塑性変形オーステナイト鋼中の転位密度の定量化 - JIMevaluated quantitatively by...

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名古屋大学大学院生(Graduate Student, Nagoya University) 日本金属学会誌 第 78 巻第 6 号(2014)218 224 塑性変形オーステナイト鋼中の転位密度の定量化 梅崎正太 1, 村田純教 1 野村恭兵 2 久布白圭司 2 1 名古屋大学大学院工学研究科 2 株式会社 IHI 技術開発本部基盤技術研究所 J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 78, No. 6 (2014), pp. 218 224 2014 The Japan Institute of Metals and Materials Quantitative Analysis of Dislocation Density in an Austenitic Steel after Plastic Deformation Shota Umezaki 1, , Yoshinori Murata 1 , Kyohei Nomura 2 and Keiji Kubushiro 2 1 Graduate School of Engineering, Nagoya University, Nagoya 464 8603 2 Research Laboratory, Corporate Research & Development, IHI Corporation, Yokohama 235 8501 Grain size dependence of dislocation density and its character in austenitic stainless steels subjected to plastic strain was evaluated quantitatively by means of X ray diffraction and Electron Back Scattering Diffraction (EBSD). Various amounts of the plastic strain up to 15 were given by a tensile instrument at 650° C and three kinds of grain size (17, 46 and 87 mm) were employed. Misorientation in crystal direction in each grain was determined by two parameters, GOS (Grain Orientation Spread) and KAM (Kernel Average Misorientation). GN (Geometrically Necessary) dislocation density was estimated from KAM parameter. GOS parameter increased with a linear relationship to the amount of plastic strain regardless of the grain size, whereas KAM parameter increased with increasing plastic strain but showed the grain size dependence. Change in total dislocation densi- ty with plastic strain showed a similar trend in KAM parameter. It is found that the difference in the total dislocation density at a plastic strain was consistent exactly with the difference in GN dislocation density depending on the grain size. These results were confirmed by TEM observations using several kinds of specimens used in X ray experiments. [doi:10.2320/jinstmet.J2014001] (Received January 14, 2014; Accepted March 27, 2014; Published June 1, 2014) Keywords: electron back scattering diffraction (EBSD), grain size, dislocation density, geometrically necessary dislocation density 1. 材料中の塑性ひずみ量の定量化方法を確立することで,構 造物の詳細な損傷評価や溶接熱影響部の最適熱処理方法の決 定等,様々な応用が期待できる.近年,材料の塑性変形量と 結晶粒内の方位差に相関があることが報告され 1) ,後方散乱 電子回折像法(EBSD)による塑性ひずみ量の定量化が目指さ れている 1 3) EBSD を用いた結晶粒内のひずみ量を定量化 する計算手法として,結晶粒内全体の平均方位差を定量化し Grain Orientation Spread (GOS)や,結晶粒内の局所的な 方位差を定量化した Kernel Average Misorientation (KAM) などが提案されている 1) .野村らは,これらの値が機械試験 で付与された既知のひずみ量と相関を持つことや,GOS 結晶粒径に依存しないが,KAM は結晶粒径に依存するとい うことを報告している 4) 一方,EBSD による塑性ひずみの測定方法を標準化する ためには,上述の GOS 値や KAM 値に対する結晶粒径など の測定条件の影響を詳細に把握することが必要不可欠であ る.また,方位差は粒内に蓄積した GN 転位(Geometrically Necessary Dislocations)の量を反映しているが 5) ,刃状転位 とらせん転位ではその形成機構が異なるとされている 6) .こ のように総転位密度や転位性状と粒内方位差の関連等は未だ に実験的に確かめられていない. ところで,modified Warren Averbach 法を用いた X 線回 折(XRD)のピークプロファイル解析では,金属材料の総転 位密度と転位性状(刃状転位とらせん転位の割合)を求めるこ とができる 7 9) .転位性状は EBSD からは得ることができな いパラメータであり,EBSD XRD の結果を組み合わせる ことで結晶粒径,粒内方位差および総転位密度の関連につい ての新たな知見を得られることが期待できる. そこで本研究では,結晶粒径の異なるオーステナイト鋼に ついて,引張試験によって既知のひずみを与えた試片の EBSD 測定を行い,得られた GOS および KAM の方位差 データと X 線プロファイル解析で得られた総転位密度およ び転位性状のデータを比較検討することで,EBSD 測定に おける結晶粒径の影響を調査し,塑性ひずみ量の定量化方法 標準化のための新たな知見を得ることを目的とした. 2. 本研究で用いたオーステナイト鋼は火 SUS304J1HTB(以 下,火 SUS304 と称す)であり,その化学成分を Table 1 示す.本実験では平均結晶粒径が 17, 46 および 87 mm とし

