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フィンテックと 銀行の将来像: デジタル革命は金融業界 に破壊をもたらすか、それ とも再構築を促すか

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フィンテックと銀行の将来像: デジタル革命は金融業界に破壊をもたらすか、それとも再構築を促すか

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フィンテック・ベンチャーへのグローバルな投資は、2014年に前年のおよそ3倍の122億1,000万ドルに達しました。

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2014年122億1,000万ドル

2013年40億5,000万ドル

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フィナンシャルテクノロジー(以下フィンテック)企業への投資は、世界全体で2014年に201%増の伸びを示しました。ベンチャーキャピタル全体の投資の伸び率は63%に留まっていることから、フィンテック分野が今いかに広く注目されているかがうかがい知れます。業界内ではデジタル・スタートアップ企業への期待の高まりが衰えを見せず、起業初期への投資だけでも成長率は48%に達しています1。

金融サービスの分野において、今まさにデジタル革命が起こっているのは明らかです。しかし、金融各社への影響の大きさはまだ明らかではありません。デジタルによる創造的破壊は、銀行の役割や存在意義そのものを低下させるかもしれません。その一方で、銀行が今よりも速く、安く、より良いサービスを提供できれば、企業や消費者の毎日の業務や暮らしにおいて更に不可欠な存在となることもできます。デジタル革命の影響をプラスに転換するためには、金融機関は従来の自己完結的な組織体質からは脱却しなければならないと理解し始めています。ただ業界の規制に対応しながら、金

エグゼクティブサマリー

利の上昇を待つだけでは事業が衰退してしまうことも承知しているのです。

アクセンチュアがお届けする本レポートは、金融機関においてイノベーションに携わる25人の経営幹部の見解をまとめたものであり、大手金融機関が旧来のビジネスモデルを破壊し、新たな成長を実現する上で不可欠な対策についても言及しています。新たなビジネスモデルの台頭によって自らの役割が衰退していくのを、手をこまねいて見てはいられません。

新しいサービスと生産性によってもたらされる成長によって、既存の金融機関が利益を獲得するためには何が必要なのでしょうか?この問いについて考えると、開放性、コラボレーション、投資という3つのテーマが浮かび上がってきます。金融機関はまた、デジタルな創造的破壊を勝ち抜く為に、2つのステップを踏むことが重要であると捉えています。その1つはレガシー・テクノロジーの問題に適切に対処すること、そして2つめは、デジタル技術を備えた新たな人材を数多く受け入れることです。

上記のテーマを重視つつも、適切な基盤を構築するために、銀行は急速な変化に対応しつつ、リスクを管理しなければなりません。銀行がイノベーションへ適応する際、こうした課題への対応が不可欠になります。一方で、この事実は新規参入企業にとっては有利に働きます。というのは、新規参入企業は新たなビジネスモデルでサービスの提供や顧客の獲得に成功するまで、規制当局の目を引くことはないからです。銀行もこれに対応する具体的な取り組み始めています。既存の枠組みを変化に適応させ、他の事業者とコラボレーションしながら、経営資源をより良く、速くしていく取り組みです。その1つに、銀行の競争優位性である「顧客に関する知見/洞察」のより迅速かつ効果的な活用があります。

主力事業の存続だけでなく、既に実証されたイノベーションが将来の価値に繋がる要因を見極められるようになったとき、銀行はデジタル革命における勝利を確信できるでしょう。

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はじめに

フィンテック・ベンチャーへのグローバルな投資は2014年において、前年比の3倍にあたる122億1,000万ドルに達し、デジタル革命が金融サービス分野にも到来したことを浮き彫りにしました。しかし既存の金融機関にとって、これがより大きな課題になるか、或いは機会になるのかはまだ明らかではありません。それでも大手金融機関は、台頭するイノベーションに適応するために大胆な一歩を踏み出し始めています。

フィンテックの分野では、新旧のプレーヤーによる戦いがよく注目されます。よく見ると新たな投資は新旧両方に向けられており、むしろ既存の金融機関への投資額の方がやや上回っているほどです。

2014年の大型投資案件の2つの成功例が、金融市場におけるこの多様性を物語っています。1971年創設の決済サービス会社ファースト・データは、投資会社KKRの主導によりプライベートエクイティで35億ドルの増資に成功しました2。一方では、2006年創設のソーシャルレンディング会社であり、真の「ニューウェーブ・フィンテック」の象徴とも呼ぶべきレンディング・クラブ(Lending Club)が、ニューヨーク証券取引所で8億6,500万ドルの増資を達成し、企業価値を85億ドルに引き上げています。これは、2014年のテクノロジー系IPOとしては米国内で最大規模です。

