インドネシア中央政府財政と政府債務の 持続可能性 - JICA · 2016-04-19 ·...

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JBICI Research Paper No.26 インドネシア中央政府財政と政府債務の 持続可能性 ― 財政構造、政策効果、債務シミュレーション分析 ― 2003年1 2月 国際協力銀行 開発金融研究所

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JBICI Research Paper No.26

インドネシア中央政府財政と政府債務の

持続可能性 ― 財政構造、政策効果、債務シミュレーション分析 ―

2003 年 12 月

国際協力銀行

開発金融研究所

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本 Research Paper は、本行における調査研究の成果

を内部の執務参考に供するとともに一般の方々にも紹

介するために刊行するもので、本書の内容は本行の公

式見解ではありません。

開発金融研究所

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はじめに 本報告書は、通貨・金融危機からの回復過程にあるインドネシアの中央政府財政の現状

と将来見通しについて、平成 14 年 8 月と 12 月の現地調査の結果も踏まえ、特に債務の持

続可能性に焦点を当てて評価・分析した結果をまとめたものである。 本報告書のための調査は、本行国際審査部からの外部委託により実施され、報告書の執

筆は、同部第 1 班との緊密な連携のもとで日本学術振興会の釣雅雄特別研究員が担当した。 最後に、本調査の実施にあたり、東京大学先端科学技術研究センターの伊藤隆敏教授(当

研究所客員研究員)に貴重な助言を頂いたことに対し、厚く御礼申し上げたい。

平成 15 年 12 月

開発金融研究所 所長 橘田 正造

≪調査・執筆担当者≫ 西沢 利郎 (国際審査部 第 1 班 課長) 仲川 聡 (国際審査部 第 1 班 副調査役(調査時)、現・財務省) ≪外部委託調査担当者≫ 釣 雅雄 (日本学術振興会 特別研究員 PD)

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報告書目次

はじめに i ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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報告書目次 ii 図表目次 iii 要約 S-1 序 1 第 1 章 インドネシア中央政府財政の構造 2

1.1 財政の概要と改革 2 1.1.1 政治・経済の歴史的変遷と財政 2 1.1.2 財政制度の概要 4

1.2 歳入 5 1.3 歳出 6 1.4 ファイナンス 7

第 2 章 中央政府の債務 8 2.1 国内債務の種類 8 2.2 債務残高推移 9 2.3 海外支援 10

第 3 章 財政収支と経済の相互関係 12 3.1 財政収支の要因分析 12 3.2 中央政府財政の動向とパフォーマンス 15

3.2.1 歳入 15 3.2.2 歳出 18

3.3 経済の歳入への効果 21 3.4 歳出と経済 24

第 4 章 政府債務の持続可能性:シミュレーション 28 4.1 短期と長期における持続可能性 28

4.1.1 短期持続可能性 28 4.1.2 長期持続可能性 29

4.2 持続可能性のシミュレーション分析 30 4.3 基本フレームワーク 30

4.3.1 GDP とプライマリー収支 30 4.3.2 物価、為替レート、金利 31 4.3.3 財政収支、利払い費、政府債務残高 32

4.4 シミュレーション分析 33 ケース 1 :金利と同じ成長率 33 ケース 2 :低成長 34

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ケース 3 :成長率減少トレンド 34 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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おわりに 35 補論 1:GDP ギャップの計測 42 補論 2:政府債務の持続可能性 44 参考文献 45

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図表目次

第 2 章 中央政府の債務 図表 2-1 インドネシア中央政府、債務残高(GDP 比%) 9 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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図表 2-2 銀行再編債、償還プロファイル 10 図表 2-3 CGI 支援(億米国ドル) 11

第 3 章 財政収支と経済の相互関係 図表 3-1 GDP ギャップ弾力性 13 図表 3-2 財政収支の要因分析(利払い費を構造要因とした場合) 14 図表 3-3 財政収支の要因分析(利払い費を景気循環要因とした場合) 15 図表 3-4 歳入動向 構成比率(%) 16 図表 3-5 歳入、各項目別、予算・決算 17 図表 3-6 歳出構成比 19 図表 3-7 歳出、各項目別、予算・決算 20 図表 3-8 各種税収と GDP 22 図表 3-9 貿易、税外収入、石油・ガス、歳入 24 図表 3-10 歳出の効果 1985-2002 年度 26 図表 3-11 歳出の効果 1975-2002 年度 27

おわりに

ケース 1 (1) 政府債務残高(GDP 比) 36 ケース 1 (2) 政府債務残高(GDP 比) 36 ケース 2 (1) 政府債務残高(GDP 比) 37 ケース 2 (2) 政府債務残高(GDP 比) 37 ケース 3 (1) 政府債務残高(GDP 比) 38 ケース 3 (2) 政府債務残高(GDP 比) 38 ケース 1 (1) 分析結果表 39 ケース 2 (1) 分析結果表 40 ケース 3 (1) 分析結果表 41

補論 1

補表 1 インドネシア GDP ギャップ(実質) 43

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要 約

アジア通貨危機を契機としてインドネシアは、政治・経済のさまざまな問題が浮き彫り

となるなかで、新たな課題を抱えることとなった。インドネシア共和国の中央政府債務は、

1997 年以降の経済状況悪化に伴う債務急増により GDP 比で一時 100%を超えた。急増し

た債務の利払いや償還を毎年度どのようにファイナンスするか、債務の規模が財政破綻を

招くことなく長期的に持続可能であるか否かは非常に重要なテーマとなっている。 この間、財政を取り巻く環境は大きな変化を遂げた。経済政策の方針の変化、地方分権

化、銀行再編債の発行、国債法の成立、財政形式の変更などがなされた。特に、不良債権

を抱えた銀行への資本注入のための銀行再編債(国内債)発行は、財政に大きなインパク

トを与えた。銀行再編債は金融安定化に大きな役割を果たしたものの、中央政府の債務増

大をもたらし、財政の持続可能性に不安を来たす結果となった。財政の持続可能性が問題

になると、財政に関するさまざまな変革において、中央財政の透明性や説明責任がよりい

っそう重要とされた。 本稿では、インドネシア中央政府財政の制度変革と持続可能性というテーマについて、

特に経済との関係を明示して分析する。第 1 章では財政制度と構造を確認する。通貨危機

後のインドネシア財政は、いくつかの制度的な変更を経験している。財政の役割は、それ

までの中央集権的開発から地方分権へと重点を移しつつある。 第 2 章では政府債務の現状を確認する。国内債の発行、対外債務と為替レート、2004

年度から 2009 年度までの償還額などが重要である。 第 3 章で、財政収支と経済の関係、歳入・歳出と経済の相互関係の分析を行う。債務の

持続可能性には歳入の安定性が必要であることを指摘する一方、原油価格に大きく依存す

る歳入構造であることを示す。 第 4 章では、経済成長率、物価、金利などの想定別のシミュレーションを用いて、イン

ドネシア財政の長期的な持続可能性の分析を行う。現状では持続可能性が満たされる可能

性は大きいが、金利上昇や経済変動などに伴うリスクも残る。

S-1

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序 1997 年に通貨危機と金融危機に直面したインドネシアでは、国内債(金融再編債)の発

行や、財政赤字のファイナンス、為替レート減価によるルピア建て対外債務の増加などに

より中央政府の債務が急増した。 こうした債務急増により、将来の償還と利払い費からなる財政負担は重いものとなった。

中長期的にインドネシアの中央政府財政が持続可能であるのかどうかをみるには、財政の

持続可能性を決定する要因は何であり、どのようなリスクがあるのか、財政構造と持続可

能性との関係はどのようなものであるのか、財政政策との関連はどの程度であるのか、な

ど包括的な分析が必要となってくる。 本稿では、財政構造や現状に関する分析に基づいて持続可能性を検証するのみならず、

異なる想定のもとで将来の債務状況をシミュレーション分析することで、インドネシアの

財政が内包するリスクを明らかにしたい。 本研究は国際協力銀行国際審査部からの外部委託により行われた。多くの貴重な情報を

提供くださった国際協力銀行に感謝したい。また、個人的には筆者の一橋大学における「わ

が国の経済状況下における経済政策の効果に関する研究」の国際比較分析の一環ともなっ

ている。したがって、本稿の一部には科学研究費補助金(特別研究員奨励費)の成果も含

まれている。本稿の執筆にあたり伊藤隆敏教授をはじめ、多くの方から有益なコメントを

いただいた。浅子和美教授からは日ごろより経済財政策の研究に関する助言をいただいて

いる。記して感謝したい。有りうる誤りはすべて筆者に属するのは言うまでもない。 釣 雅雄 日本学術振興会 特別研究員 PD

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第 1 章 インドネシア中央政府財政の構造

1.1 財政の概要と改革

1.1.1 政治・経済の歴史的変遷と財政

1966 年からのスハルト政権期の財政には、開発との結びつきが強いという特徴が認めら

れる。国家開発企画庁(National Development Planning Agency)(BAPPENAS, Badan Perncanaan Pembangunan Nasional)が中心となり、開発 5 カ年計画のもとで経済成長

が目指された。スハルト大統領は、スカルノ政権下の社会主義的経済体制から資本主義体

制への転換を図る。経済はスハルト政権下で、1970 年代のオイル・ブーストにも後押しさ

れ、高成長を遂げることになる。この時期は、石油・ガスからの歳入増加に伴い、海外か

らの借入れを増加させることなく開発歳出を増加させることが可能であった。歳出総額を

みると、1972 年度に GDP 比 12.3%であったものが、1975 年度には同 20.3%へと急増し

ているが、この増加のほとんどが開発歳出の増加により説明できる。しかしながら、石油

依存の経済構造下で、1982 年と 1986 年に原油価格が急落すると景気は停滞し、対外債務

も増大する。 この時期においては、経済構造と同じく、財政構造も石油・ガスへの依存度が高いもの

であった。例えば、歳入(開発歳入を含まず)のうち石油・ガス収入は、1980 年度で約

68%、1981 年度で約 71%を占めていた。したがって、原油価格の下落は石油・ガス依存

の財政を大きく圧迫することとなった。インドネシア政府は 1983 年度から緊縮財政に転

じ、1984 年度には税制改革を行うことで石油依存構造からの転換を図った。 所得税は、それまでの個人所得に応じた 17 段階の税率が改められ、15、25、35%の 3

段階の税率へ変更された1。1985 年 4 月からは、それまでの売上税にかわり VAT(Value-Added Tax、付加価値税)が導入され、一部の除外品を除いて、広く国内製品お

よび輸入品に課税されることとなった。 石油・ガス依存から脱却を図る税制改革の一方で、海外からの借入れへの依存は 1986

年度から高まっている。1977 年度では総ファイナンス(歳入+借入れ)に占める借入れの

比率は 6.7%まで低下していたが、1986 年度に 24.1%となり、1988 年度には 30.2%まで拡

大している。このファイナンスにおける海外依存からの脱却がその後の財政課題となった。

海外からの借入れは、総ファイナンスに対する比率でみると 1990 年代に入ると減少傾向

へと転じる。 経済では、1986 年の経済構造改革以後、非石油・ガス部門が成長した。この非石油・ガ

ス部門が牽引役となり、1980 年代後半以降は持続的に実質 5%以上の高成長を達成してい

く。 経済自由化の一方で、中央集権型の開発は、政治権力とスハルトの親族企業を中心とす

る特定企業との結びつきももたらした。軍事、警察、司法のほかに、徴税における癒着や

1 2000 年度に 5 段階となる。

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汚職が問題2となり、現在でもその影響は残っている。例えば、軍事費について、財政に計

上されている額では人件費をまかないきれないことが指摘されている3。 1998 年 5 月にスハルト体制が崩壊すると、ハビビ副大統領が大統領に就任した。1999

年にはじめての大統領選が行われ、アブドゥルラフマン・ワヒド(ナフダトゥール・ウラ

マ(NU)議長)が大統領となった。 しかしながら、ワヒド大統領は国会(DPR, Dewan Perwakilan Rakyat インドネシア

語;the House of People's Representatives)と対立し、2001 年 7 月には国民協議会(MPR, Majelis Permusyawaratan Rakyat インドネシア語;People's Consultative Assembly)がワヒド大統領を罷免した。 スハルト政権の崩壊は、1997 年の通貨危機(Krismon、クリスモン)4を契機としたイ

ンドネシア経済の落ち込みを背景とし、IMF プログラムの下での補助金削減に伴う燃料価

格・公共料金の値上げに対する暴動を契機とするものであった。 通貨危機後、IMF プログラムに沿った経済構造改革が行われた。例えば金融部門におい

ては、1998 年に政府はインドネシア銀行再編庁(BPPN, Badan Penyehatan Perbankan Nasional インドネシア語;IBRA, The Indonesian Bank Restructuring Agency)を設

置し、銀行の不良債権処理を進めた。この不良債権処理により、それまでの特定企業と金

融との結びつきは解体することとなった。 インドネシアでは、それまで国内債による財政ファイナンスは行われてこなかったが、

不良債権処理の財源として、中央政府は銀行再編債(国内債)を発行した。発行額は対外

債務とほぼ同じ水準に達するほどである。国内債務の急増に伴い 2004 年度以降に多額の

償還が生じるため、ファイナンスができるかどうかということが問題となっている。 スハルト体制崩壊後のもうひとつの大きな流れは地方分権化である。1999 年 5 月には

地方行政法(法律 1999 年第 22 号)と中央・地方財政均衡法(法律 1999 年第 25 号)が

成立し、2001 年度より施行されている。 地方自治の強化とともに、その財源として中央政府財政からの移転についても定められ

た。中央政府からの移転のほか、銀行からの融資については、国内銀行からは可能だが、

海外からは中央政府を通して行わなければならないと定められた。また、財政が健全であ

ることを条件として地方債の発行も法律上認められている。

2 インドネシア語の短縮語で KKN(カー・カー・エヌ Korupsi-Koneksi-Nepotismo、汚職・癒着・縁故主

義)と呼ばれる。 3 杉浦((1999、pp.54-55))は、「70 年代半ば以降、国軍は政府予算に占める国防費の大幅な低下に甘んじて

きた。給与の支払や兵舎の維持もままならぬ状況でスハルトが国軍を制御できたのは、政府予算の枠外に潤

沢な収入源があったからに他ならない。それは、訓練中の士官が基地付近にある華人商店主から生活費の面

倒をみてもらうという程度から、独立時の接収資産をはじめ、国軍の裁量による許認可や優遇措置などと引

換えに事業パートナーに配当を期待する企業経営まで多岐にわたる。一説では国軍系企業の配当収入が予算

外支出の 60%以上を賄うともいわれ、国軍幹部の個人的な金銭欲も充たしてきた。」と述べている。 4 インドネシア語 Krisis moneter の短縮語。

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1.1.2 財政制度の概要

財政形式は 1999 年度に大きな変更が行われ、財政法の成立により今後も改善されてい

くと考えられる。ここでは、現時点(2003 年度)での従来と現在の財政制度の違いの特徴

を捉えたい。現在の財政は、IMF が各国財政統計を比較可能な形で整理した GFS(Government Finance Statistics)の形式に則ったものである。GFS では 1970 年代前半