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名古屋大学大学院生(Graduate Student, Nagoya University)

日本金属学会誌 第 78 巻 第 6 号(2014)218224

塑性変形オーステナイト鋼中の転位密度の定量化

梅 崎 正 太1, 村 田 純 教1 野 村 恭 兵2 久布白圭司2

1名古屋大学大学院工学研究科

2株式会社 IHI 技術開発本部基盤技術研究所

J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 78, No. 6 (2014), pp. 218224 2014 The Japan Institute of Metals and Materials

Quantitative Analysis of Dislocation Density in an Austenitic Steel after Plastic Deformation

Shota Umezaki1,, Yoshinori Murata1, Kyohei Nomura2 and Keiji Kubushiro2

1Graduate School of Engineering, Nagoya University, Nagoya 46486032Research Laboratory, Corporate Research & Development, IHI Corporation, Yokohama 2358501

Grain size dependence of dislocation density and its character in austenitic stainless steels subjected to plastic strain wasevaluated quantitatively by means of Xray diffraction and Electron Back Scattering Diffraction (EBSD). Various amounts ofthe plastic strain up to 15 were given by a tensile instrument at 650°C and three kinds of grain size (17, 46 and 87 mm) wereemployed. Misorientation in crystal direction in each grain was determined by two parameters, GOS (Grain Orientation Spread)and KAM (Kernel Average Misorientation). GN (Geometrically Necessary) dislocation density was estimated from KAMparameter. GOS parameter increased with a linear relationship to the amount of plastic strain regardless of the grain size, whereasKAM parameter increased with increasing plastic strain but showed the grain size dependence. Change in total dislocation densi-ty with plastic strain showed a similar trend in KAM parameter. It is found that the difference in the total dislocation density at aplastic strain was consistent exactly with the difference in GN dislocation density depending on the grain size. These results wereconfirmed by TEM observations using several kinds of specimens used in Xray experiments.[doi:10.2320/jinstmet.J2014001]

(Received January 14, 2014; Accepted March 27, 2014; Published June 1, 2014)

Keywords: electron back scattering diffraction (EBSD), grain size, dislocation density, geometrically necessary dislocation density

1. 緒 言

材料中の塑性ひずみ量の定量化方法を確立することで,構

造物の詳細な損傷評価や溶接熱影響部の最適熱処理方法の決

定等,様々な応用が期待できる.近年,材料の塑性変形量と

結晶粒内の方位差に相関があることが報告され1),後方散乱

電子回折像法(EBSD)による塑性ひずみ量の定量化が目指さ

れている13).EBSD を用いた結晶粒内のひずみ量を定量化

する計算手法として,結晶粒内全体の平均方位差を定量化し

た Grain Orientation Spread (GOS)や,結晶粒内の局所的な

方位差を定量化した Kernel Average Misorientation (KAM)

などが提案されている1).野村らは,これらの値が機械試験

で付与された既知のひずみ量と相関を持つことや,GOS は

結晶粒径に依存しないが,KAM は結晶粒径に依存するとい

うことを報告している4).

