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1 ㈱トロピカルテクノセンター フェルラ酸脱炭酸能を有する新規な焼酎用酵母に関する研究 照屋 亮、比嘉 賢一、渡嘉敷 唯章 1 、池端 真美 1 、花城 1 古酒の特徴的な香気成分の一つにバニリンが挙げられている。バニリンは原料米中のフェルラ酸が、 黒麹菌のフェルラ酸エステラーゼによって遊離し、蒸留工程でその一部分が 4-ビニルグアヤコール(以 4-VG)に脱炭酸されて泡盛中に留出し、熟成の過程を経てバニリンに変化すると考えられている。し かし、もろみ中の遊離フェルラ酸が蒸留工程において 4-VG に変化し、泡盛中に留出する歩合は全体の 1割程度である。本研究では、泡盛もろみのように酸度の高い環境で速やかに発酵を行いつつ、アルコ ール生産能が高く、フェルラ酸脱炭酸能を有する酵母の選抜を行った。また選抜した酵母について、遺 伝子工学的手法で種の同定及び系統解析を行った。 はじめに 近年の研究において小関らは 1) 、古酒の特徴的な香気 成分であるバニリンの生成メカニズムを提唱した。バニ リンは、原料のタイ米に含まれるフェルラ酸が黒麹菌の フェルラ酸エステラーゼによって遊離し、蒸留工程でそ の一部分が 4-VG に脱炭酸されて泡盛中に留出し、熟成 の工程を経て生成するものと考えられている(図1)。 また、既報では 2) もろみ中の遊離フェルラ酸が蒸留工程 において 4-VG に変化し、泡盛中に留出する歩合は、全 体の1割程度であることを明らかにした。このことから、 バニリン濃度の高い特徴のある古酒を製造するために は、もろみ中に含まれる遊離フェルラ酸を効率良く 4- VG に変化させながら発酵を行う必要がある。 現在、酒類醸造に使用されている酵母の中で、ワイン 酵母やビール酵母の中にはフェルラ酸脱炭酸能を有する 株が存在することが知られている 3) 。これらの酵母は泡 盛もろみのような酸度の高い環境下での生育は困難であ る。また泡盛に用いられている 101 号酵母や他の焼酎用 酵母では、フェルラ酸脱炭酸能が欠けている 4) 。本研究 では、泡盛もろみのように酸度の高い環境で速やかに発 酵を行いつつ、アルコール生産能が高く、フェルラ酸脱 炭酸能を有する酵母を開発することによって、バニリン の前駆物質である 4-VG を、より多く泡盛中に蓄積させ ることを目的とする。 図1 推定される原料由来香気成分の生成メカニズム 実験方法 2-1供試酵母 当センター保有の酵母約 120 15) の中で、アルコール を著量生産する 16 株について試験を行った。 2-2 発酵試験 2-2ー1 小仕込試験 小仕込試験は県内酒造所で製麹された麹を用いた。発 酵試験は、麹仕込量 120 g、汲み水歩合 170 %、発酵温 25 ℃、発酵期間 14 日間の条件で行った。 2-2-2 2kg仕込試験 県内酒造所製麹を用い、2 kg 仕込試験を行った。麹 仕込量は原料換算で2 kg、汲み水歩合 160 %、発酵期 14 日間、発酵温度 25 ℃で発酵試験を行った。発酵後 の熟成もろみは簡易小型蒸留機を用いて蒸留した。蒸留 条件は初留後約2時間半かけて行い、後留画分がアルコ ール度数約 10 度になるまで蒸留を行った。 COOH O CH3 OH OH O CHO O OH フェルラ酸 4-ビニルグアヤコール バニリン 蒸留 熟成 CH3 CH3 COOH O CH3 OH OH O CHO O OH フェルラ酸 4-ビニルグアヤコール バニリン 蒸留 熟成 CH3 CH3 107 沖縄県工業技術センター研究報告書 第6号 2004年

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1 ㈱トロピカルテクノセンター

フェルラ酸脱炭酸能を有する新規な焼酎用酵母に関する研究

照屋 亮、比嘉 賢一、渡嘉敷 唯章 1、池端 真美 1、花城 薫 1

古酒の特徴的な香気成分の一つにバニリンが挙げられている。バニリンは原料米中のフェルラ酸が、

黒麹菌のフェルラ酸エステラーゼによって遊離し、蒸留工程でその一部分が 4-ビニルグアヤコール(以下 4-VG)に脱炭酸されて泡盛中に留出し、熟成の過程を経てバニリンに変化すると考えられている。しかし、もろみ中の遊離フェルラ酸が蒸留工程において 4-VG に変化し、泡盛中に留出する歩合は全体の1割程度である。本研究では、泡盛もろみのように酸度の高い環境で速やかに発酵を行いつつ、アルコ