以降の各国財政統計を知ることができ、歳入、歳出(機能別、経済活動別)、ファイナンス、

債務についての統計がある。また、中央政府と地方政府のそれぞれが載っている。インド

ネシアでは従来、歳入と歳出を左右に並べて記述する形式(T-account)が採られていたが、

新形式では GFS と同様に上下に並べる形式(I-account)となっている。 もっとも大きな変更点はファイナンスにかかわる概念の変更である。従来形式では、歳

入と歳出のそれぞれに「開発」という項目があった。スハルト体制下では、開発が重要な

政策目標であったから、財政面でもそれが明示されていたといえよう。しかしながら、こ

のうち「開発歳入」は、歳入と表記されているが、実際にはプログラム・ローンやプロジ

ェクト・ローンという海外からの借入れであった。新形式ではこの「開発歳入」をファイ

ナンス項目として扱い、「歳入」から明確に区別した。 歳出面では、利払い費のほかに償還額が経常歳出に含まれていた。しかしながら、償還

は借入れ元本の支払いであり、借入れを歳入項目として扱わないのと同じく、償還も経常

歳出とはならない。ある年度では償還は財政負担という意味で歳出にみえるが、借り入れ

た年度と合わせて考えると、借入れによる資金収入と償還支払いはちょうどバランスする。

また、プライマリー収支をみる場合には利払い費のみを控除する必要があるが、従来形式

では利払い費の区分表記はなかった。新形式では償還がファイナンス項目となり、利払い

費のみが歳出に含まれることとなった。 歳出は、従来形式で大きく経常歳出(Routine Expenditure)と開発歳出(Development

Expenditure)とに分けられていた。新形式では経常歳出(Current Expenditure)と開

発歳出からなる中央政府歳出(Central Government Expenditure)と地方への移転

(Transfer to Regions)とに分けられている。従来形式では、補助金は石油補助金が経常

歳出、肥料補助金と金利補助金が開発歳出に含まれていたが、新形式では、これらが経常

歳出の補助金という項目にまとめられた。 歳出面では地方への移転に関する変更も重要である。この変更は、地方分権の方針と結

びついている。上述したように、地方政府の財源確保のため、地方行政法および中央・地

方財政均衡法のもとで、中央政府から地方政府への移転が明確化された。この変更に伴い、

1999 年度までの地方政府への補助金(Subsidy to Local Government)という項目は、2000年度以降、地方への移転(Transfer to Regions)と変更されている。 次に国家予算の編成と発表の手順についてみていく。インドネシア中央政府の国家予算

案(APBN, インドネシア語 Anggaran Pendapatan Dan Belanja Negara の略)は、次

年度の実質 GDP 成長率、インフレ率、為替レート、金利、石油価格・生産量の見通しに

基づき財務省(Depertemen Keuangan インドネシア語;Ministry of Finance)が原案を

作成し、大統領が国会に提出する。

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財政は、単年度主義となっているが、複数年度にまたがる国家開発計画の内容が反映さ

れるものとなっている。ただし、もともとの国家開発 5 カ年計画はスハルト政権下で採ら

れた政策である。スハルト政権最後の 1994 年度から 1999 年度の第 6 次 5 カ年計画の後、

2000 年度から 2004 年度については、新国家開発計画(PROPENAS, Program Pembangunan Nasional インドネシア語;National Development Program)に変更され

ている。 会計年度は従来 4 月から 3 月であったが、2000 年度から暦年ベースへと変更された。

2000 年度は、移行措置として 4 月から 12 月の 9 ヵ月とされ、2001 年度から 1 月から 12月の会計年度となっている。 インドネシアの国会開催に合わせて、政府は国会に国家予算案を提出する。予算案提出

は、休日に重なる場合を除いて 8 月 16 日である。国会に国家予算案が提出された後、9月に国会審議が開始され、その後、11 月下旬ら 12 月上旬に国会で承認される。2003 年度

予算が国会に提出されたのは 2002 年 8 月 16 日であり、可決されたのは 11 月 27 日であ

る。なお、会計年度が変更となる以前、国家予算案は 1 月はじめに発表されていた。

1.2 歳入

中央政府の歳入は主に税収と税外収入とからなる。そのほかに無償資金(グラント)も

ある。実際には計上されない場合が多いが、その他に開発歳入に含まれている無償資金が

ある。また、主に天然資源関連収入と国営企業からの利益移転からなる税外収入は、石油・

ガス関連を除くと歳入の 1 割程度であり大きな比重ではない。インドネシア財政において

は、税収が主な歳入源である。 税収では、所得税(PPh, Pajak Penghasilan インドネシア語)と VAT(Value-Added Tax,

付加価値税;PPN Pajak Pertambahan Nil インドネシア語)が中心を占める。 1984 年に税制改革が行われたが、さらに 2000 年にも IMF との合意に基づいた税制改

革の法律が可決されている(法律 2000 年第 16、17、18 号)。所得税については、所得を

3 階層に分けた従来の税率設定から 5 階層へ分けた設定に変更されたが、この変更は低所

得層の税率引き下げと高所得層の引き上げを行っており、より累進的な制度となった。 新たな所得税制のもとでの個人所得税の税率設定では、個人は 5 つの所得階層に分けら

れ、控除後年収額に応じた税率が定められている。それぞれの税率をみてみると、2,500万ルピア以下が 5%、2,500 万ルピア超から 5,000 万ルピア以下が 10%、5,000 万ルピア超

から 1 億ルピア以下が 15%、1 億ルピア超から 2 億ルピア以下が 25%、2 億ルピア超では

30%となっている。また、法人税については 5,000 万ルピア以下が 10%、5,000 万ルピア

超から 1 億ルピア以下が 15%、1 億ルピア超が 30%となっている。 VAT も 2000 年に変更された法律(法律 2000 年第 18 号)に基づいている。VAT は付加

価値税であるが、インドネシアの場合、企業課税はなく、物品・サービスの消費一般に広

く課税される消費税である。 貿易からの税収は、輸入関税と輸出税からなる。輸入関税は基本輸入税(BM, Bea

Masuk)と共通実効関税協定(CEPT, Common Effective Preferential Tariff)からなる。

基本輸入税は、すべての国に対して 4 段階で課税されるもので、最必需品(0 から 10%)、

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必需品(10 から 40%)、一般品(50 から 70%)、奢侈品(200%まで)となっている。共

通実効関税協定は ASEAN 自由貿易地域(AFTA)との関連で実施されているもので、

ASEAN 域内の関税引き下げを行っている。 物品税はアルコールとタバコにかかる税である。アルコールについては、アルコール度

数(%)または量(1 リットル)に応じて課税される。国内産と輸入品では税額が異なる。

タバコについては、タバコのタイプや、製造業者の規模によって異なる。例えば巻紙タバ

コ(シガレット)は、零細企業では 4%、小・中・大企業および輸入品では 8%となってい

る。 税外収入は主に、天然資源関連収入と国営企業からの利益移転からなる。天然資源関連

収入は、石油・ガスのほか、鉱業、林業、漁業からなる。石油・ガスを除くと、税外収入

の歳入に占める割合は大きいものではなく、2003 年度予算で歳入の 7.7%である。天然資

源のうち石油・ガスは、2003 年度予算で歳入の 16.7%を占めている。

1.3 歳出

歳出は中央政府歳出と地方への移転からなる。中央政府歳出のうち人件費は、主に賃金、

米手当および食糧手当からなる。賃金は公務員や軍人、警察官に支払われるものである。

物件費は、国内物件費と国外物件費とに分かれる。公的債務金利支払いは、国内債および

対外債務に対する利払いである。 補助金は商品に対するもので、対象としては石油、肥料、電気、食料、利払い、その他

がある。補助金によりこれらの消費者物価の安定化が図られる。大きいのは石油補助金で、

2000 年度、2001 年度でそれぞれ全補助金の 86%、84%を占めた。石油補助金は 2004 年

度に廃止または縮小される予定であり、2003 年度予算でも補助金の 52%を占めるにとど

まった。 開発歳出については、経済活動別と部門別の 2 つの分類が存在する。予算においては経

済活動別を中心にみるが、部門別分類も予算に別表として添付される。部門別予算は 20部門からなり、それぞれ細目がある。開発歳出は、従来形式と比べて項目の入れ替えはあ

ったものの、項目は同じくルピア・ファイナンスとプロジェクト・ファイナンスとになる。

このうちプロジェクト・ファイナンスは、海外からの特定プロジェクトに対する借入れに

応じた歳出であり、用途が限られる。 地方への移転は、均衡財源(Balanced Funds)と特別自治州に対する資金等(Fund for

Specific Autonomy and Balancing)からなる。地方への移転は、地方分権化の政策方針を

受けて 2001 年度から設けられた項目である。 ただし、従来も経常歳出における地方への移転や開発歳出における地方開発補助金があ

った。従来形式の「地方への移転+地方開発補助金」が歳出に占める割合は、2000 年度の

14.9%から 2001 年度の 23.2%に増加しているが、さかのぼってみてみると 1995 年度は

24.2%、96 年度 23.5%となっており、2001 年度における割合よりも大きい。 均衡財源は歳入分与(Revenue Sharing)、一般配分資金(General Allocation Fund)、

特別配分資金(Special Allocation Fund)からなる。歳入分与では、税収(所得税、土地・

建物税、土地・建物移転税)や非税収(天然資源)の一定割合が地方政府へ移転されるこ

6

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ととなった。所得税に関しては歳入のうち 20%が地方政府へ配分される。土地・建物税と

移転税はそれぞれ 95.7%、100%が地方政府に配分される。天然ガスは歳入(ただし税額

分は除く。以下同様。)の 30%、石油は 15%、その他の非鉱業資源は 80%がそれぞれ産地

の地方政府へ配分されることとなった。一般配分資金は歳入の一定割合の資金移転で、地

方政府は中央政府歳入から歳入分与と特別配分資金に占める林業植林基金とを除いた額の

25%を受け取る。特別配分資金は、地方政府の開発プロジェクトに対して配分される資金

である。ただし、これまでのところその中心は植林プログラムについての資金で、林業植

林基金のうち 40%が州政府に配分されている。

1.4 ファイナンス

ファイナンスは、形式変更後に加えられた項目である。財政形式の変更に伴い、これま

で開発歳入とされていた海外からの借入れのほかに国内ファイナンスが新たに加わること

となった。また、これまでは借入れ総額のグロスと、そこから償還額を引いたネットに関

する情報は明示されていなかったが、現在の形式ではファイナンスはネットの額で示され、

細目においてグロスの額が示されている。 国内ファイナンスは国内銀行部門と国内非銀行部門とに分けられる。国内ファイナンス

では、国営企業の民営化や IBRA 資産売却といった資産売却益のほかに国債発行も記載さ

れる。 国債については、2002 年に国債法が国会で可決され、発行が可能となった。ただし、実

質的な政策転換は 1998 年度に始まっている。1998 年度には銀行への資本注入のための国

内ファイナンスが行われた。 海外ファイナンスには、プログラム・ローンとプロジェクト・ローンの区別がある。こ

のうちプロジェクト・ローンはすでに歳出でもみたように、ある特定のプロジェクトに対

するファイナンスである。したがって、開発歳出のプロジェクト・ファイナンスとプロジ

ェクト・ローンは同額となる。1998、99 年度にはプログラム・ローンの再開とプロジェ

クト・ローンの増額により財政赤字のファイナンスがなされている。 対外債務の償還には、プラスで示される償還額のほかにマイナスで示される債務繰延べ

額が記載される。債務繰延べは、第 3 次パリ・クラブ債務繰延べ合意を受けて、2002 年

度予算から追加された項目である。 財政改革により、開発歳出の取扱いが大きく変化し、またファイナンスの方針も変化し

たが、海外借入れへの依存度が高まることにはなっていない。ファイナンス額が大きくな

っているため、海外ファイナンスも増加しているが、依存度からみれば国内ファイナンス

の重要性が増していることになる。

7

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第 2 章 中央政府の債務

2.1 国内債務の種類

ファイナンスは、毎年度の財政赤字をカバーするものでフローの概念である。それに対

し債務は毎年の借入れが積み重なるストックの概念で、毎年度の債務残高には借入れから

償還額を差し引いた値が加算される。したがって、毎年度の借入れにより財政赤字をカバ

ーするということは、利払いおよび償還により次年度以降の財政負担へとつながることに

なる。以下では、インドネシア中央政府の債務についてその種類と動向、および今後の問

題をみていきたい。 まず、債務の種類について確認する。大きく分けると、外国政府や国際機関などからの

借入れである対外債務と国内債務がある。対外債務にはすでにみたように、プログラム・

ローンとプロジェクト・ローンがある。その通貨別の残高構成は、米国ドルと日本円が多

くを占め、2001年12月残高で米国ドル建て債務が42%、円建て債務が32%となっている。 国内債務については、2002 年に成立した国債法で政府が国債を発行できるようになった

が、それ以前は基本的に国債によるファイナンスは禁じられていた。1997 年の通貨危機の

のち金融危機が生じるが、これに伴い発行された国内債務は銀行再編債(Bank Recapitalization Bonds)と呼ばれる。2002 年 12 月の中央政府国内債務残高は約 696 兆

ルピアであるが、そのうち 419 兆ルピアが銀行再編債である5。 銀行再編債には、変動金利債(VRB, Variable Rate Bond)、固定金利債(FRB, Fixed Rate

Bond)、ヘッジ債(HB, Hedge Bond)がある。 変動金利債は、インドネシア中央銀行の 3 ヵ月証券金利に連動するもので、四半期ごと

に利払いが生じるものである。固定金利債は、償還期限に応じた 10%から 14.5%の固定金

利の債務である。ヘッジ債はシンガポール・インターバンク 3 ヵ月金利(SIBOR, Singapore Inter-Bank Offered Rate)で米国ドルにインデックスされた債務である。それぞれ異なる

期間の債務がある。 そのほか、中央政府の国内債務としてインフレ・インデックス債(Government’s

Debenture, Guarantee Program)がある。インフレ・インデックス債は、インフレによ

る実質債券価値減少のリスクを回避するもので、金利は固定で名目元本残高に対して 3%だが、物価上昇に応じて名目元本額が調整されるものである。

2002 年 12 月末現在、国内債務に占める比率は変動金利債が 34.4%、固定金利債が 22.2%、

ヘッジ債が 3.6%、インフレ・インデックス債が 38.4%、その他が 1.4%となっている。

5 そのほかは、Guarantee Program(国内債務残高に占める比率 38.4%)、Credit Program(同比 1.4%)の

債務である。

8

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2.2 債務残高推移

インドネシア中央政府の債務残高は、通貨危機以降急増した。ひとつは為替市場におけ

るルピア下落によって(外貨建てをルピア建てに換算した際の)対外債務負担が増大した

ためであり、もうひとつは、国内債の発行により国内債務が増大したためである。 図表 2-1 は、GDP 比でみた債務残高の推移を示している。上でもみてきたように、1980

年代半ばに海外借入れに依存した財政運営が始まったのと同じころ、対外債務の GDP 比

が増大していることがわかる。1985 年に GDP 比 29.5%であった対外債務は、1986 年に

同 46.6%、1987 年には同 50.6%と膨れ上がっている。それ以後は徐々に GDP 比では低下

しているが、通貨危機の 1997 年に対外債務が再び増大している。さらに 1998 年 9 月 25日に国内債務(インフレ・インデックス債)が発行され、翌 1999 年には固定金利債、変

