マンションの外断熱改修工法の確立と ライフサイク …2 建設費 その他...

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1 2009.6.13 マンション ライフサイクルコスト 委員 1. じめに ................................................................... 2 1.1 マンションにおいて ライフサイクルコスト(LCC) .......... 2 1.2ライフサイクルコスト(LCC) について ............................. 2 2. マンション った ........................ 4 3.ライフサイクルコスト(LCC) ケーススタディ ........................ 6 3.1LCC ......................................................... 6 3.2ケーススタディ1:「Mマンション」 ............................ 7 3.3ケーススタディ2:「Oマンション」 ........................... 24 3.4ケーススタディ3:「 マンション」 ......................... 32 3.5 タイル ............................................ 36 4. ......................................................... 38 4.1 .......................................................... 38 4.2 エネルギーコスト について .............................. 39 4.3 エネルギーコスト .................................... 39 5.「 LCC プロトタイプ」 ............................ 40 5.1LCC ファイル にあたって ............................ 41 5.2ファイル シート .................................. 41 5.3 LCC プロトタイプ ................................ 50 6.LCC するにあたって ..................... 51 7. から まれる ................... 54 8.おわりに .................................................................. 58 【マンション ライフサイクルコスト 委員 委員 .............................................................................. 61

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2009.6.13

マンションの外断熱改修工法の確立と ライフサイクルコストの研究委員会 報告書

目 次

1.はじめに................................................................... 2 1.1 分譲マンションにおいてのライフサイクルコスト(LCC)の捉え方 .......... 2 1.2 ライフサイクルコスト(LCC)の検討について............................. 2

2.分譲マンションで外断熱改修を行った場合の利点の確認 ........................ 4

3.ライフサイクルコスト(LCC)計算のケーススタディ ........................ 6 3.1 LCCの積算費目......................................................... 6 3.2 ケーススタディ1:「Mマンション」での改修事例............................ 7 3.3 ケーススタディ2:「Oマンション」での改修事例........................... 24 3.4 ケーススタディ3:「塔型マンション」での計算事例......................... 32 3.5 外壁タイル仕上げの場合の検討............................................ 36

4.暖房費節減の効果 ......................................................... 38 4.1 設定条件と計算.......................................................... 38 4.2 暖房エネルギーコストの削減計算結果について.............................. 39 4.3 暖房用エネルギーコスト削減効果の実際.................................... 39

5.「略称LCC計算表プロトタイプ」の説明と使い方 ............................ 40 5.1 LCC計算表ファイル使用にあたっての注意事項............................ 41 5.2 ファイル構成のシートの説明及び使用方法.................................. 41 5.3 略称LCC計算表プロトタイプの別な使い方................................ 50

6.LCC計算表を長期修繕計画へ応用するにあたっての断り ..................... 51

7.外装部の維持保全、修繕から見て望まれる外断熱工法の要素 ................... 54

8.おわりに.................................................................. 58

【マンションの外断熱改修工法の確立とライフサイクルコストの研究委員会 委員名簿】

.............................................................................. 61

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建設費

その他

修繕費運用費

保全費

マンションの企画・設計、建設に要する全ての費用

暖 房 や 給湯、照明等の光熱費や上下水道費

水面下は見えにくい

1.はじめに

分譲マンションのライフサイクルコスト(LCC)を考える時、本来であれば新築時

から解体、廃棄までの期間でトータルの費用を考えるべきであるが当委員会ではマンショ

ンの修繕に於いて外断熱を採用する事が運用管理コスト面でも大きな優位性を持つであろ

うという推定の元、運用管理コストに大きな比重を占める修繕費及び暖房費を中心にライ

フサイクルコストを絞り込み、コストメリットを検討した。検討にあたっては、外壁部分、

屋上防水に加え開口部(サッシ)も暖房費に大きく影響する事から改修項目として加えた。

検討の期間については修繕費の積立ての状況、居住者・管理組合の大規模修繕経験などか

らして、新築後最初の大規模修繕時に外断熱改修が検討に上がらない事が予測され、検討

された改修時点を初回(0年目)とし、以降、標準的な大規模修繕サイクルで12年目、

24年目、36年目、48年目、60年目で検討を行った。

1.1 分譲マンションにおいてのライフサイクルコスト(LCC)の捉え方

ライフサイクルコストとはマンションに限らず建築物の場合、新しく建設されてか

ら寿命を迎え解体・廃棄されるまでのトータルの費用を言うが、分譲マンションの場

合、イニシャルコストというべき企画設計費、建設費は分譲価格に反映し目に見えて

分かり易いものである。だが、運用管理費(水道光熱費などの運用費、保守・点検な

どの保全費、修繕・改修費、税金・保険や清

掃費などの一般管理費)及び解体・廃棄費用

は数十年以上に亘る長期間の話しであり、居

住者・区分所有者にはなかなか理解しづらい

し、また関心も持っていないのが現状と思わ

れる。右の図はトータル費用のイメージであ

るが、イニシャルのコストは氷山の一角とで

もいうべきものであり、水面下には住まいを

維持していくための多額の費用が隠れている。

北海道でも1970年代初めから供給さ

れだしたマンションが築後40年近くを経過し老朽化も目立ちだし、今後建物が何年

持つのだろうかと漠然と不安を感じ出した居住者は少なくないし、ますます増えるも

のと思われる。適切な長期修繕計画を立て、適切な修繕積み立てを行い、計画的な修

繕・改良工事を行っていけば半永久的に住まうことは可能である事をできるだけわか

り易く居住者、管理組合に示す事は有意義な事である。

1.2 ライフサイクルコスト(LCC)の検討について

一般的に大規模の修繕工事や更新工事は外壁や屋上等の外装部分と設備類・共用内

部・外溝付帯設備等に分けられるが、30数年~60年の期間で見ると外装部分の修

繕に要する費用は全体の40%~50%程度になるようである。また、設備類とか共

用内部等については20年とか30年毎の点検、修繕項目が多いが、外壁や屋上防水

などの外装部分は12~15年程度のサイクルで点検、修繕が必要になってくる。こ

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の外装部分の修繕にあたって既存仕上げ(塗装仕上げ、タイル仕上げ)の修繕を繰り

返した場合と外断熱で改修を行った場合の長期の修繕費及び暖房費がどの様になるか

比較を行った。古いマンションを外断熱改修した場合の利点は金額換算し易い修繕費

や暖房費のコスト的なものの他、結露の危険性の低減や室内温度環境の改善など幾つ

も挙げられるが、それらを説明しても区分所有者(居住者)や管理組合の役員の方に

その気持ちになって貰うのは困難なようである。外断熱改修(サッシ改修、屋上断熱

防水改修を含む)を行うと一時的な修繕費用が大きく、その工事費用の資金計画も含

めて提案する事が必要である。当LCC委員会では借入れ等の資金計画及び参考値で

あるが、設備類・共用内部・外溝付帯設備等を含めた長期修繕計画と適正な修繕積立

金の設定を提案する。

検討においては試算の条件を既に外断熱改修を実施した札幌市内のOマンション、

Mマンションの事例を参考にして標準的な修繕項目、工事金額、修繕周期を設定し、

60年先までの毎年の修繕費用を計算する事で行った。検討対象とするマンション毎

にこの計算を行う作業を軽減する為に「略称LCC計算表プロトタイプ(LCC計算

表)」を作成し、更にこの計算表では大規模修繕にあたっての資金計画(修繕積立金残

高、毎月の修繕積立金設定、借入金など)作成できるようにした。

なお、当委員会で検討しLCC計算表に織り込んだ前提条件或いは考え方を全ての

タイプの分譲マンションに当てはめる事は難しい。最近、北海道でも多く見られるよ

うになった高層のマンション、大きな団地型のマンション、3面・4面をバルコニー

としているマンション或いは柱型・梁型を外側に出したり、出窓風に開口部をデザイ

ンしたマンション等は大規模修繕へのアプローチ、修繕工事費の設定等を別に考える

必要がある。

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2.分譲マンションで外断熱改修を行った場合の利点の確認

マンションを外断熱改修することにより長期間での修繕費用の削減、暖房用エネルギ

ーコスト削減のほか結露の抑制、冬季間の室内温度環境の改善など多くのメリットがある。

この多くのメリットについては(社)日本建築学会北海道支部に設けられた「中高層マンシ

ョンの外断熱改修研究委員会(2005 年 4 月~2007 年 3 月)」1)の報告では次の項目が挙げ

られている。

1)マンションの転売時の価格上昇

2)北側居室に多く見られる結露被害によるクロス張替工事など室内改修工事費の

削減

3)大規模修繕に伴う理事人件費、コンサル費用等の事務費の削減と労力削減

4)冬季の室内環境改善による高血圧治療などの医療費の削減

5)共用空間の温度維持

6)エレベータシャフト内のカビ被害防止

7)冷房を使っている場合は冷房用電力の削減

これらのメリット項目は定量的な金額換算は難しい所があるが、同報告書では 6,000

万円以上と推定をしており、見えにくい効果として更なるプラス要素と言える。以上をま

とめると、躯体コンクリートの耐久性の向上することによって大規模修繕の回数を減らす

ことができることと、室内温度環境の安定化によって結露が減少し、内装改修工事の軽減

や生活改善・健康の促進が見込まれること、そして資産価値の向上である。

1)外断熱による躯体コンクリートの耐久性の向上と高耐久外装材の選定

躯体コンクリートの劣化と外断熱改修がもたらす耐久性への影響については、

「RC 造 外断熱工法ハンドブック 2003 年」2)の理論編の「外断熱による建物耐久

性の向上」に記載されている。鉄筋コンクリートは、コンクリート内部にある鉄筋

をアルカリ性のコンクリートがおおっていて鉄筋が腐食するのを防いでいるため耐

久的なものといわれているが、その鉄筋コンクリート造構造体を老朽化・劣化させ

る要因としては気温、日射熱、二酸化炭素、湿度、海塩粒子、酸性雨などが考えら

れる。外断熱されたコンクリートはこれらの厳しい屋外条件に曝(さら)されるこ

とがないため、その特性であるアルカリ性が保たれることで耐久性が向上する。さ

らに温度伸縮によるひび割れ、凍結融解などによる傷みもなくなり、鉄筋の酸化の

要素が排除される。大きく影響する中性化に関しては、30年経過したコンクリー

ト躯体に外断熱改修することで70年以上も遅らせることができ、他の劣化要素も

排除できることから、大きく耐久性が高まるものと理解できる。外断熱改修をする

ことによって、その時点から躯体コンクリートの劣化は殆ど進まなくなると考えら

れる。

また、外断熱改修をすることによって、建物の外装仕上げに新しいものを設置す

ることになる。最近では耐久性が高い様々な外装材が開発されて来ており、これら

を使用することによって少なくとも30数年程度は、大規模な修繕は不要になると

考えられる。

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2)大規模修繕の苦労と負担の軽減

現状の一般的なマンションの外装は、10数年ごとに大規模修繕工事が必要であ

る。これを怠ると、次の修繕時までに傷みが進んで、修繕費用が大幅に増加する。

1回目の修繕時には居住者もあまり代わらず、費用も少なめなので比較的苦労な

くできるが、2回目以降は居住者も高齢化し、入れ替わりも進み、工事費も多くな

るため、居住者全体の合意を得ることや資金の調達等に大変な苦労があると考えら

れる。

外断熱改修をすると、コンクリート構造体の修繕が殆ど必要なくなるので、他の

要因による大規模修繕を検討することになる。大規模修繕では外装の種類によって

はそのメンテナンスの可能性を考慮して30数年程度は不要で、修繕時にも費用が

少なくなる。もちろん、建物部位によっては定期的な補修は必要だが、大規模な修

繕が30数年以上不要になることで、マンションの居住者、管理組合の役員の方の

負担が軽減される。

3)室内温度環境の安定

躯体コンクリート温度が外気温の影響を受けにくくなるので、冬は室内温度環境

が大きく改善される。また、室内壁温が上昇し結露発生の危険性は大きく減少する。

結露による内装の汚れが減ることで、内装クロス張替えなど室内改修工事などの費

用が軽減されることに結びつく。

そして、安定した室内環境が健康によい影響をもたらすことになる。高血圧の方

にとって、最も心配なのは朝の血圧である。連続暖房した場合と夜間暖房を止めた

場合では、朝方の血圧が大きく違っている。また、家で最も脳梗塞や心筋梗塞を起

こす場所は温度の低いトイレや浴室である。外断熱改修をしたマンションでは、た

とえ夜間に暖房を止めても朝方までの室温低下はわずかであり、トイレや浴室も暖

かく保てることから、連続全室暖房と同じ環境になる。ヒートショックによる脳梗

塞や心筋梗塞を起こす可能性が少なくなる。

外断熱改修に合わせ開口部の断熱強化・気密改修を同時に行うと熱損失が小さく

なり暖房エネルギーが減少する。また、内断熱マンションでは最上階の住戸、妻壁

に面する住戸、階下が駐車場やピロティ等の2階住戸などの寒い外気に面する面積

が大きな住戸と、中間階や中央の住戸のように囲まれた住戸とでは暖房費用に大き

な差が生じる。これを外断熱にすると、室温の低い住戸が少なり、隣接する住戸間

での熱の移動が小さくなるため、熱的な不公平さ、住戸の位置によって生じる暖房

費の差を軽減することができる。

このように、外断熱改修で得られる利点は金額換算のし易い修繕費低減や暖房費低減

だけではなく、金額換算のしづらい幅広い利点も含めマンションの居住者により良い生活

環境を提供できるものである。

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3.ライフサイクルコスト(LCC)計算のケーススタディ

実在の分譲マンションをモデルとしてLCC計算のケーススタディを行った。内2棟

は実際に外断熱改修が行われた建物であり、1棟は建築後数年の建物を計算モデルとして

行った。LCC計算にあたっては、5章で詳細説明を行う「略称LCC計算表プロトタイ

プ」を用いている。

3.1 LCCの積算費目

一般的に建物のLCCは、その建設から運用、解体までに要する全ての費用を合計

したものとして表される。本研究においては、一般的修繕と外断熱改修の経済性を比

較することが目的であるため、費用に差違が表れる費目のみを対象としてLCCを算

出することとした。

LCCの一般的な積算費目を図1に示す。今回はこの中から、費用に差違があり、

かつ経済性を定量的に試算できる費目として運用費の中の暖房費、修繕費の中の外断

熱改修の工事費および外装・躯体等の修繕費を積算対象とした。専有部の内装・設備の

修繕費は LCC に与える影響が大きく、結露防止による内装修繕費の削減や暖房設備の

小容量化など、外断熱改修の経済性にプラス効果があると考えられるが、その修繕・更

新は所有者の判断によることから、今回は積算対象から除外した。

図 1 LCC の積算費目

図 1 LCC の積算費目

LCCの積算費目

建設費

運用費 暖房費

修繕費

外断熱改修の工事費

外装・躯体等の修繕費

専有部内装・設備の修繕費

共用部内装・設備の修繕費

保全費

その他

積算対象

積算対象外

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3.2 ケーススタディ1:「Mマンション」での改修事例

1)建物概要

改修対象となった札幌市内の分譲マンション「Mマンション」は、昭和 49 年竣工

の RC 造 7 階建ての共同住宅である。外壁の断熱原仕様は、押出法ポリスチレンフォ

ーム 1 種 b20 ㎜打込による内断熱工法であった。表 1 に建物の概要を、図2に基準

階の平面図を示す。

表 1 改修建物の概要

名称 M マンション

構造 鉄筋コンクリート造 7 階建て

住戸数 42 戸

竣工年 昭和 49 年 3 月(改修時築 33 年)

断熱工法 内断熱工法

部屋構成 2LDK、3LDK

既存の断熱 (外

壁)

押出法ポリスチレンフォーム 1 種 b20 ㎜

外壁仕上げ 吹き付け塗装仕上げ

開口部 引き違いアルミサッシ+木の二重窓

図 2 基準階の平面図

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2)外断熱改修の概要

外断熱改修は、建物外壁全面と開口部に対して行われた。外装は、東西南側は乾

式・樹脂サイディング、出入りの少ない北側は乾式・ガルバリウム鋼板、1階は発

泡スチレンの上に塗装する湿式工法の3種の工法を適材適所で取り入れ、窓は全面

オーバーサッシが採用されている。予算の関係で、外部足場を必要としない屋上の

断熱防水や各階共用部内装工事等は次回工事とし、資金が溜まった後、改めて行う

こととした。外壁の外断熱改修に用いる材料や施工方法は、断熱性やコストのほか、

施工性や外装材の耐久性などを総合的に鑑みて選択された。表 2 に今回の外断熱改

修の概要を、写真 1~5 に改修前後の外観と施工中の写真を示す。

表 2 外断熱改修の概要

断熱材 押出法ポリスチレンフォーム 3 種 b(XPS-3b) 厚 50 ㎜

外装材 1階:湿式仕上げ

2階以上:塩ビ樹脂サイディング(東、西、南面)

角波ガルバリウム鋼板(北面、棟屋)

施工部位 外壁、開口部

施工面積 約 2000 ㎡

外壁熱貫流率(改修前) 0.89 W/m2K

外壁熱貫流率(改修後) 0.43 W/m2K(改修前の 2 倍の断熱性能)

開口部(改修前) 引き違いアルミサッシ+木の二重窓

開口部(改修後) 既存サッシの外側に外付けサッシを付加

写真 1 外断熱改修前の外観

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写真 2 外断熱改修後の外観(樹脂サイディング)

写真 3 外断熱改修後の外観(ガルバリウム鋼板)

