新しいオノマトペの発見 溝部 真由1小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語4500...

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1 茨城キリスト教大学 文学部文化交流学科 2016 年度 卒業研究 新しいオノマトペの発見 溝部 真由 <目次> 1 章 はじめに 2 章 オノマトペとは 2.1 オノマトペとは 2.2 日本語オノマトペの特徴 2.3 日本語オノマトペに付加される語尾の特徴 3 章 オノマトペ収集調査 3.1 オノマトペ収集調査内容 3.1.1 オノマトペ収集調査対象 3.1.2 オノマトペ収集調査対象の選出 3.2 オノマトペ収集調査方法 3.2.1 オノマトペ収集調査の注意点及び補足 3.3 オノマトペ収集調査結果 4 章 オノマトペ()判別調査 4.1 オノマトペ()判別調査内容 4.2 オノマトペ()判別調査結果 4.2.1 辞典に掲載されていたオノマトペ() 4.2.2 辞典に掲載されていなかったオノマトペ() 4.3 「オノマトペとは言い切れないもの」の分析 4.3.1 オノマトペではないもの 4.3.2 辞典編纂側が同種と判断したオノマトペ 5 章 オノマトペ()判別再調査 5.1 オノマトペ()判別再調査内容 5.2 オノマトペ()判別再調査結果 5.2.1 助詞「と」の付加

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茨城キリスト教大学 文学部文化交流学科

2016年度 卒業研究

新しいオノマトペの発見

溝部 真由

<目次>

第 1章 はじめに

第 2章 オノマトペとは

2.1 オノマトペとは

2.2 日本語オノマトペの特徴

2.3 日本語オノマトペに付加される語尾の特徴

第 3章 オノマトペ収集調査

3.1 オノマトペ収集調査内容

3.1.1 オノマトペ収集調査対象

3.1.2 オノマトペ収集調査対象の選出

3.2 オノマトペ収集調査方法

3.2.1 オノマトペ収集調査の注意点及び補足

3.3 オノマトペ収集調査結果

第 4章 オノマトペ(仮)判別調査

4.1 オノマトペ(仮)判別調査内容

4.2 オノマトペ(仮)判別調査結果

4.2.1 辞典に掲載されていたオノマトペ(仮)

4.2.2 辞典に掲載されていなかったオノマトペ(仮)

4.3 「オノマトペとは言い切れないもの」の分析

4.3.1 オノマトペではないもの

4.3.2 辞典編纂側が同種と判断したオノマトペ

第 5章 オノマトペ(仮)判別再調査

5.1 オノマトペ(仮)判別再調査内容

5.2 オノマトペ(仮)判別再調査結果

5.2.1助詞「と」の付加

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5.2.2語末の促音「っ」の省略

5.2.3長音の母音(直前の音節の母音)表記

5.2.4長音の母音表記かつ語末の促音「っ」の省略

5.3既存のオノマトペの変種

5.3.1 既存のオノマトペの語末に促音「っ」が付加されたオノマトペ

5.3.2既存のオノマトペの語末に「―」長音が付加されたオノマトペ

5.3.3その他の変種

5.3.3.1 語末の撥音が省略されたオノマトペ

5.3.3.2 同じ音が連続しているオノマトペ

第 6章 新しいオノマトペ分析

6.1.1 「がこん」

6.1.2 「てっ」

6.1.3 「ぴきん」

6.1.4 「ぽう」

6.1.5 「わしゃわしゃ」

6.2 各新しいオノマトペの意味

6.2.1 「がこん」

6.2.2 「てっ」

6.2.3 「ぴきん」

6.2.4 「ぽう」

6.2.5 「わしゃわしゃ」

6.3 新しいオノマトペが表わす音・さま

第 7章 おわりに

参考文献

資料 1「オノマトペ収集調査対象作品一覧」

資料 2「オノマトペ(仮)判別調査結果」

注釈

添付資料「オノマトペ収集リスト」

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第 1章 はじめに

本稿の目的は、日本語の「新しいオノマトペ」を見つけ出すことである。「新しいオノ

マトペ」とは、一般的に使われているにも関わらずオノマトペ辞典に掲載されていない新

しい語基iをもつオノマトペのことを本稿では指している。

2015年に実施した食べ物に使用されるオノマトペの実態調査において、54種類のオノ

マトペを収集した。これらのオノマトペが本当にオノマトペか否かの確認をオノマトペ辞

典で行った結果、48種類がオノマトペであると確証を得られた。だが、5種類のオノマト

ペがすべての辞典に掲載されていないものであった。そのうちの 4種類は、既存のオノマ

トペを組み合わせたり、語末を変えたりしたオノマトペであり、企業側が作り出したオノ

マトペと推測できるものであった。残りの 1種類は「ぷにぷに」というオノマトペであ

る。一般的に使用されているであろう「ぷにぷに」というオノマトペが、オノマトペ辞典

に掲載されていなかったという結果は予想外であった。辞典に掲載されていなかった理由

の一つとして、近年になって生まれたオノマトペが挙げられる。このことから、「ぷにぷ

に」以外にも近年になって生まれた新しいオノマトペがあるのではないかと考えた。

まず、第 2章でオノマトペの概要に関して説明を行う。続いて、第 3章でオノマトペ収

集調査について、第 4章から第 5章にかけてオノマトペ(仮)判別調査を通して収集したオ

ノマトペの検討を行う。そして、第 6章では新しいオノマトペに関して述べる。

第 2章 オノマトペとは

本章では、はじめに「オノマトペ」という用語の定義に関して論じ、日本語オノマトペ

の特徴に関して論じる。

2.1オノマトペとは

まず、「オノマトペ」という用語の定義について論じる。オノマトペとは、擬音語(また

は、擬声語)・擬態語の総称である。文法的には副詞ii的な役割をする。

では、擬音語・擬態語とはなにか。『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』(以

下、日本語オノマトペ辞典)は、擬音語・擬態語を「ものの音・声などを表した語、音のな

い仕草や動作を音に表した語である。」1と定義している。小野正弘(2007)によれば、擬音

語・擬態語を大きく分けると 3つあるという。1つは、犬の鳴き声を表した「ワンワン」

やボールペンをノックする音を表した「カチカチ」など、人間の発声器官以外から出た音

を人間の声で表現したものである。2つ目は、人間の泣き声を表した「ワーン」やたくさ

んの人間が話す声を表した「ガヤガヤ」など、人間の発声器官から出した音声でひとつひ

とつの音に分解できない音を表わした言葉である。3つ目は、音のないもの、または聞こ

えないものに対して、その状況をある音そのものが持つ感覚で表現した言葉である。例と

しては、蝶が飛ぶさまを表した「ひらひら」や迫力をもって登場するさまを表した「バー

1小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.9

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ン」などを挙げている。前者の 2項は、主に擬音語を指しており、後者の 1項は擬態語を

主に指している2。

他にも、『暮らしのことば擬音・擬態語辞典』では、擬音語を「物音や声を日本語の発

音で写しとった言葉」とし、擬態語を「物の状態や様子を日本語の発音でいかにもそれら

しく写しとった言葉」としている3。また、『現代擬音語擬態語用法辞典』においては、擬

音語を「活字化できる音声の連続及び発音できる文字表記によって対象の音・声を表現し

たもので、一定の形と意味をもち、一定グループの人々の間で抽象的・普遍的に通用す

る」4ものとし、擬態語を「活字化できる音声連続及び発音できる文字によって対象の様子

を表現したもので、一定の形と意味をもち、一定のグループの人々の間で抽象的・普遍的

に通用する」5ものとしている。「一定グループの人々の間で抽象的・普遍的に通用する」

とあるように、オノマトペは、日本語話者の間で社会慣習的に決まっているものである。

したがって、その場限りの音の模倣や個人の創作表現は、厳密に言えばオノマトペとはい

えない。

これらのことから、擬音語とは、ものの音や声を日本語の発音で表現したものであり、

擬態語とは、音のないものの状態や動作を日本語の発音でものであると言える。よって、

これらを総称した言葉であるオノマトペは、音や声、音のないものの状態や動作を日本語

の発音で表現したものであり、日本語話者の間で社会慣習的に決まっているものである。

2.2 日本語オノマトペの特徴

田守(1999)は、日本語オノマトペの特徴として以下のように述べている。オノマトペの

基本音韻iii形は 1モーラivまたは 2モーラの 2種類であるとしたうえで、「促音v・撥音vi・

「り」・母音の長音vii化・反復を日本語オノマトペの特徴として挙げることができる」6と

述べている。

日本語オノマトペの音韻形態は大きく分けて 2種類あるという。1つは、「ふ(と)」や

「つ(と)」など 1モーラで構成されているものである。だが、1モーラのみ単独で使用さ

れることは稀であり、「ぱっ」や「ぱん」のように促音「っ」あるいは撥音「ん」が伴う

ことが一般的であるという。また、「ぱー」のように母音が長音化したり、これに促音や

撥音が伴った「ぱーっ」や「ぱーん」という形態も存在する。さらに、「しゅっしゅっ」

「ぽんぽん」「がーがー」のように反復した形態もあるという。もう1つは、「がば」や

「ぐい」などの 2モーラで構成されているものである。だが、促音「っ」あるいは撥音

「ん」、「り」が語末に伴われることが一般的である。また、「どっか」や「むんず」など 2

2小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 pp.10-12 3山口仲美編(2003)『暮らしのことば擬音・擬態語辞典』講談社 p.4 4飛田良文、浅田秀子(2002)『現代擬音語擬態語用法辞典』東京堂出版 p.vii 5飛田良文、浅田秀子(2002)『現代擬音語擬態語用法辞典』東京堂出版 pp.vii-viii 6田守育啓、ローレンス・スコウラップ(1999)『オノマトペ―形態と意味―』くろしお出

版 p.26

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モーラの間に促音や撥音が入ることも少数ではあるが存在する。さらに、「ばっさり」や

「ぼんやり」などのように 2モーラの間に促音あるいは撥音が入り、語末に「り」が伴う

形態も典型的な形態のひとつであるという。他にも、「ばたばた」や「きらきら」のよう

に 2モーラの反復形や「どたばた」や「がたんごとん」のような特殊な反復形などが挙げ

られている。

このように、日本語オノマトペは、1モーラあるいは 2モーラの語基に促音・撥音・

「り」のいずれかを伴うか、母音が長音化されたり、語基が繰り返されたりすることが一

般的である。

2.3 日本語オノマトペの付加される語尾の特徴

小野(2009)7は、オノマトペは語基につく語尾によってオノマトペが表現しているものが

変化すると述べている。その語尾というのは、促音の「っ」、撥音の「ん」、「り」、畳語viii

である。さらに長音の「―」も小野(2007)では挙げている。また、田守(1999)も同様にこ

れらに関して言及している。それぞれが表わしているものは以下の通りである。

語末に付加される促音の「っ」が表わす意味は以下の通りである。小野(2009)は、非常

に瞬間的におこなわれる、軽い動作や動きをとらえている感じである8と述べている。一

方、田守(1999)は、語末に付加される促音は、「瞬時性」「スピード感」「急な終わり方」9

を表しているとしている。例としては、「ぱらっ」「さっ」「ひらりっ」などが挙げられ

る。

語末に付加される撥音の「ん」が表わす意味は、以下の通りである。小野(2009)は、軽

い所作や動きの結果が余韻として残っているようなニュアンスを感じさせる10と述べてい

る。一方、田守(1999)は、語末に付加される撥音は、「共鳴」という音象徴ix的な意味を表

している11としている。例としては、「かたん」「かきんっ」「くるりん」などが挙げられ

る。

語末に付加される「り」に関して、小野(2009)は、一連の動作や状況をひとまとまりの

ものとして表現して、落ち着いたニュアンスを表す12と述べている。一方、田守(1999)

は、「ゆったりした感じ」ないしは「完了(ひと区切り)」13を表しているとしている。「うっ

かり」「きらり」「ことり」などが例として挙げられる。

7小野正弘(2009)『オノマトペがあるから日本語は楽しい』平凡社 8小野正弘(2009)『オノマトペがあるから日本語は楽しい』平凡社 p.26 9田守育啓、ローレンス・スコウラップ(1999)『オノマトペ―形態と意味―』くろしお出

版 p.27 10小野正弘(2009)『オノマトペがあるから日本語は楽しい』平凡社 p.27 11田守育啓、ローレンス・スコウラップ(1999)『オノマトペ―形態と意味―』くろしお出

版 p.29 12小野正弘(2009)『オノマトペがあるから日本語は楽しい』平凡社 p.26 13田守育啓、ローレンス・スコウラップ(1999)『オノマトペ―形態と意味―』くろしお出

版 p.27

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畳語が表わす意味は以下の通りである。小野(2009)は、今まさに続いている姿を表して

いる14と述べている。一方、田守(1999)は、畳語という言葉でなく「反復」を用いている

が、「音や動作の繰り返しないしは連続を表す」15と述べている。例としては、「ぱらぱ

ら」「とんとん」「きらきら」などが挙げられる。

長音の「―」に関して小野(2007)は、「音や動作・状況などがある程度続くということを

表現するもの」16であるの述べている。一方、田守(1999)は、母音の長音化という言葉を

用いて、擬声語・擬態語に見られる場合を「自然界の物理的に長い音を描写するのに用い

られる」と述べ、擬態語の場合は、「強調」を表している17という。「じわーり」「とろー

り」「しゅーん」などが例として挙げられる。

これらをまとめると以下の通りである。語末に付加される促音「っ」は、音や動作・状

況などが瞬間的に、素早く行われ終了するさまを表し、語末に付加される撥音「ん」は、

音や動作・状況などが終わったあとの余韻が残るさまを表している。さらに、語末に付加

される「り」は、音や動作・状況などをひとまとまりのものとして表現し、ゆったりした

感じを表していると言える。また、畳語または反復は音や動作・状況の続いているさまや

繰り返しているさまを表し、長音は音や動作・状況などが続くさまや強調を表していると

いうことである。このように、語末に付加されるものによってオノマトペが表現するもの

が異なっているのである。

第 3章 オノマトペ収集調査

新しい語基を持つオノマトペを見つけ出すために、現在使用されているオノマトペの収

集を行った。本調査では、オノマトペの使用状況がわかりやすく、幅広いジャンルのオノ

マトペを多く収集できることから日本語の漫画を対象にオノマトペの収集を行った。本章

では、オノマトペの収集調査内容とその結果について述べる。

3.1 オノマトペ収集調査内容

3.1.1オノマトペ収集調査対象

本調査では、日本語で出版されている漫画を対象に日本語表記のオノマトペの収集を行

った。幅広いジャンルのオノマトペを一度に多く収集でき、オノマトペの使用状況がわか

りやすいという 2点から漫画を調査対象とした。調査対象とした漫画は、不特定多数の人

が読むことができ、読者層が限定されていない全年齢向けの商業漫画xとした。これは、一

般的に使われるオノマトペであるという判断材料のひとつに成り得るためである。また、

14小野正弘(2009)『オノマトペがあるから日本語は楽しい』平凡社 p.27 15田守育啓、ローレンス・スコウラップ(1999)『オノマトペ―形態と意味―』くろしお