ール生産能が高く、フェルラ酸脱炭酸能を有する酵母の選抜を行った。また選抜した酵母について、遺

伝子工学的手法で種の同定及び系統解析を行った。

1 はじめに

近年の研究において小関らは 1)、古酒の特徴的な香気

成分であるバニリンの生成メカニズムを提唱した。バニ

リンは、原料のタイ米に含まれるフェルラ酸が黒麹菌の

フェルラ酸エステラーゼによって遊離し、蒸留工程でそ

の一部分が 4-VGに脱炭酸されて泡盛中に留出し、熟成

の工程を経て生成するものと考えられている(図1)。

また、既報では2)もろみ中の遊離フェルラ酸が蒸留工程

において 4-VGに変化し、泡盛中に留出する歩合は、全

体の1割程度であることを明らかにした。このことから、

バニリン濃度の高い特徴のある古酒を製造するために

は、もろみ中に含まれる遊離フェルラ酸を効率良く 4-

VGに変化させながら発酵を行う必要がある。

現在、酒類醸造に使用されている酵母の中で、ワイン

酵母やビール酵母の中にはフェルラ酸脱炭酸能を有する

株が存在することが知られている3)。これらの酵母は泡

盛もろみのような酸度の高い環境下での生育は困難であ

る。また泡盛に用いられている 101号酵母や他の焼酎用

酵母では、フェルラ酸脱炭酸能が欠けている 4)。本研究

では、泡盛もろみのように酸度の高い環境で速やかに発

酵を行いつつ、アルコール生産能が高く、フェルラ酸脱

炭酸能を有する酵母を開発することによって、バニリン

の前駆物質である 4-VGを、より多く泡盛中に蓄積させ

ることを目的とする。

図1 推定される原料由来香気成分の生成メカニズム

2 実験方法

2-1供試酵母

当センター保有の酵母約 120株 15)の中で、アルコール

を著量生産する 16株について試験を行った。

2-2 発酵試験

2-2ー1 小仕込試験

小仕込試験は県内酒造所で製麹された麹を用いた。発

酵試験は、麹仕込量 120g、汲み水歩合 170%、発酵温

度 25℃、発酵期間 14日間の条件で行った。

2-2-2 2kg仕込試験

県内酒造所製麹を用い、2 kg 仕込試験を行った。麹

仕込量は原料換算で2 kg、汲み水歩合 160 %、発酵期

間 14日間、発酵温度 25℃で発酵試験を行った。発酵後

の熟成もろみは簡易小型蒸留機を用いて蒸留した。蒸留

条件は初留後約2時間半かけて行い、後留画分がアルコ

ール度数約 10度になるまで蒸留を行った。

COOH

O CH3

OH OHO

CHO

OOH

フェルラ酸 4-ビニルグアヤコール バニリン

蒸留 熟成

CH3 CH3

COOH

O CH3

OH OHO

CHO

OOH

フェルラ酸 4-ビニルグアヤコール バニリン

蒸留 熟成

CH3 CH3

                               - 107 -                               

-沖縄県工業技術センター研究報告書 第6号 2004年-

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2-2-3 20 kg仕込試験

20 kg仕込試験には、種麹(ビオック株式会社)を用

い、河内式自動製麹機(50 kg型)で製麹した麹を使用

した。汲水歩合は170 %、発酵温度 25 ℃で14日間発酵試験を行った。酵母の添加法は、種もろみの工程を考慮

し、あらかじめ麹汁培地で30 ℃、2日間培養した酵母

をもろみ1 mlあたり2.0×105 cellsの歩合になるように

添加した。

また、20 kg仕込試験で得た熟成もろみは、実験室用

常圧型単式蒸留装置(60L容量、フジワラテクノアート

社製)を用いて常圧蒸留を行った。蒸留条件は、初めの

留出まで30分かけて間接加熱を行い、後留画分がアルコ

ール度数15 度になるまで蒸留を行った。

2-3 もろみ及び泡盛の分析法

もろみ中の生菌数には、102~106倍に希釈したもろみ

0.1 mlをYPD平板培地に塗布し、30 ℃で24~48時間培養

して、形成したコロニーをカウントした。

もろみは3000 rpmで15分間遠心分離後、上清画分のア

ルコール度数、pH、日本酒度、13)及び全糖量14)を測定し

た。グルコース濃度は、グルコーステストCII Wako(和

光純薬)を用いて測定した。泡盛については TBA 価、

紫外部吸収、酸度13)を測定した。有機酸類は 44%に調

整した泡盛を 0.45 μ m のメンブレンフィルターで濾過

し、ダイオネクス社製イオンクロマトグラフィー DX-

120を使用し、使用カラム Ion Pack ICE-AS1、溶離液

2mmol/L オクタンスルホン酸、流速 0.5ml/min の条件で

測定した。

もろみ中及び蒸留酒中のバニリン、バニリン酸、4-VG

及びフェルラ酸の測定は、もろみ10 mlを3000 rpmで遠

心分離し、得られた上清を0.45 μmのメンブレンフィル

ターで濾過後、小関らの方法1)に従い高速液体クロマト

グラフィーで測定した。

HPLC測定条件

システム:島津 LC-10A

検出器 :SPD-M10Avp(島津社製)

カラム :Wakosil-II 5C18 (4.6× 250 mm)

移動相 :A液 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 4.0)

