サーボプレスによる高付加価値生産の展望sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200810nakahara.pdf2|素形材...

11
1 サーボプレスによる高付加価値生産の展望 ㈱ メタル・フォームテック・フォーラム社  中 原 洋 一 世界をリードするサーボプレスの最新動向を探る 世界をリードするサーボプレスの最新動向を探る 特集「世界をリードするサーボプレスの最新動向を探る」企画趣旨 編集委員 松野建一 最近、金属プレス加工部品に対する高精度・超精密・複雑形状化、高付加価値化、生産性向上等の要求 がますます厳しくなるとともに、スライドの動きや速度、下死点位置、加圧力等を自由かつ高精度に制御 できるサーボプレス機が一段と注目を集め、各種部品の金属プレス加工への適用が進んでいる。一方、プ レス機械メーカーもこのような需要に対応するために、サーボプレス機の性能・機能向上と製造に力を入 れて、次々に改良が加えられており、また製造されるプレス機全体に占めるサーボプレス機の割合も年々 増えて、世界をリードしている状況である。 本特集では、今後の我が国の金属プレス加工業界の活力の維持・向上に大いに力を発揮すると思われる サーボプレス機について、最新の状況と活用事例を紹介していただいた。高度な部品加工への新たな適用 による金属プレス加工の付加価値向上へのヒントになれば幸いである。 プレス加工は今、大きく変化している。生産グローバリズム、省資源・省エネルギー生産、高生産性の追求など、 “ものづくり”環境の変化を促す要因は多大であり、激しく厳しい課題への挑戦を余儀なくされている。プレス加 工という古くから存在する金属加工法においても例外ではない。 プレス加工の対象素材は日々新しいものが生まれ、それに対する加工機械、金型、自動化技術等は非常な勢いで進 化している。加工製品の品質は常に向上を求められるが、高品質必要箇所と不要箇所の分化も叫ばれ、多くの企業が 過剰品質に対しメスを入れ始めている。そして永遠の課題であるコストダウンの追求を考えるとき、製品に至る全て の加工をプレス加工の周辺に集約するという試みも激増しており、金属プレス加工に携わる企業は、独自加工システ ムの追及に余念がない。 このような状況の中、21世紀の革新マシンとして登場し、現在導入が盛んに行われている『サーボプレス』の 動向とプレス加工技術の変化を探っていくことにする。 の多様化、⑤ユーザー独自加工システムの台頭、とな る。このように進展する加工技術と生産条件の多様化 は、プレス機械に対し大きな変革を求める原点となっ た(図1)。 “メガコンペティション(大競争時代)への突入”と 言われて久しいが、このような大きな変革要素がプレ ス業界に新しい波を造りつつある。 プレス加工(塑性加工)という金属の加工法は、古 代より存在する加工法である。金属の塊(かたまり) を作製した後、ハンマーで叩いて形状を整え、生活に 必要な道具が造られた。食器や狩猟に必要な銛(もり) 1.変革するプレス加工技術 昨今のプレス加工技術キーワードを挙げてみる。加 工全般のキーワードとして、“高精度”“複合、難加工” “精密鍛造加工”“超微細加工”また加工技術のキーワー ドとしては、 “ネットシェイプ”“冷鍛順送加工技術”“精 密せん断加工”“テーラードブランキング”“超高張力 鋼板成形技術”等、これらは一例であり、プレス加工 のテーマは激増の一途である。また、それに伴う生産 条件の変化を挙げてみると、①加工素材の多様化、② 製品品質の多様化、③金型構造の多様化、④加工工程

Transcript of サーボプレスによる高付加価値生産の展望sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200810nakahara.pdf2|素形材...

Page 1: サーボプレスによる高付加価値生産の展望sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200810nakahara.pdf2|素形材 2008.10 などがそうであろう。その後、約200年前のことであ

1

サーボプレスによる高付加価値生産の展望

㈱メタル・フォームテック・フォーラム社 中 原 洋 一

「世界をリードするサーボプレスの最新動向を探る」「世界をリードするサーボプレスの最新動向を探る」

特集「世界をリードするサーボプレスの最新動向を探る」企画趣旨編集委員 松野建一

 最近、金属プレス加工部品に対する高精度・超精密・複雑形状化、高付加価値化、生産性向上等の要求がますます厳しくなるとともに、スライドの動きや速度、下死点位置、加圧力等を自由かつ高精度に制御できるサーボプレス機が一段と注目を集め、各種部品の金属プレス加工への適用が進んでいる。一方、プレス機械メーカーもこのような需要に対応するために、サーボプレス機の性能・機能向上と製造に力を入れて、次々に改良が加えられており、また製造されるプレス機全体に占めるサーボプレス機の割合も年々増えて、世界をリードしている状況である。 本特集では、今後の我が国の金属プレス加工業界の活力の維持・向上に大いに力を発揮すると思われるサーボプレス機について、最新の状況と活用事例を紹介していただいた。高度な部品加工への新たな適用による金属プレス加工の付加価値向上へのヒントになれば幸いである。

 プレス加工は今、大きく変化している。生産グローバリズム、省資源・省エネルギー生産、高生産性の追求など、“ものづくり”環境の変化を促す要因は多大であり、激しく厳しい課題への挑戦を余儀なくされている。プレス加工という古くから存在する金属加工法においても例外ではない。 プレス加工の対象素材は日々新しいものが生まれ、それに対する加工機械、金型、自動化技術等は非常な勢いで進化している。加工製品の品質は常に向上を求められるが、高品質必要箇所と不要箇所の分化も叫ばれ、多くの企業が過剰品質に対しメスを入れ始めている。そして永遠の課題であるコストダウンの追求を考えるとき、製品に至る全ての加工をプレス加工の周辺に集約するという試みも激増しており、金属プレス加工に携わる企業は、独自加工システムの追及に余念がない。 このような状況の中、21世紀の革新マシンとして登場し、現在導入が盛んに行われている『サーボプレス』の動向とプレス加工技術の変化を探っていくことにする。

