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426 第56巻 第 10号 (2002年) キウイ フルーツかいよ う病菌の薬剤耐性機構 茨城大学出学部植物生体防御学研究室 キ ウ イ フ ルー ツ は ミ カ ン等の転換作物 と し て 導入 さ れ, 導入当初Jは病害の発生は少な く , 栽婿が容易な作物 と考えられていたが, 栽培年数の経過 と と も に病害が増 加してきた。 中でも, かいよ う病は樹体の衰弱, 枯死 を 引 き 起 こ す も の で, キウイフルーツ栽培にとって極めて 重大な病害であった。 本病は静岡県で 1980 年頃よ り 発 生が認め ら れ, 病勢は非常に急性で, 樹体の枯死を招 く 場合もあった。 SERIZAIVA et al. (1989) に よ り 本病は新 し い 細 菌 病 で あ る こ と が 明 ら か に さ れ, 病原細菌は Pseudomonas sY1'ingae pv. actiηidiae と 命名 さ れ た (T AKI I<AIVA et al., 1989)。 本病の発病お よ び拡大は, が国の果樹に発生している細菌病では例を見ないほど極 め て 急性 で あ る こ と が報告 さ れ, それに伴い, 耕種的お よ び薬剤に よ る防除法の検討が進め られた。 本病の薬剤 防除法 と し て は銅剤, ス ト レ プ ト マ イ シ ン剤の散布の ほ か, 収穫後落葉 ま で に ス ト レ プ ト マ イ シ ン 剤 ま た は カ ス ガマイ シン剤の樹幹注入が行われた。 しかしながら, 病原細菌において も薬剤耐性菌が出現し, そのため防除 効果の低下が見 ら れる よ う に な っ た。 こ こ では本病原細 菌 に 見 ら れ る ス ト レ プ ト マ シ ン 耐性 お よ び銅耐性の機構 について紹介する。 I キウイ フルーツかいよ う病菌の薬剤耐性プラス ミド 1984 年以降に静岡県内のキ ウ イ フルーツ園よ り 分間H された本菌 28菌株についてス ト レプ ト マイ シンの最小 発育抑制濃度 (MIC) を調査した結果, 1984 年に分離 さ れ た 菌株 1 4 株 は す べ て M I C が 3 . 5 μg/m l で あ っ た のに対し, 1987年以降に分離された菌株 14株の中に 300�900 μg/ml の MIC を示す耐性菌株が 10 株存在す る こ と が認め ら れた (NA I<AJIMA et al., 1995)。 また, れらの耐性菌株はすべて硫酸銅に対して も耐性を示し, 耐性菌株の MIC は 1 . 75�3 . 0 mM であ っ た。 一方, 受性菌株の MIC は 0 . 75 mM であ っ た (NAI<AJIM八 et al., lechanisms of Bactericid巴 Resistance i n Pseudomo邸 沙門 gae pv. ac/inidiae. By Masami NAKAjlMA (キーワー ド : キウイ ブルーツかいよ う病菌, ストレプ トマイシ ン耐性, 銅耐性) 2002) 。 次に, すべての菌株についてプラ ス ミ ドの検出 を行ったところ, 耐性を示した菌株には共通して約70 kb のプラス ミ ド (pPaCu 1) (匡ト 1) あ る い は約 280 kb のプラス ミ ド (pPaCu 2) が検出された。 一方, 感受性 菌株からはいずれのプラ ス ミ ド も検出されなかった。 れらの事実から本菌における両耐性遺伝子がこれら二種 のプラス ミ ド上に存在する こ とが示唆された。 両プラス ミ ドについて感受性菌株への伝達能を調査した と こ ろ, pPaCu 1 で 伝 達 能 を 有 す る ことが明らかとなった (NAKAJI^IA 巴t al., 2002)。 E キウイ フルーツかいよ う病菌のス ト レプ ト マイ シン耐性機構 1 ス ト レプ ト マ イ シン而t,性 ストレプ トマイシンはタンパク質合成を阻害する抗生 物質であ り , 細菌の 30 S リ ボ ソ ー ム サ フ・ ユ ニ ッ ト に 結 合してタ ンパク質合成の開始複合体形成を阻害し, また J伝|暗号 の誤読 を 号|き起こすことが知られている。 スト レプ ト マイ シン剤は品業分野において も細菌病防除に卓 効を示す薬剤 と して 1950 年代後半よ り 広 く 利用 さ れて きている。 本剤に対する耐性機構と しては, 耐性菌のつ くるストレプ ト マ イ シ ン修飾酵素 に よ る 不活性化 に よ る も のが主体で, リ ボソームにおける作用点の変化や, EcoR I EιoRI il ld 11 I 60 il ld 11 I EιoRI il ld ll l EcoRI pPaCul 70.5kb il ld lll S m r 12 1 薬剤l耐性プラ ス ミ ド pPaCul のflil酵素地図