レンディング・クラブの成功例は、金融テクノロジーの新たな波が勢いを増しつつあり、未来の金融業界に甚大なる影響をもたらすことを示しています。事実、2014年に行われたフィンテック・ベンチャーキャピタルへの投資のうち5分の2は、創設間もない企業へのファーストラウンド投資でした。

これは、投資額で見る限り業界全体への投資の11%(13億8,000万ドル)を占めるにすぎませんが、成長率は前年比48%に達しています(図1を参照)。

問題は、大手金融機関が新たなイノベーション投資の潮流に追随するための十分な取り組みを行っていない点です。フィンテック・イノベーション・ラボ(p.7を参照)に参加する業界の経営幹部を対象にアクセンチュアが行った調査でも、デジタルイノベーションに対する自行の戦略が断片的あるいは日和見的だと感じている回答者が全体の72%に上りました(図2を参照)。

特に大きな問題点として、レガシー・テクノロジーを使っていること、そして新技術の迅速な導入が困難なことが挙げられます。全回答者がレガシー・テクノロジーを自行の問題点として認識する一方で、その問題を是正する戦略的なアプローチを取り入れていると回答した人は半数にとどまっています(図3を参照)。

一層懸念されるのが、新技術を導入するスピードの遅さです。圧倒的多数が、将来的には新技術の導入サイクルがずっと速くなるだろうと回答しています。しかしながら、回答者の40%は現在の導入スピードが自行の価値にマイナス影響を与えている、あるいは自行に何の利益ももたらしていないと考えています。

スキルと企業文化も課題の1つです。回答者の5人に4人は、企業文化とスキルという観点から自行がデジタル時代に「ある程度」または「最小限」の準備しかできていないと捉えています。調達プロセスと技術的課題についても、準備が整っていると回答した人はわずか半数にとどまりました。

出典:アクセンチュアおよびCB Insights

図1:フィンテック分野へのグローバルな投資活動

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図2:デジタル/イノベーション戦略

回答者数=25

断片的な戦略

機会があるごとに1回限りの投資

包括的な戦略

68%

28%

4%

2010

$14,000$12,000$10,000$8,000$6,000$4,000$2,000

$

グローバル―ファーストラウンド

グローバル―ファーストラウンド以外

グローバルな案件数

投資(

100万ドル)

20122011 2013 2014

800750700650600550500450400350300

案件数

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地域別の投資データ

出典:アクセンチュアおよびCB Insights

出典:アクセンチュアおよびCB Insights

n ほとんどなされていないn �ある程度はなされている

回答者数=25

図3:デジタル革命の次の波がもたらし得る課題への対応準備

100%

80%

60%

40%

20%

0%���������技術的課題����������調達���������文化的課題�����財政的課題��������人材/�������������������������������������������������������������������������������������スキル面の課題�

52%

48%

4%

48%

36%

12%

80%

56%

24%

80%

60%

20%

36%

28%

8%

2014年のフィンテック分野への投資のグローバル全体の総額、122億1,000万ドルのうち、大部分を占めるのは米国ですが、最も高い成長率を達成したのは欧州で、前年比215%となっています。英国およびアイルランドは前年比136%の6億2,300万ドルと成長率では劣るものの、欧州全体の投資額に占める割合は42%に達しました。

シリコンバレーに対する投資は2013年にやや鈍化しましたが、2014年には前年比117%の伸びを見せ、スタートアップのホットスポットである同地への投資総額は20億ドルを記録。欧州全体への投資額(14億8,000万ドル)を上回りました。

欧州におけるフィンテック分野への投資は、英国およびアイルランドが多くを占めるものの、他の地域も伸びを見せています。2014年には、英国およびアイルランドに比べて2倍の速さで他地域が成長。特に北欧諸国(3億4,500万ドル)、オランダ(3億600万億ドル)、ドイツ(8,200万ドル)における投資が上向いています。

2,500%

2,000%

1,500%

1,000%

500%

0%2009 2010 2011 2012 2013 2014

—— �英国およびアイルランド —— 欧州(英国およびアイルランドを除く) —— グローバル —— シリコンバレー

図6:フィンテック分野への5年間の成長(百万ドル)

