フロントローディング型原価企画支援システム -...

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76 パナソニック電工技報Vol. 57 No. 3特集「生産技術」 1. ま え が き 顧客のニーズや価値観の多様化に伴い製品の短命化がま すます進んでおり,量産開始時からの利益確保が求められ ている。そのためには,製品開発の各ステップで,目標 原価を確実に作り込む活動,いわゆる原価企画活動を着 実に実行する必要がある。現在,その具体的な方法として, VE やティアダウンなどが広く利用されている 1一方,当社においては,VE IE の考え方を基に加工費 低減を主なねらいとした生産性設計技法 バラシズム 1 開発し,前記の方法と併せて活用している。今回,目標原 価の達成をより確実なものとするため,その対象を加工費 以外にも広げるとともに,再設計課題抽出法を組み合わせ たフロントローディング型原価企画支援システムを開発し た。本稿ではその概要を述べるとともに,事例を紹介する。 2. 生産設計技法 バラシズムの特徴と課題 当社では,独自の五設一体思想 2のもと,従来から関 連部門が密接に連携を取りながら開発・設計を進めるとい う社風が定着している(1)。その結果,製品開発スケ ジュールの遵守についてはある程度の水準に達しているも のと考えている。また原価目標に対しても,前述のバラシズ ムも活用することにより,その達成度を高めている。 バラシズムは,2 に示すように,詳細設計段階で用い る製品バラシズム,生産準備段階で用いる生産バラシズム, 生産管理業務の高度化と効率化をねらいとする業務バラシ ズムの三つから成っている。 とくに,製品バラシズムでは加工や組立の容易性を高め るための分析法とツールを,生産バラシズムでは付随・付 帯作業と呼ばれるロス作業や運搬作業を極少化するための 分析法とツールを整理・体系化している(3)。 これまで,このバラシズムを数多くの新製品に適用して 原価の作込みを実施するとともに,既存製品に対しても製 品や工程の改善の場面で適用して原価低減を実現してきた 2。しかし当社の製造原価に占める加工費の割合は 20 %以 下であることが多く,材料費を中心とするその他費用への 展開が必要となっていた。なお,その展開に伴って,構想 設計段階における原価見積りや課題抽出が必要となってい ることから,設計者が容易に使えることも支援システムの 要件である。 フロントローディング型原価企画支援システム Support Systems for Front Loading of Target Cost Management 八木 克洋* ・ 荒木 宏嗣* ・ 秋山 勝則* Katsuhiro Yagi Hiroshi Araki Katsunori Akiyama 企画段階で設定した目標原価を達成するため,加工費低減が主なねらいである独自の生産性設計技法 「バラシズム」に各開発段階や各種工法に対応した総合的原価見積法と原価見積法を応用した原価改善 のための再設計課題抽出法を組み合わせたフロントローディング型原価企画支援システムを開発した。 とくに再設計課題抽出法においては部品の加工しやすさを示す加工性評価指数を新たに導入し,再設計 対象部品の優先順位を付けることで効果的な原価改善を可能にしている。 In order to achieve the target cost set in the planning stage, a front - loading type target cost management support system has been developed by combining the productivity engineering methodology called "Varasism" for primarily reducing processing costs, and the comprehensive cost estimation methodology applicable to each development stage and processing method, along with the redesign problem extraction method for improving costs by using the cost estimation methodology. Particularly with the redesign problem extraction method, an effective cost reduction has been made possible by introducing a new processing assessment indicator to indicate the ease of processing of each component and prioritizing the components that require a redesign. * ものづくり力強化推進部 Manufacturing Reinfoecement Promotion Division

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76 パナソニック電工技報(Vol. 57 No. 3)

特集「生産技術」

1. ま え が き顧客のニーズや価値観の多様化に伴い製品の短命化がますます進んでおり,量産開始時からの利益確保が求められている。そのためには,製品開発の各ステップで,目標原価を確実に作り込む活動,いわゆる原価企画活動を着実に実行する必要がある。現在,その具体的な方法として,VEやティアダウンなどが広く利用されている 1)。一方,当社においては,VEや IEの考え方を基に加工費低減を主なねらいとした生産性設計技法 バラシズム* 1を開発し,前記の方法と併せて活用している。今回,目標原価の達成をより確実なものとするため,その対象を加工費以外にも広げるとともに,再設計課題抽出法を組み合わせたフロントローディング型原価企画支援システムを開発した。本稿ではその概要を述べるとともに,事例を紹介する。

