エネルギー機能材料学特論 第8回目 担当:西野...

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エネルギー機能材料学特論    第8回目

プラズマ実験装置NSTX(Princeton)

担当:西野信博

A3-012号室[email protected]

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授業の内容

• プラズマと固体と相互作用

• シース(sheath)• Child-Langmuir則• 相互作用の種類

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プラズマー壁相互作用

• プラズマを生成するには、通常真空容器(大気圧放電でも容器)が必要となる。

• そのため、プラズマが容器、あるいは、その他の物質と接触することになり、種々の相互作用が起こる。

• プラズマと金属、絶縁物などとの相互作用をプラズマー壁相互作用(または、プラズマー表面相互作用)と呼ぶ。

• 核融合分野においては、壁からの不純物放出や壁の損傷の問題があるため、古くから調べられていた。

• 近年、その応用として表面改質などにプラズマを利用されており,こらの方が(工業的に)有名になっている。

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シース

• 有限な大きさの真空容器に閉じ込められているプラズマは壁付近ではどのようになっているであろうか?

• 簡単のため、磁場のない一次元モデルで考えてみよう。

• プラズマ内には全く電場がないと仮定すれば、ポテンシャルΦを0をおくことができる。

•イオンと電子が壁に衝突すると、両者は再結合して失われる。

•電子はイオンより熱速度が大きいので早く、結果として、プラ

ズマ内にイオンを残すことにな

る。

•従って、プラズマのポテンシャルは壁に対して正になる。

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シースの役割

• Debye遮蔽によりポテンシャルの変動はDebyeの長さの数倍程度となり、壁付近で生じたポテンシャル変動はプラズマ内には伝わらない。

• プラズマが接触する壁にはどこでもこのような層ができるはずで、これをシース(sheath)と呼ぶ。

• シースの役割は、より動きやすい粒子(通常、電子)を静電的に閉じ込めるようなポテンシャルの障壁を作ることにある。

• その障壁を乗り越えて壁に行くほど十分なエネルギーをもつ動きやい電子の流れが、壁に達するイオンの流れとちょうどつりあうようにのポテンシャルφWは自己調整される。

従って,シース内では電気的中性は保たれていない!

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平面シースの方程式

• 今、x=0の面でイオンがドリフト速度u0でプラズマ領域からシー

ス領域に入るとする。

• 簡単のため、イオンの温度は0し、すべてのイオンがx=0で同じ速度u0を持つとする。

• 無衝突シース領域における定を考えるために、ポテンシャルφは単調減少していると考える

• 最初φに凹凸があっても、時間がたてば、本来は衝突などの散逸機構により滑らかになるだろう

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シース内でのイオンと電子の密度

• u(x)をイオンの速度とし、エネルギー保存から

• イオンの連続の式より、イオン密度niはプラズマの主要部の密度n0を

用いて

• よって、

• 一方、電子は定常状態ではほとんどBoltzmannの関係に従うので、

)(21

21 2

02 xemumu φ−=

2/12

02)(

−=

meuxu φ

)()(00 xuxnun i=

−= 2

00

21)(mu

enxniφ

=

ee kT

enxn φexp)( 0

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Poisson方程式

• すると、ポアソン方程式は、

• ここで、

• の無次元量を導入すると、

• となる。これが、平面シースの非線型方程式である。

( )1/22

02 2

0 0 0 0

2( ) ( ) exp 1e ie

n ed e en x n xdx kT muφ ρ ρ φ φ

ε ε ε

− = − = − = − −

e

ekTφχ −

=1/2

02

0

e

D

Tx xn eεξ

λ

= = ( )

01/2/e

uMkT m

=

( )1/2

2

21 expMχχ χ

− ′′ = + − −

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Bohmのシース基準

• シースの方程式は、両辺にχ´をかけて積分すれば、

• ξ=0の時、χ=0であるので、この積分を実行すれば、

• プラズマ中でE=0なら、ξ=0でχ´=0とおかねばならない。• これ以上は、数値的に解く必要がある。しかし、解がどのようであろうと右辺はすべてのχについて正である。そこで、χ<<1の時に、右辺をテイラー展開すると、

