社会的相互作用
attention control
注意の統制
motor skills
運動技能
implicitLearning
潜在学習
ALN
ALILI
54