HIS EEK’S AGAZINE Week of July 16 ·...

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※ 当誌は、株式会社 時事通信社がライセンスに基づき Dow Jones & Company, Inc.の発行する BARRON’S 誌の内容を利用して作成したものです。 ※ 当誌は、情報提供を目的としてのみ作成したものであり、有価証券の売買の勧誘を目的としたものではありません。また、当誌は当社が信頼できると判断した資 料およびデータ等により作成しておりますが、その正確性および完全性について保証するものではありません。また、将来の投資成果や市場環境を保証するもの ではありません。投資決定にあたっては、投資家ご自身の判断でなされますようお願いいたします。 Copyright © 2018 Dow Jones & Company, Inc. 本誌記事の無断転載・複写を禁じます 2018 年 7 月 16 日号 THIS WEEK’S MAGAZINE Week of July 16 1. Good News for Stockpickers ミッドイヤー・ラウンドテーブル- 2 - 【今後の市場見通し】 9人の投資プロフェッショナルによる今後の見通し 2. Ackmans Comeback: How to Ride His Revival 大物復活への投資- 20 - 【ヘッジファンド】 ヘッジファンドのスター投資家の復活への投資 3. What Justice Kavanaugh Would Mean for Investors カバノー判事- 22 - 【最高裁人事】 カバノー判事の指名が投資家にとって意味するもの 4. Apples Next iPhone Could Spell Big Trouble for AT&T and Others 問題- 24 - 【アップル】 iPhone次期モデルに採用見込みのeSIMは、通信会社にとって脅威となる可能性も 5. How Much House Do You Really Need in Retirement? 住宅価格- 25 - 【住宅事情】 退職にあたってはどの程度の価格の住宅が必要か? 6. Up And Down Wall Street 重大ニュースが相次いだ先週、米国株が上昇- 27 - 【コラム】 貿易戦争は回避されると見込む投資家、関税をめぐる不透明感でくじかれる企業の信頼感 7. Online Sports Betting: A Long-Term Wager 長期的な賭け- 28 - 【オンラインスポーツ賭博】 米国で解禁となるオンラインスポーツ賭博は今後の成長市場か 8. The Trader 貿易問題で下落したのは一日だけ- 30 - 【米国株式市場】 懸念材料に反応せず、ナスダック総合指数は史上最高値 9. Broadcom Runs Low of Targets, Testing the Faith of Investor 踊り場- 32 - 【ブロードコム】 M&Aによる株価上昇は限界に、潤沢な資金の適切な使途はまだ不透明 10. Preview 今週の予定- 34 - 【経済関連スケジュール】 ウーバーとリフトが「ラストワンマイル」の多様化競争

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※ 当誌は、株式会社 時事通信社がライセンスに基づき Dow Jones & Company, Inc.の発行する BARRON’S誌の内容を利用して作成したものです。

※ 当誌は、情報提供を目的としてのみ作成したものであり、有価証券の売買の勧誘を目的としたものではありません。また、当誌は当社が信頼できると判断した資

料およびデータ等により作成しておりますが、その正確性および完全性について保証するものではありません。また、将来の投資成果や市場環境を保証するもの

ではありません。投資決定にあたっては、投資家ご自身の判断でなされますようお願いいたします。

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本誌記事の無断転載・複写を禁じます

2018年 7月 16日号

THIS WEEK’S MAGAZINE Week of July 16

1. Good News for Stockpickers ミッドイヤー・ラウンドテーブル→ - 2 - 【今後の市場見通し】

9人の投資プロフェッショナルによる今後の見通し

2. Ackman’s Comeback: How to Ride His Revival 大物復活への投資→ - 20 - 【ヘッジファンド】

ヘッジファンドのスター投資家の復活への投資

3. What Justice Kavanaugh Would Mean for Investors カバノー判事→ - 22 - 【最高裁人事】

カバノー判事の指名が投資家にとって意味するもの

4. Apple’s Next iPhone Could Spell Big Trouble for AT&T and Others 問題→ - 24 - 【アップル】

iPhone次期モデルに採用見込みのeSIMは、通信会社にとって脅威となる可能性も

5. How Much House Do You Really Need in Retirement? 住宅価格→ - 25 - 【住宅事情】

退職にあたってはどの程度の価格の住宅が必要か?

6. Up And Down Wall Street 重大ニュースが相次いだ先週、米国株が上昇→ - 27 - 【コラム】

貿易戦争は回避されると見込む投資家、関税をめぐる不透明感でくじかれる企業の信頼感

7. Online Sports Betting: A Long-Term Wager 長期的な賭け→ - 28 - 【オンラインスポーツ賭博】

米国で解禁となるオンラインスポーツ賭博は今後の成長市場か

8. The Trader 貿易問題で下落したのは一日だけ→ - 30 - 【米国株式市場】

懸念材料に反応せず、ナスダック総合指数は史上最高値

9. Broadcom Runs Low of Targets, Testing the Faith of Investor 踊り場→ - 32 - 【ブロードコム】

M&Aによる株価上昇は限界に、潤沢な資金の適切な使途はまだ不透明

10. Preview 今週の予定→ - 34 - 【経済関連スケジュール】

ウーバーとリフトが「ラストワンマイル」の多様化競争

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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1. Good News for Stockpickers ミッドイヤー・ラウンドテーブル 【今後の市場見通し】

9人の投資プロフェッショナルによる今後の見通し

■ ミッドイヤー・ラウンドテーブル

イケイケの時代は終わった。今や慎重に事を進める局面だ。

モメンタム銘柄、低ボラティリティ、低金利という状況を好

むならば、2017年に戻るべきだ。今年は既に、投資家にとっ

て厳しい年になっており、主要株価指数が現在の水準からさ

らに上昇すると考える理由はほとんどない。

これが 9 人の投資プロフェッショナルの共通の見方である。

景気は好調で職探しも容易だが、金利上昇、財政赤字拡大、米国と貿易相手国との間の貿易摩擦悪化は、今

後数カ月の企業利益の伸びを押し下げる公算が大きく、株価上昇を抑制する可能性がある。

こんな時だからこそ、企業の四半期報告書と電卓をにらみながら、見逃すには割安過ぎる銘柄を調べるには

最適の年かもしれない。

■ スコット・ブラック氏(デルファイ・マネジメント 創設者で社長)

本誌:今後に何が待ち構えているのか?

A:支配的なテーマはトランプ大統領だ。大統領は第 2 次世界大

戦以降の秩序を、政治的にも経済的にも覆している。最近の関税

がどのような影響を及ぼすかは不透明だ。1930年のスムート・ホ

ーリー法(関税に関する法律)を調べ直したら、同法による関税

が大恐慌につながっている。

世界同時的な経済成長は終わった。ドイツの経済成長率は、昨年

第 4四半期は 2.3%だったが、今や 1.6%へ減速している。米国経

済は年率換算で 2.8%程度の成長率となっているが、貿易戦争が

現実化すれば来年の経済成長率を 1%ポイント押し下げる可能性

がある。

Q:下半期の見通しは?

A:今年の S&P500 指数の 1 株当たり利益(EPS)を 157.82 ド

ルと想定すると、株価収益率(PER)は 17.2 倍となる。過去平

均は 16倍のため、それほど割高ではない。増益率は 26%だ。ただし、市場の方向性に対する不透明感は強

い。

私は 2019 年に対しても、貿易問題が解消されない限り強気ではない。関税による費用増加が、中間層に対

する減税の恩恵を相殺している。

Q:選好銘柄は?

エネルギー会社であ

るノーブル・エナジ

ー(NBL)の運命は、

貿易とは無関係だ。

今年、原油価格は大

幅に上昇し、天然ガ

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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スは小幅に上昇している。株価は 34.68ドルで、時価総額は 169億ドルだ。1株当たり配当は 44セントで、

配当利回りは 1.26%となっている。国内ではテキサス州のデラウェア盆地とイーグルフォード盆地、コロラ

ド州のジュールズバーグ盆地が主力エリアだ。

埋蔵量は、米国内が原油換算で 9億 4000万バレル、イスラエルの天然ガスは 5兆 5000億立法フィート(石

油換算で約 9 億 1700 万バレル)、赤道ギニアが原油換算で 1 億 800 万バレルとなっている。原油を 1 バレ

ル当たり 22ドル、天然ガスを 1000立法フィート当たり 2ドルとして解散価値を計算すると、埋蔵量だけで

273 億 3000 万ドルとなり、有形固定資産を加えると 282 億ドルとなる。純負債と繰延税金資産を差し引い

て、正味解散価値は 210億ドルと試算され、1株当たりでは 43.05ドルとなる。

今年のEPSは約 1.25ドルと予想される。減価償却費などを加えた裁量可能キャッシュフローは 5.75ドルと

なり、株価はその 6 倍だ。今年の生産量ガイダンスは原油換算で日量約 35 万バレルとなっており、前年比

16%増となる。

電子部品などを手掛けるアロー・エレクトロニクス(ARW)の株価は下落している。株価は 75.48 ドルで、

時価総額は 67億ドルだ。ちなみに無配となっている。今年については、9%増収と、8.80ドルの 1株当たり

キャッシュフローを予想している。自己資本利益率(ROE)は 14.6%となる。PERは 8.6倍でS&P500指

数の約半分、株価純資産倍率(PBR)は 1.32倍だ。

株価は、関税が懸念された半導体製造装置メーカーに連れ安した。半導体製造装置需要の大半は中国だが、

アロー・エレクトロニクスは全世界に製品を供給している。最終製品は関税の対象になる可能性があるが、

同社の製品は対象ではない。

最後は 6カ月財務省短期証券(TB)だ。貿易戦争の動向を見極めるまで様子見姿勢とするならば、良い投資

対象で、利回りは 2.1%だ。ちなみに、S&P500指数の配当利回りは約 1.8%となっている。利回りはインフ

レ率並みであるため、実質リターンはゼロだが、状況が収まるまで安心していられる。

■ ジェフリー・ガンドラック氏(ダブルライン・キャピタル CEO兼CIO)

Q:経済および市場に対する見方は?

A:2019年に関しては、年初より慎重になっている。景気後退

の可能性について常に検討しており、10を超える先行指標を見

ているが、年初は、後ろ向きになる先行指標はなかった。今、

若干後ろ向きなのはイールドカーブで、米連邦準備制度理事会

(FRB)の金融引き締めで過去 1~2 年間でかなりフラット化

している。金利が非常に低いため、イールドカーブのシグナル

は通常以上に強力になっている。イールドカーブは、2 年債か

ら 10年債までフラットになっている。最近の両者の差は 28bp

で黄色信号だ。

また、量的引き締めも、2019 年に問題となる可能性もある。FRB はバランスシートで保有する米国債を減

らし始めており、市場に出てくる米国債は 10月には月間 500億ドルに達する見込みだ。

FRB は同時に利上げ継続の意向も示している。イールドカーブが発するシグナル、6000 億ドル程度の量的

引き締め、財政赤字拡大は問題だ。

Q:10年債利回りの年末の予想は?

A:年初に 10 年債利回りが 3%を超えると予想していたが、実際に一時的にそうなった。さらに、30 年債

利回りは 3.22%に達したこともある。10年債は、年内はボックス圏と予想する。面白いことに 10年債利回

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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りは米国の名目国内総生産(GDP)成長率とドイツの 10 年債利回りの中間となっている。現在、それぞれ

5%と 0.30%にあることを考慮すると 2.65%となり、それが私の年末の予想だ。

Q:この環境で最良の投資手段は?

A:引き続き、低リスクで、比較的短期の債券を推奨する。1 月に

パワーシェアーズ・シニア・ローン・ポートフォリオ(BKLN)を

推奨したが、年初来で 2%上昇している。

コモディティーも依然として好んでいる。コモディティー価格は関

税をめぐる状況を受けて最近下落したが、それは買いの好機だ。1

月には、上場投資信託(ETF)のエナジー・セレクト・セクターSPDR

(XLE)を推奨したが、今は、SPDR S&Pオイル・アンド・ガス・

エクスプロレーション・アンド・プロダクション(XOP)を好んで

いる。年初来高値の水準にあるが、コモディティー価格のさらなる

上昇を予想している。

Q:1月に、コモディティー関連として iシェアーズMSCIブラジル(EWZ)を推奨したが、パフォーマン

スは良くない。まだこだわっているか?

A:パフォーマンスはしばらく良かったが、ドル高とブラジルの政情で状況が変わった。ただ、現在は選好

度を強めている。ブラジルは非常に割安だ。

また、マスター・リミテッド・パートナーズ(MLP)に投資するトータスMLPファンド(NTG)にもこだ

わっている。原油価格は上昇したが、同ファンドは下落している。同ファンドは、過去 5年間減配していな

い。

ウィズダムツリー・ジャパン・ヘッジド・エクイティ(DXJ)も依然として好んでいる。日銀は流動性を維

持している。ただし、最も選好しているのは、パワーシェアーズ・シニア・ローン・ポートフォリオだ。

Q:今年の中間選挙に対する意見は?

A:共和党の上下院支配が続くだろう。民主党のメッセージは分かりにくい。社会主義の機運が高まるには

景気後退が必要だろう。

2020年までにそうなれば、

左寄りに急展開するだろう。

最後に、私は 2年債を好ん

でいる。高くないとはいえ

利回りが得られ、今後 1~2

年でその流動性が必要にな

るかもしれない。

■ オスカー・シェーファー氏(リビュレット・キャピタル 会長)

Q:経済と市場に対する見方は?

