新型コロナウイルスにより もたらされる新しい社会に向けて...Beyond COVID-19...

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持続可能な地球環境の実現へギアをあげよう 環境 コロナ禍というグローバルな課題を共有した 世界。様々なレベルで人間が殻に閉じこもるブ ロック化を主としたコロナ対応策が、コロナ禍 の直接的打撃より大きな影響を社会に与えて います。ひとつ間違えれば社会の分断、格差 拡大の加速、気候変動対策の立ち遅れを生 みかねません。だからこそ With コロナの時代 においては、コロナ対応とバランスをとりながら SDGs をはじめ地球規模の課題解決に知恵を 絞らなければならないと考えます。 この半年ばかり「ソーシャルディスタンス」と いう言葉が世間に流布していますが、文化人 類学者 E・ホールによると、そもそもこの言葉は 「動物が子供を守るための限界距離を意味す る」(1970 年刊『かくれた次元 』)とのことで す。平たく言うと育児において目の届く距離とい うことでしょうか。コロナ対策の感染予防には、 個人間の距離をとることが効果的であることを 意図していますが、この言葉が文字通り「社 会的な分断」を生むリスクを孕んでいることも 否めません。 個人の閉じこもりに始まり、地域のブロック化、 国のブロック化が長期化しようとしています。解 決策として IT を駆使したリモート諸策で補おう としていますが、その限界も見えて来ているよう に思います。なお、WHO は「フィジカルディス タンス」という言葉をこの春から推奨しています。 今回の COVID-19 という感染症を引き起こ すウィルス「SARS-CoV-2」について、生物 学者の福岡伸一氏は、「撲滅することは不可 能」と言っています。「なぜならば、そもそも ウィルスは生物自己由来で体外に飛び出したも のであり、遺伝子の親から子への垂直伝達に 対し、外部から種を超えて遺伝子を水平伝達 することにより生命系全体の動的平衡を保つ。 生命体としての人間が死を免れないのと同じ で、ワクチンや医療の力で今は助かった者もい ずれは必ず死に、SARS-CoV-2もやがては新 型で無くなり常在的な風邪ウィルスになるであろ う」(2020年刊『コロナ後の世界を語る』)とも。 福岡氏の言う「ウィルスが生命系の動的平 衡を保つ動きであり、ピュシス(ギリシャ哲学に おける人間が制御不能な自然)の現れ」であ Beyond COVID-19 社会・都市・建築 ―――― 16 新型コロナウイルスにより もたらされる新しい社会に向けて 日建設計コンストラクション・マネジメント 代表取締役社長 本件についてのお問い合わせ先 日建設計広報室 03-5226-3030 [email protected] 水野 和則 みずの かずのり 「ソーシャルディスタンス」は間違い? ウィルスは撲滅できない? 1984 年:日建設計入社。専門は建築意匠設計。 主に金融機関の拠点ビル、本社ビルの設計・マネジメント業務 に従事。日建設計 バリューマネジメント部門を経て、 日建設計コ ンストラクション・マネジメント株式会社へ。2014 年同社代表取 締役社長に就任。 こうした背景の中で 私たちが今すべきことは何なのでしょうか? ペンギンのソーシャルディスタンス