一方,EBSD による塑性ひずみの測定方法を標準化する

ためには,上述の GOS 値や KAM 値に対する結晶粒径など

の測定条件の影響を詳細に把握することが必要不可欠であ

る.また,方位差は粒内に蓄積した GN 転位(Geometrically

Necessary Dislocations)の量を反映しているが5),刃状転位

とらせん転位ではその形成機構が異なるとされている6).こ

のように総転位密度や転位性状と粒内方位差の関連等は未だ

に実験的に確かめられていない.

ところで,modified WarrenAverbach 法を用いた X 線回

折(XRD)のピークプロファイル解析では,金属材料の総転

位密度と転位性状(刃状転位とらせん転位の割合)を求めるこ

とができる79).転位性状は EBSD からは得ることができな

いパラメータであり,EBSD と XRD の結果を組み合わせる

ことで結晶粒径,粒内方位差および総転位密度の関連につい

ての新たな知見を得られることが期待できる.

そこで本研究では,結晶粒径の異なるオーステナイト鋼に

ついて,引張試験によって既知のひずみを与えた試片の

EBSD 測定を行い,得られた GOS および KAM の方位差

データと X 線プロファイル解析で得られた総転位密度およ

び転位性状のデータを比較検討することで,EBSD 測定に

おける結晶粒径の影響を調査し,塑性ひずみ量の定量化方法

標準化のための新たな知見を得ることを目的とした.

2. 実 験 方 法

本研究で用いたオーステナイト鋼は火 SUS304J1HTB(以

下,火 SUS304 と称す)であり,その化学成分を Table 1 に

示す.本実験では平均結晶粒径が 17, 46 および 87 mm とし

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Table 1 Chemical composition of KASUS304J1HTB steelused in this study. (mass)

C Si Mn P S Cu Ni Cr Nb N

0.10 0.18 0.77 0.029 0.001 2.86 9.34 18.43 0.43 0.1

Fig. 1 Representative optical microstructure taken from theasreceived specimen with 17 mm grain size of KASUS304steel.

Fig. 2 Drawing of the shape by mm of tensile specimen.

219第 6 号 塑性変形オーステナイト鋼中の転位密度の定量化

た 3 種類の試片を用意した.試片は鍛造,熱間鍛造,押し

出し加工,固溶化処理を施し作製された.受け入れまま材の

平均結晶粒径が 17 mm であり,46 mm と 87 mm の結晶粒径

についてはそれぞれ受け入れまま材に 1200°C で 1 h,ある

いは 1250°C で 1 h の熱処理を行った後に強制空冷を施して

結晶粒径を調整したものである.結晶粒径の値は,EBSD

で得られた測定データより算出された円相当径である.Fig.

1 に代表例として,平均結晶粒径 17 mm の受け入れまま材

の光学顕微鏡写真を示す.

Fig. 2 に引張試験片形状を示す.Fig. 2 に示す丸棒試験片

を 650°C に昇温したのち,ひずみ速度 3.3×10-4 s-1 にて各

結晶粒径の試片に所定のひずみを加えた.なお,650°C は対

象材料の使用される最高使用温度に相当する.平均結晶粒径

17 mm の試片については,ひずみ量を 1, 3, 5, 10 および

15で引張を中断し,結晶粒径が 46 mm と 87 mm の試片で

は 5, 10 および 15のひずみ量とした.これらの試片から

引張応力軸に平行な面を切断し,切断面をエメリー研磨およ

びダイヤモンド研磨にて鏡面とした後,表面の加工ひずみを

取り除く目的で電解研磨を 10過塩素酸酢酸にて 0°C, 30

V, 2 min の条件で行い,EBSD および XRD 用の測定試片と

した.EBSD 測定では,加速電圧を 20 kV とし,試片ごと

の測定点数を同じにするため,結晶粒径ごとに異なる測定ピ

ッチを使用したが,方位差を計算する際のピクセル間距離に

ついては 5 mm に揃えた.測定ピッチ 5 mm は,粒界付近の

局所的な GN 転位の変化ではなく,比較的粒内に渡った方

位変化を捉えるためのものである.EBSD 測定のさらに詳

しい測定条件と KAM, GOS の計算方法は野村らが行った方

法に準じた4).XRD 測定では CuKa 線を用いて 40 kV, 40

mA の条件で,サンプリング幅 0.01°,スキャンスピードを

0.1°/min とした.また,XRD による総転位密度,転位性状

の結果の妥当性を確かめるために,一部の試片については

TEM 観察も併せて行った.

