キーワード コンビニ,セ ブンーイレプン,ト ヨタシステム,デ ィマ … ·...

12
Kobe University Repository : Kernel タイトル Title セブン- イレブンの事業システム(The Seven-Eleven System) 著者 Author(s) 小川, 掲載誌・巻号・ページ Citation 国民経済雑誌,191(6):87-97 刊行日 Issue date 2005-06 資源タイプ Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 版区分 Resource Version publisher 権利 Rights DOI JaLCDOI 10.24546/00056009 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00056009 PDF issue: 2020-01-04

Transcript of キーワード コンビニ,セ ブンーイレプン,ト ヨタシステム,デ ィマ … ·...

Page 1: キーワード コンビニ,セ ブンーイレプン,ト ヨタシステム,デ ィマ … · Kobe University Repository : Kernel タイトル Title セブン-イレブンの事業システム(The

Kobe University Repository : Kernel

タイトルTit le セブン-イレブンの事業システム(The Seven-Eleven System)

著者Author(s) 小川, 進

掲載誌・巻号・ページCitat ion 国民経済雑誌,191(6):87-97

刊行日Issue date 2005-06

資源タイプResource Type Departmental Bullet in Paper / 紀要論文

版区分Resource Version publisher

権利Rights

DOI

JaLCDOI 10.24546/00056009

URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00056009

PDF issue: 2020-01-04

Page 2: キーワード コンビニ,セ ブンーイレプン,ト ヨタシステム,デ ィマ … · Kobe University Repository : Kernel タイトル Title セブン-イレブンの事業システム(The

セ ブ ンーイ レブ ンの 事業 シス テ ム

小 川 進

本論 文 は筆 者 の これ までの調査 を基 にセブ ンーイ レブ ン ・ジャパ ンの 事業 システ

ム を整理 した もの で あ る。① 店舗 フ ォー マ ッ ト② 出店 方式③ フランチ ャイズ 方式④

発注起 点 ⑤店 舗支援 体 制⑥ 配送 シス テム⑦ 問屋 政策⑧ 商 品企 画の8つ の側 面 か ら同

シス テム を整理 して いる。最後 に,ト ヨタ 自動車 の事 業 シス テム との比較 も行 って

い る。

キ ー ワ ー ド コ ン ビ ニ,セ ブ ンー イ レプ ン,ト ヨ タ シ ス テ ム,デ ィマ ン ド・チ ェ ー

1は じ め に

本稿の目的は,コ ンビニエンス ・ス トァ(以 下,コ ンビニ)に おいて売上高と利益額で持

続的に高い業績 をあげているセブンーイレブン ・ジャパン(以 下,セ ブンーイレブン)の 事

業システムの特徴 を明 らかにすることである。同社の事業 システムは日本のみならず海外に

おいて も注目されている。例えば,ハ ーバー ド大を中心 とする研究グループはアメ リカ,イ

ギリス,ド イツ,日 本の各国で高い生産性を上げている企業 を分析 している。そこで日本か

ら トヨタ自動車 とともに分析対象 として挙げられているのがセプンーイレプンである(Mc・

Craw(ed)1997)。

こうした内外か ら注 目されているセブンーイレプンの事業システムの特徴を整理 してお く

ことは有益である。それは第一に,他 の高い業績 をあげている企業の事業システムとの比較

が容易になるか らである。そ して第二に,同 社が行 っている日本以外でのコンビニエンス ・

ス トア事業 との比較 も容易になるか らである。そこで以下では筆者がこれまで行ってきた調1)

査を基礎 にして,セ ブンーイレプンの事業 システムの特徴を整理す ることにする。

2セ ブ ン ー イ レ ブ ン ・シ ス テ ム

セ ブ ン ー イ レブ ンの 事 業 シ ス テ ム(以 下,セ ブ ン ー イ レプ ン ・シ ス テ ム)は,次 の8つ の

側 面 か ら説 明 す る こ とが で きる。

Page 3: キーワード コンビニ,セ ブンーイレプン,ト ヨタシステム,デ ィマ … · Kobe University Repository : Kernel タイトル Title セブン-イレブンの事業システム(The

