ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要...

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学士論文 ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価 東京工業大学 理学部 物理学科 柴田研究室 佐々木 開 平成 30 2 14

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学士論文

ゲルマニウム検出器によるガンマ線測定の性能評価

東京工業大学 理学部 物理学科

柴田研究室

佐々木 開

平成 30 年 2 月 14 日

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概要

 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた検出器の例として、ゲルマニウム検出器について学ぶことである。  放射線の検出測定をする場合、気体を検出媒体として使用するよりも固体を検出媒体を使用する方が密度が大きくなり、そのため検出器を小さくすることができ、有利であることが多い。固体を検出媒体として用いた検出器にはシンチレーション検出器が 1950年代冒頭から用いられるようになった。しかしシンチレーション検出器にはエネルギー分解能が悪いという問題点があった。1960年代になるとゲルマニウムを用いた半導体検出器が商業的に入手できるようになった。 ゲルマニウム検出器はシンチレーション検出器に比べてはるかにエネルギー分解能がよく、高エネルギー分解能の測定に用いられている。  本実験では、ゲルマニウム検出器に東京工業大学のCanberra社製「GC2018型 ゲルマニウム検出器」と「GX2018型 ゲルマニウム検出器」を用いて実験を行い、その性能を評価した。GC2018は 1999年度、GX2018は 2002年度に購入したゲルマニウム検出器である。 まず、放射線源として 137Cs, 22Na, 60Coの3つの放射線源を用いて各々のエネルギースペクトルをゲルマニウム検出器で測定した。  次に、ガンマ線のエネルギーごとに光電吸収によるピークのエネルギー分解能を測定した。またピークから検出効率も測定した。エネルギー分解能は、各ピークで 0.1%のオーダーであり、これはシンチレーション検出器の分解能 (数% ほど)に比べてはるかに良いことがわかった。実験の結果、「GC2018型 ゲルマニウム検出器」と「GX2018型 ゲルマニウム検出器」は今後もこうエネルギー分解能のガンマ線測定に用いることができることがわかった。東工大理学院先端物理計測開発室の備品として広く共同利用される予定である。 

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目 次

概要 i

第 1章 序論 1

第 2章 γ線と物質のの相互作用 2

2.1 γ線と物質の相互作用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

2.1.1 光電吸収 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

2.1.2 コンプトン散乱 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

2.1.3 電子対生成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

第 3章 ゲルマニウム検出器 5

3.1 ゲルマニウム検出器 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

3.2 検出器の性能 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

第 4章 実験に用いる装置 9

4.1 ゲルマニウム検出器 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

4.2 NIMモジュール . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

4.3 γ線源 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

4.3.1 137Cs . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

4.3.2 22Na . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

4.3.3 60Co . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

第 5章 エネルギー分解能と検出効率の測定 17

5.1 実験のセットアップ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

5.2 各線源のエネルギースペクトラム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

5.3 エネルギー分解能 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

5.4 検出効率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 39

第 6章 まとめ 43

謝辞 44

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第1章 序論

 ゲルマニウム検出器は半導体としてゲルマニウムを用いた半導体検出器であり、1960

年代初頭から商業的に入手可能になり広く普及するようになった。ゲルマニウム検出器はエネルギー分解能が優れたガンマ線検出器であり、高いエネルギー分解能が要求される実験において用いられる。  本研究では、ゲルマニウム検出器として東京工業大学の Canberra社製の 「GC2018

型 ゲルマニウム検出器」と「GX2018型 ゲルマニウム検出器」を用いて実験を行なった。GC2018は 1999年度、GX2018は 2002年度に購入したゲルマニウム検出器である。このゲルマニウム検出器は性能が良ければ、東京工業大学の先端物理計測開発室の備品として今後広く学内に貸し出す予定であり、今回はそれに伴い検出器の種々の性能を評価するために実験を行なった。本研究の目的は以下である。

1. ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと

2. エネルギー分解能の優れた計測器の例として、ゲルマニウム検出器について学ぶこと

本論文の構成は以下のようである。第 2章はγ線と物質の基本的な3つの相互作用について述べる。第 3章ではゲルマニウム検出器とその性能について述べる。第 4章では実際に実験で用いた装置について述べる。第 5章では測定によって得られた各線源のエネルギースペクトラムと検出器の性能であるエネルギー分解能と検出効率の測定結果を述べる。第 6章では本論文の内容をまとめる

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第2章 γ線と物質のの相互作用

2.1 γ線と物質の相互作用γ線と物質は相互作用し、多くの過程を経ることが可能であるが、放射線測定において

はその中でも3つの過程が重要な役割を果たしている。それは、光電吸収、コンプトン散乱、および電子対生成である。これらの過程において、γ線はエネルギーの一部または全部を電子のエネルギーに変換する。以下ではこの3つの過程の説明をする。