2. 生産設計技法 バラシズムの特徴と課題当社では,独自の五設一体思想* 2)のもと,従来から関連部門が密接に連携を取りながら開発・設計を進めるという社風が定着している(図 1)。その結果,製品開発スケ

ジュールの遵守についてはある程度の水準に達しているものと考えている。また原価目標に対しても,前述のバラシズムも活用することにより,その達成度を高めている。バラシズムは,図 2に示すように,詳細設計段階で用いる製品バラシズム,生産準備段階で用いる生産バラシズム,生産管理業務の高度化と効率化をねらいとする業務バラシズムの三つから成っている。とくに,製品バラシズムでは加工や組立の容易性を高めるための分析法とツールを,生産バラシズムでは付随・付帯作業と呼ばれるロス作業や運搬作業を極少化するための分析法とツールを整理・体系化している(図 3)。これまで,このバラシズムを数多くの新製品に適用して原価の作込みを実施するとともに,既存製品に対しても製品や工程の改善の場面で適用して原価低減を実現してきた2)。しかし当社の製造原価に占める加工費の割合は 20 %以下であることが多く,材料費を中心とするその他費用への展開が必要となっていた。なお,その展開に伴って,構想設計段階における原価見積りや課題抽出が必要となっていることから,設計者が容易に使えることも支援システムの要件である。

フロントローディング型原価企画支援システムSupport Systems for Front Loading of Target Cost Management

八木 克洋* ・ 荒木 宏嗣* ・ 秋山 勝則*

Katsuhiro Yagi Hiroshi Araki Katsunori Akiyama

企画段階で設定した目標原価を達成するため,加工費低減が主なねらいである独自の生産性設計技法「バラシズム」に各開発段階や各種工法に対応した総合的原価見積法と原価見積法を応用した原価改善のための再設計課題抽出法を組み合わせたフロントローディング型原価企画支援システムを開発した。とくに再設計課題抽出法においては部品の加工しやすさを示す加工性評価指数を新たに導入し,再設計対象部品の優先順位を付けることで効果的な原価改善を可能にしている。

In order to achieve the target cost set in the planning stage, a front-loading type target cost management

support system has been developed by combining the productivity engineering methodology called

"Varasism" for primarily reducing processing costs, and the comprehensive cost estimation methodology

applicable to each development stage and processing method, along with the redesign problem extraction

method for improving costs by using the cost estimation methodology. Particularly with the redesign

problem extraction method, an effective cost reduction has been made possible by introducing a new

processing assessment indicator to indicate the ease of processing of each component and prioritizing the

components that require a redesign.

* ものづくり力強化推進部 Manufacturing Reinfoecement Promotion Division

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2.1 フロントローディング型原価企画のねらい一般的には図 4に示すように,企画や構想といった開発上流段階で原価の約 70 %が決まってしまう 3)。このことは,上流段階での原価の作込みの重要性を示しているが,仕様が明確でないために高い見積精度を期待できない。しかし,下流段階での予期せぬコストアップも加味すれば,できるかぎり多くのアイデアで原価を低減させておくことが望ましい。一方,設計や生産準備といった開発下流段階における原価検討の余地は約 30 %以下の寄与度で多いとはいえないが,上流段階で見積もった原価内で確実に具現することが求められる。

以上のような背景のもとに,本システムでは,現行のバラシズムに対して,開発上流段階において主要工法の簡易見積法と課題抽出支援法を加え,下流段階には多くの工法に対応する詳細見積法と方策検討用の支援ツールを整備している。以下では,総合的原価見積法と原価改善のための再設計課題抽出法について述べる。

2.2 総合的原価見積法2.2.1 原価見積りの基本的考え方原価見積法は,開発の各段階によって多少の違いはあるが,一般的には熟練者による経験的見積りあるいは専門メーカへの問合せといった方法が用いられている。そのため,必ずしも客観的な見積結果とはなっていなかった。それに対して本法では,見積根拠を明確化するために,いずれの段階においても適用可能な基本見積理論式を用いることにする。以下にその理論式を示す。