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426 植 物 防 疫 第 56巻 第 10号 (2002年)

キ ウ イ フ ルー ツ か い よ う 病菌 の薬剤耐性機構茨城大学出学部植物生体防御学研究室 中

は じ め に

キ ウ イ フ ル ー ツ は ミ カ ン 等 の 転換作物 と し て 導入 さ

れ, 導入当初J は病害の発生 は 少 な く , 栽婿が容易 な作物と 考 え ら れて い た が, 栽培年数の経過 と と も に病害が増加 し て き た 。 中 で も , か い よ う 病 は 樹体の衰弱, 枯死 を引 き 起 こ す も の で, キ ウ イ フ ルー ツ 栽培 に と っ て極 め て

重大な病害であ っ た 。 本病は静岡 県 で 1 980 年頃 よ り 発

生が認め ら れ, 病勢 は 非常 に 急性で, 樹体の枯死を招 く場合 も あ っ た 。 SERIZAIVA et a l . ( 1 989) に よ り 本病 は 新し い 細 菌病 で あ る こ と が 明 ら か に さ れ, 病 原 細 菌 はPseudomonas sY1'ingae pv. actiηidiae と 命名 さ れ た(TAKII<AIVA et al . , 1989) 。 本病の発病お よ び拡大 は, 我が国の果樹 に 発生 し て い る 細菌病では例 を 見 な い ほ ど極め て 急性であ る こ と が報告 さ れ, そ れに伴い, 耕種的およ び薬剤 に よ る 防除法の検討が進め ら れた 。 本病の薬剤

防除法 と し て は銅剤, ス ト レ プ ト マ イ シ ン剤 の散布の ほ

か, 収穫後落葉 ま でに ス ト レ プ ト マ イ シ ン剤 ま た は カ スガ マ イ シ ン剤の樹幹注入が行 わ れ た 。 し か し な が ら , 本病原細菌 に お い て も 薬剤耐性菌が出現 し , そ の た め 防除効果の低下が見 ら れ る よ う に な っ た。 こ こ で は本病原細菌 に見 ら れ る ス ト レ プ ト マ シ ン耐性お よ び銅耐性の機構に つ い て紹介す る 。

I キ ウ イ フ ルーツ か い よ う 病菌の薬剤耐性 プ ラ ス

ミ ド

1984 年以降 に 静 岡 県 内 の キ ウ イ フ ル ー ツ 園 よ り 分間Hさ れた 本菌 28 菌株 に つ い て ス ト レ プ ト マ イ シ ン の最小発育抑制濃度 ( MIC) を 調査 し た 結果, 1 984 年 に 分離さ れた 菌株 14 株 は す べ て MIC が 3 . 5 μg/m l で あ っ た

の に 対 し , 1987 年以 降 に 分離 さ れ た 菌株 1 4 株 の 中 に300�900 μg/m l の MIC を 示 す 耐性菌株が 10 株存在する こ と が認め ら れた (NAI<AJIMA et al . , 1 995) 。 ま た , これ ら の耐性菌株 は すべて硫酸銅 に対 し て も 耐性 を 示 し,耐性菌株の MIC は 1 . 75�3 . 0 mM で あ っ た 。 一方, 感受性菌株の MIC は 0 . 75 mM であ っ た (NAI<AJIM八 et al . ,

i\Ilechanisms of Bactericid巴 Resistance in Pseudomo'l1邸 沙門1"1

gae pv. ac/inidiae. By Masami NAKAjlMA ( キ ー ワ ー ド : キ ウ イ ブ ルー ツ か い よ う 病菌, ス ト レ プ ト マ イ シ

ン耐性, 銅耐性)

