パラオ共和国におけるエコツーリズム促進と観光振興予備調査...

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パラオ共和国におけるエコツーリズム促進と観光振興予備調査 36 4. 環境政策の現状と課題 4.1. 自然保護地域の現況 4.1.1. 保護地域 保護地域を管轄するのは、前述したように、自然資源・環境・観光省(MNRET)の保護地域ネット ワーク事務所(PAN Office)である。表 5 にパラオの保護地域の一覧を示す。ピンクのシェード PAN に登録されている保護地域、黄色のシェードは PAN 未登録のものであることを示し、ほぼ 北から順番に配列している。図 10、図 11、図 12 に保護地域の位置を示した。保護地域の GIS デー タはパラオ自動土地資源情報システム(PALARIS)から入手したが、PAN 事務所から提供された リストに掲載されている保護地域で GIS データが存在しないものがあり、それを表中に*で示し た。また PAN 未登録の保護地域の中には面積や設立年など基本情報が提供されていないものが ある。 PAN 事務所のデータベースに登録されている保護地域は全部で 48 ヶ所あり、うち 30 ヶ所が PAN に登録されている。海域の保護区の総面積は 2,030.75km 2 で、うち 2,016.93km 2 PAN に登録さ れている。陸域の保護地域の総面積は 112.23km 2 で、うち 38.77km 2 PAN に登録されている。 ミクロネシア・チャレンジの目標は沿岸海域資源(Nearshore Marine Resources)の少なくとも 30%、 陸域資源(Terrestrial Resources)の少なくとも 20%を保全するというものである。パラオの沿 岸海域面積は 2,579.80km 222 、国土面積は 444km 2 であることから、陸域の保護地域は国土面積の 25.3%に達し、ミクロネシア・チャレンジの目標値をクリアしたことになる。ただし PAN の面積 のみを計算の対象とするのであれば、8.8%に過ぎないことになる。 2012 年の「ミクロネシア海洋保護区モデル構築のための総合的研究」の時点で沿岸域の 45%、 陸域の 10%が保護地域に指定されているという記述がある。一方、沿岸海域の定義は「満潮時 の海岸線から水深 100m の等深線までの範囲」と定義されているが 23 、海域保護区の総面積のう ち沿岸海域に相当する面積に関する情報が入手できなかった。海域保護区の総面積がすべて沿 岸海域であると仮定すれば 78.7%が保護地域ということになる。 なお表中、図中の MPA は海洋保護地域(Marine Protected Area)、CA は保全地域(Conservation Area)、 CZ は保全ゾーン(Conservation Zone)、MA は管理地域(Management Area)、NR は自然保護区 Nature Reserve)である。 22 Micronesia Challenge Action Planning Meeting December 4E7, 2006 23 Micronesia Challenge Action Planning Meeting December 4E7, 2006

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  • パラオ共和国におけるエコツーリズム促進と観光振興予備調査

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    4. 環境政策の現状と課題!4.1. 自然保護地域の現況!4.1.1. 保護地域!

    保護地域を管轄するのは、前述したように、自然資源・環境・観光省(MNRET)の保護地域ネット

    ワーク事務所(PAN!Office)である。表!5にパラオの保護地域の一覧を示す。ピンクのシェード

    は PANに登録されている保護地域、黄色のシェードは PAN未登録のものであることを示し、ほぼ

    北から順番に配列している。図!10、図!11、図!12に保護地域の位置を示した。保護地域の GISデー

    タはパラオ自動土地資源情報システム(PALARIS)から入手したが、PAN 事務所から提供された

    リストに掲載されている保護地域で GIS データが存在しないものがあり、それを表中に*で示し

    た。また PAN未登録の保護地域の中には面積や設立年など基本情報が提供されていないものが

    ある。!

    PAN事務所のデータベースに登録されている保護地域は全部で 48ヶ所あり、うち 30ヶ所が PAN

    に登録されている。海域の保護区の総面積は 2,030.75km2で、うち 2,016.93km2が PAN に登録さ

    れている。陸域の保護地域の総面積は 112.23km2で、うち 38.77km2が PANに登録されている。!

    ミクロネシア・チャレンジの目標は沿岸海域資源(Nearshore!Marine!Resources)の少なくとも30%、

    陸域資源(Terrestrial! Resources)の少なくとも 20%を保全するというものである。パラオの沿

    岸海域面積は 2,579.80km222、国土面積は 444km2であることから、陸域の保護地域は国土面積の

    25.3%に達し、ミクロネシア・チャレンジの目標値をクリアしたことになる。ただし PAN の面積

    のみを計算の対象とするのであれば、8.8%に過ぎないことになる。!

    2012年の「ミクロネシア海洋保護区モデル構築のための総合的研究」の時点で沿岸域の 45%、

    陸域の 10%が保護地域に指定されているという記述がある。一方、沿岸海域の定義は「満潮時

    の海岸線から水深 100mの等深線までの範囲」と定義されているが23、海域保護区の総面積のう

    ち沿岸海域に相当する面積に関する情報が入手できなかった。海域保護区の総面積がすべて沿

    岸海域であると仮定すれば 78.7%が保護地域ということになる。!

    なお表中、図中のMPAは海洋保護地域(Marine!Protected!Area)、CAは保全地域(Conservation!Area)、

    CZは保全ゾーン(Conservation! Zone)、MAは管理地域(Management! Area)、NRは自然保護区

    (Nature!Reserve)である。!

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    表 5 パラオの保護地域一覧 名称! 生態系・生物種! 州! 設立! 海洋! 陸域!

