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ベルガンティ教授に聞く 意味のイノベーションと新時代の...
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第1回グローバルでのイノベーション論とリーダーシップのあり方の変化
ベルガンティ教授に聞く:
意味のイノベーションと新時代のリーダーシップ激変する経営環境下のデザイン、アートとリーダーシップの関係性を読み解く
<全3回>
ロベルト・ベルガンティ教授
ストックホルム商科大学、ミラノ工科大学でイノベーションとリーダーシップ領域の教授をつとめる
岩渕 匡敦ボストン コンサルティング グループ(BCG)東京オフィス マネージング・ディレクター&パートナー
岩渕: 近年、私たちの業界でもあなたの提唱されている「意味のイノベーション」やリーダーシップ教育に関する議論が活発になっています。ベルガンティ教授は学術界でも、また近年は特にリー
ダー人材育成の領域でも活躍されています。まず、経歴をご紹介いただけますか。
ロベルト・ベルガンティ教授: 私はもともとエンジニアのバックグラウンドです。大学では電気工学を学び、卒業後はテクノロジーとイノベーションの領域に興味を持ち、通信企業で少し働いたあと、ミ
ラノ工科大学でイノベーションマネジメントの研究をしてきました。テクノロジーイノベーションの領
域の研究を10年ほどして、90年代の終わりにハーバード大学に移りました。マイクロソフトやネットスケープといった企業のソフトウェアのイノベーションや、現在ではアジャイルやスクラムと言われる
繰り返し型の開発プロセスを先駆者として研究しました。
ミラノ工科大学はそのころ、ちょうどデザインの新しいスクールを始めたところで、デザイナーに経
営を教える教授を探していたんです。もちろん参画することに決めました。イタリアではソフトウェア
産業はそれほど隆盛していませんでしたが、デザインについては秀でていました。いろいろと調べ
てみると、私が教えていたイノベーションマネジメントに関する事項は間違っていることがわかりまし
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ベルガンティ教授との対談 - グローバルでのイノベーション論とリーダーシップのあり方の変化 2
た。イタリアの産業で、典型的にデザインで成功している企
業、家具であればArtemide、Kartell、ファッションではGucci、Pradaなどは私がビジネススクールで通常教えていたこととは逆の論理を受け入れていたからです。
ビジネススクールで教えていたのは、「まずユーザーを理
解しなければならない、その次にユーザーの分析をして、
ブレインストーミングを」といったことです。ですが、先ほど
挙げた企業は市場ニーズから始めていたわけではありま
せん。それよりも自分たちにとってのビジョンが先に来るの
です。「なぜ人々がそのプロダクトを愛せるのか?」という
「ビジョン」からつくるのです。そういった企業が人々を惹き
つけることができるのです。私は「人々を熱中させるものを
どうデザインし、どうつくるか」ということに強い興味を持ち、
いくつかの企業が世界中の人に愛されるプロダクトをつくっ
ていることに気づきました。Appleや、任天堂もそうです。そこにはなにか秘密のレシピがあるはずなのです。Appleでは、iPhoneをデザインするのにユーザー調査から始めることはないのです。
10年以上かけて「人を虜にする特別な何か」を研究しています。そして「デザイン・ドリブン・イノベーション」と呼ばれるセオリーを開発し、2009年に書籍として世に出しました。
研究を通じて私が一番初めに学んだことは、人々は「物事が改善される」ことではなく、「新しい意
味合いが生まれる」ことに熱狂するということです。ですので、デザイン・ドリブン・イノベーションは
すべて「人々にとっての意味をつくること」という文脈で語っています。
10年以上に渡るイタリアでの研究、ハーバードでの研究を通じ、実際の企業や組織とともにこの考えと方法論を実践するようになりました。世界中の企業、P&Gやユニリーバ、フェラーリなどから声が掛かりました。そして数年前に「Overcrowded(邦題:突破するデザイン あふれるビジョンから最高のヒットをつくる)」を執筆しました。実際に企業で実施してきたプロジェクトのストーリーと、「意
味のある方向性」をつくりだす方法論を説明しています。
今年、25年教鞭をとってきたミラノ工科大学からストックホルム商科大学に移り、The GARDENと呼ばれる新しいセンターを立ち上げています。
アイデアの創出から意味のイノベーションへのシフト
岩渕: 教授は日本企業の支援もされていると聞いています。イノベーションに関してグローバルとローカルの視点を合わせ持たれているかと思いますが、近年のイノベーションに関するグローバル
