海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer...

86
公益財団法人 公正取引協会 発行 http: // www.koutori-kyokai.or.jp (2013 年4月~ 2014 年3月) No. 37 2014 年6月

Transcript of 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer...

Page 1: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

公益財団法人 公 正 取 引 協 会 発行

http://www.koutori-kyokai .or. jp

海 外 ニ ュ ー ス

(2013年4月~ 2014年3月)

No.37

2014年6月

Page 2: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに
Page 3: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

I

目 次

速報海外ニュース 2013 年 143 号(平成 25 年 4 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

1 FTC、モトローラ所有の不可欠標準特許を根拠とする差止訴訟の取下げを命じる

(2013年 1月 3日)

(1)

2 第 3巡回控訴裁判所、外国の製薬会社は米国製薬市場での反競争的行為に対する

提訴権を有さないとする判決を言い渡す(2013年 1月 23日)

(2)

3 ワシントン DC 地区地裁、ヤマトグローバルがカルテルに関与したとして 232 万

ドルの罰金を科す(2013年 1月 25日)

(3)

○ 欧州競争法の最近の動向

1 欧州委員会、UPS による TNT Expressの買収を阻止(2013年 1月 30日)

(45)

2 欧州委員会、鎮痛剤後発品市場への参入遅延を理由に J&J と Novartis に対し異

議告知書を送付(2013 年 1月 31日)

(46)

速報海外ニュース 2013 年 144 号(平成 25 年 5 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

4 第 6巡回控訴裁判所、オハイオ州地方自治体を巡る談合事件で提訴却下判決を言

い渡す(2012年 12月 18日)

(4)

5 最高裁、ジョージア州の郡病院公社による病院取得は州行為免責法理に基づく適

用除外を受けるものではないとする判決を言い渡す(2013年 2月 19日)

(6)

6 第 3巡回控訴裁判所、巨額な代替配分を容認したクラスアクションの和解協定を

却下する判決を言い渡す(2013年 2月 19日)

(7)

○ 欧州競争法の最近の動向

3 欧州委員会、Ryanair による Aer Lingusの買収計画を阻止(2013年 2月 27日)

(47)

4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

対し制裁金を賦課(2013年 3月 6日)

(49)

Page 4: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

II

速報海外ニュース 2013 年 145 号(平成 25 年 6 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

7 第 11巡回控訴裁判所、テレビ視聴率調査会社 Nielsenに対する独占行為訴訟を棄

却(2013年 3月 4 日)

(8)

8 司法省、知的財産国際取引所に対しビジネスレビュー・レターを発出(2013 年 3

月 26日)

(10)

9 最高裁、ケーブル最大手コムキャストに対するクラスアクションを却下する判決

を言い渡す(2013 年 3月 27日)

(11)

○ 欧州競争法の最近の動向

5 欧州委員会、Bertelsmann と Pearson の出版事業の統合による Penguin Random

Houseの設立を承認(2013年 4月 5日)

(50)

6 欧州委員会、Penguin から提案のあった電子書籍の販売に関する改善措置につい

て市場テストを実施(2013年 4月 19日)

(51)

速報海外ニュース 2013 年 146 号(平成 25 年 7 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

10 FTC、頭髪再生医療提供者に対し情報交換活動の禁止命令を発出(2013 年 4 月 8

日)

(13)

11 ミシガン州東部地区地裁、パナソニックに対する州反トラスト法上の訴えを却下

(2013年 4月 9日)

(13)

12 第 9巡回控訴裁判所、全米天然ガス法の州反トラスト法に対する優先適用を否定

する判決を言い渡す(2013年 4月 10日)

(15)

○ 欧州競争法の最近の動向

7 欧州委員会、Motorola Mobilityに対し、携帯電話の不可欠標準特許の潜在的濫

用を理由に異議告知書を送付(2013年 5月 6日)

(52)

8 欧州委員会、EEA における二大ソフト合金成形機製造会社である Hydro と Sapa

による JVの設立を条件付承認(2013年 5月 13日)

(53)

Page 5: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

III

速報海外ニュース 2013 年 147 号(平成 25 年 8 月 5 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

13 司法省、デンソー幹部 2名が自動車部品を巡る入札談合に参加したとして有罪を

認めたと公表(2013年 5月 21日)

(16)

14 第 4巡回控訴裁判所、ノース・カロライナ州歯科医師試験委員会は州政行為免責

法理による適用除外を受けないとする判決を言い渡す(2013年 5月 31 日)

(17)

15 最高裁、医薬品を巡る特許侵害訴訟の和解協定に対し合理の原則が適用されると

の判決を言い渡す(2013年 6月 17日)

(18)

○ 欧州競争法の最近の動向

9 欧州委員会、スター・アライアンス加盟会社であるエアカナダ、ユナイテッド、

ルフトハンザによる大西洋横断航空輸送市場に関する措置案に法的拘束力を付

与(2013年 5月 23日)

(54)

10 欧州委員会、後発医薬品の市場参入を遅らせたことを理由に Lundbeck その他の

製薬会社に対し制裁金を賦課(2013年 6月 19日)

(55)

速報海外ニュース 2013 年 148 号(平成 25 年 9 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

16 ミシガン州東部地区地裁、自動車部品談合事件の私訴で訴訟の続行を容認する判

決を下す(2013年 6月 6日)

(20)

17 第 1巡回控訴裁判所、リサイクル業者を標的とした共同ボイコット事件で訴訟の

続行を容認する判決を言い渡す(2013年 6月 19日)

(21)

18 ニューヨーク州南部地区地裁、アップルが電子書籍の共謀で首謀者の役割を担っ

たとする判決を下す(2013年 7月 10日)

(22)

○ 欧州競争法の最近の動向

11 欧州委員会、カルテル和解手続により、ワイヤーハーネス製造業者に対し総額

1億 4100万ユーロの制裁金を賦課(2013年 7月 10日)

(56)

12 欧州委員会、Craneによる MEIの買収を条件付承認(2013年 7月 19日)

(58)

Page 6: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

IV

速報海外ニュース 2013 年 149 号(平成 25 年 10 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

19 司法省、リチウム電池談合に関し三洋電機が有罪答弁及び 1073 万 1 千ドルの罰

金支払に同意したと公表(2013年 7月 18日)

(23)

20 ミシガン州東部地区地裁、パナソニックが自動車部品談合に関与したとして 4580

万ドルの罰金刑を科す(2013年 8月 5日)

(24)

21 司法省、アメリカン航空と US エアウェイズの合併阻止へと提訴(2013 年 8 月 1

日)

(25)

○ 欧州競争法の最近の動向

13 欧州委員会、米国の Baxterによるスウェーデンの医療技術会社 Gambro の買収を

条件付承認(2013 年 7月 22日)

(58)

14 欧州委員会、 US エアウェイズとアメリカン航空の持株会社である AMR

Corporationの合併を条件付承認(2013年 8月 5日)

(59)

速報海外ニュース 2013 年 150 号(平成 25 年 11 月 11 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

22 第 9巡回控訴裁判所、アップルがデジタル音楽販売市場において独占力を形成し

たとする提訴を却下する判決を下す(2013年 9月 3日)

(26)

23 連邦大陪審、G.S.エレテック幹部が自動車のアンチロック・ブレーキ・システム

の部品を巡る談合に関与したとして起訴(2013年 9月 11日)

(28)

24 テキサス州東部地区地裁、特許侵害は排除行為に該当し得るとする判決を下す

(2013年 9月 9日)

(29)

○ 欧州競争法の最近の動向

15 欧州委員会、Telefónica、CaixaBank、Banco Santander による電子商取引 JV

の設立を承認(2013年 8月 14日)

(60)

16 欧州委員会、スウェーデンの Nynasによる Shellの Harburg石油精製施設の買収

を承認(2013年 9 月 2日)

(62)

Page 7: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

V

速報海外ニュース 2013 年 151 号(平成 25 年 12 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

25 連邦大陪審、フジクラ幹部 2名が自動車用ワイヤーハーネスを巡る談合に関与し

たとして起訴(2013年 9月 19日)

(30)

26 第 10 巡回控訴裁判所、マイクロソフトの取引拒絶は合法とする判決を言い渡す

(2013年 9月 23日)

(31)

27 司法省、日系自動車部品メーカー9 社から有罪答弁を得たと公表(2013 年 9 月 26

日)

(32)

○ 欧州競争法の最近の動向

17 欧州委員会、Vodafone によるドイツのケーブル事業者 Kable Deutschland の買

収を承認(2013年 9月 20日)

(63)

18 欧州委員会、サーモン養殖事業者 Marine Harvestによるサーモン加工業者 Morpol

の買収を条件付承認(2013年 9月 30日)

(65)

速報海外ニュース 2014 年 152 号(平成 26 年 1 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

28 司法省、自動車部品メーカー・タカダから有罪答弁を得たと公表(2013 年 10月 9

日)

(33)

29 第 11 巡回控訴裁判所、Atlanticus が再度提起したシャーマン法違反訴訟を棄却

(2013年 10月 28 日)

(34)

30 司法省、アメリカン航空と US エアウェイズとの合併の計画を承認(2013 年 11 月

12日)

(36)

○ 欧州競争法の最近の動向

19 欧州委員会、Refrescoによる Pride Foodsの取得を条件付承認(2013年 10月 4日)

(66)

20 欧州委員会、Aegean航空による Olympic Airの買収を承認(2013年 10月 9日)

(67)

Page 8: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

VI

速報海外ニュース 2014 年 153 号(平成 26 年 2 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

31 司法省、自動車部品大手タカタの幹部 3名が有罪答弁を行うことに同意したと公

表(2013年 11月 21日)

(37)

32 連邦大陪審、日系企業の幹部 2名が自動車用防振ゴムを巡る談合に関与していた

として起訴(2013 年 11月 21日)

(38)

33 カリフォルニア州北部地区地裁、防衛的特許アグリゲーターに対する反トラスト

訴訟の続行を容認する判決を下す(2013年 12月 3日)

(39)

○ 欧州競争法の最近の動向

21 欧州委員会、価格カルテルを理由に北海産エビ取引事業者 4 社に 2800 万ユーロ

の制裁金を賦課(2013年 11月 27日)

(68)

22 欧州委員会、鎮痛剤 Fentanyl のジェネリックの市場参入を遅らせたことを理由

に Johnson & Johnson と Novartis に 1600 万ユーロの制裁金を賦課(2013 年 12

月 10日)

(69)

速報海外ニュース 2014 年 154 号(平成 26 年 3 月 10 日)

○ 米国反トラスト法の最近の動向

34 司法省、自動車部品メーカー・東洋ゴム工業が有罪答弁を行うことに同意したと

公表(2013年 11月 26日)

(41)

35 カリフォルニア州北部地区地裁、アップルが iPhone 用アプリ市場で独占行為を

行ったとする訴えを却下する判決を言い渡す(2013年 12月 2日)

(42)

36 第 6 巡回控訴裁判所、飲用乳を巡る共謀事件で被告勝訴の略式判決を覆す(2014

年 1月 3日)

(43)

○ 欧州競争法の最近の動向

23 欧州委員会、金利デリバティブのカルテルに参加した金融機関に対し、総額 17

億 1000万ユーロの制裁金を賦課(2013年 12月 4日)

(70)

24 欧州委員会、ドイツ国内における車両駆動用電力の料金に関する Deutsche Bahn

による法的拘束力を持つ問題解消措置を承認(2013年 12月 18日)

(72)

※ 本文中の制裁金等の日本円換算額は速報海外ニュースの掲載時の外国為替レートをも

とに計算したものである。

Page 9: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

米国反トラスト法の最近の動向

Page 10: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに
Page 11: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 1 -

米国反トラスト法の最近の動向

1 FTC、モトローラ・モビリティに対し同社所有の標準必須特許に基づく差止訴

訟の提起を禁止(2013 年 1 月 3 日)1

FTC は 1 月 3 日、グーグルが買収したモトローラ・モビリティによって所有されている

標準必須特許(standard-essential patents)について、グーグルに対して、潜在的な

ライ セ ンシ ー が 公正 、合 理 的か つ 無 差別 的な (fair, reasonable and non-

discriminatory; FRAND)条件でそれをライセンスする意思があるとすれば、差止訴訟

を提起せず、FRAND 条件でライセンス許諾をする旨を申し出るよう命じた。

被審人・モトローラ・モビリティは、2 万 4 千以上の特許及び出願中の特許を有す

る電気通信産業における大手のメーカーである。同社は、欧州電気通信標準化機構

(ETSI)、米国電気電子学会(IEEE)、国際電気通信連合(ITU)などの電気通信関連の標準

化団体に加入している。これらの団体は、とりわけスマートフォン(多機能携帯電話)

やタブレット端末などの情報通信機器に使用される無線通信・無線 LAN 規格を標準化

している。そこで、モトローラ・モビリティが同社所有の標準必須特許を FRAND 条件

でライセンスすることを約束(コミット)したのを受け、これらの団体は当該特許を

それらの規格に導入した。

その後、モトローラ・モビリティは、それらの規格に適合する製品を製造販売して

いるアップルやマイクロソフトに対して高額なロイヤリティーを請求した。しかし、

これらの企業は同請求に応じなかった。

このことから、モトローラ・モビリティは、特許侵害を主張し、連邦裁判所におい

て競合製品の販売差止の訴訟を提起し、また国際貿易委員会(International Trade

Commission)において輸入差止の申立てを行った(速報海外ニュース 138 号(海外ニュース

36 号 29 頁)参照)。2012 年 5 月に被審人・グーグルがモトローラ・モビリティを買収し

た後、グーグルは引き続き当該訴訟等を続行した。

本年 1 月 3 日、FTC は、4 対 1 の評決で、(1)グーグルとモトローラ・モビリティの

両者が FTC 法 5 条に違反し、機会主義的(opportunistically)に標準必須特許に基づく

訴訟を続行していると訴え、(2)両者に対し標準化プロセスを害する当該行為を取り

止めるよう命じた。

具体的に、(1)申立書で FTC は、モトローラ・モビリティがそれぞれの標準化団体に

対し標準必須特許を FRAND 条件でライセンスすることを約束したが、当該特許がそれ

ぞれの規格に導入された後、同社、また同社買収後においてはグーグルが、機会主義

的に販売差止訴訟等を繰り広げたと主張した。申立書によると、①当該行為は、機会

主義的に標準化プロセスの無欠性及び効率性を損ね、代替的製品の排除を通じて消費

者に害をもたらすおそれがある。したがって、当該行為は、独占行為に至らないにし

ても(本件行為は、いわゆる特許ホールドアップではあるが、その本質が高価格の強要で

あるが故、排除行為を要件とするシャーマン法 2 条では禁じにくい行為であると思われ

る)、「不公正な競争方法」に該当するとされている。

また、申立書によると、②当該行為は、最終消費者に実質的な害を与える蓋然性が

1 In the Matter of Google Inc., FTC File No. 121-0120 (Jan. 3, 2013).

Page 12: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 2 -

あり、消費者自体が当該害を合理的に回避することができず、また当該害には打ち消

しうる利益がない。それ故に同行為は「不公正な行為又は慣行」にも該当するとされ

ている。

なお、(2)同意命令案で、FTC は、グーグルに対して、①潜在的なライセンシーが FRAND

条件で標準必須特許をライセンスする意思があるならば、販売差止訴訟を提起せずに、

②FRAND 条件でライセンス許諾をする旨を申し出るよう命じた。また、同意命令案に

よると、グーグルは、FRAND 条件の決定に当たり、潜在的なライセンシーに対して、

標準必須特許のライセンス条件を提示し、交渉しなければならない。交渉によって合

意が得られない場合には、条件の決定を仲裁判断に委ねることを提案しなければなら

ない。また同潜在的ライセンシーが裁判所にライセンス条件の決定を求めた場合でも、

販売差止訴訟を起こしてはならない。

FTC は本日より 30 日間、同意命令案などに係るパブリック・コメントを募集してい

る。その後には、同意命令案を最終的に受け入れるか否かという FTC の最終判断が予

定されている。

2 第 3 巡回控訴裁判所、外国の製薬会社は米国製薬市場での反競争的行為に対

する提訴権を有さないとする判決を言い渡す(2013 年 1 月 23 日)2

第 3 巡回控訴裁判所は 1 月 23 日、被告(被控訴人)製薬大手 Abbott(米国)が後発品製

薬会社 Reliant(米国)を相手取って起こした特許侵害訴訟を解決するための和解協定

に関し、それが反競争的であるとして訴えた原告(控訴人)Ethypharm(フランス)が原告

適格を有さないと判示し、地裁判決を覆した。Ethypharm は高脂血症治療 TriCor(ブ

ランド名)の製造販売に必要となるライセンスを Reliant に付与している。

本件の被告は、高脂血症治療で使用されるフェノフィブラートを有効成分とする

TriCor を米国において製造販売している。被告は、TriCor を製造販売するに当たり、

Fournier(フランス)より専用実施権の許諾を受けている。TriCor は、フェノフィブラ

ートを微粉化してその溶解性を改善し、吸収率を向上させる錠剤である。同錠剤の製

剤方法には特許が付与されている。

他方、原告は、若干異なる製剤方法でフェノフィブラートの錠剤を調製するブラン

ド薬 Antara を開発した。2001 年に原告は、Reliant に対して、Antara を米国で販売

するために必要となる許認可を求める権利、及び米国で Antara を販売する権利(排他

的ライセンス)を与えた。

同ライセンスに基づき、Reliant は、Antara が、①全く新しい新薬ではなく、②単

なるジェネリック薬でもないことを理由に、食品医薬品局に対して、連邦食品医薬品

法(21 U.S.C§355(b)(2))に基づき、第 3 種目の方法による新薬申請を行った。具体的

に、Reliant は、TriCor の臨床試験結果を参照し、TriCor と Antara との違いが Antara

の安全性及び薬効性に影響を与えていないと示すに足りるデータを同局に対し提出し

た。

また、Reliant は、TriCor の特許が無効であり、又は侵害されていないことに確信

2 Ethypharm S.A. France v. Abbott Laboratories, No. 11-3602 (3rd Cir. Jan. 23,

2013).

Page 13: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 3 -

を持っている趣旨の宣言書を食品医薬品局に提出しかなかった。同社は、その代わり

に、TriCor の特許が侵害されておらず、あるいは執行不能であることを宣言する判決

を下すようデラウエア州地区地裁に求めた。同社によると、Antara の溶解速度が

TriCor のそれよりも遅いために特許侵害がない。また Fournier が特許庁に対し、特

定の溶解速度データを提出したところ、それと一貫していない他のデータを欺瞞的に

提出しなかったため、当該特許は執行不能である。

これに対して、被告は特許侵害を主張し、反訴を提起した。2006 年 4 月、Reliant

と被告との間で和解が成立した。具体的に、被告は、Reliant に対して当該特許の通

常実施権を許諾することを約した。他方、Reliant は、被告に対して売上高の 7%をロ

イヤリティーとして支払い、また当該実施権を譲渡する場合には特定の有力な製薬会

社らに対し譲渡しないことを約した。

数か月後、Reliant は、Antara の販売権を同社が譲渡してもよい、より小規模な製

薬会社 Oscient に売却した。しかし、2009 年に Oscient は Antara の販売を中止し、

破産を申請した。

2008 年 3 月、原告は、被告がシャーマン法に反して、特許侵害を見せかける濫訴を

提起し、その上、それを解決する反競争的な和解協定をも締結したと主張し、デラウ

エア州地区地裁に提訴した(速報海外ニュース 126 号(海外ニュース 35 号 23 頁)参照)。

これに対して、被告は提訴却下を求める申立てをした。

2009 年 2 月、同地裁は、原告が原告適格を有する等と判示し、申立棄却判決を言い

渡した。同地裁によると、排他的ライセンスの付与を通じて米国市場において競争を

していた原告は、反トラスト法上の損害を被っており、また原告が被った損害は十分

に直接的であった。

控訴審において、本年 1 月 23 日、第 3 巡回控訴裁判所は、地裁判決を覆す判決を言

い渡した。判旨は以下のとおりである。

原告は、反トラスト法上の損害を被っていないため、原告適格を有していない。一

般論として、競争制限が行われた市場における消費者及び競争者のみが反トラスト法

上の損害を被る。

本件において、原告は、消費者ではなく、また米国市場での販売のための許認可を

求めなかったため、競争者でもなかった。この点、原告は、米国製薬市場で競争をす

るためのリスクと費用を Reliant に負担させる一方、Reliant が競争に負けたとすれ

ば、米国反トラスト法に基づく訴えを提起することができない。

これらの理由により、同巡回控訴裁判所は、原告は反トラスト法上の損害を被って

いないため、原告適格を有さないと判示し、同地裁判決を覆した。

3 ワシントン DC 地区地裁、ヤマトグローバルが価格カルテルに関与したとして

232 万ドルの罰金を科す(2013 年 1 月 25 日)3

ワシントン DC 地区地裁は 1 月 25 日、米国向け国際航空貨物の輸送料金を巡るカル

テルに関与したとして有罪を認めた被告・ヤマトグローバルに対し、232 万 6 千 774

ドル(約 2 億 1638 万円、1 ドル=93 円)の罰金を科す旨の判決を言い渡した。

3 U.S.A. v. Yamato Global Logistics, No. 12-cr-206 (D.C.D.C. Jan. 25, 2013).

Page 14: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 4 -

本件の被告は、東京に本社を置くエア・フレート・フォワーダーである。エア・フ

レート・フォワーダーとは、不特定多数の荷主から貨物を集め、同貨物を飛行機で輸

送するための輸送契約を航空会社と結び、また輸出入通関手続等を行う、輸送業者の

ことである。被告はとりわけ、日本発米国向けの航空貨物輸送業務を行っている。ま

た被告は、当該業務を実施する対価として、航空運賃に加え、燃料費の高騰のために

課せられる燃料サーチャージ、湾岸戦争勃発以降に課せられた戦争リスク・サーチャ

ージ、及び NY 同時多発テロ以降に課せられたセキュリティ・サーチャージを含む輸送

料金を荷主から徴収している。

本件において、司法省は、エア・フレート・フォワーダー業界において価格カルテ

ルが行われている疑いがあるとみて捜査を行った。捜査の結果、被告が司法取引に応

じ、有罪を認めた。司法取引の一環として、(1)被告取締役会は昨年 6 月、有罪答弁を

行うことに関する承認決議をした。また、(2)司法省は昨年 9 月、当該カルテルに関与

したとして被告をワシントン DC 地区地裁に略式起訴した。(3)本年 1 月 25 日、司法

省と被告は有罪答弁協定書を締結し、また(4)同日、司法省は同協定書を同地裁に提出

した。

略式起訴状によると、被告および日本の他のエア・フレート・フォワーダーらは、

遅くとも 2002 年 9 月から 2007 年 11 月までの間、本件カルテルに関与していた。ま

た、上記企業らは、本件カルテルを形成し、実施するため、(1)日本発米国向けの貨物

輸送料金のうち上記サーチャージ等について話し合うフォワーダーの会合に出席し、

(2)それらの会合で同料金の一部分を決定し、(3)同決定に従い、同料金を請求し、ま

たそれに見合う対価を受け取り、(4)同決定の遵守を監視し、また実効性を確保した。

また、同有罪答弁協定書によると、被告は、大陪審の審理を受ける権利を放棄して

有罪答弁を行うこと、232 万 6 千 744 ドル(約 2 億 1638 万円)の罰金を支払うこと、司

法省の捜査に全面的かつ継続的に協力することに同意した。これと引き換えに、司法

省は、被告及び、1 名を除き被告の従業員を余罪で追起訴しないことに同意した。

上記罰金額は、量刑ガイドラインに基づき、被告の有責性(被告が 200 人以上 1000 人

以下の従業員を雇っていること等)を勘案して算出されたものである。なお、軽減要因

又は加重要因については、算出された罰金額からの乖離を正当化するような、量刑ガ

イドライン策定時において十分考慮されなかった要因はない。

本年 1 月 25 日、同地裁は、提出された同有罪答弁協定書を承認し、勧告された内容

どおりの罰金刑を科した。

4 第 6 巡回控訴裁判所、オハイオ州地方自治体を巡る談合事件で提訴却下判決

を言い渡す(2012 年 12 月 18 日)4

第 6 巡回控訴裁判所は 12 月 18 日、被告 Morton が談合を繰り返したとして、原告・

オハイオ州の自治体が、違法行為の差止めを請求した訴訟の控訴審で、提訴却下を下

した地裁判決を承認した。訴状には合意が存在するというシナリオに真実味を持たせ

るに足りる十分な具体的事実が主張されていないとされた。

4 Erie County, Ohio, et al. v. Morton Salt, Inc., No. 11-4153 (6th Cir. Dec. 18,

2012).