    保護地域総計! ! ! ! 2,030.75! 112.23!PAN登録保護地域合計! ! ! ! 2,016.93! 38.77!Ngaruangel!Reserve! Atoll!island,!reefs,!lagoon! Kayangel! 1996! 30.00! 4.96!Ngkesol!Barrier!Reef!MPA*! Barrier!reef! Kayangel! 2012! 163.00! E!Kayangel!Territorial!Waters*! Islands,!reefs,!lagoon! Kayangel! 2012! 1,522.00! E !Chermall!Forest!Preserve*! Atoll!forest! Kayangel! 2012! E! 0.003186!Ngerusebek!Forest!Preserve*! Atoll!forest! Kayangel! 2012! E! 0.003404!Ngeriuns!Bird!Sanctuary*! Black!Micronesian!Megapode! Kayangel! 2013! ! 34.00!Ebiil!Conservation!Area! Grouper!spawning!aggregations! Ngarchelong! 1999! 19.11! 0.00!Mangroves!C.A.! Mangrove! Ngaraard! 1994! 2.88! 0.00!Ungellel!C.A.! Mangrove! Ngaraard! 2007! 0.32! 0.00!Ngerkall!Lake!&!Metmellasech!Watershed! Forest,!pond,!watershed! Ngaraard! 2008! 0.00! 2.23!Diong!Era!Ngerchokl!C.A.! Forest,!stream,!watershed! Ngaraard! 2008! 0.00! 0.91!Ongiil!Conservation!Area!C.A.*! Mangrove!and!reef! Ngaraard! 2010! 2.00! !East!Coast!Ngaraard!C.A.*! Reef!flat! Ngaraard! 1990! ! !Ileakl!El!Beluu!Marine!C.A.! Mangrove,!reef!flat,!seagrass!bed!Ngardmau! 1998! 2.93! 0.00!Ileakl!El!Beluu!Marine!C.A.! Patch!reef! Ngardmau! 2005! 0.62! 0.00!Ngerchelchuus!Ridge! Forest,!Mountain!vista! Ngardmau! 2005! 0.00! 0.30!Medal!A!Iyechad!Waterfall! aterfall! Ngardmau! 2005! 0.00! 6.12!Ngermeskang!Bird!Sancturary!! Swamp!forest,!forest! Ngaremlengui! 2008! 0.00! 1.50!Bkul!a!Ngriil!C.A.! Mangrove/!Seagrass!bed! Ngaremlengui! 2006! 0.71! 0.00!Bkul!a!Beluu!&!Touachel!Mlengui!C.A.*! Channel/!reef! Ngaremlengui! ! 0.30! E!Mokad*! Reef! Ngaremlengui! 2009! 0.10! E!NgcherengelEClam!C.A.*! Reef/Clams! Ngatpang! 2008! 0.23! 0.00!UleiullECrab!Conservation!Area*! Reef/Crabs! Ngatpang! 2008! 0.19! 0.00!Uetra!Olterukl!lmora!MikedEFish!C.A.! Reef! Ngatpang! 2008! 0.11! 0.00!Ngerderrar!Watershed!C.A.*! forest,!mangrove! Aimeliik! 2009! 0.00! 3.80!Ngarmeduu!C.A.(portion)! Mangrove/!Mud!flat! Aimeliik! 1999! ! !Imul!Mangrove!Conservation!Zone! Mangrove! Aimeliik! 2002! ! !Ngerchebal!Island!Wldlife!C.A.! ! Aimeliik! 2006! ! !Reef!Sanctuary!(Berbor!Bilis!Oisbukel)*! ! Aimeliik! ! ! !Ngemai!C.A.*! Reef!flat! Ngiwal! 1997! 1.00! 0.00!Olsolkesol!Waterfall/!Ngerbekuu!River!N.R.!

    watershed,!river,!mangrove! Ngiwal! 2009! 0.00! 1.05!

    Ngardok!Nature!Reserve!! Lake,!wetlands,!watershed,!forest!

    Melekeok! 1999! 0.00! 6.44!

    Ngermedellim!Marine!Sanctuary! Reef! Melekeok! 2010! 0.45! E!Ngelukes!Conservation!Area! Patch!reef! Ngchesar! 2002! 1.04! 0.00!Mesekelat!Conservation!Area! Watershed,!forest! Ngchesar! 2002! 0.00! 2.05!Medal!Ngediuul!Conservation!Area! Seagrass!bed,!mangrove,!

    rockisland,!coral!reef!Airai! 2006! 3.18! 0.00!

    Ngcheschang!Mangrove!C.A.! Mangrove! Airai! 1994! 0.97! E!Ngeream!Mangrove!C.A.! Mangrove! Airai! 1997! 1.64! E!Oikull!C.A.! Mangrove! Airai! 2002! 0.78! E!Ngerukuid!Islands!Wildlife!Preserve! Islands,!reefs,!lagoon! Koror! 1954/1999! 3.60! 8.40!Ngerumekaol!Spawning!Area! Grouper!spawning!aggregations! Koror! 1976/1999! 3.50! 0.00!Ngkisaol!Sardine!Sanctuary! Mangrove,!Sardine!aggregation! Koror! 1999! 0.05! E!Ngederrak!Reef! Seagrass!bed,!reef!flat! Koror! 2001! 5.98! E!Ngerkebesang!Conservation!Zone! Reef!flat! Koror! 2002! 0.04! E!Ngemelis!Island!Complex! Rock!Islands,!reef,!mangroves! Koror! 1995! 0.80! 39.46!Teluleu!C.A.! Seagrass!bed,!reef!flat! Peleliu! 2001! 0.83! 0.00!Bkul!a!Usas! Seagrass,!reef!flat! Angaur! 2006! 0.39! 0.00!Helen!Reef!Reserve! Atoll!island,!reefs,!lagoon! Hatohobei! 2004! 262.00! 1.00!注: ピンクは PAN登録、黄色は PAN未登録の保護地域、*は GISデータが存在しない保護地域 出典: PAN Office

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    図 10 パラオの保護地域

    出典: PAN Office

    海岸線珊瑚礁

    N

    凡例PAN保護区

    CA: Conservation AreaCZ: Conservation ZoneMA: Management AreaNR: Nature Reserve

    その他保護区

    0 10 20 30km

    Helen Reef Manage Area

    Fana Island Important Bird Area

  • ! !

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    39!

    図 11 パラオの保護地域(バベルダオブ島)

    出典: PAN Office

    海岸線珊瑚礁道路

    N

    凡例PAN保護区その他保護区

    10km7.552.50

    CA: Conservation AreaCZ: Conservation ZoneMA: Management AreaNR: Nature Reserve

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    40!

    図 12 パラオの保護地域(南部ラグーン)

    出典: PAN Office

    海岸線珊瑚礁道路

    N

    凡例PAN保護区その他保護区

    10km7.552.50

    CA: Conservation AreaCZ: Conservation ZoneMA: Management AreaNR: Nature Reserve

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    41!

    「ミクロネシア海洋保護区モデル構築のための総合的研究」に掲載されている保護地域リストか

    らの主要な変更点は以下の通りである。!

    • カヤンゲル州:! Ngkesol! Barrier! Reef! MPA、Kayangel! Territorial! Water、Chemall! Forest! Preserve、

    Ngerusebek!Forest!Preserve、Ngeriuns!Bird!Sanctuaryの追加(GISデータなし)!

    • ガラールド州:Ngerkall!Lake!&!Metmellasech!Watershed、Diong!Era!Ngerchoki!Conservation!Area、

    Ongil!Conservation!Areaの追加、Marine!Life!Conservation!Areaを East!Coast!Ngaraard!Conservation!

    Areaに改称!

    • ガラスマオ州:Ngerchelchuus!Ridge、Medal!A!Iyechad!Waterfallの追加(いずれも陸域),ゲルマ

    セからブクラエリッド保全地域(Ngerumasech!to!Bkulachelid!C.A.)の削除!

    • ガラムルングイ州:モカッド礁(Mokad!Reef)の追加!

    • ガスパン州:保護地域全体の線の引き直しによる NgcherengelEClam! Conservation! Area、

    UleiullECrab!Conservation!Area、Uet!ra!Olterukl!lmora!MikedEFish!Conservation!Areaの設定!

