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安全・安心で快適な生活を支えるエンタープライズ・ソリューション特集 IoTを活用した端末・サービス基盤と 業際ビジネス実現に向けた取り組み 山辺 知毅 北川 泰平 田中 和佳 1. はじめに あらゆるモノやコトの情報を、インターネットを介して収集・ 活用し、新たな価値を創出する「IoT(Internet of Things)」 に期待が高まっています。これらを実現するためには、対象 となるモノやコトといった「実世界」との接点を担う組込みシ ステムと、そこから得られた情報を効率的・効果的に活用す るためのクラウド基盤の連携が重要となってきます。 本稿では、IoT の世界を実現するNEC のクラウド基盤技 術及び組込みシステムデバイスについて紹介します。 1.1 IoT への期待の高まり IoT への期待は、無線 LAN やスマートフォンなどの通信 環境や、各種センシング技術の進化といったテクノロジー (シーズ面)の成長によるものだけでなく、直面する社会の さまざまな課題解決(ニーズ面)に対しての有効な手段とし ても期待が高まっています。 現在、エネルギー、製造、医療といった社会の中核を担う 多くの産業分野では、これまで以上の効率化、コストダウン、 国際競争力強化も含めた新たな価値創出が求められていま す(図1 )。 このような社会の課題解決に向けた取り組みは、人手に よる属人的な取り組みだけでは、質的にも量的にも限界が あると考えられます。そこで、極力人手を介することなく、モ ノやコトから得られる情報から、「状況の見える化」「将来 予測」「新たな行動などへのフィードバック」といった、一連 のサイクルを半ば自動的に実現するIoT に期待が高まってお り、あらゆる分野での適用が進んでいます(図2)。これに より、劇的な業務効率化や今まで実現できなかった価値の 創出が期待されています。 以前より、機械の稼働状況などを遠隔監視し、保守業務 近年あらゆる“モノ”“コト”にセンサーを搭載し、このデータをインターネットによってクラウドに集めて活用した新たなサービス を構築しようという動きが盛んになってきています。NEC はこの市場動向に対応するために、これまでのコア技術・システム技 術を結集・再編成して、新たに IoT プラットフォームを開発しました。これにより、今までサービス化が難しかった人にまつわる ヘルスケア市場や、物品の移動にかかわる流通市場など、新たな市場が芽生えつつあります。また従来謳われているM2M 市場 においても、より効率的に既存のインフラやネットワークを用いてシステムを素早く構成できる仕組みが立ち上がりつつあります。 IoT/M2M/ヘルスケア/ウェアラブル Keyords 図 1 社会課題の例 効率化、コストダウン、競争力強化に向けた付加価値向上が必要 製造 製造業の営業利益率 7% 4%未満 1970 年 2010 年代 課題) 新たなビジネスモデルの構築 など 農業 食料自給率 ※カロリーベース 73% 39% 1975 年度 2013 年度 課題) 効率化による国際競争力確保 など エネルギー 使用電力量 ※電灯電力合計 3,740 億 kWh 8,750 億 kWh 1975 年度 2012 年度 課題) エネルギー利用効率化 など 医療 国民医療費 6 兆円 39 兆円 1975 年度 2012 年度 課題) 健康管理による医療費抑制 など 豊かな生活 / 豊かな暮らし 68 NEC技報/Vol.68 No.1/安全・安心で快適な生活を支えるエンタープライズ・ソリューション特集

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安全・安心で快適な生活を支えるエンタープライズ・ソリューション特集

IoTを活用した端末・サービス基盤と業際ビジネス実現に向けた取り組み山辺 知毅 北川 泰平 田中 和佳

1.はじめに

あらゆるモノやコトの情報を、インターネットを介して収集・活用し、新たな価値を創出する「IoT(Internet of Things)」に期待が高まっています。これらを実現するためには、対象となるモノやコトといった「実世界」との接点を担う組込みシステムと、そこから得られた情報を効率的・効果的に活用するためのクラウド基盤の連携が重要となってきます。