出版 p.30 16小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.24 17田守育啓、ローレンス・スコウラップ(1999)『オノマトペ―形態と意味―』くろしお

出版 p.29

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現在はインターネット上やスマートフォン向けアプリなど多様な媒体での漫画作品がある

が、本調査では紙媒体として出版された漫画を対象としている。

3.1.2 調査対象の選出

以上を踏まえて、調査対象とする漫画作品の選出を行う。選出方法は、無作為ではある

が、作品の掲載雑誌やあらすじを参考にした。対象読者層、作品ジャンルに偏りがないよ

う考慮しつつ、無作為に 50作品を本調査の調査対象として選出をした(詳細は資料 1「オ

ノマトペ収集調査対象作品一覧」を参照)。これら選出した 50作品は、使用されているオ

ノマトペに偏りが出ないようすべて作者が異なるようにした。

多くの漫画作品は複数巻に渡るものである。そのため、選出した各作品の中からさらに

1冊を無作為に選び、その 1冊から 1話を選び収集調査を行った。この際、使用されてい

るオノマトペの種類の多さと作品ジャンルにあったオノマトペの使用を考慮した。料理漫

画を例に挙げると、調理シーンがあるか、そのシーンでオノマトペが使用されているかど

うかの確認を行った。

3.2オノマトペ収集調査方法

調査方法は、各漫画作品 1話ずつ調査し、10種類以上のオノマトペを収集する。作品に

よってオノマトペの使用率が異なるため、最低でも 1作品で 10種類収集するという基準

を設けた。1話分で収集したオノマトペの数が 10種類未満の場合は、同じ巻からさらに 1

話を追加して調査を行った。これを各作品 10種類以上のオノマトペが収集できるまで話

数を追加して調査を行う。また、作品によっては、話数の明確な区切りがない場合があ

る。その場合は、20ページを一区切りとして調査を行った。20ページで 10種類以上のオ

ノマトペが収集できなかった場合は、10種類以上のオノマトペが収集できるまでページ数

を追加していった。ページ数を追加したとき、10種類目のオノマトペを収集した時点で終

了するのではなく、10種類目のオノマトペがあるページのすべてのオノマトペを収集し

た。オノマトペを収集する際は、オノマトペだけでなくその使用例の記録もした。

3.2.1オノマトペ収集調査の注意点及び補足

本調査は、オノマトペの種類とその使用状況が収集目的であるため、カタカナ表記かひ

らがな表記かの違いがあってもオノマトペは同一のものとして収集を行った。また、辞典

に掲載されている形であるひらがな表記に統一して記録している。ただし、「う」に濁点

がついた「ヴ」は、本来日本語にないものであるため、カタカナ表記としている。

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三点リーダーxiは記号であるため、本調

査には無関係なものとして扱った。例え

ば、『あさきゆめみし』では「す…っ」(図

1)、『ガラスの仮面』では「ざわ…」が出

てくる。(図 2)この場合、三点リーダーを

無視して「す…っ…」は「すっ」、「ざわっ

…」は「ざわ」と判断した。同様の理由で

感嘆符「!」や疑問符「?」などの記号も無

関係なものとしている。

促音や拗音でない音の小文字は、大文字と

して扱っている。したがって、大文字と小文字

による違いは、異なる表記であっても同一のオノ

マトペであるとして判断をした。例えば、『ジョ

ジョの奇妙な冒険』において「ぐおぉん」が出て

くる。(図 3)小文字で書かれている「お」は拗音や

促音の小文字ではないため、「ぐおおん」と判断し

ている。ただし、「オノマトペの収集リスト」上で

は、大文字と小文字で統一せず漫画内で使用され

ていたそのままの形で記録している。

オノマトペは、語基を 2回以上繰り返すこと

が可能である。この語基の反復は第 2章で述べ

たように、音や動作の繰り返しあるいは連続性を表している。よって、「かたかたかた」

や「どきんどきんどきん」のように異なる 2音以上のものが 2回以上繰り返されている場

合は、オノマトペの表わす音やさまが繰り返しあるいは連続していると捉えた。したがっ

て、反復は 2回までとして記録した。例えば、『少年ノート』で、「ぶんぶんぶん」という

オノマトペが出てくる。(図 4)このオノマトペは首を振っているさ

まを表しており、語基は「ぶん」である。首を振るという動作が繰

り返されているさまを表すために「ぶん」が反復して使用されてい

ると捉えた。したがって、「ぶん」が 2回反復した形の「ぶんぶ

ん」として記録している。だが、「たたた」や「ばばばば」など同

一の1音のみが連続で続く場合は、区切りが不明確で語基の推測が

困難である。語基が 1音の「た」であると仮定すると反復形は「た

た」であり、語基が 2音の「たた」であると仮定すれば反復形は

「たたたた」である。したがって、同じ 1音のみが連続するのは 4

回までとし、5回以上同じ音が続くものは、5回表記でまとめるこ

図 1 『あさきゆめみし』5巻 p.20

図 2 『ガラスの仮面』14巻 p.11

図 4『少年ノート』

6巻 p.89

図 3『ジョジョの奇妙な冒険』10巻 p.

96

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9

ととした。上記の例外を除き、少しでも形が異なれば別の種類のオノマトペとして収集を

行う。

以上のことを踏まえたオノマトペ収集調査の手順は以下の通りである。

①調査対象とする漫画作品の選出

②選出した各作品から 1冊を無作為に選出し、調査する 1話を決定

③オノマトペの収集とその使用例の収集

3.3オノマトペ収集調査結果

調査した漫画作品 50作品のうち収集したオノマトペの総個数は 1559個であった。ま

た、オノマトペの種類としては 945種類であった(詳細は、添付資料「オノマトペ収集リ

スト」を参照)。同じ形のオノマトペが同じ作品内で 2回以上出てきた場合、同じ使用例で

あれば1つに統一をした。また、同じオノマトペであっても使用例が異なる場合、個数と

しては異なるものとして扱った。例え

ば、『星屑クライベイビー』内に、風

で木々が揺れているさまを表した「ざ

わざわ」(図 5)と大勢の人々が話して

いるさまを表した「ざわざわ」(図 6)

が出てくる。この場合、同じ「ざわざ

わ」であっても「ざわざわ」の使用状

況が異なるため区別した。

収集したオノマトペの中には、作者

が独自に創作したものや音の模倣をし

ただけのその場限りのものが含まれて

いたり、そもそもオノマトペでないも

のがあったりする可能性がある。だ

が、本調査の現段階では収集したものがオノマトペであると断言することができない。し

たがって、本調査で収集したオノマトペは「オノマトペ(仮)」とする。

第 4章 オノマトペ(仮)判別調査

収集したオノマトペのなかには、ただ音を模倣した表現や作者個人の創作表現であるも

のが含まれている可能性がある。そのため、オノマトペ辞典を用いて収集したオノマトペ

(仮)がオノマトペであるかどうか判別調査を行った。

4.1オノマトペ(仮)判別調査内容

本調査では、オノマトペ(仮)を本調査で「オノマトペ」と「オノマトペとは言い切れな

いもの」のどちらか 2つに判別する。判別調査対象は、オノマトペ収集調査で収集したオ

(左)図 5『星屑クライベイビー』p.13

(右)図 6『星屑クライベイビー』p.36

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ノマトペ(仮)である。945種類のオノマトペ(仮)の中から、2作品以上で使用されていた 24

1種類のオノマトペ(仮)を判別調査対象とする。作者が独自で創作したその場限りの表現を

避けるため、2作品以上のオノマトペ(仮)に判別調査対象を絞った。判別調査で使用した辞

典は『擬音語擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』(以下、日本語オノマトペ辞典)『現代

擬音語擬態語用法辞典』『暮らしのことば 擬音・擬態語辞典』の 3冊である。各辞典に

関して簡単に説明をする。

『日本語オノマトペ辞典』は、2007年に小学館から出版されたオノマトペ辞典である。

見出し語としての収録語数は 4060語である。判別調査に使用する 3冊の辞典の中で最も

新しく、さらに収録語数が最も多い辞典である。『暮らしのことば擬音・擬態語辞典』

は、2003年に講談社から出版されたオノマトペ辞典である。日本語の中から日常よく使わ

れるオノマトペを約 2000語を収録している。『現代擬音語擬態語用法辞典』は、2002年

に東京堂出版から出版されたオノマトペ辞典である。約 2200語を現代日本語のなかから

選定し、収録している。以上、3冊のオノマトペ辞典を用いて判別調査を行う。

調査方法としては、各オノマトペ(仮)を見出し語xiiとして、または見出し語ではないが類

義語xiiiとして掲載されているか辞典を引いて確認を行う。この際、辞典に掲載されている

語の形とオノマトペ(仮)の語の形が完全一致することを条件とした。また、本調査では語

の形からオノマトペか否か判別することが目的であり、オノマトペそのものが表わす意味

の内容に関しては、判別材料にしていない。この結果から、辞典に掲載されていたオノマ

トペ(仮)を「オノマトペ」、辞典に掲載されていなかったオノマトペ(仮)を「オノマトペと

は言い切れないもの」と判別する。

4.2オノマトペ(仮)判別調査結果

本調査では、作者個人の創作表現を避けるために 2作品以上に使用されていた 241種類

のオノマトペ(仮)に絞り、前述した 3冊のオノマトペ辞典で調査を行った。その結果、辞

典に掲載されており、「オノマトペ」であるといえるものが 193種類であり、すべての辞

典に掲載されていなかったオノマトペ(仮)が 48種類であった。これらについて詳しく述べ

ていく。

4.2.1辞典に掲載されていたオノマトペ(仮)

ここでの「辞典に掲載されていた」とは、見出し語としてはもちろんのこと、見出し語

としては掲載されてはいないが、類義語として掲載されている場合も「辞典に掲載されて

いた」としている。また、3冊すべての辞典に掲載されていた場合も 1冊のみの辞典に掲

載されていた場合でも、掲載冊数に関わらず「辞典に掲載されていた」としている。

オノマトペ辞典に掲載されていたオノマトペは、193種類であった。そのうち、すべて

の辞典に見出し語として掲載されていたオノマトペ(仮)は、「ばっ」や「ざわざわ」など 9

9種類であった。すべての辞典に見出し語または類義語として掲載されていたオノマトペ

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(仮)は、「だっ」や「どさっ」などの 27種類であった。他、2冊の辞典に掲載されていた

オノマトペ(仮)は「がちゃ」や「たっ」など 37種類、1冊の辞典に掲載されていたオノマ

トペ(仮)は「よろ」や「ぼそ」などの 30種類であった。

以上、これらの 193種のオノマトペ(仮)は、辞典に掲載されていたことからオノマトペ

であると確証を得ることができた(詳細は、資料 2「オノマトペ(仮)判別調査結果」を参

照)。

4.2.2辞典に掲載されていなかったオノマトペ(仮)

次に辞典に掲載されていなかったオノマトペ(仮)について述べる。ここでの「辞典に掲

載されていなかった」とは、3冊すべての辞典において見出し語としてはもちろんのこ

と、類義語としても掲載されていなかったことを指している。辞典に掲載されていなかっ

たオノマトペ(仮)は、「すう」「がこん」などの 48種類であった。この 48種類のオノマト

ペ(仮)は、オノマトペであるとは断言できないことと同時に、現段階ではオノマトペでは

ないとも言い切ることもできない。これらのオノマトペ(仮)は、既存のオノマトペが少し

形を変えたもの、または新しい形のオノマトペである可能性もある。このことから、48種

類のオノマトペ(仮)は「オノマトペとは言い切れないもの」と判別した。オノマトペとは

言い切れないオノマトペ(仮)は、以下の通りである。(表 1)

表 1 オノマトペとは言い切れないもの

4.3「オノマトペとは言い切れないもの」の分析

48種類のオノマトペ(仮)がオノマトペではないのか、それとも、新しい形のオノマトペ

なのかどうか分析を行う必要がある。

4.3.1オノマトペではないもの

オノマトペとは、前述したように、ものの音や声、音のないものの状態や動作を日本語

の発音で表現した副詞のひとつである。この定義から、オノマトペとは言えないオノマト

ペ(仮)が 1種類あった。それは、3作品に使用されていた「しーっ」である。この「しー

っ」は副詞ではなく感動詞であるためオノマトペではないことがわかった。感動詞とは、

『研究社日本語教育事典』によれば、単独で使われ、活用をせず、述語や修飾語や補語xiv

がこん きい ぎい きいいん きいっ ぎし ぐ くすぐっと ごおおお ごおおおお さあ ざあ ざああああ ざざ しーっじわ す すう ずずー すと そー たたた だだだ

だんっ ちちち ちゃり てっ どおおおん どおん どす とんっどんっ ぱ ばあーっ ぱか ぱら ばんっ ぱんっ ぴきんびくう ぷしゅー ぽう ぼーっと わあああ わあっ わくっ わしゃわしゃ