    • アイメリーク州:Ngerderral!Watershed!Conservation!Area(陸域)と Reef!Sanctuaryの追加!

    • ギワル州:Ngemai!Conservation!Areaと Olsolkesol!Waterfall!/!Ngerbekuu!River!Nature!Reserve(陸

    域)の追加!

    • メレゲオク州:Near!Shore!&!Ngerang!Marine!Sanctuaryを Ngermedallim!M.S.に改称!

    概観して、バベルダオブ島、特にその陸域の保護地域の追加が目立つ。保護地域設定の目的とし

    て、産卵場など水産資源の枯渇を防ぐための禁漁区と、景観の優れた自然公園的な保護区が PAN

    の中に混在している点には留意が必要である。!

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    ギワル州ゲルベクー自然保護区のマングローブ林

    ギワル州に残る石畳の古道

  • パラオ共和国におけるエコツーリズム促進と観光振興予備調査

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    42!

    4.1.2. 保護地域管理計画!現在作成されている保護地域管理計画は以下の通りである。PCS(Palau!Conservation!Society)と

    TNC(The! Nature! Conservancy)が大半の管理計画の作成に関与している。GEF 資金を利用して

    UNDPが PALARISを通じて実施する「持続可能な土地管理(SLM:!Sustainable!Land!Management)

    プロジェクト」、パッカード財団(David! &! Lucile! Packard! Foundation)の「生態系管理(EBM:!

    EcosystemEbased!Management)プロジェクト」、ベラウ集水域同盟(BWA:!Belau/Babeldaob!Watershed!

    Alliance)などのドナーや NGOが管理計画策定を資金面、技術面で支援している。管理計画はい

    ずれも 5カ年計画の体裁をとり、5年ごとに改定が行われる。!

    以下に各管理計画の概要を示す。!

    (1) カヤンゲル州ゲルワンゲル保護区管理計画(Ngeruangel!Reserve!Management!Plan)!2000年 2月に TNCパラオ事務所によってカヤンゲル州政府のために作成された。ゲルワンゲル

    保護区はカヤンゲル環礁の北西に位置する環礁で、パラオのいくつかの家系がこの環礁を発祥地

    とする伝承があり、一種の聖地でもある。!

    1996年に他州に先駆けて制定された自然保護のための州法である「カヤンゲル保護法(Ngeruangel!

    Protection!Act)」の目的は、「ここに生息、給餌、繁殖、移住、営巣する魚類、ウミガメ、鳥類などの

    生物と歴史的遺物を含む自然文化資源の回復、保全、賢明利用(Wise! Use)を図る」こととされ

    ている。そのための具体的目標として、以下の 6点が挙げられている。!

    • 特定のコミュニティの利用を勘案し、ゲルワンゲルへのアクセスと利用を制御する。!

    • ゲルワンゲルの魚類の個体数を保全する。!

    • ゲルワンゲルの生物資源、特に海鳥とウミガメを保全する。!

    • 持続的な貝類の採取を可能とする。!

    • カヤンゲルの住民に裨益する、環境に適合した活動を見つけ出し、支援する。!

    • 効率的なモニタリングプログラムを確立する。!

    5 番目の項目の「活動」は具体的には「観光」を指すことが管理計画に記述されている。許容

    される活動として、来訪、漁労、キャッチアンドリリースのスポーツフィッシング、ダイビング、

    ウミガメの捕獲、貝類の採集、環境モニタリング、調査研究、緊急避難を挙げ、詳細な条件と規則が

    記述されている。いずれの活動も事前の申請と知事の許可を必要とし、活動の内容に応じて異な

    る使用料を払うことを義務づけている。!

    カヤンゲル州は 2012年に「カヤンゲル保護地域ネットワーク 5カ年管理計画(Kayanel!Protected!

    Areas!Network!Five!Year!Management!Plan)2013E2018」を作成しているようだが、PAN事務所から

    提供された資料の中には含まれていなかった。またこの計画書が対象としている 6ヶ所の PAN

    保護区のうち、ゲルワンゲル以外は PALARISから提供された GISデータに含まれていなかった。

  • ! !

    ! !

    43!

    上記管理計画の状況について再確認が必要である。なおカヤンゲル州では現在石油探査が行な

    われ、その賛否についてパラオ国内で議論が戦わされている。!

    (2) ガラールド州ケラデル保全ネットワーク管理計画(Kerradel!Conservation!Network!Management!Plan)!201102016!

    2011年 4月に PCSの支援を受けたケラデル計画チームが計画案を作成した。資金源として、UK!

    Darwin!Initiative/!Birdlife!International、TNC、パッカード財団の「生態系管理プロジェクト」、UNDP

    が PALARIS を通じて実施する「持続可能な土地管理プロジェクト」の名前が挙げられている。

    Kerradel!Conservation!Networkは州内の以下の4ヶ所の保護地域を指す。!

    • 西海岸マングローブ CA(West!Coast!Mangrove!Conservation!Area)!

    • ウンゲレル CA(Ungellel!Conservation!Area)!

    • ゲルカル湖とメトメラセ集水域CA(Ngerkall!Lake!and!Metmellasech!Watershed!Conservation!Area)!

    • ディオン・エラ・ゲロキ CA(Diong!Era!Ngerchokl!Conservation!Area)!

    図 13 ガラールド州ケラデル保全ネットワーク

    出典: Kerradel Conservation Network Management Plan 2011-2016

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    44!

    管理計画の 20年後の将来像(Vision)として以下が挙げられている。!

    • 海域と陸域の資源の享受!

    • 持続可能な収穫と捕獲(Harvest)!

    • 環境に優しい観光による所得創出!

    また直近 10年の目標として以下が挙げられている。!

    • ケラデル保全ネットワーク内の土地が良好な状態となる。!

    • 法規と計画が整備され、実行され、施行される。!

    • 人々が保護地域ネットワークについて知り、それを支援する。!

    • 自然資源が健康で、持続的に利用できる。!

    • エコツーリズムが導入される。!

    州内の保護地域は不可侵ゾーン(NoEImpact!Zone)、非資源利用ゾーン(NonEExtractive!Use!Zones)、

    資源利用ゾーン(Extractive!Use!Zone)に 3分類され、西海岸のマングローブ林の一部などが観光

    利用可能な資源利用ゾーンに指定されている。ゲルカル湖とメトメラセ集水域保護地域は主と

    して水源の確保に主眼があり、大部分が不可侵ゾーンに指定されている。!

    なおガラールド州東海岸北部にはビーチが連続している地域があり「ガラールド東海岸保全地

    域(East!Coast!Ngaraard!Conservation!Area)」に指定されているが、本管理計画の対象とはなって

    いない。ここの借地権獲得を狙って主として中国から投資家が殺到している。!