( )1/2

1 1 120 0 0

21 exp )d d dM

ξ ξ ξχχ χ ξ χ ξ χ χ ξ−

′′ ′ ′ ′= + − − ∫ ∫ ∫

( ) ( )1/2

2 2 20 2

1 21 1 exp 12

MMχχ χ χ

− ′ ′− = + − + − −

22 2

2 4

1 11 1 1 1 02 2

MM Mχ χ χ χ

+ − + − + − + + − >

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シースとプレシース

• よって、

• すなわち,

• という不等式を得る。これをBohmのシース基準という。• これから、イオンは音素距離大きい速度でシースに入らなければならないことがわかる。

• イオンがこの方向に加速されるためには、プラズマ中で電場が必要であるが、ξ=0でχ´=0とした仮定は、イオンが加速されるプラズマ領域の大きさに比べてシース領域の大きさは普通非常に小さい、という事実から正当化される。

• この加速領域をプレシースと呼ぶ。

22

1 1 1 02 Mχ − + >

( )1/2201 /eM or u kT m> >

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物理的考察

• 電子密度はBoltzmannの関係式に従って減少する。

• イオンの密度はシース電場によって加速されて減少する。

• イオンのエネルギーが大きいときは、シース電場による加速の影響が小さく密度は緩やかに減少する。

• イオンのエネルギーが小さい時は、その逆でイオン密度は大きく減少する。この時、電子密度がイオン密度を上回れば、φが上向きに変わるため、電子を追い払うはずのシースが電子を加速することになる。

• このような事態が起きない条件がBohmのシース基準である。

•イオンの速度u0の決め方は多少任意性が残

る。•すなわち、プレシースとシースの間(シースの入り口、ξ=0)は多少任意性がある。•もちろん、イオンの流れn0u0は一定であるから、もしu0が変化すればn0の値は逆比例で変

化する。

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Child-Langmuir則

• 簡単のためx=0とdに電極がある1次元問題を考える。• この両極間に流れる電流密度jは以下の様に求められる。• 電極間の電圧をV(x)、電荷密度ρとすると、ポアソン方程式より

• 電子は位置xでエネルギーeV(x)を得るから、その速度vは

2

20

d Vdx

ρε

=

•電流密度jと電荷ρの関係は

•故に、定常状態では

21 v ( )2 em eV x=

0tρ∂+∇ ⋅ =

∂j

j 0dt dxρ∂= − =

∂x0 d

V=0 V=V(d)