2.1.1 光電吸収

光電吸収過程において、入射してきたγ線光子は吸収物質原子と相互作用して完全に消失する。このときγ線光子は主に原子中のK殻に束縛されている電子と相互作用し、電子は光電子としてK殻から放出される。  入射してきたγ線光子のエネルギーを hν、 K殻に束縛されている電子の束縛エネルギーをEbとすると、放出された光電子のエネルギーEe−は次のように決まる。(図 (4.3.3)

参照)

Ee− = hν − Eb (2.1)

入射γ線

放出されたe-

h

Ee

Eb

図 2.1: 光電吸収

2

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2.1.2 コンプトン散乱

コンプトン散乱は入射γ線光子と吸収物質中の 1個の電子の間で起こる相互作用である。入射γ線光子はコンプトン散乱によって最初の方向から角度 θの方向に曲げられる。このときγ線光子はそのエネルギーの一部を電子へ伝達する。この電子は反跳電子と呼ばれる。反跳電子は全ての角度に散乱することができるので、電子に伝えられるエネルギーはゼロから入射γ線エネルギーに近い値まで変化する。 入射したγ線のエネルギー、散乱γ線のエネルギーと散乱角の関係は次のように決まる。

hν ′ =hν

1 + hνm0c2

(1− cos θ)(2.2)

入射γ線h

h0散乱γ線

反跳電子

e-

図 2.2: コンプトン散の図

2.1.3 電子対生成

電子対生成は原子核のクーロン場において起こる相互作用であり、入射γ線光子は消失して電子と陽電子に置き換えられる。電子対生成の過程が実現するためにはγ線光子のエネルギーが電子の静止質量の2倍、つまり 1.02 MeVを越える必要がある。電子対の生成に必要な 1.02 MeV以上の入射γ線光子が有していた余剰エネルギーは全て陽電子と電子に分配される。

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入射γ線電子

h

陽電子

図 2.3: 電子対生成の図

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第3章 ゲルマニウム検出器

3.1 ゲルマニウム検出器放射線を検出測定する場合、個体の検出媒体を使用するのが大きさを小さくする事がで

き有利である事が多い。そして検出媒体に半導体を用いた検出器は他の種類の検出器に比べてずっと良いエネルギー分解能を持つことができる。結晶中の電子のエネルギーはバンド構造と呼ばれる構造をとる。エネルギーの低い方のバンドは価電子帯と呼ばれ、結晶中の格子の位置に束縛されている電子に対応している。上側のバンドは伝導帯と呼ばれ結晶中を自由に移動する電子に対応している。価電子帯と伝導帯はバンドギャップによって隔てられている。バンド構造を持つ半導体中に 1個の荷電粒子が入射すると、その粒子の飛跡に沿って多数の電子正孔対を作る。この電子正孔が入射ガンマ線のエネルギーに比例した電荷キャリアとなる。一対の電子正孔対を作るのに必要なエネルギーを電離エネルギーという。半導体検出器の最大の利点はこの電離エネルギーが小さいということである。シンチレーション検出器が一個の情報キャリアを作るのに 100 eVほど必要なのに対してゲルマニウムを用いた検出器の場合は電離エネルギーは 3 eVである。シンチレーション検出器に対してゲルマニウム検出器は 30倍ほどの電荷キャリアを作ることができる。電荷キャリアの数が多いので、パルスあたりの電荷キャリアの統計的ゆらぎを小さくすることができ、このことによってエネルギー分解能が良くなるのである。

Scan

ned

by C

amSc

anne

r

図 3.1: 絶縁体と半導体のバンド構造

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3.2 検出器の性能

エネルギー分解能

単一エネルギーのγ線が検出器に入射してきたとき、放射線検出器を用いて測定したスペクトラム中の光電吸収ピークには、様々な要素が原因となって有限の幅が生じる。このピークの幅が狭いほど、検出器に付与された入射γ線のエネルギーとパルスの間の対応関係の変動が小さいということになる。この幅の度合いのことをエネルギー分解能  Rといい、以下のように定義する。

R =FWHM

H0

(3.1)

FWHM : ピークの半値全幅(Full Width at Half Maximum)

H0 : ピークの中心値

計数 (counts)

エネルギー0

半値全幅

ピーク値

H0

図 3.2: 半値全幅の例

ピークの半値全幅は、放射線のエネルギーに依存しており、エネルギーが大きいほど半値全幅自体は大きくなる。しかし、比として定義されるエネルギー分解能 Rは一般にエネルギーが高いほど小さい、すなわち分解能が高い。

検出効率

γ線、中性子等の電気的に中性な粒子は物質透過能力が大きく、検出器に入射した放射線のうち一部のみが検出される。すなわち、検出効率が 100%以下となる。したがって、計数されたパルスの数と検出器に入射した中性子またはγ線光子の数を関連付けさせるためには、使用した検出器の検出効率をエネルギーの関数として求めておく必要がある。 

