アルコール性肝硬変に重症型アルコール性肝炎を合併し,igakukai.marianna-u.ac.jp/idaishi/www/304/27okamoto.pdf ·...

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緒  言 近年,アルコール摂取量の増加とともにアルコール 性肝障害の症例が増加している。特に,従来日本では 少ないとされていた重症型アルコール性肝炎の症例が 増加している 1~6。本症は多臓器不全を合併するた め,迅速かつ適切な診断,治療が必要であるが,確定 診断に苦慮する症例が多いのが実状である。今回,ア ルコール性肝硬変に,重症型アルコール性肝炎を合併 し,成人呼吸窮迫症候群(ARDS)から多臓器不全を 合併し死亡した若年男性例を経験したので報告する。 症  例 症 例: 28 歳,男性。 主 訴:黄疸,腹部膨満。 既往歴:特記すべきことなし。 生活歴:アルコール; ビール 5 本およびウオッカ 1 日,約 10 年間(積算飲酒量 1 t)。タバコ; 40 日,約 10 年間。 家族歴:特記すべきことなし。 現病歴:平成 8 6 3 日,鼻出血を主訴に新潟県 455 233 1 聖マリアンナ医科大学 内科学教室(消化器・肝臓内科) 2 聖マリアンナ医科大学 病理学教室 症例報告 聖マリアンナ医科大学雑誌 Vol. 30, pp.455–462, 2002 アルコール性肝硬変に重症型アルコール性肝炎を合併し, 多臓器不全にて死亡した若年男性の 1 岡本 おかもと 四柳 よつやなぎ ひろし なが 良彦 よしひこ ふじ 和彦 かずひこ はやし たけし すず 通博 みちひろ 小林 こばやし 健彦 たけひこ 前山 まえやま ろう 打越 うちこし 敏之 としゆき いい ろう (受付:平成 14 8 1 日) 抄  録 28 歳,男性。18 歳時より大量飲酒を続けており,平成 8 年に肝機能障害を指摘された。その後 も大量飲酒を続け平成 11 年,発熱,黄疸,腹水が出現したため入院となった。入院時検査成績 AST 優位のトランスアミナーゼ上昇,ビリルビン上昇,白血球増加,γ-GTP 上昇を認めた。腹 CT で大量腹水,脾腫がみられ,肝合成能の低下,高アンモニア血症を認めたことから,肝硬 変に重症型アルコール性肝炎を合併したと考えられた。肝補助療法を含む各種治療を施行したが, 急性呼吸不全,腎不全を合併して全身状態は悪化し,第 29 病日に死亡した。剖検所見では,肝 臓重量は 1550 g と腫大し,表面には多数の小結節を伴う乙型類似アルコール性肝硬変であった。 病理学的にはアルコール性肝硬変の所見に加え,多数のマロリー体および多核白血球を認め,臨 床,病理学的に重症型アルコール性肝炎の病像であった。本例は重症型アルコール性肝炎の本邦 男性例としては最も若年であり,貴重な症例として報告する。 索引用語 重症型アルコール性肝炎,成人呼吸窮迫症候群

