学校支援ボランティア活動の効果と今後のゆくえ提 言...

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提 言 さがみはら教育No.144 44 調87 9 32 4 調調調調調3.4 調 調25 表1 授業での学校支援ボランティア活用 小学校 中学校 相模原市調査 72.8% 21.1% 文科省調査 36.3% (69.0%) 18.5% (46.9%) 図 学校支援ボランティアの活用目的 質的サポート 学習の補強 学習の効率化 学習の深化 学習の向上化 補完 付加価値 量的サポート

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Page 1: 学校支援ボランティア活動の効果と今後のゆくえ提 言 さがみはら教育No.144 44 (一)学校支援ボランティアは「小高・中低」傾向一.学校支援ボランティアの現状

提 言

さがみはら教育No.144 44

一.学校支援ボランティアの現状

(一)学校支援ボランティアは「小高・中低」傾向

 

学校支援ボランティアという言葉が文科省の関係文書で初め

て登場したのは、平成九年の教育改革プログラムにおいてであっ

た。ただし、その前年の旧・第一五期中央教育審議会第一次答

申では「学校ボランティア」という言葉を用いて、その推進を

提言していた。

 

それ以後、学校支援ボランティア活動は全国の学校に徐々に

ではあるが浸透してきている。相模原市の調査によると、学校

支援ボランティアを活用した学校は、小学校87・9%中学校32・

4%である。一般的に、小学校の活用率が高く、

中学校でその率が低いという「小高・中低」の

傾向にあるが、相模原市の場合も例外でない。

それでは、相模原の数値は全国的な活用率と比

べるとどうだろうか。下表1は、相模原市が実

施した今回の調査と文科省の学力状況調査を比

較したものである(文科省調査は、授業におけ

る学校支援ボランティアの活用について、「よく

行った」+「どちらかといえば、行った」の回

答の合計値)。相模原市の数値は若干の加工を施

しているが、相模原市の学校での活用率は全国

レベルに比べて高く、特に小学校の場合にはか

なり高めになっている。

(二)活発な小学校での活用(授業における活用)

 

ただ、小学校の活用率の中学校比は、文科省調査では約2倍

であるのに対して、相模原市調査では約3.4倍と大きく開いてい

る。そこで、文科省調査の数値に「あまり行っていない」とい

学校支援ボランティア活動の効果と今後のゆくえ

日本大学文理学部教授 

佐 

藤 

晴 

う回答を加えると、表中の(�

)内の数値になる。「あまり行っ

ていない」という回答は、数回は行ったと解釈できるであろう

から、これも実施したものとみなせば、相模原市の小学校は文

科省調査の数値を上回るが、中学校では約25ポイントも下回っ

てしまう。このデータを見る限り、相模原市の中学校ではボラ

ンティアの活用が今後の課題だと言える。

二.学校支援ボランティアに期待される効果

 

それでは、学校支援ボランティアの

協力を得た場合、どのような学習効果

が期待されるであろうか。下図は、学

習活動における学校支援ボランティア

の活用の意義を四つに整理したもので

ある。学習の質的補完が目的なのか、

あるいは質的な付加価値をねらってい

るのか、などを四つに分類してみた。

そうすると、各象限に学習効果を位置

づけることができる。すなわち、学習

の効率化、学習の補強、学習の深化、

学習の向上化の四つである。

(一)学習の効率化

 

一人の教師だけでは、時間的・人員的に十分指導しにくい場

面で、指導補助者を加えることによって学習を補完することで

ある。たとえば、学習プリントのマル付けを教師一人で対応す

れば児童生徒が待ち時間を無駄にするかも知れない。そこで、

マル付けのボランティアを数人依頼するれば学習効率が上がる。

また、ADHD児童生徒への対応をボランティアに依頼するこ

とも、このタイプの目的に属する。つまり、指導者を量的に増

表1 授業での学校支援ボランティア活用小学校 中学校

相模原市調査 72.8% 21.1%

文科省調査 36.3%(69.0%)

18.5%(46.9%)