88 第191巻 第6号

① 店舗フォーマ ット

② 出店方式

③ フランチャイズ方式

④ 発注起点

⑤ 店舗支援体制

⑥ 配送システム

⑦ 問屋政策

⑧ 商品企画

以下,そ れぞれの側面について順次説明 していくことにする。

2.1店 舗フォーマ ット

まず店舗フォーマ ットについては 「時間コンビニエンス」が核になっている。 コンビニエ

ンス・ス トア とは,「小さな商圏のなかで生活必需品をセルフサービス方式で販売する長時間

営業の小型店舗」のことである(矢 作1994)。 消費者の視点で言えば,徒 歩圏内でいつ行って

も営業 している生活必需品をセルフサービスで販売 しているお店 ということになる。セブン

ーイレブンでは,平 均30坪 の売場で購入後す ぐ消費 されることを想定された商品2500ア イテ

ムが販売されている。そしてその約7割 が1年 で新規のものに入れ替わる。

2.2出 店方式

また,セ ブンーイレブンは出店に関 して一定地域に集中的に出店する方式(ド ミナント方

式)を 採用 してきた。点としての店舗 というよりも面 としての店舗網が持つ来店客への影響

を重視 し,消 費者にとっていつ も身近に数店舗利用可能なセブンーイ レブンが存在す るとい

う状況を作 り出 している。例えば,出 店都道府県当たりの平均出店数を見 ると,セ プ ンーイ

レブンでは300店 近い店舗数(283店 舗:1997年 時点)と なっている。参考のために数字をあ

げると売上高業界2位 のローソンでは164店 舗,3位 のファミリーマー トでは155店 舗である。

ドミナン ト出店 にはい くつかの効果があると言われている。第一に,当 該チェーンに対す

る消費者の認知度向上,第 二に,買 物客の来店頻度増加,第 三に店舗指導員による店舗指導

の効率性 向上,そ して最後 に広告 と物流 の効率向上である(セ ブンーイ レブン ・ジャパ ン2)

2003)。

一定地域内に多 くの店舗があれば,そ れだけ当該チェーンの看板が消費者の 目に触れる機

会が増え,認 知度が上がる。 また,一 度利用 してみてその利便性を体験 した消費者は当該チ

ェー ンを二度,三 度 と利用するようになる。そ して例えば自宅の近 くではA店 を,学 校や職

Page 4: キーワード コンビニ,セ ブンーイレプン,ト ヨタシステム,デ ィマ … · Kobe University Repository : Kernel タイトル Title セブン-イレブンの事業システム(The

セ ブ ンーイ レプ ンの事業 システム 89

場ではB店 やC店 をといったように複数店舗の利用 も促進 される。

さらに一定地域に集中的に出店 しているため,本 部か ら店舗指導のために出向く店舗指導

員の店舗間移動の時間が短 くてすみ,そ れだけ多 くの時間,店 舗指導に時間を割 くことが可

能になる。 また,当 該エリアでの広告 と店舗配送の点で も,一 店舗当た りの費用を低減する

ことができる。

2.3フ ランチャイズ方式

セプ ンーイレブ ンは店舗を基本的にはフランチャイズ契約にもとつ く他人資本で展開 して

いる。本部は加盟店 と契約 を結び,自 己の商標,サ ービス ・マーク,ト レー ド・ネームその

他の営業の象徴 となる標識の使用権 と経営ノウハウを提供 し,そ の見返 りとして一定の対価

(ロイヤ リティ)を 受け取 る。

ロイヤ リティの額の決定方法については,3種 類のものがコンビニ業界では採用 されてい

る。①定額法②売上高分配法そ して③荒利分配法である。

定額法 は店舗の業績が どの ような ものであろうと定期的に一定の金額を加盟店が本部に支

払 う。また売上高分配法では,定 期的に店舗の売上 げの一定の率を本部に支払 う。そ して荒

利分配法は加盟店は店舗で実現 された荒利益に対 して一定の率をかけた ものを本部に支払 う。

定額法では,本 部は1店 舗当た りから得 られるロイヤ リティが一定なので,個 店の経営成

果 を引 き上げることにではな く,店 舗数を拡大することに努力を投入することになる。また,

売上高分配法では,店 舗の売上向上が本部収益の拡大 につながるので,店 舗収益を軽視 して

でも店舗売上げの拡大を目指すということが起こりえる。そうした可能性 を考慮す ると,加

盟店は店舗指導員の指導のすべてが自店の経営に資するものになると信 じることは難 しい。

その結果,加 盟店が本部の提案を参考にしないことが起 こりやす くなる。

以上のような2つ の方式に対 してセブ ンーイ レブ ンでは荒利分配法を採用 している。荒利

分配法では加盟店が利益 を出しては じめて本部 も対価を得 ることがで きる。そのため加盟店

は店舗指導員の助言を自店 の利益 を拡大す るための ものであると信 じることができる。その

結果,加 盟店は本部の指導 をそのもの として参考にするようになる。それは各店舗に対す る3)

