仕事をする上でのコミュニケーション能力 - Dai-ichi...

14
Report 第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 Life Design Report Summer 2015.7 25 仕事をする上でのコミュニケーション能力 ― 各コミュニケーション能力の重要性認識と自己評価の属性別比較― 上席主任研究員 宮木 由貴子 目次 1.はじめに························································································································································ 26 2.仕事をする上でのコミュニケーション能力の重要性の認識と自己評価····························· 27 3.個別にみたコミュニケーション能力の重要性の認識と自己評価 ·········································· 29 4.基本・協調型コミュニケーションと発展・統率型コミュニケーション ······································· 36 5.考察 ································································································································································ 38 要旨 近年、職場におけるコミュニケーション能力が非常に重視されている。一言でコミュ ニケーション能力といっても、具体的にどのようなコミュニケーション能力が重視さ れ、その能力はどのように自己評価されているのだろうか。これについて、本稿では 「職場のコミュニケーションに関するアンケート調査」から、仕事をする上でのコミ ュニケーション能力に関する部分を分析した。 仕事をする上でのコミュニケーション能力の重要性の認識が最も高かったのは、 話す能力である。また、自己評価が高かったのは読む能力だった。プレゼンテー ション能力やリーダーシップ能力、自己主張能力などは重要性の認識・自己評価 ともに高くなかった。 各コミュニケーション能力を属性別にみると、大企業の女性管理職では総じて重要性 の認識・自己評価ともに他の属性より高い傾向がある。 今後の職場のコミュニケーション能力について考えるにあたっては、特に男性のコミ ュニケーション能力の向上に加え、過大・過小な自己評価についても考慮する必要が ある。また、プレゼンテーション能力や自己主張能力といったコミュニケーション能 力の重要性を再認識し、積極的に能力が発揮できる職場環境の構築が求められる。 キーワード:コミュニケーション、能力、職場

Transcript of 仕事をする上でのコミュニケーション能力 - Dai-ichi...

Report

第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 Life Design Report Summer 2015.7 25

仕事をする上でのコミュニケーション能力 ― 各コミュニケーション能力の重要性認識と自己評価の属性別比較―

上席主任研究員 宮木 由貴子

目次

1.はじめに························································································································································ 26

2.仕事をする上でのコミュニケーション能力の重要性の認識と自己評価 ····························· 27

3.個別にみたコミュニケーション能力の重要性の認識と自己評価 ·········································· 29

4.基本・協調型コミュニケーションと発展・統率型コミュニケーション ······································· 36

5.考察 ································································································································································ 38

