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ITUジャーナル Vol. 45 No. 4(2015, 4) 46 1.イベント概要 偽造&標準非準拠ICT端末対策について関係機関が議論 するITUイベント“Combating Counterfeit and Substandard ICT Devices”が、2014年11月17 ~ 18日にITU本部Geneva にて開催された。SG11にて議論されている偽造品対策の 技術レポートTR-Counterfeitingに関連するイベントとの ことから、SG11会合期間中での開催となった。会合参加 者は約120名であり、ITU room Hがほぼ満席となったこと から関心の高さが伺える。冒頭にITU-D Director Mr. Brahimaからの挨拶、基調講演CNRI、講演者としては、 政府系(ウクライナ, ガーナNCA, UAE TRA, ブラジル ANATEL, 英国BIS, 中国MIIT)、国際機関系(WIPO, EC, WTO, OECD, WCO, IFPMA)、産業 界(MMF, GSMA, Cisco, Microsoft, HP)が実施し、多くの関係機関が参加 する会合となった。主に各機関での偽造品対策施策につい て紹介し合い、最終セッションでは、ITUにて検討すべき 偽造品対策の作業方針について議論されている。会合情 報は下記より入手可能。 (https://www.itu.int/en/ITU-T/C-I/Pages/ WSHP_counterfeit.aspx) また本イベントでは、セミナとは別に寄書を募集してお り、NECから「物体指紋認証技術による偽造品対策」の 寄書(Contribution 009 - Image recognition technology that identifies counterfeit products - NEC Corporation) を入力している。 2.イベント背景及び主旨 標準規格非準拠品及び偽造ICT製品は、先進国及び途上 国共通の経済/ ICT産業/消費者に対して重大な問題となっ ている。標準規格非準拠品及び偽造ICT製品対策に対する コストや負の効果は、全てのステークホルダへ影響している。 損失として税金/ロイヤリティ/収益、減少として売上/価 格/オペレーション、ブランド価値低下/評価の低下、イノ ベーションへのインセンティブの減少/投資の減少、雇用の 低下/経済成長率の低下、相互接続性問題によるサービス 品質の低下、健康/安全/環境へのリスクなどが想定されて いる。国際商工会議所(ICC)によると、国際的な偽造品の 価値は、 2015年までに1.7兆USDを超えると予想されている。 ITU PP-14にて新決議177“ICT端末偽造品対策”(Busan, 2014)が採択され、WDC-14においても同様に、新規決議 79“ICT端末偽造品への対処及び扱いにおけるICTの役割” (Dubai,2014)が採択された。これらの決議にて提示され ていることは、①ICT偽装品端末問題は拡大している。② 偽造品端末問題の重大さと本問題を抑制するメカニズムを 検討し、国際的かつ地域的に本問題への対処方法を見付 けるために、ITUと関連ステークホルダが協力して本問題 に対処する重要な役割を担うこと。③ITU事務局長に対し て、認証評価システムを含んで地域レベル及び国際レベル での情報共有を通して、偽造ICT端末対策への懸念事項 へ対応するために、加盟国の活動をサポートすることを指 示する。④ITU加盟国を招集し、偽造ICT端末の測定方法 の情報を収集し協力して本領域における解決策に対する 専門知識を情報共有するために、産業界メンバの参加を 促すこと。である。これらの決議を受けて、本ITUイベン トの目的は下記3点としている。 1.偽造と標準規格非準拠ICT製品のインパクトと様々 なステークホルダと共に、国際的な影響範囲とイン パクトについて議論する。 2.様々なステークホルダの共通の検討事項、課題、活 動などをハイライトする。 3.本課題に苦渋しているメンバをアシストするために、 SDO特にITUが国際的な戦略と解決策を担うことが できる役割を検討する。 ひめ ひで 日本電気株式会社 テレコムキャリア企画本部 主任 ITUイベント“Combating Counterfeit and Substandard ICT Devices”報告 会合報告 スポットライト イベントWebページ

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Page 1: ITUイベント“Combating Counterfeit and …ITUジャーナル Vol. 45 No. 4(2015, 4) 47 3.講演内容 3.1 オープニングセッション 冒頭にITU-DディレクタBrahima