本部の統制度が上がるということでもある。

2.4発 注起点 と店舗支援体制

セブンーイレプンのフランチャイズ方式では,加 盟店が発注権限を持ち,在 庫 リスクも負

う。発注 した商品が売れ残 った場合,そ の在庫ロスは加盟店が負担す るのである。在庫責任

を負うものが発注権限を持つべ きだ とす るセプンーイレブンの考えがそこにはある。

そうした状況での本部の役割 は店舗でできるだけ過剰在庫 を発生させず,ま た同時に売 り

Page 5: キーワード コンビニ,セ ブンーイレプン,ト ヨタシステム,デ ィマ … · Kobe University Repository : Kernel タイトル Title セブン-イレブンの事業システム(The

90 第191巻 第6号

逃 しのロス(機 会損失)も 発生させないように店舗を指導す るというものである。 そこで本

部はまず,デ ジタル情報 システムと店舗指導員 を通 じて店舗支援 を行う。 まずセプンーイレ

ブ ンでは,デ ジタル情報 システムが整備 されている。販売時点情報管理(POS)シ ステムは

じめ,過 去の発注履歴,天 候,地 域祭事,TVCMと いった発注精度の向上に役立 しそうな多

様な情報が店舗に提供 される。

またそうした情報の活用方法を指導 し,店 舗業績の向上を支援するのが本部から派遣され

る店舗指導員である。店舗指導員は一人 当た り7~8店 舗を担当 し,最 低1週 間に2回 店舗

を訪問 し,店 舗指導に当たる。例 えば,本 部は 「風邪が流行るとヨーグル トが売れる」 とい

う過去の販売実績をデジタル情報システムを通 じて店 に提供する。そ して,そ うした情報を

発注に活かすために 「箱入 りテ ィッシュと風邪用マスクの売行 きをチェックして,そ れが売

れ始めたらヨーグル トの発注量を増や しましょう」 といった助言を店舗指導員は加盟店に対

して行 う。

2.5配 送 システム

店舗における発注精度の向上 といった点では,配 送 システムの構築 も貢献す る。セプンー

イレプンでは,多 頻度小口での発注 ・納品を可能にするシステムが構築 されている。例 えば,

弁当 ・惣菜 といった賞味期限が短いファース ト・フー ド(以 下,FF)に ついては1日3回,

鮮度が相対的に問題 にならない加工食品,雑 貨で も1週 間3回,発 注 と納品が行われる。

発注 を多頻度化することで需要 に対 して仮説を立てる射程時間幅を短 くで きる。射程時間

幅が短 くなればなるほど,需 要に関 して仮説 を立てる際に考慮すべ き不確定要素の数が減 り,

それだけ仮説を立てやす くなる。そのことが店舗の発注精度向上に貢献する。

加えて,鮮 度が問題 になる商品については納品の多頻度化でいつ も店頭に鮮度の高い商品

を納品することが可能になる。 また鮮度が重要ではない商品についても新商品の上市時期 に

合わせてタイム リーに発注 ・納品を行えるようになる。

先に述べたように,セ ブンーイレブン ・システムでは,店 舗 は発注 した商品について在庫

責任 を負 う。だか ら本部は店舗で在庫 ロス と機会 ロスが極力発生 しないように,店 舗 を支援

する。

しか し,そ うした努力が投入されたとして も,そ もそも発注 された商品が決められた時間

に発注通 りに納品されない限 り,そ の努力は無駄になる。こうした問題 を解決するためには

決め られた時間に発注された商品が発注 されたとお りに納品される体制を構築する必要があ

る。多頻度小 口の納品を行なうだけでな く,そ の納品精度を極限まで高める仕組みを構築す

る必要があるのである。

Page 6: キーワード コンビニ,セ ブンーイレプン,ト ヨタシステム,デ ィマ … · Kobe University Repository : Kernel タイトル Title セブン-イレブンの事業システム(The

セ プ ンーイ レプ ンの事業 システ ム 91

2.6問 屋政策

そうしたシステムを実現するためにセプ ンーイレプ ンは取組型と呼ぷべき問屋政策 を採用

した。 まず第一に,取 引する問屋(ベ ンダー)の 数を絞った。不特定多数の問屋を競わせ,

それらの業者 と1回 ごとに交渉 し,最 も安い仕入れを提示 した相手から商品を購入す る。セ

プンーイレブンはそうした方式を採用 しなかった。同社は,取 引相手を特定少数の問屋に集

約 し,そ れらの業者 と数年に渡る長期継続的取引を前提に物流 システムを構築 していった。

そこでは,例 えば,100種 類の商品を5社 の業者にすべて100個 つつ配送 して もらうのでは

な く,同 じ100の商品を1社 で500個 配送 して もらう,あ るいは2社 で50商 品つつ500個 配送 し

てもらうということを行 った。そうすることで物流に関する規模 と範囲の経済を引 き出すこ

とがで きる。1ア イテム当た りの取 り扱い高の増加 と取扱商品数の拡大 を通 じて配送車の積

載効率 と施設稼働率を引き上 げることをそこでは狙ったのである。

さらにセブンーイレブンは,自 社 と取引をする問屋 にセプンーイレブン専用のセンターを

設置 して もらい,加 盟店からの発注に対応 してもらうことを要請した。それはそのことで以4)