A:米国経済は力強く、欧州よりもはるかに良好だ。貿易摩擦で混乱が生じなければ、好調が続くだろう。

Q:年末にかけてのS&P500指数に対する見方は?

A:現状からあまりかけ離れないだろう。2019 年を予想するのは時期尚早だ。しかし、2 年、3 年を見越し

て投資するならば、向こう 6~9カ月に起こることは問題ではない。推奨銘柄は 1月と基本的に変わらない。

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Q:通信機器のコムスコープ・ホールディング(COMM)

では、何が起こっているのか?

A:期待外れの第 1 四半期決算と通期の利益警告を受け

て株価は大幅に下落した。ネットワーク機器需要は堅調

だが、大口顧客からの値下げ要求と、その流れで他の大

口契約についても価格を改定したことが通期の利益率の

圧力となった。通期利益ガイダンスの 7%の下方修正に

もかかわらず、株価は 30%も下落した。

ただ、一時的な状況とみられる。価格見直しは当該顧客

のサプライチェーン全体に及んでおり、コムスコープ・

ホールディング固有の問題ではない。業界全体で価格は

低下傾向にあり、競争状況が大幅に変化したわけでもな

い。株価は正規化した利益の 10 倍未満となっており、

携帯電話サービス会社が 5G ネットワークを展開し、家

庭向け帯域を拡大するなど、成長見通しは良好だ。株価

は 27 ドルだが、2~3 年後には 50 ドルを上回る可能性

がある。

英国のホテル・レストラン運営会社のウィットブレッド(WTB.英国)も選好している。時価総額は 95億ド

ルだ。プレミア・イン(ホテル)とコスタ・コーヒー(コーヒー・チェーン)の二つの異なる事業を展開し

ているが、両方を同時に経営する理由はない。最近、2 件のアクティビストが企業分割を要求し、ウィット

ブレッドは今後 1年半以内の分割完了で合意した。

プレミア・インは英国に客室数 7 万室を持ち、エコノミーから中級クラスの最大のホテル会社だ。過去 10

年間で客室数を年率 9%増加させており、開発中の客室が 1万 5000 室ある。直接予約の割合が 95%となっ

ている。最近ではドイツにも事業を拡大している。

コスタ・コーヒーは英国全体に 2400 店舗を展開。スターバックス(SBUX)に次ぐ、世界第 2 位のコーヒ

ーチェーンだ。英国のコーヒー消費量は 1桁後半の伸び率で増加しており、コスタ・コーヒーは人気ブラン

ドの地位を確立している。英国以外では、中国に 400店舗を持ち、やはりスターバックスに次ぐ 2番目とな

っている。

プレミア・インが欧州や

米国のホテル業界並みの

バリュエーションとなれ

ば、ウィットブレッド全

体の企業価値を上回る。

コスタ・コーヒーは会社

分割前に売却される可能

性があり、ある同業他社

は最近、非公開市場で利

払い・税引き・償却前利

益(EBITDA)の 15 倍

で売却されている。

ウィットブレッドの株価は約 3960 ペンスで、EBITDA の 9.5 倍となっている。今後数年間で 100%近くの

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上値余地があるとみている。

■ ウィリアム・プリースト氏(エポック・インベストメント・パートナーズ CEO 兼共同最高投資責任

者(CIO))

Q:市場をどう見ているのか?

A:利益と配当の今年の見通しは素晴らしい。利益に

は減税が貢献するだろう。しかし、FRBの量的引き締

めに伴って PERは低下が予想される。

市場は二つの問題に直面している。2019年の財政赤字

は 1兆ドルを超え、GDP比約 5%と過去最大となる見

込みだ。さらに、FRB による量的引き締めの約 2000

億ドルを加えると、財務省による国債発行額は GDP

比 6%に相当する。もう一つは貿易摩擦で、貿易戦争

に勝者はいない。

一言で言うと、ボラティリティが非常に高く、上値余

地が小さい市場を予想する。とはいえ、S&P500指数

の今年の予想 EPS が 175 ドルの状況ではあまり大幅

な下落はないだろう。

Q:魅力ある投資対象は?

A:1月の推奨銘柄の幾つかは推奨すべきではなかった。コーヒーチェーン大手のスターバックス(SBUX)

を第 1四半期に売却した。第 2四半期には、保険大手のメットライフ(MET)も売却した。モメンタムの欠

如とフラット化しているイールドカーブが問題になる可能性がある。

半導体製造装置大手のアプライド・マテリアルズ(AMAT)は、貿易問題によって年初来で約 10%下落して

いるが、まだ選好している。同社の売上高と粗利益率のガイダンスは引き上げられ、前四半期には 25 億ド

ルの自社株を買い戻した。市場シェアも拡大している。

石材メーカーのマーチン・マリエッタ・マテリアルズ(MLM)も依然として保有している。推奨時の株価

は 227ドルで、約 200ドルまで下落した際に少し買い増し、現在は 227ドル近辺に戻っている。

Q:有機発光ダイオード(OLED)技術を提供するユニバーサル・ディスプレイ(OLED)はどうか。1 月

のラウンドテーブル以降に株価は 50%下落して 87ドルとなっているが。

A:まだ好んでいる。アップル(AAPL)の iPhone X(アイフォーン・テン)の販売台数がやや期待外れだ

ったために株価が下落した。青色 OLEDも開発できていない。しかし、長期的なシナリオに変わりはない。

サムスン電子(005930.韓国)とキヤノントッキが最近、青色OLEDを用いたテレビを開発中と報道されて

おり、ユニバーサル・ディスプレイにとって朗報だ。

Q:新たな投資ア

イデアは?

A:スーパーマー

ケット大手のクロ

ーガー(KR)に

約 24 ドルで投資

した。現在の株価

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は約 28 ドルだ。今後 3年間の営業キャッシュフローは約 150 億ドル、設備投資は 90 億ドルで、60 億ドル

(時価総額の約 25%)を株主に還元する予定だ。EPSを今期は 2~2.15ドルと予想しており、2020年には

2.60ドルあるいは 3ドルへ増加すると予想している。

Q:クローガーはアマゾン・ドット・コム(AMZN)に対抗できるか?

A:英国のオンライン小売り会社であるオカド・グループ(OCDO.英国)に多額を投資して、Eコマースに

よる仲介機能排除によるリスクを軽減した。クローガーの株価は 2倍になる可能性があると考える。

次は、石油精製大手のフィリップ

ス 66(PSX)だ。石油精製品とポ

リエチレンのカギを握るサプライ

ヤーだ。同社は、割安な内陸産原

油へのアクセスと天然ガス液

(NGL)の供給によって低コスト

の生産者となり、米国、南半球お

よびアジアにおける需要裁定能力

につながる見込み。ウエスト・テ

キサス・インターミディエート

(WTI)とカナダやパーミアン盆

地といった内陸産原油との価格差

によって、日量 160万バレルの精

製能力のうち約 50万~60万バレ

ルで固定費を完全に回収でき、残

りの精製能力で高い利益率を得ら

れる。

NGL の副製品としての液化石油ガス(LPG)を販売できるため、同社の化学品合弁会社は原料費の相当部

分を回収できる。ポリエチレン生産における利益率を、ほぼ全額獲得できる可能性がある。EPS を、2018

年は 7ドル超、2019年は最大 12ドルと予想している。株価は 111ドルで、160ドルへ上昇する可能性があ

る。

■ マリオ・ガベリ氏(ガムコ・インベスターズ 会長兼CEO)

Q:下半期に待ち受けているものは?

A:年内の市場は、四つの T によって形成されるだ

ろう。第 1は関税(tariff)だ。米国のGDPは約 20

兆ドルで、貿易赤字は約5000億ドルとなっており、

対中貿易赤字は 3500 億ドルだ。言い換えれば、米

国は中国に資金を提供し、GDPの 2.5%を失ってい

ることになる。関税や貿易制裁の応酬は米国の製造

業のコストを押し上げているが、国内市場に製品や

サービスを提供している米国企業の投資機会を創造

している。

第 2の Tは米国債(treasury)だ。10年債利回りは、1月は 2.44~2.73%だったが、3.11%へ上昇した後で

2.86%へ低下した。市場の株価/EBITDA倍率が持続可能とは、われわれは考えていない。インフレ率が上

昇して、10年債利回りを年末までに再度 3%超へ、来年はそれ以上に押し上げるだろう。

第 3 の T は法人税(tax)だ。21%の法人税は、企業を米国に誘致することになる。設備投資の即時損金算

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入は需要を増やしている。

第 4の Tはテクノロジー(technology)だ。テクノロジーは市

場の関心を集めており、今後も引き続き集めるだろう。

トランプ大統領の施策によってボラティリティは高まるだろう

が、忍耐強く待てばやや割安で買える機会も訪れ、モメンタム

銘柄を保有していないといってばかにされることもなくなるだ

ろう。

Q:経済と市場への影響は?

A:米国経済の 70%は個人消費だ。求人需要は大きく賃金は上

昇傾向にあり、消費者の純資産は過去最高水準にある。ガソリ

ン価格は上昇しているが、トランプ大統領は、原油価格を引き下げるようサウジアラビアを説得している。

大統領は中間選挙を控えて 9 月から 10 月の好調な景気を望んでいる。中国との貿易摩擦は、それまでには

沈静化しよう。

共和党が上下院を支配できれば、さらなる税制改革の可能性もある。トランプ大統領はキャピタルゲインと

配当に対する 3.8%の純投資所得税の廃止などを望んでいる。2019 年にインフラ支出は加速する見込みで、

原油価格が 60ドル超を維持すれば、国内の油田掘削活動も加速する公算が大きい。

1 月に、市場の上昇率が 0~5%になるだろうと述べたが、今でもそう考えている。しかし、今後 10 年間で

は、S&P500指数のインデックスファンドの年率リターンは 6~8%だろう。

Q:選好銘柄について教えてほしい。

A:英国の持株会社である CNH インダストリアル(CNHI)は 1 月にも推奨した。株価は 10.25 ドルで年

初から下落しており、関税や、欧州の通貨問題が理由だ。CNH の会長で、フィアット・クライスラー・オ

ートモービルズ(FCAU)の CEO であるセルジオ・マルキオンネ氏は、フィアット・クライスラーからフ

ェラーリ(RACE)を分離した。同氏は退任する前に、CHH インダストリアル傘下のトラックメーカーで

あるイベコを、大型トラックメーカーのパッカー(PCAR)が保有する DAF と合併させるとわれわれは考

える。農機部門では、農家は好調だ。2020年のEPSを 1.10ドルと予想する。

Q:1月にパッカーを推奨しているが、今でも選好しているか?

A:選好している。株価は 70ドル台前半から 60ドル台前半に下落した。トラック需要は私の予想以上に増

加したが、市場では 2019年に減少すると予想されており、私も同意する。パッカーの今後 2~3年間のEPS

を 6~7 ドルと予想

する。買収をせずに、

配当を 1.20~1.30

ドルに維持すれば 3

~4 年後のネットキ

ャッシュは 90 億ド

ルに達する可能性が

ある。1 株当たりで

は 30ドルになる。

1 月に、イベント会

場運営会社のマディ

ソン・スクエア・ガ

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ーデン(MSG)を推奨した。取締役会がスポーツ事業のスピンオフを模索するというニュースがある。

リバティ・メディアのアトランタ・ブレーブス(野球チーム)に対する持ち分のトラッキングストックであ

るリバティ・ブレーブス・グループ(BATRA)を依然として選好している。アトランタ・ブレーブスは私

の予想以上に健闘している。リバティ・メディアを支配するジョン・マローン氏は野球好きだが、ブレーブ

スを売ろうとしている。

現在、ウォルト・ディズニー(DIS)とケーブルテレビ大手のコムキャスト(CMCSA)は娯楽・メディア

大手 21 世紀フォックス(FOXA)の映画資産の買収合戦を繰り広げている。その中で私はソニー(6758)

に注目している。傘下のコロンビア映画はM&Aの議論を集めている。また、音楽ストリーミング事業が成

長しており、音楽事業の価値も上昇している。ソニーのEV/EBITDA 倍率は 6.2倍だ。コロンビア映画は、

メディア大手のバイアコム(VIA)が保有するパラマウント映画との合併が理にかなっている。

Q:バイアコムとオーナーが共通のメディア大手のCBS(CBS)はどうなるのか?

A:通信大手のベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)の観点では、CBSの株価は 58ドルだが、売却の

場合は 80~90ドルの価値がある。

マローン氏に話を戻すと、成長する中南米市場に注目が集まっている。過去に推奨したことがあるルクセン

ブルクに本社を置く携帯電話サービス会社であるミリコム・インターナショナル・セルラー(MIICF)は、

中南米でケーブルテレビも提供している。同社が、マローン氏が支配する別の企業であるリバティ・ラテン・

アメリカ・アンド・カリビアン・グループ(LILAK)と合併するのではないかと考えている。

最後に、シール材を製造するガーロック・シーリング・テクノロジーズを 40年前からフォローしているが、

同社は、アスベスト問題による破産保護が 2017年に終了した。現在は、工業用品メーカーであるエンプロ・

インダストリーズ(NPO)の傘下となっている。エンプロ・インダストリーズの資本財事業は、多くの企業

にとって魅力的な可能性がある。株価は 72ドルだが、2年間で 105ドルになる可能性がある。

■ アビー・コーエン氏(ゴールドマン・サックス証券 シニア投資ストラテジスト)

Q:経済は最高潮か?