出典:アクセンチュアおよびCB Insights

n �米国  n �欧州  n アジア太平洋  n その他  ——�グローバルな案件数

14,000

12,000

10,000

8,000

6,000

4,000

2,000

0

800

700

600

500

400

300

200

100

0

投資額(百万ドル)

案件数

図4:フィンテック分野へのグローバルな投資活動

2008 2012201120102009 2013 2014

図5:2014年の欧州フィンテック分野への投資活動―上位5地域 風船=案件数

800

700

600

500

400

300

200

100

0合計投資額(百万ドル)、

2014年

0 10 20 30 40 50 60案件数、2014年

● �英国およびアイルランド ��� ● �北欧諸国 ��� ● ドイツ ��� ● �ロシア ��� ● �オランダ

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将来の見通し大手金融機関がこうした問題に直面しているにもかかわらず、調査回答者の5分の3は、大手は競争を生き延び、デジタルな未来においても繁栄し続けると見ています。その理由として、「既存の銀行も新規参入者も市場で成長/成功する方法を見いだせるはずだから」あるいは「既存の銀行は新規参入者を買収するだろうから」といったものが挙げられました(図7を参照)。

しかし、残る5分の2の回答者(少数派)はより厳しい未来が待ち受けていると見ています。回答者の5分の1は市場が細分化されると回答し、残る5分の1は既存銀行が市場シェア/収益/規模を失うと答えています。さらに重要なことに、利ざやが縮小する、非金融機関が銀行サービスも提供するようになる、との指摘が散見されています(図7を参照)。

少数派の意見は、フィンテック時代を迎えた金融サービスの将来像として、大きく分けて2つのシナリオが考えられることを示唆しています。デジタル革命が大手金融機関に及ぼす影響の大きさは定かではありませんが、以下の2つのシナリオから今

後の動きが見えてきます。ただし、いずれかのシナリオがすべての銀行に当てはまるというわけではありません。銀行の運命を握るのは、依然として銀行なのです。

シナリオ1:デジタル革命による破壊既存の銀行は規制やコスト削減要請といったプレッシャーを受け、デジタル時代に順応した効果的な金融商品/サービスを提供する新たなビジネスモデルに取って代わられます。既存の銀行はあくまで商品ベースのセールスを継続して、顧客体験の改善を怠り、結果的にレガシー・アプリケーションの見直しも進みません。このシナリオでは、銀行はひたすら自行のシェア縮小を最小限にとどめることに注力しなければならず、顧客からは一種の日用品メーカーと同等と見なされるようになります。それでも既存のビジネスモデルは盤石であり、迅速に追従する戦略が最も効果的だと信じて疑いません。

シナリオ2:デジタル革命による再構築このシナリオでは、イノベーションがビジネスモデル・レベルまで浸透します。顧客の資産管理ではなく、顧客の暮らしをよ

り容易にすることに焦点が置かれるようになり、顧客に関する知見の拡大とともに収益源は徐々に変化します。さらに銀行は、周辺領域でのコラボレーションを通じて顧客に驚きと喜びを提供する方法を学びます。このシナリオに乗った銀行は、インフラや顧客データがもたらす短期的な強みを生かしつつ、それらをサービスに転換しないことには、デジタルコンシューマーの不満を解消して市場に長く生き残ることはできないと考えてています。

アクセンチュアが2010年にニューヨークでフィンテック・イノベーション・ラボを設立した当初、「シナリオ1」が自行に起こり得ると考える銀行は、調査参加行の中に一社もありませんでした。圧倒的多数の銀行が、持続的な銀行サービスやサブサービスの提供は複雑かつリスクが高すぎる上、新規参入者に有利な規制が働いて既存の銀行に脅威がもたらされると考えていました。今でも、デジタル革命の結果がいかに明白か、実感している銀行は一握りです。

図7:金融業界の未来予想

n �既存銀行が市場シェアを失う銀行の分離が進む金融サービスの利幅縮小が起こる非金融機関が主な銀行サービスも提供する既存の金融機関による新規参入者の買収が起こる付加価値を提供するためにあらゆる金融機関が市場ポジションを見直す

