マレーシア ~バランスの良い産業構造、先進国入りが視野にNovember 13, 2014...

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November 13, 2014 Vol. 7 グローバル・マーケット・ストラテジー・チーム シニアストラテジスト 岸義明 マレーシア ~バランスの良い産業構造、先進国入りが視野に 常収支は黒字基調、財政も緩やかに改善 (出所)Bloombergのデータを基に三菱UFJ投信作成 (年/四半期) マハティール首相(当時)は、日本や韓国の経済発展に倣 う『ルック・イースト政策』などによって、積極的な外資誘致 を行い、経済の重化学工業化や輸出指向型産業の育成な どに注力してきました。 その結果、マレーシアでは製造業の集積が進展し、産業の 裾野が広がり、電気・電子製品を始め様々な製造業の輸 出競争力が上昇しました。これにより、経常収支は財貨輸 出が中心となって黒字を維持しています。 なお、財政については、国営企業や燃料への補助金の増 加や、リーマンショック後の景気刺激策などによって一時悪 化したものの、近年、景気回復などが追い風となって、緩や かに改善しています。 実質GDP(前年比)と寄与度 (注)経常収支は四半期、財政収支は年次(2013年分まで)ベース (年/四半期) (出所)Bloombergのデータを基に三菱UFJ投信作成 経常収支と財政収支(対名目GDP マレーシアは、マハティール政権(19812003年)以降、 産業の高度化が本格化し、1人当たり名目GDP(国内総生 産)は2012年に約1.0万米ドルを超える水準にまで上昇しま した。ASEAN(東南アジア諸国連合)のなかでは、シンガ ポールやブルネイに次ぐ豊かな国となっています。 また、天然ガスやパーム油、天然ゴムなど豊富な天然資源 を有するとともに、電気・電子製品を中心とする製造業、観 光や金融などのサービス業で強みを有し、バランスの取れ た産業構造が特徴となっています。 経済発展により所得水準が上昇している状況下、消費や投 資など内需が成長のけん引役となって、実質GDPは前年 比+5%前後と安定した成長を遂げています。 需主導で5%前後の経済成長が継続 -10 -5 0 5 10 15 06/6 08/6 10/6 12/6 14/6 その他 純輸出 投資 消費 実質GDP (%) -8 -4 0 4 8 12 16 20 -8 -4 0 4 8 12 16 20 06/6 08/6 10/6 12/6 14/6 経常移転 所得 サービス 財貨 経常収支 財政収支(右軸) (10億米ドル) (%)

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  • November 13, 2014

    Vol.7

    グローバル・マーケット・ストラテジー・チーム

    シニアストラテジスト 岸義明

    マレーシア~バランスの良い産業構造、先進国入りが視野に

    常収支は黒字基調、財政も緩やかに改善経

    (出所)Bloombergのデータを基に三菱UFJ投信作成 (年/四半期)

    マハティール首相(当時)は、日本や韓国の経済発展に倣

    う『ルック・イースト政策』などによって、積極的な外資誘致

    を行い、経済の重化学工業化や輸出指向型産業の育成な

    どに注力してきました。

    その結果、マレーシアでは製造業の集積が進展し、産業の

    裾野が広がり、電気・電子製品を始め様々な製造業の輸

    出競争力が上昇しました。これにより、経常収支は財貨輸

    出が中心となって黒字を維持しています。

    なお、財政については、国営企業や燃料への補助金の増

    加や、リーマンショック後の景気刺激策などによって一時悪

    化したものの、近年、景気回復などが追い風となって、緩や

    かに改善しています。

    実質GDP(前年比)と寄与度

    (注)経常収支は四半期、財政収支は年次(2013年分まで)ベース (年/四半期)(出所)Bloombergのデータを基に三菱UFJ投信作成

    経常収支と財政収支(対名目GDP)

    マレーシアは、マハティール政権(1981~2003年)以降、

    産業の高度化が本格化し、1人当たり名目GDP(国内総生

    産)は2012年に約1.0万米ドルを超える水準にまで上昇しま

    した。ASEAN(東南アジア諸国連合)のなかでは、シンガ

    ポールやブルネイに次ぐ豊かな国となっています。

    また、天然ガスやパーム油、天然ゴムなど豊富な天然資源

    を有するとともに、電気・電子製品を中心とする製造業、観

    光や金融などのサービス業で強みを有し、バランスの取れ

    た産業構造が特徴となっています。

    経済発展により所得水準が上昇している状況下、消費や投

    資など内需が成長のけん引役となって、実質GDPは前年

    比+5%前後と安定した成長を遂げています。

    需主導で5%前後の経済成長が継続内

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    その他 純輸出 投資消費 実質GDP

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    経常移転 所得サービス 財貨経常収支 財政収支(右軸)