下のようなメ リッ トが生 まれるか らである。

第一に,専 用化することで問屋側の在庫管理や労務管理が容易になる。第二に,セ ブンー

イレブンと共同で業務改善 を図ることができ,小 売業務 と卸業務の間で発生する問題につい

ても一体 となって解決す ることができるようになる。そ して最後にセブンーイレプンでの売

れ筋情報が他社 に漏れるのを防 ぐことが可能になる。

こうした取引先の絞込みと物流センターの専用化 という問屋政策 を推進するにあたって先

に触れたセブンーイレブ ンが採用 した ドミナ ント出店が威力を発揮 した。集中出店す ること

で問屋にとって当該地域で発生す る取引量が一定額以上 になり,セ ブンーイレプ ン1社 のた

めに自社の資源を投入 して も十分,採 算を合わせ ることが可能になったか らである。 さらに,

ドミナン ト出店を行 うことで店舗間の走行距離は短縮 され,定 時配送もより容易になった。

以上の結果,セ プンーイレプンでは,高 精度で欠品のない多頻度小口物流が可能にな り,高らラ

精度の発注へ とつながっていったのである。

2.7商 品企画

商品企画については二つの商品分野が重要である。一つがFF,も う一つがNB(全 国プラ

ンド)商 品である。

まず,セ ブンーイレブンでは,FFに 力点が置かれている。それは,FFが 購入後す ぐに消

費される商品というコンビニのコンセプ トと合致 していて,か つ以下で説明するように,同

社の独 自性 を発揮 しやすい商品分野だか らである。

FFは,賞 味期限が非常に短 く鮮度が味を左右する。だからFFは,生 産後できるだけ早 く

Page 7: キーワード コンビニ,セ ブンーイレプン,ト ヨタシステム,デ ィマ … · Kobe University Repository : Kernel タイトル Title セブン-イレブンの事業システム(The