動金利債、ヘッジ債も発行され債務残高は急増した。2000 年末には対外債務と国内債務の

合計が GDP 比 106%に達するに至った。

図表 2-1 インドネシア中央政府、債務残高(GDP比%)

0%

20%

40%

60%

80%

100%

120%

1970 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001

年末(12月)

GD

P比

(%

対外債務 国内債務

注:各年12月の残高 出所:インドネシア中央銀行、世銀、および筆者推計

9

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図表 2-2 銀行再編債、償還プロファイル

0%

2%

4%

6%

8%

10%

12%

14%

16%

18%

20%

2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016 2018 2020

対03年

度歳

入予

インフレ・インデックス債 銀行再編債

注:2003年度以降の政府債務の償還期日に基づくグロスの償還であり、借換えや繰延べ

は考慮していない。インフレ・インデックス債については、インデックス前の値。

Credit Program(歳入予算比で約1.4%)は含まない。2002年度は暫定実績値。 出所:インドネシア財務省

1998 年から発行された国内債務は、2004 年以降に多額の償還を迎えるため、2004 年度

以降の財政ファイナンスが可能かどうかという短期の持続可能性の問題が生じている。図

表 2-2 では 2002 年 12 月の債務残高構成に基づき、今後の償還額を示している。ただし、

インフレ率および金利についてインデックスさせていないため、実際の償還額は図の値よ

りも大きなものとなる。また、対外債務の償還も加わる。対外債務の償還は 2003 年度予

算歳入の 20%相当に上ると考えられる。 国内債務の償還は2004年度以降急激に増加し、2003年度予算歳入の16%相当に達する。

これに対外債務の償還を加えると 18%相当を超える規模になる。また、2003 年度におけ

る利払い費を同じく歳入に対する比率でみると 24.4%であるから、2003 年度は利払い費と

償還額で、歳入の 42%を占めることになる。

2.3 海外支援

債務増大に直面し、財政の持続可能性を維持するための重要な要素となったのが海外支

援である。海外支援の枠組みとしては、IMF 融資とインドネシア支援国会合(CGI, Consultative Group for Indonesia)、パリ・クラブがある。

CGI は各国政府と世界銀行やアジア開発銀行などの国際機関からなる。もともと CGIの前身であるインドネシア援助国会議(IGGI, Inter Governmental Group on Indonesia)が発足したのは 1967 年であるが、1992 年に旧宗主国のオランダが脱会し、世界銀行を議

長とする CGI となった。1967 年頃からインドネシアは外国援助を前提とした均衡財政主

義をとったが、その外国援助による資本流入額を決めていたのが IGGI である。

10

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図表 2-3 には 1995 年以降の CGI プレッジ額をのせている。通貨危機直後の 1998 年に

その額が増大していることがわかる。2003 年 1 月にも、2003 年度資金ギャップ支援とし

て、日本からの支援額 7 億 3 千万ドルを含む総額 27 億ドルの支援が決まった。 IMF は経済構造改革に関するコンディショナリティを伴う緊急融資を行っている。拡大

信用供与ファシリティ(EFF, Extended Fund Facility)により供与されている現行融資は

2000 年 2 月に承認されたもので、3 年間で総額 50 億ドル相当の融資を行うものである。

ただし、2000 年はプログラム実施の遅れから融資は一部のみが行われるにとどまった。そ

のため 2002 年 1 月に 1 年間の延長が認められ、プログラム終了は 2003 年 12 月 31 日と

なった。融資はレビューに基づいて行われるが、2002 年 6 月に第 6 次レビュー、同年 12月に第 7 次レビュー、2003 年 3 月に第 8 次レビューが完了している。

CGI が融資を行うのに対して、パリ・クラブは債権国政府が公的対外債務の繰延べなど

に応ずる債権国会議である。パリ・クラブは IMF プログラムを前提として債務繰延べに

応じている。これまで 3 度の合意がなされ、1998 年 9 月のパリ・クラブ I では 42 億ドル、

2000 年 4 月のパリ・クラブ II では 58 億ドル、2002 年 4 月のパリ・クラブ III では 54 億

ドルの繰延べが合意された。

図表 2-3 CGI支援(億米国ドル)

合計 二国間 国際機関 日本 アジア開発銀行 世界銀行

1995 53.6 27.6 21.4 26.0 12.0 12.0 1996 52.6 25.6 19.2 27.0 12.0 12.0 1997 53.0 22.6 18.7 30.4 12.0 15.0 1998 78.9 23.1 15.0 55.9 22.0 27.0 1999 58.6 16.4 12.0 42.2 16.0 23.8 2000 41.9 15.8 14.5 26.2 10.7 15.0 2001 47.7 18.8 16.6 28.9 15.2 13.0 2002 31.4 9.7 7.2 21.7 11.5 10.0

注:1999年度まで、会計年度は4月から3月。2000年度は4月から12月までの9ヵ月。2001年度

から会計年度は暦年と同じ。また、通貨危機前の支援額は新規コミットメントのプレッジ

額、通貨危機後はディスバース・ベースであるため、表示額の性格は異なる。 出所:Indonesian Financial Statistics, Bank Indonesia

11

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第 3 章 財政収支と経済の相互関係

3.1 財政収支の要因分析

中央政府の財政収支は、1994 年度から 1997 年度まで黒字を達成してきたが、通貨危機

後の 1998 年度に赤字化し、以後も赤字が継続している。財政収支の要因分析には、OECDなどの国際機関でも行われているように、構造要因と景気循環要因とのふたつの要因分解

を行うものがある。財政収支の構造は、今後の財政収支の動向を探る上でも重要である。

景気循環要因により財政収支が赤字化したのであれば、景気回復とともに収支も改善する

はずである。しかし、構造要因による収支赤字であれば、景気回復のみによる改善は期待

できない。 歳入面には景気循環に対応してその額が変化する自動安定化機能(ビルト・イン・スタ

ビライザー)があるが、これは税率を一定とするときに所得水準が低下すれば税額が減少

し、逆に上昇したときには税額が増加する機能をいう。VAT などの間接税は税率が決まっ

ているため、国民総支出の一定割合が歳入となる。間接税については通常、所得税よりは

GDP 弾力性が小さく 1 に近くなる。どちらの場合も景気循環要因では、景気が悪いとき

に財政収支は悪化するという関係がある。 まず、所得税(非石油・ガス)、物品税、VAT、その他の税、税外収入のそれぞれの GDP

ギャップ弾力性を求めて構造要因の値を導いた。次に、構造値と実績値との差を求め、こ

れを景気循環要因の値とした。 石油・ガスからの収入については変動が大きいが、これは主に原油価格の変動によるも

のと考えられる6。原油価格が GDP ギャップに影響を与えているとすれば景気循環要因と

も考えられるが、基本的には原油価格の変動は国内経済の変動によるものではないので、

石油・ガスからの収入についてはすべて構造要因に含めた。 歳出については、裁量政策も構造要因と定義されており、景気循環要因から影響を受け

る項目は限られている。失業対策のための費用や、国によっては農業関係の財政支出が景

気循環と関係を持っている。インドネシアについては景気循環に反応する失業手当などの

歳出額がみあたらない。インドネシアの場合、歳出は政府の決定という外生要因にのみ依

存するので構造要因による変動のみであると考える。具体的には、景気循環要因の歳出は

ゼロで、構造要因の歳出は実額がそのまま用いられる。ただし、利払い費については、以

下に述べるように構造値に全額が含まれるとしたものと、景気循環に含まれるとしたもの

についてそれぞれ分析している。 インドネシアの場合、最近の財政収支動向はこの利払い費の動向から大きく影響を受け

ている。利払い費の増大は景気循環に呼応した性格も持っているものであり、それまでの

債務ストックから生じる構造的な利払い費のみではない。この点を踏まえ、以下では利払

い費を構造要因とした場合と景気循環要因とした場合の二通りについての分析を試みた。 利払い費を構造要因とした場合の結果は図表 3-2 にある。なお、要因分析のために推計

6 その相互関係については次章以降で分析を行う。

12

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した各税項目の GDP ギャップに対する弾力性は以下にある7。

図表 3-1 GDPギャップ弾力性

項目 弾力性所得税(非石油・ガス) 2.8VAT 2.0物品税 0.4その他税 2.5税外収入 1.6

注:GDPギャップに対するそれぞれの項目の弾

力性。最小二乗法により推定した。 この図から結果をみると、1993 年度までの財政収支赤字では構造要因が常に赤字である

ことがわかる。景気循環要因も赤字の場合が多いが、1987 および 1990 年度には黒字とな

っている。その後 1994 年度から財政収支は黒字化しているが、このとき構造要因の黒字

がみられる。1998 年度からの財政収支赤字は、この構造要因が赤字に転じたことの影響が

大きい。 1999 年度において構造収支が大きく負の値となっているが、これは石油などに対する補

助金の増大によるところが大きい。石油・ガスからの収入が 1998 年度に比べて約 17 兆ル

ピアの増加となっているが、一方の歳出における補助金の増加額はより大きく、約 35 兆

ルピア(うち石油補助金増加額は約 12 兆ルピア)となっている。すでに触れたように、

補助金についてはここではすべて構造要因に含めているため、解釈には注意が必要である。

財政運営にかかわる政策転換により収支赤字がもたらされたわけでなく、外生要因による

構造収支赤字である。 逆に 2000 年度にみられた構造収支の若干のプラス化(0.04%)は、石油・ガス収入の増

大と補助金の減少によるところが大きい。 利払い費を景気循環要因であると定義した場合はどうなるであろうか。それを示したの

が、図表 3-3 である。利払い費が財政収支赤字の大きな要因であったことが確認できる。

特に 1998 年度以降の財政収支赤字は、利払い費を含む景気循環要因によるところが大き

い。 インドネシアにおける最近の財政赤字拡大は、利払い費を景気循環要因と捉えた場合に

は経済の低迷による要因が大きいという結論になる。逆に、利払い費を構造要因と捉える

7 構造要因歳入では、所得税、法人税、消費税、酒税についての GDP ギャップ弾性値を最小二乗法に

より求め、構造値を導いた。税項目 i について、

i

YY

TT

i

=

**

が成り立つ。ここで、Ti は税目 i の

実質税収額を示し、Y は実質 GDP を示す。αi は GDP ギャップ弾性値となる。*印は構造値を示す。

求めた Ti* の合計が構造的歳入の合計値となる。

13

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と構造的要因が財政収支赤字の主な要因であるという結論になる。しかしながら、利払い

費をどう捉えるかは一元的ではなく、時期に関してその意味が異なると考えたほうがよい。 1997 年の通貨危機以降の数年間にわたる利払い費増大は、銀行セクター救済のためのフ

ローとしての国内債発行や、為替レートの下落によるルピア建て利払い費および償還額の

増加によるものである。したがって、利払い費の増加分については景気循環要因であると

みることもできる。一方で、この増加分を除くそれまでのストックにかかる利払い費や、

今後の利払い費については、ストックとしての政府債務から生じるものであるから、経済

状況が再び大きく変化しないという前提で構造的なものである。 いずれにせよ、インドネシアの 1998 年度以降数年間の財政収支赤字は通貨・金融危機

を経て蓄積された政府債務の利払いから生じたものであり、財政運営における構造的な歳

入と歳出のアンバランスから生じたものとはいえない。しかしながら、今後の持続可能性

を楽観視させるものではない。今後利払い費が構造的に赤字要因として生じてくるからで

ある。

図表 3-2 財政収支の要因分析(利払い費を構造要因とした場合)

-5.0

-4.0

-3.0

-2.0

-1.0

0.0

1.0

2.0

3.0

1987 1990 1992 1994 1996 1998 2000

GD

P比

(%

構造収支 循環収支 収支

注:2000年についてはGDPに9/12をかけて調整している。

14

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図表 3-3 財政収支の要因分析(利払い費を景気循環要因とした場合)

-8.0

-6.0

-4.0

-2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

1987 1990 1992 1994 1996 1998 2000

GD

P比

(%

)構造収支 循環収支(含 利払い) 収支

3.2 中央政府財政の動向とパフォーマンス

3.2.1 歳入

歳入の動向は図表 3-4 で示した。1984 年の税制改革以降、石油・ガスへの依存度は大

きく低下している。それでも 2003 年度予算で歳入の約 21.1%を占めている。特に比率が

大きかった 2000 年度には所得税分で歳入の約 9.1%、天然資源分で歳入の約 32.5%を占め

た。石油・ガスは価格という外生要因からの影響を受けるため、財政の不安定要因となる。 次に予算と決算を比較することで、歳入のパフォーマンスをみていきたい。図表 3-5 で

は、歳入合計を含む6つの項目について、予算と決算を比較している。2001 年度の決算値

は暫定値である。 まず、歳入合計の乖離率は 1993 年度から 1998 年度までについては大きくないが、1999

年度からは決算が予算を上回っていることがわかる。 所得税をみると、1998 および 1999 年度において決算が予算を大きく上回っている。こ

の乖離の原因は、税制の整備による税収増と予測以上のインフレ率上昇である。インドネ

シアでは 1980 年代半ばの財政改革により緩やかながら徴税制度が改善されてきており、

税率を上げることなく税収が増加してきた8。予算における所得税の GDP 比をみると、

1999 年度に 3.3%であったものが、2000 年度に 4.9%、2001 年度に 5.4%となっている。 しかしながら、1998、99 年度において決算が予算を上回ったのは、年度内に予想以上

に徴税制度整備が進んだためというわけではない。図表 3-5 では、1996 年度を 1 とする

消費者物価指数により実質化した決算値についても棒グラフにしているが、1998、99 年

度の実質決算の動向は予算のそれと重なっている。なお、1998、99 年度における実質所

8 ただし、2000 年には累進性を強めた所得税率の変更がなされている。

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得税収の減少は、所得税における自動安定化機能が働いたことにもよる9。徴税制度整備の

余地は今後も残されていると考えられる。 所得税については、2000 年度および 2001 年度(暫定値)では予算と決算の乖離は再び

縮小している。所得税の税収予測は経済が大きく変動する場合を除いて安定的である。 VAT や貿易からの税収についてはより安定的な予算予測となっている。VAT については、

2000 年度の決算が予算から 20%程度乖離しているものの、それ以外の年度において大き

な乖離はみられず、予算で予想したものに即していることがわかる。貿易からの収入も

2000 年度に約 19%乖離しているが、その他の年度ではそれほど大きな乖離はない。 以上の非石油・ガス税収については、政府がある程度安定的に予測できる一方で、石油・

ガスについては予算と決算の間に大きな乖離がみられる。図表 3-5 で示されているように、

1998 年度には決算が予算を 17%下回った。次年度では逆に 179%上回っている。石油・ガ

ス税収の不安定さは、原油価格の変動故と考えられる。 1999 年度以降、歳入合計の決算が予算を上回ることとなったのは、石油・ガス収入によ

るところが大きい。1998 年度は逆に石油・ガス収入や税外収入の決算が予算を下回ったも

のの、所得税が予算を上回ったため、予算と決算がほぼ同水準となっている。

図表 3-4 歳入動向 構成比率(%)

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

1969 1972 1975 1978 1981 1984 1987 1990 1993 1996 1999 2002

年度

グラント

税外収入 (石油・ガスは除く)

関税

その他税

物品税

土地・建物

V.A.T.