の多様化、⑤ユーザー独自加工システムの台頭、となる。このように進展する加工技術と生産条件の多様化は、プレス機械に対し大きな変革を求める原点となった(図 1)。 “メガコンペティション(大競争時代)への突入”と言われて久しいが、このような大きな変革要素がプレス業界に新しい波を造りつつある。 プレス加工(塑性加工)という金属の加工法は、古代より存在する加工法である。金属の塊(かたまり)を作製した後、ハンマーで叩いて形状を整え、生活に必要な道具が造られた。食器や狩猟に必要な銛(もり)

 1.変革するプレス加工技術

 昨今のプレス加工技術キーワードを挙げてみる。加工全般のキーワードとして、“高精度”“複合、難加工”“精密鍛造加工”“超微細加工”また加工技術のキーワードとしては、“ネットシェイプ”“冷鍛順送加工技術”“精密せん断加工”“テーラードブランキング”“超高張力鋼板成形技術”等、これらは一例であり、プレス加工のテーマは激増の一途である。また、それに伴う生産条件の変化を挙げてみると、①加工素材の多様化、②製品品質の多様化、③金型構造の多様化、④加工工程

Page 2: サーボプレスによる高付加価値生産の展望sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200810nakahara.pdf2|素形材 2008.10 などがそうであろう。その後、約200年前のことであ

2|素形材 2008.10

などがそうであろう。その後、約200年前のことであるが、ヨーロッパにおいて産業革命の時期に、近代の鉄製によるプレス機械が作られ、「プレス加工」の時代が始まったと考えられている。当初は手動、その後足動(俗にケトバシと呼ばれる:写真 1)に機械の構造は変わっていったが、スライドを上下動させ、その間に金型を取付けて素材を設定し、ワンショットで素材が製品に生まれ変わるプレス加工の概念はこのときに確立した。画期的な金属加工法であったと思われる。人々の生活に欠かせない現代の生活用品も、プレス加工から生まれたものは数知れない。 その後時代は大きく変わり、ヨーロッパに端を発した“自動車”が大西洋を渡った。果てしなく広い荒野を馬で移動していたアメリカの人々にとり、この上なく便利なものに映ったことは言うまでもない。しかし需要が広がるにはその価格が問題であった。いくら努力をしても高価すぎて個人で購入できないものでは商品価値が高まらない。そこでアメリカは自動車に対

し、“一般消費物”としての格付けを行ったのである。そして盛んに行われたのが、コストダウンでありプレス加工で自動車の部品を生産する手段であった。ちなみに、現在の大衆車でも、大型プレス機械を用いず手造りで 1台全てを作り上げると、約 1億円の販売価格になると言われるほど自動車の構成部品は数多く、生産に手間がかかる。現代の自動車は、部品総点数の 60~65%がプレス加工(板材成形、鍛造など)部品であり、言い換えれば自動車はプレス加工の申し子であると言って過言ではない。自動車が時代の寵児になる段階で、プレス加工は大量生産システムとしての最良のポジションを獲得したのである。 プレス加工には金型が必要であり、加工難易度の高低およびその構造の単純・複雑はさておき、金型の形状を素材に転写するということがプレス加工の基本である。したがって分割された金型の間に加工対象素材を置き、金型に所定の力を与えれば加工は成立する。言い換えれば、高いパワーを持った合理的な動きを金型に与えるように考えられた機械がプレス機械であると言える。そして単純なスライドの往復運動を正確に且つ安全に、そして長時間にわたり続けることが、プレス機械の機能として求められた。 しかし冒頭にも述べた昨今の“ものづくり環境の大きな変化”は、あらゆる生産条件の多様化を持って、生産性の変革、生産システムの変革、そして生産環境への対応をプレス機械に求めてきたのである。 これらの変革要請を受け、約100年にわたるクランク式機械プレスと液圧プレスの全盛時代に終章が訪れる兆しが出ている。 『サーボプレス』の出現である。サーボモータによってダイレクトに駆動される構造のメカニカルサーボプ

21世紀 プレス加工の変革

1.加工素材の多様化

(新素材が日々誕生)

2.製品品質の多様化(高品質必要カ所、

不要カ所の分化)

3.金型構造の多様化(単純化と複雑化の両極)

4.加工工程の多様化(あらゆる加工法の集約)

5.ユーザー独自加工

プレス機械・加工システム

に対するユーザーの要求

5つのプレス加工ファンダメンタルズに対し、加工プログラマーの手で加工条件が設定できる機械・システムでなければならない!!