見積原価=材料費+加工費+経費+(金型費) (1)材料費=Σ {材料単価×材料質量±ロス材料費} ×(1+材料管理費率) (2)加工費=Σ {加工費率×(標準時間±ロス時間)} (3)加工費率=設備費率+労務費率 (4)労務費率=(労務費÷掛持台数+労務共通費率) ×(1+配賦費率) (5)設備費率=(設備固定費率+設備変動費率 +設備共通費率)×(1+配賦費率) (6)

~1995 1996~

マーケットニーズ設計

工法設計

製品設計

工程・管理設計

設備・金型設計

「「五五 設設 一一 体体 思思 想」想」

製品分析 原価見積り 環境分析

生産分析

VE

業務分析

IE

シミュレーション

・順次分析対象分野を拡大

・各種科学的方法や IT ツールを導入

「バラシズム」活用「バラシズム」活用

アイデア発想

作業測定

体系化

バラシズム

図1 当社の原価構築活動推移

物流

製品

部材

計画図面

製品企画

企画

業務バラシズム

製品バラシズム

既存製品合理化生産バラシズム

詳細設計段階

製品バラシズム

生産バラシズム

生産管理業務

量産準備段階

製品開発プロセス

使用~廃棄~リサイクル

製品開発

製造

生産準備調達

販売計画

生産プロセス

図2 バラシズムの対象範囲

実行計画書

計画

背景・ねらい目標確認

バラシズム展開計画作成

1

2

分析~改善案検討

既存情報,データ入手

現状分析

3

4

課題抽出~改善案検討5

改善効果確認~実行計画決定

投資額算出6

改善効果推定7

変動要因シミュレーション8

最適実行計画案作成9

事業計画(収益計画,市場動向)製品認識(量,品種,受注/計画,組立型/装置型)

製品価値向上度分析,ベンチマーク

個別目標値(CR額,生産性,L/T短縮,開発期間短縮)バラシズム計画決定(目標,推進手順,担当,日程)

品種構成部品コスト組立図,部品図製品(自社/他社)機能展開等

生産計画/実績工程フロー人員配置設備能力設備稼働データ作業標準書等

生産計画/実績販売計画/実績部品構成業務フロー外注管理データ在庫データ等

組立性評価加工性評価環境負荷評価ベンチマーキングVE, TRIZ

IE分析稼働時間測定設備タクト実測移動経路調査生産シミュレーション

帳票類調査分析業務フロー分析在庫分析生産シミュレーション

部品点数削減案材料・工法変更案

正味稼動向上案稼動ロスの削減案

在庫削減案業務効率化案L/T短縮案

金型・設備償却費推定 生産システム投資額の推定

収益効果推定

変動要因への最適対応検討

製品分析 生産分析 生産管理業務分析

図3 バラシズム設計フローと各種方法

0

70

90 95 100

生産生産準備設計構想企画

原価の確定度(%)

図4 原価確定度の推移

78 パナソニック電工技報(Vol. 57 No. 3)

ここで,材料費におけるロスとは,スプルー,ランナおよびスクラップなどを意味し,加工費におけるロスとは切替ロスや不良ロスなどを意味する。加工費率は,設備費率と労務費率の和で求められる。また設備費率は,部品設計情報から設定される設備の購入費や建屋費などの設備固定費率と動力費などの設備変動費率から算出される。一方,労務費率は,設備の稼動に必要となる作業者の所定内賃金や付帯人件費などの労務費と労務共通費などから算出される。標準時間は,機械作業時間と手作業時間の合計で,機械作業時間はプレスの回転数や樹脂の硬化特性などから理論的に求められる。また,手作業時間については,該当する設備ごとにワークの取付け取外し作業や金型切替作業などの作業分析を行い,ストップウォッチ等で計測する直接観測法やMTM,MOSTなどの PTS(Predetermined time