要旨

① 近年、職場におけるコミュニケーション能力が非常に重視されている。一言でコミュ

ニケーション能力といっても、具体的にどのようなコミュニケーション能力が重視さ

れ、その能力はどのように自己評価されているのだろうか。これについて、本稿では

「職場のコミュニケーションに関するアンケート調査」から、仕事をする上でのコミ

ュニケーション能力に関する部分を分析した。

② 仕事をする上でのコミュニケーション能力の重要性の認識が最も高かったのは、

話す能力である。また、自己評価が高かったのは読む能力だった。プレゼンテー

ション能力やリーダーシップ能力、自己主張能力などは重要性の認識・自己評価

ともに高くなかった。

③ 各コミュニケーション能力を属性別にみると、大企業の女性管理職では総じて重要性

の認識・自己評価ともに他の属性より高い傾向がある。

④ 今後の職場のコミュニケーション能力について考えるにあたっては、特に男性のコミ

ュニケーション能力の向上に加え、過大・過小な自己評価についても考慮する必要が

ある。また、プレゼンテーション能力や自己主張能力といったコミュニケーション能

力の重要性を再認識し、積極的に能力が発揮できる職場環境の構築が求められる。

キーワード:コミュニケーション、能力、職場

Report

26 Life Design Report Summer 2015.7 第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部

1.はじめに

(1)研究の背景と目的

今日、様々な調査において、仕事上重要な能力の1つとして「コミュニケーション

能力」が上位にあげられている。しかし、一言でコミュニケーション能力といっても、

企業で求められるそれは多岐にわたり、具体的にどのような能力がどのような人で重

要ととらえられ、各人においてそれぞれのコミュニケーション能力が自分にどの程度

あると思っているかについてまで明らかにされることは少ない。

そこで本稿では、2014 年に実施した「職場のコミュニケーションに関する調査」か

ら、コミュニケーション能力に関するものについて分析した。仕事をする上で必要と

考えられるコミュニケーション能力として、本稿では図表1にある 15 項目をとりあげ

ている。

図表1 職場のコミュニケーションに関する調査項目

① 書類やメールなどの文章を「読む」能力

② 書類やメールなどの文章を「書く」能力

③ 人に口頭で何かを正確に伝える「話す」能力

④ 相手に応じて適切に「敬語を使う」能力

⑤ 人前で発表したり報告をする「プレゼンテーション」能力

⑥ 会話において相手の話を「きいて理解する」能力

⑦ 講習や研修などにおいて「きいて理解する」能力

⑧ その場の雰囲気を感じとる「空気を読む」能力

⑨ 社内での報告・連絡・相談などにより「情報を共有する」能力

⑩ 社内での意見・見解や方向性を「調整する」能力

⑪ グループをまとめる「リーダーシップ」能力

⑫ 相手を不快にさせずに自分の考えを伝える「自己主張」能力

⑬ 感情的にならずに冷静でいる「感情コントロール」能力

⑭ 相手の気持ちによりそう「共感」能力

⑮ 筋道をたててわかりやすく物事を伝える「論理性」

女性の活用推進や女性管理職の増加、非正規職員の増加といった動きにより、職場

にいる人の背景やライフスタイル、価値観は多様となり、職場のコミュニケーション

も複雑化する傾向にある。本稿では、各職場における今後のコミュニケーションの在

り方を検討する一助とすべく、企業規模ごとに正規社員・非正規社員別、管理職・非

管理職別、性別の比較を行うことで、各コミュニケーション能力の重要性の認識と自

己評価の実態を明らかにし、課題の発見を試みた。

Report

第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 Life Design Report Summer 2015.7 27

(2)調査概要 調査概要と主な属性は図表2のとおりである。

図表2 調査概要と主な属性

■調査時期 : 2014 年9月 27~28 日

■調査地域と対象: 全国の企業に勤める 20~59 歳の男女 1,440 名

■調査方法 : インターネット調査(株式会社クロスマーケティング)

(単位:人)

中小企業

(20~300 人未満)

大企業

(300 人以上)合計 合計

正規社員

管理職

(部長・課長)

男性 120 120 240 480

女性 120 120 240

非管理職

(係長・役職なし)