本稿では、IoTの世界を実現するNECのクラウド基盤技術及び組込みシステムデバイスについて紹介します。

1.1 IoTへの期待の高まりIoTへの期待は、無線 LANやスマートフォンなどの通信

環境や、各種センシング技術の進化といったテクノロジー(シーズ面)の成長によるものだけでなく、直面する社会のさまざまな課題解決(ニーズ面)に対しての有効な手段としても期待が高まっています。

現在、エネルギー、製造、医療といった社会の中核を担う多くの産業分野では、これまで以上の効率化、コストダウン、国際競争力強化も含めた新たな価値創出が求められています(図1)。

このような社会の課題解決に向けた取り組みは、人手に

よる属人的な取り組みだけでは、質的にも量的にも限界があると考えられます。そこで、極力人手を介することなく、モノやコトから得られる情報から、「状況の見える化」「将来予測」「新たな行動などへのフィードバック」といった、一連のサイクルを半ば自動的に実現するIoTに期待が高まっており、あらゆる分野での適用が進んでいます(図2)。これにより、劇的な業務効率化や今まで実現できなかった価値の創出が期待されています。

以前より、機械の稼働状況などを遠隔監視し、保守業務

近年あらゆる“モノ”“コト”にセンサーを搭載し、このデータをインターネットによってクラウドに集めて活用した新たなサービスを構築しようという動きが盛んになってきています。NECはこの市場動向に対応するために、これまでのコア技術・システム技術を結集・再編成して、新たにIoTプラットフォームを開発しました。これにより、今までサービス化が難しかった人にまつわるヘルスケア市場や、物品の移動にかかわる流通市場など、新たな市場が芽生えつつあります。また従来謳われているM2M市場においても、より効率的に既存のインフラやネットワークを用いてシステムを素早く構成できる仕組みが立ち上がりつつあります。

IoT/M2M/ヘルスケア/ウェアラブルKeywords

要 旨

図1 社会課題の例

効率化、コストダウン、競争力強化に向けた付加価値向上が必要

製造製造業の営業利益率

約7% 4%未満1970年 2010年代

課題)新たなビジネスモデルの構築 など

農業食料自給率

※カロリーベース

73% 39%

1975年度 2013年度

課題)効率化による国際競争力確保 など

エネルギー使用電力量

※電灯電力合計 3,740 億kWh

8,750 億kWh

1975年度 2012年度

課題)エネルギー利用効率化 など

医療国民医療費

6兆円 39兆円

1975年度 2012年度

課題)健康管理による医療費抑制 など

豊かな生活/豊かな暮らし

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を効率化するといった「M2M(Machine to Machine)」に対するニーズが高まっており、導入実績も増えてきましたが、このようなケースでは、対象物が①一定のコンピュータ機能を保有し、②外部のネットワークとの接続手段を持つ、といったような、比較的ICTとの親和性が高い産業機械などが対象でした。

これに対し、IoTの世界では、これまでまったくICTとつながっていなかったようなモノやヒトの情報を、例えばウェアラブル機器などの新たなデバイスにより取得・活用していきます。これにより、市場やセンシングの対象が爆発的に拡大していくことが予想されます(図3)。

1.2 業際化の進む市場に対するIoTの価値

それぞれの産業での企業による取り組みだけでなく、多くの産業分野で業種間の連携・業際化が盛んになってきています。既存の業種の枠を超えた企業間のコラボレーションを活発にすることで、新たな価値創出、新たなビジネス創出を実現しようと取り組んでいます(図4)。

このように業際化する市場において、IoTの果たす役割は非常に大きいといえます。ヘルスケア領域を例にとると、IoTにより得られる「ヒトの生体情報」を起点に、さまざまな業種で新たなサービスが生まれる環境が整いつつあります。従来の医療だけでなく、疾病の予防や早期発見、未病段階での更なる健康増進といった新しいヘルスケア、ライフケアのサービス、ビジネスの創出に向け、さまざまな企業が IoTの活用検討を加速させています(図5)。