92 第191巻 第6号

出荷 し,納 品することが決定的に重要になる。 しかし,工 場が専用化 されていないと競合チ

ェーンより鮮度の劣った商品が店頭に届 く可能性が生 まれる。

他チェーン向け商品の生産スケジュールが優先される場合,そ うした他チェーン向け商品

は納品時間に最 も近い時間に生産され,出 荷 される。その一方で,当 該チェーン向けの商品

は事前に作 り置きされ,そ れが配達時間になった時点で出荷 されるということが行われる。

その結果,当 該チェーンの商品は店頭に届いた時点で競合チェーンより鮮度的に劣っている

ということになってしまうのである。

こうした事態を避けるためにはセブンーイレプンではFF工 場は同社向けに専用化されて

いる。そうした工場の専用化によって,商 品はセプ ンーイレプ ンの店舗にとって最 も都合の

よい時間帯に生産され,高 鮮度の商品が配達されるようになっている。

こうした専用化が可能なのもドミナン ト出店 による。徹底 した ドミナント出店によって,

FFメ ーカーが工場をセブ ンーイレブン向けに専用化 して も工場単体 として採算を合わせ る

ことができる。その結果,セ ブンーイレプンでは100%のFF工 場の専用化を実現できている

のである。

2.8専 用 ベ ン ダー 化 とベ ン ダー 横 断 的 ノ ウハ ウ蓄 積

実 は,こ う した徹 底 した ドミナ ン ト出 店 を展 開 して い るセ ブ ン ー イ レ ブ ンで は,工 場 の 専

用 化 を超 え てFFメ ー カ ー の専 用 化 も実 現 して い る。 そ してFFメ ー カ ー の専 用 化 は同 社 の

シ ス テ ム 優 位 に貢 献 して い る。 そ れ は そ の こ とが メ ー カ ー横 断 的 な ノ ウハ ウ の 開 発,共 有,

蓄 積 を可 能 に す るか らで あ る。

セ ブ ン ー イ レブ ンにFFを 供 給 して い る メ ー カ ー は他 の コ ン ビニ ・チ ェ ー ン とは 一 切 取 引

を して い な い。 そ う した セ ブ ン ー イ レプ ン向 け に専 用 化 され た 全FF'メ ー カ ー が加 入 す る 日

本デ リカフーズ協同組合では,以 下のような活動を行ってい81

第一に,品 質管理に関する情報をメーカー間で共有 し,品 質の標準化 と向上を図ること,

第二に,工 場か ら店舗への商品の配送に関 して共同配送システムを利用すること,第 三に,

原料の一括購入を行うことで調達コス トの削減を図 ること,そ して最後 に共同商品開発を行

うこと,で ある。

こうしたメーカー横断的な協同活動を実施する際,全 メーカーの専用化は二つの点で効果

を発揮する。 まずすべてのメーカーがセブンーイレブン向け専用メーカーになることでノウ

ハウの漏洩防止が容易になる。 また,ノ ウハウ漏洩の危険が少なくなる分,ノ ウハウをメー

カー横断的かつチャネル縦断的に開発,共 有,蓄 積す ることが容易になる。具体的には品質

の標準化や商品開発といった活動 をメーカー横断的,チ ャネル縦断的に継続的に行うことが

で きるようになる。

Page 8: キーワード コンビニ,セ ブンーイレプン,ト ヨタシステム,デ ィマ … · Kobe University Repository : Kernel タイトル Title セブン-イレブンの事業システム(The

セ プ ンー イ レブ ンの事 業 シス テム 93

例えば,セ ブンーイレプンを中心 とするメーカー横断的商品企画チームは高度なノウハウ

を持つ料理専門家と契約 し,そ の料理家の厨房でのノウハウを吸収するため定期的に研修会

を開いている。そ して,そ こで蓄積 したノウハウをもとに量産型商品を企画,生 産,販 売す

るといったことを行っている。 こうした活動 においては時に調理機器メーカー,をプ ロジェク

トに巻 き込み新商品導入のための独 自機器の開発が行われている。例えば,お むすびの成型

器,赤 飯の蒸 し器,チ ャーハン調理器具 などい くつ もの調理機器がこれまで独 自に開発 され

てきている。

以上のような活動を行 うことを目的 とする協同組合組織は他のコンビニ ・チェーンで も存

在す る。例 えば,ロ ーソンとファミリーマー トは同様 な協同組合 を組織化 している。 しか し,

そこに参加するメーカーはセプンーイレプンのように,完 全には専用ベンダー化 されていな

い。それは,大 手コンビニ ・チェー ンの うちのいくつかが創業時,ド ミナン トな出店 よりも

出店数その ものの拡大を重視 したかちである。有望立地 を早急に抑えることや加盟店 との契

約の容易 さを優先 した結果,当 該チェー ンはFFメ ーカーに自社専用メーカー として活動 し

てもらえるほどの誘因を提供することができなかった。つまり,す べての出店地域で工場単

体で採算が合 う取引量 を発生させ るとい うことはで きなかったのである。

このように,他 の コンビニ ・チェーンは創業当初 ドミナン ト出店を軽視 していたため,そ

の分,メ ーカーの専用化 を実現す ることがで きなかった。その後,コ ンビニにおけるFF需

要の拡大に合わせて,FFメ ーカーの規模が拡大 し,中 には複数チェーンを得意先とする大規

模メーカーも登場 した。その結果,セ ブ ンーイレプ ン以外のチェーンで100%専 用メーカー化

を実現することが極めて難 しくなっていったのである。

2.9NBに おける商品企画

FFに ついて以上の ように専用工場化,専 用メーカー化を進めたセプンーイレブンである

が,他 方でNBに ついても同社はメーカーに対 し積極的に新商品の開発を要請 した り,自 ら

創造 した商品企画を提案 し,市 場化 している。

セブンーイレブンは業界に先駆 けPOSを 導入 し(1982年),本 部情報 システムを整備 して7)

いる(1992年)。 その結果,同 社 はメーカーがチャネル ・ポジション的に迅速 には入手 しえな

い店舗での実需情報 を入手,分 析で きるようになっている。そうした情報 を元 にセブンーイ

レブ ンは新商品開発の提案を行 っているのである。

このようにして,セ ブ ンーイレプンは従来の手法 で開発されたNB商 品だけでな く,自 社

が発見 した市場機会 に適合する商品について もメーカーと共同で企画 し,NBを 付 して販売

している。そこでは,メ ーカーだけでは気づかない当該期間のみ需要が見込まれる新規商品

を投入 した り,セ プンーイレプンのみで販売 を予定す る独 自商品の企画などを行 っていゐ 。

Page 9: キーワード コンビニ,セ ブンーイレプン,ト ヨタシステム,デ ィマ … · Kobe University Repository : Kernel タイトル Title セブン-イレブンの事業システム(The

94 第191巻 第6号

つ まり,NB商 品においても同社は自社の独 自性 を発揮する努力を行っているのである。

3ト ヨ タ ・シス テ ム との 比 較

以上のように,本 稿では,セ ブ ンーイ レプン ・システムについて考察 してきたが,最 後 に

このシステムの特徴について もう少 し議論を深めて本稿を終えることにしたい。

本稿で取 り上げたセブンーイレブ ン ・システムの特徴を明らかにする上で同システムと ト8)