Page 15: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 5 -

本件の被告(被控訴人)Morton は、イリノイ州シカゴ市に本拠を置き、オハイオ州に

面するイーリー湖界隈の塩鉱で岩塩を採掘する事業者である。また被告 (被控訴

人)Cargill は、オハイオ州ノース・オルムステッド市に本拠を置き、イーリー湖界隈

などの塩鉱で岩塩を採掘する事業者である。岩塩は、冬に凍結した路面を解かすため

に使用されるものである。被告両社は、とりわけ、オハイオ州運輸省及びオハイオ州

北部に位置する原告(控訴人)54 の地方自治体に岩塩を供給している。

オハイオ州議会は、公共調達において州内の商品の優先調達を義務付けているバイ

オハイオ法(Buy Ohio Law)を制定した。同法によると、オハイオ州運輸省は、岩塩の

調達に係る入札において、州内で採掘された岩塩の供給者(岩塩採掘会社)が 2 社以

上存在する場合、それらの最も低い応札価格が州外で採掘された岩塩の供給者(岩塩

採掘会社)の最も低い応札価格よりも 5%以上高くなければ、当該最も低い応札価格

を提示した州内の岩塩採掘会社を落札者としなければならない。しかし、同州運輸省

は、同法を誤って適用し、州内の岩塩採掘会社が 2 社以上存在すれば、州外の岩塩採

掘会社の応札価格に関わらず、最も低い応札価格を提示した州内の岩塩採掘会社を落

札者としていた。なお原告らには同法が適用されない。

2008 年に岩塩の購入価格が高騰したことを背景に、オハイオ州知事は、同州会計検

査官(Inspector General)に対して、価格高騰の原因を調査するよう依頼した。2011 年

1 月に同検査官は報告書を公表した。

同報告書は、次の事実関係を根拠に被告両社が市場分割や顧客割当を行っていたと

結論付けた。(1)両被告の市場シェアは比較的安定的であった。(2)それぞれの被告は、

過去において落札できた自治体の入札で、繰り返し落札していた。(3)それぞれの被告

は、輸送コストに関わらず、過去において落札できた自治体の入札で、より低い価格

で応札し、過去において落札できなかった自治体の入札で、より高い価格で応札して

いた。(4)それぞれの被告は、落札することを予定にしていない自治体の入札において

は、あえて負けるために入札に参加したといえる程の高い価格で応札していた。(5)被

告両社の収益と、それらの応札価格は著しく高かった。これに加え、同報告書は、同

運輸省職員が妥当性に疑いのあるような贈り物を受け取っていたと指摘した。

2011 年 1 月、オハイオ州北部に位置する 54 の地方自治体を代表し、被告らを相手取

るクラスアクションがオハイオ州イーリー郡通常事件州裁判所に提起された。訴状で、

原告団は、同報告書で述べられている事実関係を根拠に市場分割、顧客割当が行われて

いたことを推定することができると主張した。

これに対して、被告らは、州籍相違を根拠に本件をオハイオ州北部地区連邦裁判所に

移送した。その後、被告らは提訴却下を求める申立てをした。これに対して、同連邦裁

判所は、訴状における事実主張が不十分であると判示し、申立容認判決を下した。

控訴審において、2012 年 12 月 18 日、第 6 巡回裁判所は、要旨以下の様に述べ、地

裁判決を承認した。

(1)、(2)及び(5)の事実関係は単に市場の状況を示すものに過ぎず、被告らの行為に

ついて述べているものではない。これに対して、(3)の事実関係は、縄張り争いを防ぐ

行為を示しているが、これは既存の収益を保持するためのごく自然な単独行為を示し

ているに過ぎない。

Page 16: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 6 -

しかし、(4)の事実関係は、入札に参加しないで相互に競争しないということとは異

なり、あえて高い価格で応札することにより、他方の被告が落札できるよう積極的に

手助けしている行為を示している。同州運輸省の同法の誤った適用がなかったとすれ

ば、このような共謀は、非常に維持しにくかったであろう。しかし、原告らには同法

を遵守する義務が無かった。よって、一方の被告が意図的に高い価格で応札したとし

ても、他方の被告が落札できたという保証は無かった。これらを考慮すると、合意が

存在するというシナリオに真実味を持たせるに足りる十分な具体的事実が示されてい

ない。

これらの理由により、同巡回控訴裁判所は、本件提訴を却下した地裁判決を承認す

る判決を言い渡した。

5 最高裁、ジョージア州の郡病院公社による病院取得は州行為免責法理に基づ

く適用除外を受けるものではないとする判決を言い渡す(2013 年 2 月 19 日)5

最高裁は 2 月 19 日、ジョージア州病院公社法(Hospital Authorities Law)が同州内

の郡の病院公社に対し一般的な権限しか委任していないため、同法はそれらの病院公

社による反競争的な病院取得までを容認していないと判示した。よって、被告(被上告

人)Albany-Doughterty 郡病院公社による Palmyra Park 病院の取得は州行為免責法理

(state-action doctrine)に基づく適用除外を受けるものではないと結論付け、控訴審

判決を覆した。

本件で問題となった南部州ジョージアの病院公社法は、同州内の各地方自治体に対

し、病院公社を設立する権限を付与しており、また同病院公社に対し、病院の取得、

リースなど一定の取引を行う権限を委任している。

同法に基づき、1941 年にジョージア州 Dougherty 郡及び Albany 市は、Albany-

Dougherty 郡病院公社を設立し、当該病院公社は、同郡内の Phoebe Putney 病院を取

得した。その後、当該病院公社は非営利団体 Phoebe Putney Health Systems を設立

し、それに Phoebe Putney 病院をリースした。2011 年 4 月、当該病院公社は、当該郡

内に所在する Palmyra Park 病院を取得して、Phoebe Putney Health Systems にそれ

をリースする、という計画を承認した。

2011 年 4 月 19 日、原告(上告人)FTC は、当該取得が実施されれば、クレイトン法 7

条に違反し、ジョージア州 Dougherty 郡及びその周辺郡における一般急性期治療サー

ビスの市場において事実上の独占がもたらすおそれがあると主張し、審判手続を開始

した。翌日、FTC は、審決が確定するまでの間、当該取得の実行を阻止するため、FTC

法 13 条b項に基づき、予備的差止訴訟をジョージア州中部地区地裁に提起した。な

お、原告(上告への参加なし)ジョージア州も FTC と共同で当該訴訟を提起した。

2011 年 6 月、同地裁は、当該取得は事実上の独占をもたらすものであると認定した

が、州行為免責法理に基づき連邦反トラスト法の適用が除外されると判示し、本件提

訴を却下した。

2011 年 12 月、控訴審において、第 11 巡回裁判所は、同州の過疎地の状況を考慮に

入れれば、同州議会は病院公社法を制定したとき、病院の取得によって競争減殺効果

5 FTC v. Phoebe Putney Health System, No. 11-1160 (U.S. Feb 19, 2013).

Page 17: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 7 -

が生じる可能性が高いと思ったに違いないと判示し、同地裁判決を承認した(速報海外

ニュース№129(海外ニュース 35 号 33 頁)参照)。

本年 2 月 19 日、上告後、最高裁は、要旨以下の様に述べ、控訴審判決を覆した。

連邦主義に基づき主権を有する州は、州内取引規制の一環として州行為として競争

制限手段を用いることができる。また州の下部組織も、州自体が明確に打ち立て、ま

た肯定的に表明したという州政策に基づき行動をした場合、この適用除外を受けるこ

とができる。適用除外を受けるため、委任された権限の行使が反競争的効果をもたら

す可能性が高いと州議会が明示的に認識していたという必要は無い。しかし、当該権

限の行使によって反競争的効果が生じうるということは予見可能でなければならない。

この点、自由競争の概念を尊重する国家的価値観に鑑み、当該適用除外は狭義に解

釈されなければならない。このように考えると、州議会によって委任された権限の行

使が当然に反競争的効果をもたらすものでなければ、適用除外は認められない。

本件において、ジョージア州議会は地方自治体に対し典型的に付与されているよう

な一般的な権限しか委任していない。したがって、同州議会が当該権限の行使によっ

て当然に反競争的効果がもたらされるであろうと想定したとは思えない。もちろん、

同法によって委任された権限の行使のうち、一定の病院取得は反競争的効果をもたら

すおそれがある。しかし、それだけを理由に、当該権限の行使によって反競争的効果

の発生が予見可能であるとまではいえない。

これらの理由により、最高裁は、ジョージア州 Albany-Dougherty 郡病院による

Palmyra Park 病院の取得が州行為として適用除外を受けるものではないと判示し、控

訴審判決を覆した。

6 第 3 巡回控訴裁判所、巨額な代替配分の拠出を容認したクラスアクションの

和解協定を却下する判決を言い渡す(2013 年 2 月 19 日)6

第 3 巡回控訴裁判所は 2 月 19 日、非営利団体に対する巨額な代替配分(cy pres)の

拠出を容認した消費者クラスアクションの和解協定について、地裁が被害者らに直接

配分される和解総額を知らずにそれを承認してしまったと判示し、地裁判決を棄却し

た。

本件の被告(被控訴人)らは、ベビー用製品の製造業者ら及びそれらの小売業者らで

ある。2006 年、自動車用ベビーシートなどのベビー用製品を購入した代表原告(被控

訴人)Carol McDonough 等は、自分達自身、及び同じ状況に置かれている他の消費者ら

を代表し、被告らを相手取ってクラスアクションをペンシルベニア州東部地区地裁に

提起した。訴状で、代表原告団は被告らがシャーマン法 1 条に違反し、共同して当該

製品の最低小売価格を決定したと主張した。

その後、両当事者らは本件訴訟で和解することで合意に達した。和解協定は、とり

わけ、自動車用ベビーシートを購入したという証拠を提示できる購入者に対して、当

該製品の購入価格 300 ドル(約 2 万 8 千 800 円;1 ドル=96 円)の超過分 20%の三倍額

に当たる 180 ドル(約 1 万 7 千 280 円)を上限として配分する旨を定めた。また、当該

証拠を提示できない購入者に対しては、5 ドル(約 480 円)を一律に配分する旨を定め

6 In re Baby Products Antitrust Litigation, Nos. 12-1165 (3rd Cir. Feb. 19, 2013).

Page 18: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 8 -

た。なお、当該協定は、和解金として 3550 万ドル(約 34 億円)が拠出されると定めた。

当該協定によると、このうちの 1280 万ドル(約 12 億 2880 万円)が弁護士費用として支

払われ、その残りが被害者に対し直接配分され、また配分後において残余金があると

すれば、代替配分として特定の非営利団体に支払われる。

2011 年 1 月、同地裁は、同和解案を予備的に承認した。これを受け、代表原告団は、

潜在的なクラス参加者らに対して和解内容を伝え、和解金の配分請求を 2011 年 8 月

までにすることができる旨を通知した。2011 年 12 月、同地裁は、和解総額に占める

直接配分の割合を知らずに和解協定を最終承認してしまった。

これに対して、クラス参加者の一人である原告(控訴人)Kevin Young は、5 ドル(約

480 円)しか受け取れないクラス参加者らが余りにも多いため、当該クラス参加者らは

約 300 万ドル(約 2 億 8800 万ドル)しか受け取れず、約 1400 万ドル(約 13 億 4400 万円)

もの残余金が代替配分されてしまうと主張し、控訴した。

控訴審において、2012 年 2 月 19 日、第 6 巡回控訴裁判所は、要旨以下の様に述べ、

地裁判決を覆した。

地裁は、民事訴訟規則(Fed.R.Civ.P.23(e)(2))の下、和解協定がクラス構成員にとっ

て「公正、合理的、かつ十分」(“fair, reasonable, and adequate”)なものであるとす

れば、それを承認することができる。この点、クラス構成員に対し和解金をさらに進

んで配分することが実行不可能な場合、代替配分が計画されている和解協定も承認す

ることができる。しかし、このような場合、地裁は、和解金がクラス構成員に対し実

際にどの程度配分されるのかを考慮しなければならない。

ところが、本件の場合、訴訟当事者らはクラス構成員に対し直接配分される和解金

額を地裁に伝えていない。そこで、地裁はこの事実関係を知らずに和解協定を最終承

認してしまった。これは権限の濫用である。

これらの理由により、同巡回控訴裁判所は、和解協定を最終承認した地裁判決を棄

却し、事件を地裁に差し戻した。

7 第 11 巡回控訴裁判所、テレビ視聴率調査会社 Nielsen に対する独占行為訴訟

を棄却(2013 年 3 月 4 日)7

第 11 巡回控訴裁判所は 3 月 4 日、テレビ視聴率調査会社の最大手たる被告(被控訴

人)Nielsen が独占行為を行ったとして、被告の顧客である原告(控訴人)Sunbeam テレ

ビ局が三倍額の損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、原告に訴える適格がないと判示し、

提訴却下を言い渡した地裁判決を支持した。

被告は、テレビ視聴率調査サービスをテレビ局、ケーブル会社及び広告代理店など

に提供する会社である。また被告は、全米において当該サービスを提供する実質上唯

一の会社であるため、各地理的市場において、独占力を有する。他方、原告は、フロ

リダ州マイアミ市及びその周辺地域においてテレビ放送を行っているテレビ局であり、

本件サービスの提供を被告から受けている。

本件において、被告は、視聴率データを収集するに当たり、Meter-Diary 方式とい

7 Sunbeam Television Corp. v. Nielson Media, No. 11-10901 (11th Cir. Mar. 4,

2013).

Page 19: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 9 -

う集計方法を採用してきた。これは、無作為に抽出された世帯のテレビにメーターを

設置し、同世帯の居住者らがつけている番組を自動的に把握する Meter 方式と、無作

為に抽出された他の世帯の住居者らに日記を配布し、視聴された番組を同日記に記入

してもらうという Diary 方式を組み合わせたものである。

ところが、2008 年 10 月、被告は、当該集計方法を、新たに開発された People-Meter

方式に切り替えた。新方式は、従来の Meter 方式に新たに開発された People 方式を組

み合わせたものである。People 方式は、無作為に抽出された世帯にリモコンスイッチ

を貸与し、同世帯の各住居者が番組を視聴するに際しそれに対応するボタンを押して

もらうという集計方法である。

集計方法がこの様に変更された後、とりわけ、原告の視聴率ランキングが著しく低

下した。その結果、原告の広告収入は毎月 100 万ドル(約 9900 万円、1 ドル=99 円)以

上減少してしまった。

原告は、被告がシャーマン法 2 条に違反し、フロリダ州マイアミ市及びその周辺地

域におけるテレビ視聴率調査市場において独占行為を行ったと主張し、フロリダ州南

部地区地裁に提訴した。訴状によると、被告は、(1)競争者排除のために排他的行為に

従事し、また(2)品質のより低い集計方法に切り替え、それを虚偽表示によって販売促

進した。

つまり、(1)排他的行為について、原告は、①被告が Time Warner などの大手取引相

手と契約をするに際し、契約の期間を長期に定め、また締結の時期に一定の間隔を置

き、これにより、どの参入時点においても著しい市場閉鎖効果をもたらしたと主張し

た。また、原告は、②被告が契約終了後に視聴率調査データを回収し、これにより、

競争者に切り替えた顧客が新しい視聴率ランキングデータができあがるまで、ヒスト

リカル・データを使用できないようにしたと主張した。

また、(2)品質低下と虚偽表示について、原告は、被告がケーブル会社らを顧客とし

て獲得し、それらが代替的なデータ集計方法を開発するというインセンティブを持た

ないようにするため、それらに有利なデータ集計方法に切り替えたと主張した。とこ

ろが、当該集計方法では、小民族視聴者のリモコン操作ミス等による不正確な視聴率

が測定されてしまうため、被告が虚偽表示により、当該集計方法の販売を促進したと

した。

2011 年 1 月、フロリダ州南部地区地裁は、原告が効率的な提訴者 (efficient

enforcer)に該当しないと判示し、原告適格を否定する略式判決を言い渡した。

2013 年 3 月 4 日、第 11 巡回裁判所は、要旨以下の様に述べ、地裁判決を支持した。

この控訴裁判所は、三倍額賠償請求訴訟を規定するクレイトン法 4 条(15 U.S.C.§

15(a))の下での原告適格の要件を 2 つ定めている。それは、原告が(1)反トラスト法上

の損害を被り、また(2)効率的な提訴者でなければならないということである。

効率的な提訴者の要件については、原告の被った損害、被告の違反行為、及びそれ

らの間の因果関係が総合的に判断されなければならない。また、因果関係について、

原告は潜在的な競争者が実際に参入する意思があり、かつ参入する能力もあったこと

を立証しなければならない。参入を阻害された潜在的競争者もこの立証責任を負って

いる。なお、被告の顧客も、より軽い立証責任ではなく、潜在的競争者と同様に当該

Page 20: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 10 -

立証責任を負っている。

本件において、原告は、被告の顧客であるため、上記の立証責任を満たさなければ

ならない。しかし、原告は、潜在的競争者たる Erin Media が参入する意思を有してい

たと立証したものの、参入に向けた積極的な手段が取られたとまで立証していない。

つまり、Erin Media がケーブルテレビ加入者の放送信号変換装置から得られるデータ

をケーブル会社から入手しようとはしなかった。したがって、因果関係の存在は立証

されていない。

これらの理由により、同巡回控訴裁判所は、被告の顧客に当たる原告の原告適格を

否定する地裁判決を承認した。

8 司法省、知的財産国際取引所に対しビジネスレビュー・レターを発出(2013 年

3 月 26 日)8

司法省は 3 月 26 日、知的財産国際取引所の事業計画が効率性を促進し得るものの、

その実施方法如何によっては、競争制限効果も惹起しうるとの趣旨のビジネスレビュ

ー・レターを発出した。また、同取引所を訴えるか否かについては、その判断を示す

のが時期尚早であるとの見解も示した。

本件において、Ford Global Technologies, Philips Electronics, Hewlett-Packard,

J.P. Morgan Chase、Sony Corporation of America 等は、世界初の特許ライセンス市

場を創設することを計画している、知的財産国際取引所を設立した。当該計画による

と、同取引所は、まず特許権者らから特許を一定の用途(field of use)のために実施

できる、排他的ライセンスを受ける。次に、同取引所は、これらのライセンスについ

て、それを特定の製品を所定の個数だけ当該用途のため製造・販売等ができる、非排

他的サブライセンスに切り替える。これは単位ライセンス権契約 (unit license

rights)と呼ばれる。

なお、単位ライセンス権の付与に当たっては、当該特許の有効性や、侵害の状況な

どの審査、及び当該特許に対する需要の調査が予定されている。これらの結果を踏ま

え、同取引所と特許権者らは共同して単位ライセンス権契約の取引条件を設定する。

なお、同取引所は、何人かの特許権者の特許ライセンスをプールし、それらを単位ラ

イセンス権契約に切り替えることも計画している。

同取引所で販売される単位ライセンス権契約の収益の 20%が同取引所、80%が特許

権者らに配分されることとなる。なお、特許権者間の特許技術また川下製品に関する

競争上重要な情報の交換が防止されることになる。

2012 年 11 月、同取引所は、非公式な事前審査手続(28 CFR§50.6)に基づき、Baer 反

トラスト局長に対して、反トラスト法違反がない旨の確認を求めた。これに対して、

2013 年 3 月 26 日、同反トラスト局長は、その回答を述べるビジネスレビュー・レタ

ーを発出した。同レターの要旨は以下のとおりである。

(1)同取引所の事業計画は効率性を促進する潜在性を有する。例えば、①ある製品を

製造するのに必要となる複数の特許権を一つの単位ライセンス権契約に集約すること

8 Press Release, U.S. Department of Justice, Justice Department Issues Business

Review Letter to Intellectual Property Exchange International, Mar. 26, 2013.

Page 21: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 11 -

により、ライセンシングの効率性が向上する可能性がある。②特許ライセンスのロイ

ヤリティーの透明性を高めることにより、ライセンシーらはそれらの知的財産活動の

予算をより容易に管理することができ、また研究開発に関する方針を効率的に決定す

ることもできるようになる。③特許がプールされた単位ライセンス権は、必要となる

全ての特許を取得するのに費やす時間と労力を軽減し、累積して行くロイヤリティー

の総額(royalty stacking)を削減し、特定の特許を実施すれば周辺特許が侵害される

というブロッキング特許の問題(blocking patents)を解消し、また技術の有機的統合

を図かる可能性がある。

(2)同取引所の事業計画は、その実施方法如何によっては、反トラスト法上の懸念を

惹起するおそれがある。具体的に、①特許がプールされた単位ライセンス権契約には、

補完的特許に加え、代替的特許が含まれる可能性がある。このため、取引の対象とな

る特許又は業界如何によっては、競争制限効果が生じる可能性がある。②ライセンサ

ーは、自己の特許と他者の特許がプールされた単位ライセンス権の付与に同意するこ

ととは別に、当該プールの個々の特許を個別的にライセンスすることもできるように

なる。しかし、当該取引所またはライセンサーが個別のライセンス契約を競争的な条

件で上場することに合意するインセンティブを有するか否かは明らかでない。③異な

る特許権者の競合する特許の同時期の上場が禁止されることとなる。ただし、それを

実施する同取引所のスタッフが首尾一貫して競合する特許を特定しそれを除外するか

否かは、明らかでない。

これらの理由により、知的財産国際取引所の事業計画は効率性を促進し得るものの、

その実施方法如何によっては、競争制限効果を惹起するおそれがある。したがって、

同取引所に対する見解を示すのは時期尚早である。

9 最高裁、ケーブル最大手コムキャストに対するクラスアクションを却下する

判決を言い渡す(2013 年 3 月 27 日)9

最高裁は 3 月 27 日、ケーブル会社最大手の被告(上告人)コムキャストがシャーマン

法 2 条に違反したとして、その加入者らが起こした消費者クラスアクションの控訴審

で、クラスの認定を支持した控訴審判決を棄却する判決を言い渡した。

被告は、多チャンネルテレビ番組配信サービスを提供する米国最大手のケーブル会

社である。本件において、被告は、全米にわたり散在する自社所有のケーブルフラン

チャイズをペンシルベニア州フィラデルフィア市及びその周辺地域に集約させていた。

具体的に、被告は、当該地域内のケーブル会社を売却したり、当該地域外における被

告のケーブルフランチャイズを当該地域内における競争者のフランチャイズと交換し

たりしていた。これら一連の取引のことをクラスターリングという。この結果、当該

地域内における被告の市場シェアは、1998 年の 23.9%から 2007 年の 69.5%へと上昇

していった。

2003 年に、当該地域における約 200 万人の加入者を代表し、被告を相手取るクラス

アクションがペンシルベニア州東部地区地裁に提起された。訴状によると、被告は、

シャーマン法 2 条に違反し、当該地域において独占力を形成して、ケーブルテレビの

9 Comcast Corp. v Behrend et al., No. 11-864 (U.S. Mar. 27, 2013).

Page 22: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 12 -

加入料金を引き上げ、これにより加入者らに対し損害をもたらした。

その後、原告弁護団は、民事訴訟規則 23 条 B 項 3 号に基づき、クラスを認定するよ

う同地裁に申し立てた。民事訴訟規則 23 条 B 項に列挙されている個別類型のうち、最

も一般的な類型たる 3 号は、「クラスの構成員に共通する法律又は事実に関する問題

が各構成員個人にのみ関わる問題よりも優越している」ことをクラス認定の要件とし

ている。したがって、反トラスト事件においては、(1)反競争的効果が共通の証拠によ

り立証可能であり、また(2)損害算定モデルがクラス全員の損害額を算定できるもの

でなければならない。

本件の場合、原告弁護団は、(1)4 つの行為による反競争的効果、及び(2)1 つの計量

経済分析モデルが共通要件を満たしていると主張した。(1)反競争的効果については、

被告のクラスターリングが競合するケーブル網を敷設したいというオーバービルダー

の参入を阻害したこと等が列挙された。なお、(2)損害算定方法については、これらの

反競争的行為が無かった場合の推定加入料と既存の加入料との間の差額を共通する 1

つの経済モデルで算出することができると主張された。

2007 年 5 月、地裁は、(1)クラスターリングによる価格引上効果をクラス構成員に

共通する証拠で立証することができるが、他の行為については、そうとはいえないと

判示した。また、地裁は、(2)クラス認定の段階においては、厳密な損害算定が不要で

あるため、当該経済モデルは十分であると判示した。

控訴審において、2011 年 8 月、第 3 巡回裁判所は、クラス認定の立証基準が引き上

げられたものの、裁判で行われる様な事実認定までは必要とされてないと述べ、地裁

判決を承認した。

上告後、2013 年 3 月 27 日、最高裁は、5 対 4 の判決で控訴審判決を承認した。多数

意見の要旨は以下のとおりである。

本件において、地裁はクラスターリングによる価格引上効果だけに優越性を認めた。

それにもかかわらず、地裁は同効果を取り出し、同効果のみによる損害の算定モデル

の作成を求めなかった。したがって、現行モデルは、クラスターリングだけがもたら

した価格引上効果による損害を算定することができない。

この様に本件は、クラス認定の一般原則を直接適用して棄却されるべきものである。

反対意見が求める反トラスト分析を行うようなケースではない。ちなみに、反対意見

は、独占行為事件では優越性が容易に満たされると指摘した。その上で、反対意見は、

本件においては、同モデルがどの様に機能するかという事実関係を地裁が認定したに

過ぎないと述べた。算出されるデータの法的効果までを地裁が分析したわけではない

とした。

これらの理由により、最高裁は、クラス認定を承認した控訴審判決を覆し、本件上

告を却下した。

Page 23: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 13 -

10 FTC、頭髪再生医療提供者に対し情報交換活動の禁止命令を発出(2013 年 4 月

8 日)10

FTC は 4 月 8 日、日本のアデランス及びその米国子会社である頭髪再生医療の提供

者 Bosley に対して、競争上重要かつ非公開な情報の交換を禁ずる旨の同意命令案を

発出した。

本件の被審人・アデランスは、東京に本拠を置くかつら販売業者である。また被審

人・Bosley は、カリフォルニア州ビバリーヒルズ市に本拠を置き、全米 22 か所で毛

髪移植を行う最大手の頭髪再生医療提供者である。

本件の審査の端緒はアデランスによる Hair Club の株式取得計画の届出である。つ

まり、2012 年 7 月、アデランスは、フロリダ州ボカラトン市に本拠を置く頭髪再生医

療の提供者 Hair Club との間で、同社の株式を 1 億 6350 万ドル(約 166 億 7700 万円、

1 ドル=102 円)で取得することを内容とする株式取得契約を締結した。当該株式取得

計画の届出を受理した FTC は、その審査を行った。審査過程で、FTC は、反競争的な

情報交換が行われたとする証拠を得たが、合意が形成されたとする証拠を得なかった。

FTC は、この様な情報交換活動だけで FTC 法 5 条違反たる不公正な競争方法が成立

するとの解釈を取っている。したがって、FTC は、当該審査で得た証拠を根拠として、

本件の摘発を行った。具体的に、本年 4 月 8 日、FTC は、被審人らに対して申立書を

発出するとともに、被審人らとの間で同意された同意命令案も発出した。

申立書で、FTC は Bosley が FTC 法 5 条に違反し、Hair Club を初め、競争者らとの

間で競争上重要かつ非公開な情報を交換したと主張している。具体的に、新しいサー

ビスの開発、毛髪移植サービスの料金の下限また割引、及び運営施設の拡張・縮小の

計画に関する詳細な情報が繰り返し直接交換されたとされている。また、当該情報交

換活動は、事業上の正当化事由無く、頭髪再生医療の提供者間の協調行動を促してお

り、また不確実性を除去することにより、頭髪再生医療提供者らの競争圧力を抑制し

たとされている。

また、同意命令案では、Bosley は、(1)競争上重要かつ非公開な情報を競争者に伝

達すること、又は(2)競争上重要かつ非公開な情報の提供を競争者に要請することが

禁じられ、また(3)反トラスト法遵守プログラムの実施が義務付けられている。

FTC は本日より 30 日間、同意命令案などに係るパブリック・コメントを募集してい

る。その後には、同意命令案を最終的に受け入れるか否かという FTC の最終判断が予

定されている。

11 ミシガン州東部地区地裁、パナソニック等に対する州反トラスト法上の訴え

を棄却する判決を言い渡す(2013 年 4 月 9 日)11

10 Press Release, Federal Trade Commission, FTC, Bosley, Inc. Settles FTC

Charges That It Illegally Exchanged Competitively Sensitive Business

Information With Rival Firm, Hair Club, Inc., Apr. 8, 2013. 11 In re: Refrigerant Compressors Antitrust Litigation, No. 2:09-md-02042 (E.D.

Mich. Apr. 9, 2013).

Page 24: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 14 -

ミシガン州東部地区地裁は 4 月 9 日、被告・パナソニック(日本)などが冷蔵庫コン

プレッサーを巡る価格カルテルに関与したとして、原告・間接的購入者らが州反トラ

スト法に基づき損賠賠償を求めたクラスアクションで、原告側の主張のほとんどを却

下する判決を言い渡した。

本件の背景として、米国司法省、欧州委員会などは、冷蔵庫コンプレッサー産業に

おいて、国際価格カルテルが結ばれた疑いがあるとみて、捜査を行った。その結果、

とりわけ、パナソニックが 2010 年 9 月に司法省との司法取引に応じた。司法取引の一

環として、同社は、冷蔵庫コンプレッサーを巡る同カルテルに関与したとして有罪の答

弁を行い、また 4910 万ドル(約 50 億 820 万円、1 ドル=102 円)の罰金を支払うことに同

意した(速報海外ニュース 116 号(海外ニュース 34 号 17 頁)参照)。

本件の冷蔵庫コンプレッサーは、冷蔵庫内の温度を低下されるために用いられる必

須の部品である。当該部品は、それを最終製品に組み込んでいる冷蔵庫メーカーに対

し直接販売され、流通段階を経て、最終製品の購入者に対し間接的に再販売されてい

る。

司法省の当該捜査に追随し、本件部品の直接購入者及び間接購入者を代表するクラ

スアクションが、被告らを相手方として、各地裁判所において提起された。これらは

広域係属訴訟として、ミシガン州東部地区地裁に統合された。

とりわけ、本件間接的購入者らによるクラスアクションでは、イリノイブリック撤

回法(間接的購入者にも原告適格があると定めている制定法・判例法)を有する 25 州それ

ぞれの反トラスト法に基づき三倍額賠償が請求されている。訴状によると、被告らが

課したカルテル価格の超過分が冷蔵庫メーカーから流通業者に次々と転嫁され、最終

的には消費者に損害をもたらした。これに対して、被告らは、提訴却下を求める申立

てをした。

2013 年 4 月 9 日、ミシガン州東部地区地裁は、被告らの主張を部分的に受け入れ、

部分的に却下する判決を言い渡した。判旨は以下のとおりである。

イリノイブリック撤回法には、間接購入者に対し提訴権を認めるものとは別に、反

トラスト法上の原告適格に関する要件を定めているものもある。連邦判例法では、1983

年 Associated General Contractors 事件最高裁判決の基準に基づき、反トラスト法

上の原告適格の有無が判断される。同基準を採用している州は合計 12 である。同基準

の下、4 つの関連要因が比較考慮される。それぞれの考慮要因を本件に照らし合わせ

れば、原告らには原告適格がないことになる。

つまり、第 1、市場における原告の地位が考慮される。本件では、原告らは、冷蔵庫

コンプレッサー市場における消費者でも競争者でもないため、関連市場における直接

的な参加者ではない。第 2、被告の違反行為と原告の損害との間の因果関係が考慮さ

れる。本件では、超過分が原告らに辿りつくまで幾つかの段階を経ているため、損害

は遠く離れ過ぎている。第 3、損害を配分する複雑さが考慮される。本件では、損害

が間接的であるため、損害発生が推測的に過ぎず、損害の配分には多くの複雑性が伴

い、重複的回収の危険性が高い。第 4、より直接的な被害者の存在の有無が考慮され

る。本件では、直接購入者らが疑い無くより直接的な被害者であるが、それらも実際

には本訴に加わっている。この様に考えると、当該 12 州の原告らは原告適格を有さな

Page 25: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 15 -

い。

これら 12 州に加え、他の理由で原告適格の存在が否定された州を取り除くと、訴訟

の続行が容認されるのは、ノース・カロライナ州とミネソタ州に居住する間接的購入

者らのみである。

これらの理由により、同地裁は、本件間接的購入者の多くが原告適格を有さないと

判示し、それらによる訴えを却下する旨の判決を言い渡した。

12 第 9 巡回控訴裁判所、全米天然ガス法の州反トラスト法に対する優先適用を

否定する判決を言い渡す(2013 年 4 月 10 日)12

第 9 巡回控訴裁判所は 4 月 10 日、被告(被控訴人)エネルギー・トレーディング会社

らが幾つかの州の反トラスト法に違反し、天然ガス取引の価格指数を操作したとする

訴えについて、それらの州反トラスト法は、連邦法たる全米天然ガス法(Natural Gas

Act)によって専占されないと判示し、連邦法による専占を認めた地裁判決を覆した。

本件の背景には、電力料金の歴史的高騰がもたらした 2000 年から 2002 年のエネル

ギー危機がある。連邦エネルギー規制委員会(Federal Energy Regulatory Commission,

FERC)は、この実態を調査し、天然ガスのスポット価格の異常な値上が当該電力料金の

歴史的高騰を促したと結論付けた。また、当該スポット価格の異常な値上については、

被告らの価格指数の操作によりもたらされたとの実態を明らかにした。つまり、被告

らが虚偽データを業界誌に提出し、同業界誌がそれを用いて価格指数を算出・公表し、

また実際のスポット価格が同価格指数に連動していたということである。

天然ガスの最終消費者らを代表し、被告らを相手取るクラスアクションが各地裁判

所において提起された。これらは広域係属訴訟として、ネバダ州連邦地区地裁に統合

された。訴状によると、被告らは、幾つかの州反トラスト法に違反し、価格指数を操

作する共謀を締結した。これに対して、被告らは、全米天然ガス法が州反トラスト法

に優先して適用されると主張し、提訴却下を求める申立てをした。

全米天然ガス法は天然ガス業界の規制体系を定めた連邦法である。とりわけ、同法

5 条 A 項は、FERC に対して、規制料金に影響を及ぼす慣行等の規制権限を付与してい

る。また、同法 1 条 B 項は、FERC の管轄権の範囲を定めており、それは州際通商にお

ける天然ガスの再販売等並びにそれらの行為に従事する天然ガス会社に限定されてい

る。

被告側は、同法の下、被告らが FERC の監督下に置かれていること、及び本件価格指

数の操作が規制を受けていない州内通商の料金のみならず、規制を受けている州際通

商の料金にも影響を及ぼしたと指摘した。これらを根拠に、被告側は当該操作行為に

は FERC の管轄権がおよぶと主張した。

2011 年 7 月、同地裁は、被告らの主張を受け入れ、全米天然ガス法 5 条 A 項を拡大

解釈し、同法の黙示的専占を認める旨の判決を下した。

控訴審において、第 9 巡回控訴裁判所は、地裁判決を覆す判決を言い渡した。判旨

は以下のとおりである。

12 In re: Western States Wholesale Natural Gas Antitrust Litigation, No. 11-

16786 (9th Cir. Apr. 10, 2013).