B液 メタノール

B 液 10%→ 60%(45 分) リニアグラジ

エント

検出波長:フェルラ酸(320nm)、バニリン酸及び 4-VG

(258nm)、バニリン(280nm)、

2-4糖類発酵性試験

酵母エキス 0.5%、ポリペプトン 0.5%からなる培地に、

BTB を少量添加し、発酵管を入れた試験管に2 ml ずつ

分注して、121℃、10分間滅菌後、更に6%に調整した

糖溶液を1 ml 添加して 105 ℃で 15 分間滅菌した。こ

れに YPD培地で一晩培養した酵母培養液の 10倍希釈懸

濁液 30 μ l を添加し、30 ℃で 30 日間培養して炭酸ガ

スの有無を確認した。

2-5 DNA塩基配列解析

2-5-1 ゲノムDNAの調製

酵母を YPD 培地で培養し、対数増殖後期の菌体を集

菌後、細胞壁溶解酵素 Lyticase を用い酵母の細胞壁を溶

解した。得られたスフェロプラストについて DNeasy kit

(QIAGEN社)を用いて抽出し、精製 DNAとした。

2-5-2リボゾームRNA遺伝子の塩基配列解析

精製 DNAを鋳型に、25SrDNA(D1/D2)、ITS1及び ITS2

領域をそれぞれ表1のプライマーを用いて PCR により

増幅した5) 。 得られた PCR 産物は MICROCON

Centrifugal Filter Devices(QIAGEN社)を用いて過剰な

プライマーを除去し、精製 PCR 産物とした。得られた

精製 PCR 産物を鋳型とし、前述のプライマーを使用し

て、ABI PRISM Cycle Sequencing kit(Applied BioSystem

社)を使用したサイクルシークエンシング法によりシー

クエンス反応を行った。シークエンス反応物は Dye-Ex

Spin kit(Applied Biosystem社)を用いて過剰なダイタ

ーミネーターを除去した。精製したシークエンス反応物

について、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer(Applied

BioSystem 社)を用いて電気泳動を行い、得られたクロ

マトグラムについて、SDC 社ソフトウェア GENETIX

を用い塩基配列を決定した。

表1 使用したプライマーの塩基配列

2-5-3 種レベルの同定及び株間の系統解析

決定した塩基配列の相同性検索は、BLAST プログラム

(日本 DNAデータバンク)6)、RDP-II(Ribosomal Database

Project-II)7)で行い、種の同定を行った。また、株間の

判別及び系統解析での塩基配列の多重アライメント、系

統樹作成は、CRUSTAL Wを用いて解析した 8)。

LR0R 5'-ACCCGCTGAACTTAAGG-3' ITS1 5'-TCCGTAGGTGAACCTGCGG-3'

LR3 5'-CCGTGTTTCAAGACGGG-3' ITS2 5'-GCTGCGTTCTTCATCGATGC-3'

ITS3 5'-GCATCGATGAAGAACGCAGC-3'

ITS4 5'-TCCTCCGCTTATTGATATGC-3'

25Sr (D1/D2) region ITS regionprimer name primer name

                               - 108 -                               

-沖縄県工業技術センター研究報告書 第6号 2004年-

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3 実験結果及び考察

3-1 発酵試験

3-1-1小仕込試験

小仕込発酵試験における熟成もろみの分析結果を表2

に示した。アルコール及び 4-VGを高濃度生産した株は

7146 及び 7150 株であり、101 号酵母と同程度にアルコ

ールを生産し、4-VGを 101号酵母の約 10倍蓄積した。

この結果から、アルコールを高濃度生産し、4-VG をも

ろみ中に高濃度蓄積する酵母として、7146 株と 7150 株

を選抜した。

表2 小仕込発酵試験による優良菌株の選抜結果

発酵減量 アルコール濃度 4-VG量 還元糖量(g) (%) (ug/ml) (mg/ml)

泡盛101号 43.4 17.5 1.3 3.95 9.9 0.13 +7021 泡盛もろみ6(南部) 44.9 17.5 1.3 3.94 10.8 0.12 +7150 東南アジア酒類3 44.4 18.0 12.9 3.99 9.5 0.16 +7024 43.8 17.9 1.4 3.91 10.6 0.21 +7053 東南アジア発酵食品3 43.5 17.3 8.7 3.92 11.0 0.647065 東南アジア酒類1 43.3 17.5 13.5 4.01 9.6 0.287146 東南アジア酒類2 43.1 18.3 13.5 3.99 9.8 0.327110 泡盛もろみ12(与那国) 42.7 17.4 1.5 3.92 10.8 0.237082 泡盛もろみ8(八重山) 42.5 18.6 1.6 3.91 10.9 0.17 +7025 メキシコ酒類 41.9 17.2 8.8 3.94 10.7 1.037098 泡盛もろみ10(八重山) 41.1 18.5 2.1 3.93 10.5 0.287052 東南アジア発酵食品2 40.5 17.1 7.3 3.94 10.8 1.357057 東南アジア発酵食品2 31.8 13.1 7.0 4.09 9.7 5.327125 泡盛もろみ14(八重山) 27.6 11.4 5.4 4.05 9.9 6.60 -7092 泡盛もろみ9(八重山) 25.7 10.8 8.3 4.00 10.6 6.597054 22.5 9.7 7.1 4.00 10.6 7.78 -7055 東南アジア発酵食品2 22.0 7.3 3.8 3.91 14.3 8.54 -

No pH 酸度 香り由来

+は芳香、-は異臭を示す。

発酵減量 アルコール濃度 4-VG量 還元糖量(g) (%) (ug/ml) (mg/ml)

泡盛101号 43.4 17.5 1.3 3.95 9.9 0.13 +7021 泡盛もろみ6(南部) 44.9 17.5 1.3 3.94 10.8 0.12 +7150 東南アジア酒類3 44.4 18.0 12.9 3.99 9.5 0.16 +7024 43.8 17.9 1.4 3.91 10.6 0.21 +7053 東南アジア発酵食品3 43.5 17.3 8.7 3.92 11.0 0.647065 東南アジア酒類1 43.3 17.5 13.5 4.01 9.6 0.287146 東南アジア酒類2 43.1 18.3 13.5 3.99 9.8 0.327110 泡盛もろみ12(与那国) 42.7 17.4 1.5 3.92 10.8 0.237082 泡盛もろみ8(八重山) 42.5 18.6 1.6 3.91 10.9 0.17 +7025 メキシコ酒類 41.9 17.2 8.8 3.94 10.7 1.037098 泡盛もろみ10(八重山) 41.1 18.5 2.1 3.93 10.5 0.287052 東南アジア発酵食品2 40.5 17.1 7.3 3.94 10.8 1.357057 東南アジア発酵食品2 31.8 13.1 7.0 4.09 9.7 5.327125 泡盛もろみ14(八重山) 27.6 11.4 5.4 4.05 9.9 6.60 -7092 泡盛もろみ9(八重山) 25.7 10.8 8.3 4.00 10.6 6.597054 22.5 9.7 7.1 4.00 10.6 7.78 -7055 東南アジア発酵食品2 22.0 7.3 3.8 3.91 14.3 8.54 -