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検出効率は、「絶対検出効率 (absolute efficiency)ϵabs」と「相対検出効率 (intrinsic efficiency)ϵint」の二種類の表し方がある。絶対検出効率 ϵabsは次のように定義される。 

ϵabs =記録されたパルスの数

線源より放出された放射線の数(3.2)

また、固有検出効率は次のように定義される。

ϵint =記録されたパルスの数

検出器に入射した放射線の数(3.3)

2つの検出効率の間には、以下の関係がある。

記録されたパルスの数 = 線源より放出された放射線の数× ϵabs

=

(線源より放出された放射線の数×

∆Ω

)× (

∆Ω× ϵabs)

= 検出器に入射した放射線の数× ϵint

放射線源

検出器

図 3.3: 放射線源と検出器の立体角

∆Ωは線源に対して検出器の張る立体角である。線源と検出器の距離を離すと、絶対検出効率は変化する。つまり、絶対検出効率は立体角を含む効率である。これに対して固有検出効率は、実際に検出器に入射した放射線の数を基準にするので立体角の影響を受けない。  以上より、

ϵabs =∆Ω

4π・ϵint (3.4)

という関係がある。  円盤の中心軸上にある1つの点からその円盤を見込む立体角∆Ωを考えてみる。単位球の微小表面積 dSは、 

dS = dθdϕ sinϕ (3.5)

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であるので、この微小表面積を円盤について積分すると立体角∆Ωは、

∆Ω =

∫ 2π

0

∫ α

0

dϕ sinϕ = 2π(1− cosα)

ここで cosα =d√

R2 + d2なので

∆Ω = 2π

(1− d√

R2 + d2

)(3.6)

d

R

図 3.4: 点と円盤の関係

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第4章 実験に用いる装置

4.1 ゲルマニウム検出器本実験に用いるゲルマニウム検出器は、東京工業大学のCanberra社製の「GC2018型」

と「GX2018型」の2種類の検出器である。

図 4.1: GC2018型 ゲルマニウム検出器

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図 4.2: GX2018型 ゲルマニウム検出器

図 4.3: ゲルマニウム検出器 検出部分のゲルマニウムを容器で包んだ部分。 

液体窒素コンテナーの性能のテスト

ゲルマニウム検出器には、ゲルマニウム結晶冷却用の液体窒素を貯蓄するタンクが接続されている。実験に使用するためには、事前に液体窒素をタンクに流し込みゲルマニウム結晶を冷却する必要がある。実験を始める前に、トランスファーを始めてから液体窒素がタンクにたまり始めるまでの時間を調べた。 

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 タンクには液体窒素の流入口と内部の圧力を逃すための逃がし弁がある。液体窒素のトランスファーを始めたばかりの時は逃がし弁からは窒素は無色のまま出てくるが、液体窒素がタンク内部で液体としてたまり始めてくると内部の温度が下がり、白みがかった気体が逃し弁から出てくる。これを目安にトランスファーを始めてから液体窒素がタンクにたまり始めるまでの時間を計った。  計測の結果、GC2018 ゲルマニウム検出器のタンクでは、トランスファーを始めてから白みがかった気体が逃し弁から出てくるまでに 15分ほどかかった。GX2018 ゲルマニウム検出器のタンクでは、トランスファーを始めてから白みがかった気体が逃し弁から出てくるまでに 40分ほどかかった。

4.2 NIMモジュール今回の実験ではNIM規格のエレクトロニクスを用いる。NIM とは Nuclear Instrument

Modules の略で原子核・高エネルギー物理のためのモジュールの規格である。

High Voltage Power Supply

ゲルマニウム検出器に電圧をかけるために高電圧電源 (HVPS) を用いた。本実験では、REPIC社製の NHQ216L NIM HV を用いた。

Amplifier

Amplifier は、ゲルマニウム検出器からのパルスを増幅する。本実験では、CLEAR-

PULSE社製の 4417型 スペクトロスコピー・アンプ を使用した。

ADC(Analog-to-Digital Converter)

ADCは、入力されたアナログ信号、電荷に比例するデジタル値に変換する。LaboratoryEquipment 社の ADC500 を使用した。Amplifier で増幅したアナログパルスをデジタル値 (ch数)に変換するのに用いた。Full scale は 4096 チャンネルである。

MCA(Multi Channel Analyzer)

MCA は、入力されたデジタル信号をチャンネル毎に積算する。Laboratory Equipment

社の MCA510 を使用した。ADC でデジタル化したパルスを積算することによりスペクトラムを取得するのに用いた。Full scale は 4096 チャンネルである。