Page 26: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 16 -

争点は、州反トラスト法に対する全米天然ガス法の専占が認められるか否かである。

この点、連邦法の専占を議会が意図したことが明確に示されていない限り、州法がそ

のまま適用されるという推定が働く。

本件において、議会は、全米天然ガス法 1 条 B 項において、連邦管轄権が州際通商

における天然ガスの再販売等に限定されると明示的に規定した。また、その後の一連

の判決は、議会が当該連邦管轄権の範囲を限定することを意図していたと解釈した。

この様に考えると、同法 5 条 A 項を拡大解釈して、黙示的専占を認めた地裁判決は過

ちである。

これらの理由により、同巡回控訴裁判所は、全米天然ガス法が州反トラスト法に優

先的に適用されないと判示し、連邦法の専占を認めて州反トラスト法上の提訴を却下

した、地裁判決を覆した。

13 司法省、デンソー幹部 2 名が自動車部品を巡る入札談合に参加したことを認

めたと公表(2013 年 5 月 21 日)13

司法省は 5 月 21 日、トヨタ・ノース・アメリカ向けの自動車部品を巡る価格カルテ

ル及び入札談合事件で罪に問われていたデンソーの幹部スズキ、ワタナベの 2 名が同

省との司法取引に応じ、罪を認めた旨を公表した。罪を認めたことに加え、上記幹部

は、それぞれ 16 か月及び 15 か月の禁固刑に服し、また 2 万ドル(約 188 万円、1 ドル

=94 円)の罰金を支払うことに同意したとされている。

本件の背景として、2010 年 2 月頃、米国司法省及び日本の公取委等は、自動車部品

業界において、自動車メーカーら発注の部品を巡り入札談合等が行われている疑いが

あるとみて捜査を開始した。その結果、とりわけ、2012 年 1 月に司法省は、自動車メ

ーカーら発注のヒーター・コントロール・パネル及び電子制御ユニットに係る入札談

合に関与したとして、デンソー(本社:愛知県刈谷市)をミシガン州東部地区地裁に

起訴した。ヒーター・コントロール・パネルとは、自動車の室内の温度を調節するパ

ネルのことであり、電子制御ユニットとは、自動車内部の電子機器を制御するユニッ

トのことである。

2012 年 3 月、デンソーは有罪を認め、司法省との間で有罪答弁協定書を締結した。

有罪答弁協定書から特定幹部 7 名が対象外とされ、司法省はそれらを余罪で追起訴で

きるという可能性を残した。これら 7 名の内の 2 名が既に別途起訴されており、本件

では、さらに幹部スズキ、ワタナベの 2 名が別途起訴された。スズキとワタナベは、

いずれも司法省との司法取引に応じ、有罪答弁を行うことに同意した。

幹部スズキは、談合期間中、デンソーのトヨタ部に配属されていた。2005 年 1 月か

ら 2005 年 12 月までは同部署のマネジャー、2006 年 1 月から 2006 年 12 月まではプロ

ジェクト・リーダー、また 2007 年 1 月から 2008 年 12 月まではシニア・マネジャーと

して勤めていた。また、幹部ワタナベは、談合期間である 2008 年 6 月から 2010 年 2

月までの間、デンソーのトヨタ部のグループ・リーダーを務めていた。

13 Press Release, Department of Justice, Two Denso Corporation Executives

Agree to Plead Guilty for Price Fixing and Bid Rigging on Auto Parts Installed in

U.S. Cars, May 21, 2013.

Page 27: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 17 -

本日、司法省は、シャーマン法違反容疑で幹部スズキをミシガン州東部地区地裁に

略式起訴した。同起訴状によると、スズキ及び他の共謀者らは、2005 年 7 月から 2008

年 12 月までの間、本件共謀に参加していた。また、彼らは、本件共謀の合意を形成し、

それを実施するため、トヨタ・ノース・アメリカ向けのヒーター・コントロール・パ

ネル及び電子制御ユニットの入札価格について話し合う入札参加者の会合に出席し、

(2)それらの会合でトヨタ・ノース・アメリカ向けの両部品の販売価格を決定し、また

供給割当の決定を行い、(3)同決定に従いトヨタ・ノース・アメリカに見積書を提出し、

(4)非競争的な共謀価格で当該部品をトヨタ・ノース・アメリカに販売した。

なお、司法省は同日、シャーマン法違反容疑で幹部ワタナベをミシガン州東部地区

地裁に略式起訴した。起訴状によると、ワタナベ及び他の共謀者らは、2008 年 6 月か

ら 2010 年 2 月までの間、本件共謀に参加していた。また、彼らは、本件共謀の合意を

形成し、それを実施するため、米国その他の地域において、(1)トヨタ・ノース・アメ

リカ向けのヒーター・コントロール・パネルの入札価格について話し合う入札参加者

の会合に出席し、(2)同会合でトヨタ・ノース・アメリカ向けの部品の販売価格を決定

し、また供給の割当の決定を行い、(3)同決定に従いトヨタ・ノース・アメリカに見積

書を提出し、(4)非競争的な共謀価格で当該部品をトヨタ・ノース・アメリカに販売し

た。

本件捜査の結果、デンソー以外に、日本精機、東海理化、古河電工、矢﨑総業、GS

エレテック、及びフジクラの日本企業を含む合計 9 社並びにそれらの幹部合計 14 人

が、有罪答弁を行い、又は行うことに同意している(速報海外ニュース 127 号(海外ニュ

ース 35 号 27 頁)、130 号(同 38 頁)、134 号(海外ニュース 36 号 15 頁)、136 号(同 19 頁)、

139 号(同 31 頁)、141 号(同 37 頁)、142 号(同 40 頁))。

14 第 4 巡回控訴裁判所、ノース・カロライナ州歯科医師試験委員会は州行為免

責法理による適用除外を受けないとする判決を言い渡す(2013 年 5 月 31 日)14

第4巡回控訴裁判所は 5 月 31 日、(申立人)ノース・カロライナ州歯科医師試験委員

会(North Carolina State Board of Dental Examiners)が FTC 法 5 条に違反し歯のホワ

イトニング業者を排除したと認定した(被申立人)FTC の審決を承認する判決を下した。

本件の申立人は、歯科医師の業務を規制することを目的として設立されたノース・

カロライナ州の機関である。また、申立人は、同州歯科医師法(Dental Practice Act)

に基づき、歯科医師の開業に必要となる免許を付与する権限を有する。申立人の委員

には、歯科医師 6 名、歯科衛生技師 1 名、及び消費者の代表者 1 名がいる。これらの

委員の内の 6 名の歯科医師は歯科医師らにより選出され、1 名の歯科衛生技師は歯科

衛生技師らにより選出され、また 1 名の消費者の代表者は知事により任命されている。

ノース・カロライナ州においては、1990 年代から歯科医師が歯のホワイトニング・

サービスを提供し始めた。2003 年頃から、歯科医師以外の業者が、多くの場合、歯科

医師よりも著しく低い価格で同サービスを提供し始めた。歯のホワイトニングとは、

過酸化水素などを使用して歯を白くするサービスのことである。

14 The North Carolina State Board of Dental Examiners v. Federal Trade

Commission, No. 12-1172 (4th Cir. May 31, 2013).

Page 28: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 18 -

歯科医師以外の業者によるホワイトニング・サービスの提供に対し歯科医師らが苦

情を述べていたことを背景に、申立人は調査を行った。その結果、申立人は、歯科医

師ではない 29 のホワイトニング業者に対して当該業務の停止を求める書簡を送付し

た。結果的に、歯科医師以外のホワイトニング業者は市場から排除された。

2010 年 6 月、FTC は申立人に審判開始決定書を送付した。2011 年 7 月、FTC の行政

法判事は、本件行為が FTC 法 5 条に違反する旨の仮決定を下した。不服申立て後、2011

年 12 月に FTC は、本件行為が簡略化された合理の原則の下で違法であり、また本件行

為が州行為免責法理による適用除外を受けるものではない旨の最終審決を下した。

これに対して申立人は、本件行為が州行為免責法理の適用を受けると主張し、第4

巡回裁判所に審決取消請求訴訟を提起した。

2013 年 5 月 31 日、第4巡回控訴裁判所は、要旨以下の様に述べ、同審決を承認す

る判決を下した。

州が政府として課す反競争的な制限に対しては、反トラスト法の適用がない。州政

府自体、及び州政府の下部組織のみならず、私人の場合であっても州行為免責法理を

発動することができる。私人の場合においては、1980 年 Midcal 事件最高裁判決(445

U.S. 97, 105 (1980))に基づき、(1)州政府が当該行為を監督し、また(2)州政府が明

確に述べ、かつ肯定的に表明した政策に基づいて当該行為が行われている場合に、適

用除外が認められる。

本件において、申立人は州の機関ではあるが、その委員の決定的な過半数が業界団

体から選出されており、それ故に業界関係者に対してしか責任を負っていない。した

がって、申立人は州の下部組織に該当するものではなく、むしろ私人に該当するもの

である。この様に考えると、申立人は、適用除外を受けるには、州により監督されて

いなければならない。しかし、本件業務停止の書簡は州の監督の下で送付されていな

い。このように考えると、申立人は州行為免責法理の要件を満たしていない。

これらの理由により、同巡回控訴裁判所は、FTC の審決を承認する判決を下した。

15 最高裁、医薬品を巡る特許侵害訴訟の和解協定に対し合理の原則が適用され

るとの判決を言い渡す(2013 年 6 月 17 日)15

最高裁は 6 月 17 日、特許薬製造会社の後発品製薬会社に対する特許侵害訴訟にお

いて、参入を延期することの見返りに和解金を支払うことを内容とする和解協定が締

結された場合、当該協定は合理の原則の適用を受ける旨を判示し、控訴審判決を覆し

た。

本件において、被告(被上告人)Solvay は、性腺機能低下症の治療に用いるテストス

テロン・ゲル製剤の新薬 AndroGel について、2000 年に食品医薬品局より販売許可を

受け、また 2003 年にそれに関する製剤特許を特許庁より受けた。当該特許の有効期限

は 2020 年 8 月である。

2003 年 5 月、被告(被上告人)Actavis (前身は Watson Pharmaceuticals)は、食品医

薬品局に対して、Androgel の後発薬の販売許可を求める簡略新薬申請書を提出し、そ

の際当該特許が無効であるか、あるいは同社がそれを侵害していない旨を宣言した。

15 Federal Trade Commission v. Actavis, No. 12-416 (U.S. Jun. 17, 2013).

Page 29: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 19 -

その後、被告(被上告人)Paddock も同様な申請を行った。

これに対して、Solvay は両申請が当該特許権を侵害すると主張し、両者を提訴した。

その後、和解が成立した。和解協定によると、Actavis 及び Paddock は当該後発薬の

参入を 2015 年 8 月まで遅らせること、またその見返りに、Solvay は Actavis に対し

新薬 Androgel が生み出す収益の一部、また Paddock に対し総額 1200 万ドル(約 11 億

2800 万円)を支払うことに合意した。

2009 年、原告(上告人)FTC は、本件和解協定が簡略化された合理の原則の下で違法

であると主張し、ジョージア州北部地区地裁に提訴した。

2010 年 2 月、同地裁は、ある特許が排他的独占権を付与する範囲よりもさらに、そ

の特許を巡る侵害訴訟の和解協定が後発薬による競争を制限している場合、反トラス

ト法上の問題が生じうると判示した。その上で、同地裁は、本件和解協定の競争制限

的効果が本件特許の満期である 2020 年よりも早い 2015 年に終了するため、同競争制

限的効果は本件特許の排他的効力の範囲内にとどまると判示し、提訴却下を言い渡し

た。

控訴審において、第 11 巡回裁判所は、和解協定を奨励する一般的な法政策を考慮に

入れ、地裁判決を承認する判決を言い渡した。

上告後、2013 年 6 月 17 日に最高裁は、5 対 3 の評決で、大要以下の様に述べ、控訴

審判決を覆す判決を言い渡した。

本件特許が有効であれば、本件特許侵害訴訟の和解協定がもたらしている反競争的

効果は、本件特許の排他的効力の範囲内にとどまることとなり、反トラスト法の適用

は除外されることになる。他方、本件特許が無効であれば、本件和解協定がもたらし

ている反競争的効果は、反トラスト法の適用を受けることになる。この様な状況にお

いては、反トラスト政策のみならず特許政策をも用いて本件反トラスト訴訟を分析し

なければならない。この点、反対意見は、特許権が有効であるか無効であるかが明確

でないのは訴訟の常であり、この問題は特許法の法律問題であると主張する。しかし、

これは特許が有効であることを前提とした議論であり、特許権の有効性を分析しよう

とするものではない。

確かに、特許の有効性を分析することは、複雑であり、そうするには多くのコスト

と時間がかかってしまう。しかし、このことを理由に、分析をしなくてもいいという

わけではない。つまり、特許自体の有効性を分析しなくても、その代わりに、訴訟費

用の回避と異なる目的、サービス提供に対する対価支払等を目的とする正当な支払い

とは異なる、説明のつかない様な和解金の支払を分析することができる。そして、こ

の様な和解金が大規模であればある程度、当該特許が無効であり、当該和解協定が反

競争的であるという蓋然性が高まる。

なお、和解金の支払に正当な理由が存する場合があるため、競争的効果を判断する

に当たり、これらの諸事情を総合的に考慮する必要がある。したがって、当該和解協

定に対して合理の原則を適用すべきである。

これらの理由により、最高裁は、参入を遅らせる見返りに和解金を支払うような和

解協定に対して、合理の原則が適用されると判示し、控訴審判決を破棄、差戻しとし

た。

Page 30: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 20 -

16 ミシガン州東部地区地裁、自動車部品談合事件の私訴で訴訟の続行を容認す

る判決を下す(2013 年 6 月 6 日)16

ミシガン州東部地区地裁は 6 月 6 日、日本の自動車部品会社等が自動車メーカーら

向けのワイヤーハーネスを巡り入札談合を行っていたとして、購入者らが起こしたク

ラスアクションで、提訴却下の申立てをほぼ全面的に棄却した。

本件の背景として、2010 年 2 月頃、米国司法省及び日本の公取委等は、自動車メー

カーら発注の部品を巡り入札談合が行われている疑いがあるとみて捜査を開始した。

その結果、とりわけ、日本の矢﨑総業、古河電工、及びフジクラ並びにこれらの幹部

8 人がワイヤーハーネスに係る入札談合への関与について有罪の答弁を行うことに同

意し、司法省が上記被疑者らを略式起訴した(速報海外ニュース 130 号(海外ニュース 35

号 38 頁)、136 号(海外ニュース 36 号 19 頁)、139 号(同 31 頁))。ワイヤーハーネスとは

ブレーキランプその他の電子部品への電力伝送や制御に使われる電線の束のことであ

る。

自動車業界においては、各自動車メーカーが同じ車種のモデルチェンジの後に部品

調達を行うに際し、競争入札を行っている。入札の落札者は供給業者を経由して部品

を自動車メーカーに供給している。また自動車メーカーは、新車種に部品を搭載し、

それを自動車ディーラーに出荷している。ディーラーから自動車を購入する最終消費

者は部品を間接的に購入している。

本件捜査に追随する形で、各種部品の供給に係るクラスアクションが各地裁判所に

提起された。2012 年 2 月、これらは広域係属訴訟としてミシガン州東部地区地裁に移

送された。

ワイヤーハーネスについては、直接的購入者たる自動車メーカーらを代表し、シャ

ーマン法 1 条違反を主張するクラスアクションが提起された。また、間接的購入者た

るディーラー並びに最終消費者のそれぞれを代表し、30 州(イリノイブリック撤回法を

有する州)とワシントン DC、並びに 23 州とワシントン DC のそれぞれの反トラスト法

の違反を主張する、2 つの別々のクラスアクションが提起された。間接的購入者らが

原告である訴状によると、自動車メーカーが部品会社に支払った談合価格の超過分が

自動車メーカーからディーラー、そして、最終消費者に次々に転嫁され、ディーラー

及び最終消費者が損害を被った。

これに対して、被告らは提訴却下を求める申立てをした。2013 年 6 月 6 日、同地裁

は、直接的購入者らによる提訴に対する却下の申立てを棄却した。また、間接的購入

者らによる提訴に対する却下の申立ての一部を棄却し、また一部を容認した。判旨は

以下のとおりである。

直接的購入者らの提訴においては、本件談合の事実関係に加え、司法省の刑事訴追、

及び被告らの有罪答弁等に関する具体的事実の主張が十分になされた。したがって、直

16 In Re: Automotive Parts Antitrust Litigation, 12-cv-00101 (E.D. Mich. Jun. 6,

2013).

Page 31: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 21 -

接的購入者らの訴訟の続行は認められる。

他方、間接的購入者らの提訴については、イリノイ州法が間接的購入者による反トラ

スト法違反行為に伴うクラスアクションの提起を認めていないため、同提訴は棄却され

る。イリノイ州以外の州の間接的購入者らによる提訴の続行は認められる。

これらの理由により、同地裁は、日本の自動車部品会社等を相手方とするクラスア

クションのほぼ全ての続行を認める判決を言い渡した。

17 第 1 巡回控訴裁判所、リサイクル業者を標的とした共同ボイコット事件で訴

訟の続行を容認する判決を言い渡す(2013 年 6 月 19 日)17

第 1 巡回控訴裁判所は 6 月 19 日、食品用プラスチック容器の製造業者らが共同し

てリサイクル業者をボイコットしたとする同リサイクル業者の訴えについて、提訴却

下を言い渡した地裁判決を覆した。提訴却下の申立てを退けるのに足りる十分な具体

的事実の主張が訴状においてなされているとした。

本件の原告(控訴人)Evergreen は、学校給食で使用されるポリシチレン製トレイを

リサイクルする事業を営んでいた。同トレイは、食品医薬品局より許認可を受けた初

めてのリサイクル・ポリシチレン製の食品用容器である。当該リサイクル事業とは、

原告が小中学校の食堂から使用済みトレイをゴミとして収集し、当該ゴミをポリシチ

レン樹脂に変え、当該樹脂を原料としてリサイクル・トレイを製品化し、それを当該

学校に供給する、という循環型事業のことである。

他方、被告ら(被控訴人)は、食品用ポリシチレン容器の製造業者 5 社(Pactiv, Genpak,

Dart, Dolco, Solo)及びそれらが所属する事業者団体・食品用ブラスチック容器グル

ープ(Plastic Food Service Packaging Group)である。当該産業は高度に寡占的であり、

被告 5 社は合計約 90%のシェアを有している。

本件において、原告は、2002 年よりボストンの公立小中学校などと当該リサイクル

事業について提携関係を開始した。その後、原告は、他の大規模施設からも要請を受

けていたこともあり、トレイの製造において供給余力を持つ被告らとの提携関係を求

めた。その結果、2005 年、Dolco は、原告と提携する意思があることを表明した。

ところが 2006 年に、当該事業者団体の会合で Pactiv 及び Dart の代表らは、リサ

イクル・ポリシチレンを使用すべきではないと主張し、Evergreen がそれの唯一のリ

サイクル業者であると指摘した。その後、Dolco は原告との提携を望む意思を取り下

げ、また他の被告それぞれは、原告との提携を拒んだ。その結果、2008 年に原告は業

務の縮小を背景として廃業に追い込まれた。

2011 年 5 月、原告は被告らがシャーマン法 1 条に違反し、原告のリサイクル事業を

標的とする共同ボイコットを実施したと主張し、マサチューセッツ州地区地裁に提訴

した。訴状によると、(1)原告が被告らの何れか 1 社と提携しなければ全国展開をする

ことができなかったところ、(2)当該事業者団体の会合で、Pactiv 及び Dart が共同ボ

イコットの合意を各社より取り付けた。(3)その後、被告らが原告との取引を並行して

拒絶し、原告の顧客に対し提携関係を打ち切るよう誘引し、原告の入札価格を引き下

17 Evergreen Partnering Group, Inc. v. Pactiv Corporation, et. al., No. 12-1730

(1st Cir. Jun. 19, 2013).

Page 32: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 22 -

げさせるために偽の競争者をでっち上げ、奨励した。

これに対して、被告らは提訴却下を求める申立てをした。同地裁は、リサイクル樹

脂の方が未使用樹脂よりも高価であり、またその使用に問題が発生すると推定した。

よって、同地裁は、被告らが事業上正当な事由で独立して取引を拒絶したというシナ

リオに真実味(plausible)がある旨を判示した。したがって、同申立ては容認された。

控訴審において、第 1 巡回連邦裁判所は、要旨以下の様に述べ、地裁判決を覆した。

共謀が存在すると主張する訴えが提訴却下を免れるには、判例法に従い、訴状にお

いて、共謀のシナリオに真実味を持たせるに足りる十分な具体的事実が主張されてい

なければならない。また、地裁は当該具体的事実の主張を一応真実と推定しなければ

ならない。

ところが、本件において、マサチューセッツ州地区地裁は、リサイクル樹脂の方が

安い、またその使用に問題が発生しない、とする本訴状の主張を却下した。そして、

その反対を述べる被告らの主張を受け入れた。地裁の判断とは逆に、判例法のとおり

に、訴状において主張された事実が一応真実であると推定されたならば、原告は共謀

のシナリオに真実味を持たせるに足りる十分な具体的事実を主張したことになる。

これらの理由により、同巡回控訴裁判所は、提訴却下を言い渡した地裁判決を覆し、

訴訟の続行を容認した。

18 ニューヨーク州南部地区地裁、アップルが電子書籍の共謀で首謀者の役割を

担ったとする判決を下す(2013 年 7 月 10 日)18

ニューヨーク州南部地区地裁は 7 月 10 日、アップルが電子書籍の価格を引き上げ

ることを目的とする大手出版社 5 社との共謀で首謀者の役割を担ったと判示し、シャ

ーマン法 1 条違反を認定する判決を言い渡した。

本件は、草創期にはあるが急速に拡大しつつある電子書籍産業における価格カルテ

ル事件である。当該産業において、約 90%という支配的シェアを有していたアマゾン

の Kindle 電子書店は、出版社らより電子書籍を卸で購入し、そのほとんどを 9.99 ド

ル(約 989 円、1ドル=99 円)で販売していた。被告・大手出版社 5 社(ハチェット、ハ

ーパー・コリンズ、マクミラン、ペンギン、サイモン&シュスター)は、この様な低価格

では実在の書店での紙媒体の本が売れなくなると懸念し、アマゾンに電子書籍の価格

を引き上げさせようとしていた。この様な状況下において、被告・アップルは、電子

書籍リーダーとして使用できるタブレット端末・iPad の発売を 2010 年 4 月に予定し

ていたところ、同発売に併せ、電子書店 iBookstore をも同時に開設することとした。

iBookstore の開設に向け、アップルは、2009 年の年末及び翌年の年始にかけて、当

該出版社 5 社と電子書籍の販売について個別的に交渉した。結果的に、電子書店側が

価格を設定する卸売販売契約ではなく、出版社側が価格を設定する販売代理店契約が

締結された。当該契約においては、アップルが売上高の 30%を受け取ることが規定さ

れた。なお、iBookstore で設定される価格については、他の電子書店で設定されてい

る低価格まで、それが如何なる価格であれ、アップルが引き下げをすることができる

という、いわゆる最恵国待遇(most favored nation)条項が定められた。

18 U.S.A. v. Apple Inc., 12-cv-2826 (S.D.N.Y. Jul. 10, 2013).

Page 33: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 23 -

契約締結後、当該出版社 5 社は立て続けにアマゾンに対して販売代理店契約に切り

替えるよう迫り、アマゾンはそれに応じざるを得なかった。その後の 2010 年 4 月に

iBookstore が開設され、それと同時期に電子書籍の価格は著しく上昇した。

2012 年 4 月、司法省及び 33 州は、アップル及び当該出版社 5 社がシャーマン法 1

条に違反し、電子書籍の価格を引き上げる共謀を締結したとして、ニューヨーク州南

部地区地裁に民事訴訟を提起した。訴状によると、当該出版社 5 社はアマゾンに価格

の引き上げを行わせたかった一方、アップルはアマゾンとの価格競争を回避したかっ

た。これを背景に、被告らは電子書籍市場における価格競争を制限する共謀を締結し

た旨の主張がなされた。

その後、当該出版社 5 社は原告団と和解したが、アップルは法廷で争う姿勢を崩さ

なかった。裁判官による裁判が行われ、その後の 2013 年 7 月 10 日に同地裁は、アッ

プル敗訴の判決を言い渡した。判旨は以下のとおりである。

原告団は、2011 年に死亡したアップルの共同創業者・元会長たるジョッブズ氏の発

言を初め、被告ら間の一連の電子メールや電話会談という共謀の直接証拠を提出した。

これに加え、原告団は、当該出版社 5 社が、アマゾンからの報復を恐れていたにもか

かわらず、突如、同社を代理店契約へと移行させたという状況証拠も提出した。これ

らはアップルが、シャーマン法上当然違法たる共謀に参加したことに限らず、その首

謀者としても活動したことを示すものである。

これらの理由により、同地裁は、アップルが電子書籍の販売価格を巡る共謀におい

て首謀者の役割を担ったと判示し、シャーマン法 1 条違反を認定した。今後は、同地

裁による損害賠償請求の審理が予定されている。

19 司法省、リチウム電池談合に関し三洋電機が有罪答弁を行うこと、また 1073

万 1 千ドルの罰金を支払うことに同意したと公表(2013 年 7 月 18 日)19

司法省は 7 月 18 日、ノートパソコン用リチウム電池の談合に関し、被告・三洋電機

が有罪答弁を行うこと、また 1073 万 1 千ドル(約 10 億 5163 万円、1 ドル=98 円)の罰

金を支払うことに同意した旨を公表した。

本件有罪答弁は、リチウム電池に係る司法省のシャーマン法違反容疑の捜査での初

の有罪答弁である。リチウム電池とは、電気製品のバッテリーパックに搭載される充

電式電池のことである。

パナソニックの子会社たる本件被告は、大阪府守口市に本社を置き、リチウム電池

の製造販売に従事している。

司法省がリチウム電池を巡る価格カルテル疑惑で捜査を行っていたところ、被告が

司法省との司法取引に応じた。司法取引の一環として、被告は、ノート型パソコンに

使われる円筒形リチウム・イオン電池を巡る価格カルテルに関与したとして有罪の答

弁を行うこと、1073 万 1 千ドル(約 10 億 5163 万円)の罰金を支払うこと、同省の捜査

に全面的かつ継続的に協力することに同意した。これと引き換えに、司法省は被告を

19 Press Release, Department of Justice, Panasonic and its Subsidiary Sanyo

Agree to Plead Guilty in Separate Price-Fixing Conspiracies Involving

Automotive Parts and Battery Cells, July 18, 2013.

Page 34: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 24 -

余罪で追起訴しないことに同意した。当該司法取引から除外されたが故に、余罪で追

起訴されるという可能性がある被告従業員が存在するか否かは、現時点において、公

表されていない。

当該司法取引に基づき、本年 7 月 18 日、司法省は、米国その他の地域において、ノ

ートパソコン用リチウム電池を巡る価格カルテルに関与したとして、被告をカリフォ

ルニア州北部地区地裁に略式起訴した。略式起訴状によると、被告および他の共謀者

らは、少なくとも 2007 年 4 月から 2008 年 9 月までの間、本件カルテルに関与してい

た。上記企業らは、本件カルテルを形成し、また実施するため、(1)日本などでノート

パソコン用リチウム電池の入札価格を話し合う入札参加者の会合に出席し、(2)同会

合で当該電池の価格水準を決定し、(3)同決定に従い価格の見積りを提出し、(4)同カ

ルテルの実効性を確保するために当該電池の価格・販売数量の情報を収取・交換し、

(5)様々な手段を用いて当該共謀の証拠を隠滅するための工作を図った。

20 ミシガン州東部地区地裁、パナソニックが自動車部品談合等に関与したとし

て 4580 万ドルの罰金刑を科す(2013 年 8 月 5 日)20

ミシガン州東部地区地裁は 8 月 5 日、パナソニックが日系自動車メーカーの米国子

会社ら発注の自動車部品(各種スイッチやセンサー類)を巡る価格カルテルなどに関与

したことを認めている、有罪答弁協定書を承認し、同社に対し 4580 万ドル(約 44 億

8840 万円)の罰金刑を科した。

自動車業界において、各自動車メーカーは、既存の車種のモデルチェンジを行う際

に、新車種用の部品を競争入札方式にて調達している。

2010 年 2 月頃、米国司法省及び日本の公取委等は、各自動車メーカー発注の新車種

用部品を巡り入札談合等が行われている疑いがあるとみて捜査を開始した。捜査の結

果、既に自動車部品メーカー11 社及びそれらの従業員 15 名が司法省との司法取引に

応じた。司法取引の一環として、上記企業及び幹部らは各種自動車部品談合に関与し

たことを認め、合計 8 億 7400 万ドル(約 856 億 5200 万円)の罰金を支払うことに同意

した(速報海外ニュース 130 号(海外ニュース 35 号 38 頁)、134 号(海外ニュース 36 号 15

頁)、136 号(同 19 頁)、139 号(同 31 頁)、141 号(同 37 頁)、142 号(同 40 頁)参照)。

その後、本件で、本年 7 月 18 日、司法省は、パナソニックが司法取引に応じ、各種

スイッチやセンサー類を巡る入札談合疑惑で有罪を認めたことを受け、同社をミシガ

ン州東部地区地裁に略式起訴した。略式起訴状によると、パナソニックは、①少なく

とも 2003 年 9 月から 2010 年 2 月までの間、トヨタ・ノース・アメリカ発注の各種ス

イッチ(ステアリングホイール・スイッチ、ワイパー・スイッチ、コンビネーション・ス

イッチ、ドアカーテシー・スイッチ)を巡る入札談合に関与し、②少なくとも 2003 年 9

月から 2010 年 2 月までの間、トヨタ・ノース・アメリカ発注のハンドル角度センサー

を巡る入札談合に関与し、③少なくとも 1998 年 7 月から 2010 年 2 月までの間、アメ

リカン・ホンダ、マツダ・アメリカ及び日産ノース・アメリカの3社それぞれ発注の

強力放電バラストを巡る入札談合に関与していた。

本日、司法省は、既に締結されていた有罪答弁協定書をミシガン州東部地区地裁に

20 U.S.A. v. Panasonic Corp., 13-cr-20540 (E.D. Mich. Aug. 5, 2013).

Page 35: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 25 -

提出した。有罪答弁協定書によると、パナソニックは、大陪審の審理を受ける権利を

放棄して有罪の答弁を行うこと、4580万ドル(約 44億 8840万円)の罰金を支払うこと、

司法省の捜査に全面的かつ継続的に協力することに同意した。これと引き換えに、司

法省は、被告、及び特定従業員 4 名を除き被告の従業員全員を余罪で追起訴しないこ

とに同意した。したがって、司法省は、当該協定から対象外とされた当該 4 名を別途

訴追できるようにした。

なお、上記罰金額は、被告が顧客に約 3,190 万ドル(約 31 億 2620 万円)の損失をも

たらしたこと((①の談合に係る関連販売額 4940 万ドル(約 48 億 4120 万円)+②の談合に

係る関連販売額 5870 万ドル(約 57 億 5260 万円)+③の談合に係る関連販売額 5140 万ドル

(約 50 億 3720 万円))×20%)、被告が 5000 人以上の従業員を雇っていること、被告が

自動車部品産業における司法省の捜査・訴追について相当協力したことを勘案して算

出されたものである。

同地裁は同日、当該有罪答弁協定書を承認し、勧告された内容どおりの刑を科した。

21 司法省、アメリカン航空と US エアウェイズの合併阻止へと提訴(2013 年 8 月

1 日)21

司法省などは 8 月 1 日、アメリカン航空と US エアウェイズの合併がクレイトン法 7

条に違反し、世界最大規模の航空会社の誕生をもたらすと主張し、差止訴訟をワシン

トン DC 地区地裁に提起した。

本件被告・US エアウェイズは、アリゾナ州テンピ市に本拠を置く全米第 5 位の航空

会社である。他方、テキサス州フォートワース市に本拠を置く被告・アメリカン航空

は、全米第 3 位の大手航空会社である。

2011 年 11 月にアメリカン航空は連邦破産法 11 条の適用を申請し、その後は、自主

的に経営を立て直す再建計画を実施していた。ところが、2013 年 2 月にアメリカン航

空は US エアウェイズとの間で合併することで合意に達した。

2013 年 8 月 13 日、司法省と首都ワシントン DC の他 6 州(アリゾナ州、フロリダ州、

ペンシルベニア州、テネシー州、テキサス州、ヴァージニア州)の当局は、当該合併がク

レイトン法 7 条に違反するとして、差止訴訟をワシントン DC 地区地裁に提起した。訴

状における反競争的分析は以下のとおりである。

(1) 関連市場

A.国内における各都市間旅客路線市場

B.ワシントン DC のレーガン・ナショナル航空における発着枠市場

(2) 市場集中

A.上位航空会社 5 社(ユナイテッド航空(1 位)、デルタ航空(2 位)、アメリカン航空(3

位)、サウスウエスト航空(4 位)、US エアウェイズ(5 位))は全旅客路線市場の 80%以上

のシェアを有している。1000 以上の個々の市場において、本件合併はそれぞれの市場

の HHI を 2500 以上のレベルまでに引き上げ、それぞれの市場で 200 以上の増分をも

21 Press Release, Justice Department, Justice Department Files Antitrust

Lawsuit Challenging Proposed Merger Between US Airways and American

Airlines, Aug. 13, 2013.

