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リチウムイオン電池におけるセパレータの 未来とナノファイバー不織布の適合性 目次 1. 結論 2. 理由 2-1.序論(リチウムイオン2次電池について) 2-2.セパレータの現状と要求特性 3.セパレータの開発状況 4.ナノファイバー不織布 5.参考文献

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リチウムイオン電池におけるセパレータの

未来とナノファイバー不織布の適合性

目次

1. 結論

2. 理由

2-1.序論(リチウムイオン2次電池について)

2-2.セパレータの現状と要求特性

3.セパレータの開発状況

4.ナノファイバー不織布

5.参考文献

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1.結論

リチウムイオン2次電池用セパレータにおけるナノファイバーの将来性は、イオン伝導

率が高く且つ耐熱性の高いナノファイバーを用いた不織布(厚さ20μ程度)を開発でき

れば、高いものと考えられる。

2.理由

2-1.序論(リチウムイオン2次電池について)

二次電池は既に様々な用途で使用されているが、この中でもリチウムイオン電池は、コ

ンパクトで軽く、大きな出力が得られるという利点から、民生品を中心に近年急速に普及

しており、今後、電気自動車(EV)等用、再生可能エネルギーの出力安定化用途に加え、建

設機械やフォークリフト、電動工具、医療・福祉機器、ロボットなどへの適用拡大も期待

され(文献1、1ページ)、NEDOでは、二次電池分野でリチウム電池が2030年頃ま

で主流になると予測している(図1、文献2の70ページより引用)。

また、NEDOでは、二次電池に求められる性能やコストを二次電池の用途ごとに調査・

整理し 7 つのタイプに分類し、さらにその求められる性能から大きく「エネルギー密度指

向型」、「出力密度指向型」、「寿命指向型」と 3 つの方向性と、用途ごとに求められる性能

によって二次電池を 7 つのタイプに分類して、要求性能を予測している(文献1、2参照)。

文献1、2に記載の事項からまとめたものを図2および3に示す。

要求性能を満たすための開発の今後の方向性としては、エネルギー密度、出力密度及び

カレンダー寿命の向上、並びにコスト低減、安全性確保を重要課題として挙げている(文

献1、5~6ページ)。特に、自動車分野では、ハイブリッド自動車(HEV)やプラグインハ

イブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(EV)などの普及が強く望まれており、二次電池技術

はこれらを実現する上で非常に重要な役割を果たす。自動車用蓄電池の要求性能は、高エ

ネルギー密度、高出力密度、低コストに加えて、10年以上に及ぶ耐久性が必要とされて

いるため、非常に厳しいものとなっている(文献3、10ページ)。

これらの要求性能を満たすために、電池の構成要素である「電極」・「電解質」・「セパレ

ータ」は、上記課題を解決する方向性で今後の開発がおこなわれると予想される。

また、JST研究開発戦略センターでは、2030 年以降を見据えた長期的観点に立って、

現状の3~5程度のエネルギー密度を持つ電池を「次世代二次電池」と捉え(文献4、5

ページ)、それをさらに凌駕する可能性を持つような、将来 2030 年以降の実用化が期待さ

れる電池を「次々世代二次電池・蓄電デバイス技術」と定義し、それらの実現のために、セ

パレータにおいて、高イオン伝導率材料開発、多孔度・孔径分布制御技術開発、高強度・

耐熱性向上(耐引張り・突刺し、伸縮性、低熱収縮率)、難燃性材料及びバインダー材料開

発を挙げている(文献4、13ページ)。

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図1 二次電池の未来予測

(文献1:「技術戦略マップ2010 新エネルギー・産業技術開発の現状と将来」、

NEDO(2010)、70ページより)

