シリカハイブリッドポリイミド溶液 「コンポセラ...

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「コンポセラン H800」シリーズの特長 2 シリカハイブリッドポリイミド溶液である「コ ンポセランH800」シリーズは無機基材へ 塗布することで高い密着性を発現する。 碁盤目剥離試験の結果を表-1に示す。 シリカハイブリッドしていないものと比較し て銅やステンレスに対して密着性が向上 していることが確認できる。 はじめに 1 ポリイミドは優れた耐熱性、電気絶縁 性、力学的強度から電子機器の基板材 料、宇宙航空分野の耐熱材料として使 用されている。フィルムに加工された製品 として販売されるのが一般的であり、当社 でも寸法安定性、耐イオンマイグレーション、 金属密着性に優れるシリカハイブリッドポリ イミドフィルム「ポミラン」を上市している。 当社ではポリイミドフィルムに加えてポリイ ミド前駆体溶液も「コンポセランH800」シ リーズとして上市している。「ポミラン」と 同様、ポリイミドとシリカのハイブリッド材料で あり、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸と アルコキシシラン化合物が化学結合した ポリマーを有機溶剤に溶解させて製品化 している。基材に塗布、溶剤乾燥および 硬化をおこなうことにより、ポリアミック酸が 閉環反応してポリイミドに、アルコキシシラン 化合物が硬化してシリカになる。そして、ナ ノサイズのシリカが分散し、かつポリイミドと シリカが化学結合で架橋した硬化膜を形 成することができる(図 -1)。 フィルムに対して溶液を使用するメリットを3 点挙げることができる。 まず、塗布膜厚を調整することで硬化 膜厚を任意に設定できることがフィルム製 品と比較した時のメリットである。また、フィ ルム製品では銅箔などの基材と接着剤 で貼り合わせた積層体として使用される ことがあるが、一般的に接着剤はポリイミド より耐熱性に劣るため積層体の耐熱性 が十分に得られない課題がある。溶液 の場合、基材に塗布することで接着剤な しで積層体を作製することができるため、 積層体の耐熱性を向上させることができ る。基材は銅箔のほか、ステンレスなど用 途に合わせて選択することができる。 硬化膜厚を任意に決定することができる。 接着剤を使用しない積層体を作製することができる。 積層体を形成する基材を任意に決定することができる。 シリカハイブリッドポリイミド溶液  「コンポセランH800」シリーズについて 電子材料事業部 研究開発第一部 泉本 和宏 図−1 シリカハイブリッドポリイミド硬化膜の形成 NH O NH O O NH O NH O O O O OH O HO O OH X Si OCH 3 OCH 3 O CH 3 m l n N O O N O O O N O O NH O O O m l N O O N O O O N O O NH O O O m l アルコキシシラン部位 シリカ部位 ポリアミック酸部位 ポリイミド酸部位 SiO2 表−1 シリカハイブリッドポリイミドの無機基材への密着性 ハイブリッド 非ハイブリッド ステンレス × アルミ × 銅(未処理) × ○ 100 ~ 80、△ 70 ~ 50、× 49 ~ 0 碁盤目剥離試験 02 / 荒川ニュース / No.357 03 No.357 / 荒川ニュース /

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「コンポセランH800」シリーズの特長2シリカハイブリッドポリイミド溶液である「コ

ンポセランH800」シリーズは無機基材へ塗布することで高い密着性を発現する。碁盤目剥離試験の結果を表-1に示す。

シリカハイブリッドしていないものと比較して銅やステンレスに対して密着性が向上していることが確認できる。

はじめに1ポリイミドは優れた耐熱性、電気絶縁性、力学的強度から電子機器の基板材料、宇宙航空分野の耐熱材料として使用されている。フィルムに加工された製品として販売されるのが一般的であり、当社でも寸法安定性、耐イオンマイグレーション、金属密着性に優れるシリカハイブリッドポリイミドフィルム「ポミラン」を上市している。当社ではポリイミドフィルムに加えてポリイ

ミド前駆体溶液も「コンポセランH800」シリーズとして上市している。「ポミラン」と

同様、ポリイミドとシリカのハイブリッド材料であり、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸とアルコキシシラン化合物が化学結合したポリマーを有機溶剤に溶解させて製品化している。基材に塗布、溶剤乾燥および硬化をおこなうことにより、ポリアミック酸が閉環反応してポリイミドに、アルコキシシラン化合物が硬化してシリカになる。そして、ナノサイズのシリカが分散し、かつポリイミドとシリカが化学結合で架橋した硬化膜を形成することができる(図-1)。