Page 36: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 26 -

たらすものである。よって、それぞれの市場における市場支配力の強化は推定される。

B.レーガン・ナショナル空港における発着枠の市場において、US エアウェイズは

55%のシェアを有しており、アメリカン航空は 14%のシェアを有している。合併後の

HHI は 4959 となり、本件合併は、HHI を 1493 以上増分させることとなる。よって、当

該市場における市場支配力の強化は推定される。

(3) 反競争的効果

A.本件合併は、上記 1000 以上の個々の旅客路線市場のみならず、その他の多くの

個々の市場においても、航空運賃・サービスを巡る協調行為を高める蓋然性がある。

具体的に、(A)US エアウエィズは、大手航空会社の直行便に対抗し、乗り継ぎ 1 回の

割引便を提供している。本件合併の結果、US エアウエィズは当該割引便を廃止し、こ

れにより、航空運賃を巡る協調行為が助長されるおそれがある。(B)航空産業の統合に

伴い供給能力は削減されてきたが、これは航空料金の引上げをもたらした。本件合併

の結果、航空機の廃棄、座席数の削減を内容とする協調行為が高まる蓋然性がある。

(C)本件合併計画の公表前、アメリカン航空は単独で事業を拡大する再建計画を実施

していた。本件合併の結果、当該計画は廃止となり、供給能力を制限する協調行為が

維持されるおそれがある。(D)航空産業の統合に伴い、荷物預け手数料及び航空券変更

手数料等付随的手数料は画一的に上昇していた。本件合併の結果、当該手数料を巡る

協調行為が高まる蓋然性がある。

B.本件合併は、レーガン・ナショナル空港における発着枠市場において、合併後企

業の単独行為を助長する蓋然性がある。つまり、69%シェアを支配することとなる合

併後企業は、レーガン・ナショナル空港の発着便の運賃を単独で引き上げるおそれが

ある。

(4) 新規参入

A.発着枠取得の難しさ、既存のマイレージプログラムに対し忠実な乗客の存在等は

大きな参入障壁となっている。よって、旅客路線市場における新規参入の蓋然性は無

い。

B.レーガン・ナショナル空港において、連邦航空局(Federal Aviation Administration)

は新しい発着枠を提供する蓋然性が無い。したがって、新規参入を試みる航空会社は

既に発着枠を有している航空会社からそれらを購入・リースせざるを得ない。この様

に考えると、レーガン・ナショナル空港において発着便を就航する新規参入者が出現

する蓋然性は無い。

この様に、司法省などは、本件合併が上記反競争的効果をもたらすと主張し、差止

訴訟をワシントン DC 地区地裁に提起した。

22 第 9 巡回控訴裁判所、アップルがデジタル音楽販売市場において独占力を形

成したとする提訴を却下する判決を下す(2013 年 9 月 3 日)22

第 9 巡回控訴裁判所は 9 月 3 日、アップルがデジタル音楽配信サイト iTunes を通

じて販売し、また携帯音楽プレイヤーiPod によって再生可能なデジタル音楽の市場に

おいて、独占力を形成維持したとする提訴を却下し、地裁判決を承認した。

22 Stacie Somers, et. al, v. Apple, Inc., No. 11-16896 (9th Cir. Sept. 3, 2013).

Page 37: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 27 -

本件の被告(被控訴人)アップルは、インターネット・サイト iTunes を通じてデジタ

ル音楽を販売し、またそれを再生することができる iPod を製造販売するソフトウエ

ア会社である。デジタル音楽のライセンスを付与しているレコード会社らは、被告に

対してデジタル音楽ファイルにコピー防止技術等を組み込むよう義務付けている。と

ころが、被告は、同技術のみならず、同デジタル音楽ファイル及び iPod が相互だけに

互換性を有することを実現する技術をも採用していた。被告の開発した当該デジタル

著作権管理(digital rights management)技術は Fair Play という。

本件において、2003 年 4 月、被告は、デジタル音楽配信サイト iTunes を開始し、

それと同時に、デジタル音楽を一曲当たり 99 セント(約 97 円;1 ドル=98 円)で販売

し始めた。2004 年 7 月、Real Networks は、Fair Play を回避できる暗号を組み組ん

だデジタル著作権管理技術・ Harmony を開発し、デジタル音楽配信サイト Real

Networks で Harmony が組み込まれた楽曲を割引価格で販売し始めた。これにより、消

費者は、iTunes 又は Real Networks のどちらから楽曲を購入したとしても、1 つの

iPod でそれを聴けるというメリットを持てるようになった。これに対して、被告は、

iPod と iTunes のソフトウエアをアップデートし、Fair Play を改修することを通じ

て Harmony が施された楽曲を消費者が再生できないようにした。

2007 年 12 月、iPod を購入した消費者を代表するクラスアクションがカリフォルニ

ア州北部地区地裁に提起された。度重なる修正を経た後の修正訴状で、原告弁護団は、

被告は iTunes で購入された音楽を被告の iPod でしか再生できないようにすることに

より、携帯音楽プレイヤー市場及び音楽配信サービス市場において独占力を形成維持

した、と主張した。同修正訴状によると、原告らはデジタル音楽を iTunes で購入せざ

るを得ず、またこれによる超競争的価格を支払ったため、反トラスト法上の損害を被

った。

これに対して、被告は提訴却下を求める申立てをした。2011 年 6 月、同地裁は、原

告らが反トラスト法上の損害を被ったとする主張には真実味が無いと判示し、提訴却

下を言い渡した。

控訴審において、本年 9 月 3 日、第 9 巡回控訴裁判所は、要旨以下の様に述べ、地

裁判決を承認した。

原告らが反トラスト法上の損害を被ったとする主張に真実味があるか否かが争点で

ある。この点、被告は、市場に参入した時点でデジタル音楽を 99 セント(約 97 円)で

販売し始めたところ、独占力を形成したとされる 2004 年においても、同価格を維持し

た。また、大手オンライン業者 Amazon がデジタル著作権管理フリーの状態でデジタル

音楽を販売し始め、それ故に被告が独占力を失ったとされる 2008 年の時点において

も、被告は同価格を維持し続けた。さらに、被告自身が Fair Play の使用を止め、デ

ジタル著作権フリーの状態でデジタル音楽を販売し始めた 2009 年の時点においても、

被告は同価格を維持し続けた。これらを考慮すると、反競争的価格引上げにより損害

を被ったとする原告らの主張には真実味が無く、これ故に、代表原告団は提訴却下を

免れることはできない。

これらの理由により、第 9 巡回控訴裁判所は、提訴却下を言い渡した地裁判決を承

認した。

Page 38: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 28 -

23 連邦大陪審、G.S.エレテック幹部が自動車のアンチロック・ブレーキ・システ

ムの部品を巡る価格カルテル及び入札談合に関与したとして起訴(2013 年 9

月 11 日)23

ケンタッキー州コヴィングトン地区大陪審は 9 月 11 日、G.S.エレテックの幹部オ

クダがトヨタ・モーター・ノース・アメリカ向けのアンチロック・ブレーキ・システ

ムの部品を巡る価格カルテル及び入札談合に関与したとして、起訴した。

本件の背景として、2010 年 2 月頃、米国司法省、欧州委員会及び日本の公正取引委

員会は、自動車部品業界において、国際的な入札談合等が行われている疑いがあると

みて捜査を開始した。捜査の結果、とりわけ、司法省は芋づる式に自動車部品メーカ

ーらを次々に起訴した。既に G.S.エレテック(その他の日系企業としては日本精機、東

海理化、古河電工、矢﨑総業、フジクラ)を含む自動車部品メーカー11 社並びにそれら

の従業員 15 名が起訴されている(速報海外ニュース 130 号(海外ニュース 35 号 38 頁)、

134 号(海外ニュース 36 号 15 頁)、136 号(同 19 頁)、139 号(同 31 頁)、141 号(同 37 頁)、

142 号(同 40 頁)、149 号(本号 24 頁)参照)。

G.S.エレテックは愛知県豊田市に本社を置き、様々な自動車用電子部品を製造販売

する自動車部品会社である。本件に先立ち、2012 年 5 月、法人としての同社は、トヨ

タ・モーター・ノース・アメリカ向けのアンチロック・ブレーキ・システムの部品を

巡る入札談合等に関与したとして有罪を認め、275 万ドル(約 2 億 6950 万円)の罰金を

支払った。G.S.エレテックと司法省との間で締結された有罪答弁協定書は日本人であ

る幹部オクダを対象外とし、それ故に、オクダが余罪で追起訴されるという可能性が

残された。

アンチロック・ブレーキ・システムは急ブレーキあるいは低摩擦路でのブレーキ操

作において、車輪のロックによる滑走発生を低減する装置である。本件対象部品は、

各車輪に設置されるセンサーを同システムのエレクトロニック・コントロール・ユニ

ットに接続するワイヤの束である。

本件において、トヨタ・モーター・ノース・アメリカがケンタッキー州に生産工場

を有していることを背景に、本日、同州のコヴィングトン地区大陪審が幹部オクダを

別途起訴した。オクダは、遅くとも 2003 年 1 月から 2009 年 1 月までの間、G.S.エレ

テックの販売担当取締役、2009 年 1 月から早くとも 2010 年 2 月までの間、同社の技

術部門担当取締役を務めていた。起訴状によると、オクダ及び他の共謀者らは、早く

とも 2003 年 1 月から遅くとも 2010 年 2 月までの間、本件共謀に参加していた。彼ら

は、本件共謀の合意を形成し、またそれを実施するため、米国その他の地域において、

(1)トヨタ・モーター・ノース・アメリカ向けのアンチロック・ブレーキ・システムの

部品を巡る入札談合等について話し合う入札参加者の会合に出席し、(2)それらの会

23 Press Release, Department of Justice, G.S. Electech Inc. Executive Indicted for

Role in Bid Rigging and Price Fixing on Automobile Parts Installed in U.S. Cars,

September 11, 2013.

Page 39: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 29 -

合でトヨタ・モーター・ノース・アメリカ向けの同部品の販売価格を決定し、また供

給割当の決定を行い、(3)同決定に従って、トヨタ・モーター・ノース・アメリカ発注

の同部品を落札できる価格で入札を行い、(4)非競争的な共謀価格で同部品をトヨタ・

モーター・ノース・アメリカに販売し、(5)同共謀の実効性確保のために同会合を継続

した。

この捜査の結果、上記自動車部品メーカー11 社及びそれらの従業員 15 名に対し合

計 8 億 7400 万ドル(約 856 億 5200 万円)の罰金刑、さらに各従業員に対し 1 年 1 日か

ら 2 年に及ぶ禁固刑が科せられている。

24 テキサス州東部地区地裁、特許侵害は排除行為に該当しうるとする判決を下

す(2013 年 9 月 9 日)24

テキサス州東部地区地裁は 9 月 9 日、注射器製造大手の被告・Becton Dickinson が、

原告・Retractable Technologies の特許を侵害して、皮下注射器市場における同社の

独占力を維持したとする訴えについて、特許侵害は排除行為に該当し得ないとする被

告の主張を退ける判決を言い渡した。

本件の被告は、使い捨てプラスチック製の皮下注射器などを製造販売する注射器製

造業者である。当該注射器は誤って再使用されたり、また医療スタッフに誤って刺さ

ったりして、事故の原因となることがある。そこで、原告は、注射器の再使用・針刺

し損傷を防止するための針後退機構を備えた格納式注射器を発明した。原告は当該技

術に関する一連の特許(特許 5,578,011 号;5,632,733 号;6,090,077 号;7,351,224 号)

を取得し、当該安全注射器を Vanish Point ブランドとして販売し始めた。その後、被

告も格納式の注射器を開発し、それを Integra ブランド名で販売し始めた。

2010 年 7 月、原告は、被告がシャーマン法 2 条に違反し、原告の特許を侵害するこ

とにより皮下注射器市場における独占力を維持したと主張し、テキサス州東部地区地

裁に提訴した。訴状によると、被告は、原告の特許を侵害しているものの、より質の

劣る格納式注射器を開発し、それを購入する医療機関に忠実性割引を与えたり、また

その注射器を他の医療用製品と抱き合わせたりした。これにより、被告は意図的に、

より質が劣る当該注射器を市場化して、原告の注射器を排除したとされている。

これに対して、被告は、被告が原告の特許を侵害したのであれば、原告は被害を受

けるものの、生産数量自体は増大するはずであるため、消費者は害を受けるはずがな

い、という主張を展開し、略式判決を求める申立てをした。

同地裁は、要旨以下の様に述べ、同略式判決の申立てを却下した。

シャーマン法第 2 条は、行為の外形にかかわらず、同法の目的に反し得るありとあ

らゆる行為を規制対象としている。特許侵害については、特許権者が害を受けるもの

の、通常、競争が促進され、消費者利益が増進する。しかし、本件においては、被告

が原告の、より優れた安全性注射器を市場から締め出したため、競争促進ではなく、

逆に競争減殺がもたらされた、という主張が展開されている。この様な主張は容認で

きるものである。これを前提にした上、被告らの本件行為を巡る事実関係について争

24 Retractable Technologies, Inc. v. Becton, Dickinson and Co., No. 2:08-cv-00016

(E.D. Tex. Sept. 9, 2013).

Page 40: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 30 -

いがあることに鑑みれば、略式判決の申立ては却下される。

これらの理由により、同地裁は、被告の略式判決の申立てを却下する判決を言い渡

した。

25 連邦大陪審、フジクラ幹部 2 名が自動車用ワイヤーハーネスを巡る談合に関

与したとして起訴(2013 年 9 月 19 日)25

ミシガン州東部地区大陪審は 9 月 19 日、フジクラの幹部 2 名が富士重工の車種で

あるスバルに搭載されるワイヤーハーネスを巡る価格カルテル及び入札談合に関与し

たとして、起訴した。

本件の背景として、2010 年 2 月頃、米国司法省、欧州委員会及び日本の公正取引委

員会は、自動車部品業界において、国際的な入札談合等が行われている疑いがあると

みて捜査を開始した。捜査の結果、とりわけ、司法省は、芋づる式に自動車部品メー

カーらを次々に起訴し、それらから有罪答弁を次々に得た。

法人としてのフジクラも起訴された。本件に先立ち、2012 年 6 月、同社はワイヤー

ハーネスを巡る入札談合等に関与したことを認め、司法省との間で有罪答弁協定書を

締結した。同協定から日本人である幹部フクドメとナガシマが対象外とされた。それ

故に、司法省は両幹部を別途起訴できるようにした。その後、ミシガン州東部地区地

裁は、同協定の勧告を受け入れ、同社に対し、2000 万ドル(約 19 億 4000 万円、1 ドル

=97 円)の罰金刑を科した。

フジクラは東京に本社を置き、ワイヤーハーネスなど通信ケーブルや電線を製造す

るメーカーである。ワイヤーハーネスとは、ブレーキランプその他の電子部品への電

力伝送や制御に使われる電線の束のことである。

本件において、本年 9 月 19 日、ミシガン州東部地区大陪審は、被告・幹部フクドメ

とナガシマを別途起訴した。フクドメは、2001 年 4 月から 2006 年 4 月までの間、フ

ジクラの自動車グローバル・マーケティング部(Global Marketing Department)の部長

を務めていた。また、ナガシマは、1994 年 7 月から 2006 年 4 月までの間、同社のワ

イヤーハーネス・センターのマネジャー、2006 年 4 月から 2009 年 4 月までの間、同

社の自動車グローバル・マーケティング部の部長を務めていた。

起訴状によると、幹部フクドメとナガシマその他の共謀者らは、遅くとも 2005 年 9

月から 2010 年 2 月までの間、本件共謀に参加していた。彼らは、本件共謀の合意を形

成し、それを実施するため、米国その他の地域において、(1)富士重工のスバル車種に

搭載されるワイヤーハーネスを巡る入札価格等について話し合う入札参加者の会合に

出席し、(2)同会合で富士重工発注の当該部品の販売価格を決定し、また供給割当の決

定を行い、(3)同決定に従って、富士重工に入札金額を提示し、(4)非競争的な共謀価

格で当該部品を富士重工に販売し、(5)同共謀の実効性を確保するために同会合を継

続した。

自動車部品産業における捜査の結果、本件幹部フクドメ、ナガシマを含め自動車部

25 Press Release, Justice Department, Two Fujikura Ltd. Executives Indicted for

Roles in Fixing Prices on Automobile Parts Sold to Subaru to be Installed in U.S.

Cars, Sept. 19, 2013.

Page 41: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 31 -

品メーカー11 社及びそれらの幹部 18 名が起訴されている(日系企業及びそれらの幹部

については、速報海外ニュース 130 号(海外ニュース 35 号 38 頁)、134 号(海外ニュース

36 号 15 頁)、136 号(同 19 頁)、139 号(同 31 頁)、141 号(同 37 頁)、142 号(同 40 頁)、

147 号(本号 16 頁)、149 号(本号 24 頁)参照)。罰金額としては、総額 8 億 7400 万ドル(約

847 億 7800 万円)が科されている。それに加え、当該幹部 18 名のうちの 14 名に対して

は 1 年 1 日から 2 年までの禁固刑が科せられている。

26 第 10 巡回控訴裁判所、マイクロソフトの取引拒絶は合法であるとする判決を

言い渡す(2013 年 9 月 23 日)26

第 10 巡回控訴裁判所は 9 月 23 日、被告(被控訴人)マイクロソフトが、シャーマン

法に違反し、Windows 基本ソフトの改訂版に関する技術情報の提供を取り止めたとし

て、原告(控訴人)Novell 等独立系ソフトウエア開発会社が三倍額賠償を求めた訴訟の

控訴審で、合法判決を下した地裁判決を承認した。

本件は、20 年程前に被告がソフトウエア産業において支配的地位を形成していた時

代に遡る事案である。歴史的背景として、1981 年に被告はキーボード入力を必要とす

る DOS 基本ソフトを開発した。DOS 上では、被告の Word ワープロソフトのみならず、

WordPerfect 社の WordPerfect ワープロソフトも機能した。被告は、1990 年にマウス

入力ができる高人気の Windows 基本ソフトを開発し、その後に改定バージョンを順次

公表していった。また、被告は、オフィス業務に必要なソフトウエアがセットとなっ

ているオフィス・スイート Microsoft Office も開発した。

1994 年に被告は、Windows の改訂版 Windows 95 の公表を準備していた。同年 6 月、

被告は、原告などの独立系ソフトウエア開発会社が Windows 95 と互換性を持つアプ

リを開発できるようにするため、ベータ版などの技術情報を提供した。当時、被告は

自社アプリの販売を犠牲にしてでも、Windows 95 上で機能する他社アプリの開発を促

進したいと考え、Windows 95 の魅力を高める販売戦略を採用した。その後、原告は、

Word Perfect 社より Word Perfect ワープロソフトを 15 億ドル(約 1455 億円)で買収

した。また原告は、Microsoft Office と競合する Perfect Office の開発を手掛けた。

1994 年 10 月、被告は、販売戦略を変えた。被告は、今度は、基本ソフトの販売を

犠牲にしてでも、自社アプリの魅力を高めたいと考え、Windows 95 のベータ版などの

技術情報を提供しなかった。そして、1995 年 8 月、被告は Windows 95 を公表した。

公表後、原告は、Windows 95 対応の Word Perfect を開発するのに 9 か月もかかって

しまった。結局、原告は、Word Perfect を 1 億 4600 万ドル(141 億 6200 万円)という

低価格で売却し、大損を出した。

2004 年、原告は、被告がシャーマン法 2 条に違反したと主張し、ユタ州地区地裁に

提訴した。提訴当初、原告は、被告が WordPerfect を競争上不利にすることにより、

アプリ市場における独占力を形成したと主張した。しかし、当該行為が 1990 年代の行

為であったため、時効は成立していた。そこで、原告は、主張を変えざるを得なかっ

た。

次に、原告は、被告が技術情報の提供を取り止めることにより、被告の WordPerfect

26 Novell, Inc., v. Microsoft Corporation, No. 12-4143 (10th Cir. Sept. 23, 2013).

Page 42: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 32 -

アプリを競争上不利にし、基本ソフト市場における独占力を維持したと主張した。司

法省が、基本ソフト市場における独占力を維持したとして被告を摘発していたため、

この請求の時効は中断していた。

原告側は修正された訴状で、(1)MicrosoftOffice が Windows 上でしか機能しないと

こ ろ 、 PerfectOffice が Linux な ど 他 の 基 本 ソ フ ト 上 で も 機 能 し 、 ま た

(2)PerfectOffice がミドルウエアを備えていたため、独立系ソフトウエア開発会社が

基本ソフトのためではなく、直接 PerfectOffice のためにアプリを開発することがで

きたと主張した。このため、技術情報の提供の取り止めは、PerfectOffice を競争上

不利にし、基本ソフト市場における独占力の維持を可能にしたとした。

陪審裁判が開かれたが、陪審員の意見が分かれ、評決は不能となった。そこで、2012

年 6 月に、ユタ州地区地裁は、法律の定めに従い判決(judgment as a matter of law)

を出し、本件行為を合法とした。

控訴審において、本年 9 月 23 日、第 10 巡回控訴裁判所は、要旨以下の様に述べ、

地裁判決を承認した。

被告が違法な取引拒絶を行ったか否かが争点である。取引の大原則は取引先選択の

自由である。この大原則に対しては、Aspen Ski 事件最高裁判決(472 U.S. 585(1985))

による限定的例外がある。かかる例外の要件は、(1)継続的取引関係が存在していたこ

と、また(2)被告が短期的利益を犠牲にまでして反競争的目的を達成しようとしたこ

とである。

本件において、(1)被告が原告に対しベータ版などの技術情報を提供していたため、

継続的取引関係は存在していた。しかし(2)被告は、長期的利益のみならず短期的利益

をも最大化させるために、技術情報の提供を取り止めた。したがって、被告は短期的

利益を犠牲にしておらず、違法な取引拒絶は立証されていない。

これらの理由により、同巡回控訴裁判所は、合法判決を言い渡した地裁判決を承認

した。

27 司法省、日系自動車部品メーカー9 社等から有罪答弁を得た旨公表(2013 年 9

月 26 日)27

司法省は 9 月 26 日、被告・日系自動車部品メーカー9 社及びそれらの幹部2名が自

動車メーカー発注の自動車部品を巡る入札談合に関与したとする訴えについて、被告

らから有罪答弁を得た旨を公表した。

本件は、米国司法省、欧州委員会、及び日本の公正取引委員会等による自動車部品

を巡る入札談合等の摘発の一環として提起されたものである。

本件において、司法省は、日系自動車部品メーカー9 社(日立オートモーティブシス

テムズ、ジェイテック、ミツバ、三菱電機、三菱重工業、日本精工、ティラド、ヴァレオ

シャパン、山下ゴム)及びそれらの幹部 2 名が各種自動車部品を巡る入札談合等に関与

したという嫌疑で、捜査を行っていた。捜査の結果、司法省はこれらの被告から有罪

27 Press Release, Justice Department, Nine Automobile Parts Manufacturers and

Two Executives Agree to Plead Guilty to Fixing Prices on Automobile Parts Sold

to U.S. Car Manufacturers and Installed in U.S. Cars, September 26, 2013.

Page 43: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 33 -

の答弁を得た。これを受け、司法省は本日、それぞれの被告を各地裁判所(ミシガン州

東部地区地裁、オハイオ州北部地区地裁、及びオハイオ州南部地区地裁)に略式起訴した。

略式起訴状のそれぞれによると、被告らは、クライスラー、フォード、及びゼネラ

ル・モーターズ等の米系自動車メーカーのみならず、ホンダ、マツダ、三菱、日産、

トヨタ、及び富士重工等の日系自動車メーカーより発注された自動車部品を巡る入札

談合等に関与していた。また、それらによると、対象部品は、シートベルト、ラジエ

ーター、ウィンドシールド・ワイパー、エア・コンディショナー、自動ウィンドウモ

ーター、及びパワー・ステアリング部品等である。また本件談合は、50 億ドル(約 4850

億円)に及ぶ自動車部品、及び 2500 万台以上の自動車に影響を及ぼしたとされている。

上記 9 社及びそれらの幹部 2 名は、司法省との司法取引に応じ、下記のとおり、総

額 7 億 4000 万ドル(約 717 億 8000 万円)に及ぶ罰金を支払うこと、また同省の捜査に

全面的かつ継続的に協力することに同意した。

違反者(企業名・幹部名) 罰金刑{禁固刑}

日立オートモーティブシステムズ 1 億 9500 万ドル(約 189 億 1500 万円)

ジェイテック 1 億 327 万ドル(約 100 億 1719 万円)

ミツバ 1 億 3500 万ドル(約 130 億 9500 万円)

三菱電機 1 億 9000 万ドル(約 184 億 3000 万円)

三菱重工業 1450 万ドル(約 14 億 650 万円)

日本精工 6820 万ドル(約 66 億 1540 万円)

ティラド 1375 万ドル(約 13 億 3375 万円)

ヴァレオジャパン 1360 万ドル(約 13 億 1920 万円)

山下ゴム 1100 万ドル(約 10 億 6700 万円)

幹部クニダ 2 万ドル(約 194 万円){禁固刑 12 か月 1 日}

幹部 Walker 2 万ドル(約 194 万円){禁固刑 14 か月}

本件捜査の結果、合計 20 社及びそれらの幹部 21 名が提訴されている(日系企業及び

それらの幹部については、速報海外ニュース 130 号(海外ニュース 35 号 38 頁)、134 号(海

外ニュース 36 号 15 頁)、136 号(同 19 頁)、139 号(同 31 頁)、141 号(同 37 頁)、142 号(同

40 頁)、147 号(本号 16 頁)、149 号(本号 24 頁)参照)。これらの被告は、有罪答弁を既

に行ったか、又は行うことに同意し、総額 16 億ドル(約 1552 億円)以上の罰金を支払

うことに同意している。また、17 名の幹部は、禁固刑の判決を受けたか、又は禁固刑

に服することに同意した有罪答弁協定書に署名している。

28 司法省、自動車部品メーカー・タカダから有罪答弁を得た旨公表(2013 年 10

月 9 日)28

司法省は 10 月 9 日、日系自動車部品メーカーである被告・タカダが自動車メーカー

発注のシートベルトを巡る入札談合に関与したとする捜査において、被告から有罪答

28 U.S. v. Takada Corp., No. 2:13-cr-20741 (E.D. Mich. Oct. 9, 2013).

Page 44: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 34 -

弁を得た旨を公表した。

米国における自動車メーカーらは、既存の車種のモデルチェンジを行うに際し、各

種部品を入札方式にて調達している。具体的には、見積算出用図面が自動車部品メー

カーらに交付され、見積価格の提示が求められ、提出される見積書が審査され、審査

結果に従い受注者が選定される。

本件の背景として、2010 年 2 月頃、米国司法省、欧州委員会及び日本の公正取引委

員会は、自動車メーカー発注の部品を巡り国際的な入札談合が行われている疑いがあ

るとみて捜査を開始した。捜査の結果、とりわけ、司法省は、芋づる式に自動車部品

メーカーらを次々に起訴し、それらから有罪答弁を次々に得た。

被告及び被告の米国子会社に勤めていた元幹部 Walker も当該談合に関与したとし

て捜査を受けていた。被告は、東京に本社を置き、シートベルトなど自動車用安全シ

ステムの製造販売に従事する会社である。また Walker が勤めていた被告の米国子会

社はミシガン州オーバンヒルズ市に本拠を置く会社である。

本件に先立ち、本年 9 月 26 日、米国人である元幹部 Walker が司法省との司法取引

に応じ、シートベルトを巡る入札談合等に関与したとして、有罪を認めた(速報海外ニ

ュース 151 号(本号 28 頁)参照)。有罪答弁協定書によると、Walker は 20 万ドル(約 2002

万円、1 ドル=100.1 円)の罰金を支払うこと、14 か月の禁固刑に服すること、司法省

の捜査に全面的かつ継続的に協力することに同意した。

元幹部 Walker が有罪を認めてから 1 か月も経たないうちに被告も、司法省との司

法取引に応じた。具体的に、被告は本日、シートベルトを巡る入札談合に関与したと

して、有罪を認めること、7130 万ドル(約 71 億 3713 円)の罰金を支払うこと、及び司

法省の捜査に全面的かつ継続的に協力することに同意した。

司法省は同日、被告が有罪を認めたことを受け、被告をミシガン州東部地区地裁に

略式起訴した。同略式起訴状によると、被告及びその共犯者らは、遅くとも 2003 年 1

月から 2010 年 2 月までの間、本件共謀に参加していた。また、上記企業らは、本件共

謀の合意を形成し、それを実施するため、米国その他の地域において、(1)ホンダ、マ

ツダ、三菱、日産、富士重工(スバル車種製造)、及びトヨタの米国子会社発注のシー

トベルトを巡る入札価格について話し合う入札参加者の会合に出席し、(2)当該会合

で、当該米国子会社各社発注のシートベルトの販売価格を決定し、(3)当該米国会社各

社発注の同部品の供給をモデル別に割り当てることを決定し、(4)同決定に従って、当

該米国子会社らに入札金額を提示し、(5)非競争的な共謀価格でシートベルトを当該

米国子会社各社に対し販売し、(6)同共謀の実効性を確保するために同会合を継続し

た。

29 第 11 巡回控訴裁判所、Atlanticus が再度提起したシャーマン法違反訴訟を棄

却(2013 年 10 月 28 日)29

第 11 巡回控訴裁判所は 10 月 28 日、被告・反訴原告(控訴人)Atlanticus が同社発

行の転換社債を保有する原告・反訴被告(被控訴人)ヘッジファンド計 21 社を相手方と

29 Akanthos Capital Management, LLC, et al., v. Atlanticus Holdings Corp., No.

12-13467 (11th Cir. Oct. 28, 2013).