オノマトペとは言い切れないもの

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等にならず、主に、発話の時点と場面での話し手の心的態度や認知状態を表す語18のこと

である。例えば、「あ」「もしもし」「いいえ」「ねえ」「こら」「おはよう」等が感動詞にあ

たる。

「しーっ」が使用されていた『とつくにの少女』と『クジラの子

らは砂上に歌う』では、「しーっ」は静かにするよう促す意味で単

独で使用されていた。(図 7)さらに『きらきら☆迷宮』では「しーっ

ありすくん静かに!見ててごらん…」19と台詞内で使用されてい

た。(図 8)こちらも、前述の 2作品と同様に、聞き手に静かにする

よう促す意味で使用されている。これらはすべて他の語を修飾する

ために使用されておらず、独立していた。また、『新明解国語辞典

第七版』によると、「「静かにしろ」という意味で、まわりの人に

かける言葉。」20と記述され、感動詞であることが明記されていた。

この記述は「しーっ」ではなく「しっ」ではあるが、この文の後

に、「この場合は、「しーっ」と伸ばして、息だけの音になることが

多い」21と続いている。つまり、「しっ」と「しーっ」は同じという

ことである。以上のことから、「しーっ」はそもそも感動詞であるた

めオノマトペではないという確証を得た。

4.3.2辞典編纂側が同種と判断したオノマトペ

『日本語オノマトペ辞典』と『現代擬音語擬態語用法辞典』にお

いて、見出し語の表記に関して以下の点が記述されていた。

・助詞「と」を伴わない形

・語末の促音「っ」を伴う形

・長音は音引き「―」を用いた形

見出し語に関して、『日本語オノマトペ辞典』は「オノマトペは多く「と」を伴って用

いられるが、本辞典では原則として、「と」の付かない形を見出し語とした。」22と記述さ

れていた。また、『現代擬音語擬態語用法辞典』でも、「「さっと」などのように、「と」が

付くことが通常の語でも、「と」の付かない形を見出し語とした。」23と記述している。こ

のように、この 2冊の辞典は助詞の「と」を伴わない形で見出し語を掲載していることが

18近藤安月子、小森和子編(2012)『研究社日本語教育事典』研究社 pp.184-185 19おおばやしみゆき(2001)『きらきら☆迷宮』2巻 p.52 20山田忠雄、柴田武 [ほか] 編(2012)『大きな活字の新明解国語辞典 第七版』三省堂

p.639 21山田忠雄、柴田武 [ほか] 編(2012)『大きな活字の新明解国語辞典 第七版』三省堂

p.639 22小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.29 23飛田良文、浅田秀子(2002)『現代擬音語擬態語用法辞典』東京堂出版 p.xv

図 7『とつくにの少

女』1巻 p.91

図 8『きらきら☆迷

宮』 2巻 p.52

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明らかである。つまり、これらの辞典編纂側は助詞「と」が伴った形のオノマトペと助詞

「と」が伴わない形のオノマトペは同じオノマトペとしているのである。

さらに、語末の促音「っ」に関しては『日本語オノマトペ辞典』は、「語末の促音

「っ」については、「うか」「うかっ」「ちら」「ちらっ」などのように意味としてまとめら

れるものは、「っ」を伴った形を見出し語にした。ただし、「びく」「びくっ」のように、

促音の有無によって、語義xvに違いが生じる場合などは、両方の語形を見出し語に立てた

場合がある。」24と記述されていた。また、『現代擬音語擬態語用法辞典』では、「「さー」

と「さーっ」の両方の表記が可能な語形については、「さー(っ)」の形で統一した。」25と記

載している。このように、2冊の辞典は語義に違いがなければ語末の促音「っ」を伴った

形で統一し掲載していることが明らかである。つまり、助詞の「と」と同様に、語義に違

いがない場合は、語末の促音「っ」を伴う形のオノマトペと語末の促音「っ」が伴わない

形のオノマトペは同じオノマトペとしている。

両辞典は、長音に関しても記述している。『日本語オノマトペ辞典』では、長音を表す

場合は、長音符号「―」を用いると記述した上で、「長音符号「―」は、直前の仮名の母

音と同じように扱う。」26と記述している。『現代擬音語擬態語用法辞典』では、「長音は音

引きで統一した」27と記述している。音引きとは、長音符号の「―」のことである。この

ように、直前の音節xviの母音の長音化は長音符号「―」で表記している。つまり、直前の

音節の母音の長音化したオノマトペと長音符号「―」を用いたオノマトペは、同じものと

している。『暮らしのことば 擬音・擬態語辞典』では、凡例での記述はされていなかっ

たが、用例を見ると他 2冊の辞典と同様であることがわかる。

辞典編纂側は、助詞「と」と語末の促音「っ」の有無、長音の表記の仕方に関しては、

形は異なれど語義に違いがなければ、同じオノマトペとしていることが明らかになった。

だが、これまで実施した調査では、3.2.1で述べた例外を除き少しでも形が異なる場合は別

の種類のオノマトペとしている。このことから、辞典に掲載されていなかったオノマトペ

(仮)のなかに、辞典掲載のオノマトペがある可能性が生まれた。助詞「と」を伴わない

形、語末の促音「っ」を伴う形、長音は「―」表記の 3点を考慮し、オノマトペではなく

感動詞であることが判明した「しーっ」を除いた残りの 47種類のオノマトペ(仮)を対象に

オノマトペ(仮)判別調査の再調査を実施する必要性が生まれた。

24小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.29 25飛田良文、浅田秀子(2002)『現代擬音語擬態語用法辞典』東京堂出版 p.xv 26小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.29 27飛田良文、浅田秀子(2002)『現代擬音語擬態語用法辞典』東京堂出版 凡例

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第 5章 オノマトペ(仮)判別再調査

前述したように、辞典編纂側が同じオノマトペとしてまとめているものを本調査では別

のオノマトペとしている可能性が判明した。よって、オノマトペ(仮)の判別調査の再調査

を行うことにした。ここからは、オノマトペ(仮)判別調査に関して論じる。

5.1オノマトペ(仮)判別再調査内容

再調査の調査方法は、オノマトペ(仮)判別調査と同様に行い、使用辞典も同様に『日本

語オノマトペ辞典』『暮らしのことば 擬音語擬態語辞典』『現代擬音語擬態語用法辞典』

の 3冊を使用する。再調査では以下の手順のように調査を行う。

①語基を推測する。

②推測した語基をもとに、助詞「と」を伴わない形、促音「っ」を伴う形、長音符号

「―」で表記した形で辞典を引く。

③語義に違いがないか辞典のオノマトペの意味とオノマトペ(仮)の漫画作品内の使用例

を比較する。

5.2オノマトペ(仮)判別再調査結果

再調査の結果、新たに 28種類のオノマトペ(仮)をオノマトペであるという確証を得るこ

とができた。以下、28種類のオノマトペ(仮)について詳しく述べていくとする。

5.2.1助詞「と」の付加

まずは、助詞「と」を伴う形のオノマトペ(仮)について述べる。助詞「と」を伴う形の

オノマトペ(仮)は、「ぐっと」と「ぼーっと」の 2種類あった。例として 3作品に使用され

ていた「ぼーっと」をあげて説明をしていくとする。

まず、「ぼーっと」の語基は、助詞と思われる語末の「と」を除いた「ぼーっ」である

と推測し、辞典を引いた。その結果、「ぼーっ」は、すべての辞典に掲載されていた。

次に、使用例と辞典での意味が一致するかどうか確認も行った。その結果、辞典の意味

と漫画内の使用例は、大きく意味が異なることはなかった。オノマトペ(仮)の「ぼーっ

と」は、漫画作品内で以下のように使用されていた。『Golondrina-ゴロンドリーナ-』で、

登場人物の台詞内に「おいっ、どうした

ボーっとして。お前の番だ。」28と「ぼー

っと」が使用されていた。(図 9)

この場面は、考え事をしている人物に

対してこの台詞の発話者が声をかける場

面である。つまり、ここでの「ぼーっ

と」は、考え事をしている人物の様子を

28 えすとえむ(2013)『Golondrina-ゴロンドリーナ-』3巻 小学館 p.50

図 9『Golondrina-ゴロンドリーナ-』3巻 p.50

図右のふきだし

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表したオノマトペ(仮)である。また、『O

verDrive』においても登場人物の台詞の

「頭!ボーッとすんな!」29に「ぼーっ

と」が使用されていた。(図 10)

この場面は、試合中に余計な考えに意

識が向いている自分に対して叱責する場

面である。つまり、ここでの「ぼーっ

と」は、他の物事に気を取られ目の前の

物事に集中できていない人物の様子を表

したオノマトペ(仮)である。『クジラの

子らは砂上に歌う』でも登場人物の台詞

の「ぼーっとするな」30に使用されてい

た。呆然と立ち尽くす人物に対してこの

台詞の発話者が話しかける場面である。

(図 11)つまり、ここでの「ぼーっと」は呆然と立ち尽くしている人物を表している。

以上のことから、漫画内で使用されていた「ぼーっと」は、他の物事に気を取られてた

り、意識がはっきりしていなかったりしているさまを表しているオノマトペ(仮)である。

では、辞典に掲載されていたオノマトペ「ぼーっ」とオノマトペ(仮)の「ぼーっと」は

一致するのか、助詞「と」を伴うことで語義が異なるのだろうか。『日本語オノマトペ辞

典』では、「意識が抜けたりとんだりしているさま。ものの形が不明瞭に見えるさま」31を

「ぼーっ」の意味の 1つとして挙げている。また、『暮らしのことば擬音・擬態語辞典』

では、「心が他のものに奪われたり、意識が働かなかったりして、不活発で反応が鈍い様

子」32と「ぼーっ」の意味の 1つとして挙げられていた。両者を比較してみると、「ぼーっ

と」の漫画内の使用例と「ぼーっ」の辞典の意味に大きな差異がないということがわか

る。以上のことから、オノマトペ(仮)の「ぼーっと」は、助詞の「と」を伴った形のオノ

マトペの「ぼーっ」であるということがわかる。つまり、オノマトペ(仮)の「ぼーっと」

はオノマトペであり、オノマトペの「ぼーっ」と同じ種類のオノマトペである。同様に、

オノマトペ(仮)の「ぐっと」もオノマトペの「ぐっ」も意味の違いに大きな差がないこと

からオノマトペであるということが調査からわかった。これら 2種類のオノマトペ(仮)

は、助詞の「と」が伴っているだけであり、オノマトペであ

るといえる。これらのオノマトペは右の通りである。(表 2)

5.2.2語末の促音「っ」の省略

29 安田剛士(2008)『OverDrive』16巻 講談社 p.199 30 梅田阿比(2014)『クジラの子らは砂上に歌う』3巻 秋田書店 p.157 31 小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.431 32 山口仲美編(2003)『暮らしのことば擬音・擬態語辞典』講談社 p.498

図 10『OverDrive』16巻 p.199

図中左のふきだし

図 11『クジラの子らは砂上に歌う』3巻 p.157

図中央コマ内のふきだし

ぐっと ぼーっと

助詞「と」を伴う形

表 2 助詞「と」を伴う

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次に、語末の促音「っ」を伴わない形のオノマトペ(仮)について述べる。「す」や「ぱ

か」などの 11種類のオノマトペ(仮)は語末の促音の「っ」を省略したものである可能性が

あると考えた。そこで、オノマトペ(仮)の判別再調査を行い、漫画作品内での使用例と辞

典の意味を照らし合わせた。その再調査の結果を 4作品に使用されていた「す」を例に挙

げて述べていくとする。

まず、「す」の語基はそのまま「す」であると推測した。その上で、語末に促音「っ」

を付加し「すっ」とした。この「すっ」が掲載されているか辞典を引いた。その結果、

「すっ」はすべての辞典に掲載されていた。

次に、漫画作品内での「す」の使用例を見てい

くとする。「す」は、漫画作品内で以下のように

使用されていた。『死にたがりと雲雀』では、一

戦を交える場面で、相手の攻撃を素早く避けるさ

まを表すのに「す」が使用されていた。(図 12)ま

た、『おおきく振りかぶって』では野球の試合中、

打者が野球のバットを構えるさまを表すのに「す」が使用

されていた。(図 13)オノマトペ(仮)の「す」は、物音をたて

ずに、静かにもしくは素早く動作するさまを表わすのに使

用されていることがわかる。他 2作品も素早く静かに動く

さまを表す状況で使用されていた。以上のことから「す」

は、静かに、素早く動くさまを表すときに使用されるオノ

マトペ(仮)であるということがわかる。

では、辞典に掲載されていたオノマトペの「すっ」とオ

ノマトペ(仮)の「す」は一致するのだろうか。『日本語オノマトペ辞典』では、「すばや

く、静かに、ものごとが進行または変化するさま。そのようにものごとを行うさま。」33と

「すっ」の意味の 1つとして記述されていた。『暮らしのことば 擬音語擬態語辞典』で

は「素早く手際よく、または静かに物事が進んだり行動したりする様子。」34と意味の 1つ

として挙げられていた。

両者を比較してみると、「す」の漫画内の使用例と「すっ」の辞典の意味に大きな差異

がないということがわかる。以上のことから、オノマトペ(仮)の「す」は、語末の促音

「っ」を伴う形の「すっ」であるということがわかる。つまり、オノマトペ(仮)の「す」

はオノマトペであり、オノマトペの「すっ」と同じ種類のオノマトペである。同様に、

「そー」や「ぱか」などの他 10種類のオノマトペ(仮) も、語末の促音の有無で語義が大

きく異なることがないということが再調査で判明した。つまり、これら 11種類のオノマ

33小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.206 34山口仲美編(2003)『暮らしのことば擬音・擬態語辞典』講談社 p.252