A:経済成長は非常に好調だが、転換点にあると思う。

2018年末から2019年に減税の一時的恩恵の影響が弱

まり、ドル高、貿易戦争、米国財政赤字の悪化などの

要因も重なる。

Q:バラ色の未来と言えなくなったことを投資家はど

の程度織り込んでいるのか?

A:多くの投資家は既に織り込み始め、2018年のパフ

ォーマンスが最低なのは、海外売上高の比率の高い企

業だ。年初にゴールドマン・サックスでは、2018年末

の S&P500指数の公正価値予想を 2850とした。米国では 2月と 3月にこの水準に達し、その後はボックス

圏相場となっている。企業のファンダメンタルズに基づくと、今でも 2850 は公正価値水準だと考えられる

が、貿易戦争の悪影響の広まりや、財政赤字の増大やインフレ高進に促された FRBの利上げは心配だ。GDP

成長率は、今年は約 3%が見込まれるが、2019~2020年は鈍化し、S&P500指数のEPS成長率も今年の 19%

から 2019年は 7%、2020年は 5%に鈍化すると予想する。

Q:2019年の公正価値予想は算出済みか?

A:3000だ。企業のEPS成長率と PERの低下を加味した。ボラティリティも上昇すると予想する。アジア

市場が魅力的と考える同僚もいる。東証株価指数(TOPIX)は 1700~1800のレンジ内で動かないが、われ

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われの 1 年後の目標は 1950 だ。中国やインドの経済も悪くない。アジア市場は米中貿易摩擦の悪化を織り

込んで 2018 年の最低水準にある。中国市場は、中国の経済成長率の鈍化やドル高の影響を既に織り込み済

みと考えられる。

Q:困難な課題に直面する中、投資家は何を買うべきか?

A:自動車部品小売りのオートゾーン(AZO)。景気回復に伴って

新車販売台数が増加し、また今後数年で車齢 10 年以上の中古車

が増加するため、オートゾーンへの投資にはもってこいだ。減税

分の 2億ドルは再投資と自社株買いに充てられ、EPS押し上げと

株価上昇につながる。また、自動車部品は通販向きではない点も

有利だ。当社アナリストのEPS予想は、今年が 51.05ドル、2019

年が 58.15ドル、2020年は 62ドル。PERは今年の予想の 13倍、

2019年予想に対して 11~12倍。米国産の自動車にはカナダやメ

キシコ産の自動車部品が使用されているため、北米自由貿易協定

(NAFTA)の見直しはリスクだ。

米国外では、キングフィッシャー(KGF.英国)も良い。米国のホーム・デポ(HD)とロウズ(LOW)に

次ぐ世界第 3位のホームセンターで、11カ国に 1200店舗を構える。欧州ではオンラインの成長余地も大き

い。フリーキャッシュフローの創出力は強く、設備投資の余力がある。配当利回りは 3.4%で、2020年には

4.5%になる可能性がある。295 ペンスの株価は今年の予想利益に対して 12.5 倍。プライベートブランドの

製品が多いため、コストや価格の管理力がある。

酒造会社のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(BUD)も欧州の企業だが、欧州以外の事業が大半を占める。

負債が懸念材料とされるが、フリーキャッシュフロー創出力は強い。配当利回りは昨年末で 3.7%、今年は

4.2%に上昇すると予想される。当社予想 EPS は今年 5.01 ドル、来年 5.72 ドル、2020 年は 7.30 ドル。最

大市場の米国で競争を強いられていたクラフトビールの成長が急速に鈍化している他、第 2位の市場のブラ

ジルが景気後退から脱した。ブラジルでのシェアは 60%以上ある。

インナーモンゴリア・イリ・インダストリアル・グループ(内蒙古伊利実業集団、600887.中国)は中国最

大の乳製品メーカーで、ブランドの価値を着実に高めており、今後豆乳やエナジードリンクの分野にも事業

を拡大すると予想される。中国の中間層の興隆により、国民の栄養への関心の高まりの後押しを受けている。

今年の増益率は 20%を超える可能性がある。

ミデア・グループ(美的集団、000333.中国)は、売上高ベースで世界最大の家電メーカーだ。以前は低品

質な商品を販売していたが、品質は向上している。米国では無名の巨大企業だが、アーエーゲー(AEG)の

プレミアムブランド製品を中国で販売するため、スウェーデンのエレクトロラックス(ELUX.B. スウェー

デン)と合弁会社を設立した。また東芝(6502)の白物家電事業やドイツのロボットメーカーを買収してい

る。当社予想のEPS は、今年 3.50 人民元、2019 年が 4.38 人民元、2020 年が 5.20 人民元。配当利回りは

約 3%で、配当成長率は今年 33%、その後も 20%程度となる可能性がある。PER は 14.9倍。高いトータル

リターンが狙え、中間層の成長に投資する機会だ。

最後に、当社は ETF

の推奨は行っていない

が、金融サービスセク

ターのバリュエーショ

ンが魅力的で、i シェ

アーズ米国金融サービ

スETF(IYG)などを

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通じて投資することも可能だ。金利上昇に伴い、出遅れていたバリュエーションが上昇する銘柄もあるだろ

う。

■ ヘンリー・エレンボーゲン氏(T.ロウ・プライス CIO)

Q:経済の見通しは?

A:減税による節減分が再投資に利用可能になり、利益達成を

優先して遅延していたプロジェクトにゴーサインが出たのは良

いことだが、政治的緊張は米国経済を減速させる可能性がある。

11 月の中間選挙では民主党が下院の過半数を得ると私は予想

しており、そうなると議会では何も先に進まなくなる。政府に

依存する業界では、先の見通しがより困難になる。景気も株式

市場もサイクル後期に入っており、変動が激しい時期となる。

私は他の人たちよりは米国市場にポジティブだが、インフレや

貿易摩擦の不透明感が晴れてほしい気持ちは変わらない。

Q:1 月の推奨銘柄は市場に歓迎されたようだが、今も変わら

ないか?

A:クラウドベースの商取引プラットフォームを提供するショ

ッピファイ(SHOP)は今も選好しており、1 年後の目標株価

は 180~200 ドルだ。海外にも進出しており、より多機能の上

位版ショッピファイ・プラスも提供する。フェイスブック(FB)

が質の低い広告主のサイトを除外した場合に悪影響を受けると心配する声もあるが、影響は小さいと私は考

える。

リゾート施設を運営するベイル・リゾーツ(MTN)は、冬の天候が悪かったにもかかわらず、今期の利払い・

税引き前利益(EBIT)は 9%増加した。多角化と、天候の影響を受けにくいシーズンパスの販売が奏功した。

2018~2019年のパスの売り上げも好調で、客単価は 12%上昇、売上高は 19%増加した。引き続き選好する。

出前注文サイトを運営するグラブハブ(GRUB)の株価は 44%上昇した。ヤム・ブランズ(YUM)傘下の

タコベルや KFC の独占的出前提携会社になる見込みだ。今年のレストラン業界は出前を除くと成長率がマ

イナスに陥る見込みで、出前に力を入れる企業が増えると予想される。グラブハブのバリュエーションは十

分高いが、プラットフォーム企業の価値は強いため、同銘柄を今も保有している。

信用調査会社のエクイファクス(EFX)の株価は 1月以降上昇したが、今でも買いたい。情報流出事件は乗

り切れることが分かり、企業向けソリューションや海外事業に影響はなかった。米国事業は、消費者向け商

品を中止し

たこともあ

り前年比横

ばいだが、

新たなプラ

ットフォー

ムへの投資

を継続して

いる。

Q:新しい推奨銘柄は?

A:3 銘柄ある。エクイファクスと同業のトランスユニオン(TRU)の強みが、エクイファクスの情報流出

で明るみに出た。信用調査は米国経済になくてはならないもので、今後業界の PER は上昇するだろう。ト

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ランスユニオンは、次世代プラットフォームを最初に開発した企業で、ゴールドマン・サックスやアドベン

ト・インターナショナルが主導するプライベート・エクイティ会社が保有していた。米国での業界の成長率

は 6~8%だが、トランスユニオンは 10%で成長している。

エクイファクスとエクスペリアン(EXPN.英国)がそれぞれシェア 40%で、トランスユニオンは 20%だが

成長は他の 2社より速いため、シェアも拡大していくだろう。技術が非常に進んでいるため、革新を志向す

る企業や、大手銀行の革新的な部門を引き付けると思われる。どの業界でもそうだが、最も優れたプラット

フォームと顧客を持てば、素晴らしい研究開発の推進力となる。

トランスユニオンは過去 6カ月で魅力的な買収を行ったが、エクイファクスは情報流出の罰金が確定するま

で買収を実施できないだろう。アナリスト予想は低過ぎ、トランスユニオンの来年以降の EPS は 3 ドル、

3.40 ドル、3.50 ドルと増加する可能性があるとわれわれはみている。PER は 20~24 倍もあり得る。目標

株価は 80ドル台半ばだ。

BWX テクノロジーズ(BWXT)は防衛関連企業だ。海軍の重要性という点では民主党も共和党も意見が一

致している中、同社は原子力潜水艦や原子力空母の推進装置を製造する唯一の企業である。最近の米国連邦

予算は原子力潜水艦への投資を増やしており、一層加速させる話もある。BWXの事業の約 80%は独占的で、

資本利益率(ROC)が高い。これだけでも魅力的だが、もっと重要なことに、BWX は 2015 年にエネルギ

ー事業のバブコック・アンド・ウィルコックス・エンタープライジス(BW)をスピンオフした際に、電子・

通信機器を中心とする複合企業テレダイン・テクノロジーズ(TDY)のナンバーツーの幹部だった人物を獲

得した。この人物はCEOとして事業拡大に努め、カナダのゼネラル・エレクトリック(GE)の原子力サー

ビス事業の買収や、医療分野での小規模な買収を実施して、EPSを押し上げた。

不動産サービスのレッドフィン(RDFN)は、まだ発展の初期段階にあるグロース企業で、不動産仲介業の

大きな変化の一端を担っている。レッドフィンはハイテクを駆使して不動産情報サービスのカスタマー・エ

クスペリエンスを改善し、物件掲載料を販売価格の 1%と、他社の 2.5~3%に比べて大幅に引き下げた。レ

ッドフィンは約 1400 の地域密着のエージェントを抱える。われわれはレッドフィンがまだ非公開だった

2013年から投資している。最新の四半期の米国での不動産取引におけるシェアは 0.7%だったが、シアトル

では 5%ある。毎年の増収率は約 30%で、利益率も上昇中だ。新規公開は 2017 年 7月に行われ、時価総額

は約 17億ドル。事業規模に見合う初期投資の規模が大きく、まだ黒字化していないが、2020~2021年には

年間売上高は 9億ドルを超えると見込まれる。株価が上昇しにくい理由は、ベンチャーキャピタル時代の投

資家が保有していた株式が全て売却され、市場が多くの供給を消化していたためだ。

■ メリル・ウィトマー氏(イーグル・キャピタル・パートナーズ ゼネラル・パートナー)

Q:英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)問題の中、最近の

ロンドンのムードは?

A:建設中のビルが多く、レストランは満員で、人々は買い物に興

じ、街にパニックの様子は見られない。

Q:米国経済の見通しは?

A:雇用情勢は良く、車も売れている。景気後退を示唆する兆候は

ない。S&P500指数やNYダウはまだ 5~10%上昇する余地がある

と思う。

包装・紙製品メーカーのパッケージング・コープ・オブ・アメリカ(PKG)は以前にも推奨したことがある

が、ここにきて魅力が回復している。垂直統合型企業で、木から段ボールを製造している。木材の成分のリ

グニンを工場の燃料として使用し、カーボンフットプリントはゼロに近い。古い段ボールも素材として使用

している。株価は手頃な水準で、中国は米国からの紙くずの輸入を制限している。電子商取引の発達、100%

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近い段ボール業界の稼働率、同社の生産能力増強の三つの追い風がある。新聞紙などを製造していた工場を

段ボール製造に切り替え中で、2019 年には稼働する予定だ。2013 年の EPS は 3.28 ドルだったが 2017 年

には 6.02ドルに増加した。上述の事情から、2020年にはフリーキャッシュフローは約 10ドル、EPSは 8.70

ドルと予想される。われわれの目標株価は 2年後に 150ドル(金曜終値は 114.83ドル)。

英国のスペシャルティ医薬品会社、インディビアー(INDV.英国)

は、米国の鎮痛剤オピオイドの乱用問題を解決してくれる可能性が

ある。最近株価が急落したところで追加投資した。オピオイド乱用

の治療薬として、これまでフィルムや錠剤として舌下投与され、人

気が低かった薬に代わって、1 カ月に 1 回の注射で済む同社の医薬

品(SUBLOCADE)が規制当局から最近承認され、保険会社によ

る採択も迅速に行われてきた。1 カ月 1300 ドルと高価だが、オピ

オイド依存症患者には自己負担の少ないプランも用意されている。

株価急落の原因は、医薬品会社のドクター・レディーズ・ラボラトリーズ(RDY)が、フィルム状の同種の

医薬品の承認を得たためだった。インディビアーの株価は一時 5 ポンドまで上昇していたが、現在は 2.88

ポンドだ。フィルム状の競合製品の登場は想定済みだ。見落としてはいけないのは、SUBLOCADE の処方

の割合が高くなっており、保険適用の意義も大きく、フィルム状や錠剤のシェアを奪っていくことだ。イン

ディビアーは、SUBLOCADE の売上高は 10 億ポンド以上になる可能性があると発表している。この場合

のEPSは 70ペンス程度と推定される。株価は 10ポンドを超える可能性もある。

化学品メーカーのテッセンデルロ・グループ(TESB.ベルギー)は 4月に、ベルギーで天然ガス発電を行う

Tパワーの残る 80%の株式を取得して完全買収した。これは賢明な買収だった。Tパワーはドイツの電力会

社RWE(RWE.ドイツ)と 2025年まで固定価格での電力買い取り契約を締結しているため、テッセンデル

ロには 1株当たり 0.75ユーロの利益が保証される。また、ベルギーは 2025年を期限として 6カ所の原子力

発電所を閉鎖す

る予定で、閉鎖

されるとベルギ

ーの電力価格上

昇の可能性があ

り、テッセンデ

ルロは恩恵を受

ける可能性があ

る。

■ ポール・ウィック氏(コロンビア・スレッドニードル・インベストメンツ ポートフォリオマネジャー)

Q:今年の調子はどうか?