ヨタ生産システム(以 下,ト ヨタ ・システム)と を比較することは有益である。それは,セ

ブンーイレブン ・システムが時に トヨタ ・システムの流通版であると紹介 されることがある9)

からである。

確かに,セ ブンーイレプン・システムは トヨタ ・システム と類似 している点がある。例え

ば,シ ステムとして発注から生産,配 送 までが計画化 ・同期化 されている点である。 しか し,

本稿の考察から言えば,セ ブンーイレブン ・システムはいくつかの点で トヨタ ・システムと

異なっているところがある。

セブンーイレブンと トヨタとのシステム上の差は一言で言えば店頭起点の徹底度 という点

に見 ることができる。

第一に,発 注について言えば,ト ヨタでセプンーイレブンの発注に対応す るのがオーダー

エ ントリー ・システムである。そこではディーラ本部 とトヨタ間で発注確定に関 して情報が

や りとりされる(岡 本1995)。 トヨタへの発注権 は基本的にディーラー各店ではな くディーラ

ー本部にある。そしてそのデ ィーラー本部からの発注の確定は当該ディーラ本部 とトヨタと

の間の交渉によって決定される。そこでの発注確定の基礎には,ト ヨタにおける生産 ・販売

計画がある。

他方で,セ プンーイレプン ・システムでは,発 注権は店舗にあ り,そ の発注を発注どお り

実現するといったシステムになっている。同システムにおける各店舗は,店 舗ごとの多様 な

市場環境に合わせ た発注 を行うよう指導 されている。

例 えば,コ ンビニでは,気 候 によって発注すべ き商品が変わる。冬であって も体感温度が

急速 に上がる日には冷や し中華が売れ,夏 であっても体感温度が急速に下がる日にはおでん

が売れる。

主要客層によっても発注すべ き商品は変わる。タクシー運転手が多 く来店する店舗では夏

であって も暖かい缶コー ヒーが売れる。長時間冷房のきいた車内で待機する ドライバーは,

車外が うだるような暑 さであっても暖かい飲み物を欲するのである。

こうした個 々の店舗 ごとに異なる市場環境 を組み込んだ上でセブンーイレブン ・システム

は,店 舗発注の精度をいかに向上 させるか,そ こで決定される発注内容をいかに正確 に低 コ

ス トで実現するか といった視点から構築されている。 トヨタ ・システムではこうした店頭起

Page 10: キーワード コンビニ,セ ブンーイレプン,ト ヨタシステム,デ ィマ … · Kobe University Repository : Kernel タイトル Title セブン-イレブンの事業システム(The

セブ ンーイ レブ ンの事 業 シス テム 95

点志向は強 くない。

第二に,ト ヨタ ・システムの対象は基本的にはすでに開発 された車種の受注 ・生産である。

それは既存の車種 を作 りすぎることな くタイム リーに生産 し,消 費者に販売 してい くという

システムである。

他方で,本 稿で見てきたように,セ ブンーイレブ ン ・システムでは既存商品に関する発注

の精度を引き上げようとす るものだけでな く,死 に筋排除によって空いた売場にさらに需要

が見込める新規商品を開発 し,投 入 しようとする。 トヨタ ・システムが 「作 り過 ぎない」シ

ステム と言えるならセブンーイレプンのシステムは 「売 り逃さない」システムであると言え

る。

セブンーイレブンでは今 よりも需要を見込める商品が考えられるなら,そ うした商品を新

規に開発 してで も販売す ることを目指す。また,意 図する製品を開発するメーカーが存在 し

なければ新たにメーカーを育ててでも実現 しようとする。

例 えば,セ プンーイレブン ・システムでは売行 きに騎 りが見 えた商品は発注 リス トからは

ずす。その代わ り,次 の通常の予定 された商品が投入され るまでの空間的 ・時間的空白を埋

める商品をメーカーに提案 し,生 産 して もらい販売する。そこでなされ る提案の基礎 はセブ

ンーイレブンが持つ実需情報 と仮説情報である。

また,そ うしたセプンーイレブ ン ・システムにおける新規商品の投入は当該商品分野の枠

をはみ出す場合 もある。特定商品分野の需要が見込めない場合 に,そ の商品分野内だけで需

要刺激対策や新規商品の投入を考えるのではなく,も しそうなら他の商品分野のものを開発,

投入 してで も売上拡大 を図 るのである。 自動車を例に取れば,中 型乗用車の需要が見込めな

いなら,そ の販売 を打 ち切 り,そ れ より大 きな需要が見込める小型乗用車や一人乗 り乗用車,

などを企画 し,販 売 しようとするのである。

こうした企画 ・発注の下位 システムを持つセブンーイレブンでは実需情報を単なる商品ア

イテムレベルで分析 しない。そこでは単にアイテムごとの商品の売行きをそのものとして理

解す るのではなく,そ うした実需情報 を商品属性 と顧客属性の レベルにまで分解 しそれらの

属性を組み合わせることで現れるパターンを抽 出する。そ してそのパターンを反映 させた発10)

