ソーシャルテレビシステムteledaでの 視聴行動分析 -...

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研究発表 1.はじめに 近年 , Twitter や Facebook などの SNS(Social Networking Service)が爆発的に普及し,TV番組の視 聴体験をユーザー間で共有して,TV番組をより楽しも うという動きが活発化している。放送局やコンテンツ プロバイダーの多くはインターネットを利用して,さ まざまなサービスを提供しており,その中には番組レ ビュー機能 *1 やSNSとの連携機能を備えたものも少な くない。イギリスの公共放送BBCは,インターネット を経由して見逃した番組を視聴できるキャッチアップ サービスiPlayer を提供している。iPlayerは外部の SNSとの連携機能を備えており,ユーザーは外部で築い *1 番組の感想などを書き込む機能。 ABSTRACT Social networking services(SNSs)have become hugely popular, and people around the world are actively using them to share their experiences relating to TV programs they have watched. At STRL, we are developing a social TV system called “teleda” that combines a broadcast service with an SNS so that viewers can enjoy TV programs in a new way. The teleda system includes functions that allow users to express their feelings and share their experiences while watching broadcasts currently on air or previously aired programs. Since this system makes horizontal connections among viewers in addition to vertical connections between the broadcaster and viewers, the viewers can get many opportunities to encounter programs which they’ve never watched before by communicating with other viewers. In this paper, I will describe the service model and system including the teleda API for providing resources such as programs and social graphs. I will also show an overview of the three-month-long field trials on the Internet conducted in fiscal 2010, where approximately 1,000 users experienced the experimental teleda website, and I will discuss the feasibility of services that combine broadcast services with SNSs. Finally, I will introduce our field trials on teleda with extended functions that were held in fiscal 2011, and I will discuss our future plans. ソーシャルテレビシステムteledaでの 視聴行動分析 大竹 Analysis of User Behavior in Social TV System −teleda− Go OHTAKE NHK技研 R&D/No.134/2012.7 35

Transcript of ソーシャルテレビシステムteledaでの 視聴行動分析 -...

研究発表

1.はじめに近年 ,Twitter や Facebook などの SNS(Social

Networking Service)が爆発的に普及し,TV番組の視聴体験をユーザー間で共有して,TV番組をより楽しもうという動きが活発化している。放送局やコンテンツプロバイダーの多くはインターネットを利用して,さまざまなサービスを提供しており,その中には番組レ

ビュー機能*1やSNSとの連携機能を備えたものも少なくない。イギリスの公共放送BBCは,インターネットを経由して見逃した番組を視聴できるキャッチアップサービスiPlayer1)を提供している。iPlayerは外部のSNSとの連携機能を備えており,ユーザーは外部で築い

*1 番組の感想などを書き込む機能。

ABSTRACT Social networking services(SNSs)have become hugely popular, and people around the worldare actively using them to share their experiences relating to TV programs they have watched.At STRL, we are developing a social TV system called “teleda” that combines a broadcastservice with an SNS so that viewers can enjoy TV programs in a new way. The teleda systemincludes functions that allow users to express their feelings and share their experiences whilewatching broadcasts currently on air or previously aired programs. Since this system makeshorizontal connections among viewers in addition to vertical connections between thebroadcaster and viewers, the viewers can get many opportunities to encounter programs whichthey’ve never watched before by communicating with other viewers. In this paper, I will describethe service model and system including the teleda API for providing resources such asprograms and social graphs. I will also show an overview of the three-month-long field trialson the Internet conducted in fiscal 2010, where approximately 1,000 users experienced theexperimental teleda website, and I will discuss the feasibility of services that combinebroadcast services with SNSs. Finally, I will introduce our field trials on teleda with extendedfunctions that were held in fiscal 2011, and I will discuss our future plans.