図2 二次電池の用途と要求性能

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図3 二次電池のタイプ別現状と、要求性能

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2-2.セパレータの現状と要求特性

従来電池であるニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池では主として不織布がセパ

レータとして用いられていた(文献5、1ページ)。

しかし、これらの電池で用いられる不織布セパレータの厚さは 150~200μm であった。

リチウム二次電池用のセパレータとしては、リチウム二次電池の有機電解液は水系に比

較して導電率が二桁ほど低いため、薄いセパレータ、概ね 20~40μm のものが要求されて

いる(文献6、393ページ)。

また、カーボネート系の有機電解質に対する化学的安定性が求められ、電池の組立工程

性、短絡防止の観点から、高強度かつ適切な伸度、弾性率を有する必要がある。さらに、

電池内の異常発熱防止と安全性確保のために、一定の温度域(140~160℃)でセパレータ

孔が閉じて電流を遮断する機能(シャットダウン機能)が求められ、電流遮断性は高温ま

で保持されることが好ましい(文献6、393ページ)。

以上の特性を満たすものとして、特に電気遮断性を考慮して融点の低いポリオレフィン

膜が主流となっており(文献6、393ページ)、ポリオレフィンを原料とした多孔質フィ

ルムである旭化成ケミカルズの「ハイポア」が、リチウムイオン 2 次電池用セパレータと

して世界シェアベースで約 5 割を占めている。用途は携帯電話などの小型電化製品用が主

であるが、電気自動車用途にも展開している。(旭化成 HP より:

http://www.asahi-kasei-jobs.com/14/static/business/business02.html)

しかしながら、ポリオレフィンからなる微孔膜のセパレータは改善しなければいけない

技術的課題がある。

例えば、低融点による低い熱安全性の改善などが挙げられる。180℃を超えるような

高温にまで温度が上昇した場合には、ポリオレフィン微孔膜が溶融してしまう(メルトダ

ウン)恐れがあり、十分な短絡防止機能を発揮できない(特開 2006-019191 号公報等)と

いうものである。

その他の課題としては、極性非水系電解液との低い濡れ性による低保液性、低い空隙率

による高率充放電特性の制限などが挙げられる(文献7、43ページ)。

今後予想されるリチウムイオン2次電池の高エネルギー密度化、高出力密度化には、セ

パレータの上記課題の解決が必要になると考えられる。

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3.セパレータの開発状況

リチウム電池用セパレータは、上述の課題を解消するような開発が行われていると推察

される。

そこで特許調査により確認を行った。特許調査は、1983 年以降の特許及び実用新案公報

を日本パテントデータサービス社のJP-NETを用いて特許公報を検索し、該当特許公

報の情報解析は、該当公報データを特許情報解析用ソフトウェア「イノベーションナビ」(コ

スモテック情報システム株式会社)を用いて行った。検索式および検索結果を以下に示す。

検索式1: ★以下、該当特許公報を「リチウム電池・セパレータ」関連出願と呼ぶ。

{(リチウム×イオン×電池×セパレータ)-(炭素+カーボン)}[タイトル~クレームの語句]

該当:1924 件(未公開のものを含まないため2011年は約半年分、2012年は早期公

開利用分のみとなっている)

特許出願数の推移を図4に示す。

図4「リチウム電池・セパレータ関連出願」出願数の推移

特許出願数は年々増加しており、リチウムイオン2次電池用セパレータの開発は増加して

いると考えられる。

次に、開発の方向性を把握するため、特許出願の「課題」について解析した。なお、「課

題」の解析は、要約書中の課題のキーワードを解析することにより行った。図5に示す。

図5「リチウム電池・セパレータ」関連出願の「課題」

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図5に示すように、リチウムイオン電池用のセパレータは、開発当初から安全性、サイ

クル特性が主たる課題として認識されているが、予想通り 1990 年代においてこれらが多く

見られた。

しかし、図5から明らかなように未だに安全性や高サイクル特性が解決すべき課題とし

て主流である。このことから、これらの点に関する要求特性はますます向上しており、今

後もこれらの改題解消に向けての開発が行われると考えられる。

一方これらの課題解消に際して如何なる手段を用いているかを分析した。「手段」の分析

は、F ターム 5H021(電池のセパレータ)およびテーマコード情報を基に行った。その結果を

図6に示す。

図6「リチウム電池・セパレータ」関連出願の「手段」

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「手段」の推移を図7に示す。

図7「リチウム電池・セパレータ」関連出願の手段の推移

また、「課題」と「手段」の関係の解析結果を図8に示す。

図8.「リチウム電池・セパレータ」関連出願の「課題」と「手段」

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手段としては「合成樹脂」「ポリオレフィン」が多くみられるが、件数は少ないものの、

