Performatives, Phonetic Repertoire, Phonological Processes ...
IPA入門 Introduction to the International Phonetic Alphabet
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Transcript of IPA入門 Introduction to the International Phonetic Alphabet
第4回音声学入門講座 IPA(国際音声記号)入門
2012年3月10日 於 産業技術総合研究所関西センター
牧野武彦
IPA とは
• International Phonetic Alphabet(国際音声字母、国際音声記号)の略
• International Phonetic Association(国際音声学協会、国際音声学会)の略
• 国際音声学協会の Webサイト http://www.langsci.ucl.ac.uk/ipa/index.html
IPAの記号一覧(2005年改訂版) IPA Chart, http://www.langsci.ucl.ac.uk/ipa/ipachart.html, available under a Creative Commons Attribution-Sharealike 3.0 Unported License. Copyright © 2005 International Phonetic Association. • 「IPAの記号の配列は言語学
的音声学の理論全体を1ページでまとめようという試みである」(ピーター・ラディフォギッド著『音声学概説』より)
1.母音の記号 • 縦軸は、「口の開き具合」
に対応 • 横軸は、「舌の前後位
置」に対応(左が前寄り) • 同じ「位置」では、「唇の
丸めの有無」を区別(左の記号が非円唇、右が円唇)
• 但し、この形は「口の開き具合」と「舌の前後位置」に厳密には対応しない(次のページを参照。)
母音記号の調音上の位置関係 1. 舌が最も前寄りで口の開きが小さ
い母音を [i] と定義する。(これ以上前寄りで狭いと摩擦が生じて子音になってしまう。)
2. 舌が最も後ろ寄りで口の開きが大きい母音を [ɑ] と定義する。(これ以上後ろに引くと摩擦が生じて子音になってしまう。)
3. その2つの間を、舌を前寄りに保ちながら徐々に口を開き、聴覚的に等間隔になるように [e, ɛ, a] を位置づける。
4. 同様にして、舌を後ろ寄りに保ちながら徐々に口を閉じると同時に唇の丸めを強め、聴覚的に等間隔になるように [ɔ, o, u] を位置づける。
• 以上、設定された母音は第一次基本母音と呼ばれる。
第二次基本母音
• 第一次基本母音と同じ舌の位置・口の開きで、唇の丸めを逆転した母音 [y, ø, œ, ɶ, ɒ, ʌ, ɤ, ɯ]を定義する。
• [i] と [u] の中間の位置(口の開きは同じで舌が中間)に、唇の丸まらない母音の [ɨ] と唇の丸まった母音の [ʉ] を定義する。
• IPAでは第一次・第二次
基本母音のほかにも、中間的な音質の母音に記号を付与している。
※ 用語の和訳
front 前舌 central 中舌 back 後舌 close 狭 close-mid 半狭 open-mid 半開 open 開
• 母音図の四角形の形状は、第一次基本母音と同様の唇の形の場合、母音の音響的性質に対応していると言われる。(右上隅を起点に、下方向へ第1フォルマント・左方向へ第2フォルマント。) – 但し、「同じ」母音でも人によりフォ
ルマントの値は異なるので、フォルマント値だけで母音を特徴付けることは本来できない。
• 近年の Journal of the IPA に掲載の「IPAの実例」(個別言語の音声をIPAを使って記述したもの)の中には、この母音図を使わずに、1フォルマント、第2フォルマントの値を示したグラフの形で母音を提示しているものもある。
日本語の母音
• 「ア・イ・エ」は非円唇母音
• 「オ」は円唇母音 • 「ウ」は東日本では非円唇、西日本では円唇と言われる
母音図は、このように、一種の座標軸のように用いられる。
アメリカ英語(標準的なもの)の母音
単母音 二重母音
子音の説明の前に
子音の分類を理解するためには、音声器官の位置と名称を覚える必要がある。 • 喉頭(気管上端の軟骨の
箱)の中には、左右一対の声帯があり、その間の空間を声門と呼ぶ。
• 声門は閉じることもでき、声帯が互いに振動して速く開閉することにより声を出すこともできる。
喉頭
口蓋垂唇
軟口蓋
硬口蓋
