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1 国際ロータリー第 2550 地区 職業奉仕研究セミナー 講演録 2017 1 14 日本のロータリー100 周年委員会 ビジョン策定特別委員会 委員長 国際ロータリー第 2840 地区(群馬)パストガバナー(201314本田 博己(前橋ロータリークラブ゙) 「奉仕の理念」を語ろう! ~日本のロータリー100 周年に向けて~

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国際ロータリー第 2550 地区 職業奉仕研究セミナー

講演録

2017 年 1 月 14 日

日本のロータリー100 周年委員会 ビジョン策定特別委員会 委員長

国際ロータリー第 2840 地区(群馬)パストガバナー(2013-14)

本田 博己(前橋ロータリークラブ゙)

「奉仕の理念」を語ろう!

~日本のロータリー100 周年に向けて~

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プロフィール 2017 年 1 月現在

氏 名:本田 博己(ほんだ ひろき)

所 属:国際ロータリー 第 2840 地区(群馬)前橋ロータリークラブ

職業分類:乳製品販売

《略歴》1950 年(昭和 25 年)3 月生 大分県別府市出身学 歴:国立名古屋大学文学部哲学科卒業職 歴:株式会社福武書店(現ベネッセ・コーポレーション)入社。

辞典・書籍の編集に携わり、編集長・部門長を歴任。1992 年(平成 4 年)群馬ヤクルト販売株式会社 取締役就任。常務・副社長・社長を歴任し、現在、同社 代表取締役 会長。

E-mail:[email protected]

《ロータリー役職歴》〈クラブ〉

1996 年 5 月 前橋ロータリークラブ入会

2001 年-2002 年 幹事 2010 年-2011 年 会長

〈地区〉国際ロータリー第 2840 地区(群馬)2003 年-2004 年 会員増強・退会防止委員会 委員長2005 年-2006 年 曽我 隆一 ガバナー年度 地区副幹事・事務局長

2007 年~2009 年 管理運営委員会 委員長2008 年~2010 年 研修委員会 委員

2011 年-2012 年 ガバナーノミニー 2012 年-2013 年 ガバナーエレクト2013 年-2014 年 ガバナー

2014 年-2015 年 研修委員会副委員長2015 年~2018 年 地区研修リーダー、RLI 推進委員会委員長

〈全国〉2014 年-2015 年 ロータリーの友事務所理事(ロータリーの友委員会顧問)2015 年~2018 年 ロータリー・リーダーシップ研究会(RLI)日本支部

カリキュラム委員会副委員長、 ファシリテーター、地区代表2016 年~ 日本のロータリー 100 周年 ビジョン策定特別委員会委員長

ポール・ハリス・フェロー(マルチプル)、ベネファクター、メジャードナー米山功労者(マルチプル)

《ロータリーに関する主な発表原稿》「『会員増強』とは『組織強化』である」 (PDF 2004.6 ロータリー文庫)

『ロータリーの基本 ~研修の手引き~』(PDF 2009.9~ 地区 HP)『ロータリーの力 ~会長の時間抄録~』(PDF 2011.7 ロータリー文庫)

『ロータリーの希望 ―「奉仕の理念」とその実践をめぐって― 』(PDF 2014.6 地区 HP)『「奉仕の理念」が世界を救う』(PDF 2014.11 ロータリー文庫)

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RID2550 職業奉仕研究セミナー 講演 2017.1.14

「奉仕の理念」を語ろう! ~日本のロータリー100 周年に向けて~

日本のロータリー100 周年委員会

ビジョン策定特別委員会 委員長

RID2840(群馬)PDG(2013-14)本田 博己(前橋ロータリークラブ)

はじめに

お隣の 2840 地区(群馬)から参りました、前橋ロータリークラブの本田博己

と申します。本日は伝統ある 2550 地区の職業奉仕研究セミナーでお話しする機

会をいただき大変光栄に存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

私の職業分類は「乳製品販売」、群馬でヤクルトおじさんをやっております。

ロータリー会員歴は今年で 21 年目です。クラブや地区の役職も色々経験してき

ましたが、現在、日本のロータリー100 周年委員会の中のビジョン策定特別委員

会委員長を拝命しています。お話の後半でその活動にも触れたいと思います。

今日は、職業奉仕セミナーだが、講演のタイトルにもサブタイトルにも「職

業奉仕」という言葉がないではないか、といぶかしく思う方もいらっしゃるか

も知れません。言うまでもなく、今月 1 月は国際ロータリーの指定する「職業

奉仕月間」です。全国の各地区で職業奉仕セミナーが開催され、クラブでも、

本日ご参加の職業奉仕委員長が例会で「職業奉仕」にちなんだ卓話をするクラ

ブが多いと思います。

あらかじめお断りしておきますが、今日は、これまで「職業奉仕」 に関して

シニアリーダーの皆さんが伝統的に語ってこられた話と全く違う話をします。

いったん頭の中を白紙にして、私の話を聴いていただければ幸いです。

発行されたばかりの『ロータリーの友』1 月号をご覧になった方もいらっしゃ

ると思いますが、私は、その中で、『「職業奉仕」は、ロータリーの根幹か?』

というちょっと喧嘩を売っているようなタイトルの文章を編集部からのご依頼

で寄稿しています。本日は、80 分ぐらいお時間をいただいておりますので、も

う少し詳しく私が寄稿文で申し上げたかったことの背景や根拠を示したいと思

います。

私はこれまで錚々たる日本のシニアリーダーの方々が伝統的に語ってこられ

た立派な「職業奉仕論」が間違っていると異を唱えるつもりはないのです。

ただこれまでとは少し違った視点、具体的に言えば、ロータリーの理念が次

第に定まっていったロータリーの創立時から 1920 年代にかけて初期のロータ

リアンが残した文献を、先入観を持たずに読み解きながら(彼らの使っていた

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言葉で)ロータリーの奉仕理念を見直してみると、今まで日本で語られてきた