図 12『死にたがりと雲雀』2巻 p.41

図 13『おおきく振りかぶっ

て』 22巻 p.12

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トペ(仮)は、語末の促音「っ」を省略したオノマトペ(仮)であり、オノマトペであるといえ

る。これらのオノマトペは以下の通りである。(表 3)

5.2.3長音の母音(直前の音節の母音)表記

続いて、長音の母音表記のオノマトペ(仮)について述べる。「きい」や「どおん」などの

9種類のオノマトペ(仮)は、長音を直前の音節の母音で表記したものである可能性があると

考えた。そこで、オノマトペ(仮)の判別再調査を行い、漫画作品内での使用例と辞典の意

味を照らし合わせた。その再調査の結果を 2作品に使用されていた「きい」を例に挙げて

述べていくとする。

まず、「きい」の「い」の部分は直前の音節である「き(ki)」の母音「い(i)」を長音化し

たものと考えた。したがって、語基は「きー」であると推測した。この「きー」が掲載さ

れているか辞典を引いた。その結果、「きー」はすべての辞典に掲載されていた。

次に、漫画作品内での「きい」の使用例を

見ていくとする。「きい」は、漫画作品内で

以下のように使用されていた。『千代に八千

代に』では、回転式の椅子が回転した時のか

ん高い音を表すのに「きい」が使用されてい

た。(図 14)また、『午前 3時の無法地帯』で

は、ドアを開けた時の軋むようなかん高い音

を表すのに「きい」が使用されていた。(図 15)つま

り、オノマトペ(仮)の「きい」は、ものを動かした

ときに発するかん高い音を表わすのに使用されてい

ることがわかる。

では、辞典に掲載されていたオノマトペの「き

ー」とオノマトペ(仮)の「きい」は一致するのだろ

うか。『日本語オノマトペ辞典』では、「かたいもの

がこすれ合ってたてる、かん高い音。また、そのよ

うな声。」35と「きー」の意味の 1つとして記述され

ていた。『暮らしのことば擬音・擬態語辞典』で

は、「きー」の意味の 1つとして「かたい物がこす

れ合ったり、きしんだりしてたてるかん高い音。」36が挙げられていた。漫画内の使用例と

35小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.58 36山口仲美編(2003)『暮らしのことば擬音・擬態語辞典』講談社 p.82

図 15『午前 3時の無法地帯』3巻

p.124

図中左上コマ内

図 14『千代に八千代に』p.28

表 3 語末の促音「っ」の省略一覧

ぎし ぐ くす ざざ じわ すそー どす ぱ ぱか ぱら

語末の促音「っ」の省略

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辞典の意味の両者を比較してみると、「きい」と「きー」に大きな差異がないということ

がわかる。以上のことから、オノマトペ(仮)の「きい」は、長音符号「―」を用いず、直

前の音節である「き」の母音の「い」で長音を表しているといえる。つまり、オノマトペ

(仮)の「きい」はオノマトペであり、オノマトペの「きー」と同じ種類のオノマトペであ

る。

同様に、「ぎい」や「どおん」などの他 8種類のオノマトペ(仮) も、漫画作品内の使用

例と辞典の意味に大きな差異がないということが再調査で判明した。つまり、これら 9種

類のオノマトペは、長音を直前の音節の母音で表したオノマトペ(仮)であり、オノマトペ

であるといえる。これらのオノマトペは以下の通りである。(表 4)

5.2.4長音の母音表記かつ語末の促音「っ」の省略

最後に、これまで述べてきた語末の促音「っ」と長音の母音表記の省略がどちらもされ

ていると思われるオノマトペ(仮)が 6種類あった。これらのオノマトペ(仮)の再調査の結果

を 5作品に使用されていた「すう」を例に挙げて述べていく。

まず、「すう」の「う」の部分は直前の音節である「す(su)」の母音「う(u)」の部分で

あり、長音を表していると考えた。したがって、語基は「すー」であると推測した。この

「すー」が掲載されているか辞典を引いた。その結果、「すー」の形では、辞典に掲載さ

れていなかった。だが、「すー」の語末に促音「っ」が付加されたオノマトペ「すーっ」

は、すべての辞典に掲載されていた。このことから、オノマトペ(仮)「すう」は長音が母

音表記され、かつ語末に促音「っ」が付加されたオノマトペ「すーっ」ではないかと推測

した。したがって、オノマトペ(仮)「すう」の漫画内の使用例とオノマトペ「すーっ」の

辞典の意味の比較を行った。

まず、漫画作品内での「すう」の使用例を見ていく

とする。「すう」は、漫画作品内で以下のように使用

されていた。『Golondrina-ゴロンドリーナ-』では、

登場人物が息を吸う音、または、そのさまを表すのに

使用されていた。(図 16)他 2作品が同様の使い方であ

った。また、『ドラえもん』では、人間から切り離された

「かげ」が捕まえようとする登場人物たちの間を静かに

すり抜けるさまを表すのに「すう」が使用されていた。

(図 17)さらに、『ムヒョとロージーの魔法律相談事務

所』では、何かが静かに現れるさまを表す際に「すう」

図 16『Golondrina-ゴロンドリー

ナ-』 3巻 p.108

図 17『ドラえもん』1巻

p.120

きい ぎい きいいん きいっ どおおおんどおん ばあーっ わあああ わあっ

長音の(直前の音節の)母音表記

表 4 長音の(直前の音節の)母音表記

きい ぎい きいいん きいっ どおおおん

どおん ばあーっ わあああ わあっ

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が使用されていた。(図 18,19)

以上のことから、オノマトペ

(仮)の「すう」は、息を吸う音

またはさまを表したり、静かな

動作を表す際に使用されると考

えられる。

では、辞典に掲載されていた

オノマトペの「すーっ」とオノ

マトペ(仮)の「すう」は一致するのだろうか。『日本語オノマトペ辞典』では、「息を長

く、静かに吸い込む音。空気などがもれる音。また、そのさま。」「静かに、ものごとが進

んだり変化したりするさま。」37が「すーっ」の意味として挙げられていた。『現代擬音語

擬態語用法辞典』では、「空気が狭いところをゆっくり通過する音や様子を表す。」「かな

りの早さで停滞なく進行する様子を表す。」38が挙げられていた。漫画内の使用例と辞典の

意味の両者を比較してみると、「すう」と「すーっ」に大きな差異がないということがわ

かる。以上のことから、オノマトペ(仮)の「すう」は、長音符号「―」を用いず、直前の

音節である「す」の母音の「う」で長音を表しており、かつ語末の促音「っ」を省略して

いるといえる。つまり、オノマトペ(仮)の「すう」はオノマトペであり、オノマトペの

「すーっ」と同じ種類のオノマトペである。同様に、「さあ」や「ごおお」などの他 5種

類のオノマトペ(仮) も、漫画作品内の使用例と辞典の意味に大きな差異がないということ

が再調査で判明した。つまり、これら 6種類のオノマトペは、長音を母音で表し、語末の

促音「っ」を省略したオノマトペ(仮)であり、オノマトペであるといえる。これらのオノ

マトペは以下の通りである。(表 5)

以上のように、助詞の「と」や語末の促音「っ」を伴うものと伴わないものでも、長音

を母音で表記したものも長音符号の「―」で表記したものでも、同じオノマトペであると

言えることができた。さらに、長音を母音で表記し語末の促音「っ」を省略したものと長

音を「―」で表記し語末の促音「っ」が伴うものは同じオノマトペであるということがで

きた。これら 28種類のオノマトペ(仮)がどの辞典にも掲載されていなかったのは、辞典編

纂側が同じ種類のオノマトペとしてまとめていたからであった。つまり、28種類のオノマ

37小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.199 38飛田良文、浅田秀子(2002)『現代擬音語擬態語用法辞典』東京堂出版 p.218

(上)図 18『ムヒョとロージーの魔法律相

談事務所』16巻 p.9

(左)図 19『ムヒョとロージーの魔法律相

談事務所』16巻 p.10 図 18(上)の次

コマ

ごおおお ごおおおお さあざあ ざああああ すう

長音の母音表記かつ語末の促音「っ」の省略

表 5 長音の母音表記かつ語末の「っ」の省略

Page 20: 新しいオノマトペの発見 溝部 真由1小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語4500 日本語オノマトペ辞典』小学館p.9 4 ン」などを挙げている。前者の2

20

トペ(仮)は、オノマトペであるという確証を得ることができた。これらのオノマトペは、

以下の通りである。(表 6)

5.3既存のオノマトペの変種

これまで述べてきた 28種類のオノマトペ(仮)はオノマトペであることがわかったが、残

りの 19種類のオノマトペ(仮)はオノマトペではないのだろうか。判別調査の再調査の結

果、既存のオノマトペと同じ語基と思われるが形が少し異なるオノマトペ(仮)があった。

その数は 14種類である。第 2章で述べたように、オノマトペは語基に「り」、促音、撥

音、長音が語末に付加したり、語基の反復(畳語)をしたりすることが可能である。つま

り、この 14種類のオノマトペ(仮)は、既存のオノマトペが少し形を変えたものではないか

と推測した。本稿では、この既存のオノマトペと同じ語基と考えられるが形が少し異なる

ものを「変種」と呼ぶこととする。ここからは、既存のオノマトペが形を変えた可能性の

あるオノマトペ(仮)について述べていく。

5.3.1 既存のオノマトペの語末に促音「っ」が付加されたオノマトペ

まず、既存のオノマトペの語末に促音の「っ」が付加された「とんっ」「ばんっ」など

の 6種類のオノマトペ(仮)について述べる。これらのオノマトペに関して、2作品に使用

されていた「とんっ」を例に挙げて述べる。

「とんっ」は、漫画作品内で以下のように使

用されていた。『BLOOD+』では、相手の攻撃

を阻止する場面で、足で相手の手を蹴り上げた

ときの音を表すのに使用されている。(図 20)ま

た、『春風のスネグラチカ』では、銃が地面に落

とされたときに発する音を表すのに「とんっ」

が使用されている。(図 21)以上のことから、「と

んっ」はものが当たったり、ぶつかったりした

ときに発する音を表していると言える。

「とんっ」はすべての辞典に掲載されていな

かったが、語末に促音が付かない「とん」がす

べての辞典に掲載されていた。辞典での「と

きい ぎい きいいん きいっ ぎし ぐくす ぐっと ごおおお ごおおおお さあ ざあ

ざああああ ざざ じわ す すう そーどおおおん どおん どす ぱ ばあーっ ぱか

ぱら ぼーっと わあああ わあっ

同じ種類としてまとめられていたオノマトペ

表 6 同じ種類としてまとめられていたオノマトペ

図 20『BLOOD

+』2巻 p.8

図 21『春風のスネ

グラチカ』p.11

9

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21

ん」は、「はずみをつけて軽く突き当ったり、たたいたり、倒れたりするときの音。ま

た、そのさま。」39という説明が『日本語オノマトペ辞典』で挙げられている。また、『現

代擬音語擬態語用法辞典』では「軽い物が一回衝突する音や様子を表す。」40と説明がされ

ている。両辞典での「とん」の説明は、漫画内の「とんっ」の使用例と大きな差はない。

以上のことから、「とん」と「とんっ」の語基は同じであり、「とんっ」は「とん」の語末

に促音「っ」が付加されたものであるといえる。

他の 5種類のオノマトペ(仮)も辞典の意味と漫画内の使用例に大きく意味が異なること

はなく、既存のオノマトペの語末に促音がついたものと言える。第 3章で述べてきたよう

に、辞典側は語末の促音の有無によって語義に変化がない場合は、促音の有無に関わらず

同じオノマトペとして促音を伴う形で掲載している。だが、今回の場合は、促音を伴わな

い形で見出し語または類義語として掲載されており、用例では促音を伴わない形のみ使用

されている。このことから辞典にあった促音の伴わない既存のオノマトペと本調査で得た

6種類の促音を伴うオノマトペ(仮)を同一のオノマトペとしていないと判断した。

既存のオノマトペの語末に促音が付加された 6種類のオノマトペ(仮)のうち、「わくっ」

は他の種類と異なる点がある。「わくっ」の場合は、「わく」ではなく「わくわく」がすべ

ての辞典に掲載されていた。そのため、「わくわく」の「わく」という語基に促音がつい

て「わくっ」になったと考えた。他のオノマトペと異なるが、語末に促音「っ」が付加さ

れるという点が同じであるため、同じ変種として分類をした。これら 6種類のオノマトペ

(仮)は、既存のオノマトペと同じ語基であり、語末に促音が付加されたオノマトペである

といえる。これらのオノマトペは以下の通りである。(表 7)

5.3.2既存のオノマトペの語末に「―」長音が付加されたオノマトペ

次に、既存のオノマトペの語末に長音符号の「―」がついたオノマトペ(仮)について述

べる。このオノマトペ(仮)は、「ずずー」と「びくう」などの 3種類であった。「びくう」

は、長音の母音表記の所で前述した通り、「びくう」の「う」は直前の音節「く」の母音

であるため長音を表しているとして「びくー」であると仮定した。この「びくう」を例に

挙げて述べていく。

「びくう」は、以下のように漫画内で使用

されている。『海月姫』では、登場人物が背後

から声をかけられる場面で、驚きで身をこわ

ばらせるさまを表している。(図 22)他 2作品

39小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.307 40飛田良文、浅田秀子(2002)『現代擬音語擬態語用法辞典』東京堂出版 p.341

表 7 既存オノマトペの語末に促音「っ」の付加

図 22『海月姫』4巻 p.89

だんっ とんっ どんっばんっ ぱんっ わくっ

既存のオノマトペの語末に促音「っ」の付加

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22

も同様に驚きで身をこわばらせているさま

を表す際に「びくう」が使用されていた。

(図 23)