e-

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つづき

• また、電流密度と電子の速度は      の関係があるので、

• すると、ポアソン方程式は、

• よって、このV(x)に対する微分方程式を解けばよい。•          の形を仮定すると、両辺のVの次数から、b=4/3

負号は、電流の向きが左側による。

ρ=j vj jv 2 ( ) / eeV x m

ρ = =

( ) bV x ax=2/3

0

9 j4 2 / e

ae m ε

= −

2/3

4/3

0

9 j( )4 2 / e

V x xe m ε

= −

1/23/20

2

4 29 e

ej Vx mε

= −

2

20

j2 ( ) / e

d Vdx eV x mε

=

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プラズマー固体相互作用の分類

• 電子との相互作用

• イオンとの相互作用

• 中性粒子(高速)との相互作用

• 熱粒子束としての相互作用

• その他

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電子と壁との相互作用

• 電子の衝突は、主に、脱ガスと入熱の効果がある。

– 脱ガスはもともと材質中に吸蔵されていたガスや表面に吸着していたガスが出てくる現象。

• 物理吸着と化学吸着

– 物理吸着とは、ファンデルワールス力による吸着– 化学吸着とは、文字通り、化学反応を伴う吸着

• 電子による入熱は溶接などにも使用される  熱粒束での相互作用

– 溶融、蒸発– その他には、アーキング(放電)に関連する場合もある。

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イオンとの相互作用  スパッタリング

• 物理スパッタリング(Sputtering) 叩き出し現象

図はスパッタリングイールドの入射イオンのエネルギー依存性を示したもの

その他にも、入射粒子やスパッター原子の角度依存性なども調べられている。

物理スパッタリングは、入射粒子のエネルギーの閾値がある温度依存性はあまりない。

入射イオンは,通常シースで加速される。そのため,プラズマのイオン温度以上のエネルギーで壁にぶつかる。

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スパッタリングのモデル

・ Sigmundの定常線形カスケード理論が有名

・ ‐概要‐

・ 入射高速粒子がターゲット表面に衝突する過程を以下のように単純化する

‐ 図に示すような固体の一つの平面を考える

‐ この平面上の一点を入射高速粒子が衝突する。

‐ 入射高速粒子はターゲット原子と衝突して、それを弾き飛ばす(弾性衝突を仮定)。

・ ノックオン原子の生成

‐ ノックオン原子はさらに別の原子と衝突してノックオン原子を作る

・ ノックオン原子のカスケード

‐ ただし、ノックオン原子の密度は低く(線形)、時間的に常に一定の割合で生成されている(定常)

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他のスパッタリング

• 単結晶のスパッタリング– channelingがおきる。スパッタリング率に面指数依存性

• 自己スパッタリング– ターゲットを構成する同じ原子からなるイオンビームでスパッターさせた現象

– ターゲットの化学変化を生じない。イオンとターゲット原子の相互作用が考えやすい。

• 透過スパッタリング– ターゲットの裏面からスパッター原子が飛び出す現象

• 中性子スパッタリング– 電荷がないので深く侵入する。結果は、スパッタリング率は低い。

• 選択スパッタリング– 合金をスパッタリングさせると、スパッター原子の組成と合金の組成が通常違っている

• 化学スパッタリング 次項参照

• 反応性スパッタリング– 反応性のガスを混入 基板表面で化合あるいは反応

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化学スパッタリング

• イオンが材料の構成原子と化学反応を起こして、材料から抜け出す反応

• 炭素材へのHイオン入射によるCH4放出など

右図に見るように温度依存性が大きいのが特徴また、フラックス依存性も見られる。核融合材料では問題となったが、この現象の応用はあまりないようである。主に、C系に限られるまた、化学スパッタリングに似た照射促進昇華と呼ばれる複合作用がある。

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イオンとの相互作用  ブリスタリング

• ブリスタリング(Blistering)  剥離現象のこと• 主に、Heイオンが壁材に入り込んで、泡状の剥離を起こす現象。

– より大きなものはフレイキングと呼ばれる。• 一般的に打ち込まれたHeは粒界に沿って動きやすいため、表面の粒界付近にたまって起こるといわれている。

右の写真は核融合科学研究所のLHDという装置で、1秒間Heプラズマに曝したWの表面である。Heイオンのフラックスは 1x1022s-1m-2

程度である。一部溶融が見られて

おり、溶融していない部分に現れたblisteringである。

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ブリスタリングの説明

• 概念図を書くと,下の図のようになる。

•打ち込まれたHeが拡散して、粒界部分に到着する。

•粒界に沿っては動きやすいので、Heが表面近くにたまる。

•一旦ガス状にたまると、化学ポテンシャルが低くなりHeがよりたまりやすくなる。

•Heガスの圧力が増し、条件が整うと、表面の膜が破れる。

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応用例

• イオンインプランテーション(イオンインプラ)

• –イオンを材料に打ち込んで、構造材自身の組成を変える• •プラズマエッチング• –化学スパッタリングを利用して、特定の構造物を取り除く• – 半導体の微細加工

• •表面浄化• –Arプラズマなどの物理スパッタリング率の高いイオンによる削りだし• •薄膜の形成• –物理スパッタリングを利用した各種金属膜の形成• –化学スパッタリングを利用した重合体膜形成、ダイヤモンド膜形成

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中性粒子との相互作用

• 物理吸着

• 化学吸着

• 高速であれば、侵入(あまりない)。

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その他

• 光(光子)との相互作用

• –光はほとんど、熱、もしくは、脱ガス程度の相互作用• •核融合分野では、中性子との相互作用• –照射損傷• •格子欠陥• •スウェリング• –放射化• –核変換による材料変化(例:金 水銀)

• •関連用語• –飛程(range)

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その他

• アーキング

– 溶融、昇華などを通常伴う。– プラズマの放電条件によるが、一般的には分かっていない(装置や放電にdependする)。

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レポート

• プラズマー壁相互作用の内、スパッタリング、ブリスタリングなど何でも良いので、何か一つ調べてくること。