こととは異なるロータリーの姿が見えてくる、そしてロータリーの新たな希

望・可能性が見えてくるのではないかと考えるのです。

本日は、話の中で英語がたくさん出てきます。初期のロータリアンの言葉は

英語なのでやむを得ないのです。日本語訳をメインに示しながら進めますので

ご容赦ください。用意したスライドの枚数がいつのまにか増えてしまいました。

スライドのデータは置いていきますので、必要な方は、ガバナー事務所にお問

い合わせください。また今回のお話の基となった論文が私のプロフィールに示

されています。興味のある方は「ロータリー文庫」のホームページなどで検索

してご覧いただきければ幸いです。

「職業奉仕」に関する質問

本題に入る前に、皆様に少し質問させてください。これから私がする質問に Yes

と思われる方は挙手をお願いします。

1.職業奉仕は難しい。 Yes or No

2.「職業奉仕」がロータリーの根幹である。 Yes or No

3.ロータリーは「アイサーブ」“I serve”だ。 Yes or No

4.アーサー・シェルドンの「最もよく奉仕する者が最も多く報いられる」

が「職業奉仕」を表す言葉である。 Yes or No

4つの質問に Yes と答えた方が多くいらっしゃいますが、私は、この4つの

質問すべてに Noと主張しています。そして、それが日本以外の世界のロータリ

ーの認識であるとも考えています。

もう一問お尋ねします。

5.ロータリーは「ボランティア団体」ではない、と思う方?

この問いに、No(ロータリーはボランティア団体である)と明確に答えた、

私の尊敬するロータリアンの言葉をご紹介します。

「ロータリアンは、全員が 報酬なしにより良い人間社会の実現のために働く

奉仕団体の 『ボランティア』 である。」

これは、昨年 2月の 2580 地区の地区大会に RI会長代理で来日した、日本で

大変ファンの多い、ビチャイ・ラタクル RI 元会長の言葉です。

ラタクルさんは、一昨年の御地区の地区大会の記念講演でも同じようなこと

を仰っています。

「ロータリーの指導者たちに対する私の切なる願いは、ロータリアンがすべ

て、報酬なしで人類の生活向上のためによい働きをしているボランティアであ

ることを常に心に留めておいていただきたいことです。これらのボランティア

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は超我の奉仕の仕事をする人たちであり、この人たちこそ、ロータリーの偉大

なる人的資産であり、私たちのロータリーを支えるバックボーン(背骨)です

から、大切に遇しなければならないのです。」と。

「ロータリーは、アイサーブであり、寄付団体やボランティア団体ではない!」

と教えられてきた私たちは、ラタクルさんの言葉をどう受け止めればよいので

しょうか。

職業奉仕月間と「職業奉仕入門」

さて、いよいよ本題に入ります。RIでは「職業奉仕」をどのように位置付

けているのでしょうか? まず『2013 年手続要覧』に載っている「職業奉仕月

間」の解説を見てみましょう。(『2013 年 手続要覧』89 ページ)

職業奉仕月間(Vocational Service Month)毎年10月(現在は1月に移動)の「職業奉仕月間」は、クラブが職業奉仕の

理念を日々、実践することを強調するための月間である。この月間中に推奨

されるクラブ活動には、地区行事でのボランティアの表彰、ロータリー親睦

活動への参加の推進、職業奉仕活動またはプロジェクトの実施、未充填の職

業分類に焦点を当てた会員増強の推進などが含まれる。

この記述に「そんなの職業奉仕ではないのでは?」と、少し違和感を覚える

方が多いのではないでしょうか?

RI 発行の「職業奉仕入門」(255-JA(313))という資料があります。職業奉仕

部門の活動のための公式の手引き書です。少し詳しく見てゆきましょう。

この手引き書には、「行動しよう」というタイトルで、職業奉仕を実践する方

法や具体例が紹介されています。そして、これらの活動や、類似した活動をク

ラブで実施することを奨励しています。

まず「職業分類」というテーマでは、

・ある職業分類を取り上げた例会プログラムを実施する

・会員の職場訪問(ツアー)を行う

・職業に関連する親睦活動グループに参加したり、新たにグループを設立する

*ロータリー親睦活動は、共通の趣味や職業を持つロータリアンとその

配偶者、ローターアクターによる国際的な取り組み。医師、法律・

弁護士、出版関係など、親睦活動グループの種類は多岐に渡る。

・奉仕プロジェクトで職業スキルを生かす

次は、「高潔性と倫理」というテーマ。

・「四つのテスト」と「ロータリーの行動規範」について、例会で時間を

割いて話し合う

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・職場で倫理に関する研修を行う

・企業や専門職の人々を称える表彰を行う

・若者を対象とした作文やスピーチのコンテストを実施する

続いて、「職業研修と職業能力の向上」というテーマ。

・地域社会でロータリアン以外の職業人とのネットワークを広げる

・求職者を対象としたキャリア相談を行う

・若者を対象とした進路指導を行う

・職業研修チーム(VTT)*VTT(Vocational Training Team): ロータリー財団、未来の夢計画

のグローバル補助金を使う事業の一つ

いかがでしょうか。私たちがこれまで 教わってきた「職業奉仕」と、RI の提

唱する「職業奉仕」とは重なる部分もあるが、違うところもたくさんあるよう

だ、と思われたのではないでしょうか。

違いがあることは分かっている。しかし日本の「職業奉仕」理解の方が正当な

のだ! と言う人もいますが、そう言い切ってよいのでしょうか。

「職業奉仕委員長」に任命され、RI の「職業奉仕月間」の説明や「職業奉仕入

門」をどのように扱うか困っている人も多いのではないでしょうか? あるい

はRIの手引き書で奨励されていることを無視して、日本独自の高尚で難解な「職

業奉仕論」を語ることで、よし としているのでしょうか?

日本では、これまで、「職業奉仕」という言葉は強調されても、「超我の奉仕」

や「奉仕の理念」はあまり語られてきませんでした。

図式的に、アーサー・シェルドンの「最も良く奉仕する者、最も多く報いら

れる」というロータリーの第 2 モットーは「職業奉仕」を表明しており、第 1モットーの「超我の奉仕」や「奉仕の理念」は人道的奉仕(や「社会奉仕」)を

表明した言葉であると、二つのモットーを違う意味の言葉として説明されるこ

ともあったと思います。果たして、そういうことなのでしょうか?