No pH 酸度 香り由来 発酵減量 アルコール濃度 4-VG量 還元糖量(g) (%) (ug/ml) (mg/ml)

泡盛101号 43.4 17.5 1.3 3.95 9.9 0.13 +7021 泡盛もろみ6(南部) 44.9 17.5 1.3 3.94 10.8 0.12 +7150 東南アジア酒類3 44.4 18.0 12.9 3.99 9.5 0.16 +7024 43.8 17.9 1.4 3.91 10.6 0.21 +7053 東南アジア発酵食品3 43.5 17.3 8.7 3.92 11.0 0.647065 東南アジア酒類1 43.3 17.5 13.5 4.01 9.6 0.287146 東南アジア酒類2 43.1 18.3 13.5 3.99 9.8 0.327110 泡盛もろみ12(与那国) 42.7 17.4 1.5 3.92 10.8 0.237082 泡盛もろみ8(八重山) 42.5 18.6 1.6 3.91 10.9 0.17 +7025 メキシコ酒類 41.9 17.2 8.8 3.94 10.7 1.037098 泡盛もろみ10(八重山) 41.1 18.5 2.1 3.93 10.5 0.287052 東南アジア発酵食品2 40.5 17.1 7.3 3.94 10.8 1.357057 東南アジア発酵食品2 31.8 13.1 7.0 4.09 9.7 5.327125 泡盛もろみ14(八重山) 27.6 11.4 5.4 4.05 9.9 6.60 -7092 泡盛もろみ9(八重山) 25.7 10.8 8.3 4.00 10.6 6.597054 22.5 9.7 7.1 4.00 10.6 7.78 -7055 東南アジア発酵食品2 22.0 7.3 3.8 3.91 14.3 8.54 -

No pH 酸度 香り由来

+は芳香、-は異臭を示す。

3-1-2 2kg仕込での発酵試験

もろみ中における酵母数の推移では、7146、7150 と

も発酵初期の増殖速度が高く、101 号酵母と同程度に増

殖した。泡盛酵母には、泡盛もろみのような酸度の高い

環境下でも速やかに増殖する耐酸性が求められる。この

試験の結果から、7150 および 7146 株は、泡盛もろみ中

で速やかに増殖し、耐酸性があるということが確認され

た(図2)。

図2 2kg仕込での発酵試験における生菌数

の経時変化

アルコール濃度は、7146 及び 7150 株とも発酵初期の

立ち上がりは 101 号酵母と同程度であり、発酵日数 15

日目におけるアルコール濃度もそれぞれ 19 %以上に達

した(図3)。

1.E+04

1.E+05

1.E+06

1.E+07

1.E+08

1.E+09

1.E+10

0 5 10 15発酵日数(day)

生菌数(cfu/ml)

1.E+04

1.E+05

1.E+06

1.E+07

1.E+08

1.E+09

1.E+10

0 5 10 15発酵日数(day)

生菌数(cfu/ml)

101 7146 7150101 7146 7150

図3 2kg仕込での発酵試験におけるアルコール

濃度の経時変化

7146 株と 7150 株のもろみ中における 4-VG 量は、発

酵が進むにつれて蓄積し、最終的に 10 mg/Lを越えた。

これに対し、101 号酵母ではこのような変化は認められ

ず、最終 4-VG産生量は 2 mg/Lに留まった(図4)。7146

株と 7150 株のもろみ中におけるフェルラ酸量は、発酵

の経過に伴い減少した。特に酵母の対数増殖期から定常

期に入った5日目以降の減少は著しかった(図5)。こ

れに対して 101号酵母では、発酵の経過と共にもろみ中

のフェルラ酸が減少しないことから、7146 株と 7150 株

がフェルラ酸脱炭酸酵素を有し、101 号酵母に比較して

もろみ中の 4-VG産生が高いということが判明した。

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

16.0

18.0

20.0

0 5 10 15発酵日数(day)

アルコール濃度(%)

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

16.0

18.0

20.0

0 5 10 15発酵日数(day)

アルコール濃度(%)

101 7146 7150101 7146 7150

                               - 109 -                               

-沖縄県工業技術センター研究報告書 第6号 2004年-

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図4 2kg仕込での発酵試験における4-VG量 図5 2kg仕込での発酵試験における

の経時変化 フェルラ酸量の経時変化

101 7146 7150101 7146 7150

0

1

2

3

45

6

7

8

9

10

0 5 10 15 20

発酵日数(day)

4-VG(mg/L)

0

1

2

3

45

6

7

8

9

10

0 5 10 15 20

発酵日数(day)

4-VG(mg/L)

0

1

2

3

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6

7

8

9

10

0 5 10 15 20

発酵日数(day)

フェルラ酸(mg/L

)

0

1

2

3

45

6

7

8

9

10

0 5 10 15 20

発酵日数(day)

フェルラ酸(mg/L

)

熟成もろみについて、日本酒度、アルコール濃度、全

糖量、グルコース濃度及び pH における測定値は 101 号

酵母とほぼ同じ値を示した(表3)。

表3 熟成もろみの分析結果

表4 試醸泡盛の分析結果

また、試醸泡盛の分析結果を表4に示した。紫外部吸

収及び TBA価は 101号酵母において高い傾向を示した。

香気成分に関しては、4-VG 以外にフェルラ酸、バニリ

ン、及びバニリン酸について測定したが、検出されなか

った。また、4-VG量には明確な差があり、7146株と 7150

株で試醸した泡盛は、101 号酵母の約4倍の 4-VG 量で

あった。これまで当センターでは泡盛中の 4-VG量を高

めるために製麹条件の検討および蒸留条件の検討を行っ

てきたが、さらにこの 7146株と 7150株を用いることに

よって、4-VG をより多く泡盛に蓄積させることが可能

となった。また 7146株と 7150株を用いて蒸留した泡盛

では、101 号酵母と比較して酸度が高かった。泡盛中の

有機酸類を測定した結果、7146 株と 7150 株を用いて製

造した泡盛では 101号酵母に比べ、特に酢酸が多く含ま

れていた(表5)。

pH 酸度 日本酒度グルコース濃度(%) 全糖濃度(%) アルコール濃度(%)