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図 4.4: 使用したNIMモジュール

4.3 γ線源本実験で使用したγ線源は、日本アイソトープ協会 放射能標準ガンマ線源 421

タイプ である。形状は薄い円筒形であり、直径は 25 mm、厚さは 6.0 mmである。アイソトープが均一に吸着されたろ紙を総アクリル製のカプセルで覆った内部構造になっている。実験時には、0.04 mmほどのポリ袋に入れて使用した。

図 4.5: 使用した線源の内部構造

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図 4.6: 使用した線源(137Cs)

4.3.1 137Cs

  137Csは以下のように β−崩壊する。

13755 Cs →137

55 Ba + e− + νe (4.1)

この β−崩壊の 94.5%は 137Baの励起状態に遷移し、γ崩壊を起こし 662 keVの1本のγ線を放出して基底状態になる。この β−崩壊の 5.4%は 137Baの基底状態に直接遷移する。

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662 keV

0

1176 keV

β-

13755 Cs

13756 Ba

94.5%5.4%

β-

図 4.7: 137Csの崩壊図

137Csの半減期 τは、30.1年である。本実験で使用した 137Cs線源の放射線強度は、2014

年 2月 12日の時点で 8.46 × 103 Bqであった。このことから、2017年 11月21日時点では、

8.46 × 103[Bq]× exp

(−3.75

30.1log 2

)= 7.76× 103 Bq (4.2)

であった。

4.3.2 22Na

2211Na は主に次のように β+崩壊する。

2211Na →22

10 Ne + e+ + νe (4.3)

2211Naは β+崩壊によって 22

11Ne の励起状態に遷移し、γ崩壊を起こし 1275 keVのγ線を1本放出して基底状態になる。β+崩壊によって放出された e+は線源を被覆する物質中で運動エネルギーを失い、e−と対消滅を起こし 511 keVのγ線を正反対方向に2本放出する。

e− + e+ → 2γ (4.4)

以上より、1274 keVが1本、511 keVが2本の合計3本のγ線が 22Naの β+崩壊によって放出される。

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1275 keV

0

2842 keV 2211Na

2210Ne

β+

90%β+ 10% EC

図 4.8: 22Naの崩壊図

22Naの半減期 τ は、2.60 年である。本実験で使用した 22Na線源の放射線強度は、2014

年 2月 12日の時点で 9.90 × 104 Bqであった。このことから、2017年 11月21日時点では、

9.90 × 104[Bq]× exp

(−3.75

2.60log 2

)= 3.64× 104 Bq (4.5)

であった。 

4.3.3 60Co

60Coは次のように β−崩壊する。

6027Co →60

28 Ni + e− + νe (4.6)

この β−崩壊の 99.8%で、は 60Coの励起状態に遷移し、γ崩壊を起こし 1173 KeVと1332 keVの 2本のγ線を放出し基底状態になる。この β−崩壊の 0.12%で 60Coは 1483

keVの電子を放出し、137Baの 1332 keVの準位に直接遷移する。

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1332 keV

0

2505 keV

β-

99.88%

0.12%

β-

6027Co

6028Ni

図 4.9: 60Coの崩壊図

60Coの半減期 τ は、5.27 年である。本実験で使用した 60Co線源の放射線強度は、2014

年 2月 12日の時点で 8.97 × 104 Bqであった。このことから、2017年 11月21日時点では、

8.97 × 104[Bq]× exp

(−3.75

5.27log 2

)= 5.48× 104 Bq (4.7)

であった。

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第5章 エネルギー分解能と検出効率の測定

5.1 実験のセットアップ放射線源のγ線スペクトラムの取得のために、放射線源を検出器から 25 cmの距離に

おいて 1000 秒間測定をした。Ge 検出器にはHVPSから+4500 Vの高電圧をかけた。放射線源を点状であるとみなし、放射線源が検出面をみこむ立体角∆Ωを求める。R = 250

mm、d = 38 mmであるので、式 (3.6)に適用すると、

∆Ω = 2π

(1− 250√

2502 + 382

)= 7.13 × 10−2 (5.1)

また、ADC channel は keV を単位とするγ線のエネルギーの 2倍にほぼ一致するようにゲルマニウム検出器のゲインを合わせてある。即ち、1000 channel は ほぼ 500 keV に相当する。

放射線源

検出部25 cm

図 5.1: Ge 検出器と放射線源のセットアップ

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Ge 検出器 Amplifier MCAADC

HVPS

図 5.2: NIMモジュールのセットアップ

5.2 各線源のエネルギースペクトラム137Csのスペクトラム

137Csのスペクトラムについて説明する。200~1000 ADCchにかけて幅の長いピークがあり、これはコンプトン散乱のピークである。1300 ADCch付近に鋭い大きなピークがあるが、これは 137Csが β−崩壊した後の 137Baが 662 keVの準位から基底状態にγ崩壊するときに放出される 662 keVのγ線による光電吸収のピークである。 