日島 雅

み己

2002) 。 次 に , す べ て の菌株に つ い て プ ラ ス ミ ド の検 出

を 行 っ た と こ ろ , 耐性 を 示 し た 菌株 に は 共 通 し て 約 70

kb の プ ラ ス ミ ド (pPaCu 1 ) ( 匡 ト 1 ) あ る い は約 280 kb

の プ ラ ス ミ ド (pPaCu 2) が検出 さ れ た 。 一方, 感受性菌株か ら は い ずれの プラ ス ミ ド も 検 出 さ れ な か っ た。 こ

れ ら の事実 か ら 本菌 に お け る 両耐性遺伝子が こ れ ら 二種の プラ ス ミ ド 上 に存在す る こ と が示 唆 さ れた。 両 プ ラ スミ ド に つ い て 感受性菌株への伝達能 を 調査 し た と こ ろ ,pPaCu 1 で 伝 達 能 を 有 す る こ と が 明 ら か と な っ た

( NAKAJI^IA 巴t a l . , 2002) 。

E キ ウ イ フ ルー ツ か い よ う 病菌の ス ト レ プ ト マ イ

シン耐性機構

1 ス ト レプ ト マ イ シン 而t,性

ス ト レ プ ト マ イ シ ン は タ ン パ ク 質合成 を 阻害 す る 抗生

物質であ り , 細菌の 30 S リ ボ ソ ー ム サ フ・ ユ ニ ッ ト に 結

合 し て タ ンパ ク 質合成の 開始複合体形成 を 阻害 し, ま た

Ji与伝|暗号の誤読 を 号 | き 起 こ す こ と が知 ら れて い る 。 ス トレ プ ト マ イ シ ン 剤 は品業分野 に お い て も 細菌病防除 に 卓効 を 示す薬剤 と し て 1 950 年代後半 よ り 広 く 利 用 さ れ てき て い る 。 本 剤 に 対す る 耐性機構 と し て は, 耐性菌 の つく る ス ト レ プ ト マ イ シ ン修飾酵素 に よ る 不活性化 に よ る

も の が主体で, リ ボ ソ ー ム に お け る 作用 点の変化や, 細

EcoR I

EιoRI

/-lilld 1 1 I

60

/-lilld 1 1 I EιoRI

/-lilldlll EcoRI

pPaCu l 70.5kb

J-/illdlll

にらSmr

12一一一図 1 薬剤l耐性 プ ラ ス ミ ド pPaCul のflillllJl!酵素地図

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キ ウ イ ブ ル ー ツ か い よ う 病菌 の薬剤耐性機構 427

