パルサー - Yamaguchi Uastro.sci.yamaguchi-u.ac.jp/kenta/radioastro/radioastro...“Pulsar...
Transcript of パルサー - Yamaguchi Uastro.sci.yamaguchi-u.ac.jp/kenta/radioastro/radioastro...“Pulsar...
1
パルサー
参考文献“Pulsar Astronomy” Lane & Graham-Smith (CAMBRIDGE)
“Handbook of Pulsar Astronomy” Lorimer & Kramer (CAMBRIDGE)
“宇宙物理学” 佐藤・原(朝倉書店)“宇宙の灯台” 柴田晋平(恒星社厚生閣)読み物
2
中性子星
• 理論的な予言– 1932
• 中性子の発見(チャドウィック)
– 1934• 中性子星の存在を予言(バー
デ・ツヴィッキー)
– 1939• 直径・質量・密度などの研究
(オッペンハイマー・ヴォルコフ)
– 1964• 強い磁場の存在の予言(ホイ
ル・ナーリカー・ウィーラー)
– 1967• かに星雲のエネルギー源として
の中性子星の回転(パチーニ)
• 1967年末 パルサーとして発見
• 特徴– 質量 ~1 Mo
• 恒星の爆発で生じるため、太陽質量程度
– 半径 ~10 km
– 密度 ~1017 kg m-3=1014 g cm-3
– 組成 ほとんど中性子、表面に原子の地殻
– 磁場 ~108 T
• cf. 実験室で作る磁場 ~102 T
– 自転 ~1-100 Hz
• 地球 ~ 10-5 Hz
• 太陽 ~ 3 x 10-7 Hz
極めて特異な性質実際に発見されるまで、多くの研究者は半信半疑だった
3
中性子星の回転と磁場
• 高速回転する理由– 角運動量保存の法則
– 何らかの理由で慣性モーメント Iが小さくなれば角速度ω は大きくなる
– 太陽が中性子星になったと仮定(実際にはならないが)
• 太陽– 質量 2×1030kg– 半径 7×108m– 自転周期 2.3×106s
• 中性子星– 半径 1×104m
• 超強力磁場が存在する理由– 恒星表面を貫いていた磁束は、恒
星が中性子星に変化しても保存する
• B 磁束密度• S 恒星の表面面積
– 太陽が中性子星になったと仮定• 太陽
– 半径 7×108m– 磁束密度 10-1T
• 中性子星– 半径 1×104m
ωω ′′== IIL
自転周期 P’ = 5×10-4 s
1ミリ秒以下で回転させうる実際には角運動量も爆発の際にニュートリノなどが持ち去るのでそれほど高速にはならない
SBBS ′′==Φ
B = 5×108 T
4
磁気双極子放射
• 時間的に変動する磁気双極子による電磁波の放射
– 磁気モーメント m
• S : 磁束が貫く面積
• L : 磁束が貫く長さ
• S = L2 = R(パルサー半径)と仮定
• 磁気双極子の放射光度
• 例:Crab パルサー
– B=109T
– P=0.033s
• cf. 太陽光度 Lo=4 x 1026 J/s
( )23
0
6m
cL &&
πµ
=
( )
( ) 4
0
3
23
4
0
3
23
2
6
6
=
=
Pc
BR
c
BRL
πµπ
ωµπ
L = 2 x 1031 J/s
SLB
m
0µ≈
tRB
m ωµ
sin3
0
≈ ・・・回転
膨大なエネルギーを放出しうるただし単純に考えると、回転周期(1~100 Hz)
程度の低い周波数の電磁波が放射されそう
5
パルサーの発見• 観測装置
– クエーサーの星間シンチレーションを調べるための低周波数アレイ• 低い観測周波数 81.5 MHz
• 大きな集光面積 4 x 104 m2
• 高い時間分解能 τ < 0.1 sec• これらの特性は、パルサー発見に
好都合
• 発見(1967年11月)– Hewish, Bell
– 1.337秒の周期的パルスの発見– PSR1919+21
• 正体について様々な考えがあったが、すぐに回転する中性子星であることの共通認識が得られた
• 研究の展開– 一般相対論の研究
• 重力波の存在を検証
– 宇宙論的な重力波背景放射• パルス周期の揺らぎから背景重
力波の存在を調べる研究
– 恒星物理・超新星爆発• 爆発の残存物、爆発に対する境
界条件を与える
– 連星の進化• 連星系がパルサーの存在形態に
大きくかかわっているらしい
– 星間物質• 分散指数・回転指数の観測から、
星間物質・星間磁場を調べる
– 位置天文学• 理想的な点源
– プラズマ物理・電磁気学• いかにして電波放射を作り出すか
– 超高密度・超高磁場物質の物性• サイクロトロン共鳴など、地上では
実現できない物性現象の発現
• パルサーは天体物理の実験室– ノーベル賞2回
6パルサーを発見した電波望遠鏡とベル(1968年)
パルサー発見のチャート記録
Kraus “Radio Astronomy”
7
余談:宇宙関係のノーベル賞受賞者• 1936年