図 学校支援ボランティアの活用目的

質的サポート

学習の補強 学習の効率化

学習の深化 学習の向上化

補完

付加価値

量的サポート

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45 さがみはら教育No.144

やすことなのである。

(二)学習の補強

 

教師だけでは指導が十分にいかない指導内容において、ゲス

トティーチャー等を活用して学習を補強することである。たと

えば、戦争体験者の体験談や社会人による職業の話、農家よる

稲作り指導、ネイティブスピーカーによる英会話指導などの場

合である。

(三)学習の深化

 

教師だけでも指導可能だが、外部指導者を依頼することに

よって、学習の質を一段と深化させ、付加価値をつけることで

ある。たとえば、中学校の体育教師による実技指導に加えて、

プロ選手がゲストティーチャーとして模範を示したり、国語の

朗読に読み聞かせサークルの協力を得るなど、上質の学習を提

供することなどがある。

(四)学習の向上化

 

この場合も教師の指導で足りるが、保護者や地域住民などに

協力者として加わってもらい、児童生徒が様々な人たちに見守

られていることを実感しながら学習できるようになるような効

果である。ある小学校では、生活科の時間に保護者や住民にも

参画してもらい、児童との交流を図りながら授業を行っている。

保護者等の協力者は、教師の指示通りに行動できない児童に指

示したり、児童のおしゃべりを注意したりする。場合によって

は児童と一緒になって学習活動に加わる。むろん、教師一人で

も指導できるが、協力者の参加によって学習の雰囲気が豊かに

なる。

 

以上のような効果があるとすれば、最も大切なことは、その

うちのどの効果をねらうのかを検討することである。その場合、

複数の効果が選択されてもよい。

三.学校支援ボランティアのこれから 

―今後の課題―

 

しかしながら、学校支援ボランティアの活用をめぐっては様々

な課題がある。最後にいくつかの課題を取り上げておこう。

(一)打ち合わせ

 

学校にとってはボランティアとの打ち合わせは不可欠である

が、なかなか面倒である。そこで、学校の中には、特定の日時

にボランティア会議等を定例化して打ち合わせを行っている。

たとえば、第三水曜日の五校時などと決めるのである。その会

議は、打ち合わせだけでなく、ボランティアの研修の機会とし

ても活用できる。

(二)ボランティアの指導に不安

 

最初の指導場面では、ボランティアに限らず教師でさえ十分

な指導ができない。それにもかかわらず、ボランティアには適

切な指導を期待しがちになってしまう。ボランティアでも指導

経験を積めば教師に比肩するような指導力を発揮してくれる人

が少なくない。新人ボランティアにはまずはベテラン教師が担

当しながら、経験を積むように機会を継続的に設定していきた

い。

(三)必要なボランティアが見つからない

 

学校によっては特定の学習に必要なボランティアがいないか

ら、その活用に取り組まないというところがある。確かに地域

によってそうした事態はあり得る。だが、発想を転換し、学校

周辺にいるボランティアの特性を生かした学習指導計画を立て

るという視点も取り入れれば、豊かな学習活動の展開が期待で

きる。たとえば、放課後の補充指導を学生や若い人に頼みたい

けど、周囲には高齢者ばかりだからと困っていたある小学校は、

自治会の婦人部に着眼した。すると、婦人部に多い女性高齢者

たちは、放課後の個別指導はできないが、朝の学習プリントの

丸つけならできると言う。そこで、毎日の朝帯15分を算数のプ

リント学習の時間に位置づけ、女性高齢者をボランティアに依

頼したのである。

 

そのほかにもいくつもの課題があることから、教師の中には

今なおボランティアは必要ないと考える者がいる。そうした教

師たちに問いたいのは、教師だけで教えることに全く問題がな

いのだろうか、学校が自己完結的であることによって児童生徒

にマイナス影響がないのだろうかと。つまり、学校支援ボラン

ティアを活用しないことの問題性ということを改めて省察的に

考える必要があると言えよう。ボランティア活用の問題点ばか

り指摘しても、何ら学校は改善されないだろう。

〔参考文献〕佐藤晴雄編『学校支援ボランティア』教育出版、2005年

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提 言

さがみはら教育No.144 46

幸せのひととき

 