1.3 IoT時代のビジネスモデル創出に向けて

IoTを活用し、新たな社会価値を創出するとともに、これを実現するビジネスモデルを生み出すためには、従来型のシステムインテグレーション事業のように、「お客様の要求する仕様に基づき、求められる品質・コスト・納期を遵守して開発を進める」といったスタイルではなく、お客様とともに提供価値の仮説検証をコンセプト段階から進めていくことが重要となります。お客様自身が明確な最終サービスイメージやシステムイメージ、利用されるデバイスのイメージを描き切れていないことが多いためです。

図2 IoTが生み出す価値の例

図3 IoTにおけるボリュームイメージ

図4 業際化の進展

図5 ヘルスケアにおける業際化

あらゆるモノ・コトの情報環境情報

稼働情報

プローブ情報

エネルギー情報

新たな「気づき」・行動支援への活用

集中管理・蓄積・分析

生体情報

見える化 行動促進予兆・予測 など

センサー

センサー

センサー センサー

センサー

農業

製造・流通ヘルスケア

交通・ITS

エネルギー

ライフケア(未病・健康増進)

ライフケア(未病・健康増進)

ヘルスケア(予防・早期発見)

ヘルスケア(予防・早期発見)

シックケア(医療)シックケア(医療) 介護介護

ユーザー

小売

サービス

製造・プロセス

国・自治体

ユーザー

国・自治体(厚生労働省など)

健保組合

キャリアフィットネスクラブ 民間保険会社 病院

製薬会社

調剤薬局

介護事業者

素材・アパレルメーカー

健康食品メーカー

機器メーカー

交通・車医療ヘルスケア エネルギー 農業・漁業 防災セキュリティ 製造・流通 公共インフラ

1000万以上

100~1000万

100万未満

高血圧患者数

ガン保険契約者数

喘息患者数

病床数

商用車保有台数

ETC箇所数

電力メーター数

住宅用PV数

農業用機械数農家世帯数

施設園芸農家数 防災用

無線局数 工場

工作機械

飲料自販機

橋梁

信号機

トンネル

乗用車保有台数化粧品

爆発的なボリュームの拡大

エネルギー 医療 車載・交通

工場・機械 流通 行政・

公共防犯・

セキュリティ 農業

業際化の例スマートシティ ヘルスケア 次世代ものづくり 第 6次産業

店舗、オフィスインフラ、住宅など

予防、健康増進、新サービスなど

国際競争力強化、省エネ、高効率化など

食の生産、加工、流通の統合化

新たな価値創出追及による業際化の進展

豊かな生活/豊かな暮らし

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このため、積極的な顧客価値の提案を仮説ベースで進めるとともに、実証トライアルなどを通じ、お客様やパートナー企業とともに仮説検証サイクルを早期に回していくこと、いわばビジネスモデルを共創するといったスタイルへシフトすることが重要です(図6)。

NECでは、デバイスからクラウド基盤までのサービス実行基盤をプラットフォームとして整備し、このような仮説検証による価値共創のサイクルが、効率的に実現されるIoTシステムの実現を進めています。

2.IoTクラウド基盤

IoTを活用し、価値共創を通じた新たなビジネス創出を推進するために、クラウド基盤に必要な要素は、「多様なデバイスとの接続」「大量データのハンドリング」「疎結合により柔軟にアプリケーションを組み合わせる」が挙げられます。NECでは、これらの要素を、市場とともに進化を続けるOSS

(Open Source Software)を活用しながら、独自の設計を行うことで実現したクラウド基盤(図7)を整備しています。

2.1 多様なデバイスとの接続センサー・デバイスごとにデータフォーマット、インタフェー

ス、データ処理形式が異なります。クラウド基盤では、スキー

マレスにデータを受信し、受信データをリアルタイムに変換する機構を持つことで、多様なデバイスとの連携を容易にし、後続処理の共通化を図っています(図8)。

具体的には、MQTT、HTTPを主プロトコルとして扱う受信インタフェースを保有しており、これらを活用してセンサー・デバイスはデータを送信することができます。データそのものは、クラウド基盤に収集される前に別の場所でデータが収集されていることがあり、その場合は、高速並列転送技術を活用したエージェントを配置することで、大量データをより高速に収集することができるようになっています。収集後に動