    (3) ガルスマオ州オンゲデウール保護地域システム生態系管理計画(Ongedechuul!System!of!Conservation!Areas!Ecosystem0Based!Management!Plan)201102016!2011年 7月に PCSの支援を受けたガルスマオ保全委員会によって作成された。資金源としてミ

    クロネシア保全基金(Micronesia!Conservation!Trust)、UK!Darwin!Initiative!/!Birdlife!International、パッ

    カード財団、ガラスマオ州政府が挙げられている。また UNDP/GEFによる「持続可能な土地管理

    プロジェクト」のロゴが表紙に入っているので何らかの支援を受けたことが分かる。管理計画

    の対象は、州内の以下の4ヶ所の保護地域である。!

    • ゲルマセーブクラエリッド CA(Ngermasech!to!Bkulachelid!Conservation!Area)!

    • イレヤクルベルーCA(Ileyaklbeluu!Conservation!Area)!

    • ゲレルース CA(Ngerchelchuus!Conservation!Area!

    • タキとゲルテベエル CA(Taki!and!Ngertebechel!Conservation!Area)!

    将来像は「2031年までに効果的な管理によって自然の健全性と美観を維持し、それによって人々

    が未来の世代のために団結して協働するような好ましい文化的実践と持続可能な生業を促進す

    る」とされている。具体的な目標として以下の 3点が挙げられている。!

  • ! !

    ! !

    45!

    • 2015年 12月までに保護地域システムが効果的に管理され、設立の目的を達成する。!

    • 2021年までに保護地域システムが持続的な資金調達によって永続性を獲得する。!

    • 2015年までに保護地域システムが好ましい文化的実践の維持を助長し、成功事例に基づく管

    理手法と伝統的な保全手法によって管理される。!

    図 14 ガルスマオ州オンゲデウール保護地域システム

    出典: Ongedechuul System of Conservation Areas Ecosystem-Based Management Plan 2011-2016

    保護地域は観光ゾーン(Tourist!Zone)、禁漁/アクセス制限ゾーン(NoEtake/Controlled!Access!Zone)、

    サービスゾーン(Service!Zone)に 3分類され、観光ゾーンでは小規模な観光施設の建設が可能と

    されている。サービスゾーンは電線など保護地域の維持管理に必要なインフラ建設のための用

    地である。!

    保護地域内には州政府と民間企業が提携して運営する観光地ガルスマオの滝と、パラオ最高峰の

    ゲラルース山がある。保護地域システムは「分水嶺から珊瑚礁まで(Ridge!to!Reef)」のコンセ

    プトにしたがって、異なる生態系の保護地域を含めている。海域の保護地域では州政府から許可

    を得れば漁労も観光も可能である。前述のガラールド州のものに比べると、観光に対する許容度

    が大きく設定されているように思われる。!

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    ! !

    46!

    (4) ギワル州保護地域と自然資源管理計画(Protected! Areas! and! Natural! Resource! Management! Plan)201002015!

    2010年3月にバベルダオブ(後のベラウと改称)集水域連盟(BWA:!Babeldaob!Watershed!Alliance)

    プログラムを通じて TCNパラオ事務所によって作成された。管理計画の対象は陸域と海域の以

    下の 2ヶ所の保護地域である。!

    • オセルケソル滝とゲルベクー自然保護区(Oselkesol!Waterfall!and!Ngerbekuu!Nature!Reserve)!

    • ゲマル保護地域(Ngemal!Conservation!Area)!

    図 15 オセルケソル滝とゲルベクー自然保護区とゲマル保護地域

    出典: Protected Areas and Natural Resource Management Plan 2010-2015

    管理計画の将来像は「未来の世代のために健全なコミュニティと生態系を確保するために、エコ

    ツーリズム振興を含む持続可能な開発と自然資源の保全を通じて、ギワル州民が生業の改善を望

    むようになる」と定めている。管理計画の要点は以下のとおりである。!

    • 保護地域内で許容される活動内容を管理する。!

    • 資源利用区分の設定によって、自然資源の過剰利用の脅威を軽減する。!

    • 州内での効果的な保全執行プログラムを開発する。!

    • 人々の生業を改善するための持続可能な事業を開発する。!

    • 海沿いのコミュニティの将来の計画を立てるために必要な情報とガイドラインを提供して、

    海面上昇に対して回復力のあるギワルコミュニティを築く。!

    将来像(Vision)に明示されているように、観光産業、特にエコツーリズムを州の保護地域行政の

    中核に据えている。州内にはタロ芋畑や伝統集落、それを結ぶ石畳の道などの文化観光資源が存

    在することが知られているが、こうしたものと保護地域管理計画との統合をはかることが将来的

  • ! !

    ! !

    47!

    には必要なのではないか。また海面上昇に関する言及があるが、海を見下ろす斜面に立地してい

    た伝統集落の見直しの契機となることに期待したい。!

    (5) メレゲオク州ガルドク自然保護区管理計画(Ngardok!Nature!Reserve!Management!Plan)201002014!2010 年 2 月に作成された州内陸部に位置するガルドク湖を含む自然保護区の管理計画である。

    資金源に関する言及はない。ガルドック湖はミクロネシア最大の淡水湖で、メレゲオク州の州法

    制定によって 1997年に保護地域となった。2002年にラムサール条約登録湿地となった。!

    図 16 ガルドク自然保護区

    出典: Ngardok Nature Reserve Management Plan 2010-2014

    管理計画の目的は「ガルドク湖水域(Watershed)の保護と保全をおこなうこと」と州法(MSPLE4E32)

    で定められている。そのための 6項目の目標は以下のとおりである。!

    • メレゲオク州民に良質な飲料水を供給する。!

    • 州民、パラオ国民、外国からの来訪者に娯楽と教育を提供する。!

    • ガルドク湖と周辺の成育地の生態的なまとまりを維持する。!

    • 湖水域の固有動植物を保護する。!

    • 湖水域の生物と生態系の調査研究の機会を提供する。!

    • 州内の自然資源を効率的に管理する能力を高める。!

  • パラオ共和国におけるエコツーリズム促進と観光振興予備調査

    ! !

    48!

    管理計画は保護区内での禁止事項と許容される行動を定めている。許容される行動のなかには

    事前の許可を必要とするものとそうでないものがある。ガイドのいない来訪者は、既存の遊歩道

    以外を歩いてはならないことになっている。他州の管理計画と同様、管理責任者は州知事で、州

    知事と酋長がメンバーを指名する管理委員会(Management!Board)は必要に応じて州知事に助

    言を行なう。!

    (6) ゲサル州保護地域システム管理計画(Ngchesar!State!Protected!Area!System!Management!Plan)201102015!PCS の支援を受けてゲサル州保全管理行動計画チームが作成した。作成時期に関する情報が欠

    損している。GEF資金を利用してUNDPが PALARISを通じて実施する「持続可能な土地管理(SLM)

    プロジェクト」および「Critical!Ecosystem!Partnership!Fund」のロゴが報告書にはいっているので、

    これらからも支援を受けていると推察される。以下の二ヶ所の保護区を対象とする。!