A:大変な年だ。企業のファンダメンタルズは堅調だが、貿

易問題で電子産業への投資が痛手を受けた。投資家のグロー

ス志向はますます高まっている。未だ黒字化していないウェ

イフェア(W)やショッピファイなどは株価が 100ドルを超

える。ソフトウエア関連も好調で、バリュエーションが 2014

年の最高値を超えた。売上高の 8~14倍の株価も当たり前の

ようになった。IT業界の設備投資費も好調だ。アルファベッ

ト(GOOGL)、フェイスブック(FB)、アマゾン・ドット・

コム(AMZN)、マイクロソフト(MSFT)などのクラウド

の巨人の 2018年の設備投資費は 40%増となる勢いだ。

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Q:一部ハイテク指数は今年 15%程度上昇すると 1月に予想していたが、考えは変わらないか?

A:今も同じ考えだ。設備投資だけでなく、自動車の車載電子部品量も増加し続けており、電気自動車やハ

イブリッドも増えている。世界はより多くのデータとより速いデータ速度の方向に向かっている。携帯電話

の記憶装置の容量も増加し続ける。アプリケーションの更新やクラウドへの移行は鈍化の兆しが全くない。

Q:この傾向に乗じるのに最高の投資先は?

A:クラウドや、携帯機器の容量アップ、車載半導体の増加、IoT(モ

ノのインターネット)に投資する最も割安な方法は半導体企業だ。

1月に半導体業界は割安だったが、現在でもまだ割安だ。

ブロードコム(AVGO)は、クアルコム(QCOM)の買収をめぐる

不透明感のために過去 1年で株価は横ばいだった。また、アップル

が売上高の 15%を占めていることも懸念材料だった。実際、ブロー

ドコムはアップル向け事業の予想を引き下げた。先週は株価が 18%

下落したが、これはソフトウエア会社のCA(CA)の買収を突然発

表したからだ。経営陣は、昨年のブロケードの買収と同様と考えているようだ。59億ドルで買収した後、利

益率が低い事業は 9 億ドルで売却し、最も重要なファイバー・チャネル SAN スイッチ事業を残して、その

EBITDA を昨年の 5 億ドルから今年は 11 億ドルに増やす見込みだ。つまり、50 億ドルの買い物で、毎年

10億ドル以上のキャッシュフローが生まれる。

CA も同じように、劣った事業にお金を注ぎこんでいるとブロードコムの経営陣は考えている。そのため、

利益率の低い事業は売却し、売上高はむしろ減らしつつ、EBITDA は 16 億ドルから 25 億ドルに増やす計

画だ。ブロードコムはこれまでの買収の全てにおいて予想を超える実績を残しており、CA も同様の結果に

なると自信を持っている。借入金が 180 億ドル、借入コストが 3.9%と想定しても、フリーキャッシュフロ

ー10億ドル以上(1株当たり 2ドル以上)が創出される。今回はコミュニケーションの方法が悪かった。今

後CAの買収の意義が理解されるだろう。ブロードコムはフリーキャッシュフローの 50%を配当として還元

している。従って今後も増配が続くと予想される。現在配当利回りは 3.4%だ。2-4月期のブロードコムの粗

利益率は 66.6%と上振れサプライズだった。営業利益率は 48.9%だった。

インテグレーテッド・デバイステクノロジー(IDTI)も選好している。メモリーバッファーでは 80%のシ

ェアがある。クラウドへの設備投資増加の恩恵を受ける会社だ。また同社の製品単価は、サーバーのメモリ

ー量増加に連れて上昇していく。利益率拡大は予想を上回り、積極的な自社株買いも実施されている。また、

携帯電話機器市場そのものは横ばいでも、同社が提供する無線充電は採用が増加している。株価は 34 ドル

程度で割高ではなく、また時価総額が 45億ドルと、買収対象としても魅力的だ。株価は 40ドルに達する可

能性もある。

マリフアナ製品メーカーのキャノピー・グロース(CGC)にはショートポジションを取る。カナダには、大

麻関連企業が約 75社上場しており、合計の時価総額は 300億ドル以上だ。キャノピーは、時価総額が約 60

億ドルで最大だ。しか

し、これらの会社は赤

字だ。栽培会社と販売

会社には違いがあり、

キャノピーは大麻栽培

会社である。同社の製

品はほぼ全て州政府に

売却され、州立の店で

ブランド名を付けて売

られる。大麻関連企業

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- 15 - Copyright © 2018 Dow Jones & Company, Inc.

は大麻合法化に向けて資金調達したものの、業界の時価総額に比べて大麻の市場は小さい。1年前は 10カナ

ダドルだったキャノピーの株価は、現在 38.83ドルになっている。

ショッピファイも過去 2 年で株価が 400%上昇した。売上高の 15~16 倍の株価になっている。ショッピフ

ァイの顧客は小企業で、取引期間が 1 年未満の顧客が約 65%を占め、約 76 万件のアカウントのうち約 12

万件しか稼働していない。また懸念材料として、フェイスブックが広告を締め出そうとしている他、中国の

電子商取引業者が安く配送できるイーパケットという郵便制度協定が 6 月 30 日に期限切れとなった。ショ

ッピファイは見かけよりも脆弱(ぜいじゃく)かもしれない。

Q:1月の推奨銘柄の総括を。

A:半導体大手マイクロン(MU)は好調だ。同業のウエスタン・デジタル(WDC)の決算も好調だが、投

資家は NAND 型フラッシュメモリー価格下落を懸念している。私はそう思わないが。同業のマーベル・テ

クノロジー・グループ(MRVL)は、中国当局からカビウム買収の承認を得て、7 月に買収が完了した。こ

れでEPSが相当押し上げられる。企業向けソフトウエア大手オラクル(ORCL)は、海外のキャッシュの還

流と自社株買いに積極的だ。一方、ショートを推奨したスナップ(SNAP)は 10%下落した。われわれは依

然として弱気だ。遺伝子操作や合成生物学サービスのイントレクソン(XON)にも依然として弱気だ。年間

1億 5000万ドルの赤字が続いており、最近も約 2億ドルの転換社債での資金調達を発表した。

Noble Energy Inc. (NBL) Arrow Electronics Inc.(ARW) Invesco Senior Loan ETF (BKLN)

Energy Select Sector SPDR ETF

(XLE)

SPDR S&P Oil & Gas Exploration &

Production ETF (XOP)

iShares MSCI Brazil ETF (EWZ)

Tortoise MLP Fund Inc. (NTG) WisdomTree Japan Hedged Equity

Fund (DXJ)

CommScope Holding Co. Inc. (COMM)

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

- 16 - Copyright © 2018 Dow Jones & Company, Inc.

Whitbread PLC (UK:WTB) Starbucks Corp. (SBUX) MetLife Inc. (MET)

Applied Materials Inc. (AMAT) Martin Marietta Materials Inc.(MLM) Apple Inc. (AAPL)

Samsung Electronics Co. Ltd.

(HK:005930)

Kroger Co. (KR) Amazon.com Inc. (AMZN)

Ocado Group PLC (UK:OCDO) Phillips 66 (PSX) CNH Industrial N.V. (CNHI)

Fiat Chrysler Automobiles N.V.

(FCAU)

Ferrari N.V. (RACE) Paccar Inc. (PCAR)

Madison Square Garden Co. (New)

(MSG)

Liberty Media Corp. Series A Liberty

Braves (BATRA)

Walt Disney Co. (DIS)

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- 17 - Copyright © 2018 Dow Jones & Company, Inc.

Comcast Corp. Cl A (CMCSA) 21st Century Fox Inc. Cl A (FOXA) Sony Corp. (JP:6758)

Viacom Inc. Cl A (VIA) CBS Corp. Cl B (CBS) Verizon Communications Inc. (VZ)

Millicom International Cellular S.A.

(MIICF)

Liberty Latin America Ltd. Cl C

(LILAK)

EnPro Industries Inc. (NPO)

AutoZone Inc. (AZO) Kingfisher PLC (UK:KGF) Home Depot Inc. (HD)

Lowe's Cos. (LOW) Anheuser-Busch InBev S.A. ADR

(BUD)

Inner Mongolia Yili Industrial Group

Co. Ltd. A (CN:600887)

Midea Group Co. Ltd. (CN:000333) Aegon N.V. ADR (AEG) Electrolux AB Series B (ELUXB)

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- 18 - Copyright © 2018 Dow Jones & Company, Inc.

東芝 (JP:6502) iShares U.S. Financial Services ETF

(IYG)

Shopify Inc. Cl A (SHOP)

Facebook Inc. Cl A (FB) Vail Resorts Inc. (MTN ) GrubHub Inc. (GRUB)

Yum! Brands Inc. (YUM) Equifax Inc. (EFX) TransUnion (TRU)

Experian PLC (UK:EXPN) BWX Technologies Inc. (BWXT Babcock & Wilcox Enterprises Inc.

(BW)

Tidewater Inc. (TDW) General Electric Co. (GE) Redfin Corp. (RDFN)

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- 19 - Copyright © 2018 Dow Jones & Company, Inc.

Packaging Corp. of America (PKG) Indivior PLC (UK:INDV) Dr. Reddy's Laboratories Ltd. ADR

(RDY)

Tessenderlo Group N.V. (BE:TESB) RWE AG (DE:RWE) Wayfair Inc. Cl A (W)

Shopify Inc. Cl A (SHOP) Facebook Inc. Cl A (FB) Amazon.com Inc. (AMZN)

Microsoft Corp. (MSFT) Broadcom Inc. (AVGO) Qualcomm Inc. (QCOM)

Apple Inc.(AAPL) CA Inc. (CA) Integrated Device Technology Inc.

(IDTI)

Canopy Growth Corp. (CGC) Western Digital Corp. (WDC) Marvell Technology Group Ltd.

(MRVL)

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- 20 - Copyright © 2018 Dow Jones & Company, Inc.

Snap Inc. (SNAP) Intrexon Corp. (XON)

チャートは、3年(LILAKは、6カ月、

RDFNは 1年、SNAPは、2年)

By LAUREN R. RUBLIN (Source: Dow Jones)

2. Ackman’s Comeback: How to Ride His Revival 大物復活への投資 【ヘッジファンド】

ヘッジファンドのスター投資家の復活への投資

■ ビル・アックマン氏に復活の兆し

ヘッジファンド界の大物投資家であるビル・アックマン氏は、

一般投資家の多額の損失、投資家の大量流出、アクティビスト・

キャンペーンでの敗北など屈辱の 3年を耐えてきたが、今や復

活の兆しがみえている。アックマン氏のクローズド・エンド型

ファンドであるパーシング・スクエア・ホールディングス(PSH.