歯茎歯
舌尖
舌端
前舌面
後舌面
舌根
鼻腔
口腔
舌 咽頭
喉頭蓋
音声器官
2.子音の記号
• 子音には、肺からの呼気によるものと、そうでないものがある。
• 肺からの呼気のものが、まとめて大きな表になっている。
• 分類基準は、肺からの呼気がどこで妨げられているか(調音位置)・妨げられ方の有様(調音様式)・妨げられている間の声(声帯の振動)の有無、の3つである。
• 肺からの呼気による子音の記号表 • 横軸は「調音位置」を表す。bilabial 両唇音 labiodental 唇歯音 dental 歯音 alveolar 歯
茎音 postalveolar 後部歯茎音 retroflex そり舌音 palatal 硬口蓋音 velar 軟口蓋音 uvular 口蓋垂音 pharyngeal 咽頭音 glottal 声門音
• 縦軸は「調音様式」を表す。plosive 破裂音 nasal 鼻音 trill ふるえ音 tap たたき音 flap はじき音 fricative 摩擦音 lateral fricative 側面摩擦音 approximant 接近音 lateral approximant 側面接近音
• 同じマス目の中では、左側が無声音、右側は有声音である。 • 灰色で塗りつぶされている枠は、調音不可能と見なされている部分である。灰色ではな
くても記号が付与されていない部分の音がある。そのような音を表記する場合は、補助符号を用いたり、別に説明を加えた上で臨時記号を用いる。
用語上の注意 • plosive = 破裂音とする。しばしば stop = 閉鎖音という用語
が同じ意味で用いられるが、stop は厳密には肺からの呼気を用いないもの(後述の放出音など)も含めての用語であり、plosive は「肺からの呼気を用いた stop」という意味。
• lateral approximant = 側面接近音は、簡略化して lateral 側音とも呼ばれる。
• trill はふるえ音のほかに、顫動音とも訳される。 • flap ははじき音のほかに弾音、tap はたたき音のほかに単
顫動音とも訳される。 • postalveolar = 後部歯茎音という用語を嫌って、
palatoalveolar = 硬口蓋歯茎音という用語を好む音声学者も多い。
子音分類の実践 子音=肺からの呼気が口腔内で妨害を受ける音 → どこで、どのような妨害を受けるかにより音に違いが現れる。 • 日本語のパ行(パ、ピ、プ、ペ、ポ)の子音では、両唇が一旦閉じて、
破裂する。 – 調音位置(どこで気流が妨害されるか?)=両唇 – 調音様式(どのような妨害の仕方か?)=破裂
→ 両唇(りょうしん)破裂音 [p] • 日本語のタ、テ、トの子音では、舌先が上の歯の裏と歯茎に密着
して、破裂する。 調音位置=歯、調音様式=破裂→歯破裂音 [t]
有声音と無声音 [p] の他に、バ行の子音 [b] も両唇破裂音であるし、[t] の他に、ダ、デ、ドの子音 [d] も歯破裂音である。これらが、声の有無により区別されていることを確認してみよう。 • 首の喉頭に相当する部分に指をつけたまま「パ」[pa]「バ」[ba] と交
互に言ってみて違いを比べてみよう。「タ」[ta] と「ダ」[da] についても同様にしてみよう。 – 母音 [a] は有声音なので指に振動を感じる。タイミングは微妙だが、
[pa] では両唇が閉鎖している間は指先に振動を感じず、破裂して [a] になってから振動を感じるはずである。一方、[ba] では両唇が閉鎖中に既に指先に振動を感じるはずである。つまり子音は気流が妨害を受けている間に声帯が振動しているか否かによっても区別されているということである。[p] は無声両唇破裂音、[b] は有声両唇破裂音である。
– タとダの違いも同様で、[t] は無声歯破裂音、[d] は有声歯破裂音である。
日本語に見られる子音の観察 1. 破裂音(plosive) 調音位置において気流が完全に遮断されるもの。実際には破裂を伴わない場合も含めて破裂音と呼ばれる。 A) パ行子音=無声両唇破裂音 [p]、バ行子音=有声両唇破裂音
[b] B) タ、テ、トの子音=無声歯破裂音 [t]、ダ、デ、ドの子音=有声歯
破裂音 [d] – 舌先が上の前歯の裏と歯茎の両方に密着することで気流が閉鎖さ
れる。 C) カ行の子音=無声軟口蓋破裂音 [k]、ガ行の子音=有声軟口蓋
破裂音 [ɡ] – 後舌面が盛り上がって軟口蓋に密着することで気流が閉鎖される。
2. 摩擦音 (fricative) 調音位置において通路が狭められるため、通過する気流が摩擦の音を生じるもの。 A) フの子音=無声両唇摩擦音 [ɸ]