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写真 4 外付けサッシの状況

写真 5 断熱材張り付けの状況

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3)長期修繕計画に基づいた修繕工事支出の算出

「Mマンション」をモデルとして、一般的修繕を続けた場合と外断熱改修を行っ

た場合との長期修繕計画を立案し、修繕工事もしくは外断熱改修工事に関わる費用

の算出を行った。工事費の算出に必要な建物各部位の面積等を表 3 に示す。表 4、5

に、各修繕工事を行う年度とその工事内容の一覧を示す。表 6、7 に、各工事費目に

おける工事単価を示す。工事費は、Mマンションでの事例や、市販の積算資料、マ

ンション管理組合連合会資料などをもとに北海道建築技術協会特定専門委員会「マ

ンションの外断熱改修工法の確立とライフサイクルコストの研究委員会」内で検討

を行った値を使用している。

表 3 建物各部位の面積等

Ⅰ.建物概要、部位面積の入力表【試算建物概要】マンション形状住戸数 50 戸延べ床面積 5,009 ㎡(参考値 計算前提外)専有面積合計 4,000 ㎡戸当り平均専有面積 80.0 ㎡バルコニー床面積合計 250 ㎡階数 7 階(参考値 計算前提外)

【外部大規模修繕の周期】 12 年

【部位面積等】屋根(屋上)面積 800 ㎡笠木長さ 150 m外壁面積(開口除く) 2,400 ㎡  ⇒ 塗装面積 2,400 ㎡ 非バルコニー面 800 ㎡ タイル面積 0 ㎡ バルコニー面 1,600 ㎡開口面積 600 ㎡シーリング(外壁部) 1,200 m(従来方法修繕時)シーリング(開口周り) 1,400 m(従来方法修繕時)外断熱時シーリング 800 m(工法、納まりにより積算を要す)換気フード 12 箇所排気筒 5 箇所バルコニー床防水 300 ㎡バルコニー・塔屋・屋外階段塗装 1,400 ㎡金属手摺修繕・取替 300 m仮設足場 3,300 ㎡ (外壁面積+開口面積)×1.1仮設足場(屋外階段部) 1,540 ㎡ (塔屋・屋外階段壁面積)×1.1

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表 4 工事年度と内容の一覧(一般的修繕)

表 5 工事年度と内容の一覧(外断熱改修)

■一般的修繕 ・初回、24 年目、48 年目 屋根 :アスファルト露出防水(既存防水撤去後に新設) 外壁 :吹付タイル(既存塗装撤去後に新設) その他:シーリング取換、0 年目のみ笠木・換気口等取替

・12 年目、36 年目 屋根 :アスファルト露出防水(既存防水上に新設) 外壁 :吹付タイル(既存塗装上に新設) その他:シーリング取替、36 年目のみ笠木等取り替え

■外断熱改修 ・外断熱改修時 屋根 :外断熱アスファルト露出防水(既存防水上に新設) 外壁 :湿式外断熱左官仕上げ(既存仕上げ上に新設) 開口 :内窓ガラスを複層ガラスに取替 その他:シーリング、笠木、換気口等取替

・12 年目、24 年目、48 年目 屋根 :外断熱アスファルト露出防水

(既存防水の部分補修) 外壁 :湿式外断熱左官仕上げ

(外断熱仕上げの部分補修) その他:シーリング取替、仮設はゴンドラを使用

・36 年目 屋根 :外断熱アスファルト露出防水(既存防水上に新設) 外壁 :湿式外断熱左官仕上げ

(外断熱仕上げの塗装塗り替え) その他:シーリング、笠木等取り替え

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表 6 各工事費目における工事単価

外装及び躯体の修繕に係わる一般的修繕.....

の費用と周期 Ⅰ.外装修繕、改修の部

工事項目 工事細目 LCC委調査@ ⇒ 積算@ 積算数量 単位 周期本足場 本足場(工期/60日) 1,500円/㎡ ⇒ 1,500円/㎡ 4,840 ㎡ 12年部分足場 部分足場(工期45日) 1,500円/㎡ ⇒ 1,500円/㎡ 0 ㎡ 12年ゴンドラ

従来修繕 既存塗装の除去・下地処理 3,000円/㎡ ⇒ 3,000円/㎡ 2,400 ㎡ 12年躯体補修 1,000円/㎡ ⇒ 1,000円/㎡ 2,400 ㎡ 12年塗装仕上 2,500円/㎡ ⇒ 2,500円/㎡ 2,400 ㎡ 12年タイル部分補修(躯体補修含む) 30,000円/㎡ ⇒ 30,000円/㎡ 0 ㎡ 6年

部分補修率/年→ 2.0% ⇒ 1.0%

外断熱改修

シーリング シーリング 1,500円/m ⇒ 1,500円/m 2,600 m 12年換気フード改修FF給排気筒取替

従来露出防水 既存防水層の撤去 1,500円/㎡ ⇒ 1,500円/㎡ 800 ㎡ 24年アスファルト露出防水新設 10,000円/㎡ ⇒ 10,000円/㎡ 800 ㎡ 12年笠木改修 12,000円/m ⇒ 12,000円/m 150 m 36

外断露出防水

笠木改修

外側サッシ付加

内窓ペアサッシへ交換

内側サッシペアガラス化

既存サッシ建付調整

バルコニー床防 躯体補修・下地調整 1,000円/㎡ ⇒ 1,000円/㎡ 300 ㎡ 12年防水処理 2,500円/㎡ ⇒ 2,500円/㎡ 300 ㎡ 12年

バルコニー・塔屋・屋外階段塗装 既存塗装の除去・下地処理 3,000円/㎡ ⇒ 3,000円/㎡ 1,400 ㎡ 12年躯体補修 1,000円/㎡ ⇒ 1,000円/㎡ 1,400 ㎡ 12年塗装仕上 2,500円/㎡ ⇒ 2,500円/㎡ 1,400 ㎡ 12年

金属手摺修繕・取替 金属手摺取替 7,000円/m ⇒ 7,000円/m 300 m 12年

その他修繕1 項目ア ⇒その他修繕2 項目イ ⇒

外部劣化調査・診断費用設計管理費 工事総額×5% 5%工事諸経費 直接工事費×15% 15%

消費税 5%

その他

サッシ改修

外壁修繕

屋上修繕

共通修繕項目

仮設

一般的修繕単価表 数量

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表 7 各工事費目における工事単価

外装及び躯体の修繕に係わる外断熱改修.....

の費用と周期 Ⅰ.外装修繕、改修の部

工事項目 工事細目 LCC委調査@ ⇒ 積算@ 積算数量 単位 周期本足場 本足場(工期/90日) 2,000円/㎡ ⇒ 2,000円/㎡ 4,840 ㎡ 36年部分足場 部分足場(工期45日) 1,500円/㎡ ⇒ 1,500円/㎡ 327 ㎡ 24年ゴンドラ ゴンドラ 12年

従来修繕

外断熱改修 躯体補修 1,000円/㎡ ⇒ 1,000円/㎡ 2,400 ㎡ 初回乾式通気・ガルバ外装 16,000円/㎡ ⇒ 16,000円/㎡ 827 ㎡ 初回  下地・断熱材工事 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 827 ㎡ 初回  外装材張替え工事 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 827 ㎡ 36年  部分補修 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 99 ㎡ 24年

部分補修率/年→ 0.5% ⇒ 0.5%乾式通気・塩ビ外装 16,000円/㎡ ⇒ 16,000円/㎡ 1,232 ㎡ 初回  下地・断熱材工事 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 1,232 ㎡ 初回  外装材張替え工事 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 1,232 ㎡ 36年  部分補修 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 148 ㎡ 24年

部分補修率/年→ 0.5% ⇒ 0.5%湿式密着・塗り仕上 16,000円/㎡ ⇒ 16,000円/㎡ 215 ㎡ 初回  再塗り仕上げ (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 215 ㎡ 36年  部分補修 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 26 ㎡ 24年

部分補修率/年→ 0.5% ⇒ 0.5% 26シーリング シーリング 1,500円/m ⇒ 1,500円/m 800 m 12年換気フード改修 換気フード改修 7,000円/個 ⇒ 7,000円/個 12 個 36FF給排気筒取替 FF給排気筒取替 15,000円/個 ⇒ 15,000円/個 5 個 24

従来露出防水

外断露出防水 既存防水層の撤去 1,500円/㎡ ⇒ 1,500円/㎡ 800 ㎡ 24年既存防水層の部分補修 10,000円/㎡ ⇒ 10,000円/㎡ 48 ㎡ 12年

部分補修率/年→ 0.5% ⇒ 0.5%断熱材敷設 3,000円/㎡ ⇒ 3,000円/㎡ 800 ㎡ 初回アスファルト露出防水新設 10,000円/㎡ ⇒ 10,000円/㎡ 800 ㎡ 24年

笠木改修 笠木改修 12,000円/m ⇒ 12,000円/m 150 m 36

外側サッシ付加 外側サッシ付加 30,000円/㎡ ⇒ 30,000円/㎡ 600 ㎡ 初回

内窓ペアサッシへ交換 内窓ペアサッシへ交換 ⇒ ㎡ 初回

内側サッシペアガラス化 内側サッシペアガラス化 12,000円/㎡ ⇒ 12,000円/㎡ ㎡ 初回

既存サッシ建付調整 既存サッシ建付調整 3,000円/㎡ ⇒ 3,000円/㎡ 600 ㎡ 24年

バルコニー床防 躯体補修・下地調整 1,000円/㎡ ⇒ 1,000円/㎡ 300 ㎡ 12年防水塗装 2,500円/㎡ ⇒ 2,500円/㎡ 300 ㎡ 12年

バルコニー・塔屋・屋外階段塗装 既存塗装の除去・下地処理 3,000円/㎡ ⇒ 3,000円/㎡ 1400 ㎡ 12年躯体補修 1,000円/㎡ ⇒ 1,000円/㎡ 1400 ㎡ 12年塗装仕上 2,500円/㎡ ⇒ 2,500円/㎡ 1400 ㎡ 12年

金属手摺修繕・取替 金属手摺取替 7,000円/m ⇒ 7,000円/m 300 m 12年

その他修繕1 項目A ⇒その他修繕2 項目B ⇒

外部劣化調査・診断費用設計管理費 工事総額×5% 5%工事諸経費 直接工事費×15% 15%

消費税 5%

その他

サッシ改修

外壁修繕

屋上修繕

共通修繕項目

仮設

外断熱改修数量単価表

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15

表 8 各工事費と支出年度(一般的修繕)

12年 24年 36年 48年 60年 72年 84年 96年一般的修繕費用合計修繕費用累計

(1) 本足場 726 726 726 726 726 726 726 726(2) 部分足場(3) ゴンドラ

(4) 既存防水層の撤去 120 120 120(5) アスファルト露出防水新設 800 800 800 800 800 800 800 800

笠木改修 180 180(6) 既存塗装の除去・下地処理 720 720 720 720 720 720 720 720(7) 躯体補修 240 240 240 240 240 240 240 240(8) 塗装仕上 600 600 600 600 600 600 600 600

0 0 0 0 0 0 0 0(9) タイル部分補修(躯体補修含む)

0 0 0 0 0 0 0 0(10) シーリング 390 390 390 390 390 390 390 390

(11) バルコニー床防 30 30 30 30 30 30 30 30(12) 75 75 75 75 75 75 75 75

0 0 0 0 0 0 0 0(13) バルコニー・塔屋・屋外階段塗装 420 420 420 420 420 420 420 420(14) 140 140 140 140 140 140 140 140(15) 350 350 350 350 350 350 350 350

0 0 0 0 0 0 0 0(16) 金属手摺修繕・取替 210 210 210 210 210 210 210 210

(17) その他修繕1(18) その他修繕2

一般的修繕

屋根

外壁修繕

仮設

共通修繕項目

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16

表 9 各工事費と支出年度(外断熱改修) 12年 24年 36年 48年 60年 72年 84年 96年

外断熱改修費用合計修繕費用累計

(1) 本足場 968 968 968(2) 部分足場 50 50 50 50 50(3) ゴンドラ

(4) 既存防水層の撤去 120 120 120(5) 既存防水層の部分補修 48 48 48 48(6) 断熱材敷設 240(7) アスファルト露出防水新設 800 800 800 800(8) 笠木改修 180 180 180

(9) 躯体補修 240(10) 外断熱改修

乾式通気・ガルバ外装 1,324  下地・断熱材工事  外装材張替え工事 662 662  部分補修 80 80 80 80 80乾式通気・塩ビ外装 1,972  下地・断熱材工事  外装材張替え工事 986 986  部分補修 119 119 119 119 119湿式密着・塗り仕上 344  再塗り仕上げ 172 172部分補修率/年→ 21 21 21 21 21

(11) シーリング 120 120 120 120 120 120 120 120

(12) 換気フード改修 9 9 9

(13) FF給排気筒取替 8 8 8 8

(14) サッシ改修外側サッシ付加 1,800

内窓ペアサッシへ交換

内側サッシペアガラス化

(15) 既存サッシ建付調整 180 180 180

(16) バルコニー床防 30 30 30 30 30 30 30 30(17) 75 75 75 75 75 75 75 75

0 0 0 0 0 0 0 0(18) バルコニー・塔屋・屋外階段塗装 420 420 420 420 420 420 420 420(19) 140 140 140 140 140 140 140 140(20) 350 350 350 350 350 350 350 350

0 0 0 0 0 0 0 0(21) 金属手摺修繕・取替 210 210 210 210 210 210 210 210

(22) その他修繕1(23) その他修繕2

外断熱改修

外断熱改修

共通修繕項目

サッシ改修

仮設

屋根

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17

表 10 内装及び設備の修繕に係わる費用

Ⅱ.内装、設備修繕の部 万円内装・設備類修繕項目 次回の修繕予定 委員会基準値 積算費用 周期(1) 共用内部修繕工事 12年後 528 ⇒ 317 12(2) 鉄部塗装換 6年後 90 ⇒ 54 6(3) 階段室手摺 36年後 170 ⇒ 102 36(4) 共用玄関扉更新 36年後 180 ⇒ 108 36(5) オートロック装置改修 15年後 400 ⇒ 240 15(6) 敷地外溝施設 24年後 727 ⇒ 436 24(7) 付属施設 24年後 516 ⇒ 310 24(8) 給水管更新(共用) 25年後 1,613 ⇒ 968 25(9) 給水管更新(専用) 25年後 2,225 ⇒ 1,335 25(10) 排水管更新 20年後 1,513 ⇒ 908 20(11) ガス管 20年後 519 ⇒ 311 20(12) 受水槽 25年後 359 ⇒ 215 25(13) ポンプユニット 16年後 150 ⇒ 90 16(14) 電気幹線 30年後 609 ⇒ 365 30(15) 照明器具 15年後 249 ⇒ 149 15(16) 電話設備 30年後 124 ⇒ 74 30(17) 自火報設備 20年後 534 ⇒ 320 20(18) 連結送水管設備 25年後 267 ⇒ 160 25(19) 避雷設備 40年後 228 ⇒ 137 40(20) TV共聴設備 15年後 279 ⇒ 167 15(21) エレベータ(小修繕) 15年後 300 ⇒ 180 15(22) エレベータ(大修繕) 30年後 4,000 ⇒ 2,400 30(23) 外溝整備 24年後 267 ⇒ 160 24

4)修繕積立金の重要性

修繕積立金は、建物の傷んだ部分等を補修して、建物を健全に使用できる状態を

維持するために必要な費用である。修繕費の支出項目は大きく二つに分けて考える

ことができ、一つは躯体や外装、防水など建物自体を補修するための支出(躯体・外

装の修繕に係わる支出)、もう一つは給排水やガス、灯油などの配管設備、エレベー

ター、内装など交換などするための支出(内装・設備の修繕に係わる支出)となる。

これらの修繕費はそれぞれの耐久性により異なる概ね10~30年のサイクルで発

生してくるが、修繕の内容が多くなると、その費用も大きくなり、居住者が一時的

に支出を負担することは困難である。そのためほとんどのマンションでは、修繕積

立金として居住者が毎月一定の額を徴収して、将来の大きな支出に対して備えてい

る。

一般的にマンションでは、築20年頃から躯体や設備の大きな修繕が続く。外断

熱改修を行うにかかわらず、一般的修繕を続ける場合においても累積では相当の費

用が必要になってくる。修繕積立金は当初、月額 100 円/㎡程度であることが多いよ

うであるが、修繕積立金が少ないとこれらの工事費用が賄えず、一時金や借入金に

頼る度合いが大きくなり、マンションの将来にも不安が生じてくる。そのため、修繕

積立金の引き上げはなるべく早い段階から行い、将来の大きな支出に対して備える

必要があると考えられる。そこで、マンションが赤字運営とならないための目安と

なる修繕積立金の徴収額を求めるための修繕積立金徴収月額別修繕積立金残高試算

を行った。

図に、徴収月額別に修繕積立金残高の推移(一般的修繕の場合)をまとめたグラ

フとして示す。修繕積立金月額 150 円/㎡および 100 円/㎡の場合、築20年頃から

の躯体や設備の大きな修繕に伴う支出により、修繕積立金残高がマイナスとなる赤

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18

字運営に陥ると試算された。これに対して修繕積立金月額 200 円/㎡の場合は赤字運

営に陥ることがなく、安定したマンション運営が可能であることが試算された。修

繕積立金を当初の月額 100 円/㎡程度で放置したままでは適切な時期に適切な修繕が

行えない状態となり、躯体コンクリート等の劣化が進んでマンションの寿命を縮め

る結果になることを示唆するものと捉えることができる。さらに、そのような状態

に陥ったマンションでは、入居率が低くなることが予想されるためマンション運営

はさらに厳しくなるものと考えられる。したがって、マンションを金銭的な面にお

いても、物理的な面においても健全な状態を維持することはマンション運営におい

ては必須の条件と考えられ、それを担保する修繕積立金の徴収月額はマンションの

将来にとって非常に重要な意味を持つものといえる。各マンション管理組合におい

ては、改めて長期修繕計画の見直しを行うとともに、状況によっては修繕積立金徴

収月額の再検討等が必要であることを認識する必要性があると考えられる。

図 3 徴収月額別の修繕積立金残高の推移(一般的修繕の場合)