では、「びくー」は辞典内でどう解説さ

れているだろうか。「びくー」をすべての

辞典を探しても見当たらなかった。そのため、今度は「びくー」の語基と思われる「び

く」を持ったオノマトペがないか探した。すると、「びく」と「びくっ」を見つけること

ができた。「びく」は 2冊の辞典で「びくっ」はすべての辞典に掲載されていた。『現代擬

音語擬態語用法辞典』では「びく(っ)」でまとめて見出し語をたてていたが、『日本語オノ

マトペ辞典』では「びく」と「びくっ」の 2種類でそれぞれ見出し語をたてていた。つま

り、促音の有無で語義に違いがあるということである。「びく」は「ほんの少し動いたり

驚いたりするさま。」41、「びくっ」を「驚きおそれて、反射的に身をふるわせたりこわば

らせたりするさま。」42と驚きを表すさまと記述されていた。「びく」よりも「びくっ」の

方が漫画内で使用されていた「びくう」と意味が近い。すべての辞典に掲載されていたこ

とと語義が近いことから、「びくっ」を中心に他辞典での「びくっ」と「びくう」の意味

の比較を行った。『日本語オノマトペ辞典』以外の辞典では、以下のように書かれてい

た。『暮らしのことば 擬音語擬態語辞典』では、「驚きなどで一瞬体を震わせる様子。」

43、『現代擬音語擬態語用法辞典』では、「主体がおびえ、恐怖で一瞬体を痙攣させる様子

を表す。」44と書かれていた。以上のことから、「びくっ」は驚きで体を震わせたりこわば

らせたりするさまを表すオノマトペである。このように、「びくっ」と「びくう」の語義

に大きな違いはないということから、同じ語基のオノマトペであることが言える。したが

って、オノマトペ(仮)の「びくう」は、「びくっ」と同じ語基の「びく」であり、語基に促

音ではなく長音が付加されたオノマトペであるということが明らかになった。他 2種類の

オノマトペも同様に既存のオノマトペの語基に促音ではなく長音が付加されたものであっ

た。したがって、これら 3種類のオノマトペ(仮)は、既存のオノマトペと同じ語基であ

り、語基に長音が付加されたオノマトペであるといえる。これらのオノマトペは以下の通

りである。(表 8)

41小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.355 42小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.355 43山口仲美編(2003)『暮らしのことば擬音・擬態語辞典』講談社 p.410 44飛田良文、浅田秀子(2002)『現代擬音語擬態語用法辞典』東京堂出版 p.431

ずずー びくう ぷしゅー

既存のオノマトペの語末に長音付加

表 8 既存のオノマトペの語末に長音付加

図 23『桜蘭高校ホスト部』15巻 p.97

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23

5.3.3その他の変種

これまで、9種類のオノマトペ(仮)が既存のオノマトペが形を変えたオノマトペであるこ

とについて述べてきた。ここからは、既存のオノマトペの語末に「り」、促音、撥音の付

加、または反復(畳語)した形以外の変種について述べていくとする。例外的な変種と思わ

れるオノマトペ(仮)は 5種類である。(表 9)以下、それぞれについて詳細に述べていくとす

る。

5.3.3.1 語末の撥音が省略されたオノマトペ

まず、語末の撥音が省略されたと思われる 2種類のオノマト

ペ(仮)についてそれぞれ述べる。2作品に使用されていた「ちゃ

り」は、同じ語基であるオノマトペを辞典から探したところ

「ちゃりん」があった。「ちゃりん」はすべての辞典に掲載され

ていた。そこで、オノマトペ(仮)の「ちゃり」はオノマトペの

「ちゃりん」から撥音の「ん」を省略したものではないかと推

測し、比較することとした。

「ちゃり」は、漫画内で以下のように使用されていた。『NA

NA-ナナ-』では、小銭を手で握りしめたときに、小銭同士がぶ

つかる音を表すのに使用されている。(図 24)また、『Love,Hate,

Love.』では、手に持っている鍵を握りしめたときの音を表して

いる。(図 25)どちらも金属同士がぶつかりあったときに発する

音を表していることがわかる。

一方、「ちゃりん」は、『日本語オノマトペ辞典』で「金属が

ふれ合ったり、かたいものにぶつかったりしてたてる高くひび

く音。」45と意味の 1つとして挙げられていた。『現代擬音語擬

態語用法辞典』では「小さな金属片などが硬い物に一回衝突す

る音を表す。」46「ちゃり」の漫画の使用例と比較すると同じ状

況で使用されることがわかる。以上のことから、「ちゃり」は

「ちゃりん」と同じ語基であり、語末の撥音「ん」が省略され

た変種のオノマトペであるということが言える。

45小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.252 46飛田良文、浅田秀子(2002)『現代擬音語擬態語用法辞典』東京堂出版 p.277

図 24『NANA-ナナ-』1

1巻 p.74 図中左コ

図 25『Love,Hate,Lov

e.』 p.53 図上コマ

で鍵をかけ、図下コマ

で鍵を握りしめる。

すと ちゃり たたただだだ ちちち

その他の変種

表 9 その他の変種のオノマトペ

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次に、2作品に使用されていた「すと」について述べる。「す

と」は漫画内にて以下のように使用されていた。『きらきら☆迷

宮』では、登場人物が椅子に腰を下ろすさまを表すのに使用されて

いた。(図 26)他の 1作品も同様の使われ方をしていた。(図 27)つま

り、オノマトペ(仮)の「すと」は、椅子に腰を下ろすさまを表す際

に使用されるということがわかる。「すと」も辞典に掲載されてい

なかったため、似ているオノマトペを探したところ「すとん」がす

べての辞典に掲載されていた。『現代擬音語擬態語用法辞典』では

「非常に軽い物が急激に落ち込む様子を表す。」47『日本語オノマ

トペ辞典』では「軽くものが落ちたり、打ち当たったり、倒れたり

する音。また、そのさま。」48、『暮らしのことば 擬音語擬態語辞

典』では「物が一気に、あるいは抵抗感をまったく感じさせず、拍

子抜けするほど簡単に、まっすぐ下に落ちたり倒れ込んだりする小

さな音。また、その様子。」49がそれぞれ意味の 1つとして挙げられ

ていた。これら「すとん」の意味は、漫画作品内の「すと」の使わ

れ方と合致しない。だが、「すとん」は『デカワンコ』において「す

と」と同様に座るさまを表す際に使用されていた。ものが下方に移

動するという点において「すとん」と「すと」は似ている。したが

って、「すとん」も「すと」と同じ使われ方をしていたこと、合致は

しないが、まったくの無関係な意味ではないことから、「すとん」と

「すと」は同じ語基であると判断をした。以上のことから、「すと」

は「すとん」と同じ語基であり、語末の撥音が省略された変種のオ

ノマトペであるとした。

5.3.3.2 同じ音が連続しているオノマトペ

次に、同じ音のものが連続している 3種類のオノマトペ(仮)に

ついて述べる。

はじめに 3作品に使用されていたオノマトペ(仮)「たたた」に

ついて述べる。「たたた」は漫画内で以下のように使用されてい

た。『となりの怪物くん』『海月姫』において、登場人物が走る足

音を表す際に使用されていた。(図 28)『ミスター味っ子Ⅱ』で

は、包丁で具材を切っている音を表している。(図 29)

47飛田良文、浅田秀子(2002)『現代擬音語擬態語用法辞典』東京堂出版 p.234 48小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.212 49山口仲美編(2003)『暮らしのことば擬音・擬態語辞典』講談社 p.260

図 26『きらきら☆迷

宮』2巻 p.47

図 27『Love,Hate,

Love.』p.39 図

下コマ

図 28『となりの怪物く

ん』 7巻 p.134

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25

「たたた」はすべての辞典に掲載されていなかった。「たたた」は語

基の推測が困難であるため、個数は異なるが「た」だけが連続してい

るものはないか探すことにした。その結果、『日本語オノマトペ辞

典』において「たたたた」が掲載されていることがわかった。「たた

たた」は、「規則的に軽くものをたたく音」と「規則的にひた走りに

走る音」50が意味として挙げられていた。次に、辞書掲載の「たたた

た」と漫画内で使用されていた「たたた」との比較をした。「たたた

た」が表わす「規則的に軽くものをたたく音」と「たたた」が表わす

包丁で具材を切っている音は似ている。また、「規則的にひた走りに

走る音」と「たたた」が表わしていた走る足音は一致する。以上のこ

とから、「たたた」と「たたたた」は同じ音を表していることがわか

る。つまり、「たたた」は、オノマトペ「たたたた」の個数が異なる

ものであり、オノマトペであると言うことができる。

続いて、4作品に使用されていたオノマトペ(仮)「だだだ」について述べる。「だだだ」

は、漫画作品内で以下のように使用されていた。『ぼのぼの』『名探偵コナン』『暁のヨ

ナ』は、すべて走るさまを表すのに使用されていた。(図 30,31)「だだだ」はすべての辞典

に掲載されていなかった。「だだだ」も語基の推測が困難

であるため、個数は異なるが「だ」だけが連続しているオ

ノマトペがないか探すことにした。その結果、『日本語オ

ノマトペ辞典』において、同じ「だ」が 4回繰り返されて

いる「だだだだ」が掲載されていることがわかった。「だ

だだだ」が表わす意味のひとつとして「激しい勢いで突進

するさま」51が挙げられていた。次に「だだだだ」と漫画

内で使用されていた「だだだ」との比較を行った。「だだだ

だ」と「だだだ」のどちらも走る音を表していることがわか

る。したがって、「だだだ」は「だだだだ」の個数が異なるも

のであり、オノマトペであると言うことができる。

50小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.237 51小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.237

図 29『ミスター

味っ子Ⅱ』11

巻 p.88

図 30『ぼのぼの』25巻 p.72

図 31『名探偵コナン』5

8巻 p.13

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最後に「ちちち」について述べる。2作品に使用さ

れていた「ちちち」は以下のように使用されていた。

『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』では、鳥の

鳴き声を表していることがわかる。(図 32)また『風光

る』では、鳥の姿を確認することはできないが、朝の

目覚めの場面であることを考慮し、鳥の鳴き声を表し

ていると推測した。(図 33)「ちちち」はすべての辞典

に掲載されていなかったオノマトペ(仮)である。「ちち

ち」も語基の特定が困難なため、個数は異なるが、

「ち」のみが連続しているオノマトペはないか辞典か

ら探した。その結果、「ちち」が 2冊の辞典に掲載され

ていた。「ちち」は、『日本語オノマトペ辞典』におい

て「小鳥や虫、ネズミなどの小さく鋭く鳴く声。」52と

説明されており、『暮らしのことば擬音・擬態語辞典』

では「小鳥・虫・鼠などの鳴き声」53と説明されてい

た。両辞典も「ちち」は小鳥や虫などの鳴き声を表す

オノマトペであるとしている。つまり、「ちち」と「ち

ちち」はどちらも鳥の鳴き声を表している。したがっ

て、「ちちち」は「ちち」の個数が異なるものであり、

オノマトペであると言うことができる。

これまで、既存のオノマトペの例外的な変種と思われる 5種類のオノマトペ(仮)につい

て検討を行った。その結果、5種類のオノマトペが既存のオノマトペの例外的な変種であ

り、オノマトペであるということを明らかにすることができた。これまで述べてきたすべ

ての既存のオノマトペの変種 14種類は以下の通りである。(表 10)

52小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.247 53飛田良文、浅田秀子(2002)『現代擬音語擬態語用法辞典』東京堂出版 p.291

表 10 既存のオノマトペの変種

図 32『ムヒョとロージーの魔法

律相談事務所』16巻 p.8 図

左下

図 33『風光る』22巻 p.8

ずずー すと たたた だだだ だんっちちち ちゃり とんっ どんっ ばんっぱんっ びくう ぷしゅー わくっ

既存のオノマトペの変種

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27

第 6章 新しいオノマトペの分析

ここまで、47種類のオノマトペ(仮)のうち、42種類をオノマトペであるといえることが

判明した。では、これまでの項目に当てはまることのなかった残りの 5種類はオノマトペ

ではないのだろうか。5種類のオノマトペ(仮)とは、「がこん」「てっ」「ぴきん」「ぽう」

「わしゃわしゃ」である。オノマトペの判別調査の対象は、2作品以上に使用されていた

オノマトペ(仮)であるため、作者が個人的に創作した「個人言語」という可能性は除外さ

れる。

田守(1999)は、音韻的、統語的xvii、形態的特徴からオノマトペの範疇化問題について言

及をしている。したがって、ここからは田守(1999)の説も参考にオノマトペか否か検討す

ることとする。オノマトペ(仮)の収集元である漫画はオノマトペを単独で用いる特徴があ

るため、統語的特徴からのアプローチが困難である。したがって、音韻的、形態的特徴か

らオノマトペか否かの判断を行う材料のひとつとした。

ここからは、オノマトペか否か、それとも新しい形のオノマトペであるのか、田守(199

9)を参考にしながら検討を行っていくとする。これらのオノマトペ(仮)についてそれぞれ

詳細に述べていく。

6.1.1「がこん」

まず、「がこん」について述べていく。「がこん」の語基は「がこ」であると仮定し、同

じ「がこ」を語基にもつオノマトペを辞典から探した。その結果、すべての辞典に「が

こ」を語基に持つオノマトペがなかった。次に、「がこ」の「が」は濁音であるため、清

音の「か」から「かこ」を語基に持つオノマトペはないか同様に辞典で探した。しかし、

「かこ」を語基に持つオノマトペはなかった。「がこ」を語基とすると「がこん」は語基

の「がこ」に撥音の「ん」が付加された言葉であると考えられる。この語末に現れる撥音

は日本語オノマトペの特徴であると田守(1999)は述べている。また「がこん」が使用され

ていた作品の初出雑誌は、『こどものおもちゃ』は集英社の「りぼん」、『Love,Hate,Lov

e.』は祥伝社の「フィール・ヤング」、『絶対可憐チルドレン』は小学館の「週刊少年サン

デー」というように同じ雑誌に掲載されていないので、極

端な言い方ではあるが、その漫画雑誌に掲載する作品だけ

が共有する特定の言葉というわけでもない。つまり、一般

的に広く用いられている言葉であると推測できる。さら

に、「がこん」を反復した「がこんがこん」が『NANA-ナ

ナ-』で使用されていた。(図 34)語基の「がこ」を反復し

た「がこがこ」という形ではないが、「語基+ん」の反復

形は比較的一般性のある形態であると田守(1999)は述べて

いる。つまり、語基としての使われ方の多様性を確認する

ことができる。このことから、音をそのまま模倣したその図 34『NANA-ナナ-』11巻

p.75

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場限りの言葉ではなく、オノマトペとしての一定の形を持っていると考えられる。したが