十五年前、国際会議でカナダのアルバータ州を訪れた。

 

朝の散歩で、町の小学校の前を通りがかった。それは、不思議

な光景だった。校門の前は、お年寄りたちの賑やかな話し声で響

きあっていた。やがて、子どもたちがスクールバスで登校してき

た。

 

お年寄りたちは、笑顔で一人ひとりの子どもに声をかける。

「おはよう、きょうもいちにち元気でね。」

子どもたちも答える。

「ありがとう、あなたもね。」

 

子どもたちの姿は、校舎に消えていった。お年寄りたちも、思

い思いの立ち話を楽しんだあと、家路についたのだった。

 

なぜ、まいにち学校にくるんですか、と高齢の紳士に聞いてみ

た。

「これは、私の大切な、幸せのひとときなんだよ。」

 

校内に入った。その不思議な気持は、やがて感動に変わった。

チュータリングという名のボランティア学習

 

校庭は、美しいガーデニングの花々に満ちあふれていた。花園

のなかには、子どもたちと一緒に庭いじりをする人びとの輝いた

顔があった。

 

教室に入ると、算数の授業の最中だった。教師の傍には、自ら

が教材になって授業を手助けする人びとがいた。教師にインタ

ビューすると、こんなジョークが返ってきた。

「算数が不得意な人も、すばらしいボランティアになれるんです

よ。子どもたちは、算数を教えてあげるために、自ら自発的に勉

教育パートナーシップの時代へ

~学校支援ボランティアの実践から見えてくるもの~

日本ボランティア学習協会代表理事・ボランティア社会学研究者 

興 

梠   

強するようになるんですから。」

 

となりの教室の英語の授業では、近所の高校生たちが単語の綴

りを教えていた。高校生たちは〝小さな先生〟になって勉強を教

える「チュータリング」という名のボランティア学習を行ってい

るのだ。教師はいう。

「高校生たちは、小学生に教えるときに綴りを間違えると恥かし

いので、前日にそっと勉強してくるんですよ。」

子どもたちの学びに寄り添う

 

理科の実験室の教材や器具はピカピカに磨かれて、きれいに整

理整頓されている。図書室での本は、整然と整理されていた。本

の貸し出しのために交わされる、子どもと、大学生ボランティア

との、心休まるなにげない会話に、心の癒しを感じた。学生たち

は、放課後の読み聞かせや、童話の創作にも寄り添ってくれる。

 

昼食の時間になった。近所の企業で働く人びとは、子どもたち

と給食を楽しむために学校を訪れる。テーブルを囲み、食事のマ

ナーも教えてもらう。昼食をとりながら耳を傾ける豊かな知識や

体験談には、まるで冒険話のように心を引き込まれていく。

 

お掃除の時間になった。校内に躍動感のある音楽が流れると、

地域のお掃除ボランティアの活躍のときだ。子どもたちと一緒に

動きまわりながら、楽しくお掃除をする方法を教えてくれる。

「すべての人びとのために、ボランティアになるチャンスをつく

りだそう。」

 

学校の掲示板に貼ってある、地域のボランティアセンターのポ

スター標語に、心地よいカルチャーショックを感じたのだった。

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47 さがみはら教育No.144

アフタースクールと教育責任

 

アメリカの学校は、授業が終わると『アフタースクール』へと

姿を変える。

 

『ニューヨーク・タイムス』紙に掲載された「さあ!三時です」

と題した新聞広告は、教育は地域社会全体で責任をもつべきもの

という〝教育責任社会〟の時代が来たことを物語っている。

「さあ!三時です。あなたの子どもはどこにいますか?何をして

いますか?