5)長期修繕資金計画の検討

先にも記したが、修繕積立金は当初、月額 100 円/㎡程度であることが多いようで

ある。そこから、長期修繕計画に基づいて数年毎に段階的に引き上げを行っていく

ことが一般的であるが、計画外の引き上げは居住者にとっては毎月の支出が増える

ことになるため、その同意を得ることは比較的困難な作業となる。その結果、引き

上げの時期が遅れると長期修繕計画にも支障が生じることは容易に想像できる。そ

こで、次の3つの長期修繕資金計画の試算を行い、その経済性を比較した。

A 案 「一般的修繕で修繕積立金の引き上げを先延ばしした場合」

B 案 「一般的修繕で修繕積立金の引き上げを早めに行った場合」

C 案 「築 12 年目に外断熱改修を行った場合」(修繕積立金は B 案と同条件)

一般的修繕および外断熱改修に関する長期修繕計画の内容や建物条件、工事金額

等の条件は前項で試算した内容と同様である。

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

0年 10年 20年 30年 40年 50年 60年

築年数

修繕

積立

金残

高(

億円

修繕積立金残高の推移:「一般的修繕の場合」

赤字運営

月額 8,000 円/戸(100 円/㎡)

月額 16,000 円/戸(200 円/㎡)

月額 12,000 円/戸(150 円/㎡)

修繕積立金の徴収月額

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19

図 4 A 案「一般的修繕で修繕積立金の引き上げを先延ばしした場合」

図 4 に、A 案「一般的修繕で修繕積立金の引き上げを先延ばしした場合」の長期修

繕資金計画を示す。一般的にマンションでは、築20年頃から躯体や設備に係わる

大きな修繕が続く。修繕積立金は当初の月額 100 円/㎡(年額 480 万円)を、修繕積

立金不足が判明する24年目の大規模改修時まで続けているが、資金不足となるた

め借入金が必要となる。24年目からは月額 200 円/㎡(年額 960 万円)に修繕積立

金徴収月額を倍増する必要がある。これは、将来の修繕工事費を積み立てる必要性

と同時に、借入金の月々の返済にも積立金を回す必要があるためである。しかし、

その後も、設備に係わる大規模修繕が数年後には必要となるため、さらなる借入と

同時に30年目には月額 270 円/㎡(年額 1、300 万円)の修繕積立金徴収月額の引き

上げが必要と試算される。60年間で見ると、計 4 回の借入を行い、借入金の総額

は 1 億 3 千万円となる。金利を年率 2.7%(固定金利)10年返済とすると、利息分

の支払いだけでも 1,900 万円となる。また、60 年間の修繕積立金総額(収入)は 5

億 8600 万円となる。これに対して修繕費(支出)の 60 年間総額は 5 億 3600 万円、

金利支払い分(支出)は 1900 万円、支出の合計は 5 億 5500 万円となり、60 年後の

修繕積立金残高は 3100 万円となる。

このように、修繕積立金が少ないと、一時金や借入金に頼る度合いが大きくなり、

マンションの運営も不安定であり、居住者にとっても将来に不安を感じさせること

になる。そのため、修繕積立金の引き上げはなるべく早い段階から行い、将来の大き

な支出に対して備える必要があることを示唆する結果と考えられる。

480万円1300万円960万円

0年 10年 20年 30年 40年 50年 60年

築年数

修繕

積立

金残

高(

百万

円)

0

20

40

60

80

100

120

-40

-20

0

20

40

60

80

100

120

修繕

費(

百万

円)

140-60

修繕積立金年額

*1*1

*1*1

*1 *2

*2

*2*2

*2

*1 躯体・外装の修繕*2 内装・設備の修繕

*2

資金計画 A 案 「一般的修繕」 修繕積立金の引き上げを先延ばし合

月 額 100 円 月 額 200 円 月 額 270 円

借入金の残高 借 入 金 の 返 済 は 21

年 間

4200 万 円 の

2200 万 円 の

2500 万 円 の

4100 万 円 の

■修繕積立金 総額期間:60 年間 総額:5 億 8600 万

■修繕積立金 残高60 年後:3,100 万円

■修繕費総額期間:60 年間 総額:5 億 3,600 万

■借入金金利:年率 2.7%(固

定) 返済期間:10 年 借入金総額:

1 億 3,000 万円 借入金利息:

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20

図 5 B 案「一般的修繕で修繕積立金の引き上げを早めに行った場合」

図 5 に、B 案「一般的修繕で修繕積立金の引き上げを早めに行った場合」の長期修

繕資金計画を示す。修繕積立金は当初の月額 100 円/㎡(年額 480 万円)から、6年

目には月額 150 円/㎡(年額 720 万円)、12年目には月額 200 円/㎡(年額 960 万

円)と早めに引き上げを行う計画としている。修繕費に係わる内容と費用は A 案と

同条件であるが、修繕積立金残高が不足して借入に頼る必要がないと試算される。

60年間の修繕積立金総額(収入)は 5 億 5400 万円で、A 案よりも 3200 万円少なく

なる。支出の方は借入がないため修繕費に係わる支出の60年間総額で 5 億 3600 万

円となり、A 案よりも 1900 万円少なくなる。60 年後の修繕積立金残高は 1700 万円

と、A 案よりも 1400 万円少なくなるが、合計して考えると、修繕積立金に係わる家

計からの支出は A 案よりも B 案の方が 3700 万円少なくて済むことになる。

このように、将来の支出を見込んで予め備えておくことで、大きな支出が連続す

る時期に対しても十分な蓄えがあり、借入金等に頼ることのない余裕のある運営が

可能であり、金利などの余分な支払もないため経済的でもあることがわかる。ただ

し、内断熱建物の場合、年数が経つにしたがって加速的に建物の傷みが進む恐れが

あるため、修繕の予定時期が早まったり、予想以上に出費が大きくなったりするこ

ともあるので注意が必要と考えられる。

480万円 720万円 960万円

0年 10年 20年 30年 40年 50年 60年

築年数

修繕

積立

金残

高(

百万

円)

0

20

40

60

80

100

120

-40

-20

0

20

40

60

80

100

120

140

-60

修繕積立金年額

*1*1

*1*1

*1 *2

*2

*2*2

*2

*1 躯体・外装の修繕*2 内装・設備の修繕

*2

修繕

費(

百万

円)

資金計画 B 案 「一般的修繕」 修繕積立金の引き上げを早めに行

月 額 100 円 月 額 150 円

月 額 200 円

築 36 年目の修繕積立金残

高:

■修繕積立金 総額期間:60 年間 総額:5 億 5400 万

■修繕積立金 残高60 年後:1,700 万円

■修繕費総額期間:60 年間 総額:5 億 3,600 万

■借入金なし

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21

図 6 C 案「築12年目に外断熱改修を行った場合」 修繕積立金は B 案と同条件

図 6 に、B案「築12年目に外断熱改修を行った場合」の長期修繕資金計画を示

す。修繕積立金はB案と同条件である。外断熱改修は築12年目に行う計画である

が、外断熱改修の費用は一般的修繕に比べて約 2 倍の支出を見込んでおり、修繕積

立金残高が不足することになる。そのため不足分は、4200 万円の借り入れ(金利:

年率 2.7%、返済期間:8 年)で賄う計画としている。60年間の修繕積立金総額

(収入)は、B 案と同額の 5 億 5400 万円である。支出の方は外断熱改修費用も含め

た修繕費支出は 4 億 8900 万円、金利支払い分(支出)は 500 万円、支出の合計は 4

億 9400 万円となり、B 案よりも 4200 万円、A 案からは 6100 万円少なくなる。60 年

後の修繕積立金残高は 6000 万円と、A 案よりも 2900 万円、B 案よりも 4300 万円多

くなる。合計して考えると、修繕積立金に係わる家計からの支出は、C 案の方が A 案

よりも 9000 万円、B 案よりも 8500 万円少なくて済むことになる。(表 11 参照)

このように、外断熱改修は、一般的修繕に比べて最初に大きな費用が必要になる

が、その後の外装や躯体の修繕に係わる費用は少なくなるので、長期的には経済的

といえる。修繕積立金残高は一時的に B 案の場合よりも下回りますが、C 案では築2

4年目と36年目の大規模修繕費用が B 案よりも少なくて済むので、外断熱改修か

ら24年(築36年目)以降の修繕積立金残高は、外断熱改修を行った方が多くな

ることがわかる。

0年 10年 20年 30年 40年 50年 60年

築年数

修繕

積立

金残

高(

百万

円)

0

20

40

60

80

100

120

-40

-20

0

20

40

60

80

100

120

140

-60

*1

*1*1

*1*1 *2

*2

*2*2

*2

修繕積立金年額480万円 720万円 960万円

*1 躯体・外装の修繕*2 内装・設備の修繕

*2

修繕

費(

百万

円)

資金計画 C 案 「築 12 年目に外断熱改修」 修繕積立金は B 案条件

築 12 年目に外断熱

築 36 年目の修繕積立金残

高:

3,000 万円

借入金の残高 借 入 金 は 8 年 間 で 返 済 し

ま す 。

借入金 外 断 熱 改 修 時

に 4200 万

円 を

■修繕積立金 総額期間:60 年間 総額:5 億 5400 万

■修繕積立金 残高60 年後:6,000 万円

■修繕費総額期間:60 年間 総額:4 億 8,900 万

■借入金金 利 : 年 率 2.7 %

(固定) 返済期間:8 年 借入金総額:

4,700 万円 借入金利息:

500 万円

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22

表 11 各資金計画案の収支一覧(60 年間)

A 案 B 案 C 案

修繕積立金総額① 5 億 8600 万円 5 億 5400 万円 5 億 5400 万円

修繕費総額② 5 億 3600 万円 5 億 3600 万円 4 億 8900 万円

借入金総額 1 億 3000 万円 - 4200 万円

利息支払総額③ 1900 万円 - 500 万円

支払総額④=②+③ 5 億 5500 万円 5 億 3600 万円 4 億 9400 万円

60 年後の修繕積立金残高⑤ 3100 万円 1700 万円 6000 万円

60 年間の実質支出総額④-⑤ 5 億 2400 万円 5 億 1900 万円 4 億 3400 万円

下図に、B 案と C 案の試算結果を同軸上に表したグラフを示す。

図 7 B 案+C 案試算結果同軸表示

0年 10年 20年 30年 40年 50年 60年

築年数

修繕

積立

金残

高(

円)

0

2千万

4千万

6千万

8千万

1億

1.2億

-4千万

-2千万

0

2千万

4千万

6千万

8千万

1億

1.2億

1.4億

修繕

費(

円)

1.4億

修繕積立金年額500万円

一般的修繕

外断熱改修 *1

*1

*1

*1

*1, *2

*2

*2

*2

*2

*2

700万円1000万円

一般的修繕

外断熱改修

*1 躯体・外装の修繕

*2 内装・設備の修繕

築 12 年 目 に 外 断 熱

外 断 熱 改 修 か ら 24

年 後 の 修 繕 積 立 金 残

高 は 、 外 断 熱 改 修 を

行 っ た 方 が 多 く な り借入金の残高 外 断 熱 改 修 時 に 4200 万 円

借 り 入 れ 、 8 年 間 で 返 済 し

■ 修 繕 積 立 金 総額

期間:60 年間 総

外断熱改修総額:48,900 万円

外断熱改修残高:6,000 万円

一般的修繕総額:53,600 万円

一般的修繕残高:1,700 万円

■ 修 繕 積 立 金 残高 60 年後

■修繕費総額 期間:60 年間

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このように、長期的には外断熱改修を行った方が、一般的修繕を続けるよりも経

済的であることがわかる。さらに、断熱性能が向上することにより暖房費も少なく

なり、耐久性のある外装材と躯体を断熱材で保護される効果により建物自体も長持

ちするので、さらに経済的になると考えられる。

6)Mマンションのケーススタディまとめ

一般的修繕に対する外断熱改修の経済面での優位性を明らかにするため、実際に

外断熱改修が行われた「Mマンション」を事例として、長期修繕資金計画を立てて

支出と修繕積立金残高のシミュレーションを行った。その結果、60年間の実質支

出総額で見ると、一般的修繕を続けた場合(B 案)が 5 億 1900 万円、外断熱改修を

行った場合が 4 億 3400 万円と、外断熱改修の方が 8500 万円の支出が削減できると

試算された。

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3.3 ケーススタディ2:「Oマンション」での改修事例

1)建物概要

改修対象となった札幌市内の分譲マンション「O マンション」は、昭和49年竣工

のRC造 11 階建ての共同住宅である。外壁の断熱原仕様は、押出法ポリスチレンフ

ォーム 1 種 b25 ㎜打込による内断熱工法であった。表 12 に建物の概要を、図 1 に基

準階の平面図を示す。

表 12 改修建物の概要

名称 O マンション

構造 鉄筋コンクリート造 11 階建て(地下 1 階)

住戸数 122 戸

竣工年 昭和 49 年 7 月(改修時築 30 年)

断熱工法 内断熱工法

部屋構成 1DK、2LDK、3LDK

既存の断熱(外壁) 押出法ポリスチレンフォーム 1 種 b25 ㎜

外壁仕上げ 吹き付け塗装仕上げ

開口部 引き違いアルミサッシ一重+ペアガラス

図 8 基準階の平面図

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2)外断熱改修の概要

外断熱改修は、屋根、外壁全面、開口部に対して行われた。外装は、Mマンショ

ンと同様で、コストや施工性、耐久性などを総合的に鑑みて乾式の樹脂サイディン

グとガルバリウム鋼板、湿式の高耐久塗り材の3種を部位によって選択された。窓

は全面オーバーサッシが採用されている。表 13 に外断熱改修の概要を、図 2 に外断

熱改修工法の概要を示す。

表 13 外断熱改修の概要

断熱材 押出法ポリスチレンフォーム 3 種 b(XPS2b) 厚 50 ㎜

ビーズ法ポリスチレンフォーム(EPS) 厚 50 ㎜

外装材 高耐久塗り材(湿式)

塩ビ樹脂サイディング(乾式)

角波ガルバリウム鋼板(乾式)

施工部位 屋根、外壁、開口部

施工面積 約 6000 ㎡

Q 値(改修前) 1.17 W/m2K

Q 値(改修後) 0.65 W/m2K(改修前の約 1.8 倍の断熱性能)

開口部(改修前) 引き違いアルミサッシ一重+ペアガラス

開口部(改修後) 既存サッシの外側に外付けサッシを付加

既存サッシ オーバーサッシ

断熱 50mm

塩ビサイジング ガルバリウム鋼板

ガルバリウム鋼板 アスファルト防水

既存笠木

O マンションのみ 防水新設 ウレタン 35mm

既存 断熱

既存 防水

図 9 外断熱改修工法の概要

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3)長期修繕計画に基づいた修繕工事支出の算出

「Oマンション」をモデルとして、一般的修繕を続けた場合と外断熱改修を行っ

た場合との長期修繕計画を立案し、修繕工事もしくは外断熱改修工事に関わる費用

の算出を行った。工事費の算出に必要な建物各部位の面積等を表 14 に示す。表

15,16 に、各修繕工事を行う年度とその工事内容の一覧を示す。表 17,18 に、各工事

費目における工事単価を示す。工事費は、Oマンションでの事例や、市販の積算資

料、マンション管理組合連合会資料などをもとに北海道建築技術協会特定専門委員

会「マンションの外断熱改修工法の確立とライフサイクルコストの研究委員会」内

で検討を行った値を使用している。

表 14 建物各部位の面積等

【試算建物概要】マンション形状新築からの経過年数 30 年(設備類修繕補正に使用)住戸数 122 戸(設備類修繕補正にも使用)延べ床面積 10,280 ㎡(参考値 計算前提外)専有面積合計 8,430 ㎡戸当り平均専有面積 69.1 ㎡(設備類修繕補正にも使用)バルコニー床面積合計 410 ㎡階数 11 階(設備類修繕補正に使用)エレベータ台数 3 台(設備類修繕補正に使用)敷地面積 2,000 ㎡(外溝改修補正に使用)建築面積 900 ㎡(外溝改修補正に使用)

【外部大規模修繕の周期】 12 年

【部位面積等】屋根(屋上)面積 800 ㎡笠木長さ 153 m外壁面積(開口除く) 4,052 ㎡  ⇒ 塗装面積 4,052 ㎡ 非バルコニー面 3,609 ㎡ タイル面積 0 ㎡ バルコニー面 433 ㎡開口面積 1,354 ㎡シーリング(外壁部) 2,100 m(従来方法修繕時)シーリング(開口周り) 3,200 m(従来方法修繕時)外断熱時シーリング 1,800 m(工法、納まりにより積算を要す)換気フード 0 箇所排気筒 0 箇所バルコニー床防水 410 ㎡バルコニー・塔屋・屋外階段塗装 1,340 ㎡金属手摺修繕・取替 0 m仮設足場 5,947 ㎡ (外壁面積+開口面積)×1.1仮設足場(屋外階段部) 1,474 ㎡ (塔屋・屋外階段壁面積)×1.1

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表 15 工事年度と内容の一覧(一般的修繕)

表 16 工事年度と内容の一覧(外断熱改修)

■一般的修繕 ・初回、24 年目、48 年目 屋根 :アスファルト露出防水(既存防水撤去後に新設) 外壁 :吹付タイル(既存塗装撤去後に新設) その他:シーリング取換、0 年目のみ笠木・換気口等取替

・12 年目、36 年目 屋根 :アスファルト露出防水(既存防水上に新設) 外壁 :吹付タイル(既存塗装上に新設) その他:シーリング取替、36 年目のみ笠木等取り替え

■外断熱改修 ・外断熱改修時 屋根 :外断熱アスファルト露出防水(既存防水上に新設) 外壁 :湿式外断熱左官仕上げ(既存仕上げ上に新設) 開口 :内窓ガラスを複層ガラスに取替 その他:シーリング、笠木、換気口等取替

・12 年目、24 年目、48 年目 屋根 :外断熱アスファルト露出防水

(既存防水の部分補修) 外壁 :湿式外断熱左官仕上げ

(外断熱仕上げの部分補修) その他:シーリング取替、仮設はゴンドラを使用

・36 年目 屋根 :外断熱アスファルト露出防水(既存防水上に新設) 外壁 :湿式外断熱左官仕上げ

(外断熱仕上げの塗装塗り替え) その他:シーリング、笠木等取り替え

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表 17 各工事費目における工事単価

外装及び躯体の修繕に係わる一般的修繕....