standard)法* 3)を用いて設定できる。図 5に加工費算出イメージを示す。

2.2.2 部品原価見積法基本的には,いずれの段階においても見積理論式を用いて見積価格を算出するが,開発が進むにつれて設定可能なパラメータは増加する。このことは,開発上流段階の原価見積りにおいては未確定の設計情報が多いことから,設定可能なパラメータは材質,外形寸法および形状などの基本的な情報に限られることを示している。つまり,見積精度は低くならざるを得ないが,設計者みずからが容易に見積りを行える環境でもある。一方,開発下流段階ではより精度の高い見積原価を求められており,具体的な設計情報に応じた詳細なパラメータを設定することでそれが可能となる。そこで,それぞれの段階において要求項目を満たしている見積ツールを調査し,一部機能追加や操作性向上等の改良を行って導入する。図 6にその見積ツールの構成を示す。また,開発上流段階における板金部品の見積例を図 7に示す。基本寸法,穴数,曲げ箇所などの簡易な入力パラメータのみで原価見積りができる。現在,それぞれのパラメータに対応する各種材料や設備の単価テーブルの設定,および標準時間の設定方法などは当社条件に合うようにカスタマイズを進めている。さらに,熱硬化性樹脂の直圧成形や注型などは当社での実績も多いが,一般的にはデータベー

ス化されておらず,見積方法の開発も困難である。しかし,当社では熱硬化性樹脂のデータベースを整備し,独自のパラメータを用いる見積方法を開発中である。

2.2.3 金型原価見積法金型の場合は,開発上流段階で前述のような積上式の原価見積法を用いて原価を算出することは困難である。これは,同じ成形品の金型でも,型構造,加工工程,および加工方法などの点で数多くの設計案が想定されることから,すべての組合せで見積もることは現実的には不可能なためである。たとえば,型構造や温調配管などの金型詳細設計完了後に積上式の金型原価見積りを実施したとしても,金型詳細設計完了後では改善余地が限られ,その結果は価格の妥当性評価のためにしか活用できない。そこで,フロントローディングのための金型見積法として,過去の見積実績と金型構成因子との関係を統計的に整理して見積原価を算出する。図 8に当社で使用している成形品の投影面積と金型原価の関係を示す。この図から多少ばらつきはあるものの成形品投影面積と金型原価には相関関係があることがわかる。そこで,投影面積をパラメータにして基準金型原価を算定し,金型製作を阻害する要因をパラメータ化してこれに加算することで金型原価の推定が可能となる。この概念を図9に示す。

肉厚,質量等設備仕様(プレス t 数等)

標準加工時間

加工費率

×

図5 加工費算出の概念

【【入力入力】】 【【出力出力】】======一般情報======・部品名称・加工ロット数・加工種類・労務費・管理費レート

======材料条件======

======技術条件======

材料設備時間

データベース

【金属加工】・材料質量・材料単価・サイズ

【樹脂加工】・材料質量・スプルー質量・不良率・材料単価・複雑性

【樹脂加工】・種類・能力・工程プロセス・取数・配列・加工サイズ

・切削加工・板金加工・金属鋳造・溶接・表面処理・・

・射出成形・押出成形・ブロー成形・真空成形・塗装・・

==工数見積書==

◆標準工数

◆段取工数

=コスト見積書=

◆材料費・質量,単価,・材料管理費

◆加工費・加工時間・加工費率・段取費合計

【金属加工】・種類・能力・工程プロセス・加工サイズ

図6 原価見積ツール構成

自動工程設計

基本形状入力 価原算概力入件条料材

材料費

加工費

合計

生産地

製品寸法

ロット数

材質

穴個数,曲げ点数,絞り点数等

図7 開発上流段階における板金部品の見積例

79パナソニック電工技報(Vol. 57 No. 3)

現在,この考えをもとに一部カスタマイズを行って金型見積ツール 4)を導入し,図 10に示すように大型部品から小型部品に至るまで多くの金型見積りを実施している。なお,見積精度の向上のため,見積結果をもとに統計分析を行いながらコストテーブルの見直しも進めている。

2.3 再設計課題抽出法2.3.1 再設計対象部品の選定法原価企画活動においては,原価見積技術と原価改善技術が 2本柱であり,目標原価を達成するまで繰り返し検討することが重要である 5)。前章では原価見積法を紹介したが,本章では原価改善法として再設計対象部品の選定法と再設