101 3.67 14.2 15 0.04 0.66 19.30

7146 3.74 13.9 15 0.07 0.41 19.40

7150 3.75 13.4 15 0.04 0.28 19.66

TBA価 紫外部吸収 製品酸度 pH 4-VG(ppm)

101 871 2.51 0.53 4.71 2.91

7146 490 1.85 1.92 4.37 7.89

7150 537 1.80 1.82 4.54 7.16

表5 試醸泡盛の有機酸分析結果 単位(mg/L)

泡盛の酸度が高くなる要因としては、嫌気性生酸菌に

よるもろみの汚染、蒸留時の飛沫同伴が考えられるが、

もろみ中の 7146株と 7150株は 101号酵母と同様に速や

かに増殖していることから、嫌気性生酸菌による汚染は

考えらない。またクエン酸も検出されないことから、飛

沫同伴の可能性も否定された。従って、7146 株と 7150

株は 101号酵母と比べ、酢酸産生能の高い酵母であると

いうことが示された。

3-1-3 20 kg仕込での発酵試験

発酵試験をスケールアップさせて、パイロット規模で

の発酵試験を行った。7146株と 7150株は 101号酵母と

同様にアルコール生産するということが明らかとなった

(図6)。また、もろみ中の 4-VG 量の経時変化につい

ても2 kg 仕込での発酵試験と同様に、7146 株と 7150

株において、4-VG 量は発酵の経過と共に増加し、最終

的に 101号酵母の約5倍蓄積された(図7)。

図6 20 kg仕込での発酵試験におけるアルコール濃度

の経時変化

クエン酸 乳酸 ギ酸 酢酸

101 0 0 1 .43 18 .05

7146 0 0 .5 2 .61 94 .98

7150 0 0 .96 5 .24 86 .88

0.02.04.06.08.010.012.014.016.018.020.0

0 5 10 15 20

発酵日数(day)

アルコール濃度(%)

0.02.04.06.08.010.012.014.016.018.020.0

0 5 10 15 20

発酵日数(day)

アルコール濃度(%)

                               - 110 -                               

-沖縄県工業技術センター研究報告書 第6号 2004年-

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図7 20kg仕込での発酵試験における4-VG量の経時変化

また、熟成もろみ及び試醸泡盛の各種成分分析において

も2 kg 仕込での発酵試験と同様となった。熟成もろみ

の各種成分において、7146株と 7150株は 101号酵母と

ほとんど同じ値を示した(表6)。

表6 20 kg仕込での発酵試験における熟成もろみの

分析結果

次に、試醸泡盛の分析結果を表7に示した。7150 株

において、4-VG 量は 101 号酵母の約5倍となり、酸度

も 101 号酵母の約2倍となった。また、7146 株におけ

る 4-VG量は 0.29 mg/Lとかなり低い値であった。また

データは示さないが有機酸分析の結果、7146 株と 7150

株で試醸した泡盛には 101号酵母と比較して約4倍酢酸

が蓄積されていた。

表7 20 kg仕込での発酵試験における試醸泡盛

の分析結果

パイロット規模での発酵試験において、7146株と 7150

株は 101号酵母と同様に増殖し、アルコールを生産した。

加えて 7150 株は、4-VG を高濃度蓄積することが明ら

かになり、少なくとも 7150 株は実用に耐えうる酵母で

あることが示唆された。今後は、試醸泡盛を熟成させて

官能評価や香気成分分析等、官能面での研究を行い、7146

株と 7150 株で試醸した泡盛が古酒製造に適した酵母で

pH 酸度 日本酒度グルコース濃度(%)

全糖(%)アルコール濃度(%)

101 3.63 18.2 7 0.041 0.68 17.34

7146 3.66 17.0 8 0.042 0.29 17.13

7150 3.65 17.1 7 0.046 0.30 17.58

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

0 5 10 15 20

発酵日数(day)

4-VG(mg/L)

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

0 5 10 15 20

発酵日数(day)

4-VG(mg/L)

TBA価 UV 製品酸度 4-VG(ppm)

101 695.6 7.02 0.88 0.98

7146 990.0 8.27 2.04 0.29

7150 719.2 6.84 2.68 5.06

あるかを評価し、製造規模での発酵試験を行う予定であ

る。

3-2糖類発酵性試験

酵母の生理学的性質を調べるために糖類発酵試験を行

った。試験を行った全ての菌株にラフィノースとガラク

トースの発酵性が確認された。これに加え、検鏡におい

て両菌株が楕円形であること、乳糖を発酵しないこと、

高いアルコール生産性を示すこと等から選抜菌株が

Saccharomyces に属することが推測された。試験を行っ

た全ての菌株にラフィノースとガラクトースの発酵性が

確認された。またα-メチルグルコシドでは、7150 株は

培養7日目に、7146 株は培養 20 日目に炭酸ガスの発生

を認めた。

表8 糖類発酵性試験結果

3-3塩基配列解析

3-3-1 25SrDNA(D1/D2)領域の塩基配列解析によ

る種の同定

近年の遺伝子工学の発展は、微生物分類学に大きな貢

献を果たした。真菌類の酵母では既に Saccaromyces

cerevisiae の全ゲノムが解読されており 9)、他の酵母類

についても様々な遺伝子が解読されている。酵母の 12

番染色体上に位置するリボゾーム DNA を用いた塩基配

列解析は、分類学において必須の手法となっており10)、

7146 株と 7150 株の分類にも同手法による解析が必要で

ある(図8)。

25SrDNAは、リボゾーム DNAのラージサブユニット

の部分である。またこの中の D1/D2 領域は種レベルで

変異が起こりやすい領域であり11)、酵母に関しては代表

7146 7150 101 Wine

Glucose + + + +Galactose + + + +Sucrose + + + +Maltose + + + +Lactose - - - -Raffinose + + + +Cellobiose - - - -Trehalose + + + -Melezitose - - - -Inullin - - - -