って、一般的に用いられていることやオノマトペの形態的特徴、語基の多様性が見られる

ことから「がこん」はオノマトペであると判断した。

6.1.2 「てっ」

次に、「てっ」である。「てっ」の語基は、「て」であると仮定し、同じ「て」を語基に

もつオノマトペを辞典から探した。その結果、すべての辞典に「て」を語基に持つオノマ

トペがなかった。「てっ」が使用されていた作品の初出雑誌は異なり、一般的に用いられ

ている可能性がある言葉である。調査に使用した辞典で一番新しいものは 2007年に出版

された『日本語オノマトペ辞典』である。「てっ」が使用されていた漫画は、調査対象と

した『おおきく振りかぶって』の 22巻は 2013年、『死にたがりと雲雀』の 2巻は 2014

年に出版された。どちらも一番新しい辞典が出版された 2007年以降に出版されている。

つまり、本調査に限れば「てっ」は比較的近年になって生まれたため辞典に掲載されなか

ったという可能性が考えられる。「て」を語基とすると、「てっ」は語基の「て」に促音の

「っ」が付加された言葉であると考えられる。この語末に現れる促音「っ」は日本語オノ

マトペの形態的特徴であることを田守(1999)は述べている。比較的近年になって生まれた

可能性があること、オノマトペの形態的特徴が見られることから「てっ」はオノマトペで

あると判断をした。

6.1.3「ぴきん」

「ぴきん」について述べていく。「ぴきん」の語基は「ぴき」であると仮定し、同じ

「ぴき」を語基にもつオノマトペを辞典から探した。その結果、『日本語オノマトペ辞

典』にて「ぴき」を語基に持つオノマトペがあった。それは「ぴきぴき」である。オノマ

トペ「ぴきぴき」は以下の通りに説明されていた。ひとつは、「細いものが折れる音。細

い亀裂がはしる音。また、そのように痛みや緊張などのはしるさま。」54を表すとし、2つ

目に「けいれんするさま。神経をとがらせるさま。」55を挙げていた。「ぴきん」の使用状

況の詳細は後述するが、鍵の解錠音や力が湧くさまを表していた「ぴきん」と意味は合致

しない。同じ「ぴき」が使用されているが、共通点も見当たらないことから「ぴきぴき」

と「ぴきん」は違うものとして判断をした。「ぴきん」も使用されていた作品の初出掲載

雑誌が異なることから、一般的に用いられていることが考えられる。「ぴき」を語基とす

ると「ぴきん」は語基の「ぴき」に撥音の「ん」が付加された言葉であると考えられる。

語末に撥音が付加される形は、オノマトペの形態的特徴である。オノマトペの形態的特徴

からオノマトペであると判断した。

54小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.354 55小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.355

Page 29: 新しいオノマトペの発見 溝部 真由1小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語4500 日本語オノマトペ辞典』小学館p.9 4 ン」などを挙げている。前者の2

29

6.1.4「ぽう」

「ぽう」について述べていく。まず、「ぽう」の語基は「ぽう」であるのか「ぽ」であ

るのかという疑問が生じた。仮に、「ぽ」を語基と想定して辞典を引いてみることにし

た。すると、すべての辞典に「ぽ」が語基と思われる「ぽーっ」と「ぽっ」があった。

「ぽーっ」は、『日本語オノマトペ辞典』では、「ほのかに明るくなったり、あたたまるさ

ま」56が意味として挙げられていた。他 2冊の辞典も同様に明るくなるさまを表すと説明

されていた。また、同辞典では「ぽっ」を意味の 1つとして「急に日がさしたり、光がさ

すさま。」57を挙げていた。他 2冊の辞典も似たような状況が書かれていた。「ぽう」の漫

画作品内の使われ方は詳しくは後述するが、明るくなるさまを表すために使用されてい

た。

では、「ぽう」の語基は「ぽ」であり、「ぽーっ」の長音の母音表記かつ語末の促音が付

加されたオノマトペであり、「ぽう」は「ぽー」の長音を直前の音節の母音で表記したもの

と仮定すると、「ぽー」の長音の母音表記は「ぽう(pou)」ではなく「ぽお(poo)」となるの

が一般的である。ただし、一般語彙xviiiのなかでは「おとうと(弟)」と表記されるが「おと

おと(弟)」と発音するパターンもある。だが、漫画作品の使用例だけでは「ぽう」をどう

発音するのか判断することができない。さらに、長音の母音表記が「お」ではなく「う」

に変化するというパターンは本調査では、見当たらなかった。そのため、漫画作品内の使

用例と辞典での意味は合致するが、本稿で提示するオノマトペの形の変

化としては典型的ではないと考えた。したがって、辞典の意味と漫画作

品の使用例から「ぽーっ」と「ぽう」に類似性はあるが本稿では「ぽ

う」を語基とした。改めて、「ぽう」の語基は「ぽう」であると仮定し、

辞典を引いた。その結果、すべての辞典に「ぽう」は掲載されていなか

った。

「ぽう」が使用されていた漫画作品の初出掲載雑誌は異なるため一般

的に使われていると考えられる。さらに、『美少女戦士セーラームーン新

装版』では、「ぽう」の語末に促音がついた「ぽうっ」が使用されてい

た。(図 35)つまり、語基としての使用の多様性があることが考えられ

る。このことから、音をそのまま模倣したその場限りの言葉ではなく、

オノマトペとしての一定の形を持っていると考えられる。したがって、

「ぽう」はオノマトペであると判断した。

6.1.5「わしゃわしゃ」

最後に「わしゃわしゃ」について述べていく。「わしゃわしゃ」は「わしゃ」が反復し

た形であると考えた。そこで「わしゃわしゃ」の語基は「わしゃ」であると仮定し、同じ

56小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 p.432 57小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館 pp.448-449

図 35『美少女

戦士セーラ

ームーン 新

装版』7巻

p.115

図右上コマ

Page 30: 新しいオノマトペの発見 溝部 真由1小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語4500 日本語オノマトペ辞典』小学館p.9 4 ン」などを挙げている。前者の2

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「わしゃ」を語基にもつオノマトペを辞典から探した。その結果、すべての辞典に「わし

ゃ」を語基に持つオノマトペがなかった。「わしゃわしゃ」が使用されていた作品の初出

雑誌は異なり、一般的に用いられている言葉である。前述したとおり、調査に使用した辞

典で一番新しいものは 2007年に出版された『日本語オノマトペ辞典』である。「わしゃわ

しゃ」が使用されていた漫画は、『千代に八千代に』が 2014年、『よつばと』の 7巻が 20

07年に出版されたものを調査対象としている。どちらも一番新しい辞典が出版された 200

7年以降に出版されている。つまり、本調査に限れば「わしゃわしゃ」は比較的近年にな

って生まれたため辞典に掲載されなかったという可能性が考えられる。以上のことから、

「わしゃわしゃ」はオノマトペであると判断した。

以上のことから、5種類のオノマトペ(仮)はオノマトペであり、新しい形のオノマトペで

あるということが明らかとなった。新しいオノマトペは以下の通りである。(表 11)

6.2 各新しいオノマトペの意味

新しいオノマトペと言えるものは、「がこん」「てっ」「ぴきん」「ぽう」「わしゃわし

ゃ」の 5種類である。これらのオノマトペがどのように漫画内で使用されていたのか確認

し、その上でそれぞれの共通点を検討していくとする。

6.2.1「がこん」

「がこん」は 3作品に使用されていた。漫画作品内で「がこん」は以下のように使用さ

れていた。『Love,Hate,Love.』では、キャスターのついた看板を動かすときに発する音を

表している。(図 36)『こどものおもちゃ』では、片手を負傷した登場人物が入浴時に苦戦

している場面で使用されている。明確な描写はされてはいないが、状況からなにか物と物

がぶつかりあったときに発する音を表していると推測できる。(図 37)『絶対可憐チルドレ

ン』では、突然、壁が現れて空間を塞ぐ音を表

している。(図 38)これら作品内での「がこん」

の共通点について検討していく。まず、共通点

として挙げられるのは、音を表している擬音語

であることである。では、どのような音を表し

ているのか。「がこん」という音を発している

ものは、硬い物質であると推測することができ

る。キャスター付きの看板も壁も硬い物質であ

る。『こどものおもちゃ』では、どのようなも

のかは明らかではないが、浴室外に音がひびい

がこん てっ ぴきん ぽう わしゃわしゃ

新しいオノマトペ

表 11 新しいオノマトペ

図 36『Love,H

ate,Love.』

p.42

図 37『こどものおも

ちゃ』8巻 p.154

図左下

Page 31: 新しいオノマトペの発見 溝部 真由1小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語4500 日本語オノマトペ辞典』小学館p.9 4 ン」などを挙げている。前者の2

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ていることや一般的な浴室にあるものを考えると、少なくとも柔

らかいのではないということが推測できる。したがって、「がこ

ん」は硬い物がなんらかの作用によって発する音を表していると

いう共通点を見出すことができる。

6.2.2「てっ」

2作品に使用されていた「てっ」は、以下の通りである。『おおきく振りかぶって』で

は、野球の試合の場面で、打者が打ったバントボール(図 39) が地面をはずむさまを表す

のに使用されている。(図 40)『死にたがりと雲雀』では、登場人物が駆け出すさまを表し

ているのに使用されていた。(図 41)これらから「てっ」の使われ方の共通点を検討してい

く。どちらも動作が異なり、さらに動作主が野球ボールと人間である。一見、共通点とい

うものはなさそうではある。だが重量に注目すると共通点があるのではないかと考えた。

野球ボールは普通片手で持てる重さである。ここでの野球ボールは、打たれたボールであ

るので、ある程度のエネルギーが負荷されているとは思うが、バントボールである。バン

トは、軽く打つ打法である。野球ボールの重さとバントボールであることを考えると、動

作主の野球ボールは「軽い」と思われる。一方、『死にたがりと雲雀』では、「てっ」と駆

け出す人物が子供である。この子供は、平均的もしくは平均以下の小柄な子供の体格であ

る。つまり、この動作の主は「軽い」のである。以上のことから、「てっ」の共通点は動作

は異なるが、その動作主の軽さを形容している点ではないかという考えに至った。

図 38『絶対可憐チルド

レン』37巻 p.111

図 39『おおきく振りかぶっ

て』 22巻 p.18 図 40の

前コマ

図 40『おおきく振りかぶって』22巻 p.18

図 41『死にたがりと雲雀』2巻 p.53

Page 32: 新しいオノマトペの発見 溝部 真由1小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語4500 日本語オノマトペ辞典』小学館p.9 4 ン」などを挙げている。前者の2

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6.2.3 「ぴきん」

「ぴきん」は 2作品に使用されていた。『Wジュリエット』では、登場人物たちにかけ

られた手錠(図 42)の鍵が解錠される音を表す際に使用されており(図 43)、『さよなら絶望

先生』では、脱力した登場人物(図 45)が再び力が湧くさまを表していた(図 46)。どちらも

異なる状況で使用されており、共通点を見出すことは困難である。そのため「ぴきん」と

いうさまが表わす動作のあと、どうなるのか着目してみることとした。『Wジュリエッ

ト』では、手錠の鍵が解錠されたことで、手錠をされて動きが制限されていた人物は自由

に動けるようになっている。(図 44)『さよなら絶望先生』では、疲れで気力が沸かず、動

きを止めた登場人物が、力が湧くことで再びてきぱきと動き始めた。(図 47) どちらも

「ぴきん」の動作の後、再び自由に体を動き出し始めるという共通点がある。つまり、「ぴ

きん」という音やさまは、なにかしらの影響で動きが制限されていたものを解放してい

る。「ぴきん」が使用される状況は異なっているが、共通点を挙げるとするならば「ぴき

ん」が表わすさまの動作のあと、なにかしらの制限を受けていたものが、再び自由に動き

出している点である。

図 42『Wジュリエッ

ト』12巻 p.132

手錠で繋がれている二人

図 43『Wジュリエット』1

2巻 p.145

手錠の鍵が解錠される

図 44『Wジュリエッ

ト』12巻 p.149

手錠が外れ自由になっ

た二人

図 45『さよなら絶望先

生』9巻 p.129 図 46『さよなら絶望

先生』9巻 p.130

図 47『さよなら絶望先生』

9巻 p.130

力が湧き、てきぱきと動き始

める

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6.2.4 「ぽう」

「ぽう」は 2作品に使用されていた。『xxxHOLiC』は、光っているさまを表す際に使用

されている。(図 48)『クジラの子らは砂上に歌う』では、「念情動(サイミア)」を出し、そ

れが光っているようなさまであると推測する。(図 49)「念情動(サイミア)」とは、この作

品の特徴的な魔法のような架空の能力である。では、「ぽう」の共通点を検討する。どち

らも物が光っているさまを表していることがわかる。光り方としてはどちらも眩しく光っ

ているというよりも、優しい印象を受ける。したがって、「ぽう」はものがほのかに光を

放つさまを表している共通点があると考える。

6.2.5「わしゃわしゃ」

2作品に使用されていた「わしゃわしゃ」は以下のように使用されていた。『千代に八千

代に』では、登場人物が濡れた髪の毛をタオルで拭いているさまを表している。(図 50)