「職業奉仕」という言葉はいつできたのか?

さて、「職業奉仕」という言葉はいつできたのでしょうか?

1927 年、ベルギーのオステンド国際大会で「目標設定計画」が採択されまし

た。初期のロータリーにおいては、その活動は例会内と例会外に分類するだけ

ですみましたが、活動が多岐にわたり複雑化するにつれ、奉仕プログラムを調

和する必要がでてきました。クラブの管理運営を奉仕活動の実践に対応させ分

類・整理する目的でつくられたのが「目標設定計画」(The Aims and Objects Plan)です。

この計画を解説したパンフレットには「目標設定計画は、個々の会員に対し

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てロータリーの理解を助け、日常の活動において奉仕の理念の適用を奨励し、

且つ活動プログラムの調和を図ることを目的とする」と書かれています。

この計画の中で提示されたのが、「四大奉仕部門」(The Four Avenues of Service)に分類された委員会構成です。

実は、1927 年オステンド大会では「クラブ奉仕」「職業奉仕」「社会奉仕」の

3 部門でしたが、翌年の 1928 年ミネアポリス国際大会で「国際奉仕」が追加さ

れ「四大奉仕部門」となったのです。最初は「三大奉仕」だったんですね!

「目標設定計画」では、クラブの活動を「クラブ奉仕」「職業奉仕」「社会奉

仕」「国際奉仕」の4部門に分け、それぞれ委員会を編成します。これにより、

クラブの組織と奉仕活動に整合性ができ、運営が円滑になりました。

それ以後、この「四大奉仕部門」は、ロータリークラブの管理運営の基本的

枠組みとして定着したのです。

2004 年の RI 理事会で決定されたクラブ・リーダーシップ・プラン(CLP)に基づく機能別の委員会構成が推奨され始めたころ、「四大奉仕があるのだから

CLP など必要ない!」という声が日本では多かったのですが、「四大奉仕部門」

そのものが、90 年前の CLP といってもよいのです。

最初から「四大奉仕部門」として確立していたのではなく、3部門から4部門

になったこと、そして、もともとクラブ管理運営上の分類・枠組みであったこ

とを考えれば、ロータリーの発展や変化に合わせてその枠組みが変わっていっ

てもなんの不思議もありません。

2007 年の規定審議会で、標準ロータリークラブ定款の第 5 条(当時)に、「四

大奉仕部門」の定義が明確に示されました。そして、2010 年の規定審議会で「青

少年(新世代)奉仕」が第五の奉仕部門として加わり、「五大奉仕部門」となっ

たのです。

奉仕部門の一つとしての「職業奉仕」

ロータリー理念の根底に「職業奉仕」を位置付ける日本の伝統的議論とは異

なり、国際ロータリーが推進する「職業奉仕」は五大奉仕部門の一つとしての

「職業奉仕部門」です。

「五大奉仕部門」の定義が、国際ロータリー定款や細則には掲載されず、標

準ロータリークラブ定款(第6条)にだけ示されているのは、それが、その前

文で明記されている通り「個々のロータリークラブの活動のための規準・枠組

み」であるからです。

そこには、ロータリークラブ会員が各奉仕部門で行うべき行動・活動が示さ

れています。第一部門の「クラブ奉仕」は「行動」、第三部門の「社会奉仕」

は「取り組み」、第四部門の「国際奉仕」は「クラブの活動やプロジェクト」、

第五部門の「青少年奉仕」は「活動」、「プロジェクト」、「プログラム」な

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どという言葉で、具体的に会員やクラブの行動を求めています。

ところが、第二部門の「職業奉仕」は、これまで、記述が他の部門とは明ら

かに異質でした。クラブの活動の枠組みであるはずの「奉仕の第二部門」とし

ての説明が欠落していたのです。

しかし、2016年の規定審議会で「立法案16-10 奉仕の第二部門を改正する件」

が採択され、奉仕の第二部門である職業奉仕の定義に、アンダーラインの部分

が追加されました。

「奉仕の第二部門である職業奉仕は、事業および専門職務の道徳的水準を高め、

品位ある業務はすべて尊重されるべきであるという認識を深め、あらゆる職業

に携わる中で奉仕の理念を実践していくという目的を持つものである。会員の

役割には、ロータリーの理念に従って自分自身を律し、事業を行うこと、そし

て自己の職業上の手腕を社会の問題やニーズに役立てるために、クラブが開発

したプロジェクトに応えることが含まれる。」(『標準ロータリークラブ定款』第

6条 五大奉仕部門 第 2 節)

これで、「職業奉仕部門」も含めて5つの奉仕部門すべてが、クラブの活動の

枠組みであることが明確になったのです。

世界のロータリーが考える「職業奉仕」とは?

日本以外(?)の世界のロータリーでは、当然のように「職業奉仕」を他の

奉仕と並ぶ、一つの奉仕部門(an Avenue of Service)として位置付けています。

例えば、2005年ごろから推奨されているクラブ・リーダーシップ・プラン(CLP)では、「職業奉仕委員会」は、5つに機能分類された委員会の一つ「奉仕プロジ

ェクト」の中の1小委員会として、「社会奉仕」「国際奉仕」「青少年奉仕」の各

委員会と並んで配置されています。このことに違和感を覚えた日本のロータリ

アンは多かったはずです。

しかし、2016年の規定審議会で、「16-05 クラブ内の委員会について規定する

件」が採択され、標準ロータリークラブ定款に、CLPに基づく委員会構成が明

記されることになり、奉仕部門の一つとしての「職業奉仕」の位置づけが、よ

り明確になったのです。(標準ロータリークラブ定款 第13条 第7節)

世界のロータリーでは、自分の職業上のスキルを生かした奉仕活動は、個人

が行うものであれ、クラブが行うものであれ、すべて立派な「職業奉仕」の活

動として活発に実践されています。

日本の「職業奉仕」論は「職業倫理」論?