オランダ)の純資産価値(NAV)は 3 月の底から 20%以上増

加している。同ファンドの取引価格は今年 10%上昇したが依然

として純資産価値を大幅に下回っており、同氏の復活に投資す

る安価な方法となっている。

■ パーシング・スクエア・ホールディングス

運用資産 41 億ドルのパーシング・スクエア・ホールディングスのユーロネクスト・アムステルダム取引所

での株価は約 15ドルと、同ファンドの純資産価値(19ドル強)に対して 22%の割安となっている。この大

幅なディスカウントはアックマン氏に対する投資家の信頼感の低下を如実に示すものである。同ファンドの

株価は 2015年には 20.5%、2016年には 13.5%、2017年は 4%それぞれ下落しており、2014年の一般公開

時における 25 ドルから 40%下落しているが、同期間における S&P500 指数のトータルリターンは 60%で

ある。

同ファンドが保有しているのはわずか 10銘柄であり、主な銘柄は給与計算代行サービスのオートマチック・

データ・プロセッシング(ADP)、カナダのファストフード・レストラン運営会社であるレストラン・ブラ

ンズ・インターナショナル(QSR)、ファストフードチェーンのチポトレ・メキシカン・グリル(CMG)で

ある。最近では、複合企業のユナイテッド・テクノロジーズ(UTX)およびホームセンター大手のロウズ

(LOW)にも投資している。

同ファンドの保有銘柄は、アックマン氏のヘッジファンドであるパ

ーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントと類似しているが、

ポジションの規模が異なるためパフォーマンスも異なっている。ア

ックマン氏自身も 5 月初旬から同ファンドに投資しており 13%の

持ち分を保有している。同氏は本誌の取材を拒否したが、同社は先

週、この投資は「同ファンドが大幅に過小評価されている」という

見方を反映したものであると述べている。

同ファンドは大幅な値上がりの可能性のある少数の銘柄に投資して

おり、投資家はファンドの純資産価値の増加とディスカウントの解

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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消という二重の利益を得ることができる可能性がある。同ファンドの手数料は年間約 1.3%と安くはなく、

利益の 16%の成功報酬もあるが、ハイウォーターマークのため、資産価値がほぼ 40%増加するまでは成功

報酬は生じない。

■ ダニエル・ローブ氏のサード・ポイント・オフショア・インベスターズ

ダニエル・ローブ氏も有名なアクティビストのヘッジファンド・マネジャーであり、同様のクローズド・エ

ンド型ファンドであるサード・ポイント・オフショア・インベスターズ(TPOU.ロンドン)を運用している。

同ファンドの株価も約 16ドルと、純資産価値に対して 18%の割安で取引されている。同ファンドの投資対

象も、主力のサード・ポイント・ヘッジファンドと同様である。年間手数料は 2%、成功報酬は利益の 20%

となっており、同ファンドもローブ氏に投資する割安な方法となっている。

同ファンドは主に株式に投資しており、主な保有銘柄は製薬大手のバクスター・インターナショナル(BAX)、

ネスレ(NESN.スイス)、オランダの半導体大手である NXP セミコンダクターズ(NXPI)である。また、

米国と欧州の住宅ローン担保証券にも投資している。同ファンドの株式に対するロング/ショートの比率は

3対 1である。

ローブ氏に対する投資のもう一つの方法は、バミューダ籍の再保険会社であるサード・ポイント・リインシ

ュアランス(TPRE)である。同社の投資ポートフォリオはサード・ポイントが運用している。同社の直近

の株価は 12.67 ドルと、今年は 13%の下落であり、2013年の一般公開価格の 12.50ドルからほとんど変化

していない。KBW のアナリストであるメイヤー・シールズ氏は同社の自社株買いや、投資および保険引き

受けのパフォーマンスの改善の可能性から目標株価を 15.50ドルとしている。

■ デービッド・アインホーン氏のグリーンライト・キャピタル・リ

失墜したヘッジファンドのスターの復活に賭けることを望む冒険心旺盛な投資家にとっては、デービッド・

アインホーン氏の再保険会社グリーンライト・キャピタル・リ(GLRE)も検討対象になるかもしれない。

同社の投資はアインホーン氏が運用している。同氏のヘッジファンドであるグリーンライト・キャピタルと

同様、同社も大きな打撃を受けており、株価は今年 31%下落して 13.77 ドルとなっている。同社の 3 月 31

日現在の 1株当たり純資産は 18.35ドルであり、株価はその 75%にすぎない。アインホーン氏の復活への投

資は、大物ヘッジファンド・マネジャーへの投資の中でも最も投機的なものかもしれない。

Pershing Square Holdings Ltd.

(NL:PSH)

Automatic Data Processing Inc. (ADP) Restaurant Brands International Inc.

(QSR)

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

- 22 - Copyright © 2018 Dow Jones & Company, Inc.

Chipotle Mexican Grill Inc. (CMG) United Technologies Corp.(UTX) Lowe's Cos. (LOW)

Third Point Offshore Investors Ltd.

USD (UK:TPOU)

Baxter International Inc. (BAX) Nestle S.A. (CH:NESN)

NXP Semiconductors N.V. (NXPI) Third Point Reinsurance Ltd. (TPRE) Greenlight Capital Re Ltd. Cl A

(GLRE)

チャートは、3年

By ANDREW BARY

(Source: Dow Jones)

3. What Justice Kavanaugh Would Mean for Investors カバノー判事 【最高裁人事】

カバノー判事の指名が投資家にとって意味するもの

■ 規制に否定的なカバノー氏

トランプ大統領は連邦最高裁判事にブレット・カバノー氏を指名し

た。選考にあたっては、企業の側に有利な判決が多い判事が選ばれ、

投資家の権利を擁護する判事は警戒された。カバノー判事は投資家

保護に敵対的で、証券取引委員会(SEC)などの規制機関の抑止に

熱心とみられている。アナリストは、カバノー判事が議会で承認さ

れれば、企業にとってはマイナスよりもプラスの方が大きいとみる。

首都ワシントンの連邦控訴裁判所(高裁)で判事を務めるカバノー氏は、規制に否定的な姿勢で知られる。

ある判決では、連邦消費者金融保護局の組織構成について、「説明責任がなく、統制も受けない長官に膨大な

権限を付与している」という理由で違憲だと主張した。別の判決では、環境保護局(EPA)が汚染防止のた

めの規則を企業に課す場合は、業界のコストを考慮しなければならないとの意見に賛成した。

また、カバノー氏は連邦通信委員会(FCC)による「インターネットの中立性」原則の採用に反対している。

この原則は、インターネットサービスプロバイダーが、あらゆるコンテンツやデータへのアクセスを平等か

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

- 23 - Copyright © 2018 Dow Jones & Company, Inc.

つオープンに提供しなければならないというものだ。カバノー氏は、議会がインターネットの中立性を課す

権限を FCCに対して明示的に付与したことはないと主張し、「法律上の曖昧な権限だけでは不十分だ。規制

機関が大規模な規制を課す場合は、議会による明確な承認を受けなければならない」と述べた。

カバノー氏の支持者は、同氏は規制自体に反対しているのではなく、規制機関が議会の意図や憲法で認めら

れる範囲を超えないように抑止しているのだという。故スカリア連邦最高裁判事の調査官を務めた経験があ

るウィリアム・ジェイ弁護士は、「カバノー氏は非常に公正な判事だ」と述べる。

■ 企業寄りの連邦最高裁

現在の連邦最高裁は非常に企業寄りとみなされている。その理由は保守派が多数を占めることだけではない。

民主党政権時代に指名された 4人の判事は、ワシントン大学が 2017年に発行した論文誌において、「過去に

民主党が指名したどの判事よりもはるかに企業寄りである」と評されている。この論文は、現在のロバーツ

連邦最高裁判所長官の下での民主党指名判事について、「1946 年以降のどの長官の時代よりも、共和党指名

判事に比べて企業寄りの判断を下した割合が大幅に高い」と指摘する。

トランプ政権の規制緩和は既にかなり進んでいる。5 月、トランプ大統領は金融規制改革法(ドッド・フラ

ンク法)の一部の規定を緩和する法案に署名した。自己勘定取引を規制するボルカー・ルールが緩和され、

金融機関のトレーディングの柔軟性が増した。また、退職年金勘定の投資助言について、オバマ政権下の労

働省が定めた受託者責任規則も連邦高裁によって却下された。トランプ政権は同規則に反対しており、最高

裁への上告を行わなかった。

カバノー氏が最高裁判事に就任するには、議会の指名承認公聴会を経なければならない。しかし、規制当局

の行動が変化したり、企業や投資家が同氏の指名をさらなる規制緩和の兆候と捉えたりすれば、正式就任よ

りも前に影響が表れる可能性がある。投資会社ベアードのジョン・タフト副社長は、「トランプ・ラリーの一

因は、オバマ政権よりも規制が緩和されるという期待感だ。大部分は心理的なものだが、カバノー氏の指名

はタイミングが良い」と述べる。

一方、カバノー氏は投資家保護や不正防止には過度に冷淡とみられている。非営利組織ベター・マーケッツ

のデニス・ケレハー会長兼最高経営責任者(CEO)は、カバノー氏が最近、SEC による不正防止条項の執

行に反対する判断を下したと指摘する。SECは同様の案件における賠償責任の範囲拡大を目指しており、立

証責任の軽減や集団訴訟の増加につながる可能性がある。本件は最高裁で審理予定であり、SECの不正防止

に関する権限の試金石として注目されている。カバノー氏が承認された場合、集団訴訟と SEC に大きな影

響が及ぶとの声もある。

さらに大きな争点となる可能性があるのは「シェブロン原則」だ。この原則は 1984 年に連邦最高裁が定め

たもので、法律に曖昧な点がある場合、裁判所は(行政機関が合理的な判断をする限り)行政機関の解釈に

従うとしている。保守派は、シェブロン原則が行政の過度な介入につながるなどの理由により、長年にわた

って同原則の撤廃を目指している。リベラル派は、行政機関の執行権が大幅に弱まる可能性があるとして撤

廃に反対している。ケレハー氏は「環境保護局(EPA)や SEC などの独立的な行政機関の裁量権の大部分

はシェブロン原則に基づく」と述べ、今後は同原則が批判の対象になるとみる。

By DAREN FONDA

(Source: Dow Jones)

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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4. Apple’s Next iPhone Could Spell Big Trouble for AT&T and Others 問題 【アップル】

iPhone次期モデルに採用見込みの eSIMは、通信会社にとって脅威となる可能性も

■ iPhone次期モデルに新技術採用か

今秋発売予定とされているアップル(AAPL)の iPhone(ア

イフォーン)次期モデルは、ささやかれているオレンジ色の

カラーオプションよりも意味深なサプライズをもたらす可能

性がある。

「eSIM(イーシム)」と呼ばれるSIM(加入者識別モジュー

ル)の採用がそれで、AT&T(T)、ベライゾン・コミュニケ

ーションズ(VZ)、スプリント(S)、TモバイルUS(TMUS)

といった大手通信会社には大きな影響が及びかねない。

SIMはそれを内蔵するスマートフォンを通信会社が識別するために用いられ、一般的には本体側面の小さな

トレーや、リアパネル内側のスロットに差し込む極小カードとして提供されている。

一方、eSIM はカードでなく、スマートフォン工場でチップとして基盤に埋め込まれる。誰の目にも明らか

な利点は、トレーが不要になり、従って本体を小型化できることだ。しかし、それ以上に重要な点として、

SIMに書き込まれた利用者情報をネットワーク経由で書き換えることができる。

eSIMはオランダのジェムアルト(GTO.オランダ)など、少数の比較的無名なメーカーが製造している。164

年の歴史を持つミュンヘンの非上場メーカー、ギーゼッケ・アンド・デブリエントもその一つだ。

既に数年前から、eSIM は通信会社にとって大きな脅威になると指摘されてきた。ユーザーにとって通信会

社の乗り換えが簡単になるためだ。iPad(アイパッド)のセルラーモデルは eSIMを内蔵していないものの、

同じ仕組みを採用している。iPhoneが eSIM を採用すれば、通信会社が加入者に SIM カードを渡してスマ

ートフォンを使用可能にするという従来の構図は崩れ、ユーザーがデバイス購入後に通信会社を選ぶという

形が主流になりそうだ。

■ チップメーカーへの恩恵と通信会社の懸念

クレイグ・ハラムのアンソニー・ストス氏が「調査」したところによると、半導体大手の ST マイクロエレ

クトロニクス(STM)は今秋に出る次期 iPhoneモデル向け eSIM用チップを「受注した可能性がある」。そ

うだとすれば、同社の eSIM用チップは 1個「1ドル前後で、2018年下半期の売り上げ見込みは 8000万~

1億ドル押し上げられる」とストス氏は書いている。

また、STM は顔認証用部品も提供しているが、アップルはこの技術の全面採用を推進しているもようで、

この面でも追い風を受けそうだ。

ストス氏が指摘するように、アップルウオッチの最新版 iWatch(アイウオッチ)3のセルラーモデルは、既

に STMの eSIMソリューションを採用している。ただし、過去のモデルと違って iPhoneを一緒に携帯する

必要はないものの、ユーザーは携帯会社と契約している iPhoneを所有している必要がある。

スマートフォンの割賦販売は米国の大手通信会社にとって最大の収益源になっているが、アップルも独自の

割賦販売プランを近年になって導入した。通信会社に縛られない「SIM ロック解除」型の iPhoneにより、

さらなるユーザー獲得を進めていくとすれば、割賦販売プランは今後も拡充されそうだ。それは「製品の会

社」からサービス会社へのシフト、というアップルが目指す方向性にも合致する。

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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eSIM の本格採用がいつになるにせよ、それによってモバイルデバイスをユーザーが使用する上で通信会社

が担う役割が弱まるのは、ほぼ間違いない。AT&Tなどの大手通信会社は、自らの利便性向上のために既に

eSIM を利用している。例えば「テレマティックス」と呼ばれるパーキングメーターや自動販売機との無線

通信において、eSIM は便利なソリューションだ。その一方で、消費者に eSIM を利用されることについて

は懸念を持っているようだ。

ニューヨーク・タイムズ紙が 4月に報じたところによると、ベライゾンが eSIMの普及を妨害することを目

的にAT&Tや移動体通信の国際規格を定める団体であるGSMアソシエーションと共謀したとの疑いがあり、

米司法省が調査を行っている。

Apple Inc.(AAPL) AT&T Inc. (T) Verizon Communications Inc. (VZ)

Sprint Corp. (S) T-Mobile US Inc. (TMUS) Gemalto N.V. (NL:GTO)

STMicroelectronics N.V. (STM)

チャートは、3年

By TIERNAN RAY

(Source: Dow Jones)

5. How Much House Do You Really Need in Retirement? 住宅価格 【住宅事情】

退職にあたってはどの程度の価格の住宅が必要か?

■ 同規模か大きな家への住み替えが増加

私たちは小さなホテルほどの大きさがある家の中に立って

いた。窓の外にはマンハッタンの素晴らしい眺めが広がる。

ここに住むと考えただけでも恐ろしかった。一方、妻のク

ラリッサはこの家にすっかり夢中だった。

私たちは米国でも住宅価格が特に高い地域に住んでいる。

子どもたちは既に成人しており、私たちは別の家を探して

いた。今よりも小さい家に住み替えると思うかもしれない

が、クラリッサは、来客をもてなすために大きな家に住み

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

- 26 - Copyright © 2018 Dow Jones & Company, Inc.