– 両唇が接近してその間を気流が摩擦の音をたてながら通過する。 B) サ、ス、セ、ソの子音=無声歯茎摩擦音 [s]
– 日本語の場合、舌尖は下の歯の裏側にありながら舌端が持ち上がって上の歯茎に接近する。言語によっては舌尖も持ち上げられる場合もある。
C) シの子音=無声後部歯茎摩擦音 [ʃ] – 舌端が上がり歯茎の後部(硬口蓋に近いところ>硬口蓋歯茎)に接近する。
D) ヒの子音=無声硬口蓋摩擦音 [ç] – 前舌面が持ち上がって硬口蓋に接近する。
E) ハ、ヘ、ホの子音=声門摩擦音 [h] – 口腔内には特に狭めはなく、声門の部分が最も狭いためにそこで摩擦を生ずる。声道全体
で摩擦をしているとも考えられるので、声道摩擦音 (vocal tract fricative) とも呼ばれる。後続する母音と同じ口の構えの無声音なので、音声的には無声の母音であり、本来の子音の定義には当てはまらないが、他の子音と同様の機能を持つため子音として扱われる。
3. 破擦音 (affricate) 破裂音の直後に調音位置が同じか近い摩擦音が続くもの。 A) ツの子音=無声歯茎破擦音 [ts] B) チの子音=無声後部歯茎破擦音 [tʃ] C) ザ、ズ(=ヅ)、ゼ、ゾの子音=有声歯茎破擦音
[dz] D) ジ(=ヂ)の子音=有声後部歯茎破擦音 [dʒ]
4. 鼻音 (nasal) 破裂音と同様に口腔内の調音位置で閉鎖が作られるが、軟口蓋が下がっているために鼻腔を通じて気流が外に出る音。有声音にのみ、記号が付与されている。(無声鼻音を表すには補助符号を用いる。) A) マ行の子音=両唇鼻音 [m] (マ行、パ行、バ行の前の「ン」も) B) ナ、ヌ、ネ、ノの子音=歯鼻音 [n] (タ、ツ、テ、トなどの前の「ン」
も) C) ニの子音=歯茎硬口蓋鼻音 [ɲ] D) カ行・ガ行の前の「ン」(「3回」など)=軟口蓋鼻音 [ŋ] E) 発話末尾の「ン」=口蓋垂鼻音 [ɴ]
5. はじき音/たたき音 (flap/tap) ある調音器官が別の調音器官をはじく/たたくことによる調音。はじく瞬間に閉鎖が形成されるが、破裂音と違ってこの閉鎖は決して持続されない。これも普通は有声音のみが用いられる。
– ラ行の子音の一種=歯茎弾音 [ɾ]
6. 接近音/半母音(approximant/semivowel) 狭め自体は母音と同様でありながら、言語の中で他の子音と同様の振る舞いをするために子音扱いされるもの。 A) ヤ行=「イ」に近い構えから後続母音へ→「イ」に対応する半母音 [j] B) ワ行=「ウ」に近い構えから後続母音へ→「ウ」に対応する半母音 [w]
口腔内の狭めが気流を妨害するほど狭くない調音のことを接近音と呼ぶことにすると、「イ」のような前舌母音に対応する半母音 [j] は前舌面が硬口蓋に近づいているため硬口蓋接近音 (palatal apporximant)、ウのような後舌母音に対応する半母音 [w] は後舌面が軟口蓋に近づいているため軟口蓋接近音と考えることができる。ただし、実際には [w] は両唇接近音と軟口蓋接近音の二重調音であり、正しくは両唇軟口蓋接近音 (labial-velar apporximant) と呼ばれる。
肺からの呼気を用いない子音
click = 吸着音
• 「内向きの軟口蓋気流機構」により空気を動かす閉鎖音。舌打ちなどがそれにあたる。(舌打ちは日本語では言語音として用いないが、これを言語音として使う言語もある。)
• 「内向きの軟口蓋気流機構」は、言語音以外にも、コップから飲み物を飲むときや、タバコをふかすときなどに用いられる。
• 舌打ちは [!] と表記できる。古くは [ʇ]が用いられたが、20世紀終盤に吸着音の記号体系を整理する段階で変更された。
voiced implosive = 有声入破音
• 「内向きの声門気流機構」による閉鎖音。 • 「声門気流機構」とは、閉じた声門をピストンのように上下させるもの。入破音の場合は下げることになる。
• その際、声門の閉鎖が不完全で声が生じるために「有声」入破音となる。
• 理論的には、声門が完全に閉鎖した「無声入破音」もあり得る。20世紀終盤には、IPAでこれらに一連の記号が付与されたこともあるが、後に削除された。
ejective = 放出音
• 「外向きの声門気流機構」による閉鎖音。 • 閉じた声門をピストン状に持ち上げることにより空気を動かす。
• 実質的には、対応する無声破裂音の記号の後に [ʼ]の補助符号をつけた表記を用いる。閉鎖でなく、摩擦音も可能であることが [s’] として例示されている。
• 英語の語末の無声破裂音音素の実現形としてあらわれることがある。
「その他の記号」欄
• 二重調音(調音位置が2ヶ所)の子音