図6 IoT時代の価値創出サイクル

図7 IoT向けクラウド基盤

Industrial IoT 向け CONNEXIVE(IoT プラットフォーム)

保守員

各種データ処理リアルタイム型 /イベント型 /バッチ型

時系列データ(構造・非構造)

モニタリング

非定型分析

リアルタイムデータベースリアルタイム分析処理

他システム連携ユーザー様

WebAPI

組込みインテグレーション

開発者

お客様のさまざまな製品

センサー

画像処理

音声処理

コントローラ

近距離無線

お客様の製品と容易にコネクトし、多彩なサービスを継続的に拡張可能な IoT プラットフォームを強化

さまざまなデータ形式

高速汎用送受信

高速汎用送受信リ

モートメンテナンス

NEC

実現テーマ

共創

お客様

エネルギー

医療

車載・交通

工場・機械

流通

行政・公共

農業

業際化の例

スマートシティ

ヘルスケア

次世代ものづくり

第 6次産業

予防、健康増進、

国際競争力強化、省エネ、高効率化など

流通の統合化

②予兆・予測分析・推論

③フィードバック

制御・誘導

ビジネスモデルの創出

活用

安全・安心なコネクティビティ

高度なセンシング実証トライアルなどを通じた価値創造

最適な実装アーキテクト集中管理型

リアルタイム型

新たな価値創出追及、業際化などの市場変化

店舗、オフィス 業種・事業ノウハウ

テクノロジーとその活用方法

見える化実世界のデジタル化

ビッグデータ

インフラ、住宅など

新サービスなど

食の生産、加工、

防犯・セキュリティ

IoT における価値創出サイクル

クラウド

N/W

N/W

エッジ

デバイス

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作するクラウド基盤の内部プロセスは受信プロトコルと非依存になっており、どのような受信形態をとった場合でも、同様のデータ処理ができるような内部設計を取り入れています。

2.2 大量データのバンドリング価値共創の取り組みのなかで、接続されるセンサー・デ

バイスの種類と収集されるデータは徐々に増加していくため、クラウド基盤は必要に応じて増強が可能な、スケーラビリティが求められます。

クラウド基盤では、データ受信と加工処理の分散にメッセージキューを活用することで並列分散処理を実現しています。データの加工処理は、「受信データ単体で処理が可能」

「受信データと別のデータの組み合わせで処理が可能」「時系列データを一定時間蓄積後処理が可能」と3 段階に分けて機能実装を行う並列分散処理が可能な設計としています。また、データ蓄積には、ドキュメント型データベースなど非構造データが利用しやすいNoSQLを活用することでスケーラビリティを確保しています。データ層は、アプリケーションに応じたデータストアが必要とされるため、NoSQLにいったん非構造データを保管し、必要に応じてデータ加工後のデータストアを切り替える処理を実現しています(図9)。

この構造により、データ保管に必要な設計工数を大幅に

図9 データ加工処理の流れ(非構造→構造化)

図10 データ配信パターン(プル型/プッシュ型)

削減し、データから意味を取り出すことに注力できる環境を実現します。

2.3 疎結合により柔軟にアプリケーションを組み合わせる仮説ベースで実検証を通じて価値を確認していくと、

フェーズに応じたアプリケーションが必要になります。初期フェーズでは収集されたデータから価値を見いだすための分析ツール、ビジネス実証フェーズではデータを定型利用するアプリケーション、ビジネス拡大フェーズではさまざまなプレイヤーとデータを連携する仕組み、といったように必要なアプリケーションが変化していきます。

クラウド基盤では、必要なタイミングで必要なアプリケーションを容易に組み合わせて提供できる仕組みを取り入れています。アプリケーションは、スマートデバイスや複数のクラウドシステムに配置され多層化が進んでいます。今後、データ蓄積、データ分析、顧客接点といった機能別クラウドが出現し、これらがデータ中心に連携するマルチクラウド環境が整備されて来ると考えています。