α-Methyl glucoside + + - -L-Sorbose - - - -D-Xylose - - - -DL-Arabinose - - - -L-Rhamnose - - - -

 +及び-は発酵性の有無を示す。

                               - 111 -                               

-沖縄県工業技術センター研究報告書 第6号 2004年-

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種 23 種の塩基配列が遺伝子データバンクに登録されて

いる。今回の同定は 25SrDNA(D1/D2)領域の塩基配列

を解析して行った。

7146 及び 7150 株について 25SrDNA(D1/D2)領域の塩

基配列 585bpは全く同じであった。この配列を日本遺伝

子データバンク(DDBJ)でホモロジー解析を行った。

結果、相同性が最も高い上位4種は、いずれも

S.cerevisiae であり、7146 株と 7150 株は S.cerevisiae で

ある可能性が高いという結果を得た(表6)。

図8 酵母12番染色体上におけるITS及び25SrDNA領域の概略図

表8 25Sr(D1/D2)領域の塩基配列解析による種レベルの同定結果

Chromosomal Features Map

Features around 25SrDNA on Chromosome XII

ETS1 ITS1 ITS2 ETS2

ETS, external transcribed spacer 18S, 18S rDNA ITS, internal transcribed spacer 5.8S, 5.8SrDNA 25S, 25SrDNA

25S18S 5.8S

D1/D2

Short name Homology(%) LengthSaccharomyces cerevisiaecDNA Genomic sequences upstream of lacZ fusion similar to rRNA, mRNA sequence.

YSCRR25AA 98.5 260 Saccharomyces cerevisiae 25S ribosomal RNA sequence.

YSCR25S 94.1 307 Saccharomyces cerevisiae (NRRL Y-12632) 25S ribosomal RNA fragment.

YSCRRM 87.6 355 Yeast (S.cerevisiae) 28S large subunit rRNA, 5' end.

SCRN10n2 75.4 179 Yeast (S. carlsbergensis) genes for 5.8S rRNA and 26S rRNA with

YSCRR25AC 68.3 249 Saccharomyces paradoxus 25S ribosomal RNA sequence.

CPSRRNAV3 63.5 452 C.pseudotropicalis gene for large subunit of ribosomal RNA (V3

YSCRR25AH 61.9 244 Saccharomyces bayanus 25S ribosomal RNA sequence.

YSCRR25AB 60.9 243 Saccharomyces pastorianus 25S ribosomal RNA sequence.

YSCRR25BB 58.2 251 Saccharomyces unisporus 25S ribosomal RNA sequence.

CGRRNAV3 56.8 491 C.glabrata gene for large subunit of ribosomal RNA (V3 region).

SCMRRM1 56.8 118 S.mansoni 28S-like ribosomal RNA, 5' end.

YSCRR25AD 51.6 246 Saccharomyces castellii 25S ribosomal RNA sequence.

AA417452 100.0 350

Full name

3-3-2 ITS領域の塩基配列解析による株間の判別

及び系統解析

ITS 領域は直接タンパク質に翻訳されない領域であ

り、株間レベルで変異が起こりやすい領域である12)。本

研究において 7146株及び 7150株の ITS領域の塩基配列

703bp を決定したところ、両株の塩基配列は同じ配列を

示し、株間の違いは認められなかった。

また 7146株と 7150株の他にビール、ワイン、蒸留酒

及び泡盛酵母9株の ITS領域の塩基配列と共に、多重ア

ライメントを作成し、系統解析を行った(図 11)。系統

解析においては、清酒、泡盛及び蒸留酒酵母のグループ

とワイン及びビール酵母のグループに大別された。また

泡盛酵母の一つである酒造協同組合 5-15 株は、どのグ

ループにも属さなかった。この中で 7146株と 7150株は

泡盛酵母や清酒酵母のグループよりも、ビールやワイン

酵母のグループに近いということが明らかとなった。

                               - 112 -                               

-沖縄県工業技術センター研究報告書 第6号 2004年-

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図11 ITS領域の塩基配列による系統解析

酒造協同組合5-15

IFO0233:蒸留酒酵母

酒造協同組合DII-M

AW101:泡盛101号酵母

IFO2347:協会7号酵母

No7146、7150

IFO2018:ビール酵母(Lager)

IAM4274:ワイン酵母(OC-2)

CBS1171:ビール酵母

IFO2252:ワイン酵母(Tokai Wine)

酒造協同組合5-15

IFO0233:蒸留酒酵母

酒造協同組合DII-M

AW101:泡盛101号酵母

IFO2347:協会7号酵母

No7146、7150

IFO2018:ビール酵母(Lager)

IAM4274:ワイン酵母(OC-2)

CBS1171:ビール酵母

IFO2252:ワイン酵母(Tokai Wine)

