Flash LIDAR用デバイスの開発 - JAXA Repository /...

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Flash LIDAR Flash LIDAR用デバイスの開発 水野貴秀 1,2 、池田博一 1,2 、川原康介 1 、三田信 1 、片岡淳 3 ROICの試作とその評価 ROIC はできるだけ小さな面積で作る必要があること、搭載品として実績のあ るプロセスであること、開発コストを低減することから、民生シャトルサービスの CMOS0.18μmプロセスを選択した。民生シャトルサービスによるFM品製造管理 については、光検出デバイスLIDARX開発にて検討済みである。図3は試作した 16×16素子のROICである。 ROIC単体の電気試験によって、データ読みだし回路、測距回路、測距回路の カウントクロックとなる PLL 出力について確認した。図4 に示すように、測距回路 のカウントアップ、タイミング信号によるカウント停止、測距値の読み出しについ て、基本動作が確認した。ただし、現状では PLL 1GHz の同期はとれず 500MHz の同期となっている他、動作時の電力配給不足によって、不安定な動 作となった。2015年度の試作ではこうした現状への対策を施している。 概要 3次元距離画像の取得は、月や惑星への着陸機が着陸直前に地形測定や障害物回避の目的で、あるいは軌道上でのランデブードッキングを行 う宇宙機の航法センサとして要望が強い。 Flash LIDARは、APDと測距回路を一体とした画素をアレイ状に配置した専用デバイスを実装したカメラを使用して、カメラの視野内に拡散照射され たレーザ光のTOF (Time Of Flight)を各画素毎に測定して3次元距離画像を取得するセンサである このセンサ開発の鍵は、APDアレイとその各々 に対応する測距回路を接合したデバイスの開発にある。JAXA宇宙科学研究所では、APDに感度が高いガイガーモードを採用した Flash LIDAR専用 デバイスの実現を目指し、測距回路およびその読み出し回路の開発を行っている。本報告では、2014年度に試作したデバイスの評価について述 べる。 LIDAR:LIght Detection And Ranging(レーザ距離計) 背景 近年月・惑星に関する本格的な科学観測活動が行われているが、これらの 探査機の多くが数十~数百kmからの距離測定が可能なLIDARを搭載している。 さらに、月や惑星に着陸探査をおこなう探査機では、着陸直前に地形測定や 着陸時の障害物回避の必要から、単一方向の測距装置だけでなく数百mから 3 次元的な距離画像が取得可能なセンサが強く望まれている。同様に軌道上 でのランデブードッキング用の航法センサとしても、3次元距離画像センサへの 要求は強く、さらに有人機へのドッキングの際はアイセーフレーザの使用も望 まれる。 Flash LIDARは米国ではASC社が実用化し、スペースX社の宇宙機Dragonのラ ンデブードッキングセンサとして Dragon-Eye を供給している他、 OSIRIS-Rex も着 陸直前の近距離用センサとして搭載する予定である。このFlash LIDARはフレー ムレートは 10Hz 以上が得られるが、リニアモードの APD を使用しているために 感度が低く、搭載レーザの出力を十分に高められない惑星探査では、システム 要求に耐える画素数と距離の両立が難しい。この問題点を解決できる可能性 として、ガイガーモードの APD アレイを使った Flash LIDAR が考えられる。米国 Princeton Lightwave 社製のデバイスが128×32pix. にて購入(ITER 対象品) であ るが、システムからの要求分解能は256×256で大きな隔たりがある。 Flash LIDAR は将来の月惑星への着陸技術およびランデブードッキング技術 に必要なセンサであり、先に述べた米国のDragonOSIRIS-Rexの例に見るよう に宇宙機へも適用されつつある。本センサは日本が宇宙開発の自由度を確保 するために、独自に開発すべきセンサである。 1 Flash LIDAR イメージ (a) 月着陸機の障害物検出センサ (b) ランデブー・ドッキング用の接近センサ APD+ROICの評価 試作したROICに半導体デバイス製造メーカによって製造されたAPDアレイを接 合したFlash LIDAR デバイスを図4 に示す。図5 はこのデバイスに f=4mmの単焦 点レンズをつけて撮像した距離画像で、測距回路のカウンタクロックは500MHz光源はYAG レーザ、視野角は約 13°、距離約0.6m ”H” の文字を常温下で撮 像して得られた結果である。 ガイガーモードでは、APDをブレークダウン電圧を超える動作点で使用する ため、冷却して暗電流を抑制する必要がある。図6(b)は、(a)で示す試験装置に て取得した検出感度と検出タイミングの特性を示している。低温にするにした がって、感度が上がり検出タイミングの遅延も少なくなっていることがわかる。 まとめ 開発中のFlash LIDAR専用デバイスについてその概要と2014年度試作デバイ スの評価結果について報告した。 現在、 PLL 等の問題点への対策を施した 2015 年度試作ROIC が製造プロセス に入っており、今後試験評価を実施していく予定である。また、本開発デバイス を中心としたシステム検討も別途実施している。 3 試作ROIC 6 温度特性試験 (a) 恒温槽内の試験装置 LD光をNDフィルタで減衰 1 JAXA宇宙科学研究所、 2 総合研究大学院大学、 3 早稲田大学 デバイス構造とROIC 2 Flash LDIAR用デバイスの構造と1画素の測距回路の概略 Flash LIDARの開発の鍵は、APDアレイとその後段の測距回路および読み出 し回路(ROIC:Read Out IC)で形成された受信専用の複合デバイスの開発にある。 デバイスは図2のように、APDと測距回路をアレイ状に配置して、2つを垂直に 接合して形成される。APDの感度を示すブレークダウン電圧を均一に作ること が難しいため、測距回路をできるだけ小さく作る必要がある。 ROICは試作開発コストを抑制する必要から、民生シャトルサービスのCMOS 0.18μmプロセスを選択した。1画素の測距回路の概略を図2に示した。0.1m時間分解能を持たせるために内部で1GHzを生成し、回路規模を小さくおさえる ためにカウンタではなくM系列符号発生器を使用している。ガイガーモードAPD のためのクエンチ回路については、APDアレイ側に抵抗負荷するか、外部に持 たせる設計である。 4 ROIC評価試験の例 (a) Y一列にタイミング信号 (b) 読み出しロジックの動作状況 4 試作Flash LIDAR デバイス (APD+ROIC, 16×16) 5 距離画像 (16×16) (b) 検出タイミングの温度特性 This document is provided by JAXA.

