パワーモジュール ギ酸還元はんだ接合...than for soldering using H2. It is used in...

2
-36- 泉   善 信 *1 青 田   忠 *1 Yoshinobu IZUMI Tadashi AOTA パワーモジュール ギ酸還元はんだ接合 Oxidation-Reduction by Formic-Acid for Power Module Soldering 技術紹介 合し,基板上は IGBT と FWD(半導体パワー チップ)が実装され,これらのチップはリード フレームを介してバスバーに接続される. これらの実装・接続方法は,全てはんだ接合 によって行うため,PM の状態としてはんだ付 け装置内で処理される(Fig.2). 実装・設備は,樹脂,金属で構成された比較 的熱容量の大きい状態ではんだ接合をするた め,PM の上下から輻射熱にて加熱を行うヒー ターを設置した,リフロー装置とした. *1 生産本部 生産技術六部 ※ 2016 年 7 月 28 日受付 Application of formic acid (HCOOH) enriched with nitrogen is a stable and economical soldering process for oxide film reduction, tested in the industry for many years. In this process safety engineering is less complex than for soldering using H 2 . It is used in vacuum soldering in the case of Power Module using solderable substrates of the reflow soldering technology. Fig. 1 Power module VCU PDU1 PDU2 Fig. 2 PDU structure of PM BUS-Bar Solder CASE Lead-Frame Solder Chip Solder Solder Water-Jacket DCB 3.ギ酸による酸化還元方式 各部位の実装・接続部には,固形のはんだ材 を搭載して高温下で溶融,接合を行うため,接 続部材およびはんだ表面の自然酸化膜が除去 されていないと,適切な接合状態を示す金属 間化合物を形成できないため,加熱炉内は酸 化還元雰囲気とする必要がある. 酸化還元方法は一般に,水素を用いる方法 が知られており,水素雰囲気下で金属(Me)を 2.はんだ接合構造 PM 内のVCU,PDU1,PDU2に共通する縦 構造として,冷却器上に絶縁基板(DCB)を接 1.はじめに パワーモジュール(以下 PM)とは,ハイブ リッド自動車に搭載されたモーターの駆動,発 電を制御する,パワーコントロールユニット (PCU)の構成部品である,インバーターを指す. PM の構造は,電圧を昇降圧させる VCU, 発電により電力を得る PDU1,車輪駆動用お よび,ブレーキで電力回生する PDU2 の合計 14個のユニットを単一の冷却器に実装し,樹 脂製のケースにインサート成形されたバス バーによって各 PDU に電気接続された,モ ジュール構造を成す(Fig.1). 本報では,2016年よりケーヒンとして初めて PMの量産を開始し,その生産工程においても, はんだ接合工程内で初めて採用した,ギ酸によ る酸化還元方法を用いた技術について紹介する.

Transcript of パワーモジュール ギ酸還元はんだ接合...than for soldering using H2. It is used in...

Page 1: パワーモジュール ギ酸還元はんだ接合...than for soldering using H2. It is used in vacuum soldering in the case of Power Module using solderable substrates of the reflow

-36-

パワーモジュール ギ酸還元はんだ接合

泉   善 信*1 青 田   忠*1

YoshinobuIZUMI TadashiAOTA

パワーモジュール ギ酸還元はんだ接合※

Oxidation-Reduction byFormic-Acid forPowerModuleSoldering

技術紹介

合し,基板上は IGBT と FWD(半導体パワーチップ)が実装され,これらのチップはリードフレームを介してバスバーに接続される.これらの実装・接続方法は,全てはんだ接合

によって行うため,PMの状態としてはんだ付け装置内で処理される(Fig.2).実装・設備は,樹脂,金属で構成された比較

的熱容量の大きい状態ではんだ接合をするため,PMの上下から輻射熱にて加熱を行うヒーターを設置した,リフロー装置とした.

*1生産本部生産技術六部

※2016年7月28日受付

Application of formic acid (HCOOH) enriched with nitrogen is a stable and economical soldering process foroxide film reduction, tested in the industry for many years. In this process safety engineering is less complexthan for soldering using H2. It is used in vacuum soldering in the case of Power Module using solderablesubstrates of the reflow soldering technology.