レベルの傾向の変化や、ローカルな視点での変化についてはどう考えられますか。
ベルガンティ教授: はじめにイノベーションの話をして、次にリーダーシップの話をしましょう。イノベーションについては、今、劇的な変化が起こっていると思います。近年まではイノベーションに
対する私たちの理解は「アイデアを創出する」ことでした。良いアイデアがなければどうやってイノ
ベートするのか?といったものでした。したがって、イノベーションのイベントを企画するときには
「いかにクリエイティブになれるかがすべて」といった説明がつきものでした。しかしデジタライゼー
ションが起こり、イノベーションのためのアイデアにアクセスするのは、それが銀行業界でも保険業
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界でも、とても容易になりました。創造性に関しては、たとえば銀行業界でイノベーションを起こし
たい時、Googleで「銀行のイノベーション」と検索すれば多数の論文やアイデア、商品、コンサルタントやデザインスクールによるワークショップにアクセスできます。アイデアはそこにすべてあるの
ですが、それでも銀行は変革に苦労しています。
岩渕:そのご指摘は核心に迫っていると感じます。
ベルガンティ教授: 私の研究で発見したことは、ほとんどの場合、組織はアイデアがまさに鼻先にあるような時でも、実行に移さないのです。それはアイデアが不足しているからではなく、あまりにも
機会が多すぎてどうしていいか分からないからです。日本での驚くべき事例に、インスタントカメラ
があります。これはクラシックなプロダクトですが今の10代の方々が熱狂しているものの一つです。インスタントカメラのアイデアは昨日発明されたものではなく、ずっと日本にあるものですが、これを
発明したポラロイドは2008年に市場から撤退しています。人々はこの商品にもう興味がないのだと判断したからです。この場合の大きな問題は、アイデアがなかったことではなく、アイデアがあふれ
かえる時代に「この時代に本当に意味のあるものは何か」を理解しなかったことです。つまり、イノ
ベーションの論点は、アイデア創出から、それに関わるリーダーシップのあり方に変わってきている
のです。
アイデアの量産の前にリーダーがすべき本質的なこと
岩渕:私たちがクライアントと取り組むなかでも、多数のイノベーションの実験プロジェクトを数百も
繰り返したうえで何も起こらなかったということがありました。特に製造業やシステムインテグレー
ターなどの産業ではもともとデザイン部門を持っているのに、いわゆるデザイン思考の取り組みを
実施しても結果につながらなかった、ということもよく聞きます。リーダーの役割が重要という話でし
たが、意味のあるイノベーションを起こすためには実際にどういったことが必要でしょうか?
ベルガンティ教授: 私は世界中でプロジェクトを経験してきましたが、いまおっしゃったようにあらゆる企業がワークショップやブレインストーミング、オープンイノベーション、クラウドソーシングに勇ん
で取り組みましたが、多くの場合結果につながりませんでした。
先ほどお話したようにアイデアの数の問題ではなく、アイデアという富の活用の仕方なのです。どこ
に行くか、どこにコミットするかという「方向付け」の問題なのです。方向性の決め方が逆なのです。
つまり、インサイドアウト、リーダーが少ない情報をまとめることで新しい方向性を見出すということ、
将来へのシナリオを想像すること、そしてそれが自分ごとでなければなりません。他の誰も、その人
の将来を語ることはできません。リーダーには「どの方向に行くか」を決める能力が重要です。
自社の30人のデザイナーとエンジニアに反対されても、「どうしてもそこに行くのだ」と決意を貫くことです。その形が見え、感じられなければできることはないでしょう。逆にアウトサイドインのアプ
ローチ、つまり他人が誰かに何かを指示するやり方では、どこにも行き着かないでしょう。あなたが
経営者であればリーダー層のチームをこの方向付けのプロセスに関与させ、自分たちがどこに向
かいたいかを理解させ、一体で推進できるようにすることです。そして共通の方向性が出た上
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でドアを開き「ついに方向は定まった。さて現実的にそこに行
くためのアイデアが必要だ」というのです。その後で初めて
ワークショップやクリエイティブなアイデア創出が機能するの
です。決して、その前ではありません。
岩渕:多くの企業が逆のアプローチを取ってしまっていると
感じます。
ベルガンティ教授: 問題が実践的なレベルになった時、創造性を解き放つと成功確率はかなり高い。その逆をすると、目
の前にオープンスペースが多すぎて、単に混乱するだけで
す。そして誰も本気で取り組まないことになります。
岩渕:感覚としては私にもよくわかります。より具体的にお願
いできますか?