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ADC0 500 1000 1500 2000 2500

Counts

0

100

200

300

400

500

600

ADC channel

図 5.3: 137Csのスペクトラム (GC2018検出器による)

ADC0 500 1000 1500 2000 2500

Counts

1

10

210

310

ADC channel

図 5.4: 縦軸をログスケールにした 137Csのスペクトラム (GC2018検出器による)

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ADC0 500 1000 1500 2000 2500

Counts

0

100

200

300

400

500

600

ADC channel

図 5.5: 137Csのスペクトラム (GX2018検出器による)

ADC0 500 1000 1500 2000 2500

Counts

1

10

210

310

ADC channel

図 5.6: 縦軸をログスケールにした 137Csのスペクトラム (GX2018検出器による)

20

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22Naのスペクトラム22Naのスペクトラムについて説明する。200~700 ADCchにかけて幅の長いピークが

あり、これはコンプトン散乱のピークである。さらに 1000 ADCchと 2500 ADCch付近に大きく鋭いピークが見える。1000 ADCch付近のピークは、22Naの β+崩壊によって放出された e+が線源を被覆する物質中でエネルギーを失い e−と対消滅した時に放出されるγ線による光電吸収のピークである。対消滅によって電子の静止エネルギー分の 511 keV

のγ線が二本放出される。2500 ADCch付近のピークは、22Neが 1275 keVの準位から基底状態にγ崩壊する時に放出されるγ線による光電吸収のピークである。

ADC0 500 1000 1500 2000 2500

Counts

0

1000

2000

3000

4000

5000

ADC channel

図 5.7: 22Naのスペクトラム (GC2018検出器による)

21

Page 25: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

ADC0 500 1000 1500 2000 2500

Counts

1

10

210

310

ADC channel

図 5.8: 縦軸をログスケールにした 22Naのスペクトラム (GC2018検出器による)

ADC0 500 1000 1500 2000 2500

Counts

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

ADC channel

図 5.9: 22Naのスペクトラム (GX2018検出器による)

22

Page 26: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

ADC0 500 1000 1500 2000 2500

Counts

1

10

210

310

410

ADC channel

図 5.10: 縦軸をログスケールにした 22Naのスペクトラム (GX2018検出器による)

 

60Coのスペクトラム60Coのスペクトラムについて説明する。200~1800 ADCchにかけて幅の長いピークが

あり、これはコンプトン散乱のピークである。さらに 2300 ADCchと 2700 ADCch付近に大きく鋭いピークが見える。この二本のピークは光電吸収のピークである。2300 ADCch

付近のピークは、60Coがβ−崩壊した後の 60Niが 2505 keVの準位から 1332 keVの準位にγ崩壊するときに放出する 1173 keVのγ線による光電吸収のピークである。2700 ADCch

付近のピークは 60Niの 1332 keVの準位から基底状態にγ崩壊するときに放出される 1332

keVのγ線による光電吸収のピークである。

23

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ADC0 500 1000 1500 2000 2500

Counts

0

200

400

600

800

1000

1200

ADC channel

図 5.11: 60Coのスペクトラム (GC2018検出器による)

ADC0 500 1000 1500 2000 2500

Counts

1

10

210

310

ADC channel

図 5.12: ログスケールの 60Coのスペクトラム (GC2018検出器による)

24

Page 28: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

ADC0 500 1000 1500 2000 2500

Counts

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

ADC channel

図 5.13: 60Coのスペクトラム (GX2018検出器による)

ADC0 500 1000 1500 2000 2500

Counts

1

10

210

310

ADC channel

図 5.14: ログスケールの 60Coのスペクトラム (GX2018検出器による)

25

Page 29: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

5.3 エネルギー分解能各放射線源の光電吸収ピークを以下のガウス関数と二次関数の和 f (x )でフィッティング

した。このエネルギー分解能は、ゲルマニウム検出器自体によるエネルギー幅と信号を増幅して記録しているエレクトロニクスに起因するエネルギー幅の両方を含んだ値である。

f(x) =A√2πσ

exp

[−(x− µ)2

2σ2

]+ (p0 + p1x+ p2x

2) (5.2)

※フィッテイングのパラメータは以下の6つである。 

ガウス関数 A:ガウス関数の面積 σ:標準偏差 µ:平均値

二次多項式 p0, p1, p2:各次数の項の係数

フィッティングで得られた標準偏差 σから、以下のガウス分布におけ る半値全幅FWHM

と標準偏差 σの関係式を用い、FWHMを求めた。

FWHM = 2√2 ln 2σ ≈ 2.35σ (5.3)

エネルギー分解能Rは式 (3.1)から以下のように表されるのだった。

R =FWHM

H0

(5.4)

FWHM : ピークの半値全幅(Full Width at Half Maximum)