 

時代は変わったのです。子どもを、よくないことから守るため

には、とくに放課後の子どもたちに気を配ってください。

 

あなたが仕事から帰宅するまでに、子どもたちが何かに夢中に

なっているようにしてあげてください。趣味やボランティア活動

など、何でも好きなことでいいのです。

 

何かの〝アフタースクール・プログラム〟に参加している子ど

もたちは、薬物に汚染されないというデータもあります。

 

詳しくは『アフタースクール子どもクラブ』にご連絡ください。

フリーダイヤルは○○○‐○○○番です。」

学校は変わる

 

日本においても、学校の持つ役割が変わりはじめている。学校

が学校教育制度の枠組みのなかのみならず、従来の制度の枠組み

を超えて、社会教育や児童福祉と融合した教育拠点として生まれ

変わろうとしている。

 

二〇〇七年度にスタートした文部科学省と厚生労働省との協働

による『放課後子どもプラン』は、放課後の子どもの学習や体験

の拠点を学校が提供し、社会教育行政と福祉行政とが協力しあっ

て、子どもたちに豊かな学びと体験活動の場を提供するものだ。

 

また、二〇〇八年度から実施する『学校支援地域本部事業』は、

学校の教師がボランティアの協力を得て、しっかりと子どもに向

きあい、教育内容をさらに充実させようという試みである。

 

こうした計画は、これからの開かれた学校の姿をしめしたもの

として注目される。学校の〝教育力〟を考えるとき、教師のもつ

英知や教育スキルは、地域のボランティアや民間非営利組織など

の知識・経験・技術との融合によってより豊かな〝教育力〟にな

ることを明確にしたものだ。

ボランティアはなぜ学校に有効か

 

ではなぜ、地域社会におけるボランティアの参画は、学校にとっ

て有効なのだろうか。

 

そのひとつは、学校がボランティアに教育活動への参加の機会

を開くことにより、学校組織を柔軟にし、地域の人びとや組織に

よる学校への理解と〝存在の認知〟が高まることである。また、

時代の変化によって生じてくる新しい教育課題の克服のために、

ボランティアや民間非営利組織、社会貢献企業などのもつ個性的

で、専門性に満ちた多様な〝教育力〟を活かすことができるのだ。

 

ボランティアの参画は、教職員の教育活動にも有効だ。地域の

人びとの協力は、子どもの学校生活を豊かにし〝学ぶ意欲〟を高

め、多様な世代の人びととのふれあいをとおして〝経験知〟に学

び生きる力を育むことができる。また、子どもの保護者や地域社

会の人びとの〝教育責任意識〟を高め、学校が地域文化の創造や

生涯学習の〝ふるさとの学びの城〟になることを可能にする。

パートナーシップの絆を結ぶ

 

こうした、ボランティア・民間非営利組織の参画による学校の

再創造計画を円滑にすすめるためには、学校教育を応援するため

の〝パートナーシップの絆〟を結ぶ機能を整備することが大切で

ある。それを「ボランティア・コーディネーション機能」という。

 

文部科学省は、全国各地の教育委員会に『学校支援地域本部』

を設置し〝学校支援ボランティア・コーディネーター〟を養成し

配置することを重要な政策課題としている。その取り組みの例と

して、都道府県や市町村教育委員会に「ボランティア活動推進セ

ンター」を開設することを提案している。

 

また、学校のなかに〝ボランティアルーム〟を開設したり、学

校にボランティアコーディネーターを養成し配置することも、教

育委員会の重要な施策になるであろう。

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提 言

さがみはら教育No.144 48

はじめに

 

今日の学校が進める教育活動にとって、地域社会や保護者は、

共育意識を持ったパートナーとも言われている存在である。

 

その具体的な現れが、子どもの育ちに寄与する「学校支援ボ

ランティア」の姿であろう。本校もその例に漏れず、地域・保

護者との「連携・協働」を図る活動を押し進めていることは申

すまでもない。

 

本稿では、学校支援ボランティアに関わる実際にふれて、私

見を述べることとする。

一.ボランティア活動を支える地域や保護者の様子

 

ボランティア活動の推進を、学校経営の重点に掲げても、協

力者となりうる地域社会や保護者のありようが、活動に影響を

及ぼすのは明らかである。

 

