~顧客中心のデジタル変革 - Accenture · 2015-05-23 ·...

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デジタル・トランスフォーメーション ~顧客中心のデジタル変革

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デジタル・トランスフォーメーション~顧客中心のデジタル変革

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デジタルは人々の体験を再定義し、生活、仕事、娯楽、人間関係の在り方に変革をもたらしています。デジタルによりあらゆるものが再考され、シンプルに、そしてより良いものへと変化していきます。人々が生涯を通じて変わらないと信じてきたものまでも、その変化の対象となるのです。

多くの企業は、人々の行動を形成するデジタルの影響力を無視できないことに気づきはじめています。これまで顧客を引き付け、関係を構築し、保持してきた手法が急速に陳腐化する可能性もあるのです。変化が常態化し、ベストプラクティスの再定義が異常な速度で見直されているこの時代に、顧客との関係性を高めるデジタル・ビジネスを構築するには何をすべきなのでしょうか。

デジタルという眼鏡を通して今日、ビジネスを成功させるためには、顧客中心のデジタル変革が不可欠です。そのためには、自社にとってより重要性の高い顧客体験を選別し、その顧客体験に即して、組織、プロセス、テクノロジーを再編成することが必要です。

顧客を獲得するには、変化する顧客ニーズに常時かつ迅速に対応することが必要なため、デジタル変革のプロセスは企業によって異なり、不変ではありません。

先進的な企業は、デジタルにしっかりと軸足を置いた、顧客体験の再定義を始めています。世界的なホテルチェーンであるマリオットはあらゆる言語に対応した豊富なサービスをオンラインで提供することにより、年間 70億ドルのネット上の売上を達成しています 1。またネスプレッソは、マルチチャネルのデジタルソリューションを活用し、個々の顧客に合わせた、これまでよりも完成度の高い顧客体験を全世界 41カ国で提供しています 2。

このような顧客との結びつき、関係性を強めるデジタル化の取り組みは、もはや選択肢ではなく必須条件なのです。そして多くの企業にとって、デジタル化への取り組みは将来の存続要件となりつつあります。今こそ、デジタル化のアクションを取る時です。

調査を見てみると、デジタル時代においてビジネスを成功させるためには、顧客との関係性を強化する事がいかに重要であるかがわかります。

•ブランド認知 ―― インターブランド社は2000年からグローバル・ブランド上位100社を発表していますが、毎年トップの座を占めていたコカコーラが初めて3位に滑り落ち、代わってアップルと Googleが 1、2位となりました。事実、グローバル・ブランド上位 5社中 4社は、デジタル・エコシステムの推進や形成に関わる企業が占めています 3。

• 株価パフォーマンス ――ウォーターマーク・コンサルティングの調査では、顧客体験を重視する企業の株価は市場のパフォーマンスを上回ることがわかりました。過去6年間における累積株価リターンを調べたところ、顧客体験を重視する企業は 43%のリターンをあげ、S&P指数の 14.5%を大きく上回りました。反対に、顧客体験をあまり重視しない企業のリターンは -33.9%で市場平均を大幅に下回っています(図表 1参照)4。

•顧客ロイヤルティ ――フォレスターの調べによると、顧客体験の質の向上と顧客ロイヤルティ醸成による売上増には相関関係があります。この顧客ロイヤルティには、上質の体験を享受した顧客のリピート購入増加、購入先乗換率の減少や口コミ増加が含まれます。同調査では、顧客ロイヤルティ向上によって大幅な増収が期待できる業界として、ワイヤレス通信業界(30億ドル)、航空業界(20億ドル)、ホテル業界(10億ドル)をあげています 5。

デジタル・トランスフォーメーション顧客中心のデジタル変革

3 インターブランド「2013年ベスト・グローバル・ブランド」

4 ジョン・ピコルト(ウォーターマーク・コンサルティング)「ウォーターマーク・コンサルティング 2013年度顧客体験 ROI調査」

5 マキシー・シュミット・サブラメニアン(フォレスター・リサーチ)「顧客体験が与える事業への影響(2013年版)」(2013年 6月 10日)

1 アクセンチュア「マリオット・インターナショナルが取り組むウェブコンテンツの最適化」(2012年)

2 アクセンチュア「アクセンチュアとハイブリス・チームがグローバル企業向けマルチチャネル型事業ソリューション・サービスを開始」(2013年 8月 5日プレスリリース)