繊維や不織布によるセパレータも上述の課題を解消し且つ十分な電池特性を発揮できるも

のとして提案されている。

課題における現状と解決手段の現状とを合わせて考えると、今後も上記課題の解決のた

めの開発は継続されると考えられ、しかもその手段の一つとして不織布の開発も継続され

ると考えられる。

不織布を用いた特許出願の例としては、ポリオレフィン膜に不織布を積層し耐熱性を付

与するするタイプや、従来のフィルムタイプではなく不織布で構成されるセパレータが見

られる。具体的な例としては、ポリエステル系繊維で構成した不織布から構成されるもの

(特開 2009-230975 号公報)、ポリエステル系繊維に耐熱性繊維であるアラミド繊維を配合

した不織布から構成されるもの(特開 2006-019191 号公報)などが見られる。

不織布をセパレータに用いた場合のメリットとしては、不織布は微孔膜タイプのセパレ

ータと比較して高い孔隙率及び通気性を有するため、従来の微孔膜タイプのものより高い

従放電特性が得られやすいこと(文献5、43ページ)やイオン伝導度が高く低抵抗性に

なること(特開 2012-009165 号公報)などが挙げられる。

しかしながら、課題として、微孔膜タイプのセパレータと比較して不織布は大きい孔径

を有するため、充放電を繰り返すとリチウムデンドライト成長により内部短絡を起こし危

険性があり実用的ではないこと(特開 2011-082148 号公報)、機械強度が弱く充放電の繰り

返しで生成するデンドライトが容易に不織布を貫通し、正負極間が短絡すること(国際公

開 2005/067079 号公報)などが挙げられ、実用化にはこれらの課題の解決が必要になると

考えられる。

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4.ナノファイバー不織布

上述のように、伝導率が高く、耐熱性に優れ、機械的強度が高く、厚さの薄いものを開

発できれば、セパレータとして有用である。この点、不織布であっても、繊維径の小さい

ナノファイバーで構成された不織布であれば、非常に有用なセパレータとなりうると言え

る。

そこで、ナノファイバーで構成された不織布セパレータが提案されているか、確認する

と、該当したものは8件であった。なお、調査は以下のように行った。

検索式: 検索式1の結果×(繊維+ファイバ)×(ナノ+nm)

該当:8 件(0.41%)

また、従来提案されている不織布セパレータに関する特許出願における繊維径を見ると

いわゆるナノファイバーで構成されたナノファイバー不織布と言えるものとしては黄色い

マーキングのしてある6件のみであった。

図9.不織布を用いた「リチウム電池・セパレータ」関連出願の「繊維径」

繊維径がナノレベルの不織布を用いたセパレータの例としては、繊維としてセルロース

や耐熱性樹脂製繊維を用いた耐熱性が高いものが見られる。

具体的には、微細セルロース繊維の数平均繊維径が2nm以上150nm以下の範囲で

あることを特徴とするセルロース不織布(特開 2008-274525 号公報)が提案されており、

通常の不織布は孔径としては微多孔膜よりもはるかに大きく(平均孔径は通常、約10μ

m相当)なることが多いが、200nm以下の数平均繊維径を有するセルロース繊維を用

いることで極めて微細なネットワークを構成し空隙率が高く、且つ、主成分がセルロース

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であるため耐熱性(分解温度はおよそ240℃)および耐薬品性に優れている特徴を有す