H0 : ピークの中心値

GC2018 ゲルマニウム検出器のエネルギー分解能60Coの1173 keVピーク

ピークのフィッティングの結果からエネルギー分解能Rは

R =FWHM

µ=

2√2 ln 2× 1.41

1.84× 103= 0.18% (5.5)

となった。

26

Page 30: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

表 5.1: 60Coの 1173 keVピークのフィッティングの結果パラメータ 値 誤差

A 1.11× 104 1.08× 102

σ 1.41 1.14× 10−2

µ 1.84× 103 1.40× 10−2

p0 2.53× 102 7.72× 10

p1 8.00× 10−3 5.52× 10−4

p2 −7.74× 10−5 2.28× 10−5

ADC1820 1830 1840 1850 1860 1870

Counts

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

ADC channel

図 5.15: 60Coの 1173 keVピークのフィッティング (GC2018検出器による)

60Coの1332 keVピーク

ピークのフィッティングの結果からエネルギー分解能Rは

R =FWHM

µ=

2√2 ln 2× 1.54

2.09× 103= 0.17% (5.6)

となった。

27

Page 31: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

表 5.2: 60Coの 1332 keVピークのフィッティングの結果パラメータ 値 誤差

A 1.01× 104 1.01× 102

σ 1.54 1.25× 10−2

µ 2.09× 103 1.56× 10−2

p0 1.38× 102 3.61× 10

p1 1.71× 10−3 2.17× 10−4

p2 −3.05× 10−5 8.25× 10−6

ADC2070 2080 2090 2100 2110 2120

Counts

0

500

1000

1500

2000

2500

ADC channel

図 5.16: 60Coの 1332 keVピークのフィッティング (GC2018検出器による)

137Csの662 keVピーク

ピークのフィッティングの結果からエネルギー分解能Rは

R =FWHM

µ=

2√2 ln 2× 1.02

1.04× 103= 0.23% (5.7)

となった。

28

Page 32: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

表 5.3: 137Csの 662 keVピークのフィッティングの結果パラメータ 値 誤差

A 1.50× 103 4.85× 10

σ 1.02 2.64× 10−2

µ 1.04× 103 3.48× 10−2

p0 7.11 8.51

p1 4.86× 10−3 8.48× 10−3

p2 5.52× 10−7 7.88× 10−6

ADC1010 1020 1030 1040 1050 1060

Counts

0

100

200

300

400

500

600

700

800

ADC channel

図 5.17: 137Csの 662 keVピークのフィッティング (GC2018検出器による)

22Naの511 keVピーク

ピークのフィッティングの結果からエネルギー分解能Rは

R =FWHM

µ=

2√2 ln 2× 1.97

8.00× 102= 0.58% (5.8)

となった。

29

Page 33: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

表 5.4: 22Naの 511 keVピークのフィッティングの結果パラメータ 値 誤差

A 2.87× 104 1.73× 102

σ 1.97 1.00× 10−2

µ 8.00× 102 1.20× 10−2

p0 3.13× 102 4.15× 10

p1 8.08× 10−2 1.63× 10−3

p2 −4.98× 10−4 6.49× 10−5

ADC770 780 790 800 810 820

Counts

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

ADC channel

図 5.18: 22Naの 511 keVピークのフィッティング (GC2018検出器による)

22Naの1274 keVピーク

ピークのフィッティングの結果からエネルギー分解能Rは

R =FWHM

µ=

2√2 ln 2× 1.40

2.00× 103= 0.16% (5.9)

となった。

30

Page 34: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

表 5.5: 22Naの 1274 keVピークのフィッティングの結果パラメータ 値 誤差

A 6.56× 103 8.16× 101

σ 1.40 1.42× 10−2

µ 2.00× 103 1.78× 10−2

p0 4.86× 10 6.45× 10

p1 1.78× 10−3 2.38× 10−4

p2 −1.10× 10−5 9.13× 10−6

ADC1980 1990 2000 2010 2020 2030

Counts

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

1800

ADC channel

図 5.19: 22Naの 1274 keVピークのフィッティング (GC2018検出器による)

GX2018 ゲルマニウム検出器のエネルギー分解能60Coの1173 keVピーク

ピークのフィッティングの結果からエネルギー分解能Rは

R =FWHM

µ=

2√2 ln 2× 1.41

1.84× 103= 0.20% (5.10)

となった。

31

Page 35: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

表 5.6: 60Coの 1173 keVピークのフィッティングの結果パラメータ 値 誤差

A 1.16× 104 1.10× 102

σ 1.56 1.38× 10−2

µ 1.84× 103 1.39× 10−2

p0 2.70× 102 1.62× 10

p1 8.00× 10−3 8.92× 10−3

p2 −7.27× 10−5 4.78× 10−6

ADC channel

図 5.20: 60Coの 1173 keVピークのフィッティング (GX2018検出器による)