計課題抽出法を開発したので紹介する。見積原価が目標原価に達していない場合,当然のこととして再設計が求められる。部品点数が少ない製品の場合は,全部品に対してランダムに再設計を行うことでも大きな負担とはならないが,部品点数が多くなるとすべてに対してゼロベースで見直すことは効率的とはいえない。そこで,再設計対象部品の優先順位づけを行うため,加工性評価指数と名づけた新たな指標を提案する。以下にその基本式を示す。

加工性評価指数   =最安形状部品原価÷対象部品原価 (7)

ここで加工性評価指数とは,どれだけ加工しやすい設計であるかを客観的に評価するための指標である。また,最安形状部品原価および対象部品原価は前章で紹介した見積ツールにより算出された理論値である。図 11に事例を示す。対象部品はリブや偏肉などの加工性を阻害する要因によって原価が比較的高くなっている。そこで加工性阻害要因のない最安形状の部品に対し,原価の増額分を無次元の指標で表すことにより,材質や大きさの影響を受けずに加工しやすさだけを定量評価することが可能となる。これにより加工性評価指数が小さいほど再設計検討の余地があるものと考えられるため,再設計対象部品の優先順位を付けることも可能となる。

また,従来から用いられている DFA指数 6)と組み合わせることで原価面からの総合設計評価が可能となる。図12で示すように,組立性と加工性のバランスを考慮して評価することが重要であることがわかる。

100001000100101

投影面積 (cm2)

金型原価 (円)

105

106

107

図8 投影面積と金型原価

金型の基準価格(原価)算出式

〇形状寸法の複雑性〇成形品形状の複雑性〇型割面の複雑性〇寸法精度〇金型表面仕上げの難しさ〇アンダカット処理○入れ子構造(穴加工等)○リブ加工(溝加工,磨き)

〇金型材質〇ヒータ埋込み〇ランナ方式〇ギア〇特殊条件

〇成形品縦・横寸法○投影面積〇成形品高さ〇取り数

基準金型原価 金型製作阻害要因 その他要因

図9 金型見積概念図

1000010001001010.1

投影面積(cm2)

金型見積原価(円)

107

106

105

図10 投影面積と金型見積原価

最安形状部品(外形寸法・肉厚が同一の場合)

成形品原価: 37.0円金型原価 :648000.0円型償却込原価: 42.4円

アンダカット

偏肉

リブ

しぼ

段差

成形品原価: 101.0円金型原価 :1089000.0円型償却込原価: 110.0円

対象部品

対象部品原価(型償却費込)

最安形状部品原価(型償却費込)加工性評価指数= =0.385

42.4円

110.0円=

図11 加工性評価の事例

80 パナソニック電工技報(Vol. 57 No. 3)

2.3.2 原価見積法を応用した再設計課題抽出法原価改善技術として,原価見積ツールと連携して原価アップ要因を自動抽出し,改善観点および効果を自動出力する再設計課題抽出法を開発した。図 13に見積実績として,投影面積と成形品見積原価の関係を示す。前項の金型原価と同様に投影面積との間に相関関係があることがわかる。次に,図 14は見積結果をもとにした成形品および金型に対する原価アップ要因の度数分布を示しており,複数の特定パラメータが原価アップに影響していることがわかる。つまり,基本的には,投影面積をできる限り小さくすることと,アンダカットの有無,形状の複雑性,穴数などを考慮することで原価低減に結び付けられると考えられる。

次に,前述の包括的な設計課題提示にくわえて,個々の部品の見積結果からすべての原価アップパラメータを抽出し,設計者に再設計課題としてわかりやすく提示することを目的に,再設計課題抽出法を提案する。以下に,その概要を示す。まず,原価アップパラメータと原価増加値の関係を明らかにするとともに,改善観点も整理する。たとえば,アンダカットありの場合の原価増加率は 5.4 %で,その改善観点はアンダカットのない構造にすることである。次に,実際の課題抽出では,見積品と最安形状部品のパラメータ値を比較して原価アップに該当した場合は原価増加値と改善観点を出力する。図 15に全体の再設計課題抽出法のフローを示す。また図 16に本法を用いた事例を示す。本法を使用することにより,原価見積ツールを使用するだけで,原価ダウンの観点を自動的に漏れなく抽出することが可能となる。また,原価上昇額が定量評価できることで,改善の方向性の順位づけも可能である。