RAPID PROTOTYPINGシステムの多様化

(汎用機をベースとして)

図 1

写真 1 フートプレス 写真 2 クランクプレス 写真 3 油圧プレス

Page 3: サーボプレスによる高付加価値生産の展望sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200810nakahara.pdf2|素形材 2008.10 などがそうであろう。その後、約200年前のことであ

3

世界をリードするサーボプレスの最新動向を探る ~超精密・生産性向上をバックアップ~

レス、サーボモータを駆動源としボールスクリュー及びリンク機構等を組合わせた構造のメカニカルサーボプレス、またサーボバルブを使用した液圧サーボプレス、液圧ポンプの駆動をサーボモータで直接行う方式の液圧サーボプレス等々の『サーボプレス』である。サーボ技術そのものは従来から各種機械・装置に応用されてきたが、『サーボプレス』としてビルドインされたプレス機械の出現はごく最近のことである。 プレス機械の概念を一新させ、長い歴史のあるプレス工業界で大きな技術革新となる、これらの新しいプレス機械に寄せられる期待は大きい。上述のプレス加工キーワードに対し、また生産性の向上、低騒音・低振動の加工環境改善の実現、そしてエネルギー改革に関する構造の刷新として、多種多方面にわたる生産技術革新の要素がこの『サーボプレス』には内蔵されている。 長年のプレス加工の歴史から、『サーボプレス』の出現により大きく変化しようとしている現在を、“塑性加工より派生する精密加工とフレキシブル生産への変革”『プレス 第 3の波』と位置付けた(図 2)。

 2. プレス機械の新しい概念:ユーザーが   望んだ機能

 元来プレス加工は、金型をプレス機械に取付け、加工素材を金型に設定し、作業者がプレス機械を運転すれば製品ができるという、いうなれば単純な構図を持っている。実質的な仕事(素材への形状転写)を行う金型は静的なものであり、そこにパワーを与え精度を確保し動的なもの(加工)に変換するのがプレス機械である。従来、金型とプレス機械、そこに作業者が介在し加工が行われてきたが、実際の加工作業には、プレス機械のスピードの設定と動作のON・OFF以外、

作業者の意思は存在していなかった、と言って過言ではあるまい。作業者の意識は、加工作業前後の段取りと加工中の不具合発生に集中しており、機械の動作はあらかじめ決められたものとして、運転概念の外に置かれていた。繰り返すが、図 3の破線内に示すように従来は、金型にパワーを与え動作精度を確保することがプレス機械の仕事であった。

 ソフトが介在せず、起動ボタンを押すだけで動作を開始する機械は、マザーマシンと呼ばれる金属加工機械群において、プレス機械が唯一最後に残された機械であろう。一般の工作機械、現代のNCコントロールを搭載している機械は、運転時そのプログラムを設定する必要があり、そこには何かしらのソフトが介在している。運転操作が単純であり、稼動に際し時間を要しないことは、従来のプレス機械単体としては非常に好ましいことであるが、ソフトが介在しない機械は、一連の加工システムの中にユニットとして設定し難いという欠点も含んでいる。 このようなプレス機械の歴史の中で、いろいろな極壁を乗越え、近年登場したのが『サーボプレス』である。従来の金型とプレス機械で行う加工に、作業者の意思(考え方)を加えることができ、生産システムを構成する“ユニット”としても設定できる、新しい概念を持ったプレス機械である。 “カスタマイズ”という言葉がある。プレス加工においても従来からその加工システムは、ユーザーの特異性に合わせてカスタマイズされたものが作られたが、加工そのものの動作(スライドおよびラムの動作)は機械毎に一定であった。加工の種類に合わせ、決められた動作パターンを持つ機械が存在していたのである。鍛造、ファインブランキング、深絞り等々、その

図 2

図 3

第1の波(約200年前)機械の上下運動で素材が製品に生まれ変わる概念

(ヨーロッパ)

第2の波(約70年前)加工システムとして大量生産システムを創造

(自動車が時代の寵児と化した時)

プレス 第3の波 (Press The Third Wave)

第3の波(21世紀)塑性加工より派生する精密加工とフレキシブル生産への変革 (永遠なるプレス加工)

プレス加工の新基本構成(P・B・C Angle)

従来

動的パワー

プレス機械

コントロール

サーボシステム 

人の意思

新構成

金型 静的

動作:仕事

Page 4: サーボプレスによる高付加価値生産の展望sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200810nakahara.pdf2|素形材 2008.10 などがそうであろう。その後、約200年前のことであ

4|素形材 2008.10

加工に合致したプレス機械を選定することがなされてきた。元来プレス加工には加工の種類と被加工材の種類によって、それに適する加工のパラメータが存在する。その中で、特に動作パターンを選定する場合には、機械の選定が唯一の手段であった。ユーザーズアプリケーションとしてのカスタマイズされた動作ソフトの存在は、『サーボプレス』によって初めて明らかにされつつあり、今までプレス加工に無かった新しい概念を造り出している。 冒頭に述べた“5種類の生産条件変化:多様化”への対応は、同時にプレス機械に対する市場の変革要求でもあった。 プレス機械への要求をまとめてみると、『加工時のみ遅く、非加工時はスライドが速く動作し、しかもエネルギー能力は高く、また加工種類別に動作のパターンプログラム作成が可能であり、システム化(コンピュータリンク)にも容易に対応できるプレス機械』ということになり、これがまさしく『サーボプレス』の特長となっている。 この新しい思想を持つプレス機械は、ここ 4~ 5年の間に日本の各プレス機械メーカーによって商品化され、市場を席巻し始めた機械である。“5種類の生産条件変化:多様化”からの市場要求に対し、プレス機械メーカーは大きな 4つの変革を標語として打出した。①生産性の変革 ②加工範囲の変革 ③金型の革新④環境対応性の変革である。そして各々のメーカーが市場要求に合致し、変革に対応する新しいプレス機械の概念(コンセプト)として提示したものが、『従来プレス機械の機能を全て踏襲し、あらゆるフレキシビリティーを追求する』ということであった。 プレス加工とは、周知の通りプレス機械の種類・構造の如何に関わらず、スライド(またはラム)の単純な上下または左右運動により、スライド・ボルスター間に取付けられた金型によって素材を製品に生まれ変えるものであり、金型の形状を素材に転写する加工法である。したがって、加工工具である金型に対し合理的な動きを与えることを目的として作られた機械がプレス機械である。単純な、しかし精度の高いパワーのある往復運動を長時間にわたって金型に与えることが、プレス機械の使命であったため、“フレキシブルな機械”という概念は無かったのである。 メカニカル汎用プレス、液圧汎用プレス、パンチングマシン、プレスブレーキ等々、プレス機械の種類は多々あるが、それらが『サーボプレス』に変わって