    • メセケラット保護地域(Mesekelat!Conservation!Area)!

    • ゲルケス保護地域(Ngelukes!Conservation!Area)!

    図 17 ゲサル州保護地域システム

    出典: Ngchesar State Protected Area System Management Plan 2011-2015

    管理計画の将来像は「ゲサル州民はゲルケスとメセケラットを保護保全し、これらの自然資産が

    州民の現在と未来の便益ために維持されることを望む」で、そのための目標として以下の 3点が

    挙げられている。!

    • 2020年までに、ゲルケス礁の豊富な無脊椎動物と魚類が 2002年調査時のレベルまで回復、あ

    るいはそれ以上に改善する。!

    • 2020年までに、メセケラット保護地域が健全で、ゲサル州にきれいな水が供給され続ける。!

  • ! !

    ! !

    49!

    • 2020年までに両保護地域から得られる収入が 2010年から 10%増加する。!

    水源林の保全と、沖合のパッチリーフの漁労の持続可能性に重点が置かれた計画となっている。!

    (7) ガラムルングイ州保護地域管理計画(Protected!Areas!Management!Plan)201302017!2012年 11月に A.! L.! Isechalと PCSの支援を受けたガラムルングイ管理計画チームによって作成

    された。報告書冒頭にベラウ集水域連盟(BWA)テクニカルチームのパートナーである TNC、

    パラオ国際珊瑚礁センター(PICRC)、ベラウ国立博物館(BNM)、MNRET農業局からの技術支援

    を受けたことに関する記述がある。資金源はパッカード財団(David!&!Lucile!Packard!Foundation)

    である。対象となっている州内の保護地域は以下の通りである。!

    • ゲルメスカン自然保護区(Ngermeskang!Nature!Reserve)!

    • ゲルメスカン野鳥保護区(Ngermeskang!Bird!Sanctuary)!

    • メエロン堡礁(Mecherong!Outer!Reef)!

    • ブクル・レングリル(Bkul!Lengril)!

    • テワエル・ムラングイ(Tewachel!Mlangui)!

    • ガレメドゥーCA(Ngermeduu!Conservation!Area)!

    管理計画は以下の5つの目標を掲げている。!

    • 生態系の統合性を維持し、生物多様性を守る。!

    • 規則の執行と遵守を強化する。!

    • 環境を劣化させない収益活動を含む代替生業を開発振興する。!

    • 計画を立案する。!

    • 教育と意識向上を図る。!

    3 番目の項目は保護地域の観光利用に関するもので、代替生業の開発に関しては観光・来訪者計

    画を作成し、州の法令と整合性のある料金体系を確立することが言及されていることからも分か

    るように、保護地域の観光利用を念頭に置いた管理計画となっている。!

    管理計画では上記以外に、計画実施体制、役割分担、保護地域ごとの禁止事項と許可事項一覧、保

    護地域に関する法規一覧、入域料と罰則、運営費用が示されている。しかし個々の保護地域内で

    のゾーニングは行われていない。またモニタリングと施行/監視計画は今後の課題と記述されて

    いる。また今後の活動として保全地域と文化資源などを含めた「観光/来訪者計画作成」につい

    て言及されている。!

    ガラムルングイ州はガレメドゥー湾に面する3州のひとつで、ゲルメスカン川沿いのマングロー

    ブ林とその上流の野鳥保護区は観光ポテンシャルが高いと考えられている。また UNESCO 世界

    遺産暫定リスト(世界遺産に登録申請され、正式な登録待ちになっているもの)に複合遺産とし

  • パラオ共和国におけるエコツーリズム促進と観光振興予備調査

    ! !

    50!

    て登録されているイメオン保護区(Imeong! Conservation! Area)24はガラムルングイ州内にあり、

    ミラッドの洞窟、伝統集落ゲルテエイなどの記述があるが、既存の情報ではその範囲を確定する

    ことができない。上記保護地域との重複の有無の確認を含め、統合を図ることが必要ではないか。!

    またガラムルングイ、ガスパン、アイメリークの3州はガレメドゥー湾に面し、ガレメドゥー保護

    地域(NCA:!Ngaremedhuu!Conservation!Area)は 2005年に UNESCOの「人と生態系(MAB:!Man!and!

    Biosphere)保護区」に指定されている。UNESCO側の資料によれば保護地域調整委員会(CACC)

    という 3州にまたがる組織が存在することになっているが25、活動の実態をつかむことができな

    かった。観光的にも重要な地域だと考えられるので、今後の調査が期待される。!

    (8) アイメリーク州ゲルデラル集水域保全地域管理計画(Ngerderar! Watershed! Conservation! Area!Management!Plan)201102016!2011年 7月に PCSの支援を受けたゲルデラル集水域保全委員会のメンバーが作成した。資金源

    は TNC、パッカード財団の「生態系に基づく管理(EBM)プロジェクト」、GEF/UNDP/PALARISの

    「持続可能な土地管理(SLM)プロジェクト」である。!

    アイメリーク州にはこれ以外に、ガレメドゥー保全地域、イムルマングローブ保全地域、ゲレバル

    島野生保全地域、珊瑚礁聖域の4ヶ所の保全地域があるが、唯一内陸に位置するゲルデラル集水

    域保全地域のみが PANに登録されている。!

    図 18 ゲルデラル集水域保全地域

    出典: Ngerderar Watershed Conservation Area Management Plan 2011-2016

    20年後の将来像は「優れた水質と水量、自然で健全な州の文化自然資源、自然資源の限定的な利

    用」とされている。そのための目標は以下の 5項目である。!

    • 対象地域に関する理解が向上!

    !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !24!http://whc.unesco.org/en/tentativelists/1931/!25!http://www.unesco.org/mabdb/br/brdir/directory/biores.asp?code=PLW+01&mode=all!

  • ! !

    ! !

    51!

    • 持続可能なエコツーリズム!

    • きれいな価値のある水資源!

    • 文化遺産の修復!

    • 法の執行強化による自然資源の保護!

    保護地域の管理責任者は州知事で、ゲルデラル集水域保全委員会が州知事を補佐するという体制

    は他の保護区と同様である。利用区分は「観光ゾーン」と「禁猟/アクセス制限ゾーン」のふた

    つで、「観光ゾーン」では遊歩道の整備と遊歩道沿いの重機を使わない限定的な観光整備が許容

    される。カヤックツアーの実施を想定する。文化遺産に関しては、保全地域内に伝統集落跡地と

    第二次世界大戦時の遺構が確認されている。!