3. 転位密度解析方法

本研究では総転位密度の算出に modified WilliamsonHall

プロットおよび modified WarrenAverbach プロットを用い

た710).これらの手法では CuKa1 線のみのピークを使用す

るので,ローレンツ関数を用いて測定したすべてのピークに

ついて CuKa1 線と CuKa2 線のピーク分離を行い,半値幅

(FWHM)を決定した.使用した反射は(111), (200), (220),

(311)および(222)である.得られた半値幅を以下の modi-

fied WilliamsonHall 式に代入する11).

DK 0.9D

+pM 2b 2r

2KC̃1/2+O(K 2C̃) ( 1 )

上式において K=2 sin u/l, DK=2 cos u(Du)/l である.こ

こで,Du, u および l は,それぞれ回折線の半値幅,ブラッ

グ反射角および X 線波長である.本研究では Cu 管球を用い

たので,l=0.15405 nm である.また,D は平均粒子サイズ,

r は総転位密度,b はバーガースベクトルの大きさ,M は総

転位密度 r と転位の相互作用距離 Re に関する定数であり,

C̃ は転位の平均コントラスト因子である12).さらに,式

( 1 )を 2 乗し,高次項である O(K 2C̃ )項を無視し,a=

(0.9/D)2, b pM 2b2r/2 とすることで以下の式が得られる.

[(DK)2-a]/K 2 bC̃ ( 2 )

ここで,C̃ は以下の式( 3 )および式( 4 )に示すように,転

位の種類とその割合を含むパラメータである q 値および回折

線の指数 h, k, l の関数である.fcc および bcc 金属では,C̃

は以下の式で表される8,12).

C̃=C̃h00(1-qH 2) ( 3 )

ここで,C̃h00 は弾性定数から求められる定数であり,H 2 は

回折線の指数を用いて以下のように表現される.

H 2=(h2k 2+h 2l2+k2l 2)/(h2+k 2+l2)2 ( 4 )

さらに,式( 3 )を式( 2 )に代入することで以下の式が得ら

れる.

[(DK)2-a]/K 2 bC̃h00(1-qH 2) ( 5 )

式( 5 )は H 2 の一次式である.

modified WarrenAverbach 式を用いて総転位密度を算出

するには,まず C̃ を決定する必要があるが,そのためには

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Fig. 3 The relationship between [(DK)2-a]/K 2 and H2 ineq. (5).

Fig. 4 The modified WarrenAverbach plot following eq. (6).

Fig. 5 Y/L2 versus ln L plot according to eq. (7). The disloca-tion density obtained from the gradient of the regression line.

220 日 本 金 属 学 会 誌(2014) 第 78 巻

まず q 値を求める必要がある.そこで,[(DK)2-a]/K 2 と

H 2 が直線関係になるように a の値をパラメータとして調整

し,得られた直線 H 2 軸との切片から q 値を算出する.Fig.