も、従来持っている基本的な機能が変化するわけではない。あくまで基本機能を踏襲し、加えてスライド動作のどの位置でもモーションの自在設定を行えることが、メーカーの提示する 4つの変革コンセプトを生むのである(図 4)。

 3.サーボプレスの特長

 現在メーカー各社にて生産されている『サーボプレス』の構造上の種類は多々ある。サーボモータによってダイレクトに駆動される構造のメカニカルサーボプレス、サーボモータを駆動源としボールスクリュー及びリンク機構等を組合わせた構造のメカニカルサーボプレス、また液圧ポンプの駆動をサーボモータで直接行う方式の液圧サーボプレス、サーボバルブを使用した液圧サーボプレス、等々である。サーボプレスの分類を図 5に示す。 ここでは基本構造による大きな分類を試みているが、加工用途別の分類を加えると、例えばメカニカルサーボプレス群の汎用サーボプレス、及び液圧サーボプレス群の汎用サーボプレスは、シートメタル加工用、鍛造用、ファインブランキング用等に分割されることになり、その種類名称は多岐にわたる。ここでは大分類に留め、構造詳細や仕様はメーカー各社の解説に委ねることにする。 プレス加工は金属加工法の一種であるが、他の金属加工法と違い、その種類は非常に多く、また加工内容も複雑である。加工に関する詳しい解説は次の機会とするが、加工のメカニズムにより類似加工をグルーピングした大きな分類のみ記しておく。 ①打ち抜き加工 ②曲げ加工 ③絞り・成形加工 ④圧縮加工 ⑤複合加工、この加工ひとつひとつがまた多くの種類を持っている。打ち抜き加工に例を上げ

図 4

サーボプレス開発コンセプト

: 21世紀の革新マシン

・ 生産性の変革

・ 加工範囲の変革

・ 金型の革新

・ 環境対応性の変革

従来プレス機械の機能を全て踏襲し、

あらゆるフレキシビリティーを追求

Page 5: サーボプレスによる高付加価値生産の展望sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200810nakahara.pdf2|素形材 2008.10 などがそうであろう。その後、約200年前のことであ

5

世界をリードするサーボプレスの最新動向を探る ~超精密・生産性向上をバックアップ~

てみると、シャーリング、ブランキング、ハーフブランキング、トリミング、ノッチング、スリッティング、パーティング、ピアッシング、…となり、詳細名称を上げると数え切れないほどの種類となる。これら多種多彩なプレス加工を包括しながら『サーボプレス』による加工の優位性、コントロール性、環境対応性の概要を述べてみたい。 3.1 機構の改革 図 6は、従来のプレス機械と比較した場合の、サーボプレスの主な特異点を示している。 従来のクランクプレスにおいては、“下死点”とい

うスライド動作における加工側ストロークエンドが存在するが、メカニカル汎用サーボプレスのクランク式においても“下死点”は踏襲されている。曲げ・絞り・圧縮加工などで“底突き加工”と称される加工精度の追求を、その「下死点」ポイントで行う場合、サーボプレスの特徴である極低スピード設定および下死点停留という機能要素は、加工材内部応力の緩和に大きな効果を発揮し、精度の高い加工を行うことができる。 スライド動作モーションの設定が自在に行える機能は、いろいろな加工に大きな影響を与えている。 ① ブランキング加工には「スウィングモーション」

 図 7に示すように、通常クランクプレスではその動作を、クランク回転の角度により表示を行う。上死点より動作が開始され、90°、下死点(180°)、270°、そして上死点に戻る動作を繰り返すわけであるが、単純な

ブランキング加工では下死点付近50~60°の間で加工が行われるため、その他の角度(非加工角度)は加工には必要としない動作となる。そこで、サーボプレスでは「スウィングモーション」として、加工角度に必要余裕動作を加えた範囲だけの、下死点付近の往復加工動作を設定し、生産性向上を図ることが可能となっている。

 ②精密打ち抜き加工には「サイレントモーション」 加工破断面をなるべく無くし、せん断面を多く取ろうとする精密打抜き加工では、ブレイクスルー(加工直後の機械フレームおよびボルスターの変形戻り動

図 5

図 6

図 7

サーボプレス:機構の改革

1) 下死点の存在 底突き加工追求 加工精度追求

(低スピードによる高精度加工 : 抜き、曲げ、絞り、

圧縮加工すべて)

2) マイクロインチング機能付加

3) 生産性の追求 スウィング加工(正転・逆転加工)

4) 動作モーション設定の自在性

※ 加工に最適なモーションを各人の考え方で設定可能

5) マルチマシン機能 :

※ スライド角度概念よりスライド位置(距離)概念へ!

従来のプレス機械がCNC工作マシンになる!