Page 45: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 35 -

して再度提起したシャーマン法違反訴訟について、既判力(res judicata)を根拠に、

Atlanticus の請求を棄却する判決を言い渡した。

本件において、2005 年に被告は、2025 年を償還期限とする転換社債を発行した。原

告らは、流通市場を通じて個別的に当該社債を購入し、それらの約 70%を保有するに

至った。2009 年に被告は、2500 万ドル(約 25 億 250 万円)の配当を支払うこと、また

収益性の高い Microloan 事業を売却することを公表した。これに対して、原告らは、

当該計画が被告を支払不能にし、それが詐欺であると主張し、本件予備的差止訴訟を

提起した。その後、被告は公開買付を行ったが、原告らは本件社債を売却せず、流通

市場の価格ではなく、それよりも高い額面価格で売り戻す旨を共同して申し出た。

被告は、原告らを相手方として訴訟を別途提起し、シャーマン法 1 条違反を主張し

た。訴状によると、原告らは、共同して、被告の公開買付けをボイコットし、また社

債を売り戻す価格を決定した。これに加え、被告(反訴原告)は、本件訴訟に対し、シ

ャーマン法 1 条違反を主張する反訴も繰り広げた。

ジョージア州北部地区地裁は、2011 年 6 月 17 日、別途提起された訴訟を棄却し、

2011 年 11 月 8 日、本件反訴も棄却した。

被告は、別途提起された訴訟の棄却判決を控訴した。控訴審において、第 11 巡回裁

判所のパネルは同判決を承認した。ところが、同巡回裁判所は、その後、当該判決を

取り消し、裁判官全員出席の上で、再審理を行う旨を決定した。その後、被告(反訴原

告)は、本件反訴を棄却した地裁判決についても控訴した。

被告は両方の控訴の争点が同一であるため、訴訟の統合を求めた。しかし、第 11 巡

回裁判所は、当該請求を棄却し、裁判官全員出席の上で判決が下されるまでは反訴の

控訴を延期する旨を決定した。

第 11 巡回控訴裁判所は、裁判官全員出席の上で、別途提起された訴訟の棄却判決を

承認した。その後、原告(反訴被告)は既判力を根拠に本件反訴も棄却するよう請求し

た。

本年 10 月 28 日、第 11 巡回控訴裁判所は、原告(反訴被告)の主張を受け入れる判決

を言い渡した。判旨は以下のとおりである。

既判力とは、前に裁判における判断内容の後の裁判への拘束力のことである、した

がって、既判力に基づき、原告は同一の主張を同一の被告に対し再審理することがで

きない。本件において、反訴原告のシャーマン法上の主張が棄却されたため、同主張

の再審理は禁止される。

同意意見も別途言い渡された。同意意見は、要旨以下の様に述べ、被告(反訴原告)

の珍しいシャーマン法上の請求は法律問題としては認められない、と説いた。

債権者らが共同して債務者と交渉する様な共同活動は、競争促進的であるが故に、

当然違法ではない。本件において、被告(反訴原告)は、本件社債が流通市場において

活発に売買されていたため、債権保全の原則は適用されないと主張した。しかし、以

下 2 つの理由により、当該主張は認められない。第一、原告(反訴被告)らは流通市場

参加者では無く債務者として交渉していたため、債権者・債務者関係は成立する。第

二、原告(反訴被告)らの共同行為は排他的ではなかったため、個々の原告(反訴被告)は

個別的に社債を自由に売却することができた。したがって、流通市場は歪められてい

Page 46: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 36 -

なかった。

これらの理由により、第 11 巡回控訴裁判所は、以前に下した判決の既判力を根拠に

本件反訴の棄却を言い渡した。

30 司法省、アメリカン航空と US エアウェイズとの合併の計画を承認(2013 年 11

月 12 日)30

司法省は 11 月 12 日、アメリカン航空と US エアウェイズとの間の合併の計画につ

いて、主要 7 空港における発着枠等が格安航空会社に対し譲渡されることを条件に承

認した。これで、時価総額 110 億ドル(約 1 兆 1011 億円)の世界最大手の航空会社が誕

生することとなる。

本件被告・US エアウェイズは、航空大手の直行便に対抗し、乗り継ぎ 1 回の割引便

を提供して、航空大手の協調的行為を牽制してきた、航空会社である。同社は、全米

第 5 位であり、アリゾナ州テンピ市に本拠を置いている。他方、被告・アメリカン航

空は、全米第 3 位の大手航空会社である。同社は、テキサス州フォートワース市に本

拠を置いている。

航空産業は高度寡占的である。上位航空会社 5 社(ユナイテッド航空(1 位)、デルタ

航空(2 位)、アメリカン航空(3 位)、サウスウエスト航空(4 位)、US エアウェイズ(5 位))

は全旅客路線市場の 80%以上のシェアを有している。これらの内のユナイテッド航空、

デルタ航空、アメリカン航空、及び US エアウェイズはいわゆる、従来の航空会社

(legacy airlines)である。これに対して、サウスウエスト航空は格安航空会社である。

その他の格安航空会社としては、ジェットブルー航空、ヴァージン・アメリカ航空、

フロンティア航空、及びスプリント航空が存在する。

アメリカン航空は 2011 年 11 月に連邦破産法 11 条の適用を申請し、その後は、自

主的に経営を立て直す再建計画を実施していた。しかし、同社は 2013 年 2 月に US エ

アウェイズとの間で合併する旨の合意に至った。

2013 年 8 月、司法省及び、首都ワシントン DC その他 6 州(アリゾナ州、フロリダ州、

ペンシルベニア州、テネシー州、テキサス州、ヴァージニア州)の司法当局は、当該合併

はクレイトン法 7 条違反に当たるとして、差止訴訟をワシントン DC 地区地裁に提起

した。原告団は訴状で、当該合併により運賃及びサービス競争が実質的に減殺される

こととなると主張した。訴状によると、(1)1000 以上の都市間旅客路線市場、及び(2)

レーガン・ナショナル空港における発着枠市場における市場集中の増加は、市場支配

力の強化を推定するものである。

本年 11 月 12 日、司法省及び合併当事者らは、合併当事者らが主要 7 空港における

発着枠や施設を格安航空会社に対し譲渡することを内容とする和解案に合意した。具

体的には、ワシントン DC のロナルド・レーガン空港で保有されている発着枠のうち

52 枠、ニューヨークのラガーディア空港で保有されている発着枠のうち 17 枠の譲渡

が合意された。なお、ロサンゼルス国際空港、ボストン空港、シカゴ空港、ダラス空

30 Press Release, Justice Department, Justice Department Requires US Airways

and American Airlines to Divest Facilities at seven key airports to enhance

system-wide competition and settle merger challenge, November 12, 2013.

Page 47: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 37 -

港、及びマイアミ空港において使用されている空港のゲート及び関連の地上設備(チケ

ットカウンター、バッゲージ・ハンドリング設備、オフィス空間、ボーディング・ブリッ

ジ等)の譲渡も合意された。

司法省によると、本件是正措置は格安航空会社に対し事業拡大のインセンティブと

能力を与えるものであり、譲渡を受ける格安航空会社は米国でより広範囲に競争する

ことができるようになる。この説明を分析すると、司法省は、多数画定されている関

連市場それぞれにおける集中度の増加に伴う弊害を、本件是正措置の効力が上回ると

考えたようである。

31 司法省、自動車部品大手タカタの幹部 3 名が有罪答弁を行うことに同意した

旨公表(2013 年 11 月 21 日)31

司法省は 11 月 21 日、自動車メーカー発注のシートベルトを巡る価格カルテル及び

入札談合事件において、タカタの幹部 3 名が有罪答弁を行い、1 年 2 か月から 1 年 7

か月までの禁固刑に服し、罰金各 2 万ドル(約 210 万円、ドル=105 円)を支払うことに

同意した旨を公表した。

米国における自動車メーカーらは、既存の車種のモデルチェンジを行うに際し、各

種部品を入札方式で調達している。具体的には、見積算出用図面が自動車部品メーカ

ーらに交付され、見積価格の提示が求められ、提出される見積書が審査され、審査結

果に従い受注者が選定される。

本件の背景として、2010 年 2 月頃、米国司法省、欧州委員会及び日本の公正取引委

員会は、自動車メーカー発注の部品を巡り国際的な入札談合等が行われている疑いが

あるとみて、捜査を開始した。捜査の結果、司法省は、とりわけ、芋づる式に自動車

部品メーカーら及びそれらの幹部らから有罪の答弁を得て、それらを次々に略式起訴

した。

タカタ及びタカタの幹部らも当該談合に関与していたとして捜査を受けた。タカタ

は、東京に本社を置き、またミシガン州オーバンヒルズ市に米国子会社 TK Holdings

を置く、シートベルト等の自動車用安全システムの製造業者である。

当該捜査の結果、タカタの元幹部 Walker、そして同幹部に続きタカタ自体が、有罪

を認めた。具体的に、まず本年 9 月 26 日、米国人である元幹部 Walker が司法省との

司法取引に応じた。司法取引の一環として、同氏は自動車メーカーら発注のシートベ

ルトを巡る本件談合に関与したとして、有罪答弁を行うこと、2 万ドル(約 210 万円)の

罰金を支払うこと、14 か月の禁固刑に服することに同意した(速報海外ニュース 151 号

(本号 32 頁)参照)。本年 11 月 13 日、ミシガン州東部地区地裁は、元幹部 Walker に対

し、同氏が同意した内容どおりの量刑を科した。

次いで、本年 10 月 9 日、タカタ自体は、司法省との司法取引に応じた。司法取引の

一環として、同社は、本件談合に関与したとして、有罪を認めること、7130 万ドル(約

74 億 8650 円)の罰金を支払うことに同意した(速報海外ニュース 152 号(本号 33 頁)参

31 Press Release, Department of Justice, Three Takata Corp. Executives Agree to

Plead Guilty to Participating in Global Seatbelt Price Fixing Conspiracy,

November 21, 2013.

Page 48: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 38 -

照)。その見返りとして、司法省は、既に有罪を認めた元幹部ウエノに加え、特定幹部

7 名を例外として、タカタ及びタカタの従業員に対し刑事訴追をしないことに同意し

た。したがって、司法省は、当該 7 名を別途起訴できるようにした。

そこで、本日、当該 7 名の内の本件被告・幹部ウエノ、イマミヤ、及びフジノが別

途起訴された。これらの幹部は、いずれも司法省との司法取引に応じ、その一環とし

て、大陪審の真理を受ける権利を放棄して、有罪の答弁を行うことに同意した。これ

を受け、司法省はそれぞれの幹部をミシガン州東部地区地裁に略式起訴した。

略式起訴状によると、幹部ウエノは、2006 年 1 月から 2007 年 12 月までの間、TK

Holdings の日本車向販売部門のシニア・ヴァイス・プレジデント、2008 年初頭から

2009 年 6 月までの間、本社の顧客関係管理部門(customer relations division)のデピ

ュティ・ダィレクター、2009 年 6 月から 2011 年 2 月までの間、本社の顧客関係管理

部門のディレクターを務めていた。また、それによると、ウエノは、2006 年 1 月から

2011 年 2 月までの間、本件談合に関与していた。また、司法取引において、ウエノは、

19か月の禁固刑に服すること、2万ドル(約 210万円)の罰金を支払うことに同意した。

また、略式起訴状によると、幹部イマミヤは、2008 年 1 月から 2009 年 7 月までの

間、本社のトヨタ販売部門の部長、2009 年 7 月から 2011 年 2 月までの間、本社の顧

客関係管理部門のディレクターを務めていた。また、それによると、イマミヤは 2008

年 1 月から 2011 年 2 月までの間、本件談合に関与していた。また、司法取引におい

て、イマミヤは 16 か月の禁固刑に服すること、2 万ドル(約 210 万円)の罰金を支払う

ことに同意した。

なお、略式起訴状によると、幹部フジノは、2004 年 1 月から 2005 年 6 月までの間、

本社の顧客関係管理部門・トヨタグループのマネジャー、2005 年 6 月から 2007 年 12

月までの間、本社の顧客関係管理部門・マツダグループのマネジャー、2008 年 1 月か

ら 2011 年 2 月までの間、TK Holdings の日本車向販売部門のアシスタント・ヴァイ

ス・プレジデントを務めていた。また、それによると、フジノは 2004 年 1 月から 2011

年 2 月までの間、本件談合に関与していた。また、司法取引において、フジノは 14 か

月の禁固刑に服すること、2 万ドル(約 210 万円)の罰金を支払うことに同意した。

32 連邦大陪審、日系企業の幹部 2 名が自動車用防振ゴムを巡る談合に関与した

として起訴(2013 年 11 月 21 日)32

オハイオ州北部地区大陪審は 11 月 21 日、日系企業の幹部 2 名がトヨタ製の自動

車に組み込まれる防振ゴムを巡る価格カルテル及び入札談合に関与していたとして、

起訴した。

本件の背景として、2010 年 2 月頃、米国司法省、欧州委員会及び日本の公正取引委

員会は、自動車部品業界において、国際的な入札談合等が行われている疑いがあると

みて、捜査を開始した。捜査の結果、とりわけ、司法省は芋づる式に自動車部品メー

カーら及びそれらの幹部らから有罪答弁を次々に得て、それらを略式起訴した。また、

32 Press Release, Justice Department, Two Executives Indicted For Roles in

Fixing Prices on Automobile Parts Sold to Toyota to be Installed in U.S. Cars,

Nov. 21, 2013.

Page 49: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 39 -

連邦大陪審は自動車部品メーカーらの幹部らを次々に正式起訴した。

本件において、本年 11 月 21 日、ミシガン州東部地区大陪審は、日系企業に務める

日本人幹部の被告ハヤシとノノヤマがトヨタ製の自動車に組み込まれる防振ゴムを巡

る入札談合等に関与していたとして、起訴した。自動車用防振ゴムはエンジンマウン

トまたサスペンション・ブッシュなど、ゴムと鉄で製造される部品のことである。同

部品は道路及びエンジンによる振動を軽減するために自動車に組み込まれている。

日系企業は、大阪に本社を置き、またケンタッキー州フランクリン郡並びにジョー

ジア州ホワイト市に米国子会社を置く、自動車部品製造業者である。

幹部ハヤシは、1990 年代後半から 2005 年 3 月までの間、本社のトヨタ向防振ゴム

販売部門の部長、2007 年 4 月から 2009 年 3 月までの間、本社の自動車用防振ゴム販

売部門の副本部長、2009 年 4 月から 2010 年 12 月までの間、ケンタッキー州フランク

リン郡における子会社の社長を務めていた。

また、幹部ノノヤマは、1990 年代後半から 2005 年 3 月までの間、本社のトヨタ向

防振ゴム販売部門のグループ・リーダー、2005 年 4 月から 2008 年 3 月までの間、本

社のトヨタ向防振ゴム販売部門の部長、2008 年 4 月から 2009 年 3 月までの間、本社

の販売企画管理(Sales Planning and Administration)部門の部長を務めていた。

起訴状によると、幹部ハヤシ、ノノヤマその他の共謀者らは、1996 年 3 月から早く

とも 2008 年 12 月までの間、本件共謀に参加していた。また彼らは、本件共謀の合意

を形成し、また実施するため、米国その他の地域において、(1)自動車用防振ゴムを巡

る入札価格について話し合う入札参加者の会合に出席し、(2)トヨタ製の自動車(カロ

ーラ、アバロン、タコマ、カムリ、タンドラ、セコイア、RAV4、シエナ、ヴェンザ、ハイ

ランダー)に組み込まれる防振ゴムの供給割当の決定を行い、また販売価格を決定し、

(3)同決定に従って、トヨタに見積価格を提示し、(4)非競争的な共謀価格で当該部品

をトヨタに販売し、(5)同共謀の実効性を確保するために同会合を継続した。

自動車部品産業における捜査の結果、本件幹部ハヤシとノノヤマを含め自動車部品

メーカー21 社及びそれらの幹部 26 名が起訴されている。既に総額 16 億ドル(約 1680

億円)の罰金刑が科せられている。また、17 名の幹部は禁固刑を受けたか、あるいは、

相当な禁固刑が含まれている有罪答弁協定書に署名した。

33 カリフォルニア州北部地区地裁、防衛的特許アグリゲーターに対する反トラ

スト訴訟の続行を容認する判決を下す(2013 年 12 月 3 日)33

カリフォルニア州北部地区地裁は 12 月 3 日、被告・携帯機器製造業者らが共同して

被告・防衛的特許アグリゲーターRPX を通じ原告・Cascades Computer に対し同社が所

有する特許を不当に低いロイヤリティーでライセンスさせようとしたとして、原告が

三倍額賠償を請求した訴訟で、訴訟の続行を容認した。

本件原告は、いわゆる特許トロール(特許の怪物)である。特許トロールとは、特許

を買い集め、侵害者に対しライセンス料の徴収を目的として訴訟を仕掛けるが、当該

特許権を行使して製品の製造・販売を行ったりはしない、ベンチャーのことである。

原告の企業目的は、個々の発明家と、それらの特許権をしばしば侵害する、大規模な

33 Cascades Computer v. RPX, et. al., No. 12-cv-1143 (N.D. Cal. Dec. 3, 2013).

Page 50: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 40 -

多国籍企業との間の交渉力格差を是正することである。原告は、とりわけ、スマホや

タブレット端末用のアンドロイド基本ソフトの使用を最適化する 38 の本件特許を買

い集めている。

他方、被告・携帯機器製造業者ら等は、原告の様な特許トロールによる侵害訴訟の

濫訴を防止するため、ライセンス交渉を一括して行う被告・防衛的特許アグリゲータ

ーRPX を創設した。被告・携帯機器製造業者にはアンドロイドとの互換性を有する部

品を製造する HTC、Motorola、及び Samsung が含まれている。また被告・防衛的特許

アグリゲーターは RPX である。RPX は 120 以上の企業を会員とし、様々な分野にわた

り 29,000 以上の特許の排他的実施権を買い集めている。

本件において、RPX と原告が本件特許のライセンス交渉を行っていたところ、2011

年 10 月、RPX はおよそ何百万ドル台に及ぶライセンス料を支払うことに合意した。し

かし、その後、少なくとも Motorola が資金提供を拒んだため、RPX は合意を撤回した。

その後のライセンス交渉は決裂した。

そこで、原告は、被告らを相手方として、特許侵害訴訟をイリノイ州北部地区地裁

に提起し、また本件シャーマン法 1 条違反訴訟をカリフォルニア州北部地区地裁に提

起した。本件シャーマン法違反訴訟は、被告製造業者らが共同して被告 RPX を通じて

原告に対し同社が所有する特許を不当に低いロイヤリティーでライセンスさせようと

したとして、三倍額賠償を求めたものである。

これに対して、被告らは、原告の提示したロイヤリティーが高額過ぎたため、被告

らそれぞれが単独かつ平行的にロイヤリティーの支払条件を受け入れなかったと主張

し、提訴却下を申し立てた。地裁は、被告らの主張を受け入れ、提訴却下を言い渡し

た。

これに対して、原告は訴状を修正しそれを地裁に提出した。修正された訴状は、RPX

と会員らがハブとスポーク型の共謀(携帯機器製造業者間の水平的共謀及び RPX・製造業

者間の垂直的共謀)を締結したと主張した。訴状によると、(1)RPX と原告がライセンス

料に合意したところ、少なくとも Motorola が資金提供を拒んだため、当該合意が撤回

された。また、(2)その後においては、原告が会員らに対し個別的にライセンス条件を

オファーし、それを最初に受け入れた会員に対しては大規模リベートを供与する旨を

申し出たところ、会員ら全てが当該オファーを却下し、また少なくとも Motorola が

RPX を通じてしか交渉をしない旨を述べたとされた。これに対して、被告らは再び提

訴却下を求める申立てをした。

2013 年 12 月、カリフォルニア州北部地区地裁は、要旨以下の様に述べ、当該申立

てを却下する判決を言い渡した。

原告が提訴却下を免れるため、主張された具体的事実はハブ・スポーク型の共謀に

真実味(plausible)をもたせる程のものでなければならない。この点、原告は、ハブの

外枠(水平的共謀)については、(1)会員らの了承がなければ RPX がライセンス料を支払

うことに合意することができなかったこと、(2)会員らが原告との個別交渉を拒否し

たこと、スポーク部分(垂直的共謀)については、会員らが RPX 経由でなければライセ

ンス交渉に応じなかったことを主張した。これらの主張された具体的事実は当該共謀

に真実味をもたせるに足りる十分なものである。

Page 51: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 41 -

これらの理由により、同地裁は、原告の提起したシャーマン法 1 条違反訴訟に対す

る提訴却下の申立てを退け、訴訟の続行を容認した。

34 司法省、自動車部品メーカー・東洋ゴム工業が有罪答弁を行うことに同意した

と公表(2013 年 11 月 26 日)34

司法省は 11 月 26 日、自動車関連部品に係る反トラスト法違反について、東洋ゴム

工業が、米国その他の地域で販売される自動車に組み込まれる防振ゴム及び駆動軸用

部品に係る 2 つの入札談合に関与したことを認めた旨を公表した。同社は、有罪答弁

を行うことに同意するとともに 1 億 2000 万ドル(約 124 億 8 千万円、1 ドル=104 円)の

罰金を支払うことにも同意したとされている。

本件の背景として、2010 年 2 月頃、米国司法省、欧州委員会及び日本の公正取引委

員会は、自動車メーカーらが発注する部品を巡り国際的な入札談合等が行われている

疑いがあるとみて、捜査を開始した。捜査の結果、とりわけ、司法省は、芋づる式に

自動車部品メーカーら及びそれらの幹部らから次々に有罪答弁を得て、それらを起訴

した。

本件の被告である東洋ゴム工業は、大阪に本社を置き、ケンタッキー州フランクリ

ン郡及びジョージア州ホワイト市に工場を持つ、自動車部品メーカーである。

本件において、司法省が東洋ゴム工業を談合容疑で捜査していたところ、同社は、

司法省との司法取引に応じた。司法取引の一環として、同社は、総額 1 億 2000 万ドル

(約 124 億 8 千万円)の罰金を支払うこと、大陪審の審理を受ける権利を放棄して有罪

の答弁を行うことに同意した。これを受け、司法省は、同社をオハイオ州北部地区地

裁に略式起訴した。

略式起訴状で、司法省は東洋ゴム工業が以下 2 つの入札談合等に関与していたと主

張した。具体的に、(1)同社が他者と共謀し、遅くとも 1996 年 3 月から早くとも 2012

年 5 月にかけて、トヨタ、日産及び富士重工(スバル車種)に販売される防振ゴムに係

る入札談合等に関与していたという主張がなされた。防振ゴムは、エンジンマウント

(エンジンを固定し、振動を吸収する部品)及びサスペンション・ブッシュ(路面からの振

動を吸収するサスペンション・システムの部品)に組み込まれるゴムと金属で形成され

る部品である。当該部品を調達するに当たり、自動車メーカーらは、見積書の提出を

求め、提出される見積書を審査し、審査結果に従い受注者を選定している。

(2)東洋ゴム工業が、他者と共謀し、遅くとも 2006 年 1 月から早くとも 2010 年 9 月

にかけて、英国の自動車部品メーカーGKN の米国子会社に販売される駆動軸用部品に

係る入札談合等に関与していたという主張がなされた。駆動軸用部品は、ゴム又はプ

ラスチックで作られる等速ジョイント用ブーツ(等速ジョイントの潤滑グリースを密封

し、外部の塵、水の浸入を防ぐシール部品)である。当該部品は、GKN など一次部品メー

カーら(“tier-one”suppliers)に販売され、これらの部品メーカーらは、当該部品を

34 Justice Department, Press Release, Toyo Tire & Rubber Co. Ltd. Agrees to

Plead Guilty to Price Fixing on Automobile Parts Installed in U.S. Cars,

November 26, 2013.

Page 52: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 42 -

等速ジョイント・システムに組込んでから、同システムを自動車メーカーらに供給し

ている。当該部品の調達に当たり、GKN は、見積書の提出を求め、提出される見積書

を審査し、審査結果に従い、受注者を選定している。

司法省は、自動車部品メーカーらによる入札談合等について捜査を現在も続けてい

る。今回を含め、これまで部品メーカー22 社と個人 26 人が起訴されている。当該 22

社全ては関与を認め、総額 18 億ドル(約 1,872 億円)以上に上る罰金刑を受けたか、ま

たは受けることに同意した。なお、当該個人 26 人のうち 20 人は禁固刑の判決を受け

たか、又は相当な禁固刑を含む有罪答弁協定書に署名した。

35 カリフォルニア州北部地区地裁、アップルが iPhone 用アプリ市場で独占行為

を行ったとする訴えを却下する判決を言い渡す(2013 年 12 月 2 日)35

カリフォルニア州北部地区地裁は 12 月 2 日、被告アップルがシャーマン法 2 条に

違反し、iPhone(多機能携帯電話)で使用されるアプリ(応用ソフト)の市場で独占行為を

行ったとして、その購入者らが三倍額賠償を求めたクラスアクションで、原告適格は

認められないと判示し、提訴却下を言い渡した。

被告は、iPhone を製造販売し、また iPhone 用の基本ソフト iOS 及び各種アプリ(イ

ンスタント・メッセージング、画像、動画、ゲーム等)を開発販売しているコンピュータ

ー会社である。また被告は、iPhone 用アプリを販売するオンラインストア・iTunes App

Store(iTunes)を運営しており、同サイトで配信される公認アプリしか iPhone 上で作

動できないようにしている。被告以外には、独立系ソフトウエア開発業者らが iPhone

用のアプリを開発している。アプリを iTunes 上で配信するため、同開発業者らは、年

間 99 ドル(約 10,296 円)を被告に支払い、iPhone 用ソフトウエア開発者プログラムに

参加し、その上、アプリを申請して被告の承認を得なければならない。また被告は、

販売されたアプリの販売金額の 3 割を手数料として差し引き、残りの 7 割を当該アプ

リの開発業者に送っている。

2011 年 12 月、iTunes 経由で iPhone 用アプリを購入した消費者らを代表するクラ

スアクションがカリフォルニア州北部地区地裁に提出された。訴状によると、被告は

iPhone用アプリの販売経路を iTunesに限定することより、代替的流通経路を閉鎖し、

独占的に当該アプリの価格を 30%引き上げた。

これに対して、被告は、原告らが独立系ソフトウエア開発業者らのアプリを被告の

iTunes 経由で間接的に購入したため、原告らは間接的購入者として原告適格を有さな

いと主張し、提訴却下を申立てた。

2014 年 12 月 2 日、同地裁は、要旨以下の様に述べ、同申立てを受け入れ、提訴却

下を言い渡した。

争点は原告適格が認められるか否かである。この点、先例である 1977 年 Illinois

Brick 事件最高裁判決(431 U.S. 720)は、原則として、直接的購入者のみが原告適格を

有すると判示した。本件において、原告団は、被告の手数料 30%が無ければ、アプリ

は 30%も安かったはずであるため、原告らが同手数料を直接負担したと主張した。し

35 In re: Apple iPhone Antitrust Litigation, No. 11-cv-06714 (N.D. Cal. Dec. 2,

2013).

Page 53: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 43 -

かし、被告と当該開発業者らとの間の取決めでは、開発業者らが手数料 30%を被告に

支払い、その分を最終消費者に転嫁している。したがって、原告らは、iTunes 経由で

開発業者らからアプリを間接的に購入したことになる。

これらの理由により、同地裁は、原告らが間接的購入者であるが故に、原告適格は

認められないと判示し、本件提訴の却下を言い渡した。

36 第 6 巡回控訴裁判所、飲用乳を巡る共謀事件で被告ら勝訴の略式判決を覆す

(2014 年 1 月 3 日)36

第 6 巡回控訴裁判所は 1 月 3 日、被告・全米酪農協(Dairy Farmers of America; DFA)

及び大手飲用乳メーカーらが飲用乳に係る供給制限の共謀を行ったとして、その購入

者である小売店らが提起したクラスアクションの控訴審で、被告ら勝訴の略式判決を

覆し、事件を地裁に差し戻した。

本件の背景として、2001 年に司法省は、11 の飲用乳製造工場の売却を条件に、全米

第 2 位の飲用乳メーカーである被告 Dean Foods(合併後存続する会社)による第 1 位の

飲用乳メーカーSuiza(消滅会社)の吸収合併を承認した。売却対象工場は、50%DFA 出

資により設立された被告・National Dairy に譲渡された。

当該合併の前、Suiza は同社の株式の 34%を保有する DFA より生乳の供給を受けて

おり、また、Dean Foods は独立系酪農家より生乳の供給を受けていた。ところが、当

該合併の後、Dean Foods は DFA との間で全量購入契約を締結し、米国東南部地域にお

いて DFA より生乳の供給を受け始めた。また、新設された National Dairy も DFA よ

り生乳の供給を受け始めた。その後、National Dairy は経営不振に陥り、幾つかの工

場を閉鎖した。

2007 年 8 月、Dean Foods より飲用乳を購入したノース・カロライナ州のスーパー・

Food Lion等は、それぞれの会社及び同じ状況下に置かれている他の小売店を代表し、

被告らを相手取り、クラスアクションをテネシー州東部地区地裁に提起した。訴状に

よると、DFAは、Dean Foodsが生乳の仕入れを DFAに切り替えることを条件に、National

Dairy の競争能力を弱めることにするという 3 者間取決めを首謀した。当該取り決め

を通じ、被告 3 社は顧客分割、供給量制限及び価格協定を締結したという主張がなさ

れた。

2012 年 3 月、同地裁は、(1)DFA と Dean Foods との間の垂直的な生乳供給契約に着

目し、本件共謀に対しては合理の原則が適用されると判示した。また同地裁は、(2)代

表原告団の専門家証人は合併による価格引上効果を示したものの、共謀によって当該

効果が生じたとは示していないと判示した。これにより、反トラスト法上の損害

(antitrust injury)は示されていないとした。これらの理由により、被告ら勝訴の略式

判決が言い渡された。

控訴審において、2014 年 1 月 3 日、第 6 巡回控訴裁判所は、要旨以下の様に述べ、

地裁判決を覆した。

(1)ある制限的取引の合理性を判断する時、当然違法と合理の原則との間の境界線

36 In re: Southeastern Milk Antitrust Litigation, No. 12-5457 (6th Cir. Jan. 3,

2014).