所得税(石油・ガスは除く)

石油・ガス(所得税+天然資源収入)

注:2001、2002年度は暫定実績値、2003年度は予算。 出所:インドネシア財務省

9 なお、2000 年度の減少は会計年度が変則的に 9 ヵ月となったためである。

16

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V.A.T.

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002年度

-60%

-30%

0%

30%

60%

90%

120%

150%

180%

予算 決算 乖離率

所得税 (除 石油・ガス)

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

90,000

100,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002年度

-60%

-30%

0%

30%

60%

90%

120%

150%

180%

予算 決算 実質決算(1996基準) 乖離率

税外収入

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002年度

-60%

-30%

0%

30%

60%

90%

120%

150%

180%

予算 決算 乖離率

石油・ガス

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002

年度

-60%

-30%

0%

30%

60%

90%

120%

150%

180%

予算 決算 乖離率 石油価格変化率

輸入関税・輸出税

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002年度

-60%

-30%

0%

30%

60%

90%

120%

150%

180%

予算 決算 乖離率

歳入

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

350,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002年度

-60%

-30%

0%

30%

60%

90%

120%

150%

180%

予算 決算 乖離率

図表 3-5 歳入、各項目別、予算・決算

注:左縦軸単位:10億ルピア。所得税については、実質決算についてものせている(1996年度を1とする消費者

物価指数を用いた。)。2001年度決算は暫定値。2000年度は変則的に4月から12月までの9ヵ月間のみ。石油

価格変化率は年度平均値について。 出所:インドネシア財務省、インドネシア中央銀行、筆者推計。

17

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3.2.2 歳出

歳出の動向は図表 3-6 で示した。ただし、財政制度の変更に対応するため、新形式と一

貫性を持つようにいくつかの推計を行っているので、原数値とは若干異なる。 公的債務利払いは、償還額を含まず、国内債務、対外債務の利払い費のみの値である。

1993 年度以前については償還額を含めた債務費のデータしか入手できなかったため、世界

銀行の Global Development Finance (以下 GDF と略する)から推計を行った10。 2000 年度以前の地方への移転は、経常歳出における地方への移転や開発歳出における地

方開発補助金を合計したものである。補助金は、従来形式で開発歳出に含まれていた金利

補助金や肥料補助金も加算した値である。したがって、開発歳出には、地方開発補助(地

方への移転へ)、国内利払い費(公的債務利払いへ)、金利補助(補助金へ)、肥料補助金(補

助金へ)は含まれない。 以上の定義に基づいた歳出項目の構成割合の推移を確認していく。まず特徴的なのは、

1980 年代半ばと 1990 年代後半における公的債務利払いの構成比率の上昇である。1980年代半ばは石油価格が下落しており、また、対外債務への依存度を高め始めたころである。

1990 年代後半は通貨危機の影響と、国内債に対する利払い費の増加の影響がある。 人件費、物件費については若干の構成比低下傾向がみられる。ただし、地方分権化に伴

い中央から地方への人事異動も行われており、その分は差し引いてみる必要がある。 開発歳出については、通貨危機以降構成比率が低下している。一方で補助金が増加して

いる。開発歳出と補助金の合計はほぼ一定割合となっているので、もともと金利補助金や

肥料補助金が開発歳出に含まれていたこともあり、補助金が開発歳出と同等の扱いをされ

ている可能性も考えられる。 地方への移転は、1990 年代半ば以降構成比率が小さくなっていたが、地方分権化により

2001 年度以降拡大している。しかしながら、本稿の定義では、1990 年代前半の比率と比

べると必ずしも極端な構成比率拡大とはいえない。 歳出動向をみると、利払い費の増加が財政を圧迫している状況がみて取れる。今後、補

助金削減による歳出減少は可能なものの、そのほかの人件費・物件費および地方への移転

は縮小の対象にはほとんどなりえない。残るのは開発歳出であるが、すでに構成比率が小

さくなっており、歳出削減の難しさが伺える。

10 従来形式では償還額と利払い費の合計が 返済額(Debt Repayments) として歳出項目に計上されていた。

1971 年度から 1993 年度については、GDF の値から利払い費を推計した。GDF では Public and Publicly Guaranteed Long-term Debt についてで、これは中央政府のものとは若干異なる。財政統計と GDF 統計

の Repayments の値がほぼ同じ動向を示しているので、比率を用いることで推計した。

財政利払い費推計値 = GDF 利払い費

GDF 返済額合計 × 財政返済額合計

18

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図表 3-6 歳出構成比

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

1969 1972 1975 1978 1981 1984 1987 1990 1993 1996 1999 2002

年度

公的債務利払い

地方への移転

開発歳出

その他経常歳出

補助金

人件費・物件費

注:2001、2002年度は暫定実績値、2003年度は予算。開発歳出には、地方開発補助(地

方への移転へ)、国内利払い費(公的債務利払いへ)、金利補助(補助金へ)は含ま

れない。 出所:インドネシア財務省および筆者推計

次に歳出における予算と決算の乖離をみていく。利払い費については予算における額を

推計できなかったため、ここでは償還額も合わせた旧形式での債務返済額を参考にのせて

いる。歳出合計については予算利払い費がわからないこともあり、その値を示していない。 歳出面では、経常支出項目について安定的な予算と決算の関係となっている。人件費と

物件費の合計をみると、予算と決算でほぼ同じ額となっていることがわかる。これらの項

目は、おもに雇用者数に基づいていたり、予算の範囲内での物件費であったりするためで

ある。 地方への移転についても安定的な予測が可能である。ただし、地方への移転は 2000 年

度より地方分権が強化される形での制度変更が行われており、歳入の一定割合が地方政府

へ移転されるため、地方への移転の安定性は歳入予算の予測に依存する形となった。 開発歳出のうちルピア・ファイナンスについては、予算と決算が乖離している年度が多

い。一方で開発歳出のうち、特定のプロジェクトに対する海外からの借入れによる歳出で

あるプロジェクト・ファイナンスは、経済が混乱した 1998、99 年度を除いて、ほぼ予算

どおりの決算となっている。なお、本稿の推計では地方開発援助を地方への移転としたた

め、ルピア・ファイナンスには含まれていない。また、肥料補助金なども含まれていない。

19

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人件費+物件費

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002年度

-60%

-30%

0%

30%

60%

90%

120%

150%

180%

予算 決算 乖離率

ルピア・ファイナンス

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002

年度

-90%

-60%

-30%

0%

30%

60%

90%

120%

150%

180%

予算 決算 乖離率

プロジェクト・ファイナンス

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

45,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002

年度

-60%

-30%

0%

30%

60%

90%

120%

150%

180%

予算 決算 乖離率

地方への移転

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002年度

-60%

-30%

0%

30%

60%

90%

120%

150%

180%

予算 決算 乖離率

債務返済(償還+利払い)

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

140,000

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001年度

-60%

-30%

0%

30%

60%

90%

120%

150%

180%

予算 決算 乖離率

図表 3-7 歳出、各項目別、予算・決算

注:左縦軸単位:10億ルピア。2001年度決算は暫定値。2000年度は変則的に4月から12月までの9ヵ月間のみ。

債務返済は従来形式に基づくもので、利払い費と償還額の合計である。

出所:インドネシア財務省、インドネシア中央銀行、筆者推計

20

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以上から、いくつかの事実確認を行うことができた。まず歳入については、①税収変化

は主に経済成長やインフレ率に依存し、予算と決算の関係は安定的である。②石油・ガス

収入は、石油価格や為替レートなど11に依存し、予測は難しい。③税外収入は天然資源や

国営企業からの利益移転だが予測は難しい、とまとめられる。 次に、歳出については、①利払い費を除く経常歳出は固定的で、予算と決算の関係は安

定的である。②地方への移転は安定的であるが、歳入の一定割合が移転されることを考慮

する必要がある。③開発支出では特にルピア・ファイナンスが不安定である。④利払い費

は安定的である。ただし、利払い費についてはその増大が問題である。 安定的な項目については、経済指標との関係を導くことが容易である。不安定な項目に

ついては、それぞれの決定要因が異なるので、その要因を取り入れて分析を行うことにな

る。そのほか、特に歳出についてはその規模が経済にどの程度の影響を与えるのかをみる

必要がある。

3.3 経済の歳入への効果

ここでは、歳入の各項目について、主に GDP 弾力性を推計することで、GDP が変化す

るときに歳入がどれほど変化するのかの分析を提示する。また、税収項目ごとの GDP 弾

力性の違いや、依存する経済指標の違いについても分析する。石油・ガスが経済状況より

も原油価格に依存するのに対して、実質の税収は国内の景気状況に、名目ではさらに物価

水準に依存する。 はじめに、所得税、VAT、土地・建物税、物品税、その他税という経済と安定的な関係

を持つと考えられる項目について推計した。インドネシアでは、税率の変更は 2000 年度

までなされておらず、基本的には減税政策をそれほど考慮する必要がないと考えられる。

そこで、ここでは GDP を外生的に捉えた分析を行っている。すなわち、推計式は

ln TAXt = CONST + α1 TREND +α2 ln GDP + ε (1) t t

t t

となる。ここで、TAX は各税収、CONST は定数項、TREND はトレンドダミー、GDPは実質 GDP を示す。εt はホワイト・ノイズの撹乱項で、各推計におけるダービン=ワト

ソン検定の結果、自己相関が認められたため、一階の自己相関をおいて推計を行った。す

なわち、

ε = ρ εt-1 + μt (2)

とおいた。μt はホワイト・ノイズのかく乱項である。

11 石油・ガスについては価格要因のほかに、生産量や生産性、あるいは収益性も収入に影響を及ぼす。生産要

因は単年度収入の変動に対する影響は小さいが、構造的な収入に対する影響は大きい。

21

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推定期間は税制改革が行われたことを考慮して、1985 年度から 2002 年度とした。ただ

し、2001、02 年度については決算の暫定値である。データは、それぞれ 1996 年度を 1 と

する消費者物価指数により実質化し、その値の自然対数をとったものである。 所得税には石油・ガス分は含まれていない。税収のデータはインドネシア財務省からの

ものであり、GDP 統計については IMF の International Financial Statistics を用いた。

なお、GDP は実質値の年度データをそろえられなかったため、暦年データとなっている。 このような推定式のもとでの結果は図表 3-8 にある。 所得税についてみると、GDP に対する弾力性が 1.75 で有意な値となっている。また、

トレンド項についても正で有意な値となっている。VAT については、GDP に対する弾力

性が 1.18 であり、有意な値となっている。 所得税と VAT とを比べると、それぞれの特徴をつかんでいることがわかる。一般に間接

税は需要に対して一対一の関係を持つ。ここでも VAT の弾力性は 1 に近い。一方で、所得

税は 1.75 と VAT よりも大きな値をとっている。したがって、所得税(直接税)は間接税

よりも景気の動向に左右されやすい。この所得税の特徴は景気低迷のときは人々にとって

は減税効果をもたらすことから、自動安定化機能といわれる。 土地・建物税については GDP 弾力性が 1 に近く正に有意な値となった。物品税は、酒・

タバコなどにかかる税だが、これらは景気低迷でもそれに応じて消費が減少するわけでは

ないため GDP 弾力性は低く、景気に大きく左右されない税収項目であることがわかる。 その他の税については有意な値を得ることができなかった。

図表 3-8 各種税収とGDP

所得税 VAT 物品税 その他税AR1 AR1 AR1 AR1 AR1

定数項 -5.69 ** -1.01 -2.22 2.13 1.11( 1.72 ) ( 2.25 ) ( 3.11 ) ( 1.57 ) ( 5.28 )

トレンド 0.03 * 0.03 0.07 ** 0.05 ** -0.05( 0.01 ) ( 0.02 ) ( 0.03 ) ( 0.01 ) ( 0.04 )

GDP 1.75 ** 1.18 ** 0.92 * 0.58 ** 0.76( 0.24 ) ( 0.32 ) ( 0.43 ) ( 0.21 ) ( 0.73 )

ρ 0.65 ** 0.65 ** 0.69 ** 0.78 ** 0.61 **( 0.20 ) ( 0.21 ) ( 0.19 ) ( 0.17 ) ( 0.22 )

Adj. R2 0.97 0.91 0.92 0.94 0.20

土地・建物税

注:各変数は実質値の自然対数値。AR1はかく乱項を一階の自己相関としたモデル。ρ

でその係数を示す。カッコ内は標準誤差。*、**はそれぞれ、5%、1%の有意水

準で係数がゼロの帰無仮説が棄却されることを示す。推定期間:1985年度から2002年度。

次に、貿易にかかる税、税外収入、石油・ガス収入について分析する。貿易にかかる税

のうち、輸入関税は国内の所得が増大すれば輸入も増加すると考えられるため、国内の景

気からも影響を受ける。一方で、輸出税は国内の景気からは直接影響を受けず、外国の景

気からの影響を受ける。また、どちらについても為替レートの変動からは影響を受けると

考えられる。

22

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まず、図表 3-9 で輸入関税についてみると、まず、説明変数に実質 GDP のみを入れた

場合には有意な値が導かれなかった。そこで、為替レートも加えた推計も行ってみた。こ

の場合、実質 GDP のみのときの係数が 0.56(ただし有意ではない)であるのに対し、-1.16と負の値となっている。為替レートについては 6.8%とここでの有意水準 5%からは若干欠

けるものの、有意に近く-0.95 と負の値となった。したがって、実質 GDP に対しては頑健

性のある推定ができなかったことからも、国内の景気よりも為替レートから、より大きな

影響を受けるのではないかと考えられる。 インドネシアでは輸出税の割合は小さいが、為替レートに対しては輸入関税よりも輸出

税の方が弾力的である。結果をみると、3.59 で有意に正の値となっている。 なお、為替レートについての輸入関税、輸出関税、次にみる税外収入、石油・ガス収入

についてはかく乱項の自己相関が認められなかったため、(2)式を想定せず、(1)式の

みの最小二乗法による推定となっている。 次に、税外収入についてみる。ここでいう税外収入の天然資源には、石油・ガスは含ま

れていない。トレンド項が有意な係数となったものの、GDP との関連は認められなかった。

税外収入の歳入に占める比率は 2003 年度予算で約 7.7%とそれほど大きくはないが、予測

が難しい項目である。 石油・ガスについては、すでに前章でみたように、予算と決算の乖離が大きい。これは、

石油・ガスの税制度や構造に起因するものというよりも、石油価格の予測が難しいことか

らきていると思われる。原油価格は 1999 年度から急上昇している。 実際に推定を行い分析してみると、石油価格に対して 1.07 と正で有意な係数が得られて

いる。なお、ここでの石油価格は、ドル建ての 1 バレルあたり原油価格に為替レートをか

けて、さらに 1996 年度を 1 とする消費者物価指数で除することで、ルピア建ての実質値

としたものである。 原油価格について 1993 年度から 2002 年度の 10 年間の平均変化率を求めてみると、約

5.3%である。したがって、1.07 をかけた約 5.7%の影響を受けてきたことになる。さらに、

同期間の標準偏差は約 27.2%となっており、例えば 50%の確率でどの範囲の変化率である

かを Tchebychev's rule12を用いて計算してみると、約-14%から約 24.5%と 38.5%もの変化

率の幅が生じる可能性があることがわかる。2003 年度予算では予算歳入の約 21%を石油・

ガス収入が占めているから、不安定な石油価格動向に依存して、歳入も不安定になる。 最後に歳入合計について、GDP と石油価格を説明変数とした推計も行ってみた。ただし、