まずは、淵野辺地域と保護者の様子についてふれる。PTA

主催のベルマーク回収活動は、今では300万点を上回る重みと歴

史がある。まさに、関わる人々によってなし得た数字である。

また本校の教育活動に対する、保護者アンケートの回収率は、

記名方式かつ大規模校でありながら9割を超える。

 

これらから考えると、学校の求めに速やかに応える、地域・

保護者の特性を伺い知ることが出き、本校のボランティア活動

を支える要因にも思えてくる。

 

更に、複数の大学が建っている地域の特色と、本校が、最寄

地域・保護者と創り上げる共育

相模原市立淵野辺小学校長 

藤 

本 

博 

り駅から、徒歩数分内の距離にある条件が大きい。それがため

に、ボランティア活動の一翼を担う、学生の力を労せずして借

りることができる、恵まれた状況につながっている。学生は、

本校にとって、限りなく心強い応援団である。

二.本校における活動の状況

 

子ども個々の学びを大切にした教育活動を考えると、教師一

人の力に頼ることなく、いろいろな人の力を借りる場面が容易

に想像できる。

 

この考えに基づいて、学習場面を含む教育活動全般に、支援

のお願いが生じてくる。課程外の活動にしても、地域老人会に

よる子どもたちの安全確保に協力する姿もある。

 

同様に学生においては、休日や長期休業日においても、子ど

もたちと関わりを保つ活動を行っている。この活動は、本校の

子ども達にとって、学校以外の居場所として、すっかり定着し

ている。

 

またこの運営に取り組む学生の多くは、常日頃、学校支援ボ

ランティア活動の一員として来校しており、学校は、大変有り

難い恩恵を受けている。

 

続いて、支援活動を行っている協力者の感想を紹介する。概

して学校に届く声からは、好意的な思いが読みとれるのがうれ

しい。

・顔なじみになり、挨拶を交わす子どもが増えた。

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49 さがみはら教育No.144

・�

一人の先生による指導の限界が分かり、手助けが出来て嬉し

い。

・授業づくりに取り組む先生の姿に、驚きと感銘を得た。

三.まとめにかえて

 

終わりにあたって、本校のボランティア活動を振り返り、思

い浮かぶ課題を述べて、今後の提言としたい。

◎教職員の共通理解の確立

 

� 

当たり前ではあるが、学校は、何のために、何について協

力を依頼するのか、視点を明確化するとともに、教職員の共

通理解と十分な意志疎通が基本となる。

 

� 

さもないと、「教室を覗かれる」マイナス意識を消せぬま

ま、「人目にさらす勇気」を形成できないからである。

◎正確な学校情報の発信

 

� 

「先生は楽をしている?」と言った、誤解を与えない、正

確な情報を適宜発信し、理解と協力を得る不断の努力が不可

欠である。

 

� 

多様な子どもの在籍も手伝って、担任一人が抱えきれない

現実もある。協力を求めたい学校と、応える人々の結びつき

が、確かに教育効果をあげている。協力者による子ども達へ

の関わりが、よりよい教育活動を支えている事実を、広く世

に知らしめるべきである。

◎年間を通した協力者の関わり

 

� 

この視点は、地域の人々や保護者にも相通じるが、教職を

めざす学生には、ことのほか強く望みたい。教育実習期間に

とどまらず、年間を通したコンスタントな協力を求めたいと

思う。

 

� 

長いスパンでの関わりは、現場感覚をつぶさに味わい、直

接的・継続的な実践指導を受けられる期待が持てる。一方、

教師にとっても、学生との仲間意識の育みが、子ども達の指

導効果を高める上で、大きな利点になる。

◎守秘義務の徹底化

 

� 

学校は、個人情報の集積場所である。協力者といえども、

知り得た情報を口外しない、守秘義務遵守の理解が確実に要

求される。

 

� 

幸い本校では、情報が外に出た事例はないが、くれぐれも、

人を介した情報の漏洩に、今後も留意したい。

◎継続することの大切さ

 