Page 54: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 44 -

が曖昧となってきたが故に、その制限の反競争的効果が一見して明確であれば、簡略

化された合理の原則(truncated rule of reason)が適用される。本件において、被告ら

の共謀の垂直的要素は合理の原則の適用を受ける。被告競争者間の共謀の水平的要素

が一見して反競争的であるため、当該制限に対し、簡略化された合理の原則が適用さ

れる。

(2)どの違法性判断基準を採用したとしても、原告は、反トラスト法が防止しようと

するタイプの損害、すなわち反トラスト法上の損害が発生したことを立証しなければ

ならない。この点、本件において、第一に、原告弁護団の専門家証人は、計量分析モ

デルを用いて、飲用乳の価格が当該合併、エネルギー費用など共謀以外の諸要因を考

慮した値よりも 7.9%高いと証言した。第二に、被告ら間で合意が形成されたと認定

されている。これらを考慮に入れると、原告弁護団は共謀により損害が発生したとす

る証拠を示しているため、反トラスト法上の損害が発生したか否かについては、真正

な争点がある。

これらの理由により、同巡回控訴裁判所は、被告ら勝訴の略式判決を覆し、地裁に

対し簡略化された合理の原則の適用可能性をも考慮に入れるよう命じ、事件を差し戻

した。

(お問い合わせは、多田 英明・東洋大学法学部准教授 [email protected]、又は佐藤 潤・ク

レド法律事務所提携弁護士 [email protected] までお願いします。)

Page 55: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

欧州競争法の最近の動向

Page 56: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに
Page 57: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 45 -

欧州競争法の最近の動向

1 欧州委員会、UPS による TNT Express の買収を阻止(2013 年 1 月 30 日)1

欧州委員会は 1 月 30 日、15 の加盟国における小包速達サービスをめぐる競争を減

殺することを理由に、UPS による TNT Express の買収を阻止する決定を採択した。

欧州委員会による調査は、欧州経済領域における小包の国際速達サービスに特化し

ていた。本サービスの主要な提供者は、「統合者(integrator)」と呼ばれ、国際的に統合

された航空と陸上での小包配送ネットワークを有しており、欧州における統合者は、

UPS、TNT Express、DHL と FedEx の 4 社に限られている。FedEx は、欧州ネットワーク

の密度と規模が不足しているがゆえに、多くの国において市場占拠率が低く、UPS と

TNT Express に対して有効な競争圧力を行使していない。また、国内の郵便事業者等

その他の市場参加者は、航空便よりも陸路に頼る割合が大きいことから、統合者と比

較可能な効率性と信頼性を有さず、競争の範囲は限られている。本件買収が承認され

た場合、15 の加盟国における顧客は、必要とするサービスについて、UPS、DHL の 2 社

から、時にはこれに FedEx を加えた 3 社からしか選択することができなくなり、料金

が上昇する蓋然性は高い。なお、本件合併により見込まれる便益、すなわち UPS と TNT

Express の航空便ネットワークの統合による顧客へのコスト削減は、競争に与えるマ

イナスの影響を上回るものとはならないということが予想される。

欧州委員会の懸念に応えるため、UPS は、当該 15 加盟国における TNT Express の子

会社を売却し、加えて、買収者が統合者ではない場合、同買収者が取り扱える小包速

達の量の更なる増加をもたらすため、TNT Express のスペインとポルトガルの子会社

の売却も申し出ることとした。UPS はまた、買収者が統合者ではない場合、5 年間に亘

り同社の航空ネットワークの利用を可能にすることも申し出ることとした。しかしな

がら、当該問題解消措置案の対象となる 17 か国から EEA 域内へと速達サービスを提

供するため、買収者はこれらの国々において相応なネットワークを有するか、提携相

手を持つことが必要となる。よって、当該要件だけを考えれば潜在的に持続可能な買

収者は極めて少なく、問題解消措置案の実効性には疑問が持たれた。また、UPS は、

かかる疑念を解消するため本件買収実施前に持続可能な買収者と拘束力のある契約に

署名する必要があった。しかし、UPS は欧州委員会に対してこのことの申出をせず、

欧州委員会の調査終了直前にかかる契約に署名しようとした同社の試みも実現しなか

った。さらに欧州委員会は、EEA 域内の速達サービス市場において合併により誕生す

る事業者に対し十分な競争圧力を行使する意思があることを表明した極めて少数の潜

在的買収者の能力についても、当該問題解消措置案に鑑み、重大な疑念を持っていた。

とりわけ、既に統合者ではない買収者については、それが合併により誕生する事業者

に対し十分な競争上の脅威となりうるためには、自己の航空輸送体制に投資し、地上

ネットワークを改良するという能力と動機を有している必要がある。しかし、十分な

量の速達が見込めないのであれば、同買収者がかかる動機を有するとは考えにくい。

欧州委員会は、小包輸送サービスと貨物輸送サービスを区別した。小包輸送サービ

1 Press Release, European Commission, Mergers: Commission blocks proposed

acquisition of TNT Express by UPS, IP/13/68, 30 January 2013.

Page 58: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 46 -

スは、貨物輸送サービスとは異なり、特別な設備を持たずに単独の者が取り扱える業

務を伴うものである。小包は、自動仕分けセンターと小型トラック等を特色とする特

別なインフラにより輸送されている。また、欧州委員会は、小包輸送サービスについ

て、国内配送サービス、EEA 域内国際配送サービス、及び世界のその他地域への国際

配送サービスを区別した。各分類は、それぞれ異なる需要を満たすとともに、別個の

ネットワークを必要としている。欧州委員会は、速達サービスを「延期(deferred)」輸

送と呼ばれる、より時間のかかるサービスと区別した。利用者の多くは、特定の物品

(修理部品等)が翌日に配送されることを求めており、料金が上昇をするにしても、延

期サービスに切り替えるということは想定できない。EEA 域内国際輸送サービスは、

主としてビジネスユーザーが、急を要する文書、完成品・準完成品、修理部品、及び

見本等を配送するために利用されている。UPS が提案したとおり、欧州委員会は、EEA

域内の速達配送サービスが顧客の所在地を基礎に加盟国を単位として画定されるもの

であり、これら 15 の国内市場において競争上の懸念が生じうると認定した。

本件事業者である UPS は米国を本拠とする専門輸送とロジスティックス・サービス

の世界的な提供者であり、TNT Express はオランダの事業者であり、同様に世界規模

のロジスティックス分野において活動している。EEA においては、両社ともに小包輸

送サービス、航空・陸上貨物輸送、貨物発送、及び企業物流(contract logistics)事業

を展開している。小包輸送は、多くの資産(地域仕分けセンター、陸上・航空ハブ、トラ

ック、航空機等)が統合されたネットワーク産業となっている。

なお、本件取引は、2012 年 6 月に欧州委員会に届け出られ、欧州委員会は同年 7 月、

詳細な調査を開始し、同年 10 月、競争上の懸念を述べる異議告知書を UPS に送付し

た。これを受けた UPS は同年 11 月、12 月、2013 年 1 月 3 日に、問題解消措置案を提

出した。

2 欧州委員会、鎮痛剤後発品市場への参入遅延を理由に J&J と Novartis に対し

異議告知書を送付(2013 年 1 月 31 日)2

欧州委員会は 1 月 31 日、Johnson & Johnson(J&J、米国)と Novartis(スイス)に対

し、両者のオランダ子会社を通じて締結された、強力な鎮痛剤であるフェンタニル

(fentanyl)に関する協定に関し、競争上の異議を告知した。フェンタニルは、モルヒ

ネよりも強力な鎮痛剤であり、激痛のある患者の治療に利用される。

J&J の子会社である Janssen-Cilag は、オランダにおいて鎮痛剤であるフェンタニルを

供給しており、2005 年 7 月、Novartis の子会社であり、後発品の競争者である Sandoz と

の間でいわゆる「共同販売促進契約(co-promotion agreement)」を締結した。当時、フェン

タニル貼付剤(patches)の後発品を開発販売する規制はなく、Sandoz はオランダ市場へ参

入することができた。本件契約は、オランダ市場において後発品が販売されない限り、

Janssen-Cilag が Sandoz に対し月月支払を行っていくというものであった。その結果、

Sandoz は 2005 年 7 月から 2006 年 12 月までの契約期間について、後発フェンタニル貼付

2 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission sends Statement

of Objections to J&J and Novartis on delayed entry of generic pain-killer,

IP/13/81, 31 January 2013.

Page 59: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 47 -

剤市場への参入を控えていた。これにより、17 か月間にわたりより安価な後発薬の市場

参入が遅れ、オランダにおけるフェンタニルの価格が人工的に高値に維持されていた可

能性がある。

2011 年 10 月、欧州委員会は、当該協定がフェンタニルの後発薬のオランダ市場へ

の参入を阻害していたか否かを判断するため、職権により本件の調査を開始した。本

件異議告知書において、欧州委員会は、当該協定が EU 運営条約 101 条に違反し、オラ

ンダ市場への後発薬の参入を延期していたという予備的見解を述べた。しかし、本告

知書の送付は、本件の調査の結果を左右するものではない。

主要な製薬会社を対象とする本件の調査は、事業分野別調査に続き、欧州委員会の後

発品販売の不当な遅延に対する戦いの次のステップである。2009 年に公表された製薬

業に対する事業分野調査の結果、多くの構造的な問題、及び事業者間の慣行における問

題により、競争が潜在的に歪められ、また新規、革新的、かつ安価な後発医薬品の EU 市

場への新規参入が遅れていることが明らかになった。特に事業分野別調査では、いわゆ

る「新薬」製造会社が後発医薬品の市場参入を遅らせるために資金を提供している問題

が強調された。

3 欧州委員会、Ryanair による Aer Lingus の買収計画を阻止(2013 年 2 月 27

日)3

欧州委員会は 2 月 27 日、格安航空会社 Ryanair によるアイルランドのフラッグ・

キャリアである Aer Lingus の買収計画について、両社が現在活発に競争している 46

路線において独占又は支配的地位が形成されることとなり、それによって消費者が害

を受けるおそれがあるとして、禁止する決定を採択した。Ryanair による Aer Lingus

の買収計画の届出は今回で 3 度目であるが、2007 年の Ryanair による最初の試みは欧

州委員会により禁止され、一般裁判所によっても支持された。2 度目の届出は 2009 年

に行われたが、Ryanair により取り下げられた。

本件当事者である Ryanair は、主として欧州における点と点を結ぶ定期航空サービ

スを提供しており、305 機の航空機と欧州全域に 51 の拠点を有している。なかでも、

ロンドン・スタンステッド、ブリュッセル・シャルルロワ、ミラノ・ベルガモ、ダブ

リンが主要な拠点となっている。同社は、IATA の 2012 年夏季において、ダブリンか

ら 62 の近距離路線を運行していた。他方、Aer Lingus は、ダブリン空港を拠点とし

ており、同空港から主として点と点を結ぶ定期航空サービスを提供している。同社は、

IATA の 2012 年夏季において、Aer Arann を含めてダブリンから 66 路線を運行してい

た。Aer Lingus は、点と点を結ぶ運航に加え、航空会社のアライアンスには参加しな

い「オープン・ネットワーク・アーキテクチャ」というコンセプトを展開している。同

コンセプトを採用したことによる同社の中立性は同社にアライアンスを越えた提携、

及び同社に主要なハブを通じた全世界の目的地への乗り継ぎの提供を可能としている。

Ryanair は、Aer Lingus の発行済み株式の 29.8%を保有する同社の最大の株主となっ

ている。本株式保有については、現在英国公正取引庁が審査している。アイルランド

3 Press Release, European Commission, Mergers: Commission prohibits

Ryanair’s proposed takeover of Aer Lingus, IP/13/167, 27 February 2013.

Page 60: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 48 -

政府は、25.1%を保有する第二位株主である。

欧州委員会は、本件調査において、2007 年以降の市場の状況にみられる変化を考慮

した。たとえば、両社の市場における地位は、ダブリンからの短距離路線の 2007 年の

合計市場占拠率 80%が 2012 年には 87%になるなど、強化されている。また、両社が

競合関係にあるダブリン発着の路線数も、2007 年の 35 路線から 2012 年の 46 路線へ

と増加している。両社が統合されると、これらの 46 路線の全てについて非常に高い市

場占拠率がもたらされることとなる。すなわち、

―28 路線においては、本件合併により完全な独占がもたらされる。

―11 路線においては、合併により誕生する新会社に対する競争上の圧力は、チャー

ター航空会社に限られる。しかしながら、チャーター航空会社のビジネスモデル

は全く異なるため、競争上の圧力は弱いまま変わらない。

―7 路線について、両社は他の定期航空会社とともに運航している。両社は、非常

に高い市場占拠率を有することに加え、これらの路線においてお互いの最大の競

争相手でないとしても、非常に密接な競争相手である。というのは、競合関係に

ある定期便航空会社のビジネスモデルは、英国航空がロンドン・ヒースロー空港、

ルフトハンザ航空がフランクフルト空港、エールフランスがパリ・シャルル・ド

ゴール空港という自己のネットワークのハブへ乗り継ぎ客を輸送するものであ

るからである。これは、Ryanair と Aer Lingus の提供する点と点を結ぶビジネス

モデルとは異なるものである。

よって、本件合併計画は、両社の事業活動が重複するこれらの全路線において両社

間で現在行われている活発な競争を消滅させるものである。さらに、欧州委員会によ

る調査の結果、アイルランドにおける両社の市場における有力な地位のため、高い参

入障壁の存在が確認された。市場調査によると、アイルランドの飛行場を拠点とする

新たな航空会社がアイルランド市場に参入し、十分な規模で合併により誕生する新会

社に勝負を挑む可能性はないことが明らかになった。すなわち、旅行者の選択肢は相

当程度限られることとなり、競争者が合併により誕生する新会社の市場行動を十分に

牽制する蓋然性は無い。旅客に対するより高い運賃がもたらされる蓋然性はある。

Ryanair は、調査過程において、数度にわたり問題解消措置を提案した。最終の問

題解消措置案は、Aer Lingus の 43 に上る重複路線の運航を Flybe に譲渡するととも

に、ロンドンの飛行場における発着スロットを IAG・英国航空に譲渡し、IAG・英国航

空が 3 路線(ダブリン-ロンドン、シャノン-ロンドン、コーク-ロンドン)を運航できるよ

うにするものであった。Flybe と IAG は、3 年間に亘り当該路線を運航することを確約

した。このほか、ロンドンとアイルランド間のスロット譲渡も併せて提案された。

しかしながら、欧州委員会による調査の結果、これらの問題解消措置案は、当該 46

路線において本買収案がもたらすであろう競争上の懸念の範囲と重大性を考慮すると、

顧客が不利益を被らないことを確保するのに不十分であることが明らかになった。と

りわけ欧州委員会は、Flybe は、新会社と十分に競争することができる安定した買収

者ではないと考えた。また、IAG・英国航空は、新会社に対し十分な競争上の圧力をか

けられず、3 年目以降当該路線を継続するインセンティブが余りない、ということが

明らかになった。そのほか、両社が継続的に実際に運航するかは不明である。なお、

Page 61: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 49 -

欧州委員会は、調査過程においてアイルランドと世界の多くの市場参加者、具体的に

は競争者、顧客、旅行代理店、消費者団体、公的機関、空港運営機関の見解を集約す

るとともに、Ryanair による提案について 3 度に亘り市場テストを実施した。

本件買収計画は、2012 年 7 月 24 日に欧州委員会へ届け出られ、同年 8 月 29 日、欧

州委員会は詳細調査を開始した。2012 年 12 月 7 日に提出された問題解消措置案を評

価するための決定採択の期限は延期された。両当事者は、2012 年 11 月に発出された

異議告知書において、本件買収は深刻な競争上の懸念を惹起するものとして禁止され

る可能性がある旨通知された。2004 年以降、欧州委員会は、航空業においては 15 件

に上る合併とアライアンスの事件を審査したが、本件は 3 番目の禁止事例である。最

初の禁止事例は、前述の 2007 年の Ryanair による Aer Lingus の買収計画であり、2

件目は 2011 年の Olympic Air による Aegean Airlines の買収計画である。一連の禁

止事例は、いずれも同一の「拠点」空港に両当事者が主要拠点を有する事例であった。

欧州委員会は、航空会社間の合併事例を評価するに際し、まず両航空会社が就航して

いる路線に対し届出計画が及ぼす影響を分析する。加えて、欧州委員会は、一方の航

空会社が時期を問わず一定の路線に参入することにより、他方の航空会社を牽制する

ことができる蓋然性に対し、当該航空会社間の合併が影響を及ぼすか否かを考慮する。

評価に際しては、同一の「拠点」空港に両当事者が主要拠点を有している場合には、特

に注意を払う必要がある。

4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフト

に対し制裁金を賦課(2013 年 3 月 6 日)4

欧州委員会は 3 月 6 日、ユーザーが容易に好みのウェブブラウザを選択できるブラ

ウザ選択画面を提供する措置を遵守してなかったことを理由に、マイクロソフトに

対し、5 億 6100 万ユーロ(約 700 億円、1 ユーロ=125 円)の制裁金を賦課した。

2009 年 12 月、欧州委員会は、マイクロソフトのウェブブラウザであるインターネ

ット・エクスプローラーと同社の有力な PC 用 OS であるウィンドウズとの抱き合わせ

に関する競争上の懸念に対応するために同社の申し出た確約を法的拘束力あるものと

する決定を採択した。とりわけ同社は、欧州経済領域(EEA)において、ウィンドウズ OS

ユーザーが同社のウェブブラウザに加えて、又はそれに代えて、インストールしたい

ウェブブラウザを、必要な情報を得られた上でかつ公平方法で選択できるというな「選

択画面」を、5 年間(2014 年まで)提示する旨確約した。選択画面は、2010 年 3 月より、

インターネット・エクスプローラーが標準ブラウザとして設定された欧州のウィンド

ウズ・ユーザーに対し提供された。導入されていた間、選択画面はユーザーの間で好

評であった。たとえば、2011 年 11 月までには、同画面を通じて 8400 万ブラウザがダ

ウンロードされた。

本日の決定において欧州委員会は、マイクロソフトが 2011 年 5 月から 2012 年 7 月

にかけて、Windows7 のサービスパック 1 において、ブラウザ選択画面を表示していな

かったことを指摘した。これにより、EU における 1500 万のウィンドウズ・ユーザー

4 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission fines Microsoft

for non-compliance with browser choice commitments, IP/13/196, 6 March 2013.

Page 62: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 50 -

は、当該期間においてスクリーン選択画面を閲覧できなかったことになる。マイクロ

ソフトは当該期間に選択画面が表示されていなかったことを認めている。欧州委員会

は、マイクロソフトによる不遵守が発覚した 2012 年 7 月に調査を開始し、決定を採択

するに先立ち、同年 10 月にマイクロソフトに対して正式な異議を通知した(速報海外

ニュース№139(海外ニュース 36 号 65 頁)参照)。

欧州委員会が確約決定の不遵守を理由に対象企業に制裁金を課すのは、本件が初で

ある。制裁金の算出に当たり、欧州委員会は本件違反行為の重大性と期間、制裁金の

抑止効果を確保する必要性を考慮する一方、軽減要素としてマイクロソフトが欧州委

員会に協力し、情報を提供したことで、欧州委員会が本件を効率的に調査できるよう

になったことを考慮した。

手続規則である理事会規則 2003 年 1 号第 9 条の下、欧州委員会は、関係事業者の

申し出た確約を法的に拘束力あるものとすることにより、反トラスト調査を終結する

ことができる。しかしながら、第 23 条第 2 項の下、確約決定に違反した事業者に対し

ては、前年度の全売上高の 10%を上限に制裁金を賦課することができる。

なお、ウィンドウズとインターネット・エクスプローラーの抱き合わせに対する欧

州委員会の本件調査は、ウィンドウズとワーク・グループ・サーバー間の相互運用性、

及びウィンドウズ・メディア・プレーヤーとウィンドウズの抱き合わせが市場支配的

地位の濫用とされ、制裁金が賦課された事例とは別である。

5 欧州委員会、Bertelsmann と Pearson の出版事業の統合による Penguin Random

House の設立を承認(2013 年 4 月 5 日)5

欧州委員会は 4 月 5 日、メディア企業 Bertelsmann(ドイツ)と出版社 Pearson(英国)

の出版事業の統合による Penguin Random House の設立について、合併規則に基づき、

承認することとした。本件取引は、2013 年 2 月 26 日に欧州委員会に対し届出がなさ

れたものである。

欧州委員会は、本件取引が欧州経済領域(EEA)と全世界における英語書籍の著作権の

権利取得を巡る川上市場と、EEA(とりわけ英国とアイルランド)における英語書籍の販

売に関する川下市場に与える影響について評価した。その結果、欧州委員会は、Penguin

Random House が、両市場において、複数の大手出版社のほか多数の中小の出版社との

競争に直面し続けることを認定した。さらに、英語書籍の販売については、取得後主

体は、紙媒体の書籍を取り扱うスーパーマーケット等の有力な小売拠点、また電子書

籍を取り扱うアマゾン等の大規模なオンライン販売会社という集中した小売業界に直

面することとなる。加えて、欧州委員会は、本件取引が著作権の取得あるいは英語書

籍の販売について、出版社間の協調を助長するおそれがあることを示す証拠を得てい

ない。

欧州委員会はまた、Random House と Penguin が共に事業活動を行っている第三者書

籍流通網(third party book distribution)の市場のみならず、Bertelsmann の出版事

5 Press Release, European Commission, Mergers: Commission clears creation of

Penguin Random House combining publishing businesses of Bertelsmann and

Pearson, IP/13/305, 5 April 2013.

Page 63: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 51 -

業(Arvato 部門と BePrinters)と Penguin Random House の販売店への英国書籍の販売

活動との間の垂直的関係に鑑み、出版市場についても、本件取引がもたらす影響につ

いて評価した。そこで、両当事者の市場占拠率が低いこと、EEA においては多くの代

替的な出版社と第三者書籍流通サービス提供者が活動していることが認定された。こ

れらの結果、欧州委員会は、本件取引が EEA における有効な競争に重大な影響を与え

るものではないと結論付けた。

本件当事者である Bertelsmann は、中核事業として、テレビ事業とテレビ番組制作

(RTL グループ)、取引出版(Random House)、雑誌出版(Gruner + Jhar)、及び音楽著作権

の管理(BMG)とサービス(Arvato)を約 50 か国において展開している国際的なメディア

企業である。Pearson は、教材出版(Pearson)、ビジネス情報(Financial Times)、及び

取引出版(Dorling Kindersley Books と Rough Guides を含む Penguin)の各事業を展開し

ている。他方、Penguin Random House は、Bertelsmann の Random House 部門の米国、

カナダ、英国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、及び南アフリカにおけ

る英語書籍の取引出版部門の全て、並びにスペインと南米におけるスペイン語の取引

出 版 部 門 を 統 轄 す る こ と に な る が 、 同 社 の ド イ ツ 語 取 引 出 版 部 門 で あ る

Verslangsgruppe Random House を統轄することにはならない。また、Penguin Random

House は、Penguin の全事業と資産、すなわち、米国、欧州、オーストラリア、及びイ

ンドの取引出版部門、中国における同社の取引出版会社、並びにブラジル・ポルトガ

ル語出版社の 45%の株式などを統轄することとなる。

6 欧州委員会、Penguin から提案のあった電子書籍の販売に関する改善措置につ

いて市場テストを実施(2013 年 4 月 19 日)6

欧州委員会は 4 月 19 日、Penguin(Pearson Group、英国)から提案のあった電子書籍

の販売に関する改善措置について市場テストを実施することとし、本日から 1 か月の

間、利害関係者からのコメントを受け付けている。本件措置案は、同社が欧州経済領

域(EEA)における電子書籍の販売に影響を与える反競争的な協調行為に関与していた

可能性についての懸念を払拭することを目的としている。その具体的内容は、Simon &

Schuster、Harper Collins、Hachette、及び Holtzbrinck が提案し、2012 年 12 月に

欧州委員会が法的拘束力あるものとした措置と実質的に同じである。市場テストの結

果、Penguin の改善措置案が欧州委員会の競争上の懸念を払拭するのに適切であるこ

とが確認されれば、欧州委員会は同社に対し本件措置案を法的拘束力あるものとする

ことができる。

現段階において、欧州委員会は、同社が上述の出版社 4 社と Apple 社とともに、電

子書籍の販売を卸売モデル(wholesale model)から、同一の鍵となる条項(小売価格に関

するいわゆる「最恵国待遇(MFN)」条項)を含む代理店モデルへと共同して切り替えたこ

とにより EU 競争法に違反したと考えている。代理店モデルの下、出版社は小売価格を

より一層統制することが可能となった。欧州委員会は、上記切り替えが、Apple の助

6 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission market tests

commitments proposed by Penguin for the sale of e-books, IP/13/343, 19 April

2013.

Page 64: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 52 -

長行為を背景とした競合関係にある出版社間の共謀の結果であり、EEA における電子

書籍の小売価格の引き上げ、あるいは低価格出現の防止を目的とするものであったと

懸念している。

Penguin は、本件措置案において、既存の代理店契約を終了し、5 年間に亘り最恵国

待遇条項を採用することを控えることを提案している。同社が新たな代理店契約を締

結する場合、電子書店は、自己の提供する割引の合計額が出版社から受け取る手数料

の年間合計額を上回らない限り、2 年間に亘り電子書籍の小売価格を自由に決定する

ことができることとなる。

欧州委員会は、2011 年 3 月に予告ない調査を行い、同年 11 月に Simon & Schuster、

Harper Collins、Hachette、Holtzbrinck、Penguin、及び Apple の 6 社に対し手続を

開始した。欧州委員会は 2012 年 9 月、Penguin を除く 5 社から提案のあった措置案に

ついて利害関係者に照会を行い、同年 12 月に当該措置案を法的に拘束力あるものと

した。Penguin は、上記 5 社とは同じタイミングで措置案を申し出なかったが、欧州

委員会との建設的な議論を経て、本件手続の早期終結を求め、今般本件措置を申し出

ることとした。

7 欧州委員会、Motorola Mobility に対し、携帯電話の不可欠標準特許の潜在的

濫用を理由に異議告知書を送付(2013 年 5 月 6 日)7

欧州委員会は 5 月 6 日、Motorola Mobility に対し、同社がドイツにおいて Apple

を相手取り、同社の携帯電話の不可欠標準特許に基づいて仮差止めを請求し、また実

際に執行していることは、EU 競争法により禁止される支配的地位の濫用となるとの見

解を通知した。欧州委員会は、2012 年 4 月に本件に対する調査を開始した。

特許権の侵害に対しては、仮差止請求が可能であるが、かかる請求は、不可欠標準

特許を対象とし、また潜在的なライセンシーが公正、妥当かつ差別のない(FRAND)条件

でライセンス契約を締結する用意がある場合には、濫用行為となる可能性がある。か

かる状況下において、欧州委員会は、現時点では、有力な不可欠標準特許権者は、ラ

イセンス交渉を妨げ、ライセンシーに対し不当なライセンス条件を課すことを目的に、

特許権を侵害する製品の販売を禁止する仮差止めを求めるべきではないと考えている。

なお、異議告知書の送付は、本件調査の最終結果に影響を与えるものではない。

標準化団体は、構成員に対し、ある規格にとって必須であるとされた特許を FRAND

条件で利用許諾するよう約束させるのが通常である。かかる約束は、全ての市場参加

者に対し、規格の効率的な利用を確保し、また不可欠標準特許者によるホールドアッ

プの防止を目的とする。実際、不可欠標準特許を利用できることは、市場において互

換性のある製品を販売する企業にとって前提条件となるものである。不可欠標準特許

へのアクセスにより、消費者は互換性のある製品をより広い範囲から選択できるよう

になる一方、不可欠標準特許権者は自己の知的財産権について適切な報酬を受け取る

ことができるようになる。

7 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission sends Statement

of Objections to Motorola Mobility on potential misuse of mobile phone standard-

essential patents, IP/13/406, 6 May 2013.

Page 65: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 53 -

問題となっている Motorola Mobility の不可欠標準特許は、GSM規格の一部である、

European Telecommunication Standardisation Institute(ETSI)の GPRS 規格と関連

しており、同規格は移動・無線通信にとって鍵となる産業規格である。同規格が欧州

において採択された際、Motorola Mobility は、同規格にとって必須であるとされた

特許について、FRAND 条件で利用許諾する旨を確約した。それにもかかわらず、同社

は、GPRS の不可欠標準特許に基づいてドイツにおいて Apple に対し仮差止めを請求

し、仮差止めが認められた後には、Apple がドイツの国内裁判所の決定する FRAND ロ

イヤリティに従う意向がある旨を表明したにもかかわらず、当該仮差止めを執行した。

欧州委員会が本日発出した異議告知書は、上記の状況が競争を阻害するものである

との見解を示すものである。欧州委員会は、仮差止めのおそれはライセンス交渉を困

難なものとし、また、当該不可欠標準特許のライセンシーが、かかるおそれがなけれ

ば、受け入れないであろうライセンス条件をもたらしてしまう、ということに懸念を

抱いている。なお、本異議告知書で示されている見解は、本件における特定の状況下

に置かれていない不可欠標準特許権者が、たとえば取決めに従わないライセンシーに

対して、仮差止請求を求めることを疑問視するものではない。

8 欧州委員会、EEA における二大ソフト合金成形機製造会社である Hydro と Sapa

による JV の設立を条件付承認(2013 年 5 月 13 日)8

欧州委員会は 5 月 13 日、ソフト合金市場で事業活動を展開している Norsk Hydro

ASA(ノルウェー)と Orkla ASA(ノルウェー)の完全子会社である Sapa Holding AB によ

る合弁事業(JV)の設立を条件付で承認した。本件 JV は、世界における主導的なアルミ

成形機製造業者となり、年間売上高は 600 億ユーロに上る見込みである。なお、本件

承認は、Sapa のオランダにおけるマルチポート成形機事業(multiport extrusions

business)と、Hydro のノルウェー最大のソフト合金成形工場の売却を条件とする。

市場調査の結果は、本件取引がマルチポート成形機事業とソフト合金成形機につい

て、欧州経済領域(EEA)と北欧地域(ノルウェーとスウェーデン)における競争を大きく

減少させる可能性があることを明らかにした。マルチポート成形機事業についての懸

念は、合併により誕生する JV が非常に高い市場占有率を有することとなり、完全な代

替性のある製品が欠如しており、また EEA において代替的な供給者が 2 社に限られる

こととなることに基づくものである。その結果、顧客は EEA におけるマルチポート成

形機の価格が上昇することを懸念している。他方、ソフト合金成形機市場については、

北欧地域における顧客が他の供給者へ切り替えられる可能性が限られている。それは、

代替性のある供給者がほとんどおらず、他の EEA 地域と比べて輸送費が割高であり、

また EEA の他の地域からの輸入が比較的低いからである。

欧州委員会によるこれらの懸念を払拭するため、本件両当事者は、EEA における Sapa

のマルチポート成形機事業全体を売却するとともに、Hydro のノルウェーにおける最

大のソフト合金成形工場を売却することを申し出た。これらの売却により、EEA にお

8 Press Release, European Commission, Mergers: Commission approves joint

venture between Hydro and Sapa, the two largest soft alloy extruders in the

EEA, subject to conditions, IP/13/426, 13 May 2013.