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緒  言

近年,アルコール摂取量の増加とともにアルコール

性肝障害の症例が増加している。特に,従来日本では

少ないとされていた重症型アルコール性肝炎の症例が

増加している 1~6)。本症は多臓器不全を合併するた

め,迅速かつ適切な診断,治療が必要であるが,確定

診断に苦慮する症例が多いのが実状である。今回,ア

ルコール性肝硬変に,重症型アルコール性肝炎を合併

し,成人呼吸窮迫症候群(ARDS)から多臓器不全を

合併し死亡した若年男性例を経験したので報告する。

症  例

症 例: 28歳,男性。

主 訴:黄疸,腹部膨満。

既往歴:特記すべきことなし。

生活歴:アルコール; ビール 5本およびウオッカ

1瓶/日,約 10年間(積算飲酒量 1 t)。タバコ; 40本/

日,約 10年間。

家族歴:特記すべきことなし。

現病歴:平成 8年 6月 3日,鼻出血を主訴に新潟県

455

233

1 聖マリアンナ医科大学 内科学教室(消化器・肝臓内科)2 聖マリアンナ医科大学 病理学教室

症例報告 聖マリアンナ医科大学雑誌Vol. 30, pp.455–462, 2002

アルコール性肝硬変に重症型アルコール性肝炎を合併し,

多臓器不全にて死亡した若年男性の 1例

岡本おかもと

菜な

穂ほ

子こ1 四柳

よつやなぎ

宏ひろし1 長

なが

瀬せ

良彦よしひこ

1 藤ふじ

田た

和彦かずひこ

林はやし

毅たけし1 鈴

すず

木き

通博みちひろ

1 小林こばやし

健彦たけひこ

2 前山まえやま

史し

朗ろう2

打越うちこし

敏之としゆき

2 飯いい

野の

四し

郎ろう1

(受付:平成 14年 8月 1日)

抄  録28歳,男性。18歳時より大量飲酒を続けており,平成 8年に肝機能障害を指摘された。その後

も大量飲酒を続け平成 11年,発熱,黄疸,腹水が出現したため入院となった。入院時検査成績でAST優位のトランスアミナーゼ上昇,ビリルビン上昇,白血球増加,γ-GTP上昇を認めた。腹部 CTで大量腹水,脾腫がみられ,肝合成能の低下,高アンモニア血症を認めたことから,肝硬変に重症型アルコール性肝炎を合併したと考えられた。肝補助療法を含む各種治療を施行したが,急性呼吸不全,腎不全を合併して全身状態は悪化し,第 29病日に死亡した。剖検所見では,肝臓重量は 1550 gと腫大し,表面には多数の小結節を伴う乙型類似アルコール性肝硬変であった。病理学的にはアルコール性肝硬変の所見に加え,多数のマロリー体および多核白血球を認め,臨床,病理学的に重症型アルコール性肝炎の病像であった。本例は重症型アルコール性肝炎の本邦男性例としては最も若年であり,貴重な症例として報告する。