フィルムに対して溶液を使用するメリットを3点挙げることができる。

まず、塗布膜厚を調整することで硬化膜厚を任意に設定できることがフィルム製品と比較した時のメリットである。また、フィルム製品では銅箔などの基材と接着剤で貼り合わせた積層体として使用されることがあるが、一般的に接着剤はポリイミドより耐熱性に劣るため積層体の耐熱性

が十分に得られない課題がある。溶液の場合、基材に塗布することで接着剤なしで積層体を作製することができるため、積層体の耐熱性を向上させることができる。基材は銅箔のほか、ステンレスなど用途に合わせて選択することができる。

①�硬化膜厚を任意に決定することができる。

②�接着剤を使用しない積層体を作製することができる。

③�積層体を形成する基材を任意に決定することができる。

シリカハイブリッドポリイミド溶液    「コンポセランH800」シリーズについて

電子材料事業部 研究開発第一部 泉本 和宏

図−1 シリカハイブリッドポリイミド硬化膜の形成

NH

O

NH

O

O NH

O

NHO

O

O

OOH

OHO

OOH

X Si

OCH3

OCH3

O CH3

ml

n

N

O

O

N

O

O

O N

O

O

NHO

O

O

ml

N

O

O

N

O

O

O N

O

O

NHO

O

O ml

アルコキシシラン部位

シリカ部位

ポリアミック酸部位

ポリイミド酸部位SiO2

高温熱処理

表−1 シリカハイブリッドポリイミドの無機基材への密着性

ハイブリッド 非ハイブリッド

ステンレス ○ ×

アルミ △ ×

銅(未処理) ○ ×

○ 100 ~ 80、△ 70 ~ 50、× 49 ~ 0

碁盤目剥離試験

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シリカハイブリッドポリイミド溶液「コンポセランH800」シリーズについて電子材料事業部 研究開発第一部泉本 和宏

図−2 コンポセランH801Dから得られる硬化膜の動的粘弾性チャート

図−3 コンポセランH850DおよびコンポセランH851Dの硬化膜作製

弾性率(

 

)Pa

コンポセランH801D硬化膜の動的粘弾性1.E+101.E+091.E+081.E+071.E+061.E+051.E+041.E+031.E+021.E+011.E+00

温度(℃)

0 100 200 300 400

H850D硬化膜25μm

塗布、溶剤乾燥および硬化

塗布、溶剤乾燥および硬化

コンポセランH850D

銅箔

コンポセランH851D

ポミランT25

銅箔

銅箔、ステンレスおよびポミランNと反りのない積層体を形成

H851D硬化膜12μm

ポミランT25

ポミランTと反りのない積層体を形成

CTEが一致していない場合、反りが生じる

「コンポセランH800」シリーズは用途に応じて最適な材料を選定できるように各種グレードをラインナップしている(表-2)。耐熱性に優れる硬化膜が作製可能なグレード、金属やセラミックスと同等の低熱

膨張性の硬化膜が作製可能なグレード、耐熱性と低弾性率を両立した硬化膜が作製可能なグレードがある。以下で各種グレードの特長を示す。

「コンポセランH801D」は耐熱性に優れる硬化膜が作製可能なグレードである。硬化膜が400℃以下にガラス転移温度を持たないため、氷点下の低温から400℃の高温領域まで物性の変化を少なく保ったまま使用することができる。動的粘弾性測定の結果を図-2に示す。耐熱コーティング剤などの用途が有望である。

「コンポセランH850D」は低熱膨張性の硬化膜が作製可能なグレードである。硬化膜の線膨脹係数(CTE)を銅、ステンレスおよび当社ポリイミドフィルム「ポミランN」(17ppm/℃)と近くなるように調整しているため、それらを基材に使用して「コンポセランH850D」を塗布、溶剤乾燥