Fig. 1 Power module

VCU PDU1 PDU2

Fig. 2 PDU structure of PM

BUS-Bar

Solder

CASE

Lead-Frame SolderChipSolder

Solder

Water-Jacket

DCB

3.ギ酸による酸化還元方式

各部位の実装・接続部には,固形のはんだ材を搭載して高温下で溶融,接合を行うため,接続部材およびはんだ表面の自然酸化膜が除去されていないと,適切な接合状態を示す金属間化合物を形成できないため,加熱炉内は酸化還元雰囲気とする必要がある.酸化還元方法は一般に,水素を用いる方法

が知られており,水素雰囲気下で金属(Me)を

2.はんだ接合構造

PM内のVCU,PDU1,PDU2 に共通する縦構造として,冷却器上に絶縁基板(DCB)を接

1.はじめに

パワーモジュール(以下 PM)とは,ハイブリッド自動車に搭載されたモーターの駆動,発電を制御する,パワーコントロールユニット(PCU)の構成部品である,インバーターを指す.PM の構造は,電圧を昇降圧させる VCU,

発電により電力を得る PDU1,車輪駆動用および,ブレーキで電力回生する PDU2 の合計14個のユニットを単一の冷却器に実装し,樹脂製のケースにインサート成形されたバスバーによって各 PDU に電気接続された,モジュール構造を成す(Fig.1).本報では,2016年よりケーヒンとして初めて

PMの量産を開始し,その生産工程においても,はんだ接合工程内で初めて採用した,ギ酸による酸化還元方法を用いた技術について紹介する.

Page 2: パワーモジュール ギ酸還元はんだ接合...than for soldering using H2. It is used in vacuum soldering in the case of Power Module using solderable substrates of the reflow

-37-

ケーヒン技報 Vol.5 (2016)

著 者

泉  善 信

ケーヒンで初となる PMの量産開発にあたり,多大な協力をいただいた,本田技術研究所の皆様に深く感謝申し上げます.(泉)

加熱すると,以下の反応式を得られる.

MeO+H2→Me+H2O

また,ギ酸(HCOOH)による還元方法も近年注目されている.ギ酸による酸化還元反応式を以下に示す.

MeO+HCOOH→Me+CO2+H2O

Fig.3にエリンガム図(酸化反応の標準反応ギブズエネルギーを温度に対しプロットした図)を示す.縦軸の下方向に向かって,酸化し易いことを示しているため,はんだ融点以下での水素(H)は,はんだ主成分であるすず(Sn)に対し還元反応が起こらないことがわかる.さらに,水素では270℃付近から還元反応を示すため,一般的なPbフリーはんだの融点以上で還元反応が起こる.これに対し,筆者らが行ったギ酸還元実験

では,150℃より還元反応を示したことから,水素還元より低温から還元効果を得る結果であった.さらに,水素では還元できない,Snに対する酸化還元反応を,はんだ融点以下から得ることを明らかにした.この結果によるギ酸の推定エネルギープロットを同図上に示す.PMリフローは,ヒーターの輻射熱によって

ケース樹脂を加熱し,インサートされたバスバーへ熱伝導させることで接合面を昇温させるため,水素による還元反応を得るには 300℃以上に昇温させる環境を必要としたが,樹脂の耐熱温度を超える問題が生じる.

Fig. 3 Ellingham diagram

Fig. 4 Soldered state by oxidation reduction byHCOOH vs H2

Cu Ni

Sn

Zn

H

Solder M.P.

-800

-720

-640

-560

-480

-400

-320

-240

0

-160

-80

1/108

0 ×

H ×

C ×

0 300 600 900 1200 1500 1800 2100 2400

CO/CO2 比 1/108 1/106 1/105 1/104 1/103 1/102

H2/H2O 比 1/108 1/106 1/105 1/104 1/103

HCOOH (estimate)

Temperature (ºC)

Ene

rgy

= R

T ln

pO

2/k

j·m

ol-1

HCOOH

Bus-BarSolder

Lead-Frame

H2

4.まとめ

ギ酸による酸化還元方法を採用することにより,今回の PM 構造である大熱容量体をリフロー処理するための最適な技術を確立することができた.また,水素に対し,ギ酸は特性上,より安全な環境で生産する現場づくりに貢献した.

Fig. 4 にバスバー部のはんだ接合状態を水素とギ酸で比較した図を示す.水素還元の雰囲気を低温に抑えると酸化還元効果が減少するため,溶融したはんだの,接合面に対する濡れ性を得られていない状態に対して,ギ酸還元方法は,より低温環境で十分な還元効果を得られ,さらに Sn の酸化還元された状態で溶融したことから,接合面の濡れ性を得て,接合品質が向上していることがわかる.