ミネラル 動物体内のミネラル濃度 -...

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1 ミネラル マクロミネラル(多量元素) 体内に多く含まれており、所要量が100mg/日以上のもの カルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、塩素、硫黄、 マグネシウム 生体内の構成成分のうち、酸素、炭素、水素、窒素を除く すべての元素の総称 ミクロミネラル(微量元素) 体内の濃度が低く、所要量が100mg/日未満のもの 鉄、亜鉛、銅、モリブデン、セレン、ヨウ素、マンガン、 コバルト、クロム 動物体内のミネラル濃度 多量元素 微量元素 カルシウム 1.5~2.1 0.006 リン 0.8~1.2 亜鉛 0.002 カリウム 0.3~0.4 0.00015 ナトリウム 0.15~0.2 モリブデン 0.00015 塩素 0.15~0.2 セレン 0.00015 硫黄 0.25~0.3 ヨウ素 0.00004 マグネシウム 0.05~0.1 マンガン 0.00002 コバルト 0.00001 硬骨とカルシウム 部分 骨の数 頭蓋骨 23 体幹 33 肋骨 24 上肢 64 骨盤 2 下肢 60 脊椎動物の骨格を構成する硬い組織 ヒト(成人)の場合、約206個ある 骨の働き ・体の支持 ・運動(支点・力点・作用点の形成) ・器官の保護(頭蓋骨や肋骨) ・造血 ・脂肪の貯蔵 ・無機質の貯蔵 ヒドロキシアパタイト:Ca 5 (PO 4 ) 3 OHや リン酸カルシウム:CaHPO 4 を含む 骨の細胞 骨細胞 骨芽細胞 コラーゲン CaHPO 4 Ca 骨の形成を行う 破骨細胞 骨の破壊を行う コラゲナーゼ H など 体内のカルシウムの99%は骨や 歯に存在している カルシウム濃度の調節 ビタミンDは省略した 血液では通常約10 mg/100ml 腸管 血管 Ca Ca パラトルモン 副甲状腺 パラトルモン Ca Ca 腎臓 Ca 再吸収 パラトルモン 尿 カルシトニン 甲状腺 カルシトニン エストロゲン カルシトニン Ca 筋収縮とカルシウム 細胞外 細胞内 T管 T管は横行小管ともいう 筋原線維 筋小胞体 Ca 2+ 1 mM Ca 2+ 100 nM 運動神経終末 アセチルコリン (神経伝達物質) アクチンとミオシンが結合:筋収縮

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ミネラル

マクロミネラル(多量元素)

体内に多く含まれており、所要量が100mg/日以上のもの

カルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、塩素、硫黄、

マグネシウム

生体内の構成成分のうち、酸素、炭素、水素、窒素を除く

すべての元素の総称

ミクロミネラル(微量元素)

体内の濃度が低く、所要量が100mg/日未満のもの

鉄、亜鉛、銅、モリブデン、セレン、ヨウ素、マンガン、

コバルト、クロム

動物体内のミネラル濃度

多量元素 % 微量元素 %

カルシウム 1.5~2.1 鉄 0.006

リン 0.8~1.2 亜鉛 0.002

カリウム 0.3~0.4 銅 0.00015

ナトリウム 0.15~0.2 モリブデン 0.00015

塩素 0.15~0.2 セレン 0.00015

硫黄 0.25~0.3 ヨウ素 0.00004

マグネシウム 0.05~0.1 マンガン 0.00002

コバルト 0.00001

硬骨とカルシウム

部分 骨の数

頭蓋骨 23

体幹 33

肋骨 24

上肢 64

骨盤 2

下肢 60

脊椎動物の骨格を構成する硬い組織

ヒト(成人)の場合、約206個ある

骨の働き

・体の支持

・運動(支点・力点・作用点の形成)

・器官の保護(頭蓋骨や肋骨)

・造血

・脂肪の貯蔵

・無機質の貯蔵

ヒドロキシアパタイト:Ca5(PO4)3OHや

リン酸カルシウム:CaHPO4を含む

骨の細胞

骨細胞

骨芽細胞

コラーゲン

CaHPO4

Ca

骨の形成を行う

破骨細胞

骨の破壊を行う

コラゲナーゼ H+など

体内のカルシウムの99%は骨や

歯に存在している

カルシウム濃度の調節 ビタミンDは省略した

血液では通常約10 mg/100ml

腸管 血管

Ca Ca

パラトルモン

副甲状腺 パラトルモン

Ca

Ca

腎臓 Ca

再吸収

パラトルモン

尿

カルシトニン

甲状腺

カルシトニン

エストロゲン

カルシトニン

Ca

筋収縮とカルシウム

細胞外

細胞内

T管

T管は横行小管ともいう

筋原線維

筋小胞体

Ca2+ 1 mM

Ca2+ 100 nM

運動神経終末

アセチルコリン

(神経伝達物質)