日本の職業奉仕論がすべて間違っていると言っているのではありません。日

本のロータリアンが得意な「職業奉仕」論は、世界では「(職業)倫理」“(Vocational)Ethics”というテーマで論じられています。

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ロータリーは初期のころから職業倫理を大事にし、強調する集団であること

は間違いありません。しかし、これは当時存在しなかった「職業奉仕」という

言葉を使わなくても十分説明できます。そして、現代においても「倫理」(Ethics)がロータリーの重要概念であることは世界共通の認識です。

1915 年に制定された「全分野の職業人を対象とするロータリー倫理訓」(別名

「道徳律」)は、当時、多くの業界で職業倫理の向上に大きく寄与しました。

「ロータリーの目的」の 第 2項では、「職業上の高い倫理基準を保ち、・・・」

と謳われています。

4か条からなる「ロータリーの行動規範」の第1条には「個人として、また

事業において、高潔さと高い倫理基準をもって行動する。」とあります。

ジョン・ジャーム RI 会長は、就任前のインタビューで、「全てのロータリア

ンが持つべき、中核となる資質と人格とは、どのようなものでしょうか?」と

問われて、「最も大切な中核的価値観は『高潔性』“integrity”です。高潔性が

なければ何もないのと同じです。」と答えています。

高い職業倫理感を持った高潔な人格がロータリアンには求められます。日本

の伝統的な「職業奉仕」論はこのことを強調しているのだと思います。

私の提案:「奉仕の理念」を語ろう

日本のロータリアンと世界のロータリアンが語る「職業奉仕」が違うことを

認識している方は多いかも知れません。ただ、その違いを、日本の「職業奉仕」

理解の方が正しいとしたり、「職業奉仕」は他の奉仕部門とは違うとして、クラ

ブの「職業奉仕」の実践を否定したりする態度は、間違っていると思います。

私の提案は、「職業奉仕」という言葉で「奉仕の理念」(の職業への適用)や

自分の職業観を語ることをいったん止めてみたら、ということです。

そして、クラブの活動のための枠組みである「五大奉仕部門」(Five Avenues of Service)の第二部門(second Avenue)である「職業奉仕部門」の活動だけ

に「職業奉仕」という言葉を使ってみたら、という提案です。

「職業奉仕」(Vocational Service)という言葉がロータリーで使われるよう

になったのは、1927 年、ベルギーのオステンド国際大会で『目標設定計画』が

採択され、「四大奉仕部門」がクラブの管理運営の基本的枠組みとなったときか

らというのは、先ほど申し上げた通りです。

アーサー・シェルドンが語ったのは「Service の哲学」であり、ビジネスの正

しい方法としての“Service”でした。

1921 年以降ロータリーと距離を置くようになり、「職業奉仕」という言葉を

知らなかったかも知れないシェルドンの「Service の哲学」を「職業奉仕」で語

ったり、“Vocational Service”という言葉から天職論や職業倫理を語ったりす

る議論は、もともと無理があるのではないでしょうか。

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先に引用した『目標設定計画』パンフレット(1931)の「職業奉仕」の章に

“Vocational Service”の定義が載っています。

“Vocational”は、名詞の“Vocation”から派生した言葉であり、“Vocation”は「正規の雇用」(regular employment)、「天職」(calling)、「事業」(business)、「専門職」(profession)、「仕事」(occupation)などを意味する」と解説されて

います。

“Vocation”は「天職」(calling)だけではなく、職業の様々な側面を含めた

一般的な「職業」を表す用法なのです。“Vocational Service”という言葉から、

“calling”だけに注目し深遠な天職論を語ったり、そこに「職業奉仕」の本質

を見たりするのは少し強引に思えます。

「職業奉仕」という言葉ではなく、「奉仕の理念(奉仕の理想)」(The Ideal of Service)という言葉で、ロータリーの理念についての議論を深めてゆこう、と

いうのが私の提案の真意です。なぜなら、「ロータリーの目的」は、「意義ある

事業の基礎として奉仕の理念を奨励し、これを育むこと」であり、「奉仕の理念」

がロータリーの根幹であるからです。

「ロータリーの目的」の原文は“Object of Rotary”と単数で示されています。

「目的」は一つなのです。

4 項目の前文のように見える最初の 2 行が、実は主文で、ここにロータリーの

目的が端的に表現されています。すなわち「意義ある事業の基礎として奉仕の

理念を奨励しこれを育むこと」。これがロータリーの目的です。後に続く 4 項

目は、主文の目的を達成するためにロータリアンが如何に行動・実践すべきか

が書かれており、いわば主文の補足説明といってもよいでしょう。「ロータリー

の目的」の原文は 4 項目も含めて全体で一つの文となっています。

強調しなければならないのは、ロータリーの目的は、この「奉仕の理念」を

奨励し育むこと の 1 点であるということです。

「奉仕の理念(理想)」の意味とは?