ITUジャーナル Vol. 45 No. 4(2015, 4)46

1.イベント概要 偽造&標準非準拠ICT端末対策について関係機関が議論するITUイベント“Combating Counterfeit and Substandard ICT Devices”が、2014年11月17 ~ 18日にITU本部Genevaにて開催された。SG11にて議論されている偽造品対策の技術レポートTR-Counterfeitingに関連するイベントとのことから、SG11会合期間中での開催となった。会合参加者は約120名であり、ITU room Hがほぼ満席となったことから関心の高さが伺える。冒頭にITU-D Director Mr. Brahimaからの挨拶、基調講演CNRI、講演者としては、政府系(ウクライナ, ガーナNCA, UAE TRA, ブラジルANATEL, 英国BIS, 中国MIIT)、国際機関系(WIPO, EC, WTO, OECD, WCO, IFPMA)、産 業 界(MMF, GSMA, Cisco, Microsoft, HP)が実施し、多くの関係機関が参加する会合となった。主に各機関での偽造品対策施策について紹介し合い、最終セッションでは、ITUにて検討すべき偽造品対策の作業方針について議論されている。会合情報は下記より入手可能。 (https ://www.itu . int/en/ITU-T/C-I/Pages/WSHP_counterfeit.aspx) また本イベントでは、セミナとは別に寄書を募集しており、NECから「物体指紋認証技術による偽造品対策」の寄書(Contribution 009 - Image recognition technology that identifies counterfeit products - NEC Corporation)を入力している。

2.イベント背景及び主旨 標準規格非準拠品及び偽造ICT製品は、先進国及び途上国共通の経済/ICT産業/消費者に対して重大な問題となっている。標準規格非準拠品及び偽造ICT製品対策に対するコストや負の効果は、全てのステークホルダへ影響している。損失として税金/ロイヤリティ/収益、減少として売上/価格/オペレーション、ブランド価値低下/評価の低下、イノベーションへのインセンティブの減少/投資の減少、雇用の低下/経済成長率の低下、相互接続性問題によるサービス品質の低下、健康/安全/環境へのリスクなどが想定されている。国際商工会議所(ICC)によると、国際的な偽造品の価値は、2015年までに1.7兆USDを超えると予想されている。 ITU PP-14にて新決議177“ICT端末偽造品対策”(Busan, 2014)が採択され、WDC-14においても同様に、新規決議79“ICT端末偽造品への対処及び扱いにおけるICTの役割”

(Dubai,2014)が採択された。これらの決議にて提示されていることは、①ICT偽装品端末問題は拡大している。②偽造品端末問題の重大さと本問題を抑制するメカニズムを検討し、国際的かつ地域的に本問題への対処方法を見付けるために、ITUと関連ステークホルダが協力して本問題に対処する重要な役割を担うこと。③ITU事務局長に対して、認証評価システムを含んで地域レベル及び国際レベルでの情報共有を通して、偽造ICT端末対策への懸念事項へ対応するために、加盟国の活動をサポートすることを指示する。④ITU加盟国を招集し、偽造ICT端末の測定方法の情報を収集し協力して本領域における解決策に対する専門知識を情報共有するために、産業界メンバの参加を促すこと。である。これらの決議を受けて、本ITUイベントの目的は下記3点としている。 1.偽造と標準規格非準拠ICT製品のインパクトと様々

なステークホルダと共に、国際的な影響範囲とインパクトについて議論する。

 2.様々なステークホルダの共通の検討事項、課題、活動などをハイライトする。

 3.本課題に苦渋しているメンバをアシストするために、SDO特にITUが国際的な戦略と解決策を担うことができる役割を検討する。

姫ひめ

野の

 秀ひで

雄お

日本電気株式会社 テレコムキャリア企画本部 主任

ITUイベント“Combating Counterfeit and Substandard ICT Devices”報告

会合報告 スポットライト

イベントWebページ

Page 2: ITUイベント“Combating Counterfeit and …ITUジャーナル Vol. 45 No. 4(2015, 4) 47 3.講演内容 3.1 オープニングセッション 冒頭にITU-DディレクタBrahima

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3.講演内容3.1 オープニングセッション

 冒頭にITU-DディレクタBrahima SANOU氏よりWelcome addressがあり、本イベント開催趣旨の紹介。「ITU-Dセクタである途上国では重大の問題であるため、ITU-T及びITU-Dで協力して対応していきたい」と述べられた。 基調講演として、CNRIの Dr. Robert E KAHN氏より、偽造品対策のための統一アプローチとしての、米国CNRIのDigital Object(DO)アーキテクチャと、ITU-T X.1255