A パターンリブ付き 2 部品の組合せ

B パターン単純形状 4 部品の組合せ

部品 A

部品 B

部品 A

部品 B

部品 C 部品 D

B パターンA パターン

4 点2 点

14.6 秒7.1 秒組立時間

0.410.84DFA 指数

78.4円108.0円部品原価合計

0.940.84加工性評価指数

部品点数

組立性評価

加工性評価

図12 組立性と加工性の評価事例

1000010001001010.1

投影面積(cm2)

成形品見積原価(円)

1

10

100

1000

0.1

図13 投影面積と成形品見積原価

アンダカットあり

型締力不足

ロット数が少

インサートあり

美観が必要

バージン材

金型材質

形状複雑性

形状次元

型割り難易度

型割り段差

はめあい

追込加工

寸法公差

外観指定

穴数

リブ

原価アップ該当割合 対象:5事業本部 173部品

図14 成形品および金型原価アップ要因事例

開始

部品基本情報の入力

部品詳細情報項目の有無

原価アップ要件を満たす

原価アップ分を見積価格に追加

YES

No

次の項目へ

改善観点・効果(定量値)を出力

YES

No

対象部品の選定

YES

終了

図15 再設計課題抽出法のフロー

FA201図番本体品名64.00DFM

効果具体例改善観点設計課題区分成形品 偏肉箇所が存在 10.2円2.0 mm→1.5 mm肉厚を均一に成形品 成形品高さが高い 0.4円高さ50 mm→2 mm成形品高さを低く

成形品 ロット数が少 ロット数量を増 1500ショット→36万ショット 5.3円

成形品 外観に美観要 9.2円美観→一般ひけ・不良を許容

成形品 バージン材使用 リサイクル材使用バージン材→リサイクル材30 %

6.2円

307万円アンダカットなしアンダカット構造金型78万円鋼材を安価材料に高価型材使用金型47万円形状を簡単に成形品形状が複雑金型12万円自由曲面を少なく形状の次元が複雑金型12万円型分割面を単純に型分割面が複雑金型24万円鏡面・しぼ加工なし鏡面しぼ等あり金型9万円穴形状を無くす穴形状が必要金型47万円リブを薄く,低く細長いリブが存在金型

M-COST部品改善提案リスト

図16 再設計課題抽出法を用いた出力例

81パナソニック電工技報(Vol. 57 No. 3)

2.3.3 生産準備段階での課題抽出法設計下流段階では,DFA法等を用いて組立上の設計課題を予見し,設計にフィードバックすることで組立性の向上を図っている。しかし,設計条件や種々の制約条件のため,すべての課題に対応できるわけではない。そこで,設計変更で対応できない課題に対しては,治具や工具の工夫で組立性の悪さをカバーすることが必要となる。つまり,DFA法を用いて抽出した組立性向上のための再設計課題を,治具や工具の設計課題と読み替え,工程設計に織り込むことで組立時間の短縮を図っている。図17にその概念図を示す。また,量産直後からの目標生産性達成をねらいとして,本抽出法を発展させた作業標準書作成ツールの開発も進めている。

2.4 見える化による再設計課題の抽出昨今,多くの工場で見える化の取組みが活発に行われている。そのポイントは,部品名や数量などを大きく明示することによってだれでも正常と異常がすぐわかり,その場で迅速なアクションを行うことにある。今回,前述の考え方を応用してできる限りの多くの再設計課題を抽出するとともに,解決につなげる見える化に取り組んでいる。具体的には,図 18に示すように,ツールで見積もった原価と対象部品をボードに対で貼り付け,企画部門や調達部門などあらゆる関係部門全員に公開して問題点や改善点を収集している。その結果,いわゆる専門家では気付きにくい課題の抽出に成功している。さらに,議論の具体性を高めるため,衆知を集めた検討をボードの前で行って,早期の課題解決を促している。