『よつばと!』では、登場人物たちが歯を磨いているさまを表している。(図 51)次に、こ

れら「わしゃわしゃ」の使われ方の共通点はなにか検討する。まず、動作に注目をした。

『千代に八千代に』での「わしゃわしゃ」は、せわしなく手を動かしており、『よつば

と!』でも同様に、せわしなく手を動かしている。さらに、その後のコマで口の周りが汚

れていることから、その動きは丁寧というよりも荒々しさを感じる。したがって、「わし

ゃわしゃ」は忙しなく、荒々しい動作を表すさまを表しているという共通点があると考え

る。

図 48『xxxHOLiC』6巻

p.17

図 49『クジラの子らは砂

上に歌う』3巻 p.145

図 50『千代に八千代に』p.45

図 51『よつばと』7巻 p.150

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6.3 新しいオノマトペが表わす音・さま

ここまで、新しいオノマトペのそれぞれの意味の共通点について述べてきた。これらの

共通点から、新しいオノマトペが表わしている音・さまを本稿で定義することにする。5

種類の新しいオノマトペが表わしている意味は、以下の通りである。

「がこん」 硬い物がなんらかの作用によって発する音を表す。

「てっ」 その動作主の軽さを表すさま、またはその音

「ぴきん」 何かしらの影響で動きが制限されていたものを解放する音、またはさま。

「ぽう」 ものがほのかに光を放つさまを表す。

「わしゃわしゃ」忙しなく、荒々しい動作を表すさまを表す。

第 7章 おわりに

日本語の新しいオノマトペを見つけ出すためにオノマトペ収集調査と判別調査を実施

し、その結果について本稿で論じてきた。50作品の漫画から 1559個 945種類のオノマト

ペ(仮)を収集することができた。2作品以上に使用されていた 241種類のオノマトペを対

象としたオノマトペ判別調査によって 193種類のオノマトペ(仮)がオノマトペであると確

証を得ることができた。オノマトペと言い切れないものは 48種類あったが、感動詞の

「しーっ」の 1種類を除いた 47種類は最終的にオノマトペであるという確証を得た。オ

ノマトペと言いきれなかったものは、大きく分けて 3項目であった。1つは辞典編纂側が

同じオノマトペとしてまとめていたオノマトペ、2つ目は、既存のオノマトペの変種、3

つ目は、新しいオノマトペである。辞典編纂側が同じ種類のオノマトペとしてまとめられ

ていたものは以下の 4項目あった。1つは「ぼーっと」「ぐっと」のように助詞「と」を

伴う 2種類のオノマトペ、2つ目は「す」や「ぱか」などの語末の促音「っ」を伴わない

形 11種類のオノマトペ、3つ目は「きい」や「どおん」などの長音を直前の音節の母音表

記をした 9種類のオノマトペ。最後は、「すう」や「ざあ」などの 6種類のオノマトペで

ある。合計 28種類のオノマトペは、辞典編纂側が同じ種類のオノマトペとしてまとめら

れていたオノマトペであった。既存のオノマトペの変種は大きく分けて 3項目あった。1

つは「とんっ」や「ばんっ」などの既存のオノマトペの語末に促音「っ」が付加された 6

種類のオノマトペ、2つ目は「びくう」と「ずずー」のように既存のオノマトペの語末に

長音「―」が付加された 3種類のオノマトペ、3つ目は、前述した 2項目に当てはまらな

い 5種類の変種である。既存のオノマトペの語末の撥音「ん」を省略された「ちゃり」と

「すと」、同じ 1音が連続して続く既存のオノマトペと連続個数が異なるオノマトペ「た

たた」「だだだ」「ちち」があった。これら既存のオノマトペの変種は合計で 14種類あ

り、すべてオノマトペであるということができた。最後に、これまでの項目に当てはまら

なかった 5種類のオノマトペ(仮)は新しいオノマトペであるということが明らかとなっ

た。5種類のオノマトペとは、「がこん」「てっ」「ぴきん」「ぽう」「わしゃわしゃ」であ

る。漫画作品内での使用例からそれぞれ新しいオノマトペの共通点を検討し、オノマトペ

Page 35: 新しいオノマトペの発見 溝部 真由1小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語4500 日本語オノマトペ辞典』小学館p.9 4 ン」などを挙げている。前者の2

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として表している音・さまを定義した。「がこん」は硬い物がなんらかの作用によって発

する音を表しており、「てっ」はその動作主の軽さを表すさま、またはその音を表す。「ぴ

きん」はなにかしらの影響で動きが制限されていたものを解放する音、またはさまを表

し、「ぽう」は、ものがほのかに光を放つさまを表す。「わしゃわしゃ」は忙しなく、荒々

しい動作を表すさまを表す。

「オノマトペとは言い切れないもの」は 4章から 6章にかけてオノマトペであるという

確証を得ることができた。そこで、改めて判別調査対象にしたオノマトペを対象にオノマ

トペの再集計を行った。特に、辞典編纂側が同じ種類のオノマトペとしてまとめているも

のを再集計した。オノマトペ総個数の再集計の結果、オノマトペと言えるものは 226種類

であった。(表 12)

これほど多くの種類のオノマトペが収集できたのにも関わらず、新しいオノマトペはほ

んの一部、5種類しか存在しなかった。したがって、オノマトペが新たに生み出され一般

化されることは極めて稀である。その一方で、極めて稀ではあるが、新しくオノマトペが

生み出されることがあるという結果を得ることができた。

本稿の分析・考察から、「オノマトペ」が本質的にもつ以下の 2つの性質が明らかとな

った。

1つは、「オノマトペ」といえども日本語話者の間で社会慣習的に決められた「単語」で

あることである。したがって、語基を変えない「変種」を容易に作り出せても、新しい語

基のオノマトペを作り出すことは困難である。つまり、まったく新しい単語としての「オ

ノマトペ」を自由に作り出すことはできない。

その一方で、「オノマトペ」は、数は少ないがまったく新しい語基のオノマトペ、つま

り新しい単語を作り出すことは可能である。これは、オノマトペは音や声、音のないもの

の状態や動作を日本語の発音で表した単語であるためである。新しい単語を作りだせるこ

とは、名詞や動詞、形容詞など他の品詞の単語にはないオノマトペ独自の特徴といえるだ

ろう。

このように、新しいオノマトペを自由に作り出せない一方で、極めて稀ではあるが、新

しくオノマトペを作り出すことが可能であるという相反する 2つの性質が、オノマトペの

本質ではないかと本稿の分析・考察から考える。

Page 36: 新しいオノマトペの発見 溝部 真由1小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語4500 日本語オノマトペ辞典』小学館p.9 4 ン」などを挙げている。前者の2

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※助詞「と」を伴うオノマトペは伴わない形に統一。

※語末の促音「っ」の省略されたオノマトペは、「ぎし(っ)」のように表記し、促音が付加

されたオノマトペに統一。

※長音の母音(直前の音節の母音)表記は、長音符号「―」で表記し、統一した。

参考文献

小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語 4500 日本語オノマトペ辞典』小学館

小野正弘(2009)『オノマトペがあるから日本語は楽しい』平凡社

田守育啓、ローレンス・スコウラップ(1999)『オノマトペ―形態と意味―』くろしお出版

飛田良文、浅田秀子(2002)『現代擬音語擬態語用法辞典』東京堂出版

山口仲美編(2003)『暮らしのことば擬音・擬態語辞典』講談社

山田忠雄、柴田武 [ほか] 編(2012)『大きな活字の新明解国語辞典 第七版』三省堂

(注釈)

大類雅敏編(2006)『句読点活用辞典』栄光出版社

近藤安月子、小森和子編(2012)『研究社日本語教育事典』研究社

田守育啓、ローレンス・スコウラップ(1999)『オノマトペ―形態と意味―』くろしお出版

飛田良文、遠藤好英 [ほか] 編(2007)『日本語学研究辞典』明治書院

山田忠雄、柴田武 [ほか] 編(2012)『大きな活字の新明解国語辞典 第七版』三省堂

うっとり かっかっ きらっ こく じっ だっ とんとん ぱちん ひそひそ ぼっうろうろ かつかつ ぎりぎり こつ しっかり たったっ どんどん はっ ぴたっ ぽんかーん がばっ ぎりっ ごっ しゅるしゅる だんだん にっ ばっ ひたひた ぽんぽんがーん がやがや きん こつこつ じりじり だんっ にっこり はっきり びっ ぼんやり

かきかき から きんっ こっそり じわ(っ) ちちち にやり ばっちり ぴっ むぐむぐがくっ がら ぐ(っ) こと す(っ) ちゃっ のこのこ ばっばっ ぴゅーっ めちゃくちゃがこん がらっ くい ごろごろ すー(っ) ちゃり ぱ(っ) ぱら(っ) びゅっ もじもじかさ からん ぐい ごろん ずーん ちゅんちゅん ばーっ ばらばら ひゅん ゆっくり

がしっ かりかり ぐいっ こん すかっ ちょいちょい はーっ ぱらぱら びり ゆらがしゃ かん くー こんこん すかっと ちら ぱか(っ) ばん ふーっ よろ

がしゃん がん ぐー さー(っ) すくっ てっ ぱく ぱん ぶーぶー よろよろがた かんかん くーっ ざー(っ) ずずー どーん ばさ ばんっ ぷしゅー わー

がたーん きー くしゃ ざざ(っ) すたすた どか ぱさ ぱんっ ぶちっ わー(っ)かたかた ぎー くす(っ) さっ すっかり どきっ ばさっ ぱんぱん ふっ わいわいがたん きーっ くすくす ざっ すと どきどき ぱしっ ぴかっ ぶつぶつ わくっかち きーん ぐちゃぐちゃ ざっざっ ずるずる どきん ばしばし ぴきん ぶるっ わくわく

かちかち ぎく ぐっぐっ さらさら ずんずん どさっ ばしゃっ ぴく ふわふわ わしゃわしゃがちがち ぎし(っ) ぐらぐら ざわ せっせ どす(っ) ばたばた びくう ぶんぶん わっかちっ きっ ぐりぐり ざわざわ そー(っ) どっ ぱたぱた びくっ ぽいっ わなわなかちゃ ぎっ くる ざわっ だーっ とん ばたん ぴくっ ぽうがちゃ きっぱり くるっ じー たたた どん ぱたん びし ぼーっ かっ きゅっ ぐん しーっ だだだ とんっ ぱちっ びしっ ぼそがっ きらきら ごー しーん たっ どんっ ぱちぱち ぴしっ ほっ

表 12 オノマトペといえるもの 226種類

Page 37: 新しいオノマトペの発見 溝部 真由1小野正弘編(2007)『擬音語・擬態語4500 日本語オノマトペ辞典』小学館p.9 4 ン」などを挙げている。前者の2

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作品名 作者 巻 調査話(ページ数) 出版年 出版社 初出雑誌(当時)