注や企画を行 ってい くのである。

そのことを示す一つの例がセブンーイレブンにおける生めんタイプのカ ップラーメンの開

発の話である。以前,セ プ ンーイレブ ンでは乾めんタイプのラーメンの売行 きが停滞 してい

た。特 に袋入 りの ものの売上げ不振が顕著であった。それと同 じ時期,生 めんの 「うどん」

の売上が伸びていた。その動 きを見て,セ プンーイレブンは消費者は食 に対 してより本物志

向になったのだ と仮説を立てた。そしてラーメンについて も本物感のある商品を開発する必

要性があると感 じ,日 清食品に生めんタイプのカップラーメンの開発を依頼 し,そ こからヒ

Page 11: キーワード コンビニ,セ ブンーイレプン,ト ヨタシステム,デ ィマ … · Kobe University Repository : Kernel タイトル Title セブン-イレブンの事業システム(The

96 第191巻 第6号

ッ ト商品を生みだした。

このようにセプンーイ レプ ン・システムでは商品横断的に実需情報を下位の属性 レベルか

ら分析 し,仮 説を立て,商 品企画や発注に活か し発注精度や企画精度を高め,店 舗当た りの

売上高 と荒利益を拡大 しようとする。その意味で,セ プンーイ レプン ・システムは,店 頭 を

起点 とする強いディマン ド・プル(需 要引っ張 り型)の システムである。こうした店頭起点

的かつ商品横断的で要素分解的な発注,企 画システムは トヨタ ・システムと比較 した場合,

極めて特徴的なものなのである。

1)こ こで言 う調 査 とは,以 下の ような もの で あ る。筆 者 は,1995年8月 か ら2003年10月 にか けて

セ ブ ンーイ レブ ンを含 む コ ンビニ ・チ ェー ン7社 に対 して イ ンタ ビュー調査 を行 った(OBを 含

む)。 また,そ れ らコ ンビニ ・チ ェー ン と取 引 関係 のあ る業者 に対 して もイン タビ ュー調査 を行 っ

た。 具体 的 に はナ シ ョナル ・ブ ラン ド・メ ー カー,フ ァー ス ト ・フー ド ・惣 菜ペ ンダー,問 屋,

情報 シス テムベ ンダー,デ ジタル ・ピッキ ング ・ペ ンダー,お むすび 成型機 器 メー カー,業 界 ジ

ャーナ リス ト,流 通研 究者 の合計194名 の人 々に対 して聞 き取 り調 査 を行 った。

2)セ ブ ン ーイ レブ ン(2003)231-232ペ ー ジ。

3)大 手 コ ン ビニ が採用 してい るフ ラ ンチ ャイ ズ契約 の特 徴 と して荒利分 配 方式 に加 えて2つ の制

度 が重要 で あ る。 一つ がオ ープ ン ・アカ ウ ン トシステ ムで あ り,も う一つ が最低保 証 制 度で あ る。

オ ープ ン ・アカ ウ ン トシス テム とは,加 盟 店 が小規模 な事業 をス ター トさせ,開 業後 も資金繰 り

に煩 わ され るこ とな く安定 した事 業運 営 を進 め られ る ように本部 が 自動決済 ・自動 融資 す る仕 組

み であ る とい う点 に特 徴が あ る(セ ブ ンーイ レブ ン2003227ペ ー ジ)。つ ま りオ ープ ン ・アカ

ウン トシス テム では,本 部 と加盟 店が フラ ンチ ャイズ契 約 を結 んで い る限 り,加 盟 店か らの取 引

先へ の支 払 い を本 部 が代 行 す る,ま た加盟 店側 で支 払 い代金 な どに関 して資 金不 足 が生 じた場 合

も本 部 が加盟 店 に 自動 的 に融資 を行 うとい う もの であ る。つ ま りオ ープ ン ・ア カ ウ ン トシス テム

で は,本 部 と加盟 店 は同 じ会計 シス テム を採 用 し,加 盟 店 の財務状 態 は本部 か ち可視 的 で あ ると

い う点 が重要 で あ る。 また最 低保 証制 度 とは 開業後 に売 上 げが一 定水準 を下 回 り,最 低 限必要 な

オー ナ ー総 収 入 が確 保 で きない場 合 に限 り,総 収 入 を保証 す るとい う制 度 であ る。(セ ブ ンーイ レ

ブ ン2003227ペ ー ジ)。 この最低 保証 制度 の存在 に よって,本 部 は,加 盟店 に対 して経営指 導 の