ソーシャルテレビシステムteledaでの視聴行動分析大竹 剛

Analysis of User Behavior in Social TV System−teleda−

Go OHTAKE

NHK技研 R&D/No.134/2012.7 35

従来の放送サービスモデル

縦のつながり

新しい放送サービスモデル

SNS機能

横のつながり

外部連携

SNS(Social Networking Service)(Twitter, Facebookなど)公共の広場

放送局 放送局

視聴者

た人とのつながりを利用して番組を推薦し合うことができる。アメリカではVOD(Video On Demand)視聴の他に,番組に関する感想などを書き込むことのでき

フールー

るサービスHulu2)が提供されている。動画配信サイトYouTube3)においても,ユーザーはアップロードされた動画に関するコメントや評価を書き込むことができ,特定のコンテンツを通してコミュニケーションができるようになっている。一方,自分の好みの番組を好きな時間に好きなデバイスで視聴することのできるVOD視聴は,細分化や個人化を進めた「孤独な視聴」につながる可能性も指摘されている4)。当所では,TV番組の新たな楽しみ方を提供するために,放送サービスとSNSを融合したソーシャルテレビシステムteleda*2の開発を進めている。本稿では,teledaのサービスモデルとそれを実現するためのシステムを説明した後,2010年度に行った実証実験の概要と視聴行動の分析結果を紹介する。また,分析結果に基づいて,放送サービスとSNSを融合させたサービスの可能性を述べる。更に,2011年度に行ったサービスや機能を拡張した実証実験の概要を紹介し,今後の実用化に向けた取り組みについて述べる。

2.ソーシャルテレビシステムteleda2.1 サービスモデルteledaのサービスモデルを1図に示す。当所では,公共放送としての役割を果たすために,視聴者が安心して情報発信や意見交換を行うことのできるインターネット上のコミュニティー「公共の広場」を実現することを目指している。公共の広場を実現するためには,従

来の放送サービスで築き上げた放送局と視聴者の「縦のつながり」だけでなく,視聴者間の「横のつながり」を築くことが必須である。SNSの機能を番組視聴の枠組みに取り入れることで,視聴者間のつながりを活発化し,番組を通してさまざまな価値観や立場が出会う言論・情報の空間を実現することが可能となる。2.2 システムteledaのサービスモデルを実現するために,NHKが

保有する膨大な番組と視聴者情報を関連付けたデータを提供し,番組を通して視聴者間で自由にコミュニケーションを行うことのできるシステムを開発した(2図)。開発したシステムは,放送番組やメタデータなどの放送局データとソーシャルグラフ*3や視聴行動履歴などのユーザーデータで構成されるサービスリソースを保有している。また,動画配信や番組推薦,ソーシャル*4

などの各種のサービスを提供する機能がある。例えば,レビュー投稿数の多い番組やユーザーの満足度の高い番組をランキング表示するなど,番組とユーザーの視聴行動を関連付けたサービスを提供することができる。teledaで は,こ れ ら の リ ソ ー ス や 機 能 にAPI(Application Programming Interface)を利用して容易にアクセスでき,番組やソーシャルグラフなどさま

*2 英語の「television」と日本語の「枝:eda」を組み合わせた造語。視聴者同士が木の枝のようにつながっていくとともに,視聴者自身が枝を広げるように自分の世界を広げていく,という思いを込めた。teledaは放送サービスとSNSを融合したプラットホームの総称であり,そのプラットホーム上に試作した実験用Webサイトの名称でもある。

*3 現実社会またはインターネット上における友達関係。*4 番組に関するさまざまな情報を友達同士で共有するサービス。

1図 teledaのサービスモデル

研究発表 5

NHK技研 R&D/No.134/2012.736

新機能の追加

放送局データ

ユーザーデータ

サービスリソース

サービス間の相互乗り入れ

いつでもどこでもどんな端末でも

番組推薦

teleda-API

放送番組メタデータ

ソーシャルグラフ視聴行動履歴

動画配信

ソーシャル

プレゼンスユーザー認証

拡張サービス

拡張機能の開発

開発用API

サービス提供API サービス提供機能

Twitter, Facebook,地域SNS

端末に合わせたコンテンツ提示

外部コミュニティーとの連携

映像処理

音声処理

テキスト処理

UGC※生成

連携API

※User Generated Content

ざまなリソースを活用した新たな機能を開発・追加することができる。また,パソコン・TV・タブレット・スマートフォンなどの各種の端末に合ったコンテンツの提示が可能で,teledaのサービスをいつでもどこでも利用することができる。更に,TwitterやFacebookなどの外部のコミュニティーサイトと連携しており,より多くの人がサービスに気軽に参加でき,コミュニケー

ションの活性化が期待できる。

3.実証実験放送サービスとSNSを融合することで視聴者の間にどのようなコミュニケーションが生まれるのか,また,そのコミュニケーションが視聴者の行動にどのような影響を与えるのかを検証することを目的として実証実験を行った*5。試作したteledaのWebサイトで提供される機能は以下のとおりである。(1)VOD機能多くのVODサービスと同様に,番組のジャンルや番