たいと言っていた。

私は彼女を説得しようとした。29年勤めたウォール・ストリート・ジャーナル社を早期退職した私は、フル

タイムの仕事を探しながらフリーランスで働いていた。今は高い家を買うべきタイミングではない、と私は

妻に言った。今でなければいつ買うのか、と妻は言い返す。私たちは夫婦それぞれが遺産相続しており、住

宅ローンを組まなくても大きな家を買う余裕はあった。だが、私は今の家にとどまり、遺産を銀行に貯金し

ておきたかった。

ニュージャージー州北部の住宅価格は非常に高い。私たちが住んでいる寝室 3部屋付きの家は、快適だが高

級とはとても言えない。資産価値は恐らく 75万ドルほどで、毎年の固定資産税は 1万 7000 ドルを超える。

ニューヨークへ便利に通勤できることの代償である。今より大きな家は 85万~95万ドルはするだろう。固

定資産税は年 2万 5000~3万ドルの公算が大きく、米国の大半の地域の年間家賃総額よりも高い。

1990年代まで、私たちと同じ年齢層の人々は、家を買い替える際に 400~500平方フィート(約 37~46平

方メートル)ほど小さい家を購入していた。全米不動産協会のジェシカ・ローツ氏によれば、今や半数近く

が現在の住宅よりも同規模か大規模な家を購入する。同氏は、退職したベビーブーマー世代が成人した子ど

もや両親の部屋を必要としていると指摘する。私たちの息子もわが家の地下に住んでいる。他の可能性とし

て、ローツ氏は「自分たちのために別の家が欲しいだけかもしれない」という。それが真の答えだと私は思

う。

■ 高額な家ほど年間支出額も高い

コロンビア大学経営大学院で不動産を専門とするクリストファー・メイヤー教授によれば、2002~2016 年

にかけて、住宅のリターンは株式や債券のリターンよりも良好だった。しかし、リターンの大部分は売却価

格の上昇分ではなく帰属家賃(同じ住宅を賃借した場合に支払わなければならない家賃)である。

必要以上に大きな家を買うことは、必要以上に大きな家を借りることと同じだ。購入額が 10 万ドル高くな

るごとに、年間の支出額は約 5000 ドル増える。だがメイヤー教授自身は、フィラデルフィア郊外の 1.5 エ

ーカー(約 6000 平方メートル)の敷地がある家に住んでいたことがある。敷地の手入れのために、木や枝

をチェーンソーで伐採するのが好きだからだという。

クラリッサと私は、週末のほとんどを家の見学に費やした。私にとっては幸運なことに、妻は厳しく選別し

た。彼女が気に入ったのは、テューダー朝様式の青い家だった。確かに素晴らしい家だが、価格は 90 万ド

ル、固定資産税は年 2 万 9000 ドルと恐ろしい金額であった。当時の私たちはまだ実際に相続の現金を受け

ていなかったため、クラリッサは家の写真を何時間も眺め、現金受け取り後のために家具の配置を考えてい

た。

ある朝、クラリッサが泣きながら私の元にやって来た。あの家が誰かに買われてしまったらしい。私の職業

のために全米各地を転々としてきた妻は、「自分が好きな家に住みたい」と言う。妻にはその資格があるとは

思うが、もう少し小さい家を夢見てはくれないものだろうか。

By NEAL TEMPLIN

(Source: Dow Jones)

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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6. Up And Down Wall Street 重大ニュースが相次いだ先週、米国株が上昇 【コラム】

貿易戦争は回避されると見込む投資家、関税をめぐる不透明感でくじかれる企業の信頼感

■ 重大ニュースの影響をあまり受けなかった米株式市場

対中追加関税。重要な同盟諸国とのいさかい。米主要株価指数

が週間ベースでまた上昇したことからも分かるように、そうし

たことは米株式市場にとってあまり重要ではないようだ。重大

ニュースが相次いだにもかかわらず、不活発なボラティリティ、

ハイテクセクターの最高値更新など、米株式市場は冷静沈着な

状態を維持した。

先週は関税をめぐる非難の応酬から始まった。その前の週に発

動された 340億ドル相当の輸入品に対する関税に怒った中国政府が同等の報復関税を課したことを受け、ト

ランプ大統領はさらに 2000億ドル相当の輸入品に 10%の追加関税を課すと脅した。米ロ首脳会談を目前に

控えた先週末には、ロバート・モラー米特別検察官が 2016年の大統領選で民主党全国委員会(DNC)のサ

ーバーに対してハッキングしたとして、ロシアの情報当局者 12人を起訴した。

過呼吸を引き起こしてもおかしくないそうした重大ニュースの後、ダウ工業株 30種平均は 2.3%以上の上昇

と 2 週連続で上昇し、2 万 5000 ドル台を回復した。週間ベースで 1.8%上昇したナスダック総合指数は 13

日に過去最高値を更新した。S&P500指数も週間ベースで 1.5%上昇したが、依然として 1月 26日の高値を

2.5%下回っている。

ウォール街の活気と一般企業の間で高まっている関税をめぐる不安は好対照をなしている。ブリークリー・

アドバイザリー・グループのチーフストラテジスト、ピーター・ブックバー氏が指摘しているように、13日

に発表されたミシガン大学の最新調査の結果では景況感の急激な悪化が示された。

その調査では関税に関する報道が急激に増えた 7 月の初めに景況感の低下が加速したことが分かっている。

政府の方針に対するその否定的反応は連邦政府機関が閉鎖された 2013年 10月の記録と並ぶものだ。ところ

が米株式市場は「それを眼前に突き付けられるまで」そうした否定的な結果の影響を受けないようだとブッ

クバー氏は言う。

調査会社 TS ロンバードのチーフ米国エコノミスト、スティーブ・ブリッツ氏も同様に「関税や貿易摩擦の

せいで企業が将来の収益に対する信頼感を失えば、上昇傾向にある利益率が示唆するよりも賃金上昇が小幅

になってしまう可能性がある」と書いている。企業は他の措置を講じる可能性もある。例えばドイツの高級

車メーカー、BMW(BMW.ドイツ)は人気の SUV、X3 を中国で生産し始めるという。その車種は現在、

同社最大の工場があるサウスカロライナ州スパータンバーグでのみ生産されている。

■ 貿易摩擦による経済成長の減速は株価にとって好材料

短期間だがトランプ政権の広報部長を務めたアンソニー・スカラムーチ氏によると、規制緩和や減税による

経済的な恩恵を打ち消す可能性がある貿易戦争は、トランプ氏の支持層に打撃を与え、11月の米中間選挙で

の共和党の勝利を危うくしているという。同氏はフィナンシャル・タイムズへの寄稿で、トランプ氏につい

て目標を達成するためなら戦術を少し変えることもできる「順応的な起業家」だと評している。そうするこ

とで「持続可能な繁栄と同氏の再選への明確な道筋」がもたらされるというのが同氏の主張である。

とはいえ米株式市場の信頼感の理由は他にあるのかもしれない。UBSのニューヨーク証券取引所フロア業務

責任者、アーサー・カシン氏は先週初め、関税をめぐる懸念で株式市場が値を下げたときに次のように助言

した。貿易摩擦の結果、経済成長が減速すれば、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを抑制する可能性

があり、米国株にとってそれは明らかな好材料となるというのだ。

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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FRBのジェローム・パウエル議長が 17日に金融政策報告書(通称ハンフリー・ホーキンス報告書)を携え

ての議会証言に臨むと、金融政策が他のニュースを押しのけることになるだろう。

議会証言前の 13日に公表されたその半期ごとの報告書に意外な点は何もなかった。FRB理事たちは、フェ

デラルファンド(FF)金利の誘導目標が 2018 年から 2020 年まで徐々に上がっていくことを引き続き見込

んでいた。FF 金利の先物市場は依然として 9 月の 0.25%ポイントの引き上げ(現行の 1.75~2%から)を

織り込んでいる。ところが、その先はより不透明となり、12 月にさらに 0.25%ポイントの引き上げが実施

される確率は約 50%となっている。

恐らく市場参加者が知りたがっているのは、他の政策が米国経済にどのような影響を及ぼすかである。減税

によってアクセルが踏まれる一方で、関税ではブレーキが踏まれることになる。財政刺激策は需要を増大さ

せる一方で、貿易摩擦は供給を抑制する。企業の信頼感はそうした不透明感によってくじかれてしまう。

株価が上昇し続けているのは、投資家が貿易戦争は回避されると見込んでいるからだ。その見込みが違って

いた場合、投資家は瞬時に株式を売却できる。ところが予算、設備投資、採用などを遂行しなければならな

い企業の経営者は急には方針を変えられない。

Bayerische Motoren Werke AG (DE:BMW)

チャートは、3年

By RANDALL W. FORSYTH

(Source: Dow Jones)

7. Online Sports Betting: A Long-Term Wager 長期的な賭け 【オンラインスポーツ賭博】

米国で解禁となるオンラインスポーツ賭博は今後の成長市場か

■ 取引コストの大きいオンライン賭博の現状

連邦最高裁が米国の州がオンラインスポーツ賭博を禁止できないとの

判断を下したことから、次なるオルタナティブ資産クラスとしてスポ

ーツ賭博が台頭する可能性に備えたい。

クロアチアとフランスが対戦する日曜日のワールドカップ決勝では、

フランス優勢の見方が強い。オンライン賭博大手のベット 365では金

曜日、フランス勝利に賭けて 100を得るための賭け金が 250だった一

方、クロアチア勝利に賭けて 200を得るための賭け金は 100だった。利益額の差 50は、買い値と売り値の

間のスプレッドに相当し、金融市場ではマーケットメーカーの利益の源泉となる(米国人は参加できないた

め通貨単位は省略している)。

このようなスポーツ賭博のスプレッドは、ウォール街の一般的な株式取引のスプレッドよりも大きい。しか

し、オンライン賭博市場の成長により、スプレッドは一部で既に 10%を下回っており、次第に賭けの参加者

にとってより有利な取引となっていくと思われる。エール大学経営大学院のファイナンス担当教授であり、

運用資産 2620億ドルのヘッジファンド運用会社AQRキャピタル・マネジメントのプリンシパルを務めるト

ビー・モスコウィッツ氏は、それが当然予想すべきことだと述べる。

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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「市場の競争が激化すれば、価格が下がる」とモスコウィッツ氏は説明する。同氏は金融市場ではおなじみ

の価格設定の異常値がスポーツ賭博市場ではどのように存在するかを調査し、ワーキングペーパーで発表し

ている。

株式市場の投資家と同様、スポーツ賭博者には偏った心理的傾向があり、それがバリューとモメンタムの機

会を生み出す。一般的に人は直近の株価変動やチームの不運な連敗など、新しい情報に過度に反応する傾向

があるのだ。「最近のパフォーマンスの方が次の試合のパフォーマンスの予測に役立つと考えられがちだが、

実際にはチームの長期的な質の方がはるかに優れた指標となる」とモスコウィッツ氏は指摘する。ちなみに

同氏はワールドカップ決勝について、「クロアチアが勝つのは見てみたいが、自分なら恐らくフランスに賭け

るだろう」と述べる。

モスコウィッツ氏はさまざまなスポーツ競技の賭博を調査している。その全てにおいて、参加者の行動から

引き起こされた価格設定の歪みが見られたが、そうした誤算の影響は、金融市場で見られるものの 5 分の 1

ほどにすぎなかった。この規模では、ブックメーカーが得る取引コストを克服するのに十分ではない。

■ 事業拡大が期待されるパディパワー・ベットフェア

オンライン賭博の賭け金が増えてブックメーカーの競争が激化すれば、取引コストが縮小する可能性もある

とモスコウィッツ氏は指摘する。その方向に注力している企業がパディパワー・ベットフェア(PPB.英国)

だ。同社は 2017 年、スポーツ賭博サイトを通じて 150 億ドルを超える賭け金を処理した。株価は 8435 ペ

ンスと、今年の予想収益の 20 倍超、キャッシュフローの 14 倍以上に相当する。2017 年の売上高は前年比

13%増加し、その約半分が英国とアイルランドにおけるオンライン賭博、2 割がオーストラリアとカジノ施

設に由来した。米国由来の収益は全体の 6%にすぎないが、急速に成長している。

ベットフェアは金融サービスのベテランによって設立され、世界最大のオンライン賭博取引所を形成してい

る。スポーツ賭博のイーベイのようなもので、ブックメーカーが「ライン」(最初のオッズ)を設定するので

はなく、参加者は賭けの他の参加者に対して賭けることができる。ベットフェアの取引所はアメリカンフッ

トボール、ダーツ、e スポーツ、競馬など、数十の異なる競技を扱っており、政治も賭けの対象となってい

る。2016年の米国大統領選挙では、2億ポンド規模の賭け金が発生した。

ネット上のスポーツ賭博を合法化するかは、各州の判断に委ねられる。米国ではパディパワー・ベットフェ

アは当面、従来のオンラインブックメーカーのように操業する。オンライン賭博取引所を運営するためには、

その手法を州法で認められる必要がある。パディパワー・ベットフェアの米国事業を統括するキップ・レビ

ン氏は、同社がスポーツ賭博の流動性を複数の州をまたいで共有できるよう州同士が合意することを期待し

ている。

レビン氏は希望を持っているが慎重だ。「事業拡大には長い年月がかかるだろう。最終的には、各州で合法な

規制市場が違法市場と競争することをいかに早く可能にするにかかっている」と同氏は述べる。それが、ワ

ールドカップが米州で開催される 2026年に間に合うかどうかは分からない。

Paddy Power Betfair PLC (UK:PPB)