の費用と周期

工事項目 工事細目 LCC委調査@ ⇒ 積算@ 積算数量 単位 周期本足場 本足場(工期/60日) 1,500円/㎡ ⇒ 1,500円/㎡ 7,421 ㎡ 12年部分足場 部分足場(工期45日) 1,500円/㎡ ⇒ 1,500円/㎡ 0 ㎡ 12年ゴンドラ

従来修繕 既存塗装の除去・下地処理 3,000円/㎡ ⇒ 3,000円/㎡ 4,052 ㎡ 12年躯体補修 1,000円/㎡ ⇒ 1,000円/㎡ 4,052 ㎡ 12年塗装仕上 2,500円/㎡ ⇒ 2,500円/㎡ 4,052 ㎡ 12年タイル部分補修(躯体補修含む) 2,700円/㎡ ⇒ 2,700円/㎡ 0 ㎡ 12年

タイル全面貼り換え 20,000円/㎡ ⇒ 20,000円/㎡ 0 ㎡ 36年外断熱改修

シーリング シーリング 1,500円/m ⇒ 1,500円/m 5,300 m 12年換気フード改修FF給排気筒取替

従来露出防水 既存防水層の撤去 1,500円/㎡ ⇒ 1,500円/㎡ 800 ㎡ 12年アスファルト露出防水新設 10,000円/㎡ ⇒ 10,000円/㎡ 800 ㎡ 12年

外断露出防水

笠木改修

外側サッシ付加

内窓ペアサッシへ交換

内側サッシペアガラス化

既存サッシ建付調整

バルコニー床防水 躯体補修・下地調整 1,000円/㎡ ⇒ 1,000円/㎡ 410 ㎡ 12年防水処理 2,500円/㎡ ⇒ 2,500円/㎡ 410 ㎡ 12年

バルコニー・塔屋・屋外階段塗装 既存塗装の除去・下地処理 3,000円/㎡ ⇒ 3,000円/㎡ 1,340 ㎡ 12年躯体補修 1,000円/㎡ ⇒ 1,000円/㎡ 1,340 ㎡ 12年塗装仕上 2,500円/㎡ ⇒ 2,500円/㎡ 1,340 ㎡ 12年

金属手摺修繕・取替 金属手摺取替 7,000円/m ⇒ 7,000円/m 0 m 12年

その他修繕1 項目ア ⇒その他修繕2 項目イ ⇒外部劣化調査・診断費用設計管理費 工事総額×5% 5%工事諸経費 直接工事費×15% 15%消費税 5%

従来方法改修単価表

(200枚/㎡×補修率3%/12年×450円/枚)

その他

共通修繕項目

仮設

外壁修繕

屋上修繕

サッシ改修

数量

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表 18 各工事費目における工事単価

外装及び躯体の修繕に係わる外断熱改修.....

の費用と周期

工事項目 工事細目 LCC委調査@ ⇒ 積算@ 積算数量 単位 周期本足場 本足場(工期/90日) 2,000円/㎡ ⇒ 2,000円/㎡ 7,421 ㎡ 36年部分足場 部分足場(工期45日) 1,500円/㎡ ⇒ 1,500円/㎡ 583 ㎡ 24年ゴンドラ ゴンドラ 12年

従来修繕

外断熱改修 躯体補修 1,000円/㎡ ⇒ 1,000円/㎡ 4,052 ㎡ 初回乾式通気・ガルバ外装 16,000円/㎡ ⇒ 16,000円/㎡ 1,190 ㎡ 初回  下地・断熱材工事 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) ㎡ 初回  外装材張替え工事 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 1,190 ㎡ 36年  部分補修 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 143 ㎡ 24年

部分補修率/年→ 0.5% ⇒ 0.5%乾式通気・塩ビ外装 16,000円/㎡ ⇒ 16,000円/㎡ 1,184 ㎡ 初回  下地・断熱材工事 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) ㎡ 初回  外装材張替え工事 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 1,184 ㎡ 36年  部分補修 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 142 ㎡ 24年

部分補修率/年→ 0.5% ⇒ 0.5%湿式密着・塗り仕上 16,000円/㎡ ⇒ 16,000円/㎡ 1,678 ㎡ 初回  再塗り仕上げ (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 1,678 ㎡ 36年  部分補修 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 201 ㎡ 24年

部分補修率/年→ 0.5% ⇒ 0.5%シーリング シーリング 1,500円/m ⇒ 1,500円/m 1,800 m 12年換気フード改修 換気フード改修 7,000円/個 ⇒ 7,000円/個 0 個 初回FF給排気筒取替 FF給排気筒取替 15,000円/個 ⇒ 15,000円/個 0 個 初回

従来露出防水

外断露出防水 既存防水層の撤去 1,500円/㎡ ⇒ 1,500円/㎡ 800 ㎡ 24年既存防水層の部分補修 10,000円/㎡ ⇒ 10,000円/㎡ 48 ㎡ 12年

部分補修率/年→ 0.5% ⇒ 0.5%断熱材敷設 3,000円/㎡ ⇒ 3,000円/㎡ 800 ㎡ 初回アスファルト露出防水新設 10,000円/㎡ ⇒ 10,000円/㎡ 800 ㎡ 24年

笠木改修 笠木改修 12,000円/m ⇒ 12,000円/m 153 m 初回

外側サッシ付加 外側サッシ付加 30,000円/㎡ ⇒ 30,000円/㎡ 1,354 ㎡ 初回

内窓ペアサッシへ交換 内窓ペアサッシへ交換 ⇒ ㎡ 初回

内側サッシペアガラス化 内側サッシペアガラス化 12,000円/㎡ ⇒ 12,000円/㎡ ㎡ 初回

既存サッシ建付調整 既存サッシ建付調整 3,000円/㎡ ⇒ 3,000円/㎡ 1,354 ㎡ 36年

バルコニー床防水 躯体補修・下地調整 1,000円/㎡ ⇒ 1,000円/㎡ 410 ㎡ 12年防水処理 2,500円/㎡ ⇒ 2,500円/㎡ 410 ㎡ 12年

バルコニー・塔屋・屋外階段塗装 既存塗装の除去・下地処理 3,000円/㎡ ⇒ 3,000円/㎡ 1340 ㎡ 12年躯体補修 1,000円/㎡ ⇒ 1,000円/㎡ 1340 ㎡ 12年塗装仕上 2,500円/㎡ ⇒ 2,500円/㎡ 1340 ㎡ 12年

金属手摺修繕・取替 金属手摺取替 7,000円/m ⇒ 7,000円/m 0 m 12年

その他修繕1 項目A ⇒その他修繕2 項目B ⇒外部劣化調査・診断費用設計管理費 工事総額×5% 5%工事諸経費 直接工事費×15% 15%消費税 5%

外断熱改修数量

その他

単価表

共通修繕項目

仮設

外壁修繕

屋上修繕

サッシ改修

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30

表 19 内装及び設備の修繕に係わる費用

内装・設備類修繕項目 修繕項目細目 次回の修繕予定 周期 30年間費用4. 鉄部塗装イ)雨がかり部 ①開放廊下鉄製手摺 2年後 計算外 0 ⇒ 0 4年毎 0

②バルコニー鉄製手摺 2年後 82 ⇒ 82 4年毎 615③その他手摺 2年後 9 ⇒ 9 4年毎 68④屋外鉄骨階段 2年後 計算外 0 ⇒ 0 4年毎 0

ロ)非雨がかり部 ①住戸玄関扉(鋼製扉) 6年後 65 ⇒ 65 6年毎 325②メーターボックス扉、防火扉等 6年後 410 ⇒ 410 6年毎 2,050

ハ)非鉄部等 アルミ手摺・隔て板等 6年後 103 ⇒ 103 12年毎 2585. 建具・金物等改修イ)手摺関係交換 ①開放廊下手摺交換 6年後 0 ⇒ 0 36年毎 0

②バルコニー手摺交換 6年後 1,337 ⇒ 1,337 36年毎 1,114③その他手摺(屋上手摺等) 6年後 441 ⇒ 441 36年毎 368

ロ)屋外鉄骨階段 ①屋外鉄骨階段交換 6年後 計算外 0 ⇒ 0 36年毎 0ハ)住戸建具関係 ①住戸玄関扉調整 18年後 154 ⇒ 154 24年毎 193

②住戸玄関扉交換(カバー工法) 6年後 1,741 ⇒ 1,741 36年毎 1,451③住戸アルミサッシ交換(カバー工法) 6年後 計算外 0 ⇒ 0 36年毎 0

ニ)その他 ①郵便受け・縦樋等交換 18年後 1,280 ⇒ 1,280 24年毎 1,600②メーターボックス扉・共用建具交換 6年後 2,150 ⇒ 2,150 36年毎 1,792

6. 共用内部等改修イ)共用内部等改修 管理室・集会室・エレベーターホール等 6年後 644 ⇒ 644 12年毎 1,610

7. 給水設備改修イ)給水管(共用部) 塩ビライニング鋼管へ交換 30年後 2,163 ⇒ 2,163 30年毎 2,163ロ)貯水槽 受水槽・高置水槽交換 20年後 407 ⇒ 407 25年毎 488ハ)給水ポンプ交換 揚水・加圧・増圧各ポンプ 2年後 406 ⇒ 406 16年毎 761

8. 排水設備改修イ)共用部配水管交換 30年後 3,007 ⇒ 3,007 30年毎 3,007

9. ガス設備改修イ)ガス管敷設替え ポリエチレン管敷設替え 30年後 404 ⇒ 404 30年毎 404

10. 空調・換気設備改修イ)共用室等設備 管理室・集会室等設備 15年後 242 ⇒ 242 15年毎 484

11. 電気設備等改修イ)電灯設備交換 共用灯、非常用証明、外灯等 15年後 585 ⇒ 585 15年毎 1,170ロ)避雷針設備交換 10年後 152 ⇒ 152 40年毎 114ハ)盤類その他交換 配電盤・プルボックス等 30年後 774 ⇒ 774 30年毎 774ニ)幹線容量アップ 幹線・開閉器・遮断器等 30年後 516 ⇒ 516 30年毎 516ホ)自家発電設備 ディーゼルエンジン等交換 30年後 計算外 0 ⇒ 0 30年毎 0

12. 情報・通信設備改修イ)テレビ共聴設備 アンテナ・分配器等交換 15年後 327 ⇒ 327 15年毎 654ロ)電話設備 電話端子盤等交換 30年後 164 ⇒ 164 30年毎 164ハ)オートロック設備交換 オートロック操作盤、住戸情報盤 15年後 963 ⇒ 963 15年毎 1,926

13. 消防設備改修イ)火災報知設備交換 警報盤、総合盤 10年後 1,684 ⇒ 1,684 20年毎 2,526ロ)屋内消火栓交換 消火栓ポンプ、消火管等 20年後 545 ⇒ 545 25年毎 654ハ)連結送水管設備 送水口、放水口他交換 20年後 121 ⇒ 121 25年毎 145

14. 昇降機設備改修イ)カゴ内装他塗装 15年後 263 ⇒ 263 15年毎 526ロ)本体交換 一式交換 30年後 4,191 ⇒ 4,191 30年毎 4,191

15. 立体駐車場設備改修イ)2・3段プレハブ自走式 鉄部塗装、車止め等交換 10年後 計算外 0 ⇒ 0 10年毎 0イ)2・3段プレハブ自走式 建て替え 30年後 計算外 0 ⇒ 0 30年毎 0ロ)機械式駐車場 部品交換、鉄部塗装 5年後 計算外 0 ⇒ 0 5年毎 0ロ)機械式駐車場 一式交換 10年後 計算外 0 ⇒ 0 20年毎 0

16. 外溝・付属施設改修イ)敷地外溝施設改修 舗装・植栽・埋設配水管等 18年後 262 ⇒ 262 24年毎 328ロ)付属施設他改修 自転車置場・ゴミ置場等 18年後 605 ⇒ 605 24年毎 756

18. 長期修繕計画作成費用イ)新規作成 1回目のみ 383 ⇒ 383 383ロ)見直し作成 6年後 88 ⇒ 88 6年毎 440

19. その他各種調整イ)予備・雑費用 1回目のみ 590 ⇒ 590 590ロ)特殊施設改修費用 遊戯施設等必要に応じて 計算外 0 ⇒ 0

積算費用委員会設定値

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31

4)一般的修繕と外断熱改修の外部の修繕・改修工事支出の比較

一般的修繕を続けた場合と外断熱改修を行った場合との修繕・改修工事に関わる

支出の比較を行った。外断熱改修時を起点(0 年目)として、一般的修繕と外断熱改修

の各工事年度(12 年周期)における工事支出とその累計を図に示す。これによると、

外断熱改修は、改修時には一般的修繕の 2 倍以上の費用が必要であるが、24 年目(外

断熱改修から 2 回目)の大規模修繕時には、支出累計が同じ程度になることがわかる。

外断熱改修は、ガルバリウム鋼板や塩ビ樹脂サイディング等の、一般的な使用状況

においては少なくとも 30 年は取替の必要がないと予想される耐久性の高い外装材を

用いていること、躯体がそれら高耐久外装材や断熱材によって、日射熱や雨水等か

ら保護されるため、一般的修繕においては大きな費用が必要となる外装や躯体の補

修に係わる修繕費を抑えることができると考えられる。そのため、とくに外断熱改

修から 12 年後(1 回目)および 24 年後(2 回目)の大規模修繕は、一般的修繕の費用に

対して、大幅に少なくなることが、累計支出の削減に大きく寄与することになる。

その他にも、今回は積算していない外断熱改修の経済的効果として、結露防止に

よる内装修繕費の削減、暖房設備の小容量化、躯体保護による耐久性の向上などが

挙げられ、その経済性はさらに高いものと考えられる。

0

10

20

30

40

50

60

0

5

10

15

20

25

0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30 33 36 39 42 45 48 51 54 57 60

累計(千万円)

外部の修繕・改修費用の比較

従来修繕工事費(単年度) 外断熱改修工事費(単年度) 従来修繕工事費(累計) 外断熱改修工事費(累計)

(設備類・内部修繕費用は含まず)

従来方式修繕工事費の累計

外断熱改修工事費の累計

外断熱改修の単年度工事費

従来方式修繕の単年度工事費

図 10 各年度における修繕・改修工事支出とその累計

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32

3.4 ケーススタディ3:「塔型マンション」での計算事例

札幌市内に実在する塔型マンションの建物概要部分をモデルとして、略称LCC計

算表を用いて従来方法修繕(塗装修繕)と外断熱改修の比較を行った。このマンショ

ンは11階建て22戸の典型的な塔型であり、建物概要、部位面積等は下記の通りで

ある。修繕積立金関連の計算に大きく影響する設備類・共用内部・外溝等修繕と修繕

周期を合致させる為、新築からの経過年数を12年とし、初めての大規模修繕と仮定

した。外断熱改修の場合はサッシ改修(外付けサッシ付加)、屋上の断熱防水含めた

フル改修としている。修繕積立金、借入金などは仮に設定したものである。

計算の細部は資料-4 LCC計算表塔型モデルの各シートを参照して欲しい。

表 20 建物概要、部位面積の入力表

Ⅰ.建物概要、部位面積の入力表【試算建物概要】マンション形状新築からの経過年数 12 年(設備類修繕補正に使用)住戸数 22 戸(設備類修繕補正にも使用)延べ床面積 2,463 ㎡(参考値 計算前提外)専有面積合計 2,006 ㎡戸当り平均専有面積 91.2 ㎡(設備類修繕補正にも使用)バルコニー床面積合計 268 ㎡階数 11 階(設備類修繕補正に使用)エレベータ台数 1 台(設備類修繕補正に使用)敷地面積 500 ㎡(外溝改修補正に使用)建築面積 300 ㎡(外溝改修補正に使用)

【外部大規模修繕の周期】 12 年

【部位面積等】屋根(屋上)面積 816 ㎡笠木長さ 86 m外壁面積(開口除く) 1,731 ㎡  ⇒ 塗装面積 1,731 ㎡ 非バルコニー面 1,412 ㎡ タイル面積 0 ㎡ バルコニー面 319 ㎡開口面積 362 ㎡シーリング(外壁部) 660 m(従来方法修繕時)シーリング(開口周り) 1,002 m(従来方法修繕時)外断熱時シーリング 0 m(工法、納まりにより積算を要す)換気フード 0 箇所排気筒 0 箇所バルコニー床防水 269 ㎡バルコニー・塔屋・屋外階段塗装 320 ㎡金属手摺修繕・取替 0 m

1)従来方法修繕(塗装修繕)と外断熱改修の工事費の比較

次の表は外装に係わる従来方法修繕(塗装修繕)と外断熱改修の工事費及び設備

類・内装・外溝等の修繕費である。

表 21 従来修繕、外断熱改修及び設備類・内装・外溝修繕費

(万円)初回 12年後 24年後 36年後 48年後 60年後

従来方法修繕累計 4,141 8,283 12,424 16,566 20,707 24,849 (従来方法修繕単年度) (3,826) (3,826) (3,826) (3,826) (3,826) (3,826)

外断熱改修累計 8,386 9,418 11,334 14,587 16,455 17,031 (外断熱改修単年度) (8,071) (475) (1,864) (3,043) (1,816) (524)

差額の累計 -4,245 -1,135 1,090 1,979 4,252 7,818

設備類・内装他修繕費累計 339 2,963 9,639 12,415 17,882 20,806

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外断熱改修を行う場合、初回の工事費が従来方法修繕の倍額以上かかるが、その