男性 120 120 240 480

女性 120 120 240

非正規社員 男性 120 120 240

480 女性 120 120 240

合計 720 720 1,440 1,440

2.仕事をする上でのコミュニケーション能力の重要性の認識と自己評価

まず、全体的な傾向をみるために、仕事をする上での各コミュニケーション能力の

重要性の認識と自己評価について、調査対象者全体の回答をみた。

仕事をする上でのコミュニケーション能力の重要性について、「非常に重要である」

と「まあ重要である」の合計値が最も高かったのは、③人に口頭で何かを正確に伝え

る「話す」能力だった(図表3)。これに、⑥会話において相手の話を「きいて理解す

る」能力、⑮筋道をたててわかりやすく物事を伝える「論理性」、⑬感情的にならずに

冷静でいる「感情コントロール」能力、⑨社内での報告・連絡・相談などにより「情

報を共有する」能力が続いた。⑤人前で発表したり報告をする「プレゼンテーション」

能力や、⑪グループをまとめる「リーダーシップ」能力、⑭相手の気持ちによりそう

「共感」能力などは下位に位置している。

また、仕事をする上でのコミュニケーション能力の自己評価について「能力あり」

(「十分あると思う」と「まああると思う」の合計)とする割合は、上位から、②書類

やメールなどの文章を「読む」能力、⑥会話において相手の話を「きいて理解する」

能力、⑧その場の雰囲気を感じとる「空気を読む」能力などとなっており、⑪グルー

プをまとめる「リーダーシップ」能力、⑤人前で発表したり報告をする「プレゼンテ

ーション」能力、⑫相手を不快にさせずに自分の考えを伝える「自己主張」能力など

は下位に位置した(図表4)。

Report

28 Life Design Report Summer 2015.7 第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部

図表3 コミュニケーション能力の重要性の認識

図表4 コミュニケーション能力の自己評価

49.2

46.3

38.9

35.3

38.1

31.7

30.8

33.8

32.5

29.9

26.9

26.0

23.9

27.9

29.3

44.7

46.1

52.4

55.1

51.9

57.8

57.4

54.1

54.9

55.9

58.1

57.8

57.7

50.6

49.2

5.1

6.6

7.4

8.3

8.7

8.1

10.3

10.6

10.3

12.2

12.9

14.2

16.5

18.0

17.5

1.0

1.0

1.3

1.3

1.4

2.4

1.5

1.6

2.3

2.1

2.1

2.1

1.9

3.5

4.0

0% 20% 40% 60% 80% 100%

人に口頭で何かを正確に伝える「話す」能力

会話において相手の話を「きいて理解する」能力

筋道を立ててわかりやすく物事を伝える「論理性」

感情的にならずに冷静でいる「感情コントロール」能力

社内での報告・連絡・相談などにより「情報を共有する」能力

書類やメールなどの文章を「読む」能力

話す相手に応じて適切に「敬語を使う」能力

その場の雰囲気を感じとる「空気を読む」能力

書類やメールなどの文章を「書く」能力

社内での意見・見解や方向性を「調整する」能力

講習や研修などにおいて「きいて理解する」能力

相手を不快にさせずに自分の考えを伝える「自己主張」能力

相手の気持ちによりそう「共感」能力

グループをまとめる「リーダーシップ」能力

人前で発表したり報告をする「プレゼンテーション(発表する)」能力

非常に重要である まあ重要である あまり重要ではない まったく重要ではない

14.3

14.0

15.9

12.2

15.4

11.3

12.7

10.3

10.7

9.8

8.9

9.9

6.5

7.9

7.5

62.6

56.8

54.8

56.7

52.8

55.6

53.8

48.8

47.7

48.2

47.4

45.6

43.7

34.8

34.8

19.2

24.6

24.3

26.2

26.4

28.2

28.1

32.7

35.1

35.8

35.6

35.3

40.4

39.7

39.5

3.9

4.6

5.0

4.9

5.4

5.0

5.3

8.2

6.6

6.2

8.1

9.3

9.5

17.6

18.2

0% 20% 40% 60% 80% 100%

書類やメールなどの文章を「読む」能力

会話において相手の話を「きいて理解する」能力

その場の雰囲気を感じとる「空気を読む」能力

講習や研修などにおいて「きいて理解する」能力

話す相手に応じて適切に「敬語を使う」能力

社内での報告・連絡・相談などにより「情報を共有する」能力

書類やメールなどの文章を「書く」能力

人に口頭で何かを正確に伝える「話す」能力

筋道を立ててわかりやすく物事を伝える「論理性」

相手の気持ちによりそう「共感」能力

社内での意見・見解や方向性を「調整する」能力

感情的にならずに冷静でいる「感情コントロール」能力

相手を不快にさせずに自分の考えを伝える「自己主張」能力

人前で発表したり報告をする「プレゼンテーション(発表する)」能力

グループをまとめる「リーダーシップ」能力

十分あると思う まああると思う やや不足していると思う 非常に不足していると思う

Report

第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 Life Design Report Summer 2015.7 29

3.個別にみたコミュニケーション能力の重要性の認識と自己評価

(1)読む・書く

各コミュニケーション能力について、企業規模ごとに正規社員・非正規社員別、管

理職・非管理職別、性別に、重要性の認識(「非常に重要である」)と自己評価(「(能

力が)十分あると思う」)についてみる。

①書類やメールなどの文章を「読む」能力について「非常に重要である」とした人

が最も多かったのは大企業の女性非正規社員で、44.2%を占めた(図表5)。これに大

企業の女性管理職、大企業の女性非管理職が続いた。一方、読む能力が「十分あると

思う」と回答した人は大企業の女性管理職で21.7%であるのに対し、大企業の女性非

正規社員と大企業の女性非管理職では15%程度だった。

一方、②書類やメールなどの文章を「書く」能力について「非常に重要である」と

回答した割合は、大企業の男性管理職で44.2%と最も多い。これに大企業の女性管理

職、大企業の女性非管理職、中小企業の女性管理職が僅差で続いた。全体的に大企業

の女性で読む・書く能力を重視する人が多い。自己評価は、読む能力とかなり近い傾

向を示しており、管理職で比較的高い。読む能力・書く能力ともに、自己評価は中小

企業の男性非正規社員と中小企業の女性非管理職、大企業の男性非管理職で低かった。

図表5 「読む・書く」能力の重要性の認識と自己評価

(%)