「奉仕の理念(理想)」(The Ideal of Service)がロータリー理念の核心を示

す言葉であるのなら、「奉仕の理念」の意味がわかれば、ロータリー理念の理解

は容易になるはずです。ところが、「奉仕の理念」の意味をきちんと説明したロ

ータリーの文献がなかなか見当たらないのです。

これまで、RI の『公式名簿』(Official Directory)巻末に以前記されていたチ

ェスレー・ペリーの言葉「全世界のロータリークラブは一つの基本理念 ―『奉

仕の理念』を持っている。それは他人のことを思いやり、他人の助けになるこ

とである。(thoughtfulness of and helpfulness to others)」が「奉仕の理念」

の意味を示した唯一の記述とされていました。そこで、「奉仕の理念」の意味を

説明するとき、これまではこの言葉を引用する人が多かったのです。

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『目標設定計画』に書かれた「奉仕の理念」の意味

ところが、ずっと古い文献、「奉仕の理念」という言葉がロータリーでキーワ

ードとして盛んに使われ始めた頃に、「奉仕の理念」の意味を説明した記述を見

つけました。

先ほどご紹介した、1931 年に RI が発行した、『目標設定計画』という 53 ペ

ージほどのパンフレットです。このパンフは 1927 年に決まった四大奉仕部門の

意義と適用の方法を解説したもの(何度目かの改定版)です。

そのパンフの中で、「ロータリーでは、これまで“The Ideal of Service”の意

味するところを様々な言い方で表してきた」として、以下の4つの言葉を列挙

しています。

一つめは、Service Above Self /「超我の奉仕」。

二つめは、He Profits Most Who Serves Best /「最も良く奉仕する者、

最も多く報いられる」。

三つめは、thoughtfulness of others /「他人への思いやり」。

四つめは、most of all treating others as one would like to be treated /

「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」と

いう言葉です。

当時のロータリアンは、「奉仕の理念」を、以上4つの言葉を包含した意味に

理解していました。あるいは、4つの言葉は、彼らにとって、「奉仕の理念」の

内容を示す同意義の言葉であったともいえます。

三つめと四つめの言葉を先に解説しましょう。

三つめの「他人への思いやり」という言葉は、これまで多くの人が引用して

きた『公式名簿』巻末のチェスレー・ペリーの言葉、「他人のことを思いやり、

他人の助けになること」と同意だと考えてよいでしょう。

四つめの「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしな

さい」という言葉は、新約聖書の「マタイによる福音書 7 章 12 節」の通称「黄

金律」と呼ばれる有名な一節です。

この「黄金律」は 1915 年の「道徳律」の末尾第 11 条や、米山梅吉さんの文

章など多くの初期ロータリーの文献で引用されています。同様な思想や表現は、

キリスト教だけではなく世界中の宗教や古代思想の中にも見られます。一宗教

の格言にとどまらない、世界共通の普遍的な価値観であると言えます。

ロータリーのモットー(標語)

さて、一つめと二つめに戻ります。一つめと二つめ言葉は、それぞれ、ロー

タリーの第 1 モットー、第 2 モットーとして知られています。

第 1 モットーは、「超我の奉仕」“Service Above Self” 。そして、第 2 モット

ーが、アーサー・フレデリック・シェルドンの言葉で知られる「最もよく奉仕

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する者、最も多く報いられる」“He Profits Most Who Serves Best” です。ここ

で重要なのは、初期のロータリアンが、この二つのモットーがともに「奉仕の

理念」の意味を表していると認識していた、ということです。

この二つのモットーの日本語訳については、昔から議論がありました。特に、

第 1 モットーの「超我の奉仕」は「超我」が造語でもあり、カッコよいが意味

がよくわからない、といわれていました。

日本のロータリーの創始者である米山梅吉さんは、これを「サービス第一、

自己第二」とか「自己に先立つサービス」と訳しました。米山梅吉さんは「サ

ーヴィス」と表記しています。「超我の奉仕」より原義が伝わると思います。

第 2 モットーも、「最善のサービスをすれば、結果として最大の利益が得られ

る」とでも訳したほうがわかりやすいでしょう。

二つのモットーを一体化して捉える

初期のロータリアンは、二つのモットーを「奉仕の理念」の意味を示す同意

義の言葉として理解し、二つのモットーを一体のもの(セット)として見てい

たのです。

シェルドンが 1921 年のエジンバラ大会で発表したスピーチ原稿(『ロータリ

ーの哲学』)では、モットーを一つのモットー(a motto)として“Service Above Self ― He Profits Most Who Serves Best”と一体化した形で示しており、ロー

タリーのサービス哲学の真髄を、この「一つのモットー」の中の“Service”“Self”“Profit”という3つの概念の本質とそれらの関係を説明することによって浮き

彫りにしようとしています。

有名な「決議23-34」(1923 年)でも同様に、この二つのモットーは、

セットで示されています。

決議23-34 第1条

ロータリーは、基本的には、一つの人生哲学であり、それは利己的な欲求と

義務およびこれに伴う他人のために奉仕したいという感情とのあいだに常に

存在する矛盾を和らげようとするものである。

この哲学は奉仕-「超我の奉仕」-の哲学であり、「最もよく奉仕する者、

最も多く報いられる」という実践的な倫理原則に基づくものである。

二つのモットーを全体として一つの主張として捉えると、ロータリーモット

ーの真意は次のようになると考えられます。

相手に対するサービスを自己の利益や都合より優先させよう。

利益はサービスの結果である。

相手のために最善のサービスをすれば、結果として最大の利益(満足感・

幸福感)が得られる。

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ここで主張されている思想こそ、「奉仕の理念」の核心です。そして、注意し

なければならないのは、これは決して利益を求めて奉仕するという「功利主義」

的な思想ではなく、他人のために役立つことが自らの幸せ(喜び)であるとい

う、他者(ひと)に奉仕すること自体を目的とする「利他主義」の思想だとい

うことです。「奉仕の理念」の究極のかたちとは、利己と利他の矛盾などない、

利己と利他が完全に一致する状態だといえるでしょう。

現代ロータリーにおける“Service”の意味

本日は、アーサー・シェルドンの Service 概念を詳しく見てゆく時間がありま

せんが、シェルドンが「Service の哲学」を提唱した当時、“Service”という言

葉は、「正しいビジネスの方法」を示すロータリー理念の中核概念でした。その

シェルドンの時代から、100 年後の現代では、ロータリーの“Service”の分野

は広範囲に広がっています。

1927 年に確立した「四大奉仕」は、2010 年には「青少年奉仕」を加えて「五

大奉仕」となりました。1985 年から始まったポリオ・プラス・プログラムは、

“END POLIO NOW”としてポリオ撲滅の最終局面を迎えています。2000 年

代に入って、国際ロータリーは「戦略計画」を策定し、「人道的奉仕」の分野に

重点を置く方向性を打ち出しています。2013 年からは、ロータリー財団の新し

い補助金モデル(「未来の夢計画」)も始まりました。

このように活動分野が広がった現代ロータリーにおいては、ロータリーのす

べての奉仕部門を通じて、“Service”をその最も広い意味で使うようになってい

ます。すなわち、

「人々の助けとなる、社会に役立つ価値を提供すること」

「世のため人のために尽くすこと」

The Ideal of Service を、私は「ロータリーが考え実践してきた究極の“Service”のかたち」と訳したいのですが、こなれた日本語ではないので、本日は、現在