(DOアーキテクチャ基づいた相互接続性フレームワーク”A framework for interoperability - based on the Digital Object Architecture”)の使用方法についての紹介が実施された。ICT製品の偽造品対策のためには、工場出荷から消費者までのサプライチェーンを管理する必要があり、統一のID(DOI:デジタルオブジェクト識別子)にて管理することが有効である。DOIは現在、主にインターネット上のデジタル文書に付与される識別子として利用されておりCNRI等によりセキュアに管理されている。また、ネットワーク上のサーバはHandleと呼ばれる識別子で一意に管理している。Handleシステムはグローバルで利用されており、” prefix/suffix”という形式でWeb上のコンテンツはURLという形で定義されており、CNRIが同様に管理している。ICT端末にもこのHandleシステムが流用可能であるとしている。本システムは、ITU勧告X.1255(デジタルオブジェクトアーキテクチャに基づいた相互接続性フレームワーク)として2013年9月にSG17にてTAP承認を得て完成した。デジタルオブジェクトアーキテクチャを利用したHandleシステムであるGlobal Handle Registry(GHR)を利用したパイロットプロジェクトを実施するために、DONA foundationが本システムの管理、監督の実施を目的に2014年1月に非営利団体としてジュネーブにて設立されている。ICT偽造端末対策には様々有効な対策があるが、Handleシステムの様にICT端末以外にて運用されているシステムを活用することも有効である。

3.2 セッション1:政策議論:政府の対策

 ウクライナ電波省(TR-Counterfeitエディタ)より、偽造品及び標準非準拠品端末からマーケットを保護するためのウクライナの規制手順と解決策についての紹介。偽造品問題はグローバルで年々増加傾向であり、特にモバイル端末は2015年には19億台にも達すると言われている。本プレゼンでは、アゼルバイジャン、コロンビア、エジプト、イ

ンド、ケニヤ、スリランカ、トルコ、ウガンダの対策について紹介されている。特にウクライナでは、2008年から本問題を重要視し、2009年にウクライナモバイル端末自動登録システム(AISMTRU)を構築した。本システムでは、3種類のデータベース(ホワイトリスト、グレーリスト、ブラックリスト)を構築して、各登録端末の照会を実施している。本施策により2010年には違法輸入端末の数が急激に減り、合法的に輸入された端末が93 ~ 95%上昇するという経済的な効果が得られた。これによりウクライナ政府は、2億USDの収入が増えている。ウクライナの効果をベースに、グローバルに利用できるシステムを構築すべきであると結んでいる。 ガーナ通信省(Q8/11ラポータ)より、偽造モバイル端末のガーナの状況についての紹介。ガーナでは、従来の音声通信に加えてチャット/ブラウジング/映像通信/電信振込などでモバイル端末がよく利用されているが、偽造モバイル端末/バッテリー/アクセサリの流通が増大しており、問題は深刻である。IMEIXSの調査では、60%の端末がno-IMEIか不正に書き換えられたIMEIであるとしている。多くの偽造端末がアフリカへ流入しており、これらは簡単に故障するが、ストリートで不正に修理されマーケットに戻される。そのため、不正修理品は発熱/発火などにより健康被害や、多くの不正端末を処理するためE-waste問題は深刻であり、焼却時には有害物質が排出されるなど非常に危険な状態である。本問題に対処するためにガーナNCAでは、偽造品及び盗品端末をブロックすることができるVASプロバイダ(IMEIXS)とライセンスを結んだ。また、TAP(Type Approval Process)により正規品との認証システム(TAC:Type Approval Certificate)を確立させて運用している。まだ課題もあるため、共通認識を持つ地域と一緒に対応していきたいと結んでいる。 UAE通信規制省より、UAEにおける偽造品対策についての紹介。UAE TRAが実施したこととして、まず偽造端末及び重複IMEI端末をネットワークから切断したことである。2011年9月に本指令を発布し実施することで、10万端末以上が切断されている。 ブラジル通信省より、ブラジルにおける偽造/標準規格非準拠/否認可ICT端末対策についての紹介。本システムは、ユーザが端末を使ってネットワークに接続する際にネットワークキーを収集し、認証端末データベースにて照会することで、本システムが不正を発見した場合、オペレータへ通知し、オペレータがアクションを起こすというワー