撹乱項の分散不均一性がみられたため、加重最小二乗法による推定としている。なお、為

替レートに関しては、輸出関税の歳入に占める比率が低いことや、原油価格のルピア建て

の変換に為替レートを用いていることからここでは説明変数に含めていない。推定結果を

みると、予想通り、実質 GDP と実質原油価格から正の影響を受けている。

12 平均を x、標準偏差をσとすると、100(1-1/n2)%の標本が n 標準偏差の範囲に収まる。ただし、n>1。

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図表 3-9 貿易、税外収入、石油・ガス、歳入

輸入関税 輸入関税 輸出税 税外収入 石油・ガス 歳入AR1 OLS OLS OLS OLS 加重LS

定数項 3.35 20.90 -40.84 2.54 -6.32 -0.12( 5.41 ) ( 10.31 ) ( 29.18 ) ( 4.21 ) ( 5.76 ) ( 1.02 )

トレンド 0.001 0.17 -0.58 0.06 * -0.04 0.01( 0.05 ) ( 0.10 ) ( 0.30 ) ( 0.03 ) ( 0.03 ) ( 0.01 )

GDP 0.56 -1.16 3.82 0.57 0.68 0.88 **( 0.75 ) ( 1.17 ) ( 3.32 ) ( 0.58 ) ( 0.52 ) ( 0.09 )

為替レート -0.95 3.59 *( 0.48 ) ( 1.36 )

原油価格 1.07 ** 0.35 **( 0.23 ) ( 0.05 )

ρ 0.63 **( 0.19 )

Adj. R2 0.24 0.08 0.27 0.72 0.74 0.94

注:各変数は実質値の自然対数値。OLSは最小二乗法、AR1は撹乱項を一階の自己相関としたモデル。

ρでAR1の係数を示す。カッコ内は標準誤差。*、**はそれぞれ、5%、1%の有意水準で係数がゼ

ロの帰無仮説が棄却されることを示す。

3.4 歳出と経済

次に歳出についても同様に、経済との関係から分析する。歳入については、インドネシ

アの場合には裁量政策としての減税を考慮に入れる必要がそれほどないため、GDP を外生

的に扱った。しかしながら、歳出についてはいくつかの相互作用が存在する。 例えば、裁量政策がとられ、景気低迷に対して財政出動がなされたとすると、実際には

歳出が経済へ正の効果を持っていたとしても、単純には負の相関があるとみえてしまう。

あるいは、そのほかにも政府支出の増加が乗数効果を通じて経済を押し上げたとしても、

一方では金利の上昇などを通じで投資需要を押し下げるクラウディング・アウトもある。

さらに、政府支出の増加が債務の増大によるものであれば、将来の債務返済に対する増税

を考慮した個人の消費は、政府支出から刺激を受けない可能性もある。 このように、歳出に関しては、経済と財政の相互関係や、マクロモデルにおける均衡に

ついて考慮する必要があるが、その分析は本稿での任を超えるため、ここでは単純に歳出

と経済の関係をみるにとどめている。 歳出の経済に対する内生性の可能性を考慮し、操作変数法(2 段階最小二乗法13)によ

る推定を行った。基本的な推定式は、

ln GDPt = CONST +∑α ln EXPi t

t

it + ε (3)

ln EXPit = CONST +β1 ln GDPt+β2 ln GDPt-1 + μ (4)

13 2 段階最小二乗法は、はじめに誘導型(内生変数についての解を求めた形)の推定を行う。次にそこで得ら

れた推定値を元の構造型(同時方程式)に代入し、推定値を求めるものである。なお、この方法では推定値

の一致性は満たされるが、バイアスは残る。

24

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の 2 つの式からなる同時方程式とする。ここで、GDP は実質 GDP、CONST は定数項、

EXPi は実質の各歳出項目 i を示す。(4)式の EXPi は GDP に依存する裁量政策の歳出

項目を示す。開発歳出、ルピア・ファイナンス、プロジェクト・ファイナンスについてそ

れぞれ推定を行った。ただし、ルピア建てのプロジェクト・ファイナンスについては、経

済状況よりも為替レートに依存すると考えられるため、為替レートを被説明変数とした定

式についての推計も行った。εt および μt はホワイト・ノイズの撹乱項である。操作

変数は、2 段階最小二乗法では必然的に(3)式および(4)式の先決変数および外生変数

を用いることになる。 用いたデータは財政統計で、新形式に従って一貫性が保たれている。例えば、ルピア・

ファイナンスには石油補助金や肥料補助金、地方への移転が含まれない。しかしながら、

この定義だと補助金は 1988 年度以前でゼロとなってしまう。開発歳出の動向から、補助

金の増加がルピア・ファイナンスの減少によりまかなわれているともみえるため、ルピア・

ファイナンスに補助金を加えた歳出額についての推定も行った。 歳入では推定期間を、税制改革を考慮して 1985 年度から 2002 年度までとしたが、歳出

で 1985 年度からに加えて、オイル・ブーム後の 1975 年度からについての推計も行った。 はじめに、1985 年度から 2002 年度についての推定から得られた結果を図表 3-10 で確

認していく。人件費および物件費と地方への移転に関しては、ここでみているすべての定

式においてプラスで有意な係数が得られた。開発歳出のプロジェクト・ファイナンスは正

で有意あるいはほぼ有意な係数が得られた。一方で、開発歳出のルピア・ファイナンスは

有意ではなく、その係数の正負号も定式に依存する。 ルピア・ファイナンスが有意ではない原因は、その動向が年度ごとに大きくぶれること

が考えられる。経済水準はある程度トレンドをもって増加してきたのに対し、ルピア・フ

ァイナンスの変動が大きければ有意でなくなる可能性がある。また、統計上の問題も考え

られる。例えば、ルピア・ファイナンスのある歳出がある年度から地方への移転へ含まれ

るように変更になった場合、統計データ上は、ルピア・ファイナンスが減少し地方への移

転が増加したようにみえるが、実際には歳出規模は変化していない。 次に、因果関係としてのルピア・ファイナンスと経済とを同表の定式(E1)下段と定式

(E2)下段でみることができる。どちらの場合も有意な結果とはなっておらず、ルピア・

ファイナンスが経済状況に呼応した歳出項目であるとは考えにくい。 プロジェクト・ファイナンスについても、特定のプロジェクトに対する海外からの借入

れであるから、裁量政策に用いられるものではない。実際に定式(E3)で、GDP との相

関関係は認められていない。 プロジェクト・ファイナンスは外国通貨建てであるから、財政におけるルピア建てのプ

ロジェクト・ファイナンスは為替レートに依存すると考えられる。ただし、物価も影響を

及ぼすので、為替レートが直接的な効果を及ぼさない可能性もある。ここでは負の係数が

得られている。 図表 3-11 では推定期間をのばした推定を行っている。この場合も 1985 年度からの推計

と同じく、人件費・物件費と地方への移転については有意に正の値が出ている。 プロジェクト・ファイナンスについては、図表 3-10 とは結果が異なり有意ではなく、

定式によってはマイナスの符号となっている。これは、ルピア・ファイナンスについても

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同様であり、有意ではなく、符号も定式によってマイナスとなっている。 この推定期間の場合も財政の持続可能性という視点から離れて開発歳出の効果をみる場

合には、短期的な効果よりもインフラ整備による経済成長への効果をみる必要があること

になる。

図表 3-10 歳出の効果 1985-2002年度

被説明変数説明変数定数項 -1.93 -2.33 * -2.74 * -2.74 * -1.81

( 1.06 ) ( 0.95 ) ( 1.08 ) ( 1.08 ) ( 0.96 )人件費・物件費 0.75 ** 0.65 ** 0.57 * 0.57 * 0.82 **

( 0.18 ) ( 0.19 ) ( 0.25 ) ( 0.25 ) ( 0.17 )地方への移転 0.24 * 0.25 ** 0.31 ** 0.31 ** 0.16 *

( 0.10 ) ( 0.09 ) ( 0.12 ) ( 0.12 ) ( 0.08 )ルピア -0.13

( 0.08 )ルピア+補助金 0.03 0.02 0.02

( 0.06 ) ( 0.05 ) ( 0.05 )プロジェクト 0.19 * 0.17 * 0.26 0.26

( 0.09 ) ( 0.09 ) ( 0.16 ) ( 0.16 )開発+補助金 0.06

( 0.09 )被説明変数

説明変数定数項 8.39 ** -1.82 5.64 * 9.82 ** 4.79 *

( 3.03 ) ( 3.39 ) ( 2.27 ) ( 0.70 ) ( 2.15 )GDP(t) 1.54 0.99 -0.15 0.77

( 0.98 ) ( 1.09 ) ( 0.63 ) ( 0.63 )GDP(t-1) -1.44 0.42 0.84 -0.33

( 0.93 ) ( 1.04 ) ( 0.64 ) ( 0.63 )為替レート -0.26 * -0.07 0.24 *

( 0.12 ) ( 0.09 ) ( 0.12 )

開発+補助金

(E1) (E2) (E3) (E4) (E5)

GDPGDP GDP GDP GDP

ルピア ルピア+補助金 プロジェクト プロジェクト

注:推定期間は1985年度から2002年度。

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図表 3-11 歳出の効果 1975-2002年度

被説明変数説明変数定数項 -0.23 -1.14 -1.89 * -1.89 * -1.24 **

( 0.69 ) ( 0.70 ) ( 0.75 ) ( 0.75 ) ( 0.45 )人件費・物件費 0.85 ** 0.70 ** 1.06 ** 1.06 ** 0.81 **

( 0.16 ) ( 0.23 ) ( 0.24 ) ( 0.24 ) ( 0.17 )地方への移転 0.15 0.12 0.12 0.12 0.17 *

( 0.09 ) ( 0.11 ) ( 0.10 ) ( 0.10 ) ( 0.07 )ルピア -0.17 **

( 0.06 )ルピア+補助金 0.14 -0.04 -0.04

( 0.12 ) ( 0.05 ) ( 0.05 )プロジェクト 0.03 0.01 -0.08 -0.08

( 0.05 ) ( 0.06 ) ( 0.08 ) ( 0.08 )開発+補助金 0.00

( 0.11 )被説明変数

説明変数定数項 6.41 ** 0.23 -4.05 5.31 ** 1.92

( 1.35 ) ( 1.42 ) ( 2.21 ) ( 0.75 ) ( 1.44 )GDP(t) 2.01 * 2.05 0.48 1.31

( 1.01 ) ( 1.06 ) ( 0.99 ) ( 0.70 )GDP(t-1) -1.67 -0.90 1.40 -0.46

( 0.97 ) ( 1.03 ) ( 1.03 ) ( 0.71 )為替レート -0.29 0.48 ** 0.17

( 0.19 ) ( 0.10 ) ( 0.12 )

(E10)(E6) (E7) (E8) (E9)

GDP

ルピア ルピア+補助金 プロジェクト プロジェクト 開発+補助金

GDP GDP GDP GDP

注:推定期間は1975年度から2002年度。各変数は実質値の自然対数値。2001、2002年度は暫定

実績値。2段階最小二乗法による推定。それぞれについて上段と下段で同時方程式であるこ

とを示す。カッコ内は標準誤差。*、**はそれぞれ、5%、1%の有意水準で係数がゼロの

帰無仮説が棄却されることを示す。GDPは暦年値。GDPについてt は今期を示し、t-1 は1期前を示す。

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第 4 章 政府債務の持続可能性:シミュレーション 政府債務について、持続可能性を考える場合には 2 つの視点が必要となる。ひとつは短

期的な毎年度の財政収支赤字のファイナンス問題であり、もうひとつは政府債務について

の長期的な持続可能性(維持可能性)の問題である。本稿では毎年度の財政赤字ファイナ

ンスの問題を「短期持続可能性」と呼び、他方で政府債務の持続可能性については「長期

持続可能性」と呼び区別することとする。

4.1 短期と長期における持続可能性

4.1.1 短期持続可能性

インドネシア中央政府の債務は、従来からのプログラム・ローンやプロジェクト・ロー

ンという海外からの借入れによる債務に加えて、1997 年の通貨危機とその後の金融危機に

対応するため発行した国内債(銀行再編債)により、2000 年には合計債務が GDP の 100%を超えた。2000 年以後、GDP 比でみると減少傾向にあるが、いまだ高水準である。

債務償還に関しては、国債法の成立などにより可能となった借り換えや、国際支援体制

によって長期的な管理がある程度可能となってきた。長期的な課題としては、公的債務管

理体制の整備や財政収支赤字の縮小により、持続可能性を維持していくことが挙げられる。 しかしながら、2004 年度にはファイナンス必要額が急増することになっている。このフ

ァイナンスは長期的な視点での公的債務管理や借換えによりまかないきれるものではない

ため、この短期的なファイナンスをどう手当するかが問題となる。 国有資産売却、民営化、借換債の発行、海外からの資金調達などの政策オプションが考

えられるが、これらは中央政府財政においては外生的あるいは政治的なオプションである。

財政収支が、あるいは利払い費を除いたプライマリー収支がどの程度になるのかという予

測や分析が、2004 年度以降の短期持続可能性を達成する上での重要な示唆を与える。 歳入において、所得税や VAT は経済状態に依存する。名目では物価からの影響も大きい。

これらの税については経済水準に応じた額の収入が見込まれるが、そのほかにも徴税制度

整備による収入増も重要である。制度全般で、透明性の確保、効率性の向上、説明責任な

どが必要とされる。徴税制度に限らず制度について財政の 2004 年問題に直面した政府が

その改善を進めることに期待したい。 歳入で問題となるのは、石油・ガス収入の不安定性である。石油からの収入は原油価格

にほぼ一対一で依存する。原油価格の最近の動向は上昇傾向だが、これは世界情勢の不安

定化によるものであり、その動向を期待した財政運営はできない。石油・ガス収入は為替

レートや物価からも影響を受けるから、すくなくとも国内経済指標の安定化による歳入の

安定化を図る必要がある。 短期的には石油・ガスの不安定さに依存する歳入であることは避けられないが、中期的

に債務の持続可能性を確保するためには、徴税制度の改善等により課税ベースの拡大を図

ることで、石油・ガス関連収入への依存度を下げていく必要がある。

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歳出面で、行政や歳出の効率性や透明性を高める必要があるのは、歳入の場合と同じで