このような環境下で、「状況の見える化」「将来予測」「新たな行動などへのフィードバック」といった、一連のサイクルを自動的に動かそうとすると、データの配信方法は、利用するアプリケーションが定期的に取り出すプル型ではなく、必要なタイミングで必要なアプリケーションに送信されているプッシュ型が主流になると考えています。プッシュ型を取り入れることで、必要なタイミングで、必要なデータが通知されるため、データ活用サイクルがよりタイミングよく高速、最適化されます。

スマートデバイスアプリケーションを例に考えると、アプリケーションに必要なデータは、プル型のAPIを利用することでデータを取得し、ユーザーが利用可能となります。一方で、

図8 高速汎用送受信機能

データルーティング 並列分散処理

並列分散処理

並列分散処理

NoSQL(非構造データ)

アプリケーション活用

RDBMS(構造化データ)

データ変換を並列処理後、一旦NoSQL にデータ保管する。必要に応じてデータ加工後 RDBMSに格納する。

センサー、機械とのデータ送受信

センサー

機械

スマートデバイス

メッセージキュー

機能 C

機能 B

機能A

プロトコルアダプタ

PushModel

Requester Requester Requester

Broker

Provider

データ配信パターン

データ生成

データ取得

PullModel

Requester

Broker

Provider Provider Provider

データ生成

データ配信・通知

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図11 IoT時代のデバイス動向

図12 NECのIoTデバイススタック構成

図13 NECのIoTデバイスとパートナーとの組み方

何かの通知はシステム側から通知を受けた方がタイミングよく気づきが得られるため、プッシュ型のデータ配信が向いているといえます。

NECでは、それぞれの通信方式を使い分けることが重要であると考え、アプリケーションからプル型/プッシュ型を選択できるクラウド環境を準備しています(図10)。

3.IoTのデバイス構成

このような新たなIoT市場に対して、NECはこれまでのICT技術の動向から、中間に位置する装置・デバイス群がスマートフォンやタブレットに置き換えられるケースが多くなると認識し、多くのコア技術や処理をクラウド側またはセンサー・デバイス側に集中させるアーキテクチャが必要となると考えています(図11)。

3.1 IoTデバイスのスタック構成このようなアーキテクチャを実現するためには、センサー

を駆動する制御ソフトはもとより、センサーから得られるデータを処理するアルゴリズムを区別化技術として研究・開発し適切なマイコン、通信機能とセンサーを同梱した「センサーノード」を注力開発し、「無線(公衆無線、Wi-Fi、BLE)センサーノード」と定義しました(図12)。

このような無線センサーノードには更にクラウド側と接続するエージェントや各種のセンサーデータを安全にクラウドに届けるためのセキュリティ機構も搭載されます。またマイコンについては、組込み市場で多用されているARM型マイコンを廉価版ノードに採用して小さなデータタイプに活用するとともに、画像など重いデータには更に高機能なマイコンを採用することにより各種のデータに対応することができます。

3.2 IoTデバイスのパートナー構築このようなIoTデバイスとクラウドとのソリューションセッ

トは、NECがトータルの仕組みとしてお客様に提供するとともに、各種のコア技術パートナーと協業することにより更に広い市場に活用することができます。このため、クラウドを含むすべてのシステムスタックはモジュール化され、パートナーとの結合を容易にすることにより、より強固なシステムソリューションを構築・提供することができます(図13)。

パートナーとの接合を容易にするために、NECは各種のインタフェースを揃えており、更に将来に向けた標準化も標榜しながら開発を進めています。

3.3 IoTデバイスの技術無線センサーノードの搭載技術について述べますと、無線

機能とともに各種の最低限のセンサー(加速度、LED、温度、湿度)が搭載されておりこれらが20mm角大の基板に高集

SI

お客様サービス

グローバルキャリアサービス

デバイス・LSI

ファームウェア

電池・電源など

センサーアルゴリズム

接続エージェント

BLE

センサー

ノード

3Gセンサーノード

OS

ミドル

センサーアルゴリズム

デバイス・LSI

センサーアルゴリズム センサーアルゴリズム

Wi-Fiセンサーノード

クラウド基盤

◆廉価版(自製ARMボード)と高級版のシリーズ化を進める◆画像処理などの重いサービスを中心に高機能版アーキテクチャで対応

強み

強みミドルウェア(+セキュリティ)