組表,キーワードなどを用いて,自由に番組を検索することができる。teledaの番組検索画面を3図に示す。teledaの番組検索画面で見つけた番組を直接視聴することもできる。(2)コミュニケーション機能番組に対するレビュー(感想)の書き込みや5段階

で評価した満足度,「お気に入り」への登録を行うことができる。他のユーザーの書き込みに対してコメントを付けたり,「いいね」ボタンで簡単に賛同することが

*5 実証実験はNHK放送文化研究所,NHK視聴者事業局と共同で実施した。

2図 teledaのシステム

3図 teledaの番組検索画面

NHK技研 R&D/No.134/2012.7 37

のすけ さん

うさぽん さんASHIKA さん

おやぶん さん 柊太郎 さん

海子 さん

haruwaa… さん

aska さん

teleda 広…

teleda へ…

大相撲 きりん さん 南国白クマ さん

のすけ さん

ギブソン さん さっきー さんMako さん

できる。また,番組とは関係のないテーマでコミュニティーを作成し,そこに集まったユーザーと意見交換を行うこともできる。レビューやコメントを書く際には,特定の番組へのリンクや特定の番組シーンへのリンクを付加することもできる。(3)番組推薦機能ユーザーの視聴履歴や満足度を利用して,視聴回数

の多い番組や書き込み数の多い番組,評価の高い番組を推薦することができる。(4)ソーシャル機能TwitterやFacebookなどと同様に,他のユーザーを

フォローしたり,番組をお気に入りに登録したりする機能を利用して,他のユーザーや番組とつながりを作ることができる。作成されたソーシャルグラフはサイト上に表示され,ユーザーとユーザー,ユーザーと番

組,ユーザーとコミュニティーがどのようにリンクされているかを一覧することができる(4図)。(5)MyPage機能5図に示すMyPageにはTwitterのタイムラインや

Facebookのニュースフィードと同様に,自分がフォローしているユーザーの書き込みや自分がお気に入りに登録した番組への書き込みが時系列で表示される。ユーザーはこの機能を利用することで,自分自身で番組を探して視聴するだけでなく,他のユーザーのレビューやコメントあるいは番組評価などを通して新しい番組に出会うことができる。3.1 実証実験の概要2010年12月13日~2011年3月13日の3か月間で試作

したteledaのWebサイトを用いて実証実験を行った。実験参加者をNHKのインターネットサービス「NHKネットクラブ」の会員から募集し,1,032名が実験に参加した。参加者の年齢構成を1表に示す。1表に示すように40歳代と50歳代で全体の約半数を占める。実験で使

年齢 参加者数(割合)

10歳代以下 15( 1%)

20歳代 43( 4%)

30歳代 170(16%)

40歳代 269(26%)

50歳代 241(23%)

60歳代 172(17%)

70歳代 79( 8%)

80歳代以上 8( 1%)

不明 35( 3%)

合計 1,032

4図 teledaでのソーシャルグラフの表示例

1表 実験参加者の年齢構成

5図 MyPage画面

研究発表 5

NHK技研 R&D/No.134/2012.738

用した番組はNHKのVODサービス「NHKオンデマンド」で提供されている約2,500本の番組(見逃し番組と特選番組)である。3.2 実験結果と考察3.2.1 teledaの利用状況3か月間の実験期間で,総視聴回数は19,099回,総書き込み数は5,549であった。総視聴回数および総書き込み数に占める各年齢の割合を2表に示す。参加者の多い40歳代と50歳代のユーザーだけでなく,60歳代のユーザーも積極的に視聴や書き込みを行っている。実験参加者をteledaの利用傾向に応じて以下の4つのグループに分類し,行動を分析した5)。

グループA:番組は視聴するが,書き込みを全く行わないユーザー

グループB:番組に対してレビューは書くが,他人の書き込みに対してコメントを付けないユーザー

グループC:他人の書き込みに対してもコメントを付けるユーザー

グループD:視聴・書き込みを全く行わないユーザー実験参加者に占める各グループの割合を3表に,年

齢別のグループ構成を4表に示す。一般的なSNSの中心的な利用者層である20歳代と30歳代はグループAに所属している参加者が多く,teledaをコミュニケーション

年齢 視聴数 書き込み数

10歳代以下 308( 2%) 33( 1%)