上死点

下死点

90°270°

加工角度

非加工角度

スウィングモーション範囲

Page 6: サーボプレスによる高付加価値生産の展望sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200810nakahara.pdf2|素形材 2008.10 などがそうであろう。その後、約200年前のことであ

6|素形材 2008.10

作、振動が多く発生する)を極端に抑えるため、加工角度におけるスライド速度をなるべく低くすることが必要となる。その動作パターンを「サイレントモーション」と呼んでいる。 ③深絞り加工には「リンクモーション」 絞り加工は絞り深さが深くなるにつれ、高いスライド位置からの加工になるが、全て下死点で加工は終了する。その際加工開始から下死点までの間速度を下げて加工を行い、下死点通過後は速度を上げて戻り動作を行うことが生産効率の向上となる。このような動作パターンを、以前リンク機構を用いて製作されたプレス構造より名前を取って「リンクモーション」と呼んでいる。もちろん下死点において停留時間を設定した方が良い場合は、停留時間終了後に高速戻り動作を設定することになる。 ④コイニング加工には「ナックルモーション」 圧縮加工の一種であるコイニング加工は、下死点にて強力な型締め動作が必要なため、ナックル機構(トグルリンク機構)を用いたプレス機械が多く使用された。加工開始より速度を下げ、下死点にて停留時間を持てる機構である。したがってこのモーションもナックルプレスより名前を取って「ナックルモーション」と呼ばれている。 このようなスライドモーションの設定を、現在はプレス機械メーカーがパッケージソフトとして行っているが、その選択は加工に情通している現場のオペレータによって行われることになる。そして今後は、上記モーションの組合わせ、または加工に最適なスライドの動作をソフト上で作成することが現場の仕事になるのである。 従来のプレス機械は、電源投入後、各スイッチで動作条件を設定すれば、起動ボタンを押すだけで作動が始まった。そこにソフトの介在はなく、言うなれば“誰が操作をしても同じ機械”であった。サーボプレスは、加工素材、加工内容、金型構造、自動化の条件等により機械の動作を“プログラム”する機械であり、オペレータの考え方で生産物が良品にも不良品にもなる機械である。 3.2 サーボコントロールの特長 従来メカニカル汎用プレスにおいては、大きな加工エネルギーを発生させるためのフラホイールが機構構成上重要な要素であった。しかし例外を除いて現在のサーボプレスには、フライホイールは使用されていな

い。エネルギーの源泉は全てサーボモータ自体にあるため、大きな能力を生み出すための大容量サーボモータがサーボプレスの開発には必要であった。 しかし大容量のサーボモータはその駆動に大きな電力を必用とする。同等の仕事(加工)を行うとき、サーボプレスの方が従来のプレス機械に比べて何倍もの電力を必要とするのであれば、加工特性にいくら優位性があろうとその商品価値は極端に下がり、導入に拍車がかかるはずはない。 エネルギーロスに反して常にフライホイールを回し続ける上述メカニカルプレスや、油圧保持のために常にポンプ用モータを駆動しておく必要のある油圧プレスと異なり、サーボプレスでは動力が必要な時だけ、即ちプレス加工時のみエネルギーを供給すればよい。 またサーボモータの定格出力値はモータの能力を示すものであるが、これがそのままエネルギー消費の目安であると誤解を受けることが多い。実際の消費エネルギーは、加工に必要なエネルギー、モータやアンプの内部ロス、及び機械部の摩擦エネルギーの総和となる。消費エネルギーを実測したデータによると、駆動方式や動作パターンにもよるが、サーボモータの定格出力値の数分の一から、十分の一に過ぎない事もある。 そのような観点より“省エネルギー性”に関する重要な懸念を解消するため、大容量サーボシステムの研究がなされ、商品化された。そのひとつがエネルギーの回生機構である(図 8)。

 サーボモータの加速時に費やされた消費エネルギーは、駆動系(プレス機械の動作)によって運動エネルギーとして変換された後、加工と機構摩擦などで出力された分を除き、減速時に“回生エネルギー”として回収する方法である。この回生手法については、現在抵抗を使用し熱として放出する“抵抗回生方式”が一般的であるが、サーボシステムの大容量化に先駆

図 8

抵抗回生 電源回生回生エネルギーを抵抗で熱で消費 回生エネルギーを電源に返す

Page 7: サーボプレスによる高付加価値生産の展望sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200810nakahara.pdf2|素形材 2008.10 などがそうであろう。その後、約200年前のことであ

7

世界をリードするサーボプレスの最新動向を探る ~超精密・生産性向上をバックアップ~

け、より大きな省エネルギー追求を目的として、回生エネルギーをダイレクトに電源に戻す“電源回生方式”も開発されている。 3.3 環境対応性 以前、プレス加工の現場は騒音と振動による悪環境の代表とされていた。度重なる騒音や振動が人体に与える影響は非常に大きい。 特に打ち抜き加工における騒音と振動は大きく、素材の破断による衝撃的なブレイクスルー(除荷)によってプレス機械のフレームや金型が振動することで起こる。素材が打ち抜かれた瞬間、加工中にプレス機械に蓄えられていた弾性エネルギーが急激に解放されて振動が発生する。したがって厚い素材、硬い素材の方が振動・騒音の発生は大きいことになる。 従来から騒音・振動に対する低減対策は色々考えられてきたが、どの手法も一長一短あり、全ての加工現場に対して有効である、という策は見つからなかった。加工域(打ち抜き加工の破断工程域)にてスライドのスピードを落として加工することは、ブレイクスルーの極端な軽減になることより、非常に有効な手段であったが、従来の機械プレスにおいては、スライドスピードを落とすと加工エネルギーが極端に下がり加工ができない場合もあり、また生産性も落ちることから、この手法を敬遠する原因にもなっていた。 表 1にサーボプレスによる打抜き加工騒音テストのデータを示す。110トン(1100kN)の従来構造クランクプレスとサーボクランクプレスでの比較である。加工素材はSPCC、板厚 t 4.5 と t 6.0mm、金型は精密クリアランス 2%および汎用クリアランス10%のものを使用し、φ40mmの打抜き加工にてテストを行い、測定器は金型前面より 1 m隔れた位置に設定してある。