56%

8%

20%

8%4%

4%

回答者数=25

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フィンテック・イノベーション・ラボフィンテック・イノベーション・ラボは、金融サービス分野で先端テクノロジーを開発している起業家やスタートアップのために毎年開催されるメンターシップ・プログラムです。

フィンテック・イノベーション・ラボへは世界有数の金融サービス企業からCIO(最高情報責任者)やITに関する意思決定者が参加し、熱意ある少数の起業家への助言を行いながら、3カ月間にわたって各々のプロポジションの見直しやテストを実施します。

フィンテック・イノベーション・ラボは2010年、アクセンチュアとニューヨーク市パートナーシップ基金によりニューヨークにおいて設立されました。2012年にはロンドンで、2014年には香港とアイルランドでプログラムを開催しています。

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ロンドンラボでは、世界各国および英国の大手銀行から15人の経営幹部が参加しました。参加行はバンク・オブ・アメリカ、バークレイズ、シティ、クレディ・スイス、ドイツ銀行、ゴールドマン・サックス、HSBC、インテサ・サンパオロ、JPモルガン、ロイズ・バンキング・グループ、モルガン・スタンレー、ネーションワイド、RBS、サンタンデール、UBSです。

プログラム修了者は現在、さまざまな成功を成し遂げています。平均して見ると、ロンドンラボ修了後のスタートアップ企業では従業員数が55%増、収益が170%増をそれぞれ達成しました。フィンテック・イノベーション・ラボは、修了者の大規模増資にも寄与しており、現在までにロンドンラボ修了者(14社)が合計3,500万ドル以上の増資に成功しています。

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インタビューおよび分析の結果から、銀行がデジタルな再構築を実現するためにフィンテック分野に対して取るべき3つの行動が明らかになりました。

開放性の追求近年のテクノロジー開発におけるオープンソース・アプローチの人気ぶりを見れば明らかな通り、開放的なイノベーションは、デジタル革命のまさに心臓部にあたります。大企業が開放性を追求する場合、イノベーション・プロセスの初期段階で社外のテクノロジー・ソリューションや知識資本、各種リソースを活用することが重要です。そのためには、大企業は自社の知的財産や資産、専門知識を社外のイノベーターに開放し、新規アイデアの創造や企業文化の一新、必要スキルの特定と獲得、新たな成長領域の発見などを支援することも必要となります。

開放性は、フィンテック企業の多くが追求しています。たとえばドイツのフィドール銀行(Fidor Bank)は、既存のバンキングプラットフォームと接続可能なオープンAPIを備えたミドルウェア「FidorOS」を開発3。友人への融資やツイッター経由の送金、24時間緊急ローン契約といったさまざまな近代的サービスを提供しています。

フィドール銀行のオープンAPIはまた、銀行システムの全領域へのアクセス、関連サービスの分離、および同行プラットフォームを基盤とした新規サービスの開発をサードパーティに許可することで、数々のイノベーションを後押ししています。フィドール銀は

このほかにも国際送金サービスのカレンシー・クラウド(Currency Cloud)と提携し、7種類の通貨で表示可能な当座預金口座および国際送金サービスの提供を行っています4。

似たような事例として、スペインのビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)が2014年に買収したオンライン銀行「シンプル(Simple)」の元幹部2人が、米国でシード(SEED)という新たなビジネスバンクを立ち上げました。シードでは、カスタマイズ可能なインターフェースを用いて、小規模企業による独自のツールやサービスの開発をサポートします5。企業がシードの会員となり、シードのバンキングAPIを使ってそれぞれにバンキングツールを開発する仕組みです。

大手銀行も例外ではなく、私たちの調査でも、回答者の間でオープン・イノベーションの評価は大きく高まりつつあります。調査に参加した銀行の40%はすでに何らかのオープン・イノベーションに着手しており、56%も今後2年以内に始める計画だと回答しました。

資本市場での最大の例が、ゴールドマン・サックスによるオンライン・コラボレーション・ツール「ギットハブ(GitHub)」でのソースコードの公開です6。これにより社外プログラマがゴールドマンのソースコードを試用/最適化できるようになるので、ゴールドマンの元プログラマの間での競争を促しながら、結果的にソースコードの向上も期待できます。

リテールバンク分野では、フランスのクレディ・アグリコルが2012年にオープンAPIを公開し、開発者による同行サービス向けのアプリ開発を実現しました。現在では経費管理やソーシャルメディア決済、財務分析ツールなどのアプリを顧客に提供しています7。これに追従するようにBBVAも「イノーバ・チャレンジ(Innova Challenge)」を発表8。同行の匿名化された顧客データを基に新たなプラットフォームやアプリをソフトウェア開発者が構築するコンペティションが行われました。