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図表 1 顧客体験(CxP)を重視する企業が市場を圧倒

CxP重視企業vs.CxP非重視企業 vs.S&P500種株価指数(2007年~ 2012年)の 6年間累積株価パフォーマンス©2013WatermarkConsulting

40.0%

50.0%

30.0%

20.0%

10.0%

0.0%

-10.0%

-20.0%

-30.0%

-40.0%

S&P500種株価指数 14.5%

CxP重視企業43.0%

CxP非重視企業-33.9%

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顧客体験を重視する企業は、デジタルはテクノロジーを主力としたものではないことを理解しています。こうした企業は、デジタルの実態を受入れ、支持するとともに、既存および見込み顧客との関係性向上(新たな顧客体験の創出やサービスモデルの構築から事業変革まで)を考えに考え、考え抜いているのです 6。また、自分たちの周辺にあるあらゆるモノの順序をデジタルが逆転させる状況を継続して察知し、その変化に対応しているのです。

あらゆる場面で、常に強化される顧客のちから

私たちが暮らすデジタルの世界は、ノンストップ・カスタマーを生み出しました 7。この種の顧客は、よく考え、企業との関係性の強さによって意思決定をします。

ノンストップ・カスタマーは、すべてのデジタルおよび物理的チャネルを通じて、高品質かつ関係性の高いやりとりを実現するという、企業への期待を増大させてきました。実際のところ、ノンストップ・カスタマーの多くは、上質の顧客サービスを享受するために個人情報を共有することを惜しみません 8。また、非常に非直線的で複雑な購買経路を辿ることも特徴です。この種の顧客は、コンテンツや様々な顧客体験だけでなく、製品やサービスにいたるまでを、企業と共に作り上げる機会を強く求めています。すなわち、バリューチェーンの全行程において顧客との協働が求められています。

この種の顧客は、ソーシャル・メディアを通じて自分たちの感動や批判を素早く広めることができます。そして、購入した商品が自分たちの求めた商品でない場合や、求めたタイミングで購入できない場合は、躊躇なく購入先を変更しているのです。事実、アクセンチュアのグローバル調査では、一昨年だけでも 66%の顧客が、顧客サービスへの不満を理由に購入先を変更しています 9。

購買意志決定にデジタル・メディアが与える影響は増加しています。上述の調査では、商品情報をデジタル情報源(企業のウェブサイト、インターネットのニュースやレビューサイト、商品比較サイト)から獲得する機会が急増していることや、こうした情報源は顧客の購買意志決定に大きな影響を与えていることが分かります 10。こうした傾向は、引き続きデジタルチャネルが、主力な情報源として店舗内広告や印刷広告などの従来型チャネルを上回って成長することを示しています。

有能なマーケティング担当者は、この傾向の重要性を理解しています。アクセンチュアの調査では、シニア・マーケティング・エグゼクティブの 65%が、顧客との関係性がマーケティング戦略に最も長期的な影響を与えると回答しています 11。これこそ、優れたデジタル体験を提供することが必須条件であるもう一つの理由です。

競合の変貌、異なる競合の出現

デジタルは競争環境に変化をもたらしています。あらゆる業界で、従来型企業は新たな独自性を探求しています。例えば、英国のスーパーマーケット・チェーンであるテスコは、オンデマンド・ビデオを提供する娯楽サービス事業を開始しました。これは、同社が顧客のロイヤルティ・カードを通じて蓄積した情報を活用した新規事業です 12。また、米国大手小売業のウォルマートは、インターネット大学と提携し、従業員向け教育プログラムの作成に取り組んでいます 13。

その他にも、独自の脚本に沿って既存サービスを改良した新興デジタル競合企業の台頭が見うけられます。例えば、ペイパルは、これまで別々の事業領域として考えられていた、銀行業と小売業の融合に取り組んでいます。また、テスラは、自動車の購入体験を一新してしまいました。このように、従来の業界間の境界線が不鮮明になっていることは、全世界の業界大手を相手に、競争環境を激変することができる新しいパートナーシップやエコシステムの誕生を示唆していると言えます。

テクノロジーは人々の可能性を向上させる一方、ビジネスを混乱させる

テクノロジーがデジタル革命に大きく貢献していることは疑う余地がありません。テクノロジーの進展やデバイス革新の量とスピードは、前例のない水準にまで達しています。ましてや、今後どのようになるかは予想できません。そして、大多数の企業は、続々と登場する新しいプラットフォームへの対応に苦しんでいるのです。