    (9) アイライ州メダルゲディウル保全地域 5カ年管理計画(Medal!Ngediull!Conservation!Area,!Airai!0!a!Five!Year!Management!Plan)201402019!2013年 6月に PCSの L.!GibbonsEDecherongの支援を受けて、アイライ州資源管理計画チームが作

    成した。州内にはこれ以外にゲレアム(Ngeream)マングローブ保全地域、オイクル(Oikul)保

    全地域、ゲサン(Ngcheschang)マングローブ保全地域があるが、この管理計画ではメダルゲディ

    ウルのみを対象とし、これのみが PANに登録されている。!

    図 19 メダルゲディウル保全地域

    出典: Medal Ngediull Conservation Area, Airai - a Five Year Management Plan 2014-2019

    将来像は「10 年後には土砂の堆積とその他汚染が保全地域から取り除かれ、魚、カメ、その他生

    物が保全地域に満ち溢れ、アイライの人々とその子どもたちが保全地域の管理について学び、参

    加することによって、保全地域の健全性と生産性、生態系を維持し、保全地域がアイライ州の人々

    の福利と経済に貢献するようになる」と定めている。!

  • パラオ共和国におけるエコツーリズム促進と観光振興予備調査

    ! !

    52!

    そのための目標は以下の5項目である。!

    • メダルゲディウルが 30年前のような健全な珊瑚礁に回復する。!

    • 保全地域があらゆるレベルの学生と一般人向けの環境と社会科学研究の土台となる。!

    • 保全地域の法規が改善され、それが完全に執行される。!

    • モニタリング計画が作成され、保全地域担当の職員によって実施されるだけでなく、コミュニ

    ティのメンバーがモニタリングの一部の業務に参加する。!

    管理計画書の冒頭に保全地域が国際保護連合(IUCN)の保護地域管理区分の 1aの「厳正保護地

    域」に該当することが述べられている。つまり観光利用を想定していない。対象地域は魚の産

    卵場として重要だが空港の近隣に位置し、周辺で進行する開発による土砂の流入による環境の悪

    化を回復することに重点が置かれている。アイライ州は観光利用を想定しないメダルゲディウ

    ルのみを PAN に登録して補助金をもらい、観光利用する保全地域は州政府が独自に管理する方

    針であることがわかる。!

    アイライ州の沿岸はカヤッキングによる観光が盛んで、保全地域には含まれていないゲリル(Ngellil)

    島(図!19の左下)には世界遺産の暫定リストに登録されているヤップ石貨の石切場もある。ア

    イライ州にはマングローブ林が広範囲に分布し、PANに登録されていないものを含めて4ヶ所の

    保全地域はいずれもマングローブ林を含んでいる。特にオイクル(Oikul)のマングローブ林は

    観光的に重要だという指摘があった。!

    (10) コロール州南部ラグーンのロックアイランド管理計画(Rock!Islands!Southern!Lagoon!Management!Plan)201202016!

    PCS と TNC の支援を受けてコロール州実行委員会が作成した。世界遺産である「南部ラグーン

    のロックアイランド(RISL:!Rock!Islands!Southern!Lagoon)」を含むコロール州の全水域と、コロー

    ル島北部の市街地を除く州内の全島嶼を管理計画の対象とする。この範囲は 2012年に世界遺産

    に登録されたものと同じである。!

    ロックアイランド管理計画の将来像は「ロックアイランドの壮観な美しさと豊富で多様な自然、

    文化、歴史資源を維持し、コロール州とパラオの現在と将来の世代がそれを利用し続けられるよ

    うに、またそれが我々の文化とライフスタイルの中核となり、現在と将来にわたって全世界が享

    受し続ける」とされている。管理目標は以下の 5項目である。!

    • 生物多様性/自然システムの健全性の強化:生物多様性、生息域、生態系の諸過程と高い環境

    の質を維持する。!

    • 自給的業業と商業漁業の改善:自給漁業、商業漁業、その他の資源搾取活動が環境的にも経済

    的にも持続可能で、文化的に適合し、コロールとパラオの人々を継続的に裨益する。!

    • 文化と歴史の保全:景観、考古遺跡、石造りの村と結びついた口頭伝承を保全することによっ

    てパラオの文化を育成・維持し、史跡を保全する。!

  • ! !

    ! !

    53!

    • 観光、レクリエーション、経済活動の強化:高品質の観光とレクリエーション活動が環境的に

    も経済的にも持続可能で、文化的に適合し、コロールとパラオの人々を裨益する。!

    • 州政府の行政能力開発:規制の枠組み、施行、監視の強化、関係機関と関係者との関係とコミュ

    ニケーションを確立することに重点を置いて、州政府の行政能力を強化し効率的に管理でき

    るようにする。!

    図 20 南部ラグーンのロックアイランド(RISL)

    出典: Rock Islands Southern Lagoon Management Plan 2012-2016

    ロックアイランドの管理主体はコロール州政府で、1989年に設立された保全と法規施行局が、関

    連部局や中央政府諸機関の協力を得て、担当する。同局はレンジャーを含めた 53名のスタッフ

    を擁する。管理計画には、前述の 5項目の目標別に作成された詳細な政策マトリクスが含まれて

    いる。!

    政策マトリクスに「ツアーガイド認証プログラム(Tour!Guide!Certification!Program)」があり、

    すでに実施が始まっている。歴史と文化、海洋と陸域の環境、安全管理と法規の 3項目からなる

  • パラオ共和国におけるエコツーリズム促進と観光振興予備調査

    ! !

    54!

    英語の試験を実施し、これをパスした者のみがコロール州内でガイドとして働くことができる。

    違法な中国人ガイドを排除する意図があると言われる。!

    管理計画の実施費用はロックアイランドとジェリーフィッシュレイクの入域料(Permit)と必

    要に応じて提供される州政府の補助金が充てられるが、管理計画を全面的に実施するには十分で

    はなく、ロックアイランド内のPAN保護地域に対する政府からの補助金、NGO、ドナーなどの支援

    をあおぐべきであることが管理計画に記述されている。!

    ゾーニングは図!20に示したように定められている。パラオの象徴として観光パンフレットや環

    境関連報告書の表紙に頻繁に登場する「セブンティアイランド(70!Islands/Ngerukewid!Islands)」

    への観光客の立ち入りは禁止されている。ロックアイランドの管理は 2009年制定のコロール州

    法であるロックアイランド管理保全法(Rock!Islands!Management!and!Conservation!Act!E!Koror!State!

    Public!Law!No.!K8E207E09,!No.!K8E209E09,!K9E245E2011,!K9248E2011)に基づいて行われている。管理

    計画には州法とロックアイランド内での規則との詳細な対応表が含まれている。!

    世界遺産地域を対象とするだけあって、他州のものに比べて、管理計画の具体性において格段に

    優れている。!

    (11) ペリリュー州テルリュー保全地域5カ年管理計画(Teluleu!Conservation!Area!Five!Year!Management!Plan)201302018!

    2013年 4月に PCSの支援を受けてペリリュー管理計画チームが作成した。TNCとミクロネシア

    保全基金(Micronesia!Conservation!Trust)が資金を提供している。!