後の修繕費用を少なくでき、24年後(2回目)では累計金額は逆転する。この2

4年後に両者ほぼ同じか外断熱改修の方が有利な結果はOマンションもMマンショ

ンも同様の傾向である。従来方法修繕、外断熱改修共に大きな工事金額となる工事

項目は単価/㎡に比例する為である。36年後にその差が大きく開かないのは外断

熱改修では36年目(3回目)に外装材の張替え等の大きな費用を見込んでいる事

による。

2)大規模修繕の工事費用原資と修繕積立金

この塔型マンションの修繕積立金の状況やその残高等の工事原資にあたる部分は

不明であったので、ありそうな金額を略称LCC計算表「前提」シートに入れて計

算を行った。

修繕積立金月額 160 円/(㎡・月)(戸当り 1.46 万円/月)、修繕積立金残高 4000 万円、

外断熱改修時の借入金 5000 万円、その他の計算条件は下表の通りである。

表 22 修繕積立金、借入金の入力表

この時の修繕・改修の工事費累計と修繕積立金、借入金ほかの工事原資及び修繕

積立金の残高を次の表に示す。

表 23 修繕積立金残高表

Ⅴ.修繕積立金、借入金の入力表【修繕積立金の状況】 修繕積立金徴収額 160 円/(㎡・月) 専有面積㎡ 万円/月

修繕積立(月額合計) 32 万円 91.2㎡ 1.46万円修繕積立(年額合計) 384 万円 0.00万円積立金収納率 98% 0.00万円使用可能修繕積立(年) 376 万円 0.00万円

0.00万円【駐車場使用料繰入】 駐車場使用料(月額) 22 万円/月

駐車場使用料(年額) 264 万円/年駐車料 10,000 円/(台・月)台数 22 台繰入可能% 70 %修繕費繰入可能額 185 万円/年

【修繕積立金残高】 修繕積立金残高 4,000 万円(初回時)使用可能修繕積立残高 4,000 万円(全残高の100%と想定)

【借入金/従来修繕】 借入金額 万円利率 %借入期間 年(5年~20年で設定)元利合計返済額(/年) 0 万円 内 利息/年 0 万円

利息総額 0 万円

【借入金/外断熱改修】借入金額 5,000 万円利率 2.4% %借入期間 9 年(5年~20年で設定)元利合計返済額(/年) 619 万円 内 利息/年 63 万円

利息総額 565 万円

⇒⇒1戸当り月額

初回 8年後 12年後 24年後 36年後 48年後従来方法修繕費累計 4,165 5,746 10,931 21,748 28,666 38,274 原資合計(修繕積立他) 4,373 8,861 11,105 17,837 24,569 31,301

(原資の内借入金) (0) (0) (0) (0) (0) (0)修繕積立金残高 208 3,115 174 -3,911 -4,097 -6,973 外断熱改修費累計 8,966 15,499 17,070 25,662 31,691 39,026 原資合計(修繕積立、借入金他) 9,373 13,861 16,105 22,837 29,569 36,301

(原資の内借入金) (5,000) (0) (0) (0) (0) (0)修繕積立金残高 407 -1,638 -965 -2,825 -2,122 -2,725

従来修繕

外断改修

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この計算例では外断熱改修の場合、借入金 5000 万円で原資を用意し、初回の資金

不足を補うが、従来方法(塗装修繕)の繰り返しを行っても24年後(2回目)以

降に修繕積立金残高は大きく不足し、その額は外断熱改修の場合より大きくなる。

当然残高不足で修繕を行うには多額の一時負担金を居住者に負って貰う事になる。

この残高不足を解消するには毎月の修繕積立金を増額するしか方法は無いが、月額

250 円/(㎡・月)(戸当り 2.28 万円/月)にした場合は下表のように修繕積立金の不足は

回避できる。

表 24 修繕積立金残高の比較

(万円)初回 8年後 12年後 24年後 36年後 48年後

従来方法修繕費累計 4,165 5,746 10,931 21,748 28,666 38,274 原資合計(修繕積立他) 4,479 10,663 13,755 23,031 32,307 41,583

(原資の内借入金) (0) (0) (0) (0) (0) (0)修繕積立金残高 314 4,917 2,824 1,283 3,641 3,309 外断熱改修費累計 8,966 15,499 17,070 25,662 31,691 39,026 原資合計(修繕積立、借入金他) 9,479 15,663 18,755 28,031 37,307 46,583

(原資の内借入金) (5,000) (0) (0) (0) (0) (0)修繕積立金残高 513 164 1,685 2,369 5,616 7,557

従来修繕

外断改修

3)工事費の借入れについて

この塔型モデルの試算では、外断熱改修を行う時に資金不足を 5000 万円の借入れ

で賄う計算を行ったが、この借入れが可能かどうかの問題がある。分譲マンション

の共用部大規模修繕時の借入れについては民間の金融機関、リース会社なども対応

しているが、住宅金融支援機構(旧 住宅金融公庫)でもマンション共用部分リフ

ォーム融資制度 3)があり検討対象の一つとなる。

住宅金融支援機構のマンション共用部分リフォーム融資制度の場合、借入れする

には幾つかの条件を満たす必要があり、詳細については住宅金融支援機構への問い

合わせや下記のウェブサイトを参考にして欲しいが、

http://www.jhf.go.jp/customer/kanri/reform/index.html

http://www.jhf.go.jp/customer/kanri/reform/yusi_joken.html

(資料-7にウェブページを添付)

この塔型モデルの場合では次の条件が合致せず、何らかの対応を要する。

①融資額は次のaまたはbのいずれか低い方を限度とする

a 工事費の80%

b 150万円×住宅戸数

外断熱改修の工事費は8966万円で5000万円の借入れは可能である

が、住戸数22戸では最大3300万円で借入れは不可である。

②毎月の返済額は「毎月徴収する修繕積立金」の80%以内とする

修繕積立金を250円/㎡としても22戸で50万円/月の修繕積立金で

あり、毎月の返済額が52万円(利率2.4%、9年返済)で借入れ不可と

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なる。自己資金(修繕積立金の残高)が増加するまで実施を待ち、更に借

入金返済の9年間に限って毎月の積立金を増額する等の対策が必要である。

どちらにしてもハードルは高い。

この借入れが可能かどうかだけでは無く、1棟あたりの住戸数が少ないマンショ

ンでは1戸あたりの外壁面積が大きくなり修繕費の負担が大きくなる。また、設備

類や共用内部の修繕費用も大きくなる傾向がある。集合住宅の利点である建物の維

持・保全の費用を少なくできる利点が生かせにくい建物構造と言えるのでなかろう

か。

4)新築時に外断熱を採用していたら?

3)で試算した塔型マンションは実際には新築時に「外断熱」を採用した数少な

い事例のマンションである。3)と同様に従来方法修繕(塗装修繕)と外断熱のその

後の修繕工事費の比較及び修繕積立金の残高比較を次の表に示す。(資料-5参照)

表 25

(万円)初回 12年後 24年後 36年後 48年後 60年後

従来方法修繕累計 4,141 8,283 12,424 16,566 20,707 24,849 (従来方法修繕単年度) (3,826) (3,826) (3,826) (3,826) (3,826) (3,826)

外断熱改修累計 2,888 3,381 5,008 8,065 9,692 10,191 (外断熱改修単年度) (2,567) (446) (1,575) (2,846) (1,575) (446)

差額の累計 1,253 4,902 7,416 8,501 11,015 14,658

表 26

(万円)初回 8年後 12年後 24年後 36年後 48年後

従来方法修繕費累計 4,165 5,746 10,931 21,748 28,666 38,274 原資合計(修繕積立他) 4,373 8,861 11,105 17,837 24,569 31,301

(原資の内借入金) (0) (0) (0) (0) (0) (0)修繕積立金残高 208 3,115 174 -3,911 -4,097 -6,973 外断熱修繕費累計 2,906 4,487 6,029 14,332 20,165 27,259 原資合計(修繕積立、借入金他) 4,373 8,861 11,105 17,837 24,569 31,301

(原資の内借入金) (0) (0) (0) (0) (0) (0)修繕積立金残高 1,467 4,374 5,076 3,505 4,404 4,042

従来修繕

外断熱

修繕費の累計比較を見ると12年後で4900万円も少ない。このマンションは

購入価格が周辺の同様のマンションに比べて200万円~250万円高かったそう

であるが、新築から24年目程度で修繕費だけで「元が取れる」と言えそうである。

更に修繕積立金月額 160 円/(㎡・月)(戸当り 1.46 万円/月)でも将来に亘って不足

する事態は起きそうもなく、むしろ長期修繕計画の見直しに於いて減額も検討でき

る可能性がある。この事例で見る限り、居住者が外断熱マンションを購入した事が

正解であったと言えそうである。

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3.5 外壁タイル仕上げの場合の検討

ここまでの修繕費比較の事例は外壁の塗装仕上げの場合で行って来たが、20数年

前頃より急速に増えたタイル外壁も本格的な外壁の大規模修繕を要する時期にはなっ

て来ている。タイル仕上げの場合でも、一応、略称LCC計算表で計算できるように

してあるが、修繕方法、その周期、全面貼り替えの時期が一般的にどうなのか条件設

定が困難である。この条件を下記に設定し、Mマンションの建物を事例として修繕費

の比較を行ってみた。(資料-6参照)

①タイル外壁の修繕の条件設定

○タイル部分補修費=2,700円/(外壁㎡・12年周期)

タイルは4・5二丁掛け(200枚/㎡)

補修方法はピンニング+エポキシ樹脂注入

補修率は3%/12年

補修費用計算=200枚×3%×@450円/枚=2,700円/㎡

○部分補修の周期は12年

○36年目には全面貼り替えを行う

全面貼り替えの工事費は20,000円/㎡(下地の完全補修を含む)

②Mマンションを建物事例として外壁修繕の部分だけで、塗装修繕、タイル修繕、

外断熱改修の工事費比較を行ったのが下表である。

表 27

(万円)(外壁面積=2,274㎡) 初回 12年後 24年後 36年後 48年後 60年後塗装修繕累計 1,856 3,712 5,568 7,424 9,280 11,136

(塗装修繕単年度) (1,856) (1,856) (1,856) (1,856) (1,856) (1,856)タイル修繕累計(A) 990 1,980 2,970 7,894 8,884 9,874

(タイル修繕単年度) (990) (990) (990) (4,924) (990) (990)外断熱改修累計(B) 4,003 4,121 4,459 6,397 6,515 6,633

(外断熱改修単年度) (4,003) (118) (338) (1,938) (118) (118)累計の差額(A-B) -3,013 -2,141 -1,489 1,497 2,369 3,241

耐久性の高いと言われているタイル外装だけあって、部分補修の繰り返しだけであ

れば、コスト的には安いのであるが、全面貼り替えを行うと外断熱改修を行った方が

安くなる。計算条件設定では36年後にタイル全面貼り替えを想定しているが、この

マンションは新築から33年を経過している為、タイル全面貼り替えが36年後とは

考えにくく12年後或いは24年後に必要となる可能性が高い。その時点で外断熱改

修とタイル修繕のコストは逆転する事になる。

③タイル外壁の新たな問題

平成20年4月1日から「建築基準法第12条」に基づく定期報告制度が変わっ

た事で、タイル外壁の修繕について新たな対処が必要になった。(平成20年国土交

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通省告示第282号)

元々、建築基準法第12条により特殊建築物等(マンションも含まれる)の所有

者(区分所有者=居住者、管理組合)は建築物、建築設備などを定期的に専門技術

を有する資格者に調査・検査をさせ、その結果を特定行政庁に報告しなければなら

ないとされているが、この告示第282号で外壁タイルについて次のように調査・

検査の内容が改正になった。(資料-8 国土交通省パンフレット 4)を参照)

【これまで】

●外装タイル等の劣化・損傷

手の届く範囲を打診、その他を目視で調査し、異常があれば「精密調査を

要する」として建築物の所有者に注意喚起

↓↓↓

●平成20年4月1日以降

手の届く範囲を打診、その他を目視で調査し、異常があれば全面打診等に

より、調査し、加えて竣工、外壁改修等から10年を経てから最初の調査

の際に全面打診等により調査

更に調査・検査結果の判定基準が明確にされ、「要是正」「要重点点検」「指摘な

し」となり、「要是正」と判定された場合は是正状況の報告聴取や是正命令が出され

る事になった。タイルの剥落事故の発生例が多くなってきた事が背景にあると思う

が、外壁の落下により思わぬ事故が発生した場合、所有者の社会的責任を問われる

事にもなる。修繕費の大小の問題では無く、リスク回避の点からも早めに外断熱改

修によりタイルを押さえ込み、剥落事故を0とする事が適切な判断になる。

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4.暖房費節減の効果

マンションの運用管理費のもう一つの大きなウェイトである暖房費の節減効果の推定

は次の設定条件、計算で行った。

4.1 設定条件と計算

①㎡あたり暖房エネルギー必要量

従来修繕時(断熱改修無し) 90kWh/(㎡・年間)

外断熱改修時 63kWh/(㎡・年間)(上記×70%)

②想定される平均室温

従来修繕時(断熱改修無し) 17.0℃

外断熱改修後 20.0℃

③エネルギー源 灯油として

灯油単価 70円/L と想定

システム効率 0.8(FFストーブ想定)

暖房エネルギーの削減は70%とした。熱損失係数の改善では65%程度になるが、

断熱改修により平均室温が上昇する事を想定した改善値である。

エネルギー源は灯油換算で行っているので、ガス或いは電気の時はシステム効率を

勘案した kWh あたりの単価比率で修正を要する。

また、サッシの改修を行わない場合は断熱改修時の㎡あたり暖房エネルギー必要量

は90%の81kWh/(㎡・年間)と設定し、略称LCC計算表に織り込んでいる。

表 28 暖房エネルギー計算表

従来修繕 外断熱改修戸当り平均床面積 (㎡/戸) 90.0 90.0 熱損失係数(q)設定 (W/㎡・K) 1.90 1.24 LCC委員会WG計算例総熱損失係数(qa) (W/K) 171.0 111.6 想定室内取得熱 W 1,415 1,415 想定自然温度差 ℃ 8.3 12.7 想定平均室温 ℃ 17.0 20.0 暖房度日数想定(D) K日 1,600 1,400 ←札幌に於いて暖房システム効率(η) 0.8 0.8 FFストーブ想定年間暖房用エネルギー(Qs) Wh 8,208,000 4,687,200 Qs=24×qa×D÷η年間暖房用エネルギー(Qs) kWh 8,208 4,687 ㎡当り暖房エネルギー kWh/㎡ 91 52

↓↓ ↓↓㎡当り暖房エネルギー設定値 kWh/㎡ 90 63 既存×70%に設定年間暖房用エネルギー(Qs) kWh 8,100 5,670

灯油発熱量 Wh/L 9,600 9,600 灯油消費量(暖房用) L 844 591 灯油単価 円/L 70 70 1戸当り暖房費(年間) 円 59,080円 41,370円全戸の暖房費(年間) 万円 639万円 447万円

灯油消費金額

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4.2 暖房エネルギーコストの削減計算結果について

前記の計算条件で実在のMマンション、Oマンション、塔型モデルの30年間の暖

房費を計算すると下表となる。単純に専有面積比率であり、1戸の1年間での削減額

は余り目立たないが全戸数の30年間ともなると金額が大きく、運用管理コストの削

減効果が良く分かる。特にOマンションは全館集中暖房を行っており、この削減効果

は「管理費」の削減に直接結びついてくる。

表 29 暖房費の差額(30 年間)

(万円/30年間)1戸暖房費 全戸暖房費

戸数 42戸 従来修繕時 206.9 8,700 平均専有面積 94.5㎡ 外断熱改修時 144.7 6,090 全専有面積 3,968㎡ 差額 +62.2 +2,610 戸数 122戸 従来修繕時 151.2 18,450

平均専有面積 69.1㎡ 外断熱改修時 105.8 12,930 全専有面積 8,430㎡ 差額 +45.4 +5,520 戸数 22戸 従来修繕時 199.5 4,410

平均専有面積 91.2㎡ 外断熱改修時 139.7 3,090 全専有面積 2,006㎡ 差額 +59.8 +1,320

Mマンション

Oマンション

塔型モデル

Mマンション、塔型モデルは個別暖房を行っており運用管理コストとして集計され

る事は無いと思われるが、居住者個々にとっては確実に目に見えるメリットである。

外断熱改修を薦めるにあたっては、プラス・アルファの効果と説明した方が受け入れ

易いと思われる。

4.3 暖房用エネルギーコスト削減効果の実際

Oマンションは集中暖房方式で管理人さんが毎年の暖房用ボイラーの重油消費量を

記録していて外断熱改修前後の比較ができた例である。その記録によると、

改修前 102,950 リットル/年(H2~H15 の平均)

改修後 79,400 リットル/年(H17/4~H18/3)

となっており、約77%に削減されている。70%まで削減されていないのは改修

前後の平均室温の差が3℃より大きくなっている為と推定される。

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5.「略称LCC計算表プロトタイプ」の説明と使い方

3章・外装の大規模修繕コストの比較で工事費算出の前提(計算条件)及び3つのマ

ンションでの計算事例を示したが、従来方式の修繕(塗装或いはタイル仕上の修繕)と外

断熱改修の工事費比較を行うには係わる工事細目が数多く又、修繕・改修実施後の次回或

いは次々回以降の工事を想定した膨大な集計表が必要となる。この「LCC計算表」は分

譲マンションの運用管理費の内、外装部分の修繕・改修費及び暖房費について、想定され

る工事費、暖房費の計算条件(前提条件)の入力を行えば計算結果に反映し従来方式の修

繕と外断熱改修のコスト比較が60年先まで容易に推定できるようにしたものである。更

に、単に従来修繕と外断熱改修のコスト比較だけで長期的には外断熱改修の方が有利であ

る或いは居住環境が良くなる、構造体の耐久性が飛躍的に向上すると言っても、マンショ

ンの区分所有者(住人)や管理組合の役員の方々に外断熱改修を行うと言う気持ちになっ

て貰う事は困難なようであり、外断熱改修を行う場合の初期費用の不足資金をどうするか

とか、月々の修繕積立金がどうなるかを示さないと「その気」になって貰えない。所謂、

長期修繕計画の作成と適正な修繕積立金をシミュレーションして示す必要があり、このL

CC計算表では資金借入・返済計画、修繕積立金とその残高も計算結果に反映するように

した。

長期の修繕費用を考えるには、建物の外装部分の修繕費用だけでは無く、設備類・内

装等の修繕費用を含めた計画が必要であり、30年~50年の長期の修繕費用を推定した

場合、設備類・内装等の部分が50%から60%と外装部分の修繕費用より大きくなるよ

うである。当委員会(略LCC委員会)では長期修繕計画前半の外装部分の修繕費比較を

主に検討を行ってきて、後半の設備類・内装等の修繕計画の細目検討は行っていない。こ

の略称LCC計算表では、設備類・内装等の修繕計画を「マンションの修繕積立金算出マ

ニュアル((財)マンション管理センター発行)」7)より下記項目を参照して計算式に織り

込んだ。

○長期修繕計画に入れる修繕項目(外装部分を除く)