Page 66: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 54 -

けるマルチ成形機事業の重複が解消され、また北欧地域におけるソフト合金成形機事

業の重複のほとんどが解消されることとなる。よって欧州委員会は、これらの問題解

消措置により修正された本件取引は、競争上の懸念を惹起するものではないと結論付

けた。あわせて欧州委員会は、本件取引は、アルミ建造システム(aluminium building

system)と溶接アルミ精密管(welded aluminium precision tubes)については、競争上

の懸念を惹起しないことを確認した。

なお、本件は 2013 年 3 月 18 日に欧州委員会に届出がなされたものである。

9 欧州委員会、スター・アライアンス加盟会社であるエアカナダ、ユナイテッド、

ルフトハンザによる大西洋横断航空輸送市場に関する措置案に法的拘束力を

付与(2013 年 5 月 23 日)9

欧州委員会は 5 月 23 日、運賃収入共有 JV(a revenue-sharing joint venture)に関

するエアカナダ、ユナイテッド、及びルフトハンザより申出のあった措置案を 10 年間

に亘り法的拘束力あるものとする決定を採択した。本件措置の遵守状況については、

独立した管財人(trustee)が監視することとなっている。

本件で問題とされた運賃収入共有 JV は、本件当事者間の運賃を巡る競争と座席数

に関する競争をなくすものである。欧州委員会は、当該 JV の結果として、フランクフ

ルト-ニューヨーク路線を利用するプレミアム乗客(premium passengers、ファースト

クラス、ビジネスクラス、フレキシブル・エコノミークラスを旅行する乗客)が、より高

い運賃を支払うこととなる可能性について懸念を有していた。また、新規及び既存の

競争者については、新規参入と路線拡大を妨げる大きな障壁が存在するため、本件当

事者らの市場支配力に対抗することができなくなることについても懸念を有していた。

本件当事者らは、本件の協力関係により、フランクフルト-ニューヨーク路線に加

え、その関連路線(プラハ-フランクフルト-ニューヨーク、フランクフルト-ニューヨ

ーク-シアトル等)についても効率性が発揮され、またこれが乗継客の便利性の向上に

つながると主張した。しかしながら、欧州委員会は、これらの効率性は、フランクフ

ルト-ニューヨーク路線に関する協力がもたらす競争への影響を上回るものではない

と結論付けた。

このため、本件当事者らは、本件路線への新規参入を容易とするための措置案を申

し出た。具体的に、主たる参入障壁がフランクフルト空港とニューヨーク空港におけ

るスロットの不足であるため、本件当事者らは、両空港における発着枠を譲渡するこ

ととした。また本件当事者らは、競争者に対し自社運航便の航空券を提供することで

(これにより競争者の運航頻度による不利な点を減少させる)、本件当事者らの乗り継ぎ

便へのアクセスを改善することとした。さらに、本件当事者らは、本件当事者らのア

ライアンスが本件市場に対し与えている影響の評価を容易にするため、本件協力に関

するデータを提供することとした。

9 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission renders legally

binding commitments from Star alliance members Air Canada, United and

Lufthansa on transatlantic air transport passenger market, IP/13/456, 23 May

2013.

Page 67: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 55 -

欧州委員会は、航空産業に特有の性格、また本件に特有の事情に照らして、EU 運営

条約 101 条 3 項の適用に関するガイドラインに規定されている効率性の評価に関する

既存のテストの基準を緩和することが妥当であると考えた。この基準を緩和したテス

トは、本件路線の乗客群と関連路線の乗客群との間に相当程度の共通性があるのであ

れば、関連路線にもたらさせる効率性を考慮するというものである。しかしながら、

欧州委員会は、効率性の改善がフランクフルト-ニューヨークを旅行する乗客に限ら

れると結論付けた。

欧州委員会は 2009 年 4 月、本件に対する正式な調査を開始し、競争上の懸念がある

ことを本件当事者らに伝えたところ、本件当事者らは 2012 年 12 月に上記措置案の申

出を行った。これを受け、欧州委員会は市場テストを実施して関係者からの意見聴取

を行い、本件当事者らは、それによって提起された問題に対応するため、本件措置案

に対する修正を行った。

10 欧州委員会、後発医薬品の市場参入を遅らせたことを理由に Lundbeck その他

の製薬会社に対し制裁金を賦課(2013 年 6 月 19 日)10

欧州委員会は 6 月 19 日、デンマークの製薬会社である Lundbeck に対し 9380 万ユ

ーロ(約 122 億円、1 ユーロ=130 円)、後発品製薬会社数社に対し総額 5224 万ユーロ

(約 68 億円)の制裁金を賦課した。

Lundbeck は 2002 年、後発品製薬会社との間で、同社の売れ筋の抗鬱剤である

citalopram ブランドの後発品の市場参入を遅らせることに合意した。後発品製薬会社

は、Alpharma(現 Zoetis)、Merck KGaA/ Generics UK(後者は現在 Mylan の一部)、Arrow(現

在は Actavis の一部)、及び Ranbaxy である。

Citalopram は、当時 Lundbeck の最量販の医薬品であった。同社は、Citalopram 分

子に関する特許が失効した後、保護の程度が劣る多くの関連する製剤特許を有するの

みとなった。このため、より安価な citalopram の後発品の製薬会社らは市場に参入す

る可能性を有していた。実際に、上記後発品製薬会社らのうちの 1 社は、citalopram

の後発品の販売を開始しており、他社も販売に向けて準備を進めていた。

これまでの経験から、後発品との有効な競争は価格の大幅な引下げにつながり、特許

薬製造者の収益を大きく減少させる一方、患者に大きな利益をもたらす。たとえば、英

国においては、本件協定の中止により後発品が広汎に市場参入することとなり、これに

より後発品の価格は Lundbeck の以前の価格水準と比べて平均して 90%下落した。

しかしながら、後発品製薬会社らは、競争するのではなく、2002 年に Lundbeck と

の間で合意を結び、同社から数十万ユーロに上る金銭をはじめとし、誘引となる経済

的利益を受け取り、その見返りとして、市場に参入しないこととした。内部文書によ

ると、「クラブ(club)」が設立され、参加者により相当な金額が山分けされていたこと

が明らかになった。Lundbeck は、相当額を一括して支払い、後発品の在庫を廃棄処分

するだけのためにそれらを購入し、また利益を約束する旨の流通協定を申し出た。本

10 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission fines Lundbeck

and other pharma companies for delaying market entry of generic medicines,

IP/13/563, 19 June 2013.

Page 68: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 56 -

件協定により、Lundbeck は、後発品製薬会社に対し本件協定の終了後に市場参入でき

るという保証を与えることなく、本件協定の有効期間において市場への参入がない旨

の確信を持てるようになった。

欧州委員会は、本件について 2006 年制裁金ガイドラインに従って制裁金額を決定

しており、違反行為の継続期間と重大性を考慮したことに加え、調査期間の長さをも

軽減事由とした。後発品製薬会社の 1 社は、同ガイドラインの第 35 段に基づいて支払

不能の申し出を申請したが、当該申請は減額の要件を満たしていなかった。各社に課

された制裁金額は、次のとおり。

違反行為 制裁金―Lund

beck

制裁金―後発品製薬会社

Merck KGaA/

Generics

UK協定

M e r c k

K G a Aは2 1 4 1万10 0 0ユーロ(約3 1 . 4億円)を支

払うこととし、そのうちGenerics(UK)は776万

6843ユーロ(約10億円)を連帯して支払う

Arrow 協定 Arrow Group ApSは997万5000ユーロ(約13億円)

を支払うこととし、そのうちArrow Generics

Limitedは936万ユーロ(約12.2億円)を連帯して

支払い、そのうちR e s o l u t i o n C h e m i c a l s

L i m i t e d

は82万3735ユーロ(約1億円)を連帯して支払う

Alpharma協

Zoetis Products LLCとXellia Pharmaceuticals

ApSは連帯して1053万ユーロ(約13.7億円)を支払

う こ と と し 、 そ の う ち A . L .

I n d u s t r i e r は 4 万 3 2 1 6

ユーロ(約560万円)を連帯して支払う

Ranbaxy協定 Ranbaxy Laboratories LimitedとRanbaxy(UK)

Limitedは連帯して1032万3000ユーロ(約13.4億

円)を支払う

合計 9380万ユーロ

(約122億円)

後発品製薬会社の合計:5223万9000ユーロ(約67

億9107万円)

なお、本件については、2010 年 1 月に正式な調査が開始され、2012 年 7 月に本件当

事者らに異議告知書が発出された。

11 欧州委員会、カルテル和解手続の利用により、ワイヤーハーネス製造業者に対

し総額 1 億 4100 万ユーロの制裁金を賦課(2013 年 7 月 10 日)11

欧州委員会は 7 月 10 日、自動車部品製造業者である住友電工、矢崎総業、古河電気

工業、S-Y Systems Technologies(SYS)、及び Leoni の 5 社が、トヨタ、ホンダ、日産、

及びルノー向けのワイヤーハーネスを対象とするカルテルを実施していたことを理由

11 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission fines producers

of wire harnesses 141 million Euros in cartel settlement, IP/13/673, 10 July 2013.

Page 69: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 57 -

に、住友電工を除く 4 社に対し、総額 1 億 4179 万 1000 ユーロ(約 184 億円、1 ユーロ

=130 円)の制裁金を賦課した。ワイヤーハーネスは、エンジンを始動したり、窓を開

けたり、エアコンを作動させるなど自動車の電気を制御する部品であり、自動車の「中

枢神経システム(central nervous system)」と呼ばれることもある。本件当事者らは、

各自動車メーカーへのワイヤーハーネスの価格と供給割当について合意しており、当

該カルテルは日本と EEA を対象として実施されていた。

-トヨタとホンダについては、本件カルテル参加者らは、本件カルテル実行期間に

行われた欧州の製造施設へのワイヤーハーネスの供給にかかる入札全てを含め、ワイ

ヤーハーネスの供給にかかる一連の入札において談合を行っていた。

-日産とルノーについては、本件カルテル参加者らは、個々のモデルに対する入札

について談合を行っていたか、行おうとした。

住友電工、矢崎総業、古河電気工業、SYS、及び Leoni の各社は、一つ又は複数のカ

ルテルに参加しており、それらの概要は次のとおりである。

発注者 談合参加者 談合期間

トヨタ 住友電工、矢崎総業、古河

電気工業

2000 年 3 月 6 日~2009 年 8 月 5 日

ホンダ 住友電工、矢崎総業、古河

電気工業

2001 年 3 月 5 日~2009 年 9 月 7 日

日産 住友電工、矢崎総業 2006 年 9 月 14 日~2006 年 11 月 16 日

ルノー① 住友電工、SYS 2004 年 9 月 28 日~2006 年 3 月 13 日

ルノー② 住友電工、SYS、Leoni 2009 年 5 月 5 日~2009 年 12 月 22 日

また、各社に対する制裁金は次のとおりである。

-矢崎総業:トヨタ、ホンダ、及び日産を対象とするカルテルに参加していたとし

て 1 億 2534 万 1000 ユーロ(約 163 億円)、

-古河電気工業:トヨタ、及びホンダを対象とするカルテルに参加していたとして

401 万 5000 ユーロ(約 5.2 億円)、

-SYS:ルノーを対象とするカルテル 2 件に参加していたとして 1105 万 7000 ユー

ロ(約 14.4 億円)、

-Leoni:ルノーを対象とする②のカルテルに参加していたとして 137 万 8000 ユー

ロ(約 1.8 億円)。

住友電工は、2006 年制裁金減免告示の下、欧州委員会に対し本件カルテルの存在を

通知したため、5 件のカルテルを対象とする総額 2 億 9163 万 8000 ユーロ(約 379 億円)

の制裁金の全額免除を受けた。その他各社は、欧州委員会のリーニエンシー・プログ

ラムの下、調査に協力したことを背景として 20-50%の制裁金の減額を受けた。減額

の幅は、協力の時期のほか、各社の提供した証拠が各カルテルを立証する上で欧州委

員会の役に立った程度を反映した。また、各社とも欧州委員会との間で本件を和解に

より解決することに同意したため、制裁金額はさらに 10%減額された。本件は、2008

年 7 月にカルテル和解手続が導入されてから 7 件目の和解事件となる。

なお、欧州委員会は本件について 2010 年 2 月に予告のない調査を開始し、同年 8 月

に手続を開始した。また、欧州委員会は、本件と並行して、他の自動車部品(エアバッ

Page 70: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 58 -

グ、ベアリング、エアコン)を対象とするカルテルについても調査中である。

12 欧州委員会、Crane による MEI の買収を条件付承認(2013 年 7 月 19 日)12

欧州委員会は 7 月 19 日、Crane Co.(米国)による MEI Group(米国)の買収を条件付

で承認した。本件取引は、欧州委員会に対し 5 月 31 日に届出がなされたものである。

本件当事者である Crane は、高度な技術を伴う多様な工業製品の製造事業者であり、

非接触型決済システムとそれに関連する自動販売機の市場において事業活動を展開し

ている。他方、MEI は、非接触型決済システム分野において事業活動を展開している。

欧州委員会による初期の調査の結果、買収により誕生することとなっていた新会社

は、主として販売機に使用される硬貨両替機のほか、公共交通機関の発券機や駐車場

の清算端末向けの紙幣両替機のような非接触型決済システムについて、競争者からの

十分な圧力に晒されることなく EEA において非常に高い市場占拠率を有することとな

ったであろう。また、競争者の市場占拠率は、本件両当事者の合計市場占拠率を遙か

に下回ることとなったであろう。

欧州委員会の競争上の懸念を払拭するため、Crane は問題解消措置として、以下の

複数の製品と関連技術の売却を申し出た。

-Crane の一部である National Rejectors(NRI)のドイツにおける硬貨両替機の製

造ライン。本措置は EEA 域内の顧客に対する販売に限定される。

-Crane の一部である CashCode のカナダにおける紙幣両替機の製造ライン及びそ

れに関連する製造施設。

あわせて Crane は、欧州委員会が承認する事業継続性ある購入者と当該事業売却に

関する拘束力ある契約を締結するまで、MEI の買収を終了させないことも申し出た。

欧州委員会による調査の結果、本件問題解消措置はすべての競争上の懸念を払拭する

ものであり、これ故に、欧州委員会は、本件買収が EEA 全域ないし一部における競争

を大きく制限することとはならないと結論付けた。なお、両当事者の事業活動が重複

するその他の市場における買収により誕生することとなった新会社の市場シェアは比

較的限られることとなり、多くの競争者との競争に直面し続けることとなる。

13 欧州委員会、米国の Baxter によるスウェーデンの医療技術会社 Gambro の買

収を条件付承認(2013 年 7 月 22 日)13

欧州委員会は 7 月 22 日、米国のヘルスケア事業者 Baxter による、スウェーデンの

透析装置製造業者 Gambro の買収を承認した。本件承認は、Baxter の急性腎不全患者

向けの常時腎循環療法(continuous renal replacement therapy、CRRT)事業の売却を条

件とする。

本件当事者である Baxter は米国に拠点を置くヘルスケア事業者であり、血友病、免

12 Press Release, European Commission, Mergers: Commission approves

acquisition of MEI by Crane, subject to conditions, IP/13/717, 19 July 2013. 13 Press Release, European Commission, Mergers: Commission approves

acquisition of Swedish medical technology company Gambro by US rival Baxter,

subject to conditions, IP/13/724, 22 July 2013.

Page 71: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 59 -

疫疾患、腎臓病、トラウマ等の慢性・急性の症状を持つ患者の治療に使用される製品

の開発、製造、及び販売事業を全世界的に行っている。Gambro は、スウェーデンに拠

点を置き、血液透析(haemodialysis、HD)、CRRT、肝臓透析その他慢性・急性の患者向

けの体外治療法の製品と治療法を開発、製造、及び供給している。

欧州委員会による調査の結果、当初届出のあった取引は、CRRT 装置と消耗品の主要

な供給者 2 社を統合するものであり、多くの加盟国において非常に高い市場占拠率を

もたらすこととなっていた。また、当該調査の結果、統合により誕生することとなっ

ていた新会社は、他の供給者からの十分な競争上の圧力に直面することはなく、顧客

は他の供給者に切り替える困難さに直面することとなっていた。

欧州委員会の懸念に対し、Baxter は幾つかの問題解消措置を提示した。すなわち、

Baxter は、同社の世界における CRRT 事業について、従業員、供給契約、知的財産、

製造販売許可、及び顧客情報等を売却することとしたほか、欧州経済領域(EEA)又はス

イスにおいて、購入者の選択に応じた場所で、CRRT で使用される液体の製造施設を立

ち上げることも申し出た。本件問題解消措置は、当初届出のあった取引の結果生じる

こととなっていた市場占拠率の上昇を防ぎ、CRRT 事業の買収者が、Baxter や他の市場

参加者と競争しながら持続可能な事業を営むことを可能とするものである。

あわせて欧州委員会は、腎不全の別の治療方法である、HD 市場における本件取引の

効果についても検討した。HD は、CRRT とは異なり、一般に慢性的な腎臓病の患者に使

用されている。欧州委員会の調査の結果、Baxter と Gambro は HD 市場における近接し

た競争者というわけではなく、本件合併後も Fresenius Medical Care をはじめとす

る多くの市場参加者からの大きな競争圧力にさらされ続ける。

以上の検討により、欧州委員会は、Baxter から申し出のあった問題解消措置により

修正された本件取引は、競争上の懸念を惹起するものではないと結論付けた。本決定

は、本件問題解消措置の完全な実施を条件とする。

なお、本件取引は 2013 年 6 月 3 日に欧州委員会に対して届出がなされたものであ

る。

14 欧州委員会、 US エアウェイズとアメリカン航空の持株会社である AMR

Corporation の合併を条件付承認(2013 年 8 月 5 日)14

欧州委員会は 8 月 5 日、US エアウェイズグループと、主要な子会社であるアメリカ

ン航空を持つ AMR Corporation の合併を条件付きで承認した。

本件当事者である AMR Corporation は、定期旅客輸送と定期貨物輸送サービスを提

供する米国の商業航空会社である、アメリカン航空を主要な子会社とする持株会社で

ある。アメリカン航空は、毎日およそ 3400 便を全世界の 250 以上の都市に就航してい

る。同社は、ワンワールドのメンバーであるほか、英国航空・イベリア航空と共にジ

ョイントベンチャー“Transatlantic Joint Business”のメンバーである。同ジョイン

トベンチャーの下、参加者は、航空機を運航する航空会社を問わず、大西洋路線にお

14 Press Release, European Commission, Mergers: Commission approves

proposed mergers between US Airways and American Airlines ’ holding company

AMR Corporation, subject to conditions, IP/13/764, 5 August 2013.

Page 72: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 60 -

ける運賃、座席数、運航時間、販売、及びマーケティングを共通化し、また全売上を

共有化するほか、お互いの商品とサービスを販売し合っている。なお、欧州委員会は、

2010 年 7 月 14 日の決定において、Transatlantic Joint Business に対する EU 運営

条約 101 条に照らした評価を行っている。他方、US エアウェイズは、定期旅客輸送と

定期貨物輸送サービスを提供する米国の商業航空会社であり、全世界の 200 以上の都

市に毎日 3100 便以上を就航している。

欧州委員会は、多くの大西洋路線における本件取引の競争上の影響について調査し

た(ロンドン-フィラデルフィア路線については直行便が重複するほか、27 路線について

は直行便と乗り継ぎ 1 回の便が重複、39 路線については乗り継ぎ 1 回の便が重複)。欧州

委員会による調査の結果、当初届出のあった本件合併は、 US エアウェイズと

Transatlantic Joint Business(実際には英国航空が運航)を通じアメリカン航空のみ

が直行便を就航(実際には英国航空が運航)しているロンドン・ヒースロー空港-フィ

ラデルフィア路線において独占を生じさせることとなっていた。また、当該調査の結

果、本件合併の影響を受けるその他全ての大西洋路線において、合併により誕生する

新会社は、強力な競争者であるデルタ、エールフランス/KLM、及びアリタリアを含む

North Atlantic ジョイントベンチャー、ルフトハンザ、エアカナダ、及びユナイテッ

ド航空を含む A++ジョイントベンチャーからの競争に直面し続けることとなる。加え

て、一部の路線において、合併により誕生する新会社は、デルタ航空によるバージン・

グループの買収を受けたバージン・アトランティックのほか、Transatlantic Joint

Business に加盟していないその他の航空会社との間の熾烈な競争に直面することと

なる。

欧州委員会による競争上の懸念に対し、US エアウェイズとアメリカン航空は、ロン

ドン・ヒースロー空港とフィラデルフィア空港の 1 往復分のスロットを明け渡すほか、

一定の期間経過後、新規参入者が祖父権を獲得しうるという、インセンティブを提供

することも申し出た。加えて両社は、Transatlantic Joint Business の参加者の協力

を得て、新規参入の航空会社との間で、フィーダー便接続協定を結ぶことも申し出た。

一連の問題解消措置は、欧州委員会の認定した競争上の懸念に対して適切に対応す

るものであり、ロンドン-フィラデルフィア路線への新規参入を容易にするものであ

る。よって欧州委員会は、本件取引が欧州経済領域(EEA)全体、又はその一部における

有効な競争を大きく損ねるものではないと結論付けた。本決定は、本件問題解消措置

の完全な実施を条件とする。

なお、本件取引は 2013 年 6 月 18 日に欧州委員会に対して届出のなされたものであ

る。

15 欧州委員会、Telefónica、CaixaBank、Banco Santander による電子商取引 JV

の設立を承認(2013 年 8 月 14 日)15

欧州委員会は 8 月 14 日、合併規則の下、スペインの電気通信事業者である

15 Press Release, European Commission, Mergers: Commission clears the

creation of a joint e-commerce venture between Telefónica, CaixaBank, Banco

Santander, IP/13/781, 14 August 2013.

Page 73: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 61 -

Telefónica、並びに Caixa-Caja de Ahorros の下にある CaixaBank 及び Banco

Santander の銀行 2 行によるジョイントベンチャー(JV)の設立を承認した。本 JV は、

スペインにおいて、事業者と消費者を対象とする仮想コミュニティーを構築した上で、

事業者にはデジタル広告やデータ分析サービスを提供し、消費者にはデジタル財布サ

ービスや個人間支払機能(peer-to-peer payment functionality)を提供することとなる。

本件当事者である Telefónica は、電気通信事業を国際的に展開しており、多くの

EU 加盟国及びラテンアメリカ諸国において、コミュニケーション、情報及び娯楽の各

ソリューションを提供している。CaixaBank は、主としてスペインにおいて、銀行、

保険、年金及び投資ファンド事業を行う統合された金融グループである La Caixa に

所属する金融機関である。Banco Santander は、小口銀行業務、資産管理、大口・投

資銀行業務、信託及び保険事業を行う国際的な銀行金融グループである。

○ 欧州委員会は、本件取引がスペインにおいて生まれつつある携帯電話による取引

(mobile commerce)に与える影響、とりわけ本 JV が活発に事業活動を展開することと

なり、また本 JV 親会社の 1 つである CaixaBank が小さな存在感を有するデジタル財

布市場に与える影響について評価を行った。本 JV のデジタル財布により、利用者は、

決済カードの詳細を取り込み、固定ないし携帯電話のインターネット接続を通じ仮想

コミュ二ティーの事業者に対しセキュリティの確保された支払をすることができる。

市場調査の結果、スペインには複数の競合関係に立つデジタル財布の提供者が既に存

在するか、近い将来に誕生する可能性が非常に高く、それ故に、適切な競争環境が確

保される見通しがあることが明らかになった。

○ オンラインや携帯電話によるクーポン発行や得意先向けサービス等のデジタル広

告サービスの提供について、Telefónica と本 JV は重複するがその程度は限定的であ

る。欧州委員会は、本 JV が Google や Yahoo!等の数多くの確立されたグローバルな事

業者との競争に直面し続けることを認定した。

○ 欧州委員会はあわせて、本 JV が事業活動を展開することとなる個人間支払機能

を含むデジタル財布サービス提供市場と、Caxia Bank と Banco Santander が事業活

動を展開している決済カード発行市場との間の関係から生じる取引への影響について

も評価を行った。デジタル財布を利用する消費者は、本機能により主として少額であ

る個人間の支払を行うことが可能となる。

本 JV が提供するデジタル財布サービスには、個人間支払に使用され、金融機関によ

り発行される仮想の前払い決済カード(a virtual prepaid payment card)が含まれる。

欧州委員会は、スペインには十分な数の信頼できる代替的な決済カード発行事業者が

存在するため、競合関係にあるデジタル財布提供者は、単独で又は金融機関との提携

により個人間支払サービスの提供を継続することが可能である旨認定した。なお、本

JV は、デジタル財布サービスの利用者に追加的な決済カードを提供することとなるが、

これは他のカード発行会社との顧客関係に大きな影響を与えるものではない、という

ことが明らかにされた。

デジタル財布の利用者は、仮想コミュニティーの事業者へのオンラインと携帯電話

による支払を行うために、自己の決済カードの詳細をデジタル財布に取り込む必要が

ある。したがって、決済カードの発行とデジタル財布サービスの提供の間には、補完

Page 74: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 62 -

的な関係がある。欧州委員会は、競合関係にあるデジタル財布に使用できる信頼性の

ある代替的な決済カードの発行者の数が十分であるため、 CaixaBank と Banco

Santander は、本 JV の競争者により提供されるデジタル財布について自己の決済カー

ドの利用を制限したとしても、デジタル財布提供者との競争が害されることはない旨

認定した。加えて、他の金融機関の発行する決済カードを利用できることは、事業者

と消費者にとってデジタル財布サービスをより魅力的なものにすることとなろう。こ

の点、スペインにおける他のデジタル財布提供者は、競合関係にある金融機関の発行

する決済カードの利用を認めている。

○ 本 JV のデジタル財布を利用するため、利用者は携帯電話又は固定のインターネ

ットに接続する必要がある。欧州委員会は、Telefónica は同社の携帯・固定ブロード

バンド・ネットワークにおいて競合関係にあるデジタル財布によるアクセスを防止す

る技術的能力を有さない、と認定した。

よって、欧州委員会は、本件取引は競争上の懸念を惹起するものではないと結論付

けた。なお、本件取引は 2013 年 7 月 11 日に欧州委員会へ届け出られたものである。

16 欧州委員会、スウェーデンの Nynas による Shell の Harburg 石油精製施設の

買収を承認(2013 年 9 月 2 日)16

欧州委員会は 9 月 2 日、スウェーデンの Nynas によるハンブルク/ハルブルク

(Hamburg/Harburg)に所在する Shell Deutschland Oil GmbH の Harburg 石油精製施設

の買収を承認した。欧州委員会による詳細な調査の結果、ハルブルクの精製施設の閉

鎖は、本件取引が行われない場合の最も可能性のあるシナリオである、ということが

明らかになった。これは、欧州経済領域(EEA)における様々な製品(工業用ゴム、接着剤、

肥料)で使用されているナフサをベースとする加工油市場向け、及び電力変圧機の絶縁

に使われる装置油(transformer oils、TFO)市場向け生産容量を大幅に減少させ、欧州

の顧客に割高な価格をもたらすこととなる。

本件当事者である Nynas は、ナフサベースの加工油と TFO 部門において世界的に事

業活動を展開しており、スウェーデンの Nynäshamn に中核事業を有している。同社は、

ベネズエラの Petróles de Venezuela S.A とフィンランドの Neste Oil Oyj により共

同管理されている。一方、Shell Deutschland Oil GmbH は、Royal Dutch Shell Plc.