SI

接続エージェント

既存ネットワーク

ARM-PF

組込みOS

ミドル

NECの保有技術群

接続エージェント

サービス

BLEセンサー

センサーノード

ビッグデータ解析

NEC供給部

B 社

SI

エージェント

フレームワーク

エージェント

セキュアスタック

サービス

BLEセンサー

センサーノード

ARM-PF

ビッグデータ解析

SI

フレームワーク

エージェント

セキュアスタック

BLEセンサー

CPU

エージェント

サービス

ビッグデータ解析

センサーノード

SI

エージェント

フレームワーク

セキュアスタック

サービス

BLEセンサー

センサーノード

ARM-PF

ビッグデータ解析

A社

エージェント

C社

既存ネットワーク 既存ネットワーク 既存ネットワーク

NECの有するコア技術群とシステム化技術によりいろいろなパートナーとのタイアップが可能に

IT 化

M2M化

IoT 化

中継器

画像処理データ解析・・・

マルチセンサー帯域圧縮通知判別・・・

情報処理 機器システム 機械・人・モノ・コト対象が飛躍的に拡大

IoT により技術的に機能配置、アーキテクチャなどが変化し、ビジネス的に、販売先(顧客)や収益の出る(売り物)などが変化

豊かな生活/豊かな暮らし

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執筆者プロフィール山辺 知毅組込みビジネス営業本部主任

北川 泰平グローバルプロダクト・サービス本部マネージャー

田中 和佳グローバルプロダクト・サービス本部主席技術主幹

図14 NECのIoTデバイスの技術特徴

図15 NECのIoTデバイスの強み

図16 NECのIoTデバイスの業種拡張性

積されています。このモジュール構成によりIoT市場に求められる各種の装置や搭載・装着する「人、モノ、コト」に的確に適応することが可能となりました(図14、図15)。

加えてNEC ものづくり統括本部で研究された「柔軟実

装技術」により、平面を持つ装置やモノばかりでなく曲面を持つ装置や人・モノにも簡単に搭載・装着できるようになりました。これによりNECのIoTデバイスは、通常いわれているリストバンドやウォッチ型装置はもとより、ウェアや各種の容器・ケースまでも搭載・装着が可能となり、まさに「モノのインターネット(Internet of Thing)」にふさわしいデバイスとして活用することができます。

IoT市場のもう1つの特徴として、適用領域が非常に広いことが挙げられます。これは装置から人・モノ・コトへの発展もありますが、いろいろな業種にも広がっているということによるものです。このためNECは、IoTデバイス設計の初期段階から各種の業種対応を可能とするように、業種対応センサー吸収部を設けました(図16)。

IoTを必要とするさまざまな社会ソリューションについて検討を重ね、必要となるセンサー群とセンサー環境を洗い出し、これらが効率良くかつ拡張性を持って搭載できるよう共通メイン基盤と吸収部に区分けしました。実際にはすべての搭載可能なセンサーが一度に搭載されることはありませんが、各種のセンサーがコンビネーションで搭載できるようなインタフェースと搭載形式を定義して設計を行いました。このようにして、幅広い用途に適合できるIoTデバイスが構成できるようになりました。

4.むすび

NECは、今後も急速に発展するIoT市場・IoT時代を見据えて、更なる研究開発により、より市場に適応するシステムをEnd to Endでお客様に提供してまいります。

* ARMは、ARM Limited(またはその子会社)のEUまたはその他の国における登録商標です。

* Wi-Fiは、Wi-Fi Allianceの登録商標です。

BT/BLEマイコン

光センサー

イメージセンサー

画像圧縮画像処理

センサーADボード

振動センサー部

焦電センサー

フローセンサー

CO2センサー

交通(車載)