テクノロジーの重要性はその機能自体にもありますが、むしろその機能が利用者の能力を向上させ、人々の体験に変化をもたらすところにあります。メディア、デバイス、プラットフォームの選択肢が増加し、また手軽に利用できるようになったことで、これらは人々にとってますます身近なものとなり、より多くの形でより多くの利用者に影響を与えています。

例えば、文字通り、人をテクノロジーと接続するウェアラブルデバイス市場は、2013年の 14億ドルから 2018年には 190億ドルにまで成長すると予想されています 14。

9 アクセンチュア「2013年グローバル波動調査 「デジタル顧客」勝つアクションを取り、負けるアクションを止めるのは今」(2013年 11月)

10 同上

11 アクセンチュア・インタラクティブ「CMOの課題シームレスな顧客体験への道程を計画する」(2013年 5月)

12 BBC「テスコが試験的オン・デマンドの映画とテレビ番組配信サービスに着手」(2013年 2月 12日放送、2013年 12月 5日にアクセス)

13 ステファニー・クリフォード、ステファニー・ローゼンブルーム「ウォルマートが従業員に大学教育を提供」(2010年 6月 3日、2013年 12月 5日にアクセス)

14 ジュニパー・リサーチ「プレスリリース―モバイル・スマート・ウェアラブルデバイスの市場規模は 2018 年までに 190億ドルまで拡大予想(ジュニパー・リサーチ調べ)」(2013年 10月 15日、2013年 12月3日にアクセス)

6 アクセンチュア 「 デジタルワールドに向けての成長戦略 」(2014年 3月)

7 アクセンチュア 「ノンストップ・カスタマーに対応する 」(2012年 10月) 

8 アクセンチュア・インタラクティブ「調査結果 今日の顧客選好――チャネル、ソーシャル・メディア、個人情報とパーソナライズ化された体験」(2012年11月)

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現状維持からの脱出これまで、多くの企業の事業を成功させてきたビジネス・モデルは、今や企業にとって悩みの種になりつつあります。既存の大手企業にとって強みであった規模、組織力、文化は、デジタル時代において、迅速性を阻む足かせとなってきています。かつては情報の標準であったブリタニカ大百科事典は、2012年に印刷版百科事典の発行の廃止を発表し、244年の歴史に幕をおろしました。2010年には、米国でインターネット広告収入が新聞広告収入を上回りました。ちなみに、これは新聞紙面に初めて広告が登場してから 305年後の出来事です 15。

多くの企業は機敏な新規参入企業の後塵を拝しています。環境の変化はこうした新規参入企業が創りだして、時には先回りしていますが、彼らはすでにデジタルの成功から、利益を享受できる体質を持っているのです。

幸いなことに、勝機が全くないわけではありません。デジタルの実態を受入れ、支持するとともに、それを活用して顧客との関係性強化を図る企業にとっては、大きなビジネスチャンスが到来していると言えます。

大半の企業にとってのデジタル変革は、顧客との関係性を、持続的かつ大規模に構築するために、「外から内」へと視点を転換する事を必要とします。企業は、まず「見える部分」の改革を検討する必要があります。見える部分とは、顧客が直接的に企業に触れる全ての接点です。企業は明確なカスタマージャーニーを基にして、顧客には「見えない部分」、すなわち社内業務とテクノロジー基盤を再調整することが必要です。何故ならば、これらが顧客体験を造成、もしくは破壊する要因となりうるからです(図表 2参照)。

17 ラディガー・スターン、マティアス・ジーグラー(アクセンチュア)「広報誌 OutlookのPointofView デジタル・バリュー・チェーン対応は十分ですか?」(2013年 8月)

18 フィヨルド「楽しい請求書の作成――電話料金請求書に関する疑問を解消する詳細説明サービス事業を構築」(2013年 12月 3日にアクセス)

企業がすべてのチャネルにおいて上質の顧客体験とサービスを設計するためには、顧客が求めていることを理解しなければなりません。そして顧客が接するシステムは、顧客との関係性を高め、シンプルで洗練されたものでなければなりません。これは、デジタル・ビジネスの先駆者であるアマゾンがいつも得意としてきたことです。アマゾンは、顧客が求めている商品を的確に、手間のかからない方法で購入できる手段を提供する事で顧客を獲得すると同時に、常に顧客体験の向上に努めています 16。