 素材板厚及び金型クリアランスの違いによる打抜き音の相違はあまり見られないが、従来構造の機械とサーボプレスを比較した場合には、各々で約10dBの差が出ておりサーボプレス使用の効果は明らかである。プレス加工現場で仕事をする人々に対し“最大なる加工環境改善:騒音・振動の低減”をもたらした。

 4.新しい加工技術を生み出すサーボプレス

 プレス加工の変革は、冒頭に述べた“5種類の生産条件変化:多様化”への対応が起点になっていることを解説した。そしてそこから生まれる現代プレス加工のキーワードは、枚挙にいとまがなく、激増であることも述べた。 この項ではそのキーワードに従い、現在盛んに活用されるようになった加工技術、また今後各産業に多く取り入れられる新しい加工技術の一端を紹介すると共に、それら加工の実現に大きく寄与しているサーボプレスの加工効果を述べることにする。 いずれも素材、品質、金型構造、加工工程、加工システムの多様化要請より発生した新しい加工技術であり、高精度精密加工、複合加工、難素材加工といった、現在最も注目されるプレス加工キーワードに合致した加工技術である。 4.1 新しいプレス加工技術 ①精密せん断技術 精密せん断技術は、切削加工からの変換・代替技術として注目度の高いプレス加工技術である。通常プレス加工におけるせん断加工面は、その加工の推移(パンチの素材食い込みから加工完了まで)から破断面とせん断面双方が現れるが、精密せん断加工は破断面を発生させず、せん断面だけのきれいな加工面を作ろうとする技術である。写真 4および写真 5はサーボプレスを使用した簡易精密打抜きによる製品例である。

 ②テーラードブランキング 図 9に示すように、テーラードブランキング工法とは特に自動車産業で活用され始まった技術であり、車体パネルやサイドメンバーの製作に多く利用されている。 従来、自動車の車体パネルは 1枚の板材から成形、穴あけ加工等により生産されてきたが、自動車の最大目標課題のひとつである軽量化と車体剛性アップを検

表 1加工素材板厚 t4.5 t6.0 t4.5 t6.0金型クリアランス 2% 2% 10% 10%110トンプレス従来クランクプレス 88dB 89dB 89dB 90dB

サーボプレス 77dB 78dB 79dB 80dB写真 4 写真 5

Page 8: サーボプレスによる高付加価値生産の展望sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200810nakahara.pdf2|素形材 2008.10 などがそうであろう。その後、約200年前のことであ

8|素形材 2008.10

討する場合、パネルの各部位をその要求剛性および材質に合わせた部材構成とすることが望ましく、最適化パネルの研究が長年なされていた。その結果、材質、板厚および形状の異なる板素材を溶接により組合わせ、パネル成形のブランク材を製作することが最良と判断されたのである。 しかし、パネル素材の構成部材単品も大型のものになると 2 mを越えるものもあり、突合せレーザー溶接にてブランク材を製作する場合、その溶接条件より部材単品の溶接端面せん断精度が大きな問題点として浮かび上がった。小さな部材であれ大きな部材であれ、溶接端面を±0.05mmのせん断精度(直線・曲線精度)に仕上げ、且つ「バリ無し、かえり無し」の平滑なせん断面を持っていなければならない。レーザーによる完全突合せ溶接に求められた部材の精密せん断技術であった。 ③コルゲートフォーミング 波形成形と呼ばれるプレス加工分野であり、従来は専用機を使用しての生産がほとんどであったが、昨今汎用プレス機械によるコイルラインシステムでの生産が可能となる金型が開発され、生産性と設備コストに

大きな改善が見られている。 写真6(SUS304 t 0.6幅100高さ12mm)、写真7(SUS430 t 0.15 幅100 高さ6.0mm)に示す加工サンプルはその一種類であるが、絞り加工の要素を一切入れず全て展開曲げで加工を行うため、板厚の変化が全く発生せず加工後の製品精度の安定が大きな特徴となっている。 コンピュータ等に使用される小型ヒートシンクから、発電設備などに使用される大型の冷却設備まで応用範囲は拡大している。加工対象素材も市場要求の拡大より、ステンレス、アルミニウム、銅、カラー鋼板、そ加工におけるキズの防止、金網加工におけるメッシュの変形防止は、上記の完全展開曲げ加工による功能といえる。 ④冷間鍛造応用技術 昨今「ネットシェイプ」という言葉が盛んに使われるようになったが、ネットシェイプとは製品の最終形

図 9

写真 6

写真 7

写真 8 写真 9

① 自動車:フロントサイドメンバー

衝突時のエネルギー吸収性向上

テーラードブランク製品

テーラードブランキング サンプル

テーラードブランク

製品

② 自動車:サイドパネルアウター

材料歩留り向上、防錆性能向上、精度向上、見栄え向上

Page 9: サーボプレスによる高付加価値生産の展望sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200810nakahara.pdf2|素形材 2008.10 などがそうであろう。その後、約200年前のことであ