責任 を果 たす こ とを宣言す るこ とを意 味 し,加 盟 店側 は安心 して フラ ンチ ャイ ズ契約 を結 ぶ こ と

がで きる よ うに な る。

4)小 川(2003)293ペ ー ジ。

5)こ の他 に もセブ ンーイ レブ ンの 仕組 みで は高 い納 品精 度 を実現 す るため に誤 った納 品,定 時 通

りで な い配 送 が行 われ た場合,該 当す る問屋 ・配送業 者 に未納 分 に相 当す る荒利補 償 を求 め る こ

とが で きる とい う制度 を導入 してい る。この点 につ いて は矢作(1994)の136-137頁 を参 照 の こ と。

6)日 本 デ リカ フー ズ協 同組合 設立 の経緯 に つ いて は矢作(1994)9章 が詳 しい。

7)詳 細 につ いて は小 川(2000b)5章 を参 照の こ と。

8)ト ヨタ・シ ステム につ い ては例 えば大 野(1978),岡 本(1995)な ど を参照 され た い。 また,こ

こで の分析 を行 うため に筆 者 は2003年 に名古 屋 トヨペ ッ ト株 式会 社営 業本部(一 名)と トヨタ 自

Page 12: キーワード コンビニ,セ ブンーイレプン,ト ヨタシステム,デ ィマ … · Kobe University Repository : Kernel タイトル Title セブン-イレブンの事業システム(The

セ プ ンーイ レプ ンの事業 シス テム 97

動車 国 内企 画 部車 両計 画室(2名)へ の聞 き取 りを行 った。

9)例 え ば,三 戸節 雄(2003)55-56ペ ー ジ。

10)さ らに具 体 的 な事例 は小 川(2000b)の5章 を参 照 の こ と。

参 考 文 献

JeffreyR.Bernstein(1997)"7-EleveninAmericaandJapan"inThomasK.McCraw(ed)

CreatingModernCapitalismCambridge,MA:HarvardUniversityPress.pp.490-530.

網倉 久 永 「情報 組 織 化 の分 析」(高 橋 三雄 ・伊 丹敬 之 ・杉 山武 彦編 『意思 決 定 の経済 分析 』有 斐閣

第4章)

大野 耐一(1978)『 トヨタ生産 方式 』 ダイヤ モ ン ド社

岡本 博公(1995)『 現代 企 業 の生 ・販統 合』新 評論

緒 方 知行(2003)『 セ ブ ンー イ レブ ン 創 業 の奇蹟 』講 談社+α 文 庫

小川進(2000a)『 デ ィマ ン ド ・チ ェー ン経営 』 日本経済 新 聞社

小川進(2000b)『 イノペ ー シ ョンの発生 論 理』千 倉書房

小川 進(2003)『 稼 ぐ仕 組 み』 日本経 済新 聞社

小川進 ・水 野学(2004)「 検証 コ ンビニ神 話 」神 戸大学 デ ィス カ ッシ ョン ・ペ ーパ ー2004・5.

片 山修(2002)『 トヨタ はい かに して 「最 強 の車」 をつ くった か』 小学 館

勝 見 明(2002)『 鈴 木敏 文 の 「統計 心理学 」』 プ レジデ ン ト社

川 辺 信雄(2003)『 新版 セ ブ ンーイ レブ ンの経営 史』 有斐 閣

金顕 哲(2001)『 コン ビニ エ ンス ・ス トア業 態の革 新』有 斐 閣

国友 隆一(1994)『 セ プ ンー イ レブ ンの 高収益 システ ム』ぱ る出版

孫 飛 舟(2003)『 自動 車 デ ィーラ ・シス テム の国 際比較 』晃洋 書房

セブ ンーイ レブ ン ・ジャパ ン(1991)『 セブ ンーイ レブ ン ・ジャパ ン1973-1991』(社 史)

セブ ンーイ レブ ン ・ジャパ ン(2003)『 セプ ンー イ レブ ン ・ジャ六 ン1991-2003』(社 史)

本所 次郎(1988)『 トヨタの販売 力 ・強 さの秘 密』 日新報 道

三戸 節雄(2003)『 日本復活 の救 世 主 大 野耐 一 と トヨタ生産 方式 』清流 出版

矢作敏 行(1994)『 コ ンビニエ ンス ・ス トア ・システム の革新 性』 日本経 済新 聞社

若林 靖永(2003)『 顧 客志 向の マス ・マ ーケ テ ィング』 同文館 出版