胞膜 に お け る 薬剤透過性 の低下 に よ る 耐性 は 少 な い と さ

れて い る 。 ス ト レ プ ト マ イ シ ン耐性 に 関 し て は 医学領域

に お け る 耐性菌での研究が進んでお り , ス ト レ プ ト マ イシ ン を 不活性化 す る ア ミ ノ グ リ コ シ ド リ ン 酸転移酵素

[APH (6) , APH (3つ ] お よ び ア ミ ノ グ リ コ シ ド ア デ ニ

ル 転移酵素 [AAD (6) , AAD (3つ ] の 4 種 の 修飾酵素

が知 ら れて い る (DAVIES and SrvIlTII , 1978) 。

2 キ ウ イ フ ル ー ツ か い よ う 病菌 の ス ト レ プ ト マ イ シ

ン耐性機構

筆者 ら は本菌の耐性菌株 で あ る Pa 429 株が保持す る

pPaCu 1 の コ ス ミ ド ラ イ ブ ラ リ ー を 作製 し , 大腸菌 に

お い て 耐性 を 発現す る ク ロ ー ン を選抜 し た 後, 耐性遺伝

子 を 含む領域の 制 限酵素地図 に 基 づ い て , 1 . 9 kb の 断

片 を ク ロ ー ニ ン グ し た 。 SUNDlN and BENDER ( 1993) は

P. syringae pv. ρapulan, P. 宅yringae pv. 宅yringae お よ び

Xanthomonas camρestris pv. vesicatoria に お け る ス ト

レ プ ト マ イ シ ン 耐 性 遺 伝 子 が 広 宿 主 域 プ ラ ス ミ ド

RSF 1010 上 の 耐性遺伝子 strA-strB と 相 同 で あ る こ と

を 報告 し て い る 。 そ こ で, 上記の 1 . 9 kb 断片 に つ い て

RSF 1010 の ア ミ ノ グ リ コ シ ド 3"ー リ ン 酸転移酵素遺伝

子 s恥4. (0 . 8 kb) お よ び ア ミ ノ グ リ コ シ ド 6ー リ ン 酸転

移酵素遺伝子 strB (0 . 8 kb) と 制 限酵素地 図 を 比較す

る と と も に , こ の 断片 を プ ロ ー プ と し た サ ザ ン ハ イ プ リ

ダ イ ゼ ー シ ョ ン に よ り 相 同性 の 解析 を 行 っ た 。 そ の 結果, 1 . 9 kb 断 片 中 に strA お よ び strB と 相 同 な 領 域 が

保持 さ れ て い る こ と が明 ら か と な り ( 図 2) , 本菌 に お

け る 耐性の機構が ア ミ ノ グ リ コ シ ド リ ン酸転移酵素 に よ

る 不 活 性 化 に よ る も の で あ る こ と が 示 唆 さ れ た

(N AKAJlMA et al . , 1995) 。

皿 キ ウ イ フ ル ー ツ か い よ う 病菌の銅耐性機構

1 銅耐性機構

銅剤 に 含 ま れ る 銅イ オ ン は タ ンパ ク 質 な ど の SH 基 を

Sad

フ. ロ ッ ク し , 酵素系 の 阻害 な ど を 引 き 起 こ す こ と が知 ら

れて い る 。 多作用点阻害剤 で あ る 銅剤 は 耐性菌が出 に く

い と さ れて い た が, 銅剤 に よ る 防除効果 の低下が見 ら れ

る よ う に な り , こ れ ま で に 数種の植物病原細菌で耐性菌

の 出現が確認 さ れ て い る 。 銅耐性 に つ い て遺伝子 レベル

での研究が進め ら れ, P. 宅yringae pv. tomato , P. syrin­

gae pv. 宅yringae , X. camJうestris pv. vesicaωria の銅耐性遺伝子が い ずれ も プ ラ ス ミ ド 上 に コ ー ド さ れて い る こ と

が証明 さ れた (C∞KSEY, 1990) 0 P. syringae pv. tomato

の 銅耐性遺伝子 は 35 kb の伝達性 プ ラ ス ミ ド (pPT 23

D) 上の約 6 . 5 kb の断片上 に あ り , そ の塩基配列 か ら 6

個 の オ ー プ ン リ ー デ イ ン グ フ レ ー ム (ORF) , す な わ ち

copA ( 1 . 8 kb) , copB ( 1 . 0 kb ) , copC ( 0 . 4 kb ) ,

copD ( 1 . 0 kb) , copR ( 0 . 7 kb) お よ び copS ( 1 . 5

kb) の存在が示 さ れた 。 こ れ ら の う ち , copA は ぺ リ プ

ラ ズ ム 領域 に 存 在 す る 銅 吸 着 タ ン パ ク 質 CopA を ,

copB は 外膜 に 存在 す る 銅吸着 タ ン パ ク 質 で あ る CopB

を コ ー ド し て お り , 銅耐性 は 主 と し て こ れ ら 二種の タ ン

パ ク 質がぺ リ プ ラ ズ ム 領域 お よ び外膜で銅 イ オ ン と 結合

し て 封鎖 し , 銅イ オ ン の細胞内 へ の 透過 を 妨 げ る た め で

あ る と 説 明 さ れ て い る ( COOKSEY , 1994 ) 。 ま た ,

copR, copS は銅耐性発現の 調節遺伝子 で あ り , そ れ ぞれア ク テ イ ベ ー タ ー タ ンパ ク 質 お よ びセ ン サ ー タ ンパ ク