アクチンとミオシンが結合:筋収縮

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カルシウムの吸収

Caが不足するとくる病、骨粗鬆症、筋肉の痙攣が起きる

ただし、Caを摂取し過ぎると吸収量が下がる

ビタミンD、クエン酸、

リジン、カゼインなど

Ca フィチン酸

Ca シュウ酸

小腸内腔

血管

ヘム鉄はタンニンなどの影響を受けない

血液ではトランスフェリンと結合する

分解できない

Ca 食物繊維

Ca

Caを過剰に摂取するとMgやFeなどの

吸収が妨げられる

体内のCa濃度が高いと尿路結石に

体液のイオン組成 上の円グラフの単位は%

下の円グラフの単位はmEq/L

固形成分 細胞外液

細胞内液 40

40

20

Na+ Cl-

タンパク質

K+

Ca2+ Mg2+

HPO42-

HCO3-

K+

タンパク質

HPO42-

Mg2+ HCO3-

142 100

140 100

細胞外液 細胞内液

ヒトの体の約60%が液体

神経細胞と刺激の伝導

神経細胞体 軸索 神経終末

樹状突起

核 神経伝達物質

シナプス小胞

細胞膜 +

外側

細胞質

外側

細胞膜

神経細胞と刺激の伝導

Na+

K+

Na+チャンネル K+チャンネル Na+ポンプ

細胞外

細胞内

静止電位:-70 mV

活動電位:30 mV

神経細胞と刺激の伝導

細胞外にNa+、細胞内にK+が多い

細胞内の電位は約-70 mV(分極)

① Na+チャンネルが開き、細胞内にNa+が流入する

細胞内の電位が上昇する

分極がなくなるので、脱分極という

このとき生じる電流が隣接部を興奮させる

② K+チャンネルが開き、細胞外にK+が流出する

細胞内の電位が下がる

Na+ポンプにより、細胞外にNa+が排出され、細胞

内にK+が導入される

細胞内が再び約-70 mVになる(再分極)

静止期

興奮期

静止期

Na、K、Clの主な役割

静止電位と活動電位:神経や筋肉の興奮

浸透圧

酸塩基平衡

能動輸送:小腸でのブドウ糖やアミノ酸の吸収(共輸送)

ナトリウム

カリウム

静止電位と活動電位:神経や筋肉の興奮

浸透圧

酸塩基平衡

塩素

酸塩基平衡

塩酸:胃内の殺菌とペプシノーゲンの活性化

次亜塩素酸:好中球が貪食した細菌の殺菌

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自然免疫と白血球

好中球

血管

細菌などを貪食

細菌

ウイルス

死んだ細胞

ウイルス感染細胞

マクロファージ

細菌・ウイルス・死んだ細胞などを貪食

NK細胞

ウイルス感染細胞を破壊

100

120

140

160

180

20 30 40 50 60 70

塩分摂取と高血圧

年齢

血圧計メーカーMOTEKIより

加齢による平均最高血圧の変化

(mmHg)