1 最上の喜びを提供

2 事業の再設定

3 柔軟性のあるプラットフォームを構築

企業は、情報分析能力を企業の核として組み込みながら、ブランディングと顧客中心経営を実行しなければなりません。また、業務プロセス・システムは、効果的、効率的かつ投資対効果を得られるものでなければなりません。顧客を主体に自社業務を再編成する必要性に気付いた BMWは、自動車シートメーカーのリア・コープと提携し、電子かんばん方式のデジタルソリューションを採用してサプライチェーンの合理化に取り組んでいます 17。このシステムでは進捗状況の注意深い監視や、数値を基にした評価とあわせて、必要に応じた柔軟な設定変更ができます。

マーケティング、コンテンツ、コマーステクノロジー基盤を最適化する、必要ならば再構築することは、顧客体験や社内業務に活力を与えます。テクノロジー・システムは、堅牢で拡張性に優れ、即座に導入できるものでなければなりません。ある大手グローバル消費財企業は、デジタル変革プロジェクトの延長として、包括的なデジタル・ダッシュボード・アーキテクチャの構築に着手しています。この柔軟性を備えたテクノロジー・ソリューションは、複数のデジタルソースからの情報を保持し、グローバルのデジタル・マーケティング関連分析、インサイト会得、各種測定に必要な戦略的ビジネス・インテリジェンス・プラットフォームを提供しています。

上記の 3要素を、その成熟度の違いは問わず、再編成し同時に実行することで、デジタル変革を実現することができます。デジタル変革によって、既存事業の有効性および効率性が急速に改善し、力強い企業成長が期待できます。あるいは、上質の顧客体験を実現する新製品やサービスを投入することによって、事業の差別化を図ることも可能となります。しかし、最大の成果は業績の画期的な向上です。これはスウェーデンの携帯電話事業者である 3(スリー)が、My3 アプリを公開した時に裏付けられました。同社は、カスタマインサイトを手引きに、顧客にとっては不快だった月次請求書を、強力な顧客関係性を強めるツールへと変貌させました。My3アプリは画期的なスマートフォン用アプリで、利用者は同社サービス利用時に必要な情報へアクセスすることができるようになり、カスタマー・センターへの問い合わせ電話件数が減少しました 18。

15 メアリー・ミーカー(KPCB)「KleinerPerkinsCaufieldByersインターネット動向 2012年」(2012年 5月 30日、2013年 12月 3日にアクセス)

16 J.J. マッコービ「アマゾン・フレッシュは、ジェフ・ベゾが挑戦する小売業完全支配への最後の 1マイル」(2013年 8月 5日、2013年 12月 3日にアクセス)

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情報分析能力を企業の核として組み込むと同時に、顧客中心経営、

機敏性向上に向けた事業展開および業務プロセスの変革に着手する

有効性、機敏性、ROIの達成

顧客を理解した上で、すべてのチャネルで上質な体験およびサービスを設計する

関係性、洗練、シンプル

マーケティング、コンテンツ、コマーステクノロジー、業務運営

(機能向上の必要性に応じて拡張)の最適化によって事業および顧客

体験に活力を与える

堅牢性、拡張性、即時利用性

最上の喜びを提供

自社事業の再設定柔軟性のある

プラットフォームを構築

図表 2 持続的かつ大規模な顧客関係性の構築

顧客との持続的な関係性を構築するには、以下の 3要素が必要となります。

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同じカスタマージャーニーは存在しない顧客中心のデジタル変革プロセスは各企業で異なります。多くの場合、継続して改善が必要な、想定外の回り道が必要になります。業界の混乱状況や市場成熟度といった多くの要因が、プロセスの進行を左右することになります。デジタル変革は非常に大きな機会である一方、安易な解決策になることはないのです。

これまでのアクセンチュアの経験では、5つの構成要素がデジタル変革を可能にしています(図表 3参照)。デジタル・ビジネスでは極端な顧客中心主義を実践しなければなりません。データ管理を核としながら、専門的な分析能力・洞察力、コンテンツ管理を支柱とするデジタル・ビジネスは、全方位的かつ統合的な顧客体験をもたらすサービスを提供します。組織と企業文化の改革、そして適切な業務プロセスはこれら 5 つの構成要素を基に成り立ちますが、これは多くの場合、難易度の高い取り組みです。

その取り組みは高いリスクを伴うため、着手するには多大な労力が必要になると思います。しかし、迅速なデジタル変革を実行するために、企業が注力すべき事があります。それは、あらゆる場面で顧客体験を優先していく事です。

マインドセット――デジタルの定義を拡張する

多くの企業は、自社にとってのデジタルの定義をあまり理解できていません。キャンペーン主導による、あるいはテクノロジー主導によるデジタルの考え方は、デジタルを組織の一部分に閉じてしまい、持続的なビジネスの成功にデジタルを活用しきれないことにつながります。企業が実践しなければならないのは、デジタルをスタッフ、プロセス、テクノロジーを含む自社のあらゆる業務に投入し、全社レベルの包括的なデジタル・エコシステムを構築することです。