の公式訳「奉仕の理念」で説明しています。

ロータリーの「奉仕の理念」を私なりに要約すれば、世のため人のために自

分がもっている能力を全力で心をこめて捧げること、そうした利他の精神が自

分の幸せにつながる、そして自分を活かす道である、ということです。

「ロータリーの目的」は、次のように言い換えることができます。

ロータリーの目的は、「奉仕の理念」を広め、その価値を高めてゆくことであ

る。そして、理想のロータリアンとは、個人生活・職業生活・社会生活等、人

生のすべての面で、「奉仕の理念」の研鑽と実践を行う人である、ということが

できます。

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原点としての「相互扶助」(Mutual Helpfulness)初期のロータリーで、異業種の中小事業主たちであったクラブの会員同士が、

お互いに商売の取引をして助け合っていたことを、私たちは「物質的相互扶助」

という言葉で表現しています。そして「物質的相互扶助」から「精神的相互扶

助」すなわち「職業奉仕」へ発展していった、というのが職業奉仕論者の描く

図式です。この「相互扶助」“Mutual Helpfulness”という言葉は初期のロータ

リアンがよく使う言葉でした。

ポール・ハリスの“This Rotarian Age”に次のように書かれています。

「相互扶助(mutual helpfulness)の観念は、一般的な助け・役立ち(general helpfulness)の観念にその席を譲った。それを端的に示すのが “service” とい

う(ロータリー独特の)言葉である。」(本田訳)

つまり、会員同士の助け合いから一般的な助け・役立ちへ広げてゆくキーワ

ードが“Service”という言葉であったのです。

「物質的相互扶助」から「精神的相互扶助」へ、ではなく、「相互扶助」に“Service”の観念が加わり「一般的な助け・役立ち」へ、すなわち「相互扶助」を外部へ

拡張したのが、ロータリーの「奉仕の理念」に他なりません。

「超我の奉仕」“Service above Self”の原型とされている、ミネアポリス・ロ

ータリークラブのベンジャミン・フランク・コリンズの“Service, not Self”は

かつて「自己滅却の奉仕」とか「無私の奉仕」と訳されてきたような宗教的要

素はなく、クラブの仲間同士の取引を外部にも広げようというくらいの意味

(「サービスだ、自分たちのためだけでなく」)だと言うのは、コリンズのスピーチ

原稿を発見した 2680 地区の田中毅パストガバナーも指摘されているところです。

シェルドン作の第 2 モットーが最初に発表された 1910 年の年次大会では“He profits most who serves his fellows best”と“his fellows”という言葉が付い

ていました。翌年の大会では、“his fellows”が抜け落ちた今の形になるのです

が、これも自分たちの仲間内や関係者に限定して適用される原則から、広く一

般に通用する原則に修正されたということだと思います。

相互扶助の精神(spirit of mutual helpfulness)お互いに助け合う、お互いに分かち合うという、素朴ですが力強い「相互扶

助の精神」は、20 世紀初頭の時代風潮(加熱する自由主義経済)の中で、どち

らかと言えば経済的・社会的弱者であった、中小事業主の集まりであった初期

のロータリアンの琴線に触れる思想であったようです。

ロータリーの原点と言ってよい「相互扶助の精神」は、「奉仕の理念」に形を

変えて、現代にいたるまでロータリーの一貫した思想でした。

RI の事務総長を長年務めたチェスレー・ペリー。ポール・ハリスから「ロー

タリーの建設者」と呼ばれた草創期のロータリーの中心的指導者の一人です。

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そのチェスレー・ペリーが、国際奉仕が「ロータリーの目的」(綱領)の一部

となって間もない頃(1921 年)、次のような言葉を残しています。

「協力と親善がこれほど必要とされることは今までになかった。利己主義と

不信と恐れが蔓延すれば、災難が不可避の結果となる。世界の福祉のためには、

より良い生活条件や健康状態の恩恵・・・・・を相互扶助の精神(spirit of mutual helpfulness)で万人の間で分かち合うことが必要だ」

今からおよそ 100 年前、1914 年に始まり 1918 年に終わった、ヨーロッパを

主戦場にした第一次世界大戦(米国は 1917 年に参戦)は、当時の世界にとって

大きな衝撃でした。第一次世界大戦の衝撃と教訓から国際連盟が設立されたの

が 1919 年です。そして、ロータリーでは「ロータリーの目的」(綱領)に「国

際平和と親善の促進」が加わりました。1921 年のことです。

そうした危難の時代に、先のチェスレー・ペリーの言葉のように、ロータリ

アンが大事に育ててきた「相互扶助の精神」が強調されたのです。

日本の明治期に啓蒙思想家・教育者として活躍した福沢諭吉は、幕末と明治

という二つの時代をほぼ半々生きた人でした。

その福沢諭吉が『文明論之概略』(1875)のまえがきで「恰も一身にして二生

を経るが如く、一人にして両身あるが如し」と感慨をもらしています。自分の

体は一つだが、明治維新の前後では、まるで違う二つの人生を生きているよう

だ、というのです。私も 6 年前、似た心境を味わいました。

2011 年 3 月 11 日の東日本大震災は現代日本人にとって大きな衝撃でした。

原発事故も含めたあの大災害は日本の運命を変えましたが、私の価値観や生き

方、人生を変える大きな出来事でもありました。

3 年前の 2014 年、5 年に 1 回行われる、統計数理研究所の「日本人の国民性 第

13 次全国調査(2013 年)」の結果が発表されました。調査によると、日本人の

長所として「勤勉」「礼儀正しい」「親切」「心の豊かさ」等の項目が過去最高の

スコアだったそうです。

また自分の周りの人が「他人の役に立とうとしている」とみている人は 45%で、2008 年の前回調査より 9 ポイント上昇しました。(35 年前の 2.4 倍)一方、

「自分のことだけに気を配っている」と考える人は前回より 9 ポイント低下し

42%と、「利他的」な回答が「利己的」な回答を逆転し上回った結果でした。

2008 年の前回調査と今回 2013 年調査の間、2011 年に、私たちは東日本大震

災を経験しました。明らかに、その時を転機に、利他的心情が利己的心情を上

回るようになったのです。

調査をした統計数理研究所は、「戦後社会が成熟するにつれ、ボランティアな

どの公共性が高まってきた。・・・日本人が示した(東日本大震災)被災地のため

の行動が、今回の調査結果に色濃く反映されているようだ」と分析しています。

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6年前、東日本大震災という大きな出来事に直面した私たち日本のロータリ