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Flash LIDAR

Flash LIDAR用デバイスの開発 水野貴秀1,2、池田博一1,2、川原康介1、三田信1、片岡淳3

● ROICの試作とその評価 ROICはできるだけ小さな面積で作る必要があること、搭載品として実績のあ

るプロセスであること、開発コストを低減することから、民生シャトルサービスのCMOS0.18μmプロセスを選択した。民生シャトルサービスによるFM品製造管理については、光検出デバイスLIDARX開発にて検討済みである。図3は試作した16×16素子のROICである。 ROIC単体の電気試験によって、データ読みだし回路、測距回路、測距回路のカウントクロックとなるPLL出力について確認した。図4に示すように、測距回路

のカウントアップ、タイミング信号によるカウント停止、測距値の読み出しについて、基本動作が確認した。ただし、現状ではPLLは1GHzの同期はとれず500MHzの同期となっている他、動作時の電力配給不足によって、不安定な動作となった。2015年度の試作ではこうした現状への対策を施している。

■ 概要 3次元距離画像の取得は、月や惑星への着陸機が着陸直前に地形測定や障害物回避の目的で、あるいは軌道上でのランデブードッキングを行う宇宙機の航法センサとして要望が強い。 Flash LIDARは、APDと測距回路を一体とした画素をアレイ状に配置した専用デバイスを実装したカメラを使用して、カメラの視野内に拡散照射されたレーザ光のTOF (Time Of Flight)を各画素毎に測定して3次元距離画像を取得するセンサである このセンサ開発の鍵は、APDアレイとその各々に対応する測距回路を接合したデバイスの開発にある。JAXA宇宙科学研究所では、APDに感度が高いガイガーモードを採用したFlash LIDAR専用デバイスの実現を目指し、測距回路およびその読み出し回路の開発を行っている。本報告では、2014年度に試作したデバイスの評価について述べる。 ※LIDAR:LIght Detection And Ranging(レーザ距離計)