オープン・イノベーション・アプローチが金融サービス業界にもたらす最大の機会はおそらく、仮想通貨ビットコインの基盤技術であるブロックチェーン*に見られるでしょう。暗号通貨はまだ初期段階にあり、業界への長期的な影響はまだ不透明です。しかし大手金融機関がこの革命的なアプローチによって利益を得ようとするなら、社外の技術者や開発者と幅広く提携しなくてはなりません。

*ブロックチェーン:仮想通貨ビットコインの全取引が記録された取引履歴。

銀行がデジタル時代の勝利者となるための3つの行動

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コラボレーションコラボレーション(またはコイノベーション)は、金融サービス業界およびテクノロジー業界でますます重要性を増しつつあります。私たちの調査でもこのことは確認されており、回答者の5分の3は未来のシナリオとして「デジタル革命による再構築」を支持しました。このシナリオでは、金融サービス市場は異業種間での補完的な連携によって成長を遂げるはずです。

従来、大手金融機関は業界内の他社との提携を好んできました。とりわけ、非中核的なプロセスやサービスを共有する機会が得られる場合や、提携各社がコスト削減や新たな市場機会を獲得できる場合に、その傾向が強まります。

こうしたパートナーシップの事例は資本市場やリテールバンキングでも多数見られますが、最もよく知られているのは決済分野における例でしょう。たとえばマスターカードは、銀行間でのカード決済をサポートする目的で複数の銀行が1966年に設立され、顧客サービスの改善とサービス利用額の拡大を実現しました。もう1つの例は1973年に設立された銀行間決済ネットワークのスイフト(SWIFT)で、銀行の協同組合、金融メッセージングサービスの標準化団体、および接続システムプロバイダーとして機能しています9。

コラボレーションは今後、一層の進化が必要とされる領域です。変化の時代において成長と価値を維持するには、大手銀行は異業種とのより密接なコラボレーションを模索し、今までとは異なる視点に立って、新たな価値創造方法を見極めなければなりません。

新興企業とのコラボレーションはすでに一般的なものとなっています。フィンテック・イノベーション・ラボもその一例であり、同ラボは複数の銀行が協働して、いずれ銀行にとって価値をもたらし得る新興企業に助言を提供するのが狙いです。このようなアプローチを取っているのは同ラボばかりではありません。2015年2月にはオーストラリアの複数銀行のサポートを受け、新興フィンテック企業を支援する非営利スタートアップセンターがシドニーに200万豪ドルを投じて設立されました10。

異業種間コラボレーションも、将来的な価値創造のためには不可欠です。デジタル技術は、2つの業界の資産を組み合わせて新たな製品/サービスを生み出すことによって進化を遂げます。たとえばコメルツ銀行傘下でポーランド国内では資本金で第4位の規模を誇るmBankは、2014年に通信オレンジ・ポルスカ(Orange Polska)と提携し、携帯電話やタブレット向けのジョイント・バンキング・サービスの提供を開始しました11。mBankでは現在、スマートフォンとPINコードを使って全オンライン・バンキング機能が利用できるアプリを通じ、モバイル・バンキング事業の拡大を推し進めています。

コラボレーションを追求する際の大手金融機関の大きな課題の1つが、企業文化です。企業文化によっては、イノベーターや新興企業とのコラボレーションに順応できない組織もあります。私たちの調査では回答者の過半数が、異業種との「包括的な」または「完全な」コラボレーションを行うべきだと回答し、80%は新興企業との協働によって自行に新たなアイデアがもたらされると見なしていることが分かりました。同時に、新興企業と効果的に協働するために最も見直しが必要な領域として、企業文化を指摘する回答者は56%に達しています。

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コラボレーションを追求する際の大手金融機関の大きな課題の1つが、企業文化です。企業文化によっては、イノベーターやスタートアップとのコラボレーションに順応できない組織もあります。

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投資ベンチャー投資はかねてスタートアップ・イノベーション・モデルの心臓部とされてきました。しかし現在、大手金融機関はイノベーション追求のためにかつてないほど活発にベンチャー投資を推進しています。調査では、社内のベンチャー部門を活用しているとの回答と、今後2年以内に社内ベンチャー部門を設立する見通しとの回答が、それぞれ3分の1ずつありました。