3 に結晶粒径 17 mm,ひずみ量 5における H 2 に対する

[(DK)2-a]/K 2 プロットを例として示す.このようにして

得られた q 値を式( 3 )に代入し,式( 4 )を用いることで C̃

を決定できる.以上の計算で求めた C̃ を以下の modified

WarrenAverbach 式に代入する8).

ln A(L) ln AS(L)-rpb 2

2L2 ln (Re

L)(K 2C̃)

+Q(pb2

2 )2

(K 4C̃2) ( 6 )

ここで,A(L)はそれぞれの回折ピークのフーリエ係数の実

部であり,AS(L)は結晶粒径に基づくフーリエ係数,Q は定

数である.L はフーリエ長さであり,L=na3 と定義される.

n は整数であり,a3=l/2(sin u2-sin u1)と定義され,u2-u1

は測定角の範囲を表す13).種々の L について求めた ln A

(L)を式( 6 )に従って K 2C̃ に対してプロットする.Fig. 4

に,結晶粒径 17 mm,ひずみ量 5における式( 6 )のプロッ

トを例として示す.modified WarrenAverbach プロットか

ら式( 6 )の右辺第 2 項の係数を得,さらにその係数を Y と

おく.それによって得られた式を以下に示す.

YL2

=rpb2

2ln Re-r

pb2

2ln L ( 7 )

最後に,Y/L2 を ln L についてプロットすると,その直線の

傾きから総転位密度 r が算出できる.Fig. 5 に,結晶粒径

17 mm,ひずみ量 5における式( 7 )のプロットを例として

示す.

4. 結果および考察

4.1 EBSD 法による方位差測定結果

Fig. 6 に平均結晶粒径 17 mm の火 SUS304 の EBSD マッ

プの代表例を示す.(a)は塑性ひずみ量が 0で,(b)は塑性

ひずみ量が 15である.ひずみ量 0では,各結晶粒内の

色は単色であるのに対し,ひずみ量 15では,粒内に複数

の色や色の濃淡が観察できる.これは,塑性ひずみが導入さ

れたことで結晶粒内に方位差が生じていることを示してい

る.本研究では,結晶粒内を六角形のピクセルに区切り,方

位差を計算した.方位差計算に使用した 2 つの方位差パラ

メータ GOS と KAM は以下の式( 8 ) , 式( 9 )より算出し

た4).

GOS=

n

∑i=1

a i,Ave

n( 8 )

KAM=

6n

∑i=1

a i

6n( 9 )

ここで,n, a i,Ave,および a i は,それぞれ粒内の測定点数,

粒内の平均方位とある測定点での方位の差および基準点とそ

の隣接測定点との方位差,を表す.GOS は,測定点ごとの

方位を粒内の平均方位と比較することで粒全体の変形度合を

表している.それに対して KAM は,隣り合った 2 つの測

定点の方位差を比較することで粒内の局所的な変形度合を表

している.Fig. 7 および Fig. 8 に本実験試片で得られた

GOS および KAM の結果をそれぞれ示す.GOS 値,KAM

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Fig. 6 Representative EBSD maps of KASUS304 (GrainSize17 mm) (a) as received (0 strain), (b) strained at15.

Fig. 7 Plot of GOS values obtained from KASUS304 againstthe amount of plastic strain.

Fig. 8 Plot of KAM values obtained from KASUS304against the amount of plastic strain.

Fig. 9 Schematic illustrations showing the relationship of theamount of geometrically necessary dislocations (GND) andgrain size. (a) small grain, (b) large grain.

221第 6 号 塑性変形オーステナイト鋼中の転位密度の定量化

値とも 15以下の引張ひずみ条件では,結晶粒径に依ら

ず,ひずみ量に対して単調に増加した.しかし,ひずみ量の

増加に対する GOS 値の増加率は結晶粒径の依存性を示さな

かったのに対し,KAM 値の増加率は結晶粒径が小さいほど

大きくなる傾向を示した(Fig. 8).この相違は以下のように

考えられる.Fig. 9 に結晶サイズと転位量を模式的に示す.