• 破擦音 • 表に入れるほど一般的ではないと判断された調音位置・調音様式による子音
3.補助符号 diacritics
用途
対応する記号がない音を表したり、より細かい区別をする。 1. 子音の副次調音(調音位置以外の狭め)を
表す [tʲ] … 硬口蓋音化した [t] [ɫ] … 軟口蓋音化ないし咽頭音化した [l]
2. 微妙な違いを表す [k̟] … [k] よりも調音位置が前寄りの音 [e̞] … [e] よりもやや広めの母音 [o̹] … 円唇の強い [o] [t̻] … 舌端を用いた [t]
3. 対応する記号がない音を表す
[n̥] … [n] に対応する無声音 [β̞] … [β] よりも狭めの広い「両唇接近音」
4. その他 [ẽ] … 鼻音化した [e](口と同時に鼻へも空気が抜けている) [tʰ] … 気音を伴う [t](破裂の後、次の有声音の前に無声の時間がある) [t˺] … 閉鎖を解かない [t] [o]˞ … rの音色を伴う [o] [b̤] … 完全な声でなく、息漏れ声を伴う [b]
4.アクセント・イントネーションなどの表記法
• IPAの中では最も成功していない部分。『国際音声記
号ハンドブック』においても、IPAで用意された記号を用いてアクセント・イントネーションを表記している例はほとんどない。 – 分節音とは違い、これらの要素が言語によって多様で、当該言語の体系に依存しない分析がほぼ不可能であることによると思われる。
• 強勢を表す記号(ˈˌ)、音の長さを表す記号(ː)、イントネーション句の切れ目を表す記号( ǁ )、音節の切れ目を表す記号(.)は比較的用いられている。
5. IPAの入力方法
• 最近ではUnicode対応が進み、一般のフォントでもIPAの記号を含むものが増えた。Windows Vista 以降であれば、英字フォントを Times New Roman にしておけば十分表示できる。
• Vista 以前のシステムの場合、IPAを含む英字フォント Duolos SIL, Charis SIL は http://www.sil.org/ で入手できる。
Windowsの場合 MS Officeの各ソフト(Word, PowerPoint, Excelなど)「挿入」リボン→「記号と特殊文字」(→その他の記号)
文字がブロックごとに分類されているので、比較的求める文字が探しやすい。最近使った文字を履歴から拾える。しかし、当然これらのソフトでしか使えない。また、文字名が途中で切れて表示されているので、補助符号などは求めるものであるかどうかの確認が難しい。
「アクセサリ」→「システムツール」→文字コード表でコピー&ペースト
選択した文字の名前がきちんと確認できる点はいいが、文字のブロックごとに分類されていないので、求める記号に行き着くのにやや手間がかかる。またコピー&ペースト操作しかできない。
MS (Office) IMEの「ツール」→「IMEパッド」→「文字一覧」
記号がブロックごとに分類されているので、求める記号を探すのは容易だが、文字の名称が確認できないこと、縦横両方のスクロールが必要という難点がある。
ATOKの「メニュー」→「文字パレット」→「Unicode表」
記号はブロックごとに分類され、文字名も必要に応じて表示できる。デフォルトでは一覧中の文字が小さく見づらいが、ウィンドウのサイズを調節すれば見やすくなる。有料であるのが唯一の難点(?)か。
以上は記号がUnicodeのコード順配列になっているので、「IPA拡張」以外のブロックに割り振られている記号(æ, ŋなど)をよく使う場合はやや煩雑になる。
ロンドン大学のUnicode Phonetic Keyboard http://www.phon.ucl.ac.uk/resource/phonetics/
キーボードレイアウトを切り替えて直接入力できる。ある程度直感に沿った配列にはなっているが、慣れるまではレイアウトを参照しながら入力しなければならない。IPAが全て
カバーされているわけではないのも難点。
International Phonetic Alphabet (IPA) Chart in Unicode
インターネット上の入力環境 http://weston.ruter.net/projects/ipa-chart/view/keyboard/ • コピー&ペーストによる
入力 • IPAの表そのままから拾う
ことができるので、文字を探すのが容易
i2speak
インターネット上の入力環境 http://www.i2speak.com/ • コピー&ペーストによる入力
• 表から拾うほかに、キー入力で似た文字の候補が示され、そこから選ぶこともできる