質 を コ ー ド し て い る (MILLS et al . , 1993) 。

2 キ ウ イ フ ル ー ツ か い よ う 病菌の銅耐性遺伝子

銅耐性菌株 Pa 429 株 を 供試 し て , 銅耐性遺伝子 の ク

ロ ー ニ ン グ を 試 み た 。 ま ず, 供試菌株 に ト ラ ン ス ポ ゾ ン

Tn 5 を 導 入 し て 銅感受性 突 然 変 異 株 を 作製 し た 後,

Pa 429 株 の 耐性 プ ラ ス ミ ド pPaCu 1 よ り Tn 5 の 挿入

が起 こ っ た領域 に 相 当 す る 領域, す な わ ち , 銅耐性 に 関

与す る 領域 を ク ロ ー ニ ン グ し た 。 次 い で, こ の領域 を プ

ロ ー プ に し て pPaCu 1 の コ ス ミ ド ラ イ ブ ラ リ ー よ り 銅

耐性遺伝子の全長 を 含 む ク ロ ー ン を 選抜 し , 得 ら れた ク

SspI SadI RsaI RsaI AvaII AvaII

EcoRV

NotI

HindIII NcoI NruI AvaI NruI MωI

1 .9kb 1 1 1 11 1 1 1 1 1 1 HindIII-EcoRV

断片.,

StrA

図 - 2 ス ト レ プ ト マ イ シ ン耐性遺伝子 を含む領域の制限酵素地図

DdeI RsaI

山..

StrB トーー司I OObp

2 本の矢印 は RSF 1010 の ス ト レ プ ト マ イ シ ン耐性遺伝子 で あ る strA-strB と 相 同 な 領域 を 示す .

一一 13 -

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428 植 物 防 疫 第 56 巻 第 10 号 (2002 年)

P. syringae pv. actinidiae

ORF B ORF D

305aa 3 1 1 aa

ORF A ORF C

625aa 1 27aa

609aa 1 26aa 227aa

cop B cop D cop S 328aa 3 1 0aa 487aa

P.syringae pv. tomato

ORF E

439aa

ORF F

1048aa

97% 戸 95%

トー一→1 kb

ORF R

228aa

ORF G ORF H ORF S

794aa 65aa 487aa

地温零欝

図 - 3 キ ウ イ フ ル ー ツ か い よ う 病菌の銅耐性遺伝子 と cop オ ベ ロ ン と の相向性両遺伝子の塩基配列か ら 予想 さ れ る ア ミ ノ 酸配列 の相向性 を パー セ ン テ ー ジ で示 し た .

ロ ー ン に つ い て 銅耐性遺伝子の全領域 の塩基配列 を決定

し た 。 そ の結果, 本遺伝子上 に 10 個 の ORF (ORF A,

B, C, D, E, F, G, H, R お よ び S) が存在す る こ と が明 ら

か と な っ た 。 各々 の ORF か ら 予想 さ れ る ア ミ ノ 酸配列に つ い て 相 同 性 検 索 を 行 っ た と こ ろ , 6 個 の ORF(ORF A, B, C, D, R お よ び S) の推定 ア ミ ノ 酸配列 はCopA, B, C, D, R お よ び S と 各々 高い相向性 を 示 し た

(図 3) 。 ま た , ORF A, B の推定 ア ミ ノ 酸配列 の 中 に ,P. syri・ngae pv. tomato の CopA お よ び CopB に保存 さ

れ て お り , 銅イ オ ン を 吸着す る ド メ イ ン と 考 え ら れて い

る 8 残基の ア ミ ノ 酸の直列反復配列 お よ び, 銅 タ ンパ ク

質 の 銅結合領域 に 見 ら れ る モ チ ー フ 配列 が見 い だ さ れた 。 こ の こ と か ら 本菌 の 銅耐性 に は P. syringae pv tomato と 同様の機構が関与す る こ と が示唆 さ れ た 。 さら に , copA と 相 向性の認め ら れた ORF A の 上流 に アク テ ィ ベー タ ー タ ン パ ク 質 CopR の 結合部位であ る copbox が見 い だ さ れた こ と か ら , 本菌 に お け る 銅耐性の発現 が 銅 イ オ ン に よ っ て 誘 導 さ れ る も の と 考 え ら れ た(N紙AJlMA et al . , 2002) 0 ORF E の 予想 さ れ る ア ミ ノ 酸配列 は Ralstonia eutrophus の 重金 属 耐性 に 関 与 す るCnrB と の 相 向 性 が確認 さ れ た 。 ま た , ORF F の 予想さ れ る ア ミ ノ 酸配列 は, 同 じ く R. eutrophus の 重金属耐性 に 関与 す る CzcA と の 相 同 性が確認 さ れ た ( 中 島ら , 2002) 0 R . eutrophus か ら は重金属耐性 に 関与す るczc オ ペ ロ ン と cnr オ ペ ロ ン の二種が単離 さ れて お り ,