索引用語重症型アルコール性肝炎,成人呼吸窮迫症候群

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内の総合病院を受診したところ,黄疸を伴う肝障害

(T. Bil 27.0 mg/dl,AST 304 IU/l,ALT 104 IU/l,ALP

332 IU/l)を指摘され入院した。アルコール性肝炎の

診断で加療を受け軽快退院したが,退院後も大量飲酒

を続けていた。平成 9年 9月 22日の検査成績は T. Bil

1.2 mg/dl,AST 170 IU/l,ALT 109 IU/l,ALP 464 IU/l,

γ-GTP 118 IU/lであった。以後医療機関へは通院する

ことがなかった。

平成 11年 7月 20日頃より,黄疸,腹部膨満感,発

熱が出現し,8月 7日,神奈川県の総合病院を受診し

たところ,黄疸を伴う肝機能障害が認められ即日入院

となった。入院時検査成績を Table 1に示す。白血球

増加,高度の黄疸,肝合成能の低下,アンモニア増加

が認められた。また,腹部 CTでは大量腹水,脾腫が

認められた。

以上の所見から,アルコール性肝硬変にアルコール

性肝炎あるいは感染を合併した状態と診断された。ア

ルブミン製剤点滴,肝庇護剤投与,グルカゴン –イン

スリン(GI)療法を行ったが,肝機能に改善傾向が

見られないため,精査加療目的で当院へ転院となっ

た。

当院転院時現症:身長 168 cm,体重 62 kg,体温

37.4˚C,血圧 152/80 mmHg,脈拍 100/分, 整。意識清

明,眼瞼結膜に軽度貧血あり,眼球結膜に黄疸あり。

皮膚黄染あり。両側下肺野の呼吸音減弱,収縮期心雑

音あり。腹部; 軟, 膨満(腹囲 96 cm),弾性硬・辺縁

鈍な肝を剣状突起下 4横指触知。下腿浮腫あり。羽ば

たき振戦なし。

入院時検査所見(Table 1):左方移動を伴う白血球

増多,CRP増加があり,血小板は 14.2万/µlと保たれ

ていたが,肝合成能,凝固能の低下,ビリルビンの上

昇を認めた。HBs抗原,抗体,HBc抗体,HCV抗体

(第 II世代抗体)はどれも陰性であった。

岡本菜穂子 四柳宏 ら456

234

Table 1 Laboratory data on first admission

Blood Cell Count

WBC 23,800 /µl RBC 312 × 104 /µl

Hb 11.5 g/dl Hct 32.3 %

PLT 14.2 × 104 /µl

Coagulation

PT 40.1 % HPT 60.6 %

Biochemistry

TP 5.7 g/dl Alb 2.8 g/dl

T-Bil 33.5 mg/dl D-Bil 24.2 mg/dl

AST 165 IU/l ALT 53 IU/l

LDH 356 IU/l ALP 425 IU/l

γ-GTP 192 IU/l LAP 78 IU/l

ChE 2.5 IU/l BUN 30.1 mg/dl

Cr 2.1 mg/dl Na 139 mEq/l

K 4.4 mEq/l Cl 104 mEq/l

Chol 128 mg/dl CRP 7.5 mg/dl

NH3 47 µg/dl FPG 220 mg/dl

Serology

IgG 1,890 mg/dl IgM 290 mg/dl

IgA 440 mg/dl

Viral Markers

HBs-Ag (–) anti-HBs (–)

anti-HCV (–)

Table 2 Laboratory data on second admission

Blood Cell Count

WBC 7,300 /µl RBC 229 × 104 /µl

Hb 8.4 g/dl Hct 24.1 %

PLT 13.0 × 104 /µl

Coagulation

PT 36.0 % HPT 32.0 %

Biochemistry

TP 4.0 g/dl Alb 3.0 g/dl

T-Bil 27.1 mg/dl D-Bil 21.0 mg/dl

AST 67 IU/l ALT 38 IU/l

LDH 354 IU/l ALP 304 IU/l

γ-GTP 81 IU/l LAP 88 IU/l

ChE 2.5 IU/l BUN 19.0 mg/dl

Cr 1.2 mg/dl Na 135 mEq/l

K 3.3 mEq/l Cl 96 mEq/l

Chol 82 mg/dl CRP 6.0 mg/dl

NH3 26 µg/dl FPG 103 mg/dl

Serology

IgG 689 mg/dl IgM 71 mg/dl

IgA 110 mg/dl

Viral Markers

HBs-Ag (–) anti-HBs (–)

anti-HCV (–)

Pleural effusion

SG 1.010 Fibrin (–)

pH 8.0 Rivalta (–)

cell count 176 (Mono. 152, Seg. 24)

Occult blood(3+)

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転院時検査所見(Table 2):白血球数,CRP値,ビ