� 

昨年度の、本校の協力者総数は、延べ400人を超えるが、隆

盛の状況が今後も続く保証はない。協力者がいる反面、働く

母親も増えて、学校任せの風潮が広がっている現実が、本校

でも散見できるからである。協力者の確保と増加を念頭に、

活動続行の努力を怠らず、有効策の検討に努めねばなるまい。

 

� 

次は情報交換の大切さである。多忙であっても、教育効果

を左右しかねない、当事者間の打合せを、必ず励行すること

である。

 

� 

本校では、努めて情報交換会を開いているが、丁寧な取組

があってこそ、ボランティア活動が継続されてきたと判断し

ている。

 

� 

惜しむらくは、学校には謝礼の予算が十分とは言えない現

実が横たわっている。正直なところ、学校支援ボランティア

への、謝礼予算増額の期待は大きく、その活用が、ボランティ

ア活動の継続強化を促す、決め手の一つと捉えるのは早計で

あろうか。

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提 言

さがみはら教育No.144 50

はじめに

 

平成9年、「教育改革プログラム」(文部省)に学校支援ボラン

ティアの言葉が登場し、学校と保護者・地域を結ぶキーワード

として推奨されてから、すでに10年以上が経過した。この間に、

「ひと・もの・こと」といった地域をまるごと教育材としてと

らえて、学校内外での教育活動に生かそうとする学校支援が多

くの学校で求められるようになった。学校経営は、今やこの学

校支援ボランティアの存在を抜きにしては語れない。

 

学習指導要領が改訂され新たな時代へと向かおうとする現

在、学校支援ボランティアのねらいをとらえ、今後の積極的な

開拓につなげていきたい。

1 

教育現場における条件整備の課題

 

教育課程部会「審議のまとめ」では、生きる力という理念の

共有など基本的な考え方と、教育内容に関する主な改善事項が

示されている。そのなかに「社会の変化への対応の観点から教

科等を横断して改善すべき事項」があり、環境教育・キャリア

教育、食育など7つの事項が挙げられている。

 

こういった新たな理念や課題への取り組みは、時間の確保、

人的・物的条件整備があって成立していくが、現状は厳しい。

 

現在、学校現場には矢継ぎ早にさまざまな教育課題が提起さ

れ続けている。急速な改革に追われるとともに生活指導などの

さまざまな問題がある。限られた物的条件のなかで、人的にも

質的にもぎりぎりの状況で対応しているといっていいだろう。

学校改革をバックアップする学校支援ボランティアの開拓を

相模原市立旭中学校長 

関 

谷   

 

「審議のまとめ」には、「教師が子どもたちと向き合う時間の

確保や効果的・効率的な指導のための条件整備」という一項が

ある。まさに、この教育条件整備をどう工夫するかが大きな課

題なのである。昨年の暮れに平成20年度予算が成立し、教員定

数の増員の見通しが立ったことで少しは安心の材料となった。

しかし、教育活動の今後を想う時、十分な条件整備になってい

るとは言い難い。

2 

鍵となるのは学校支援ボランティアとの連携

 

理念の実現や新しく提起された教育課題の解決にむけて、学

校の内側だけで条件整備を考えるには限界がある。

 

「審議のまとめ」でも多用されているように、「家庭や地域と

の新たな連携、理解と協力」といった地域全体で子どもを支え

る体制が、今後さらに重要になると考える。学校における「ひ

と・もの・こと」の限界を、地域の学校として総合的にとらえ

直す発想の転換を進めたい。地域の「ひと・もの・こと」と学

校教育とを意図的・計画的に結合させ進行させる学校経営の再

構築が必要である。新たな学習指導要領の告示は間近に迫って

いるが、その条件整備として、学校支援ボランティアとの連携

は理念実現の鍵を握る存在になると思われる。

 

学校支援ボランティアとの連携について、重視する3つの取

り組みについて述べてみたい。

(1)PTAボランティアの推進は学校を開く要となる

 