アメリカン・エキスプレス、BBVA、HSBC、サンタンデール銀、ロシア貯蓄銀行はいずれも、過去4年間に社内投資部門を設立。各社とも投資額は1億米ドルを上回ります。また、保険会社のアクサは2015年2月に2億ユーロのファンドを設立し、自社の事業領域内で「新興企業のビジネス拡大を目的とした」投資を行っています。

しかし他のあらゆる投資案件と同様、価値は上昇することもあれば下落することもあります。さらにベンチャー投資の場合、実績のある企業への投資に比べて著しくリスクが高いのも事実です。しかも社内ベンチャー部門には、さらなる課題も待ち構えています。投資利益率(ROI)の方法が、従来通りに保有株式の資本利益率で測定する場合と、親会社にもたらされる価値で測る場合の2通りあるからです。

前者のROI測定方法は一般的なものですが、この方法で投資利益が出ているからと言って、親会社がイノベーションを起こせるとは限りません。親会社と投資先のベンチャー企業のコラボレーションが一切行われなくても、ペーパー上でのROIは達成されることがあるのです。一方、後者のROI測定方法に基づいて親会社にもたらされるイノベーションの価値を測る場合にも、問題がないわけではありません。保有株式をどのような方法でイノベーション文化/テクノロジー/プロセスに換算すればいいか、社内ベンチャー部門間でコンセンサスがないためです。また、戦略的投資によって銀行における新たなテクノロジーの導入が妨げられる危険性もあります。

革新的なスタートアップはイノベーション力が豊富な一方で資本が不足しており、大手金融機関は資本が豊かな一方でイノベーション力が足りないというのが事実です。このような状況下では、フィンテック企業への投資に対する関心が高まるのは当然と言えるでしょう。この傾向は当面、続くと考えられます。問題は、いかにしてイノベーション力を投資元に還元するかです。

再構築を目指して銀行は、デジタル時代がもたらす脅威を正しく認識しながら、積極的に機会を探索しています。ジョン・F・ケネディがかつて言ったように銀行は、「平和的革命を失敗させる者は、暴力的革命を不可避のものにする」ことを理解しているのです。

銀行の大部分が結論付けていることは、デジタル技術が社会に及ぼす影響の全貌はまだつかめておらず、まして金融サービス分野への影響となれば一層不透明であること、また、大企業がスタートアップの新しいアイデアやエネルギーを必要としているのと同様に、新興のフィンテック・イノベーターは大手銀行の支援を必要としていることです。

調査では回答者の5分の3が、新たなビジネスモデルへ移行するために「ある程度」または「著しく」収益を犠牲にする用意があると回答しました。さらに4分の1は、収益の犠牲を「最小限」に食い止めたいと答えています。

ビジネスモデルの再構築は刺激的ですが、重労働です。闘いの多くは、勝って機運をつかむか、負けたらすぐに撤退して失敗から学ぶか、2つに1つです。

本調査を実施する中で私たちは、大手銀行の間にこのような目的意識が共通していることを発見しました。銀行各社が掲げるこの目的を、フィンテック・イノベーション・ラボがこれからも支援していけるよう願ってやみません。

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INNOVATION

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調査手法について�本レポートは、ベンチャー企業の財務データ・分析を国際的に行う「CB Insights」が提供するフィンテック投資データをアクセンチュアが分析したものです。この分析には、ベンチャーキャピタルおよび未公開企業、企業およびベンチャーキャピタル法人、ヘッジファンド、アクセラレーター、政府系ファンド等による国際的な財務活動が含まれています。

本調査では、フィンテック企業による世界各国でのエグジット活動(M&AとIPOを含む)も分析対象としたほか、地域別のトラッキング基準も用いました。なお本調査ではフィンテック企業を、銀行業務や企業財務、キャピタルマーケット、財務データ分析、決済、個人向け財務管理等に関する技術を提供する企業と定義しています。

投資先企業のリストは随時データベースに追加されるため、常に変動します。一企業に対する資金調達情報は初期調達を含めて、公知情報となった時点でデータベースに反映されます。