9

世界をリードするサーボプレスの最新動向を探る ~超精密・生産性向上をバックアップ~

状または最終形状に近い状態まで、鍛造加工で成形することを指している。従来切削加工の代替・変換技術として移行が進んでいる加工法であり、生産性、材料歩留り、品質等の点で切削加工に勝る加工技術として注目されているものである。写真 8に示すサンプルは自動車部品の一例であるが、ネットシェイプ化が最も進んでいる分野でもある。また写真 9に示す「クラウニング付ヘリカルギヤ」の冷間鍛造加工なども今後大きな進展が期待される加工法である。 4.2 サーボプレスの加工効果 代表的な加工効果をいくつかを説明しよう。 直接的な加工効果としては、各加工においてその範囲の拡大が大きくクローズアップされる。打抜き、曲げ、絞り、張出しおよび圧縮加工においても、それぞれに合致した最適な加工条件(パラメータ)を詳細に設定できることで実現された「加工範囲の拡大」である。

 写真10のサンプルは、SPCC(冷間圧延鋼板)であり、この素材の第 1 絞り率は55%という数値が一般的であった。しかしサーボプレスで加工することにより、サンプルでは 44% の数値まで絞り

率を伸ばしている。驚異的な数値といっても良い。サーボプレスにより、SPCCの塑性変形抵抗と塑性スピードに合致させた絞り加工サイクルの設定が可能になったための効果である。このサンプルは直径φ80mmのブランク材からφ22mmの製品を作成するものであるが、サーボプレス使用により、従来の 4工程から 3工程加工へと、1工程の削減がなされている。このように絞り率の向上は工程削減、金型費用の低減へとダイレクトに繋がっていくのである。 写真11に示す曲げ加工により構成される構造物で

は、スプリングバックによる製品変形が非常に懸念される。曲げ加工とは、素材の弾性変形限度内で行われる加工であるため、加工後その応力が除去されるに従い、元に戻ろうとする力が働く。これをスプリングバックと言うが、この量が多くなると製品精度が悪化するばかりでなく、製品として成り立たない状態にも陥る。したがって曲げ加工の場合には、その応力を緩和するために極力時間をかけて曲げる、また曲げ加工が終わった後そのままの状態で、ある時間放置しておく(プレス下死点で停留時間を取る)、という処置が取られる場合が多い。このようなコントロールも、上記スライドスピードと加工サイクル設定の自在性により可能となっている。 加工の合理性を追求した、ひとつの金型内で行われる「型内複合加工」も盛んに行われるようになり、その複雑さも日を追って高度なものになっている。 図10に示すカム型(サイドピアスカム)は単純な複合型の例であるが、昨今このようにひとつの型内に、数個から10個程度のカムを入れ込んだ構造の金型も多々あり、上記同様その複雑さは増すばかりである。このようなカム構造の金型では、素材にパンチを押付け加工を行う動作を、スライドの動きに連結するカムが行い、パンチを非加工定位置に戻す動作はスプリングにて行わせている場合が多い。すると、生産性を上げるためプレス機械のスピードを上げていった場合、このスプリングがスピードに追い付けずバウンドを起こす時点が来る。バウンドにより加工精度も低下することから、この時点が加工の限界となる。この加工限界を突破するためには、加工時には遅く非加工時には速く動作する、言い換えればネックとなるカムスプリングの動作に合わせて加工サイクルを設定する、ということが必要になるのである。 このようなサーボプレスの特長は、“加工の再現性が生まれた”という評価につながってきた。従来、同

図10

写真10

写真11

Page 10: サーボプレスによる高付加価値生産の展望sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200810nakahara.pdf2|素形材 2008.10 などがそうであろう。その後、約200年前のことであ

10|素形材 2008.10

じ金型でも加工するプレス機械を変えると、同じ製品を作り出すために非常に困難なプレス機械の調整が必要であった。同種同型の機械でも動作や調整機能には微妙な差があり、それが生産に大きく影響する要素になっていた。サーボプレスにしても、機械毎の微妙な差があることは確かであるが、その差を動作パラメータの設定で吸収できる、ということが加工の再現性に対する評価となっている。 金型は、あらかじめ設定されたプレス機械を使用することを前提に設計が行われ、当然生産時もその機械を使用することが通常であった。しかし昨今のように、グローバルな生産展開ということになると、金型と生産機械が一対の関係はなかなか成り立たない。日本で作られた金型がヨーロッパに渡り量産部品が生産される、という例は多々生まれている。すると、能力的にクリアしたプレス機械であれば、どの機械を使用しても同一金型で同一製品が作られなければならない、という考え方に基づかなければ、生産計画が成立しないことになる。“加工の再現性”が重要視され始めた要因である。 加工効果をまとめたものを、表 2を示すことにする。

 5.海外サーボプレスの状況

 サーボプレスは日本で考案され、世界に発信された技術であり、ヨーロッパ、アメリカを始め各アジア諸国にも盛んに導入されているが、海外の“サーボプレ

ス事情”はどのようなものであろうか、少々述べてみたい。 世界最大手のプレス機械メーカー、ドイツのシュラー社は、昨年(2007年)1 月にサーボプレスの販売開始を発表した。そのときの販売担当取締役の弁は下記のようなことであった。販売開始後1年半が経過し、ヨーロッパを中心に導入は順調とのことである。 『皆さん、プレス加工技術は現在大きな変革の時期にあります。長い歴史と深い市場性を持つ企業として、市場からの広い要求に対し、独創的な考え方と革新的な製品によってこれらの要求に応えることが、我が社の基本的な考え方なのです。シュラー社はプレス加工技術において、現在のすべての課題に対する明確な回答を用意しておく、これが私たちの目的であり方針です。そのひとつの回答例として、中小型(2500kN~6300kN)の新しいプレス機械を開発しました。サーボ駆動による任意の動作スピード設定によって、高いフレキシビリティーを備えたプレス機械です。シュラーグループは、革新的な現代に、中小型プレス機械を提案します。打抜き加工と成形加工に向くこの新しい自動プレスは、多種多様なアプリケーションの設定を、迅速に且つフレキシブルに行うことができます。』(写真12) また、同じくドイツのヒーガー社は、2006年の見本市:ユーロブレッヒから下記のサーボプレスを出展し、話題を呼んでいる。