ここで六角形は 1 つの結晶粒を,転位マークは方位差を発

生させる転位である GN 転位量を表すものとする.Fig. 9

(a)は結晶粒径が小さい場合を,Fig. 9(b)は結晶粒径が大き

い場合を表していて,(a),(b)の全体の面積は等しいとす

る.(a)と(b)では,結晶粒径は大きく異なるが,1 つの結晶

粒中に含まれる GN 転位の数は等しい.そのため,1 つの結

晶粒全体の変形度合を意味する GOS は等しくなる.一方,

局所的な変形度合に着目した場合,結晶粒径が小さい方が

GN 転位の間隔が狭くなる.したがって(a)の方が(b)よりも

大きな KAM 値を示したと考えられる.

4.2 X 線による転位密度測定

Fig. 10 に X 線プロファイル解析によって得られた総転位

密度の結晶粒径依存性を示す.総転位密度は,塑性ひずみ量

に対して単調に増加し,わずかではあるが,その増加率は平

均結晶粒径が小さい程,大きくなる傾向を示した.ひずみ量

15で比較をすると,総転位密度の差は,それぞれ平均結

晶粒径 17 mm と 46 mm の間では 3.7×1013 m-2, 46 mm と

87 mm の間では 2.6×1013 m-2 となっている.

Fig. 11 に転位性状を表す q 値と塑性ひずみ量の関係を示

す.q 値は刃状転位とらせん転位の割合を表している.q 値

の範囲は材料ごとに異なり,弾性定数からその範囲を求める

ことができる12).オーステナイト鋼では q 値の範囲は 1.71

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Fig. 10 Change in the dislocation density with plastic strain inKASUS304 steel.

Fig. 11 Change in the value of q parameter of dislocationswith plastic strain in KASUS304 steel.

Fig. 12 Change in the density of the geometrically necessarydislocation(GND) with plastic strain in KASUS304 steel. Thevalues of GND density were derived from eq. (10).

222 日 本 金 属 学 会 誌(2014) 第 78 巻

~2.46 となっており,q=1.71 ですべて刃状転位の状態を,

q=2.46 ですべてらせん転位の状態を表している.Fig. 11

の結果から,平均結晶粒径のサイズにかかわらず塑性ひずみ

が導入されるにつれて,刃状とらせんの混合状態からほとん

どらせん転位の状態になっていくのがわかる.

4.3 EBSD と X 線の比較

Fig. 8 における結晶粒径ごとの局所方位の相違と,Fig.

10 における結晶粒径ごとの総転位密度の差の関連を調べる

ために,以下の式より GN 転位密度(rg)を算出した5,1416).

rg a・ub・d

(10)

ここで,u, b, d および a は,それぞれ方位差(KAM),バー

ガースベクトルの大きさ,測定ピッチおよび定数である.a

は,刃状転位で 1,らせん転位で 2 となっている6,15,16).実

際に計算に使用した a の値は,Fig. 8 の各々のプロットに対

して Fig. 11 の結果から求めた刃状/らせん比を用いて算出

した.例えば,刃状らせん=11 の場合は a=1.5 となる.

Fig. 12 に各結晶粒径での塑性ひずみ量に対する GN 転位密

度の変化を示す.GN 転位密度も塑性ひずみに対して単調に

増加し,平均結晶粒径が小さいほど増加率が大きくなる直線

となった.Fig. 10 の総転位密度の変化と同様に,ひずみ量

15で比較すると,GN 転位密度の差は,平均結晶粒径が

17 mm と 46 mm の間で 3.2×1013 m-2, 46 mm と 87 mm の間

で 2.3×1013 m-2 となった.これらの差は,Fig. 10 に示し

た総転位密度の結果で得られた平均結晶粒径間の差とほぼ等

しい.これにより火 SUS304 において,ひずみ量の条件が

同じであっても平均結晶粒径が異なる場合には総転位密度は

異なり,そしてその差は粒内の方位差形成を担っている GN

転位量に相当するということがわかった.ただし,粒界周り

の GN 転位の増加,粗大結晶粒での方位差変化は今後の研

究課題である.