リルビン,トランスアミナーゼ値は低下したが,凝固

能,貧血は悪化した。胸水穿刺は細胞数増加はあった

が,漏出性であった。肝炎ウイルスマーカーは陰性で

あった。

入院時胸部単純X線写真(Fig. 1-a):両側胸水貯留

と無気肺を認めた。

腹部 CT(Fig. 2):肝は左右両葉とも腫大してお

り,表面は凹凸不整であった。脾腫,大量腹水を認め

た。

臨床経過(Fig. 3):前医入院後,黄疸・腹水・発

熱が認められ,白血球増多・CRPの上昇を合併して

いたため,感染症を疑い,各種培養を提出したがいず

れも陰性であった。抗生物質(セフェム系)の投与を

行ったが,効果は見られなかった。

当院転院後は,抗生物質の効果が認められていな

かったこと,発熱および肝障害の原因となっている可

能性があることから,抗生物質を中止した。アルブミ

ン・利尿剤・肝庇護剤の投与,GI療法は継続した。

感染巣を検索したが,喀痰,尿,血液,腹水,糞便培

養は陰性であった。経過中,貧血の進行を認め,上部

消化管内視鏡を施行したところ,十二指腸球部後壁に

H1 stageの潰瘍を認めたが,保存的治療で改善した。

9月 2日より咳嗽,湿性ラ音を聴取し,胸部X線上左

肺野に浸潤影を認めた(Fig. 1-b)。喀痰培養では細菌

は検出されなかったものの,肺炎の合併を疑い第三世

代セフェムの点滴静注を開始した。翌日には浸潤影は

両肺野に拡大し(Fig. 1-c),呼吸困難も出現した。著

明な低酸素血症(pH 7.404,PaO2 49.9 mmHg,PaCO2

31.4 mmHg)も認められた。胸部 CT上両側上肺野を

中心に air bronchogramを伴う浸潤影を認め(Fig. 1-d),

臨床的には ARDSの病態と考えられた。人工呼吸器

を装着し呼吸管理を行ったものの,呼吸不全は改善せ

ず,最終的には多臓器不全となり,9月 21日死亡し

た。

重症型アルコール性肝炎の1例 457

235

Fig. 1a bc d

a; Chest X-ray on admission.b; Chest X-ray reveals infiltration of bilateral lung field.c, d; Chest X-ray and CT scan shows exacerbation ofcongestive shadow.

Fig. 2 Abdominal CT scan shows hepatosplenomegalywith massive ascites.

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剖検所見:

肉眼所見;肝臓の重量は 1550 gであり,表面には

小結節を多数伴う乙型類似アルコール性肝硬変の所見

であった。脾臓は重量 490 gと腫大していた(Fig. 4-

a, b)。肺重量は左 790 g,右 880 gと増加しており,

肺水腫が認められた(図 4-c)。十二指腸球部後壁側に

潰瘍が多発しており,出血が認められた。黄色の腹水

300 mlと血性胸水(左 200 ml,右 400 ml)を認めた。

組織学的所見;肝臓は完成されたアルコール性肝硬

変の所見に加え,多数のマロリー体および多核白血球

を認め,アルコール性肝炎の所見が加わった acute on

chronicの像で,臨床,病理学的に重症型アルコール

性肝炎の所見であった。また,胆汁鬱滞が認められた

(Fig. 5a, b, c)。

両肺に,間質の増生と瀰漫性肺胞内器質化病変が認

められた。散在性に硝子膜形成を認め,ARDSの所見

と考えられた(Fig. 5-d)。

考  察

本例は病理解剖の結果,慢性的病像としてのアル

コール性肝硬変に急性のアルコール性肝炎が重複した

病態である。「アルコールと肝」肝炎班では病型の 1

つとして,重症型アルコール性肝炎を挙げており,こ

れはアルコール性肝炎の中で,肝性脳症,肺炎,急性

腎不全,消化管出血などの合併や,エンドトキシン血

症などを伴い,断酒にも関わらず肝腫大は持続し,多

くは 1ヵ月以内に死亡するものを指す 3)。また,アル

コール性肝硬変を合併することもある。一般にアル

コール性肝炎は禁酒の上,糖質を主体とした栄養管理,

安静臥床により肝機能障害は速やかに改善するが,重

岡本菜穂子 四柳宏 ら458

236

Fig. 3 Clinical course after admission.

Fig. 4 Gross appearance of the liver and lung at autopsy. a; Liver weight was 1550 g and multiple small nodules withthin septa were seen on the surface.b; Constiguity.c; Both lungs were voluminous, edematous and focallycongestive. The weight of both lungs were 790 g and 880 g,respectively.