まとめ

古酒製造に適した新規醸造用酵母を開発し、以下の知

見を得た。

1)当センターに保存されている約120種の酵母から、

アルコールを著量生産し、さらにフェルラ酸脱炭酸能

を有する酵母、7146株と 7150株を選抜した。

2)2kg仕込での発酵試験において、7146、7150株は 101

号酵母と同様に速やかに増殖し、アルコールを著量生

産し、かつもろみ中のフェルラ酸を効率よく 4-VGに

変換していた。

3)7146 株と 7150 株の 25SrDNA(D1/D2)領域の塩基配

列を解析して種の同定を行ったところ、両株は

S.cerevisiae である可能性が極めて高いという結果

を得た。

4)7146 株と 7150 株の他にビール、ワイン、蒸留酒及

び泡盛酵母9株における、ITS 領域の塩基配列を決定

し、系統解析を行った 7146株と 7150株は泡盛酵母や

清酒酵母よりも、ビールやワイン酵母に近いグループ

に属するということが明らかとなった。

謝辞

本研究において、麹を提供して頂きました(株)忠孝

酒造の皆さまに紙面を借りて感謝の意を表します。

本研究は㈱トロピカルテクノセンターと共同研究で行

いました。

参考文献

1)小関卓也、伊藤清、伊藤康郎、岩野君夫 醸協 89

p.408-441 (1994)

2)福地香、比嘉賢一 平成 12年度沖縄県工業技術セ

ンター研究報告 p25-32

3)篠原隆 醸協 96 p182-188(2001)

4)大森俊郎 特願平 8-78151

5)Vigalys lab, Duke University

http//www.biology.duke.edu./fungi/micolab/primers.htm

6)日本 DNAデータバンク(DDBJ)

http://www.ddbj.nig.ac.jp/intro-j.html

7) RDP-II(Ribosomal Database Project-II)

http://rdp.cme.msu.edu/html/

8)Thompson JD, Higgins DG,

Nucl.Acid.Res. 22, 4673-4680

9)Saccharomyces Genome Database

http://www.yeastgenome.org/

10) 鈴木健一郎、平石明、横田明

微生物の分類・同定実験法 Springer 社 p229-248

11) Teun Boekhout, Cleus P.Kurtzman, et al

National Journal of Systematic Bacteology, 44. p781-

786, (1994).

12) Robert Montrocher, Marie-Christine Verner, et al

National Journal of Systematic Bacteology, 48.

p295-303, (1998).

13)注解編集委員会編 国税庁所定分析法注解(1993)

14)福井作蔵 還元糖の定量法 学会出版センター

(1978)

15)照屋比呂子、仲地芳子、田村博三

沖縄県工業技術試験場業務報告第 13 号 p147-164

                               - 113 -                               

-沖縄県工業技術センター研究報告書 第6号 2004年-

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-沖縄県工業技術センター研究報告書 第6号 2004年-

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生化学試薬製造のための海洋生物利用技術の開発

市場俊雄、照屋正映

沖縄近海の海産無脊椎生物(海藻類、海綿類、サンゴ類、ホヤ類など)には抗ガン活性、抗ウィルス活性等を

有する有用成分が含まれることが知られており、世界中の研究者が積極的に研究している。この事業では、有

用成分を含む海産無脊椎生物の探索・選定にエキスプロファイルを用いる技術を開発し、エキスのプロファイ

ルデータベースを構築した。さらにこのデータベースを利用した高付加価値な成分の抽出・精製を行い、それ

を生化学、検査、分析用標準試薬として製品化するとともに、その品質管理を行う総合製造技術の開発を行っ

た。

1 はじめに

沖縄は、伝承的に海人草(かいじんそう:マクリ)