英国のある大手小売企業は、この考え方を理解し、自社のデジタル変革に適用しています。同社はデジタル変革 5カ年計画を始動し、デジタル小売業として新境地を開拓しています。同社の改革はマーケティング領域に留まらず、ビジネス・インテリジェンス機能の向上、マルチチャネル・プラットフォーム、費用効率の高いサプライチェーン、新しい販売業務プロセスなどが含まれています。

顧客接点――顧客の自社評価を把握する

競合他社のベンチマーキングは、デジタル変革のための正しい洞察を、常に提供してくれるとは限りません。何故ならば各社のデジタル成熟度は大きく異なるため、短期的なベンチマーキングは、リンゴとみかんを比較するような取り組みになりがちで、実用的な示唆の提供につながらないのです。また、このような取り組みは、顧客中心のデジタル・ビジネスにとって重要な指標を見逃す事につながる場合があります。すなわち、「顧客は自社をどう評価しているのか」という指標です。顧客は自身の顧客体験を満足できるものと考えているのでしょうか?自社が提供するサービスは、新規顧客がリピーターとなるほど上質なものなのでしょうか?

デジタル変革の一環として、従来からのベンチマーキング手法を補強することで、正しい顧客満足度水準を把握することができます。この手法は、論理的な自社の魅力と感情的な自社の魅力の両方を測定します。APCOワールドワイドが発表する「最も好まれる企業 100社」評価は、顧客のブランドに対する意識を理解することに根差し、顧客と企業の感情的なつながりに基づいて各社を順位付けしている点で、上記の手法の一例と言えます 19。

カスタマージャーニー青写真

組織構造、文化、パートナーを連携するエコシステム

分析とインテリジェンス

データ管理 コンテンツ管理 オムニチャネル体験(オンライン、オフライン、モバイル)

統合的サービス(顧客との対話をパーソナライズする)

図表 3 デジタル・ビジネスの構成要素

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リーダーシップ――トップからの推進力を得る

デジタル変革は企業のトップが先導し、組織内に浸透させなければなりません。組織全体が変革達成目標を共有するためには、全ての最高経営幹部が責任を負い、高いレベルで協働することが求められます。CEO、CIO、CMO、あるいは理想的には複数の最高経営幹部が、変革を自社の状況に従って先導することになるため、規範的手法は存在しません。デジタル変革の場合、最高顧客体験責任者(CXO:ChiefExperienceOfficer)といった職務を新設し変革の先導を試みる企業もあります。ガートナーの調査では、企業経営者の 19%は 2014年内に最高デジタル責任者を設置し、同 17%は最高データ責任者を任命する予定があるとしています 20。

バーバリーが、典型的な英国のブランドからグローバルなデジタル先駆者として認識されるまでに進化できたのは、最高経営幹部が変革を先導したからです。前 CEOのアンジェラ・アーレンツ(現在はアップルの実店舗およびオンライン・ストア統括幹部)が陣頭指揮を執った同社のデジタル革新は大成功し、同氏の手腕は大きく評価されています 21。

教育――デジタルの影響力を伝える

多くの企業では、一握りの社員しかデジタルに関する専門知識を持っていません。今後の課題は、デジタルに関する知識を隔離された集団の中だけに留めず、組織全体に組み込んでいくことです。

ユニリーバは、一貫したデジタル教育の必要性に気付き、既設の上海拠点に加えてインドにメディア研究所を設立し最先端のデジタル手法やツールを全社員で共有する努力をしています 22。また、ネスレのデジタル化推進部門は、世界各地のマーケティング責任者を一堂に集め、8ヶ月間の集中デジタル研修プログラムを行っています。同プログラムへの参加者は、研修後はデジタルに精通した新しい手法の推進者として顧客サービスを提供できるようになります 23。こうした研修プログラムは、各市場におけるデジタル成熟度に合わせて作成することができます。

チームワーク――デジタル・アカウンタビリティの促進

デジタル変革で不可欠なものとして、名実ともに協働作業を可能にする組織作りがあげられます。組織の各事業部門に配属されたスタッフに対してデジタル・パフォーマンス評価指標を設定し、高い評価を得たスタッフにインセンティブを与えることも有効な方法でしょう。