20歳代 1,178( 6%) 119( 2%)

30歳代 1,980(10%) 459( 8%)

40歳代 4,548(24%) 1,438(26%)

50歳代 4,216(22%) 1,187(21%)

60歳代 4,003(21%) 1,228(22%)

70歳代 1,198( 6%) 410( 7%)

80歳代以上 51( 0%) 13( 0%)

不明 1,617( 8%) 662(12%)

合計 19,099 5,549

1人当たりの平均 18.5 5.4

グループ 特徴 参加者数(割合)

A 番組視聴だけ 356(34%)

B 番組レビューだけを投稿 187(18%)

C 他者へのコメントも投稿 237(23%)

D 視聴も投稿もしない 252(24%)

年齢 グループA グループB グループC グループD

10歳代以下 7(44%) 2(13%) 3(19%) 4(25%)

20歳代 21(49%) 4( 9%) 7(16%) 11(26%)

30歳代 74(44%) 31(18%) 25(15%) 40(24%)

40歳代 97(36%) 41(15%) 56(21%) 75(28%)

50歳代 81(34%) 59(24%) 54(22%) 47(20%)

60歳代 44(26%) 30(17%) 49(28%) 49(28%)

70歳代 24(30%) 11(14%) 28(35%) 16(20%)

80歳代以上 2(25%) 1(13%) 2(25%) 3(38%)

不明 8(22%) 8(22%) 13(36%) 7(19%)

2表 年齢別の視聴数と書き込み数

3表 実験参加者のグループ構成

4表 各年齢のグループ構成比

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視聴回数

番組の視聴数順位

250

200

150

100

50

0

1012013014015016017018019011,101

1,0011,2011,3011,4011,5011,6011,7011,8011,9011

ツールとしてではなく,主にVODサイトとして利用したことが分かる。一方,グループCに属する割合が比較的多い年齢は60歳代(28%)と70歳代(35%)であり,シニア層が番組を通してコミュニケーションを積極的に行っていることが分かる。3.2.2 番組視聴傾向番組に付加されている番組ジャンル情報6)*6を利用して,実験参加者の番組視聴の傾向を検証した。各グループが視聴した番組ジャンルの傾向を5表に,書き込みした番組ジャンルの傾向を6表に示す。5表に示すように,グループCはグループAやBよりもドキュメンタリー・教養,ニュース・報道系の番組を視聴する割合がやや多く,グループAは他のグループよりもドラマやバラエティー番組を視聴する割合が多い。また,6表に示すように,グループCはグループBよりもドキュメンタリー・教養,ニュース・報道系の番組への書き込

み傾向がやや強く,ドラマへの書き込み傾向がやや弱いことが分かる。6図は番組の視聴回数を順番に並べたものである。

グラフは典型的なロングテール7)となっている。また,視聴回数の多い上位の番組には,実際の放送時の視聴率が低い番組も含まれており8),teledaでの視聴は通常の視聴率とは違った傾向のあることが分かった。7図はteledaでの視聴番組を視聴回数のランキングの上位から100番組ごとに大きくまとめ,100番組ごとの視聴回数に占める各グループの割合を示している。ランキングが下位の番組ほどグループCの割合が高くなることが分かる。*6 teledaで提供する番組には,デジタル放送で利用されている10

種類のジャンルデータと103種類のサブジャンルデータが付加されている。

グループA グループB グループC

ドキュメンタリー・教養 852(24%) 1,081(26%) 3,356(30%)

ドラマ 883(25%) 788(19%) 1,686(15%)

バラエティー 525(15%) 582(14%) 1,425(13%)

趣味・教育 414(12%) 549(13%) 1,418(13%)

ニュース・報道 271( 8%) 420(10%) 1,407(13%)

情報・ワイドショー 281( 8%) 450(11%) 884( 8%)

音楽 256( 7%) 204( 5%) 507( 5%)

アニメ・特撮 59( 2%) 71( 2%) 135( 1%)

劇場・公演 12( 0%) 44( 1%) 108( 1%)

スポーツ 19( 1%) 13( 0%) 83( 1%)

グループB グループC

ドキュメンタリー・教養 179(27%) 1,064(31%)

ドラマ 129(19%) 460(13%)

バラエティー 85(13%) 445(13%)

趣味・教育 85(13%) 392(11%)

ニュース・報道 85(13%) 644(19%)

情報・ワイドショー 67(10%) 265( 8%)