60Coの1332 keVピーク

ピークのフィッティングの結果からエネルギー分解能Rは

R =FWHM

µ=

2√2 ln 2× 1.71

2.09× 103= 0.19% (5.11)

となった。

32

Page 36: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

表 5.7: 60Coの 1332 keVピークのフィッティングの結果パラメータ 値 誤差

A 1.08× 104 1.04× 102

σ 1.71 1.33× 10−2

µ 2.09× 103 1.67× 10−2

p0 1.30× 102 3.61× 10

p1 1.65× 10−3 2.19× 10−4

p2 −2.88× 10−5 8.25× 10−6

ADC channel

図 5.21: 60Coの 1332 keVピークのフィッティング (GX2018検出器による)

137Csの662 keVピーク

ピークのフィッティングの結果からエネルギー分解能Rは

R =FWHM

µ=

2√2 ln 2× 1.18

1.04× 103= 0.26% (5.12)

となった。

33

Page 37: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

表 5.8: 137Csの 662 keVピークのフィッティングの結果パラメータ 値 誤差

A 2.00× 103 5.10× 10

σ 1.17 2.52× 10−2

µ 1.04× 103 3.11× 10−2

p0 5.85 8.62

p1 5.95× 10−3 8.59× 10−3

p2 5.26× 10−7 7.98× 10−6

ADC channel

図 5.22: 137Csの 662 keVピークのフィッティング (GX2018検出器による)

22Naの511 keVピーク

ピークのフィッティングの結果からエネルギー分解能Rは

R =FWHM

µ=

2√2 ln 2× 1.97

8.00× 102= 0.59% (5.13)

となった。

34

Page 38: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

表 5.9: 22Naの 511 keVピークのフィッティングの結果パラメータ 値 誤差

A 2.89× 104 1.73× 102

σ 2.01 1.05× 10−2

µ 8.00× 102 1.23× 10−2

p0 3.45× 102 1.98× 10

p1 3.08× 10−2 2.63× 10−2

p2 −4.84× 10−4 3.09× 10−5

ADC channel

図 5.23: 22Naの 511 keVピークのフィッティング (GX2018検出器による)

22Naの1274 keVピーク

ピークのフィッティングの結果からエネルギー分解能Rは

R =FWHM

µ=

2√2 ln 2× 1.54

2.00× 103= 0.18% (5.14)

となった。

35

Page 39: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

表 5.10: 22Naの 1274 keVピークのフィッティングの結果パラメータ 値 誤差

A 6.94× 103 8.39× 101

σ 1.54 1.52× 10−2

µ 2.00× 103 1.89× 10−2

p0 4.63× 10 3.65× 10

p1 1.75× 10−3 2.34× 10−4

p2 −1.05× 10−5 9.15× 10−6

ADC channel

図 5.24: 22Naの 1274 keVピークのフィッティング (GX2018検出器による)

ガンマ線エネルギーごとのエネルギー分解能

測定したガンマ線のエネルギーごとの光電吸収ピークについてのエネルギー分解能をプロットした。ガンマ線のエネルギーが増大するにつれてエネルギー分解能が良くなっていることが見て取れる。また、511 keVから 662 keVにかけてのエネルギー分解能の変化に対して、1173 keVから 1332 keVにかけてのエネルギー分解能の変化は小さくなっている。

36

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E (keV)

Ene

rgy

reso

lutio

n (%

)

図 5.25: ガンマ線エネルギーごとのエネルギー分解能 (GC2018検出器による)

E (keV)

Ene

rgy

reso

lutio

n (%

)

図 5.26: 縦軸をログスケールにしたガンマ線エネルギーごとのエネルギー分解能 (GC2018

検出器による)

37

Page 41: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

E (keV)

Ene

rgy

reso

lutio

n (%

)

図 5.27: ガンマ線エネルギーごとのエネルギー分解能 (GX2018検出器による)

E (keV)

Ene

rgy

reso

lutio

n (%

)

図 5.28: 縦軸をログスケールにしたガンマ線エネルギーごとのエネルギー分解能 (GX2018

検出器による)

38

Page 42: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

5.4 検出効率本実験では検出器の固有検出効率 ϵintを測定した。相対検出効率 ϵintは以下のように表

される。

ϵint =記録されたパルスの数

検出器に入射した放射線の数(5.15)

記録されたパルスの計数はフィッティングの結果からピークの面積Aの値を用いた。ただし、22Naの 511 keVピークに関しては、γ線が二本放出されるのでAを 2で割る必要がある。 検出器に入射した放射線の数は、実験時点での線源の放射線強度と立体角から求めた。本実験では 1000 秒間測定し立体角は 7.13×10−2である。このことと各線源の放射線強度を用い検出器に入射した放射線の数は以下のように表される。