4.4 TEM 観察

TEM 観察は平均結晶粒径 17 mm の塑性ひずみ量 1, 3, 5,

10の試片に対して行った.代表例として Fig. 13 および

Fig. 14 にひずみ量 5および 10の TEM 写真を示す.そ

れぞれの TEM 写真から転位密度および転位性状を算出し

た.転位密度は,メッシュ法によって TEM 写真中に引いた

直線と転位の交点を求め,以下の式より算出した.

r=Nnl

(11)

ここで N, n および l はそれぞれ交点の数,膜厚および

TEM 写真上に引いた直線の長さの合計である.膜厚につい

ては等厚干渉縞の本数から判断してこの研究では 50 nm と

した.転位性状については,ある転位線について異なる方

向,異なる回折条件で撮影することでその転位線の方向と

バーガースベクトルの方向を求めることで測定した.

Fig. 15 に TEM 写真から算出した転位密度の結果を示す.

Fig. 10 の X 線測定から見積もった同じ試片の総転位密度結

果と比較すると,Fig. 15 の結果の方がやや高い値を示すも

のの,転位密度の絶対値およびひずみ量に対する転位密度の

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223

Fig. 13 Representative TEM micrograph taken from thespecimen with 5 plastic strain of KASUS304 steel.

Fig. 14 Representative TEM micrograph taken from thespecimen with 10 plastic strain of KASUS304 steel.

Fig. 15 Change in the dislocation density estimated by TEMwith plastic strain in KASUS304 steel.

223第 6 号 塑性変形オーステナイト鋼中の転位密度の定量化

変化傾向は両方でよく合っていると言える.ここで Fig. 15

の TEM による結果が X 線による結果に比べやや高い値を

示したのは,TEM 観察をする際に選択的に転位の多いとこ

ろを選んでいる可能性があることが原因だと思われる.転位

性状調査では,塑性ひずみ量 1の試片では 121 本,10の

試片では 394 本の転位の性状を調査し,平均した.転位性

状を示す q 値は,塑性ひずみ量 1では 1.99 で,塑性ひず

み量 10では 2.15 であった.この結果から塑性ひずみ量

1ではらせん転位の割合が 38であったのに対し,塑性ひ

ずみ量 10ではらせん転位の割合が 59まで増加すること

が確認された.以上の結果から,X 線回折で得られたひず

み量に対する転位密度変化および性状変化の結果がともに

TEM 観察によっても確認された.

5. 結 言

塑性ひずみ量の定量化方法標準化のための新たな知見を得

ることを目的として,結晶粒径の異なる火 SUS304J1HTB

オーステナイト鋼について,650°C にて 0~15の塑性ひず

みを付与した試片を用いて EBSD による結晶方位測定,

XRD による総転位密度,転位性状測定および TEM 観察を

行った.得られた結果を以下に要約する.

方位差パラメータである GOS 値および KAM 値はど

ちらもひずみ量とともに単調に増加した.ひずみ量に伴う

GOS 値の変化は結晶粒径に依存しなかったのに対し,KAM

値のそれは結晶粒径に依存した.この結果から,引張ひずみ

によって 1 つの粒内に導入される GN 転位量は,結晶粒径

に依らずほぼ等しいと言える.

XRD で算出した総転位密度は,ひずみ量に対して単

調に増加し,その増加率はわずかに結晶粒径の依存性を示し

た.塑性ひずみ量 15の試片で比較すると,本研究の条件

では結晶粒径ごとに 2~4×1013 m-2 の転位密度差が見られ

た.

TEM 観察から算出した転位密度および転位性状の結

果は,XRD から求められたそれらの結果とよく一致した.

KAM 値の測定結果を基に,それぞれの試片における

GN 転位密度を算出した結果,結晶粒径ごとに差が見られ,

塑性ひずみ量 15のときの GN 転位密度の差は総転位密度

で観測された差とほぼ一致した.この結果から,引張試験に

よって導入される総転位密度には結晶粒径依存性があり,そ

の差は粒内に方位差を形成している GN 転位量の差に相当

することがわかった.

文 献

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