24.2

35.8

25.828.3

18.3

33.3

36.7

43.3

24.2

40.8

25.0

44.2

25.8

40.0

26.7

30.0

16.7

31.7

44.2 43.3

26.7

41.7

25.0

38.3

14.518.5

12.9

8.5

7.4

18.8

18.3

21.7

9.214.3 12.2

15.0

12.817.6

12.2

7.7 5.6

17.1

20.8

16.76.7

11.8 9.6

12.6

0

10

20

30

40

50

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

管理職 非管理職 管理職 非管理職

正規社員 非正規社員 正規社員 非正規社員

中小企業 大企業

書類やメールなどの文章を「読む」能力

<非常に重要>

書類やメールなどの文章を「書く」能力

<非常に重要>

<十分ある> <十分ある>

Report

30 Life Design Report Summer 2015.7 第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部

(2)話す・敬語を使う・プレゼンテーションする

続いて、③人に口頭で何かを正確に伝える「話す」能力の重要性の認識についてみ

ると、中小企業・大企業ともに女性管理職では6割を超えた(図表6)。大企業の女性

非管理職と中小企業・大企業の女性非正規社員でも6割近くに及ぶ。自己評価につい

ては、大企業の女性管理職で「十分あると思う」(19.3%)とする割合が最も多い。こ

れに大企業の男性管理職、大企業の女性非正規社員、中小企業の女性管理職が続いた。

また、④相手に応じて適切に「敬語を使う」能力については、中小企業・大企業と

もに女性非正規社員で「非常に重要である」とする割合が高い。自己評価は中小企業・

大企業の女性管理職に次いで、中小企業・大企業の女性非正規社員で高い。一方、大

企業の男性非管理職の自己評価は低かった。

さらに、⑤人前で発表したり報告をする「プレゼンテーション」能力についてみる

と、重要性の認識は大企業の女性管理職で 45.0%と高いが、自己評価は大企業の男性

管理職が僅差で最も高い。また、全体的に大企業の女性は「非常に重要である」とす

る割合が中小企業の女性に比べて高かった。

図表6 「話す・敬語を使う・プレゼンテーションする」能力の重要性の認識と自己評価

(%)

35.0

61.7

46.7

42.5

35.0

56.7

53.3

64.2

40.8

58.3

38.3

57.5

16.7

38.3

29.2

25.0

19.2

44.2

22.5

40.8

20.0

38.3

26.7

48.3

27.5

34.2

29.2

22.5

16.7

24.2

39.2

45.0

27.5

36.7

15.0

34.2

6.814.3

9.24.2 6.2

11.7

14.2

19.3

4.2

11.96.9

15.1

12.8 21.0

14.2

12.68.8

19.2 18.5 23.5

4.2

16.9

11.1

20.8

6.09.3

8.03.8 1.0

5.8

15.0

14.4

6.8

8.0 6.3

8.0

0

10

20

30

40

50

60

70

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

管理職 非管理職 管理職 非管理職

正規社員 非正規社員 正規社員 非正規社員

中小企業 大企業

人に口頭で何かを正確に

伝える「話す」能力

<非常に重要>

話す相手に応じて適切に

「敬語を使う」能力

<非常に重要>

人前で発表したり報告をする

「プレゼンテーション」能力

<非常に重要><十分ある> <十分ある> <十分ある>

Report

第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 Life Design Report Summer 2015.7 31

(3)相手の話をきいて理解する・講習や研修をきいて理解する

⑥会話において相手の話を「きいて理解する」能力に対する重要性の認識は、大企

業の女性管理職で最も高く、これに中小企業・大企業の女性非正規社員が同割合で続

く(図表7)。重要性の認識が最も低かったのは中小企業の男性管理職である。自己評

価については、ここでも大企業の女性管理職で最も高く、これに大企業の女性非正規

社員が続いた。

一方、⑦講習や研修などにおいて「きいて理解する」能力については、人の話をき

いて理解する能力に比べると重要性の認識が全体的に低い。最も高かった大企業の女

性管理職においても、その割合は4割程度である。ただし、自己評価については、概

ね人の話をきいて理解する能力の自己評価と同程度となっていた。

人とのコミュニケーションにおいて「きく」のと、聴衆の1人として一方向的に発

せられる情報を「きく」のとでは、「きく」姿勢において大きな違いがある。重要性の

認識についてはかなりの差があるものの、双方の自己評価に大きな差がないのは、自

分に後者の「きく」能力があるかについて、普段あまり意識していないことも影響し

ているのかもしれない。

図表7 「相手の話をきいて理解する・講習や研修をきいて理解する」能力の重要性の認識と自己評価

(%)