ある。人件費、物件費、地方への移転、開発歳出のうちのプロジェクト・ファイナンス、

利払い費については削減余地がほとんどないため、財政収支改善のためには、補助金や開

発歳出のルピア・ファイナンスの削減が中心となる。 補助金のうち大きな割合を占めてきた石油補助金は 2004 年度に撤廃される予定であっ

た。政治的な思惑から、補助金削減に対する抵抗もあり、予算原案でゼロとはならなかっ

たが、ファイナンス必要額の増大に対応するため削減は必須であると考える。 ルピア・ファイナンスについては、経済に対する影響も考慮する必要がある。ただし、

政府の予算制約がきつい状況では歳出拡大を考えるよりも、その効率性を高めることが重

要である。本稿での推定結果では、GDP へのルピア・ファイナンス弾力性は 0.18 と他の

歳出項目に比べて大きなものではない。支出項目の選択や、効率性の向上により経済への

効果を高めることが中期的には重要である。また、ルピア・ファイナンスは予算と決算の

乖離も大きい。この不安定性は改善する必要がある。 財政収支の改善余地は大きなものではない。しかし、税制度の整備、ルピア・ファイナ

ンスを含む歳出の効率化、補助金の削減、金利および物価の安定といった政策オプション

が考えられる。これらを、長期的な持続可能性のための公的債務管理などとあわせて、で

きる限り早く着実に行うことが必要となる。

4.1.2 長期持続可能性

政府債務の長期持続可能性の分析は、国債発行による借換えが自由に行え、さらに資産

売却による債務返済がないという状況を前提として、政府債務の規模が発散する(時間の

経過とともに累積額が無限大に向かって増大する)かどうかをみることで、債務が返済可

能な水準か否かをみるものである。国債法の成立により、この仮定も当てはまるようにな

った。 政府債務の長期持続可能性が満たされるとは、無限の将来を考えたときに政府債務がゼ

ロに収束することである。政府債務の返済および利払い負担は、政府資産の売却がないと

いう前提のもとでは、財政収支黒字によりまかなわれる必要がある。したがって、政府債

務が将来ゼロに収束するためには、将来にわたる財政収支の現在価値が現在の政府債務を

上回るか等しくなる必要がある。無限将来の現在価値概念については、理論的考察が必要

なため補論で解説している。 持続可能性の基準として、よくプライマリー収支の均衡と債務の GDP 比(一定の水準

以下)が用いられる。プライマリー収支と債務 GDP 比とは相互関係がある。債務の GDP比は、分子の債務と分母の GDP の関係から、債務増加率が GDP 成長率と同じであれば一

定となる。政府の予算制約から考えると、政府債務は財政収支額がマイナスのときにその

分だけ増加し、プラスのときは減少する。また、定義により財政収支から利払い費を差し

引いたものがプライマリー収支である。仮に、債務 GDP 比が一定であるような場合には、

PBY

t

t = (i -g )Bt-1

Yt t

t (5)

という関係が成り立っている。ここで、i は政府債務の名目金利、g は名目 GDP 成長率、

29

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PB は名目プライマリー収支、B は期末の政府債務残高、Y は名目 GDP である。添え字

の t は年度をあらわす。したがって、このときには、プライマリー収支(左辺)が、債務

の利払いが成長率を上回る分(右辺)に相当する黒字となれば、持続可能性は満たされる

こととなる。逆に、この関係をみたすプライマリー収支黒字が達成されなければ、債務

GDP 比は一定とならず増加していく。また、名目金利 i と名目 GDP 成長率 g との関係

で、実質金利が低いほど持続可能性を満たすプライマリー収支 GDP 比が小さくてすむこ

とがわかる14。

4.2 持続可能性のシミュレーション分析

長期の持続可能性の定義はあくまで基礎的な説明であって、インドネシアの実際の持続

可能性をみる場合には、そのほかに為替レート、変動金利、国内債務と対外債務の違い、

物価の大幅な変動などさらに考慮すべき要因が存在する。さらに、インドネシアにおいて

は、財政収支上のファイナンス項目の内数として計上される海外からの借入れがあるため、

財政収支と債務残高の動きは必ずしも一致しない。また、すでにみたように、利払い費増

加による財政赤字はここ数年で生じた現象であり、これまでのインドネシア中央政府の財

政収支は、基本的には黒字傾向にあった。財政赤字が持続するケースは 1990 年代後半を

除いてほとんどなく、過去のデータのみからの検証では、持続可能性の判断に際して正確

な結果を得られない可能性がある。 そこで、以下で為替レートや物価、あるいは GDP 成長率の影響、対外債務と国内債務

の構成などの要素を取り入れたいくつかのパターンごとのシミュレーション分析を行うこ

とで、中央政府債務の持続可能性の検証を行うこととする。 インドネシアの政府債務は、対外債務が占めるシェアも大きいため、為替レートの影響

を受けやすい。またそのほかのインドネシア特有な問題も考慮に入れる必要がある。例え

ば、国債の借換え問題、インフレ・インデックス債など国内債務の構成、金利・物価の動

向、石油・ガス価格・生産の動向等が挙げられよう。 ここではこれらのうち、特に物価、為替レート、GDP 成長率、プライマリー収支の影響

を明示的に想定し、その下で政府債務がどのように変化するかシミュレーション分析を行

うこととする。シミュレーションの期間は 2002 年から 2050 年までとする。それ以前の値

は実績値で示される。ただし、2001 年度の財政データは暫定値である。

4.3 基本フレームワーク

4.3.1 GDPとプライマリー収支

将来の実質 GDP 成長率は外生的に与える。ここでは 3 つの想定、すなわち、これまで

14 なお、国債とその他の金利については、特に区別していない。インドネシアにおいては借換えが自由ではな

く、また、国債市場が整備されていないため、国債残高の平均金利は市場金利と異なる可能性が高い。

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と比較して低成長の 1%、実質金利の想定(2.93%)と同じ15成長率、1970 年以降の実質

GDP 成長率についてトレンド回帰したものを 2050 年までのばした外挿値を用いる。トレ

ンド回帰については、1998 年に急激な実質 GDP 成長率下落があったので、1998 年はダ

ミー変数をおくことでトレンド(直線の傾き)には影響を与えないものとした。 これらの想定を前提とすれば、物価上昇率の想定から名目 GDP が導かれる。財政にお

いて、利払い費を除いた収支であるプライマリー収支は、この名目 GDP に対して何%か

という想定をおくことで求めた。したがって、財政収支も GDP 成長率の想定により変化

することとなる。なお、GDP デフレーターと消費者物価指数の変化率は、2002 年以降に

ついては等しいとした。

4.3.2 物価、為替レート、金利

為替レートは相対的購買力平価説(PPP)により求めた。海外の物価としては、米国の

物価を採用する16。為替レートの変化率は、

e・

t = P・

t - P・

t* (6) と求められる。ここで、P はインドネシアの一般物価水準、e はルピア建て為替レート、

P* は米国の一般物価水準である。添え字の t は時間(年度)を表す。また、文字の傍点 ・ はそれぞれの変数についての変化率であることを示す。インドネシアの物価としては消費

者物価指数を採用した。 米国の物価上昇率については、過去 20 年間の平均である 3.4%で一定とした。なお、2000

年は 3.36%、2001 年は 2.84%であった。2001 年以前について実質値を求める必要がある

場合は、1996=1 とした物価水準で割ることで求めている。 金利については、2001 年の実質金利 2.93%が将来も続くとした。2001 年までの名目金

利は 6 ヵ月定期預金(Time Deposit)金利であるが、これを採用したのは IMF の

International Financial Statistics で 1970 年以降のデータが取れる金利であったからで

ある。 ただし、この 6 ヵ月定期預金金利と国債の金利は異なると考えられる。そこで、国内債

の名目金利 i は、

it = it-1 + w (idt –idt-1) = it-1 + w(P –Pt

t-1) (7) により求めた。ここで、 id は 6 ヵ月定期預金名目金利である。 w はウェイトであり、 w=(2001年国内債名目利払い/2001年名目国内債務残高)/2001年名目金利

15 本稿では実質金利を 2.93%と想定した。これは Time Deposit 6 month の 2001 年における実績値である。

データは IMF の IFS にあるもので、1970 年からデータが取れるものとしてこの金利を選択した。 16 海外の物価指標としては、ほかに貿易量でウェイトづけしたいくつかの国の加重平均によるものが考えられ

る。

31

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と求めた。このウェイトは具体的には 0.6 で 1 より小さいため、国内債の金利が他の債券

金利より低いという想定となる。シミュレーションでは、実質金利は一定であると仮定す

るため、名目金利の変化は物価上昇率の変化でも表現できる。 4.3.3 財政収支、利払い費、政府債務残高

財政収支は、支出項目である利払い費をプライマリー収支に加えて求める。利払い費は

債務残高に想定金利をかけて求め、政府債務残高には財政収支赤字分が新たな債務として

追加されるとした。 債務は一種のコンソル債の形をとると想定し、借換えにより実際の償還がなく、借入れ

に伴う費用はすべて利払い費に反映されるとする。実際には、ここ数年のファイナンスを

みると、償還が借入れを上回っており、ネットの債務残高は減少している。ここでの分析

は長期的に債務負担を平準化した場合の傾向をみることで持続可能性を示していく。以下

でそれぞれについての推計方法をみていく。なお、実質と断りがなければ名目であるとす

る。 国内債務の利払い費については、

国内債務利払い費 = it × Bt-1

により求める。国内債金利は一定の実質金利想定値に物価変化率を加えたものである。 対外債務の利払いについては、単純に想定金利から求めると整合性が取れないため、ま

ず、2001 年までの実質対外債務利払い費(ドル)と実質対外債務残高(ドル、前期末)お

よび実質海外金利について1970年から2001年の期間の最小二乗法からそれぞれの係数の

推定した17。この係数を用いて、2002 年以後の実質対外債務残高(ドル、前期末)、想定

実質金利(2.75%で一定、米国 Treasury Bill 6 ヵ月過去 20 年間平均)から、実質対外債

務利払いの推計値を求めた。そこから、

対外債務 利払い(ルピア)= 実質対外債務 利払い(ドル) × Pt* × et により名目ルピアベースの対外債務利払いを求めた。このように求めた利払い費の合計か

ら財政収支が、 財政収支=プライマリー収支-国内債務利払い-対外債務利払い

17 推定結果は以下のようになった。

実質対外債務利払い=-686.075 + 0.056683×実質対外債務残高 + 10129.66×外国実質金利 (-2.667) (9.282) (2.099) Adj.R2=0.79 ここでカッコ内の数値は、それぞれの係数のt値である。外国実質金利は米国の Treasury Bill Rate(6 ヵ

月)で 2002 年以後の実質金利は過去 20 年間の平均約 2.75%で一定とした。

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と求められる。 財政収支が赤字となった場合には、海外からの借入れは所与とし、残りについては国内

借入れよりまかなわれると仮定した。したがって、ある t 期の政府債務残高は、

Bt=Bt-1+(財政収支赤字額+新規対外借入れ(ルピア))+ 0.3×Bt-1×P・

t

t

となる。ここでは、前期末の残高のうち 3 割をインフレ・インデックス債であると仮定し、

物価上昇率 P・

t の分だけ残高に上積みしてある。新規対外借入れは開発歳出に充てるため

の借入れであり、赤字のファイナンスのためではない。したがって、新規対外借入れはド

ル表示で一定額とし、具体的には実質値が同じとなるようにするため物価上昇率を考慮し

て、

当該年度対外借入れ(ドル)=前年度対外借入れ(ドル)×( 1 + P・

*) とした。ただし、初期値には 2001 年度の新規対外借入れを用いた。 追加的な政府債務は、新規国内借入れと新規対外借入れに為替レートをかけたものとの

合計として求められる。

追加的な政府債務=新規国内借入れ+新規対外借入れ(ルピア)

4.4 シミュレーション分析

ケース1 :金利と同じ成長率

ケース 1 では、一定の実質金利 2.93%と同じ実質 GDP 成長率が実現するケースを考え

る。ただし、国内債の平均金利はウェイト調整により若干低くなっている。ケース 1(1)

では、物価上昇率が 2002 年の 9%から 2010 年の 6%へと徐々に低下し、その後も 2050年の 3%へ徐々に低下していく状況を想定した。一方、ケース 1(2)では、2050 年まで物

価上昇率が 10%にとどまる場合のシミュレーションを行っている。プライマリー収支はゼ

ロとした。どちらのケースでも GDP 成長率が政府債務の金利を上回っており、債務残高

の GDP 比は長期的に低下する。 ここで重要なのは、2 つのケースは物価上昇率の想定がかなり異なるものであるのにも

かかわらず、結果は大きく違わない点である。本稿のシミュレーションでは、物価上昇が

名目金利上昇、為替レート減価、インフレ・インデックス債による名目債務増加をもたら

す。したがって、物価の影響が出ていないのではなく、物価上昇のために実質債務の減額

が相殺されていることになる18。

18 なお、デフレーションの場合には、名目金利にゼロの下限がある、インフレ・インデックス債がマイナスと

ならないなどの違いがあり、物価が実質債務に影響を与える可能性がある。

33

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ケース2 :低成長

ケース 2 では、実質 GDP 成長率が 1%と低い水準が続く場合のシミュレーションを行っ

ている。 ケース 2(1)は、ケース 1(1)と同じく物価上昇率が徐々に低下するケースである。

プライマリー収支がゼロで成長率が金利を下回っているために、分母の名目 GDP の増加

ペースが名目債務に比べて緩やかとなり、実質的な債務負担は増加する。その結果、長期

的に債務の GDP 比が上昇を続けるため、持続可能性が満たされない結果となっている。 ケース 2(2)ではプライマリー収支を GDP 比 3%とした場合の状況をみた。この場合

には、低経済成長にもかかわらず持続可能性が満たされていることがわかる。プライマリ

ー収支黒字による債務返済により 2021 年に国内債務がゼロとなり、その後は対外債務の

みの負担となる。2050 年では GDP 比 40%強の対外債務が残っている。対外債務だけとな

る姿は、図にあるように 1997 年以前の状況に近い。ただし、対外債務だけが残るという

想定は、開発歳入としての海外借入れが一定水準に維持されると仮定したためであり、こ

の前提が変化すれば結果も異なる。

ケース3 :成長率減少トレンド

ケース 3 では、GDP 成長率が徐々に低下する状況を想定し、シミュレーション分析を

行っている。どの想定でも GDP 成長率が徐々に低下するため、GDP 比でみた債務負担が

軽減されるペースは逓減する。しかしながら、GDP 成長率が平均して約 3%であり、金利

を上回っているため政府債務の持続可能性は満たされている。 ケース 3(2)は、プライマリー収支が GDP 比 3%場合の債務残高の変化である。この

場合、2016 年に国内債務がゼロとなり、その後は対外債務のみが残ることとなる。この場

合もケース 2(2)と同じく、海外借入れの前提に依存する。対外債務の GDP 比は 2050年に 20%以下となり、2001 年までの水準と比べても低いものとなる。

以上で 3 つのケースについてのシミュレーション分析を行ってきた。物価や為替レート、

さらに対外債務と国内債務の構成といったインドネシアの特徴を考慮に入れた場合におい

ても、財政の持続可能性にとって重要な要因は経済成長率とプライマリー収支であること

が改めて確認された。大まかには、実質 GDP3%の成長率かプライマリー収支黒字 3%、あ

るいは厳密には異なるが、それらの組み合わせが 3%程度となることが長期的に確保でき

れば持続可能性は満たされる。 1970 年以降のインドネシア財政におけるプライマリー収支は平均で GDP 比約 2.5%の

黒字であり、実質 GDP 成長率の平均は約 5.7%である。1990 年以降では実質 GDP 成長率

は平均 4.36%であるから、以前のような高成長は難しいかもしれない。 これらの数字をシミュレーション結果と比較すると、一見、持続可能性は満たされてい

る状況にあるようだが、依然としてインドネシアには、金融仲介機能が回復していないと

いう問題や、2004 年の議会・大統領選挙など、さまざまなリスクも残ることには留意を要

する。債務残高の水準の高さも問題である。分析結果では持続可能性を満たすケースもあ

るが、このようなリスク要因についても考慮する必要がある。

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おわりに インドネシアは通貨危機後、対外債務増加から金融が不安定となり、金融安定化のため