– ビクター・フランツ・ヘス (Victor Franz Hess)• 宇宙線の発見
• 1948年– パトリック・ブラケット (Patrick Maynard
Stuart Blackett) • ウィルソンの霧箱による原子核物理学および
宇宙線の分野における発見
• 1967年– ハンス・ベーテ (Hans Albrecht Bethe)
• 原子核反応理論への貢献、特に星の内部におけるエネルギー生成に関する発見
• 1974年– マーティン・ライル (Sir Martin Ryle)
• 電波天文学における先駆的研究(観測、特に開口合成技術の開発)
– アントニー・ヒューイッシュ (Antony Hewish) • 電波天文学における先駆的研究(パルサーの
発見に果たした決定的な役割)
• 1978年– アーノ・ペンジアス (Arno Allan Penzias)
– ロバート・ウィルソン (Robert Woodrow Wilson) • 宇宙マイクロ波背景放射の発見
• 1983年– スブラマニアン・チャンドラセカール
(Subramanyan Chandrasekhar) • 星の構造および進化にとって重要な物理的過
程に関する理論的研究
– ウィリアム・ファウラー (William Alfred Fowler) • 宇宙における化学元素の生成にとって重要な
原子核反応に関する理論的および実験的研究
• 1993年– ラッセル・ハルス (Russell A. Hulse)
– ジョゼフ・テイラー (Joseph H. Taylor Jr.) • 重力研究の新しい可能性を開いた新型連星パ
ルサーの発見
• 2002年– レイモンド・デービス (Raymond Davis Jr.)
– 小柴昌俊• 天体物理学とくに宇宙ニュートリノの検出に対
する先駆的貢献
– リカルド・ジャコーニ (Riccardo Giacconi) • 宇宙X線源の発見を導いた天体物理学への先
駆的貢献
• 2006年– ジョン・C・マザー(John C. Mather)
– ジョージ・F・スムート(George F. Smoot) • 宇宙マイクロ波背景放射の黒体放射との一致
と非等方性の発見理論 電波 高エネルギー
8
Crab(かに)パルサー
• かに星雲– 1054年に爆発した超新星の
残骸
– 1968年、かに星雲の中にパルサー発見
• 超新星爆発によってパルサー(中性子星)が形成されることを証明
• 光学的にも明滅が観測された
• 毎秒33回という高速回転
• 減速率の詳しい観測
• X線ジェットが発見される
• ・・・
パルサー研究・天文学全般における重要な天体
9
パルサー:強い磁場を持ち、回転する中性子星
• 強力な磁場と高速回転– 強い指向性(ビーム)を持つ
電波放射をする中性子星
• 自転にともなってビームが地球を向く瞬間、パルスが観測される
• 電波放射メカニズムは、完全には理解されていない
ωrc = c/ω
電波ビーム閉じた磁場
開いた磁場
光円柱
10
銀河系内の分布• 1000個以上のパルサーが見つかっている
– 銀河面に密集しているが、高銀緯にも分布する
– 固有運動の観測により、高速で運動するものが多い
• 超新星の非対称爆発によるキック、連星系の崩壊による放出?
“Pulsar Astronomy” Lane & Graham-Smith
11
パルサーの観測的パラメータ
• パルス周期 P
– ~10桁、極めて高精度
• 周期変化率
– パルス周期は一般に増大(回転速度は低下)する
• パルス波形– 天体によって様々、周波数に
よっても様々
– 中間パルスが存在するものも
• 偏波 I,Q,U,V
– 直線偏波・円偏波を示す
– 1パルス中に偏波の向きが変化する
dt
dPP =&
Crab パルサーの波形
“Pulsar Astronomy” Lane & Graham-Smith
12
パルサーの観測的パラメータ• 遅延-周波数関係 DM
– パルス到来時刻は周波数が低いほど遅い
– 電離した星間ガスの周波数分散現象(伝播効果)
– パルス到来時間
– 伝播遅延は周波数の-2乗、見通す経路の電子数密度に比例
– 電子数密度を視線方向に積分した値を分散指数(Dispersion Measure)と呼ぶ
• ファラデー回転 RM– 直線偏波は周波数によって
偏波角が変化する– 電離した星間ガスと視線に平
行な磁場による伝播効果– 偏波面回転角
– 偏波面回転角は周波数の-2乗、見通す経路の電子数、視線に平行な磁場に比例
– 電子数密度×磁場を視線方向に積分した値を回転指数(Rotation Measure)と呼ぶ
∫+=L
edln
mc
e
c
LT
02
0
2
2
8 νεπ dlBncm
e L
e∫=0
||22
0
2
3
8 νεπθ
DMDispersion Measure
RMRotation Measure
観測可能な量 ne, L, B|| の推定
13
周波数分散とファラデー回転• 周波数分散の観測結果
– この例では、100MHzでパル
ス1周期分の遅延がある