ベルガンティ教授: つまり今の時代、リーダーシップを担う人々はイノベーションに対してかつてないほどに重要なインパクトを持ち得るということです。エンジニアやデザイナーへのニーズは日々と
ても高まっていますが、リーダーシップ層が目の前にある豊かな財産をその目で見て認識できな
いとしたら、目の前の100万人のクリエイティブな人々が何一つ物事を変えられず、状況はより難しくなると言えるでしょう。イノベーションの世界で最も変わったことは、リーダー層に課されている課
題の大きさと言っても良いでしょう。社会の中で、これまでと違った意味でいかにイノベーティブな
リーダーになれるのかを正確に理解しなければなりません。
新しいリーダーシップ人材の要件とそのポテンシャルを解き放つ鍵
岩渕: しかし、そういったインサイドアウトの考え方や素養をもつリーダー人材を発掘するのは簡単
ではないですよね。
ベルガンティ教授: 現実の世界では、これはとても人間的な活動だと私には思えます。誰でも本来は「どこに向かうのか」という問いをリフレクトし、考えるものなのではないでしょうか。ただ、そういう
考え方をしてよい、という安心感を与えることで、能力を発揮するリーダーが必要なはずです。考え
のバイアスを取り除いてあげることです。ただ、これはファーストステップに過ぎません。本当に良
いリーダーというのは、自分のアイデアを「私はこういう世界観だけど」と語った上で、周りの人々に
「どう思う。あなたはどの方向に行きたい?」と意見を求め、それをしっかりと傾聴するリーダーです。
そして自分との違いがなぜあるのかを相手の意見を受け入れつつ議論するのです。これは私が2つ目に学んだことで、「クリティカル・リフレクション」です。これができるリーダーになるのは容易で
はありません。
岩渕:私たちの多くはMBAでビジネスマネジメントや財務分析、統計などを学んできていますが、2020年代以降の新しいリーダーシップについての私たちの最近の考え方では、リフレクションや傾聴という要素も重要と捉えています。こういった考え方でリーダーを育成するのはとても難易度が
高いですね。
ベルガンティ教授: ビジネススクールでの学びには、2つの伝統があります。一つは経済学、もう一つはエンジニアリングです。この2つの学問、特にエンジニアリングはそうですが、哲学的にポジティブであり原理主義的な部分があります。つまり、「問題に対して常に完璧なソリューションがあ
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る」という考えです。リーダーたちは教育を通じて、このマインドセットを身につけます。右か左かを
明確に「判断する」ということです。しかしイノベーションの世界では、これは当てはまりません。誰
がスティーブ・ジョブズに向かって「iPhoneが正しいかどうか?」を答えられたでしょうか。それを判断するデータはありません。それは自分自身の直感であり、ビジョンの問題です。正しいかもしれ
ないし間違っているかもしれない。しかし自分にはこれを実現するビジョンがある、ということです。
これを正しく実行するのがリーダーの役割ということで、正しい実行をするリーダーを私はこれまで
育成してきました。
一方で、自己をつくり上げ、自分の可能性を磨くのがデザインの思考です。私がストックホルムで
リーダー人材の育成を「Center of Design and Leadership」というコンセプトで実施しているのもこのためです。
(2020年1月28日、BCG東京オフィスにて採録)
終わりに
次回は、この考えを実践に活かすための、リーダーシップ人材が自己をつくり、可能性を磨くため
のデザインの適用について、より掘り下げ、日本企業への示唆となる議論をしていきたい。
ロベルト・ベルガンティ ストックホルム商科大学教授
ストックホルム商科大学、ミラノ工科大学でイノベーションとリーダーシップ領域の教授をつとめる。また、ハーバード・ビジネス・スクール、コペンハーゲンビジネススクール、カリフォルニアポリクニック大学の客員研究員をつとめる。著書に「デザイン・ドリブン・イノベーション(2016年、クロスメディア・パブリッシング)、「突破するデザイン あふれるビジョンから最高のヒットをつくる(2017年、日経BP)」など。
岩渕匡敦 BCG マネージング・ディレクター&パートナー、BCGテクノロジーアドバンテッジグループ、ハイテク・メディア・通信グループ、およびコーポレートファイナンス&ストラテジーグループ、DigitalBCG Japanのコアメンバー。ソフトバンク、複数のIT・ベンチャー企業のマネジメントを経験後、Deloitteのデジタル戦略プラクティス責任者、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て現在に至る。
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