会合報告

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クフローである。また、本検出システムを輸入時に適用し、国内に流通することを防いでいる。

3.3 セッション2:国際機関における活動

 世界知的所有権機関(WIPO)より、政府間イニシアチブであるWIPOの戦略ゴールVIについての紹介。WIPOでは知的財産の観点から、偽造品及び海賊品対策を各政府と連携して実施している。 EUコミッションにより、知的所有財産を犯している製品の流通量を減らすためのEUコミッションプロジェクトの紹介。EUアクションプラン(2017年7月)にて、通信分野におけるIPRの強制に向けた新たな合意が実施されている。本アクションプランでは、10のアクションを三つの分野に分けて構成している。2003年にセッション1が開始されてから、2014年までにセッション9が実施されており、次回2016年のセッション10では、市場における偽造品及び海賊品の流通量を減らすために現在進行中の測定方法を補足するために、予防活動、測定方法、成功体験の共有を実施する予定。 世界貿易機関(WTO)より、WTOのTRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)についての紹介。WTOでは、トレードマーク(TM)の活用状況をモニタした結果、今回例示する靴/医薬品/モバイル端末については、地域ごとに偏りがあることが分かった。TRIPS協定は、偽造ICT端末に対しては有効であるが、標準規格非準拠品に対しては効果がないことが課題、としている。 経済協力開発機構(OECD)より、偽造品及び海賊品における経済及びポリシ課題のリサーチについての紹介。課題規模の評価、本問題の効果、関連ポリシを決めるために、OECDでは2008年より検討を開始し、2009年にはデジタル製品の海賊品についての調査を実施しており、その調査結果及び今後の活動についての紹介が実施された。 世界税関機構(WCO)より、偽造品規模を調査するため2013年4月に10日間アフリカ地域23か国で実施した“オペレーションBIYELA”の紹介。能力向上策として、正規品と非正規品を判断できるIPM認証システムを構築し、税関と権利保有者をつなぐツールとして活用していることを紹介。

3.4 セッション3:産業界における技術議論

 MMF(Mobile Manufacturers Forum)より、消費者

の健康と安全を促進するための活動についての紹介。MMFでは、ネットワークパフォーマンス試験を実施しており、3GPP仕様プロトコルを使用して実施することで、偽造品は1/4呼がドロップし、平均41%のハンドオーバの遅延が発生し、3rdハンドオーバには失敗するなどの重大な影響が発見されている。 GSMAにより、IMEIエコシステムによる偽造モバイル端末対策への適応についての紹介。3GPP仕様では、モバイル端末を一意に特定できるIMEIを規定しており、Type Approval Advisory BoardはIMEIをシリアル番号として規定することをエンドースしていることもあり、端末を一意に識別するシステムとして承認している国/政府もあることからも、IMEIは現在唯一グローバルで活用できる識別子となっている。GSMAの役割として、このIMEI TAC

(Type Allocation Code)管理及び各社への割り振りを実施しており、IMEIデータベースを構築し管理し公開している。 中国通信省(MIIT)により、乳児用粉ミルク産業における製品品質安全管理のためのトレーサビリティシステムの紹介。ベース技術としてCNRIのHandleシステムを活用しており、Digital Object Architecture(DOA)がシステム間相互接続を実現する主要技術となっている。 国際製薬団体連合会(IFPMA)により、偽造医薬品に対する活動についての紹介。IFPMAは、IFPMA医薬品マーケティングコードを発行し、偽造品対策を実施している。 その他Microsoft社、HP社、SGS社から、自社製品の偽造品対策についての紹介及び検査手法などの紹介が実施され、最後に、Q8/11ラポータ及び 技術レポートTR-CounterfeitエディタによるITU-T SG11における本テーマに対する活動紹介が実施された。

3.5 結論と今後の作業

 本イベントでは、最終セッションにてワークショップ形式のグループディスカッションを設け、4 ~ 5名程度の小グループに分かれて、本課題に対する影響や不足している対策、ITUに期待する役割を議論するというユニークな試みが実施され、最後に各グループの意見を発表し合った。全体方針をまとめることは実施しなかったが、本アイデアが元となり今後のITU-Tでの検討を進める材料になると思われる。

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