    図 21 テリリュー保全地域

    出典: Teluleu Conservation Area Five Year Management Plan 2013-2018

    管理計画の目標は以下の 4項目である。!

    • 地元の関係者と学生、その他協力者を巻き込んで調査モニタリング計画を作成し、生息域と海

    洋生物の保護を強化する。!

  • ! !

    ! !

    55!

    • 伝統的管理手法、規則、適正な財源によって補完、支援された法的枠組みの改善によって法の

    執行と監視を強化する。!

    • ペリリューの州民と来訪者によるテリリュー保全地域の理解と支援を達成する。!

    • PAN 登録による補助金と他の財源の探索によって持続可能な財源を確保し、管理主体がテリ

    リューを管理するために必要な能力開発受けられるようにする。!

    テリリュー保護地域はペリリュー島北港前に位置する小規模な(0.83km2)保全地域で、管理計

    画の主眼は漁場の管理にある。!

    (12) ハトホベイ州ヘレン環礁管理計画(Helen!Reef!Management!Plan)201102015!ヘレン環礁管理計画(Helen!Reef!Management!Plan)はヘレン環礁委員会と協議のうえで、Wayne!

    Andrew、Scott!Atkinson,!Mike!Guilbeaux、Augus!Wongが作成した。現計画は 2006年にパッカード財

    団の組織効率化プログラム(OEM)の支援を受けて作成された「ヘレン環礁資源管理プログラ

    ム」を改訂したものである。ヘレンリーフは南西諸島の最南端に位置する環礁である。保護地

    域設定の基礎となる州法であるヘレン環礁管理法(Helen!Reef!Management!Act)は 2001年に成

    立した。!

    図 22 ヘレン環礁

    出典: Helen Reef Management Plan 2011-2015

  • パラオ共和国におけるエコツーリズム促進と観光振興予備調査

    ! !

    56!

    管理計画の目標は以下の 6項目である。!

    • 生物学的目標:ヘレンリーフの生態系の健全性、重要種、生息域、生物多様性を含めた生物資

    源を回復、維持、理解する。!

    • 社会経済的目標:管理計画の目標に適合する様々な活動を通じて、ハトホベイ州民とその客

    人がヘレンリーフの社会経済的便益を享受する。!

    • 計画管理目標:ヘレンリーフの経営と管理が効率的、確実、透明、効果的で、順応性に富む。!

    • 財務目標:2016年までに管理計画が財務的に自立し持続的になる。!

    • 施行と遵法目標:ヘレンリーフが違法行為から 100%保護される。!

    • 意識向上と教育目標:ホトホベイコミュニティと関係者、支援者が管理計画の目標をよく知

    り、協力的になる。!

    ヘレン環礁はパラオ共和国最南端にあり、パラオ本島よりマルク諸島やパプアニューギニアに近

    い。ハトホベイ州は人口の流出で存続の危機にあり政府の監視の目が届きにくいため、密漁が行

    なわれやすい状況にある。ダイビングツアーのリブアボードがまれに寄港することがあるが、

    領海と排他的経済水域を防衛する観点から、こうしたツアーを国策として振興することが考えら

    れる。マルク諸島やパプアニューギニアはダイビングで名高く飛行機の便もあるため、こうした

    国外のダイビング観光地との連携を図ることも視野に入れるべきではないか。!

    !

    !

    !

    !

    !

    !

    ! !

    コロール州の世界遺産ロックアイランド

    アイライ州ゲリル島のヤップ石貨

  • ! !

    ! !

    57!

    4.2. パラオにおける環境/観光関連プロジェクト/プログラム!4.2.1. ベラウ集水域同盟(BWA)!

    ベラウ集水域同盟(BWA:!Belau!Watershed!Alliance)は 2006年にメレゲオク州とガラムルングイ

    州によるバベルダオブ集水域連盟(Babeldaob!Watershed! Alliance)として始まり、その後島内の

    他州に広がり、2011 年に現在の名称に改称してパラオ全国をカバーする環境プログラムになっ

    た。BWAの設立には TNCと PCSが深く関わり、設立時に「ハワイ集水域パートナーシップ(HAWP:!

    Hawaii!Watershed!Partnership)」を参考にしている26。!

    BWAの将来像(Vision)と使命(Missions)は以下の通りである。図!23にはバベルダオブ島の集

    水域を示した。!

    • 将来像:各州がきれいな水と健康的な居住

    地を確保し、さまざまな関係者の協同によっ

    て環境的に持続可能な経済開発を推進する

    ための国家的なモデルとなる。!

    • 使命:コミュニティによる、そしてコミュ

    ニティのための協同作業、教育、ネットワー

    ク化、科学、情報共有、技術援助を通じて、パ

    ラオの水資源を守り、保全し、回復させる。!

    2011 ー 2016年の BWAの 5カ年アクションプラ

    ンでは、プログラムの5つの目標を以下の通り

    定めている。!

    • パラオおよびミクロネシアにおける集水域

    管理と水資源問題に関する国と州の指導者

    の関与と公衆の意識を高め、維持する。!

    • BWAに対する持続的な財政と技術支援を確

    保する。!

    • 集水域管理の実践と計画立案活動・政策と

    の統合を図る。!

    • 政府機関と水質モニタリング活動について

    調整を行なう。!

    • 生物多様性を守り、生態系を維持し、コミュニティの健康と安全と安泰のために水資源と食物

    を維持することを通じて、気候変動に対する復元力を築く。!

    !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !26!http://www.palauconservation.org/cms/index.php/conservationEprograms/policyEandEplanning/belauEwatershedEallianceEbwa!

    図 23 バベルダオブ島の集水域区分

    出典: PALARIS

  • パラオ共和国におけるエコツーリズム促進と観光振興予備調査

    ! !

    58!

    パラオの環境行政は、当初は漁業と関連の深い海域に重点が置かれ、ミクロネシア・チャレンジの

    目標を海域では早い時期に達成したが、陸域の環境保全はやや立ち遅れていた。BWA は陸域の

    環境保全への取り組みを強化するもので、「分水嶺から珊瑚礁まで(Ridge! to! Reef)」を合言葉

    にした陸域の自然保護地域の制定活動とも関連が深く、PAN管理計画作成に際しても BWAが関

    わっているものが多い。!

    4.2.2. 持続可能な土地管理(SLM)プロジェクト!持続可能な土地管理(SLM:!Sustainable!Land!Management)プロジェクトは UNDPが GEF資金を利

    用して実施する土地利用計画・管理プロジェクトである。UNDPは同名のプロジェクトを後発開

    発途上国(LDCs:!後発開発途上国)と小島嶼開発途上国(SIDS:!Small!Island!Developing!States)を

    対象に世界的に実施している。!

    パラオでは社会基盤・産業・商業省傘下のパラオ自動土地資源情報システム(PALARIS)がカウン

    ターパート機関として同プロジェクトを実施している。地球環境ファシリティー(GEF)レベル

    のプロジェクトの目的は以下のとおりである。!