を回虫の駆除に用いてきたという事実がある。この

海人草の成分カイニン酸の薬効は最近になってその

科学的研究から興味深い生理活性が発見され、伝承

薬に新たな可能性を持たせるものとして注目された。

それ以来、海産無脊椎生物の成分は、大手製薬企業

やベンチャー企業によって抗がん剤、抗菌剤、海洋

防汚物質等として積極的に開発研究が行われてきて

いる。

本開発事業では高付加価値な成分の抽出・精製を

行い、それを生化学、化学、検査用標準試薬として

製品化することを目的に、これまでの大学などでの

研究成果を基に、今後有望と思われる海産無脊椎生

物由来の成分を選び出した。そしてその粗精製物お

よび精製物の一次製品化を目標に、原料確保のため

の生物探索・選定技術および有用成分の抽出・精製

技術の開発を行った。

また、一部の県内薬草関連企業で一次製品として

の植物エキスの製品化が始まっているが、それらは

いずれも本土企業主体の下請け的な製造であるため、

新たな資源の製品化や、独自の研究成果を生かした

機能を付加した製品の商品化は困難である。本開発

事業では、このような不利な立場での原料生産から

抜け出し、本土大手試薬メーカーや製薬会社等をタ

ーゲットに県内企業主体の積極的な一次製品開発と

商品化を可能にすることを第二の目標として、汎用

性の高い柔軟なシステムの開発を行った。

さらに第一目標の探索技術確立の中で普遍的なエ

キスプロファイリング技術とプロファイルのデータ

ベース化は、本開発事業の対象である海産無脊椎生

物だけではなく陸上生物にも広く適用できる技術で

あり、将来的に県内での生化学試薬産業の基盤をな

す部分であるため、プロファイルのライブラリ化を

行える技術を県内企業に導入することも重要な目標

とした。

2 方法の概要

2-1 原料生物探索・選定技術の開発

生物の選定を行うことは、生物を工業原料として

利用する上で必要不可欠である。しかしながら陸上

生物と比べて海産無脊椎生物では、種の同定が困難

なものが多く、このことは海産無脊椎生物中の有効

成分を製品原料として利用する場合に個体差、地域

差、季節差等が評価しにくく、原料の安定供給と製

品の品質管理に大きな支障となる。そこで標的成分

を生産する海産無脊椎生物の同定をその抽出エキス

を用いて簡便で確実に行う方法を確立する必要があ

った。

本サブテーマの目標として、まず前処理、抽出、

分析、プロファイリングに関係する各種パラメータ

ーを検討し、エキスプロファイルによる生物の選定

のための標準的な手順の確立を行った。

次にここで確立した標準手法により、採集した海

産無脊椎生物のエキスプロファイルを作成し、情報

のデータベース化を行い確立した手法の適性を検証

した。

2-2 一次製品製造(抽出・精製)技術の開発

食品として利用する場合と異なり、試薬や試薬原

料となる一次製品を目標とする場合、最も重要な要

素は製品の純度である。通常試薬として市販されて

いるものは 98 %以上の純度があり、その精製には特

別な技術を要する。本サブテーマでは、この精製技

術の開発を主要な目標に研究を行い、この技術を用

いて製品の試作を行うことでこの開発結果の検証を

行った。

まず抽出に関してはイオン性物質から低極性のも

のまで幅広く抽出できる条件の検討を行った。一方

                               - 115 -                               

-沖縄県工業技術センター研究報告書 第6号 2004年-

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精製では、HPLC の分離条件(メソッド)開発が純度

を決める最も大きな要因となることから、分子量を

トリガーとした有効成分精製法を検討し、生産の効

率化と製品の高品質化を同時に達成するシステムの

開発を試みた。

2-3 一次製品管理・評価技術の開発

生化学試薬では、純度は製品の品質そのものであ

ることから、高純度を確保できる生産技術の確立は

最重要課題である。本開発事業で目標とする一次製

品に関する品質としては「有効成分の純度」と「不

純物の量と種類」を市場のニーズに対応することが

要求される。この消費者ニーズに合う品質評価法の

確立をこのサブテーマの目標として研究を行った。

このため、大手試薬メーカーや医薬品メーカーな

ど特に製品の品質に厳しい基準を持つ顧客のニーズ

を把握すると共に、有効成分の純度に関しては HPLC-

マスによる定量・定性法を、また不純物の量と種類

に関しては、HPLC による定性法を検討し、二次製品

の性質によりユーザー(市場)の要求に臨機応変に

対応できる管理・評価のマニュアル作りを行った。

3 結果の概要

3-1 原料生物探索技術の開発

本研究において、化学・生化学試薬として開発可

能な有用物質を生産する生物の選定を、その抽出エ

キスを用いて簡便で確実に行う方法を確立すること

ができた。すなわち、沖縄沿岸で SCUBA などにより

採集した海産無脊椎生物が、有用物質を生産してい

ることを確認するための試料前処理法を確立し、そ

れを抽出し分析するための標準的な方法を確立する

ことができた。試料の前処理では、分析段階で修正

または無視できる要素の検討や操作に必要以上に手

間をかけることを避けると共に、特殊な方法の導入

も極力避け個々の条件を最適化することにより、採

集→凍結乾燥→溶媒抽出→分析というシンプルな方

法を確立した。

プロファイリングでは、この確立した条件を用い、

採集した生物のエキスプロファイルを作成しライブ

ラリ化した。

同様に標準物質もプロファイルを作成しライブラ

リ化した。標準物質となるスウィンホリド A、ミサ

キノリド A、ラトランクリン A、スコポレチンは購入

または他の研究機関より譲り受けたものを使用し、

マンザミン A、オンナミド A は単離後、MS、NMR

を文献値と比較することにより同定した。

この標準物質プロファイルと、調製したエキスプ

ロファイルを Millennium ソフト上でライブラリ検索

により照合することで、目的物質を素早く確実に検

索することができるシステムの確立に成功した。こ

れにより、スウィンホリド A、ラトランクリン A、マ

ンザミン A、オンナミド A を含むエキスを選定する

ことに成功した。

一方、標品が入手できなかったマノアリドは、LC/MS

により全エキスの分析を行い、分子量を手がかりに

マノアリド含有エキスのスクリーニングをまず行な

った。この絞り込まれたエキスとそのクロマトグラ

ム上のピークを、3 次元 UV 検出器(PDA)により紫

外吸収スペクトルトルを抽出し、文献値と照合した

結果 4 種のエキスにマノアリドが含まれることが推

定された。この 4 種のエキス中のマノアリドと思わ

れるピークに関しては、さらに MS の開裂パターンを

予想し、LC/MS/MS 分析を行ったところ、予想どおり

のスペクトルパターンが観測されたことより、これ

らのエキスがマノアリド生産海綿のエキスであると

ほぼ断定できた。

3-2 一次製品製造技術の開発

試薬やその原料となる一次製品を目標として純度

95%以上を目標に精製法の検討を行った。

その結果マンザミン A、オンナミド A では、凍結乾

燥試料を 2mm 以下に粉砕し、エタノールまたはメタ

ノールを用いて抽出し、抽出物を液液分配後、LC に

よる分離または再結晶化させることで精製できるこ

とが分かった。一方含有量の少ないスウィンホリド A

は、LC 分離後 HPLC でさらに精製することで目標の

純度を達成できた。

今回の方法は量産を考慮し、スケールアップが容

易な方法の組み合わせで構成するよう工夫してある。

すなわち、粉砕をはじめとする全ての処理工程は、

①同じ操作を繰り返すだけで再現良く精製が進めら

れ、②装置を大型化しても同じ結果が得やすく、③

スケールアップの際の量的な相関が計算し安い。し

たがってこれらの方法は、大量生産への移行が容易

で、将来的な量産方法としても優れていると思われ

る。

ここで LC による精製では、分子量をトリガーとし

た有効成分精製法を確立し、生産の効率化と製品の

高品質化を同時に達成するシステムの開発に成功し

た。

3-3 一次製品管理・評価技術の開発

有効成分の純度検定では、特に製品の品質に厳し

い大手試薬メーカーや医薬品メーカーなどの基準を

満たすため市場の動向を調査し、ELSD(蒸発光散乱

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-沖縄県工業技術センター研究報告書 第6号 2004年-

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