音楽 29( 4%) 109( 3%)

アニメ・特撮 8( 1%) 24( 1%)

劇場・公演 1( 0%) 16( 0%)

スポーツ 5( 1%) 16( 0%)

5表 グループ別の視聴番組ジャンル傾向

6表 グループ別の書き込み番組ジャンル傾向

6図 番組の順位別の視聴回数

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視聴数に占める割合

番組の視聴数順位

80%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

0%

グループ A

グループ B

グループ C

101-200位

201-300位

301-400位

401-500位

501-600位

601-700位

701-800位

801-900位

901-1,000位

1,101-1,200位

1,001-1,100位

1,201-1,300位

1,301-1,400位

1,401-1,500位

1,501-1,600位

1,601-1,700位

1,701-1,800位

1,801-1,900位

1,901-2,000位

1-100位

利用回数50

45

40

35

30

25

20

15

10

0

5

グループ A

グループ B

グループ C

総視聴回数

書き込み総数

フォロー数

被フォロー数

いいね数

被いいね数

ファンになった番組数

参加コミュニティー数

執筆番組レビュー数

被コメント数

3.2.3 ソーシャル機能の利用傾向8図はteledaのソーシャル機能の利用回数を各グループ別に示したものである。書き込みや視聴機能だけでなく,「他人をフォローする」「番組のファンになる」といった他の機能においても,グループCのユーザーのアクティビティーが高いことが分かる。実際に視聴した番組を見つけた手段を9図に示す。

teledaの検索機能を利用して自分で探したのか,あるいは,teledaのソーシャル機能を利用して他人の書き込みや視聴回数の多い番組といった情報を利用して見つけたのかを,視聴回数のランキングで100番組ごとに大きくまとめて示した。視聴回数が多い番組ほど,ソーシャル機能を利用して見つけた割合が高く,VODとSNSを融合することによって,番組の視聴回数の増大が期

7図 番組視聴数に占める各グループの割合

8図 ソーシャル機能のグループ別利用頻度(1人当たりの平均)

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視聴に占める割合

検索機能を使って番組に到達

ソーシャル機能を使って番組へ到達

番組の視聴数順位

80%

90%

100%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

0%

101-200

201-300

301-400

401-500

501-600

601-700

701-800

801-900

901-1,000

1,101-1,200

1,001-1,100

1,201-1,300

1,301-1,400

1,401-1,500

1,501-1,600

1,601-1,700

1,701-1,800

1,801-1,900

1,901-2,000

2,001-2,100

2,101-

1-100

待される。3.2.4 視聴ジャンルの広がりソーシャル機能の導入がユーザーの視聴する番組ジャンルの広がりにどのような影響を与えたのかを検証した。ここでは,ユーザーがteledaで視聴した番組サブジャンルの数を「番組視聴の幅」として,各グループのユーザーがどの程度の幅で番組を視聴したのかを調査した。各グループのユーザーが実験中に視聴したサブジャンル数(1人当たりの平均)を7表に示す。グループCの番組視聴の幅が最も広いことが分かる。3.3 考察実験では,60歳代と70歳代のユーザーが積極的に書

き込みを行っており,番組を通したコミュニケーションがシニア層に親しみやすい形態であったと考えられる。一方,30歳代以下のユーザーはあまり書き込みを

行っていない。teledaの持つインターフェースや機能が若年層の求めるコミュニケーションに十分に対応していなかったことや,他の年齢との世代間コミュニケーションをしたがらない何らかの要因があったことなどが考えられる。グループCのアクティビティーは非常に高かった。8図に示すように,グループCのユーザーはフォローやお気に入りといったソーシャル機能の利用や,書き込みやコミュニティー参加へのモチベーションも高かった。また,7表が示すように,グループCのユーザーは他のグループのユーザーよりも幅広いジャンルの番組を視聴しており,ロングテール部分の番組への接触率も高い。このことから,グループCに属するユーザーの行動を利用することで,あまり知られていない番組への接触数を伸ばすことができるという可能性がある。グループCは視聴・書き込み傾向が共にドキュメンタリー・教養とニュース・報道系番組で高く,それらのジャンルの番組はコミュニケーションの活発化につながるテーマを比較的多く提供していたと考えられる。今回の実験では,teledaにおける視聴回数が上位の番組では,ソーシャル機能を利用して番組を見つけた割合が50%以上であった。既に述べたように,視聴回数が上位の番組には視聴率が低い番組が含まれている。