30.0

50.0

44.242.5

33.3

60.0

43.3

64.2

37.5

54.2

36.7

60.0

18.3

27.5 26.7

17.520.8

31.7

22.5

40.8

22.5

37.5

21.7

35.8

11.117.6

12.510.1

3.5

17.5

18.3

25.8

7.6

13.4

10.3 19.3

9.4 16.2

10.24.4 2.8

12.8

18.3

24.25.8

16.8

9.6

14.4

0

10

20

30

40

50

60

70

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

管理職 非管理職 管理職 非管理職

正規社員 非正規社員 正規社員 非正規社員

中小企業 大企業

会話において相手の話を「きいて理解する」能力

<非常に重要>

講習や研修などにおいて「きいて理解する」能力

<非常に重要>

<十分ある> <十分ある>

Report

32 Life Design Report Summer 2015.7 第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部

(4)空気を読む・情報共有する

職場においては、⑧その場の雰囲気を感じとる「空気を読む」能力も求められる。

重要性の認識は、大企業の女性非正規社員、中小企業の女性非正規社員、大企業の女

性非管理職、中小企業の女性管理職の順で高く、他の項目で目立っていた大企業の女

性管理職が目立たない結果となった(図表8)。大企業の女性管理職はコミュニケーシ

ョンに関する多くの項目で重要性の認識が他より高かったが、空気を読む能力につい

ては相対的に高くなかった。ただし、自己評価については大企業の女性非正規社員に

次いで大企業の女性管理職で高く、能力はあると認識している人は少なくない。一方、

空気を読む能力の自己評価が低いのは、中小企業の男性非正規社員と大企業の男性非

管理職だった。

また、⑨社内での報告・連絡・相談などにより「情報を共有する」能力についてみ

ると、大企業の女性では重要性の認識が一様に高いが、大企業の男性非管理職や男性

非正規社員では低い。また、中小企業の男性管理職や男性非正規社員でも重要性の認

識の低さが目立つ。自己評価が低いのは中小企業の女性非管理職と大企業の男性非管

理職が同割合で最下位だった。

中小企業の女性を除くと、周囲の雰囲気を感じとり、報告・連絡・相談といった情

報共有を行うのは、男性より女性で積極的に行われているようである。

図表8 「空気を読む・情報共有する」能力の重要性の認識と自己評価

(%)

26.7

40.8

30.8 30.828.3

45.0

29.2

38.3

23.3

44.2

20.0

47.5

24.2

48.3

35.034.2

21.7

41.7

37.5

52.5

28.3

52.5

30.0

50.8

12.820.3

13.412.7

6.2

22.5 14.2 24.2

6.816.8

14.725.8

7.7

17.810.3

2.5 3.6

14.513.3

23.5

2.5

15.18.5

15.1

0

10

20

30

40

50

60

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

管理職 非管理職 管理職 非管理職

正規社員 非正規社員 正規社員 非正規社員

中小企業 大企業

その場の雰囲気を感じとる「空気を読む」能力

<非常に重要>

社内での報告・連絡・相談などにより「情報を共有する」能力

<非常に重要>

<十分ある> <十分ある>

Report

第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 Life Design Report Summer 2015.7 33

(5)リーダーシップ・自己主張

⑪グループをまとめる「リーダーシップ」能力については、その性質上、管理職を

中心に特に求められる能力だが、とりわけ大企業の女性管理職では重要性の認識・自

己評価ともに他より高い(図表9)。「十分ある」とする割合は、大企業の女性管理職

で2割近くに及ぶが、大企業の男性では1割強にとどまっている。また、管理職の予

備軍ともいえる非管理職についてみると、中小企業では重要性の認識・自己評価とも

に女性より男性で高いが、大企業の非管理職では男性より女性で高いとの結果を得た。

さらに、⑫相手を不快にさせずに自分の考えを伝える「自己主張」能力、いわゆる

「アサーティブ・コミュニケーション」の能力についてみると、重要性の認識はここ

でも大企業の女性管理職で突出していた。自己評価は大企業の女性非正規社員で最も

高かった。大企業の男性非管理職と中小企業の男性非正規社員は、並んで自己評価が

最下位となっており、うまく自己主張をする能力がないと考えている人が多い様子が

浮き彫りとなった。

全体として、リーダーシップ・自己主張ともに、それらの能力を求められる管理職

では重要性の認識・自己評価がもう少し高くてもよいのではないかという印象を受け

る。

図表9 「リーダーシップ・自己主張」能力の重要性の認識と自己評価

(%)