• ファラデー回転の観測結果– 磁場強度
• DMとRMから磁場の強度がわかる
– 磁場の向き
• 磁場の向きによって、回転角の正負が決まる
• 回転角の観測から、銀河系内の磁場の向きがわかる
→銀河系の磁場は「腕」ごとに向きが逆になっている
DM
RM
dln
dlBn
BL
e
L
e
=∝
∫∫
0
0||
||
1周
期分
の遅
延
“Pulsar Astronomy” Lane & Graham-Smith
14
銀河系内の磁場の向き
太陽系
銀河中心
銀河面を北から見た図
観測で得られた視線方向の磁場成分
推定される銀河系磁場の分布
“Pulsar Astronomy” Lane & Graham-Smith
15
パルサーの距離
• 銀河系内HIに対する位置– 銀河系内のHIの分布は良くわ
かっている
– 明滅するパルサーの性質を利用
– パルサーがON
• パルサーと観測者間のHIは吸収
– パルサーOFF
• 吸収なし
ON-OFFそれぞれのスペクトルを観測すると、HIに対するパルサーの位置がわかる
吸収あり:このパルサーはこの雲より遠い
吸収なし:この雲より近い
吸収量
“Pulsar Astronomy” Lane & Graham-Smith
16
パルサーのパルス周期
名前 パルス周期 周期変化率
かにパルサー
プリンストン大学のパルサーカタログより抜粋分散指数
17
パルサーのスペクトル
• 電波~ガンマ線まで広い範囲の電磁波で放射– 放射メカニズム
– 強い磁場の存在、偏波した放射などから、サイクロトロン・シンクロトロン放射が作用していることは明らか
– 極めて短いパルス幅(1msec)は、放射領域が極めて小さいことを意味する
– 放射エネルギー• L ~ 1031 Js-1
しかし、どのように放射が生じているのか、完全には理解されていない
18
パルサーのエネルギー
• 回転エネルギー– パルサーの周期
P = 4 ~ 0.0016 sec
– 半径 R = 104 m
– 質量 M = 2 x 1030 kg
– 慣性モーメント I = 1038 kg m2
– 回転エネルギー E = 1038-45 J
• 回転エネルギーの源– 中性子星形成時の重力エネルギー
(1046 J)の一部を使って回転エネルギーを付与可能
– 重力収縮→角運動量保存→回転速度増加→回転エネルギー増加
• 回転エネルギーを放射に転換
• Crab パルサー
LPIPdt
dEE
IPP
IIE
−=−==
=
==
−
−
&& 32
22
2
2
4
22
2
1
2
1
π
ππ
ω
回転エネルギー損失率 エネルギー放射率
[ ][ ]
[ ]J/s105.4
s/s109599.420
J10~
[s]0940334033474.0
31
15
42
×=→
×=
→
=
−
E
P
E
P
&
&
観測された L=1031 J/s を説明できる∴Crab パルサーは回転エネルギーで輝いている
19
エネルギー損失と年齢・磁場
• エネルギー損失率から年齢τ を推定
• 磁気双極子放射によるエネルギー損失から、磁場強度を推定
( )PIPE
Pc
BRL && 32
4
0
3
23
42
6
−=−=
= ππ
µπPIPdt
dEE
IPP
IIE
&& 32
22
2
2
4
22
2
1
2
1
−
−
−==
=
==
π
ππ
ω
P
P
E
E
&& 2=−=τ
周期と周期変化率がわかれば、パルサーの年齢を推定できる
( )
( ) [ ]T 103
80
3
2
115
2
12
1
43
3
0
PP
PPR
McB
&
&
×=
=
πµ
周期と周期変化率がわかれば、パルサーの磁場を推定できるCrab パルサーの場合 τ = 1400 yr
実際の年齢は 950 yr ・・・まずまずの推定値
20
パルサーの回転周期(P)・減速(dP/dt)と年齢・磁場
P&
P
等年齢線
等磁場強度線1010 T
時間
変化
の方
向
ミリ秒パルサー進化過程は未知
21
ミリ秒パルサー・
• ミリ秒パルサー– 周期が数ミリ秒の高速回転
– 減速率が小さく、若いパルサーではない
– 磁場は弱い(τ ~109 yr)– 連星からのガスの流入で回
転が高速化したと考えられている
– 最近、球状星団中に多数発見されている
• パルサー・タイミング– ミリ秒パルサーの回転は極
めて高安定
– タイミングの正確な計測によって、逆に時系を構築する研究
6年間で1μ秒以下のずれ(PSR B1855+09)
22
連星パルサー
• 質量の推定– 連星系の軌道から、パル
サーの質量を推定
• 一般相対論・重力波の存在– PSR B1913+16
• 質量がともに1.4 Moの中性
子星(片方がパルサー)
• 公転周期 0.323日
– 近接しているので、一般相対論的な効果が顕著
– 重力波放射による軌道運動エネルギーの損失
• 軌道周期の減少
( ) 121009.040.2 −×±−=bP&
公転軌道周期の変化率
一般相対論による「重力波によるエネルギー放出」の予想値に一致
重力波の存在を間接的に証明