アクセンチュアではフィンテック投資のデータに加え、「ロンドン/ダブリン

フィンテック・イノベーション・ラボ」に参画する、銀行経営陣として技術革新を推進する25人に対しても調査を実施しました。調査に参加した銀行の時価総額は世界上位10行の4割と、世界上位5行の2行を含みます。但し、本調査で得ることができた回答数は統計的に有意なサンプルサイズに達していないため、あくまでも参照用となります。

謝辞本レポートおよび調査は、ファイナンシャルサービスをはじめとする各種業界の多くの方々の惜しみない協力がなければ実現しませんでした。

1 CB Insights

2 First Data Holdingsのプレスリリース‘First Data Announces $3.5 Billion Private Placement Led By KKR’ , 19 June 2014

3 Fidortecs.com ‘fidorOS - the fast and flexible middle ware’

4 www.currencycloud.com/case-study/fidor-bank

5 ‘API Banking With SEED’ http://docs.seed.co/v1.0/docs/getting-started

6 https://github.com/goldmansachs

7 https://www.creditagricolestore.fr/

8 http://www.centrodeinnovacionbbva.com/en/innovachallenge/home

9 http://www.swift.com/about_swift/index

10 ‘New Knowledge Hub to strengthen Sydney’s position as a global financial centre’, http://www.trade.nsw.gov.au/, 3 March 2015

11 The Banker magazine, 2014

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アクセンチュアについて

アクセンチュアは、経営コンサルティング、テクノロジー・サービス、アウトソーシング・サービスを提供するグローバル企業です。32万3,000人以上の社員を擁し、世界120カ国以上のお客様にサービスを提供しています。豊富な経験、あらゆる業界や業務に対応できる能力、世界で最も成功を収めている企業に関する広範囲に及ぶリサーチなどの強みを活かし、民間企業や官公庁のお客様がより高いビジネス・パフォーマンスを達成できるよう、その実現に向けてお客様とともに取り組んでいます。2014年8月31日を期末とする2014年会計年度の売上高は、300億USドルでした(2001年7月19日NYSE上場、略号:ACN)。

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アクセンチュア金融サービスについてアクセンチュア金融サービスは、バンキング、キャピタル・マーケット及び保険の3セクターにおける様々な金融機関に対し、世界各国で経営コンサルティング、テクノロジー・サービス、アウトソーシング・サービスを提供しています。

国内外の金融業界の変化をいち早く捉え、金融機関の中核戦略及びオペレーションに重要な役割を果たすことで、企業のみならず業界全体の成長に貢献したいと考えています。

クライアント企業のトップライン拡大、コスト削減、高まる規制やリスクへの対応、合併・買収に伴う統合作業、新しいテクノロジーや複数チャネルサービスの導入等、支援領域は多岐に亘ります。

アクセンチュア金融サービスは、約5万人の金融業界の専門家を擁し、世界各国でサービスを提供しています。

2014年会計年度の売上高は65億1千万USドルでした。

3つのセクターにおける主な金融機関は以下の通りです。

·バンキング:リテール銀行、商業銀行、総合金融機関、政府系金融機関、クレジット・信販会社、リース会社

·キャピタル・マーケット:証券会社、信託銀行、投資 /投資顧問会社、資産運用会社、証券保管機関、各種金融商品取引所、清算及び決済機関

·保険:損害保険会社、生命保険会社、年金保険会社、再保険会社、保険ブローカー

当社はグローバルのトップ顧客20社の全てと、14年間或いはそれ以上に亘る長期の関係を築いています。

そのうちの8割に対しは、15年以上継続してサービスを提供しています。

アクセンチュア株式会社金融サービスの詳細はwww.accenture.com/jp/fsをご覧ください。

ださ

お問い合わせ

本レポートに関するご質問がある方は、�����下記までお問い合わせください。

金融サービス本部マネジング・ディレクター宮良�浩二[email protected]

戦略コンサルティング本部エンタープライズ�アーキテクチャ�&�アプリケーション戦略マネジング・ディレクター村上 隆文[email protected]

フィンテック・イノベーション・ラボの詳細は以下をご覧ください。(英語のみ)www.fintechinnovationlab.com [email protected]

@fintechinnolab

著者ジュリアン・スカン(Julian Skan)マネジング・ディレクターアクセンチュア・ファイナンシャル・サービス

ジェームズ・ディッカーソン (James Dickerson)アクセンチュア・ファイナンシャル・サービス

サマド・マスード (Samad Masood)英国およびアイルランド担当オープン・イノベーション・リード