温度センサ加速度センサー

流通

エネルギー製造

交通

公共

共通メイン基盤共通メイン基盤

製造ヘルスケア

製造

業種対応センサー吸収部により、いろいろな社会ソリューションに必要なセンサーに対応可能に

CTセンサー

20mm

センサー拡張ドータ基板

(半田 BUMP)フレキ基板

電池(ラジカル電池など)

パターンアンテナ

BLE 部 マイコン部

センサー

業種対応センサー吸収部ヘルスケア:脈波センサー流通:GPS/ 照度 /地磁気など

アルゴリズム、小型安全ラジカル電池、NEC特許のパターンアンテナを搭載した小型なセンサーノードモジュール

センサーエンジンセンシングアルゴリズムを搭載

電池・電源小型薄型化・安全対応

既存デバイス経由

NEC特許のパターン(基板を利用)アンテナ

<20mm

BLE1チップ

“ノンIT” を含めたあらゆるモノ・ヒトの情報をクラウドに接続し新たな価値創出を実現

ウォッチ型 ウェア型 容器・ケースなど

用途に合わせた形状に実装

クラウド・ビッグデータ分析

ゲートウェイ、スマホなど

BLE 通信

ヘルスケア 見守り スポーツ 現物管理

実装技術の応用

・さまざまな形状の対象物に取り付けが可能な曲面追従性

・人体とも親和性が高い柔軟性

小型・柔軟実装技術センサー

通信(BLE など)

バッテリー

携帯電話やスマートフォン開発などで培った技術蓄積

センサーノード

加速度・脈拍温度・湿度

制御ソフト

装置・機械

豊かな生活/豊かな暮らし

IoTを活用した端末・サービス基盤と業際ビジネス実現に向けた取り組み

73NEC技報/Vol.68 No.1/安全・安心で快適な生活を支えるエンタープライズ・ソリューション特集

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安全・安心で快適な生活を支えるエンタープライズ・ソリューション特集によせてNECが考えるバリューチェーン・イノベーション~バリューチェーン・イノベーションが実現する安全・安心で快適な生活~

◇ 特集論文バリューチェーン・イノベーション「造る」製造業を元気に!NECものづくり共創プログラムIoTを活用した次世代ものづくり ~NEC Industrial IoT~インダストリー4.0と自動車業界におけるものづくり改革の最新動向

バリューチェーン・イノベーション「運ぶ」アジア新興国における物流可視化クラウドサービス バリューチェーン・イノベーション「売る」小売業の方向性とICTの貢献 ~Consumer-Centric Retailingの追求~サービスの高度化を支える電子決済オムニチャネル時代のポイントとECソリューション 「NeoSarf/DM」

「おもてなし」をグローバルに展開するNEC Smart Hospitality Solutions

豊かな生活/豊かな暮らし公共交通ICカードソリューションの取り組みと今後の展望スマートモビリティへの取り組みEV充電事業の商用化を支えるEV充電インフラシステムIoTを活用した端末・サービス基盤と業際ビジネス実現に向けた取り組み

エンタープライズ領域を支える先進のICT/SI への取り組み新たな価値を創出するビッグデータ活用補修用部品の在庫最適化に貢献する需要予測ソリューション異種混合学習技術を活用した日配品需要予測ソリューションプラント故障予兆検知サービスのグローバル展開食品メーカーの商品需要予測へのビッグデータ技術活用事業貢献を実現するマルチクラウド活用法と移行技術SDNを活用したグループ統合ネットワーク ~東洋製罐グループホールディングス株式会社様~企業を狙う標的型攻撃の動向とサイバーセキュリティ対策ソリューション深刻化するサイバー攻撃対策を「確実な実践」に導くセキュリティアセスメント今後のIoT時代を見据えた制御システムのセキュリティ画像識別・認識技術を活用したVCAソリューションへの取り組み短納期・低コストを実現する現場SEから生まれたWeb開発フレームワークIoT時代に新たな社会価値創造を実現する組込みシステムソリューションNECにおけるSAPプロジェクトの先進的な取り組み

Vol.68 No.1(2015年9月)

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