を親会社とする Shell グループ会社(Shell)の一部門である。Shell は、開発から精製、

流通及び小売販売までの上流・下流活動を含め、完全に統合された世界的なエネルギ

ー及び石油化学企業である。

欧州委員会は、届出のあった本件買収がナフサをベースとする加工油と TFO の販売

市場に与える影響について調査を行った。その結果、統合される事業者は、EEA にお

ける唯一のナフサをベースとする加工油の製造事業者となり、また最大の TFO 製造事

業者となる。Nynas が競争に直面するのは、2008 年に輸入者として EEA 市場に参入し

た米国に本拠を置く Ergon のみとなる。このため、欧州委員会は、本件取引が競争に

16 Press Release, European Commission, Mergers: Commission approves

acquisition of Shell’s Harburg refinery assets by Nynas AB of Sweden, IP/13/804,

2 September 2013.

Page 75: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 63 -

影響を与えるおそれがあるとして、詳細調査を開始した。

しかしながら、詳細調査の過程で、Shell はハルブルクの製油所の現状では、それ

が経済的に持続不可能であるため、継続しないと表明した。Nynas がハルブルク精油

所の操業を可能とするビジネスモデルは、現在のものとは異なり、多くの投資を要す

るものである。欧州委員会による詳細調査の結果、Nynas 以外にハルブルク精油所の

代替的な購入者がいないことが明らかになった。したがって、本件取引に代わる最も

可能性のあるシナリオは、ハンブルク精油所の閉鎖である。これは本件買収がなくて

も競争者の数が減少することを意味する。さらに、ハルブルク精油所の閉鎖は、EEA に

おけるナフサをベースとする加工油の生産能力を、EEA における需要を下回る水準ま

でに、削減することを意味する。そうなると、EEA におけるこれらの製品に対する需

要を輸入によって満たすことが必要となるが、輸入コストのため、消費者価格は上昇

することとなろう。

欧州委員会はまた、本件取引により Nynas は追加的供給材に要する可変費用を大幅

に削減することができ、またその一部は消費者に還元される蓋然性がある旨認定した。

したがって、本取引には競争に対するプラスの影響もあるということが明らかとなっ

た。

よって欧州委員会は、本件取引は競争上の懸念を惹起するものではないと結論付け

た。なお、本件取引は、Nynas により 2013 年 2 月に届出がなされたものであり、欧州

委員会は同年 3 月に詳細調査を開始した。

17 欧州委員会、Vodafone によるドイツのケーブル事業者 Kable Deutschland の

買収を承認(2013 年 9 月 20 日)17

欧州委員会は 9 月 20 日、合併規則の下、英国の Vodafone Group によるドイツのケ

ーブル事業者 Kable Deutschland の買収を承認した。

本件当事者である Vodafone は、電気通信分野において世界的に事業活動を展開し

ており、核となる事業として、移動電気通信網、及び音声電気通信、メッセージング、

データ・コンテンツサービス、ラジオ・ページング等のネットワークサービスを含む

関連電気通信サービスを提供している。Kable Deutschland は、バーデン・ヴュルテ

ンベルク、ノルトライン-ウエストファリア、及びヘッセを除くドイツ全土において

ケーブル網を所有し、運用している。ケーブル網を通じて、同社はアナログ・デジタ

ルケーブルテレビ、有料テレビ、ブロードバンド・インターネット、及び固定電話サ

ービス等のテレビ・電気通信サービスを提供している。

欧州委員会は、(ⅰ)テレビのインフラとコンテンツサービスの卸売・小売市場、(ⅱ)

移動電気通信サービスの小売市場、移動電気通信を発信接続するサービスの卸売市場、

(ⅲ)固定音声電気通信と固定インターネット接続サービスの小売市場、(ⅳ)複合サー

ビスを提供する潜在的市場(a possible market for multiple play offerings)につい

て調査を行った。

17 Press Release, European Commission, Mergers: Commission approves

acquisition of German cable operator Kabel Deutschland by Vodafone, IP/13/853,

20 September 2013.

Page 76: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 64 -

その結果、欧州委員会は、(ⅰ)テレビのインフラとコンテンツサービスの卸売・小

売市場について、Vodafone の卸売有料テレビチャンネルの需要と同社の有料テレビサ

ービスの小売供給における市場占拠率が非常に限られているため、本件取引は反競争

的効果をもたらさないと結論付けた。さらに、欧州委員会は、本件合併により誕生す

る会社は、Kable Deutschland のケーブルによる TV 信号伝達の卸売市場における市場

支配力を、Vodafone が非常に限られた活動を行っているに過ぎないインターネットテ

レビ市場へ梃子入れできるほどの地位を形成するものではないと結論付けた。また欧

州委員会は、集合住宅と一戸建て住宅への信号伝達市場において、Vodafone は、Kable

Deutschlandと競合することはなく、両当事者の活動を含む可能な限り狭い市場(Kable

Deutschland のネットワーク・エリアにおけるケーブル及びインターネットテレビによる

テレビ信号の伝達)の定義の下でも、Kable Deutschland の既に有力な地位は大きく上

昇するものではない、旨結論付けた。Vodafone は、これらの市場において Kable

Deutschland の近接した競争者ではなく、本件取引後においても、Deutsche Telekom

と地域のケーブル事業者を含む数多くの近接した競争者が市場に残ることとなるであ

ろう。

また、欧州委員会は、(ⅱ)の移動体電気通信サービスの小売市場について、Kable

Deutschland の市場占拠率は非常に限られている一方、本件取引後において、他の移

動体電気通信事業者、仮想移動体通信事業者、及び移動体サービス供給者が本件市場

に残ることとなるため、当該市場における競争上の懸念はないとした。なお、Kable

Deutschland は、移動体電気通信網を有しておらず、発信接続の卸売市場において事

業活動を行っていない。同社の小売市場における非常に限られた市場占拠率は、

Vodafone が移動体仮想通信網事業者をサポートするという現在の動機付けを変える

根拠にはならないであろう。

さらに欧州委員会は、(ⅲ)の固定音声通話サービスと固定インターネット接続サー

ビスの小売供給に関して、本件両当事者の市場占拠率の合計が限定的であり、合併に

より誕生する会社は数多くの競争者との競争に直面することとなると結論付けた。

最後に欧州委員会は、(ⅳ)の固定音声電気通信、固定インターネット接続、移動体

電気通信及び/又はテレビを統合する、複合サービスを提供する潜在的市場において、

Kable Deutschland は、3 ないし 4 の複合サービスを提供していないため、現在のと

ころ Vodafone の競争者ではないと認定した。さらに、他の事業者は移動体電気通信を

含む複合サービスを既に提供しているか、又は本件取引後において提供することとな

っている。その結果、本件取引は反競争的効果をもたらすことは無いであろう。以上

の検討から、欧州委員会は、合併により誕生する会社が自己のインフラの使用により

3 ないし 4 のより魅力的な複合サービスを提供する可能性は、競争促進的なものであ

ると判断した。

よって欧州委員会は、本件取引は競争上の懸念を惹起するものではないと結論付け

た。なお、本件取引は本年 8 月 16 日に欧州委員会へ届け出られたものである。

Page 77: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 65 -

18 欧州委員会、サーモン養殖事業者 Marine Harvest によるサーモン加工業者

Morpol の買収を条件付承認(2013 年 9 月 30 日)18

欧州委員会は 9月 30日、EEA(欧州経済領域)における主要なサーモン養殖業者 Marine

Harvest(ノルウェー)による、EEA における最大のサーモン加工業者 Morpol(ノルウェ

ー)の買収を承認した。本件承認は、スコットランドにおける Morpol のサーモン養殖

事業の大半の売却を条件とする。

本件当事者である Marine Harvest は、養殖サーモンと白オヒョウ(white halibut)

を生産し、幅広い魚介類の付加価値を高めた商品を供給するノルウェーの海産物事業

者である。同社は、ノルウェーのほか、チリ、スコットランド、カナダ、アイルラン

ド、及びフェロー諸島において、サーモンの養殖と第一次加工事業を展開している。

他方、Morpol は、ノルウェーのサーモン生産加工事業者であり、養殖サーモンと幅広

い付加価値を高めたサーモン製品を供給している。同社のサーモン養殖と第一次加工

事業は、ノルウェーとスコットランドにおいて展開されている。

当初届け出られた本件取引は、スコットランド産サーモンの最大の養殖事業者と第

一次加工業者の二社の統合をもたらすものであった。合併により誕生する事業者は、

高い市場占拠率を有することとなり、競争者は十分な競争上の圧力を行使することが

できなかったであろう。その結果、最終的には消費者を害することとなる価格上昇が

もたらされることが懸念されていた。

欧州委員会による調査の結果、とりわけノルウェーをはじめとする他の国で養殖さ

れたサーモンと比べ、スコットランドで養殖されたサーモンを明確に好む重要な顧客

群が存在するということが明らかになった。その結果、このような顧客が他の産地の

サーモンを購入する可能性は低く、他の産地のサーモンはスコットランド産サーモン

の価格上昇を抑えるのに不十分なものである。また、スコットランドにおける代替的

な供給者は、十分な生産余力を欠くため、価格上昇を抑えるのに不十分である。最後

に、規制の障壁が高いため、予見可能な将来にスコットランド産サーモン市場への参

入は見込めず、認定された競争上の懸念を払拭するのに不十分である。

欧州委員会の懸念に対応するため、Marine Harvest は、Shetland と The Orkneys に

拠点を有するスコットランドにおける Morpol の最大のサーモン養殖事業を売却する

こととした。本件売却は、関連市場における両当事者の事業活動の重複の大部分を取

り除くものであり、競争上の懸念に応えるものである。よって、欧州委員会は、問題

解消措置によって修正された本件取引は、競争上の懸念を惹起するものではないと結

論付けた。欧州委員会はまた、本件取引はノルウェーのサーモン養殖と第一次加工、

及び第二次加工についても競争上の懸念を惹起するものでもないと結論付けた。なお、

本件取引は欧州委員会に 2013 年 8 月 9 日に届け出られたものである。

18 Press Release, European Commission, Mergers: Commission approves

acquisition of salmon processor Morpol by salmon farmer Marine Harvest, subject

to conditions, IP/13/896, 30 September 2013.

Page 78: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 66 -

19 欧州委員会、Refresco による Pride Foods の取得を条件付承認(2013 年 10 月

4 日)19

欧州委員会は 10 月 4 日、清涼飲料水のボトラーである Refresco(オランダ)による

同業他社の Pride Foods(商号は Gerber Emig)(英国)の取得を条件付きで承認した。

本件当事者である Refresco は、スーパーで販売されるプライベートブランドの清

涼飲料水の生産を行っており、また自社ブランドを持つ企業のために清涼飲料水の生

産を請け負っている。同社が生産する清涼飲料水には、炭酸入り清涼飲料、フルーツ

と野菜ジュース、フルーツ・ドリンク、スポーツ・ドリンク、炭酸及び炭酸なしのミ

ネラル・ウォーター、紅茶、及びエネルギー・ドリンクが含まれる。同社は、オラン

ダ、ベルギー、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、スペイン、

及び英国に生産設備を有している。

Pride Foods は、Refresco と同様、スーパーで販売されるプライベートブランドの

清涼飲料水の生産を行っており、また自社ブランドを持つ企業のために清涼飲料水の

生産を請け負っている。同社が生産する清涼飲料水には、フルーツ・ジュース、炭酸

なしドリンク、フルーツ等の味が付いた水(flavoured water)、紅茶が含まれる。また

同社は、英国、ドイツ、フランス、及びポーランドに生産設備を有している。

欧州委員会による調査の結果、当初届出のあった取引は、フランス、ドイツ、及び

ベルギーにおけるスーパー向けプライベートブランドの清涼飲料水市場、特に無菌充

填用のペットボトル入りのフルーツ・ジュース、ジュース・ドリンク、ネクター及び

スティル・ドリンクの各市場において、重要な競争者の消滅をもたらすこととなると

されていた。また取得後会社が、ドイツにおける無菌充填ペットボトル入りの紅茶の

市場において、支配的地位を築き上げて行くであろうことも懸念されていた。以上の

理由により、欧州委員会は、残存する競争者が合併により誕生する企業の価格引上げ

を牽制する程の競争圧力を行使することができないであろうという懸念を持っていた。

Refresco は、欧州委員会による上記の競争上の懸念を解消するため、ドイツ・ヴァ

イブシュタットに所在する Gerber Emig の生産工場の売却を申し出た。同工場は、当

該問題を解消するのに必要とされる十分な無菌充填ペットボトルの供給能力を有して

いる。同工場は、既にフランス、ベルギー及びドイツで販売される無菌充填ペットボ

トル製品を生産している。

欧州委員会は、Refresco から申し出のあった問題解消措置により修正された本件取

引は競争上の懸念を惹起するものではない、旨結論付けた。なお、本決定は、本件問

題解消措置の完全な実施を条件とする。

なお、本件取引は 2013 年 8 月 16 日に欧州委員会に対して届出がなされたものであ

る。

19 Press Release, European Commission, Mergers: Commission clears acquisition

of fruit juice bottler Pride Foods (Gerber Emig) by rival Refresco, subject to

conditions, IP/13/913, 4 October 2013.

Page 79: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 67 -

20 欧州委員会、Aegean 航空による Olympic Air の買収を承認(2013 年 10 月 9 日)20

欧州委員会は 10 月 9 日、Aegean 航空(ギリシャ)が Olympic Air(ギリシャ)を買収す

る旨の計画の第二回目の届出について、第一回目の届出に対しては買収禁止を決定し

たものの、状況変化を踏まえ、買収承認を決定した。

本件当事者である Aegean 航空は、アテネ国際空港を拠点として国内外における約

50 都市を結ぶ短距離線において、旅客輸送サービスのほか、限定的ではあるが貨物輸

送サービスも提供している。なお、同航空はスター・アライアンスに加盟している。

Olympic Air は、2009 年に実施された Olympic Airlines の民営化、名称変更によ

り設立された。同社は旅客輸送及び貨物輸送の両サービスを積極的に提供している。

Olympic Air は、アテネ国際空港を拠点空港として、主にギリシャ国内における約 30

の都市を結ぶ短距離線を運航している。なお、Olympic Air は、どの航空アライアン

スにも属していない。

今般の買収計画の届出は、2 回目の届出である。最初の届出は 2010 年 6 月 24 日に

なされたが、欧州委員会は、2011 年 1 月 26 日、当該買収が実行された場合、9 つの国

内路線を取得後会社がほぼ独占することとなり、競争圧力となる事業者が参入する見

込みが無いと決定し、当該買収を禁止した。

その後、ギリシャの財政危機を背景として、アテネ国際空港発の国内便の需要は

26%も低下し(旅客数は 2009 年の 610 万人から 2010 年の 450 万人へと減少)、その傾向

は 2013 年上半期においても継続していった。また、1 回目の届出が行われた当時と比

べ、本件両当事者が重複的に就航している路線数も減少した。すなわち、当初 9 つの

路線がほぼ独占されることとなっていたが、現在では、独占されることとなる路線数

は 5 つ(アテネ‐チャニア、アテネ‐ミティリーニ、アテネ‐サントリーニ、アテネ‐コ

ルフ、アテネ‐コス)に留まっている。

Aegean 航空は本年 2 月 28 日、Olympic Air を買収する計画を欧州委員会に対し再

度届け出た。これを受けた欧州委員会は本年 4 月 23 日、本件取引が国内線における有

効な競争を著しく阻害するかどうかについて、詳細審査を開始した。

本件調査の結果、本件取引は 5 つの国内路線において独占を生じさせることとなり、

またどの路線においても新規参入が見込めないということが判明した。しかしながら、

いかなる再建計画によっても、Olympic Air は破綻寸前であることも判明した。また、

Aegean 航空以外には、現実的な代替的購入者が存在しないことも判明した。したがっ

て、欧州委員会は、本件取引が無ければ、Olympic Air の資産は市場から完全に退出

することとなるであろうと判断した。

これらの理由により、欧州委員会は本年 10 月 9 日、Olympic Air が消滅することに

よる競争上の懸念は本件買収によりもたらされるものではなく、また本件買収は EU 域

内市場と両立するものであると判断し、本件買収計画を承認する決定を行った。

20 Press Release, European Commission, Mergers: Commission approves

acquisition of Greek airline Olympic Air by Aegean Airlines, IP/11/68, 9 October

2013.

Page 80: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 68 -

21 欧州委員会、価格カルテルを理由に北海産エビ取引事業者 4 社に 2800 万ユー

ロの制裁金を賦課(2013 年 11 月 27 日)21

欧州委員会は 11 月 27 日、価格カルテルの実施を理由に、北海産エビ取引事業者 4

社に対し、2871 万 6000 ユーロ(約 40.2 億円、1 ユーロ=140 円)の制裁金を賦課した。

本件エビ取引事業者は、Heiploeg、Klaas Puul、及び Kok Seafood(いずれもオラン

ダ)、並びに Stührk(ドイツ)の 4 社である。Heiploeg 及び Klass Puul は、2000 年 6 月

から 2009 年 1 月までの間、ベルギー、フランス、ドイツ、及びオランダにおける北海

産エビの販売価格と販売数量を決定していた。Kok Seafood は、遅くとも 2005 年 2 月

から同カルテルに関与し、また Stührk は少なくとも 2003 年 3 月から 2007 年 11 月の

期間において、ドイツにおける同カルテルに関与していた。

小売業者が取引業者からエビを購入していた本件カルテル価格は、最終消費者が負

担する価格に直接影響を与えるものであった。市場規模は、漁師の水揚げ量、またそ

れに支払われる価格により、毎年非常に大きく変動するものではあるが、少なくとも

1 億ユーロに達するものである。本件当事者らの EEA(欧州経済領域)における市場占拠

率は、およそ 80%に上るものと見られる。本件カルテルの目的は、価格引上げを容易

にし、また収益を高めることにより、供給者の市場占拠率を安定させることであった。

本件カルテルは、EU 市場、とりわけ、ベルギー、ドイツ、フランス、及びオランダ市

場に影響を与えた。

また、本件カルテルは、Heiploeg と Klaas Puul との間の幅広い非公式な 2 社間接

触の形態を取ったが、Stührk と Kok Seafood も参加することがあった。そこでの議題

は、漁師からの購入価格、市場における他の取引相手への対応、市場分割、他の顧客

の基準価格となる特定の重要な顧客向けの価格を含む事業の幅広い内容を対象とする

ものであった。

欧州委員会は、制裁金額の算定に際し、2006 年の制裁金ガイドラインの下、EU にお

ける対象商品の販売、違反行為の重大性、範囲、及び実施期間を考慮した。本件の当

事者らのほとんどにとって、北海産のエビは売上高の大きな部分を占めるものである。

このため、制裁金額は反トラスト規定施行規則にある法定の上限である全世界の売上

高の 10%となる見込みであったが、欧州委員会は本ガイドライン 37 段に規定される

裁量を例外的に行使し、個々の事業者の本件違反行為への関与の仕方を考慮した上、

制裁金額を減額した。このため、2 社に対する制裁金額は、法定上限よりも相当程度

減額されたものとなっている。本件で賦課された制裁金額は、次のとおり。

事業者 制裁金 減免告示に基づく減額

Klass Puul 0 全額免除

Heipoeg 2708万2000ユーロ(約38億円) (軽減告示による減額なし)

Stührk 113万2000ユーロ(約1.6億円) (同上)

Kok Seafood 50万2000ユーロ(約0.7億円) (同上)

なお、Klaas Puul は、本件カルテルに関する情報を最初に提供した事業者であるた

21 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission fines four North

Sea shrimps traders 28 million euros for fixing cartel, IP/13/1175, 27 November

2013.

Page 81: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 69 -

め、欧州委員会の 2006 年制裁金減免ガイドラインにより、制裁金の全額免除を受け

た。また、上記のうち 1 社は、2006 年制裁金ガイドライン第 35 段に規定される支払

不能の申立てを行ったが、欧州委員会は詳細に検討した結果、本申出を受け入れない

こととした。

22 欧州委員会、鎮痛剤 Fentanyl のジェネリックの市場参入を遅らせたことを理

由に Johnson & Johnson と Novartis に 1600 万ユーロの制裁金を賦課(2013 年

12 月 10 日)22

欧州委員会は 12 月 10 日、米国の製薬会社である Johnson & Johnson(以下「J&J」と

いう。)に 1079 万 8000 ユーロ(約 15.1 億円)、スイスの製薬会社 Novartis に 549 万

3000 ユーロ(約 7.7 億円)の制裁金を賦課した。両社のオランダ子会社は 2005 年 7 月、

EU 競争法に違反し、オランダにおける鎮痛剤フェンタニル(fentanyl)のジェネリック

の市場参入を遅らせるための反競争的な協定を締結した。本件対象商品であるフェン

タニルは、モルヒネの 100 倍の効果を有するものであり、専ら癌患者に使用されてい

る。

J&J は、フェンタニルが最初に開発された 1960 年代以降、様々な形態によってそれ

を販売してきた。フェンタニルの経皮吸収型貼付剤(depot patch)に対するオランダに

おける保護が 2005 年に期限を迎え、その前に Novartis のオランダ子会社である

Sandoz は、同貼付剤のジェネリックの販売に向けた最終段階に入った。当時、Sandoz

は必要な梱包材についても既に製造していた。

しかしながら 2005 年 7 月、Sandoz は、ジェネリック製品を販売するのではなく、

いわゆる「共同販売促進協定(co-promotion agreement)」を J&J のオランダ子会社であ

る Janssen-Cilag との間で締結した。本協定は、Sandoz に対し、本市場に参入しない

ことについて強いインセンティブを与えた。実際、合意された毎月の支払額は、ジェ

ネリックの参入がない限り、Sandoz がジェネリック製品を販売することにより得られ

る見込み利益を上回るものであった。その結果、Sandoz は本市場に製品を供給しない

こととした。また、Sandoz の実質的な販売促進活動は非常に限定的であったか、ある

いは、全く存在しなかった。本協定は、第三者が当該貼付剤のジェネリック製品を販

売しようとした 2006 年 12 月に停止された。

よって本協定は、17 か月間にわたり、より価格の安いジェネリック薬品の市場参入

を遅らせることにより、オランダの保険制度の費用を負担している患者と納税者を犠

牲にし、オランダにおけるフェンタニルの価格を人為的に高値で安定されたものとし

た。

なお、欧州委員会は、本件について、2011 年 2 月に職権により、正式な調査を開始

し、2013 年 1 月に当事者らに異議告知書を送付している。本件捜査は、欧州委員会の

2009 年医薬品セクター調査報告書の公表に続き、ジェネリックの参入延期問題に対処

するための次の段階の一環として行われたものである。

22 Press Release, European Commission, Antitrust: Commission fines Johnson &

Johnson and Novartis 16 million euros for delaying market entry of generic pain-

killer Fentanyl, IP/13/1233, 10 December 2013.

Page 82: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 70 -

23 欧州委員会、金利デリバティブのカルテルに参加した金融機関に対し、総額

17 億 1000 万ユーロの制裁金を賦課(2013 年 12 月 4 日)

欧州委員会は 2013 年 12 月 4 日、欧州経済領域(EEA)を対象とする金融デリバティブ

市場におけるカルテル参加を理由に、国際的な金融機関 8 社に対し、総額 17 億 1246

万 8000 ユーロ(約 2397 億円、1 ユーロ=140 円)の制裁金を賦課した。当該 8 社のうち

4 社は、ユーロ建て金利デリバティブに関するカルテルに参加し、6 社は円建て金利デ

リバティブに関する複数の 2 社間カルテルに参加していた。

金利デリバティブ(金利先渡契約、スワップ、先物(futures)、オプション)は、金利変

動のリスク管理のため、銀行や企業により用いられる金融商品である。これらの商品

は、全世界において取引され、グローバル経済において主要な役割を果たしている。

デリバティブ商品は、日本円を含む多くの通貨に対し使用されているロンドン銀行間

取引金利(LIBOR)、又はユーロを対象とするユーロ銀行間取引金利(EURIBOR)等の指標

金利を用いている。当該指標金利は、パネルの会員である複数の銀行(パネル銀行)が

日々申告しているクォートの平均を反映している。また当該指標金利は特定の通貨の

銀行間貸出費用を反映しており、多くの金融デリバティブの基準として用いられてい

る。投資銀行らは、これら金融デリバティブの取引を巡り相互に競争している。当該

指標金利の水準は、金利デリバティブ契約の下、ある銀行が取引相手から受け取るキ

ャッシュ・フロー、又は取引相手に支払う必要のあるキャッシュ・フローに影響を及

ぼす可能性がある。

本件で問題とされた行為のうち、ユーロ建て金利デリバティブ(EIRD)に関するカル

テルの概要は、次のとおりである。EIRD カルテルは、2005 年 9 月から 2008 年 5 月に

かけて実施され、Barclays、Deutsche Bank(DB)、RBS、及び Société Generale(SG)が

参加していた。同カルテルは、当該デリバティブの構成要素の値を決定する通常の過

程を歪曲することを目的とするものであった。具体的に、幾つかの参加銀行に属する

トレーダーらは、EURIBOR の算定に用いられる自行からの申告(submissions)のほか、

自行の取引・価格決定戦略について協議していた。

欧州委員会による調査は、2011 年 10 月に予告なしに実施された調査により開始さ

れ、欧州委員会は 2013 年 3 月に本件審査手続を開始した。そして、欧州委員会は、カ

ルテル参加者らの合意により、和解手続を適用して本件を解決した。なお、本件と同

じ調査において、Crédit Agricole、HSBC、及び JPMorgan を対象とする調査が開始さ

れたが、それは通常のカルテル事件を対象とする調査として継続している。

また、円建て金利デリバティブ(YIRD)に関するカルテルの概要は次のとおりである。

欧州委員会は、YIRD については、2007 年から 2010 年までの間、1 か月から 10 か月の

間継続していた 7 つの 2 行間(bilateral)カルテルを認定した。本カルテルには、円建

て LIBOR にかかる申告に関する参加銀行のトレーダー間の協議が含まれていた。トレ

ーダーらは、取引ポジションや円建て先物 LIBOR の申告に関する事業上機密とされて

いる情報の交換も時折行っていたが、違反行為の 1 つには、Euroyen 建て TIBOR(東京

銀行間取引レート)の申告にかかる機密情報の交換もあった。一連の違反行為には、UBS、

RBS、DB、Citigroup、及び JPMorgan が関与していた。ブローカーの RP Martin は、本

Page 83: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 71 -

件違反行為に参加していなかった幾つかの円建て LIBOR パネル銀行らとの接触を利用

して、それらの円建て LIBOR にかかる申告に影響を及ぼし、それにより本件違反行為

を助長していた。

欧州委員会は、2013 年 2 月に本件カルテルに対する手続を開始した。なお、本件と

同じ調査において、現金ブローカーである ICAP を対象とする調査が開始されたが、そ

れは通常のカルテル事件を対象とする調査として継続している。

欧州委員会は、2006 年制裁金ガイドラインに基づいて本件カルテルに対する制裁金

額を算出したが、その際、EEA におけるカルテル対象商品の販売額、違反行為の重大

性、地理的範囲、及び実施期間を考慮した。

<EIRD カルテル>

参加者 参加期間 制裁金減免告示

に基づく減額率

制裁金額

Barclays 32か月 全額免除 0

Deutsche Bank 32か月 30% 4億6586万1000ユーロ(約652億円)

Societe Generale 26か月 5% 4億4588万4000ユーロ(約624億円)

RBS 8か月 50% 1億3100万4000ユーロ(約184億円)

Barclays は、本件カルテルの存在を欧州委員会に対して明らかにしたため、2006 年

制裁金減免告示により、制裁金の全額免除を受けた。また DB、SG と RBS については、

欧州委員会のリーニエンシー・プログラムの下、調査への協力を理由に制裁金が減額

された。

<YIRD カルテル>

参加者 参加期間 制裁金減免告示

に基づく減額率

制裁金額

UBS(5件) 1、8、5、10、1

か月

全額減免 0

RBS(3件) 8、5、3か月 1件につき25%

減額

2億6005万6000ユーロ(約364億

円)

Deutsche

Bank(2件)

2、10か月 それぞれ35%、

30%減額

2億5949万9000ユーロ(約363億

円)

JPMorgan(1件) 1か月 無し 7989万7000ユーロ(約112億円)

Citigroup(3件) 1、2、3か月 それぞれ35%、

100%、40%減

7002万ユーロ(約98億円)

RP Martin(1件) 1か月 25% 24万7000ユーロ(約3458万円)

Page 84: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 72 -

USB は、本件カルテルの存在を欧州委員会に対して明らかにしたため、2006 年制裁

金減免告示により、制裁金の全額免除を受けた。また RBS、DB、Citigroup、及び RP

Martin については、欧州委員会のリーニエンシー・プログラムの下、調査への協力を

理由に制裁金が減額された。加えて、これらの金融機関は、本件を和解手続で解決す

ることを欧州委員会と合意したため、制裁金の 10%減額も受けた。

なお、本件は 2008 年の金融危機以降、金融業におけるカルテル事件に適用された初

の事件である。また、欧州委員会は本件を受けて、2013年 9月 18日、金融証券や LIBOR、

EURIBOR 等の金融契約における基準として用いられる指標に関する規則を提案した。

本規則は、本件カルテルにより失われた指標の健全性の信頼回復に資することを目的

とするものである。

24 欧州委員会、ドイツ国内における車両駆動用電力の料金に関する Deutsche

Bahn による法的拘束力を持つ問題解消措置を承認(2013 年 12 月 18 日)

欧州委員会は 2013 年 12 月 18 日、ドイツにおける独占的鉄道事業者である Deutsche

Bahn(DB)により申し出のあった、同国内における車両駆動用電力(traction current)

の料金体系に関する問題解消措置を承認し、法的拘束力あるものとすることとした。

当該電力は、鉄道車両をレール上で動かすために使用される特殊な電力である。

欧州委員会は、DB の料金体系のうち、DB に属する鉄道会社のみが利用できる割引制

度について、それが同国内における鉄道貨物輸送と長距離旅客輸送を巡る競争を阻害

しているおそれがあるという懸念を有していた。その結果、欧州委員会は、2012 年 6

月、鉄道会社に駆動用電力を供給する DB の子会社である DB Energie が採用している

料金体系を巡り競争上の懸念があるとして、DB に対し調査手続を開始した。その後の

2013 年 6 月、欧州委員会は、DB がドイツ国内における駆動用電力の供給市場における

支配的地位を濫用しているおそれがあることを同社に通知した(EU 運営条約 102 条違

反)。

DB Energie は、現在のところ、鉄道会社が使用する駆動用電力と、同社の運営する電

力送電網の使用の双方を対象とする「包括的(all-inclusive)」な料金を電力の供給に用

いている。同社が提供している割引の中には、鉄道サービスを提供している DB 自身の

子会社のみが実現できるものがある。このため、DB に属していない鉄道会社は、鉄道貨

物輸送や長距離旅客輸送の市場において収益を上げながら競争をすることができない

のである。すなわち、DB の鉄道子会社の競争者にとっては、いわゆる「マージン・スク

ィーズ」の状況がもたらされている。かかる競争上の懸念に対し、DB は、欧州委員会が

市場参加者より受け取った意見を踏まえ、既に提出された問題解消措置を修正したもの

を提示した。

それによると、DB Energie は、2014 年 7 月 1 日より、他の電力会社に対して同社の

駆動用電力の送電網への接続を認めるほか、送電網への接続にかかる料金と電力販売

にかかる料金を分ける新料金体系を導入する。なお、後者はドイツにおけるネットワ

ーク産業を監督する Bundesnetagentur により規制されている。また、DB Energie は、

参入を促すため、駆動用電力の料金を単一価格とし、割引を行わないこととした。さ

らに、同社は、直近 1 年間の駆動用電力に係る請求金額の 4%を、DB に属さない全て

Page 85: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに

- 73 -

の鉄道会社に対し、払い戻しとして与えることとした。これにより、他の鉄道会社は

競争強化の効果が生じる前から、より割安な料金の利点を直ちに享受できるようにな

る。より廉価な駆動用電力が提供されることにより、マージン・スクィーズは行われ

なくなり、また各鉄道会社は DB との間で鉄道貨物輸送と長距離旅客輸送の市場にお

いて競争する能力を回復することができるようになる。

欧州委員会は、一連の問題解消措置により、駆動用電力市場に競争が導入され、ド

イツにおける鉄道輸送市場における「マージン・スクィーズ」に終止符が打たれるこ

ととなると結論付けた。なお、欧州委員会は、監視受託者(a monitoring trustee)の協

力を得て、本件問題解消措置の実施状況を監視していく方針である。

(お問い合わせは、多田 英明・東洋大学法学部准教授 [email protected]、又は佐藤 潤・ク

レド法律事務所提携 NY 州弁護士 [email protected] までお願いします。)

Page 86: 海外ニュース...3 欧州委員会、RyanairによるAer Lingusの買収計画を阻止(2013年2月27日) (47) 4 欧州委員会、ブラウザの選択に関する措置の不遵守を理由に、マイクロソフトに