アンとクラブは、被災者や被災地区の支援に全力を注ぎました。そのとき私た

ちの心を突き動かし行動の支えになったのは、「職業奉仕」という言葉ではなく、

ロータリーの「奉仕の理念」だったのではないでしょうか。

私は、東日本大震災後に、日本全体で見られた相互扶助(被災者同士、そし

て日本だけでなく世界からの支援)や多くのロータリアンの様々な復興支援活

動に、ロータリーの DNA といってもよい「相互扶助の精神」すなわち「奉仕の

理念」の可能性、私の表現でいえば「ロータリーの希望」を強く感じるのです。

ロータリーは歴史的な転換期

2016-17 年度 国際ロータリー ジョン F. ジャーム会長は、全世界の地区大会

に寄せた RI会長メッセージの中で、 「今ロータリーは、いわば転換期となる歴史

的に重要な局面に立っています。」 と、ロータリーの現状認識を表明しています。

ジャーム会長の「歴史的重要局面」という認識は、2016 年 4 月の規定審議会

のガイダンスで発表された「戦略計画の最新情報」というプレゼン資料に端的

に示されています。ここでは、「ロータリーがこの世界、そして時代に沿った存

在であり続けるために、私たちは何をすべきだろうか。」と問いかけています。

「ロータリーは時代に追いつき、適応しなければならない。ロータリーは、

次なる 100 年間に存続していくために、ビジョンを備えなければならない。」

「最近まで、ロータリーは自らを「人

道的奉仕団体」として位置づけ、事業・

専門職業・地域社会のリーダーであると

いう会員の特質の重要性を十分強調して

はいなかった。」

「しかし、ロータリーがほかと違う特別

な団体である理由は、その会員組織にあ

る。この図の「および」(原文では and)が重要な要素となる。ロータリーは、『奉

仕活動を行っている会員から成る団体』だと

いうことである。」

私は、この 2 枚の天秤図は、「奉仕」

“Service”に比重が置かれ過ぎている

現状から、「奉仕」“Service”という活

動と、事業・専門職業・地域社会のリー

ダーであるという「会員」“Membership”の特質とのバランスが取れた状態に戻

してゆこう、という RI の今後の方向性を示した重要な図であると考えます。

「私たちは、次なるステップを判断するためにロータリーの使命に目を向け、

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ロータリーの独自性を守るために価値観を忘れず、次の 100 年に向けて前進し

ていくために新たなビジョンを築いていく。」

この「戦略計画の最新情報」で示されているのは、時代認識を踏まえた RI の危機意識とビジョンづくりへの決意の表明ではないでしょうか。

そして、RI も日本のロータリーも、地区もクラブも、いずれも大きな転換期

を迎えており、将来のための新たなビジョンが必要とされている、ということ

だと思います。

日本のロータリー100 周年

3年後の 2020 年は、東京ロータリークラブが創立した 1920 年から 100 年。

つまり、日本のロータリー100 周年という大きな節目の年です。

この日本のロータリー100 周年に向けて、昨年 2016 年 7月、北 清治 RI 元理

事を委員長として「日本のロータリー100 周年委員会」が設立されました。現在、

3つの特別委員会が活動しています。「ビジョン策定特別委員会」、「記念式典等

特別委員会」、「組織連携特別委員会」の3つの委員会で、私は「ビジョン策定

特別委員会」の委員長を拝命しています。

ビジョン策定特別委員会は、3 人の委員で構成されています。第 1 ゾーンは私

本田、第 2 ゾーンは、2620 地区(山梨・静岡)の志田 洪顯パストガバナー、

第 3 ゾーンは、2680 地区(兵庫)の大室 㒞パストガバナーです。

2020 年は日本のロータリーの将来の方向性を定めてゆくための大きな節目の

年になると考えています。それは、ロータリーの理念と実践についての日本の

ロータリーのビジョンを、世界に向けて宣言・発信する絶好の機会ともなるで

しょう。

私たち 3 名のビジョン委員会のメンバーは、これまで会合を重ね、以下のよ

うに論点を整理しました。

・日本のロータリー100 周年をどのように迎えるか?

・日本のロータリーが直面する課題とは何か?

・日本のロータリークラブはどうすれば元気になるか?

・日本のロータリーが今後も存在感と影響力を高めてゆくには何が必要か?

・日本のロータリーの、奉仕の新世紀に相応しい、未来志向のビジョンとは何か?

・世界のロータリーに発信すべき価値あるビジョンとは何か?

このような論点整理を踏まえて、ビジョン策定特別委員会の目標を次のよう

に定めました。

日本のロータリーの現状と課題を明らかにし、全国のロータリアンの合意を

形成しながら、世界のロータリーに発信できる、日本のロータリーの希望あふ

れるビジョン(将来像)を描く。 というものです。

これからビジョン策定を進めてゆく上で欠かせない視点は、

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1.一つ一つのロータリークラブが元気になるビジョンであること。