チャートは、3年

By BILL ALPERT

(Source: Dow Jones)

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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8. The Trader 貿易問題で下落したのは一日だけ 【米国株式市場】

懸念材料に反応せず、ナスダック総合指数は史上最高値

■ 変化してきた投資家の行動

先週も株式市場の急落を招きかねない、あるいは、急落した

としても当然と言えそうな材料が多い週だった。しかし、株

式市場がそのような動きを見せることはなかった。

最も懸念された材料は、水曜日にトランプ政権が中国からの

輸入の新たな 2000 億ドル分に対して関税をかけると発表し

たことだった。ダウ工業株 30種平均(NYダウ)はその日に

200ドルを超える下落となったが、週間ベースでは 562ドル

93 セント(2.3%)の上昇となり、2万 5019 ドル 41 セント

で引けた。S&P500 指数は 1.5%高の 2801.31 と 5 カ月ぶり

の高値で引け、ナスダック総合指数は 1.8%上昇した結果、

7825.98 の史上最高値で週末を迎えた。小型株のラッセル

2000指数は 0.4%安の 1687.08となった。

投資家は貿易戦争を無視しているのだろうか。そうではある

まい。「市場の流れに乗る」だけの売買をやめたのであり、替

わりに個別銘柄や個別のセクターに注目するようになったの

だろう。こうした投資家の動きは、金融危機後に広がった「リ

スクオン/リスクオフ」の売買パターンとはあまり似ていな

いようだ。

「リスクオン/リスクオフ」が支配的だった市場では全体の

動きに沿って株価が動いていた。データトレック・リサーチ

の共同設立者であるニコラス・コラス氏によると、2010年か

ら 2016年まで、S&P500指数の 11セクターと指数全体との

相関の平均は 0.82だった(相関が 1だと二つの指数が全く同

じ動きを示すことになる)。それ以降、相関は低下して現在は

0.59前後である。

コラス氏は「ほとんどの銘柄の動きが市場とほぼ同じになる

市場環境から脱して、S&P500指数の動きよりもセクターの

ファンダメンタルズが重要になる市場環境に移った」と述べ

る。

■ セクターごとの動きが分かれる

セクター別に見れば、関税を無視している投資家がいないことは明らかだ。S&P500 指数が過去 1 カ月で

1.7%上昇する中、資本財・サービスと素材は 2.5%下落し、貿易摩擦とイールドカーブのフラット化が懸念

された金融は 2.9%の下落となった。一方、公益事業と生活必需品は市場を上回り、それぞれ 8.1%と 3.5%

の上昇となった。

モルガン・スタンレーIM アプライド・エクイティ・アドバイザーズでシニア・ポートフォリオマネジャー

を務めるアンドリュー・スリムモン氏は、これは既に市場がディフェンシブ銘柄を選好していることを表し

ていると述べる。しかし、該当するセクターでは貿易摩擦の悪材料をかなり織り込んだと思われるため、市

場全体が上昇しなくても投資機会はそうしたセクターにあるようだ。

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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スリムモン氏は「市場全体に関してはそれほど強気ではないものの、リスクオンで上昇するセクターが売ら

れ過ぎているという点には強気だ」と語り、特に金融や資本財・サービスに投資妙味があると指摘する。同

氏は「関税や地政学的面で強気材料が何か出るか、連邦準備制度理事会(FRB)がタカ派姿勢を弱めたとの

見方が広がれば、大きく上昇する可能性がある」と続けた。

今後は相関が低い市場の動きが続きそうだ。クレディ・スイスのストラテジストであるビクター・リン氏は、

6月の市場出来高に占める上場投資信託(ETF)の比率が全体の 24%になったことに気づいた。これは年初

の 3カ月間で 30%以上だったことと対照的で、同氏はこれについて「投資家はマクロ経済全体の材料から利

益などの個別のリスク要因に焦点を動かしている」と説明する。

ちょうど第 2四半期の業績発表シーズンが先週から始まり、それを追いかけるのに忙しくなるだろう。BTIG

のストラテジストのジュリアン・エマニュエル氏は、関税が発効する 8月 30日までの 50日弱の間は特にそ

うなるだろうと主張し、「市場内の相関が低下している状態が続き、今後数カ月間の指数全体は保ち合いの中

で上下が大きくなるだろう」とレポートに書いている。

この動きにうまく乗れたらと思う。

■ AT&Tとタイム・ワーナーの合併判決に対する司法省の控訴

AT&T(T)とタイム・ワーナーの合併を認めた 6月 12日の判

決に対して司法省が控訴を決めたとの先週木曜日のニュースを

受けて、AT&Tの株価は金曜日に 1.7%下落した。

810 億ドル規模の合併を白紙に戻そうと政府が突然態度を変え

たことは当惑させられるものであり、やや衝撃的でもあった。

しかし、投資家はそれほど焦る必要はないだろう。これはAT&T

の最高経営責任者(CEO)のランダール・ステファンソン氏が

心配する必要はないと言ったからだけではない。

よほどのことがなければ、幾つかの理由から、今回の司法省による控訴は実際の脅威というよりは、政治的

なポーズということになりそうだ。

まず、司法省は控訴審での論点を明らかにしておらず、裁判を維持するのは難しいと思われる点だ。米政府

は数十年の間に垂直合併について反対しておらず、連邦地裁判決でも競争上の問題点や消費者利益の損失な

どは証明されなかった。事実認定において判事が重大な間違いを犯していたと訴えることは常に可能ではあ

るものの、その証拠は現時点では見あたらず、判決を覆すのはかなり難しいと思われる。

第二はタイミングの問題だ。判決から 1カ月たってから控訴を決定しており、こうしたケースはまれだ。ま

た、政府は通常、既に手続きが完了した合併を白紙に戻すことに対して非常に用心深い。既に AT&T は 2

社の統合、名称の変更、人員の入れ替え、経営戦略の策定を始めており、時間の経過とともにこれらは深化

していくことになる。

第三は、AT&Tとタイム・ワーナー以外にもメディア業界でのM&Aの動きは活発になっており、既に司法

省が承認した案件もある点だ。投資家はこれらを前提としていることから、AT&Tとタイム・ワーナーの件

を白紙に戻した場合、疑いなく株主訴訟の波が起きることになる。

最後は、控訴審が首都ワシントンの控訴裁判所で行われることになる点だ。ここでは近年保守的な傾向が強

まっているが、M&A に関しては市場が決定することを支持する傾向にある。最高裁に持ち込まれる可能性

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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もあるものの、時間が経過することに加え、最近数十年の最高裁判所は独占禁止訴訟にあまり関心を示して

おらず、これに取り組む可能性は低い。

これらを全て考慮すると、司法省の控訴は、トランプ大統領がタイム・ワーナーの傘下にある CNN に怒り

を向けていることに対する政治的なアピールということになりそうだ。そうでないとすれば、政権が厳しい

姿勢を示すことがあることを他の企業に対して示すという、象徴的な役割ということになりそうだ。

AT&T Inc.(T)

チャートは、3年

By BEN LEVISOHN and

ROBERT TEITELMAN (Source: Dow Jones)

9. Broadcom Runs Low of Targets, Testing the Faith of Investor 踊り場 【ブロードコム】

M&Aによる株価上昇は限界に、潤沢な資金の適切な使途はまだ不透明

■ 大統領のクアルコム買収中止命令を受け、ソフトウエア開発会社の買収を発表

半導体大手ブロードコム(AVGO)の株価は 2013 年終盤から昨年末ま

でに 560%上昇した。同社の株主は最高経営責任者(CEO)のホック・

タン氏が率いる経営陣を信頼している。タン氏は企業買収を矢継ぎ早に

実行して同社を時価総額が約 900億ドルの企業に育て上げ、コスト削減

と利益率改善に取り組んだ。それは着実な増配をもたらし、現在の配当

利回りは 3.5%と魅力的な水準に達している。だが今や、その信頼が揺

らぎつつある。

発端は、トランプ大統領が 2018年 2月、タン氏に対して米国の通信半導体大手クアルコム(QCOM)の買

収を追求するのをやめるよう命じたことだ。ブロードコムの株価は買収を目指した4カ月間に5%下落した。

そして先週、タン氏はより野心的でない企業買収を追求すると示唆した後、ブロードコムがソフトウエア開

発会社CA(CA)を 190億ドルで買収すると発表した。同社は創業から数十年のプログラミング・ツールで

知られた会社だ。発表の翌日、ブロードコムの株価は 14%下落し、年初来の下落率は 21%となった(ナス

ダック総合指数は年初来で 13%上昇)。

■ 「買収のための買収」に必然性はない

株主はこれまで、予測可能なコスト削減を伴う半導体業界の統合がもたらす増配を歓迎してきた。だが、若

くないソフトウエア開発会社の買収が理にかなっているとは考えにくい。また、統合後のブロードコムの利

益率は押し上げられる一方で増収率は低下すると予想されており、財務面への影響も魅力的ではない。

バーンスタインのアナリスト、ステーシー・ラスゴン氏は、ブロードコムが開いた定例の電話会議でタン氏

と最高財務責任者(CFO)のトム・クラウス氏が自ら説明を行わなかったことにあきれた様子で、「囚人に

だって電話を受ける権利がある」と批判する。一方、レイモンド・ジェームスのクリストファー・カソ氏は、

ブロードコムが単に「半導体市場で目ぼしい企業統合が一巡した中で力強いフリーキャッシュフローを創出」

し続けたがっていると感じたと言う。

本誌が以前の記事で指摘したように、ブロードコムはもはや半導体イノベーションの主役ではなく、「企業買

収マシン」となっている(2018 年 3 月 20日付「プラン Bの買収候補は?」を参照)。一方で同社にとって

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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M&A(合併・買収)の継続は難しくなっている。買収対象の半導体企業の数が減っているからだ。

とはいえ、CA の他にもっと適切と思われる買収候補が存在していたことは確かだ。プログラマブルロジッ

クデバイス大手のザイリンクス(XLNX)やアナログ/デジタル半導体大手のアナログ・デバイセズ(ADI)

などだ。本誌はブロードコムにタン氏またはクラウス氏への取材を申し入れたが拒否された。クラウス氏の

先週の唯一の発言は、「当社の事業を包含するエコシステムを考えた場合、ソフトウエア事業への拡張は必然

である」というものだ。

あるアナリストはこの発言を擁護して、「両社は、確立された市場の中で代替のきかない堅実な事業を持って

いる」と述べている。だがこれは、業態の異なる二つの企業が共通の顧客を持つことを理由に統合すべきだ

と言っているのに等しい。単に企業を統合するのではなく、意味のある事業を構築したいと考えているので

なければ、統合する理由はない。

CAの買収が意味を成すのは、買収を「単なる企業買収であり金融工学である」と見なした場合だけである。

これはブロードコムの投資家にとって資金の無目的な循環であり、それによって創出される価値が 2社の現

在の企業価値の合計を下回ることは明白だ。

■ 米中貿易戦争がファンダメンタルズの足かせに

ブロードコムの配当は依然として魅力的なうえ、最近になって 120億ドルの自社株買い計画が発表されてい

る。今回の騒動が収束すれば一部の株主は戻ってくるかもしれない。だが、既に 90億ドルの純債務を抱え、

CA の買収で新たに 180 億ドルの債務を抱え込んだ場合、株主還元の増額にこれまで通り積極的に取り組め

るかどうかはまだ分からない。

半導体銘柄への投資家にとってより興味深いのは、タン氏が半導体市場の失速を予想するシグナルを発して

いるのかどうかだ。フィラデルフィア半導体指数の年初来の上昇幅は 7%と小幅で、ここ 3カ月は横ばいだ。

これはトレンドに関して多少の懸念があることを示唆しており、その背景には米国と中国の関税と貿易戦争

が悪いニュースを生み出していることがある。だが、データセンターなどブロードコムが強いプレゼンスを

持つ市場では半導体需要はなお堅調だ。7月 26日のインテル(INTC)を皮切りに半導体企業の決算発表が

始まれば、より詳しい状況が分かるだろう。

より大きな疑問は、ハイテク企業が抱える膨大な現金や資本市場から調達可能な資金の使い方である。タン

氏は妥当なM&Aターゲットが底を突いていることを示唆している。基礎的な研究開発に大規模な資金を再

び振り向けるべき分野が存在するはずだが、それが何なのかはまだ明らかでない。

Broadcom Inc. (AVGO) Qualcomm Inc. (QCOM) CA Inc. (CA)

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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Xilinx Inc. (XLNX) Analog Devices Inc. (ADI) Intel Corp. (INTC)

チャートは、3年

By TIERNAN RAY

(Source: Dow Jones)

10. Preview 今週の予定 【経済関連スケジュール】

ウーバーとリフトが「ラストワンマイル」の多様化競争

■ 電動スクーター・自転車のライドシェア事業が目下の投資対象

ライドシェア事業にさまざ

まな企業がこぞって参入し、

過熱気味の様相を呈してい

る。今や子ども達にとって

人気の乗り物となったキッ

クスケーターだが、その進

化版とも言える電動スクー

ターが、現在は注目の的だ。

電動スクーターのシェアシ

ステムを運営するバードは、6 月に新たな資金調達を行ったが、その際に推定された同社の企業価値は 20

億ドルに上った。ライドシェア・サービス大手のウーバー・テクノロジーとリフトも、電動スクーターなど

を利用して、最寄りの駅と目的地を結ぶ「ラストワンマイル(最後の 1 マイル)」のシェアシステムを提供

し始めている。ウーバーは、ライドシェア、公共交通機関、電動スクーター(将来的には「空飛ぶタクシー」)