a

b

c

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症型アルコール性肝炎の予後は極めて不良とされる。

これはエンドトキシン血症,高サイトカイン血症から

他臓器疾患を合併するためと考えられる 7)。

本例は ARDSを合併していたと考えられるが,

ARDSの定義は,肺疾患の既往のない例で,肺に直截

的にまたは間接的に種々の原因による重篤なストレス

が加わった結果,最終的に招来される共通の肺損傷に

起因する急性呼吸不全である。臨床的には,酸素療法

に反応しにくい低酸素血症,胸部 X線上のびまん性

(スリガラス様)陰影で特徴づけられる。本例の場合

これら臨床的特徴に合致する。また,細菌は検出され

なかったものの,発熱,咳嗽に引き続き肺末梢の浸潤

影が出現している。したがって,重症型アルコール性

肝炎,肺炎という重篤なストレスををきっかけに

ARDSを発症したものと考えられる。

アルコール性肝硬変にアルコール性肝炎を合併した

症例について,肝機能検査の推移を検討すると,肝炎

発症後黄疸が遷延し,肝予備能,血小板数の低下傾向

がみられる 8)9)。したがって,アルコール性肝硬変に

おける肝炎の反復は,予後を増悪させる重要な因子の

1つである。Theodossiら 8)はアルコール性肝炎の死

亡率は,肝硬変に至る前での合併では 27%であった

のに対し,肝硬変にアルコール性肝炎を合併すると

77%に上昇すると報告しており,Chedidら 9)は 4年

間の肝硬変非合併例の生存率は 58%であるのに対し,

肝硬変合併例では 35%であったと述べている。した

がってアルコール性肝硬変に合併したアルコール性肝

炎は,的確な診断が必要である。本例の場合入院時に

消化器症状がなく,白血球,CRPの上昇を伴う発熱

が前医から持続していたため,感染症,薬剤熱の否定

に時間を要した。また,本例は転院時に腹水と凝固能

低下を合併していたため,肝生検を行うことができ

重症型アルコール性肝炎の1例 459

237

a

c d

b

Fig. 5 Microscopical findings.a; Mono-sublobular pseudolobular formation with narrow septa.b; Marked bilestasis in the periportal area. Fibrous septa was generally narrow with mild mononuclear cell proliferation.c; Parenchymal damages with Mallory body (arrow).d; Scattered foci of hyline membrane in the lung. Note alveolar destruction with congestion and inflammation. Dottedtumorlet and membranes are seen.

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ず,肝臓の組織学的検索を行い得なかったため,生

前に確定診断に至ることができなかった。

本例には完成されたアルコール性肝硬変が認められ

た。本例の積算アルコール摂取量は約 10年間で 1 tで

あり,アルコール性肝炎の既往も認められることか

ら,大量飲酒を繰り返すことにより,アルコール性

肝炎からアルコール性肝線維症,さらにはアルコール

性肝硬変と極めて急速に進展したものと考えられる。

また,本例は 28歳という若年,大酒家の男性に発

症した重症型アルコール性肝炎例である。これまで本

邦で報告されている重症型アルコール性肝炎をまとめ

たものが Table 3であるが,自験例は最も若年であ

る 15)。

重症型アルコール性肝炎に対しては様々な治療が行

われている。副腎皮質ホルモン製剤はマクロファージ

の translocationを阻害することにより,TNF-αや IL-2

などの産生を抑制し,全身性炎症反応(SIRS)を改

善させ,病態の進展を抑えると考えられる。したがっ

て,肺炎などの感染症を伴わない例,発症早期の症例,

消化管出血を伴わない例には(症例 15, 17),第一に

行われるべき治療法と考える。本例は,既に肝硬変に

至っており高エンドトキシン血症や高サイトカイン血

症を合併していた可能性があるが 10~14),診断に難渋

し,感染,出血を合併したため,副腎皮質ホルモン製

剤を投与できなかったことが本例を救命できなかった

原因の 1つと考えられる。

その他の治療法としては,血漿交換療法(PE: 凝固

因子の補充やビリルビン除去を目的とする),血液透

岡本菜穂子 四柳宏 ら460

238

Table 3 Reported cases of severe alcoholic hepatitis

Pt. No. Age Sex Outcome GI PI ATIII CS PE HD Other therapy

1 56 M Dead + – – – – – Splenic arterial infusion therapy

2 55 F Dead – – + – – –

3 67 M Dead – – – – – +

4 50 M Dead + + + – – – Continuous hemofiltration

5 43 M Dead – + + – – –

6 31 F Dead + + – + – – PGE1

7 66 M Dead + + – – – – Splenic arterial infusion therapy

8 36 M Dead + + + + – – Splenic arterial infusion therapy, PGE1

9 54 M Dead + + – – + + PGE1

10 35 F Dead + + + – – – Splenic arterial infusion therapy

11 55 F Dead + – – + – – PGE1

12 28 M Dead + + – – – –

13 33 M Alive – + + – + +

14 24 F Alive – + + – + +

15 44 M Alive – – + + – –

16 43 M Alive + + + – – –

17 45 F Alive + + – + – – PGE1

18 61 M Alive – – – – – – PGE1

19 31 M Alive + + + – – – PGE1

20 49 F Alive + + + + + – HBO

21 67 M Alive – – – + – –

22 60 M Alive + + – – + –

23 61 M Alive + + – – – –

24 40 M Alive + + – – + –

25 44 F Alive – – – + + –

26 47 M Alive – – + + – –

GI: Glucagon-Insulin Therapy. PI: Protease Inhibitor. ATIII: Anti-Thrombin III. CS: Corticosteroid.PE: Plasma Exchange. HD: Hemodialysis. PGE1: Plostaglandin E1. HBO: Hyperbaric Oxygen.