BLOOD+ 桂明日香 原作/Production I.G・Aniplex 2 pp.1-20 2006 角川書店 月刊少年エース

Golondrina-ゴロンドリーナ- えすとえむ 3 pp.37-72,105-136 2013 小学館 IKKI

Love,Hate,Love. ヤマシタトモコ pp.37-68 2009 祥伝社 フィール・ヤング

NANA-ナナ- 矢沢あい 11 pp.51- 96 2004 集英社 Cookie

OverDrive 安田剛士 16 pp.187-206 2008 講談社 週刊少年マガジン

What's Michael? 小林まこと 5 pp.93-98 1987 講談社 モーニング

Wジュリエット 絵夢羅 12 pp.130-158 2002 白泉社 花とゆめ

xxxHOLiC CLAMP 6 pp.1-50 2005 講談社 週刊ヤングマガジン

暁のヨナ 草凪みずほ 13 pp.33-62 2013 白泉社 花とゆめ

あさきゆめみし 大和和紀 5 pp.4-47 1993 講談社 mimi

あたしンち けらえいこ 1 pp.24-30 1995 メディアファクトリー 読売新聞日曜版

医龍-Team Medical Dragon- 乃木坂太郎作画/永井明原案 15 pp.101-126 2007 小学館 ビックコミックスペリオール

桜蘭高校ホスト部 葉鳥ビスコ 15 pp.71-101 2009 白泉社 LaLa

おおきく振りかぶって ひぐちアサ 22 pp.3-22 2013 講談社 アフタヌーン

風光る 渡辺多恵子 22 pp.6-28 2007 小学館 flowers

ガラスの仮面 美内すずえ 14 pp.6-25 1994 白泉社 花とゆめ

きらきら☆迷宮 おおばやしみゆき 2 pp.37-97 2001 小学館 ちゃお

クジラの子らは砂上に歌う 梅田阿比 3 pp.141-188 2014 秋田書店 ミステリーボニータ

海月姫 東村アキコ 4 pp.63-92 2010 講談社 Kiss

午前3時の無法地帯 ねむようこ 3 pp.107-142 2009 祥伝社 フィール・ヤング

こどものおもちゃ 小花美穂 8 pp.141-173 1998 集英社 りぼん

ゴルゴ13 SPECIAL EDITION さいとう・たかを 七変化 pp.388-428 2013 リイド社

さよなら絶望先生 久米田康治 9 pp.120-132 2007 講談社 週刊少年マガジン

さよならソルシエ 穂積 1 pp.3-38 2013 小学館 flowers

三国志 横山光輝 20 pp5-34 1999 潮出版

死にたがりと雲雀 山中ヒコ 2 pp.37-66 2014 講談社 ARIA

少年ノート 鎌谷悠希 6 pp.75-122 2013 講談社 月刊モーニングtwo

ジョジョの奇妙な冒険 荒木飛呂彦 10 pp.87-106 1989 集英社 週刊少年ジャンプ

聖☆おにいさん 中村光 8 pp.89-106 2012 講談社 月刊モーニングtwo

絶対可憐チルドレン 椎名高志 37 pp.97-114 2014 小学館 週刊少年サンデー

天は赤い河のほとり 篠原千絵 24 pp.6-29 2001 小学館 少女コミック

ダーリンは外国人 小栗佐多里 2 pp.36-63 2004 メディアファクトリー

ちはやふる 末次由紀 16 pp.105-138 2012 講談社 BE・LOVE

千代に八千代に 大澄剛 pp.27-48 2014 双葉社

釣りバカ日誌 やまさき十三作/北見けんいち画 43 pp.143-166 1997 小学館 ビックコミックオリジナル

デカワンコ 森本梢子 9 pp.133-157 2012 集英社 YOU

とつくにの少女 ながべ 1 pp.77-108 2016 マッグガーデン 月刊コミックガーデン

となりの怪物くん ろびこ 7 pp.127-164 2011 講談社 デザート

ドラえもん 藤子・F・不二雄 1 pp.112-123 1974 小学館 コロコロコミック

長谷川町子全集 サザエさん 長谷川町子 23 pp.1-20 1998 朝日新聞社 朝日新聞

春風のスネグラチカ 沙村広明 pp.99-132 2014 太田出版 マンガ・エロティクス・エフ

美少女戦士セーラームーン新装版 武内直子 7 pp.109-159 2004 講談社 なかよし

火の鳥 手塚治虫 2 pp.4-28 1997 朝日ソノラマ

星屑クライベイビー 渡辺カナ pp.3-58 2012 集英社 別冊マーガレット

ぼのぼの いがらしみきお 25 pp.69-76,117-124 2004 竹書房 まんがくらぶ

水木しげる貸本傑作大全 水木しげる 1 pp.324-346 1999 人類文化社

ミスター味っ子Ⅱ 寺沢大介 11 pp.77-100 2011 講談社 イブニング

ムヒョとロージーの魔法律相談事務所 西義之 16 pp.7-28 2008 集英社 週刊少年ジャンプ

名探偵コナン 青山剛昌 58 pp.5-20 2007 小学館 週刊少年サンデー

よつばと! あずまきよひこ 7 pp.141-168 2007 メディアワークス 月刊コミック電撃大王

※横山光輝『三国志 20』初出単行本1984年9月・11月・12月  小栗佐多里『ダーリンは外国人2』初出「ゼクシィ」2003年6月~2004年4月号「My Vodafone Magazine」2004年2月号  大澄剛『千代に八千代に』「2:太陽の下」初出「漫画アクション」2012年8/21号掲載  長谷川町子『長谷川町子全集 サザエさん 23』1971年3月から1974年2月まで連載されたもの  武内直子『美少女戦士セーラームーン新装版 7』初出「なかよし」1994年7月号~1994年11月号  手塚治虫『火の鳥 2』1976年より1981年にかけて、「マンガ少年別冊」として出版されたシリーズを復刻したもの

資料 1 オノマトペ収集調査対象作品一覧(作品名 50音順)

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擬音語・擬態語4500日本語オノマトペ辞典

暮らしのことば擬音・擬態語辞典 現代擬音語擬態語辞典

うっとり 3 ○ ○ ○

うろうろ 2 ○ ○ ○かーん 2 ○ ○ ○がーん 3 ○ ○ ○かきかき 2 ○ ○がくっ 3 ○ △がくがく、がっくり ○がこん 3かさ 2 ○がしっ 3 ○ ○ ○がしゃ 2 △がしゃがしゃ △かしゃがしゃん 4 ○ ○がた 4 ○ ○がたーん 2 △がたんかたかた 5 ○ ○ ○がたん 4 ○ ○ ○かち 2 ○かちかち 4 ○ ○ ○がちがち 2 ○ ○ ○かちっ 2 ○ ○ ○かちゃ 4 △かちゃかちゃ △かちゃかちゃ(っ)、かちゃんがちゃ 11 △がちゃがちゃ ○かっ 6 ○ ○ ○がっ 9 ○ ○ ○かっかっ 2 ○ ○ △かっ、かつかつ、かんかんかつかつ 3 ○ ○ ○がばっ 4 ○ ○ ○がやがや 3 ○ ○ ○から 3 ○がら 2 ○がらっ 3 ○ ○ ○からん 2 ○ △がらん △から(っ)かりかり 2 ○ ○ ○かん 2 ○ ○ △かーん、かんかんがん 2 ○ ○ △がーん、がんがんかんかん 2 ○ ○ ○きい 2ぎい 2きいいん 2きいっ 2きーっ 2 ○ △きーきーぎく 2 ○ △ぎくぎく ○ぎし 2きっ 4 ○ ○ ○ぎっ 3 ○ ○きっぱり 4 ○ ○ ○きゅっ 3 ○ ○ ○きらきら 2 ○ ○ ○きらっ 2 ○ △きらり △きらりぎりぎり 3 ○ ○ ○ぎりっ 2 ○ ○きん 2 ○ △きんきんきんっ 2 △きんきんぐ 3くい 2 ○ △ぐい、くいくい △ぐい(っ)ぐい 2 ○ ○ ○ぐいっ 4 △ぐい △ぐい ○くー 2 ○ぐー 3 ○ ○ ○

資料 2 オノマトペ(仮)判別調査結果

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くーっ 2 ○ △くっ

くしゃ 2 △くしゃくしゃくす 3くすくす 4 ○ ○ぐちゃぐちゃ 2 ○ ○ ○ぐっ 7 ○ ○ ○ぐっぐっ 2 ○ ○ △ぐっぐっと 3ぐらぐら 3 ○ ○ ○ぐりぐり 2 ○ ○ ○くる 2 ○くるっ 2 ○ ○ぐん 2 ○ ○ ○ごー 2 △ごーごー ○ごおおお 2ごおおおお 5こく 2 △こくんこつ 2 △こつんごっ 2 ○こつこつ 4 ○ ○ ○こっそり 2 ○ ○ ○こと 2 ○ごろごろ 3 ○ ○ ○ごろん 2 ○ ○ △ごろ(っ)こん 2 ○ ○ △こんこんこんこん 6 ○ ○ ○さあ 2ざあ 3ざああああ 2ざざ 2ざざっ 2 ○ ○ △ざっさっ 4 ○ ○ ○ざっ 10 ○ ○ ○ざっざっ 2 ○ △ざっさらさら 3 ○ ○ ○ざわ 4 △ざわざわ(っ)ざわざわ 12 ○ ○ ○ざわっ 2 ○ △ざわざわじー 3 ○ ○しーっ 3しーん 6 ○ ○ ○じっ 6 ○ ○ ○しっかり 6 ○ ○ ○しゅるしゅる 2 ○ ○ ○じりじり 3 ○ ○ ○じわ 2す 4すう 5すーっ 2 ○ △すっ ○ずーん 2 ○ △ずんすかっ 2 ○ ○ ○すかっと 2 △すー(っ)すくっ 3 ○ ○ △すっくずずー 3すたすた 3 ○ ○ ○すっ 10 ○ ○ ○すっかり 2 ○ ○ ○すと 2ずるずる 2 ○ ○ ○

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ずんずん 3 ○ ○ ○

せっせ 2 ○ ○ ○そー 3だーっ 2 ○ ○たたた 3だだだ 3たっ 8 ○ △たーっ、たったっだっ 9 ○ △だっだっ △だーっ、だっだったったっ 3 ○ ○だんだん 4 ○ ○だんっ 2ちちち 2ちゃっ 3 ○ちゃり 2ちゅんちゅん 2 ○ ○ちょいちょい 2 ○ ○ ○ちら 2 ○てっ 2どおおおん 2どおん 2どーん 4 ○ △どん ○どか 2 ○どきっ 2 ○ △どきどき、びくっ △どきりどきどき 6 ○ ○ ○どきん 2 ○ ○ △どきりどさっ 6 ○ △どかっ、どさり ○どす 2どすっ 2 ○どっ 8 ○ ○ ○とん 5 ○ △どん、とんとん ○どん 7 ○ ○ ○とんっ 2どんっ 2とんとん 4 ○ ○ ○どんどん 5 ○ ○ ○にっ 2 ○ ○ ○にっこり 2 ○ ○ ○にやり 2 ○ ○ △にやっ、にんまりのこのこ 2 ○ ○ ○ぱ 3ばあーっ 2はーっ 2 ○ ○ぱか 3ぱく 2 ○ばさ 3 ○ぱさ 2 ○ばさっ 6 ○ △ばさばさ、ばさり ○ぱしっ 4 ○ ○ばしばし 2 ○ ○ ○ばしゃっ 2 ○ △ばしゃばしゃばたばた 6 ○ ○ ○ぱたぱた 4 ○ ○ ○ばたん 2 ○ ○ ○ぱたん 7 ○ ○ ○ぱちっ 2 ○ △ぱしっ ○ぱちぱち 9 ○ ○ ○ぱちん 3 ○ ○ ○はっ 8 ○ ○ ○ばっ 20 ○ ○ ○

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ぱっ 8 ○ ○ ○

はっきり 5 ○ ○ ○ばっちり 2 ○ ○ ○ばっばっ 2 ○ △ばっぱら 2ばらばら 3 ○ ○ ○ぱらぱら 2 ○ ○ ○ばん 9 ○ ○ ○ぱん 2 ○ ○ ○ばんっ 2ぱんっ 2ぱんぱん 2 ○ ○ ○ぴかっ 2 ○ ○ぴきん 2ぴく 2 △びくっ、ぴくぴく、ぴくん ○びくう 3びくっ 8 ○ ○ ○ぴくっ 5 ○ △びくっ、ぴくぴく、ぴくり ○びし 2 ○びしっ 3 ○ ○ ○ぴしっ 5 ○ △びしっ ○ひそひそ 3 ○ ○ ○ぴたっ 2 ○ ○ ○ひたひた 2 ○ ○ ○びっ 2 ○ ○ぴっ 8 ○ ○ ○ぴゅーっ 2 △ぴゅーっ ○びゅっ 4 ○ ○ひゅん 2 ○ ○びり 2ふーっ 2 ○ ○ぶーぶー 2 ○ ○ ○ぷしゅー 2ぶちっ 2 ○ふっ 6 ○ ○ ○ぶつぶつ 3 ○ ○ ○ぶるっ 2 ○ △ぶるるっ ○ふわふわ 3 ○ ○ ○ぶんぶん 3 ○ ○ ○ぽいっ 2 △ぽいぽい ○ぽう 2ぼーっと 3ぼそ 5 ○ほっ 8 ○ ○ ○ぼっ 2 ○ ○ ○ぽん 4 ○ ○ ○ぽんぽん 2 ○ ○ ○ぼんやり 2 ○ ○ ○むぐむぐ 2 ○めちゃくちゃ 2 ○ ○ ○もじもじ 2 ○ ○ ○ゆっくり 2 ○ ○ ○ゆら 3 ○よろ 5 ○よろよろ 3 ○ ○ ○わー 2 △わーわーわあああ 2わあっ 5わーっ 2 ○ △わっ

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注釈 i 語構成の基本的要素で、すべての接辞を取り除いた後に残る部分を指す。

(近藤安月子、小森和子編(2012)『研究社日本語教育事典』研究社、p.6) ii 単独で使われ、活用せず、述語、あるいは文全体を修飾する品詞。(近藤,小森(2012)

p.206 iii「音韻」は、広義にはアクセント、イントネーションを含むが、狭義には、それら

を除外した「ア」「イ」「カ」「キ」などの音を意味する。狭義の音韻は、言語の構成

部分的な性質を持ち、言語形態の最小単位となっている。(飛田良文、遠藤好英 [ほ

か] 編(2007)『日本語学研究辞典』明治書院 p.89) iv日本語の場合、「子音+短母音」または単独の短母音の長さを基準とした単位をモー

ラまたは拍と呼ぶ。1モーラは仮名 1文字分の音の長さということができる。ただ

し、拗音(小さい「ゃ、ゅ、ょ」を含む音)は例外で、2文字で 1拍になる。また、

「ん」で表される撥音、小さい「っ」で表される促音は子音だが、例外的に単独で 1

拍の持続時間を持つ。長音は2拍と数えられる。(近藤,小森(2012) p.40) v日本語の平仮名表記で、小さい「っ」で表される音。(近藤,小森(2012)) vi日本語の平仮名表記で「ん」で表される音。「はねる音」とも呼ばれる。(近藤,小森

(2012) p.35) vii持続時間が相対的に長い音。(近藤,小森(2012) p.32) viii語の同じ要素が 2つ重なってできた合成語(1つの語基に複数の成分が結合してでき

た語 近藤,小森(2012) p.218)のこと。(近藤,小森(2012) p.219) ix音声はたまたまそれを含む特定の語の固有の意味とは別の象徴的な意味、すなわち

一般に想定されている語と意味の慣習的な関係を超える意味を示唆すること。(田守

育啓,ローレンス・スコウラップ(1999)『オノマトペ―形態と意味―』くろしお出版

p.7) x本稿では、出版社から出版された漫画のことを指す。 xi点(ピリオド)・ハイフン(短いダッシュ)を、二つないしそれ以上並列した符号のこと

をリーダーと言い、点(ピリオド)を三つ並列した符号のことを三点リーダーという。

(大類雅敏編(2006)『句読点活用辞典』栄光出版社 p.103) xii辞書で項目として出す語形など。(山田忠雄、柴田武 [ほか] 編(2012)『大きな活字

の新明解国語辞典 第七版』三省堂 p.1452) xiii意味の共通要素が多く、使用する場面も似ている語のことである。(近藤,小森(2012)

pp.221-222) xiv述語の意味を過不足なく表すために補足的な働きをする。(近藤,小森(2012)) xv語の指す意味のこと。(近藤,小森(2012) p.220) xvi母音を中心とした、音のまとまりの単位。(近藤,小森(2012)) xviiここでは、オノマトペの文法的な働きのことを指している。 xviii本稿での「一般語彙」とは、オノマトペ以外の語彙を指す。

使用作品数

擬音語・擬態語4500日本語オノマトペ辞典

暮らしのことば擬音・擬態語辞典 現代擬音語擬態語辞典

わいわい 4 ○ ○ ○

わくっ 2わくわく 2 ○ ○ ○わしゃわしゃ 2わっ 2 ○ ○わなわな 2 ○ ○ ○

見出し語として掲載 類義語として掲載 掲載なし

○ △(類義語のオノマトペ) 空欄見方