30.0

35.0

23.3

19.2 18.3

23.3

43.345.8

23.3

27.5

17.5

28.3

20.8

34.2

22.525.0

13.3

29.2

25.0

40.0

15.8

31.7

20.8

33.3

6.111.0

8.8

0.9

2.96.0

11.7 19.3

1.7

6.3 3.6

10.1

4.37.6

8.51.7

0.9

9.2

8.3

10.90.9

7.8 4.312.8

0

10

20

30

40

50

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

管理職 非管理職 管理職 非管理職

正規社員 非正規社員 正規社員 非正規社員

中小企業 大企業

グループをまとめる「リーダーシップ」能力

<非常に重要>

相手を不快にさせずに自分の考えを伝える「自己主張」能力

<非常に重要>

<十分ある> <十分ある>

Report

34 Life Design Report Summer 2015.7 第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部

(6)調整・感情コントロール

⑩社内での意見・見解や方向性を「調整する」能力についてみると、重要性の認識

は大企業の女性管理職、大企業の女性非管理職で多く、これに中小企業の女性管理職、

大企業の女性非正規社員が続くなど、全体的に女性で高い(図表 10)。男性について

みると、大企業の男性管理職が 35.0%で男性の中では最も高いが、それ以外は重要性

の認識が低い。自己評価については、中小企業の女性非管理職と大企業の男性非管理

職が同割合で最下位だった。

⑬感情的にならずに冷静でいる「感情コントロール」能力の重要性の認識について

は、大企業の女性全般と中小企業の女性非正規社員で特に回答が多い。一方で男性は

全体的に重要性の認識が低かった。自己評価は大企業の女性管理職で最も高く、中小

企業の男性非正規社員で最も低い。

筆者が 2010 年に実施した「職場のコミュニケーションに関する調査」の自由回答で

は、女性が職場で感情的に行動する旨を指摘する男性が散見されたが、今回のデータ

を見る限り、少なくとも女性は感情をコントロールすることの重要性を認識している

ように見える。また、男性の感情コントロールの自己評価が必ずしも女性より高いわ

けではない点も、一概に「男性は」「女性は」と言えないことを物語っている。

図表 10 「調整・感情コントロール」能力の重要性の認識と自己評価

(%)

25.0

38.3

25.8 25.0

17.5

26.7

35.0

43.3

23.3

40.0

20.0

38.3

23.3

38.3

25.0

36.7

25.8

46.7

27.5

52.5

24.2

45.0

26.7

51.7

7.714.3

7.82.6 1.8

9.0

11.7

20.2

2.6

10.3 6.9

11.4

6.08.3

9.2

5.93.6

10.0

14.2

15.08.3

13.4

12.0

11.8

0

10

20

30

40

50

60

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

管理職 非管理職 管理職 非管理職

正規社員 非正規社員 正規社員 非正規社員

中小企業 大企業

社内での意見・見解や方向性を「調整する」能力

<非常に重要>

感情的にならずに冷静でいる「感情コントロール」能力

<非常に重要>

<十分ある> <十分ある>

Report

第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 Life Design Report Summer 2015.7 35

(7)共感・論理性

⑭相手の気持ちによりそう「共感」能力は、一様に女性より男性で重要性の認識が

低く、特に中小企業の男性非正規社員の回答は1割にとどまった(図表 11)。重要性

の認識が高かったのは中小・大企業ともに女性非正規社員で、いずれも 35%以上だっ

た。自己評価は大企業の女性全般と中小企業の女性非正規社員で高かった。自己評価

が最も低いのは大企業の男性非管理職で、能力が「十分ある」と回答した人は 1.7%

だった。

最後に、⑮筋道をたててわかりやすく物事を伝える「論理性」についてみると、重

要性の認識は大企業の女性管理職で最も高く、6割近くを占めたが、自己評価として

は大企業の男性管理職が最も高く、2割近くが「十分ある」と回答しており、大企業

の女性管理職より高い割合を占めた。

図表 11 「共感能力・論理性」の重要性の認識と自己評価

(%)