○上記修繕項目の周期

○各修繕項目の修繕費用

この計算表作成の当初は各種のマンションに適用させ、マンション管理組合の役員や

住人で関心のある方が簡単にシミュレーションの道具として使えるようにと考えたが、工

事細目の積算が必要となり結果として、建築工事の知識のあるコンサルタント、設計事務

所あるいはマンション管理会社の方々がプレゼンテーションを行う為の一つの手段として

使って貰えればと言うレベルに留まってしまった。

又、各種工事費用、暖房費用、工事費の借入金、修繕積立金など設定条件を種々変え

て結果が見られるようにすべく(シミュレーション機能)、無理やりMS-Excelの

一つのブック(ファイル)に全てを押し込んで作成した為、完成度の高いプログラムある

いはシミュレーターでは無くプロトタイプ(試作品)のレベルである。更に、作成途中で

の勘違いや参照セルの間違い等のバグ取りを行ってはいるが、完全にはなっていない事を

予め断る必要がある。

以下にファイル内容と使い方を説明する。

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5.1 LCC計算表ファイル使用にあたっての注意事項

このLCC計算表はファイル名「LCC計算表モデル.xls」として委員会報告書に

添付するが、使用に当っての注意事項を記す。

1)LCC計算表モデル.xls は元ファイルのオリジナリティーを残す事と不用意に

上書き保存を防ぐ為に「上書き保存」をパスワードで保護してある。計算に使

用する場合はファイルを開いた最初に【名前をつけて保存】で別ファイル名と

してから入力を行うこと。

2)元ファイルは多数のシートの各セルを参照した多数の計算式で構成してある為、

計算式が不用意に変更された場合、エラーとなるので「計算式」にはロックを

かけて保護している。計算式の修正、変更の必要な時は各シート毎に【ツー

ル】→【保護】→【シート保護の解除】でロックを解除してから変更を行うこ

と。文字、数値の入力項目にはロックはかけていない。

3)計算条件の入力項目には既に仮定の数字を入力してあるが、これは計算エラー

を表示させないものであり、実際に計算する時はこれらの数字を置き換え入力

すること。

4)計算結果及び計算プロセスのシートで横軸に年数が表示されている部分は60

年間の毎年の数字が入っているが印刷出力の為、3年毎などの表示としてある。

表示していない年の数字が必要な時は【再表示】で表示させて欲しい。

5.2 ファイル構成のシートの説明及び使用方法

この計算表ファイルは17枚のシートで構成してあり、主に計算条件の入力シート、

計算結果のシート及び計算のエンジン・補助エンジンにあたる部分に分けてある。通

常の使用にあたっては入力シートと計算結果シート(グラフを含む)で結果の判断は

できると思う。なお、グラフについてはMS-Excelのグラフ作成機能は余り優

れたものでは無い為、本格的なプレゼンテーションに使用できるレベルになっていな

い。

①「前提」シート [印刷出力はA3サイズ1頁に設定]

このシートでLCC計算の基本条件、修繕積立金・借入金などの基本条件の入力

を行い、計算結果の目安となる修繕積立金残高の概要、暖房費用の一部結果の表示

もさせシミュレーション時の目安となるようにしている。セルを水色で塗りつぶし

てある事項は入力必須の項目である。

(Ⅰ.建物概要、部位面積の入力表)

ここでは外装部分の大規模修繕にあたり、対象とするマンションの建物概要と工

事費算出に必要な部位面積などの基本事項を入力する必要があるが、部位面積など

は図面等で数量の概略積算を行って欲しい。

従来方式での修繕(塗装修繕など)と外断熱改修の比較に必要な部位面積、工事

項目の他、設備類・内装などの修繕費用算出に必要な項目、修繕積立金計算に必要

な項目を挙げてある。

なお、外装に係わる大規模修繕の周期については12年毎と固定している。実

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際には新築後15年経過しても大規模修繕工事に取り掛かれないマンションもある

と推定するが、長期修繕計画を考える時には12年毎で計画する事が妥当と思われ

る。

表 30 建物概要、部位面積の入力表

Ⅰ.建物概要、部位面積の入力表【試算建物概要】マンション形状新築からの経過年数 17 年(設備類修繕補正に使用)住戸数 108 戸(設備類修繕補正にも使用)延べ床面積 9,798 ㎡(参考値 計算前提外)専有面積合計 9,720 ㎡戸当り平均専有面積 90.0 ㎡(設備類修繕補正にも使用)バルコニー床面積合計 1,080 ㎡階数 12 階(設備類修繕補正に使用)エレベータ台数 2 台(設備類修繕補正に使用)敷地面積 2,000 ㎡(外溝改修補正に使用)建築面積 900 ㎡(外溝改修補正に使用)

【外部大規模修繕の周期】 12 年

【部位面積等】屋根(屋上)面積 816 ㎡笠木長さ 173 m外壁面積(開口除く) 4,770 ㎡  ⇒ 塗装面積 4,770 ㎡ 非バルコニー面 4,230 ㎡ タイル面積 0 ㎡ バルコニー面 540 ㎡開口面積 1,451 ㎡シーリング(外壁部) 5,659 m(従来方法修繕時)シーリング(開口周り) 3,586 m(従来方法修繕時)外断熱時シーリング 300 m(工法、納まりにより積算を要す)換気フード 540 箇所排気筒 108 箇所バルコニー床防水 150 ㎡バルコニー・塔屋・屋外階段塗装 200 ㎡金属手摺修繕・取替 100 m仮設足場 6,843 ㎡ (外壁面積+開口面積)×1.1仮設足場(屋外階段部) 220 ㎡ (塔屋・屋外階段壁面積)×1.1

(Ⅱ.工事仕様、工事単価、数量及びⅢ.設備類・内装修繕の工事積算単価)は次の

シートで細部の設定を行う。

(Ⅳ.暖房エネルギー)は外断熱改修によって暖房費用がどう変わるかの結果の一部

を出力してある。

(Ⅴ.修繕積立金、借入金の入力表)

外断熱改修を行うにしても従来方式の修繕を繰り返すにしても、大規模修繕の工

事費用の原資をどう調達するか、月額の修繕積立金の妥当性、修繕積立金の残高推

定は大規模修繕を計画する上で基本的な検討事項であり、それらをシミュレーショ

ンするのに必要な入力項目表としてある。入力事項が妥当であるかどうかの判断の

目安は上部の「※ 計算結果目安」に表示されるので、修繕積立金額や借入金額を

変更して試算して欲しい。

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表 31 修繕積立金、借入金の入力表 Ⅴ.修繕積立金、借入金の入力表【修繕積立金の状況】 修繕積立金徴収額 200 円/(㎡・月) 専有面積㎡ 万円/月

修繕積立(月額合計) 194 万円 90.0㎡ 1.80万円修繕積立(年額合計) 2,328 万円 0.00万円積立金収納率 98% 0.00万円使用可能修繕積立(年) 2,281 万円 0.00万円

0.00万円【駐車場使用料繰入】 駐車場使用料(月額) 50.0 万円/月

駐車場使用料(年額) 600 万円/年駐車料 10,000 円/(台・月)台数 50 台繰入可能% 0 %修繕費繰入可能額 0 万円/年

【修繕積立金残高】 修繕積立金残高 16,000 万円(初回時)使用可能修繕積立残高 12,800 万円(全残高の80%と想定)

【借入金/従来修繕】 借入金額 万円利率 %借入期間 年(5年~20年で設定)元利合計返済額(/年) 0 万円 内 利息/年 0 万円

利息総額 0 万円

【借入金/外断熱改修】借入金額 9,000 万円利率 2.0% %借入期間 10 年(5年~20年で設定)元利合計返済額(/年) 994 万円 内 利息/年 94 万円

利息総額 938 万円

⇒⇒1戸当り月額

(※ 計算結果目安)

この出力部分では前提条件、工事内容、修繕積立金などの計算条件を入力した時

に入力した諸条件が意に適うものかどうか計算結果の要約を表している。

1.外部修繕費累計 では従来修繕の繰り返しと外断熱改修の工事費累計を12年毎

で見る事ができる。

2.初回修繕費の過不足 では外断熱改修を採用した場合、一般的には工事費の借入

れが必要となると推定されるが、赤字とならない資金計画の目安となる。

3.修繕積立金残高MIN は12年毎に期間を区切り 、その期間内での残高のミ

ニマム値とその年を表示している。ここで赤字となる場合は、その時に追加の

特別修繕積立金の徴収や新たな借入れを考えなければならず、赤字にならない

修繕積立金の設定を行う必要がある。

又、従来修繕の繰り返しを行うとした場合の残高も算出しているので、計算対

象とするマンションの現在の修繕積立金が妥当かどうかの判断にも使用できる。

②「仕様・単価・数量入力」シート [印刷出力はA3サイズ2頁に設定]

このシートでは「Ⅱ.外装修繕、改修の部」で従来方法修繕と外断熱改修の工事

細目について積算単価を入力する。積算単価は予め、LCC委員会がこの計算表で

は妥当と考える「LCC 委調査@」を入力済みで、積算@は LCC 委調査@セルを参照し

ている。個別のマンションの建物条件、工事内容により変更が必要な場合は「積算

@」の部分を変更して欲しい。なお、数式セルを保護してあるので、シートの保護

を解除してから変更の事。積算数量については、前シート「前提」の各セルを参照

しているが、部分的な修繕、改修を考える場合はこのシートの積算数量を変更する

方が適当と思う。

外断熱改修の場合については、外壁の外断熱改修だけでは無く、屋上の断熱防水、

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サッシ改修も含めたフル改修で設定している。検討対象マンションで不要な工事項

目があれば、積算数量を「0」として欲しい。外断熱そのものについては、大通マ

ンション、Mマンションで実施された「乾式通気・ガルバ外装」「乾式通気・塩ビ外

装」「湿式密着・塗り仕上」の3工法を設定してあるので、夫々の工法の積算数量を、

ここで入力する事(水色塗りつぶし項目)。また、別の外断熱工法を採用する時は工

事細目の名称も変更しておくと良い。

【特記事項】

外断熱改修を行う場合、改修後12年目は何も修繕的措置は行わなくても良く、

24年目(2回目)で外装材の部分的補修そして36年目(3回目)では外装材の

全面張替え、湿式工法の場合は仕上げ材の再塗り処理を行うとしている。

36年目(3回目)で外装材の大きな修繕を見込む事には色々意見はあると思う

が、修繕積立金の設定、将来の見直しに大きく影響する事から予防措置的考えで条

件設定を行った。実際には24年後あるいは30数年後に劣化の状況を見て、更に

もう1周期(12年)延ばすかどうか判断する事になる。

表 32 外断熱面積の入力表

工事細目 LCC委調査@ ⇒ 積算@ 積算数量 単位 周期本足場(工期/90日) 2,000円/㎡ ⇒ 2,000円/㎡ 7,063 ㎡ 36年部分足場(工期45日) 1,500円/㎡ ⇒ 1,500円/㎡ 687 ㎡ 24年ゴンドラ 12年

躯体補修 1,000円/㎡ ⇒ 1,000円/㎡ 4,770 ㎡ 初回乾式通気・ガルバ外装 16,000円/㎡ ⇒ 16,000円/㎡ 4,770 ㎡ 初回  下地・断熱材工事 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) ㎡ 初回  外装材張替え工事 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 4,770 ㎡ 36年  部分補修 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 572 ㎡ 24年

部分補修率/年→ 0.5% ⇒ 0.5%乾式通気・塩ビ外装 16,000円/㎡ ⇒ 16,000円/㎡ 0 ㎡ 初回  下地・断熱材工事 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) ㎡ 初回  外装材張替え工事 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 0 ㎡ 36年  部分補修 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 0 ㎡ 24年

部分補修率/年→ 0.5% ⇒ 0.5%湿式密着・塗り仕上 16,000円/㎡ ⇒ 16,000円/㎡ 0 ㎡ 初回  再塗り仕上げ (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 0 ㎡ 36年  部分補修 (8,000円/㎡) ⇒ (8,000円/㎡) 0 ㎡ 24年

部分補修率/年→ 0.5% ⇒ 0.5%シーリング 1,500円/m ⇒ 1,500円/m 300 m 12年換気フード改修 7,000円/個 ⇒ 7,000円/個 540 個 初回FF給排気筒取替 15,000円/個 ⇒ 15,000円/個 108 個 初回

単価表外断熱改修

数量

更に、大規模修繕の場合、外断熱を行わない部位もあるので共通修繕項目とその

他工事項目として必要な事項がある場合にその他の修繕に入力をし、工事費全部を

集計するようにしてある。

バルコニー床防水 躯体補修・下地調整 1,000円/㎡ ⇒ 1,000円/㎡ 150 ㎡ 12年防水処理 2,500円/㎡ ⇒ 2,500円/㎡ 150 ㎡ 12年

バルコニー・塔屋・屋外階段塗装 既存塗装の除去・下地処理 3,000円/㎡ ⇒ 3,000円/㎡ 200 ㎡ 12年躯体補修 1,000円/㎡ ⇒ 1,000円/㎡ 200 ㎡ 12年塗装仕上 2,500円/㎡ ⇒ 2,500円/㎡ 200 ㎡ 12年

金属手摺修繕・取替 金属手摺取替 7,000円/m ⇒ 7,000円/m 100 m 12年

その他修繕1 項目ア ⇒その他修繕2 項目イ ⇒

その他

共通修繕項目

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次に「Ⅲ.内装、設備修繕の部」の表に外装部分を除いた内装、設備類修繕につ

いて修繕項目、次回の修繕予定、修繕費用(LCC委員会設定値)修繕周期を挙げ

てあるが、長期修繕計画作成、適切な修繕積立金設定のために必要なものである。

この部分の具体的な項目、費用等については全て「マンションの修繕積立金算出マ

ニュアル((財)マンション管理センター発行)」7)に記載されている修繕項目、修

繕費用の算出、修繕周期から引用し計算表に落とし込んだものであり、内容につい

て当LCC委員会で検討を加えたものでは無い。修繕費用の計算方法、周期につい

ては「Ⅲ.長期修繕計画算出の対象改修項目シート」で行い計算結果をこの表に反

映させている。

修繕積立金の計算、修繕積立金残高の計算に必要不可欠の項目ではあるが、参考

値として捕らえて欲しい。

このマニュアルに記載されている項目の内、「Ⅱ.外装修繕、改修の部」で検討

している項目、その他について長期修繕計画算出の対象改修項目から外している。

○ 屋根防水改修 ○ 外壁等改修 ○ 床防水等改修 ○ 住戸アルミサッシ交換 ○ 立体駐車場設備改修 ○ 診断・設計・管理費等

この表に於いての「次回の修繕予定」は新築時から設備類・内装などの修繕が

「マンションの修繕積立金算出マニュアル((財)マンション管理センター発行)」7)の周期に基づいて行われている前提で次回の予定を出している。実際のマンショ

ンで計算を行う場合、修繕項目の内、直近に修繕が完了している項目があり、次回

の予定がはっきり分かっている場合は次回の予定を修正する必要がある。外装部分

の修繕については新築後の経過年数とは関係なく大規模修繕を行う時を初回とし以

降12年周期で組み立てているのと異なる周期としているので注意が必要である。

③「結果印刷用」シート [印刷出力はA3サイズ2頁に設定]

「略称LCC計算表プロトタイプ」で行った計算結果の集計一覧表である。横軸

に初回から60年後までの毎年の工事費が埋め込まれているようにしてある。この

シートのモデルでは印刷時に横1頁に収める為に3年毎を表示しているが、単に

「表示しない」で隠しているだけであり、毎年の数値が必要な場合は「再表示」を

して欲しい。ただし、印刷時のフォームは適時修正して欲しい。また、参考として

グラフシートとして添付したものの基礎数字はこの表から引用している。Exce

lのメニューから【表示】⇒【ユーザー設定のビュー】で「12年毎」「3年毎」

「全期間」を選択表示できるようにしてある。

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縦軸にあたる出力項目としては大きく4項目を表している。

A.従来方式の修繕と外断熱改修に費用(単年度と累計)及び両者の差額(単年度

と累計)

表 33 検討結果出力表 検討結果出力表 外装部改修工事費累計、修繕積立金残高(収支尻)、暖房費用比較

初回 3年目 6年目 9年目 12年目

従来方法修繕費用(金利含) 累計 8,860 8,860 8,860 8,860 17,721単年度費用合計(金利含) 8,545 0 0 0 8,545(調査・設計管理費・消費税他) 794 0 0 0 794(工事諸経費) 1,011 0 0 0 1,011(仮設工事費) 1,060 0 0 0 1,060(屋根防水修繕工事費) 939 0 0 0 939(外壁修繕工事費) 4,488 0 0 0 4,488(共通修繕工事費) 253 0 0 0 253(借入金金利負担) 0 0 0 0 0

外断熱改修費用(金利含)  累計 21,287 21,569 21,851 22,133 22,626単年度費用合計(金利含) 20,972 94 94 94 440(調査・設計管理費・消費税他) 1,941 0 0 0 41(工事諸経費) 2,470 0 0 0 52(仮設工事費) 1,413 0 0 0 0(屋根断熱防水工事費) 1,318 0 0 0 49(外壁外断熱改修工事費) 8,694 0 0 0 45(サッシ改修工事費) 4,789 0 0 0 0(共通修繕工事費) 253 0 0 0 253(借入金金利負担) 94 94 94 94 0