起業家精神――飽くなき向上の宣言

真意でデジタル・ビジネスを主導するためには、常に誰よりもよく考え、ものごとに取り組む姿勢が必要です。デジタル変革のプロセスを通じて、企業は「この状況でアップルや Googleならどう対応するか」を自問自答する必要があります。

この起業家精神は、企業を安全地帯の外、すなわち刺激的で素晴らしい出来事が起こる場所へと導きます。一例としては、トルコのギャランティ銀行が iGarantiを立ち上げたことがあげられます。iGarantiは同行のモバイル専用の銀行サービスで、顧客はカスタマイズした銀行サービスを受けることができます 24。またナイキは、同社が持つ革新的な DNAを活かし、Nike+という製品を開発しました。この製品は靴に内蔵した歩数計を利用したもので、利用者は自分の運動成果を測定することができます。同社はこの製品の投入により、拡がりを見せる「運動量自己測定」市場への道を切り開いたのです 25。

計画――現状を超えるための、将来への投資

デジタル投資の成果は短期間で得られるとは限りません。企業は恒久的な変革ビジョンの一環としてデジタル変革に取り組む必要があります。さらに、デジタル投資は長期的な投資であり、短期的な成果を保証する重点課題解決策ではありません。このため、変革に踏み切る企業には忍耐力が求められます。カスタマージャーニー青写真を計画、設定することは、顧客との関係性を高めるデジタル・ビジネスの主要 3要素すべてにとって重要です。

現在、ネスプレッソはこの変革に取り組んでいます。同社は、顧客に最高の喜びを提供するために、事業を再編成する長期変革計画を開始しています。この計画には、特定市場のニーズに対応できる迅速かつ柔軟な業務プロセスを後ろ盾として、より均一な顧客体験提供が可能な、統合されたインタラクティブ・プラットフォームの構築が含まれています 26。

22 セイガー・マルビヤ &アミット・バプナ「ヒンドゥスタン・ユニリーバがムンバイに管理者向けデジタル・メディア研究所を設立」(2013年 7月 26日、2014年3月 5日にアクセス)

23 YouTube「ネスレのデジタル化推進部」(2013年12月 3日にアクセス)

24 ThePaypers「ギャランティがソーシャル・メディア統合型携帯電話専用バンキングサービスを開始」(2013年 8月 28日、2013年 12月 3日にアクセス)

25 マーク・パーカー「ナイキ 2011年株主通信」(2011年7月 13日、2013年 12月 3日にアクセス)

26 アクセンチュア「アクセンチュアとハイブリス・チームが、グローバル企業向けマルチチャンネル型事業ソルーション・サービスを開始」(2013年 8月5日)

 

19 APCOワールドワイド「ディズニー、Yahoo!、Google ――最も好まれる企業 100社」(2013年 10月 10日、2013年 12月 3日にアクセス )

20 ガートナー社「CEOと上級管理者調査(2013年)――不透明感が後退するなかで、未来のデジタル事業環境が台頭」(2013年)

21 シーナ・マッケンジー「アンジェラ・アーレンツ(バーバリー CEO)、遺産ブランドをデジタル転換させた人」(2013年 10月 15日、2013年 12月 3日にアクセス)

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全体像を把握する

デジタル変革は憶病な企業には適していません。デジタル変革は、事業の現状と今後どのように変化していくかを、企業が評価することを促します。それだけでも大変な労力ですが、新しい顧客、競合、パートナー、テクノロジーが台頭するという現実に直面するなかでは、決して偶然に成功を手にすることはできません。

顧客中心のデジタル変革によって顧客との関係性を持続的かつ大規模に構築することは、すべての企業に共通したビジネス要件と言えます。デジタルを脅威としてとらえるか、難題と見るか、あるいは機会として考えるかは企業によって異なりますが、それを無視する企業は自ら危険を冒しているのです。

今後、企業は自社の存続のためにデジタル変革に取り組むことになるでしょう。これは業界の大手企業に限りません。多くの場合、デジタル変革には複雑で慎重な投資が求められます。さらに、柔軟にビジネスを遂行するために、戦略、文化、業務プロセス、業務基盤を絶えず更新するという考え方を持たなければいけません。

顧客ニーズを予想し、顧客の期待を超える製品・サービスを提供することは、顧客との関係性構築が求められるデジタル時代においては必須条件となるのです。

将来の顧客は 誰か?

自社は顧客に 最上の喜びを、

どこでも、いつでも提供していけるか?

将来の競合と パートナーは誰か?

今後の事業は どう変わるのか?

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