「学校の10に皆さんの2のお力添えをいただくことで、12の

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力で子どもたちを育て、夢を育む」は、元三鷹市立第四小学校

貝ノ瀬滋校長の言葉である。地域・保護者の方ができるだけ学

校に足を運び、直接・間接に子どもたちにかかわることで学校

の教育力は高まっていく。そのためには、学校理解に基づく積

極的な推進体制が必要になる。最も身近で良き理解者・協力者

となっていただけるのはやはりPTAだと考えている。

 

本校PTAでは通常の活動の他に〝旭サポート隊〟というボ

ランティア活動がある。本年度から始まったばかりであるが、

200名近い協力を得た。現場が語る説得力は強い。「旭中の生徒

は・・という噂が先行しがちで不安を抱えている保護者、廻り

の方々に、ボランティアに参加する事により不安が解消される

と思う。一生懸命な旭中生徒たちに出会えるから。家の事、下

の子どもの事をやりくりしても参加して良かった」(アンケート

より)。心を開くという視点では、教員も同様だろう。

 

この活動を発展させることが、学校を開く要となり保護者の

学校理解と教育活動への大きな力になると考えている。

(2)地域との協働で人づくりのネットワークを

 

キャリア教育の一環として、2年生280名の職場体験「あさひ

☆夢☆チャレンジ」を行った。本年度初めての試みであったが、

80余りの事業所がボランティアに快く応じてくださった。1年

の福祉体験講座では、9講座総勢40名余りの講師の方にご協力

をいただいた。橋本地区社協との連携は長年続いており、ここ

で得た学びが橋本七夕祭での地域活動「在宅障害者・車椅子ボ

ランティア」活動につながっている。

 

体験を終えての子ども達の感想には、驚くべき心の変化が見

られた。確かな実感として、自分自身の生き方、将来の夢、学

ぶことの意味に結びついているのである。学校内では得がたい

体験の成果がここにある。

 

学びをイベントとして終わらせたくないと思う。地域の団体

や事業所に加わっていただく推進協議会を校内に立ち上げた

い。地域での学習を進める組織として、年2~3回の協議を持

つだけでも結びつきが強まり、地域教育力の発展にもつながる

のではないか。地域でのネットワークづくりが互いの理解と協

力を生み、子どもの豊かな心を育む活動へとつながる。

(3)学生ボランティアとの連携で個別支援の充実を

 

昨年、家庭科で2人の学生ボランティアから週2回3ヶ月間

の支援を受けた。実習授業での個別支援・期末補習で先生を補

助することにより、きめ細かな指導の充実が図れた。

 

本市では学校支援制度実施要領が定められ、「地域と学校の協

働ガイドブック」の作成などさまざまな方法で学校支援ボラン

テイアの振興が図られている。学生ボランティアはホームペー

ジでも募集され、市の調査によると18年度には11の提携大学を

中心に40校の大学生が活動したとのことである。

 

学生ボランティアの授業での受け入れは、まだなじみのない

先生が多いせいか、垣根の高いところがある。先日、教員志望

の熱心な学生から申し込みがあったが、大量採用時代の教員養

成にもなる。インターンシップ導入に先だって学生ボランティ

アの受け入れ体制の整備と教員の意識改革を進めたい。

おわりに

 

安全や美化点検などのため、校地の巡回には努めている。歩

いていると、ふっとした所に伝統を感じたり、時々の保護者・

地域の方々が、子どもを思い学校を育んでくださった心を感じ

る。かつて奉仕作業と呼ばれた環境整備活動の足跡がそこここ

に生きて、今も学校環境を潤しているからである。経済成長と

ともに社会は変化し、勤労奉仕というような言葉は懐かしい響

きとなった。しかし、子どもを大切にし地域の学校として愛す

る心は、形を変えながら脈々と引き継がれ不易の温かさとなっ

ている。次代を担う子どもたちのために「お互い様」という日

本的感性を大切にしたい。ともに歩む関係こそ教育の財産であ

り基盤であることを忘れてはならない。