検出器に入射した放射線の数

=線源の放射線強度 [Bq] ×1000[sec]× 7.13× 10−2

4π(5.16)

求めた検出効率をエネルギーの関数としてプロットした。また、同軸型検出器の応答に関する以下の経験式を用いてフィッティングを行った。

g(Eγ) = p0Ep1γ (p0, p1はパラメータ, Eγはγ線のエネルギー) (5.17)

  

GC2018検出器の固有検出効率

以下のようにGC2018検出器の固有検出効率を求めた。   

表 5.11: GC2018検出器の固有検出効率※ ()内は誤差γ線エネルギー (keV) 計数 A 固有検出効率 ( %) 

511 15950(183) 12.9(0.66)

661.6 2490(51) 11.1(0.59)

1173 10800(117) 5.80(0.29)

1274 6830(89) 5.51(0.28)

1332 9650(110) 5.18(0.26)

39

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E0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000

eff

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

0.16

0.18

0.2

E (keV)

図 5.29: GC2018検出器の固有検出効率

500 600 700 800 900 10000.04

0.05

0.06

0.07

0.080.090.1

0.2

GraphGraph

E (keV)

図 5.30: 縦軸、横軸をログスケールにしたGC2018検出器の固有検出効率

固有検出効率の経験式によるフィッティングは以下のような結果になった。

g(Eγ) = 45E−0.94γ (5.18)

40

Page 44: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

GX2018検出器の固有検出効率

以下のようにGX2018検出器の固有検出効率を求めた。

表 5.12: GX2018検出器の固有検出効率※ ()内は誤差γ線エネルギー (keV) 計数 A 固有検出効率 ( %) 

511 19851(203) 16.0(0.81)

661.6 3011(56) 13.3(0.71)

1173 14300(130) 7.68(0.39)

1274 8817(99) 7.12(0.36)

1332 12793(119) 6.86(0.35)

E0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000

eff

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

0.16

0.18

0.2

E (keV)

図 5.31: GX2018検出器の固有検出効率

41

Page 45: ゲルマニウム検出器による ガンマ線測定の性能評価...概要 本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた

E (keV)

図 5.32: 縦軸、横軸をログスケールにしたGX2018検出器の固有検出効率

固有検出効率の経験式によるフィッティングは以下のような結果になった。

g(Eγ) = 33E−0.86γ (5.19)

検出効率はガンマ線のエネルギーの増加とともに減少することが見て取れた。また、エネルギーが 400 600 keVの部分の検出効率の減少の仕方に比べて 1000 1200 keVの部分の検出効率の減少の仕方は緩やかであった。  計測した5つの点について検出効率は、GX 2018型検出器の方がGC 2018型検出器よりも大きかった。

42

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第6章 まとめ

本研究の目的は、ガンマ線分光学の基礎を学ぶこと、およびエネルギー分解能の優れた検出器の例として、ゲルマニウム検出器について学ぶことである。  本実験では、ゲルマニウム検出器に東京工業大学のCanberra社製「GC2018型 ゲルマニウム検出器」と「GX2018型 ゲルマニウム検出器」を用いて実験を行い、その性能を評価した。GC2018は 1999年度、GX2018は 2002年度に購入したゲルマニウム検出器である。 まず、放射線源として 137Cs, 22Na, 60Coの3つの放射線源を用いて各々のエネルギースペクトルをゲルマニウム検出器で測定した。  次に、ガンマ線のエネルギーごとに光電吸収によるピークのエネルギー分解能を測定した。またピークから検出効率も測定した。エネルギー分解能は、各ピークで 0.1%のオーダーであり、これはシンチレーション検出器の分解能 (数% ほど)に比べてはるかに良いことがわかった。 実験の結果、「GC2018型 ゲルマニウム検出器」と「GX2018型 ゲルマニウム検出器」は今後も高エネルギー分解能のガンマ線測定に用いることができることがわかった。東工大理学院先端物理計測開発室の備品として広く共同利用される予定である。

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謝辞

本研究を進めるにあたって、多くの方の協力がありました。この場で感謝を述べさせていただきます。指導教員である柴田利明教授には、研究の理論的・実験的課題の設定、研究方法の助言から論文の校正まで全般に渡ってご指導いただきました。中野健一助教には、研究の解析や進行に関して助言を頂きました。斎藤航氏、山田遥氏には実験の相談から私生活に至るまで様々なことをお世話になりました。深く感謝申し上げます。最後に、様々な面で支援してくださった家族に深くお礼申し上げます。

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関連図書

[1] Glenn F. Knoll 著, 木村逸郎ら訳,「放射線計測ハンドブック」, オーム社, 第2版,

1982.

[2] 東京工業大学 大学院物理基本実験 テキスト, 2015.

[3] 西谷源展、「放射線計測学(改訂 2版)」、オーム社、2013

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