    (10億米ドル) (%)

  • ローバルでみて、国際競争力、ビジネス環境の高さが安定成長の源泉グ

    (出所)CEICのデータを基に三菱UFJ投信作成 (年)

    歳入・歳出の主要項目と家計・政府の債務残高政再建、債務増大などの課題が散見財

    マレー人を経済的に優遇する『ブミプトラ政策』によって、マ

    レー系と中華系の経済格差は改善しているものの、その弊

    害(≒非効率な経済構造)が散見されます。

    政府部門では、燃料などに対する補助金支出の負担が高

    止まるとともに、国営企業ペトロナスなどからの石油関連収

    入に依存しています。さらに、家計部門では、経済発展に伴

    う購買意欲の高まりなどから、家計債務が拡大しています。

    足下、政府は燃料補助金の削減や物品・サービス税の導

    入(2015年4月から)を決定するなど、財政再建への取り組

    みに着手し始めましたが、今後その動向が注目されます。

    (注)マレーシアのイスラム金融資産残高は年末時点、2014年は8月末時点 (年)2013・14年のイスラム金融の市場規模はKFH Research Ltdの推定・予測値で年末時点

    (出所)UKIFS、Kuwait Finance House Groupの資料を基に三菱UFJ投信作成

    マレーシアの強みは、産業の裾野が広いことや、他の新興

    国と比較して政治が安定し、インフラなどが充実していること

    にあります。さらに、イスラム教徒が中心の多民族国家(約6

    8%がマレー系、約24%が中華系、約7%がインド系)で英

    語が話せる人材が豊富(旧英国植民地の影響)と、グロー

    バル展開を見据えた企業にとって最適地となっています。

    このため、2014年の国際競争力ランキングは世界第20

    位、ビジネス環境は世界第6位と、直近5年間でマレーシア

    のランキングが上昇するなど、これらの要素が安定成長の

    源泉になっていると考えられます。

    イスラム金融の市場規模とマレーシアの資産残高

    アジア主要国の世界ランキング

    世界的にイスラム教徒の人口は増加傾向で、米国調査会

    社によると2030年には約22億人(世界人口の約26%)にま

    で拡大すると言われており、今後、金融を始めイスラムビジ

    ネスは大きな成長が期待されます。

    このような状況下、マレーシア政府は他国に先駆けイスラム

    金融の市場整備を進めるとともに、ハブ構想を掲げており、

    イスラム債券分野などで存在感が高まっています。また、イ

    スラム教の戒律に従って生産される「ハラル」製品について

    も、国家認証機関を設置し、生産拠点を整備するなど、マ

    レーシアハラルのグローバル展開にも注力しています。

    スラムビジネスが本格化イ(出所)世界経済フォーラム「The Global Competitiveness Report 2009-10/2014-15」、

    世界銀行「Doing Business2009/2014」のデータを基に三菱UFJ投信作成

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    イスラム金融の市場規模(右軸)

    マレーシアのイスラム金融資産残高

    (兆米ドル)(10億マレーシアリンギット)

    5年前 5年前

    シンガポール 2位 3位 シンガポール 1位 1位

    日本 6位 8位 香港 2位 4位

    香港 7位 11位 マレーシア 6位 20位

    台湾 14位 12位 韓国 7位 23位

    マレーシア 20位 24位 台湾 16位 61位

    韓国 26位 19位 タイ 18位 13位

    中国 28位 29位 日本 27位 12位

    タイ 31位 36位 中国 96位 83位

    インドネシア 34位 54位 ベトナム 99位 92位

    フィリピン 52位 87位 フィリピン 108位 140位

    ベトナム 68位 75位 インドネシア 120位 129位

    インド 71位 49位 インド 134位 122位

    2014年2014年ビジネス環境国際競争力

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    家計債務残高(右軸)政府債務残高(右軸)石油関連収入(対歳入)補助金支出(対歳出)

    (%) (10億マレーシアリンギット)