128

165

121

171

男性 女性

塩分の過剰摂取

血液浸透圧の増加

腎臓で水の再吸収量

が増加

体液量が増加

血圧が増加

加齢により動脈硬化が起きる

ナトリウムと病気

高ナトリウム血症

血漿ナトリウム濃度が145 mEq/Lを超える状態

下痢や尿崩症、水分不足で生じる

細胞外の浸透圧が高くなるため細胞障害が起きる

口渇に加え、錯乱や痙攣、昏睡などの神経症状が起きる

成人の死亡率は40~60%

低ナトリウム血症

血漿ナトリウム濃度が135 mEq/Lを下回る状態

体液の喪失、利尿剤の利用、過剰な水分摂取で生じる

細胞外の浸透圧が低くなるため細胞障害が起きる

細胞内浮腫、特に脳浮腫になる

頭痛や錯乱、痙攣、昏睡などの神経症状が起きる

ナトリウムとカリウム

食品 Na K

精白米 1 29

ジャガイモ 1 410

リンゴ ND 110

キャベツ 5 200

トマト 3 210

ニンジン 24 280

ホウレンソウ 16 690

サニーレタス 4 410

しいたけ 2 280

食品成分データベース

100 g あたりの mg

食品 Na K

牛もも肉 44 310

豚もも肉 47 350

鶏もも肉 59 270

牛乳 41 150

全卵 140 130

マアジ 120 370

サンマ 130 200

ヤリイカ 170 300

アサリ 870 140

マグネシウム

約60%がリン酸塩として骨組織に、残りは

血漿、赤血球、筋肉中の各組織に存在

マグネシウムの主な働き

・酵素の補因子 ヘキソキナーゼ:解糖系

グルコース-6-フォスファターゼ:糖新生

DNAポリメラーゼ

RNAポリメラーゼ

・ATPの分解 ATPアーゼはマグネシウムがないとATPを分解できない

・リボソームを凝集・正常化

動物の鉄

食品 鉄

牛肉もも赤身 2.7

豚肉もも赤身 0.9

鶏肉もも皮なし 2.1

全卵 1.8

普通牛乳 微量

100g中の含量(mg)食品成分データベース

牛レバー(生) 4.0

豚レバー(生) 13.0

鶏レバー(生) 9.0

干しひじき 55.0

ごま 9.6

切り干し大根 9.7

© 楽天市場

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Fe Fe Fe

体内の鉄の分布

肝臓

Fe Fe Fe

フェリチン

ヘモシデリン (貯蔵、21%)

トランスフェリン (血液内の鉄の運搬、微量)

骨髄

ヘモグロビン (65%)

骨格筋

ミオグロビン (3%)

ミトコンドリア

シトクロムc (微量)

これらは脾臓や

骨髄にもある

非ヘム酵素群 (10%)

赤血球とヘモグロビン

赤血球はヘモグロビンをもつ

ヘモグロビンは血色素タンパク質

酸素を運搬する

ミオグロビンよりも酸素への親和性

が低い

哺乳類の赤血球には核がない

解糖系のみをもつ

酸素分圧が高い

ヘモグロビン

酸素と結合

酸素分圧が低い

酸素を解離

ミオグロビン

筋肉

酸素を貯蔵

酸素

ヘム

2価の鉄原子とポルフィリンからなる錯体

動物の鉄はヘム鉄である

ヘム鉄は吸収されやすい

(ヘム鉄の吸収率は15~25%、非ヘム鉄は2~5%)

鉄の吸収を促すもの

鉄の吸収を抑えるもの

鉄が不足すると鉄欠乏性貧血になる

ビタミンC・タンパク質・クエン酸など

タンニン・フィチン酸・食物繊維など

ヘム

ポルフィリン

グロビン

ヘモグロビン

ヘムはヘモグロビンやミオグロビン、シトクロムなどにある 非ヘム鉄の吸収

Fe3+はFe2+よりも吸収されづらい

(Fe3+はpH3以下では水に溶けにくくなるため)

Fe3+

Fe2+

ビタミンC

Fe2+ タンニン

Fe2+ フィチン酸

Fe2+ シュウ酸

小腸内腔

血管

ヘム鉄はタンニンなどの影響を受けない

血液ではトランスフェリンと結合する

水溶性を下げる

分解できない

鉄中毒

トランスフェリンの量を超える鉄を摂取すると過剰に

(ヒトには鉄を効率的に排出するしくみがない)

活性酸素が生産され、脂質やDNA、タンパク質を破壊

活性酸素が肝炎、肝硬変、糖尿病、心不全などを引き起こす

鉄中毒は5歳未満の小児の致死性中毒の

原因として最も多い

数時間以内に細胞内化学反応が阻害され、

数日以内に肝臓が損傷を受ける

成人用のサプリメントの摂取で幼児の鉄

中毒が起こることが多い

亜鉛

鉄に次いで体内に多いミクロミネラル

体重 70 kg のヒトに平均 2.3 g含まれる

100を超える酵素の活性に関与

例:炭酸脱水酵素:酸塩基平衡と二酸化炭素運搬の補助

・二酸化炭素分圧が高い場合

CO2 + H2O → HCO3- + H+

・二酸化炭素分圧が低い場合

HCO3- + H+ → CO2 + H2O

例:DNA、RNAポリメラーゼ

遺伝子発現(亜鉛フィンガー):DNAに結合

細胞内情報伝達

タンパク質合成

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亜鉛の不足と過剰

大量に摂取すると過剰症が表れる

金属亜鉛は有毒

不足すると細胞分裂が頻繁な箇所に問題が生じる

・味蕾の減少による味覚障害

・精子形成の減少

・皮膚炎

・免疫機能の低下

・甲状腺機能の低下

牡蠣やレバーに多く含まれている

その他のミクロミネラルの働き

微量元素 働き

銅 ヘモグロビン合成や、スーパーオキシドジスムターゼ、

シトクロームcオキシダーゼなどの酵素の活性中心

モリブデン キサンチンオキシダーゼ、アルデヒドデヒドロゲナー

ゼなどに含まれている

セレン 甲状腺ホルモンの活性化や、グルタチオンペルオキシ

ダーゼなどに含まれている

ヨウ素 甲状腺ホルモンに含まれている

マンガン スーパーオキシドジスムターゼなど多数の酵素に含ま

れている

コバルト ビタミンB12に含まれている