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析(HD: 水分, 電解質のバランスを調節し, 中低分子の

昏睡起因物質, 有毒物質を除去することを目的とす

る),エンドトキシン吸着療法(PMX: エンドトキシ

ン濃度の低下による循環動態の改善を目的とする)な

どの血液浄化療法がある。実際に,PEに CHDF(持

続血液濾過透析)を併用した若年発症重症型アルコー

ル性肝炎 2症例(症例 13, 14)と PMXを 2回施行し

た 1症例(症例 21)を救命することができたと報告

されている。

本例は生前に確定診断を得ることができず,副腎皮

質ホルモン製剤投与,血液浄化療法の機会がないま

ま,患者は死の転帰をとった。重症型アルコール性

肝炎を疑った時には経頚静脈的肝生検を行ってでも積

極的に診断をつけ,早期に副腎皮質ホルモン製剤の投

与を行う必要がある。また,本症は最終的には多臓器

不全に至る疾患であり,早期から血液浄化療法を含め

た集中治療を行う体制で治療にあたる姿勢が望まれ

る。

文  献1) 高田昭, 松田芳郎, 高瀬修二郎, 奥平雅彦, 太田康幸, 辻井正, 谷川久一, 蓮村靖, 佐藤信紘, 石井裕正, 原田勝二, 岡上武, 佐藤千史. わが国におけるアルコール性肝障害の実態 (その 3) —1992年全国集計の成績から—. 日消誌 1994; 91: 887-898.

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15) 石井邦英, 神代龍吉, 佐田通夫, 谷川久一. 重症型アルコール性肝炎の治療と予後の推移. 肝胆膵2000; 40: 69-79.

重症型アルコール性肝炎の1例 461

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Page 8: アルコール性肝硬変に重症型アルコール性肝炎を合併し,igakukai.marianna-u.ac.jp/idaishi/www/304/27okamoto.pdf · 内の総合病院を受診したところ,黄疸を伴う肝障害

岡本菜穂子 四柳宏 ら462

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Abstract

A Young Male Case with Alcoholic Cirrhosis Complicated, by Severe

Alcoholic Hepatitis and was Dead of Multiple Organ Failure

Nahoko Okamoto1, Hiroshi Yotsuyanagi1, Yoshihiko Nagase1, Kazuhiko Fujita1,

Takeshi Hayashi1, Michihiro Suzuki1, Takehiko Kobayashi2, Shirou Maeyama2,

Toshiyuki Uchikoshi2, and Shirou Iino1

The presented case is a 28-year-old man with a history of alcohol overtake since the age of 18 years. Even

after admission for alcoholic hepatitis three years ago, he continued alcohol overtake. He was admitted to our

hospital in 1999 complaining of fever, jaundice, and ascites. Laboratory data on admission showed leukocytosis

and high levels of transaminases, bilirubin, and γ-GTP. Thrombocytopenia, hyperanmoniemia, and low levels of

serum protein were also noted. Abdominal computed tomography revealed irregular-surfaced liver with splenomegaly

accompanied by massive ascites. From these findings, we diagnosed him as severe alcoholic hepatitis with liver

cirrhosis. In spite of intensive therapy, he suffered from pneumonia, which lead to adult-respiratory-distress

syndrome. He died multiple organ failure on the 29th day, after admission. Autopsy disclosed type F liver cirrhosis

and congestive lung. Histological examination of the liver showed multiple Mallory-bodies and polymorphic

neutrophils in addition to micronodular cirrhosis. He is the youngest Japanese male among reported cases of

severe alcoholic hepatitis. (St. Marianna Med. J., 30: 455–462, 2002)

1 Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Internal Medicine

2 Department of Pathology

St. Marianna University School of Medicine, 2-16-1 Sugao, Miyamae-ku, Kawasaki 216-8511, Japan