ドローン空撮写真を利用したモモ樹の整枝・剪定効果の評価gis.chubu.ac.jp/pdf/collabo_report/2016/201603.pdf ·...

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採択課題番号:IDEAS201603 1 ドローン空撮写真を利用したモモ樹の整枝・剪定効果の評価 郭威 * 、高田大輔 ** 、本多潔 *** * 東京大学農学生命科学研究科、 ** 福島大学、 *** 中部大学国際 GIS センター 1. はじめに モモの整枝・剪定とは、冬季や夏季を中心に枝を切り戻し、誘引などにより枝の適正な空間配置を人為的 に調節することで、作業性の向上(摘蕾・摘果など)を図ることが目的である。JA や県などの振興機関では、 新規就農者を指導するために剪定手法やその効果を図面として提供しているが、3 次元に配置されている枝 の位置などを 2 次元に落とし込んだ、樹形の概念図としてのイメージにしかなっておらず、指導がうまく伝 わらないことがある。例えば、実際の角度を二次元図に投影した場合(図 1)、左図丸(30℃と表示)のよう に図面での表示角度が実態と異なる。また、中堅以上の農家に対しても、樹冠面積や樹相を着果量や施肥量 の目安にすべきであるが、各農家の栽培樹の状況が個々で異なり、既存の樹冠面積の推定式が当てはまりに くい形状の樹も現地には多く存在するため、状況ごとに対処した指導を行っているものの、体系付けた指導 を行うことが難しい。そこで、本研究では、モモ樹を対象にドローン空撮写真を撮影・解析することにより、 開花前、夏季の着果の様相、収穫期、夏季剪定後、落葉期にモモ樹の三次元視覚化及び具体化とその生育(樹 冠面積、主枝、亜主枝の太さ及び角度など)を定量的に推計することを目的とした。 図 1.JA や県の普及センターにおいて使用される剪定指導図の一例 2. 方法 本研究の目的を達成するため、以下の課題をあげた: 1. 機体、センサーの選択(コストと性能のバランス) 2. 飛行プラン(飛行効率) 3. データの管理 (データが膨大になる) 4. 三次元再構築 (特に冬期の枝再構築が難しい) 5. オルソ画像解析により ROI の抽出(圃場であるため背景が複雑) 6. 解析結果の可視化及び保存 これらの課題を解決するため、下記の 1-8 の時期に空撮プランと解析を計画した。 1. 前年度落葉前(10 月) 前年度の繁茂時の状況撮影、モモ樹体の三次元再構築手法を提案する。 2. 冬季剪定後(2~3 月) 落葉期である本時期は、1.や後の生育の様相を確認する基礎となる画像となる。枝のみが写っている画像 からモモ樹体の三次元再構築手法を提案する。 3. 摘果後(6 月上旬)

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採択課題番号:IDEAS201603

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ドローン空撮写真を利用したモモ樹の整枝・剪定効果の評価

郭威*、高田大輔**、本多潔****東京大学農学生命科学研究科、**福島大学、***中部大学国際 GIS センター

1. はじめに

モモの整枝・剪定とは、冬季や夏季を中心に枝を切り戻し、誘引などにより枝の適正な空間配置を人為的

に調節することで、作業性の向上(摘蕾・摘果など)を図ることが目的である。JAや県などの振興機関では、

新規就農者を指導するために剪定手法やその効果を図面として提供しているが、3 次元に配置されている枝

の位置などを 2 次元に落とし込んだ、樹形の概念図としてのイメージにしかなっておらず、指導がうまく伝

わらないことがある。例えば、実際の角度を二次元図に投影した場合(図 1)、左図丸(30℃と表示)のよう

に図面での表示角度が実態と異なる。また、中堅以上の農家に対しても、樹冠面積や樹相を着果量や施肥量

の目安にすべきであるが、各農家の栽培樹の状況が個々で異なり、既存の樹冠面積の推定式が当てはまりに

くい形状の樹も現地には多く存在するため、状況ごとに対処した指導を行っているものの、体系付けた指導

を行うことが難しい。そこで、本研究では、モモ樹を対象にドローン空撮写真を撮影・解析することにより、

開花前、夏季の着果の様相、収穫期、夏季剪定後、落葉期にモモ樹の三次元視覚化及び具体化とその生育(樹

冠面積、主枝、亜主枝の太さ及び角度など)を定量的に推計することを目的とした。

図 1.JA や県の普及センターにおいて使用される剪定指導図の一例

2. 方法

本研究の目的を達成するため、以下の課題をあげた:

1. 機体、センサーの選択(コストと性能のバランス)2. 飛行プラン(飛行効率)3. データの管理 (データが膨大になる)4. 三次元再構築 (特に冬期の枝再構築が難しい)5. オルソ画像解析により ROI の抽出(圃場であるため背景が複雑)6. 解析結果の可視化及び保存 これらの課題を解決するため、下記の1-8 の時期に空撮プランと解析を計画した。

1. 前年度落葉前(10月)前年度の繁茂時の状況撮影、モモ樹体の三次元再構築手法を提案する。

2. 冬季剪定後(2~3月)落葉期である本時期は、1.や後の生育の様相を確認する基礎となる画像となる。枝のみが写っている画像

からモモ樹体の三次元再構築手法を提案する。

3. 摘果後(6月上旬)

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4. モモ果実発育第 2期(6月下旬~7月上旬)、5. 収穫後・夏季剪定(7月下旬~8月上旬)、6. 夏季剪定後(8月下旬)、7. 秋季栄養成長期(10月)これらの時期も複雑な背景から樹冠の抽出、樹冠形状と樹冠面積を計測する手法を開発とともに樹冠の定