および硬化させることで反りのない積層体を形成することができる(図-3)。銅配線を有する回路基板の絶縁材料

および回路保護コーティング剤、ニクロム配線などを有する発熱回路の絶縁材料などの用途が有望である。

「コンポセランH800」シリーズのラインナップ3

表−2 コンポセランH800シリーズの物性一覧

コンポセランH801D

コンポセランH850D

コンポセランH851D

コンポセランH802

溶液特性

硬化残分(%) 15 15 15 58

粘度(mPa・s/25℃) 8000 4000 4000 4000

硬化膜特性

弾性率(GPa) 2.2 4.1 5.4 0.006

(6MPa)

破断強度(MPa) 200 230 220 5

破断伸度(%) 90 30 10 350

CTE(ppm/℃) 40 14 6 >100

【コンポセランH801D】

【コンポセランH850D】

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図−4 コンポセランH801D、コンポセランH850DおよびコンポセランH851Dから得られる硬化膜の熱機械分析チャート

図−5 コンポセランH802から得られる硬化膜の動的粘弾性チャート

図−6 コンポセランH802から得られる硬化膜の耐熱性

コンポセランH801DCTE:38ppm/℃

コンポセランH850D(低熱膨張性)CTE:17ppm/℃

コンポセランH851D(超低熱膨張性)CTE:5ppm/℃

温度(℃)

100 120 140 160 180 200

0.5

0.4

0.3

0.2

0.1

0

熱膨張率(%)

温度(℃)

H802H802 シリカなしH801D(芳香族ポリイミド)

非ハイブリッドはTg以上の温度で溶融

シリカハイブリッドで

0 50 100 150 200 250 300 350

Pa不融化

1.E+10

1.E+09

1.E+08

1.E+07

1.E+06

1.E+05

1.E+04

1.E+03

1.E+02

1.E+01

シリコーン変性で 低

弾性化

弾性率(

 

シリカ

50℃×30min加熱

100℃×30min加熱

150℃×30min加熱

変化なし

シリカ ハイブリッド

伸び

完全溶融

シリカ なし

「コンポセランH851D」は超低熱膨張性の硬化膜が作製可能なグレードである。硬化膜の線膨脹係数(CTE)をシリコンおよび当社ポリイミドフィルム「ポミランT」(5ppm/℃)と近くなるように調整しているため、それらを基材に使用して「コンポセランH851D」を塗布、溶剤乾燥および硬化させることで反りのない積層体を形

成することができる(図-3)。図-4に「コンポセランH801D」、「コンポセランH850D」および「コンポセランH851D」の熱機械分析のチャートを示す。CTEがシリコンやアルミナなどのセラミッ

クスと近いため半導体周辺コーティング剤、セラミックス代替のフレキシブル軽量材料としての用途が有望である。

「コンポセランH802」は一般的なポリイミドフィルムと比較して低弾性率の硬化膜が作製可能なグレードである。柔軟な力学的性質を有するシリコーンとポリイミドを共重合させることで低弾性化を実現している。低弾性率で柔らかい硬化膜は一

般的に耐熱性に劣るが、「コンポセランH802」はポリイミドとシリカが架橋構造を形成することによりガラス転移温度の高温領域においても溶融することがない(図-5、図-6)。

【コンポセランH851D】 【コンポセランH802】

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シリカハイブリッドポリイミド溶液「コンポセランH800」シリーズについて電子材料事業部 研究開発第一部泉本 和宏

おわりに4今回、シリカハイブリッドポリイミド溶液「コ

ンポセランH800」シリーズについて紹介した。シリカハイブリッド技術を軸にさまざ

まな特長あるグレードをラインナップしている。電子材料分野を中心に幅広い用途展開が可能であると考える。

また、ポリイミド、シリコーンから構成されるため、一般的なアクリルエラストマーと比較して熱分解温度が高い。図-7に「コンポセランH802」から得られる硬化膜の熱重量分析のチャートを示す。アクリルエラストマーが450℃で残存率20%まで熱分解するのに対して、「コンポセランH802」

では450℃で残存率70%以上を維持している。高耐熱低弾性硬化膜の特長を活か

すことができる回路保護コーティング剤、耐熱接着剤用素材、耐熱粘着剤用素材、耐熱シール剤用素材などの用途が有望である。

図−7 コンポセランH802から得られる硬化膜の熱重量分析チャート

コンポセランH802アクリルエラストマー

温度(℃)

0 100 200 300 400 500

100

90

80

70

60

50

40

30

20

10

0

重量残存率(%)

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