● 背景 近年月・惑星に関する本格的な科学観測活動が行われているが、これらの探査機の多くが数十~数百kmからの距離測定が可能なLIDARを搭載している。

さらに、月や惑星に着陸探査をおこなう探査機では、着陸直前に地形測定や着陸時の障害物回避の必要から、単一方向の測距装置だけでなく数百mから3次元的な距離画像が取得可能なセンサが強く望まれている。同様に軌道上

でのランデブードッキング用の航法センサとしても、3次元距離画像センサへの要求は強く、さらに有人機へのドッキングの際はアイセーフレーザの使用も望まれる。 Flash LIDARは米国ではASC社が実用化し、スペースX社の宇宙機DragonのランデブードッキングセンサとしてDragon-Eyeを供給している他、OSIRIS-Rexも着陸直前の近距離用センサとして搭載する予定である。このFlash LIDARはフレームレートは10Hz以上が得られるが、リニアモードのAPDを使用しているために

感度が低く、搭載レーザの出力を十分に高められない惑星探査では、システム要求に耐える画素数と距離の両立が難しい。この問題点を解決できる可能性として、ガイガーモードのAPDアレイを使ったFlash LIDARが考えられる。米国Princeton Lightwave社製のデバイスが128×32pix.にて購入(ITER対象品)であるが、システムからの要求分解能は256×256で大きな隔たりがある。 Flash LIDARは将来の月惑星への着陸技術およびランデブードッキング技術に必要なセンサであり、先に述べた米国のDragonやOSIRIS-Rexの例に見るよう

に宇宙機へも適用されつつある。本センサは日本が宇宙開発の自由度を確保するために、独自に開発すべきセンサである。

図1 Flash LIDAR イメージ

(a) 月着陸機の障害物検出センサ (b) ランデブー・ドッキング用の接近センサ

● APD+ROICの評価 試作したROICに半導体デバイス製造メーカによって製造されたAPDアレイを接合したFlash LIDARデバイスを図4に示す。図5はこのデバイスにf=4mmの単焦点レンズをつけて撮像した距離画像で、測距回路のカウンタクロックは500MHz、光源はYAGレーザ、視野角は約13°、距離約0.6mで”H”の文字を常温下で撮像して得られた結果である。 ガイガーモードでは、APDをブレークダウン電圧を超える動作点で使用するため、冷却して暗電流を抑制する必要がある。図6(b)は、(a)で示す試験装置に

て取得した検出感度と検出タイミングの特性を示している。低温にするにしたがって、感度が上がり検出タイミングの遅延も少なくなっていることがわかる。

● まとめ 開発中のFlash LIDAR専用デバイスについてその概要と2014年度試作デバイスの評価結果について報告した。 現在、PLL等の問題点への対策を施した2015年度試作ROICが製造プロセス

に入っており、今後試験評価を実施していく予定である。また、本開発デバイスを中心としたシステム検討も別途実施している。

図3 試作ROIC

図6 温度特性試験

(a)恒温槽内の試験装置

LD光をNDフィルタで減衰

1 JAXA宇宙科学研究所、2 総合研究大学院大学、 3 早稲田大学

● デバイス構造とROIC

図2 Flash LDIAR用デバイスの構造と1画素の測距回路の概略 Flash LIDARの開発の鍵は、APDアレイとその後段の測距回路および読み出し回路(ROIC:Read Out IC)で形成された受信専用の複合デバイスの開発にある。デバイスは図2のように、APDと測距回路をアレイ状に配置して、2つを垂直に接合して形成される。APDの感度を示すブレークダウン電圧を均一に作ることが難しいため、測距回路をできるだけ小さく作る必要がある。 ROICは試作開発コストを抑制する必要から、民生シャトルサービスのCMOS 0.18μmプロセスを選択した。1画素の測距回路の概略を図2に示した。0.1mの時間分解能を持たせるために内部で1GHzを生成し、回路規模を小さくおさえるためにカウンタではなくM系列符号発生器を使用している。ガイガーモードAPDのためのクエンチ回路については、APDアレイ側に抵抗負荷するか、外部に持たせる設計である。

図4 ROIC評価試験の例

(a) Y一列にタイミング信号 (b) 読み出しロジックの動作状況

図4 試作Flash LIDAR デバイス

(APD+ROIC, 16×16)

図5 距離画像 (16×16)

(b) 検出タイミングの温度特性

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