両 オ ペ ロ ン の 起 源 は 同 ー で あ る と 考 え ら れ て い る(LIESEGANG et al. , 1993) 0 czc オ ペ ロ ン は CzcA, CzcB およ び CzcC を コ ー ド し て お り , ア ン チ ポ ー タ ー型の重金属排出 ト ラ ン ス ポー タ ー を 構成 し て い る 。 こ れ ら は cnr

オ ペ ロ ン の CnrA, CnrB お よ び CnrC に そ れ ぞ れ類似

す る こ と か ら , ORF E と ORF F がア ン チ ポ ー タ ー型の

排 出 ト ラ ン ス ポ ー タ ー を 構成 し て い る こ と が考 え ら れ

た 。 ORF G の 予 想 さ れ る ア ミ ノ 酸 配 列 か ら は P 型

ATPase に 特徴 的 な リ ン 酸化部位 と 重 金 属 結 合領域 の

モ チ ー フ 配列が見 い だ さ れ, Bacillus subtilis の 銅輸送

ポ ン プ と 考 え ら れて い る P 型 ATPase と の 相 向性 が確

認 さ れた。 ORF H の予想 さ れ る ア ミ ノ 酸配列 は Enter­

ococcus hirae に お い て copper-A TPase の 発 現 を 制 御

し て い る CopZ (ODERMATT and SOLIOZ, 1995) と の中目 向

性が確認 さ れ, 重金属結合領域の モ チ ー フ 配列 も 見い だ

さ れた 。 こ の こ と か ら , ORF H の産物が ORF G の 産

物であ る 銅輸送 ポ ン プの発現 を制御 し て い る も の と 考 え

ら れた ( 中 島 ら , 2002) 。

3 銅耐性遺伝子の機能解析

銅耐性遺伝子の 全塩基配列 を 決定 し た と こ ろ , 本菌の

銅耐性機構 に は P. syringae pv. ωmato で報告 の あ る ,

銅イ オ ン を細胞外 に ト ラ ッ プす る シ ス テ ム の ほ か, ア ンチ ポー タ ー型お よ び ABC ト ラ ン ス ポ ー タ ー 型 の 排 出 ト

ラ ン ス ポ ー タ ー に よ っ て銅 イ オ ン を細胞外 に 排出 す る シ

ス テ ム が存在す る こ と が示唆 さ れた。 そ こ で, 上記の排

出 ト ラ ン ス ポ ー タ ー の銅耐性への 関与 を 調査す る た め ,

耐性遺伝子の全領域 を 含 む ク ロ ー ン pPaCuC 1 に ト ラ ン

ス ポ ゾ ン を挿入 し て 変異 プ ラ ス ミ ド を作製 し た 。 得 ら れ

た 変異 プ ラ ス ミ ド を キ ウ イ フ ル ー ツ か い よ う 病菌の感受

性株 に 導入 し , 得 ら れ た形質転換株 に つ い て銅感受性検

定 を行 っ た 。 そ の 結果, pPaCuC 1 に よ る 形質転換株 に比べ, ORF 中 に ト ラ ン ス ポ ゾ ン が挿入 さ れ た プ ラ ス ミ

ド を持 っ す べ て の形質転換株 に お い て 銅感受性 に 上昇が

一一一 14 一一一

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キ ウ イ フ ル ー ツ か い よ う 病菌の薬剤耐性機構 429

1 .0 2.6

4

o

ns

vL

M

d

M

m

(

、BIli--‘pti--4Jζ,U

2

日Illi--v

ORF A ORF C ORF B ORF D

ORF E ORF F ORF G ORF H ORF S ORF R

図 - 4 銅耐性遺伝子の機能解析矢 印 は ト ラ ン ス ポ ゾ ン の挿入位置 を示す. 数値 は硫酸銅の MIC (mM) を 示す .