の財源を必要とした政府も債務を増加させる結果となった。通貨危機以前の財政運営は財

政均衡を原則としていたが、開発歳入として海外からの借入れが行われてきた。このよう

な借入れから生じた対外債務は、ルピアの下落によって、ルピア建てで見た債務負担の増

大をもたらすこととなった。さらに国債発行により政府債務は急増する。1997 年以前に国

債は発行されていなかったが、金融危機を契機に銀行再編のための国債が発行され、2002年末の残高は、対外債務とほぼ同規模に達している。インドネシアの財政は債務の償還や

利払い費の増大といった問題を抱えることになったのである。 地方分権化が進むなかで、財政の役割も従来の開発型から配分型あるいは調整型に変化

してきている。制度的にはインドネシアの財政は、海外支援にも支えられながら、長期的

な持続可能性という観点からは改善したと考えられる。しかしながら財政制度は改善され

てきているものの依然として問題は残されている。歳入面では、石油・ガスへの依存、徴

税制度の未整備などが問題として残っており、歳出面では補助金の扱い、利払い費の増大、

地方への移転という問題がある。 今後のファイナンス動向を探る上で重要なのは、財政と経済の相互関係である。財政収

支について、歳入は石油・ガスの価格動向に大きく反応する構造となっており、財政収支

の不安定さにつながっている。歳出においては、収支均衡のための歳出削減か経済対策の

ための歳出増かのふたつの間のバランス問題がある。利払い費、人件費、地方への移転な

ど一定規模を必要とする政府支出を除けば、削減の余地があるのは開発歳出となる。一方

で、開発歳出によるインフラ整備はインドネシア経済の発展のためには必要であると考え

られる。開発歳出は、プログラム・ローンは海外からの借入れに依存するため、実際には

ルピア・ファイナンスをどの程度の規模にするかが政策変数であり、裁量の余地はさらに

限られる。 毎年度の財政の自由度が小さいとすると、その状況下で長期的に債務は持続可能である

のかどうかが問題となる。本稿では、インドネシアのインフレ、為替レート変動といった

要因を考慮に入れたシミュレーション分析を行った。 いくつかケースについて分析を行ったが、物価や為替レートの変動による対外債務のル

ピア表示額の変動を考慮に入れた場合でも、長期の持続可能性は実質 GDP 成長率とプラ

イマリー収支に依存することが示された。 しかしながら、インドネシアには、金融仲介機能が十分回復していないという問題や、

2004 年の議会・大統領選挙など、さまざまなリスク要因が残る。この後の借入れ余地が小

さいという意味で、債務残高の水準も問題である。分析結果では持続可能性を満たすケー

スもあるが、このようなリスク要因についても考慮する必要がある。それでも、大まかに

はプライマリー収支と実質 GDP 成長率との合計が実質金利を上回る水準で持続すれば、

現在の政府債務の長期持続可能性は満たされるといえる。しかし、逆に今後、一定の経済

成長が期待できない場合には、長期持続可能性が満たされないという事態も考えられるた

め、限られた資源を成長に寄与する分野に効果的に活用していく政策が重要である。

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ケース 1(1)物価:9%(2002)→6%(2010)→3%(2050)、実質金利:一定 2.93% GDP 成長率:一定成長 2.93%、プライマリー収支:0%

ケース1(1) 政府債務残高(GDP比)

0

20

40

100

120

140

1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

60

80

%%

注:2001以前は実績値。対外債務もルピア表示。以下同様。 ケース 1(2) 物価:一定 10%、実質金利:一定 2.93% GDP 成長率:一定成長 2.93%、プライマリー収支:0%

ケース1(2) 政府債務残高(GDP比)

0

20

40

100

120

140

1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

60

80

%%

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ケース 2(1) 物価:9%→6%→3%、実質金利:一定 2.93% GDP 成長率:一定成長 1%、プライマリー収支:0%

ケース2(1) 政府債務残高(GDP比)

0

20

40

100

120

140

1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

60

80

%%

ケース 2(2) 物価:一定 10%、実質金利:一定 2.93% GDP 成長率:一定成長 1%、プライマリー収支:3%

ケース2(2) 政府債務残高(GDP比)

0

20

40

100

120

140

1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

60

80

%%

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ケース 3(1) 物価:9%→6%→3%、実質金利:一定 2.93% GDP 成長率:徐々に低下(約 5%→1%)、プライマリー収支:0%

ケース3(1) 政府債務残高(GDP比)

0

20

40

100

120

140

1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

60

80

%%

ケース 3(2) 物価:一定 10%、実質金利:一定 2.93% GDP 成長率:徐々に低下(約 5%→1%)、プライマリー収支:3%

ケース3(2) 政府債務残高(GDP比)

0

20

40

100

120

140

1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050

60

80

%%

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ケース1(1) 分析結果表

為替レート 物価変動 名目金利実質GDP変化率

財政収支 利払い費 債務残高

対ドル消費者

物価指数( 6ヵ月

定期預金)(対外債務) (国内債務)

年 ルピア % % % GDP比(%) GDP比(%) GDP比(%) GDP比(%) GDP比(%)

1999 7,085 2.01 25.7 0.79 -2.40 3.81 91.4 48.3 43.02000 9,595 9.35 12.5 4.83 -1.70 4.13 106.3 55.7 50.62001 10,400 12.55 15.5 3.40 -3.67 6.41 96.4 48.4 48.02002 10,983 9.00 11.9 2.93 -5.45 5.45 95.1 47.7 47.52003 11,557 8.63 11.6 2.93 -5.30 5.30 93.9 46.9 47.02004 12,118 8.25 11.2 2.93 -5.15 5.15 92.7 46.1 46.62005 12,660 7.88 10.8 2.93 -5.00 5.00 91.5 45.3 46.22006 13,180 7.50 10.4 2.93 -4.85 4.85 90.4 44.5 45.92007 13,671 7.13 10.1 2.93 -4.71 4.71 89.2 43.7 45.52008 14,129 6.75 9.7 2.93 -4.57 4.57 88.1 42.9 45.22009 14,550 6.38 9.3 2.93 -4.42 4.42 87.0 42.0 44.92010 14,929 6.00 8.9 2.93 -4.29 4.29 85.9 41.2 44.62011 15,306 5.93 8.9 2.93 -4.21 4.21 84.8 40.4 44.42012 15,682 5.85 8.8 2.93 -4.15 4.15 83.7 39.6 44.12013 16,054 5.78 8.7 2.93 -4.08 4.08 82.6 38.8 43.92014 16,424 5.70 8.6 2.93 -4.01 4.01 81.6 37.9 43.72015 16,790 5.63 8.6 2.93 -3.94 3.94 80.6 37.1 43.42016 17,151 5.55 8.5 2.93 -3.88 3.88 79.5 36.4 43.22017 17,508 5.48 8.4 2.93 -3.81 3.81 78.5 35.6 43.02018 17,858 5.40 8.3 2.93 -3.74 3.74 77.5 34.8 42.72019 18,203 5.33 8.3 2.93 -3.68 3.68 76.6 34.0 42.52020 18,540 5.25 8.2 2.93 -3.62 3.62 75.6 33.3 42.32021 18,869 5.18 8.1 2.93 -3.55 3.55 74.6 32.5 42.12022 19,191 5.10 8.0 2.93 -3.49 3.49 73.7 31.8 41.92023 19,503 5.03 8.0 2.93 -3.43 3.43 72.7 31.1 41.72024 19,806 4.95 7.9 2.93 -3.37 3.37 71.8 30.4 41.52025 20,099 4.88 7.8 2.93 -3.31 3.31 70.9 29.7 41.22026 20,381 4.80 7.7 2.93 -3.25 3.25 70.0 29.0 41.02027 20,651 4.73 7.7 2.93 -3.19 3.19 69.1 28.3 40.82028 20,910 4.65 7.6 2.93 -3.13 3.13 68.2 27.6 40.62029 21,156 4.58 7.5 2.93 -3.07 3.07 67.4 27.0 40.42030 21,389 4.50 7.4 2.93 -3.01 3.01 66.5 26.3 40.22031 21,609 4.43 7.4 2.93 -2.96 2.96 65.6 25.7 40.02032 21,815 4.35 7.3 2.93 -2.90 2.90 64.8 25.1 39.82033 22,007 4.28 7.2 2.93 -2.85 2.85 64.0 24.4 39.52034 22,183 4.20 7.1 2.93 -2.79 2.79 63.2 23.8 39.32035 22,345 4.13 7.1 2.93 -2.74 2.74 62.4 23.3 39.12036 22,491 4.05 7.0 2.93 -2.69 2.69 61.6 22.7 38.92037 22,620 3.98 6.9 2.93 -2.63 2.63 60.8 22.1 38.72038 22,734 3.90 6.8 2.93 -2.58 2.58 60.0 21.6 38.42039 22,831 3.83 6.8 2.93 -2.53 2.53 59.2 21.0 38.22040 22,912 3.75 6.7 2.93 -2.48 2.48 58.5 20.5 38.02041 22,976 3.68 6.6 2.93 -2.43 2.43 57.7 20.0 37.82042 23,022 3.60 6.5 2.93 -2.38 2.38 57.0 19.5 37.52043 23,052 3.53 6.5 2.93 -2.33 2.33 56.3 19.0 37.32044 23,064 3.45 6.4 2.93 -2.28 2.28 55.5 18.5 37.12045 23,059 3.38 6.3 2.93 -2.24 2.24 54.8 18.0 36.82046 23,036 3.30 6.2 2.93 -2.19 2.19 54.1 17.5 36.62047 22,997 3.23 6.2 2.93 -2.15 2.15 53.4 17.1 36.42048 22,940 3.15 6.1 2.93 -2.10 2.10 52.8 16.6 36.12049 22,866 3.08 6.0 2.93 -2.06 2.06 52.1 16.2 35.92050 22,775 3.00 5.9 2.93 -2.01 2.01 51.4 15.8 35.7

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ケース2(1) 分析結果表

為替レート 物価変動 名目金利実質GDP変化率

財政収支 利払い費 債務残高

対ドル消費者

物価指数( 6ヵ月

定期預金)(対外債務) (国内債務)

年 ルピア % % % GDP比(%) GDP比(%) GDP比(%) GDP比(%) GDP比(%)

1999 7,085 2.01 25.7 0.79 -2.40 3.81 91.4 48.3 43.02000 9,595 9.35 12.5 4.83 -1.70 4.13 106.3 55.7 50.62001 10,400 12.55 15.5 3.40 -3.67 6.41 96.4 48.4 48.02002 10,983 9.00 11.9 0.00 -5.59 5.59 97.7 48.9 48.82003 11,557 8.63 11.6 1.00 -5.53 5.53 98.1 49.0 49.12004 12,118 8.25 11.2 1.00 -5.47 5.47 98.6 49.0 49.62005 12,660 7.88 10.8 1.00 -5.41 5.41 99.1 49.0 50.02006 13,180 7.50 10.4 1.00 -5.34 5.34 99.5 49.0 50.52007 13,671 7.13 10.1 1.00 -5.28 5.28 100.0 49.0 51.02008 14,129 6.75 9.7 1.00 -5.21 5.21 100.5 48.9 51.62009 14,550 6.38 9.3 1.00 -5.14 5.14 101.0 48.8 52.22010 14,929 6.00 8.9 1.00 -5.07 5.07 101.6 48.7 52.82011 15,306 5.93 8.9 1.00 -5.08 5.08 102.1 48.6 53.52012 15,682 5.85 8.8 1.00 -5.08 5.08 102.6 48.5 54.12013 16,054 5.78 8.7 1.00 -5.09 5.09 103.2 48.4 54.82014 16,424 5.70 8.6 1.00 -5.09 5.09 103.7 48.2 55.52015 16,790 5.63 8.6 1.00 -5.10 5.10 104.2 48.1 56.22016 17,151 5.55 8.5 1.00 -5.10 5.10 104.8 47.9 56.92017 17,508 5.48 8.4 1.00 -5.11 5.11 105.3 47.7 57.62018 17,858 5.40 8.3 1.00 -5.11 5.11 105.9 47.5 58.42019 18,203 5.33 8.3 1.00 -5.12 5.12 106.4 47.3 59.12020 18,540 5.25 8.2 1.00 -5.12 5.12 107.0 47.1 59.92021 18,869 5.18 8.1 1.00 -5.12 5.12 107.6 46.9 60.72022 19,191 5.10 8.0 1.00 -5.12 5.12 108.1 46.7 61.52023 19,503 5.03 8.0 1.00 -5.12 5.12 108.7 46.4 62.32024 19,806 4.95 7.9 1.00 -5.12 5.12 109.3 46.2 63.12025 20,099 4.88 7.8 1.00 -5.12 5.12 109.8 45.9 63.92026 20,381 4.80 7.7 1.00 -5.12 5.12 110.4 45.7 64.72027 20,651 4.73 7.7 1.00 -5.12 5.12 111.0 45.4 65.62028 20,910 4.65 7.6 1.00 -5.12 5.12 111.6 45.2 66.42029 21,156 4.58 7.5 1.00 -5.12 5.12 112.2 44.9 67.32030 21,389 4.50 7.4 1.00 -5.11 5.11 112.8 44.6 68.12031 21,609 4.43 7.4 1.00 -5.11 5.11 113.4 44.3 69.02032 21,815 4.35 7.3 1.00 -5.10 5.10 114.0 44.1 69.92033 22,007 4.28 7.2 1.00 -5.10 5.10 114.6 43.8 70.82034 22,183 4.20 7.1 1.00 -5.09 5.09 115.2 43.5 71.72035 22,345 4.13 7.1 1.00 -5.09 5.09 115.8 43.2 72.62036 22,491 4.05 7.0 1.00 -5.08 5.08 116.4 42.9 73.52037 22,620 3.98 6.9 1.00 -5.07 5.07 117.1 42.6 74.52038 22,734 3.90 6.8 1.00 -5.06 5.06 117.7 42.3 75.42039 22,831 3.83 6.8 1.00 -5.06 5.06 118.3 42.0 76.32040 22,912 3.75 6.7 1.00 -5.05 5.05 119.0 41.7 77.32041 22,976 3.68 6.6 1.00 -5.04 5.04 119.6 41.4 78.22042 23,022 3.60 6.5 1.00 -5.03 5.03 120.3 41.1 79.22043 23,052 3.53 6.5 1.00 -5.01 5.01 120.9 40.7 80.22044 23,064 3.45 6.4 1.00 -5.00 5.00 121.6 40.4 81.22045 23,059 3.38 6.3 1.00 -4.99 4.99 122.3 40.1 82.12046 23,036 3.30 6.2 1.00 -4.98 4.98 122.9 39.8 83.12047 22,997 3.23 6.2 1.00 -4.96 4.96 123.6 39.5 84.12048 22,940 3.15 6.1 1.00 -4.95 4.95 124.3 39.2 85.22049 22,866 3.08 6.0 1.00 -4.93 4.93 125.0 38.8 86.22050 22,775 3.00 5.9 1.00 -4.92 4.92 125.7 38.5 87.2