累計差額(従来修繕-外断熱改修) -12,427 -12,709 -12,991 -13,273 -4,905差額(単年度) -12,427 -94 -94 -94 8,106

(仮設工事費) -353 0 0 0 1,060(屋根防水工事費) -379 0 0 0 890(外壁修繕・改修工事費) -4,206 0 0 0 4,443(サッシ改修工事費) -4,789 0 0 0 0(借入金金利負担) -94 -94 -94 -94 0

金額単位:万円

主要項目

内 訳

内 訳

外装部分修繕・改修工事費

工事費差額

B.内装・設備類修繕の単年度、累計工事費及び外装部分を含めた合計の大規模修

繕工事費

表 34 内装・設備類修繕費及び全修繕費

初回 3年目 6年目 9年目 12年目

内装・設備類修繕 単年度 1,016 1,620 0 0 0内装・設備類修繕 累計 1,016 3,158 3,158 7,667 7,750

9,876 12,018 12,018 16,527 25,47122,303 24,727 25,009 29,800 30,376

金額単位:万円

外装従来方法修繕+内装・設備修繕合計外装外断熱改修+内装・設備修繕合計

C.大規模修繕工事に係わる工事費(外装部分+内装・設備類全体)と支払いに充

てる原資と言うべき修繕積立金類、その残高、借入金及び修繕積立金収支残高

及び借入金の返済残高を表した。当然、「前提」シートの修繕積立金月額、駐車

場使用料繰り入れ、借入金などの資金手当ての入力条件が反映されている。

この表で修繕積立金残高が赤字にならない、工事費計画、資金計画が求められ

る。

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表 35 工事原資と積立金収支尻

初回 3年目 6年目 9年目 12年目

支払い合計 9,561 1,620 0 0 8,545(工事費支払い、設備類含む) 9,561 1,620 0 0 8,545(借入返済(元利合計)) 0 0 0 0 0原資合計 13,941 2,281 2,281 2,281 2,281(修繕積立金年額) 1,141 2,281 2,281 2,281 2,281(使用可能修繕積立残高) 12,800(駐車場使用料繰入(年額)) 0 0 0 0 0(借入金) 0借入金(元利合計)残高 0 0 0 0 0修繕積立金収支(単年度) 4,379 661 2,281 2,281 -6,264修繕積立金残高(累 計) 4,379 9,080 15,923 18,257 16,157

支払い合計 22,888 2,614 994 994 440(工事費支払い、設備類含む) 21,894 1,620 0 0 440(借入返済(元利合計)) 994 994 994 994 0原資合計 22,941 2,281 2,281 2,281 2,281(修繕積立金年額) 1,141 2,281 2,281 2,281 2,281(使用可能修繕積立残高) 12,800(駐車場使用料繰入(年額)) 0 0 0 0 0(借入金) 9,000借入金(元利合計)残高 9,940 6,958 3,976 994 0修繕積立金収支(単年度) 52 -333 1,287 1,287 1,841修繕積立金残高(累 計) 52 1,771 5,632 4,984 11,252

金額単位:万円

外断熱改修時

工事費原資と積立金収支尻

従来修繕時原資

D.暖房費(灯油換算値)の単年度、累計及び1住戸当たり全住戸を表している。

表 36 暖房費(灯油換算値)計算結果

初回 3年目 6年目 9年目 12年目

暖房費比較(A.サッシ改修ありの場合) 従来修繕 /1戸当り累計 19.7 39.4 59.1 78.8 外断熱改修/1戸当り累計 13.8 27.6 41.4 55.21戸当り累計差額 5.9 11.8 17.7 23.6 従来修繕 /全戸数累計 2,130 4,260 6,390 8,520 外断熱改修/全戸数累計 1,491 2,982 4,473 5,964全戸数累計差額 639 1,278 1,917 2,556

暖房費比較(B.サッシ改修無しの場合) 従来修繕 /1戸当り累計 28.1 56.3 84.4 112.6 外断熱改修/1戸当り累計 25.3 50.6 76.0 101.31戸当り累計差額 2.8 5.6 8.5 11.3 従来修繕 /全戸数累計 3,042 6,084 9,126 12,168 外断熱改修/全戸数累計 2,736 5,472 8,208 10,944全戸数累計差額 306 612 918 1,224

灯 油

金額単位:万円

暖 房 費

灯 油

暖 房 費

なお、電気暖房方式、ガス暖房方式の時はこのLCC計算表とは別に発熱量原単

位と単価で補正して欲しい。

このシートの下部にグラフに用いた数表がついているが、印刷は不要であるが、

表示の期間を変更した場合、グラフもX軸(横軸)が変わるので注意が必要である。

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④「設備類修繕」シート [印刷出力はA3サイズ2頁に設定]

このシート以降はLCC計算のエンジン・補助エンジン及び参考用のグラフのシ

ートとなる。まず、「設備類修繕」シートは「マンションの修繕積立金算出マニュ

アル((財)マンション管理センター発行)」7)に記載されている「修繕周期」「1戸

当たりの修繕費」「平均床面積・階数・住戸数他の補正係数」を用いて修繕項目別

に周期毎の工事金額を算出している。各補正係数は夫々のセルにコメントとして記

載してある。加えて計算対象とするマンションでは明らかに不要な修繕項目がある

場合、有無補正(0か1を掛ける)を行っている。

⑤「暖房エネルギー」シート [印刷出力はA3サイズ1頁に設定]

暖房費用の計算は平均的な「㎡当りの暖房エネルギー(/年間)」を断熱改修し

ない場合は90kWh/㎡ 断熱改修(サッシ改修も含む)した場合は70%の63k

Wh/㎡と固定的に設定をした。断熱改修を行った場合の熱損失係数の改善数値から

見ると55%~60%程度になるが、平均室温が上がる事を考慮して70%に固定

を行った。根拠とした計算内容はこの表の上部に熱損失係数から暖房エネルギー計

算を北方型住宅の熱環境計画2005年((社)北海道住宅リフォームセンター)8)

の計算手順に寄っている。

暖房用のエネルギー源は灯油のFF暖房機を前提で暖房費の計算を行っているの

で、ガス、電気あるいは暖房方式によっては、補正を別途行って欲しい。

⑥「グラフ 1」シート~「グラフ 6」シート [印刷出力はA3サイズ1頁に設定]

「結果印刷用」シートに出力された結果をグラフ化したものであるがExcel

のグラフ作成機能は十分で無い為か、このLCC計算表作成のワーキング・グルー

プメンバーのグラフ作成力の不足か、プレゼンテーションに使用するには立派なグ

ラフとはなっていない。見栄えのするグラフが必要な時はグラフ専用ソフト等で作

成して欲しい。また、各グラフとも「凡例」でグラフ要素を示しているが、分かり

易くするために「吹き出し」で要素の説明を入れてあるが、結果数字が変わると

「吹き出し」の位置も変わるので、随時修正をして欲しい。

「グラフ 1」:外部の修繕・改修費用(従来修繕と外断熱改修)の比較を単年度の工

事費及び累計工事費で表している。(このグラフは3年毎表示)

「グラフ 2」:従来修繕と外断熱改修を比較し、工事費(単年度・累計)及び暖房費

の累計並びに両者の合計値を表している。

「グラフ 3」:外部の従来修繕と設備類・内装他の修繕費用の単年度と累計で表して

いる。設備・内装の修繕周期が外部の修繕と異なる為、1年毎の表示

としている。

又、参照する為に外断熱改修を行った場合の累計工事費を点線で示し

ている。次のグラフ4と一つのグラフで示せれば良いのだが、Exc

elの機能では分かりづらくなる為、2枚のグラフに分けた。

「グラフ 4」:グラフ3と同様に外断熱改修を行った場合の外部の改修と設備類・内

装他の修繕費用を表している。

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「グラフ 5」:従来方式修繕(設備類・内装含む)の単年度工事費及び累計工事費と

修繕積立金残高を表す。この修繕でも借入金がある場合は借入金返済

残高が表示される。

「グラフ 6」:グラフ5と同様に」外断熱改修を行った時の修繕積立金残高及び借入

金返済残高を表す。

なおグラフ5との対比として、借入金(900 万円)に対する金利

(2%)を含めたモデルで従来方式修繕との差額累計グラフを付加した。

⑦「60 年グラフ用表」シート

このシートは単に60年毎年をグラフにする為の作業用のシートである。印刷も

不要である。

⑧「修繕費細目推移」シート

このシートはLCC計算表全体のエンジン部分であり、外部の修繕・改修工事費、

設備類・内装他の修繕項目について細目全部の工事金額を発生する年のセルに埋め

込むように作成してある。「前提」シート、「仕様・単価・数量」シートで入力した条

件が工事金額として算出され、「結果印刷用」シートの工事金額はこのシートを参

照している。外装部分の修繕・改修工事費は初回以降12年周期の固定でその年の

セルに計算されるが、設備類・内装ほかの工事費は新築後の経過年数により発生す

る年が変動する為、その変動に合わせて発生する年に計算されるようにしている。

このシートでは縦軸に工事項目の細目が、横軸に初回から60年後までの毎年の

データが計算されていて、大きな表となっているので印刷する事を想定していない。

また、金額計算のエンジン部分であるので、不用意に計算式などの変更を行わない

方が良い。Excelの行、列或いはセルを削除すると計算表全体にエラーが表示

される可能性が大である。

膨大な計算表の為、作成途中で幾度と無くバグ取りを行って来たが、完全で無い

可能性も残っているので、発見された方は(社)北海道建築技術協会、LCC委員会

まで連絡を頂きたい。

⑨「修繕積立金・資金繰」シート

このシートでは大規模修繕に於ける工事費とその支払い原資となる、毎月の修積

立金、それまでの修繕積立金の残高、駐車場使用料の繰り入れ額、借入金の資金繰

り表とでも言うべき計算を行っている。原資となる部分は「前提」シートでのⅤ.

修繕積立金、借入金の入力表から計算し、工事費については「修繕費細目推移」シ

ートを参照している。更に初回から60年後までの修繕積立金の残高を計算して

「前提」シートの計算結果目安の表に反映させている。毎年の修繕積立金の残高が

赤字にならないように資金計画を考える必要がある。

⑩「工事費計算」シート

このシートは外部修繕・改修の各工事項目の金額計算をしている作業シートとし

ている。「仕様・単価・数量入力」シートの数量、単価を参照し工事金額を算出して

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「修繕費細目」シートへ出力している。

⑪「ローン計算」シート、「ローン計算B」シート

従来方式修繕と外断熱改修の場合に別々に借入金を要する時に借入金額、借入期

間利率の設定を「前提」シートで入力し、毎年の元利合計返済額、金利総額を計算

すると同時に「修繕積立金・資金繰」シートに反映させている。

⑦から⑪までの各シートはこのLCC計算表のエンジン、補助エンジンになるも

のであり、印刷の必要性も低いし、不用意にシートに変更を加えない方が良い。

5.3 略称LCC計算表プロトタイプの別な使い方

表 36 は「塔型マンションモデル」をLCC計算表で計算した結果であるが従来方

法(塗装修繕)を繰り返した場合の修繕積立金残高も表している。このモデル計算

では毎月の修繕積立金は160円/㎡(1戸当り1万5千円)としているが、大規

模修繕に取り掛かろうとした初年度もそれ以降も年を経ると共に残高の赤字は大き

くなって行く。修繕費用には外部だけでは無く、設備類・内装ほかの修繕費用が含

まれるが、この例の修繕積立金月額では到底追いつかない事が分かるので、適切な

修繕積立金の額設定の目安を示す使い方にも使用できる。

表 37 計算結果目安表

※ 計算結果目安 単位:万円従来修繕 外断熱改修 差 異

1.外部修繕費累計 a.初回 4,141 8,386 -4,244 b.24年目 12,424 11,334 1,090 c.36年目 16,566 14,587 1,979 d.48年目 20,707 16,455 4,2522.初回修繕費過不足 -592 -393

3.修繕積立残高MIN -626 -2,43812年目 8年目-4,711 -3,62524年目 24年目-4,897 -3,06436年目 25年目-7,773 -3,52548年目 48年目

3.灯油換算暖房費  1戸当り 138 101 37  全戸数 3,168 2,232 936

Ⅴ.修繕積立金、借入金の入力表【修繕積立金の状況】 修繕積立金徴収額 160 円/(㎡・月)

修繕積立(月額合計) 32 万円修繕積立(年額合計) 384 万円積立金収納率 98%使用可能修繕積立(年) 376 万円

【修繕積立金残高】 修繕積立金残高 4,000 万円(初回時)使用可能修繕積立残高 3,200 万円(全残高の80%と想定)

初回赤字にならない資金計画

⇒⇒1戸当り月額

※サッシ改修含む場合

25年目~36年目

37年目~48年目

備   考

1年目~12年目

24年間の累計金額

13年目~24年目

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6.LCC計算表を長期修繕計画へ応用するにあたっての断り

5章において、分譲マンションのライフサイクルコスト(LCC)を運用管理費の面

から捉えて、想定される修繕項目と暖房費用について60年先まで計算できる表を提示し

た。このLCC計算表の前段では外装部分に係わる長期の修繕費用が従来方法修繕(塗装

修繕或いはタイル修繕)と外断熱改修を比較して運用管理コストにどの程度の差が出るか

を示す事ができる。幾つかの実在マンションをモデルとして計算したが、24年目以降に

累計工事費が外断熱改修した方が安くなる結果が得られる。しかし、初回の工事費が2倍

程度になり、その時の修繕積立金残高では賄えず借入れを行う等しっかりとした資金計画

が求められる。資金計画の元になるものは修繕積立金或いは駐車場使用料など居住者の

月々の負担であるので、長期修繕計画を作成して適正な額とする必要がある。

長期修繕計画作成にあたっては建物外部に係わる修繕だけでなく設備類、共用部内装、

外溝・付帯設備など数多くの修繕項目を要素として加える必要があり、且つ30年~50

年の長期の修繕費用を推定した場合、そちらの部分の修繕費用が大きくなるようである。

LCC計算表では後段部分として設備類、共用部内装、外溝・付帯設備などの修繕計画を

織り込んでいるが、これらの内容(修繕項目、周期、改修方法、単価など)については

「マンションの修繕積立金算出マニュアル 2004 年改訂版((財)マンション管理センタ

ー 発行)」7)から引用している。

下記の項目はこのマニュアルに記載されている修繕項目とその周期である。

(1)屋根防水改修(LCC計算表では参照除外)

イ.陸屋根防水 12年

ロ.傾斜屋根防水 12年、24年

(2)外壁等改修(LCC計算表では参照除外)

イ.一般外部 12年

ロ.一般天井 12年

(3)床防水等改修(LCC計算表では参照除外)

イ.開放廊下・階段等 12年

ロ.バルコニー 12年

(4)鉄部等塗装

イ.雨がかり部 4年

ロ.非雨がかり部等 6年

ハ.非鉄部等 12年

(5)建具・金物等改修

イ.手摺関係 36年

ロ.屋外鉄骨階段 36年(LCC計算表では参照除外)

ハ.住戸建具関係 36年

ニ.その他 24年、36年

(6)共用内部等改修

イ.共用内部等 12年

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(7)給水設備改修

イ.給水管(共用部) 30年

ロ.貯水槽 25年

ハ.給水ポンプ 16年

(8)排水設備改修

イ.配水管(共用部) 30年

(9)ガス設備改修

イ.ガス管(共用部) 30年

(10)空調・換気設備等改修

イ.共用室等設備 15年

(11)電気設備等改修

イ.電灯設備 15年

ロ.避雷針設備 40年

ハ.盤類その他設備 30年

ニ.幹線(容量アップ) 計画初年度又は30年

ホ.自家発電設備 30年(LCC計算表では参照除外)

(12)情報・通信設備改修

イ.テレビ共聴設備 15年

ロ.電話設備 30年

ハ.オートロック設備等 15年

(13)消防設備改修

イ.自動火災報知設備 20年

ロ.屋内消火栓設備 25年

ハ.連結送水管設備 25年

(14)昇降機設備改修

イ.エレベーター 15年、30年

(15)立体駐車場設備改修(LCC計算表では参照除外)

イ.2・3段プレハブ自走式 10年

ロ.機械式駐車場 5年、20年

(16)外溝・付属施設改修

イ.敷地外溝施設 24年

ロ.付属施設その他 24年

(17)診断・設計・監理等費用(LCC計算表では参照除外)

イ.診断・設計・コンサルタント等 12年

ロ.工事監理 12年

(18)長期修繕計画作成費用

イ.新規作成 1回目のみ

ロ.見直し作成 6年

(19)その他(各種の調整)

イ.予備・雑費用 1回目のみ

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ロ.特殊施設改修費用 必要に応じて

詳細については「マンションの修繕積立金算出マニュアル 2004 年改訂版((財)マン

ション管理センター 発行)」7)を参照して欲しい。また、(財)マンション管理センター

で は 有 償 で は あ る が 低 料 金 で 「 長 期 修 繕 計 画 作 成 ・ 修 繕 積 立 金 サ ー ビ ス

(http://www.mankan.or.jp/About/p02_04.html)」を行っているので利用し、適時LCC

計算表の数値を修正して貰いたい。

設備類、共用部内装、外溝・付帯設備の修繕費用等の修正はLCC計算表の下記の部

分で行って欲しい。

①「仕様・単価・数量入力」シート「Ⅲ.内装・設備修繕の部」の次回の修繕予定年の項

②「設備類修繕シート」の単価、修繕周期の項及び修繕項目による有無補正

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7.外装部の維持保全、修繕から見て望まれる外断熱工法の要素