確認 さ れた 。 こ の こ と か ら , 二種の排出 ト ラ ン ス ポー タ

ー も 銅耐性 に 関与す る こ と が明 ら か と な り , 本菌の銅耐

性が三つ の 異 な る シ ス テ ム に よ っ て 発現 し て い る こ と が

示唆 さ れた 。 ま た , ORF A, B , D の破壊 に よ っ て 銅感受

性が顕著 に 上昇 し て い た こ と か ら ( 図-4) , 三 つ の シ ス

テ ム の う ち , 銅吸着 タ ンパ ク 質 に よ っ て 銅イ オ ン を細胞

外 に ト ラ ッ プす る こ と が本菌の 主 た る 耐性機構で あ る こ

と が明 ら か と な っ た ( 中 島 ら , 2002) 。

お わ り に

キ ウ イ フ ル ー ツ か い よ う 病菌 の プラ ス ミ ド 上 に 存在す

る ス ト レ プ ト マ シ ン耐性遺伝子が, 広宿主域の薬剤耐性プ ラ ス ミ ド RSF 1010 上 に 存在 す る 耐性遺伝子 slrA お

よ び slrB と 相 同 で あ る こ と が明 ら か と な り , 耐性が ア

ミ ノ グ リ コ シ ド リ ン駿転移酵素 に よ る ス ト レ プ ト マ イ シ

ンの不活化 に よ る も の で あ る こ と が示唆 さ れた 。 プ ラ ス

ミ ド 上 に 本耐性遺伝子 と 相同 な遺伝子が存在す る 耐性菌

は人間や動物か ら も 数多 く 分離 さ れて お り , ま た , 闇場

に 生 存 す る 腐 生 菌 か ら も 検 出 さ れ て い る (SUNDlN ,

2002) 0 RSF 1010 は 接合 に よ り 大腸 菌 か ら 放線菌 な ど

の グ ラ ム 陽性菌 に属の壁 を越 え て伝達 さ れ る こ と も 知 ら

れて い る (GORMLEY and DAVIES , 1991) 。 こ れ ら の こ と か

ら , 本耐性遺伝子が極 め て 広範囲の細菌 に 分布 し て い る

こ と が推察 さ れ る 。 こ れ ま で に報告の あ る 植物病原細菌

の ス ト レ プ ト マ イ シ ン 耐性遺伝子 の ほ と ん ど が slrA お

よ び slrB と 相 同 で あ り , い く つ か の 菌 で は 本耐性遺伝

子 が ト ラ ン ス ポ ゾ ン 上 に 存 在 し て い る こ と な ど か ら

(CHIOU and JONES , 1993 ; SUNDlN , 2002 ) , 本菌の耐性遺伝

子 も 圃場 に 存在す る ほ か の細菌か ら 獲得 し た も の と 考 え

ら れ る 。 現時点でス ト レ プ ト マ イ シ ン耐性菌 の 出 現 し て

い な い植物病原細菌 に お い て も , こ の よ う な耐性遺伝子

の獲得 に よ っ て 耐性菌が早期 に ま ん延す る 可能性が考 え

ら れ る 。

キ ウ イ フ ル ー ツ か い よ う 病菌の銅耐性遺伝子の 由来 に

つ い て は 明 ら か に な っ て い な い が, 銅イ オ ン は細菌 に と

っ て 有害で あ る と 同 時 に 必須の微量元素で も あ る た め ,

そ の代謝 に 関与す る 遺伝子 は そ れ ぞれの細菌 に 存在 し て

い る も の と 考 え ら れ る 。 実 際, P. syringae pv. lomalo

の銅耐性遺伝子 と 相同 な領域が銅感受性の P. cichorii,

P. fluorescens お よ び P. syringae pv. lomaω の染色体上

に も 検出 さ れて い る こ と か ら (COO応EY et al . , 1990) , 本

来, 細菌の正常 な代謝 と し て の銅 イ オ ン の取 り 込み と 排

出 に 関与す る 遺伝子が耐'性遺伝子へ と 変化 し た こ と が予

想 さ れ る 。

植物病原細菌 に お け る 薬剤耐性 は , そ の 多 く が プ ラ ス

ミ ド あ る い は ト ラ ン ス ポ ゾ ン 上 に 存在す る 耐性遺伝子の発現 に よ る も の で あ り , 耐性菌 の ま ん延 は 園場 に 存在す

る 腐生菌 な ど か ら の耐性遺伝子の伝達 に よ り 引 き 起 こ さ

れ る こ と が予想 さ れ る 。 こ の こ と か ら , 耐性菌対策 と し

て 耐性菌密度 を 圏場 レ ベ ルで い か に抑 え る か を 考 え る こ

と も 重要であ る と 恩わ れ る 。

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