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ケース3(1) 分析結果表

為替レート 物価変動 名目金利実質GDP変化率

財政収支 利払い費 債務残高

対ドル消費者

物価指数( 6ヵ月

定期預金)(対外債務) (国内債務)

年 ルピア % % % GDP比(%) GDP比(%) GDP比(%) GDP比(%) GDP比(%)

1999 7,085 2.01 25.7 0.79 -2.40 3.81 91.4 48.3 43.02000 9,595 9.35 12.5 4.83 -1.70 4.13 106.3 55.7 50.62001 10,400 12.55 15.5 3.40 -3.67 6.41 96.4 48.4 48.02002 10,983 9.00 11.9 4.88 -5.36 5.36 93.5 46.8 46.72003 11,557 8.63 11.6 4.79 -5.12 5.12 90.8 45.3 45.52004 12,118 8.25 11.2 4.71 -4.90 4.90 88.2 43.9 44.32005 12,660 7.88 10.8 4.63 -4.68 4.68 85.8 42.5 43.32006 13,180 7.50 10.4 4.55 -4.48 4.48 83.5 41.1 42.42007 13,671 7.13 10.1 4.46 -4.29 4.29 81.3 39.8 41.52008 14,129 6.75 9.7 4.38 -4.10 4.10 79.2 38.5 40.62009 14,550 6.38 9.3 4.30 -3.93 3.93 77.2 37.3 39.92010 14,929 6.00 8.9 4.22 -3.76 3.76 75.4 36.2 39.22011 15,306 5.93 8.9 4.13 -3.66 3.66 73.6 35.1 38.52012 15,682 5.85 8.8 4.05 -3.56 3.56 71.9 34.0 37.92013 16,054 5.78 8.7 3.97 -3.47 3.47 70.3 33.0 37.42014 16,424 5.70 8.6 3.89 -3.38 3.38 68.8 32.0 36.82015 16,790 5.63 8.6 3.81 -3.30 3.30 67.4 31.1 36.32016 17,151 5.55 8.5 3.72 -3.22 3.22 66.1 30.2 35.92017 17,508 5.48 8.4 3.64 -3.14 3.14 64.8 29.4 35.52018 17,858 5.40 8.3 3.56 -3.07 3.07 63.6 28.6 35.12019 18,203 5.33 8.3 3.48 -3.00 3.00 62.5 27.8 34.72020 18,540 5.25 8.2 3.39 -2.94 2.94 61.5 27.1 34.42021 18,869 5.18 8.1 3.31 -2.88 2.88 60.5 26.4 34.12022 19,191 5.10 8.0 3.23 -2.82 2.82 59.5 25.7 33.82023 19,503 5.03 8.0 3.15 -2.76 2.76 58.7 25.1 33.62024 19,806 4.95 7.9 3.07 -2.71 2.71 57.8 24.4 33.42025 20,099 4.88 7.8 2.98 -2.66 2.66 57.1 23.9 33.22026 20,381 4.80 7.7 2.90 -2.61 2.61 56.4 23.3 33.02027 20,651 4.73 7.7 2.82 -2.57 2.57 55.7 22.8 32.92028 20,910 4.65 7.6 2.74 -2.53 2.53 55.1 22.3 32.82029 21,156 4.58 7.5 2.65 -2.49 2.49 54.5 21.8 32.72030 21,389 4.50 7.4 2.57 -2.45 2.45 54.0 21.4 32.62031 21,609 4.43 7.4 2.49 -2.41 2.41 53.5 20.9 32.62032 21,815 4.35 7.3 2.41 -2.38 2.38 53.1 20.5 32.62033 22,007 4.28 7.2 2.32 -2.35 2.35 52.7 20.1 32.62034 22,183 4.20 7.1 2.24 -2.32 2.32 52.4 19.8 32.62035 22,345 4.13 7.1 2.16 -2.29 2.29 52.1 19.4 32.72036 22,491 4.05 7.0 2.08 -2.26 2.26 51.9 19.1 32.72037 22,620 3.98 6.9 2.00 -2.24 2.24 51.6 18.8 32.92038 22,734 3.90 6.8 1.91 -2.22 2.22 51.5 18.5 33.02039 22,831 3.83 6.8 1.83 -2.19 2.19 51.3 18.2 33.12040 22,912 3.75 6.7 1.75 -2.17 2.17 51.3 18.0 33.32041 22,976 3.68 6.6 1.67 -2.16 2.16 51.2 17.7 33.52042 23,022 3.60 6.5 1.58 -2.14 2.14 51.2 17.5 33.72043 23,052 3.53 6.5 1.50 -2.12 2.12 51.2 17.3 34.02044 23,064 3.45 6.4 1.42 -2.11 2.11 51.3 17.1 34.32045 23,059 3.38 6.3 1.34 -2.10 2.10 51.4 16.9 34.62046 23,036 3.30 6.2 1.26 -2.09 2.09 51.6 16.7 34.92047 22,997 3.23 6.2 1.17 -2.08 2.08 51.8 16.5 35.32048 22,940 3.15 6.1 1.09 -2.07 2.07 52.0 16.4 35.62049 22,866 3.08 6.0 1.01 -2.06 2.06 52.3 16.3 36.12050 22,775 3.00 5.9 0.93 -2.06 2.06 52.7 16.1 36.5

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補論1 GDP ギャップの計測 GDP ギャップは潜在 GDP と実績 GDP の乖離率ではかるため、GDP ギャップを求める

ためには潜在 GDP を求める必要がある。潜在 GDP(完全雇用水準の GDP)の推計は大

まかに分けて時系列分析によるものと、生産関数推計によるものの 2 つがある。潜在 GDP推計については研究が蓄積されてきているものの課題も多い。生産関数による推計は、潜

在 GDP の概念に近いものの、インドネシアでは統計データ収集の問題がある。また、イ

ンドネシアの実質 GDP 成長率は 1998 年に大幅に下落しており、この下落と潜在 GDP の

関係をどのように説明するかにも困難がある。 さまざまな経済統計からインドネシアの労働者が完全雇用水準にあるときの GDP を推

計することが理想的だが、上記のような困難があるため、本稿では時系列分析による平均

的な GDP を求め、その値を潜在 GDP の代用とした。時系列分析では GDP 統計があれば

推計できる。 本稿の時系列分析は Hodrick-Prescott フィルターと呼ばれるもので、GDP をスムージ

ングしたものを潜在 GDP とみなしている。Hodrick-Prescott フィルターの問題点は、基

本的にトレンドを求めるものであるから、直近のデータについての推計に不確実性が残り、

データを追加するとその値が変化する可能性があることである。 推計は、トレンドの係数が変化し、構造変化を許容するものである。具体的には、Z を

統計の数値であるとして、そのトレンド除去後の値を Z* とし、s で期を表すとすると、

第 1 期から第 T 期について、

( ) ( ) ( )[ ]∑∑−

=−+

=

−−−+−1

2

2*1

***1

1

2* lnlnlnlnlnlnT

sssss

T

sss ZZZZZZ λ

を最小とする Z* を求める。λ の値をどうするかが問題であるが、ここでは年次データに

おいて推奨される 100 とした。 したがって、完全雇用水準というよりも、むしろトレンドでみて平均的に達成されうる

GDP と解釈する。経済政策上はスムージングの GDP は有用さに欠けるが、財政収支をみ

るうえではむしろ都合がよい。完全雇用水準の潜在 GDP はいわば GDP の最大値である。

実際には、完全雇用水準の潜在 GDP が実現するのはまれである。本稿のように平均的に

達成されるGDP水準から歳入の構造値を求めるのは、実感に即したものとなるといえる。 GDP ギャップの定義は、

実績GDP-潜在GDP 潜在GDP

である。HP フィルターは時系列データの平準化によるもので特に直近の値に依存しやす

い。インドネシアにおいては 1998 年に実質 GDP 成長率が-13.1%となっており、そのま

までは潜在値が低く評価されることになる。そこで、本稿では、1969 年から 1997 年まで

の潜在 GDP を求め、1998 年以降については 1969 年から 2002 年までの潜在 GDP 推計で

求め、その値のトレンド(傾き)を用いるという変則的な推計を行った。この点について

は恣意的な部分も残るが、インドネシア経済の実情を考慮すると適切な調整といえる。

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潜在 GDP と実績値から求めた GDP ギャップは補表 1 で示されている。1980 年代の原

油価格下落の時期と通貨危機後で GDP ギャップがマイナスに拡大しているのがわかる。

特に、1996 年の 6.62%、1997 年の 5.99%と比べて 1998 年では-10.25%と負の方向に急

激に GDP ギャップが拡大する結果となっている。

補表1 インドネシアGDPギャップ(実質)

-15.0

-10.0

-5.0

0.0

5.0

10.0

1969 1972 1975 1978 1981 1984 1987 1990 1993 1996 1999 2002年

%%

注:(実績-潜在)/潜在 で求めた比率(%)である。

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補論2 政府債務の持続可能性 長期的に政府債務が持続可能性を満たしているか否かは、現在の政府債務残高が将来に

わたる財政収支黒字合計の現在価値と比べて大きくならないかどうかをみることにより判

断する。毎期の政府の予算制約は、t期(年度)において

GP

t

t + (1+ r) Bt-1

Pt =T

Pt

t +B

Pt

t

となる。ここで、B は期末における政府の名目債務残高、 r は実質利子率(簡単化のた

めに一定と仮定)、G は利払い費を除く名目歳出、 T は名目歳入、P は一般物価水準で

ある。P で割った値は実質値を示す。したがって、毎期の予算で政府は Bt-Bt-1 だけの

借入れ(あるいは貸出し)を行っていることとなる。長期では、借入れを行った場合には

それを返済するが、それは収支の黒字により行われる。したがって、t 期において現在の

債務(前期末値)について

Bt-1Pt

= 将来(t期から長期)にわたる収支合計の現在価値

が持続可能性が満たされる条件といえる。理論的には、非ポンジ・ゲーム条件と等しい。

(t-1 期の実質債務残高を所与として、実質債務残高に関して順次将来に向って代入・整

理し、時間を通じた予算制約式を導くと、

+

+

+

= ∑= +

++

+

+

+

++

−N

j Nt

NtN

jt

jt

jt

jtj

tt

t

PB

rPG

PT

rE

PB

0

111

11

11

となる。ここで、Et は期待オペレーターである。右辺の第一項は上でみた将来にわたる収

支合計の現在価値である。第二項はある将来の t+N 期(債務を返済する最終期)の債務

残高の現在価値であるが、持続可能性が満たされるときにはこの項はゼロとなる。非ポン

ジ・ゲーム条件とはこの項がゼロとなることをいい、いつか最後に債務がゼロとなること

を意味する。ただし理論的にいつかというのは無限の先を考えるため N→∞ であり、現

実にいつか債務がなくなることを必ずしも意味しないので注意する必要がある。

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Theory and Applications to U.S. Federal Budget and Current Account Deficits,” Journal of Money, Credits, and Banking, Vol. 23, pp. 206-223.

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Woodford, M. (1996) “Control of the Public Debt: A Requirement for Price Stability? ” NBER Working Paper 5684.

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Wilcox, D. W. (1989) “The Sustainability of Government Deficits: Implications of the Present-Value Borrowing Constraint,” Journal of Money, Credits, and Banking, Vol. 21, No. 3, pp. 291-306.

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【JBICI Research Paper バックナンバー】 1.

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Issues of Sustainable Economic Growth from the Perspective of the Four East Asian Countries、1999 年 12 月(和文、英文) Organizational Capacity of Executing Agencies in the Developing Countries: Case Studies on Bangladesh, Thailand and Indonesia、1999 年 12 月(和文、英文) Urban Development and Housing Sector in Viet Nam、1999 年 12 月(英文のみ) Urban Public Transportation in Viet Nam :Improving Regulatory Framework、1999年 12 月(英文のみ) インドネシア コメ流通の現状と課題、1999 年 12 月(和文のみ) 中国・日本 2010 年のエネルギーバランスシュミレーション、2000 年 3 月(和文、英文) 農村企業振興に対する金融支援-タイ農業・農業組合銀行(BAAC)を事例に-、2000年 11 月(和文のみ) 東アジアの持続的発展への課題-タイ・マレーシアの中小企業支援策-、2000 年 11 月

(和文、英文) 道路整備・維持管理の政策・制度改善に向けての課題、2001 年 2 月(和文のみ) Public Expenditure Management in Developing Countries、2001 年 3 月(英文のみ) INDIA: Fiscal Reform and Public Expenditure Management Cash Crop Distribution Systems in the Philippines-Issues and Measures to Address Them-、2002 年 3 月(英文のみ) 広域物流インフラ整備におけるメルコスールの経験、2002 年 3 月(和文、英文) 中・東欧の広域インフラ整備をめぐる地域協力、2002 年 3 月(和文のみ) Foreign Direct Investment and Development: Where Do We Stand?、2002 年 6 月(和

文、英文) Development Assistances Strategies in the 21st Century: Global and Regional Issues (volume1・2)、2002 年 7 月(英文のみ) 教育セクターの現状と課題 東南アジア 4 カ国の自立的発展に向けて、2002 年 7 月(和

文のみ) インドシナ域内電力(電力セクター)、2002 年 8 月(和文、英文) 灌漑インフラ整備が貧困削減に与える効果の定量的評価 -スリランカにおけるケース-、2002 年 11 月(英文のみ) IT 化のマクロ経済的インパクト、2002 年 12 月(和文、英文) 参加型アプローチの費用便益分析-概念整理と推計の枠組み-、2003 年 1 月(和文、

英文) 高等教育支援のあり方 -大学間・産学連携-、2003 年 5 月(和文のみ) 中米諸国の開発戦略、2003 年 8 月(和文のみ) 紛争と開発:JBIC の役割(スリランカの開発政策と復興支援)、2003 年 8 月(和文、英文) インドネシアの宗教・民族・社会問題と国家再統合への展望、2003 年 11 月(和文のみ) インドネシア中央政府財政と政府債務の持続可能性-財政構造、政策効果、債務シミュ

レーション分析-、2003 年 12 月(和文のみ) 注 1) No.1、No.2 の和文については、それぞれ、OECF Research Papers No.36 東アジア 4 ヶ国からみた

経済成長のための課題(1999 年 7 月)、OECF Research Papers No.37 途上国実施機関の組織能力分

析-バングラディシュ、タイ、インドネシアの事例研究-(1999 年 9 月)として刊行されている。 注 2)No.1~No.14 は JBIC Research Paper Series として刊行された。 【連絡先】 〒100-8144 東京都千代田区大手町 1-4-1 電話 03-5218-9720

ファックス 03-5218-9846 国際協力銀行 開発金融研究所 総務課 ウェブサイト http://www.jbic.go.jp/

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JBICI Research Paper No.26 「インドネシア中央政府財政と政府債務の持続可能性

-財政構造、政策効果、債務シミュレーション分析-」

2003 年 12 月発行

編纂・発行 国際協力銀行 開発金融研究所

東京都千代田区大手町一丁目4番1号

©国際協力銀行開発金融研究所 本書の無断転載・複写を禁ず。

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ISSN 1347-5711

〒100-8144 東京都千代田区大手町 1-4-1

03-5218-9720(開発金融研究所)

http://www.jbic.go.jp/

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