分譲マンションを外断熱改修するにあたって外断熱工法、使用構成材料に要求される

要素は事務所ビル、商業ビル或いは公共施設などと少し変わって来る。どの建物に於いて

も基本的には要求される要素は同じであるが、優先順位が変わると言った方が良いのかも

知れない。北海道に外断熱工法が登場して30数年が経過し、現在では多種多様の工法、

外装仕上材が選択できる状況となっている。下図は「よくわかる!外断熱工法(北海道に

おける外断熱RC建築の普及に向けて)」5)(平成 17 年 3 月 北海道建設部建築指導課発

行)に記載されている外断熱工法の分類と外装仕上材の分類である。

また、外装仕上材は次のように挙げられている。

①塗装・左官(塗り仕上材)

②タイル

③金属板(金属折り曲げ板)

④レンガ

⑤木

⑥サイディング(パネル・ボード)

⑦PC・ALC、押出成型板

⑧CB(コンクリートブロック)

⑨現場打ちコンクリート

更に同書では北海道北方建築総合研究所が公的集合住宅の外断熱に関わる技術開発に

あたって、次の4つのコンセプトをあげている事を紹介している。

①地域で生産・建設・修繕が可能であること

②ローメインテナンスであること

③循環型材料で構成され、分別解体ができること

④外装選択の自由度が高いこと

分譲マンションの大規模修繕に外断熱を採用するにあたっては、②前記のローメイン

テナンス、③循環型材料で構成され分別解体ができることを優先度の高い条件として検討

すべきであろう。当LCC委員会に於いては外装部の大規模修繕の周期を伸ばせる事を前

提として外断熱の有効性を検討してきた。この事は長期的に見て修繕、保全コストを低減

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する目的と修繕工事の時に全面足場がかかる居住者への負担の軽減も、もう一つの目的と

なる。一度、大規模修繕を経験した居住者から例え数ヶ月といえども十数年毎にあの足場

で覆われた生活は勘弁して欲しいと言う声をよく聞かれる。

折角、外断熱改修を行ってもその外断熱の修繕・保全が塗装仕上げやタイル仕上げと

同じように十数年毎に必要とされるのでは外断熱改修の意味が半減してしまう事になる。

居住者からすると一度施工したからには未来永遠に修繕・保全や交換が不要であって欲し

いと言う気持ちがあって当然であるが、限られた予算の中で応える事は難しい。実施事例

のOマンション、Mマンション共に限られた予算の中でローメインテナンス、循環型材料

で構成された外断熱工法を主体に採用しているが、LCC委員会では将来劣化が生じる可

能性のある外装材については36年後(大規模修繕3周期目)に全面交換を織り込んだ長

期修繕計画を提案した。この事は長期修繕計画の予算組み(修繕積立金の設定)に於いて

予め全面交換を想定した組み方を行うべきとの提案であり、必ず36年後に交換する必要

は無いのかも知れない。委員会の中でも50年は大丈夫とかもっと持つだろうと言う意見

も多かったが、何分にも40年、50年の長期に亘っての劣化の調査事例や資料が見当た

らなかった為、表現は悪いが「多分大丈夫だろう」という事で36年を提案した。

各種の外断熱工法、外装材や断熱材・取り付け下地材に要求される要素と施工に於け

る注意点などをライフサイクルコストの視点から簡単に触れる。

外断熱工法を構成する材料は細分すると下記となる。

①塗装材料、塗り仕上げ材料(湿式工法用で一般的な塗料でない材料)

②外装材料

③外装材、断熱材取り付けの下地材料

④断熱材

⑤接着剤(湿式密着工法)

⑥補助材料としてのシーリング材

これらの構成材料全てに少なくても30数年或いは構成材料によってはもっと長期の

耐久性があるという見解をそれらのメーカーから出して貰える事を望む。メーカーの保証

を求める事ではなく、耐久性に関わる調査事例やリーズナブルな劣化促進試験のデータ等

の把握と情報提供を要望したい。外断熱工法普及の初期の頃に施工後短期間のうちに外装

材のあばれや塗膜の剥離、シーリング材の膨れなどの劣化が発生し大きな期待外れを起こ

した事例を再発させないようにする事が大切である。

1)塗装材料・塗り仕上材料

外断熱工法の外装仕上げを塗装とする施工例は多数ある。この場合、外装材その

ものの長期耐久性に加えて塗膜の耐久性も30数年あると想定できるものを選択す

べきである。特に現場で塗装仕上げを行う場合、塗料の乾燥硬化の反応過程で外気

条件(温度、湿度)によって基材との接着性、塗膜そのものの硬化度は管理された

製造工場の塗装工程とは異なると思われる。

湿式密着工法は工法を提供するメーカーの専用塗り仕上材料が外装材と塗装の機

能を併せもつ事になるが、同様に長期耐久性に関わる情報、データの提供を求めた

い。単に工法を開発した国では40年の歴史があるという話しでは無く施工履歴が

分かる情報と現在どのような状態になっているかの情報を望む。

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また、外装材の上にタイルを貼った事例も見聞するがコンクリート下地にタイル

を貼った場合と同じように耐久性に問題が残る。タイル下地の外装材の種類によっ

てはコンクリート下地より耐久性が劣る事は十分考えられる。

種々の外断熱工法、外装材の選択にあたっては耐久性だけでは無く意匠性やコス

ト等他の特性を重視する事もあるが、これらの仕上げ材料を使用する工法を考える

場合は、経年劣化の点検や補修の行い易い箇所、1階部分やエントランス周辺、バ

ルコニー部分などの外壁に適用する配慮が必要であろう。

2)外装材

一般的に耐久性が高いとされ、木造系住宅にも多く使用され、通気層外断熱工法

にも採用され始めたガルバリウム鋼板、塩ビ樹脂サイディングも長期の耐久性を示

すような情報が見つからない。ガルバリウム鋼板の場合、ガルバリウムめっきが開

発されてから30数年であり、開発メーカーであるベスレヘムスチール社(米国)

のデータではめっき皮膜寿命は、塩害地域で約15年、一般的な地域では約25年

以上とされていて、更に長期の耐久性については不明であり、且つどのような状態

になったら耐久性の限界かも判然としない。一方、塩ビ樹脂サイディングもメーカ

ー保証30年を唱っているが、保証内容は部分的退色(変色)についてであり、強

度的な点での保証では無い。これらの外装材は素材そのものが廉価なサイディング

に比べ耐久性がありそうでもあり、乾式通気層工法に用いられる為、外装材の劣化

低減に大きな役割を果たしている。乾式通気層工法により外装材の劣化トラブルが

大きく減少した事は二十数年前から木造住宅で通気層工法が普及した事例で分かる

通りである。

耐久性の高いと思われる外装材であっても、永久に取替え不要とは考えられず、

いずれ取替え時期が来る事を考えると交換が容易であり、工事費が少ない事が重要

である。

また、耐久性が高いと思われるガルバリウム鋼板も使用箇所によっては次のよう

なドラブル発生があり注意を要する。資料9はの北海道住宅新聞の記事 6)(平成2

0年8月15日号)の抜粋であるが、築5年の住宅で軒下や庇・出窓の下など雨水

がかかりにくい部分で白サビが発生したとのものである。マンションの場合、バル

コニー部の外壁や梁型が外部に出ている箇所など納まりに注意をした方が良い。

また、金属製の外装材全般にいえると思うが、取り付け金具や手摺部分など異種

金属が触れて起こす「電食」防止など細部にも注意した施工が必要である。

3)外装材、断熱材取り付けの下地材料

この下地材料を要するのは殆どの場合、通気層工法であり素材は鋼材が多いが外

装材+通気層による防水効果により、耐久性に影響を及ぼすような錆発生の危険性

は格段に少なくなると思われる。それでも防錆処理した鋼材を使用した方が安心は

できる。また、鋼製下地材をコンクリートに取り付けるにはプラスチックアンカー

を埋め、ビスをねじ込んで固定する方法、下穴を開けてからコンクリートビスをね

じ込んでコンクリートそのものを女螺子とする方法等あるが、長期間の負の風圧力

繰り返しによる引き抜き力の低下等は工法提案をするメーカーなどどこかで確認し

て貰いたい。更に外装材を取り替える時には引き抜き耐力の確認や補強の為のアン

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カー追加等を考えておいた方が良い。

4)断熱材

外断熱工法には発泡プラスチック系、繊維系の殆どの断熱材料が使用可能であり、

その耐久性あるいは断熱性能劣化の心配は無いと思われる。外装材或いは通気層に

より劣化要因である紫外線や雨水から保護されその信頼性が高い為である。唯一気

になるのは、発泡プラスチック系断熱材と外装材を密着させた複合板や湿式密着工

法の場合、長期間の日射繰り返しによる熱劣化であるが、その影響については発泡

プラスチック断熱材メーカーで把握していると思われるので確認をしておくと良い。

5)湿式密着工法の接着(接着剤)

湿式密着工法の場合、殆どが開発メーカーの専用接着剤を使用する事になると思

う。メーカーの商品化の過程で接着性について十分検討されているものと思うし、

接着層は断熱材で保護されていて劣化の心配は極めて少ない。

接着工法の場合、接着下地となるコンクリート面の状態が信頼性に大きく影響す

る。改修工事の場合、古い仕上げの塗装或いはタイルの場合の接着モルタルを完全

に除去する事が必要であると共にコンクリート表面の劣化状態も調査し、劣化が見

られる箇所は十分な補修措置を行う必要がある。詳細は不明であるが、接着した外

断熱がかなり大きな面積で剥落した事例もあったので、接着だけで無く、アンカー

も併用する方が安心できる。

6)補助材料としてのシーリング材

端部や開口部周囲或いは伸縮目地部をシーリング材で納める外断熱工法は多いが、

シーリング材料の耐久性が高いと思われない。施工後3周期までに大掛かりなシー

リングの補修が必要となると修繕間隔を長くできる外断熱改修のメリットが半減す

る事になる。少なくとも雨仕舞いをシーリング材に頼るのでは無い納まりの工夫が

要求される。

OマンションやMマンションでは断熱補強の為、開口部に外付けサッシを付加し

ているが開口部の雨仕舞いには極めて有効な手段である。当委員会が提案している

略称LCC計算表に外付けサッシを標準改修に織り込んでいるのもこの雨仕舞いの

信頼性が高い事がある。

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8.おわりに

当略称LCC委員会では分譲マンションにおいて外断熱改修が運用管理コストの大き

な優位性を持つことを示してきた。また、外断熱によって構造体の経年劣化が止まり、そ

の劣化に起因した解体、建替えは必要なくなる事から本当の意味でのライフサイクルコス

ト(LCC)の圧倒的な優位性はコスト計算するまでも無く明らかである。構造体や外装

部分だけでなく設備類、共用内部、外溝なども適切な長期修繕計画に基づいて保全がなさ

れていれば、昨年、NHKのクローズアップ現代で放送された「急増する“荒廃”マンシ

ョン」(平成20年11月20日)のような社会的問題にはならず、居住者にとっては

「終の住まい」で有りうるし、今の住まい手が代わる場合、自分の子息に残す或いは転売

する場合でも住人の移り変わりはスムースに行われ、集合住宅として社会資産化の道が開

かれると思う。

その為には幾つかのそれも大きな課題が残っている。以下、略称LCC委員会活動の

中から感じた事を記す。

1)分譲マンションの居住者(区分所有者)の意識の問題が第一に挙げられそうであ

る。何人かの居住者に貴方の毎月の修繕積立金は幾らですかと聞いてみたが、答

えられる人は少なかった。また、大規模修繕のみならず管理運営上の重要事項は

管理組合の総会等で検討・決定されるがその総会での合意形成が容易な事で無い

事例を聞く。総会での紛糾なら未だ理解はできるが、その総会にも参加しない居

住者が多くいる事が大きな問題である。分譲マンションという形態は区分所有者

の集合全体の共同所有であり管理運営にあたっては、区分所有者としての義務が

ある事を理解していない居住者が結構多いようである。分譲マンションは一つの

村社会を形成するようなもので、自分達の住まいを良くするも荒廃させるのも居

住者個々の意識が大切と思う。

2)次に新築マンション販売時の問題であるが、最近の広告ちらしを見ていると修繕

積立金が購入時に20数万、毎月の積立金が数千円というのが多いように見られ

る。この金額では初回の大規模修繕の費用も賄えない可能性が大きく、修繕積立

金の見直し、再設定を素人集団である管理組合に押し付けているのが現状であろ

う。購入者は将来、大規模修繕が発生し、その為の修繕積立金がどうなるかは知

る由も無く購入している。

新築マンションの発売時には適切な長期修繕計画を作成し、購入者に提示する事

とそれに基づいた修繕積立金の設定を行う事を販売事業者に要望したい。

この長期修繕計画を新築時から購入者に提示することは分譲マンションに限らず個

建分譲住宅、注文住宅或いは賃貸マンションほか新築建物全てに必要な事と感じる。

施主へ引き渡す設計図書、建築図書に含めるべきものと思う。

3)外断熱工法、構成材料の長期耐久性に関わる資料

外断熱改修によって、構造体の耐久性が飛躍的に長くなる事や長期的な維持管理

のための運用管理費コストを低減できる事をLCC委員会の検討で示したが、外

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断熱工法或いは外装材ほか工法を構成する部材の耐用年数が十数年程度では意味

をなさない事になる。少なくとも30数年、構成部材によっては50年、60年

間使用できる前提で外断熱工法を考える必要があるが、中々それだけの長期に亘

る耐久性の資料が見当たらないのも事実である。外断熱工法や外装材等の部材を

提供するメーカーからの情報提供を強く望む。その期間、メーカー保証を求める

事では無く、劣化促進試験或いは使用実績の追跡調査など判断できる情報を把握、

開示して貰いたい所である。そんなに長くもって貰ったら商売が減るから困ると

いう冗談めいた話しは聞くが、ご心配無く、外断熱改修という仕事は少なくとも

貴方がその事業に携わっている間は増える事はあっても無くなる事は無い新しい

ニーズであり、市場である。積極的に耐久性の研究にあたって欲しい。

4)修繕積立金に対する税制上の優遇策

分譲マンションの場合は修繕積立金が課税対象となる事はないが、事業用建物即

ち賃貸マンション・賃貸事務所ビル・商業ビルなど外断熱改修を薦めたい建物は

数多くある。勿論、事業用であり事業主が事業展開の中その建物の解体・建て替

えを判断する事があるが、単に保全に費用が大きくかかるようになったし、老朽

化が目立ち入居者、テナントが埋まらないという事で解体ではライフサイクルコ

ストの低減は図れない。これらの事業用建物でも分譲マンションと同じような

「修繕積立金制度」があれば事業者も維持・保全をして長く運用して行けると考

える。

毎月或いは毎事業年度毎に「修繕積立金」を経費として扱い課税対象から除き別

途積立を出来る税制上の優遇措置があると事業主も大規模修繕が発生した年にど

んと大きな修繕経費が発生するより助かると思う。勿論、別途積立を事業運営に

転用できないような積立て方法、修繕積立金を取り崩す前に事業停止した時の扱

いなど種々課題はあるが、税制の検討も行政に考えて貰いたい所である。勿論、

事業用建物も減価償却があり税額控除となっているが、50年、60年の減価償

却では大規模修繕に掛かる費用は出てこない。

5)耐震改修、耐震診断の問題

最後に分譲マンションの大規模修繕にあたって大きな課題がある。それは耐震改

修の必要性という事である。その必要性の概要については「外断熱改修への手引

き」(北海道建設部住宅局建築指導課発行 平成21年3月)9)に記載されている

ので参照して欲しい。耐震改修、改修が必要かどうかの耐震診断共に多額の費用

を要するが、人命に関わる事であり無関心で済ませられない事である。これから

長期修繕計画を作成する或いは長期修繕計画の見直しを行う時には少なくとも

「耐震診断」の費用を織り込む必要があろう。自分達の建物が耐震上、どの程度

であるのか実態を知る事が大切である。その結果、耐震改修が必要とされた場合

は、長期修繕計画の中で優先度の高い修繕項目とする必要があると思う。

外断熱改修は構造体の劣化防止にはなるが、耐震性向上とは別なものであるので

居住者に改修すれば全て改善されるという誤解を与えない説明は必要である。

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【引用文献】

1)中高層マンションの外断熱改修研究委員会報告(2005 年 4 月~2007 年 3 月)

:日本建築学会北海道支部

2)RC 造 外断熱工法ハンドブック 2003 年:北海道外断熱建築協議会

3)マンション共用部リフォーム融資 :住宅金融支援機構

4)パンフレット「定期報告制度が変わります」:国土交通省住宅局建築指導課

5)よくわかる!外断熱工法(2005) :北海道建設部建築指導課

6)まさかの白サビ :北海道住宅新聞 平成 20 年 8 月 15 日

7)マンションの修繕積立金算出マニュアル(2004):(財)マンション管理センター

8)北方型住宅の熱環境計画2005年 :(社)北海道住宅リフォームセンター

9)外断熱改修への手引き(2009 年改定版) :北海道建設部住宅局建築指導課

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【マンションの外断熱改修工法の確立とライフサイクルコストの研究委員会 委員名簿】

(略称 LCC委員会)

委員長 森 秀樹 北海道ブローイング断熱工事業協同組合

幹 事 平川 秀樹 ダウ化工株式会社

委 員 岩舘 一雄 株式会社よねざわ工業

越智 未紘 ニットーボー東岩株式会社

景山 功

加藤 勝也 日本データーサービス株式会社

河合 伸哉 ニットーボー東岩株式会社

川内谷孝二 潮産業株式会社

川治 正則 (社)北海道建築技術協会 副会長

佐藤 潤平 株式会社アイテック

佐藤 範之 株式会社サンクビット

外崎 雄大 潮産業株式会社

舘脇 英 岩倉化学工業株式会社

中田 繁一 株式会社ニード設計室

中山 弘行 株式会社ピタコラム 札幌出張所

那須 豊治 岩田地崎建設株式会社

野田 恒 伊藤組土建株式会社

長谷川寿夫 (社)北海道建築技術協会 専務理事

広瀬 茂樹 一級建築士事務所アニスネット

松井 為人 株式会社北海道サンキット

矢野 隆幸 岩倉化学工業株式会社

オブザーバー 福島 明 北海道立北方建築総合研究所