3. 事 例 紹 介開発したシステムを使った事例として,健康機器の製品設計とセンサの組立工程設計を紹介する。健康機器の製品設計事例では,原価見積法を用いて現行製品の見積りを行うとともに,再設計課題抽出法を用いて多くの課題を抽出することができた。さらに,見える化も実施して部品一体化や板金部品の歩留向上等の原価低減案を立案するなど,ねらいどおりの開発が進んでいる。次に,センサの組立工程設計では,組立性を向上させるための再設計課題を抽出し,位置決めや反転等の課題をカバーする治具を製作した。さらに,作業標準書作成ツールの試行も行うことで,量産直後から目標組立作業時間を達成している(図 19)。

4. あ と が き企画段階で設定した目標原価を達成するため,加工費低減が主なねらいである独自の生産性設計技法バラシズムに各開発段階や各種工法に対応した総合的原価見積法と原価見積法を応用した原価改善のための再設計課題抽出法を組

み合わせたフロントローディング型原価企画支援システムを開発した。とくに再設計課題抽出法においては部品の加工しやすさを示す加工性評価指数を新たに導入し,再設計対象部品の優先順位を付けることで効果的な原価改善を実現した。開発したシステムの活用効果の最大化を図るため,今後は全社展開に向けた環境整備と改善事例データベースの構築などを進めていく予定である。

・ハンドリングDB・組立時間DB・固定時間DB

◆部品名◆反転の必要性◆ハンドリング性・部品の対称性・部品の大きさ等◆組立性・位置決めしやすさ・挿入抵抗の有無・固定方法等◆必要性・異材質・可動・分解

◆再設計のための提案・締結要素の削減,変更・接続部品を一体化・付加価値のない作業の削減・取付け容易な構造に変更等

入力 出力

PC

◆工程設計で検討設備治具・工具化等

NG

□詳細設計段階

□生産準備段階

設計変更

図17 生産準備段階での課題抽出フロー

図18 見える化によるアイデア検討

部品 A部品 B

ハウジング

作 業 標 準 書

組立作業時間シート

・・・

1.5部品Aをハウジングに挿入する。2

・・・

2.5部品Aと部品Bを組み合わせる。1

標準作業時間作業内容No.

・・・

1.5部品Aをハウジングに挿入する。2

・・・

2.5部品Aと部品Bを組み合わせる。1

標準作業時間作業内容No.

図19 作業標準書の例(センサ)

82 パナソニック電工技報(Vol. 57 No. 3)

●注* 1) バラシズム:当社の登録商標であり,原価,生産プロセス,物流プロセスなどの各種対象をばらばらに分解して詳細に分析する

ことにより,課題抽出や原価低減に結び付けようとする考え方で「ばらす」と「ism(主義)」からの造語* 2) 五設一体思想:マーケットニーズ設計,製品企画設計,工法設計,設備・金型設計,工程・管理設計という五つの設計を全員で

同時に緊密な連携を保って並列に進行させる考え方* 3) PTS法:人間の作業を構成する基本要素に分割し,その基本動作の性質と条件に応じてあらかじめ定めておいた時間値を当ては

めることによって標準時間を設定する方法

*参 考 文 献1)名井 哲夫:VEと独自技術で事業を展開,第 40回 VE関西大会資料,p. 39-60(2009)2)小林 正幸:松下電工の多角的 VE「Varasism」活動,第 31回 VE全国大会事例・資料集,p. 51-54(1998)3)小川 正樹:原価企画と技術段階の原価革新,日本能率協会(1998)4)宇野 和夫:プラスチック射出成形金型および成形品見積ソフト「M-COST」の活用,型技術 4月号(2006)5)小林 哲夫:原価企画研究の課題,森山書店,p. 45-48(1996)6)Geoffrey Boothroyd, Peter Dewhurst:生産コスト削減のための製品設計(改訂版)-Boothroydの DFMA-,日経 BP社(1998)

◆執 筆 者 紹 介

八木 克洋 荒木 宏嗣 秋山 勝則 ものづくり力強化推進部 ものづくり力強化推進部 ものづくり力強化推進部