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持続可能な地球環境の実現へギアをあげよう

環境

コロナ禍というグローバルな課題を共有した

世界。様 な々レベルで人間が殻に閉じこもるブ

ロック化を主としたコロナ対応策が、コロナ禍

の直接的打撃より大きな影響を社会に与えて

います。ひとつ間違えれば社会の分断、格差

拡大の加速、気候変動対策の立ち遅れを生

みかねません。だからこそ Withコロナの時代

においては、コロナ対応とバランスをとりながら

SDGsをはじめ地球規模の課題解決に知恵を

絞らなければならないと考えます。

この半年ばかり「ソーシャルディスタンス」と

いう言葉が世間に流布していますが、文化人

類学者 E・ホールによると、そもそもこの言葉は

「動物が子供を守るための限界距離を意味す

る」(1970 年刊『かくれた次元』)とのことで

す。平たく言うと育児において目の届く距離とい

うことでしょうか。コロナ対策の感染予防には、

個人間の距離をとることが効果的であることを

意図していますが、この言葉が文字通り「社

会的な分断」を生むリスクを孕んでいることも

否めません。

個人の閉じこもりに始まり、地域のブロック化、

国のブロック化が長期化しようとしています。解

決策として ITを駆使したリモート諸策で補おう

としていますが、その限界も見えて来ているよう

に思います。なお、WHO は「フィジカルディス

タンス」という言葉をこの春から推奨しています。

今回の COVID-19という感染症を引き起こ

すウィルス「SARS-CoV-2」について、生物

学者の福岡伸一氏は、「撲滅することは不可

能」と言っています。「なぜならば、そもそも

ウィルスは生物自己由来で体外に飛び出したも

のであり、遺伝子の親から子への垂直伝達に

対し、外部から種を超えて遺伝子を水平伝達

することにより生命系全体の動的平衡を保つ。

生命体としての人間が死を免れないのと同じ

で、ワクチンや医療の力で今は助かった者もい

ずれは必ず死に、SARS-CoV-2もやがては新

型で無くなり常在的な風邪ウィルスになるであろ

う」(2020 年刊『コロナ後の世界を語る』)とも。

福岡氏の言う「ウィルスが生命系の動的平

衡を保つ動きであり、ピュシス(ギリシャ哲学に

おける人間が制御不能な自然)の現れ」であ

Beyond COVID-19 社会・都市・建築 ―――― 16

新型コロナウイルスによりもたらされる新しい社会に向けて

日建設計コンストラクション・マネジメント代表取締役社長

■本件についてのお問い合わせ先日建設計広報室 03-5226-3030 [email protected]

水野 和則みずの かずのり

「ソーシャルディスタンス」は間違い?

ウィルスは撲滅できない?

■1984 年:日建設計入社。専門は建築意匠設計。主に金融機関の拠点ビル、本社ビルの設計・マネジメント業務に従事。日建設計 バリューマネジメント部門を経て、 日建設計コンストラクション・マネジメント株式会社へ。2014 年同社代表取締役社長に就任。

こうした背景の中で私たちが今すべきことは何なのでしょうか?

ペンギンのソーシャルディスタンス

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るとすると、まず私たちがすべきことは、利己

的な活動の抑制と利他的活動の推進ではない

でしょうか?

私たち人間の利己的な活動のせいで、社会

や環境、地球の持続性が危ぶまれています。

今回のウィルス禍もピュシスによる人間の利己

的な活動への警鐘とも見てとれます。世界は

利他的な活動目標でもあるSDGs に向けて動

き出していますが、コロナ禍という世界共通の

課題を共有しているこの機に、同様の共有課

題である持続可能な地球環境に向けての活動

を推進すべきだと思います。

近江商人による「三方よし」という言葉があ

ります。商人として信用を得るために大切にし

ていたのが、「買い手よし、売り手よし、世間よ

し」という精神です。人間間の利己主義を諫

めた言葉ですが、考えてみるといずれも人間に

とっての「よし」です。ここに地球という「一方」

を加えて、「四方よし」にしていかなければなり

ません。

日建グループは「持続可能な都市環境」を

目指しています。フィジカル&ソーシャルディスタ

ンスからなる物理的空間形成、エネルギーを

はじめとする環境形成、材料・資源の活用、

人と人のつながりである社会形成、などあらゆ

る側面において、「もう一段枠を広げ、『持続

可能な地球環境』の達成に向けて尽力せよ」。

「そのためのソリューションを提供し、マネジメン

トしていくべき」との警鐘をこのコロナ禍が与え

ていると思います。(2020 年 10月2日)

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「三方よし」から「四方よし」へ

地球と新型コロナウイルス  写真|(左)©NASA

SDGs(持続可能な開発目標)17の目標

「三方よし」から「四方よし」へ