表 2 サーボプレス加工効果項目 加工区分 変化現象 加工効果視点 生産性 加工性 金型 環境

加工・金型

抜き

パンチチッピング減少 再研磨延長、金型材料費軽減 ◎ ◎ ◎ファインブランキング 精密打抜き加工(簡易的 FB) ◎

低騒音・低振動 dB極端減少、金型増締削減プリント基板加工に最適 ◎ ◎

曲げスプリングバック減少 精度向上、高張力鋼板加工性向上 ◎ ◎パラメータ再現性 段取り時間の削減 ◎ ◎

絞り

絞り率向上 加工工程削減、検査工程削減 ◎ ◎ ◎亀裂、しわの防止 不良率減少、素材材質変更 ◎ ◎ ◎焼付の減少 SPM向上、塗油料の減少 ◎ ◎キズの減少 塗装鋼板の加工に最適 ◎ ◎

その他ブローチ加工 新規プレス加工手法の導入 ◎張出し性向上 高難度張出し成形の実施 ◎素材硬化減少 金型調整不要 ◎ ◎

システム

加工機械の変化新システム

油圧プレスよりの変換 SPM向上、底突き加工可能 ◎ ◎機械サイズの変化 大型より中型へ、中型より小型へ ◎ ◎複合加工 型内かしめ加工、型内タップ加工 ◎ ◎ ◎インラインシステム化 連続自動生産システム化 ◎ ◎

Page 11: サーボプレスによる高付加価値生産の展望sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/200810nakahara.pdf2|素形材 2008.10 などがそうであろう。その後、約200年前のことであ

11

世界をリードするサーボプレスの最新動向を探る ~超精密・生産性向上をバックアップ~

 “SYNCHRO PRESS:シンクロプレス”と名付けられたこのサーボプレスは、加圧力400kN(40トン)~4000kN(400トン)までをラインアップしているとのことであり(写真13は100トン)、基本構造はNC 4 軸のダイイングマシン(アンダードライブ仕様)である。当初金型トライ用プレスとして販売されたが、まもなく生産用として一般ユーザーに使用されたため、現在は①金型トライ用(ベーシックバージョン)②金型トライ用&生産用(ベーシックバージョン&トルクバージョン)③生産用(トルクバージョン)として、実用の範囲を 3種類に分けた販売を行っている。 スライド動作の基本構造は、4軸のスクリュー方式(HIEGER 社はスピンドル方式といっている)であり、それぞれの軸にサーボモータを搭載し、同期制御を行っている。ここでいう「ベーシックバージョン&トルクバージョン」とは、スクリューを駆動させる際のサーボモータと連結構造の違いを表わしている。 独特なスクリュー駆動技術とコントロール技術の開発により、スライドとボルスターの動的な平行度を超精密にしたことが大きな特徴となっている。また、こ

のような構造を取った結果であるが、機械が非常にコンパクトにもなった。どのような偏心荷重に対しても、スライド・ボルスターの平行度保持ができ、一方で0.01mm/ 秒の速度でジョイスティックオペレーション(寸動操作)を可能にしたことから、当初は金型トライ用として販売を開始した模様である。しかし高速ストロークモードにおいても最大180mm/秒の速度を達成することができたため、生産用に使用されるようになった。 その他アメリカでも、専用機械としての油圧サーボプレスが市場に出てきたようであるが、技術、市場性、応用性から考えた場合、『サーボプレス』は日本メーカーの独占市場に近い商品である。

 6.世界を席巻する日本のプレス技術

 加工素材、製品品質、金型構造、加工工程の多様化に加え、独自加工システムの追求から生まれた市場要求に対し、サーボプレスを持って大きな変化に立ち向かおうとしている“プレス工業界”である。そこには、生産性の更なる向上、フレキシブル生産、超精密加工、切削レス加工、そしてエコ生産という課題も大きく挙げられている。 地球温暖化が叫ばれ、CO2 排出規制が強力に推進されるなか、今後“ものづくり”の手法は大きく変化していくであろう。プレス加工技術はそのような環境の中で、より鮮明にクローズアップされていく。日本の金属プレス加工企業とプレス関連機器メーカーの持つ技術思想と技能は、世界からますます期待されるところである。 世界の技術的リーダーシップを図ろうとするサーボプレスは、永年にわたる加工要素形態より生まれ、そしてこの枠を超えて育とうとしている。 金属プレス加工企業にとり、新しい加工技術の開発に、またその技術を生かした新規市場の開拓に供する環境をサーボプレスは作り得る。前に示す 5つの多様化:市場要求は、変革のための条件である。 『サーボプレス』は、求められる変革を確実になし得る新時代のマシンであり、業界発展を促す 21 世紀の寵児なのである。

株式会社メタル・フォームテック・フォーラム社〒222-0033 神奈川県横浜市港北区新横浜 2-14-8オフィス新横浜ビル 301TEL 045-473-7424  FAX 045-470-5481

写真12

写真13