2.日本のロータリーの現状と課題を明らかにすること。

3.日本のロータリアンの英知を集めること。

4.世界のロータリーと協調してゆけるビジョンであること、だと考えます。

日本のロータリーの現状と課題を明らかにしてゆくために私たちが最初に行

ったのは、昨年の 6 月に、ちょうど年度を終了するガバナーに対して行ったア

ンケート調査です。このアンケートや意見交換会で示された、地区やクラブの

課題を最も切実に感じておられる現職ガバナーの皆様の現状認識は次のような

ものでした。

1.会員減少に対する危機感。一方で、会員増強に対する倦怠?感。

2.多くのクラブが会員の高齢化に悩み、若い会員や女性会員を勧誘できな

いクラブも少なからずあるようです。

3.クラブ組織・地区組織の硬直化が進み、改革が遅れている現状を指摘す

るガバナーもいました。

4.新しい奉仕プロジェクト開発の遅れ

5.ネット社会への対応の遅れ。

6.RI の変化についていけない伝統的なロータリー観のクラブ。

7.RI に対する発信力・影響力の低さを憂え、RI の方向性に対する疑問を感

じるガバナーもいました。

以下は私見ですが、私は、現在の日本のロータリーと国際ロータリーとの間

には残念ながら不幸な現状があると考えています。

日本のロータリーは、現職ガバナーの意見にもうかがえますが、世界全体の

ロータリー運動の中で、大きな潮流や変化に取り残されているように見えます。

RI の方向性や現状に疑問や不満を感じる日本のロータリアンも増えており、

▽このまま意識のギャップが拡大してゆけば、日本のロータリーがロータリー

世界の中で孤立してゆくことが懸念されます。

日本のロータリー100 周年を私たちはどのように迎えるか、が今問われている

のではないでしょうか。

少し極端な言い方ですが、戦略計画や未来の夢計画の補助金モデルに象徴さ

れる国際ロータリーの方向性に背を向けて日本独自の孤立路線を歩むのか、そ

れとも世界的ネットワークの重要な一員として、理念と活動の両面で 21 世紀の

ロータリー運動にリーダーシップを発揮できるようになるのか、二つの道のど

ちらに向かおうとしているのか、大きな岐路にあるのではないでしょうか。そ

のときに壁となりかねないのが、本日お話しした「職業奉仕」という言葉に対

する、日本と世界との認識のずれです。

日本の伝統的「職業奉仕」論で培ってきた「職業倫理」や「高潔性」に関す

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る日本のロータリアンの智恵を、共通言語の「奉仕の理念」で世界に発信して

ゆくことが重要ではないでしょうか。そのように「職業奉仕」の捉え方を切り

替えなければ、いつまでたっても、世界のロータリーとの溝を埋めることも、

対話することもできません。

世界のロータリーとの対話を通して、ロータリーの「奉仕の理念」とその実

践について共通認識を醸成してゆく姿勢が必要です。そして何より、「奉仕の理

念」 を語るだけでなく、その実践が大事であることは言うまでもありません。

日本が世界のロータリーの中でリーダーシップを発揮するには、もっと世界

に対する影響力・発信力を高めてゆく必要があると考えます。

「奉仕の理念」は深化・成長している

確固たる理念がその組織の方向性を定め、発展してゆく原動力となります。

理念はころころと変わるようなものではありません。

「不易流行」という言葉を使って、ロータリーの理念は不変だが、方法や奉

仕実践の分野、組織運営のあり方は時代の要請に適うべく変化させてゆくもの

だ、とシニアリーダーが解説することがあります。

私もこの意見に概ね賛成ですが、ロータリーの「奉仕の理念」は、それが生

まれた初期ロータリーの時代のままではありません。「奉仕の理念」は、100 年

以上の奉仕の実践を通して、奉仕することの喜びを体感したロータリアンの心

の中で磨かれ深化していった。そして現在の私たちロータリアンの実践の中で

一層深く、輝きを増し続けています。

私は、「奉仕の理念」は 100 年の奉仕実践を通して究極の利他主義に深化・成

長したと考えています。「古典的職業奉仕論」の最も美質と思える、自らの職業

(本業)を通じて社会貢献するという「職業奉仕」の理念も、「究極の利他主義」

という視点からとらえ直すことができると考えているのですが、このことを詳

しくご説明する時間が本日は残されていません。

ロータリーの「奉仕の理念」が、利己と利他の矛盾・葛藤を和らげる人生哲

学から、利己と利他が完全に融合された究極の利他主義にまで達することがで

きたのはなぜでしょうか。

ロータリーは決して宗教ではありませんが、積極的に参加すること、行動すること、実

践することで、ある種の「啓示」や「悟り」の瞬間が訪れることがあります。

ロータリー100 年の歴史の中で、仲間と共に奉仕する喜びを体感した数多のロ

ータリアンがいます。彼らの味わった奉仕することで得られた充実感、自己成

長感、自己実現感、そしてロータリーの仲間との連帯感が、「奉仕の理念」の意

味を磨き深めていったのです。

数多のロータリアンによる奉仕の実践の積み重ねによって、「奉仕の理念」と

いう人生哲学は、他者のために尽くすことが即、自らの幸せ(喜び)になると

いう究極の利他主義にまで成長していったといえるのではないでしょうか。

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私たちがロータリアンであるとは、一つの生き方を選択したということだと

思います。ロータリーの「奉仕の理念」は、どこか遠くにあって仰ぎ見るもの

ではなく、自分の個人生活・職業生活・社会生活の中に実現すべきものでしょ

う。そして「奉仕の理念」は、職業人であるロータリアンの拠りどころとなる

実践的な人生哲学でもあります。ロータリーの「奉仕の理念」の実践が、社会

の中で自分を活かす道であり、社会をよい方向に導く強い力をもっていること

を私たちはもっと信じてよいのではないでしょうか。

初期のロータリアンが使っていた言葉や思いに寄り添って考えてみたら、ロ

ータリーの理念について、新たな視点が得られた、と私は考えています。冒頭

の「職業奉仕」は難しいか?という質問に「難しい」と答えた人もいましたが、

これまで、日本のシニアリーダーは、「職業奉仕」を難しく語り過ぎていただけ

なのではないでしょうか。「奉仕の理念」をこれからも大事に守り育て、人生や

ロータリー運動の中で実践してゆけば、より良い世界の可能性と希望が見えて

くる、と私は確信しています。

私たち日本ロータリアンは、これまでそれぞれ思い思いの、そして日本でし

か通用しない「職業奉仕」論を語ってきましたが、これからは、「奉仕の理念と

その実践」について大いに語り合うことが大事ではないでしょうか。

最後に、私の好きな写真をご紹介して終わりにします。シカゴ・ロータリー

クラブができて 5年後の 1910 年、国際ロータリーの前身である「全米ロータリ

ークラブ連合会」が 16クラブ 1,500 人の会員でスタートします。ここに写って

いるのは、「全米ロータリークラブ連合会」の第1回シカゴ大会に全米各地から

集まったロータリアンたちです。

草創期のロータリアンの熱気と思いを私たちも思い起こしたいものです。

つたない話を最後までお聞きいただきありがとうございました。