15.0

25.8

20.0

25.0

10.0

35.0

20.8

33.3

14.2

32.5

18.3

36.7

27.5

43.3

38.3

35.0

22.5

37.5

45.0

57.5

32.5

49.2

28.3

50.0

6.88.5 8.5

5.1

4.6

15.8

12.5

16.8

1.7

14.3

6.0

16.110.3 13.412.7

5.1

4.6

10.0

18.3

16.7

9.2

9.2

6.011.8

0

10

20

30

40

50

60

70

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

男性

女性

管理職 非管理職 管理職 非管理職

正規社員 非正規社員 正規社員 非正規社員

中小企業 大企業

相手の気持ちによりそう「共感」能力

<非常に重要>

筋道を立ててわかりやすく物事を伝える「論理性」

<非常に重要><十分ある> <十分ある>

Report

36 Life Design Report Summer 2015.7 第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部

4.基本・協調型コミュニケーションと発展・統率型コミュニケーション

企業規模ごとの正規社員・非正規社員別、管理職・非管理職別、性別の全体的な傾

向をみるべく、各コミュニケーション能力の自己評価の結果を、因子分析結果を元に

「基本・協調型コミュニケーション」項目と「発展・統率型コミュニケーション」項

目に分類した(図表 12)。基本・協調型コミュニケーションとは、読む・書く・話す

などの基本的なコミュニケーション能力に加え、敬語使いや共感などが含まれる。発

展・統率型コミュニケーションはプレゼンテーション能力や調整能力、リーダーシッ

プ、自己主張など、グループを統率したり積極的に主張をするコミュニケーション能

力群である。

図表12 基本・協調型コミュニケーションと発展・統率型コミュニケーションの因子分析結果 基本・協調 発展・統率

①書類やメールなどの文章を「読む」能力 .885 -.082 ②書類やメールなどの文章を「書く」能力 .668 .130

③人に口頭で何かを正確に伝える「話す」能力 .432 .409

④相手に応じて適切に「敬語を使う」能力 .656 .074

⑤人前で発表したり報告をする「プレゼンテーション」能力 .066 .671

⑥会話において相手の話を「きいて理解する」能力 .849 -.018 ⑦講習や研修などにおいて「きいて理解する」能力 .894 -.054 ⑧その場の雰囲気を感じとる「空気を読む」能力 .538 .183

⑨社内での報告・連絡・相談などにより「情報を共有する」能力 .462 .357

⑩社内での意見・見解や方向性を「調整する」能力 .162 .665

⑪グループをまとめる「リーダーシップ」能力 -.164 .936 ⑫相手を不快にさせずに自分の考えを伝える「自己主張」能力 .122 .641 ⑬感情的にならずに冷静でいる「感情コントロール」能力 .321 .291

⑭相手の気持ちによりそう「共感」能力 .488 .175

⑮筋道をたててわかりやすく物事を伝える「論理性」 .421 .401

因子抽出法: 最尤法 回転法: Kaiser の正規化を伴うプロマックス法、3回の反復で回転が収束

この結果を元に、各項目の自己評価について「十分ある」に4点、「まああると思

う」に3点、「やや不足していると思う」に2点、「非常に不足していると思う」に1

点を付与し、それぞれを合計して「基本・協調型コミュニケーション」得点と「発展・

統率型コミュニケーション」得点を作成した(Cronbachα係数はそれぞれ 0.926、

0.844)。この2つの得点を、それぞれサンプルの分布が等分に近くなるように高得点

群と低得点群に2分し、「基本高群かつ発展高群」「基本高群かつ発展低群」「基本低群

かつ発展高群」「基本低群かつ発展低群」の4区分に分けて属性別にみたものが図表

13 である。

「基本・協調型コミュニケーション」能力も「発展・統率型コミュニケーション」

能力もともに自己評価が高い「基本高群かつ発展高群」が最も多いのは大企業の女性

管理職で、61.2%を占めている。これに大企業の男性管理職が 56.3%で続いている。

以下、中小企業の管理職女性(50.9%)、中小企業の管理職男性(45.6%)、大企業の

女性非正規社員(44.1%)と続く。一方、「基本・協調型コミュニケーション」能力も

Report

第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 Life Design Report Summer 2015.7 37