る。

また、特開 2012-209181 号公報では、2層以上からなるセパレータであって、一方の層

が、平均繊維径が0.5~10μmの芳香族ポリアミド連続繊維を含み、かつ目付が3~

50g/m2の不織布からなり、他方の層が、平均繊維径が1~400nmの芳香族ポリア

ミド極細繊維を含むセパレータが提案されている。このセパレータは、耐熱性、耐薬品性、

絶縁性に加え、空隙率が高いため抵抗が低く電解質の保液性に優れ、電池作成時に、電極

を挟み込んだ時の圧縮を受けても短絡しにくい特徴がある。

また、ナノファイバー製セパレータの実用化の例としては、例えば、帝人テクノプロダ

クツのアラミドナノファイバー製セパレータなどが挙げられる。このセパレータは、アラ

ミド製のため耐熱性および耐酸化性に優れるため安全性が高く、また、空隙率が高く比表

面積が大きいことでイオン透過性が高くリチウム電池の高出力化への寄与が期待されてい

る。(http://www.teijin.co.jp/news/2012/jbd120426_1.html)

以下に、従来のセパレータ及びナノファイバー製不織布の具体的な性能を図10に示す。

図 1 0 「 従 来 の セ パ レ ー タ 及 び ナ ノ フ ァ イ バ ー 製 不 織 布 の 性 能 」

※特開 2008-274525 号公報のセパレータの耐熱性に関しては、セルロースの分解温度を記

載したが、耐熱性としてはこの温度よりも低いと考えられる。

図10に示すように、現状のナノファイバー製の不織布は、耐熱性、厚さ及び空隙率が

従来のポリオレフィン製多孔質膜と比較して高いものが作製されている。

耐熱性に関しては、内部短絡が生じた場合に局部的な発熱によって短絡部分では60

0℃以上の温度となることがあると考えられており(特開 2010-027553)、耐熱性はさらに

高いものが要求されると考えられる。

厚さに関しては、ナノファイバー製のものは、従来のポリオレフィン製多孔質膜と比較

すると、膜厚が 1/5 程度(3-5μm)になっており、薄膜化が進んでいる。

伝導率については、空隙率が高いほど高いイオン伝導性が得られること (特願

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2011-143348)から「空隙率」で評価した。ナノファイバー不織布製のものは、従来のポリ

オレフィン製多孔質膜製のセパレータに比べ高い「空隙率」の範囲についての記載はある

ものの、未だポリオレフィン製多孔質膜製のセパレータに比して高いとは言えないと考え

られ、この点は課題であろう。

また、機械的強度については、現状のナノファイバー不織布製のもので十分(特開

2008-274525)であると考えられているが、リチウムデンドライトによる破損防止のため、

より高い方がよいと考えられる。

以上のことから、耐熱性が200℃を超え、好ましくは250℃を超え、空隙率で従来

品より高い60%を達成でき、厚さが20μ以下の不織布を開発できれば、優位性の高い

ナノファイバー製のセパレータを提案できるものと考えられる。

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5.参考文献

文献1.「二次電池技術開発ロードマップ(BatteryRM2010)」、NEDO (2010)

(http://www.nedo.go.jp/library/battery_rm2010_index.html)

文献2.「技術戦略マップ2010 新エネルギー・産業技術開発の現状と将来」、

NEDO(2010) (http://www.nedo.go.jp/content/100068626.pdf)

文献3.「次世代自動車用蓄電池技術開発ロードマップ 2008」、NEDO (2008)

(http://www.nedo.go.jp/library/battery_rm2010_index.html)

文献4.「戦略イニシアティブ「次々世代二次電池・蓄電デバイス基盤技術」〜低炭素社会・

分散型エネルギー社会実現のキーデバイス〜」、JST研究開発戦略センター(2011)

文献5.「電池セパレータ材の開発状況」田中政尚ら(2004)、nonwovens review、2004 年

8 月発行 Vol.15 No.2 P1~6

(http://nonwovens-review.com/vilenedat/vilene15-2P1-6.pdf)

文献6.「標準技術集作成、有機高分子多孔質体」、特許庁

(http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu.htmf)

文献7.「ポリビニルアルコール(PVA)ナノ繊維不織布セパレータを用いたリチウムイオン

電池の特性」田中政尚ら(2012)、日本繊維学会誌, Vol68, No1, 43-47

(参考特許文献)

国際公開 2005/067079 号公報

特開 2006-019191 号公報

特開 2008-274525 号公報

特開 2009-230975 号公報

特開 2011-082148 号公報

特開 2012-009165 号公報

特開 2012-209181 号公報

以上