  • スカンダル計画が本格的に始動イ

    クアラルンプール市内の都市交通開発

    ローバル都市を目指した開発が進展中グ 現ナジブ政権は、成長と発展を促進するために12の主要分野(金融、観光、パーム油、首都圏の開発など)を中

    心に強化していく経済改革プログラムなど、2020年までに先進国入りに向けたロードマップを発表しています。

    なかでも、首都圏の開発は、都市化が進展するなか『大クアラルンプール』計画として、世界的に競争力を有する

    都市に変革するため、都市交通などインフラ開発を進めており、今後の経済成長を下支えしていくとみています。

    レジャー・住居エリアの開発状況

    (出所)筆者撮影(マレーシア出張:2014年8月19~20日)

    シンガポールと国境を接するジョホールバル州(東京都の面積に相当)を、マレーシア・シンガポール政府が一体

    となって大規模な開発を行う『イスカンダル計画(2025年を目標)』が進展しています。

    2018年にはジョホールバル州とシンガポールを結ぶ都市鉄道が、2020年にはクアラルンプールとシンガポールを

    結ぶ高速鉄道が開通予定となるなど、今後、利便性の向上から目覚ましい発展が期待されます。

    (出所)筆者撮影(マレーシア出張:2014年8月19~20日)

    (出所)イスカンダル地域開発庁のデータを基に三菱UFJ投信作成 (年)

    (出所)CEICのデータを基に三菱UFJ投信作成 (年)

    (出張トピックス①)

    (出張トピックス②)

    主要用途別投資額(累積ベース)

    人口と都市化率

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    1961 1974 1987 2000 2013

    人口

    都市化率(右軸)

    (万人) (%)

  • 替:外貨準備などが下支えし、底堅く推移為

    (注)株価は日次、名目GDPは年次(2014年はIMF(国際通貨基金)予想)ベース(出所)Bloomberg、IMFのデータを基に三菱UFJ投信作成 (年/月/日)

    クアラルンプール総合株価指数と名目GDP価:名目GDPに連動して上昇株

    クアラルンプール総合株価指数は、リーマンショック時に大

    きく乱高下したものの、その後、安定的な名目GDPの増加

    (≒経済成長の継続)に伴い、上昇しています。

    同国の株式市場は、金融や製造業、公益セクターの構成

    比が高いという特徴を有するなか、今後も、電気・電子製品

    を中心とする製造業、および金融や観光などのサービス業

    の拡大に加えて、2020年の先進国入りを目指したインフラ

    開発も活発化していくことなどを受け、株価は堅調に推移し

    ていくと考えています。

    (注)債券利回りは日次、CPIは月次ベース(2014年9月分まで)(出所)Bloombergのデータを基に三菱UFJ投信作成 (年/月/日)

    過去10年間のマレーシアリンギット(対米ドル)は、外貨準備

    高の増加に連動して堅調に推移してきたものの、リーマン

    ショックによる大幅な調整以降、南欧諸国の債務問題や米

    国での金融緩和縮小観測の高まりなどにより、足下、上値

    が重い展開となっています。

    今後も、ブミプトラ政策による非効率な経済構造や、増大す

    る債務などが重石となっていくものの、豊富な外貨準備高

    や安定した経済成長、財政再建への取り組みなどが下支え

    となって、マレーシアリンギットは底堅く推移していくと考えて

    います。

    10年国債利回りとCPI(消費者物価指数・前年比)

    マレーシアリンギット(対米ドル)と外貨準備高

    マレーシアの10年国債利回りは、過去10年間、4~5%台

    で推移するなど、概ね安定しています。これは、ファンダメン

    タルズ(経済の基礎的条件)が良好で、主要格付機関から

    『A』ランクの格付けが付与されていることなどが背景にあり、

    今後も安定的に推移すると考えています。

    また、インフレ率(消費者物価指数・前年比)についても、

    リーマンショック時を除くと、概ね2~4%と安定しています。

    近年、堅調な経済を背景に住宅など一部の品目で上昇し

    たものの、足下、金融引き締めなどによって落ち着いてお

    り、今後も安定して推移していくとみています。

    券利回り:4~5%台で安定的に推移債

    (注)株価は日次、外貨準備高は月次(2014年9月分まで)ベース(出所)Bloombergのデータを基に三菱UFJ投信作成 (年/月/日)

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    対米ドル外貨準備高(右軸)

    (マレーシアリンギット・逆目盛) (10億米ドル)

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    名目GDP(右軸)クアラルンプール総合指数

    (ポイント) (10億マレーシアリンギット)

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