「発展・統率型コミュニケーション」能力も、ともに自己評価が低い「基本低群かつ

発展低群」が多いのは中小企業の男性非正規社員(58.7%)、大企業の男性非正規社員

(55.2%)、中小企業の女性非正規社員(52.1%)だった。また、大企業の男性管理職

では、「基本・協調型コミュニケーション」能力は低いが「発展・統率型コミュニケー

ション」能力は高いとの自己評価をしている「基本低群かつ発展高群」が 21.0%と、

他と比べて若干多い。一方、「基本・協調型コミュニケーション」能力は高いが「発展・

統率型コミュニケーション」能力が低いとの自己評価をしている「基本高群かつ発展

低群」はいずれの職位においても男性より女性で多かった。

なお、属性ごとに基本・協調的コミュニケーション能力と発展・統率コミュニケー

ション能力の高低と職場の人間関係満足度との関係について分析を試みた。それぞれ

のサンプル数が小さくなるために参考値として検証したが、すべての属性でコミュニ

ケーション能力の自己評価が高いと人間関係満足度も高いとの結果を得ている(図表

省略)。コミュニケーション能力の自己評価と人間関係の満足度に関連性が認められた

ことから、各人のコミュニケーション能力の自己評価を向上させることで職場の人間

関係満足度が向上する可能性が示唆された。

図表 13 基本・協調型コミュニケーションと発展・統率型コミュニケーションの分布

45.650.9

27.6 29.0 29.322.9

56.361.2

36.0 33.3 31.4

44.1

4.4

6.3

7.611.0

3.3 16.7

3.4

6.0

5.4 11.1

3.8

8.8

13.2

17.9

17.115.0

8.7

8.3

21.0

14.7

9.9

14.8

9.5

12.7

36.8

25.0

47.6 45.0

58.752.1

19.3 18.1

48.640.7

55.2

34.3

0%

20%

40%

60%

80%

100%

男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性

管理職 非管理職 管理職 非管理職

正規社員 非正規社員 正規社員 非正規社員

中小企業 大企業

基本低・

発展低

基本低・

発展高

基本高・

発展低

基本高・

発展高

Report

38 Life Design Report Summer 2015.7 第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部

5.考察

以上の結果から、いくつかの示唆や課題が得られた。まず、個々のコミュニケーシ

ョン能力の重要性の認識と自己評価について随所で属性別に差がみられたが、特に大

企業の女性管理職と比べて大企業の男性非管理職の値が低かった。また、中小企業の

非管理職における男女差と比べても、大企業の非管理職における男女差が大きい。非

管理職は将来の管理職予備軍だが、大企業では男性の非管理職の意識が低い点が目立

った。現在、「女性活用」というスローガンのもと、女性のスキルアップやキャリアア

ップが注目されているが、今回の調査結果をみる限り、男性にも積極的にスキルアッ

プやキャリアアップの意識喚起をしなければ、企業を担う次世代の育成として十分で

はないだろう。今後、企業においては男性を中心にコミュニケーション能力への意識

を喚起し、その能力向上に取り組むことが、重要な課題であると考える。

また、大企業の女性管理職におけるコミュニケーションの自己評価が高い点につい

ても注視する必要がある。従業員満足度調査などでも、管理職が非管理職に比べてか

なり肯定的な職場環境評価をする傾向があり、同一の職場に対する評価に齟齬が生じ

るケースが指摘されている。今回のコミュニケーション能力の評価はあくまで自己評

価であり、実際の能力の有無ではない。自分のコミュニケーション能力を客観的に評

価することは難しいが、実際の能力の差以外に、過大・過小評価も影響していると推

察される。職場に対する認識のギャップを最小化するためにも、管理職と非管理職、

非正規社員の相互理解を促進し、多様な立場の人との活発なコミュニケーションを通

じて自己のコミュニケーション能力を多方面から客観視できる職場環境が求められる。

さらに、プレゼンテーションや自己主張といった能力に対する重要性の認識があま

り高くなかった点も今後の課題である。本稿で国際比較はできないが、日本人の性質

上、自分を打ち出すことを美徳としてこなかったコミュニケーションスタイルが、今

も積極的な発言を阻んではいないだろうか。周囲との軋轢を最小限にしつつ、きちん

と発言ができる環境を形成し、業務遂行や人間関係形成において必要な情報発信をす

べきであるとの認識を持つ人が増えることで、職場のコミュニケーションも活性化さ

れるのではないだろうか。

職場において必要とされるコミュニケーション能力は、業界・業態や男女比率など

の各職場の特性に応じて様々であり、今回の調査結果が各職場にそのまま当てはまる

ものではないが、まずはこれらの実態について各職場で意識をし、それぞれのコミュ

ニケーション能力の見直しと能力開発の再検討を行っていくことで、従業員満足度の

向上や職場のコミュニケーションの円滑化が見込めるのではないだろうか。

(研究開発室 みやき ゆきこ)