量化評価を経時的に行い、樹体間差をみる。

8. 落葉期(12月)落葉後に撮影した画像を展葉前の 2.の時期と比較することで、樹冠の拡大や、枝の肥大や拡張を定数的に

捉える。また、この両時期の差分を比較し、樹体ごとあるいは樹体内の位置ごとの成長解析を行うとともに、

樹冠形状の変化に関する定量化評価を行う。例えば、枝の肥大や樹冠拡大の旺盛な部位とそうでない部位を

明らかにし、このような差異が生じた原因を3-7 の時期における成長の様相や着果量と関係付けを試みる。

実際に、モモの主要産地である岡山県の農業総合センター農業試験場内圃場と周辺篤農家が管理している

圃場を試験地とした。園地ごとの栽培管理手法の違いに着目し、先行研究を含めて、合計 7回、4圃場、3機

種で様々なテスト飛行を行った(表 1)。課題 4三次元再構築と課題 5オルソ画像解析によりROI の抽出につ

いて、岡山県立農業総合センター農業試験場で撮影した画像を中心に、手法開発を行った。

表 1 本研究で行った実験の詳細

F1:岡山県立農業総合センター農業試験場

F2:農家その1

F3:農家その 2

F4:農家その 3

3. 結果

岡山栽培現場では、樹高約 3メートルの木に対して、UAV の機種を Inspire1Pro とカメラ X5を利用、飛行

高度を 30m~50m で Waypoint 設計(Heading direction 統一、 Overlap 率 80%)により自動飛行が一番効

率がよいと考えられる。そして、空撮画像を三次元マッピングし、解析用の点群データ、オルソモザイクや

DSM データを生成するには、StructurefromMotion(SfM)/MultiViewStereo(MVS)手法が有効と検証し

た。なお、本研究では、SfM/MVS の実装は Pix4D(Pix4D,Switzerland)というソフトウェアを利用した。図

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3 は実験の開始時と終了時のモモ樹の三次元再構築結果の比較を示したものであり、本実験によって得た効

率的なドローンの利用方法にまとめた。その結果、オルソモザイク画像から背景に影響されない樹冠や枝の

抽出では、樹高情報を利用した面積推定手法を開発した上、点群データから枝の発生角度の計算を行える可

能性が示唆された。

図 2.三次元再構築一例。本実験の開始時(左図、2015 年 10 月)と比べ、明らかに枝の再構築が明瞭となっ

た(右図、2016 年 12 月)。

図 3.画像解析により異なる時期樹冠及び枝の抽出一例。オリジナル画像(上図、時期が異なるが、樹冠や

枝に対して、背景がほぼ同じ色で見える)と比べ、樹高を加えた画像(下図)を作成すれば、樹冠や枝の分

割が明らかに簡単となった。

図 4.時系列画像解析により接触した樹冠分離の一例。落葉期(樹冠の間はオーバラップなし状態)で撮影

した画像を利用して、各樹体の位置の同定を行う。同定した樹冠位置を成長期の画像に当てはめることで、

樹冠が接触しても各樹を分離することができた。

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4. 考察とまとめ

今年の実験では樹体三次元再構築するための飛行方法と樹体生育評価をするための画像解析手法について

検討をした。これからは、樹体位置の測定と記録、画像解析結果の評価を目標にしている。将来的には、図

5 に示したイメージで、樹体三次元可視化と解析した結果を中部大学が構築したデジタルアースシステム上

に転送することが可能と考えられる。撮影樹体が過去の生育状況を詳細に把握することを可能にし、可視的

な栽培履歴を構築することができる(図 5)。このようなデータ情報の蓄積により将来的に標準化したデータ

サービスの実現が可能で、地域ごとに特徴的な営農指導に貢献することが可能となると思われる。

図 5.将来デジタルアースシステム上に構築する栽培支援システム予想図。圃場リスト、更に圃場毎の代表

的な樹の三次元可視化、剪定評価、栽培履歴、施肥指導管理等を行う。

5. 謝辞

本研究では、藤井雄一郎氏(岡山県農林水産総合センター農業研究所果樹研究室)の多大なご支援とご協

OkayamaPeach

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力を頂きました。本研究は中部大学問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究IDEAS201603

の助成を受けたものです。

参考文献・データ

1. 高田大輔,福田文夫,久保田尚浩(2008):栽培管理法の違いがモモ‘紅清水’の赤肉果発生と果実発育に及ぼす影響.園芸学研究,7:367-373.

2. Sato,Mamoru,DaisukeTakata,KeitaroTanoi,TsutomuOhtsuki,YasuyukiMuramatsu,Y.(2015):Radiocesiumtransferintothefruitofdeciduousfruittreescontaminatedduringdormancy.

SoilScienceandPlantNutrition,61(1):37-41.

3. Díaz-Varela,R.etal.,2015.High-ResolutionAirborneUAVImagerytoAssessOliveTreeCrownParametersUsing3DPhotoReconstruction:ApplicationinBreedingTrials.RemoteSensing,7(4),

pp.4213–4232.Availableat:http://www.mdpi.com/2072-4292/7/4/4213/.

4. Torres-Sánchez,J.etal.,2017.AssessingUAV-collectedimageoverlapinfluenceoncomputationtimeanddigitalsurfacemodelaccuracyinoliveorchards.PrecisionAgriculture,pp.1–19.

Availableat:http://dx.doi.org/10.1007/s11119-017-9502-0.

5. Torres-Sánchez, J. et al., 2015. High-Throughput 3-D Monitoring of Agricultural-TreePlantations with Unmanned Aerial Vehicle (UAV) Technology. Plos One, 10(6), p.e0130479.

Availableat:http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0130479.