グループ 視聴サブジャンル数

A 3.8

B 7.2

C 12.3

全体平均 7.0

9図 視聴番組への到達経路の割合

7表 グループ別の視聴サブジャンル数(1人当たりの平均)

研究発表 5

NHK技研 R&D/No.134/2012.742

口コミなどで番組に関するコミュニケーションが活発になることで,あまり知られていない番組でも視聴回数が多くなるという傾向が見られた。グループCのユーザーは多種多様な番組を見つけるモチベーションが他のグループより高い。コミュニケーションを取ることに積極的なグループCのユーザー数を増やすことが新しい番組への出会いを増やすことにつながると考えられ,コミュニケーションをサポートする機能を提供することが重要である。3.4 追加実験の概要2010年度に行った実証実験の結果,ソーシャル機能

や書き込み機能を積極的に利用するユーザーの存在によってコミュニケーションが活性化し,新しい番組に出会う機会が増える可能性があることが分かった。そこで,teledaにおけるアクティブユーザーの数を増加させるために,以下の機能を拡張した。現在,2011年12月20日~2012年3月20日に行った追加実験の結果を分析中である。(1)外部SNSとの連携機能teledaで書き込んだレビューをTwitterやFacebook

などの外部SNSサイトに書き出す機能を追加した。teledaと特徴が異なる外部SNSと連携することで,ユーザーの視聴行動がどのように変化するのかを検証する。(2)個人向け推薦機能外部SNSサイトのAPIから得られるソーシャルデータを用いて個人プロファイルを生成し,個別に番組やユーザーを推薦する機能を追加した。外部SNS上のユーザー

のつながりがteledaユーザーの視聴行動にどのような影響を与えるのかを検証する。(3)リアルタイム機能実際に放送されている番組やVODで同じ番組を同時

に視聴しながらリアルタイムで書き込みを行うチャット機能や,現在の視聴状態をユーザー間で共有できる機能を追加した。リアルタイムに情報を共有することでコミュニケーションに違いが生まれるかどうかを検証する。(4)番組予告機能番組の予告動画を配信し,放送またはVODに誘導す

る機能を追加した。未来(予告動画),現在(放送中),過去(VOD)という時系列でユーザー間のコミュニケーションがどのように変化するのかを検証する。

4.むすび参加者が番組を通してつながることのできるソーシャルテレビシステムteledaを用いた実証実験の概要と視聴行動を分析した結果を紹介し,放送サービスとSNSを融合したサービスの可能性を示した。今後,機能を拡張した追加実験の詳細な分析を行う

とともに,当所で研究を進めている放送通信連携サービスHybridcast®9)*7でteledaの機能を利用し,ソーシャルテレビシステムに求められる技術要件を明らかにしていく。

*7 Hybridcast®は(財)NHK-ESの登録商標です。

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参考文献1)http://www.bbc.co.uk/iplayer/tv/

2)http://www.hulu.com/

3)http://www.youtube.com/

4)M. Brookes:Watching Alone:Social Capital and Public Service Broadcasting,BBC and the work foundation(2004)

5)シャーリーン・リー,ジョシュ・バーノフ:グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略,翔泳社(2008)

6)電波産業会:“地上デジタルテレビジョン放送運用規定(4.8版),”ARIB TR-B14(2012)

7)C. Anderson:“The Long tail,”http://www.wired.com/wired/archive/12.10/tail.html

8)米倉,宮崎,浜口:“放送の「ソーシャルメディア性」を拡張する試み~番組レビューSNSサイト“teleda”の実証実験から①~,”放送研究と調査,8月号,pp.14-25(2011)

9)A. Baba, K. Matsumura, S. Mitsuya, M. Takechi, H. Fujisawa, H. Hamada, S. Sunasaki and H. Katoh:“Seamless,Synchronous and Supportive:Welcome to Hybridcast-An Advanced Hybrid Broadcast and Broadband System-,”IEEE Consumer Electronics managine,Vol.1, No.2, pp.43-52(2012)

おおたけ ごう

大竹 剛

2001年入局。放送技術研究所において,電子透かしなどの著作権保護用画像処理,デジタル署名,暗号プロトコルなどのセキュリティー技術,ソーシャルテレビシステムteledaの研究・開発に従事。現在,放送技術研究所次世代プラットフォーム研究部に所属。博士(情報学)。

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