など、あらゆる交通手段のマーケットプレースをウェブ経由で提供し、アマゾン・ドット・コム(AMZN)

のようなプラットフォーム型のビジネスモデルを目指すと公言している。

その公言通りにウーバーは、電動スクーターのシェアシステム運営企業のライムが今月発表した 3 億 3500

万ドルの資金調達に参加し、「多額の出資」を行うと述べた。この資金調達に際して、起業からわずか 18カ

月というライムの推定企業価値は、11億ドルと評価された。資金調達に伴う合意の結果、ライムの電動スク

ーターは将来的にウーバーのロゴ入りとなり、ウーバーのアプリで予約や課金が可能となる。現在は、ライ

ムの電動スクーターの利用料金(ロック解除料)は 1 ドルとなっており、利用中は 1 分経過するごとに 15

セント課金される。

ウーバーは、4月に自転車のシェアシステム運営企業のジャンプ・バイクスを買収(1月に出資、4月に買収

合意)した際も、ロゴやアプリについて同様の合意をしている。リフトもウーバーに追随して、自転車シェ

アシステム大手のモチベートを買収し、同社のアプリでロック解除するシステムを構築中である。ウーバー

とリフトが「ラストワンマイル」の交通手段を完備すれば、街中の移動は全て両社のアプリで賄えることに

なる。

By NICHOLAS JASINSKI

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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■ 今週の予定

7月 16日(月)

・ 大手銀行・金融持株会社バンク・オブ・アメリカ(BAC)、投資運用会社ブラックロック(BLK)、レス

トラン運営会社ルビーズ(LUB)、動画配信大手ネットフリックス(NFLX)が四半期決算発表。

・ ニューヨーク連銀が、7月の製造業景気指数を発表。エコノミストは、6月の 25から 20.1への低下を予

想。

・ トランプ大統領がロシアのプーチン大統領とヘルシンキで会談の予定。シリア内戦、ウクライナ問題、北

朝鮮の核兵器問題などについて話し合うもよう。

・ 米国勢調査局が 6 月の小売売上高を発表。アナリストは 4 カ月連続の増加を予測。予測通りとなれば、

第 2四半期に消費が加速したとの証左になる。

・ アマゾン・ドット・コム(AMZN)が、年に一度のプライム会員限定セール「アマゾンプライムデー」

を開催。セールは米東部標準時間の午後 3時に始まり、36時間続く(2017年は 30時間)。また、セール

期間中にプライム会員は、自然食品スーパーマーケット・チェーンのホールフーズ・マーケットで買い物

した場合、追加の割引サービスを受けられる。

・ 国際通貨基金(IMF)が「世界経済見通し」を発表。

・ 中国で第 2四半期の国内総生産(GDP)、鉱工業生産指数、小売売上高が発表される。

7月 17日(火)

・ ヘルスケア製品のジョンソン&ジョンソン(JNJ)、銀行持株会社のコメリカ(CMA)、医療保険会社ユ

ナイテッドヘルス・グループ(UNH)、大手投資銀行のゴールドマン・サックス・グループ(GS)、不動

産投資会社プロロジス(PLD)、大手輸送会社のCSX(CSX)が四半期決算についてコンファレンスコー

ル開催。

・ 米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、上院銀行委員会で金融政策について半期に一度の証

言を行う。

・ 全米住宅建設業協会(NAHB)が 7月住宅市場指数発表。

7月 18日(水)

・ スイスの大手医薬品・バイオテクノロジー企業ノバルティス(NVS)、金融持株会社モルガン・スタンレ

ー(MS)、銀行持株会社U.S.バンコープ(USB)、銀行持株会社M&Tバンク(MTB)、金融持株会社ノ

ーザン・トラスト(NTRS)、大手の金属製品メーカーアルコア(AA)、オークションサイト運営のイー

ベイ(EBAY)が四半期決算発表。

・ 米国勢調査局が、6月の住宅着工件数を発表。コンセンサスは、季節調整済み年率で 132万戸への減少を

予想。

・ FRB がベージュブックを発表。

7月 19日(木)

・ 銀行・金融持株会社BB&T(BBT)、大手金融サービス会社バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BK)、

たばこ製造・販売のフィリップ・モリス・インターナショナル(PM)、銀行持株会社フィフス・サード・

バンコープ(FITB)、宅配ピザチェーンのドミノ・ピザ(DPZ)、銀行持株会社キーコープ(KEY)、業

務用工具製造・販売のスナップオン(SNA)、ソフトウエア大手マイクロソフト(MSFT)がコンファレ

ンスコール開催。

・ 米商務省が 2日間の予定で公聴会を開催し、自動車輸入が国家安全保障の支障となっているかの調査を行

う。トランプ政権は、国家安全保障上の理由で 25%の関税導入を検討中。

・ 新規失業保険申請件数(7月 21日までの週)発表。

・ 7月フィラデルフィア連銀製造業景況指数発表。

7月 20日(金)

・ 金融持株会社サントラスト・バンクス(STI)、業務用・家庭用工具製造のスタンレー・ブラック・アン

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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ド・デッカー(SWK)、大手複合企業のゼネラル・エレクトリック(GE)、大手総合テクノロジー企業ハ

ネウェル・インターナショナル(HON)、化学製品メーカーのセラニーズ(CE)、自動調光ミラー・ガラ

ス製造のジェンテックス(GNTX)が四半期決算発表。

・ 格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、ロシアとギリシャの信用格付けを見直し。

・ セントルイス連銀のブラード総裁が、英国のグラスゴー商工会議所で米国経済と金融政策について講演。

7月 21日(土)

・ ブエノスアイレスでG20財務相・中央銀行総裁会議が開催され、貿易摩擦が主な議題となるもよう。

Amazon.com Inc. (AMZN)

チャートは、3年

By ROBERT TEITELMAN and

TERESA VOZZO (Source: Dow Jones)

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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2018年 特集記事年間予定表 Special News Reports

January

1 Top Income Ideas 8 Mutual Funds/ETF Funds Quarterly 15 The Barron’s Roundtable, Part I: The Economy

22 The Barron’s Roundtable, Part 2: Stocks Picks

February

5 ESG Roundtable

12 Barron’s Favorite CEOs 26 Technology Roundtable

March

5 Robo-Advisors and Online Brokers

12 America’s Top 1200 Advisors: State by State 19 Retirement Quarterly 26 Barron’s Penta

April

9 Mutual Funds/ETF Funds Quarterly 16 Energy Roundtable 23 America’s Top 100 Financial Advisors

30 Big Money Poll: Mid-year update

May

7 Most Responsible Companies 14 Retirement Quarterly

21 Healthcare/Biotech Roundtable 28 Technology Cover Story

June

11 America’s Top 100 Women Financial Advisors

18 Barron’s Penta 25 Mid-Year Roundtable

July

9 Mutual Funds / ETFs Quarterly 16 Best Performing Hedge Funds

23 Currency/Bitcoin Roundtable

August

13 Technology Cover Story

September

10 Retirement Quarterly (Health & Wealth Roundtable) 17 America’s Top 100 Independent Financial Advisors

24 Barron’s Penta

October

8 Mutual Funds/ETFs Quarterly

15 Emerging Markets Roundtable 22 Big-Money Poll: Barron’s Survey of U.S. Money Managers

November

5 Retail Roundtable

12 Technology Cover Story 19 Retirement Quarterly

December

3 Where to Invest in 2019 10 Barron’s Penta

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THIS WEEK’S MAGAZINE

BARRON'S COVER

1. 2018 Mid-Year Roundtable: Good News for Stockpickers The broad market could struggle in the second half, but our investment experts see plenty of bargains in energy, media, retailing, and tech.

FEATURE

2. Ackman’s Comeback: How to Ride His Revival The hedge fund manager’s publicly traded vehicle is up 10.4% this year and trades at a discount to its net asset value, offering an opportunity for investors

FEATURE

3. What Justice Kavanaugh Would Mean for Investors The judge has a long record of rulings viewed as favorable to business interests. But some see the Supreme Court nominee as hostile to investor protections.

MUTUAL FUND PROFILE

This Floating-Rate Fund Rises to the Top American Beacon’s Sound Point Floating Rate Income fund takes an unusual approach to investing in bonds that will protect investors from rising rates.

INCOME INVESTING

Why Utility Stocks Are Worth a Second Look

SECTOR FOCUS

4. Apple’s Next iPhone Could Spell Big Trouble for AT&T and Others The next model of Apple’s iPhone, expected this fall, may have a surprise that’s more profound than a rumored orange color option.

FEATURE

5. How Much House Do You Really Need in Retirement? People our age used to downsize when they bought another house. Now close to half get a house the same size or bigger.

UP AND DOWN WALL STREET

6. Tariffs Taking Toll on Business Confidence

STREETWISE

7. Online Sports Betting: A Long-Term Wager

THE TRADER

8. Nasdaq Hits Record High, Defying Tariffs

THE ECONOMY

Want to Help Disaster Victims? Do This Instead of Sending Food

TECHNOLOGY TRADER

9. Broadcom Runs Low of Targets, Testing the Faith of Investors

FUNDS

Robos’ Early Casualties

EMERGING MARKETS

Trade Disputes from D.C. Will Not Derail China

COMMODITIES CORNER

Cheese Prices Headed Lower as Supply Hits Record

FOLLOW UP

Truck Driver Shortage Is Pressuring Businesses

REVIEW

Is a Recession Ahead?

PREVIEW

10. Uber and Lyft Race to Diversify Transport Options

THE STRIKING PRICE

How to Play a Chinese Stock Rebound

MARKET VIEW

Will 2018’s Second Quarter Live Up to the Hype?

RESEARCH REPORTS

Boeing Set to Gain Altitude

BARRON'S ROUNDTABLE

Meryl Witmer: Solving the Opioid Crisis

BARRON'S ROUNDTABLE

Jeffrey Gundlach Says We’re Getting Closer to a Recession

BARRON'S ROUNDTABLE

Mario Gabelli on Tariffs, Treasuries, Taxes and Technology

BARRON'S ROUNDTABLE

Tougher Times Are Ahead, Says Abby Joseph Cohen

BARRON'S ROUNDTABLE

Henry Ellenbogen on the Revolution in Real Estate Brokerage

BARRON'S ROUNDTABLE

Kroger Could Deliver for Investors, Says Bill Priest

BARRON'S ROUNDTABLE

Oscar Schafer Is Bullish on Coffee and Network Infrastructure

BARRON'S ROUNDTABLE

It’s All About Trump, Says Scott Black

BARRON'S ROUNDTABLE

Paul Wick on Who Wins the IT Spending Race

13D FILINGS

Elliott Associates Is Working With CommVault

MAILBAG

Letters to Barron’s

バロンズ拾い読み 2018年 7月 16日号

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『バロンズ拾い読み』

発行

Dow Jones & Company, Inc.

監修

時事通信社

編集人

川田 重信(かわた しげのぶ)

大和証券入社後 1986年から米国株式を中心に外国株式の営業活動に従事。ペインウェバー(現UBS)証券を経て2000

年にエグゼトラストを設立。神戸大学経営学部卒業 米国ロチェスター大学MBA。

バロンズ拾い読み 主要作成者の略歴(五十音順)

内田 薫(うちだ かおる)

大和証券グループでロンドン、マニラなどの海外勤務を含め、アナリスト活動を中心に国内外の調査業務に従事。2009

年より翻訳活動。東京工業大学機械工学科卒。日本証券アナリスト協会検定会員。

西田 万里子(にしだ まりこ)

旧東京銀行(三菱東京 UFJ 銀行)にて外国送金業務に従事した後、フリーランス通訳・翻訳に転向。現在同志社大学

講師を兼務。神戸大学教育学部教育心理学科卒。英国リーズ大学国際学修士、ペンシルベニア州立テンプル大学MBA。

西村 嘉洋(にしむら よしひろ)

プロクター&ギャンブルのファイナンス・IT 部門で長らくマネジャーを務め、欧州、米国、アジア各国で勤務経験が

ある。京都大学大学院 情報工学 情報工学科修士、ロンドン大学大学院 金融経済学修士。

『バロンズ拾い読み』 (2018年7月16日号)

発行 : Dow Jones & Company, Inc

監修・配信 : 時事通信社

製作 : エグゼトラスト

お問い合せ先(法人・個人の購読契約者様)

記事内容に関すること : [email protected]

ご契約・システムに関すること : [email protected]

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※ 当誌は、時事通信社がDow Jones & Company, Inc. の発行するBARRON’S誌の内容を利用して作成したもの

です。

※ 当誌は、情報提供を目的としてのみ作成したものであり、有価証券の売買の勧誘を目的としたものではありませ

ん。当誌はダウ・ジョーンズ社が信頼できると判断した資料およびデータ等に基づき作成しておりますが、その

正確性および完全性について保証するものではありません。また、将来の投資成果や市場環境を保証するもので

はありません。投資決定にあたっては、投資家ご自身の判断でなされますようお願いいたします。

※ 図・表・データの無断使用を禁止します。

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