    • パラオの組織と人材の能力を強化し、持続可能で平等な土地管理計画とその実施能力が向上

    する。!

    • パラオの規制、政策、経済的枠組を強化し、持続可能な土地管理実践の手法が多セクターに受

    入れられるようにする。!

    • 女性を含む社会の脆弱な社会層の平等な参加を通じて、持続可能な土地管理によって土地の

    経済的生産性を向上させ、生態系の安定性と機能とサービスを保全あるいは修復する。!

    パラオの国レべルのプロジェクトの目的は以下のとおりとされている。!

    • 組織とのコミュニティの持続可能な土地管理と、それを開発戦略や開発計画において主流化

    し、必要時に介入する能力を強化する。!

    • 土地劣化防止策をとれるようにするために、女性グループを含む現地政府、コミュニティ組織

    や NGOとのパートナーシップを築く。!

    • あらゆるレベルの関係者が平等に関与できる持続可能な土地利用計画と規制/政策計画を立

    案する。これらの計画は現在と将来の世代のために土地の生物的生産性を向上させるものと

    なる。!

    いまのところ、このプロジェクトの明確なアウトプットが入手できていない。進捗状況とプロジェ

    クトのアウトプットに関して、今後の調査に期待したい。!

  • ! !

    ! !59!

    4.3. エコツーリズム振興のための環境管理の課題!パラオの環境管理の仕組みについて、エコツーリズムと観光振興の観点からの課題を以下にまと

    めた。!

    4.3.1. グリーンフィーとパーミット!グリーンフィー(環境保護税)とパーミット(入域許可証)はパラオの環境管理の資金調達の

    ための重要な仕組みである。前者は国の、後者は州政府が自然保護地域の管理のために徴収する。

    しかし実際には政府や州政府の収入源という側面があり、安易な値上げが行われやすい反面、そ

    れが航空会社の運行に影響をあたえるリスクにやや無頓着ではないかと感じられる。!

    特にチャーター便は市場側の恣意性が強く、価格弾性値の大きな(つまり値上げすると需要が急

    減しやすい)観光需要に依存しているため、値上げによって他の類似観光地へ利用者が流れ、特

    定の目的地に特化した小規模なチャーター便会社のばあい、その生死を左右することがありうる。

    近隣諸国の観光地の入場料とのバランスと航空政策に十分配慮して、これらの料金を考える必要

    があるのではないか。!

    4.3.2. 料金による観光客の分散!ジェリーフィッシュレイクのパーミットが 100 ドルに値上げされて賛否両論が起きているが、

    料金によって来訪者の分散を図るのは来訪者管理の基本的なテクニックのひとつである。パラ

    オでは特定のダイブサイトの混雑の問題、ロックアイランド内の来訪者の分散、ロックアイラン

    ドから他地域への分散など様々な課題があるが、こうした問題は州レベルでは十分な解決策を立

    案することができない。!

    来訪者の特定の場所への集中を防ぐためには、国全体のパーミットの料金体系を検討することが

    必要だと考えられる。こうしたことには中央政府の関与が必要だと考えられる。!

    4.3.3. 個人旅行者への対応!現在のパーミットの多くは、特定の史跡や自然保護地域ではなく、州への入り込みに対して課さ

    れている。州内の保護地域へのツアーを催行する旅行会社は、通常、州政府に事前に連絡を入れ

    て入域許可をもらい州政府に入域料を支払っている。しかしこの仕組みは個人客の存在を想定

    していない。特に事前連絡が必要であること、および週末には州政府が閉まっていることが、個

    人旅行者が自然保護地域を訪れる阻害要因となっている。!

    脆弱な自然環境の保護地域への入域はガイドの同伴が望ましいことは言うまでもないが、個人旅

    行者でも訪問できる自然保護地域もあるはずである。ツアー客であってもレンタカーでバベル

    ダオブ島を巡っている人たちも多い。パラオ観光が成熟するにつれてリピート客の比重が高ま

    り、こうした人たちは個人で観光地を訪れることを好む傾向がある。こうした個人旅行者への対

    応が、今後の保護地域行政の課題だと考えられる。!

  • パラオ共和国におけるエコツーリズム促進と観光振興予備調査

    ! !

    60!

    4.3.4. ガレメドゥー保護地域の運営管理!ガレメドゥー湾保護地域は2005年にUNESCOの「人と生態系保護区(Man!and!Biosphire!Reserve)」

    に指定され、国際的にも注目度の高い保護地域である。2003E2006年に立命館アジア太平洋大学

    によるエコツーリズムの調査が行なわれ、日本財団によるカヤックとカヌー小屋の寄贈によって

    エコツーリズムの導入が試行された27。現在もカヤックとカヌー小屋はガラムルングイ州政府

    によって維持されているが、ときどき中国系のツアー会社が利用する程度で、利用はあまり活発

    ではない。ガレメドゥー湾にはガラムルングイ、ガスパン、アイメリークの 3州が面しているこ

    とから、保護地域運営に関する最高決定機関として、3 州の関係者を糾合した保護地域調整委員

    会(CACC:!Conservation!Area!Coordination!Committee)が結成されたが、現在あまり活発に活動し

    ているようにはみえない。!

    CACC のメンバーだったというパラオ人にインタビューする機会があったが、知事の交代によっ

    てモチベーションが低下したことを示唆する発言があった。日本人のツアーオペレーターへの

    インタビューでは、州をまたがる上位組織を起ち上げる必要があったのかどうか疑問を呈する声

    があった。CACC は地域の有志による無償の活動であり、こうした体制に無理がなかったかどう

    かという疑問もある。州をまたがる組織を起ち上げるばあいは、中央政府の強いリーダーシップ

    が必要だったのではないかと考えられるが、今後の調査の中で検証することが望まれる。!

    4.3.5. 文化遺産保護との連携、統合!PANは文化遺産を保護保全の対象としていないが、文化遺産はエコツーリズムの重要な対象のひ

    とつである。州政府の管理計画の中には文化遺産を含めた観光利用計画の必要性について言及

    しているものがある。!

    パラオの伝統集落はマングローブ林をボートで分け入った先の山麓の斜面に広がっていたが、

    こうしたものが徐々に放棄されつつある。こうしたものの保全を図ることは文化行政上の重要

    なテーマではないか。また観光マーケティングの観点から言えば、遺跡や伝統集落等の文化はパ

    ラオを類似観光地から差別化するために重要な役割を果たすことが期待される。!

    自然と文化の両方を対象とする州の観光計画を別途作成することも考えられるが、州政府の人的

    資源や予算が限られていることに配慮して、PAN管理計画の補遺のような形で自然資源と文化遺

    産双方を扱う観光管理計画を作成するほうが現実的かもしれない。!

    !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !27!「海洋利用のビジネスモデル構築」畠田展行、2006年、立命館アジア太平洋大学!